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特開2023-145793アミノ酸枯渇治療のための組成物の使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145793
(43)【公開日】2023-10-11
(54)【発明の名称】アミノ酸枯渇治療のための組成物の使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/78 20060101AFI20231003BHJP
   A61K 38/44 20060101ALI20231003BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231003BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231003BHJP
   A61K 31/195 20060101ALI20231003BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20231003BHJP
   C12N 9/82 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C12N9/78 ZNA
A61K38/44
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K31/195
A61K45/06
C12N9/82
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130874
(22)【出願日】2023-08-10
(62)【分割の表示】P 2020531422の分割
【原出願日】2018-08-16
(31)【優先権主張番号】62/591,102
(32)【優先日】2017-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/546,489
(32)【優先日】2017-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520054116
【氏名又は名称】アヴァロン・ポリトム・(ホンコン)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】AVALON POLYTOM (HK) LIMITED
【住所又は居所原語表記】FLAT/RM 11‐13, BLK 02 15/F GRAND CENTRAL PLAZA, 138 SHATIN RURAL COMMITTEE RD, SHATIN NT, HONG KONG, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ラウ,ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】ラウ,ジョンソン・ユウ‐ナム
(72)【発明者】
【氏名】リョン,ユウ・チュン
(72)【発明者】
【氏名】ユ,クオ‐ミン
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ユック‐キュン
(72)【発明者】
【氏名】パン,プイ・シ
(72)【発明者】
【氏名】チョオ,クィ‐リム
(57)【要約】
【課題】低ASNS発現を有する癌細胞を阻害するための薬剤の製造における組成物の使用方法の提供。
【解決手段】癌細胞を阻害するための薬剤の製造における、アルギニン還元性化合物、及び、アスパラギン還元性化合物、を含む、組成物の使用方法に関し、アルギニン還元性化合物であるアルギナーゼは、癌細胞、特に低ASNS発現を有する細胞の増殖の阻害におけるアスパラギン還元性化合物であるアスパラギナーゼとの併用に特に有用である。さらに、薬剤は、アミノトランスフェラーゼ阻害剤などのグルタミン濃度を低下させる化合物を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低ASNS発現を有する癌細胞を阻害するための薬剤の製造における、アルギニン還元性化合物、及び、アスパラギン還元性化合物、を含む、組成物の使用方法であって、
前記低ASNS発現は、MCF-7、ZR-75-1、又は、MDA-MB-231細胞で観察されたASNS発現に相当する、使用方法。
【請求項2】
前記アルギニン還元性化合物は、アルギニン還元酵素である請求項1に記載の使用方法。
【請求項3】
前記アルギニン還元性酵素は、アルギナーゼである、請求項2に記載の使用方法。
【請求項4】
前記アルギナーゼは、組換えヒトアルギナーゼである、請求項3に記載の使用方法。
【請求項5】
前記アスパラギン還元性化合物は、アスパラギン還元酵素である請求項1に記載の使用方法。
【請求項6】
前記アスパラギン還元酵素は、アスパラギナーゼである、請求項5に記載の使用方法。
【請求項7】
前記薬剤は、グルタミン濃度を低下させる化合物を含む、請求項1に記載の使用方法。
【請求項8】
グルタミン濃度を低下させる前記化合物は、アミノトランスフェラーゼ阻害剤である、請求項7に記載の使用方法。
【請求項9】
前記アミノトランスフェラーゼ阻害剤は、アミノオキシ酢酸である、請求項8に記載の 使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年8月16日に出願された米国仮出願第62/546489号及び2017年11月27日に出願された米国仮出願第62/591102号の利益を主張するものである。これらの及び全ての参照された外因性材料は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。参照により組み込まれている参考文献の用語の定義又は使用が、本明細書において提供されるその用語の定義と矛盾しているか、又は、相いれない場合、本明細書において提供されるその用語の定義が優先するとみなす。
【0002】
本発明の分野は、アルギナーゼ精製、アルギナーゼ修飾、並びにアルギナーゼ及びアスパラギナーゼの医学的使用である。
【背景技術】
【0003】
以下の記載は、本発明を理解する際に有用であり得る情報を含む。本明細書において提供される情報のいずれも従来技術であるか、若しくは主張される本発明に関連したものであること、又は具体的若しくは暗黙的に参照されるいずれの刊行物も従来技術であることは、承認されるものではない。
【0004】
アミノ酸欠乏が癌を処置するための有効な候補であり得ることを示唆するエビデンスが増えている。特定のアミノ酸(例えばアルギニン、アスパラギン又はグルタミン)の欠乏は、異なる型の癌を処置するために有用であることが分かっている(Feun,Youら、2008(非特許文献1);Hensley,Wastiら、2013(非特許文献2);Krall,Xuら、2016(非特許文献3))。本明細書における全ての刊行物は、あたかも個々の各刊行物又は特許が参照により具体的且つ個別に組み込まれていることが示されているかのように同程度に参照により組み込まれている。組み込まれた参考文献における用語の定義又は使用が、本明細書において提供されるその用語の定義と矛盾しているか、又は相いれない場合、本明細書において提供されるその用語の定義が適用され、参考文献のその用語の定義は適用されない。アミノ酸欠乏の有効性は、mTORClの非活性化やタンパク質合成の破壊などの下流効果によるものと考えられる。
【0005】
アルギニンを枯渇させるための組換えヒトアルギナーゼ(rhArg)の適用は、インビトロにおける癌細胞増殖の阻害に有効であることが示されている(Lam,Wongら、2009(非特許文献4)Tsui,Lamら、2009(非特許文献5))。アルギニンは、タンパク質合成におけるその準必須役割のためだけでなく、mTORClを活性化する際のアルギニンの役割のためにも、標的アミノ酸として選択された(Carroll,Maetzelら、2016(非特許文献6);Chantranupong,Scariaら、2016(非特許文献7);Krall,Xuら、2016(非特許文献3);Saxton,Chantranupongら、2016(非特許文献8);Zheng,Zhangら、2016(非特許文献9))。アルギニン欠乏が乳癌、結腸癌、肺癌及び子宮頸癌から誘導された細胞系を含む各種癌細胞系を効果的に阻害することが可能であったことが分かった。
【0006】
酵素アルギナーゼは、アルギニンに作用してオルニチン及び尿素を生成するものであって、尿素回路の一部である。アルギナーゼは、化学療法剤としての使用が増えており、血清中のアルギニンの濃度を低下させるために利用される。これらの枯渇血清中アルギニンレベルは、癌細胞(それらの内の多くの種類がアルギニンに関して栄養要求性である)を効果的に「飢餓」させることができる。
【0007】
治療剤としてのアルギナーゼの使用は、大量及び高純度の両方のヒトアルギナーゼの利用可能性を必要とする。高精製組換えヒトアルギナーゼを提供する試みが行われてきた。例えば、(Leung及びLoに対する)米国特許第8,507,245号(特許文献1)には、PEG化のための単一部位を提供するために修飾された組換えヒトアルギナーゼ1を精製する擬似親和性クロマトグラフィ法が記載されている。しかし、記載された前記方法は、金属擬似親和性媒質との錯体形成を可能にするポリヒスチジン配列を含む形態に制限される。この擬似親和性媒質は、共役反応における大過剰の反応性PEG類似体の使用によって必要とされる親和性精製工程において用いられる。したがって、そのような方法によって精製されたアルギナーゼ1は、前記ポリヒスチジン配列を除去する追加的処理を行うことなしに、完全にヒトと考えることはできない。
【0008】
未修飾アルギナーゼは血漿中で不安定であり、それによってその治療上の適用が厳しく限定される。タンパク質のポリマーポリエチレングリコールとの共役(PEG化)を含む血漿中半減期を延長する多くの試みが探究されてきた。広く使用される共役ストラテジーは、(Georgiou及びStoneに対する)米国特許第9,050,340号(特許文献2)に記載されている通りのアルギナーゼのアミノ基(例えば、リジンのε-アミン)の非選択的PEG化である。そのような処理は、著しいモル過剰の費用のかかるアミン反応性PEG試薬の使用を、そのような試薬の比較的急速な加水分解に一部起因して必要とする。そのようなランダム共役によって、前記修飾アルギナーゼの定性的及び定量的特性決定も複雑になり、それによってその医薬的使用が限定される。カップリング反応が、しばしばスケールアップに適していない非常に厳しく管理された条件下で行われない限り、そのようなアプローチを用いて、一貫した生成物特性が達成される可能性はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第8,507,245号
【特許文献2】米国特許第9,050,340号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Feun, L., M. You, et al. (2008). "Arginine deprivation as a targeted therapy for cancer." Curr Pharm Des 14(11): 1049-1057.
【非特許文献2】Hensley, C. T., A. T. Wasti, et al. (2013). "Glutamine and cancer: cell biology, physiology, and clinical opportunities." J Clin Invest 123(9): 3678-3684.
【非特許文献3】Krall, A. S., S. Xu, et al. (2016). "Asparagine promotes cancer cell proliferation through use as an amino acid exchange factor." Nat Commun 7: 11457.
【非特許文献4】Lam, T. L., G. K. Wong, et al. (2009). "Recombinant human arginase inhibits proliferation of human hepatocellular carcinoma by inducing cell cycle arrest." Cancer Lett 277(1): 91-100.
【非特許文献5】Tsui, S. M., W. M. Lam, et al. (2009). "Pegylated derivatives of recombinant human arginase (rhArg1) for sustained in vivo activity in cancer therapy: preparation, characterization and analysis of their pharmacodynamics in vivo and in vitro and action upon hepatocellular carcinoma cell (HCC)." Cancer Cell Int 9: 9.
【非特許文献6】Carroll, B., D. Maetzel, et al. (2016). "Control of TSC2-Rheb signaling axis by arginine regulates mTORC1 activity." Elife 5.
【非特許文献7】Chantranupong, L., S. M. Scaria, et al. (2016). "The CASTOR Proteins Are Arginine Sensors for the mTORC1 Pathway." Cell 165(1): 153-164.
