IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧 ▶ 三菱スペース・ソフトウエア株式会社の特許一覧

特開2023-145821信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラム
<>
  • 特開-信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラム 図1
  • 特開-信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラム 図2
  • 特開-信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラム 図3
  • 特開-信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラム 図4
  • 特開-信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラム 図5
  • 特開-信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラム 図6
  • 特開-信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラム 図7
  • 特開-信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラム 図8
  • 特開-信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラム 図9
  • 特開-信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラム 図10
  • 特開-信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラム 図11
  • 特開-信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラム 図12
  • 特開-信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラム 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145821
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/52 20060101AFI20231004BHJP
   G01S 13/58 20060101ALI20231004BHJP
   G01S 7/292 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
G01S13/52
G01S13/58 200
G01S7/292
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052679
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591102095
【氏名又は名称】三菱電機ソフトウエア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 隆孝
(72)【発明者】
【氏名】吉村 玄太
(72)【発明者】
【氏名】谷岡 亮
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AC02
5J070AC06
5J070AF01
5J070AH23
5J070AK13
5J070BA01
5J070BE03
5J070BG15
5J070BG16
5J070BG24
(57)【要約】
【課題】目標物の検出を見逃す可能性を高めることなく、ノイズを目標物であると誤検出する可能性を低減することができるようにする。
【解決手段】観測領域からの反射波の受信信号から、観測領域のレンジドップラマップである第1のレンジドップラマップを生成する第1のマップ生成部1と、第1のマップ生成部1により生成された第1のレンジドップラマップから、第1のレンジドップラマップに含まれているノイズの基底を示す行列であるノイズ基底行列を生成し、ノイズ基底行列を用いて第2のレンジドップラマップを生成する第2のマップ生成部2とを備えるように、信号処理装置を構成した。また、信号処理装置は、第1のマップ生成部1により生成された第1のレンジドップラマップと第2のマップ生成部2により生成された第2のレンジドップラマップとの差分を求め、差分のレンジドップラマップから目標物を検出する目標物検出部5を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測領域からの反射波の受信信号から、前記観測領域のレンジドップラマップである第1のレンジドップラマップを生成する第1のマップ生成部と、
前記第1のマップ生成部により生成された第1のレンジドップラマップから、前記第1のレンジドップラマップに含まれているノイズの基底を示す行列であるノイズ基底行列を生成し、前記ノイズ基底行列を用いて第2のレンジドップラマップを生成する第2のマップ生成部と、
前記第1のマップ生成部により生成された第1のレンジドップラマップと前記第2のマップ生成部により生成された第2のレンジドップラマップとの差分を求め、前記差分のレンジドップラマップから前記目標物を検出する目標物検出部と
を備えた信号処理装置。
【請求項2】
前記第2のマップ生成部は、
前記第1のマップ生成部により生成された第1のレンジドップラマップを前記ノイズ基底行列と前記ノイズ基底行列が示す基底の重みを示す行列である重み行列とに分解する行列分解部と、
