(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145571
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】コンテンツ評価装置、プログラム、方法、及びシステム
(51)【国際特許分類】
G06T 11/80 20060101AFI20231003BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20231003BHJP
【FI】
G06T11/80 F
G06T7/00 300F
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118824
(22)【出願日】2023-07-21
(62)【分割の表示】P 2023515733の分割
【原出願日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2022013011
(32)【優先日】2022-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000139403
【氏名又は名称】株式会社ワコム
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】井出 信孝
(72)【発明者】
【氏名】玉野 浩
(72)【発明者】
【氏名】田内 文太
(72)【発明者】
【氏名】柯 勁甫
(57)【要約】
【課題】単に完成品の描画内容を用いて評価する場合と比べて、コンテンツをより精緻に評価可能なコンテンツ評価装置、プログラム、方法、及びシステムを提供する。
【解決手段】コンテンツ評価装置(16)は、コンテンツ(80)の創作の開始時点から終了時点までの創作期間内における描画状態に関する状態特徴量を算出し、状態特徴量を表現するための特徴量空間(90)上の点の集合又は軌跡である絵紋(100)を生成する。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンテンツの創作の開始時点から終了時点までの創作期間内における描画状態に関する状態特徴量を算出する特徴量算出部と、
前記特徴量算出部により算出された前記状態特徴量を表現するための特徴量空間上の点の集合又は軌跡である絵紋を生成する絵紋生成部を備える、コンテンツ評価装置。
【請求項2】
前記絵紋に関する絵紋情報又は前記絵紋情報から派生した派生情報の表示を指示する表示指示部をさらに備える、
請求項1に記載のコンテンツ評価装置。
【請求項3】
前記状態特徴量は、3よりも大きい次元数を有し、
前記絵紋情報は、次元数が3以下に削減された前記絵紋である、
請求項2に記載のコンテンツ評価装置。
【請求項4】
前記派生情報は、前記コンテンツの創作者に気づきを与えるための気づき情報である、
請求項2に記載のコンテンツ評価装置。
【請求項5】
前記絵紋を示す絵紋データを用いて前記コンテンツを評価するコンテンツ評価部をさらに備える、
請求項1~4のいずれか1項に記載のコンテンツ評価装置。
【請求項6】
一連の操作を通じて創作されるコンテンツの描画状態に関する状態特徴量の時系列を算出する第1算出部と、
前記第1算出部により算出された前記状態特徴量の時系列を用いて、単独の又は連続する操作の前後にわたる状態特徴量の変化量を求め、前記変化量から前記単独の又は連続する操作に関する操作特徴量を算出する第2算出部と、
を備える、コンテンツ評価装置。
【請求項7】
前記状態特徴量は、単語同士の関係性を示す概念グラフにより定義される特徴量空間上の座標値である、
請求項6に記載のコンテンツ評価装置。
【請求項8】
前記概念グラフは、言語の種類毎に設けられ、
前記第1算出部は、前記コンテンツを示すコンテンツデータ及び前記コンテンツの創作に関わる関連データのうち少なくとも一方から言語の種類を特定し、前記言語の種類に対応する前記概念グラフを用いて前記状態特徴量の時系列を算出する、
請求項7に記載のコンテンツ評価装置。
【請求項9】
前記第1算出部は、少なくとも、前記コンテンツのラスタデータ及びストロークデータの両方に基づいて前記状態特徴量の時系列を算出する、
請求項6に記載のコンテンツ評価装置。
【請求項10】
前記単独の操作は、1本のストロークを描画するためのストローク操作である、
請求項6に記載のコンテンツ評価装置。
【請求項11】
前記操作特徴量は、前記ストローク操作が行われる直前の第1描画状態を始点とし、前記ストローク操作が行われた直後の第2描画状態を終点とするベクトルの大きさ又は向きである、
請求項10に記載のコンテンツ評価装置。
【請求項12】
前記状態特徴量又は前記操作特徴量の時系列を用いて、前記コンテンツの描画状態に対応する創作工程の種類を識別する工程識別部をさらに備える、
請求項6~11のいずれか1項に記載のコンテンツ評価装置。
【請求項13】
一連の操作を通じて創作されるコンテンツの描画状態に関する状態特徴量の時系列を算出する第1算出ステップと、
算出された前記状態特徴量の時系列を用いて、単独の又は連続する操作の前後にわたる状態特徴量の変化量を求め、前記変化量から前記単独の又は連続する操作に関する操作特徴量を算出する第2算出ステップと、
を1つ又複数のコンピュータに実行させる、コンテンツ評価プログラム。
【請求項14】
一連の操作を通じて創作されるコンテンツの描画状態に関する状態特徴量の時系列を算出する第1算出ステップと、
算出された前記状態特徴量の時系列を用いて、単独の又は連続する操作の前後にわたる状態特徴量の変化量を求め、前記変化量から前記単独の又は連続する操作に関する操作特徴量を算出する第2算出ステップと、
を1つ又複数のコンピュータが実行する、コンテンツ評価方法。
【請求項15】
一連の操作を通じて創作されるコンテンツを示すコンテンツデータを生成可能なユーザ装置と、
前記ユーザ装置との間で通信可能に構成されるサーバ装置と、