【非特許文献8】Saxton, R. A., L. Chantranupong, et al. (2016). "Mechanism of arginine sensing by CASTOR1 upstream of mTORC1." Nature 536(7615): 229-233.
【非特許文献9】Zheng, L., W. Zhang, et al. (2016). "Recent Advances in Understanding Amino Acid Sensing Mechanisms that Regulate mTORC1." Int J Mol Sci 17(10).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、活性で、効果的に且つ一貫してPEG化されたアルギナーゼを高純度で提供することができる方法の必要性が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の概要)
本発明の主題は、高純度アルギナーゼを調製し、誘導体化し、癌の処置においてアスパラギナーゼと併用してそのように調製されたアルギナーゼを利用するための組成物及び方法を提供することである。
【0013】
本発明の概念の一実施形態は、アルギナーゼを発現する細胞(細菌細胞など)を得る工程、前記細胞を破砕してアルギナーゼを含む溶解物を生成する工程、前記溶解物から混入物を沈殿させ、第一部分的精製アルギナーゼを含む上清を生成するために充分な時間(例えば、約5~30分間)、(例えば、少なくとも20mMの濃度の)CoClの存在下で、前記溶解物の温度を沈殿温度(例えば、少なくとも50℃又は約65℃)に上昇させる工程、とによってアルギナーゼを精製する方法である。この上清を陰イオン交換体に接触させて、それによってさらなる混入物を結合させて、部分的精製Co2+アルギナーゼ(すなわち、Mn2+をCo2+に置換したアルギナーゼ)を含むフロースルーフラクションを提供する。そのような部分的精製Co2+アルギナーゼは、約80%以上の純度を有することができる。
【0014】
幾つかの実施形態において、前記方法は、前記フロースルーフラクションを陽イオン交換体に接触させて、前記アルギナーゼを含む結合フラクションと、第二のフロースルーフラクションとを生成するさらなる工程を含む。溶出緩衝液を前記陽イオン交換体に適用して、精製Co2+アルギナーゼを溶出させる。そのような精製Co2+アルギナーゼは、約90%以上の純度を有することができる。前記アルギナーゼは、ヒトアルギナーゼ1であることができる。そして、用いられる陰イオン交換体及び陽イオン交換体は、強イオン交換体であることができる。
【0015】
本発明の概念の別の実施形態は、少なくとも一つのシステインを含むタンパク質を得る工程、2℃~15℃の温度で6.5~7.0の間のpHを有する緩衝液中でPEG-マレイミドに前記タンパク質を接触させる工程、2℃~15℃で24時間~72時間、前記PEG-マレイミドと共に前記タンパク質をインキュベートしてPEG誘導体化タンパク質を生成する工程、とによってタンパク質(ヒトアルギナーゼ1又はその変異体など)を選択的に誘導体化する方法である。そのような方法において、前記PEG-マレイミドは、前記タンパク質よりも4倍モル過剰未満で存在する。前記PEG-マレイミドは、分枝鎖状又は直鎖状のPEGから誘導され得る。幾つかの実施形態において、一つのシステインを除いて全てを除去する変異を有するアルギナーゼ中の前記タンパク質。幾つかの実施形態において、前記タンパク質は、ポリヒスチジン配列を含まない。幾つかの実施形態において、前記方法は、例えば、透析、サイズ排除クロマトグラフィ及び/又はイオン交換クロマトグラフィによって、未反応の又は加水分解されたPEG-マレイミドから前記PEG誘導体化タンパク質を分離する追加的工程を含む。
【0016】
本発明の概念の別の実施形態は、少なくとも20kDaの分子量を有する単一PEG部分に共有結合する配列番号1に相当するペプチド配列を含むPEG修飾ヒトアルギナーゼ1の調製物である。前記PEG修飾ヒトアルギナーゼ1は、そのような調製物中における少なくとも90%のヒトアルギナーゼを示し、前記PEG修飾ヒトアルギナーゼ1は、ポリヒスチジン配列を含まない。前記PEG修飾ヒトアルギナーゼの前記PEG部分は、直鎖状又は分枝鎖状であることができる(例えば、「Y」構成又は「V」構成を有する)。そのような実施形態の内の幾つかにおいて、前記PEG修飾ヒトアルギナーゼ1は、マンガン、ニッケル及び/又はコバルトなどの金属補因子を含むことができる。
【0017】
本発明の概念の別の実施形態は、癌細胞を阻害する方法であって、前記癌細胞を培養する際に利用される培地中のアルギニン濃度を低下させる工程、前記培地中のアスパラギン濃度を低下させる工程、とによって前記癌細胞を阻害する方法である。前記アルギニン濃度は、アルギナーゼ(例えば、組換えヒトアルギナーゼ)を用いて低下させ得る。同様に、前記アスパラギン濃度は、アスパラギナーゼ(ASNase)を用いて低下させ得る。そのような実施形態の内の幾つかにおいて、前記癌細胞は、アスパラギンシンテターゼ(ASNS)発現が低い。そのような実施形態の内の幾つかにおいて、前記方法は、例えばアミノトランスフェラーゼ阻害剤(アミノオキシ酢酸など)を用いてグルタミン濃度を低下させるさらなる工程を含む。
【0018】
本発明の概念の別の実施形態は、アルギニン還元酵素及びアスパラギン還元酵素を含む、癌細胞を阻害するための組成物である。アルギニン還元酵素は、組換えヒトアルギナーゼなどのアルギナーゼであることができる。同様に、前記アスパラギン還元酵素は、アスパラギナーゼ(ASNase)であることができる。そのような実施形態の内の幾つかにおいて、前記癌細胞は、アスパラギンシンテターゼ(ASNS)発現が低い。前記組成物は、アミノトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、アミノオキシ酢酸)など、グルタミン濃度を低下させる化合物を含むこともできる。
【0019】
すなわち、本発明は、以下を含む。
【0020】
アルギナーゼを発現する細胞を得る工程、前記細胞を破砕してアルギナーゼを含む溶解物を生成する工程、前記溶解物から第一混入物を沈殿させ、第一部分的精製アルギナーゼを含む上清を生成するために適切な時間、CoClの存在下で、前記溶解物の温度を沈殿温度に上昇させる工程と、前記上清を陰イオン交換体に接触させて、第一の結合フラクション及び第一のフロースルーフラクションを生成する工程、を含む、アルギナーゼを精製する方法であって、前記フロースルーフラクションが、Mn2+がCo2+で置換された部分的精製Co2+アルギナーゼを含む、方法を提供し、
好ましくは、前記第一のフロースルーフラクションを陽イオン交換体に接触させて、第二の結合フラクション及び第二フロースルーフラクションを生成する工程、溶出緩衝液を前記陽イオン交換体に適用して、溶出フラクションを生成する工程、をさらに含み、
前記溶出フラクションが、Mn2+がCo2+で置換された精製Co2+アルギナーゼを含み、
前記細胞がヒトアルギナーゼ1を発現する、
前記細胞が細菌細胞である、
前記沈殿温度が50℃若しくは65℃よりも高い、
前記CoClが、少なくとも20mMの濃度で提供される、
前記時間が、5分間~30分間の間である、若しくは、約15分間である、
前記陰イオン交換体が強陰イオン交換体である、
前記陽イオン交換体が強陽イオン交換体である、
前記部分的精製Co2+アルギナーゼが、少なくとも80%若しくは90%の純度を有する。
【0021】
さらに、本発明は、少なくとも1つのシステインを含む対象タンパク質を得る工程、2℃~15℃の温度の6.5~7.0の間のpHを有する緩衝液中において前記対象タンパク質をPEG-マレイミドに接触させる工程、2℃~15℃で24時間~72時間、前記PEG-マレイミドと共に前記対象タンパク質をインキュベートして、PEG誘導体化タンパク質を生成する工程、を含む、タンパク質を選択的に誘導体化する方法であって、前記PEG-マレイミドが、前記対象タンパク質と比較して6倍未満のモル過剰で存在する、方法を提供し、
好ましくは、前記PEG-マレイミドが分枝PEG又は直鎖PEGを含む、
前記対象タンパク質が、ヒトアルギナーゼ1又はその変異体である、
前記変異体が、一つのシステインを除く全ての除去を含む、
前記対象タンパク質又は前記その変異体がポリヒスチジン配列を含まない、
未反応の又は加水分解されたPEG-マレイミドから前記PEG誘導体化タンパク質を分離する追加的な工程をさらに含む、
分離の前記追加的な工程が、透析、サイズ排除クロマトグラフィ及びイオン交換クロマトグラフィから成る群の内の一つによって行われる、
前記PEG-マレイミドが、前記対象タンパク質と比較して4倍未満のモル過剰で存在する。
【0022】
また、本発明は、PEG修飾ヒトアルギナーゼ1の調製物であって、少なくとも20kDaの分子量を有する単一のポリエチレングリコール部分に共有結合する配列番号1に相当するペプチド配列であって、前記PEG修飾ヒトアルギナーゼ1が、前記調製物中においてヒトアルギナーゼの少なくとも90%を表し、前記PEG修飾ヒトアルギナーゼ1がポリヒスチジン配列を含まない、ペプチド配列、を含む調製物を提供し、
好ましくは、前記ポリエチレングリコール部分が直鎖状又は分枝鎖状である、
前記ポリエチレングリコール部分が分枝鎖状である、
前記ポリエチレングリコール部分が、「Y」分岐構造又は「V」分岐構造を含む
前記PEG修飾ヒトアルギナーゼ1が、マンガン、ニッケル及びコバルトから成る群から選択される金属補因子を含む。
【0023】
また、本発明は、癌細胞を阻害する方法であって、前記癌細胞に接触する培地中のアルギニン濃度を低下させる工程、前記培地中のアスパラギン濃度を低下させる工程、を含む方法を提供し、
好ましくは、アルギナーゼを用いてアルギニン濃度を低下させる、
前記アルギナーゼが組換えヒトアルギナーゼである、
アスパラギナーゼを用いてアスパラギン濃度を低下させる、
前記癌細胞が低アスパラギナーゼ発現を有する、
グルタミン濃度を低下させる工程をさらに含む、
