(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145483
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】T細胞レセプター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20231003BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20231003BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231003BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231003BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231003BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231003BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231003BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20231003BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20231003BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20231003BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20231003BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231003BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231003BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231003BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N1/15
C12N1/21
C12N1/19
C07K19/00
C07K16/28
C07K14/725
C12P21/02 A
A61K35/17
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00 101
【審査請求】有
【請求項の数】41
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023111778
(22)【出願日】2023-07-06
(62)【分割の表示】P 2019570366の分割
【原出願日】2018-06-19
(31)【優先権主張番号】1709866.6
(32)【優先日】2017-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】510019129
【氏名又は名称】イムノコア リミテッド
【住所又は居所原語表記】92 Park Drive Milton Park,Abingdon Oxfordshire OX14 4RY,United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アディス,フィリップ ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ベドケ,ニコル ジョイ
(72)【発明者】
【氏名】ブアール,リュシー
(72)【発明者】
【氏名】ハーパー,スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】リディ,ナサニエル
(72)【発明者】
【氏名】マホン,タラ
(72)【発明者】
【氏名】オドワイヤー,ロナン パドレイク
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生食細胞系癌抗原に由来するHLA-A*02制限ペプチド(SLLQHLIGL)に結合するT細胞レセプターを提供する。
【解決手段】SLLQHLIGL-HLA-A*02複合体に対する結合性を有し、FRはフレームワーク領域であり、CDRは相補性決定領域である、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4をそれぞれ含むTCRα鎖可変ドメイン及び/又はTCRβ鎖可変ドメインを含んでなり、(a)α鎖CDRは以下の配列を有し、CDR1-TISGTDY、CDR2-GLTSN、CDR3-CILILGHSGAGSYQLTF、必要に応じてその中に1つ以上の変異を含む、及び/又は、(b)β鎖CDRは以下の配列を有し、CDR1-LNHDA、CDR2-SQIVNDF、CDR3-CASSPWTSGSREQYF、必要に応じてその中に1つ以上の変異を含む、T細胞レセプターとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SLLQHLIGL(配列番号1)-HLA-A*02複合体に対する結合性を有し、FRはフレームワーク領域でありCDRは相補性決定領域であるFR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4をそれぞれ含むTCR
α鎖可変ドメイン及び/又はTCR β鎖可変ドメインを含んでなり、
(a)α鎖CDRは以下の配列を有し、
CDR1 - TISGTDY(配列番号39)
CDR2 - GLTSN(配列番号40)
CDR3 - CILILGHSGAGSYQLTF(配列番号41)
必要に応じて、その中に1つ以上の変異を含む
及び/又は
(b)β鎖CDRは以下の配列を有し、
CDR1 - LNHDA(配列番号42)
CDR2 - SQIVNDF(配列番号43)
CDR3 - CASSPWTSGSREQYF(配列番号44)
必要に応じて、その中に1つ以上の変異を含む
T細胞レセプター(TCR)。
【請求項2】
α鎖可変ドメインフレームワーク領域が、次:
FR1 - 配列番号2のアミノ酸1-25
FR2 - 配列番号2のアミノ酸33-49
FR3 - 配列番号2のアミノ酸55-87
FR4 - 配列番号2のアミノ酸105-114
又は、前記配列に対して少なくとも90%の同一性を有するそれぞれの配列、及び/又は
β鎖可変ドメインフレームワーク領域が、次:
FR1 - 配列番号3のアミノ酸1-26
FR2 - 配列番号3のアミノ酸32-48
FR3 - 配列番号3のアミノ酸56-90
FR4 - 配列番号3のアミノ酸106-114
又は、前記配列に対して少なくとも90%の同一性を有するそれぞれの配列
を含む、請求項1に記載のTCR。
【請求項3】
α鎖CDRにおける1つ以上の変異が、(配列番号2の番号付けを参照して)次:
【表1】
から選択される、請求項1又は請求項2に記載のTCR。
【請求項4】
α鎖CDRに1つ、2つ、3つ、4つ又は5つの変異があり、該1つ、2つ、3つ、4つ
又は5つの変異が、(配列番号2の番号付けを参照して)次:
【表2】
から選択される、請求項3に記載のTCR。
【請求項5】
α鎖CDRが、(配列番号2の番号付けを参照して)次の変異群:
【表3】
の1つを有する請求項4に記載のTCR。
【請求項6】
α鎖CDR3が次:
【表4】
から選択される配列を有する、請求項4又は5に記載のTCR。
【請求項7】
β鎖CDRにおける1つ以上の変異が、(配列番号3の番号付けを参照して)次:
【表5】
から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項8】
β鎖CDRに1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の変異があり、該1、2、3
、4、5、6、7、8、9又は10個の変異が、(配列番号3の番号付けを参照して)次:
【表6】
から選択される、請求項7に記載のTCR。
【請求項9】
β鎖CDRが、(配列番号3の番号付けを参照して)次の変異群:
【表7】
の1つを有する請求項8に記載のTCR。
【請求項10】
β鎖CDR2が次:
【表8】
から選択される配列を有する、請求項8又は9に記載のTCR。
【請求項11】
β鎖CDR3が次:
【表9】
から選択される配列を有する、請求項8、9又は10のTCR。
【請求項12】
それぞれのβ鎖CDR2及びCDR3が次:
【表10】
の通りである、請求項10又は11に記載のTCR。
【請求項13】
α鎖CDR及びβ鎖CDRの次の組合せ:
【表11】
の1つを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項14】
α鎖可変領域FR1が、配列番号2の番号付けを使用して-1位にG残基を有する、請求項1
~13のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項15】
α鎖可変ドメインが配列番号6~8のアミノ酸配列のいずれか1つを含み、β鎖可変ドメインが配列番号9~24のアミノ酸配列のいずれか1つを含む、請求項1~14のいずれか
1項に記載のTCR。
【請求項16】
α鎖可変ドメイン及びβ鎖可変ドメインが次:
【表12】
のアミノ酸配列から選択される、請求項1~15のいずれか一項に記載のTCR。
【請求項17】
α鎖TRAC定常ドメイン配列及びβ鎖TRBC1又はTRBC2定常ドメイン配列を有する、α-βヘテロダイマーである請求項1~16のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項18】
α鎖及びβ鎖の定常ドメイン配列がTRACのエキソン2のCys4と、TRBC1又はTRBC2のエキソン2のCys2との間の天然型ジスルフィド結合が欠失するように短縮化又は置換により改変されている、請求項17に記載のTCR。
【請求項19】
α鎖及び/又はβ鎖の定常ドメイン配列がTRACのThr 48及びTRBC1又はTRBC2のSer 57か
らシステイン残基への置換により改変されており、該システイン同士がTCRのα定常ドメ
インとβ定常ドメインとの間で非天然型ジスルフィド結合を形成している、請求項17又は18に記載のTCR。
【請求項20】
Vα-L-Vβ、Vβ-L-Vα、Vα-Cα-L-Vβ、Vα-L-Vβ-Cβ型(式中、Vα及びVβはそれぞ
れTCR α及びβ可変領域であり、Cα及びCβはそれぞれTCR α及びβ定常領域であり、L
はリンカー配列である)の単鎖形式である請求項1~19のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項21】
検出可能な標識、治療剤又はPK調整成分と結合した請求項1~20のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項22】
抗CD3抗体が、場合によってリンカー配列を介してTCRのα鎖又はβ鎖のC末端又はN末端に共有結合している、請求項21に記載のTCR。
【請求項23】
リンカー配列が、GGGGS(配列番号31)、GGGSG(配列番号32)、GGSGG(配列番号33)、GSGGG(配列番号34)、GSGGGP(配列番号35)、GGEPS(配列番号36)、GGEGGGP(配列番号37)及びGGEGGGSEGGGS(配列番号38)からなる群より選択される、請求項21に記載のTCR。
【請求項24】
α鎖可変ドメインが配列番号6~8から選択されるアミノ酸配列を含み、β鎖可変ドメインが配列番号9~24から選択されるアミノ酸配列を含み、抗CD3抗体が配列番号31~38から選択されるリンカー配列を介してTCRβ鎖のC末端又はN末端に共有結合している、TCR-
抗CD3融合分子。
【請求項25】
配列番号25、27又は29から選択されるα鎖アミノ酸配列、もしくは配列番号25、27及び29に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性、例えば90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するα鎖アミノ酸配列、及び
配列番号26、28及び30から選択されるβ鎖アミノ酸配列、もしくは配列番号26、28及び30に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性、例えば90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するβ鎖アミノ酸配列を含む
、
請求項24に記載のTCR-抗CD3融合分子。
【請求項26】
次:
(a)配列番号25に相当するα鎖アミノ酸配列及び配列番号26に相当するβ鎖アミノ酸配列
、
(b)配列番号27に相当するα鎖アミノ酸配列及び配列番号28に相当するβ鎖アミノ酸配列
、又は
(c)配列番号29に相当するα鎖アミノ酸配列及び配列番号30に相当するβ鎖アミノ酸配列
を含む、請求項25に記載のTCR-抗CD3融合分子。
【請求項27】
請求項1~26のいずれか1項に記載のTCRα鎖及び/又はTCRβ鎖をコードする核酸。
【請求項28】
請求項27に記載の核酸を含んでなる発現ベクター。
【請求項29】
(a)請求項1~26のいずれか1項に記載のTCRのα鎖及びβ鎖をコードする請求項28に記載の発現ベクターを、単一オープンリーディングフレーム中又は2つの別個のオープンリーディングフレーム中に有するか;又は