前記ノイズ基底行列と前記重み行列との積を算出し、積の算出結果を前記第2のレンジドップラマップとして前記目標物検出部に出力する行列乗算部とを備えていることを特徴とする請求項1記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記第2のマップ生成部は、教師なし学習モデルを備えており、
前記第1のマップ生成部により生成された第1のレンジドップラマップを前記学習モデルに与えて、前記学習モデルから前記第2のレンジドップラマップを取得し、前記第2のレンジドップラマップを前記目標物検出部に出力することを特徴とする請求項1記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記第1のマップ生成部は、
前記反射波の受信信号として、受信時刻が互いに異なる複数の受信信号を取得し、それぞれの受信信号から第1のレンジドップラマップを生成し、
前記第2のマップ生成部は、
前記第1のマップ生成部により生成されたそれぞれの第1のレンジドップラマップから前記ノイズ基底行列を生成し、それぞれのノイズ基底行列を用いて第2のレンジドップラマップを生成し、
前記目標物検出部は、
前記第1のマップ生成部により生成されたそれぞれの第1のレンジドップラマップと前記第2のマップ生成部により生成されたそれぞれの第2のレンジドップラマップとの差分を求め、それぞれの差分のレンジドップラマップから前記目標物を検出することを特徴とする請求項1記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記目標物検出部は、
前記差分のレンジドップラマップの中で、当該レンジドップラマップに含まれている成分の信号レベルが第1の閾値以上である部位を検出し、前記部位の面積が第2の閾値以上であれば、当該部位が前記目標物であると判定し、当該部位の面積が前記第2の閾値未満であれば、当該部位が前記目標物ではないと判定することを特徴とする請求項1記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記目標物検出部は、
前記差分のレンジドップラマップから前記目標物を検出し、前記差分のレンジドップラマップに基づいて、前記反射波を受信したアンテナから前記目標物までの距離と前記目標物のドップラ速度を特定することを特徴とする請求項1記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記目標物検出部により特定された目標物までの距離及びドップラ速度のそれぞれを示す位置に前記目標物を表示させるための表示データを生成する表示処理部を備えたことを特徴とする請求項6記載の信号処理装置。
【請求項8】
第1のマップ生成部が、観測領域からの反射波の受信信号から、前記観測領域のレンジドップラマップである第1のレンジドップラマップを生成し、
第2のマップ生成部が、前記第1のマップ生成部により生成された第1のレンジドップラマップから、前記第1のレンジドップラマップに含まれているノイズの基底を示す行列であるノイズ基底行列を生成し、前記ノイズ基底行列を用いて第2のレンジドップラマップを生成し、
目標物検出部が、前記第1のマップ生成部により生成された第1のレンジドップラマップと前記第2のマップ生成部により生成された第2のレンジドップラマップとの差分を求め、前記差分のレンジドップラマップから前記目標物を検出する
信号処理方法。
【請求項9】
観測領域からの反射波の受信信号から、前記観測領域のレンジドップラマップである第1のレンジドップラマップを生成する第1のマップ生成処理手順と、
前記第1のマップ生成処理手順で生成された第1のレンジドップラマップから、前記第1のレンジドップラマップに含まれているノイズの基底を示す行列であるノイズ基底行列を生成し、前記ノイズ基底行列を用いて第2のレンジドップラマップを生成する第2のマップ生成処理手順と、
前記第1のマップ生成処理手順で生成された第1のレンジドップラマップと前記第2のマップ生成処理手順で生成された第2のレンジドップラマップとの差分を求め、前記差分のレンジドップラマップから前記目標物を検出する目標物検出処理手順とをコンピュータに実行させるための信号処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
観測領域からの反射波の受信信号を取得し、受信信号から目標物を検出する目標検出部を備える信号処理装置がある(例えば、特許文献1を参照)。
当該目標検出部は、受信信号から、観測領域のレンジドップラマップを生成する。また、当該目標検出部は、レンジドップラマップに含まれている複数の成分のそれぞれが示す信号レベルと閾値とを比較し、それぞれの信号レベルと閾値との比較結果に基づいて、目標物を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6952939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている信号処理装置では、閾値よりも信号レベルが小さな目標物については検出されない。このため、閾値が大きな値に設定されていれば、検出部が、目標物の検出を見逃す可能性が高くなる。一方、閾値が小さな値に設定されていれば、検出部が、ノイズを目標物であると誤検出する可能性が高くなるという課題があった。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたもので、目標物の検出を見逃す可能性を高めることなく、ノイズを目標物であると誤検出する可能性を低減することができる信号処理装置及び信号処理方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る信号処理装置は、観測領域からの反射波の受信信号から、観測領域のレンジドップラマップである第1のレンジドップラマップを生成する第1のマップ生成部と、第1のマップ生成部により生成された第1のレンジドップラマップから、第1のレンジドップラマップに含まれているノイズの基底を示す行列であるノイズ基底行列を生成し、ノイズ基底行列を用いて第2のレンジドップラマップを生成する第2のマップ生成部とを備えている。