を備え、
前記サーバ装置は、
前記コンテンツの描画状態に関する状態特徴量の時系列を算出する第1算出部と、
前記第1算出部により算出された前記状態特徴量の時系列を用いて、単独の又は連続する操作の前後にわたる状態特徴量の変化量を求め、前記変化量から前記単独の又は連続する操作に関する操作特徴量を算出する第2算出部と、
を備える、コンテンツ評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンテンツ評価装置、プログラム、方法、及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンピュータシステムを用いて、無体物であるデジタルコンテンツ(以下、単に「コンテンツ」ともいう)を複数のユーザ同士で共有するための技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近時、人工知能技術の進歩に伴い、コンテンツを生成するための様々な機械学習モデル(一例として、敵対的生成ネットワーク;GANs)が提案されている。例えば、この類の機械学習モデルを用いて、コンテンツの模倣品が自動的かつ精緻に生成できるようになれば、完成品の描画内容を単に比較するだけでは、コンテンツの真贋の判定が難しくなることが予想される。
【0005】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、単に完成品の描画内容を用いて評価する場合と比べて、コンテンツをより精緻に評価可能なコンテンツ評価装置、プログラム、方法、及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様におけるコンテンツ評価装置は、コンテンツの創作の開始時点から終了時点までの創作期間内における描画状態に関する状態特徴量を算出する特徴量算出部と、前記特徴量算出部により算出された前記状態特徴量を表現するための特徴量空間上の点の集合又は軌跡である絵紋を生成する絵紋生成部を備える。
【0007】
本発明の第2態様におけるコンテンツ評価装置は、一連の操作を通じて創作されるコンテンツの描画状態に関する状態特徴量の時系列を算出する第1算出部と、前記第1算出部により算出された前記状態特徴量の時系列を用いて1つの操作の前後にわたる状態特徴量の変化量を求め、前記変化量から前記1つの操作に関する操作特徴量を算出する第2算出部と、を備える。
【0008】
本発明の第3態様におけるコンテンツ評価プログラムは、一連の操作を通じて創作されるコンテンツの描画状態に関する状態特徴量の時系列を算出する第1算出ステップと、算出された前記状態特徴量の時系列を用いて1つの操作の前後にわたる状態特徴量の変化量を求め、前記変化量から前記1つの操作に関する操作特徴量を算出する第2算出ステップと、を1つ又複数のコンピュータに実行させる。
【0009】
本発明の第4態様におけるコンテンツ評価方法では、一連の操作を通じて創作されるコンテンツの描画状態に関する状態特徴量の時系列を算出する第1算出ステップと、
算出された前記状態特徴量の時系列を用いて1つの操作の前後にわたる状態特徴量の変化量を求め、前記変化量から前記1つの操作に関する操作特徴量を算出する第2算出ステップと、を1つ又複数のコンピュータが実行する。
【0010】
本発明の第5態様におけるコンテンツ評価システムは、一連の操作を通じて創作されるコンテンツを示すコンテンツデータを生成可能なユーザ装置と、前記ユーザ装置との間で通信可能に構成されるサーバ装置と、を備え、前記サーバ装置は、前記コンテンツの描画状態に関する状態特徴量の時系列を算出する第1算出部と、前記第1算出部により算出された前記状態特徴量の時系列を用いて1つの操作の前後にわたる状態特徴量の変化量を求め、前記変化量から前記1つの操作に関する操作特徴量を算出する第2算出部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、単に完成品の描画内容を用いて評価する場合と比べて、コンテンツをより精緻に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態におけるコンテンツ評価システムの全体構成図である。
【
図2】
図1におけるサーバ装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図2に示す特徴量算出部の詳細な機能ブロック図である。
【
図4】サーバ装置による特徴量情報の算出動作の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図1のユーザ装置を用いて創作されたコンテンツの一例を示す図である。
【
図6】
図5におけるアートワークの描画状態の遷移を示す図である。
【
図7】
図1及び
図2のコンテンツデータが有するデータ構造の一例を示す図である。
【
図8】
図3のグラフデータが有するデータ構造の一例を示す図である。
【
図9】第1絵紋データが有するデータ構造の一例を示す図である。
【
図10】状態特徴量の算出方法の一例を示す図である。
【
図11】第2絵紋データが有するデータ構造の一例を示す図である。
【
図12】操作特徴量の算出方法の一例を示す図である。
【
図13】創作工程の識別方法の第1例を示す図である。
【
図14】創作工程の識別方法の第2例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0014】
[コンテンツ評価システム10の構成]
<全体構成>
図1は、本発明の一実施形態におけるコンテンツ評価システム10の全体構成図である。コンテンツ評価システム10は、電子化されたコンテンツ(いわゆるデジタルコンテンツ)を評価するための「コンテンツ評価サービス」を提供するために設けられる。このコンテンツ評価システム10は、具体的には、1つ又は複数のユーザ装置12と、1本又は複数本の電子ペン14と、サーバ装置16(「コンテンツ評価装置」に相当)と、を含んで構成される。各々のユーザ装置12とサーバ装置16とは、ネットワークNTを介して通信可能に接続されている。