(b)請求項1~26いずれか1項に記載のTCRのα鎖をコードする核酸を含んでなる第1の発現ベクターと、請求項1~26のいずれか1項に記載のTCRのβ鎖をコードする核酸を
含んでなる第2の発現ベクターとを有する、
細胞。
【請求項30】
請求項1~20のいずれか1項に記載のTCRを提示する、天然に存在しない及び/又は
精製された及び/又は工学的に操作された細胞、特にT細胞。
【請求項31】
請求項1~23のいずれか1項に記載のTCR、又は請求項24~26のいずれか1項に
記載のTCR-抗CD3融合分子、もしくは請求項29又は30に記載の細胞を、1又は2以上
の医薬的に許容可能な担体又は賦形剤と共に含んでなる医薬組成物。
【請求項32】
好ましくはヒト対象における医薬に用いるための、請求項1~23のいずれか1項に記載のTCR、又は請求項24~26のいずれか1項に記載のTCR-抗CD3融合分子、もしくは請求項27に記載の核酸、請求項31に記載の医薬組成物又は請求項29もしくは30に記載の細胞。
【請求項33】
好ましくはヒト対象における癌又は腫瘍の治療方法に用いるための、請求項1~23のいずれか1項に記載のTCR、又は請求項24~26のいずれか1項に記載のTCR-抗CD3融合分子、もしくは請求項27に記載の核酸、請求項31に記載の医薬組成物又は請求項29もしくは30に記載の細胞。
【請求項34】
ヒト対象がPRAMEを発現する腫瘍を有する、請求項33に記載の使用のためのTCR、TCR
抗CD3融合分子、核酸、医薬組成物又は細胞。
【請求項35】
腫瘍が固形腫瘍である、請求項33又は34に記載の使用のためのTCR、TCR抗CD3融合
分子、核酸、医薬組成物又は細胞。
【請求項36】
ヒト対象がHLA-A*02サブタイプである、請求項32~35のいずれか1項に記載の使用のためのTCR、TCR抗CD3融合分子、核酸、医薬組成物又は細胞。
【請求項37】
注射により、例えば静脈内注射又は腫瘍内直接注射により投与される、請求項32~36のいずれか1項に記載の使用のためのTCR、TCR-抗CD3融合分子、核酸、医薬組成物又は細胞。
【請求項38】
医薬的有効用量の請求項33に記載の医薬組成物を、必要とする対象に投与することを含んでなる、癌を有するヒト対象の治療方法。
【請求項39】
抗腫瘍剤を別々に、組合せて、又は逐次に投与することをさらに含んでなる請求項38に記載の方法。
【請求項40】
請求項1~23のいずれか1項に記載のTCR、又は請求項24~26のいずれか1項に
記載のTCR-抗CD3融合分子を含んでなる、ヒト対象投与用の注射可能な製剤。
【請求項41】
a)請求項29に記載の細胞を、TCR鎖の発現に最適な条件下に維持し、b)TCR鎖を単離することを含んでなる、請求項1~23のいずれか1項に記載のTCR、又は請求項24~2
6のいずれか1項に記載のTCR-抗CD3融合分子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生食細胞系癌抗原PRAMEに由来するHLA-A*02制限ペプチドSLLQHLIGL(配列番
号1)に結合するT細胞レセプター(TCR)に関する。前記TCRは、α及び/又はβ可変ドメ
イン内に、天然型PRAME TCRに関する非天然変異を含んでなり得る。本発明のTCRは、悪性疾患治療用の新規免疫治療剤としての使用に特に適切である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
T細胞レセプター(TCR)は、CD4+及びCD8+ T細胞により天然に発現される。TCRは、主要組織適合性複合体(MHC)分子(ヒトでは、MHC分子はヒト白血球抗原又はHLAとしても知られる)との複合体で、抗原提示細胞の表面にディスプレイされる短いペプチド抗原を認識
するように設計されている(Davisら、Annu Rev Immunol、1998;16:523-44)。CD8+T細
胞は、細胞傷害性T細胞とも呼ばれ、MHCクラスI分子に結合するペプチドを特異的に認
識するTCRを有する。CD8+ T細胞は、一般には、癌細胞及びウイルス性感染細胞を含む病気の細胞の発見及びその破壊の仲介を担っている。対応する抗原に対する天然レパートリーの癌特異的TCRの親和性は、胸腺選択の結果として一般的に低く、これは癌細胞が頻繁
に検出と破壊から逃れることを意味する。T細胞による癌認識を促進することを目的とした新規免疫治療のアプローチは、効果的な抗癌治療の開発のための非常に有望な戦略を提供する。
【0003】
メラノーマにおけるPRAMEすなわち優先発現抗原は、最初はメラノーマで過剰発現する
抗原として同定された(IkedaらImmunity、1997年2月;6(2):199-208)。CT130、MAPE、OIP-4とも呼ばれ、Uniprotの受入(accession)番号はP78395である。このタンパク質は、レ
チノイン酸受容体シグナル伝達の抑制因子として機能する(Eppingら、Cell、2005年9月23日;122(6):835-47)。PRAMEは、癌精巣抗原として知られる生殖細胞系列にコードされた抗原の系統群(family)に属する。癌精巣抗原は、通常、正常な成人組織では発現が制限されているか、発現していないため、免疫治療が介在するのに魅力的な標的である。PRAME
は、多くの固形腫瘍ならびに白血病及びリンパ腫で発現する(Doolan ら、Breast Cancer Res Treat. 2008 年5月;109(2):359-65;EppingらCancer Res. 2006 11月15日;66(22):10639-42;ErcolakらBreast Cancer Res Treat. 2008年5月;109(2):359-65;MatsushitaらLeuk Lymphoma. 2003年3月;44(3):439-44;MitsuhashiらInt. J Hematol. 2014;100(1):88-95;Proto-SequeireらLeuk Res. 2006年11月;30(11):1333-9;SzczepanskiらOral Oncol. 2013年2月;49(2)::144-51;Van BarenらBr J Haematol. 1998 年9月;102(5):1376-9)。本発明のPRAME標的療法は、肺癌(NSCLC及びSCLC)、乳癌(トリプルネガ
ティブを含む)、卵巣癌、子宮内膜癌、食道癌、膀胱癌及び頭頸部癌を含むがこれらに限
定されない癌の治療に特に適し得る。
【0004】
ペプチドSLLQHLIGL(配列番号1)は、全長PRAMEタンパク質のアミノ酸425~433に相当し、HLA-A*02との複合体で細胞の表面にディスプレイされる(Kesslerら、J Exp Med. 2001
年1月1日;193(1):73-88)。ペプチド-HLA複合体は、TCRに基づく免疫療法的介入の有用
な標的を提供する。
【0005】
SLLQHLIGL(配列番号1)-HLA-A*02複合体に高い親和性及び高特異性で結合する特定のTCR配列の同定は、新規免疫治療剤の開発に有利である。治療用TCRは、例えば、細胞障害性薬剤を腫瘍部位に送達するために又は腫瘍細胞に対して免疫エフェクター機能を活性化するための可溶性標的化剤として使用し得(Lissinら、「High-Affinity Monocloncal T-cell receptor (mTCR) Fusions」Fusion Protein Technologies for Biophamaceuticals:Ap
plications and Challenges. 2013. S. R. Schmidt、Wiley;Boulterら、Protein Eng. 2003年9月;16(9):707-11;Liddyら、Nat Med. 2012年6月;1 8(6):980-7)、あるいは養子療法用にT細胞を遺伝子操作するために用い得る(Fesnakら、Nat Rev Cancer. 2016年8月23日;16(9):566-81)。
【0006】
HLA-A*02との複合体でSLLQHLIGL(配列番号1)に結合するTCRは以前に報告されている(Amirら、Clin Cancer Res. 2011年9月1日;17(17):5615-25; Griffioenら、Clin Cancer
Res. 2006年5月15日;12(10):3130-6; WO2016142783)。しかし、これらのTCRは、天然のTCRに比べてより高い親和性で標的抗原に結合するように遺伝子操作されていない。以
下でさらに説明するように、超生理学的抗原親和性は、特に特異性などの他の望ましい特徴とバランスが取れている場合、その産生が簡単ではない治療用TCRにとって望ましい特
徴である。
【0007】
本明細書に記載するTCR配列は、TCRの分野の当業者に広く知られアクセス可能であるIMGT命名法を参照して記載される。例えば、LeFranc及びLeFranc(2001),「T cell Receptor Factsbook」、Academic Press;Lefranc(2011), Cold Spring Harb Protoc 2011(6):595-603;Lefranc(2001), Curr Protoc Immunol Appendix 1:Appendix 10O;並びにLefranc(2003)、Leukemia 17(1):260-266を参照。簡潔には、αβTCRは2つのジスルフィド連結鎖からなる。各鎖(α及びβ)は、一般に、2つのドメイン、すなわち、可変ドメイン及び定常ドメインを有すると考えられる。短い連結領域が可変ドメインと定常ドメインとを連結し、この連結領域は、代表的には、α可変領域の一部とみなされている。加えて、β鎖は、通常、連結領域の隣の短い多様性領域を含有し、それはまた代表的にはβ可変領域の一部とみなされている。
【0008】
各鎖の可変ドメインはN末端側に位置し、フレームワーク配列に埋め込まれた3つの相補性決定領域(CDR)を含んでなる。CDRはペプチド-MHC結合のための認識部位を含む。α鎖可変(Vα)領域をコードする幾つかの遺伝子及びβ鎖可変(Vβ)領域をコードする幾つかの遺伝子が存在し、それら遺伝子は、フレームワーク配列、CDR1配列及びCDR2配列並びに部分的に規定されるCDR3配列により区別される。Vα及びVβ遺伝子は、IMGT命名法では、それぞれ接頭語TRAV及びTRBVを用いて称呼される(Folch及びLefranc(2000)、Exp Clin Immunogenet 17(1):42-54;Scaviner及びLefranc(2000)、Exp Clin Immunogenet 17(2):83-96;LeFranc及びLeFranc(2001)、「T cell Receptor Factsbook」、Academic Press)。同様に、α鎖及びβ鎖について、それぞれTRAJ又はTRBJと呼ばれる幾つかの連結又はJ遺伝子が存在し、β鎖についてはTRBDと呼ばれる多様性又はD遺伝子が存在する(Folch及びLefranc(2000)、Exp Clin Immunogenet 17(2):107-114;Scaviner及びLefranc(2000)、Exp
Clin Immunogenet 17(2):97-106;LeFranc及びLeFranc(2001)、「T cell Receptor Factsbook」、Academic Press)。T細胞受容体鎖の非常に大きな多様性は、種々のV、J及
びD遺伝子(対立遺伝子バリアントを含む)の間での再配置の組合せ、及び連結多様性に起因する(Arstilaら(1999)、Science 286(5441):958-961;Robinsら(2009)、Blood 114(19):4099-4107)。TCR α鎖及びβ鎖の定常又はC領域は、それぞれTRAC及びTRBCと呼ばれ
る(Lefranc(2001)、Curr Protoc Immunol Appendix 1:Appendix 10)。
【0009】
本出願の発明者らは、驚くべきことに、高い親和性及び高特異性でSLLQHLIGL-HLA-A*02複合体に結合することができる新規TCRを発見した。前記TCRは、多くの変異が導入される適切な足場(scaffold)配列から遺伝子操作される。本発明のTCRは、治療用途に特に適し
た特性を有する。一般に、このようなTCRの識別は簡単ではなく、通常損耗率が高い。
【0010】
第一の例では、当業者は適切な出発または足場配列を識別する必要がある。一般的に、そのような配列は、天然源、例えばドナーの血液から抽出された抗原応答性T細胞から得られる。天然レパートリーに含まれる癌特異的T細胞の希少性を考えると、応答するT細
胞を見つけるのに多くのドナー、例えば20人かそれ以上を選別する必要があることがよくある。選別プロセスには数週間または数ヶ月かかる場合があり、応答するT細胞が見つかった場合でも、免疫治療への使用には適さない場合がある。例えば、応答が弱すぎる可能性があり、及び/または標的抗原に特異的ではない可能性がある。あるいは、クローンT細胞集団を生成することも、特定のT細胞株を拡大または維持して、正しいTCR鎖配列を
識別するのに十分な物質を生産することもできない場合がある。出発配列または足場配列として適切なTCR配列は、次の特性の1つ又は2つ以上を有する必要がある:標的ペプチ
ド-HLA複合体に対する良好な親和性、例えば200μM以上;高レベルの標的特異性、例えば代替ペプチド-HLA複合体への結合が比較的弱い、または結合しない;ファージディスプレイなどのディスプレイライブラリーでの使用に適している;そして、リフォールディングし、高収率で精製することができる。TCRの認識における縮重の性質を考慮すれば、特定
