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特開2023-145480標的がん細胞の電気特性に基づくTTフィールド治療のための周波数の決定
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  • 特開-標的がん細胞の電気特性に基づくTTフィールド治療のための周波数の決定 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145480
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】標的がん細胞の電気特性に基づくTTフィールド治療のための周波数の決定
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/22 20060101AFI20231003BHJP
   A61N 1/40 20060101ALI20231003BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
G01N27/22 C
A61N1/40
G01N33/483 E
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023111560
(22)【出願日】2023-07-06
(62)【分割の表示】P 2021539352の分割
【原出願日】2020-02-25
(31)【優先権主張番号】62/810,823
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519275847
【氏名又は名称】ノボキュア ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エイナヴ・ゼエビ
(72)【発明者】
【氏名】コーネリア・ウェンガー
(72)【発明者】
【氏名】ゼーヴ・ボンゾン
(72)【発明者】
【氏名】モシェ・ギラディ
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、がん性組織を有する対象におけるがん治療の有効性を試験する方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、がん性組織を有する対象におけるがん治療の有効性を試験する方法であって、対象から得られたがん性組織の試料から摘出された少なくとも1つのがん細胞の電気特性を決定し、決定された電気特性が、参照がん細胞が有する既知の電気特性と一致する場合は、参照がん細胞を処置するのに有効な交流電場の周波数が、がんを治療するために対象に印加する交流電場の周波数として有効であるという基準と比較することにより、有効性を試験する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん性組織を有する対象におけるがん治療の有効性を試験する方法であって、
対象から得られたがん性組織の試料から摘出された少なくとも1つのがん細胞の電気特性を決定し、
決定された電気特性が、参照がん細胞が有する既知の電気特性と一致する場合は、参照がん細胞を処置するのに有効な交流電場の周波数が、がんを治療するために対象に印加する交流電場の周波数として有効であるという基準と比較することにより、
有効性を試験する方法。
【請求項2】
電気特性を決定する工程が、35kHz未満の複数の周波数の各々において、少なくとも1つのがん細胞の誘電泳動力を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
電気特性を決定する工程が、細胞膜静電容量を決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
がん性組織を有する対象におけるがん治療の有効性を試験する方法であって、
対象から得られたがん性組織の試料から摘出された少なくとも1つのがん細胞の少なくとも1つの物理的パラメーターを測定し、該少なくとも1つのがん細胞の電気特性が、該少なくとも1つの物理的パラメーターから決定されることができ、
決定された電気特性が、参照がん細胞が有する既知の電気特性と一致する場合は、参照がん細胞を処置するのに有効な交流電場の周波数が、がんを治療するために対象に印加する交流電場の周波数として有効であるという基準と比較することにより、
有効性を試験する方法。
【請求項5】
少なくとも1つのがん細胞の細胞膜静電容量が、少なくとも1つの物理的パラメーターから決定されることができる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
腫瘍治療電場療法システムであって、