【0015】
ユーザ装置12は、コンテンツ評価サービスを利用するユーザ(例えば、コンテンツの創作者)が所有するコンピュータであって、例えば、タブレット、スマートフォン、パーソナルコンピュータなどから構成される。ユーザ装置12は、いずれも後述するコンテンツデータD1及び関連データD2を生成し、自身が生成した各種データを、ネットワークNTを介してサーバ装置16に供給可能に構成される。このユーザ装置12は、具体的には、プロセッサ21と、メモリ22と、通信ユニット23と、表示ユニット24と、タッチセンサ25と、を含んで構成される。
【0016】
プロセッサ21は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)を含む演算処理装置によって構成される。プロセッサ21は、メモリ22に格納されたプログラム及びデータを読み出すことで、コンテンツを記述するインクデータ(以下、デジタルインクともいう)を生成する生成処理、デジタルインクが示すコンテンツを表示させるレンダリング処理などを行う。
【0017】
メモリ22は、プロセッサ21が各構成要素を制御するのに必要なプログラム及びデータを記憶している。メモリ22は、非一過性であり、かつ、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体から構成される。ここで、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、[1]コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク(HDD:Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)などの記憶装置、[2]光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD(Compact Disk)-ROM、フラッシュメモリなどの可搬媒体などから構成される。
【0018】
通信ユニット23は、外部装置との間で有線通信又は無線通信を行う通信機能を有する。これにより、ユーザ装置12は、例えば、サーバ装置16との間で、コンテンツデータD1、関連データD2、又は提示データD3などの様々なデータのやり取りを行うことができる。
【0019】
表示ユニット24は、画像又は映像を含むコンテンツを可視的に表示可能であり、例えば、液晶パネル、有機EL(Electro-Luminescence)パネル、電子ペーパーから構成される。なお、表示ユニット24に可撓性をもたせることで、ユーザは、ユーザ装置12のタッチ面を湾曲又は屈曲させた状態のまま、様々な筆記操作を行うことができる。
【0020】
タッチセンサ25は、複数のセンサ電極を面状に配置してなる静電容量方式のセンサである。このタッチセンサ25は、例えば、センサ座標系のX軸の位置を検出するための複数本のXライン電極と、Y軸の位置を検出するための複数本のYライン電極と、を含んで構成される。なお、タッチセンサ25は、上記した相互容量方式のセンサに代えて、ブロック状の電極を二次元格子状に配置した自己容量方式のセンサであってもよい。
【0021】
電子ペン14は、ペン型のポインティングデバイスであり、ユーザ装置12との間で一方向又は双方向に通信可能に構成される。この電子ペン14は、例えば、アクティブ静電結合方式(AES)又は電磁誘導方式(EMR)のスタイラスである。ユーザとしての生徒は、電子ペン14を把持し、ユーザ装置12が有するタッチ面にペン先を押し当てながら移動させることで、ユーザ装置12に絵や文字などを書き込むことができる。
【0022】
サーバ装置16は、コンテンツの評価に関する統括的な制御を行うコンピュータであり、クラウド型あるいはオンプレミス型のいずれであってもよい。ここで、サーバ装置16を単体のコンピュータとして図示しているが、サーバ装置16は、これに代わって分散システムを構築するコンピュータ群であってもよい。
【0023】
<サーバ装置16のブロック図>
図2は、
図1におけるサーバ装置16の構成の一例を示すブロック図である。サーバ装置16は、具体的には、通信部30と、制御部32と、記憶部34と、を備える。
【0024】
通信部30は、外部装置に対して電気信号を送受信するインターフェースである。これにより、サーバ装置16は、コンテンツデータD1及び関連データD2のうち少なくとも一方をユーザ装置12から取得するとともに、自身が生成した提示データD3をユーザ装置12に提供することができる。
【0025】
制御部32は、CPUやGPUを含むプロセッサにより構成される。制御部32は、記憶部34に格納されたプログラム及びデータを読み出して実行することで、データ取得部40、特徴量算出部42、コンテンツ評価部44(「真贋判定部」や「工程識別部」に相当)、情報生成部46(「絵紋生成部」に相当)及び表示指示部48として機能する。
【0026】
データ取得部40は、評価対象であるコンテンツに関する各種データ(例えば、コンテンツデータD1や関連データD2など)を取得する。データ取得部40は、通信を介して外部装置から各種データを取得してもよいし、各種データを記憶部34から読み出して取得してもよい。
【0027】
特徴量算出部42は、データ取得部40により取得されたコンテンツデータD1及び関連データD2のうち少なくとも一方から、コンテンツに関する特徴量を算出する。この特徴量には、[1]コンテンツの描画状態に関する特徴量(以下「状態特徴量」という)又は[2]コンテンツを創作するために行われた個々の操作に関する特徴量(以下、「操作特徴量」という)が含まれる。特徴量算出部42の具体的な構成については、
図3で詳しく説明する。
【0028】