の足場TCR配列が、治療用途の遺伝子操作に適格となる特異性プロファイルを有している
かどうかを判断することは、熟練した実務家でさえ非常に困難である(Wooldridgeら、J Biol Chem. 2012年1月6日;287(2):1168-77)。
【0011】
次の課題は、TCRを遺伝子操作して、特異性や収率などの望ましい特性を保持しながら
、標的抗原に対する親和性を高めることである。TCRは、天然に存在するままでは、抗体
と比較して標的抗原に関して弱い親和性を有し(数マイクロモル範囲)、癌抗原に対するTCRは通常、ウイルス特異的TCRよりも抗原認識が弱い(Aleksicら、Eur J Immunol. 2012 年12月;42(12):3174-9)。癌細胞のHLAダウンレギュレーションと相まって、この弱い親和性は、通常、癌免疫治療の治療用TCRには、標的抗原に対する親和性を高め、よってより
強力な応答を生成するための遺伝子操作が必要であることを意味する。このような親和性の増加は、可溶性TCR系試薬にとって不可欠である。そのような場合、数時間の結合半減
期を有するナノモル~ピコモル範囲の抗原結合親和性が望ましい。低エピトープ数での高親和性抗原認識によって生成される改善された効力は、Liddyらの
図1e及び1fに例示され
ている(Liddyら、Nat Med.2012年6月;18(6):980-7)。親和性の成熟過程では、通常、抗原認識の強度を高めるために、出発TCR配列に特定の変異及び/または変異、置換、挿入
、及び/または欠失などを含むがこれらに限定されない組合せを当業者が操作する必要がある。所与のTCRに対して、親和性を高める変異を操作する方法は、例えばディスプレイ
ライブラリーの使用など当技術分野で知られている。(Liら、Nat Biotechnol. 2005年3月;23(3):349-54;Hollerら、Proc Natl Acad Sci USA. 2000年5月9日; 97(10):5387-92)。しかしながら、所与の標的に対する所与のTCRの親和性の有意な増加をもたらすため
に、当業者は、可能な選択肢の大きなプールから変異の組合せを操作しなければならない場合がある。親和性の有意な増加をもたらす特定の変異及び/または変異の組合せは予測不可能であり、損耗率が高い。多くの場合、所与のTCR出発配列との親和性を大幅に向上
させることは可能ではない。
【0012】
親和性の成熟過程では、TCR抗原の特異性を維持する必要性も考慮する必要がある。TCRの標的抗原に対する親和性を高めると、TCR抗原認識に固有の縮重の結果として、他の意
図しない標的との交差反応性を現すリスクが大きくなる(Wooldridgeら、J Biol Chem. 2012年1月6日;287( 2):1168-77;Wilsonら、Mol Immunol. 2004年2月;40(14-15):1047-55;Zhaoら、J Immunol. 2007年11月1日;179(9):5845-54)。自然なレベルの親和性では、交差反応性抗原の認識が低すぎて応答を生成できない場合がある。交差反応性抗原が正常な健康な細胞に見られる場合、インビボでの標的外結合の可能性が高く、臨床毒性に現れる可能性がある。したがって、抗原結合強度の増加に加えて、当業者は、TCRが標的抗
原に対する高い特異性を保持し、前臨床試験で良好な安全性プロファイルを証明することができる変異及び/または変異の組合せも操作しなければならない。繰り返すが、適切な変異及び/または変異の組合せは予測できない。この段階での損耗率はさらに高く、多くの場合、所与のTCR出発配列からでは全く達成できない場合がある。
【0013】
上記の難しさにもかかわらず、本発明者らは、特に高い親和性(ピコモル範囲)及び高度の抗原特異性を有する変異TCRを同定した。前記TCRは、T細胞再志向部分に融合した可溶性試薬として調製された場合、PRAMEポジティブ癌細胞の強力な殺傷を証明する。
【発明の概要】
【0014】
第1の観点として、本発明は、HLA-A*02との複合体を形成するSLLQHLIGL(配列番号1)に対する結合性を有し、TCRα鎖可変ドメイン及び/又はTCRβ鎖可変ドメインを含んでなり、それぞれが、FRがフレームワーク領域であり、CDRが相補性決定領域であるFR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4を含み、
(a)α鎖CDRの配列は以下の通りであり
CDR1 - TISGTDY(配列番号39)
CDR2 - GLTSN(配列番号40)
CDR3 - CILILGHSGAGSYQLTF(配列番号41)
必要に応じて、その中に1又は2以上の変異を含み、
及び/又は
(b)β鎖CDRの配列は以下の通りであり
CDR1 - LNHDA (配列番号42)
CDR2 - SQIVNDF (配列番号43)
CDR3 - CASSPWTSGSREQYF (配列番号44)
必要に応じて、その中に1又は2以上の変異を含む
T細胞レセプター(TCR)を提供する。
【0015】
第1の観点のTCRにおいて、α鎖可変ドメインフレームワーク領域は、次のフレームワ
ーク配列:
FR1 - 配列番号2のアミノ酸1-25
FR2 - 配列番号2のアミノ酸33-49
FR3 - 配列番号2のアミノ酸55-87
FR4 - 配列番号2のアミノ酸105-114
を含んでもよく、又は、前記配列に対して少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98又は99%の同一性を有するそれぞれの配列、及び/又は
β鎖可変ドメインフレームワーク領域は、次の配列:
FR1 - 配列番号3のアミノ酸1-26
FR2 - 配列番号3のアミノ酸32-48
FR3 - 配列番号3のアミノ酸56-90
FR4 - 配列番号3のアミノ酸106-114
で構成されてもよく、又は、前記配列に対して少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98又は99%の同一性を有するそれぞれの配列を含んでもよい。
【0016】
「変異」という用語には、置換、挿入、削除が含まれる。親(又は野生型、もしくは足
場)TCRへの変異には、TCRのSLLQHLIGL-HLA-A*02複合体への結合親和性(kD及び/又は結合半減期)を増加させる変異が含まれる場合がある。
【0017】
従来、β鎖残基F55はフレームワーク領域3の一部と見なされる。しかし、本発明の目的のために、β鎖残基F55はCDR2の一部と見なされる。
【0018】
α鎖フレームワーク領域FR1、FR2、及びFR3は、TRAV 26-2鎖に対応するアミノ酸配列を含むことができ、及び/又はβ鎖フレームワーク領域FR1、FR2、及びFR3は、TRBV19鎖の
それらに対応するアミノ酸配列を含むことができる。
【0019】
FR4領域は、α及びβ可変鎖(それぞれTRAJ及びTRBJ)の結合領域を含んでもよい。
【0020】
TCRα鎖可変領域には、少なくとも1つの変異が存在してもよい。α鎖CDRには、1、2、3、4、5、又はそれ以上の変異が存在してもよい。α鎖CDR3には1、2、3、4又は5の変異が
存在してもよい。配列番号2の番号付けを参照して、前記変異の1つ又は2つ以上は次の
変異:
【表1】
から選択されてもよい。
よって、上記の表には、いずれかの又はすべての変異、任意に他の変異と組合せて存在してもよい。
【0021】
α鎖CDR3は、(配列番号2の番号付けを参照して)次の変異群:
【表2】
の1つを含んでもよい。
好ましい変異群は群1である。別の好ましい変異群は群2である。
【0022】
α鎖CDR3は、次:
【表3】
から選択される配列を有していてもよい。
好ましいα鎖CDR3はCILILGHSRAGNYIATF(配列番号45)である。好ましいα鎖CDR3はCILILGHSRLGNYIATF(配列番号46)である。
【0023】
TCRβ鎖可変領域では、少なくとも1つの変異がある。β鎖のCDRには、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上の変異が存在してもよい。β鎖CDR3には、1、2、3、4、5
、6、7、8、9、又は10の変異が存在してもよい。前記変異の1つ又は2つ以上は、配列番号3の番号付けを参照して次の変異:
【表4】
から選択されてもよい。
よって、上記の表には、いずれかの又はすべての変異、任意に他の変異と組合せて存在してもよい。
【0024】
β鎖CDR2及びCDR3は、(配列番号3の番号付けを参照して)次の変異群:
【表5】
の1つを含んでもよい。
好ましい変異群は群1である。好ましい変異群は群9である。
【0025】
β鎖CDR2は、次:
【表6】
から選択される配列を有していてもよい。
好ましいβ鎖CDR2はSQIMGDE(配列番号48)である。
【0026】
β鎖のCDR3は、次:
【表7】
から選択される配列を有していてもよい。
好ましいβ鎖CDR3はCASSWWTGGASPISF(配列番号51)である。好ましいβ鎖CDR3はCASSWWTGGASPIRF(配列番号58)である。
【0027】
β鎖CDR2とCDR3の好ましい組合せは下記表の通りである。
【表8】
好ましい組合せは組合せ1である。別の好ましい組合せは組合せ9である。
【0028】
好ましい実施形態では、TCRα鎖及びβ鎖CDR配列は次:
【表9】
から選択される。
好ましい組合せは組合せ1である。好ましい組合せは組合せ17である。
【0029】
CDR内の変異は、好ましくは、TCRのSLLQHLIGL-HLA-A*02複合体への結合親和性を改善するが、追加的に又は代替的に、改善された単離形態の安定性及び改善された特異性などの他の利点を付与し得る。1又は2以上の位置での変異は、例えば、相互作用のためのより好ましい角度を提供することにより、同種のpMHC複合体との隣接する位置の相互作用に、追加的に又は代替的に影響を及ぼし得る。変異は、非特異的結合の量を低減させることが
できるもの、すなわち、SLLQHLIGL-HLA-A*02と比較して代替抗原に対する結合を低減させることができるものを含んでいてもよい。変異は、フォールディング及び/又は製造の効率を増大させるものを含んでいてもよい。これら特性の各々に寄与する変異もあれば、例えば、親和性に寄与するが特異性には寄与しない変異、又は特異性に寄与するが親和性には寄与しない変異などもあってよい。
【0030】
一般的には、標的抗原に対するpM親和性を有するTCRを得るために、合計で少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、又はそれ以上のCDR変異が必要である。標的抗原に対す
るpM親和性を有するTCRを得るためには、合計で少なくとも5、少なくとも10又は少なくとも15のCDR変異が必要になる場合がある。標的抗原に対するpM親和性を持つTCRは、特に可溶性治療薬として適している。養子療法適用での使用のためのTCRは、標的抗原に対する
親和性が低くてもよく、すなわちより少ないCDR変異、例えば、合計で1まで、2まで、5まで、又はそれ以上のCDR変異があり得る。養子療法適用での使用のためのTCRは、標的抗原に対する親和性が低くてもよく、すなわちより少ないCDR変異、例えば、合計で1まで、2
まで、又は5までのCDR変異があり得る。
【0031】
変異は、追加的に又は代替的に、CDRの外側、フレームワーク領域内で起き、そのよう
な変異は、結合、及び/又は特異性、及び/又は安定性、及び/又はTCRの精製された可
溶性形態の収率を改善する可能性がある。例えば、本発明のTCRは、追加的に又は代替的
に、α鎖可変ドメインを含むことができ、α鎖可変領域FR1は、配列番号2の番号付けを使用して-1位にG残基を有し、すなわち-1位の前に挿入される。-1位のGは、大腸菌での生産中にN末端メチオニンの切断効率を改善することがわかった。非効率的な切断は、不均一なタンパク質産物をもたらす可能性があるため、及び/又は開始メチオニンの存在がヒトにおいて免疫原性である可能性があるため、治療にとって有害であり得る。
【0032】
好ましくは、本発明のTCRのα鎖可変ドメインは、配列番号2のフレームワークアミノ酸残基1~25、33~49、55~87、105~114に対して少なくとも90%、少なくとも91%、少な
くとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の同一性を有するそれぞれのフレームワークアミノ酸配列を含み得る。本発明のTCRのβ鎖可変ドメインは、配列番号3のフレームワークアミノ酸残基1~26、32~48、56~90、106~114に対して少なくとも90%、少な
くとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の同一性を有するそれぞれのフレームワークアミノ酸配列を含み得る。あるいは、示されたパーセンテージの同一性は、全体として考えた場合、フレームワーク配列を超えてもよい。
【0033】
α鎖可変ドメインは、配列番号6~8のアミノ酸配列のいずれか1つを含んでもよく、β鎖可変ドメインは、配列番号9~24のアミノ酸配列のいずれか1つを含んでもよい。
【0034】
例えば、TCRは次のα鎖とβ鎖との対:
【表10】
を含んでもよい。
好ましいTCR鎖の対は、配列番号6及び配列番号9である。好ましいTCR鎖の対は、配列番号7及び配列番号17である。
【0035】
本明細書に開示するいずれの本発明のTCRの表現型上サイレントなバリアントも、本発