対象から得られたがん性組織の試料から摘出された少なくとも1つのがん細胞の電気特性を測定する装置を含み、
電気特性を測定し、
決定された電気特性に基づき、がんを治療するために対象に印加する交流電場の周波数を決定し、
決定された交流電場の周波数で対象に交流電場を印加することによってがんを治療する
システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、全体として参照により本明細書に組み込まれている、2019年2月26日に出願した米国仮出願第62/810,823号の利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
腫瘍治療電場(TTフィールド)は、低強度(例えば、1~5V/cm)の、中間周波数(例えば、100~300kHz)の交流電場の印加によって提供される、有効な抗新生物治療モダリティーである。TTフィールド療法は、多形神経膠芽腫脳腫瘍の治療のためのFDA承認を受けており、多数のその他のタイプの腫瘍にきわめて有望であると思われる。TTフィールド療法は、装着可能な携帯型装置(Optune(登録商標))を使用して提供される。この提供システムには、4枚の粘着性で非侵襲性の絶縁「トランスデューサーアレイ」、電場ジェネレーター、複数の充電式バッテリー、及びキャリングバッグが含まれる。トランスデューサーアレイは腫瘍近くの皮膚に貼り付けられ、電場ジェネレーターに接続される。
【0003】
前臨床環境において、TTフィールドは、高誘電率セラミックで絶縁された垂直電極対によるInovitro(商標)システムを使用してインビトロで印加され得る。Inovitro(商標)(TTフィールドラボベンチシステム)は、TTフィールドジェネレーターと、1プレート当たり8個のセラミックディッシュを含むベースプレートとから構成されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一態様は、がん性組織を有する対象におけるがんを治療する、第1の方法を対象とする。第1の方法は、対象から、少なくとも1つのがん細胞を有するがん性組織の試料を得る工程、該少なくとも1つのがん細胞の電気特性を決定する工程、決定された電気特性に基づき、がんを治療するために対象に印加する交流電場の周波数を決定する工程、及び決定された交流電場の周波数で対象に交流電場を印加することによってがんを治療する工程を含む。
【0005】
第1の方法のいくつかの例において、電気特性を決定する工程は、35kHz未満の複数の周波数の各々において、少なくとも1つのがん細胞の誘電泳動力を測定することを含む。第1の方法のいくつかの例において、周波数を決定する工程は、決定された電気特性に一致する既知の電気特性を有する参照がん細胞の処理において有効である周波数を選択することを含む。第1の方法のいくつかの例において、電気特性を決定する工程は、細胞膜静電容量を決定することを含む。
【0006】
本発明の別の態様は、がん性組織を有する対象におけるがんを治療する、第2の方法を対象とする。第2の方法は、対象から、少なくとも1つのがん細胞を有するがん性組織の試料を得る工程、該少なくとも1つのがん細胞の電気特性を決定することができる、該少なくとも1つのがん細胞の少なくとも1つの物理的パラメーターを測定する工程、測定された少なくとも1つの物理的パラメーターに基づき、がんを治療するために対象へ印加する交流電場の周波数を決定する工程、及び決定された交流電場の周波数で対象へ交流電場を印加することによってがんを治療する工程を含む。
【0007】
第2の方法のいくつかの例において、少なくとも1つのがん細胞の細胞膜静電容量は、少なくとも1つの物理的パラメーターから決定され得る。
【0008】
本発明の別の態様は、がん性組織を有する対象におけるがんを治療する、第3の方法を対象とする。第3の方法は、対象から、少なくとも1つのがん細胞を有するがん性組織の試料を得る工程、該少なくとも1つのがん細胞の電気特性を決定する工程、決定された電気特性に基づき、対象への交流電場の印加ががんを治療するのに有効となるかどうかを予測する工程、及び予測が対象への交流電場の印加ががんを治療するのに有効となることを示す場合、対象に交流電場を印加することによってがんを治療する工程を含む。
【0009】
第3の方法のいくつかの例において、電気特性を決定する工程は、35kHz未満の複数の周波数の各々において、該少なくとも1つのがん細胞の誘電泳動力を測定することを含む。第3の方法のいくつかの例において、予測する工程は、決定された電気特性に一致する電気特性を有する参照がん細胞が、交流電場を使用する治療に対して感受性であるかどうかに基づくものである。第3の方法のいくつかの例において、電気特性を決定する工程は、細胞膜静電容量を決定することを含む。
