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特開2023-14556回折光学素子、光学機器、撮像装置および回折光学素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014556
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】回折光学素子、光学機器、撮像装置および回折光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20230124BHJP
   B29D 11/00 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
G02B5/18
B29D11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118566
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】米谷 公一
【テーマコード(参考)】
2H249
4F213
【Fターム(参考)】
2H249AA04
2H249AA14
2H249AA39
2H249AA43
2H249AA55
4F213WA03
4F213WA39
4F213WA53
4F213WA87
4F213WB01
(57)【要約】
【課題】高温高湿環境に長時間晒されても回折効率が変動しにくい回折光学素子を提供すること。
【解決手段】回折光学素子は、第1基材の上に順次積層された第1樹脂層および第2樹脂層と、第2樹脂層の上に形成された第2基材とを有し、第1樹脂層と第2樹脂層との界面の少なくとも一部に平面視において同心円状の回折格子が形成され、第1樹脂層および第2樹脂層は、回折格子の中心を含む第1領域と、第1領域を取り囲む第2領域とを有し、第1樹脂層の膨潤率をα、第2樹脂層の膨潤率をβとすると、αおよびβはα>βの関係を満たし、第1樹脂層の回折格子の中心での屈折率をN1c、第2樹脂層の回折格子の中心での屈折率をN2cとすると、N1cおよびN2cはN1c>N2cの関係を満たし、第1領域における最外周の回折格子の格子高さをdA、前記第2領域における回折格子の格子高さの平均をdBとすると、dAおよびdBはdB>dAの関係を満たす。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基材と、
前記第1基材の上に順次積層された第1樹脂層および第2樹脂層と、
前記第2樹脂層の上に形成された第2基材とを有し、
前記第1樹脂層と前記第2樹脂層との界面の少なくとも一部に平面視において同心円状の回折格子が形成され、
前記第1樹脂層および前記第2樹脂層は、前記回折格子の中心を含む第1領域と、前記第1領域を取り囲む第2領域とを有し、
前記第1樹脂層の膨潤率をα、前記第2樹脂層の膨潤率をβとすると、前記αおよび前記βはα>βの関係を満たし、
前記第1樹脂層の前記回折格子の中心での屈折率をN1c、前記第2樹脂層の前記回折格子の中心での屈折率をN2cとすると、前記N1cおよび前記N2cはN1c>N2cの関係を満たし、
前記第1領域における最外周の前記回折格子の格子高さをdA、前記第2領域における前記回折格子の格子高さの平均をdBとすると、前記dAおよび前記dBはdB>dAの関係を満たすことを特徴とする回折光学素子。
【請求項2】
前記dAおよび前記dBは1.001≦dB/dA≦1.04の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の回折光学素子。
【請求項3】
前記第2領域の内側からn番目(nは正の整数)の前記回折格子の格子高さをdBnとすると、前記dAおよび前記dBnは1.001≦dBn/dA≦1.04の関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の回折光学素子。
【請求項4】
前記第1樹脂層と前記第2樹脂層の中心での屈折率差をΔNA、前記第2領域の内側からn番目(nは正の整数)の前記回折格子での前記第1樹脂層と前記第2樹脂層との屈折率差がΔNBnとすると、前記dA、前記dBn、前記ΔNAおよび前記ΔNBnは0.96≦(ΔNBn/ΔNA)×(dBn/dA)≦1.04の関係を満たすことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項5】
前記第2領域の内側からn番目(nは正の整数)の前記回折格子の格子高さをdBn、前記第2領域の内側から(n+1)番目の前記回折格子の格子高さをdB(n+1)とすると、前記dBnおよび前記dB(n+1)はdBn≦dB(n+1)の関係を満たすことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項6】
前記第2領域の内側からn番目(nは正の整数)の前記回折格子の格子高さをdBn、前記第2領域の内側から(n+1)番目の前記回折格子の格子高さをdB(n+1)とすると、前記dBnおよび前記dB(n+1)はdBn=dB(n+1)の関係を満たすことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項7】
前記第1樹脂層の半径をr1、前記第2領域の外径をd1、前記第2領域の内径をd2とすると、前記r1、前記d1及び前記d2は、0.07≦(d1-d2)/r1≦0.35の関係を満たすことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項8】
前記第1領域において、前記回折格子の格子高さは同じであることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項9】
筐体と、該筐体内に複数のレンズを有する光学系を備える光学機器であって、
前記複数のレンズの少なくとも1つが請求項1乃至8のいずれか1項に記載の回折光学素子であることを特徴とする光学機器。
【請求項10】
筐体と、該筐体内に複数のレンズを有する光学系と、該光学系を通過した光を受光する撮像素子と、を備える撮像装置であって、
前記複数のレンズの少なくとも1つが請求項1乃至8のいずれか1項に記載の回折光学素子であることを特徴とする撮像装置。
【請求項11】
前記撮像装置がカメラである請求項10に記載の撮像装置。
【請求項12】
請求項1から8のいずれか1項に記載の回折光学素子の製造方法であって、
前記回折格子の形状を反転した形状を有する型と前記第1基材との間に第1樹脂組成物を充填する工程と、
前記第1樹脂組成物を硬化させて前記第1基材の上に前記第1樹脂層を形成する工程と、
前記型から前記第1樹脂層を離型する工程と、
前記回折格子の形状が形成された前記第1樹脂層と前記第2基材との間に第2樹脂組成物を充填する工程と、
前記第2樹脂組成物を硬化させて前記第1樹脂層と前記第2基材との間に前記第2樹脂層を形成する工程とを有する
ことを特徴とする回折光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折光学素子、光学機器、撮像装置および回折光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レンズなどに用いられる回折光学素子として、光学特性が互いに異なる2種類の樹脂を密着して積層させた回折光学素子が知られている。この種の回折光学素子は、2つのタイプに大別される。1つは特許文献1に記載されるように2つの基板の間に2つの樹脂が積層されたタイプである。もう1つは特許文献2に記載されるように基板上に2つの樹脂が積層されたタイプである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-242033号公報