明の範囲内である。本明細書で用いる場合、用語「表現型上サイレントなバリアント」は、上記の変異に加えて、置換、挿入及び欠失を含む1又は2以上のさらなるアミノ酸変化が組み込まれたTCR可変ドメイン(前記変化のない対応するTCRに類似する表現型を有する
もの)をいうと理解される。本願の目的のためには、TCR表現型は、結合親和性(KD及び/
又は結合半減期)及び特異性を含む。好ましくは、免疫エフェクターに関連する可溶性TCRの表現型には、結合親和性及び特異性に加えて、免疫活性化の効力及び精製収率が含まれる。表現型上サイレントなバリアントは、同一条件下(例えば25℃にて及び/又は同じSPRチップ上)で測定したとき、SLLQHLIGL-HLA-A*02複合体に関して、前記変化を有しない対
応するTCRの測定されたKD及び/又は結合半減期の50%以内、より好ましくは30%以内、25%以内、又は20%以内のKD及び/又は結合半減期を有していてもよい。適切な条件は実
施例3でさらに提供される。当業者に公知であるように、SLLQHLIGL-HLA-A*02複合体との相互作用の親和性、及び/又はその他の機能特性を変更することなく、上記で詳述したものと比較して、可変ドメインの変化を組込むTCRを作製することは可能であり得る。具体
的には、このようなサイレント変異は、抗原結合に直接関与しないことが知られている配列の部分(例えば、フレームワーク領域及び/又はCDRの抗原と接触しない部分)に組み込
まれてもよい。このようなバリアントも本発明の範囲に含まれる。
【0036】
表現型がサイレントなバリアントには、1又は2以上の保存的置換及び/又は1又は2以上の寛容される置換を含有されてもよい。寛容される置換とは、以下に示すような保守的な定義に該当しないが、それでも表現型がサイレントである置換を意味する。当業者は
、様々なアミノ酸が同様の特性を有し、したがって「保存的」であることを認識している。タンパク質、ポリペプチド又はペプチドの1又は2以上のそのようなアミノ酸は、そのタンパク質、ポリペプチド又はペプチドの所望の活性を排除することなく、1又は2以上の他のそのようなアミノ酸によってしばしば置換され得る。
【0037】
よって、アミノ酸グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン(脂肪族側
鎖を有するアミノ酸)は、互いに置換し得る場合が多い。これら可能な置換のうち、(相対的に短い側鎖を有するので)グリシン及びアラニンを互いの置換に用い、(疎水性である、より長い脂肪族側鎖を有するので)バリン、ロイシン及びイソロイシンを互いの置換に用
いることが好ましい。互いに置換し得る場合が多い他のアミノ酸として:フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファン(芳香族側鎖を有するアミノ酸);リジン、アルギニン及びヒスチジン(塩基性側鎖を有するアミノ酸);アスパラギン酸及びグルタミン酸(酸性側
鎖を有するアミノ酸);アスパラギン及びグルタミン(アミド側鎖を有するアミノ酸);並
びにシステイン及びメチオニン(イオウ含有側鎖を有するアミノ酸)が挙げられる。本発明の範囲内のアミノ酸置換は、天然に存在するアミノ酸又は天然に存在しないアミノ酸を用いて行い得ることを理解すべきである。例えば、本明細書では、アラニンのメチル基はエチル基で置換されてもよく及び/又は軽微な変化がペプチド骨格になされてもよい。天然
又は合成のアミノ酸が用いられているか否かにかかわらず、L-アミノ酸のみが存在することが好ましい。
【0038】
この性質の置換は、「保存的」又は「半保存的」アミノ酸置換と呼ばれる場合が多い。したがって、本発明は、その配列に1又は2以上の保存的置換及び/又は1又は2以上の寛容される置換を有するいずれかのアミノ酸配列を含んでなり、その結果、TCRのアミノ
酸配列が、配列番号2、6~8のアミノ酸1~114、及び/又は配列番号3、9~24のアミノ酸1~114を含んでなるTCRと少なくとも90%の同一性、例えば90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するTCRの使用にまで拡張される。
【0039】
「同一性」は、当該分野において公知のように、2若しくは3以上のポリペプチド配列
間又は2若しくは3以上のポリヌクレオチド配列間での配列比較により決定される両配
列 間の関係である。当該分野において、同一性はまた、妥当な場合、ポリペプチド配列
間又 はポリヌクレオチド配列間の、配列の並びの一致性によって決定される配列関連性
の程度を意味する。2つのポリペプチド配列間又は2つのポリヌクレオチド配列間の同一性を測定する方法は幾つか存在するが、同一性の決定に一般に用いられる方法は、コンピュータプログラム化されている。2つの配列間の同一性を決定する好ましいコンピュータプログラムとしては、GCGプログラムパッケージ(Devereuxら,Nucleic Acids Research, 12, 38 7 (1984)、BLASTP、BLASTN及びFASTA (Atschulら,J. Molec. Biol. 215, 403 (1990))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
CLUSTALプログラムのようなプログラムを用いてアミノ酸配列を比較することができる
。このプログラムはアミノ酸配列を比較し、必要な場合にはいずれかの配列にスペースを挿入して適な整列を見出す。適な整列についてアミノ酸の同一性又は類似性(同一性+ア
ミノ酸タイプの保存)を算出することができる。BLASTxのようなプログラムは、類似 する配列をも長く整列させ、そのフィッティングに対して値を割り当てる。よって、各々が異なるスコアを有する幾つかの類似領域が見出される比較を行うことができる。いずれのタイプの同一性分析も本発明において企図されている。
【0041】
2つのアミノ酸配列又は2つの核酸配列のパーセント同一性は、適な比較目的のため
に配列を整列させ(例えば、良整列のために第1の配列にギャップを導入することができ
る)、対応する位置でアミノ酸残基又はヌクレオチドを比較することにより決定する。「
良整列」は、も高いパーセント同一性をもたらす2つの配列の整列である。パーセ ント
同一性は、比較する配列中の同一アミノ酸残基又はヌクレオチドの数により決定する(す
なわち、%同一性 = 同一位置の数/位置の総数×100)。
【0042】
2つの配列間のパーセント同一性の決定は、当業者に公知の数学的アルゴリズムを用いて達成することができる。2つの配列を比較する数学的アルゴリズムの例は、Karlin及び15 Altschul(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877に記載されるように、改変されたKarlin及びAltschul(1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268のアル
ゴリ ズムである。Altschulら(1990) J. Mol. Biol. 215:403-410のBLASTn及びBLASTpプログラムには、そのようなアルゴリズムが組み込まれている。2つのヌクレオチド配列間の同一性パーセントの決定は、BLASTnプログラムを用いて行うことができる。2つのタンパク質配列間のパーセント同一性の決定は、BLASTpプログラムを用いて行うことができる。比較目的でギャップを有する整列を得るためには、Altschulら(1997) Nucleic Acids Res. 25:3389-3402に記載されるようにGapped BLASTを利用することができる。或いは、PSI-Blastを用いて、分子間の遠い関連性を検出する累次サーチを行うことができる(前出)。BLAST、Gapped BLAST及びPSI-Blastプログラムを用いる場合、それぞれのプログラムのデフォルトパラメータを用いることができる(例えば、BLASTp及びBLASTp)。http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照。一般的なデフォルトパラメータには、例えば、ワードサイズ(Word Size) = 3、期待値(Expect Threshold) = 10などがある。短い入力配列を自動的に調整するために、パラメータを選択できる。配列比較に利用される数学的アルゴリズム別の例は、Myers及びMiller, CABIOS (1989)のアルゴリズムである。CGC配列整列ソフトウェ
アパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0) には、そのようなアルゴリ
ズムが組み込まれている。
【0043】
当該分野において公知の他の配列分析アルゴリズムとしては、Torellis及びRobotti (1994) Comput. Appl. Biosci., 10:3 -5に記載されるADVANCE及びADAM;並びにPearson及びLipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. 85:2444-8に記載されるFASTAが挙げられる。FASTAにおいて、ktupは、サーチの感度及び速度を設定するコントロールオプションであ
る。
本開示において、パーセント同一性を評価する目的のために、デフォルトパラメータを有するBLASTpが比較方法論として使用される。さらに、記載されたパーセント同一性がアミノ酸について非整数値を提供する場合(つまり、90%の配列同一性を持つ25のアミノ酸
の配列が「22.5」の値を提供する場合)、得られた値は次の整数に切り捨てられ、すなわ
ち「22」となる。したがって、提供される例では、25のアミノ酸のうち22の一致を有する配列は、90%の配列同一性内にある。
【0044】
当業者に自明なように、提供される配列は、TCRの機能特性に実質的に影響を及ぼすこ
となく、そのC末端及び/又はN末端で1、2、3、4、5又は6以上の残基を切り取ることも可能であり得る。そのC末端及び/又はN末端に提供される配列は、1、2、3、4又は5残基分短縮又は延長されていてもよい。このようなバリアントも全て本発明に包含される。
【0045】
保存的及び寛容される置換、挿入及び欠失を含む変異は、任意の適切な方法を用いて提供される配列に導入され得る。このような方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を
ベースにする方法、制限酵素ベースのクローニング又はライゲ ーション非依存性クロー
ニング(LIC)手順が挙げられるが、これらに限定されない。これら方法は、多くの標準的
な分子生物学の教科書に詳述されている。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及び制限酵素ベー
スのクローニングに関する更なる詳細については、Sambrook及びRussell(2001) Molecular Cloning - A Laboratory Manual (3rd Ed.) CSHL Pressを参照。ライゲーション非依存性クローニング(LIC)手順についての更なる情報は、Rashtchian(1995) Curr Opin Biotec
hnol 6(1):30-6に見出すことができる。本発明により提供されるTCR配列は、固相合成により作製することができる、又は、当該分野において公知の他の適切な方法から得ることができる。
【0046】
本発明のTCRは、SLLQHLIGL-HLA-A*02複合体に対する結合性を有する。本発明のTCRは、SLLQHLIGL-HLA-A*02複合体に対する高度の特異性を示し、したがって治療用途に特に適切である。特異性は、本発明のTCRに関して、抗原ポジティブなHLA-A*02標的細胞を認識で
きる一方で、抗原ネガティブなHLA-A*02標的細胞を認識する能力が極めて小さいことに関する。
【0047】
特異性は、例えば実施例6、7及び8に記載される細胞アッセイにおいて、インビトロで測定することができる。特異性を試験するため、TCRは可溶形態であってもよく及び免
疫エフェクターと結合していてもよく、及び/又はT細胞などの細胞表面に発現されていてもよい。認識は、抗体ポジティブ及び抗体ネガティブ標的細胞の存在下でのT細胞活性化レベルを測定することによって決定してもよい。抗原ネガティブ標的細胞の極めて小さい認識は、同一条件下で及び治療上妥当なTCR濃度で測定したとき、抗原ポジティブ標的
細胞の存在下で生じるT細胞活性化レベルの20%未満、好ましくは10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは1%未満のレベルとして規定される。免疫エフェクターと結合している可溶性TCRについて、治療上妥当な濃度は、10-9M以下のTCR濃度及び/又は対応するEC50値より100倍まで、又は好ましくは1000倍まで大きい濃度と規定されてもよい。好
ましくは、免疫エフェクターと結合している可溶性TCRについて、抗原ネガティブ細胞と
比較して抗原ポジティブ細胞に対するT細胞活性化に必要な濃度に少なくとも100倍の差
がある。抗原ポジティブ細胞は、適切なペプチド濃度を使用したペプチド-パルスにより
得られてもよく、癌細胞に匹敵するレベルの抗原の提示を得ることができるか(例えば、Bossiら、(2013)Oncoimmunol. 1 ; 2(11):e26840に記載されているような10-9Mのペプチド)又は、当該ペプチドを天然に提示してもよい。好ましくは、抗原ポジティブ細胞及び