コンテンツ評価部44は、特徴量算出部42により算出された状態特徴量又は操作特徴量の時系列を用いて、コンテンツを評価する評価処理を行う。コンテンツ評価部44は、例えば、[1]コンテンツの作風、[2]創作者の癖、[3]創作者の心理状態、又は[4]外部環境の状態を評価する。ここで、「作風」とは、コンテンツに現われた創作者の個性又は思想を意味する。「癖」の一例として、色使い、ストロークの描画傾向、機器の使い方の傾向、操作ミスの程度などが挙げられる。「心理状態」の一例として、喜怒哀楽を含む感情の他に、眠気、リラックス、緊張などの様々な状態が挙げられる。「外部環境」の一例として、周辺の明るさ、寒暖、天気、季節などが挙げられる。
【0029】
また、コンテンツ評価部44は、評価対象のコンテンツに対応する特徴量の時系列(つまり、第1時系列特徴量)と、真正のコンテンツに対応する特徴量の時系列(つまり、第2時系列特徴量)との間の類似度を求め、この類似度に基づいて評価対象のコンテンツの真贋性を判定する。この類似度には、例えば、相関係数、ノルムなどを含む様々な指標が用いられる。
【0030】
また、コンテンツ評価部44は、特徴量算出部42により算出された状態特徴量又は操作特徴量の時系列を用いて、コンテンツの描画状態に対応する創作工程の種類を推定することができる。創作工程の種類の一例として、構図工程、線画工程、色付け工程、仕上げ工程などが挙げられる。また、色付け工程は、例えば、下塗り工程、本塗り工程などに細分化されてもよい。
【0031】
情報生成部46は、特徴量算出部42により算出された各種特徴量(より詳しくは、状態特徴量又は操作特徴量)の時系列を用いて、いずれも後述する絵紋情報54又は派生情報56を生成する。あるいは、情報生成部46は、コンテンツ評価部44による評価結果を示す評価結果情報58を生成する。
【0032】
表示指示部48は、情報生成部46により生成された情報の表示を指示する。この「表示」には、サーバ装置16に設けられる出力デバイス(不図示)に表示する場合の他に、絵紋情報54、派生情報56又は評価結果情報58を含む提示データD3をユーザ装置12(
図1)などの外部装置に送信する場合も含まれる。
【0033】
記憶部34は、制御部32が各構成要素を制御するのに必要なプログラム及びデータを記憶している。記憶部34は、非一過性であり、かつ、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体で構成されている。ここで、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、[1]コンピュータシステムに内蔵されるHDD、SSDなどの記憶装置、[2]光磁気ディスク、ROM、CD-ROM、フラッシュメモリなどの可搬媒体などから構成される。
【0034】
図2の例では、記憶部34には、単語の概念に関するデータベース(以下、「概念グラフ50」という)、コンテンツに関するデータベース(以下、「コンテンツDB52」という)が構築されるとともに、絵紋情報54、派生情報56、及び評価結果情報58が格納されている。
【0035】
概念グラフ50は、単語同士の関係性を示すグラフ(つまり、オントロジーグラフ)であり、ノード及びリンク(あるいはエッジ)により構成される。ノードを構成する個々の単語には、N次元(例えば、N≧3)の特徴量空間上の座標値が対応付けられている。つまり、個々の単語は、自然言語処理の「分散表現」として定量化されている。
【0036】
概念グラフ50には、名詞、形容詞、副詞、動詞又はこれらを組み合わせた複合語が含まれる。また、概念グラフ50には、コンテンツの形態を直接的に表現する単語(例えば、物体の種類・色彩・形状・模様など)に限られず、感情や状態などの精神的な表現に関する単語が登録されてもよい。また、概念グラフ50には、日常的に使用される単語に限られず、日常的に使用されない単語(例えば、架空の物体、創作工程の種類)であってもよい。また、概念グラフ50は、日本語、英語、中国語などの言語の種類毎に設けられてもよい。概念グラフ50を使い分けることで、国毎又は地域毎の文化の違いをより精緻に反映させることができる。
【0037】
コンテンツDB52は、[1]コンテンツデータD1、[2]関連データD2、及び[3]コンテンツデータD1又は関連データD2を用いて生成された情報(以下、「生成情報」という)が関連付けて登録されている。この「生成情報」には、絵紋情報54、派生情報56、及び評価結果情報58が含まれる。
【0038】
コンテンツデータD1は、コンテンツを構成するコンテンツ要素の集合体であり、コンテンツの創作過程を表現可能に構成される。コンテンツデータD1は、例えば、手書きによるコンテンツを表現するためのインクデータ(以下、デジタルインク)からなる。デジタルインクを記述するための「インク記述言語」として、例えば、WILL(Wacom Ink Layer Language)、InkML(Ink Markup Language)、ISF(Ink Serialized Format)が挙げられる。コンテンツは、例えば、絵画、書画、イラスト、文字などを含むアートワーク(あるいは、デジタルアート)であってもよい。
【0039】
関連データD2は、コンテンツの創作に関連する様々な情報を含む。関連データD2には、例えば、[1]コンテンツの創作者の識別情報や属性などを含む創作者情報、[2]表示ユニット24の解像度・サイズ・種類、タッチセンサ25の検出性能・種類、筆圧カーブの形状などを含む「デバイスドライバ側の設定条件」、[3]コンテンツの種類、カラーパレットやブラシの色情報、視覚効果の設定などを含む「描画アプリ側の設定条件」、[4]描画アプリの実行を通じ逐次的に記憶されている「創作者の操作履歴」又は[5]創作者の生体状態を示す「バイタルデータ」などが挙げられる。
【0040】
