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  • 特開-セドヘプツロースの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145649
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】セドヘプツロースの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20231003BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20231003BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20231003BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12N15/54
C12N15/31
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023125390
(22)【出願日】2023-08-01
(62)【分割の表示】P 2020515590の分割
【原出願日】2019-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2018087503
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】山本 省吾
(57)【要約】      (修正有)
【課題】七炭糖及びケトースに分類される糖の一種であり、天然に存在する数少ない七炭糖の一つであるセドヘプツロースを、バクテリアにより製造する方法に使用するためのバクテリアを提供する。
【解決手段】トランスアルドラーゼの機能が喪失又は減衰されている、ストレプトマイセス属に属するバクテリアを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスアルドラーゼの機能が喪失または減衰されている、ストレプトマイセス属に属するバクテリア。
【請求項2】
トランスアルドラーゼの機能が喪失または減衰されている、ストレプトマイセス属に属するバクテリア(ただし、ldhAが破壊されているものを除く)。
【請求項3】
ストレプトマイセス・リビダンスまたはストレプトマイセス・エバメチルスである、請求項1または2に記載のバクテリア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、平成30年 4月27日に日本国特許庁に出願された出願番号2018-087503号の優先権の利益を主張する。優先権基礎出願はその全体について、出典明示により本明細書の一部とする。
【0002】
本発明は、セドヘプツロースをバクテリアにより製造する方法およびバクテリアによるセドヘプツロース生産を向上させる方法ならびにそのバクテリアに関する。
【背景技術】
【0003】
セドヘプツロースは、七炭糖およびケトースに分類される糖の一種であり、天然に存在する数少ない七炭糖の一つである。セドヘプツロースは、生物の代謝系であるペントースリン酸経路におけるD-セドヘプツロース-7-リン酸の構成糖である。セドヘプツロースの製造方法として、バクテリアによる方法が報告されている。これまでに、セドヘプツロースを製造できるバクテリアとしてはStreptomyces naraensis(特許文献1-2および非特許文献1)、Streptomyces albus(非特許文献1および特許文献3)、Streptomyces californicus(非特許文献1および特許文献3)、Streptomyces sindensis(非特許文献1)、Streptomyces olivaceus(非特許文献1)、Streptomyces vividochromogenus(非特許文献1)、およびFlavobacterium sp.TSC-A、Achromobacter sp.TSC-B(特許文献4)が報告されている。上記文献では、自然界でセドヘプツロース生産するバクテリアが報告されているが、これらのバクテリアにおいてセドヘプツロースの生産量を向上させる方法は知られていない。トランスケトラーゼに変異を有する枯草菌にリボースを加えることでセドヘプツロースの生産量が向上することが知られている(最大生産量25g/L、リボース非存在下では生産量5g/L程度)(特許文献5)。バクテリアを利用する以外のセドヘプツロースの製造方法は、トランスケトラーゼを用いる方法(非特許文献2および3)および化学合成による方法(特許文献6)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭39-14500
【特許文献2】特公昭41-4400