抗原ネガティブ細胞は共にヒト細胞である。より好ましくは、抗原ポジティブ細胞はヒト癌細胞である。抗原ネガティブ細胞には、健康なヒト組織に由来するものが含まれることが好ましい。
【0048】
特異性は、追加的に又は代替的に、代替のペプチド-HLA複合体のパネルではなく、SLLQHLIGL(配列番号1)HLA-A*02複合体に結合するTCRの能力に関してもよい。これは、例えば
、実施例3のBiacore法により決定され得る。前記パネルは、少なくとも5、好ましくは少
なくとも10の代替のペプチド-HLA-A*02複合体を含み得る。代替のペプチドは、低レベル
の配列同一性を配列番号1と共有する場合があり、天然に提示される場合がある。代替の
ペプチドは、健康なヒト組織で発現されるタンパク質に由来することが好ましい。TCRのSLLQHLIGL-HLA-A*02複合体に対する結合は、他の天然に提示されるペプチドHLA複合体よりも少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも10倍、又は少なくとも50倍又は少なくとも100倍大きく、さらにより好ましくは少なくとも400倍大きくてもよい。
【0049】
TCRの特異性を決定するための代替又は追加のアプローチは、たとえばアラニンスキャ
ニングなどの逐次の変異誘発を用いて、TCRのペプチド認識モチーフを識別することであ
り得る。結合モチーフの一部を形成する残基は、置換が許容されていない残基である。非許容置換は、TCRの結合親和性が非変異ペプチドの結合親和性に対して少なくとも50%、
又は好ましくは少なくとも80%減少するペプチド位置として規定できる。更なるそのようなアプローチは、Cameronら、(2013)、Sci Transl Med. 2013年8月7日; 5(197):197ra103及びWO2014096803に記載されている。この場合のTCR特異性は、ペプチドを含む代替のモチーフ、特にヒトプロテオームのペプチドを含む代替のモチーフを特定し、TCRに対する
結合についてこれらのペプチドを試験することにより決定され得る。TCRの1又は2以上
の代替のペプチドに対する結合は、特異性の欠如を示している可能性がある。この場合、
細胞アッセイによるTCR特異性のさらなる試験が必要になる場合がある。
【0050】
本発明のTCRは、治療薬として使用するための理想的な安全性プロファイルを有し得る
。この場合、TCRは可溶形態であってもよく、好ましくは免疫エフェクターに融合されて
もよい。適切な免疫エフェクターには、IL-2やIFN-γなどのサイトカイン;スーパー抗原及びその変異体;ケモカイン、例えばIL-8、血小板第4因子、メラノーマ増殖刺激タンパク質;T細胞又はNK細胞などの免疫細胞上の抗原(例えば、抗CD3、抗CD28又は抗CD16)に
結合する、そのフラグメント、誘導体及びバリアントを含む抗体;補体活性剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
理想的な安全性プロファイルとは、良好な特異性を示すことに加えて、本発明のTCRが
さらに前臨床安全性試験に合格した可能性があることを意味する。そのような試験の例には、全血の存在下で最小のサイトカイン放出を確認し、したがってインビトロで潜在的なサイトカイン放出症候群を引き起こすリスクが低いことを確認する全血アッセイ、及び代替のHLAタイプの認識の低い可能性を確認するアロ反応性試験が含まれる。
【0052】
本発明のTCR、特に可溶形態のTCRは、高収率精製に適している可能性がある。収率は、精製プロセス中に保持される材料の量に基づいて (すなわち、リフォールディング前に得られた可溶化材料の量に対する精製プロセスの最後に得られる正しくフォールディングされた材料の量)、及び/又は収率は、元の培養量に対する精製プロセスの最後に得られる
正しくフォールディングされた材料の量に基づいて規定することができる。高収率とは、1%以上、又はより好ましくは5%以上、又はより高い収率を意味する。高収率とは、1 mg
/ mlを超える、又はより好ましくは3 mg / mlを超える、又は5 mg / mlを超える、又は
より高い収率を意味する。
【0053】
本発明のTCRは、好ましくは、SLLQHLIGL -HLA-A*02複合体に関して、非変異又は足場TCRよりも大きい(すなわち、より強力な)、例えば1 pM~100μMの範囲のKDを有する。一つ
の観点では、本発明のTCRは、複合体に関して約(すなわち+/-10%)1pM~約400nM、約1pM~約1000pM、約1pM~約500pMのKDを有する。前記TCRは、追加的に又は代替的に、複合
体に関して約1分~約60時間、約20分~約50時間、もしくは約2時間~約35時間の範囲の結合半減期(T1/2)を有していてもよい。特に好ましい実施形態では、本発明のTCRは、SLLQHLIGL -HLA-A*02複合体に関して、約1pM~約500pMのKD及び/又は約2時間~約35時間の結
合半減期を有する。そのような高親和性は、治療薬及び/又は検出可能な標識と結合する場合、可溶形態のTCRにとって好ましい。
【0054】
別の観点では、本発明のTCRは、複合体に関して、約50nM~約200μM、又は約100nM~約1μMのKD及び/又は約3秒~約12分の結合半減期を有し得る。そのようなTCRは養子療法適用に好ましいかもしれない。
【0055】
結合親和性(平衡定数KDに反比例する)及び結合半減期(T1/2と表す)を決定する方法は、当業者に公知である。好ましい実施形態において、結合親和性及び結合半減期は、表面プラズモン共鳴(SPR)又はバイオレイヤー干渉法(BLI)を用いて、例えばそれぞれBIAcore機
器又はOctet機器を用いて決定することができる。好ましい方法を実施例3に示す。TCRの
親和性が二倍になればKDは1/2になると理解される。T1/2はln2/解離速度(koff)として算
出される。したがって、T1/2が二倍になればkoffは1/2になる。TCRのKD値及びkoff値は、通常、可溶形態のTCR(すなわち、細胞質ドメイン及び膜貫通ドメインの残基を除去するように短縮された形態のもの)について測定する。独立した測定間の変動、特に20時間を超
える解離時間との相互作用を考慮するために、所与のTCRの結合親和性及び/又は結合半
減期は、同じアッセイプロトコルを用いて数回、例えば3回又は4回以上測定し、その結果の平均をとる。2つのサンプル(つまり、2つの異なるTCR及び/又は同じTCRの2つの
調製物)の結合データを比較するには、実施例3に記載されているように同じアッセイ条
件(温度など)を用いて測定を行うことが好ましい。
【0056】
本発明の特定の好ましいTCRは、SLLQHLIGL-HLA-A*02複合体に関して、天然型TCRのものより実質的に高い結合親和性及び/又は結合半減期を有する。天然型TCRの結合親和性を
増大させると、そのペプチド-MHCリガンドに関するTCRの特異性は低減することが多く、
このことは、Zhao Yangbingら, J. Immunol、179:9、5845-5854において証明されている。しかし、本発明のそのようなTCRは、天然型TCRより実質的に高い結合親和性を有するにもかかわらず、SLLQHLIGL-HLA-A*02複合体について特異的なままである。
【0057】
特定の好ましいTCRは、抗原ポジティブ細胞、特に癌細胞に典型的な低レベルの抗原を
提示する細胞(すなわち、細胞あたり5~100の順に、例えば50の抗原(Bossiら、(2013) Oncoimmunol.1; 2(11):e26840; Purbhooら、(2006)、J Immunol 176(12):7308-7316))に
対して、インビトロで非常に強力なT細胞応答を生成することができる。そのようなTCR
は、可溶形態であり得、抗CD3抗体などの免疫エフェクターに連結され得る。測定される
T細胞応答は、インターフェロンγ又はグランザイムBなどのT細胞活性化マーカーの放
出、又は標的細胞殺傷、又はT細胞増殖などのT細胞活性化の他の尺度(measure)であ
り得る。好ましくは、非常に強力な応答は、pM範囲のEC50値、最も好ましくは100pM又は
それ以下の応答である。
【0058】
本発明のTCRは、αβヘテロダイマーであってもよい。本発明のαβヘテロダイマーTCRは、通常、α鎖TRAC定常ドメイン配列及び/又はβ鎖TRBC1又はTRBC2定常ドメイン配列を含む。定常ドメインは、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞質ドメインが存在することを意味する完全長であってもよく、又は可溶形態であってもよい(すなわち、膜貫
通ドメイン又は細胞質ドメインを有さない)。定常ドメインの一方又は両方は、天然型TRAC及び/又はTRBC1 / 2配列に関連した変異、置換又は欠失を含んでもよい。用語TRAC及びTRBC1 / 2はまた、天然の多型変異体、例えばTRACの4位のNからKを包含する(BragadoらInternational immunology、1994年2月; 6(2):223-30)。
【0059】
本発明の可溶性TCRの場合、α及びβ鎖の定常ドメイン配列は、T RACのエキソン2のCys4とTRBC1又はTRBC2のエキソン2のCys2との間の天然型ジスルフィド結合が欠失するように短縮化又は置換により改変されていてもよい。α及び/又はβ鎖の定常ドメイン配列は、例えばWO 03/020763に記載されるように、それぞれの定常ドメインの残基間に導入されたジスルフィド結合を有してもよい。好ましい実施形態では、α及びβの定常ドメイン配列は、TRACのThr 48位及びTRBC1又はTRBC2のSer 57位のシステイン残基の置換により改変され得、該システインがTCRのα定常ドメインとβ定常ドメインと間のジスルフィド結合
を形成していてもよい。TRBC1又はTRBC2は、さらに定常領域の75位でのシステインのアラニン変異及び定常領域の89位でのアスパラギンのアスパラギン酸変異を含んでもよい。本発明のαβヘテロダイマーに存在する細胞外定常ドメインの一方又は両方は、一方又は両方のC末端で、例えば15まで又は10まで又は8まで又は7以下のアミノ酸が欠失されていてもよい。本発明のαβヘテロダイマーに存在する細胞外定常ドメインの一方又は両方は、一方又は両方のC末端で、例えば15まで又は10まで又は8までのアミノ酸が欠失されていてもよい。α鎖細胞外定常領域のC末端は、8アミノ酸が欠失されていてもよい。水溶性TCRは治療剤及び/又は検出可能な標識と結合されているのが好ましい。
【0060】
αβヘテロ二量体TCRの定常ドメインは、膜貫通ドメインと細胞質ドメインの両方を持
つ完全長であってもよい。そのようなTCRは、それぞれのα及びβ定常ドメイン間で自然
界に見られるものに対応するジスルフィド結合を含んでもよい。追加的に又は代替的に、細胞外定常ドメイン間に非天然型ジスルフィド結合が存在する場合がある。前記非天然型ジスルフィド結合はさらに、WO03020763及びWO06000830に記載されている。非天然型ジス
ルフィド結合は、TRACのThr 48位とTRBC1又はTRBC2のSer 57位の間にあってもよい。定常ドメインの一方又は両方は、天然型TRAC及び/又はTRBC1 / 2配列に関連した1又は2以
上の変異、置換又は欠失を含んでもよい。完全長の定常ドメインを持つTCRは、養子療法
での使用に適している。
【0061】
本発明のTCRは、単鎖形式であってもよい。単鎖形式としては、Vα-L-Vβ、Vβ-L-Vα
、Vα-Cα-L-Vβ、Vα-L-Vβ-Cβ、又はVα-Cα-L - Vβ-Cβタイプ(ここで、Vα及びVβはそれぞれTCRα及びβ可変領域であり、Cα及びCβはそれぞれTCRα及びβ定常領域であり、Lはリンカー配列である)のαβTCRポリペプチドが挙げられるが、これらに限定され
ない(Weidanzら、(1998)J Immunol Methods. 12月1日; 221(1-2):59-76; Epelら、(2002)、Cancer Immunol Immunother. 11月; 51(10):565-73; WO 2004/033685; WO9918129)。存在する場合、定常ドメインの一方又は両方は完全長であってもよく、又はそれらは上記のように短縮されてもよい及び/又は変異を含んでもよい。好ましくは、単鎖TCRは可溶
性である。特定の実施形態において、本発明の単鎖TCRは、WO 2004/033685に記載される
ように、それぞれの定常ドメインの残基間に導入されたジスルフィド結合を有してもよい。単鎖TCRは、WO2004/033685;WO98/39482;WO01/62908;Weidanzら(1998) J Immunol Methods 221 (1-2):59-76;Hooら(1992) Proc Natl Acad Sci U S A 89(10):4759-4763;Schodin(1996) Mol Immunol 33(9):819-829)に更に記載されている。
【0062】
本発明はまた、本発明のTCRを表示する粒子、及び粒子のライブラリー内の前記粒子の
包含を含む。そのような粒子には、ファージ、酵母細胞、リボソーム、又は哺乳動物細胞が含まれるが、これらに限定されない。そのような粒子及びライブラリーを作製する方法は、当該分野において公知である(例えば、WO2004/ 044004; WO01/48145、Chervinら、(2008)J. Immuno. Methods 339.2:175-184を参照)。