絵紋情報54は、上記した特徴量空間上で定義される絵紋又は加工された絵紋を含む。ここで、「絵紋」は、状態特徴量を表現するための特徴量空間上の点の集合又は軌跡を意味する。「加工された絵紋」の一例として、次元数が削減された絵紋(すなわち、断面図)や、点数が間引かれた絵紋などが挙げられる。絵紋情報54は、上記した創作者情報、具体的には、コンテンツ又は創作者の識別情報と対応付けて記憶されている。
【0041】
派生情報56は、絵紋情報54から派生した情報であり、例えば、コンテンツの創作者に気づきを与えるための可視情報(以下、「気づき情報」という)を含む。気づき情報の一例として、[1]状態特徴量としての単語群や、[2]この単語群に含まれる単語を抽象化又は婉曲化した別の表現(例えば、特徴の強さを示すシンボル、類似性が高い別の単語など)が挙げられる。派生情報56は、絵紋情報54と同様に、創作者情報(具体的には、コンテンツ又は創作者の識別情報)と対応付けて記憶されている。
【0042】
評価結果情報58は、コンテンツ評価部44によるコンテンツの評価結果を示しており、評価結果の一例として、[1]分類カテゴリーや得点などを含む単体評価の結果、[2]類似度や真贋判定などを含む比較評価の結果が挙げられる。
【0043】
<特徴量算出部42の機能ブロック図>
図3は、
図2に示す特徴量算出部42の詳細な機能ブロック図である。この特徴量算出部42は、データ整形部60、ラスタライズ処理部62、単語変換部64、データ統合部66、状態特徴量算出部68(「第1算出部」に相当)及び操作特徴量算出部70(「第2算出部」に相当)として機能する。
【0044】
データ整形部60は、データ取得部40により取得されたコンテンツデータD1及び関連データD2に対して整形処理を行い、整形済みのデータ(以下、「非ラスタデータ」という)を出力する。具体的には、データ整形部60は、[1]両方のデータ同士を関連付ける関連付け処理、[2]コンテンツの創作期間内における一連の操作に順番を付与する付与処理、[3]不要なデータを除去する除去処理を行う。ここで、「不要データ」の一例として、[1]創作期間内で取り消されたユーザ操作に関する操作データ、[2]コンテンツの完成に寄与しないユーザ操作に関する操作データ、[3]上記した関連付け処理を行った結果、整合性が認められない各種データなどが挙げられる。
【0045】
ラスタライズ処理部62は、データ取得部40により取得されたコンテンツデータD1に含まれるベクトルデータをラスタデータに変換する「ラスタライズ処理」を行う。ベクトルデータは、ストロークの形態(例えば、形状、太さ、色など)を示すストロークデータを意味する。ラスタデータは、複数の画素値から構成される画像データを意味する。
【0046】
単語変換部64は、入力データを1つ又は2つ以上の単語(以下、単語群という)に変換するためのデータ変換処理を行う。単語変換部64は、第1単語群を出力するための第1変換器と、第2単語群を出力するための第2変換器と、を備える。
【0047】
第1変換器は、ラスタライズ処理部62からのラスタデータを入力とし、画像の検出結果(物体の種類及び位置に関する存在確率)を示すテンソルデータを出力とする学習器から構成される。この学習器は、例えば、機械学習がなされた畳み込みニューラルネットワーク(例えば、「Mask R-CNN」など)により構築されてもよい。単語変換部64は、概念グラフ50を記述するグラフデータ72を参照し、第1変換器により検出された物体の種類を示す単語群のうち、概念グラフ50に登録されている単語群を「第1単語群」として決定する。
【0048】
第2変換器は、データ整形部60からの非ラスタデータを入力とし、単語毎の得点を出力とする学習器から構成される。この学習器は、例えば、機械学習がなされたニューラルネットワーク(例えば、「LightGBM」や「XGBoost」など)により構築されてもよい。単語変換部64は、概念グラフ50を記述するグラフデータ72を参照し、第2変換器により変換された単語群のうち、概念グラフ50に登録されている単語群を「第2単語群」として決定する。
【0049】
データ統合部66は、単語変換部64により逐次的に得られた操作毎のデータ(より詳しくは、第1単語群及び第2単語群)を統合する。この操作は、1本のストロークを描画するための「ストローク操作」であるが、これと併せて又はこれとは別に、コンテンツの創作に影響し得る様々なユーザ操作であってもよい。また、この統合は、1つずつの操作単位で行われてもよいし、連続する2つ以上の操作単位で行われてもよい。
【0050】
状態特徴量算出部68は、少なくとも、コンテンツのラスタデータ及びストロークデータの両方に基づいて、一連の操作を通じて創作されるコンテンツの描画状態に関する特徴量(以下、「状態特徴量」という)を時系列的に算出する。この状態特徴量の時系列は、コンテンツに固有の模様である「絵紋」に相当する。この状態特徴量は、例えば、[1]単語群を構成する単語の種類・個数、又は[2]概念グラフ50により定義される特徴量空間上の座標値であってもよい。あるいは、状態特徴量算出部68は、コンテンツデータD1又は関連データD2から言語の種類を特定し、言語の種類に対応する概念グラフ50を用いて状態特徴量の時系列を算出してもよい。
【0051】
操作特徴量算出部70は、状態特徴量算出部68により算出された状態特徴量の時系列を用いて、単独の又は連続する操作の前後にわたる状態特徴量の変化量を求め、当該変化量から当該操作に関する操作特徴量を時系列的に算出する。この操作特徴量の時系列は、コンテンツに固有の模様である「絵紋」に相当する。この操作特徴量は、例えば、1つの操作が行われる直前の第1描画状態を始点とし、1つの操作が行われた直後の第2描画状態を終点とするベクトルの大きさ又は向きである。
【0052】
[コンテンツ評価システム10の動作]
この実施形態におけるコンテンツ評価システム10は、以上のように構成される。続いて、コンテンツ評価システム10の一部を構成するサーバ装置16の動作、具体的には、特徴量情報の算出動作について、