アミノトランスフェラーゼ阻害剤を用いてグルタミン濃度を低下させる、
前記アミノトランスフェラーゼ阻害剤がアミノオキシ酢酸である。
【0024】
また、本発明は、アルギニン還元酵素、及び、アスパラギン還元酵素、を含む、癌細胞を阻害するための組成物を提供し、
好ましくは、前記アルギニン還元酵素がアルギナーゼである、
前記アルギナーゼが組換えヒトアルギナーゼである、
前記アスパラギン還元酵素がアスパラギナーゼである、
前記癌細胞が低アスパラギナーゼ発現を有する、
グルタミン濃度を低下させる化合物をさらに含む、
グルタミン濃度を低下させる前記化合物がアミノトランスフェラーゼ阻害剤である、
前記アミノトランスフェラーゼ阻害剤がアミノオキシ酢酸である。
【0025】
本発明の主題の各種の目的、特徴、態様及び長所は、同様の符号が同様の構成要素を表す添付図面と共に、以下の好ましい実施形態の詳細な説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の概念の例示的な処理のフローチャートである。
図2】熱的沈殿のホモジェネート及び生成物についての8~16%勾配ゲル上の還元SDS-PAGEから得られた結果を示す電気泳動ゲルの写真。
図3】Capto Q(商標)上のクロマトグラフィの間のUV吸光度のグラフ。
図4】典型的なCapto Q(商標)クロマトグラフィ工程についての8~16%勾配ゲル上の還元SDS-PAGEから得られた結果を示す電気泳動ゲルの写真。
図5】Capto S(商標)の上のクロマトグラフィの間のUV吸光度のグラフ。
図6】典型的なCapto Q(商標)クロマトグラフィ工程についての8~16%勾配ゲル上の還元SDS-PAGEから得られた結果を示す電気泳動ゲルの写真。
図7】PEG-マレイミドの異なるモル過剰における2~8℃におけるヒトキナーゼ1についてのPEG化キネティクスのグラフ。
図8】Day0におけるPEG修飾ヒトアルギナーゼ1の単回静脈内投与後の健康なラットにおける血漿中アルギニン濃度のグラフ。
図9】Day0におけるPEG修飾ヒトアルギナーゼ1の単回静脈内投与で処置した健康なラットにおける血漿中アルギニン濃度のグラフ。
図10】Day0におけるPEG修飾ヒトアルギナーゼ1の単回静脈内投与で処置した健康なラットの体重のグラフ。
図11】Day0における直鎖状及び分枝鎖状のPEG修飾ヒトアルギナーゼ1の単回静脈内投与で処置した健康なラットにおける血漿中アルギニン濃度のグラフ。
図12】Day0における直鎖状又は分枝鎖状のPEG修飾ヒトアルギナーゼ1の単回静脈内投与で処置した健康なラットの体重のグラフ。
図13】LC/Q-TOF MSによる分子質量決定。PEG化アルギナーゼの解析質量は、34,572.3Daである。
図14】変異体ヒトアルギナーゼ1のペプチドマップ。
図15】2mg/kgの単回静脈内投与後の経時的なラット血漿中のアルギナーゼの酵素活性のグラフ。
図16】2mg/kgの単回静脈内投与後の経時的なラット血漿中の免疫活性PEG修飾ヒトアルギナーゼ1の血漿中濃度のグラフ。
図17】(i)低ASNS発現細胞系(MDA-MB-231、ZR-75-1、MCF7)及び(ii)高ASNS発現細胞系(HeLa、HepG2及びMIA-Paca2)におけるASNase単独の有効性のグラフ。3組の独立した試験を実験ごとに行った。誤差の棒は、1標準偏差(SD)を表す。
図18】(i)低ASNS発現細胞系(MDA-MB-231、ZR-75-1、MCF7)及び(ii)高ASNS発現細胞系(HeLa、HepG2及びMIA-Paca2)におけるrhArg単独及びrhArg-ASNase併用の有効性のグラフ。3組の独立した試験を実験ごとに行った。誤差の棒は、1標準偏差(SD)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下の記載は、本発明を理解する際に有用であり得る情報を含む。本明細書において提供される情報のいずれも従来技術であるか、若しくは主張される本発明に関連したものであること、又は具体的若しくは暗黙的に参照されるいずれの刊行物も従来技術であることは、承認されるものではない。
【0028】
本発明の主題は、ヒトアルギナーゼの拡張可能な精製を提供する装置、組成物及び方法を提供することである。本発明の概念の組成物及び方法において、組換えヒトアルギナーゼを含有する調製物が高温でインキュベートされ、それによって沈殿物が形成される。この沈殿物を除去し、上清を回収し、陰イオン交換体上においてイオン交換に供する。この陰イオン交換処理から得られたフロースルーフラクションを回収し、陽イオン交換体上におけるさらなるポリッシング工程に供するが、ここで塩勾配を用いてヒトアルギナーゼを溶出させる。得られたヒトアルギナーゼを、例えばPEG化によって修飾することができる。そのようなPEG化は、高純度でPEG化ヒトアルギナーゼを生成するために、低温で比較的小さいモル過剰の反応性PEG類似体を用いて実施され得る。本発明の主題は、癌細胞の増殖を阻害するためにアルギニン及びアスパラギンを低下させる化合物を用いる装置、システム及び方法を提供することである。そのような化合物は、アルギニン及びアスパラギンの濃度を触媒的に低下させるアルギナーゼ及び/又はアスパラギナーゼなどの酵素であり得る。好ましい実施形態において、そのような酵素は、そのような組換えヒトアルギナーゼ(rhArg)などのヒト酵素である。
【0029】
そのようなアミノ酸枯渇酵素は、自然原料から精製される酵素として、又は組換え細菌、組換え真菌、組換え植物細胞若しくは組換え動物細胞の生成物として提供され得る。そのような治療において利用される酵素は、80%、85%、90%、95%、98%、99%又はそれ以上を超える純度を有することが可能であり、変換後に修飾されてもよい。そのような修飾としては、吸収及び/又は半減期を向上させる修飾(PEG化など)を挙げることができる。酵素含有医薬製剤は、例えば注射又は注入によって静脈内投与され得る。そのような調製物は、癌処置のために利用される化学療法剤、免疫療法剤及び/又は放射線治療を含むことができるか、又は同時投与され得る。
【0030】
本発明の主題の各種の目的、特徴、態様及び長所は、同様の符号が同様の構成要素を表す添付図面と共に、以下の好ましい実施形態の詳細な説明から、より明らかになるであろう。
【0031】
開示された前記手法が、組換え原料から天然配列を有する高精製ヒトアルギナーゼの拡張性のある作製を含む多くの有利な技術的効果を提供することを認めるべきである。
【0032】
幾つかの実施形態において、本発明のある種の実施形態を記載し、主張するために用いられる成分の量、濃度などの特性、反応条件などを表す数は、幾つかの例において「約」という用語で修飾されるものと理解される。したがって、幾つかの実施形態において、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される数値的パラメータは、特定の実施形態によって得られることが求められる所望の特性によって変化し得る近似値である。幾つかの実施形態において、数値的パラメータは、報告される著しい桁の数字を考慮し、通常の端数処理技術を適用することによって解釈されるべきである。それにも関わらず、本発明の幾つかの実施形態の幅広い範囲を記載する数値範囲及びパラメータは近似値であり、具体例に記載される数値は、実行可能であるのと同程度に正確に報告される。本発明の幾つかの実施形態に示される数値は、それらのそれぞれの試験測定値で見出される標準偏差から必然的に生じるある種の誤差を含んでもよい。
【0033】
本明細書における、及び、続く特許請求の範囲にわたる記載において用いられるように、「一つの(a)」、「一つの(an)」及び「前記(the)」の意味は、文脈が明確に規定しない限り、複数形の参照を含む。また、本明細書における記載において用いられるように、「中の(in)」の意味は、文脈が明確に規定しない限り、「中の(in)」及び「上の(on)」を含む。
【0034】
本明細書における値の範囲の説明は、単に範囲内の別々の各値を個別に参照する短縮方法の役割を果たすことが意図されるだけである。本明細書において示されない限り、各個別の値は、あたかもそれが本明細書において個別に列挙されるかのように明細書に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書に特に明記しない限り、又は文脈に明確に矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施され得る。本明細書におけるある種の実施形態に関して提供されるあらゆる例又は例示的な文言(例えば、「など」)の使用は、単に本発明をより良好に明らかにすることを意図するものであって、それ以外の場合に主張される本発明の範囲を限定するものではない。本明細書における文言は、本発明の実施に必須な、主張されないいかなる要素も示すものとして解釈されるべきでない。
【0035】
本明細書に開示される本発明の代替的な要素又は実施形態の組分けは、限定するものとして解釈されるものではない。各群の部分は、個別に又は前記群の他の部分若しくは本明細書において見出される他の要素と組み合わせて参照され、主張され得る。群の一つ以上の部分は、利便性及び/又は特許性の理由で群の中に含まれ得るか、又は削除され得る。そのような包含又は削除が行われる場合、本明細書は、このように添付の特許請求の範囲に用いられる全てのマーカッシュ群の明細書を実現して修飾される群を含むと本明細書において考えられる。
【0036】
以下の考察は、本発明の主題の多くの例示的な実施形態を提供するものである。各実施形態が本発明の要素の単一の組み合わせを表すにもかかわらず、本発明の主題は、開示された要素の全ての可能な組み合わせを含むと考えられる。したがって、一実施形態が要素A、B及びCを含む場合、第二実施形態は要素B及びDを含み、そして本発明の主題は、明示的に開示されない場合であっても、A、B、C又はDの他の残りの組み合わせを含むことも考えられる。
【0037】
