(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145829
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】ニッケル水素電池の寿命推定方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20231004BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20231004BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20231004BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20231004BHJP
G01R 31/378 20190101ALI20231004BHJP
【FI】
H01M10/48 101
H01M10/42 P
G01R31/392
G01R31/367
G01R31/378
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052689
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】田村 雅伯
(72)【発明者】
【氏名】山中 哲
(72)【発明者】
【氏名】山根 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 英之
【テーマコード(参考)】
2G216
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA29
2G216BA30
2G216BA34
2G216CB52
5H030AA08
5H030AS03
5H030FF51
(57)【要約】
【課題】 ニッケル水素電池の寿命をより正確に推定する。
【解決手段】 寿命を推定するニッケル水素電池1は、不織布からなるセパレータ5を介して重ね合わされた正極板3と負極板4とが電解液と共に外装缶2に収容される。電池の連続充電が行われているときのセパレータが保持する電解液の保液量と、負極板の腐食量とから電池の寿命を推定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布からなるセパレータを介して重ね合わされた正極板と負極板とが電解液と共に外装缶に収容されたニッケル水素電池の寿命を推定する方法であって、
前記セパレータが保持する電解液の保液量と、前記負極板の腐食量とから、前記寿命を推定する、ニッケル水素電池の寿命推定方法。
【請求項2】
前記保液量は、前記ニッケル水素電池を使用開始する前の前記セパレータが保持する初期液量と、前記ニッケル水素電池が満充電を維持するときに膨化した前記正極板に取込まれた電解液量とから算出する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ニッケル水素電池を保存する保存環境と充放電の所定条件下とにおいて測定される、前記セパレータが保持する保液量と、前記正極板の膨化量との履歴から、前記保液量と前記正極板の膨化量とを算出し、前記寿命を推定する請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル水素電池の寿命推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば無停電電源装置などのバックアップ電源を構成するニッケル水素電池は、電源の信頼性維持のために正確な寿命判定が求められるが、電池容量や内部抵抗は寿命末期まで安定しているため、寿命の予測は難しい。また、バックアップ電源は、機能を維持するために定期的な電池交換が必要になる。そこで、電池交換頻度を削減するため、電池の長寿命化が求められるが、寿命確認のための電池評価に相当な時間を要するため、開発上の課題となっていた。
【0003】
電池は、化学物質の電気化学反応を利用しているため、劣化に伴い極板の腐食が進行する。例えば特許文献1に開示されるように、電池を各環境温度や充放電条件で評価して寿命に至るまでの負極の腐食量を測定し、その腐食量に基づいて電池寿命を推定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電池をバックアップ電源として低温環境下で使用する場合、負極腐食量のみに基づく推定方法では、実際の寿命が当初の推定寿命よりも短いことがあった。故に、バックアップ電源としての万全を期するために、実際に使用可能な予測期間を前倒して電池を交換することになり、電池の無駄につながっていた。