また、信号処理装置は、第1のマップ生成部により生成された第1のレンジドップラマップと第2のマップ生成部により生成された第2のレンジドップラマップとの差分を求め、差分のレンジドップラマップから目標物を検出する目標物検出部を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、目標物の検出を見逃す可能性を高めることなく、ノイズを目標物であると誤検出する可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係る信号処理装置を示す構成図である。
図2】実施の形態1に係る信号処理装置のハードウェアを示すハードウェア構成図である。
図3】信号処理装置が、ソフトウェア又はファームウェア等によって実現される場合のコンピュータのハードウェア構成図である。
図4】信号処理装置の処理手順である信号処理方法を示すフローチャートである。
図5】第1のレンジドップラマップXの一例を示す説明図である。
図6】第1のレンジドップラマップXに含まれている目標物の信号及びノイズのそれぞれを示す説明図である。
図7】ノイズ基底行列Hの一例を示す説明図である。
図8】重み行列Wの一例を示す説明図である。
図9】第2のレンジドップラマップX’の一例を示す説明図である。
図10】目標物の表示例を示す説明図である。
図11】実施の形態2に係る信号処理装置を示す構成図である。
図12】実施の形態2に係る信号処理装置のハードウェアを示すハードウェア構成図である。
図13】実施の形態3に係る信号処理装置の処理内容を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示をより詳細に説明するために、本開示を実施するための形態について、添付の図面に従って説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る信号処理装置を示す構成図である。
図2は、実施の形態1に係る信号処理装置のハードウェアを示すハードウェア構成図である。
図1に示す信号処理装置は、第1のマップ生成部1、第2のマップ生成部2、目標物検出部5及び表示処理部6を備えている。
【0011】
第1のマップ生成部1は、例えば、図2に示す第1のマップ生成回路21によって実現される。
第1のマップ生成部1は、例えば、図示せぬレーダ装置から、観測領域からの反射波の受信信号を取得する。受信信号は、例えば、複素信号である。
第1のマップ生成部1は、観測領域からの反射波の受信信号から、観測領域のレンジドップラマップである第1のレンジドップラマップを生成する。
第1のマップ生成部1は、第1のレンジドップラマップを第2のマップ生成部2及び目標物検出部5のそれぞれに出力する。
【0012】
第2のマップ生成部2は、例えば、図2に示す第2のマップ生成回路22によって実現される。
第2のマップ生成部2は、行列分解部3及び行列乗算部4を備えている。
第2のマップ生成部2は、第1のマップ生成部1から、第1のレンジドップラマップを取得する。
第2のマップ生成部2は、第1のマップ生成部により生成された第1のレンジドップラマップから、第1のレンジドップラマップに含まれているノイズの基底を示す行列であるノイズ基底行列を生成する。
第2のマップ生成部2は、ノイズ基底行列を用いて第2のレンジドップラマップを生成し、第2のレンジドップラマップを目標物検出部5に出力する。
【0013】
行列分解部3は、第1のマップ生成部1から、第1のレンジドップラマップを取得する。
行列分解部3は、第1のレンジドップラマップを、ノイズ基底行列と、ノイズ基底行列が示す基底の重みを示す行列である重み行列とに分解する。
行列分解部3は、ノイズ基底行列及び重み行列のそれぞれを行列乗算部4に出力する。
行列乗算部4は、ノイズ基底行列と重み行列との積を算出し、積の算出結果を第2のレンジドップラマップとして目標物検出部5に出力する。
【0014】
目標物検出部5は、例えば、図2に示す目標物検出回路23によって実現される。
目標物検出部5は、第1のマップ生成部1から、第1のレンジドップラマップを取得し、第2のマップ生成部2から、第2のレンジドップラマップを取得する。
目標物検出部5は、第1のレンジドップラマップと第2のレンジドップラマップとの差分のレンジドップラマップを求める。
目標物検出部5は、差分のレンジドップラマップから目標物を検出する。
また、目標物検出部5は、差分のレンジドップラマップに基づいて、反射波を受信したレーダ装置のアンテナから目標物までの距離と、目標物のドップラ速度とを特定する。
目標物検出部5は、目標物までの距離及び目標物のドップラ速度のそれぞれを示す検出情報を表示処理部6に出力する。
【0015】
表示処理部6は、例えば、図2に示す表示処理回路24によって実現される。
表示処理部6は、目標物検出部5から、検出情報を取得する。
表示処理部6は、目標物までの距離及びドップラ速度のそれぞれを示す位置に目標物を表示させるための表示データを生成する。
表示処理部6は、表示データに従って図示せぬディスプレイに、目標物を表示させる。
【0016】
図1では、信号処理装置の構成要素である第1のマップ生成部1、第2のマップ生成部2、目標物検出部5及び表示処理部6のそれぞれが、図2に示すような専用のハードウェアによって実現されるものを想定している。即ち、信号処理装置が、第1のマップ生成回路21、第2のマップ生成回路22、目標物検出回路23及び表示処理回路24によって実現されるものを想定している。