【0063】
本発明の可溶性TCRは、抗原提示細胞及び抗原提示細胞を含む組織に検出可能な標識又
は治療剤を送達するのに有用である。したがって、それらは(TCRが同種の抗原を提示する細胞の存在を検出するために使用される診断目的で)検出可能な標識及び/又は治療剤及
び/又はPK調整成分と(共有結合又は別の方法で)結合していてもよい。
【0064】
PK調整成分の例には、PEG(Dozierら、(2015)Int J Mol Sci、10月28日;16(10):25831-64及びJevsevarら、(2010)Biotechnol J.1月;5(1):113-28)、PAS化(PASylation)(Schlapschyら、(2013)Protein Eng Des Sel.8月; 26(8):489-501)、アルブミン、及びアルブミン結合ドメイン、(Dennisら、(2002)J Biol Chem.9月20日; 277(38):35035-43)、及び/又は非構造化ポリペプチド(Schellenbergerら、(2009)Nat Biotechnol.12月; 27(12):1186-90)が含まれるが、これらに限定されない。さらなるPK調整成分には、抗体Fcフラグメントが含まれる。
【0065】
診断目的のための検出可能な標識には、例えば、蛍光標識、放射性標識、酵素、核酸プローブ及び造影剤が含まれる。
【0066】
幾つかの目的のために、本発明のTCRは、幾つかのTCRを含んでなる複合体に凝集して、多価TCR複合体を形成していてもよい。多価TCR複合体の製造に使用し得る多量体化ドメインを含むヒトタンパク質が存在する。例えば、p53の四量体化ドメインは、単量体scFvフ
ラグメントと比較して増大した血清残留性及び顕著に低減した解離速度を示す四量体のscFv抗体フラグメントを作製するために利用されている(Willudaら(2001) J. Biol. Chem. 276 (17) 14385-14392)。ヘモグロビンもまた、この種の適用に使用することができる四
量体化ドメインを有する。本発明の多価TCR複合体は、非多量体野生型又は本発明のT細
胞レセプターヘテロダイマーと比較して、複合体に関する結合能力が増強されていてもよい。よって、本発明のTCRの多価複合体もまた本発明に含まれる。本発明に従うこのよう
な多価TCR複合体は、インビトロ又はインビボにおける、特定の抗原を提示する細胞の追
跡又は標的化に特に有用であり、また、そのような用途を有する更なる多価TCR複合体の
製造用の中間体としても有用である。
【0067】
本発明のTCRと結合され得る治療剤としては、免疫調整剤及びエフェクター、放射性化
合物、酵素(例えば、パーフォリン)又は化学療法剤(例えば、シスプラチン)が挙げられる。毒性効果が確実に所望の位置で発揮されるために、毒物は、緩徐に放出されるようにTCRに連結されたリポソームの内部に存在し得る。このことにより、人体における輸送の間
の損傷効果が防止され、該当する抗原提示細胞へのTCRの結合後に、毒物が最大の効果を
有することが保証される。
【0068】
適切な治療剤の例として、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:
・小分子細胞傷害性物質、すなわち、哺乳動物細胞を殺傷する能力を有する分子量700
ダルトン未満の化合物。このような化合物はまた、細胞傷害性効果を有することができる毒性金属を含有し得る。更に、これら小分子細胞傷害性物質にはまた、プロドラッグ、すなわち、生理学的条件下で崩壊又は変換して細胞傷害性物質を放出する化合物が含まれると理解される。このような物質の例として、シスプラチン、メイタンシン(maytansine)誘導体、ラケルマイシン(rachelmycin)、カリケアマイシン(calicheamicin)、ドセタキセル、エトポシド、ゲムシタビン、イホスファミド、イリノテカン、メルファラン、ミトキサ
ントロン、ソルフィマーソディウムホトフィリンII(sorfimer sodiumphotofrin II)、テモゾロマイド(temozolmide)、トポテカン、トリメトレキサート21アーバ21エート(trimetreate 21arbour21ate)、グルクロナート、オーリスタチンE(auristatin E)、ビンクリスチン及びドキソルビシンが挙げられる;
・ペプチド細胞毒素、すなわち、哺乳動物細胞を殺傷する能力を有するタンパク質又は
そのフラグメント。例えば、リシン、ジフテリア毒素、シュードモナス細菌外毒素A、DNAアーゼ及びRNAアーゼ;
・放射性核種、すなわち、1以上のα粒子若しくはβ粒子又はγ線の同時放射を伴って崩壊する元素の不安定同位体。例えば、ヨウ素131、レニウム186、インジウム111、イッ
トリウム90、ビスマス210及び213、アクチニウム225及びアスタチン213;高親和性TCR又
はその多量体へのこれら放射性核種の結合を容易にするために、キレート化剤が使用されてもよい;
・免疫刺激物質、すなわち、免疫応答を刺激する免疫エフェクター分子。例えば、サイトカイン(例えばIL-2及びIFN-γ)、
・スーパー抗原及びその変異体;
・TCR-HLA融合体、例えば、ペプチドが一般的なヒト病原体、例えばエプスタインバー
ウイルス(EBV)に由来するペプチド-HLA複合体への融合体;
・ケモカイン、例えばIL-8、血小板第4因子、メラノーマ増殖刺激タンパク質など;
・抗体又はそのフラグメント。抗T細胞又はNK細胞決定基抗体(例えば、抗CD3、抗CD28又は抗CD16)が挙げられる;
・抗体様結合特性を有する代替のタンパク質足場
・補体活性化物質;
・異種タンパク質ドメイン、同種タンパク質ドメイン、ウイルス性/細菌性タンパク質ドメイン、ウイルス性/細菌性ペプチド。
【0069】
1つの好適な実施形態は、免疫エフェクターと(通常、α鎖又はβ鎖のN末端又はC末
端への融合により)結合した本発明の可溶性TCRにより提供される。特に好適な免疫エフェクターは、抗CD3抗体、又は該抗CD3抗体の機能的フラグメントもしくはバリアントである(このTCR-抗CD3融合体はImmTAC(登録商標)分子とも呼ぶ)。本明細書で用いる場合、用語
「抗体」は前記のようなフラグメント及びバリアントを包含する。抗CD3抗体の例として
は、OKT3、UCHT-1、BMA-031及び12F6が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書
に記載の組成物及び方法における使用に適切な抗体フラグメント及びバリアント/アナログとしては、数例挙げるとすれば、ミニボディ、Fabフラグメント、F(ab')2フラグメント、dsFv及びscFvフラグメント、ナノボディ(登録商標)(Ablynx(Belgium)から市販されており、これら構築物はラクダ科動物(例えば、ラクダ又はラマ)抗体に由来する合成の単鎖免疫グロブリン可変重鎖ドメインを含んでなる)及びドメイン抗体(Domantis (Belgium);これは、親和性成熟単鎖免疫グロブリン可変重鎖ドメイン又は免疫グロブリン可変軽鎖ドメインを含んでなる)又は抗体様結合特性を示す代替のタンパク質足場、例えばアフィボデ
ィ(Affibody (Sweden)、これは工学的に操作されたプロテインA足場を含んでなる)もしくはアンチカリン(Anticalins)(Pieris (Germany))、これは工学的に操作されたアンチカリンを含んでなる)が挙げられる。
【0070】
TCRと抗CD3抗体との連結は、共有結合又は非共有結合付加を介して行われる。共有結合は直接であっても、リンカー配列を介して間接的であってもよい。リンカー配列は、通常、可撓性を制限する蓋然性が大きい嵩高い側鎖を有しないグリシン、アラニン、及びセリンなどのアミノ酸から主に作製されるという点で可撓性である。あるいは、より剛性の高いリンカーが望ましい場合がある。使用に適した又は最適なリンカー配列の長さは容易に決定される。リンカー配列は、約12アミノ酸長未満、例えば10アミノ酸長未満、又は2~10アミノ酸長であることが多い。本発明のTCRに使用し得る適切なリンカーの例としては
、(WO2010/133828に記載されるような)GGGGS(配列番号31)、GGGSG(配列番号32)、GGSGG(
配列番号33)、GSGGG(配列番号34)、GSGGGP(配列番号35)、GGEPS(配列番号36)、GGEGGGP(
配列番号37)及びGGEGGGSEGGGS(配列番号38)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
本発明の抗CD3-TCR融合体構築物の具体的実施形態としては、α鎖が配列番号6~8のア
ミノ酸配列を含むTCR可変ドメインで構成される、及び/又はβ鎖が配列番号9~24のアミノ酸配列を含むTCR可変ドメインで構成されるα鎖及びβ鎖の対のものが含まれる。該α
鎖及びβ鎖は、非天然型ジスルフィド結合を含む定常領域をさらに含んでもよい。α鎖の定常ドメインは、8アミノ酸が欠失されていてもよい。α鎖又はβ鎖のN末端又はC末端は、配列番号31~38から選択されるリンカーを介して抗CD3 scFv抗体フラグメントに融合されてもよい。そのような抗CD3-TCR融合構築物の特定の好ましい実施形態を以下に提供
する:
【表11】
【0072】
本発明の範囲内には、前記抗CD3-TCR融合構築物の機能的バリアントも含まれる。前記
機能的バリアントは、機能的には同等であるが、参照の配列と少なくとも90%の同一性、例えば90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一
性を有することが好ましい。
【0073】
更なる1つの観点において、本発明は、本発明のTCR、又はTCR抗CD3をコードする核酸
を提供する。幾つかの実施形態において、核酸はcDNAである。幾つかの実施形態において、mRNAであってもよい。幾つかの実施形態において、本発明は、本発明のTCRのα鎖可変
ドメインをコードする配列を含んでなる核酸を提供する。幾つかの実施形態において、本発明は、本発明のTCRのβ鎖可変ドメインをコードする配列を含んでなる核酸を提供する
。核酸は、天然に存在しないもの及び/又は精製されたもの及び/又は工学的に操作されたものであってもよい。
核酸配列は、利用される発現系に従って、最適化されたコドンであってもよい。当業者に公知であるように、発現系は、大腸菌などの細菌細胞、又は酵母細胞、又は哺乳動物細胞、又は昆虫細胞を含んでもよく、又は無細胞発現系であってもよい。
【0074】
別の1つの観点において、本発明は、本発明の核酸を含んでなるベクターを提供する。好ましくは、ベクターはTCR発現ベクターである。適切なTCR発現ベクターには、例えば、ガンマレトロウイルスベクター、又はより好ましくはレンチウイルスベクターが含まれる。更なる詳細については、Zhang 2012及びその参考文献(Zhangら、Adv Drug Deliv Rev. 2012 1月1日; 64(8):756-762)に見出すことができる。
【0075】
本発明はまた、本発明のベクター、好ましくはTCR発現ベクターを有する細胞を提供す
る。適切な細胞には、哺乳動物細胞、好ましくは免疫細胞、さらにより好ましくはT細胞が含まれる。ベクターは、単一オープンリーディングフレームにα鎖及びβ鎖をコードする本発明の核酸を含んでなるか、又は2つの別個のオープンリーディングフレームにそれぞれα鎖及びβ鎖をコードする本発明の核酸を含んでなってもよい。別の1つの観点は、本発明のTCRのα鎖をコードする核酸を含んでなる第1の発現ベクター及び本発明のTCRのβ鎖をコードする核酸を含んでなる第2の発現ベクターを有する細胞を提供する。このような細胞は養子療法に特に有用である。本発明の細胞は、単離されたもの及び/又は組換
えのもの及び/又は天然に存在しないもの及び/又は工学的に操作されたものであっても
よい。
【0076】
本発明のTCRは養子療法に有用であるので、本発明は、本発明のTCRを提示する、天然に存在しない及び/又は精製された及び/又は工学的に操作された細胞、特にT細胞を包含する。本発明はまた、本発明のTCRを提示するT細胞の拡大された集団を提供する。本発
明のTCRをコードする核酸(例えば、DNA、cDNA又はRNA)でのT細胞のトランスフェクショ
ンに適切な幾つかの方法が存在する(例えば、Robbinsら(2008) J Immunol. 180:6116-6131を参照)。本発明のTCRを発現するT細胞は、養子療法ベースの癌治療における使用に適切である。当業者に公知であるように、養子療法の実施を可能にする適切な幾つかの方法が存在する(例えば、Rosenbergら(2008) Nat Rev Cancer 8(4):299-308参照)。
【0077】
当該分野において周知であるように、TCRは翻訳後修飾に付されていてもよい。グリコ
シル化はそのような修飾の1つであり、TCR鎖中の規定されたアミノ酸へのオリゴ糖部分
の共有結合的付加を含む。例えば、アスパラギン残基又はセリン/スレオニン残基は、周
知のオリゴ糖付加位置である。特定のタンパク質のグリコシル化状況は、タンパク質配列、タンパク質コンホメーション及び特定の酵素の利用可能性を含む幾つかの因子に依存する。更に、グリコシル化状況(すなわち、オリゴ糖タイプ、共有結合及び付加の総数)は、タンパク質の機能に影響することがある。したがって、組換えタンパク質を製造するときには、グリコシル化の制御が望ましい場合が多い。制御されたグリコシル化は、抗体ベースの治療薬を改善するために使用されている(Jefferisら、(2009) Nat Rev Drug Discov.