【0010】
本発明の別の態様は、がん性組織を有する対象におけるがんを治療する、第4の方法を対象とする。第4の方法は、対象から、少なくとも1つのがん細胞を有するがん性組織の試料を得る工程、該少なくとも1つのがん細胞の電気特性を決定することができる、該少なくとも1つのがん細胞の少なくとも1つの物理的パラメーターを測定する工程、測定された少なくとも1つの物理的パラメーターに基づき、対象への交流電場の印加ががんを治療するのに有効となるかどうかを予測する工程、及び予測が対象への交流電場の印加ががんを治療するのに有効となることを示す場合、対象への交流電場の印加によってがんを治療する工程を含む。
【0011】
第4の方法のいくつかの例において、少なくとも1つのがん細胞の細胞膜静電容量は、少なくとも1つの物理的パラメーターから決定され得る。
【0012】
本発明の別の態様は、がん性組織を有する対象におけるがんを治療するために使用されるべき交流電場の周波数を選択する、第5の方法を対象とする。第5の方法は、対象から得られたがん性組織の試料から摘出された少なくとも1つのがん細胞の電気特性を決定する工程、及び決定された電気特性に基づき、がんを治療するために対象に印加する交流電場の周波数を決定する工程を含む。
【0013】
第5の方法のいくつかの例において、電気特性を決定する工程は、35kHz未満の複数の周波数の各々において、少なくとも1つのがん細胞の誘電泳動力を測定することを含む。第5の方法のいくつかの例において、周波数を決定する工程は、決定された電気特性に一致する既知の電気特性を有する参照がん細胞の処理において有効な周波数を選択することを含む。第5の方法のいくつかの例において、電気特性を決定する工程は、細胞膜静電容量を決定することを含む。
【0014】
本発明の別の態様は、がん性組織を有する対象におけるがんを治療するために使用されるべき交流電場の周波数を選択する、第6の方法を対象とする。第6の方法は、少なくとも1つのがん細胞の電気特性を決定することができる、対象から得られたがん性組織の試料から摘出された少なくとも1つのがん細胞の少なくとも1つの物理的パラメーターを測定する工程、及び測定された少なくとも1つの物理的パラメーターに基づき、がんを治療するために対象に印加する交流電場の周波数を決定する工程を含む。
【0015】
第6の方法のいくつかの例において、少なくとも1つのがん細胞の細胞膜静電容量は、少なくとも1つの物理的パラメーターから決定され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】最適なTTフィールド周波数がそれぞれ150kHz及び200kHzである2つの細胞株群の間の誘電泳動力の変化を示す図である。
図2】誘電泳動力測定値に基づき、TTフィールド治療の周波数を選択するプロセスを示す図である。
図3】光学的測定値から電気特性(例えば、誘電泳動力又は細胞膜静電容量)を決定することが可能である場合、光学的測定値に基づき、TTフィールド治療の周波数を選択するプロセスを示す図である。
図4】TTフィールドに対して感受性である1群及びTTフィールドに対して感受性ではない1群である2つの細胞株群の間の誘電泳動力の変化を示す図である。
図5】誘電泳動力測定値に基づき、TTフィールドによって特定の対象を治療するかどうかを決定するプロセスを示す図である。
図6】光学的測定値から電気特性(例えば、誘電泳動力又は細胞膜静電容量)を決定することが可能である場合、光学的測定値に基づき、TTフィールドによって特定の対象を治療するかどうかを決定するプロセスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付図面を参照しながら、様々な実施形態を以下に詳しく説明する。ここでは、同一の参照番号は同一の要素を示す。
【0018】
従来、ある特定の対象を治療するためにTTフィールドを使用することが決定された場合、該対象に印加されるTTフィールドの周波数は、治療中の腫瘍の特定の種類に基づいていた。例えば、GBMの治療では、200kHzがTTフィールドの推奨周波数であり、胃がんの治療では、150kHzがTTフィールドの推奨周波数である。しかし、すべての対象に対してただ一種の周波数を使用することによっては、これらの対象の各人及び全員が最良の結果を得ることはできない。より具体的には、GBMを有するほとんどの対象に対して200kHzが最良の周波数であり得る一方で、GBMを有する一部の個人は異なる周波数(例えば、175kHz又は225kHz)により良く反応すると考えられる。現在に至るまで、任意の特定の対象個人のために使用されるべき最適周波数を決定する予測マーカーは存在していない。
【0019】