第1のマップ生成回路21、第2のマップ生成回路22、目標物検出回路23及び表示処理回路24のそれぞれは、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又は、これらを組み合わせたものが該当する。
【0017】
信号処理装置の構成要素は、専用のハードウェアによって実現されるものに限るものではなく、信号処理装置が、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現されるものであってもよい。
ソフトウェア又はファームウェアは、プログラムとして、コンピュータのメモリに格納される。コンピュータは、プログラムを実行するハードウェアを意味し、例えば、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、あるいは、DSP(Digital Signal Processor)が該当する。
【0018】
図3は、信号処理装置が、ソフトウェア又はファームウェア等によって実現される場合のコンピュータのハードウェア構成図である。
信号処理装置が、ソフトウェア又はファームウェア等によって実現される場合、第1のマップ生成部1、第2のマップ生成部2、目標物検出部5及び表示処理部6におけるそれぞれの処理手順として、第1のマップ生成処理手順、第2のマップ生成処理手順、目標物検出処理手順及び表示処理手順のそれぞれをコンピュータに実行させるための信号処理プログラムがメモリ31に格納される。そして、コンピュータのプロセッサ32がメモリ31に格納されている信号処理プログラムを実行する。
【0019】
また、図2では、信号処理装置の構成要素のそれぞれが専用のハードウェアによって実現される例を示し、図3では、信号処理装置がソフトウェア又はファームウェア等によって実現される例を示している。しかし、これは一例に過ぎず、信号処理装置における一部の構成要素が専用のハードウェアによって実現され、残りの構成要素がソフトウェア又はファームウェア等によって実現されるものであってもよい。
【0020】
次に、図1に示す信号処理装置の動作について説明する。
図4は、信号処理装置の処理手順である信号処理方法を示すフローチャートである。
図示せぬレーダ装置の送信アンテナは、目標物が存在している可能性のある観測領域に向けて電波を送信する。
観測領域による反射後の電波である反射波は、レーダ装置の受信アンテナによって受信される。レーダ装置は、反射波の受信信号を信号処理装置に出力する。
ここでは、レーダ装置が電波を送受信するものとしている。しかし、これは一例に過ぎず、例えば、ある施設のアンテナから電波が観測領域に向けて送信されたのち、当該施設とは別の施設のアンテナが、観測領域からの反射波を受信するものであってもよい。
【0021】
第1のマップ生成部1は、例えば、レーダ装置から、観測領域からの反射波の受信信号を取得する。
第1のマップ生成部1は、観測領域からの反射波の受信信号から、観測領域のレンジドップラマップとして、図5に示すような第1のレンジドップラマップXを生成する(図4のステップST1)。
第1のマップ生成部1は、第1のレンジドップラマップを第2のマップ生成部2及び目標物検出部5のそれぞれに出力する。
【0022】
図5は、第1のレンジドップラマップXの一例を示す説明図である。
図5に示す第1のレンジドップラマップXは、m行n列の行列で表されている。m,nのそれぞれは、2以上の整数である。
第1のレンジドップラマップXを示す行列の成分は、x11,x12,・・・,x1n,x21,x22,・・・,x2n,・・・,xm1,xm2,・・・,xmnのように表されている。
第1のレンジドップラマップXを示す行列の行方向は、レーダ装置の受信アンテナから目標物までの距離に対応している。また、当該行列の列方向は、目標物のドップラ速度に対応している。
第1のレンジドップラマップXには、図6に示すように、目標物の信号のほかに、ノイズが含まれている。図6の例では、当該ノイズとして、海面クラッタ及び電離層クラッタのそれぞれが表されている。図5に表記されている“ノイズ”は、これらのクラッタ以外のノイズである。
図6は、第1のレンジドップラマップXに含まれている目標物の信号及びノイズのそれぞれを示す説明図である。
【0023】
第2のマップ生成部2は、第1のマップ生成部1から、第1のレンジドップラマップXを取得する。
第2のマップ生成部2は、第1のレンジドップラマップXから、第1のレンジドップラマップに含まれているノイズの基底を示す行列であるノイズ基底行列Hを生成する。
第2のマップ生成部2は、ノイズ基底行列Hを用いて第2のレンジドップラマップX’を生成する(図4のステップST2)。
第2のマップ生成部2は、第2のレンジドップラマップX’を目標物検出部5に出力する。
以下、第2のマップ生成部2による第2のレンジドップラマップX’の生成処理を具体的に説明する。
【0024】
行列分解部3は、行列分解法によって、第1のレンジドップラマップXをノイズ基底行列Hと重み行列Wとに分解する。
行列分解部3は、行列分解法として、NMF(Nonnegative Matrix Factorization)を用いることができる。ただし、行列分解法としては、NMFに限るものではなく、行列分解部3は、例えば、SVD(Singular Value Decomposition:特異値分解)、LU decomposition(エルユー分解)、Cholesky decomposition(コレスキー分解)、QR decomposition(キューアール分解)、Eigendecomposition(固有値分解)、又は、Polar decomposition(ポーラー分解)を用いることができる。