3月;8(3):226-34)。本発明の可溶性TCRについて、グリコシル化は、例えば特定の細胞株(チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はヒト胎児由来腎臓(HEK)細胞などの哺乳動
物細胞株を含むが、これらに限定されない)を用いることにより制御されてもよく、又は
化学的修飾により制御されてもよい。このような修飾は、グリコシル化が薬物動態を改善し、免疫原性を低減させ及び天然型ヒトタンパク質をより厳密に模擬することができるので、望ましい場合がある(Sinclair及びElliott、(2005) Pharm Sci. 8月;94(8):1626-35)。
【0078】
患者への投与のために、本発明のTCR(好ましくは、検出可能な標識もしくは治療剤と結合しているか、又はトランスフェクトされたT細胞に発現しているもの)、TCR-抗CD3融合分子、核酸、発現ベクター又は本発明の細胞は、滅菌医薬組成物の一部として、医薬的に
許容可能な1又は2以上の担体又は賦形剤と共に提供されてもよい。この医薬組成物は、(患者への望ましい投与方法に依存して)任意の適切な形態であり得る。医薬組成物は、単位剤形で提供されてもよく、一般には密封された容器中で提供され、キットの一部として提供されてもよい。このようなキットは、(必須ではないが)通常、使用指示書を含む。キットは複数の単位剤形を含んでいてもよい。
【0079】
医薬組成物は、任意の適切な経路、例えば非経口経路(皮下、筋内、髄腔内又は静脈内
経路を含む)、経腸(経口又は直腸経路を含む)、吸入又は鼻内経路による投与に適合され
ていてもよい。このような組成物は、薬学分野において公知の任意の方法により、例えば活性成分を担体又は賦形剤と滅菌条件下で混合することにより、製造されてもよい。
【0080】
本発明の物質の投薬量は、治療すべき疾患又は異常、治療すべき個体の年齢及び状態などに依存して広範囲に変化し得る。TCR-抗CD3融合分子に適切な用量範囲は、25ng/kg~50μg/kg又は1μg~1gであり得る。最終的には医師が使用すべき適切な投薬量を決定する。
【0081】
本発明のTCR、TCR-抗CD3融合分子、医薬組成物、ベクター、核酸及び細胞は、実質的に純粋な形態、例えば、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%純粋で提供されてもよ
い。
【0082】
本発明はまた、以下のものを提供する:
・医薬における使用のため、好ましくは癌又は腫瘍の治療法における使用のための、本発明のTCR、TCR-抗CD3融合分子、核酸、医薬組成物、又は細胞
・癌又は腫瘍の治療用医薬の製造における、本発明のTCR、TCR-抗CD3融合分子、核酸、医薬組成物、又は細胞の使用;
・本発明のTCR、TCR-抗CD3融合分子、核酸、医薬組成物、又は細胞を患者に投与することを含んでなる、患者における癌又は腫瘍の治療法;
・TCR、TCR-抗CD3融合分子、核酸、医薬組成物、又は細胞を含んでなる、ヒト対象投与用の注射可能な製剤。
【0083】
癌は固形又は液性の腫瘍であり得る。腫瘍はPRAMEを発現することが好ましい。癌は、
乳房(トリプルネガティブを含む)、卵巣、子宮内膜、食道、肺(NSCLC及びSCLC)、膀胱、
又は頭頸部のものであり得る。追加的に又は代替的に、癌は白血病又は悪性リンパ腫であり得る。これらの癌のうち、乳癌(トリプルネガティブを含む)、卵巣、及び子宮内膜が好ましい。本発明のTCR、TCR-抗CD3融合分子、核酸、医薬組成物又は細胞は、静脈内又は直接腫瘍内などへの注射により投与することができる。ヒト対象はHLA-A*02サブタイプのものであり得る。
【0084】
治療方法は、追加の抗悪性腫瘍剤を別々に、組合せて、又は逐次投与することをさらに含み得る。そのような薬剤の例は当該分野において公知であり、免疫活性化剤及び/又はT細胞調節剤を含んでもよい。
【0085】
本発明の各々の観点の好適な特徴は、他の観点の各々についてのとおりである(ただし
、必要な変更は加える)。本明細書において言及した先行技術文献は、法が許容する最大
範囲まで参照により組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【
図1】
図1は、足場PRAME TCRα鎖及びβ鎖の細胞外領域のアミノ酸配列を提供する。
【
図2】
図2は、可溶性型の足場PRAME TCRα鎖及びβ鎖の細胞外領域のアミノ酸配列を提供する。
【
図3】
図3は、変異PRAME TCRα鎖可変領域のアミノ酸配列の例を提供する。
【
図4-1】
図4は、変異PRAME TCRβ鎖可変領域のアミノ酸配列の例を提供する。
【
図4-2】
図4は、変異PRAME TCRβ鎖可変領域のアミノ酸配列の例を提供する。
【
図5-1】
図5は、
図3及び4に示す特定の変異PRAME TCR可変ドメインを含むImmTAC分子(TCR-抗CD3融合体)のアミノ酸配列(TCR-抗CD3融合)を示す。
【
図5-2】
図5は、
図3及び4に示す特定の変異PRAME TCR可変ドメインを含むImmTAC分子(TCR-抗CD3融合体)のアミノ酸配列(TCR-抗CD3融合)を示す。
【
図6】
図6は、
図3及び4に示す変異PRAME TCR可変ドメインを含む
図5のImmTAC分子の有効性及び特異性を示す細胞データを提供する。
【
図7a】
図7(パネルa及びb)は、
図3及び4に示す変異PRAME TCR可変ドメインを含む
図5のImmTAC分子の特異性を示す細胞データを提供する。
【
図7b】
図7(パネルa及びb)は、
図3及び4に示す変異PRAME TCR可変ドメインを含む
図5のImmTAC分子の特異性を示す細胞データを提供する。
【
図8】
図8は、
図3及び4に示す変異PRAME TCR可変ドメインを含む、
図5のImmTAC分子によるPRAMEポジティブメラノーマ癌細胞の殺傷を示す細胞データを提供する。
【
図9】
図9は、
図3及び4に示す変異PRAME TCR可変ドメインを含む、
図5のImmTAC分子によるPRAMEポジティブ肺癌細胞の殺傷を示す細胞データを提供する。
【0087】
本発明を以下の非限定的な実施例でさらに説明する。
【実施例0088】
実施例
実施例1-可溶性TCRの発現、リフォールディング及び精製
方法
本発明の可溶性TCRのα及びβ細胞外領域をコードするDNA配列を、(Sambrookら,Molecular cloning. Vol. 2. (1989) New York:Cold spring harbor laboratory pressに記載のような)標準的方法を用いて、別々にpGMT7ベースの発現プラスミドにクローニングした。発現プラスミドを別々に大腸菌株Rosetta(BL21pLysS)、又はT7発現系に形質転換し、単一アンピシリン抵抗性コロニーを、TYP(+アンピシリン100μg/ml)培地中で37℃にて、約0.6~0.8のOD600まで増殖させた後、0.5mM IPTGでタンパク質発現を誘導した。誘導の3
時間後に細胞を遠心分離により採集した。BugBusterタンパク質抽出試薬(Merck Millipore)を製造業者の指示に従って用いて細胞ペレットを溶解させた。封入体ペレットを遠心分離により回収した。ペレットをTriton緩衝液(50mM Tris-HCl pH8.1、0.5%Triton-X100、100mM NaCl、10mM NaEDTA)中で2回洗浄し、最後に界面活性剤フリーの緩衝液(50mM Tris-HCl pH8.1、100mM NaCl、10mM NaEDTA)中に再懸濁した。6Mグアニジン-HClで可溶化し、OD280を測定することによって、封入体タンパク質収量を定量した。次いで、消光係数
を用いてタンパク質濃度を算出した。8M尿素で可溶化し、約2μgを還元条件下の4~20%SDS-PAGEにロードして封入体の純度を測定した。次いで、デンシトメトリーソフトウ
ェア(Chemidoc, Biorad)を用いて純度を推定又は算出した。封入体を、短期保存については+4℃にて、長期保存については-20℃又は-70℃にて保存した。
【0089】
可溶性TCRのリフォールディングについては、α鎖及びβ鎖含有封入体を先ず混合し、10mlの可溶化/変性緩衝液(6Mグアニジン-塩酸、50mM Tris HCl pH8.1、100mM NaCl、10mM EDTA、20mM DTT)中に希釈し、続いて30分間37℃にてインキュベートした。次いで、1
Lのリフォールド緩衝液(100mM Tris pH8.1、800又は1000mM L-アルギニンHCL、2mM EDTA、4M尿素、10mMシステアミン塩酸及び2.5mMシスタミン二塩酸)中に更に希釈し、溶液
を十分に混合することによりリフォールディングを開始した。リフォールドした混合物を10LのH2Oに対して18~20時間5℃±3℃にて透析した。その後、透析緩衝液を10mM Tris
pH8.1(10L)と2回交換し、透析を更に15時間継続した。次いで、リフォールド混合物を0.4μmセルロースフィルターで濾過した。
【0090】
透析したリフォールド物をPOROS(登録商標) 50HQアニオン交換カラムに適用し、Akta(
登録商標)Pure(GE Healthcare)を用いて50カラム容量にわたり20mM Tris pH8.1中0~500mM NaClのグラジエントで結合タンパク質を溶出させることにより可溶性TCRの精製を開始した。ピークTCR画分をSDS PAGEにより同定した後、プールし、濃縮した。次いで、濃縮
サンプルを、ダルベッコのPBS緩衝液で予め平衡化させたSuperdex(登録商標)200 Increase 10/300 GLゲル濾過カラム(GE Healthcare)に適用した。ピークTCR画分をプールし、濃
縮し、精製物質の最終収量を計算した。
【0091】
実施例2-ImmTAC分子(可溶性TCR-抗CD3融合分子)の発現、リフォールディング及び精製
方法
ImmTACの調製は、TCR β鎖を、抗CD3単鎖抗体にリンカーを介して融合させたこと以外
は、実施例1の記載のとおりに行った。加えて、カチオン交換工程を、アニオン交換後の精製の間に行った。この場合、アニオン交換からのピーク画分を20mM MES(pH6.5)中で20
倍希釈し、POROS(登録商標) 50HSカチオン交換カラムに適用した。結合タンパク質を、20mM MES中0~500mM NaClのグラジエントで溶出させた。ピークImmTAC画分をプールし、50mM Tris pH8.1に調整した後、濃縮し、実施例1に記載のとおりにゲル濾過マトリクスに
直接適用した。
【0092】
実施例3-結合特性決定
精製した可溶性TCR及びImmTAC分子の該当のペプチド-HLA複合体に対する結合の分析を
、BIAcore 3000若しくはBIAcore T200装置を用いる表面プラズモン共鳴又はForteBio Octet装置を用いる二重層干渉分光法により行った。ビオチン化クラスI HLA-A*02分子を、
目的のペプチドと共にリフォールディングし、当業者に公知の方法を用いて精製した(O'Callaghanら(1999),Anal Biochem 266(1):9-15;Garbocziら(1992),Proc Natl Acad Sci USA 89(8):3429-3433)。全ての測定は、0.005% P20を補充したダルベッコのPBS緩衝
液中で25℃にて行った。
【0093】
BIAcore法
ビオチン化ペプチド-HLAモノマーをストレプトアビジン共役CM-5センサチップに固定した。平衡結合定数は、約200応答単位(RU)のペプチド-HLA-A*02複合体を被覆したフローセル上に30μl/分の定流速で注入した可溶性TCR/ImmTACの系列希釈物を用いて決定した。
平衡応答は、各TCR濃度について、無関係のペプチド-HLAを含有するコントロールフロー
セルでのバルク緩衝液応答を減算することにより規格化した。KD値は、Prismソフトウェ
ア及びLangmuir結合等温式 結合= C×Max/(C+KD) (式中、「結合」は注入したTCR濃度
Cでの平衡結合(RU)であり、Maxは最大結合である)を用いる非線形曲線フィッティングにより得た。
【0094】
高親和性相互作用については、結合パラメータは、単一サイクル速度論分析により決定した。5つの異なる濃度の可溶性TCR/ImmTACを、約100~200RUのペプチド-HLA複合体を被覆したフローセル上に、50~60μl/分の流速で注入した。代表的には、60~120μlの可
溶性TCR/ImmTACを50~100nMの間の最高濃度で注入し、他の4回の注入については2倍系