【特許文献2】特開2005-107298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および特許文献2に開示された回折光学素子は2種類の互いに異なる樹脂を用いるため、それぞれの樹脂の膨潤率が互いに異なる。これらの回折光学素子は、高温高湿環境に長時間晒されると、2つの樹脂がそれぞれ膨潤し体積が変化する。その結果、2つの樹脂の間の屈折率差が変動し、回折光学素子の回折効率が変動してしまうという課題があった。
【0005】
本発明の目的は、上述した課題に鑑み、高温高湿環境に長時間晒されても回折効率が変動しにくい回折光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によれば、第1基材と、前記第1基材の上に順次積層された第1樹脂層および第2樹脂層と、前記第2樹脂層の上に形成された第2基材とを有し、前記第1樹脂層と前記第2樹脂層との界面の少なくとも一部に平面視において同心円状の回折格子が形成され、前記第1樹脂層および前記第2樹脂層は、前記回折格子の中心を含む第1領域と、前記第1領域を取り囲む第2領域とを有し、前記第1樹脂層の膨潤率をα、前記第2樹脂層の膨潤率をβとすると、前記αおよび前記βはα>βの関係を満たし、前記第1樹脂層の前記回折格子の中心での屈折率をN1c、前記第2樹脂層の前記回折格子の中心での屈折率をN2cとすると、前記N1cおよび前記N2cはN1c>N2cの関係を満たし、前記第1領域における最外周の前記回折格子の格子高さをdA、前記第2領域における前記回折格子の格子高さの平均をdBとすると、前記dAおよび前記dBはdB>dAの関係を満たすことを特徴とする回折光学素子が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高温高湿環境に長時間晒されても回折効率が変動しにくい回折光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態による回折光学素子を示す概略図である。
図2】従来の回折光学素子の屈折率の経時変化を示す概略図である。
図3】本発明の一実施形態による回折光学素子の屈折率の経時変化、格子高さの動径方向変化を示す概略図である。
図4】本発明の一実施形態による回折光学素子の製造方法を示す概略図である。
図5】本発明の一実施形態による撮像装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(一実施形態)
本発明の一実施形態による回折光学素子、光学機器、撮像装置および回折光学素子の製造方法について図1から図5を用いて説明する。
【0010】
[回折光学素子]
まず、本実施形態による回折光学素子について説明する。本実施形態による回折光学素子は、特に限定されるものではないが、スチルカメラ、ビデオカメラ等におけるレンズとして使用されるものである。
【0011】
図1は、本実施形態による回折光学素子10を示す概略図である。図1(a)は本実施形態による回折光学素子10を示す平面図、図1(b)は図1(a)のA-A′線に沿った断面図である。図1(c)は回折光学素子10における回折格子15の高さを示す図1(b)に対応する断面図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態による回折光学素子10は、第1基材11と、第1樹脂層12と、第2樹脂層13と、第2基材14とを有している。回折光学素子10において、第1基材11上には、第1樹脂層12と、第2樹脂層13と、第2基材14とが順に積層されている。第1基材11、第1樹脂層12、第2樹脂層13および第2基材14は、積層方向から見た平面視において、例えば、同一の点Oを中心とする同心円の円形状の平面形状を有している。第1基材11と第2基材14とは、例えば、互いに同一半径の円形状の平面形状を有している。第2樹脂層13は、例えば、第1樹脂層12が形成された第1基材11上に第1樹脂層12を覆うように形成されている。第1樹脂層12と第2樹脂層13との界面には、同じく平面視において、例えば点Oを中心とする円環状に回折格子15が形成されている。
【0013】
(第1基材)
第1基材11は、透明な樹脂や、透明なガラスを用いることができる。第1基材11は、ガラスを用いることが好ましく、例えば、珪酸ガラス、硼珪酸ガラスおよびリン酸ガラスに代表される一般的な光学ガラスや、石英ガラス、ガラスセラミックスを用いることができる。
【0014】
第1基材11の形状は特に限定されず、第1樹脂層12と接する面の形状は、凹球面、凸球面、軸対称非球面、平面などから選択できる。また、第1基材11の外形は平面視した際に円形であることが好ましい。
【0015】
(第2基材)
第2基材14は、透明な樹脂や、透明なガラスを用いることができる。第2基材14は、ガラスを用いることが好ましく、例えば、珪酸ガラス、硼珪酸ガラスおよびリン酸ガラスに代表される一般的な光学ガラスや、石英ガラス、ガラスセラミックスを用いることができる。
【0016】
第2基材14の形状は特に限定されず、第2樹脂層13と接する面の形状は、凹球面、凸球面、軸対称非球面、平面などから選択できる。また、第2基材14の外形は平面視した際に円形であることが好ましい。
【0017】
(2つの樹脂層)
第1基材11の上に順次積層された第1樹脂層12および第2樹脂層13は、互いに異なる光学特性を有する透明な樹脂である。第1樹脂層12および第2樹脂層13は、回折光学素子10が所望の光学特性となるようにそれぞれ屈折率やアッベ数が設計されている。広い波長帯域で高い回折効率を得るために、第1樹脂層12および第2樹脂層13のうち、一方が他方に対して低屈折率高分散であり、他方が一方に対して高屈折率低分散であることが好ましい。ここで、低屈折率および高屈折率とは、第1樹脂層12および第2樹脂層13の屈折率(d線の屈折率Nd)の相対的な関係を意味する。同様に、高分散および低分散とは、第1樹脂層12および第2樹脂層13の分散特性(アッベ数νd)の相対的な関係を意味する。つまり、第1樹脂層12が第2樹脂層13に対して高屈折率低分散であるとは、第1樹脂層12の屈折率N1およびアッベ数ν1、ならびに第2樹脂層13の屈折率N2およびアッベ数ν2が、N1>N2およびν1>ν2の関係を満たすことを意味する。逆に、第1樹脂層12が第2樹脂層13に対して低屈折率高分散であるとは、第1樹脂層12の屈折率N1およびアッベ数ν1、ならびに第2樹脂層13の屈折率N2およびアッベ数ν2が、N1<N2およびν1<ν2の関係を満たすことを意味する。
【0018】
(第1樹脂層)
本実施形態では一例として、第1樹脂層12として、第2樹脂層13に対して高屈折率低分散である樹脂を適用する場合について説明する。第1樹脂層12は、光学用の無色透明な樹脂である。第1樹脂層12は、回折光学素子10が所望の光学特性を得られるように屈折率やアッベ数が設計されている。なお、第1樹脂層12の膨潤率はαである。ここで、第1樹脂層12および第2樹脂層13の各樹脂層の膨潤率は、当該樹脂層の樹脂を純水に24時間浸漬させた後の体積を純水に浸す前の体積で除して百分率表記したものである。第1樹脂層12は、高屈折率低分散とするために、チオール化合物と、(メタ)アクリレート化合物とが重合した重合物を含有することが好ましい。なお、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0019】