ここでは、第1のレンジドップラマップXが2次元の行列であるとして、行列分解部3が、2次元の行列をノイズ基底行列Hと重み行列Wとに分解している。しかし、これは一例に過ぎず、第1のレンジドップラマップXが2次元の行列よりも高階のテンソルであってもよく、行列分解部3が、高階のテンソルをノイズ基底行列Hと重み行列Wとに分解するようにしてもよい。行列分解部3は、高階のテンソル分解方法として、例えば、Tucker decomposition(タッカー分解)、Canonical Polyadic decomposition(CP分解)、又は、テンソルトレイン分解を用いることができる。
行列分解部3は、ノイズ基底行列Hと重み行列Wとを行列乗算部4に出力する。
【0025】
ノイズ基底行列Hは、ノイズの基底hを示す行列である。kは、1以上の整数である。kの値は、第1のレンジドップラマップXに含まれている可能性のあるノイズの種類の数以下の値に設定される。
第1のレンジドップラマップXに現れるノイズとして、例えば、海面クラッタ、電離層クラッタ、これらのクラッタ以外のノイズN及びこれらのクラッタ以外のノイズNの4種類であることが分かっていれば、例えば、k=4に設定される。ただし、ノイズNは、目標物の検出に対する影響が極めて小さい、信号レベルが小さなノイズであることが分かっていれば、例えば、k=3に設定される。
ここでは、k=4、又は、k=3に設定される例を示している。kの値の設定方法としては、例えば、以下に示す2つの方法を用いることができる。
・方法(1)
横軸にkの値、縦軸に復元誤差(|X-X’|の値)を示す曲線を描画する。この曲線は、kの値が小さい領域においては、kの値が大きくなるにつれて、復元誤差(|X-X’|の値)が急激に減衰するように描画される。そして、kの値が或る境界値よりも大きくなると、復元誤差(|X-X’|の値)の下がり方が穏やかになるように描画される。方法(1)では、境界値がkの値に設定される。
kの値が小さいときには、ノイズ基底行列Hの表現力が乏しいため、正常データを正しく復元できずに復元誤差が大きくなる。kの値が大きくなるにつれて、ノイズ基底行列Hの表現力が段々と豊かになるため、復元誤差が小さくなる。ところが、kの値が境界値よりも大きくなると、ノイズ基底行列Hの表現力が高くなり過ぎて、異常データまでもが復元されてしまう状況を生じる。いわゆる、過学習になる。境界値をkの値に設定することで、過学習にならない範囲で、復元誤差を小さくすることができる。境界値を検出する方法自体は、どのような方法でもよいが、境界値を検出する方法としては、例えば、エルボー法、又は、シルエット分析法を用いることができる。
・方法(2)
目標物の検出の良し悪しを定量化する二値分類指標を事前に決定する。二値分類指標としては、例えば、F1スコア、又は、ROC-AUC(Receiver Operating Characteristic-Area Under the Curve)がある。方法(2)は、検出対象を含むいくつかのデータを用いて、二値分類指標を算出し、kの値を変化させたときに最も二値分類指標が良くなるようなkの値を見つける。そして、見つけた値をkの値に設定する。
【0026】
図7は、ノイズ基底行列Hの一例を示す説明図である。
図7に示すノイズ基底行列Hは、k行n列の行列で表されている。図7の例では、k=4である。
ノイズ基底行列Hの成分は、h11,h12,・・・,h1n,h21,h22,・・・,h2n,h31,h32,・・・,h3n,h41,h42,・・・,h4nのように表されている。
第1のレンジドップラマップXが行列分解されることで得られるノイズ基底行列Hの次元は、第1のレンジドップラマップXを示す行列の次元よりも低減される。
【0027】
重み行列Wは、ノイズ基底行列Hが示す基底の重みを示す行列である。
図8は、重み行列Wの一例を示す説明図である。
図8に示す重み行列Wは、m行k列の行列で表されている。図8の例では、k=4である。
重み行列Wの成分は、w11,w12,w13,w14,w21,w22,w23,w24,w31,w32,w33,w34,・・・,wm1,wm2,wm3,wm4のように表されている。
【0028】
第1のレンジドップラマップXを示す行列の成分と、ノイズ基底行列Hの成分と、重み行列Wの成分との関係は、以下の式(1)のように表される。
【0029】
【数1】
式(2)において、Tは、転置を示す数学記号である。
【0030】
式(2)において、hベクトルは、例えば、海面クラッタの基底を表している。hベクトルは、例えば、電離層クラッタの基底を表している。
ベクトルは、例えば、海面クラッタ及び電離層クラッタのそれぞれと異なるノイズの基底を表している。hベクトルは、例えば、海面クラッタ及び電離層クラッタのそれぞれと異なるノイズであって、hベクトルに係るノイズと異なるノイズの基底を表している。
明細書の文章中では、電子出願の関係上、文字“h”等の上に“→”の記号を付することができないため、hベクトル等のように表記している。
通常、第1のレンジドップラマップXに含まれているノイズの数と比べて、第1のレンジドップラマップXに含まれている目標物の信号の数の割合が極端に低い。このため、目標物の基底がノイズ基底行列Hに現れる可能性は、極めて低い。
式(1)は、以下の式(3)のように表すことができる。
【0031】

【0032】
行列乗算部4は、行列分解部3から、ノイズ基底行列Hと重み行列Wと取得する。
行列乗算部4は、ノイズ基底行列Hと重み行列Wとの積HWを算出する。積HWの算出結果は、第2のレンジドップラマップX’である。X’=HWである。
図9は、第2のレンジドップラマップX’の一例を示す説明図である。
図9に示す第2のレンジドップラマップX’は、m行n列の行列で表されている。
第2のレンジドップラマップX’を示す行列の成分は、x11’,x12’,・・・,x1n’,x21’,x22’,・・・,x2n’,・・・,xm1’,xm2’,・・・,xmn’のように表されている。