【0006】
本発明の目的は、電池寿命を正確に推定し得るニッケル水素電池の寿命推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のニッケル水素電池の寿命推定方法は、不織布からなるセパレータを介して重ね合わされた正極板と負極板とが電解液と共に外装缶に収容されたニッケル水素電池の寿命を推定する方法であって、前記セパレータが保持する電解液の保液量と、前記負極板の腐食量とから、前記寿命を推定するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のニッケル水素電池の寿命推定方法によれば、低温環境下でニッケル水素電池の連続充電を行う場合であっても、電池の寿命をより正確に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施の形態に係るニッケル水素電池を部分的に破断して示す図である。
【
図2】本実施の形態により推定したセパレータ保液量の推定値と、実際のセパレータ保液量の実測値との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施の形態に係るニッケル水素電池の寿命推定方法について説明する。
【0011】
ニッケル水素電池(以下、「電池」と称す)1は、例えば
図1に示すように、AAサイズの円筒型の電池である。電池1は、上端が開口した有底円筒形状をなす外装缶2に、正極板3及び負極板4がセパレータ5を介して重ね合わせられ渦巻状に巻回された電極群6がアルカリ電解液と共に収容され、上端が封口体7にて封止されている。
【0012】
外装缶2は、底壁8が導電性を有して負極端子として機能する。封口体7は、蓋板9及び正極端子10を含む。蓋板9は、導電性を有して中央にガス抜き孔11を有し、蓋板9の外面上には、ガス抜き孔11を塞ぐゴム製の弁体12が配置される。蓋板9は、外装缶2の開口端部にリング形状のガスケット13を介して配置され、外装缶2の開口縁をかしめ加工することにより当該開口を閉塞する。蓋板9には、正極端子10が取付けられる。
【0013】
電極群6は、それぞれ帯状の正極板3、負極板4及びセパレータ5からなり、正極板3と負極板4との間に、セパレータ5が挟み込まれた状態で渦巻状に巻回され、ほぼ円柱形状をなしている。すなわち、正極板3及び負極板4は、セパレータ5を介して対向し、外装缶2の径方向に重ね合わせられている。
【0014】
外装缶2内では、電極群6の一端と蓋板9との間に正極リード14が配置され、正極リード14の各端部は、それぞれ正極板3及び蓋板9に電気的に接続される。
【0015】
正極板3は、多孔質構造を有する導電性の正極基板と、正極基板の空孔内及び正極基板の表面に保持された正極合剤とからなる。正極基板としては、例えば、ニッケルめっきが施された網状、スポンジ状若しくは繊維状の金属体や発泡ニッケルを用いることができる。
【0016】
正極合剤は、正極活物質粒子、導電材、正極添加剤及び結着剤を含む。正極活物質粒子は、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)粒子又は高次水酸化ニッケル粒子である。なお、これら水酸化ニッケル粒子には、亜鉛、マグネシウム及びコバルトのうちの少なくとも一種を固溶させることが好ましい。
【0017】
負極板4は、帯状をなす導電性の負極芯体を有し、この負極芯体に負極合剤が担持される。負極芯体は、貫通孔が分布されたシート状の金属材からなり、例えば、表面にニッケルメッキを施した鉄製のパンチングシートを用いる。負極合剤は、負極芯体に保持されると負極合剤層を構成する。
【0018】
負極合剤は、水素吸蔵合金の粒子、負極添加剤、導電材及び結着剤を含む。
【0019】
水素吸蔵合金は、負極活物質である水素を吸蔵及び放出可能な合金である。水素吸蔵合金としては、一般的な水素吸蔵合金を用いることができる。ここで、本開示においては、希土類元素、Mg、Niを含む希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を用いることが好ましい。
【0020】
セパレータ5は、例えば、フッ素処理やスルホン化処理が施されたポリプロピレン繊維からなる不織布からなる。
【0021】
電極群6は、負極側が外装缶2の底壁8に接するように外装缶2に収容される。
【0022】
外装缶2内に、所定量のアルカリ電解液を注入したあと、外装缶2の開口を塞ぐ。アルカリ電解液は、正極板3、負極板4及びセパレータ5に含浸され、正極板3と負極板4との間の電気化学反応、いわゆる充放電反応に関与する。アルカリ電解液としては、NaOHを溶質の主体として含むアルカリ電解液が用いられる。