第1樹脂層12は、未硬化の第1樹脂組成物12a(後述の図4(a)および図4(b)参照)を硬化することによって得られる。第1樹脂組成物12aは、エネルギー硬化性樹脂である。エネルギー硬化性樹脂とは、未硬化の状態から、光エネルギーおよび/または熱エネルギーを与えることによって硬化する樹脂のことである。第1樹脂組成物12aは、チオール化合物の単量体および/またはそのオリゴマーと、(メタ)アクリレート系の単量体および/またはそのオリゴマーとを含有することが好ましい。
【0020】
第1樹脂組成物12aに含有されるチオール化合物としては、例えば、4-メルカプトメチル-3,6-ジチア-1,8-オクタンジチオール、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン(4-メルカプトメチル-3,6-ジチア-1,8-オクタンジチオール)、4,8-ビス(メルカプトメチル)-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン(4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン)、5,7-ビス(メルカプトメチル)-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン(5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン)などが挙げられる。
【0021】
第1樹脂組成物12aに含有される(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、トリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、オリゴエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0022】
また、第1樹脂組成物12a中におけるチオール化合物の含有割合は30質量%以上80質量%以下の範囲であることが好ましい。チオール化合物の含有割合が前記範囲であると、光学特性と成形性が良好となる。チオール化合物の含有割合が30質量%未満であると、屈折率を高くできなくなるおそれがある。一方、チオール化合物の含有割合が80質量%を超えると、第1樹脂層12を形成する際の成形性が十分でなくなるおそれがある。
【0023】
第1樹脂組成物12aは、重合開始剤を含有する。第1樹脂組成物12aに含有される重合開始剤は、光重合開始剤でもよいし、熱重合開始剤であってもよく、選択する製造プロセスによって決定することができる。ただし、回折格子を製造しやすいレプリカ成形を行う場合は、第1樹脂組成物12aが光重合開始剤を含有していることが好ましい。
【0024】
第1樹脂組成物12aに含有される光重合開始剤としては、例えば、例えば、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、4-フェニルベンゾフェノン、4-フェノキシベンゾフェノン、4,4′-ジフェニルベンゾフェノン、4,4′-ジフェノキシベンゾフェノンなどが挙げられる。第1樹脂層12の透明性が良いという観点においては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが好ましい。
【0025】
第1樹脂組成物12aに含有される光重合開始剤の含有割合は、第1樹脂組成物12a全体に対して0.01質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましい。光重合開始剤は、オリゴマーなどとの反応性、光硬化させる際に照射する波長によって1種類のみで使用することもできるし、2種類以上を併用して使用することもできる。
【0026】
(第2樹脂層)
第2樹脂層13は、第1樹脂層12と膨潤率および屈折率が異なるが、第1樹脂層12と同様に光学用の無色透明な樹脂である。第2樹脂層13も、回折光学素子10が所望の光学特性を得られるように屈折率やアッベ数が設計されている。なお、第2樹脂層13の膨潤率はβである。第2樹脂層13の膨潤率βは、第1樹脂層12の膨潤率αとは値が異なる。
【0027】
第2樹脂層13は、第1樹脂層12に対して低屈折率高分散とするため、官能基にフルオレンを備える芳香族ジオール化合物と、非フッ素系の(メタ)アクリレート化合物および/またはフッ素系の(メタ)アクリレート化合物との重合物を含有することが好ましい。
【0028】
第2樹脂層13は、未硬化の第2樹脂組成物13a(後述の図4(d)および図4(e)参照)を硬化することによって得られる。第2樹脂組成物13aは、官能基にフルオレンを備える芳香族ジオール化合物の単量体および/またはそのオリゴマーを含有することが好ましい。また、第2樹脂組成物13aは、非フッ素系の(メタ)アクリレート化合物の単量体および/またはオリゴマー、および/またはフッ素系の(メタ)アクリレート化合物の単量体および/またはそのオリゴマーを含有することが好ましい。第2樹脂組成物13aは、第1樹脂組成物12aと同様にエネルギー硬化性樹脂である。
【0029】
第2樹脂組成物13aに含有される官能基にフルオレンを備える芳香族ジオール化合物としては、例えば、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどが挙げられる。
【0030】
第2樹脂組成物13aに含有される非フッ素系の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、トリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、オリゴエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0031】
第2樹脂組成物13aに含有されるフッ素系の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルアクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルメタクリレートなどが挙げられる。
【0032】
第2樹脂組成物13aには、上述した化合物のみならずオリゴマーを含有させてもよい。オリゴマーの種類は特に限定されないが、例えば、ウレタン変性ポリエステルアクリレートなどが挙げられる。
【0033】
第2樹脂組成物13a中における芳香族ジオール化合物の含有割合は30質量%以上であることが好ましい。第2樹脂層13のアッベ数を大きくしやすいためである。
【0034】
第2樹脂組成物13aは、重合開始剤を含有する。第2樹脂組成物13aに含有される重合開始剤は、第1樹脂組成物12a含有される重合開始剤と同様に、光重合開始剤でもよいし、熱重合開始剤であってもよく、選択する製造プロセスによって決定することができる。ただし、回折格子を製造しやすいレプリカ成形を行う場合は、第2樹脂組成物13aも光重合開始剤を含有していることが好ましい。
【0035】