図3の機能ブロック図、
図4のフローチャート、並びに
図5~
図12を参照しながら説明する。
【0053】
図4のステップSP10において、データ取得部40は、評価対象のコンテンツに関する各種データ、例えば、コンテンツデータD1及び関連データD2のうち少なくとも一方を取得する。
【0054】
図5は、
図1のユーザ装置12を用いて創作されたコンテンツの一例を示す図である。本図のコンテンツは、手書きにより創作されたアートワーク80である。コンテンツの創作者は、ユーザ装置12及び電子ペン14を駆使しながら、所望のアートワーク80を完成させる。アートワーク80は、創作者による一連の操作、あるいは、複数種類の創作工程を通じて創作される。
【0055】
図6は、
図5におけるアートワーク80の描画状態の遷移を示す図である。1番目の仕掛り作品80aは、全体の構図を定める「構図工程」での描画状態を示している。2番目の仕掛り作品80bは、線画を作成する「線画工程」での描画状態を示している。3番目の仕掛り作品80cは、色塗りを行う「色付け工程」での描画状態を示している。4番目の仕掛り作品80dは、仕上げるための「仕上げ工程」での描画状態を示している。
【0056】
図7は、
図1及び
図2のコンテンツデータD1が有するデータ構造の一例を示す図である。本図の例では、コンテンツデータD1がデジタルインクである場合を示している。デジタルインクは、[1]文書メタデータ(document metadata)、[2]意味データ(ink semantics)、[3]装置データ(devices)、[4]ストロークデータ(strokes)、[5]分類データ(groups)、及び[6]文脈データ(contexts)を順次配列してなるデータ構造を有する。
【0057】
ストロークデータ82は、手書きによるコンテンツを構成する個々のストロークを記述するためのデータであり、コンテンツを構成するストロークの形状及び該ストロークの書き順を示している。
図7から理解されるように、1本のストロークは、<trace>タグ内に順次配列される複数のポイントデータにより記述される。各々のポイントデータは、少なくとも指示位置(X座標、Y座標)からなり、カンマなどのデリミタで区切られる。図示の便宜上、ストロークの始点及び終点を示すポイントデータのみを表記し、複数の経由点を示すポイントデータを省略している。このポイントデータには、上記した指示位置の他に、ストロークの生成又は編集の順番や、電子ペン14の筆圧、姿勢などが含まれてもよい。
【0058】
図4のステップSP12において、データ整形部60は、ステップSP10で取得されたコンテンツデータD1及び関連データD2に対する整形処理を行う。この整形により、ラスタ形式ではないデータ(以下、「非ラスタデータ」ともいう)がストローク操作毎に対応付けられる。
【0059】
ステップSP14において、特徴量算出部42は、コンテンツの創作期間内にてまだ選択されていない1つの描画状態を指定する。特徴量算出部42は、1回目の処理にて、1番目のストローク操作が行われた描画状態を指定する。
【0060】
ステップSP16において、ラスタライズ処理部62は、ステップSP14で指定された描画状態を再現するようにラスタライズ処理を行う。具体的には、ラスタライズ処理部62は、直近の画像に対して1本のストロークを追加する描画処理を行う。これにより、変換対象であるラスタデータ(つまり、画像)が更新される。
【0061】
ステップSP18において、単語変換部64は、ステップSP14,SP16で作成された各データを1つ又は2つ以上の単語から構成される単語群に変換する。具体的には、単語変換部64は、ラスタライズ処理部62からのラスタデータを第1単語群に変換するとともに、データ整形部60からの非ラスタデータを第2単語群に変換する。単語変換部64は、[1]ラスタデータの変換及び[2]非ラスタデータの変換を行う際、概念グラフ50を記述するグラフデータ72を参照する。
【0062】
図8は、
図3のグラフデータ72が有するデータ構造の一例を示す図である。このグラフデータ72は、グラフを構成するノードに関する「ノード情報」と、グラフを構成するリンクに関する「リンク情報」との間の対応関係を示すテーブル形式のデータである。ノード情報には、例えば、ノードID(identification)、単語名、分散表現(特徴量空間上の座標値)、表示フラグが含まれる。リンク情報には、ノード同士のリンクの有無や、各リンクに付与されるラベルが含まれる。
【0063】
図4のステップSP20において、特徴量算出部42は、すべてのストローク操作でのデータ変換が終了したか否かを確認する。1回目の処理では変換がまだ終了していないので(ステップSP20:NO)、特徴量算出部42は、ステップSP14に戻る。
【0064】
ステップSP14において、特徴量算出部42は、2回目の処理において、2番目のストローク操作が行われた描画状態を指定する。以下、特徴量算出部42は、すべての描画状態でのデータ変換が終了するまでの間、ステップSP14~SP20の動作を順次繰り返す。この動作を繰り返している間、データ統合部66は、ストローク操作毎にデータを集約して統合する。その後、すべてのストローク操作でのデータ変換が終了した場合(ステップSP20:YES)、次のステップSP22に進む。
【0065】
ステップSP22において、状態特徴量算出部68は、ステップSP14~SP20の実行を通じて統合された統合データを用いて、状態特徴量の時系列を算出する。これにより、第1の絵紋を示す第1絵紋データ74が生成される。
【0066】
図9は、第1絵紋データ74が有するデータ構造の一例を示す図である。この第1絵紋データ74は、アートワーク80の描画状態の識別情報である「状態ID」と、描画状態に関する「状態特徴量」との間の対応関係を示すテーブル形式のデータである。状態特徴量には、例えば、第1単語群、第2単語群、及び座標値が含まれる。この座標値は、N次元の特徴量空間90上で定義される。次元数Nは、3以上の整数であり、数百オーダーの数値であることが望ましい。
