(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014579
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】誘導同期磁気ギア装置
(51)【国際特許分類】
H02K 49/10 20060101AFI20230124BHJP
F16H 49/00 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
H02K49/10 A
F16H49/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118600
(22)【出願日】2021-07-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「脱調時に優れた再始動性を有する埋込磁石型誘導同期磁気ギアの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願)
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】303049418
【氏名又は名称】株式会社プロスパイン
(72)【発明者】
【氏名】中村 健二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄真
(72)【発明者】
【氏名】立谷 雄一
(72)【発明者】
【氏名】操谷 欽吾
【テーマコード(参考)】
5H649
【Fターム(参考)】
5H649BB02
5H649GG09
5H649GG13
5H649GG16
5H649HH09
5H649HH13
5H649HH16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】非接触で大きな伝達トルクを維持しつつ、過負荷による磁気ギアの脱調後の復帰性能を改善する磁気ギア装置を提供する。
【解決手段】磁気ギア装置100は、複数の永久磁石16を有する内側回転子と、複数の永久磁石32を有する外側回転子3と、その回転子間に軟磁性材料で構成される複数の磁性片を有する中間固定子2を有し、その磁性片によってそれぞれの磁石極数比の磁束を変調して回転を伝達する磁気ギア装置において、磁気ギアの負荷が伝達トルクの限界を超える負荷が加わったときに、磁気ギアが脱調しトルクを伝えられなくなり、この脱調現象は負荷を大幅に下げるか、回転停止して再始動しない限り脱調から復帰しない。この課題を解決するため、通常の磁気ギア装置の少なくとも一つの回転子にかご形導体を形成し、その脱調が発生した時の誘導機能作用により、脱調からの復帰を改善した誘導同期磁気ギア装置を提供できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数極の永久磁石を有する2つの回転子と、その回転子間に軟磁性材料で構成される複数の磁性片を有し、その磁性片によって、それぞれの磁石極数比の磁束を変調して回転を伝達する磁気ギア装置において、前記2つの回転子の少なくともどちらか一方の回転子の磁石ヨークに、導電性を有する複数の導体バーを埋め込み、該複数の導体バーを2つの短絡環にて前記磁石ヨークを挟持する態様で導通して形成したかご形導体を付加したことを特徴とする誘導同期磁気ギア装置。
【請求項2】
前記かご形導体の導体バーの本数は、前記回転子の永久磁石と同数もしくはそれ以上であることを特徴とする請求項1に記載の誘導同期磁気ギア装置。
【請求項3】
前記2つの回転子の、内側回転子に、前記かご形導体を設けたこと特徴とする、請求項1に記載の誘導同期磁気ギア装置。
【請求項4】
前記内側回転子の永久磁石は、径方向に着磁され隣り合う磁石の極性が異極となる態様で、磁石ヨークの表面に埋め込み、該磁石間の磁石ヨークに前記かご形導体の導体バー設けたことを特徴とする請求項2から請求項3に記載の誘導同期磁気ギア装置。
【請求項5】
前記かご形導体の導体バーと磁石の間に、磁束を遮断するフラックスバリアとなる切り込みを設けたことを特徴とする請求項4に記載の誘導同期磁気ギア装置。
【請求項6】
前記内側回転子の永久磁石は、隣接する前記永久磁石が周方向に同極が向き合う態様で前記磁石ヨークに埋め込まれており、該永久磁石ヨークには1個乃至複数個の前記かご形導体の導体バーを配置したことを特徴とする請求項2から請求項3に記載の誘導同期磁気ギア装置。