第2樹脂組成物13aに含有される光重合開始剤としては、例えば、例えば、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス(2,4,6,-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、4-フェニルベンゾフェノン、4-フェノキシベンゾフェノン、4,4′-ジフェニルベンゾフェノン、4,4′-ジフェノキシベンゾフェノンが挙げられる。第2樹脂層13の透明性が良いという観点においては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが好ましい。
【0036】
第2樹脂組成物13aに含有される光重合開始剤の含有割合も、第1樹脂組成物12aに含有される光重合開始剤と同様に、第2樹脂組成物13a全体に対して0.01質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましい。光重合開始剤は、オリゴマーなどとの反応性、光硬化させる際に照射する波長によって1種類のみで使用することもできるし、2種類以上を併用して使用することもできる。
【0037】
(回折格子)
2つの樹脂層である第1樹脂層12および第2樹脂層13には、平面視した際に、それらの界面の少なくとも一部に同心円状の回折格子15が形成されている。回折格子15の形状は、回折光学素子10の中心O(第1樹脂層12および第2樹脂層13の中心)から外周へ向かう径方向に緩やかに傾斜する第1面16と、所定の距離を進んだところで急激に傾斜の逆方向に変化する第2面17の繰り返しパターンである。中心Oは、平面視において同心円状の回折格子15の中心である。回折格子15は、同心円形状の径方向に互いに隣接して径方向に互いに逆側に傾斜した第1面16および第2面17により形成された凹凸形状の繰り返しパターンを有している。第1面16は、第1樹脂層12を基準に見て中心Oに対して外周側を向き、第2面17よりも緩やかな斜面になっている。回折格子15の繰り返しパターンの間隔は、中心Oから外周に向かって連続的に又は段階的に小さくなっている。
【0038】
回折格子15の格子高さは、例えば、10μm以上30μm以下である。回折格子15の格子高さがこの範囲であれば、十分な光学性能を得やすく、かつ、離型の際に格子の変形が生じにくい。ここで、回折格子15の格子高さは次のように規定される。すなわち、回折格子15の平面形状である同心円に直交する断面視において、第1面16の近似直線における任意の点である第1点で当該近似直線と直交する直線が、その第1面16と径方向に内側に隣接する第1面16の近似直線と第2点で交差するとする。このとき、回折格子15の高さは、第1点と第2点との間の距離である。第1点としては、回折格子15の頂点を選択することができる。また、回折格子15のピッチの間隔は、例えば100μm以上5mm以下であり、ピッチの数は例えば50以上100以下である。
【0039】
例えば、図1(c)で示すように、回折格子15においては、第1樹脂層12を基準として、径方向に互いに隣接する第1面16および第2面17により第2基材14側に凸状の凸部18が径方向に隣接して複数形成されている。回折格子15の高さは、凸部18ごとに規定することができる。図1(c)において、第1面16の近似直線L1における回折格子15の凸部18の頂点である第1点P1で近似直線L1と直交する直線Lcが、径方向に内側に隣接する第1面16の近似直線L2と第2点P2で交差しているとする。このとき、回折格子15の高さhは、第1点P1と第2点P2との間の距離である。回折格子15の格子高さは、後述するように、回折光学素子10における第1領域Aおよび第2領域Bで互いに異なっており、また、凸部18ごとまたは領域ごとに互いに異なりうる。
【0040】
第1樹脂層12においては、第1基材11上に形成されたベース部12bを介して第2樹脂層13との界面に回折格子15が形成されている。第1樹脂層12のベース部12bの厚さは、例えば、10μm以上250μm以下である。また、第2樹脂層13においては、第2基材14の上に形成されたベース部13bを介して第1樹脂層12との界面に回折格子15が形成されている。第2樹脂層13のベース部13bの厚さは、例えば、10μm以上250μm以下である。所望の光学特性に応じて、第1樹脂層12のベース部12bの厚さおよび第2樹脂層13のベース部13bの厚さも回折格子15の格子高さとともに適宜設定される。
【0041】
回折格子15を含む2つの樹脂層である第1樹脂層12および第2樹脂層13は、第1領域Aおよび第2領域Bを有している。第1領域Aは、平面視において回折格子15の中心である中心Оを含む円形状の領域である。第2領域Bは、第1領域Aを取り囲む円環状の領域である。なお、第1領域A及び第2領域Bは、これらの形状に限定されるものではなく、中心Oを含む第1領域Aを第2領域Bが取り囲んでいればよい。
【0042】
第1領域Aでは、径方向に隣り合う回折格子15の格子高さが概ね変化せずに同じであるか、中心Oから径方向に外側に向かうにつれて径方向に隣り合う回折格子15の格子高さが0.06%以下で低下していく。なお、第1領域Aにおける回折格子15の格子高さは、これらに限定されるものではなく、要求される素子特性などに応じて適宜設計されうる。
【0043】
第2領域Bは、第1樹脂層12の外周19を含む領域である。第2領域Bの外周は、第1樹脂層12の外周である。第2領域Bにおける回折格子15の格子高さの平均dBは、第1領域Aの最外周の回折格子15の格子高さdAより高くなっている。すなわち、dAおよびdBは、dB>dAを満たす。より具体的には、第1領域Aの最外周の回折格子15の格子高さdA、第2領域Bの回折格子15の格子高さの平均dBは、回折効率の低下をより効果的に抑制する観点から、1.001≦dB/dA≦1.04の関係を満たすことが好ましい。
【0044】
また、第2領域Bの外径d1と内径d2との差(d1-d2)および第1樹脂層12の半径r1は、2/28.5≦(d1-d2)/r1≦10/28.5の関係、すなわち0.07≦(d1-d2)/r1≦0.35の関係を満たすことが好ましい。また、第2領域Bの外径d1と内径d2との差(d1-d2)は、10mm以下であることが好ましく、2mm以上10mm以下であることがより好ましい。かかる関係を満たすことにより、回折効率の低下をより効果的に抑制することができる。
【0045】
(樹脂層の屈折率分布)
本願発明者は、特許文献1および特許文献2に開示されたような、2つの樹脂層の膨潤率が異なる回折光学素子が、高温高湿環境に長時間晒されると回折効率が変動することを見出した。以下にそのメカニズムを説明する。
【0046】
特許文献1に開示された回折光学素子は、2つの基材の間に2つの樹脂層が積層されたタイプである。このタイプの回折光学素子は、高温高湿(例えば、温度60℃、湿度90%)環境に長時間晒されると、素子の外周部から水分が侵入する。
【0047】
図2は、特許文献1に開示された回折光学素子を高温高湿環境に長時間晒した際の屈折率、屈折率差及び回折効率の経時変化を示す概略図である。なお、この回折光学素子は、第1樹脂層が高屈折率低分散であり、第2樹脂層が低屈折率高分散である。また、第1樹脂層の膨潤率は、第2樹脂層の膨潤率より大きい。
【0048】
図2(a)は回折光学素子の第1樹脂層の中心の屈折率N1cおよび第2樹脂層の中心の屈折率N2cの経時変化を示し、図2(b)は第1樹脂層の中心の屈折率N1cと第2樹脂層の中心の屈折率N2cとの差の経時変化を示している。図2(a)に示すように素子の中心においては、外周から遠く水分が侵入しにくいため、体積膨張が少なく、屈折率は経時的にほとんど変化しない。そのため、図2(b)に示すように素子の中心においては、2つの樹脂層の屈折率差は経時的にほとんど変化しない。
【0049】