本明細書に記載の実施形態のいくつかは、個々の対象ごとに印加されるTTフィールドの周波数をカスタマイズすることによって、多くの対象の結果を改善させ得るものである。任意の特定の対象個人に対して使用する周波数の決定は、該対象個人から摘出されたがん細胞の少なくとも1つの電気特性に基づく。別の実施形態において、任意の特定の対象個人に対して使用する周波数の決定は、摘出されたがん細胞の電気特性を決定することが可能な物理的パラメーターに基づいてもよい。個々の対象ごとのための印加するTTフィールドの最良の周波数を前もって予測する能力によって、TTフィールド治療の有効性を有利に改善することができる。
【0020】
更に、従来、TTフィールドが任意の特定の対象個人に対して有効となるかどうかを決定する予測マーカーは存在していなかった。本明細書に記載の実施形態のいくつかでは、TTフィールドが特定の対象個人に対して有効となるかどうかを予測することができる。この予測は、対象個人から摘出されたがん細胞の少なくとも1つの電気特性に基づく。別の実施形態において、予測は、摘出されたがん細胞の電気特性を決定することができる物理的パラメーターに基づいてもよい。任意の特定の対象に対するTTフィールド治療の有効性を前もって予測する能力は、(例えば、個々の対象ごとに対して最も有効な治療を選択することによって)転帰を有利に改善することができる。
【0021】
これらの予測に使用できる電気特性の例としては、誘電泳動力、細胞膜静電容量、細胞膜抵抗性、細胞質導電率、並びに様々な細胞構造の誘電率、導電率、静電容量等のその他の基準が挙げられるが、これらに限定されない。予測を行うために使用される電気特性は、直接的に測定され得る。別法として、電気特性は、間接的に(例えば、異なる電気特性又は光強度等の非電気特性いずれかであり得るその他の物理的特性を測定し、該その他の物理的特性から電気特性を決定することによって)測定され得る。電気特性がその他の物理的特性から決定され得る状況において、下記に更に詳しく説明するように、関連性のある電気特性の中間計算をすることなく、該その他の物理的特性から直接、所望のTTフィールド周波数(又は有効性予測)にマッピングを行うことが可能な場合もある。
【0022】
いくつかの実施形態において、上記の予測を行うために使用される電気特性は、がん細胞に対する誘電泳動力である。誘電泳動力測定のため様々な市販のシステムのいずれを使用してもよく、例として3DEP(商標)3D誘電泳動細胞分析システム等が挙げられるが、これだけに限定されない(誘電泳動とは、不均一な電場を経験する分極性粒子に対して力を発生させる物理的な作用であり、したがって、様々な周波数の電場内での細胞の動き方を解析する技法として使用することができる)。がん細胞に対する誘電泳動力測定による電気特性の決定(3DEP(商標)システムのように)に代えて、当業者には明らかな、がん細胞の電気特性を決定するための様々な代替手法も使用できることに留意されたい。
【0023】
実施形態の第1のセット:がん細胞の電気特性に基づく、印加されるべきTTフィールド治療の周波数の決定
測定された電気特性をどのように使用して、対象のがんを治療するために対象に印加されるべきTTフィールドの周波数を決定することができるかを確立するために、様々な腫瘍タイプ由来の18種の細胞株のベースラインの電気特性(誘電率及び導電率)を、3DEP(商標)細胞分析システムを使用して決定した。これら18種の細胞株のなかで、まず、これらの細胞株のうちの10種(HepG2、A549、H1299、MDA231、LLC-1、C3A、AGS、KATO III、H2052、及びRN5)が、150kHzの周波数でTTフィールドを使用する治療に対して最も影響を受けやすく、これらの細胞株のうちの8種(A172、A2780、U87、A375、LN18、LN229、DKMG、及びU251)が、200kHzの周波数でTTフィールドを使用する治療に対して最も影響を受けやすいことを確証した。18種の細胞株すべてについて最適なTTフィールド周波数を、Inovitro(商標)システムを使用して様々な周波数でのTTフィールドの細胞傷害効果を試験することによって、決定した。
【0024】
次いで、細胞株の各々の電気特性を、各細胞株の最適なTTフィールド周波数及び感受性と比較した。この比較の結果を図1に示す。これは、10種の細胞株の第1の群(最適TTフィールド周波数が150kHz)と8種の細胞株の第2の群(最適TTフィールド周波数が200kHz)との間の、より低い周波数範囲(3~35kHz)での細胞の誘電泳動力対周波数曲線の差異を示す。
【0025】