【0067】
図10は、状態特徴量の算出方法の一例を示す図である。図示の便宜上、特徴量空間90は、第1成分及び第2成分を二軸とする平面座標系で表現されている。第1単語群に相当する単語群G1は、複数個(本図例では、6個)の単語92から構成される。第2単語群に相当する単語群G2は、複数個(本図例では、7個)の単語94から構成される。
【0068】
ここで、状態特徴量算出部68は、2つの単語群G1,G2の和集合を求め、点集合の代表点96の座標値を描画状態における特徴量(つまり、状態特徴量)として算出する。状態特徴量算出部68は、単語群G1,G2に属するすべての単語を用いて和集合を求めてもよいし、他の単語との間で関係性が低い単語(具体的には、リンクがない独立したノード)を除外した上で和集合を求めてもよい。また、状態特徴量算出部68は、例えば、点集合の重心を代表点96として特定してもよいし、他の統計的手法を用いて代表点96を特定してもよい。
【0069】
図4のステップSP24において、操作特徴量算出部70は、ステップSP22により算出された状態特徴量の時系列を用いて、操作特徴量の時系列を算出する。これにより、第2の絵紋を示す第2絵紋データ76が生成される。
【0070】
図11は、第2絵紋データ76が有するデータ構造の一例を示す図である。この第2絵紋データ76は、ストローク操作の識別情報である「ストロークID」と、各ストローク操作に関する「操作特徴量」との間の対応関係を示すテーブル形式のデータである。操作特徴量には、例えば、増加した単語、減少した単語、及び変位量が含まれる。変位量は、
図9の「座標値」と同様に、N次元の特徴量空間90上で定義される。
【0071】
図12は、操作特徴量の算出方法の一例を模式的に示す図である。図示の便宜上、
図10の場合と同様に、特徴量空間90は、第1成分及び第2成分を二軸とする平面座標系で表現されている。本図の星印は、概念グラフ50により定義された単語の位置(いわゆる、分散表現)を示している。本図の丸印は、描画状態の位置(つまり、状態特徴量)を示している。
【0072】
例えば、i番目の描画状態からi番目のストローク操作を行うことで、(i+1)番目の描画状態に遷移したとする。この場合、位置Pを始点とし、かつ位置Qを終点とするベクトル(あるいは変位量)が、i番目の操作特徴量に相当する。以下、同様に、位置Qを始点とし、かつ位置Rを終点とするベクトル(あるいは変位量)が、(i+1)番目の操作特徴量に相当する。
【0073】
図4のステップSP26において、特徴量算出部42は、ステップSP22,SP24でそれぞれ算出された特徴量情報を保存する。具体的には、特徴量算出部42は、第1絵紋データ74及び第2絵紋データ76を、コンテンツ又は創作者と対応付けた状態にて記憶部34に供給する。これにより、第1絵紋データ74及び第2絵紋データ76が、それぞれ利用可能な状態でコンテンツDB52に登録される。以上のようにして、サーバ装置16は、
図4のフローチャートに示す動作を終了する。
【0074】
[絵紋データの使用例]
<第1例:創作工程の識別>
コンテンツ評価部44は、状態特徴量又は操作特徴量の時系列(つまり、絵紋データ)を用いて、アートワーク80の描画状態に対応する創作工程の種類を識別してもよい。例えば、概念グラフ50にて創作工程を示す単語が定義されている場合、コンテンツ評価部44は、第1単語群又は第2単語群に含まれる単語の有無に応じて創作工程を識別することができる。以下、概念グラフ50にて創作工程を示す単語が定義されていない場合での創作工程の識別方法について、
図13及び
図14を参照しながら説明する。
【0075】
図13は、創作工程の識別方法の第1例を示す図である。図示の便宜上、
図10及び
図12の場合と同様に、特徴量空間は、第1成分及び第2成分を二軸とする平面座標系で表現されている。本図の絵紋100は、アートワーク80の創作の開始時点から終了時点までの一連の創作過程を示している。より具体的には、絵紋100は、ストローク操作毎に算出された代表点96(
図10)の集合体である。絵紋100を構成する各点は、創作工程の種類に応じて異なる濃淡で描画されている。本図から理解されるように、点集合のクラスタが、創作工程毎に形成される傾向がある。そこで、コンテンツ評価部44は、絵紋100の点集合に対してクラスタリング処理を行い、区分されたグループの属否に応じて創作工程を識別することができる。なお、絵紋100は、点の集合体(つまり、散布図)に代えて、1本の線からなる軌跡であってもよい。
【0076】
図14は、創作工程の識別方法の第2例を示す図である。グラフの横軸はストロークIDを示すとともに、グラフの縦軸は操作特徴量を示している。この操作特徴量は、状態特徴量の変位量の大きさ、つまりベクトルの「ノルム」に相当する。本図から理解されるように、次の創作工程に移行するタイミングで特徴点が大きく移動し、ノルムが一時的かつ急激に増加する傾向がみられる。そこで、コンテンツ評価部44は、操作特徴量の時間プロファイルに対してピーク検出処理を行い、検出された複数のピークの位置関係から創作工程の移行タイミングを識別することができる。
【0077】
<2.気づき情報の提示>
サーバ装置16は、アートワーク80の創作者に対して、創作活動に関わる様々な情報を提示してもよい。この場合、表示指示部48は、情報生成部46により生成された絵紋情報54又は派生情報56の表示を指示する。より詳しくは、表示指示部48は、アートワーク80に関する絵紋情報54又は派生情報56を含む提示データD3を、当該アートワーク80の創作者が所有するユーザ装置12に送信する。
【0078】
そうすると、ユーザ装置12のプロセッサ21は、サーバ装置16から受信した提示データD3を用いて表示信号を生成し、当該表示信号を表示ユニット24に供給する。これにより、表示ユニット24が有する表示画面内に、絵紋情報54又は派生情報56が可視化して表示される。