ノイズ基底行列Hの次元は、第1のレンジドップラマップXを示す行列の次元よりも低減されており、ノイズ基底行列Hは、目標物の基底を含んでいない行列である。第2のレンジドップラマップX’は、ノイズ基底行列Hと重み行列Wとの積HWの算出結果であるため、目標物の信号を含んでいない。
行列乗算部4は、第2のレンジドップラマップX’を目標物検出部5に出力する。
【0033】
目標物検出部5は、第1のマップ生成部1から、第1のレンジドップラマップXを取得し、第2のマップ生成部2から、第2のレンジドップラマップX’を取得する。
目標物検出部5は、以下の式(4)に示すように、第1のレンジドップラマップXと第2のレンジドップラマップX’との差分のレンジドップラマップΔXを求める。
ΔX=X-X’ (4)
第1のレンジドップラマップXは、目標物の信号とノイズとを含むものであり、第2のレンジドップラマップX’は、目標物の信号を含まずに、ノイズを含むものである。したがって、差分のレンジドップラマップΔXは、目標物の信号のみを含むものである。
目標物検出部5は、差分のレンジドップラマップΔXから目標物を検出する(図4のステップST3)。
【0034】
レンジドップラマップΔXから目標物を検出する方法としては、例えば、差分のレンジドップラマップΔXの中で、レンジドップラマップΔXに含まれている成分の信号レベルが第1の閾値以上である部位を目標物として検出する方法がある。
目標物検出部5は、信号レベルが第1の閾値以上である部位を検出しても、部位の面積が第2の閾値以上であれば、当該部位が目標物であると判定し、当該部位の面積が第2の閾値未満であれば、当該部位が目標物ではないと判定するようにしてもよい。
第2の閾値としては、例えば、目標物の最小の面積が用いられる。具体的には、行方向の行列成分の数がpで、列方向の行列成分の数がqの大きさを有する面積が、第2の閾値として用いられる。pは2以上m以下の整数、qは2以上n以下の整数である。
行方向の行列成分の数がpで、列方向の行列成分の数がqの大きさを有する面積が、第2の閾値として用いられる場合、目標物検出部5は、信号レベルが第1の閾値以上である部位の行方向の行列成分の数がp以上であり、かつ、当該部位の列方向の行列成分の数がq以上であれば、当該部位が目標物であると判定する。
目標物検出部5は、信号レベルが第1の閾値以上である部位の行方向の行列成分の数がp未満、又は、当該部位の列方向の行列成分の数がq未満であれば、当該部位が目標物ではないと判定する。
ここでは、目標物検出部5が、部位の行方向の行列成分の数がp未満、又は、部位の列方向の行列成分の数がq未満であれば、当該部位が目標物ではないと判定している。部位の行方向の行列成分の数がp未満、又は、部位の列方向の行列成分の数がq未満であっても、列方向の行列成分の数×列方向の行列成分の数が、p×qよりも大きければ、目標物検出部5が、当該部位が目標物であると判定するようにしてもよい。
【0035】
また、目標物検出部5は、差分のレンジドップラマップΔXに基づいて、レーダ装置の受信アンテナから目標物までの距離と、目標物のドップラ速度とを特定する。レンジドップラマップΔXの縦軸は、目標物までの距離を示し、レンジドップラマップΔXの横軸は、目標物のドップラ速度を示している。
目標物検出部5は、目標物までの距離及び目標物のドップラ速度のそれぞれを示す検出情報を表示処理部6に出力する。
【0036】
ここでは、差分のレンジドップラマップΔXが、目標物の信号のみを含むものであるとしている。しかしながら、差分のレンジドップラマップΔXには、目標物の信号のほかに、ノイズが僅かに残ることがある。
仮に、差分のレンジドップラマップΔXに、目標物の信号のほかに、ノイズが僅かに残っていても、目標物検出部5は、信号レベルが第1の閾値以上である部位の面積が第2の閾値以上である場合に限り、当該部位が目標物であると判定している。このため、目標物検出部5は、僅かに残っているノイズを目標物として誤検出する可能性は、極めて小さい。
【0037】
表示処理部6は、目標物検出部5から、検出情報を取得する。
表示処理部6は、目標物までの距離及びドップラ速度のそれぞれを示す位置に目標物を表示させるための表示データを生成する。表示データの生成処理自体は、公知の技術であるため詳細な説明を省略する。
表示処理部6は、図10に示すように、表示データに従って図示せぬディスプレイに目標物を表示させる。
図10は、目標物の表示例を示す説明図である。
図10の縦軸は、目標物までの距離であり、図10の横軸は、目標物のドップラ速度である。
図10の例では、目標物を囲む破線を表記することで、目標物が強調表示されている。
目標物の強調表示方法としては、目標物を破線で囲む方法の他に、例えば、目標物を四角で囲む方法、目標物を色付けする方法、目標物を指し示す矢印を表記する方法、又は、目標物以外の部分を真っ白にする方法がある。
【0038】
以上の実施の形態1では、観測領域からの反射波の受信信号から、観測領域のレンジドップラマップである第1のレンジドップラマップを生成する第1のマップ生成部1と、第1のマップ生成部1により生成された第1のレンジドップラマップから、第1のレンジドップラマップに含まれているノイズの基底を示す行列であるノイズ基底行列を生成し、ノイズ基底行列を用いて第2のレンジドップラマップを生成する第2のマップ生成部2とを備えるように、信号処理装置を構成した。また、信号処理装置は、第1のマップ生成部1により生成された第1のレンジドップラマップと第2のマップ生成部2により生成された第2のレンジドップラマップとの差分を求め、差分のレンジドップラマップから目標物を検出する目標物検出部5を備えている。したがって、信号処理装置は、目標物の検出を見逃す可能性を高めることなく、ノイズを目標物であると誤検出する可能性を低減することができる。
【0039】
実施の形態2.