【特許文献3】特公昭41-5915
【特許文献4】特公昭41-21760
【特許文献5】特開昭62-126990
【特許文献6】SK284318
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Accumulation of sedoheptulose by Streptomycetes.J.Biochem.1963;54(1):107-8
【非特許文献2】An efficient synthesis of sedoheptulose catalyzed by Spinach Transketolase, Tetrahedron Asymmetry.1993;4: 1169-1172
【非特許文献3】Heptulose synthesis from nonphosphorylated aldoses and ketoses by Spinach transketolase, J.Biol chem.1971 25;246(10):3126-31
【非特許文献4】Crystal structures and mutational analyses of Acyl-CoA carboxylase β subunit of Streptomyces coelicolor. Biochemistry 2010;49(34):7367-7376
【非特許文献5】Subinhibitory concentrations of antibiotics induce phenazine production in a marine Streptomyces sp. J Nat Prod. 2008 May;71(5):824-827
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決課題は、セドヘプツロースをバクテリアにより製造する方法およびバクテリアによるセドヘプツロース生産を向上させる方法ならびにそのバクテリアを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下を提供する:
(1)トランスアルドラーゼの機能が喪失または減衰されているバクテリアを培養する工程を含む、セドヘプツロースの製造方法;
(2)バクテリアが、さらにプロピオニルCoA カルボキシラーゼの機能またはトレハロースシンテースの機能が喪失または減衰されているバクテリアである、(1)に記載の製造方法;
(3)バクテリアが放線菌、枯草菌、フラボバクテリウムに属するバクテリア、またはアクロモバクターに属するバクテリアである、(1)または(2)に記載の製造方法
(4)バクテリアが放線菌である、(3)に記載の方法;
(5)放線菌がストレプトマイセス属に属する菌である、(4)に記載の製造方法;
(6)ストレプトマイセス属に属する菌が、ストレプトマイセス・リビダンスまたはストレプトマイセス・エバメチルスである、(5)に記載の製造方法;
(7)トランスアルドラーゼの機能、およびプロピオニルCoA カルボキシラーゼの機能またはトレハロースシンテースの機能が喪失または減衰されているバクテリア;
(8)放線菌、枯草菌、フラボバクテリウムに属するバクテリア、またはアクロモバクターに属するバクテリアである、(7)に記載のバクテリア;
(9)放線菌である、(8)に記載のバクテリア;
(10)ストレプトマイセス属に属する菌である、(9)に記載のバクテリア;または
(11)ストレプトマイセス・リビダンスまたはストレプトマイセス・エバメチルスである、(10)に記載のバクテリア。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、セドヘプツロースをバクテリアにより製造する方法およびバクテリアによるセドヘプツロース生産を向上させる方法ならびにそのバクテリアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、ストレプトマイセス・リビダンス1326株を用いたセドヘプツロースの生産の結果を示すグラフである。
図2図2は、ストレプトマイセス・エバメチルス MA-4680株を用いたセドヘプツロースの生産の結果を示すグラフである。
図3図3は、ストレプトマイセス・リビダンス 1326ΔSLI_2249ΔSLI_5198株を長期間培養し、グルコースの追添加を停止した後のセドヘプツロース生産量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1つの態様において、本発明は、トランスアルドラーゼの機能が喪失または減衰されているバクテリアを培養する工程を含む、セドヘプツロースの製造方法に関する。
【0011】
別の態様において、本発明はトランスアルドラーゼの機能が喪失または減衰されているバクテリアに関する。
【0012】