【請求項7】
前記内側回転子の永久磁石の配置は、該回転子の外周面に、磁石ヨークの磁極と交互に等間隔に配したコンシクエント方式としたことを特徴とする請求項2から請求項3に記載の誘導同期磁気ギア装置。
【請求項8】
請求項7において、前記内側回転子の永久磁石は、該回転子の外周側に、径方向が同極となる態様で前記磁石ヨークに埋め込んだIPM型コンシクエント方式としたことを特徴とする誘導同期磁気ギア装置。
【請求項9】
前記2つの回転子の外側回転子に、前記かご形導体を設けたことを特徴とする請求項1から請求項2に記載の誘導同期磁気ギア装置。
【請求項10】
前記軟磁性材の磁性片は、珪素鋼板等の積層体、圧粉磁心又は、非晶質構造の金属体等で形成したことを特徴とする請求項1~9に記載の誘導同期磁気ギア装置。
【請求項11】
前記磁性片は、非磁性材又は、非金属材で形成した磁性片ホルダーに片面が略同一面に埋め込まれて構成されたことを特徴とする請求項1~10に記載の誘導同期磁気ギア装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石の磁気を利用して非接触で動力を伝達する磁気ギア装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、回転軸間の動力伝達手段として磁気ギア装置が着目されている。
磁気ギア装置は、複数極の永久磁石を有する2つの回転子と、その回転子間に軟磁性材料で構成される複数極を有する磁極片体を有し、その磁極片によってそれぞれの磁石極数比の磁束を変調して非接触で回転を伝達する歯車機構である。
【0003】
この非接触で動力を伝達する磁気ギア装置は、動作時の振動、騒音の発生を低く抑えることができ、また潤滑剤が不要でメンテナンス性に優れる等の利点を有している。 また、内側回転子、外側回転子の各磁石、及び固定子の磁性体の並設数の選定により、変速比及び回転方向を適宜に設定することができる。更に、対向する磁石が常に伝達に寄与することから高いトルク密度(サイズ当たりの最大伝達トルク)を得ることが可能となっており、機械的に噛合する従来の各種歯車装置からの置き換えが切望されている。
【0004】
特許文献1には、高速回転子(内側回転子)、低速回転子(外側回転子)、及び前記2つの回転子間に空隙を隔てて向き合う固定子を備え、上記高速回転子又は、上記低速回転子の磁石の磁束を変調することにより回転速度を変化させてトルクを伝達する磁気ギア装置が開示されている。
【0005】
又、特許文献2は円筒型の構成をした磁気ギア装置及び、平板型の構成をした磁気ギア装置等が開示されており、渦電流損失が少なく、大型化を抑えた磁気ギア装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-205348号公報
【特許文献2】特開2016-19365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、非接触で動力を伝達する磁気ギア装置は、磁気ギア装置の伝達トルクを超える過大なトルクが出力側に加わった場合、磁気ギア装置が追従できず、所謂脱調現象が発生する。この脱調現象は一般的な磁気ギアでは過負荷状態が解消され、且つ、入力側の回転が停止しない限り解消されない。又、この脱調状態が長時間にわたり継続すると、磁気ギア装置のみならず動力伝達系統に悪影響を及ぼすことが懸念される。特に、その設置環境が、無人環境の場合等、復帰に時間と労力を要し、システムの故障にもつながりかねない。これらの懸念を払拭するためには短時間での脱調状態からの復帰措置が強く望まれている。
【0008】
しかし、特許文献1及び、特許文献2のいずれも、この脱調からの復帰手段、方法等には何ら言及されていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明では従来の磁気ギア装置の2つの回転子の磁石ヨークの少なくとも一方に、かご形導体を形成し、脱調時に該かご形導体の導体バーに流れる電流によって復帰トルクを発生させて、脱調状態から復帰を促進させる回転子の構成とした。
【0010】