図2(c)は回折光学素子の第1樹脂層の周縁部の屈折率N1eおよび第2樹脂層の周縁部の屈折率N2eの経時変化を示し、図2(d)は第1樹脂層の周縁部の屈折率N1eと第2樹脂層の周縁部の屈折率N2eとの差の経時変化を示している。図2(d)の破線は水分の影響を受けない時の屈折率差、すなわち設計値である。図2(c)に示すように、N1eの方がN2eよりも経時変化が大きくなる。これは、素子の外周から水分が侵入することにより、回折格子の周縁部が膨潤することにより体積が膨張し、屈折率が低下するためである。さらに、第1樹脂層の膨潤率が第2樹脂層の膨潤率よりも大きいため、水分による膨張で、樹脂の密度が低下し、屈折率がより低下することにも起因する。結果、図2(d)に示すように、周縁部においては2つの樹脂の屈折率が低下する速度が異なるため、屈折率差が設計値から乖離する。
【0050】
図2(e)は、回折光学素子の中心の回折効率および周縁部の回折効率の経時変化を示している。回折効率は、(屈折率差)×(格子高さ)によって決定される。特許文献1に開示された回折光学素子では、図2(e)に示すように、周縁部において、屈折率差が設計値から乖離する結果、回折効率が低下してしまうという課題があった。
【0051】
そこで、本実施形態では、上記課題を解決するため、第1樹脂層12と第2樹脂層13とが積層された回折光学素子10において、周縁部を含む第2領域Bにおいて第1樹脂層12と第2樹脂層13との界面の回折格子15の格子高さを高くする構成を採用した。すなわち、本実施形態では、上述のように、第2領域Bにおける回折格子15の格子高さの平均dBが、第1領域Aの最外周の回折格子15の格子高さdAより高くなっている。高温高湿環境に長時間晒した際、周縁部の屈折率差の設計値から乖離が生じる場合、あらかじめ周縁部の格子高さを高くすることにより、回折効率の設計値からの乖離を小さく抑えまたは防止することができる。こうして、本実施形態によれば、回折効率の変動しにくい回折光学素子10を実現することができる。特に、回折格子15の格子高さは、第1領域Aの最外周の回折格子15の格子高さdAおよび第2領域Bの回折格子15の格子高さの平均dBが1.001≦dB/dA≦1.04の関係を満たすように設定することができる。これにより、初期の回折効率および高温高湿環境に長時間晒された後の回折効率の両方の低下を小さく抑制しまたは防止することができる。
【0052】
図3は、本実施形態の回折光学素子10を高温高湿環境に長時間晒した際の屈折率、屈折率差および回折効率の経時変化、並びに格子高さおよび回折効率の径方向変化を示す概略図である。なお、本実施形態による回折光学素子10は、第1樹脂層12が高屈折率低分散であり、第2樹脂層13が低屈折率高分散である。また、第1樹脂層12の膨潤率αは、第2樹脂層13の膨潤率βより大きい。
【0053】
図3(a)は、回折光学素子10の第1樹脂層12の中心Oでの屈折率N1cおよび第2樹脂層13の中心Oでの屈折率N2cの経時変化を示している。図3(b)は、第1樹脂層12の中心Oでの屈折率N1cと第2樹脂層13の中心Oでの屈折率N2cとの屈折率差の経時変化を示している。図3(a)に示すように回折光学素子10の中心Oにおいては、外周から遠く水分が侵入しにくいため、第1樹脂層12および第2樹脂層13の体積膨張が少なく、両層の屈折率は経時的にほとんど変化しない。そのため、図3(b)に示すように回折光学素子10の中心Oにおいては、2つの樹脂層の屈折率差の経時的にほとんど変化しない。なお、N1cおよびN2cは、高温高湿環境に晒す前および高温高湿環境に晒した後の時間経過によらずN1c>N2cを満たしている。
【0054】
図3(c)は、回折光学素子10の第1樹脂層12の周縁部での屈折率N1eおよび第2樹脂層13の周縁部での屈折率N2eの経時変化を示している。図3(d)は、第1樹脂層12の周縁部での屈折率N1eと第2樹脂層13の周縁部での屈折率N2eとの屈折率差の経時変化を示している。図3(c)に示すように回折光学素子10の周縁部においては、外周に近く水分が侵入するため、第1樹脂層12および第2樹脂層13に体積膨張が発生し、両層の屈折率は時間経過とともに低下している。第2樹脂層13よりも膨張率が大きい第1樹脂層12の屈折率N1eは、第2樹脂層13の屈折率N2eよりも大きな割合で低下している。なお、N1eおよびN2eは、高温高湿環境に晒す前および高温高湿環境に晒した後の時間経過によらずN1e>N2eを満たしている。
【0055】
図3(e)は、回折光学素子10の中心Oの回折効率および周縁部の回折効率の経時変化を示している。図3(e)では、本実施形態による回折光学素子10の中心Oの回折効率および周縁部の回折効率の経時変化を実線で示し、周縁部の回折格子15の格子高さを変えなかった場合の周縁部の回折効率の経時変化を破線で示している。本実施形態では、周縁部を含む第2領域Bの回折格子15の格子高さを上述のように高くしたことで、周縁部の回折効率の設計値からの乖離が小さく抑制されている。
【0056】
ここで、第1樹脂層12における屈折率N1cと屈折率N1eとは、互いに同じであっても互いに異なっていてもよい。また、第2樹脂層13における屈折率N2cと屈折率N2eとは、互いに同じであっても互いに異なっていてもよい。
【0057】
また、最も外側に位置する回折格子15、すなわち周縁部の回折格子15が最も水分の影響を受け、屈折率差の設計値からの乖離が大きくなるが、周縁部から内側の回折格子も、屈折率差の設計値からの乖離が発生し、回折効率の悪化が起こる。
【0058】
具体的には、高温高湿条件(温度60℃湿度85%2000時間)においては、樹脂層の外周部から素子の中心に向かって6mmほど内側まで、屈折率差の変化が見られた。そのため、屈折率差の変化する領域において、回折格子の格子高さを高くすることが望ましい。
【0059】
図3(f)は、高温高湿環境に長時間晒された場合の第1樹脂層12の屈折率と第2樹脂層13の屈折率N2との屈折率差の径方向変化を示している。高温高湿環境に長時間晒されると、図3(f)に示すように、変位点tを境に外周に向けて屈折率差(N1-N2)が徐々に小さくなっていく。
【0060】
図3(f)に示すように屈折率差が小さくなる変化に対しては、屈折率差の変化に応じて格子高さを外周に向けて徐々に高くすることにより回折効率の低下を小さく抑制しまたは防止することができる。図3(g)は、変曲点tを境に外周側で屈折率差の変化に応じて格子高さを外周に向けて徐々に高くした場合の格子高さの径方向変化を示している。また、図3(h)は、図3(f)にN1-N2で示す屈折率差の変化に対して図3(g)に示すように格子高さを高くした場合の回折効率の径方向変化を示している。図3(g)に示すように変曲点tを境に外周側で屈折率差の変化に応じて格子高さを外周に向けて徐々に高くすることにより、図3(h)に示すように回折効率の低下を小さく抑制しまたは防止することができる。なお、図3(h)には、格子高さを変化させなかった場合の回折効率を破線で示している。
【0061】
図3(g)および図3(h)によれば、第2領域Bにおいて、回折格子15の格子高さが外周に向けて徐々に高くなっていることが好ましい。すなわち、第2領域Bにおいて、内側からn番目の回折格子15の格子高さdBnおよびこれに外周に隣り合う内側から(n+1)番目の回折格子15の格子高さdB(n+1)は、dBn≦dB(n+1)の関係を満たすことが好ましい。
【0062】