さらなる別の態様において、本発明はトランスアルドラーゼの機能が喪失または減衰されているバクテリアを培養する工程を含む、セドヘプツロース生産の向上方法に関する。
【0013】
本開示において、セドヘプツロースは分子式C14で示されるセドヘプツロースを指す。D型、L型は特に限定されないが、好ましくはセドヘプツロースはD-セドヘプツロースである。
【0014】
本開示において、トランスアルドラーゼはセドヘプツロース-7-リン酸とグリセルアルデヒド-3-リン酸をエリスロース-4-リン酸とフルクトース-6-リン酸に変換する反応を触媒することができ、当該反応は可逆的である。トランスアルドラーゼは例えば、ストレプトマイセス・リビダンスのSLI_2249(配列番号1)およびSLI_7007(配列番号2)ならびにストレプトマイセス・エバメチルスのsav6314(配列番号3)およびsav1767(配列番号4)である。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【0015】
本開示において、プロピオニルCoA カルボキシラーゼは、プロピオニルCoAのカルボキシル化反応を触媒し、メチルマロニルCoAを生成することができる。プロピオニルCoA カルボキシラーゼは例えば、SLI_5198(配列番号5)およびsav_3331(配列番号6)である。プロピオニルCoA カルボキシラーゼは、二次代謝産物の合成に関わる酵素としても知られている(非特許文献4)。
【化5】
【化6】
【0016】
本開示において、トレハロースシンテースは、グルコースからトレハロースを合成できる。トレハロースシンテースは、例えばSLI_7555(配列番号7)、sav_7396(配列番号8)、SLI_5710(配列番号9)、sav_2803(配列番号10)およびSLI_6475(配列番号11)およびsav_2151(配列番号12)である。
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
また、具体例として、配列番号1-12をコードするDNA配列はそれぞれ配列番号13-24である。
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【0017】
一実施形態では、バクテリアは、トランスアルドラーゼの機能が喪失または減衰されているバクテリアである。他の実施形態では、バクテリアは、プロピオニルCoA カルボキシラーゼの機能が喪失または減衰されているバクテリアである。さらに他の実施形態では、バクテリアは、トレハロースシンテースの機能が喪失または減衰されているバクテリアである。別の実施形態では、バクテリアは、上記の少なくとも1つ以上の機能が喪失もしくは減衰されているバクテリア、例えばトランスアルドラーゼおよびプロピオニルCoA カルボキシラーゼの機能が喪失もしくは減衰されているバクテリア、トランスアルドラーゼおよびトレハロースシンテースの機能が喪失もしくは減衰されているバクテリア、またはトランスアルドラーゼ、プロピオニルCoA カルボキシラーゼおよびトレハロースシンテースの機能が喪失もしくは減衰されているバクテリアである。
【0018】
一実施形態では、酵素の機能は、当該タンパク質をコードするDNA配列により制御されてもよく、当該タンパク質の転写段階で制御されてもよく、当該タンパク質の翻訳段階で制御されてもよく、または当該タンパク質の翻訳後の段階で制御されてもよい。好ましくは、酵素の機能は、当該タンパク質をコードするDNA配列により制御される。
【0019】
一実施形態では、酵素の機能は、当該タンパク質をコードするDNA配列により制御されてもよく、例えば、当該タンパク質をコードするDNA配列における変異により喪失または減衰し得る。
【0020】
一実施形態では、酵素の機能は、当該タンパク質の転写段階で制御されてもよく、例えば、当該タンパク質をコードするDNA配列のシスエレメントまたはトランスエレメントの機能の改変により喪失または減衰し得る。
【0021】
一実施形態では、酵素の機能は、当該タンパク質の翻訳段階で制御されてもよく、例えば、当該タンパク質の翻訳に関するシャイン・ダルガノ配列の変異により喪失または減衰し得る。
【0022】
一実施形態では、酵素の機能は、当該タンパク質の翻訳後の段階で制御されてもよく、例えば、当該タンパク質の阻害剤による処理により喪失または減衰し得る。
【0023】
本開示において、変異とは置換、付加、欠失、または組換えが含まれる。
【0024】
当業者は、公知技術に従って、当該タンパク質をコードする遺伝子の変異を確認し、当該タンパク質の転写を確認し、または当該タンパク質の活性もしくは存在量を確認することにより、酵素の機能が喪失または減衰していることを確認できるが、これらに限られない。
【0025】