【0079】
例えば、ユーザ装置12は、派生情報56の一態様である気づき情報をアートワーク80と併せて表示させてもよい。気づき情報を可視化することで、アートワーク80に対する新たな発見や解釈を創作者に促すことが可能となり、創作者に対して新たなインスピレーションが付与される。その結果、アートの創作活動に関する「正のスパイラル」が生まれる。
【0080】
[実施形態のまとめ]
以上のように、この実施形態におけるコンテンツ評価システム10は、コンテンツ(例えば、アートワーク80)を示すコンテンツデータD1を生成可能な1つ又は複数のユーザ装置12と、各々のユーザ装置12との間で通信可能に構成されるコンテンツ評価装置(ここでは、サーバ装置16)と、を備える。
【0081】
[1]サーバ装置16は、アートワーク80の創作の開始時点から終了時点までの創作期間内における描画状態に関する状態特徴量を算出する特徴量算出部42と、特徴量算出部42により算出された状態特徴量を表現するための特徴量空間90上の点の集合又は軌跡である絵紋100を生成する絵紋生成部(ここでは、情報生成部46)を備える。
【0082】
また、この実施形態におけるコンテンツ評価方法及びプログラムによれば、1つ又は複数のコンピュータ(ここでは、サーバ装置16)が、アートワーク80の創作の開始時点から終了時点までの創作期間内における描画状態に関する状態特徴量を算出し(
図4のステップSP22)、算出された状態特徴量を表現するための特徴量空間90上の点の集合又は軌跡である絵紋100を生成する。
【0083】
このように、描画状態に関する状態特徴量を表現するための特徴量空間90上の点の集合又は軌跡、すなわち絵紋100を生成するので、単に完成品の描画内容を用いて評価する場合と比べて、アートワーク80をより精緻に評価することができる。
【0084】
また、サーバ装置16は、絵紋100に関する絵紋情報54又は絵紋情報54から派生した派生情報56の表示を指示する表示指示部48をさらに備えてもよい。また、状態特徴量が3よりも大きい次元数を有する場合、絵紋情報54は、次元数が3以下に削減された絵紋であってもよい。また、派生情報56は、アートワーク80の創作者に気づきを与えるための気づき情報であってもよい。また、サーバ装置16は、絵紋100を示す絵紋データ(ここでは、第1絵紋データ74又は第2絵紋データ76)を用いてアートワーク80を評価するコンテンツ評価部44をさらに備えてもよい。
【0085】
[2]サーバ装置16は、一連の操作を通じて創作されるコンテンツ(ここでは、アートワーク80)の描画状態に関する状態特徴量の時系列を算出する第1算出部(ここでは、状態特徴量算出部68)と、状態特徴量算出部68により算出された状態特徴量の時系列を用いて1つの操作の前後にわたる状態特徴量の変化量を求め、当該変化量から1つの操作に関する操作特徴量を算出する第2算出部(ここでは、操作特徴量算出部70)と、を備える。
【0086】
また、この実施形態におけるコンテンツ評価方法及びプログラムによれば、1つ又は複数のコンピュータ(ここでは、サーバ装置16)が、一連の操作を通じて創作されるアートワーク80の描画状態に関する状態特徴量の時系列を算出する第1算出ステップ(
図4のステップSP22)と、算出された状態特徴量の時系列を用いて、単独の又は連続する操作の前後にわたる状態特徴量の変化量を求め、当該変化量から単独の又は連続する操作に関する操作特徴量を算出する第2算出ステップ(
図4のステップSP24)と、を実行する。
【0087】
このように、1つの操作の前後にわたる状態特徴量の変化量を求め、当該変化量から1つの操作に関する操作特徴量を算出するので、単に完成品の描画内容を用いて評価する場合と比べて、アートワーク80をより精緻に評価することができる。
【0088】
また、状態特徴量は、単語同士の関係性を示す概念グラフ50により定義される特徴量空間90上の座標値であってもよい。また、概念グラフ50が言語の種類毎に設けられる場合、状態特徴量算出部68は、アートワーク80を示すコンテンツデータD1及びアートワーク80の創作に関わる関連データD2のうち少なくとも一方から言語の種類を特定し、言語の種類に対応する概念グラフ50を用いて状態特徴量の時系列を算出してもよい。また、状態特徴量算出部68は、少なくとも、アートワーク80のラスタデータ及びストロークデータの両方に基づいて状態特徴量の時系列を算出してもよい。
【0089】
また、操作特徴量は、1本のストロークを描画するためのストローク操作が行われる直前の第1描画状態を始点とし、ストローク操作が行われた直後の第2描画状態を終点とするベクトルの大きさ又は向きであってもよい。また、コンテンツ評価部44は、状態特徴量又は操作特徴量の時系列を用いて、アートワーク80の描画状態に対応する創作工程の種類を識別してもよい。
【0090】
[変形例]
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、この発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。あるいは、技術的に矛盾が生じない範囲で各々の構成を任意に組み合わせてもよい。あるいは、技術的に矛盾が生じない範囲でフローチャートを構成する各ステップの実行順を変更してもよい。
【符号の説明】
【0091】
10…コンテンツ評価システム、12…ユーザ装置、14…電子ペン、16…サーバ装置(コンテンツ評価装置)、40…データ取得部、42…特徴量算出部、44…コンテンツ評価部(工程識別部)、46…情報生成部(絵紋生成部)、48…表示指示部、50…概念グラフ、54…絵紋情報、56…派生情報、80…アートワーク(コンテンツ)、90…特徴量空間、100…絵紋、D1…コンテンツデータ、D2…関連データ、D3…提示データ