また、図3(g)に示すように格子高さを外周に向けて徐々に高くすることに代えて、変位点tを境に格子高さを外周側で高くし、そこから外周に向けて格子高さを変化させずに一定とする場合も、回折効率の低下を小さく抑制しまたは防止することができる。図3(i)は、変位点tを境に格子高さを外周側で高くし、そこから外周に向けて格子高さを変化させない場合の格子高さの径方向変化を示している。図3(j)は、図3(f)に示す屈折率差の変化に対して図3(i)に示すように格子高さを高くした場合の回折効率の径方向変化を示している。図3(i)に示すように変位点tを境に格子高さを高くし、そこから外周に向けて格子高さを変化させないことによっても、図3(j)に示すように回折効率の低下を小さく抑制することができる。この場合、格子高さを高くする第2領域Bにおける屈折率差の平均値を基に格子高さを設定するとよい。なお、図3(j)にも、格子高さを変化させなかった場合の回折効率を破線で示している。
【0063】
図3(i)および図3(j)によれば、第2領域Bにおいて、回折格子15の格子高さが外周に向けて変化せずに一定であってもよい。すなわち、第2領域Bにおいて、内側からn番目の回折格子15の格子高さdBnおよびこれに外周に隣り合う内側から(n+1)番目の回折格子15の格子高さdB(n+1)は、dBn=dB(n+1)の関係を満たしてもよい。
【0064】
第2領域Bにおける回折格子15の格子高さは、2つの樹脂の屈折率差によって決まるが、第2領域Bの内側からn番目(nは正の整数)の回折格子15の格子高さをdBnとするとき、dAおよびdBnが下記の式1の関係を満たすことが好ましい。
1.001≦dBn/dA≦1.04 (式1)
【0065】
式1の関係を満たすことで、高温高湿環境に晒される前の初期の回折効率の低下および高温高湿環境に晒された後の回折効率の低下を両方とも小さく抑えまたは防止することができる。
【0066】
また、第1樹脂層12と第2樹脂層13との間の中心Oでの屈折率差をΔNA、第1樹脂層12と第2樹脂層13との間の第2領域Bの内側からn番目の回折格子15での屈折率差をΔNBnとする。このとき、ΔNA、ΔNBn、dAおよびdBnは、下記の式2を満たすことがより好ましい。
0.96≦(ΔNBn/ΔNA)×(dBn/dA)≦1.04 (式2)
【0067】
式2の関係を満たすことで、高温高湿環境に晒された後の回折効率の低下をより小さく抑えることができる。
【0068】
上述のように、回折光学素子が高温高湿環境に長時間晒されることで、外周からの膨潤によって引き起こされる樹脂層の屈折率差の低下が起き、結果として、回折効率の低下が起こりうる。これに対して、本実施形態によれば、あらかじめ外周を含む周辺部である領域Bの回折格子15の格子高さを、中心を含む領域Aに比べ高くしてあるため、屈折率差の低下分を補い、回折効率の低下を小さく抑制または防止することができる。特に、1.001≦dB/dA≦1.04の関係を満たすように格子高さを設定することで、初期の回折効率および高温高湿環境に長時間晒された後の回折効率の両方の低下を小さく抑制しまたは防止することができる。こうして、本実施形態によれば、高温高湿環境に長時間晒されても回折効率が変動しにくい回折光学素子を提供することができる。
【0069】
[回折光学素子の製造方法]
続いて、本実施形態による回折光学素子10の製造方法を説明する。以下、回折光学素子10の製造工程の一例として、紫外線硬化性樹脂を用いて、2枚のガラス基材の間に2つの樹脂層が形成される回折光学素子の製造工程を説明する。回折光学素子10の形状は図1に示す形状である。
【0070】
まず、第1基材11および第2基材14としてガラス基材を用意する。ガラス基材は、積層する樹脂層との密着性を向上させるため、樹脂層と密着する表面に前処理をしておくことが好ましい。ガラス基材の表面の前処理は、樹脂層との親和性が良好なシランカップリング剤を用いてカップリング処理をする前処理であることが好ましい。具体的なカップリング剤としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、メチルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシランなどが挙げられる。
【0071】
初めに、第1基材11上に第1樹脂層12を形成する。第1樹脂層12は、紫外線硬化樹脂である第1樹脂組成物12aを用いて図4(a)および図4(b)に示す工程により形成する。
【0072】
まず、図4(a)に示すように、金型1の上に第1樹脂層12の前駆体である未硬化の第1樹脂組成物12aを滴下する。また、第1基材11をイジェクタ4に載せて、第1基材11を金型1の上方から金型1に対向するように配置する。ここで用いる金型1は、回折格子15の所望の回折格子形状の反転形状を表面に有する型である。金型1は、例えば、ステンレス材や鋼材などの金属母材上にNiPメッキや無酸素銅メッキしたものを精密加工機で切削することで作製できる。このとき、金型1の形状は、使用する樹脂材料の膨潤率、屈折率に応じて格子高さが高い第2領域Bを有するように加工されている。なお、金型1に代えて、樹脂などの金属以外の材料による型を用いることもできる。
【0073】
次に、図4(b)に示すように、イジェクタ4を降下させて金型1と第1基材11との間に未硬化の第1樹脂組成物12aを充填させる。その後、紫外線光源5を用いて第1基材11側から紫外線を照射し、第1樹脂組成物12aを硬化させて第1樹脂層12を形成する。
【0074】
その後、図4(c)に示すように、硬化した第1樹脂層12を金型1から離型する。なお、離型の前後において、第1樹脂層12に対して、例えば、加熱アニール、紫外線の追加照射、酸素雰囲気での加熱や紫外線照射などを行うこともできる。
【0075】
次いで、第2樹脂層13を形成する。第2樹脂層13は、紫外線硬化樹脂である第2樹脂組成物13aを用いて図4(d)および図4(e)に示す工程により形成する。
【0076】
まず、図4(d)に示すように、回折格子15の回折格子形状が形成された第1樹脂層12の上に第2樹脂層13の前駆体である未硬化の第2樹脂組成物13aを滴下する。また、第2基材14をイジェクタ9に載せて、第2基材14を第1基材11の上方から第1基材11に対向するよう配置する。なお、第2樹脂組成物13aは、第1樹脂組成物12aと光学特性(屈折率およびアッベ数)が異なる別の樹脂組成物である。
【0077】
次に、図4(e)に示すように、イジェクタ9を降下させて第1基材11および第1樹脂層12と第2基材14との間に未硬化の第2樹脂組成物13aを充填させる。その後、紫外線光源5を用いて第2基材14側から紫外線を照射し、第2樹脂組成物13aを硬化させて第2樹脂層13を形成する。
以上の工程によって、本実施形態による回折光学素子10を得ることができる。
【0078】
[撮像装置]
図5は、本発明の撮像装置の好適な実施形態の一例である、一眼レフデジタルカメラの構成を示している。図5において、カメラ本体602と光学機器であるレンズ鏡筒601とが結合されているが、レンズ鏡筒601はカメラ本体602に対して着脱可能ないわゆる交換レンズである。
【0079】
被写体からの光は、レンズ鏡筒601の筐体620内の撮影光学系の光軸上に配置された複数のレンズ603、605などからなる光学系を通過し、撮像素子610に受光される。本発明の回折光学素子は例えば、レンズ605に用いることができる。
【0080】
ここで、レンズ605は筐体内の内筒604によって支持されて、フォーカシングやズーミングのためにレンズ鏡筒601の外筒に対して可動支持されている。
【0081】