この曲線を、二元配置分散分析を使用して解析した。第1の細胞株群の誘電泳動力と第2の細胞株群の誘電泳動力との比較から、より低い周波数範囲での誘電泳動力対周波数曲線において、これらの2つの群の誘電泳動力の間で有意差があることがわかる。より具体的には、これらの結果は、第1の細胞株群と第2の細胞株群との間のように、より低い周波数範囲の誘電泳動力対周波数曲線の間の有意差(p<0.001)を示す。本発明者らは、この低い周波数範囲における曲線の差異に基づき、この低い周波数範囲での誘電泳動力の電気特性がTTフィールド治療のための最適な周波数の優れた予測因子であると判断した。
【0026】
図2は、この差異の利点を利用するプロセスを示す。工程S22において、腫瘍細胞を対象から(例えば、切除/生検/循環腫瘍細胞から採取して)摘出する。次いで、工程S24において、がん細胞の電気特性を決定する。これを行うための1つの手段は、摘出した腫瘍細胞を、(腫瘍解離キット等の方法を使用して)単一細胞懸濁液に解離することである。単一細胞懸濁液中での細胞の電気特性は、電気特性を測定する装置を使用して(例えば誘電泳動力を測定する3DEP(商標)装置を使用して)直接試験することも可能であり、又は蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)等の方法を使用して若しくは細胞特異的ビーズを使用して、他の浸潤性細胞から選別することによってより均質の細胞集団を創出するために更に精製し、次いで3DEP(商標)等の装置によって電気特性を測定することも可能である。
【0027】
対象からの少なくとも1つのがん細胞の電気特性を決定した後、工程S26において決定された電気特性に基づき、対象のがんを治療するために対象に印加されるべきTTフィールドの周波数を決定することができる。例えば、解析中の電気特性が誘電力である状況では、対象からの腫瘍細胞の誘電力の測定値が第1の細胞株群の誘電力により近接して一致していれば、該対象のための治療は、150kHzの周波数でのTTフィールドを使用して進めるべきである。一方、対象からの腫瘍細胞の誘電力の測定値が第2の細胞株群の誘電力により近接して一致していれば、該対象のための治療は、200kHzの周波数でのTTフィールドを使用して進めるべきである。
【0028】
TTフィールド治療のための周波数を決定した後、工程S28において決定された周波数でTTフィールドを対象に印加することによってがんを治療する。
【0029】
より低い周波数範囲の誘電泳動力対周波数曲線は細胞の膜静電容量に対応しているため、誘電泳動力対周波数のデータ(図1に示したデータ等)から、細胞膜静電容量を決定することができる。よって、本発明者らは、細胞膜静電容量の電気特性もまた、TTフィールド治療のための最適な周波数の優れた予測因子であると判断した。誘電泳動力測定値に基づき細胞膜静電容量が算出される状況において、細胞膜静電容量をTTフィールド治療のための最適な周波数の予測因子として使用することは、第1の電気特性(すなわち、誘電泳動力)に基づき、第2の電気特性(すなわち、細胞膜静電容量)を間接的に決定し、次いでTTフィールド治療のため最適の周波数の予測因子として第2の電気特性を使用する一例である。
【0030】
図2に示したプロセスは、電気特性として細胞膜静電容量が使用される状況にも適用する。この状況では、工程S22において、(例えば上述のように)腫瘍細胞を対象から摘出する。次いで工程S24において、がん細胞の細胞膜静電容量を決定する。これは、例えば、3DEP(商標)装置を使用して、誘電泳動力を測定し、次いで、測定された誘電泳動力に基づき細胞膜静電容量を決定して成され得る。次いで工程S26において、細胞膜静電容量と最適TTフィールド周波数との間のマッピングを行う。例えば、対象からの腫瘍細胞の細胞膜静電容量が第1の細胞株群の細胞膜静電容量により近接して一致していれば、該対象のための治療は、150kHzの周波数のTTフィールドを使用して進めるべきである。一方、対象からの腫瘍細胞の細胞膜静電容量が第2の細胞株群の細胞膜静電容量により近接して一致していれば、該対象のための治療は、200kHzの周波数のTTフィールドを使用して進めるべきである。次いで、工程S28において決定された周波数でTTフィールドを対象に適用することによってがんを治療する。
【0031】
上述のように、誘電泳動力データを、TTフィールド治療のための最適な周波数を予測するために使用することができる。(3DEP(商標)システムで使用される)誘電泳動力を測定する1つの手段は、まず光学的測定を行って、摘出されたがん細胞が電場で動く距離を決定し、次いでこれらの光学的測定を(電気特性である)誘電泳動力データに変換し、次いで誘電泳動力データを最適な周波数に対してマッピングすることである。従って、変換工程を省略し、基となる光学的測定からTTフィールド治療のための最適な周波数への直接マッピングを行うことが可能である。これは、物理的パラメーターからがん細胞の電気特性(すなわち、誘電泳動力)を決定することができる場合、摘出されたがん細胞の該物理的パラメーター(すなわち、光学的パラメーター)を測定し、次いで、(誘電泳動力値が実際に決定されることがなくても)該物理的パラメーターに基づきTTフィールド周波数を決定する一例である。