列希釈物を用いた。最低濃度を先ず注入した。解離相を測定するため、その後、≧10%の解離が生じるまで、代表的には1~3時間後まで、緩衝液を注入した。速度論パラメータはBIAevaluation(登録商標)ソフトウェアを用いて算出した。半減期の算出が可能とする
ため、解離相を一次指数関数的減衰式にフィッティングした。平衡定数KDはkoff/konから算出した。
【0095】
Octet法
ビオチン化ペプチド-HLAモノマーを、ストレプトアビジンを予め固定した(SA)ストレプトアビジンバイオセンサ(Pall ForteBio)に1nmに捕捉した。センサを遊離ビオチン(2μM)で2分間ブロックした。平衡結合定数は、ロードしたバイオセンサを、96ウェル又は384ウェルサンプルプレート内で系列希釈した可溶性TCR/ImmTAC中に浸漬することにより決
定した。プレート振盪は1000rpmに設定した。低親和性相互作用(μM範囲)については、短い結合時間(約2分間)及び短い解離時間(約2分間)を用いた。Octetデータ分析ソフトウ
ェア(Pall ForteBio)を用いて無関係のpHLAをロードした参照バイオセンサの二重参照減
算により結合曲線を加工処理した。平衡時の応答(nm)を用いて、等式応答 = Rmax×*conc/(KD + conc) (式中、「応答」は各TCR濃度(conc)での平衡結合(nm)であり、RmaxはpHLA
飽和時の最大結合応答である)にフィッティングさせた定常状態のプロットからKD値を推
定した。
【0096】
高親和性相互作用(nM~pM範囲)については、速度論パラメータは、≧3TCR/ImmTAC濃度のとき、代表的には10nM、5nM及び2.5nMの結合曲線から決定した。結合時間は30分であ
り、解離時間は1~2時間であった。無関係のpHLAをロードし、ビオチンでブロックした参照バイオセンサの二重参照減算により結合曲線を加工処理した。速度論パラメータkon
及びkoffは、Octetデータ分析ソフトウェア(Pall ForteBio)を用いて、結合曲線への直接の全体フィッティングにより算出した。KDはkoff/konから算出し、解離半減期はt1/2=0.693/koffから算出した。
【0097】
実施例4-天然型TCRの結合特性決定
可溶性天然型TCRを、実施例1に記載の方法に従って調製し、pHLAに対する結合を実施
例3に従って分析した。α鎖及びβ鎖のアミノ酸配列は、
図2に示したものに対応するものであった。可溶性ビオチン化HLA-A*02を、PRAMEペプチドSLLQHLIGL(配列番号1)を用
いて調製し、BIAcoreセンサチップに固定した。
【0098】
結果
結合はさまざまな濃度で決定され、相互作用のKD値は141μMであると決定された。実施例3の平衡BIAcore法を用いて、14の無関係なペプチドHLA-A*02複合体のパネルに対して
交差反応性(特異性)を評価した。14の無関係なpHLAを3つのグループに分け、3つのフローセルの1つにロードして、フローセルごとに各pHLAをおよそ1000RU与えた。30μLの可溶性野生型TCRを、130及び488μMの濃度で20μL / 分の速度で、すべてのフローセルに注入した。いずれの濃度でも、天然型TCRがSLLQHLIGL-HLA-A*02複合体に特異的であることを示
す有意な結合は検出されなかった。
【0099】
これらのデータは、この天然型TCRが、高親和性治療用TCRを遺伝子操作するための出発配列としての使用に適した特性を有していることを示す。
【0100】
実施例5-本発明の特定の変異TCRの結合特性決定
図3及び4にそれぞれ示された変異TCRα及びβ可変ドメインのアミノ酸配列(配列番号6~24)を使用して、ImmTAC分子を調製した。α鎖の開始時にグリシン残基を含めると(配
列番号2の番号付けに対して-1位)、大腸菌での生産中にN末端メチオニンの切断効率を改善することがわかった。非効率的な切断は、不均一なタンパク質産物をもたらす可能性があるため、及び/又は開始メチオニンの存在がヒトにおいて免疫原性である可能性があるため、治療にとって有害であり得る。以下のα鎖及びβ鎖を含むImmTAC分子の全長アミノ酸配列を
図5に示す。
・a28b50 - ImmTAC1
・a79b74 - ImmTAC2
・a79b46 - ImmTAC3
【0101】
分子は、実施例2に記載されるように調製され、SLLQHLIGL-HLA-A*02複合体への結合は、実施例3に従って決定された。
【0102】
結果
以下の表にあるデータは、示されたTCR可変ドメイン配列を含むImmTAC分子が、特に適
切な親和性及び/又は半減期でSLLQHLIGL-HLA-A*02複合体を認識したことを示している。
【表12】
【0103】
実施例6-本発明の特定の変異TCRの効力及び特異性の特性決定
実施例5に記載されるように、同じTCR可変ドメイン配列を含むImmTAC分子を、PRAMEポジティブ癌細胞に対するCD3+T細胞の強力かつ特異的な再指向化を仲介する能力について、評価した。T細胞活性化の指標としてインターフェロン-γ(IFNγ)放出を利用した。
以下のα鎖及びβ鎖を含むImmTAC分子の全長アミノ酸配列を
図5に示す。
・a28b50 - ImmTAC1
・a79b74 - ImmTAC2
・a79b46 - ImmTAC3
【0104】
アッセイは、ヒトIFN-γ ELISPOTキット(BD Biosciences)を用いて製造業者の指示に従って行った。簡潔には、標的細胞をアッセイ培地(10%熱不活化FBS及び1%ペニシリン-
ストレプトマイシン-L-グルタミンを含むRPMI 1640)中に1×106/mlの密度で準備し、50,000細胞/ウェルにて50μl容量でプレートした。新鮮なドナー血液から単離した末梢血単
核細胞(PBMC)をエフェクター細胞として用いて、50,000細胞/ウェルにて50μl容量でプレートした(各実験に使用した正確な細胞数はドナーに依存し、アッセイに適した範囲内で
応答になるように調整され得る)。予測される臨床的に妥当な範囲にわたる最終濃度、10nM、1nM、0.1nM、0.01 nM、及び0.001nMになるようにImmTAC分子の滴定を行い、50μl容量でウェルに添加した。
【0105】
プレートを製造業者の指示に従って準備した。標的細胞、エフェクター細胞及びImmTAC分子を該当するウェルに加え、アッセイ培地で終容量を200μlとした。全ての反応を三連で行った。ImmTAC、エフェクター細胞又は標的細胞を省略したコントロールウェルも準備した。次いで、プレートを一晩インキュベートした(37℃/5%CO2)。翌日、プレートを洗浄緩衝液(脱イオン水中に作製した0.05%Tween-20を含む1×PBS)で3回洗浄した。次い
で、一次検出抗体を各ウェルに容量50μlで加えた。プレートを室温にて2時間インキュ
ベートした後、再び3回洗浄した。二次検出は、50μlの希釈ストレプトアビジン-HRPを
各ウェルに加え、室温にて1時間インキュベートし、洗浄工程を繰り返すことにより行った。使用前15分以内に1滴(20μl)のAEC色原体を各1mlのAEC基質に加えて混合し、50μlを各ウェルに加えた。スポット発色を定期的にモニターし、プレートを水道水で洗浄して発色反応を停止させた。次いで、プレートを室温にて少なくとも2時間乾燥させた後、Immunospotソフトウェアを備えたCTL分析装置(Cellular Technology Limited)を用いてスポットを計数した。
【0106】
本実施例では、以下の癌細胞株を標的細胞として使用した。
・Mel624(メラノーマ) PRAME+ve HLA-A*02+ve
・Granta519(血リンパ球) PRAME-ve HLA-A*02+ve
・SW620(結腸癌) PRAME-ve HLA-A*02+ve
・HT144(メラノーマ) PRAME+ve HLA-A*02-ve
【0107】
結果
以下の表に示されるα及びβ可変ドメインを含む各ImmTAC分子は、抗原ポジティブMel624細胞の存在下で再志向化T細胞の強力な活性化を証明した。いずれの場合も、EC50値をデータから計算し、以下の表に示す。さらに、各ImmTAC分子は、1nMまでの濃度で、2つの抗原ネガティブ、HLA-A*02ポジティブ細胞の認識を最小限又はまったく示さなかった。ImmTAC分子は、HLA-A*02ネガティブであるPRAMEポジティブ細胞の認識も示さなかった(データは示していない)。
図6は、以下の表に収載されている4つのImmTAC分子の代表的なデータを示す。
【表13】
これらのデータは、本発明の変異TCR可変ドメイン配列を含むImmTAC分子が、治療用途に
適切である濃度範囲で、PRAMEポジティブ、HLA-A*02ポジティブの癌細胞に対して強力か
つ特異的なT細胞再志向化を仲介できることを証明する。
【0108】
実施例7-本発明の特定の変異TCRのさらなる特異性の特性決定
変異TCR配列を含むImmTAC分子の特異性をさらに実証するために、実施例6に記載され
ているのと同じELISPOT方法論を用いて、健康なヒト組織に由来する正常細胞のパネルを
標的細胞として、さらなる試験を行った。
・正常組織には、心臓血管、腎臓、骨格筋、肺、血管系、肝臓、及び脳が含まれる。いずれの場合も、抗原ポジティブMel624癌細胞をポジティブコントロールとして使用した。
【0109】
本実施例で提示されるデータには、以下のTCRα鎖及びβ鎖を含むImmTAC分子が含まれ
る。
・a28b50
・a79b74
・a79b46
・a79b77
a28b50、a79b74、及びa79b46を含むImmTAC分子の全長アミノ酸配列を
図5に示す(それぞ
れImmTAC 1~3)。
【0110】
結果
図7(パネルa)に示されたデータは、変異α鎖及びβ鎖a28b50及びa79b46を含むImmTAC
分子が、1nMまでの濃度の抗原ポジティブ癌細胞と比較して8つの正常細胞のパネルに対
して最小限の反応性を示すことを証明する。同様に、
図7(パネルb)のデータは、a28b57
及びa79b46を含むImmTAC分子が、1nMまでの濃度の抗原ポジティブ癌細胞と比較して、4
つの正常細胞のパネルに対して最小限の反応性を示すことを表している。
【0111】
実施例8-本発明の特定の変異TCRにより仲介される癌細胞殺傷
変異TCR配列を含むImmTAC分子が、再指向化T細胞による抗原ポジティブ腫瘍細胞の強
力な殺傷を仲介する能力を、IncuCyteプラットフォーム(Essen BioScience)を用いて調べた。このアッセイは、アポトーシスのマーカーであるカスパーゼ-3/7の放出の顕微鏡観察によるリアルタイム検出を可能とする。
【0112】
方法
アッセイは、CellPlayer 96ウェルカスパーゼ-3/7アポトーシスアッセイキット(Essen BioScience, Cat. No.4440)を用いて行い、製造業者のプロトコルに従って行った。簡
潔には、標的細胞(Mel624(PRAME+ve HLA-A*02+ve)又はNCI-H1755)を10,000細胞/ウェル
でプレートし、一晩インキュベートして細胞を接着させた。ImmTAC分子をさまざまな濃度で調製し、それぞれ25μlを該当するウェルに加えて、最終濃度が1pMと100pMの間になる
ようにした。エフェクター細胞を、10:1のエフェクター標的細胞比(100,000細胞/ウェル)で使用した。エフェクター細胞のみ、又は標的細胞のみのいずれかを含むサンプル
に加えて、ImmTACを含まないコントロールサンプルも調製した。NucViewアッセイ試薬を30μMで作製し、25μlを各ウェルに加え、最終量が150μlになるようにした(最終濃度5μM)。プレートをIncuCyte装置内に配置し、2時間ごと に(ウェルあたり1画像)3日間に
わたって撮像した。各画像中のアポトーシス細胞の数を決定し、mm
2あたりのアポトーシ
ス細胞として記録した。アッセイは3連で行った。
本実施例で提示されるデータには、以下のTCRα鎖及びβ鎖を含むImmTAC分子が含まれ
る。
・a28b50
・a79b74
・a79b46
a28b50、a79b74、及びa79b46を含むImmTAC分子の全長アミノ酸配列を
図5に示す(それぞ
れImmTAC1、2、及び3)。
【0113】
結果
図8及び9に示されたデータは、100 pM以下の濃度における、変異TCR配列を含むImmTAC分子の存在下での抗原ポジティブ癌細胞(
図8のメラノーマ細胞株Mel624及び
図9の肺癌細胞株NCI-H1755)のリアルタイム殺傷を表す。ImmTAC分子の非存在下では、殺傷は観察されなかった。