撮影前の観察期間では、被写体からの光は、カメラ本体の筐体621内の主ミラー607により反射され、プリズム611を透過後、ファインダレンズ612を通して撮影者に撮影画像が映し出される。主ミラー607は例えばハーフミラーとなっており、主ミラーを透過した光はサブミラー608によりAF(オートフォーカス)ユニット613の方向に反射され、例えばこの反射光は測距に使用される。また、主ミラー607は主ミラーホルダ640に接着などによって装着、支持されている。不図示の駆動機構を介して、撮影時には主ミラー607とサブミラー608を光路外に移動させ、シャッタ609を開き、撮像素子610にレンズ鏡筒601から入射した撮影光像を結像させる。また、絞り606は、開口面積を変更することにより撮影時の明るさや焦点深度を変更できるよう構成される。
【実施例0082】
以下に、実施例を用いてより詳細に本発明を説明する。なお、実施例と対比して示す比較例について、実施例と対応する構成について実施例と同一の符号を便宜的に用いる。
まず、回折光学素子の評価方法について説明する。
【0083】
(d線の屈折率測定)
実施例および比較例の回折光学素子10から第1基材11および/または第2基材14を剥がして第1樹脂層12および第2樹脂層13の樹脂を取り出すことで、第1樹脂層12および第2樹脂層13のそれぞれについて屈折率を測定することが可能である。樹脂を取り出して得られたサンプルについて、精密屈折計(KPR-30、(株)島津製作所)を用いて587.6nmの波長(d線)の屈折率を測定した。
【0084】
(膨潤率の測定)
実施例および比較例の回折光学素子10の第1樹脂層12および第2樹脂層13の膨潤率は、膨潤率測定用のサンプルを作成して測定した。なお、膨潤率測定用のサンプルを用いずとも、屈折率測定と同様に、回折光学素子から基材を剥がして樹脂を取り出して膨潤率を測定することも可能である。
【0085】
膨潤率測定用のサンプルは、厚さ1mmのガラス(BK7)上に測定対象の第1樹脂層12または第2樹脂層13の厚さが500μm、ガラス面内の大きさが5mm×20mmとなるように設けたものである。具体的な製造方法は、まず、厚さ1mmのガラス(BK7)の上に、厚さ500μmのスペーサーと測定対象の前駆体である未硬化の樹脂組成物を配置した。その上に厚さ1mmの石英ガラスを、スペーサーを介して載せ、樹脂組成物を押し広げた。その後、石英ガラスの上から、高圧水銀ランプ(HOYA CANDEO OPTRONICS製:UL750)を用いて、20mW/cm(=石英ガラスを通した照度)で2500秒の条件(50J)で光を照射して樹脂組成物を硬化させた。
【0086】
膨潤率の測定は、まず、サンプルの寸法を光学顕微鏡で測定してサンプルの体積を算出した。続いて、このサンプルを純水が入ったビーカーに入れて24時間浸漬させた。その後、再度、サンプルの寸法を光学顕微鏡で測定してサンプルの体積を算出した。そして、純水に浸した後のサンプルの体積を純水に浸す前のサンプルの体積で除して百分率表記したものを膨潤率とした。
【0087】
また、第1樹脂層12の膨潤率をα、第2樹脂層13の膨潤率をβとして、第2樹脂層13の膨潤率βに対する第1樹脂層12の膨潤率αの比であるα/βを算出した。
【0088】
(格子高さの評価)
回折光学素子10の回折格子15の格子高さは、非接触式形状測定機(zygо社製:NewView7000)により測定した。所望の回折格子15の段差部および段差部に隣接する回折格子の斜面部の3次元形状を測定し、一方の斜面の近似直線の任意の点に直行する直線を引き、もう一方の斜面の近似直線と交わる点までの点と点の距離を格子高さとした。
【0089】
(回折効率の評価)
回折光学素子10の回折効率は、自動光学素子測定装置(分光計器社製:ASP-32)により測定した。任意のスポット光を回折光学素子10に照射して、まずは透過光の光量を測定した。続いて設計次数である1次の回折光の光量を測定し、透過光の全光量に対する設計次数の光量の比を百分率で表記したものを回折効率とした。回折効率は、その値に応じて評価の高いものから低い順にA、B、Cの3段階で評価した。
【0090】
また、回折光学素子10を温度60度、湿度80%に設定した恒温槽に入れ、2000時間経過した後に回折光学素子10を取り出し、回折効率の変化を評価した。恒温槽から取り出した後の回折効率が94%以上のものをA、92%以上94%未満のものをB、92%未満のものをCとした。各回折光学素子10とも95%の回折効率になるよう設計されたものであり、94%以上であれば変動率が1%以下であることを意味している。すなわち、92%未満のものは3%以上変動していることを意味している。
【0091】
[実施例1]
(回折光学素子の製造)
第1基材11には、材質がS-TIM8(オハラ社製)、直径60mm、一方の面が平面で、他方の面の曲率半径Rが190mmの凹球面形状のガラスレンズを用いた。第2基材14には、材質がS-FSL5(オハラ社製)、直径58mm、一方の面の曲率半径Rが70mmの凸球面形状、他方の面の曲率半径Rが190mmの凸球面形状のガラスレンズを用いた。金型1は、金属母材上にメッキしたNiP層を精密加工機で切削加工し、所望の格子形状および外周形状を反転した形状を形成したものを用いた。
【0092】
続いて、第1樹脂組成物12aを調製した。第1樹脂組成物12aの成分として、4-メルカプトメチル-3,6-ジチア-1,8-オクタンジチオールを51質量部、イソシアヌル酸トリアリルを33質量部、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)を14質量部それぞれ用意した。これらに重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を均一になるまで自転・公転ミキサーARV-310((株)シンキー社製)を用いて混合し、第1樹脂組成物12aを得た。
【0093】
続いて、第2樹脂組成物13aを調製した。第2樹脂組成物13aの成分として、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンを45質量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート53質量部と、をそれぞれ用意した。これらに重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量部を均一になるまで自転・公転ミキサーARV-310((株)シンキー社製)を用いて混合し、第2樹脂組成物13aを得た。
【0094】
次に、金型1と第1基材11との間に、第1樹脂組成物12aを充填した。その後、波長365nm、強度20mW/cmの紫外線を200秒間、均一な照度分布で照射して第1樹脂組成物12aを硬化した。次いで、硬化後の第1樹脂組成物12aを金型1から離型して、第1基材11上に第1樹脂層12を形成した。この状態でオーブンに入れ、真空中で温度80℃の条件で24時間加熱した。このように形成した回折光学素子10は、第1基材11の外径φ60mm、第1樹脂層12の外径φ57mm、回折格子15の形成された領域はφ55mmであった。回折格子15は、φ48mmからφ55mmの領域において、隣り合う回折格子の格子高さが外周に向けて約0.3%ずつ高くなっていく形状となっている。
【0095】
次に、第1樹脂層12と第2基材14との間に、第2樹脂組成物13aを充填した。その後、素子の中心からΦ48mmの領域(中心部)に、波長365nm、強度10mW/cmの紫外線を100秒間照射した。続けて、波長365nm、強度20mW/cmの紫外線を100秒間照射して第2樹脂組成物13aを硬化した。最後にオーブンに入れ、真空中で温度80℃の条件で72時間加熱し、実施例1の回折光学素子10を得た。