【0023】
上記のようにして作成された電池1に対し初期活性化処理を行い、電池1を使用可能状態とする。
【0024】
次に、電池寿命の推定方法について以下に説明する。
電池1は、バックアップ電源として使用される場合、電気設備などの負荷と商用電源との間に電気的に接続される。バックアップ電源は、商用電源の遮断や停電が生じたときは放電して負荷に給電する。このため、電池1は常時充電され、満充電された後は、自己放電分を補うために微量の電流が流れて充電が継続されるという、いわゆる連続充電(過充電)状態になる。則ち、「連続充電」は、電池1が満充電された後に自己放電分を補うために微量の電流が流れて充電が継続されている状態を意味する。
【0025】
電池1が例えば0℃度の低温環境下で連続充電状態になった場合、正極板3の膨化(正極膨化)が発生して電解液が正極板3内へ取り込まれる。
【0026】
【0027】
正極膨化により、正極板3は、電極群6の径方向における厚みを増やす。しかしながら、外装缶2の内径は不変であるため、正極膨化が生じると、半径方向において各々が膨化する正極板3と正極板3との間に位置するセパレータ5は、厚み方向、すなわち半径方向に、電極群6の中心方向及び外方の両方向から正極板3により圧縮される。この圧縮により、セパレータ5に保持された電解液は、押し出されて膨化した正極板3に取込まれる。故に、セパレータ5に保持される電解液量は減少する。なお、本開示において、セパレータ5に保持された電解液の容量を「セパレータ保液量」と称す。セパレータ5保液量の減少は、電池1全体の内部抵抗を増やすので、正極膨化の進行は電池寿命の短縮につながる。正極膨化は、電池1が設置された場所の温度、すなわち環境温度が、例えば0℃などの低温環境であると、高温環境よりも進行する傾向がみられる。
【0028】
これは、連続充電時、満充電後に副反応としての正極板3では酸素が発生するためである。ニッケル水素二次電池は、正極で発生する酸素を、負極の水素吸蔵合金表面で水に戻す反応にて密閉セルを成立させている。しかしながら、正極では、環境温度が高いと副反応が起こりやすく、環境温度が低いと副反応は起こりにくい。よって、副反応が起こりにくい低温環境での電池1の連続充電では、正極膨化が起こりやすくなる。
【0029】
さらに、負極板4では水素吸蔵合金の腐食(負極腐食)が進行することが知られている。水素吸蔵合金の腐食は、負極板4内の電解液を消費することになり、正極膨化と同様に、セパレータ5から電解液を吸い出して、セパレータ5の保液量の低減につながる。
【0030】
上述のように、正極膨化及び負極腐食により、セパレータ5の保液量が減少すると、電池1の内部抵抗が増大するので電池寿命を短縮させる。
【0031】
そこで、本発明者は、負極腐食のみならず正極膨化による電解液の両極板3、4への取り込み量を考慮して、電池1の寿命をより現実に則して推定できる式を以下のように見出した。
【0032】
電池1を、各環境温度及び各充放電条件で特性を評価し、これらの評価に基づいて下記のように電池1の寿命推定を行う。
【0033】
セパレータ5の保液量は、以下の式(1)で求めることができる。
【0034】
【0035】
なお、上式(1)における各パラメータを説明する。
初期液量について、
C:連続充電時におけるセパレータの保液量[g]
L:電池の製造時に注液する電解液量[g]
Sr:注液した電解液のセパレータへの配分比率、0<Sr<1
Ce:注液時にセパレータへの電解液の含侵が開始される電解液量[g]
セパレータの初期保液量は、注液量からCeを超えた量の電解液に対して、比率Srでセパレータに保持された液量になる。
【0036】
連続充電時の正極取り込み量については、
Wγ:正極膨化進行量あたりの電解液消費量[g]
Dγ:正極膨化進行率[0<Dγ<1] Dγ=0は正極活物質の100%がβ相であることを示し、Dγ=1は正極活物質の100%がγ相であることを示す。
【0037】
負極腐食については、
WM:負極の腐食進行量あたりの電解液消費量[g^2/emu]
M:負極の腐食進行量[emu/g] Mは、負極の重さ当たりの磁化量、腐食の進行量の指標である。
【0038】
式(1)を用いるにあたり、事前に予備的に各環境温度、各充放電条件で電池を評価し、都度でセパレータの保液量を測定することにより、未定の係数を求めることができる。
【0039】
次に、正極膨化進行率Dγを求める式を以下に説明する。
正極取り込み量について、より詳しくは、以下の式(2)~(4)から算出される。
【0040】
【0041】
なお、式(2)~(4)において、各パラメータは以下のとおりである。
irate:連続充電時における電池の電流レート[C]