本発明の概念の実施形態において、前記アミノ酸枯渇酵素の内の一つは、哺乳類、鳥類、爬虫類、植物、真菌及び/又は細菌のアルギナーゼなどのアルギナーゼである。幾つかのそのような実施形態において、前記アルギナーゼは、培養における例えば、細菌、酵母、真菌、昆虫、植物又は哺乳類の細胞の遺伝子操作の生成物として提供されるヒトアルギナーゼであることができる。そのようなアルギナーゼは、続く共役反応、例えば潜在的に修飾可能な側鎖を含む一つ以上のアミノ酸の除去又は置換の特異性を向上させる役割を果たす一つ以上の配列修飾を含むことができる。好ましい実施形態において、組換えヒトアルギナーゼは、大腸菌クローン、例えば、ヒトアルギナーゼ1をコードするcDNAが挿入されたカナマイシン耐性発現ベクターpET-30aを含む株BL21(New England BiolabsのT7 Express)において生成され得る。そのような形質転換された大腸菌の培養は、適切な培地中で、任意の適切なスケール、例えば、0.1L、1L、5L、10L以上で実施され得る。そのような細菌培養物の光学密度は、それが組換えヒトアルギナーゼ1の回収のための最適密度にいつ達したのかを決定するためにモニタされ得る。別の場合、前記細菌の回収及びさらなる処理の前に、あらかじめ決められた時間、培養を継続することができる。
【0038】
図1は、本発明の概念の処理の例を概説するフローチャートを提供する。示されるように、前記ヒトアルギナーゼ1を発現する細菌又は他の細胞が、前記所望の酵素を遊離するために、回収され、破砕され、抽出される。細菌は、濾過、沈降及び/又は遠心分離を含む任意の適切な手段によって回収され得る。所望により、このようにして回収される細菌は、後続の処理の前に濯がれ得るか、又は洗浄され得る。
【0039】
前記細菌又は他の細胞の破砕は、任意の適切な処理によって実施され得る。これらとしては、酵素消化、浸透圧ショック、急激な圧力変化(例えば、圧縮による圧搾及び/又は音波処理による)が挙げられるが、それらに限定されるものではない。幾つかの実施形態において、これらの処理は、温度制御状態下で実施され得る。例えば、音波処理を受ける細菌又は他の細胞の温度は、それがヒトアルギナーゼの後続の活性と適合する温度を超えないことを確保するように制御され得る。他の実施形態において、前記細菌又は他の細胞の破砕の前、間又は後に、一つ以上のプロテアーゼ阻害剤を添加することができる。さらに他の実施形態において、前記細菌又は他の細胞の破砕の前、間又は後に、一つ以上の安定剤(例えば、抗酸化剤)を添加することができる。
【0040】
前記細菌又は他の細胞の破砕の後、(例えば、沈降、濾過及び/又は遠心分離によって)残余の破片を除去して、前記ヒトアルギナーゼを含む溶液を放置することができる。本発明者らは、アルギナーゼが、望ましくない混在タンパク質の変性及び後続の沈殿をもたらす可能性がある高温(すなわち、37℃、40℃、45℃、50℃、60℃及び/又は70℃超)で驚くほど安定していることを見出した。例えば、本発明者らは、ヒトアルギナーゼIが、多くの混在タンパク質の沈殿をもたらす温度である74℃で安定していることを見出した。理論に限定されることなく、この安定性は、二価のイオンによる錯体形成によって提供されると考えられる。これによって、(混在タンパク質を含む)沈殿物と(ヒトアルギナーゼを含む)上清とを生成するために、Mn2+又はCo2+などの二価のイオンの存在下で、高温(すなわち、37℃を上回る温度)でアルギナーゼを抽出することが可能になる。さらに、コバルトキレート化アルギナーゼは、非常に増強された触媒活性(kcat/K)を示すので、高い触媒ポテンシャルを提供するためだけでなく、前記アルギナーゼのMn2+をCo2+に置換するためにも、抽出の間にCoClを利用することができる。前記ヒトアルギナーゼの適切~最適な回収率、純度及び活性を提供するために、前記温度及びインキュベーション時間を選択することができる。
【0041】
インキュベーション温度は、約40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、75℃、80℃、85℃、90℃又は約90℃超からの範囲であることができる。インキュベーション時間は、1分間、2分間、3分間、5分間、10分間、15分間、30分間、45分間、1時間、2時間、3時間、4時間、8時間、12時間又は12時間超からの範囲であることができる。幾つかの実施形態において、前記インキュベーション期間の間に前記温度を変化させることができる。好ましい実施形態において、前記インキュベーション温度は65℃であり、前記インキュベーション期間は15分間である。本発明者らは、そのような方法が、同時に前記アルギナーゼにおいてMn2+をCo2+に置換しつつ、有利には、望ましくない感熱性タンパク質の大部分を除去することができることを見出した。
【0042】
この沈殿工程の後、さらなる処理のために、前記アルギナーゼを含む前記上清を回収する。前記上清は、沈降、濾過及び/又は遠心分離を含む任意の適切な方法によって前記沈殿物から分離され得る。次いで、回収された前記上清を、陰イオン交換に適合性のある水性緩衝液に、(例えば、透析、ゲル濾過及び/又は透析濾過によって)移送する。そのような緩衝液の組成は、用いられる陰イオン交換媒体の性質に少なくとも部分的に依存しているが、概して、比較的低い(例えば、100mM未満の)モル濃度及び高いpH(例えば、7超)を有することができる。そのような陰イオン交換体は、アンモニウム基を含む陰イオン交換体など、陰イオンに対する比較的低い親和性を有する弱陰イオン交換体であることができる。別の場合、そのような陰イオン交換体は、陰イオンに対する比較的高い親和性を有する強陰イオン交換体(第四級アミン基を含む陰イオン交換体など)であることができる。好ましい実施形態において、強陰イオン交換体が用いられる。例えば、Capto Q(商標)などの強陰イオン交換体を利用する場合、適切な緩衝液は、pH8.05の20mMのTrisであることができる。前記上清の最終タンパク質濃度は、存在する混入材料の少なくとも一部からのアルギナーゼの最適な分離のために適切なものを提供するために調整され得る。
【0043】
適切な陰イオン交換緩衝液に移送した後、前記上清を陰イオン交換媒体で処置する。上記したように、そのような陰イオン交換媒体は、強陰イオン交換媒体、例えば固定第四級アミンを含む陰イオン交換媒体であることができる。前記陰イオン交換媒体は、任意の適切な形態で、例えば、濾過器、不混和液、多孔質粒子及び/又は非多孔質粒子として提供され得る。そのような強陰イオン交換媒体の例としては、ペンダント第四級アミン基を含む多孔質粒子として提供されるCapto Q(商標)媒体(GE Healthcare)がある。そのような陰イオン交換媒体を、前記上清中で混合及び/又は懸濁されるバルク固体相として適用し、次いで、(例えば、沈降、遠心分離及び/又は濾過によって)除去することができる。好ましい実施形態において、前記陰イオン交換媒体は、クロマトグラフィカラムにおけるクロマトグラフィベッドとして提供される。
【0044】
前記上清を陰イオン交換媒体のベッドに適用することが可能であり、それによって、部分的に精製されたアルギナーゼを含むフロースルーフラクションの通過が可能になると共に、少なくとも幾つかの混入物が前記媒体に結合する。適用の間の流速と共に、そのようなカラムの体積及び構成は、前記上清からの混入物の最適な捕捉のために適切なものを提供するために最適化され得る。部分的に精製された前記ヒトアルギナーゼの通過及び回収の後、前記陰イオン交換媒体は、再利用のために、(例えば、高塩濃度を含む緩衝液によって)濯がれ、再生され得る。そのような実施形態において、前記陰イオン交換媒体は、殺菌処置及び/又は発熱性物質低減処置に耐えるように選択され得る。
【0045】
回収された、部分的に精製された前記アルギナーゼを、(前記適用に依存して)そのまま利用することができるか、又はさらなるポリッシング工程に供することができる。おそらく、医薬的使用法がそのようなさらなる処理を必要とすることになる。ポリッシング工程が所望される場合、部分的に精製された前記アルギナーゼを陽イオン交換クロマトグラフィのために適切な水性緩衝液に移送することができる。この移送は、透析、ゲル濾過及び/又は透析濾過を含む任意の適切な手段によって達成され得る。幾つかの実施形態において、この移送は、適切な陽イオン交換緩衝液組成物を提供する希釈緩衝液における部分的に精製された前記ヒトアルギナーゼの希釈によって効果的に達成され得る。さらに他の実施形態において、前の前記陰イオン交換工程で利用された前記緩衝液は、陽イオン交換のために適切となるように、(例えば、pH及び/又はイオン強度の操作によって)調整され得る。
【0046】
部分的に精製された前記アルギナーゼは、適切な陽イオン交換緩衝液である場合、陽イオン交換媒体に適用され得る。適切な緩衝液は、典型的には、低~中程度のイオン強度(例えば、200mM未満)及び中性のpH(例えば、pH7)を有する。適切な陽イオン交換緩衝液の例としては、50mMのTris(pH7)がある。そのような陽イオン交換体は、カルボキシル基を含む陽イオン交換体など、陽イオンに対する比較的低い親和性を有する弱陽イオン交換体であることができる。別の場合、そのような陽イオン交換体は、陽イオンに対して比較的高い親和性を有する強陽イオン交換体(スルホン酸基を含む陽イオン交換体など)であることができる。好ましい実施形態において、前記陽イオン交換媒体は、ペンダントスルホン酸基を含む、Capto S(商標)(GE Healthcare)などの強陽イオン交換媒体であることができる。部分的に精製された前記アルギナーゼ調製物に由来するアルギナーゼは、前記陽イオン交換媒体に結合され、選択的に溶出するので、前記陽イオン交換媒体は、好ましくは、勾配溶出を支持するように所定位置に固定される固体(例えば、粒子)として提供される。好ましい実施形態において、前記陽イオン交換媒体は、クロマトグラフィカラムにおけるクロマトグラフィベッドとして提供される。適用の間の流速と共に、そのようなカラムの体積及び構成は、前記陽イオン交換媒体からのヒトアルギナーゼの最適な捕捉及び後続の遊離に適切なものを提供するように最適化され得る。
【0047】