酵素の機能は、セドヘプツロースの生産にバクテリアを使用する条件において喪失または減衰していればよい。酵素の機能の喪失とは、本発明において使用されるバクテリアの酵素の機能が、当業者が公知技術に基づいて確認できない状態を指す。酵素の機能の減衰は、本発明において使用されるバクテリアの酵素の機能が通常と比較して減衰している状態を指す。より具体的には、例えば、野生型のバクテリアを通常の培養条件において培養した際の機能と比較して、機能が90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、5%、2.5%または1%未満であることが挙げられる。例えば、変異の導入による減衰の場合、野生型と同じ培養条件で比較することが挙げられ、阻害剤による減衰の場合、阻害剤以外の条件を同じにして比較することが挙げられる。
【0026】
本開示におけるバクテリアの例として放線菌、大腸菌(Escherichia coli)および枯草菌(Bacillus subtilis)、フラボバクテリウム(Flavobacterium)に属するバクテリア、およびアクロモバクター(Achromobacter)に属するバクテリアが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、バクテリアは放線菌、枯草菌、フラボバクテリウムに属するバクテリア、またはアクロモバクターに属するバクテリアである。さらに好ましい実施形態では、バクテリアは放線菌である。
【0027】
本開示において、「放線菌」とは、放線菌門(Actinobacteria)に属するグラム陽性の真正細菌を指す。「放線菌」には、これらに限定されるわけではないが、例えば、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、ストレプトマイセス・バイオラセオルバー(Streptomyces violaceoruber)、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス・エバメチルス(Streptomyces avermitilis)、およびストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)などのストレプトマイセス(Streptomyces)属、アクチノシネマ・プレチオスム(Actinosynnema pretiosum)およびアクチノシネマ・ミルム(Actinosynnema mirum)などのアクチノシネマ(Actinosynnema)属、シュードノカルディア・オートトロフィカ(Pseudonocardia autotrophica)、シュードノカルディア・サーモフィラ(Pseudonocardia thermophila)などのシュードノカルディア(Pseudonocardia)属、ならびにコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)などのコリネバクテリウム(Corynebacterium)属が含まれる。好ましい実施形態では、放線菌はストレプトマイセス属またはコリネバクテリウムの菌、さらに好ましくはストレプトマイセス属の菌であり、またさらに好ましくは、ストレプトマイセス属の菌はストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)またはストレプトマイセス・エバメチルス(Streptomyces avermitilis)である。放線菌の入手経路は特に限定されず、例えば、土中から分離することができ、また微生物寄託分譲機関から入手することもできる。
【0028】
本開示において、セドヘプツロースの生産に使用されるバクテリアは、セドヘプツロースを生合成できるバクテリアである。例えば、セドヘプツロース生合成酵素遺伝子を有するバクテリア等が挙げられる。セドヘプツロースの生産に使用されるバクテリアは、野生株であってもよく、あるいは人工的に変異処理が施された株であってもよい。人工的な変異処理としては、遺伝子組換え、UV照射、X線照射、変異剤での処理等が挙げられる。また、セドヘプツロースの生産に使用されるバクテリアは、自然発生による突然変異株であってもよい。セドヘプツロースの生産に使用されるバクテリアには、同種または異種由来のセドヘプツロース生合成酵素遺伝子を有するバクテリアも含まれる。例えば、異種由来のセドヘプツロース生合成酵素遺伝子が遺伝子組換えにより導入されたバクテリアであってもよい。上述したバクテリアへの異種遺伝子の導入には、当技術分野において広く知られている方法が用いられ得る。
【0029】
本開示において、セドヘプツロースは菌体内または菌体外に生産されてもよく、好ましくは菌体外に生産される。本開示において、「菌体」とはバクテリア細胞を指す。また、本開示において、「菌体外培養液」とは、バクテリアを培養して得られた培養液のうち、バクテリア細胞を除いた部分をいう。すなわち、菌体外培養液には、培養に用いられた培地に含まれる種々の成分、培養中にバクテリアが生産した物質等が含まれる。