そのため本発明の誘導同期磁気ギア装置では、複数極の永久磁石を有する2つの回転子と、その回転子間に軟磁性材料で構成される複数の磁性片を有し、その磁性片によって、それぞれの磁石極数比の磁束を変調して回転を伝達する磁気ギア装置において、前記2つの回転子の少なくともどちらか一方の回転子の磁石ヨークに、導電性の複数の導体バーを埋め込み、該導体バーを端絡環で連結したかご形導体を付加したことを特徴とする。
【0011】
前記かご形導体の導体バーの本数は、前記回転子の永久磁石と同数もしくは、それ以上であってもよい。
【0012】
又、前記2つの回転子の、内側回転子に、前記かご形導体を設けてもよい。
【0013】
さらに、前記内側回転子の永久磁石は、径方向に着磁され隣り合う磁石の極性が異極となる態様で、磁石ヨークの表面に埋め込み、該磁石間の磁石ヨークに前記かご形導体の導体バー設けてもよい。
【0014】
又、前記かご形導体の導体バーと磁石の間に、磁束を遮断するフラックスバリアとなる切り込みを設けてもよい。
【0015】
さらに、前記内側回転子の永久磁石は、隣接する前記永久磁石が周方向に同極が向き合う態様で前記磁石ヨークに埋め込まれており、該永久磁石ヨークには1個乃至複数個の前記かご形導体の導体バーを配置してもよい。
【0016】
又、前記内側回転子の永久磁石の配置は、該回転子の外周面に、磁石ヨークの磁極と交互に等間隔で配したコンシクエント方式としてもよい。
【0017】
さらに、前記内側回転子の永久磁石は、該回転子の外周側に、径方向が同極となる態様で前記磁石ヨークに埋め込んだIPM型コンシクエント方式としてもよい。
【0018】
又、前記2つの回転子の外側回転子に、前記かご形導体を設けてもよい。
【0019】
さらに、前記軟磁性材の磁性片は、積層体、圧粉磁心又は、非晶質構造を有する金属体等で形成してもよい。
【0020】
又、前記磁性片は、非金属材で形成した磁性片ホルダーに片面が略同一面に埋め込まれて構成されてもよい。
【発明の効果】
【0021】
上述した本発明の誘導同期磁気ギア装置によれば、少なくとも2つの回転子のどちらか1つの回転子に、かご形導体を付加することで、過負荷となった場合の脱調現象から復帰を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は本発明の第1の実施例にかかる磁気ギア装置の断面図である。
【
図2】
図1の内側回転子の断面図でAはその詳細図、Bはその側面図。
【
図3】
図3は、磁気ギア装置の脱調から復帰までの時間とトルクの関係を表す伝達特性図で、Aは従来の磁気ギア装置の場合の伝達特性図、Bは本発明の誘導同期磁気ギア装置の伝達特性図を示す。
【
図4】本発明による第2の実施例の内側回転子の断面図。
【
図5】本発明による第3の実施例の内側回転子の断面図。
【
図6】本発明による第4の実施例の内側回転子の断面図。
【
図7】本発明による誘導同期磁気ギア装置の第5の実施例で、
図7(A)はその要部断面図、
図7(B)は、
図7(A)の部分詳細図、
図7(C)は、
図7(A)の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明にかかる誘導同期磁気ギア装置の実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通の部材には同一の符号を付している。又、本発明は以下の形態に限定されるものではない。
【0024】
図1及び、
図2は、本発明の第1の実施例による誘導同期磁気ギア装置であって、
図1はその全体の断面図、
図2は、
図1に示す内側回転子であって、
図2(A)は内側回転子1の断面図、
図2(B)はその側面図を示す。図において誘導同期磁気ギア装置100は、いずれも円筒形状をなし、内側から順次、内側回転子1、中間子固定子2、外側回転子3が、それぞれ隙間を有し、同心状に配置されている。又、中間固定子2に対して、前記内側回転子1及び、外側回転子3は回転自在となっており、所謂磁気ギア機構を形成している。
【0025】
この磁気ギア機構について説明する。
前記内側回転子1の外周面に円周状に等間隔に配した永久磁石の対極数をPh、前記外側回転子3の内周面に円周状に等間隔に配した永久磁石の対極数をPl、前記中間固定子に等間隔に配した磁性体からなる磁極片の磁極数をNpとすると、磁気ギアとしての変速機能が成立するためには、 Np=Pl±Ph が成立することが必須条件である。又、この時の磁気ギアの変速比Grは、 Gr=Pl/Ph となり、内側回転子1の磁石対極数Phと外側回転子3の磁石の対極数Plの比となる。尚、一般的な磁気ギアには上記条件式は、Np=Pl+Phを採用されており、本、誘導同期磁気ギア装置でも前記式の右項は(Pl+Ph)を採用している。