実施の形態2では、第2のマップ生成部7が学習モデル8を備えている信号処理装置について説明する。
【0040】
図11は、実施の形態2に係る信号処理装置を示す構成図である。図11において、図1と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
図12は、実施の形態2に係る信号処理装置のハードウェアを示すハードウェア構成図である。図12において、図2と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
図11に示す信号処理装置は、第1のマップ生成部1、第2のマップ生成部7、目標物検出部5及び表示処理部6を備えている。
【0041】
第2のマップ生成部7は、例えば、図12に示す第2のマップ生成回路25によって実現される。
第2のマップ生成部7は、学習モデル8を備えている。
第2のマップ生成部7は、第1のマップ生成部1から、第1のレンジドップラマップXを取得する。
第2のマップ生成部7は、第1のレンジドップラマップXを学習モデル8に与えて、学習モデル8から第2のレンジドップラマップX’を取得する。
第2のマップ生成部7は、第2のレンジドップラマップX’を目標物検出部5に出力する。
【0042】
学習モデル8は、教師なし学習モデルであり、例えば、ニューラルネットワークによって実現される。ニューラルネットワークの手法として、例えば、畳み込みを使わないオートエンコーダ、畳み込みを使うオートエンコーダ、又は、変分オートエンコーダを用いることができる。
学習モデル8は、第1のレンジドップラマップXが与えられると、第2のレンジドップラマップX’を出力する。
学習モデル8に与えられる入力データは、第1のレンジドップラマップXである。ただし、第1のレンジドップラマップXは、2次元の行列であるため、学習モデル8に与えられる際に、1次元行列に変換される。そして、1次元行列を構成する複数の行列成分のそれぞれが、学習モデル8を構成しているニューラルネットワークが有する複数の入力ノードのそれぞれに与えられる。
学習モデル8を構成しているニューラルネットワークが有する複数の出力ノードは、第2のレンジドップラマップX’に相当する1次元行列を構成する複数の行列成分のそれぞれを出力する。学習モデル8から出力された複数の行列成分を有する1次元行列は、2次元行列に変換される。2次元行列は、第2のレンジドップラマップX’である。
ここでは、1次元行列を構成する複数の行列成分のそれぞれが、学習モデル8を構成しているニューラルネットワークが有する複数の入力ノードのそれぞれに与えられている。しかし、これは一例に過ぎず、第1のレンジドップラマップXを2次元行列の画像とみなして、第1のレンジドップラマップXがニューラルネットワークに与えられるようにしてもよい。この場合、ニューラルネットワークとして、例えば、UNet、ENet、又は、BoxENetを用いてもよい。
【0043】
図11では、信号処理装置の構成要素である第1のマップ生成部1、第2のマップ生成部7、目標物検出部5及び表示処理部6のそれぞれが、図12に示すような専用のハードウェアによって実現されるものを想定している。即ち、信号処理装置が、第1のマップ生成回路21、第2のマップ生成回路25、目標物検出回路23及び表示処理回路24によって実現されるものを想定している。
第1のマップ生成回路21、第2のマップ生成回路25、目標物検出回路23及び表示処理回路24のそれぞれは、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又は、これらを組み合わせたものが該当する。
【0044】
信号処理装置の構成要素は、専用のハードウェアによって実現されるものに限るものではなく、信号処理装置が、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現されるものであってもよい。
信号処理装置が、ソフトウェア又はファームウェア等によって実現される場合、第1のマップ生成部1、第2のマップ生成部7、目標物検出部5及び表示処理部6におけるそれぞれの処理手順をコンピュータに実行させるための信号処理プログラムが図3に示すメモリ31に格納される。そして、図3に示すプロセッサ32がメモリ31に格納されている信号処理プログラムを実行する。
【0045】
また、図12では、信号処理装置の構成要素のそれぞれが専用のハードウェアによって実現される例を示し、図3では、信号処理装置がソフトウェア又はファームウェア等によって実現される例を示している。しかし、これは一例に過ぎず、信号処理装置における一部の構成要素が専用のハードウェアによって実現され、残りの構成要素がソフトウェア又はファームウェア等によって実現されるものであってもよい。
【0046】
次に、図11に示す信号処理装置の動作について説明する。第2のマップ生成部7以外は、図1に示す信号処理装置と同様であるため、ここでは、第2のマップ生成部7の動作のみを説明する。
【0047】
第2のマップ生成部7は、第1のマップ生成部1から、第1のレンジドップラマップXを取得する。
第2のマップ生成部7は、第1のレンジドップラマップXを学習モデル8に与える。
学習モデル8は、第1のレンジドップラマップXが与えられると、第2のレンジドップラマップX’を出力する。
第2のマップ生成部7は、学習モデル8から第2のレンジドップラマップX’を取得し、第2のレンジドップラマップX’を目標物検出部5に出力する。
【0048】
以上の実施の形態2では、第2のマップ生成部7が、教師なし学習モデル8を備えており、第1のマップ生成部1により生成された第1のレンジドップラマップを学習モデル8に与えて、学習モデル8から第2のレンジドップラマップを取得し、第2のレンジドップラマップを目標物検出部5に出力するように、図11に示す信号処理装置を構成した。したがって、図11に示す信号処理装置は、図1に示す信号処理装置と同様に、目標物の検出を見逃す可能性を高めることなく、ノイズを目標物であると誤検出する可能性を低減することができる。
【0049】
図11に示す信号処理装置では、第2のマップ生成部7が、学習モデル8を備えている。しかし、これは一例に過ぎず、第2のマップ生成部7が、学習モデル8として、第1のレンジドップラマップXが与えられると、ノイズ基底行列H及び重み行列Wのそれぞれを出力する第1の学習モデルと、ノイズ基底行列H及び重み行列Wのそれぞれが与えられると、第2のレンジドップラマップX’を出力する第2の学習モデルとを備えるようにしてもよい。
この場合、第2のマップ生成部7は、第1のレンジドップラマップXを第1の学習モデルに与え、第1の学習モデルからノイズ基底行列H及び重み行列Wのそれぞれを取得する。
そして、第2のマップ生成部7は、ノイズ基底行列H及び重み行列Wのそれぞれを第2の学習モデルに与え、第2の学習モデルから第2のレンジドップラマップX’を取得する。
【0050】
実施の形態3.