【0096】
得られた回折光学素子10は、第1樹脂層12の回折格子15を除いたベース部12bの厚さが30μm、第2樹脂層13の回折格子15を除いたベース部13bの厚さが50μmであった。この回折光学素子10において、中心を含むφ48mmより内側の領域、すなわち第1領域Aの格子高さは20μmであった。また、φ48mm以上で外周部を含む領域、すなわち第2領域Bでは、第1領域Aに隣り合う回折格子15の格子高さが20.06μmであった。また、第2領域Bでは、外周に向かうにつれ約0.3%ずつ格子高さが高くなり、最外周の回折格子(周縁部)15の格子高さは、20.8μmであった。第1樹脂層12の膨潤率は0.40、第2樹脂層13の膨潤率は0.08であった。また、第1樹脂層12および第2樹脂層13の耐久試験前の屈折率は次のとおりとなった。すなわち、第1樹脂層12の中心部および周縁部のd線における屈折率は1.6221であった。また、第2樹脂層13の中心部および周縁部のd線における屈折率は1.5881であった。
【0097】
(回折光学素子の評価)
得られた回折光学素子10を温度60℃、湿度80%の高温高湿環境において2000時間耐久試験を行った。耐久試験前後の屈折率差と回折効率を評価した結果、第1樹脂層12と第2樹脂層13との周縁部の屈折率差は耐久試験前が0.034であり、耐久試験後が0.0324であった。屈折率差の設計値である0.034に対しては約5%変化した。耐久試験前の周縁部の回折効率は92.2%であった。評価はBとした。これは、周縁部の格子高さを高くしたためである。また、耐久試験後の周縁部の回折効率は94.8%であった。評価はAとした。これは、周縁部の屈折率差の変化を格子高さで補正したためであり、中心付近の回折効率95.0%とほぼ同等の性能を示した。
【0098】
[実施例2]
実施例2は、前記金型1の第2領域Bに相当する領域における格子高さを変更し、隣り合う回折格子15の格子高さが外周に向けて約0.1%ずつ高くなっていく形状とし、回折光学素子10の最外周の回折格子(周縁部)15の格子高さを20.2μmとした。これ以外は、実施例1と同様の条件で回折光学素子10を製造した。
【0099】
(回折光学素子の評価)
得られた回折光学素子10を温度60℃、湿度80%の高温高湿環境において2000時間耐久試験を行った。耐久試験前後の屈折率差と回折効率を評価した結果、第1樹脂層12と第2樹脂層13との周縁部の屈折率差は耐久試験前が0.034であり、耐久試験後が0.0324であった。屈折率差の設計値である0.034に対しては約5%変化した。耐久試験前の周縁部の回折効率は94.5%であった。評価はAとした。これは、周縁部の格子高さを高くしたためであるが、実施例1にくらべ格子高さの高さ変化が小さいため、回折効率の低下は少なかった。また、耐久試験後の周縁部の回折効率は92.4%であった。評価はBとした。
【0100】
[実施例3]
実施例3は、前記金型1の第2領域Bに相当する領域における格子高さを、第2領域Bと隣接する第1領域Aの回折格子の格子高さに対し一様に2%高くなる形状とし、回折光学素子10の第2領域Bの格子高さを20.4μmとした。これ以外は、実施例1と同様の条件で回折光学素子10を製造した。
【0101】
(回折光学素子の評価)
得られた回折光学素子10を温度60℃、湿度80%の高温高湿環境において2000時間耐久試験を行った。耐久試験前後の屈折率差と回折効率を評価した結果、第1樹脂層12と第2樹脂層13との周縁部の屈折率差は耐久試験前が0.034であり、耐久試験後が0.0324であった。屈折率差の設計値である0.034に対しては約5%変化した。耐久試験前の周縁部の回折効率は93.5%であった。評価はBとした。また、耐久試験後の周縁部の回折効率は93.1%であった。評価はBとした。
【0102】
[実施例4]
実施例4は、第2樹脂組成物13aの調製の工程において、ペンタエリスリトールトリアクリレート53質量部の代わりに、ペンタエリスリトールトリアクリレート46質量部、ウレタン変性ポリエステルアクリレート7質量部を使用した。その点以外は、実施例2と同様の条件で回折光学素子10を製造した。なお、第2樹脂層13の膨潤率は0.31であった。
【0103】
(回折光学素子の評価)
得られた回折光学素子10を温度60℃、湿度80%の高温高湿環境において2000時間耐久試験を行った。耐久試験前後の屈折率差と回折効率を評価した結果、第1樹脂層12と第2樹脂層13との周縁部の屈折率差は耐久試験前が0.034であり、耐久試験後が0.0329であった。屈折率差の設計値である0.034に対しては約3%変化した。耐久試験前の周縁部の回折効率は94.5%であった。評価はAとした。また、耐久試験後の周縁部の回折効率は93.4%であった。評価はBとした。
【0104】
[比較例1]
比較例1は、金型1の格子高さをすべての領域でほぼ一定とし、回折光学素子の格子高さを20μmとした以外は、実施例1と同様の条件で回折光学素子10を製造した。
【0105】
(回折光学素子の評価)
得られた回折光学素子10を温度60℃、湿度80%の高温高湿環境において2000時間耐久試験を行った。耐久試験前後の屈折率差と回折効率を評価した結果、第1樹脂層12と第2樹脂層13との周縁部の屈折率差は耐久試験前が0.034であり、耐久試験後が0.0324であった。屈折率差の設計値である0.034に対しては約5%変化した。耐久試験前の周縁部の回折効率は95%であった。評価はAとした。また、耐久試験後の周縁部の回折効率は90.8%であった。評価はCとした。
【0106】
(回折光学素子の評価)
得られた回折光学素子10を温度60℃、湿度80%の高温高湿環境において2000時間耐久試験を行った。耐久試験前後の屈折率差と回折効率を評価した結果、第1樹脂層12と第2樹脂層13との周縁部の屈折率差は耐久試験前が0.034であり、耐久試験後が0.0356であった。屈折率差の設計値である0.034に対しては約5%変化した。耐久試験前の周縁部の回折効率は94.5%であった。評価はAとした。また、耐久試験後の周縁部の回折効率は89.2%であった。評価はCとした。これは、耐久試験によって、2つの樹脂層間の屈折率差が広がったにもかかわらず、第2領域Bの格子高さを高くした結果として、回折効率がより低下してしまったことを示している。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
表1および表2に示す実施例1から4では、高温高湿環境における耐久試験を行っても、回折効率が高く維持できていることがわかる。これは、素子の外周から空気中の水分が樹脂層に侵入し、膨潤率が高い樹脂層の屈折率が大きく低下しても、その部分の格子高さを高くすることで、2つの樹脂層の屈折率差が設計値からの乖離を補正できたことを意味する。
【0110】
一方、比較例1では、格子高さを一様の高さにしたため、耐久試験による周縁部の屈折率差が変化した影響により回折効率が悪化した。
【符号の説明】
【0111】
10 回折光学素子
12 第1樹脂層
12a 第1樹脂組成物
13 第2樹脂層
13a 第2樹脂組成物
11 第1基材
14 第2基材
15 回折格子
16 第1面
17 第2面
18 凸部
19 外周
600 撮像装置(デジタルカメラ)
601 光学機器(レンズ鏡筒)
602 カメラ本体
603 レンズ
605 レンズ
図1
図2
図3
図4
図5