そのような陽イオン交換カラムを用いる場合、陽イオン交換緩衝液に移送された部分的に精製されたアルギナーゼは、前記陽イオン交換媒体上における前記アルギナーゼの捕捉を可能にする流速で前記カラムに適用される。部分的に精製された前記アルギナーゼの適用の後、前記陽イオン交換カラムは、非結合材料を除去するために追加的な体積の陽イオン交換緩衝液(例えば、1~10カラム体積)で濯がれ得る。所望により、洗浄がいつ完了するのかを決定するために、この処理の間にUV吸光度をモニタすることができる。幾つかの実施形態において、緩やかに結合した材料を変位するために、よりストリンジェントな陽イオン交換緩衝液(例えば、前記陽イオン交換緩衝液よりも高いpH及び/又はイオン強度を有する洗浄緩衝液)が前記陽イオン交換カラムに適用される追加的な洗浄工程を用いることができる。そのような洗浄緩衝液の例としては、0.5M未満(pH7)における、50mMのTris+塩化ナトリウム(NaCl)がある。幾つかの実施形態において、様々なストリンジェンシーの一連のそのような洗浄緩衝液を用いることができる。
【0048】
部分的に精製された前記アルギナーゼの適用及び任意の後続の洗浄工程の後、溶出緩衝液の適用によって、精製されたアルギナーゼを前記陽イオン交換媒体から溶出させる。ステップ溶出を提供するために、単一のボーラスとして固定組成物の溶出緩衝液を適用することによって、この溶出を提供することもできる。他の実施形態において、前記溶出緩衝液は、陽イオン交換緩衝液に対する溶出緩衝液の比が経時的に増加する前記陽イオン交換緩衝液との混合物として適用され得る。そのような勾配溶出アプローチにおいて、この比が変化する速度は、経時的に線形であり得るか、又は非線形であり得る。好ましい実施形態において、前記カラム緩衝液の組成物を経時的に一定の速度で陽イオン交換緩衝液から溶出緩衝液へ移行させる直線勾配を用いて、溶出が達成される。前記溶出緩衝液は、前記陽イオン交換緩衝液とは、pH、イオン強度又はそれらの両方が異なる可能性がある。好ましい実施形態において、前記溶出緩衝液は、前記陽イオン交換緩衝液の組成及びpHを実質的に再現するが、さらに高濃度(例えば0.2M超)のNaClを含む。そのような溶出緩衝液の例としては、50mMのTris+0.5MのNaCl(pH7)がある。
【0049】
そのような勾配溶出の間、どのフラクションが回収されるのかを決定するために、前記カラムを出る材料のUV吸光度をモニタすることができる。所望の収率及び純度を提供するために、アルギナーゼ含有率及び/又は混入物の存在に基づいてフラクションを選択することができる。そのようなフラクションを、回収し、プールし、安定性のために適切な緩衝液に移送することができる。幾つかの実施形態において、そのような精製アルギナーゼを、続いて凍結及び/又は凍結乾燥することができる。さらに他の実施形態において、そのようにして得られた精製アルギナーゼは、医薬的使用のために、例えばPEG化によって誘導体化され得る。本発明の概念の方法及び組成物の典型的な結果は、約30%の収率で高純度(>90%)のヒトアルギナーゼを提供することができる。前記精製ヒトアルギナーゼの通過及び回収の後、前記陽イオン交換媒体は、再利用のために、(例えば、高塩濃度を含む緩衝液によって)濯がれ、再生され得る。そのような実施形態において、前記陽イオン交換媒体は、殺菌処置及び/又は発熱性物質低減処置に耐えるように選択され得る。
【0050】
幾つかの実施形態において、続いて、上記の通りに精製されるアルギナーゼに化学修飾をほどこすことができる。適切な化学修飾としては、ビオチン化、電荷修飾、架橋及び共役(例えば、親水性ポリマー(例えば、デキストラン)のグラフト、PEGなど)が挙げられる。例えば、精製されたアルギナーゼをアミン反応性基及び/又はチオール反応性基を担持するポリマーに接触させることによって、前記ポリマーの反応性形態を用いて、そのようなポリマーを前記精製アルギナーゼにグラフトさせることができる。適切な反応性基としては、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル、スルホNHSエステル、エポキサイド、ハロゲン化トリアジン、アルデヒド、ヒドラジン、ヨードアセトアミド、マレイミド、及び本技術分野で知られている他の架橋基が挙げられる。幾つかの実施形態において、そのような処理で用いられるヒトアルギナーゼは、例えば、前記ヒトアルギナーゼ上に存在する修飾可能なアミノ酸側鎖の数及び/又は位置を制限するか、又は減少させるために、遺伝子修飾され得る。例えば、ヒトアルギナーゼの配列内の一つ以上のリジンを別のアミノ酸と置換することによって、反応性アミンの数を減らすことができる。同様に、ヒトアルギナーゼの配列内の一つ以上のシステインを別のアミノ酸と置換することによって、反応性チオールの数を減らすことができる。
【0051】
一般にニッケルに対する親和性を有する融合タンパク質を生成するために用いられる(例えば、アミノ末端及び/又はカルボキシル末端における)ポリヒスチジン配列の付加は、本発明の概念の組成物又は方法において必要ではないことが理解されるべきである。適切な組換えアルギナーゼの例は、配列番号1で提供される。そのようなポリヒスチジン配列を含むことは、前記ヒトアルギナーゼを抗原性にする可能性があり、ゆえに、治療剤としての反復使用に不適切である。さらに、ポリヒスチジン配列を含む場合、初期精製の間の、及び上記の修飾反応に続く陽イオン交換を用いた前記アルギナーゼの単離に干渉することになる。
【0052】
PEG化は、治療価値を有するタンパク質の血清半減期に延長するためにしばしば用いられる。そのような処理は、確実に前記対象タンパク質のかなりの割合をPEG化するために、概して、大きなモル過剰(例えば、10倍以上のモル過剰)のPEGの反応性形態を用いて行われる。このことは、ヒトアルギナーゼ1など、結合効率性を低下させる立体化学的問題を提示するタンパク質において特に当てはまる。PEGの典型的な反応性形態としては、PEG-NHS又はPEG-スルホNHS(アミンによる結合が所望される場合に用いられる)又はPEG-マレイミド(チオールによる結合が所望される場合に用いられる)が挙げられる。大きなモル過剰のそのような活性化PEGの使用は、大きなモル過剰における低選択度での結合の可能性、後続の前記反応タンパク質からの大過剰の未反応PEGの分離の困難、及び費用を含む多くの理由により、望ましくない。
【0053】
驚くべきことに、本発明者らは、非常に低い(例えば、タンパク質含有率に対して3倍~4倍の)モル過剰のPEGマレイミドを用いて、ヒトアルギナーゼ(上記のように精製されるヒトアルギナーゼ1など)を効率的にPEG化することができることを見出した。さらに驚くべきことに、このPEG化を、選択条件下で(例えば、プロトン化によって潜在的に反応性のアミンを阻止する緩酸性pH)、低温で(それらの両方は、反応性を低下させる)、延長された(すなわち、1時間を超える、及び/又は、最高で72時間の)反応時間、高効率で行うことができる。本発明者らは、そのような方法によって、提供された前記ヒトアルギナーゼ1の実質的に全て(すなわち、90%超)のPEG化を提供することが可能になり、ゲル濾過及び/又はイオン交換によって、残留する未反応の、又は加水分解された比較的少量のPEGからの分離を容易に達成することができることを見出した。幾つかの実施形態において、このようにして修飾された前記ヒトアルギナーゼを遺伝子修飾して、天然配列と比較して少量の潜在的に反応性のシステインを提供することができる。好ましい実施形態において、前記ヒトアルギナーゼは、単一のシステインを提供し、且つポリヒスチジン配列を含まない修飾ヒトアルギナーゼ1であることができる。幾つかの実施形態において、前記ヒトアルギナーゼは、コバルトやニッケルなどの非天然(すなわち、マンガンではない)金属補因子を含むことができる。
【実施例0054】
細胞破砕、抽出及び清澄化
アンピシリン耐性、一過性及び構成的発現ベクターpET-3aを含む大腸菌クローン(株:BL21 Star(商標)、Invitrogen)を、ヒトアルギナーゼ-1をコードするcDNAで形質転換し、培養において確立した。湿重量が42.2gのそのような培養物から生成された細胞ペーストを230mLの溶解緩衝液(50mMのTris pH7.9、1mMのMgSO)で洗浄した後、細胞ペーストの回収のために遠心分離を行った。210mLの溶解緩衝液による前記細胞ペーストの再懸濁の後、さらなる処理のために35mLを吸引した。
【0055】
Q700 Sonicator(Qsonica)及び以下のデューティサイクル:(10秒間ON、30秒間OFF、3.5分間のON)を用いて音波処理によって35mLの前記細胞再懸濁液からヒトアルギナーゼを放出して、ホモジェネートを産生した。遠心分離(10,000rpm、15分間)の後、得られた上清を回収し、水浴中でCoClの存在下で熱的沈殿に供した(65℃で15分間)。遠心分離によって沈殿物を除去し、上清をさらなる精製工程に供した。図2は、ホモジェネートについてのSDS-PAGEの結果と、少なくとも20mMのCoClが存在する場合は、約15分間、65℃の温度でアルギナーゼの最適回収が観察されたことを示す各種量のCoClが存在する場合の熱的沈殿の結果とを示す。処理のこの工程は、感熱性不純物を除去しただけでなく、キレート化イオンをコバルトで置換した。
【0056】
陰イオン交換クロマトグラフィによる部分精製
熱的沈殿(26.5mL)によって生成された前記上清を0.45μm濾過器(Agilent、Captiva(商標)Econofilter PES膜、25mm、0.45μm)で濾過し、100mLのMilliQ(商標)水及び110mLの20mMのTris緩衝液(pH8.1)で希釈して、ローディング試料(pH7.95、伝導率:1.213mS/cm)を産生した。
【0057】
前もって20mMのTris緩衝液(pH8.1)で平衡させたCapto Q(商標)(1×6.8cm、GE Healthcare Life Sciences)を詰めたクロマトグラフィカラムを取り付けたAKTA(商標)prime plus(GE Healthcare Life Sciences)におけるFPLCによって前記精製を行った。さらなる精製のために、その流れを3.5mL/分の流速で回収した。この処理の間、UV吸光をモニタした。結果を図3に示す。Capto Q(商標)クロマトグラフィの間に回収されたフラクションのSDS-PAGE分析の結果を図4に示す。ヒトアルギナーゼ1が、一部の少量の混入物と共に、フロースルーフラクションに残留することは明らかである。