実施の形態1,2に係る信号処理装置では、第1のマップ生成部1が、例えば、レーダ装置から、或る1つの受信時刻tの反射波の受信信号を取得している。
実施の形態3では、第1のマップ生成部1が、例えば、レーダ装置から、受信時刻tが互いに異なる複数の反射波の受信信号r(t)を取得する信号処理装置について説明する。
【0051】
図13は、実施の形態3に係る信号処理装置の処理内容を示す説明図である。
第1のマップ生成部1は、図13に示すように、それぞれの受信時刻tの反射波の受信信号r(t)から、第1のレンジドップラマップX(t)を生成する。
第1のマップ生成部1は、それぞれの受信時刻tの第1のレンジドップラマップX(t)を第2のマップ生成部2及び目標物検出部5のそれぞれに出力する。
【0052】
第2のマップ生成部2は、第1のマップ生成部1から、それぞれの受信時刻tの第1のレンジドップラマップX(t)を取得する。
第2のマップ生成部2は、それぞれの受信時刻tの第1のレンジドップラマップX(t)からノイズ基底行列Hを生成する。
第2のマップ生成部2は、図13に示すように、それぞれの受信時刻tのノイズ基底行列Hを用いて第2のレンジドップラマップX’(t)を生成する。
第2のマップ生成部2は、それぞれの受信時刻tの第2のレンジドップラマップX’(t)を目標物検出部5に出力する。
【0053】
目標物検出部5は、第1のマップ生成部1から、それぞれの受信時刻tの第1のレンジドップラマップX(t)を取得し、第2のマップ生成部2から、それぞれの受信時刻tの第2のレンジドップラマップX’(t)を取得する。
目標物検出部5は、以下の式(5)に示すように、それぞれの受信時刻tの第1のレンジドップラマップX(t)とそれぞれの受信時刻tの第2のレンジドップラマップX’(t)との差分のレンジドップラマップΔX(t)を求める。
ΔX(t)=X(t)-X’(t) (5)
第1のレンジドップラマップX(t)は、目標物の信号とノイズとを含むものであり、第2のレンジドップラマップX’(t)は、目標物の信号を含まずに、ノイズを含むものである。したがって、差分のレンジドップラマップΔX(t)は、目標物の信号のみを含むものである。第2のレンジドップラマップX’(t)が、僅かなノイズを含んでいる場合には、差分のレンジドップラマップΔX(t)は、目標物の信号のほかに、僅かなノイズを含んでいることがある。
目標物検出部5は、差分のレンジドップラマップΔX(t)から目標物を検出する。
また、目標物検出部5は、差分のレンジドップラマップΔX(t)に基づいて、それぞれの受信時刻tにおいて、レーダ装置の受信アンテナから目標物までの距離と、目標物のドップラ速度とを特定する。
目標物検出部5は、それぞれの受信時刻tにおける目標物までの距離及び目標物のドップラ速度のそれぞれを示す検出情報を表示処理部6に出力する。
【0054】
表示処理部6は、目標物検出部5から、それぞれの受信時刻tにおける検出情報を取得する。
表示処理部6は、それぞれの受信時刻tにおける目標物までの距離及びドップラ速度のそれぞれを示す位置に目標物を表示させるための表示データを生成する。
表示処理部6は、それぞれの受信時刻tにおける表示データに従って図示せぬディスプレイに目標物を表示させる。
【0055】
以上の実施の形態3では、それぞれの受信時刻tにおける目標物をディスプレイに表示させることができるため、目標物の移動を追跡することができる。
【0056】
なお、本開示は、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 第1のマップ生成部、2 第2のマップ生成部、3 行列分解部、4 行列乗算部、5 目標物検出部、6 表示処理部、7 第2のマップ生成部、8 学習モデル、21 第1のマップ生成回路、22 第2のマップ生成回路、23 目標物検出回路、24 表示処理回路、25 第2のマップ生成回路、31 メモリ、32 プロセッサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13