【0032】
図3に示したプロセスは、この状況において適用する。ここでは、工程S32において、(例えば、工程S22に関して上述したように)腫瘍細胞を対象から摘出する。次いで、工程S34において、がん細胞の物理的特性(例えば、光強度を測定することによって決定される3DEP(商標)システム中のウェル内での動き)を決定する。次いで、工程S36において、測定された光強度と最適TTフィールド周波数との間のマッピングを行う。例えば、対象からの腫瘍細胞について測定された光強度が第1の細胞株群で測定された光強度により近接して一致していれば、該対象のための治療は、150kHzの周波数でTTフィールドを使用して進めるべきである。一方、対象からの腫瘍細胞について測定された光強度が第2の細胞株群で測定された光強度により近接して一致していれば、該対象のための治療は、200kHzの周波数でTTフィールドを使用して進めるべきである。次いで、工程S38において決定された周波数でTTフィールドを対象に印加することによってがんを治療する。
【0033】
実施形態の第2のセット:がん細胞の電気特性に基づく、TTフィールド治療に対するがん細胞の反応の予測
他の実施形態において、任意の特定の対象個人の体内のがん細胞の電気特性に基づき、TTフィールド治療が該任意の特定の対象個人に対して有効となるかどうかについて、予測を行うことができる。該特定の対象個人からのがん細胞の電気特性は、周波数を選択する実施形態に関して上述した手法のうちのいずれが(例えば、3DEP(商標))を使用して決定することができる。
【0034】
この予測方法を確立するために、TTフィールドを印加した際、高い細胞傷害効果を経験することが知られた7種の異なる細胞株の第1の群(LN18、LN229、A375、A2780、MDA231、LLC-1、及びAGS)について、また、TTフィールドを印加した際、低い細胞傷害効果を経験することが知られた6種の異なる細胞株の第2の群(MCF7、U251、DKMG、KATO III、CT26、及びRN5)について、3DEP(商標)測定を行った。種々の細胞株に対するTTフィールドの細胞傷害効果は、Inovitro(商標)システムを使用して決定した。
【0035】
次いで、これらの2つの細胞株群の電気特性を比較した。この比較の結果を図4に示す。これは、第1の細胞株群と第2の細胞株群との間での、より低い周波数範囲(3~35kHz)での細胞の誘電泳動力対周波数曲線の差異を示す。また上述のように、このより低い範囲でのこれらの曲線は、膜静電容量に対応している。
【0036】
この差異は、特定の対象がTTフィールドによって治療されるべきであるか治療されるべきではないか、又は別のモダリティーと組み合わせてTTフィールドを使用して治療されるべきであるかを決定する補助として用いることができる。
【0037】
これらの結果は、第1の細胞株群と第2の細胞株群との間のように、より低い周波数範囲の間での誘電泳動力対周波数曲線(細胞の膜静電容量に対応している)の間の有意差(二元配置分散分析、p<0.001)を示す。本発明者らは、この低い周波数範囲での曲線の差異に基づき、この低い周波数範囲における誘電泳動力の電気特性は、特定の一群のがん細胞がTTフィールド治療に対して十分に反応するかどうかの優れた予測因子であると判断した。
【0038】
図5は、この差異の利点を利用するプロセスを示す。工程S52において、腫瘍細胞を対象から(例えば、切除/生検/循環腫瘍細胞から採取して)摘出する。次いで、工程S54において、がん細胞の電気特性を(例えば、工程S24に関して上述したように)決定する。
【0039】
対象からの少なくとも1つのがん細胞の電気特性を決定した後、工程S56において、決定された電気特性に基づき、対象へのTTフィールドの印加ががんを治療するために有効となるかどうかについて予測を行う。例えば、解析中の電気特性が誘電力である状況では、対象からの腫瘍細胞の誘電力の測定値が、(TTフィールドを印加した際、高い細胞傷害性を経験することが知られている)第1の細胞株群により近接して一致していれば、TTフィールドを使用する対象のための治療は、高い確率の有効性を有する。一方、対象からの腫瘍細胞の誘電力の測定値が第2の細胞株群により近接して一致していれば、TTフィールドを使用する有効性の確率は低く、対象のための治療は、代替の手法を使用して進めるべきである。
【0040】
最後に、工程S56における予測の結果から、TTフィールドを使用する治療が高い確率の有効性を有することが明らかとなれば、工程S58において、切な周波数でTTフィールドを対象に適印加することによってがんを治療する。