【0026】
前記誘導磁気ギア装置の各部の詳細について説明する。
図1に示すように前述の内側回転子1は、その中央部全体を磁石ヨーク11が占めており、その中心を中心孔5が貫通し、図示しない中心軸が挿通され、前記中間固定子2に対し、回転自在に前記軸に固定される。又、前記磁石ヨーク11の外周側には、磁石用穴11a及び、導体バー用穴11bが、周方向に交互に等間隔で複数個開けられており、永久磁石16と導体バー15が、前記それぞれの孔に埋設されている。図では各6個ずつとなっており、前記永久磁石16の磁石の極性は径方向に着磁してあり、隣り合う永久磁石16の極性が異極の形態で配置されている。尚、図に示す矢印の方向がN極となる。又、前記導体バー15の両側の磁石ヨーク11には隣り合う永久磁石の磁束を遮断するフラックスバリア11cが設けてあり、これにより磁気ギア装置としての伝達トルクを確保している。この前記複数個の導体バー15は、例えばアルミニウム等の導電性の金属材の短絡環18で短絡されて、かご形導体17を形成し、該かご形導体によって、誘導同期磁気ギア装置が脱調した場合に誘導起磁力を発現し、磁気ギア装置の負荷が特定の以下に軽減されると磁気ギア装置として同期する。尚、かご形導体17についての詳細は後述する。
【0027】
中間固定子2は、非金属性の例えばCFRP等の樹脂で形成された円筒形状をなし、前記内側回転子1の外周面に対し、所定の隙間を有して同心状の態様となっている。該中間固定子2は、軟磁性材の例えば圧粉磁心からなる複数の磁性片22が、中間固定子2に等間隔に設けた複数個の磁性片用溝21に接着剤等で埋設されている。この磁性片により、内外周回転子の永久磁石の磁石磁束が変調され磁気ギア装置として機能する。
【0028】
外側回転子3は、円筒形状をしており、その内周側には同様に円筒形状をした磁石ヨーク31を有し、その内周面には永久磁石32が、周方向に等間隔に設けた磁石ヨーク31の磁石装着用溝31aに接着剤等で固定され、前記中間固定子2の外周面に対し隙間を有し回転自在となっている。尚、前記永久磁石32の着磁方向は径方向で且つ、隣り合う磁石の極性が異極の態様となっている。
【0029】
内側回転子1のかご形導体17の構造について詳しく説明する。
図2(A)は前述した誘導同期磁気ギア装置100の内側回転子1の断面図で、
図2(B)はその側面図である。図に示すように前記内側回転子1の磁石ヨーク11の外周側には、該磁石ヨーク11を貫通して複数個の導体バー15が、磁石ヨーク11を挟み込む態様で上下の短絡環18に接続されて、各々の導体バー15が導通状態となり、この複数の導体バー15と短絡環18によってかご形導体17を形成している。この状態を示したのが
図2(B)である。尚、該かご形導体17は、例えば磁石ヨーク11と一体で金属射出成形にて製作される。 又、永久磁石16は、一つの方法として着磁処理した後、磁石ヨーク11の磁石挿入穴11aに装着し接着剤等で固定する。
【0030】
次に誘導同期磁気ギア装置の脱調から復帰までの具体的な動きについて実測例をもとに説明する。
図3(A)は、通常の磁気ギア装置が脱調した場合の時間とトルクを測定したグラフ、
図3(B)は、
図1に示した本発明の誘導同期磁気ギア装置の脱調から復帰までの時間とトルクを測定した特性図であり、横軸を測定時間、縦軸にトルクを示す。又、
図3のグラフはいずれも、入力側が低速側、出力側が高速側で、出力側の回転速度は100rpmである。測定方法は、図示しない測定装置に磁気ギアを接続し、入力側のモータを外側回転子3、磁気ギアの出力側となる内側回転子1に図示しない電磁ブレーキに接続し、この電磁ブレーキを負荷とした。まず入力側のモータを駆動し磁気ギアの出力側の回転速度が100rpmまで回転を上げていく。回転が安定した状態で、前記電磁ブレーキの負荷を徐々に増やしながらその時の出力側のトルクをトルクセンターで測定した。
図3(A)は、負荷が大きくなり脱調した時の脱調トルクは約6N・mで、脱調したまま負荷を下げて復帰した時のトルクが約1.5N・m で復帰したことを表している。即ち、復帰トルクは1.5N・m となる。一方、
図3(B)では脱調時のトルクは約6.5N・m で、復帰トルクは約5N・m となり、既存の磁気ギア装置に対して、誘導同期磁気ギア装置では復帰性能は大幅に向上している。