【0058】
陽イオン交換クロマトグラフィによるさらなる精製
15mLの50mMのMES(MES一水和物)緩衝液(pH6.7)を、前記Capto Q(商標)カラムから得られた前記フロースルーフラクションに加え、3.9mL/分の流速でCapto S(商標)カラム(1×10cm、GE Healthcare Life Sciences)上にロードする前に6Nの塩酸を加えることによって、前記pHを6.2に調整した。前もって前記Capto S(商標)カラムを50mMのMES緩衝液(pH6.7)で平衡させた。平衡化緩衝液中において0~0.5MのNaClの直線勾配でヒトアルギナーゼ1を溶出した。UV吸光度をモニタした。典型的な結果を図5に示す。Capto S(商標)クロマトグラフィの間に回収されたフラクションのSDS-PAGE分析の結果を図6に示す。前記SDS-PAGEゲルがオーバーロードされることが明らかであることが示される非常に少量の混入物のみで、簡便なNaCl勾配を用いて、ヒトアルギナーゼ1が高純度で溶出することが明らかである。
【0059】
前記SDS-PAGEゲルをオーバーロードするタンパク質濃度でも明らかに汚染物が存在しないことは、このヒトアルギナーゼ1調製物についての少なくとも90%、95%、98%、99%以上の純度を示す。この純度が、ポリヒスチジン又は他の親和性「タグ」配列を必要とすることなく達成されたものであり、天然タンパク質配列の精製を表すことを理解すべきである。本発明者らは、配列修飾及び/又は誘導体化(例えば、PEG化)ヒトアルギナーゼを精製するために、並びに前記誘導体化反応の反応生成物における未反応ヒトアルギナーゼから誘導体化されたものの分離のために、本発明の概念の方法及び組成物を利用することができることを検討する。
【0060】
処理収率及び発現レベルの推定
表1は、前記精製処理の各種ポイントにおける処理収率の推定を提供するものである。UV分光光度計(Multiskan(商標)GO、Thermo Scientific(商標))を用いて280nmにおけるUV吸光度によって測定されるCapto Sのプールのものを除いて、Image Studio Lite(商標)Version5.2(LI-COR Biosciences)を用いてデンシトメトリーによってタンパク質濃度を測定した。280nmにおける吸光係数は、1mg/mLについて0.703である。
【0061】
【表1】
【0062】
この例における全収率を28.5%で推定した。
【0063】
各種のPEG部分を有する共役ヒトアルギナーゼ1の調製
300~450U/mgの触媒活性を有し、上記のように精製された配列修飾コバルトキレート化ヒトアルギナーゼ-1(配列番号1)を、異なるマレイミド誘導体化PEGによる後続のPEG化のために得た。選択的共役のために、4つのPEG-マレイミド、すなわち、20L(20-KD直鎖状PEG-マレイミド(Jenkem Technology(米国)から購入、Cat#M-MAL-20K))、20V Sinopeg#06020101912(20-KD「V」構成PEG-マレイミド(NOF Corp.から購入、Cat#GL2-200MA))、20Y(20-KD「Y」構成PEG-マレイミド(Sinopegから購入、#06020501954))、40Y(40-KD「Y」構成PEG-マレイミド(Jenkem Technology(米国)から購入、Cat#Y-MAL-40K))を用いた。共役のために、5mg/mLの上記ヒトアルギナーゼ1を、pH6.7で、4~10℃で、異なるモル比のそれぞれの前記PEG試薬と反応させた。この低温で、少なくとも48時間、前記反応混合物をインキュベートした。次いで、サイズ排除クロマトグラフィ又は陽イオン交換クロマトグラフィ(大規模調製のためにより適切であり得る)で前記モノペグ化生成物を分離した。陽イオン交換クロマトグラフィのために、MacroCap(商標)SPカラムを用いて、0.1MのNaClを含む20mM MES pH6.3緩衝液を前記溶出緩衝液として用いてPEG化生成物を精製した。
【0064】
SDS-PAGEによって決定されるように、モノペグ化生成物を含むフラクションをプールし、濃縮し、PBS pH7.4緩衝液に対して透析した。0.1%(1mg/mL)の溶液について、0.703の吸光係数を用いて、280nmにおける紫外線分光法によって、最終タンパク質濃度を直接決定した。
【0065】
マレイミド誘導体化PEGは、効率的にはpH6.5~7.5で、安定なチオエーテル結合を形成するためのスルフヒドリル基のタンパク質共役のために有効である。pHが7.5を超える場合に一級アミンの方への反応性が生じる可能性があり、前記pHが増加するにつれて、前記マレイミド基の安定性は低下する。ヒトアルギナーゼは、そのような誘導体化親水性ポリマーを用いた共役に対して、比較的、耐性を示すことが知られている。ヒトアルギナーゼは、ホモトリマーである。本発明者らは、(理論に束縛されるものではないが)前記スルフヒドリル共役反応が(例えば、立体障害によって)選択的な場合であっても、前記第一PEG分子の共役が前記ホモトリマー上の第二共役を妨げる可能性があると考える。その結果、完全反応を確保するために、通常、大きな過剰モル比のPEG試薬が利用される。例えば、従来の反応条件下で、6倍のモルのPEGの添加によって、室温における35時間のインキュベーションの後で71.1%のモノペグ化生成物が生じ、8倍のモル過剰の添加によって、室温における46時間のインキュベーションの後で86.3%のモノペグ化生成物が生じた。
【0066】
驚くべきことに、本発明者らは、ストリンジェントな共役条件(弱酸性pHなど)を用いる場合であっても、前記共役反応が低温(例えば、10℃未満)で生じる場合、最小限のPEG試薬を用いて高共役収率を達成することができることを見出した。理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、低温によって、マレイミド結合基の半減期が延長され、その結果、二回目及び三回目の共役の確率が増加すると考える。反応のための前記pHは、スルフヒドリル基の選択的共役に好都合となるために、約pH6.7であることができる。
【0067】
異なるモル比(例えば、2倍、4倍、6倍)の前記PEG-マレイミド試薬でPEG化キネティクスを検討した。PEG-マレイミドの添加及び約4℃のインキュベーションの後、陽イオン交換体(MacroCap(商標)SP)による精製の前に4倍の体積の20mM MES pH6.3緩衝液で前記粗反応混合物を希釈した。前記希釈反応混合物を前記カラム上にロードした後、20mM MES pH6.3緩衝液で洗浄することによって、余剰のPEGを除去した。次いで、0.1MのNaClを含む同じ緩衝液でモノペグ化アルギナーゼを溶出させた。PBS緩衝液に対する大規模な透析及び濃縮の後、前記最終生成物は、比活性が425U/mgであった。
【0068】
経時的な低温におけるPEG化収率(モノPEG化生成物)を、逆相超高速液体クロマトグラフィ(RP-UPLC)によって決定した。結果は、図7に示されるが、ヒトキナーゼ1よりも4倍のモル過剰のPEG-マレイミドが48時間で95%の収率に達するために充分であることを示す。本発明者らは、3倍のモル過剰が、低温で、延長されたインキュベーション(例えば、48時間以上)の場合に同様の収率に達するために充分であると考える。
【0069】
健康なラットにおけるPEG化ヒトアルギナーゼ1の薬力学的試験
動物:各試験群について3匹の健康な幼若雄性SDラットを選択した。各群のラットに、ヒトアルギナーゼ共役体を、示された用量で、IV送達を介して投与した。各動物について、1mLのシリンジを用いて、抗凝固薬(ヘパリンNa)を含む試料チューブを用いて、適切な時点で、約0.8mLの全血の試料を頸静脈から採取した。10分間、3,000rpmにおける前記血液試料の即時の遠心分離によって血漿試料を調製した。上清(0.3~0.4mL)を得て、二つの試料に分割し、-80℃で各々を貯蔵した。
【0070】
アルギニンの定量:以下に、及び表2に示される条件を用いて、Agilent 6460 Liquidクロマトグラフィ及びElectrospray Ionization Triple Quadrupole MSシステムを用いて、アルギニンの公知の濃度と比較して、アルギニンの血漿中濃度を決定した。
【0071】
カラム:Agilent Zorbax RRHD HILIC Plus 95Å、2.1×100mm、1.8μm
移動相A:5mM NHCOO/0.1%ギ酸;B:アセトニトリル中における0.1%ギ酸
流速:0.2mL/分;注入体積lμL
実行時間(平衡化を含む):15分間
検出:極性+
【0072】
【表2】
【0073】
参照調製物:30mMでアルギニン貯蔵溶液を調製する。1%のBSA/PBS緩衝液中において4、10、25、75、100、150、200及び250μΜでアルギニンの作業標準を調製する。約60μg/mLで、シネフリンの貯蔵溶液を調製する。以下で記載されるように試料前処理手法の回収率を標準化するために、シネフリンを内部標準として用いる。
【0074】
試料前処理:50μLの血漿試料を10μLのシネフリン原料と共に添加した後、540μLのMeOHを添加して、前記試料中のタンパク質を沈殿させる。完全な混合を確実にするためにボルテックスする。最大速度で遠心分離して沈殿物を遠心沈殿させた後、前記上清のUPLC/MS分析を行う。アルギニンの標準物質(4~200μM)も上記と同じ試料処理手法に供した(シネフリン及びMeOH沈殿を添加する)。
【0075】
分析及び算出:試料中の選択生成物イオンの算出領域を用いて、参照標準物質に対するアルギニンの濃度を決定した。定量限界は、約5μΜである。
【0076】
単回静脈(IV)送達を介して、健康なラットにおいて、アルギニン枯渇の潜在性を決