【0030】
本開示において、菌体と菌体外培養液を分離する方法は、当業者により適宜選択される。例えば、バクテリアを培養して得られた培養液を遠心分離に供することにより、菌体と菌体外培養液を分離することができる。温度、時間および速度などの遠心分離の条件は、用いたバクテリアの種類に応じて、当業者によく知られた条件を用いることができる。あるいは、適切なろ過膜を用いて、バクテリアを培養して得られた培養液をろ過することにより、菌体と菌体外培養液を分離することができる。
【0031】
本開示において、分離した菌体外培養液をそのまま、あるいは乾燥させてセドヘプツロースを含む組成物として利用してもよいし、生産されたセドヘプツロースを回収してもよい。回収とは、培養に用いられた培地に含まれる種々の成分および/または菌体成分を除き、セドヘプツロースを主に含む溶液を取得することを指す。セドヘプツロースを主に含む溶液におけるセドヘプツロースの割合は目的に応じて当業者が適宜決定できる。また、生産されたセドヘプツロースは、酸処理することによりセドヘプツロサンとして回収することもできる(特許文献5)。
【0032】
生産されたセドヘプツロースは、当業者が公知の技術に従って、目的を達成するために菌体内または菌体外で適宜変換することができる。セドヘプツロースは化学的、酵素的、または物理化学的に変換されてもよく、例えばリン酸化、異性化、環状化、ポリマー化、アシル化、ガロイル化、および脱水化環状化が挙げられる。変換されたセドヘプツロースは例えばセドヘプツロース-7-リン酸、7-O-ガロイル-D-セドヘプツロースおよびセドヘプツロサンである。
【0033】
一実施形態では、セドヘプツロースの生産量の具体的な例は、例えば7日間で好ましくは3g/L以上、より好ましくは5g/L以上、9日間で好ましくは5g/L以上、より好ましくは10g/L以上である。さらに他の具体的な例は、培養時の最大のセドヘプツロース生産量が好ましくは5g/L以上、より好ましくは10g/L以上、さらに好ましくは25g/L以上などである。
【0034】
本開示によれば、バクテリアによるセドヘプツロース生産を向上することができる。セドヘプツロース生産の向上とは、特定の酵素の機能の喪失または減衰によりセドヘプツロースの生産量が増加すること、または特定の酵素の機能の喪失または減衰により特定のセドヘプツロースの生産量に達するまでの時間が減少することを言う。より具体的には、例えば10日間の培養で野生型のバクテリアを通常の培養条件で培養した場合と比較して2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは4倍以上のセドヘプツロースを生産する。また野生型のバクテリアが通常の培養条件でセドヘプツロースを生産しない場合は、特定の酵素の機能の喪失または減衰によりセドヘプツロースを生産するようになってもよい。
【0035】
バクテリアによるセドヘプツロースの製造において、当業者はバクテリアの培養条件を適宜変更できる。バクテリアの培養条件は例えば、温度、炭素源、窒素源、培養時間、培地、酸素量、pH、または抗生物質(例えばテトラサイクリン)(非特許文献5)などの添加物により変更できる。
【0036】
別の実施態様において、本発明は、培地に炭素源を追添加する工程をさらに含む、上述した本発明の方法を提供する。追添加は、バクテリアの培養中であればいつ行ってもよく、連続的あるいは間歇的に添加することができる。炭素源は、バクテリアが溶菌しないように追添加されることが望ましい。バクテリアの溶菌は、例えば培養液のpHを測定することで確認できる。放線菌の場合、培地のpHが8.0を超えないように炭素源を追添加することが望ましい。また、培地中のバクテリア量の減少によっても確認することができる。
【0037】
本発明で用いられる炭素源には、例えば、グルコース、スクロース、フラクトース、マンニトール、ソルビトール、ガラクトース、マルトース、キシロース、グリセロール、リボース、グルコノラクトンもしくはグルコン酸またはこれらの塩が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、炭素源はグルコースまたはグリセロールである。また、他の好ましい実施形態では、炭素源にリボースを含まない。
【0038】