【0031】
次に本発明の他の実施例について説明する。実施例2~実施例4はいずれも、前述した内側回転子1の変形例であって、中間固定子及び、外側回転子はいずれも実施例1と同じであり、説明は省略する。
【0032】
図4は、本発明の第2の実施例の内側回転子1の主要部の断面図である。
図において、11は円筒状の磁石ヨークで、該磁石ヨーク11の外周側に、等間隔に角型の磁石装着溝11dが中心軸に向かって垂直に設けてあり、複数の永久磁石16が、該磁石装着溝11dに装着されている。図では6個となっており、該磁永久磁石16の着磁方向は
図4に示すように矢印の方向に着磁され、該永久磁石16は隣り合う磁石の極性が同極なる態様の磁石配置となっている。この磁石配置により、同じ極性の永久磁石11に挟まれた磁石ヨーク11に磁極12が形成される。
図4では磁極12は、円周状に永久磁石16と同数の6か所形成されている。又、前記磁極12の略中間位置には複数個の導体バー15が、磁石ヨーク11を貫通して設けた導体バー用孔11bに埋設されている。前記導体バー15の個数は永久磁石16と同数の6個で、前記複数の導体バー15は、
図2と同様に、磁石ヨーク11の外周側で該磁石ヨーク11を挟む態様で2つの短絡環18によって短絡され導通状態を保っている。尚、この永久磁石16の配置、導体バー15の位置及び本数は磁場解析シミュレーションにて、脱調状態からの復帰トルクが最大となるよう設定した。
【0033】
又、
図5は、本発明の第3の実施例の内側回転子1の主要部の断面図である。
図に示すように円筒状の磁石ヨーク11の外周面には、永久磁石16が、該磁石ヨーク11に設けた磁石装着溝11dに等間隔に3個装着されている。該永久磁石16の着磁方向は矢印に示すように径方向着磁され、極性はいずれも外周側が同極のコンシクエント磁石配置で、前記永久磁石16間の磁石ヨーク11の外周面側が磁極12となり、永久磁石12の外周面の極性とは逆極性となる。
又、前記磁極12の外周側の略中間位置には、略楕円状の導体バー15が磁石ヨーク11に設けた導体バー孔11bを貫通して複数個設けている。該複数の導体バー15は
図2と同様に、磁石ヨーク11の外周側で、該磁石ヨーク11を挟む態様で、2つの短絡環18にて3個の導体バー15を短絡し導通状態を保持し、該導体バー15と前記短絡環18とでかご形導体17を形成している。
尚、前記磁石ヨーク11の前記永久磁石16の両側には、
図5に示すように長角状の孔のフラックスバリア11cが軸中心に向かって設けられており、このフラックスバリア11cにより磁気ギア装置としてのトルクが確保できている。又、第2実施例と同様に該永久磁石16の配置、導体バー15の位置及び本数等は磁場解析シミュレーションにて、脱調状態からの復帰トルクが最大となるよう設定した。
【0034】
図6は、本発明の第4の実施例の内側回転子1の主要部の断面図である。
第4の実施例は、前述の第3の実施例に対し、永久磁石16の位置が異なっているのみであり、前記永久磁石16が磁石ヨーク11に埋め込まれたIPM構造の磁石配置をしたコンシクエントタイプである。図に従って説明する。前記永久磁石16の着磁方向は径方向であり、外周に向かってすべて同極の配置となっている。図では外周側がすべてN極となっている。又、前記永久磁石16間の磁石ヨーク11の磁極12はS極となり、該磁極12の外周側の中間位置には略楕円状の導体バー15が、導体バー用孔11bに3個設けられている。該複数の導体バー15は、
図2に示す実施例1と同様に、磁石ヨーク11の外周側で該磁石ヨーク11を挟む態様で、2つの短絡環18にて3個の導体バー15を短絡し導通状態を保っている。
尚、前記磁石ヨーク11には、前記永久磁石16の両側において、略長方形状のフラックスバリア11cの切り込みが軸中心方向に向かって設けられており、このフラックスバリア11cにより磁気ギアとしてのトルクが確保できている。
【0035】
以上、本発明の実施例1~実施例4は何れも、かご形導体を、内側回転子に設けた場合について説明したが、外側回転子にかご形導体を設けた場合の実施例5について以下に説明する。
【0036】
図7は外側回転子にかご形導体を設けた、本発明による実施例5の誘導同期磁気ギア装置であって、
図7(A)は誘導同期磁気ギア装置の要部断面図で、
図7(B)は
図7(A)の点線で示すm部の拡大図、
図7(C)は