定した。三つの共役体、すなわち、A20CL(20kD直鎖状PEGと共役したアルギニン)、A20CV(20kD「V」分枝鎖状PEGと共役したアルギニン)及びA40CY(40kD「Y」分枝鎖状PEGと共役したアルギニン)を、誤算のために、それぞれ2.4mg/Kg、3.3mg/Kg及び2.8mg/Kgで投与した。処置後の血漿中アルギニンを図8に示したが、これは、健康な雄性ラットにおいて、約5日間、(投与前レベルと比較して)血漿中アルギニンが95%のアルギニン枯渇に成功したことを示す。
【0077】
静脈送達によって1.2mg/kg及び0.4mg/kgでA20CLの投与を受けたラットを用いて用量設定試験を行った後、血漿中アルギニン濃度のモニタリングを行った。結果を図9に示す。1.2mg/mLのA20CLによる処置によって、血漿中アルギニンの低レベル(<10μΜ)が約5日間生じた。図10に示されるように、処置の間、有意な体重減少は示されなかった。このことは、PEG修飾アルギナーゼの耐容性が良好であることを示唆する。
【0078】
直鎖状PEG及び分枝鎖状PEGを、アルギニン枯渇のためのヒトアルギナーゼ1の修飾におけるそれらの潜在性に関して、一対一で比較した。Day0において、3匹の健康な雄性ラットに、2mg/kgで、それぞれA20CL及びA20CYを投与した。相対的な血漿中アルギニン濃度の結果を図11に示す。示されるように、直鎖状形態の共役体及びY形態の共役体の両方は、連続的に少なくとも5日間、血漿中アルギニンの90%を枯渇させることに成功する。
【0079】
図12に示されるように、直鎖状PEG修飾アルギナーゼ又は分枝鎖状PEG修飾アルギナーゼによる処置の間、有意な体重減少は示されなかった。このことは、直鎖状PEG修飾アルギナーゼ及び分枝鎖状PEG修飾アルギナーゼの両方の耐容性が良好であることを示唆する。
【0080】
ヒトアルギナーゼ1の分子質量
Agilent 6540 UHD Accurate Mass Q-TOF LC/MSシステムが連結されたUPLCシステムを用いて逆相(RP)クロマトグラフィによって、前記変異体ヒトアルギナーゼ1の分子質量を分析した。
【0081】
前記精製アルギナーゼの質量スペクトルm/zを図13に示すが、これは、34,572.3Daのデコンヴォルーション質量を示す。このことは、前記変異体ヒトキナーゼのアミノ酸配列(すなわち、N末端Metを有さない)から誘導された34,571.6Daの平均質量と良好に一致する。
【0082】
ペプチドマッピング及び共役部位の決定
4Mの尿素の存在下で、2mg/mLのタンパク質及び配列決定グレードの2%(w/w)Lys-Cを含む50mMのTris pH8 緩衝液において、タンパク分解性溶液を調製した。室温で6時間のインキュベーションの後、前記反応物を急冷するためにTFA又はギ酸を添加し終濃度0.1%で得た。注入の前に、遠心分離によって、又は0.2μm又は0.4μmの膜による濾過によって、沈殿物を除去した。
【0083】
LC/MSシステム、具体的には、Agilent 6540 UHD Accurate Mass Q-TOF LC/MSシステムが連結されたAgilent 1290 infinity UPLCシステムを用いて、ペプチド同定を行った。
【0084】
下記の通りの、及び表3の条件を用いて、クロマトグラフィ手法を行った。
カラム:分子質量決定(上記参照)のために利用されたものと同じ
移動相及び勾配:
移動相A:水中における0.1%(v/v)TFA
移動相B:100%(v/v)アセトニトリル中における0.1%(v/v)TFA
流速:0.4mL/分
注入:10μg
【0085】
【表3】
【0086】
LC-MSが連結されたペプチドマッピングによって、PEG化ヒトキナーゼ1のPEG化部位を同定した。4Mの尿素の存在下でリジン残基のC末端側上のペプチド結合を選択的に加水分解するエンドプロテイナーゼLys-Cによってタンパク質を消化した。全てのタンパク分解性ペプチドを図14に示されるように割り当てることに成功したが、リシルペプチドについては、表4にまとめた。前記PEG化ヒトアルギナーゼ1のペプチドマップは、K6ペプチドにおける共役を示すが、ここでCys-44がスルフヒドリル修飾を受けやすい唯一の部位である。
【0087】
【表4】
【0088】
酵素活性及びキネティクス
540nmの最大吸光度で発色団を生成するための加熱によって、強酸、チオセミカルバジド及びFe3+の存在下で、尿素のジアセチルモノキシム(diacetylmonoxine)(DAMO)誘導体化を検出することによって、触媒活性を決定した。アッセイは、1.25mMの検出下限で、0~15mMの尿素の間、リニアーであることが示された。典型的には、3分間、あらかじめ37℃に設定されたヒートブロック上で、30μLの血漿試料及び陽性対照を暖めることによって、反応を開始した。30μLのアルギニン基質を添加した後、前記混合物を、正確に5分間、37℃でインキュベートした後、30μLの25%トリクロロ酢酸(TCA)の添加によって急冷を行った。遠心分離の後、10μLの作業尿素標準、試料/陽性対照又はブランク対照を300μLの発色試薬(DAMO及びチオセミカルバジドを含む)と混合し、前記混合物を、正確に10分間、あらかじめ100℃に設定された熱ブロック上でインキュベートした。得られた試料の540nmにおける吸光度を測定して、尿素濃度を決定した。アルギナーゼ活性の単位は、毎分1μモルの尿素生成と定義される。
【0089】
経時的な血漿中のアルギナーゼ活性を図15に示す。算出されたA20CL及びA20CYの半減期(tl/2)は、それぞれ17.0時間及び17.6時間であった。Day5の後で採取した血漿試料中において、活性は検出されなかった。
【0090】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)
サンドイッチELISAを用いて、PEG化ヒトアルギナーゼ1の血漿中濃度を決定した。前記アッセイでは、捕捉抗体としてヒトアルギナーゼ1に特異的なウサギポリクローナル抗体(Sino Biologicals #11558-RP01)、検出抗体としてHRP結合抗ヤギIgG抗体(R&D systems #HAF017)と共にヒツジポリクローナル抗アルギナーゼ抗体(R&D systems #AF5868)を利用した。
【0091】
2mg/kgにおけるPEG修飾ヒトアルギナーゼ1の単回IV投与の後の免疫活性PEG修飾ヒトアルギナーゼ1の血漿中濃度のELISA試験の結果を図16に示す。(20LのPEGと共役した)A20CL及び(20Y PEGと共役した)A20CYの血漿中濃度は、投与の24時間後において、それぞれ1013±119ng/mL及び2239±257ng/mLであった。投与前及び投与の120時間後に採取した全試料の濃度は、検出限界(160ng/mL)未満であった。しかるに、それぞれA20CL及びA20CYについて22.6時間及び20.3時間において半減期を算出したが、それは示される酵素活性についての半減期と一致する。
【0092】
配列修飾組換えヒトアルギナーゼ(rhArg)の阻害効果を増強するため、本発明者らは、同時にrhArg及びアスパラギナーゼ(ASNase)を用いて癌細胞からアルギニン及びアスパラギンを欠乏させた。本発明者らは、アミノ酸交換因子としてのアスパラギンの役割のため、アスパラギン欠乏が少なくともアルギニン欠乏の効果と相補的な効果を有する可能性があると考える。アスパラギンは、細胞内へのアルギニン移入を調節することが可能であり、したがって、アルギニン媒介mTORC1活性化に影響を及ぼす可能性があると考えられる。本発明者らは、アスパラギンの欠乏が、細胞内においてmTORC1の方へのアルギニン輸送を減退させる可能性があるという理論を立てる。
【0093】
癌細胞内のアスパラギンの欠乏の影響は、前記細胞内に存在するアスパラギン生成酵素アスパラギンシンテターゼ(ASNS)の量に依存する可能性がある(Richards及びKilberg 2006;Balasubramanian,Butterworthら、2013;Liu,Dongら、2013)。前記影響を評価するため、これによって、本発明者らは、(i)比較的低いASNSを発現する乳房細胞系MDA-MB-231、MCF7、ZR-75-1(Yang,Heら、2014)、(ii)高ASNS発現細胞系HeLa(Guerrini,Gongら、1993)、MIA-Paca-2(Liu,Dongら、2013)及びHepG2(Gjymishka,Suら、2009)を処置するために、rhArg及びASNaseを利用することができた。個別の各薬物(rhArg、ASNase)及び組み合わせの有効性を比較した。
【0094】

組換えヒトアルギナーゼ(rhArg)の発現、精製及びPEG化のための例示的な手法は、上記で詳細に記載される。アルギナーゼの一つの単位は、30℃、pH8.5で1分間当たり1μmol尿素を生成する酵素の量として定義される。アスパラギナーゼ(ASNase)をSigma(A3809)から購入した。
【0095】
MTTアッセイ:低ASNS発現乳癌細胞系(MCF-7、ZR-75-1及びMDA-MB-231)及び高ASNS発現癌細胞系(HeLa、HepG2及びMIA-Paca-2)をATCCから購入した。細胞を5×10個/ウェルの密度で96ウェル平板内に播種した。インキュベーションの1日後に、前記培養培地を各種濃度のrhArgを含む培地で置換した。結合アッセイ(すなわち、アルギナーゼ及びアスパラギナーゼを利用する)のために、前記培養培地を一定のモル比(例えば、5(rhArg):1(ASNase))で異なる濃度のrhArg及びASNaseを含む培地で置換した(Chou 2010)。前記MTTアッセイをDay3(薬物処置の3日後)において行った。前記培養培地をMTT溶液(1mg/mL)(Invitrogen)で置換し、37℃で4時間インキュベートした。インキュベーションの4時間後、MTT溶液をジメチルスルホキシド(DMSO)で置換し、570nmにおける吸光度を650nmの基準で測定した。処置細胞の吸光度を未処置細胞の平均吸光度で割ることによって細胞生存度を決定した。各細胞系について三つの独立した組の実験(n=3)を行った。Prism(商標)バージョン6.01を用いてデータを分析した。
【0096】