培地中の炭素源が消費されると、代謝産物として各種有機酸が生じ、培地を酸性化させる。培地が酸性化すると、バクテリアによるセドヘプツロース生産量が低下する。従って、培地が酸性化しないよう、アルカリ化剤を培地に添加してもよい。放線菌の場合、培地のpHが5.0を下回らない、好ましくはpHが5.5を下回らない様にアルカリ化剤を培地に添加するのが好ましい。アルカリ化剤としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムおよび水酸化マグネシウムなどの水酸化物、アンモニア、尿素、生石灰、などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、本発明で用いられるアルカリ化剤は、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩である。アルカリ化剤は、培養前に培地に添加しておいてもよく、培養中に添加してもよい。また、アルカリ化剤の添加は、連続的であってもよく、間歇的であってもよい。アルカリ化剤の添加量は、培地のpHを測定することによって、容易に決定することができる。pHは、公知の方法、例えばpH計を用いて、測定することができる。
【0039】
従って、セドヘプツロースの原料となり、培地のpH上昇を防止する炭素源を培地に添加し、かつ培地のpH低下を防止するアルカリ化剤を培地に添加することは、セドヘプツロースの生産量の増加にとって効果的であり得る。
【0040】
本発明において、バクテリアを培養するための培地およびその他の培養条件(温度、時間、pH、撹拌の有無等)は、培養されるバクテリアの種類に応じて、当業者により適宜選択される。より具体的な条件の例として、これらに限定されるわけではないが、pH5~8、温度10~45℃、時間5~50日間等が挙げられる。
【0041】
本発明は、さらに以下の態様を提供する:
(1)トランスアルドラーゼの機能が喪失または減衰されているバクテリアを培養する工程を含む、セドヘプツロース生産の向上方法;
(2)バクテリアが、さらにプロピオニルCoA カルボキシラーゼの機能および/またはトレハロースシンテースの機能が喪失または減衰されているバクテリアである、(1)に記載の方法;
(3)バクテリアが、放線菌、枯草菌、フラボバクテリウムに属するバクテリア、またはアクロモバクターに属するバクテリアである、(1)または(2)に記載の方法;
(4)バクテリアが放線菌である、(3)に記載の方法;
(5)放線菌がストレプトマイセス属に属する菌である、(4)に記載の方法;または
(6)ストレプトマイセス属に属する菌が、ストレプトマイセス・リビダンスまたはストレプトマイセス・エバメチルスである、(5)に記載の方法;
【0042】
以下に実施例を示して本発明を具体的かつ詳細に説明するが、実施例は本発明の例示のために用いられるものであり、本発明の限定を意図するものではない。
【実施例0043】
(実施例1)
1.ストレプトマイセスを用いたセドヘプツロースの生産
本発明者らは、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)およびストレプトマイセス・エバメチルス(Streptomyces avermitilis)を宿主に用いて、セドヘプツロース生産株を作製し、培養液中におけるセドヘプツロース量を検討した。
【0044】
1-1.トランスアルドラーゼ遺伝子破壊
1-1-1.ストレプトマイセス・リビダンスのトランスアルドラーゼ遺伝子破壊
ストレプトマイセス・リビダンス 1326株(NITE寄託番号:NBRC 15675)のトランスアルドラーゼ遺伝子(SLI_2249)を相同組換えによって破壊した。ストレプトマイセス・リビダンスの形質転換は、従来公知の方法に従って行った。SLI_2249の1~1119位を破壊し、AAGATCCCGGTCTTCGAGGCGGGCAAGGGC(配列番号25)およびGCGGCGTAGGTGTCGGTCTTCGACTTGGGG(配列番号26)のプライマーを用いて遺伝子破壊を確認した。
【0045】
1-1-2.ストレプトマイセス・リビダンスのトレハロースシンテース遺伝子破壊
ストレプトマイセス・リビダンス 1326株のトランスアルドラーゼ遺伝子(SLI_2249)破壊株を宿主に用いて、トレハロースシンテース遺伝子(SLI_7555)を相同組換えによって破壊した。ストレプトマイセス・リビダンスの形質転換は、従来公知の方法に従って行った。SLI_7555の1~1719位を破壊し、CAAAGGCCGCAACAACACCCTCTCCGCC(配列番号27)およびTAGCCCGCGCAGAACGCCTCCCGGCA(配列番号28)のプライマーを用いて遺伝子破壊を確認した。
【0046】
1-1-3.ストレプトマイセス・リビダンスのプロピオニルCoA カルボキシラーゼ遺伝子破壊
ストレプトマイセス・リビダンス 1326株のトランスアルドラーゼ遺伝子(SLI_2249)破壊株を宿主に用いて、プロピオニルCoA カルボキシラーゼ遺伝子(SLI_5198)を相同組換えによって破壊した。ストレプトマイセス・リビダンスの形質転換は、従来公知の方法に従って行った。SLI_5198の1~1593位を破壊し、CCCAGGATGAGCCCCTCGAGGCGCAG(配列番号29)およびCTGATCGTGCTGCTGCTGATGACGTACGA(配列番号30)のプライマーを用いて遺伝子破壊を確認した。