図7(A)の側面図である。
図において、誘導同期磁気ギア装置200は、内側回転子1と中間固定子2と外側回転子4から成り、互いに非接触で同心軸状の構造となっている。最内周に位置する内側回転子1は、前述した本発明の実施例1の内側回転子1のかご形導体を削除した構造である。図において、磁石ヨーク11には、径方向に着磁した複数個(図では6個)の永久磁石16が、隣り合う該永久磁石16の極性が異極となる態様にて磁石ヨーク11の磁石装着孔11aに埋設されて、接着等で固定されている。
【0037】
又、前記内側回転子1の外周側には、前述した実施例1と同様の中間固定子2が配置されており、該中間固定子2には例えば軟磁性の複数の磁性片22が、該中間固定子2に設けた磁性片用溝21に埋設し固定されている。
【0038】
次に本発明による外側回転子4について説明する。円筒状をした外側回転子4は、前記中間固定子2の外周面に対し隙間を有して配置され、前記外側回転子4の内周側は、例えば珪素鋼板等の軟磁性材材料からなる円筒形の磁石ヨーク43で構成され、該磁石ヨーク43の内周面には、径方向に着磁された複数個の永久磁石44が、交互に異極となる態様で、前記磁石ヨーク43に設けた磁石用溝43aに接着剤等で固定されている。又、前記永久磁石44の両側には、例えばアルミニウム材からなる略円形をした複数の導体バー42が、前記磁石ヨークの導体バー用孔43bに、磁石ヨーク43を貫通して埋設され、2つの短絡環45によって該磁石ヨーク43を挟む込む態様ですべての導体バー45が導通状態を維持されている。前記導体バー42と短絡環45で形成されたかご形導体46は、例えば金属射出成型によって、磁石ヨーク43と一体で製作される。
以上説明したように、誘導同期磁気ギア装置200は、磁気ギアが過負荷となり、磁気ギアに脱調現象が発生した場合、外側回転子4に付加したかご形導体46の誘導作用によって、過負荷状態の解除により脱調状態から復帰が可能となる。
【0039】
図8は従来の磁気ギア装置の一例の断面図であり、前述した本発明の第1の実施例から第4の実施例の誘導同期磁気ギア装置は、前記磁気ギア装置の内側回転子にかご形導体を付加したものであり、第5の実施例の誘導同期磁気ギア装置は、外側回転子にかご形導体を付加することによっていずれも、誘導同期機能を発現して脱調現象からの復帰を可能にしたものである。
【0040】
参考までに本発明の基となる一般的な磁気ギア装置を
図8に示す。磁気ギア装置100aは、内側回転子1と中間固定子2と外側回転子3から成る。尚、前記内側回転子1は上述した本発明の実施例5と同じ構造であり、又、中間固定子2は実施例1~5と同じ構造で、前記外側回転子3は、前述の本発明の実施例1~4と同じ構造である。
図8を簡単に説明する。図において内側回転子1の磁石ヨーク11の外周面には、径方向に着磁された複数の永久磁石16が隣り合う極性が異極となる態様で埋め込まれている。同様に前記外側回転子3の磁石ヨーク31内周面には、径方向に着磁された永久磁石32が、隣り合う極性が異極となる態様で磁石ヨーク31の磁石挿入溝31aに埋設固定されている。
前記内側回転子1と前記外側回転子3の中間には、中間固定子2が非接触で隙間を有して配置されている。
上述した磁気ギア装置100aは、内側回転子1の磁石対極数は3、外周回転子3の磁石対極数は31、中間固定子2の磁極数は34となっており、磁気ギア装置として、変速比は10.33となっている。
【0041】
以上、本発明の誘導同期磁気ギア装置について説明したが、本実施例で説明した実施形態に限定されるものではなく、実施例5と実施例1~4を組み合わせることにより技術的効果をさらに発揮させた各回転子構造とした場合又、回転子に設けたかご形導体の形状、導体バーの本数、位置等は本実施例の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【符号の説明】
【0042】
1 内側回転子
2 中間固定子
3、4 外側回転子
5 回転子軸穴
11、31、43 磁石ヨーク
11a、 磁石装着孔、
11b、43b 導体バー用孔、
11c、43c フラックスバリア
11d 磁石装着溝
12 磁極
15、42 導体バー
16、32、44 永久磁石
17、46 かご形導体
18、45 短絡環
21 磁性片用溝
22 ポールピース
31a、43a 磁石装着溝
100、200 誘導同期磁気ギア装置
100a 磁気ギア装置