併用指数(CI)の算出:CalcuSyn(商標)バージョン2.1を用いてrhArg及びASNase処置の併用指数を算出した。CIは、添加(CI<1、相乗的)効果を超える、添加(CI>1(拮抗的))効果より低い、又は添加(CI=1)効果と同等など、前記薬物の併用効果についての値を提供する。
【0097】
本発明者らは、ASNase単独が、低ASNS発現細胞系及び高ASNS発現細胞系の大部分に対する良好な阻害効果を提供しないことを見出した。(i)低ASNS発現癌細胞及び(ii)高ASNS発現癌細胞におけるASNaseの用量反応曲線を図17に示す。ASNaseは、0.016~0.4U/mLの範囲の低阻害効果(20%未満の細胞阻害)を示した。MDA-MB-231、ZR-75-1、MCF7、HeLa及びHepG2において、60~70%の細胞生存度を検出することが可能である。MIA-Paca-2において、約40%の細胞生存度が検出された。
【0098】
驚くべきことに、rhArg及びASNaseの併用は、低ASNS発現細胞系において、rhArg単独と比較して、実質的に向上した阻害効果を提供する。図18に示される通りの、(i)低ASNS発現癌細胞及び(ii)高ASNS発現癌細胞における、rhArg単独の用量反応曲線(実線)並びにrhArg及びASNaseの併用の用量反応曲線(破線)。低ASNS発現細胞系において、rhArg及びASNaseの併用処置は、各種濃度において、急激に向上した細胞阻害効果を提供した。rhArg-ASNaseの併用処置は、MDA-MB-231における阻害効果の良好な向上を示した。高ASNS発現細胞系において、併用処置は、平均的に、阻害効果をわずかに向上させた(<5%)。本発明者らは、rhArg-ASNase併用治療が、高ASNS発現細胞系ではなく、低ASNS発現細胞系において、予想外の強い相乗効果を提供することを見出した。
【0099】
濃度が異なるrhArg及びASNaseの併用の併用指数(CI)を表5に示す。驚くべきことに、低ASNS発現細胞系MDA-MB-231、ZR-75-1及びMCF7について、前記併用の全てが、癌細胞増殖の阻害に対する相乗効果(CI<1)を示した。高ASNS発現細胞系HeLa、HepG2及びMIA-Paca2について、rhArg及びASNaseの前記併用のほとんどが、細胞増殖の阻害に対する拮抗効果(CI>1)を示した。
【0100】
【表5】
【0101】
本発明者らは、アスパラギン単独の欠乏が、癌細胞に対する阻害効果をほとんど提供しないことを見出した。そのようなアスパラギン欠乏単独は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)を除いて、癌を処置するための有効な方法であるとは思われない。本発明者らは、これらの白血病細胞におけるアスパラギンシンテターゼ(ASNS)の低発現によるALLに対するASNaseの有効性の理論を立てる(Su,Panら、2008)。
【0102】
本発明者らは、上記で記載される通りの併用治療において、アルギニン欠乏が、mTORC1の非活性化を提供する可能性があり、一方でアスパラギン欠乏が、細胞内におけるmTORC1タンパク質へのアルギニンの移入を減退させる可能性があるという理論を立てる。高ASNS発現レベルによってグルタミンからアスパラギンが生成される可能性があるので、前記併用治療の有効性は、前記癌細胞のASNS発現レベルに影響を受ける可能性がある(Horowitz及びMeister 1972)。HeLa、HepG2及びMIA-Paca2は、高ASNS発現レベルを示すが、低ASNSレベルを示す癌細胞と比較して、併用治療において示される向上は小さかった。CI算出によって、MDA-MB-231、ZR-75-1及びMCF7などの低ASNS発現細胞系が、ほとんどの併用濃度において、言及されたrhArg-ASNase相乗効果を示すことが示される。しかし、HeLa、HepG2及びMIA-Paca2などの高ASNS発現細胞系において、低い相乗効果が認められる。その結果は、細胞生存度アッセイと一致していた。本発明者らは、高ASNS発現細胞系が、充分なアスパラギンを生成して、前記併用治療の有効性を弱める可能性があるという理論を立てる。本発明者らは、ASNSの発現レベルが、rhArg-ASNase併用治療の有効性を予測するために使用され得るものであり、テーラーメイド薬物治療を開発するために有用であり得ると考える。
【0103】
各種癌細胞系におけるアルギナーゼ及びアスパラギナーゼによる併用治療の結果に基づいて、本発明者らは、癌処置のために、インビトロでアルギニン及びアスパラギンと同時に、グルタミンも欠乏させる可能性があると考える。グルタミン欠乏治療の有効性は、c-MYC発現の発現レベルに大きく依存する(Wise及びThompson 2010)。本発明者らは、アルギニン(アルギナーゼなど)、アスパラギン(アスパラギナーゼなど)及びグルタミン(アミノトランスフェラーゼ阻害剤アミノオキシ酢酸若しくはAOA、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、アザセリン及び/又はアシビシンなど)を減少させるための化合物による併用治療が、癌細胞の増殖の阻害に非常に有効である可能性があると考える。理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、アルギニン、アスパラギン及びグルタミンの欠乏は、(例えば、rhArgによる)アルギニン除去によってmTORC1を非活性化させる可能性があり、(例えば、ASNase及びAOAによる)アスパラギン及びグルタミンの低減によって細胞内のアルギニン濃度を低レベルに維持することができるという仮説を立てる。
【0104】
上記方法を用いて、アルギナーゼを高効率性でPEG化し、高い純度、比活性及び収率で単離することが可能である。そのようなPEG化アルギナーゼは、インビトロで延長された半減期を示し、アルギニン濃度の低下に有効であり、耐容性が良好である。したがって、本発明者らは、上記のように単離され、共役させたアルギナーゼが、癌の処置における治療用途に、特にそのような癌が低アスパラギナーゼ活性を示す場合、特に良好に適していると考える。アスパラギナーゼと併用して用いられる場合における異なる癌細胞系に対する予想外で且つ著しい相乗効果のエビデンスに基づいて、本発明者らは、上記のように調製され、アスパラギナーゼと併用して用いられるPEG化アルギナーゼが、癌の処置において同様の相乗効果を提供することができると考える。血清半減期を延長するために、そのような処置方法で利用されるアスパラギナーゼをPEG化することも可能であるか、又は同様の親水性ポリマーと共役させることも可能である。
【0105】
好ましい実施形態において、同様の薬物動態を示すアルギナーゼ及びアスパラギナーゼを提供することによって、同時投与が可能になる。そのような酵素は、注射、注入及び/又は(例えば、吸入による)粘膜全体にわたる吸着を含む任意の適切な方法によって提供され得る。適切な処置スケジュールを、利用される前記酵素の薬物動態によって決定することが可能であり、異なる腫瘍の型及び/又は表現型を順応するために適合させることが可能である。例えば、比較的高いレベルのアスパラギナーゼを発現する腫瘍を有する個体を、より低いレベルのアスパラギナーゼを発現する腫瘍を有する個体と比較して、より頻回に、且つ/又は、より高い用量のアルギナーゼ及び/若しくはアスパラギナーゼで処置することが可能である。適切な処置プロトコルは、12時間毎、24時間毎、36時間毎、48時間毎、3日毎、4日毎、5日毎、7日毎、10日毎、14日毎、21日毎、28日毎又は28日超毎のアルギナーゼ、アスパラギナーゼ並びに/又はアルギナーゼ及びアスパラギナーゼの混合物の投与を含むことができる。いくつかの実施形態において、投与の頻度は、処置の過程にわたって変動することが可能であり、初期の処置の期間を超えて延長する維持投与を含むことが可能である。好ましい実施形態において、アルギナーゼを上記のように調製されるPEG化アルギナーゼとして提供し、アスパラギナーゼをPEG化形態で提供することもできる。上記したように、アミノトランスフェラーゼ阻害剤の使用によるグルタミンの低減は癌細胞の増殖の低減に有用であると、本発明者らも考える。したがって、上記で記載される通りのアルギナーゼ/アスパラギナーゼ処置プロトコルは、グルタミン(アミノオキシ酢酸若しくはAOA、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、アザセリン及び/又はアシビシンなど)の血中濃度を低下させるために有効なアミノトランスフェラーゼ阻害剤の使用を含むことができる。
【0106】
参考文献
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【0107】
本明細書における本発明の概念を逸脱することなく、すでに記載されているものに加えて、さらに多くの変更が可能であることは、当業者にとって明らかであるべきである。ゆえに、本発明の主題は、添付の特許請求の範囲の精神を除いて制限されるものではない。その上、本明細書及び特許請求の範囲の両方の解釈において、全ての用語は、文脈に合わせた最も幅広い可能な方法で解釈されるべきである。特に、「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」という用語は、非排他的方法で要素、構成要素又は工程を参照するものと解釈されるべきであり、このことは、前記参照された要素、構成要素又は工程が存在する可能性があるか、利用され得るか、又は明示的に参照されない他の要素、構成要素若しくは工程と組み合わされ得ることを示す。本明細書が、A、B、C・・・及びNから成る群から選択されるものの内の少なくとも一つを主張し、参照する場合、前記文は、A+Nや、B+Nなどではなく、前記群からの一つの要素だけを必要とするものと解釈されるべきである。
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【配列表】
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