【0047】
1-1-4.ストレプトマイセス・エバメチルスのトランスアルドラーゼ遺伝子破壊
ストレプトマイセス・エバメチルス MA-4680株(NITE寄託番号:NBRC 14893)のトランスアルドラーゼ遺伝子(sav6314)を相同組換えによって破壊した。ストレプトマイセス・エバメチルスの相同組換えは、従来公知の方法に従って行った。sav6314の1~1119位を破壊し、TCCGCCGACCTGGCCGGCTCGAACAACACC(配列番号31)およびGCCAGCCGGCCGCGTACTGTCCGCGGACGG(配列番号32)のプライマーを用いて遺伝子破壊を確認した。
【0048】
1-2.ストレプトマイセス・リビダンスおよびストレプトマイセス・エバメチルスの前培養
5mLのTSB培地(以下、表1を参照のこと)に、上記1-1で作製したストレプトマイセス・リビダンス 1326株、ストレプトマイセス・リビダンス 1326ΔSLI_2249株、ストレプトマイセス・リビダンス 1326ΔSLI_2249ΔSLI_5198株、ストレプトマイセス・リビダンス 1326ΔSLI_2249ΔSLI_7555株、ストレプトマイセス・エバメチルス MA-4680株またはストレプトマイセス・エバメチルス MA-4680Δsav6314株の胞子のグリセロールストックを添加した。28℃、160rpmで72時間、これらの放線菌を振盪培養した。
【0049】
1-3.ストレプトマイセス・リビダンスおよびストレプトマイセス・エバメチルスの本培養
0.1%量の前培養液を、500mLバッフル付フラスコ中の50mLのTSB培地(以下、表1を参照のこと)に添加した。なお、グルコースの初期濃度が80g/Lとなるように、培養開始時にTSB培地へグルコースをさらに追加した。培養中、グルコースが枯渇しないようにグルコースを追添加しながら、28℃、160rpmで2週間、振盪培養した。
【表1】
【0050】
1-4.セドヘプツロースの測定
本培養の間、所定の時間に培養液1mLを採取し、600nmでの濁度を測定した。採取した培養液を14000rpmで20分間遠心分離して、培養液サンプルを得た。培養液サンプルの、セドヘプツロースの生産量を、HPLCにより測定した。HPLC測定条件は以下の表の通りである。
【表2】
【0051】
1-5.結果
ストレプトマイセス・リビダンス 1326株の結果を図1、ストレプトマイセス・エバメチルス MA-4680株の結果を図2に示す。ストレプトマイセス・リビダンス 1326株では、培養2週間でセドヘプツロースの生産が確認できなかった。ストレプトマイセス・リビダンス 1326ΔSLI_2249株では、培養約9日でセドヘプツロースが最大5.7g/L生産された。ストレプトマイセス・リビダンス 1326ΔSLI_2249ΔSLI_5198株では、培養約2週間で28.8g/Lのセドヘプツロースが生産された。ストレプトマイセス・リビダンス 1326ΔSLI_2249ΔSLI_7555株では、培養約11日で13.0g/Lのセドヘプツロースが生産された。ストレプトマイセス・エバメチルス MA-4680株では培養2週間で0.9g/Lのセドヘプツロースが生産された。ストレプトマイセス・エバメチルス MA-4680Δsav6314株では培養2週間で9.5g/Lのセドヘプツロースが生産された。ストレプトマイセス・リビダンスおよびストレプトマイセス・エバメチルスにおいて、トランスアルドラーゼ遺伝子を破壊することにより、セドヘプツロース生産量は有意に向上した。さらにトランスアルドラーゼ遺伝子破壊にトレハロースシンテース遺伝子破壊またはプロピオニルCoA カルボキシラーゼ遺伝子破壊を重ねることにより、セドヘプツロース生産量は有意に向上した。図3にはストレプトマイセス・リビダンス 1326ΔSLI_2249ΔSLI_5198株を長期間培養し、グルコースの追添加を停止した後のセドヘプツロース生産量の変化を示す。グルコースを追添加している間、セドヘプツロース生産量は経時的に増加し、431時間で最大53.3g/L生産したが、グルコースの追添加を停止した後、グルコースが枯渇してくると、セドヘプツロース生産量が減少することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、セドヘプツロースをバクテリアにより製造する方法およびバクテリアによるセドヘプツロース生産を向上させる方法ならびにそのバクテリアを提供することができる。
図1
図2
図3
【配列表】
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