【0041】
より低い周波数範囲の誘電泳動力対周波数曲線は細胞の膜静電容量に対応しているため、誘電泳動力対周波数データ(図4に示したデータ等)から、細胞膜静電容量を決定することができる。よって、本発明者らは、細胞膜静電容量の電気特性もまた、TTフィールド治療の有効性についての優れた予測因子であると判断した。誘電泳動力測定値に基づき細胞膜静電容量を算出する状況において、細胞膜静電容量をTTフィールド治療の有効性についての予測因子として使用することは、第1の電気特性(すなわち、誘電泳動力)に基づき第2の電気特性(すなわち、細胞膜静電容量)を間接的に決定し、次いで、TTフィールド治療の有効性についての予測因子として第2の電気特性を使用する一例である。
【0042】
図5に示したプロセスは、電気特性として細胞膜静電容量を使用する状況にも適用する。この状況では、工程S52において、(例えば、工程S22に関して上述したように)腫瘍細胞を対象から摘出する。次いで、工程S54において、(例えば、工程S24に関して上述したように)がん細胞の細胞膜静電容量を決定する。次に、工程S56において、決定された細胞膜静電容量に基づき、TTフィールド治療が有効となるかどうかの予測を行う。例えば、対象からの腫瘍細胞の細胞膜静電容量が、(TTフィールドを印加した際、高い細胞傷害性を経験することが知られている)第1の細胞株群の細胞膜静電容量により近接して一致していれば、TTフィールドを使用する対象のための治療は、高い確率の有効性を有する。一方、対象からの腫瘍細胞の細胞膜静電容量が、第2の細胞株群により近接して一致していれば、TTフィールドを使用する有効性の確率は低く、対象のための治療は、代替の手法を使用して進めるべきである。最後に、工程S56における予測の結果から、TTフィールドを使用する治療が高い確率の有効性を有することが明らかとなれば、工程S58において、適切な周波数でTTフィールドを対象に印加することによってがんを治療する。
【0043】
(a)誘電泳動力データは、(図4図5に関して上述したように)TTフィールド治療が有効となるかどうかを予測するために使用することができ、(b)光学的測定値は、(図3に関して上述したように)誘電泳動力データに変換することができるため、誘電泳動力データを決定する中間工程を全く行うことなく、TTフィールドによる治療が特定の対象に対して有効となるかどうかについて基となる光学的測定値から直接予測することが可能である。これは、物理的パラメーターからがん細胞の電気特性(すなわち、誘電泳動力)を決定することができる場合、摘出されたがん細胞の該物理的パラメーター(すなわち、光学的パラメーター)を測定し、次いで、(誘電泳動力値が実際に決定されることがなくても)物理的パラメーターに基づき、TTフィールドを印加することが対象のがんを治療するのに有効となるかどうかを予測する一例である。
【0044】
図6に示したプロセスは、この状況において適用する。ここでは、工程S62において、(例えば、工程S22に関して上述したように)腫瘍細胞を対象から摘出する。次いで、工程S64において、がん細胞の物理的特性(例えば、光強度を測定することによって決定される3DEP(商標)システム中のウェル内での動き)を決定する。次いで、工程S66において、測定された光強度とTTフィールド治療が有効となるかどうかについての予測との間でのマッピングを行う。例えば、対象からの腫瘍細胞について測定された光強度が、(TTフィールドを印加した際、高い細胞傷害性を経験することが知られている)第1の細胞株群により近接して一致していれば、TTフィールドを使用する対象のための治療は、高い確率の有効性を有する。一方、対象からの腫瘍細胞について光強度が第2の細胞株群により近接して一致していれば、TTフィールドを使用する有効性の確率は低く、対象のための治療は、代替の手法を使用して進めるべきである。最後に、工程S66における予測結果から、TTフィールドを使用する治療が高い確率の有効性を有することが明らかとなれば、工程S68において、適切な周波数でTTフィールドを対象に印加することによってがんを治療する。
【0045】
本発明を特定の実施形態を参照して開示してきたが、添付の特許請求の範囲に定義された本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、記載した実施形態に対する数多くの修正、改変、及び変更が可能である。従って、本発明は記載した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の文言によって定められる全範囲、及びそれらの均等物を包含するものであることを意図する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【外国語明細書】