iside:正極の副反応に使われる電流レート[C]
iγ:正極膨化反応に使われる電流レート[C]
iside,iγの値は、正極表面の界面過電圧:Δφposを未知数として式(2)及び式(3)を連立方程式として解くことで算出される。
I:バトラーフォルマー式における副反応及び正極膨化反応のそれぞれでの参照温度Trefにおける交換電流密度I[C]
α:バトラーフォルマー式における副反応及び正極膨化反応のそれぞれでの移行係数
Δφ:バトラーフォルマー式における副反応及び正極膨化反応のそれぞれでの界面過電圧[V]
Q:バトラーフォルマー式における副反応及び正極膨化反応のそれぞれでの活性化エネルギー[J/mol]
T:連続充電時の温度[K]
Tref:参照温度[K]
R:気体定数[J/mol k]
F:ファラデー定数[A sec/mol]
なお、参照温度Trefとは、各係数を決める時の基準の温度である。例えば、充電するときの温度TがTrefと等しくなる時、(2)、(3)式の指数項部分は1となるため、温度による補正がないものとして計算できる。すなわち、Iside、Iγは、充電温度がTrefである時の交換電流密度係数という意味合いになる。このように、Trefは任意に設定でき、設定されたTrefに応じたIside、Iγを用いればよい。しかしながら、寿命の予測計算や各係数の比較、分析を行うときには、Trefを25℃に設定するのが好ましい。
【0042】
上述のように、正極電解液取り込み量の数式は、正極の連続充電時副反応の進行速度と、正極膨化反応の進行速度(電流レート)とを表す二つの式(2)、
(3)からなる。副反応及び正極膨化反応は、それぞれ連続充電時に電池に流れる充電電流に基づいて生じる。そして、以下の式(4)に示すように、二つの反応電流の合計が連続充電時の充電電流irateと等しくなることから、未知数である正極表面の界面過電圧Δφposを導き出すことができ、それぞれの反応電流iside、iγを算出することができる。
【0043】
次に、正極の膨化進行率Dγは、iγから以下の手順で計算する。
【0044】
(1)所定時間ごとに、例えば1時間おきに式(2)、(3)を解いてiγを算出する。
【0045】
(2)上記時間間隔をΔt=1時間とすると、計算間隔ごとの反応進行量はiγ×Δt[A×(時間)]となり、連続充電中の全体の正極膨化量はΣ(iγ×Δt)となる。
【0046】
正極の副反応の結果生じた酸素の発生量を計測して、副反応の反応量Σ(iside×Δt)を算出する。なお、Σは、連続充電が継続している期間における電流を積分することを意味する。算出した副反応の反応量Σ(iside×Δt)を、正極活物質の全ての膨化が完了した時の充電量の総量Σ(irate×Δt)から引いて、膨化が終了する電池の充電容量Cγを予め求める。この時、正極膨化進行率Dγは、Dγ=Σ(iγ×Δt)/Cγにより計算できる。
【0047】
そして、式(4)に示すように、二つの反応電流の合計が連続充電の充電電流と等しくなることから、未知数である正極表面の界面過電圧Δφposを導き出すことにより、式(2)、(3)を用いてそれぞれの反応電流iside、iγを算出することができる。正極活物質膨化による反応電流iγを逐次計算し、積算することで、過放電状態の正極板3の正極膨化進行量Dγを算出することができる。このような計算式および計算の手法は、上述した、低温環境下での正極膨化進行速度の増加を説明できるものとなっていることが分かる。
【0048】
また、負極腐食は、以下の式(5)から求めることができる。
【0049】
【0050】
なお、式(5)において各パラメータは以下のとおりである。
Mo:初期の磁化率[emu/g] 使用開始時(t=0)における磁化率のスタート値。tは電池使用後の経過時間(通常の充放電を行っている期間、連続充電を行っている期間、充放電をしない未使用期間の総計)であるが、連続充電における寿命を予測する際は連続充電が継続する期間であり、単位は月[month]である。
At:放置期間1か月あたりの腐食進行係数[emu/g month]
Ac:充放電サイクル1回あたりの腐食係数[emu/g cyc]
Ncyc:充放電サイクル回数[cyc]
Qt、Qc:時間経過による腐食進行、充放電による腐食進行の活性化エネルギー[J/mol]
Tref:参照温度[K] At及びAcの基準となる温度
【0051】
負極の磁化進行量Mは、電池の総経過期間(通常の充放電を行っている期間、連続充電を行っている期間、充放電をしない未使用期間の総計)と、充放電のサイクルの二つの要因があり、それぞれの腐食の進行量を算出して合計する。電解液の取り込み量は、正極膨化と負極腐食の進行に比例することが分かっているので、事前に評価を行って係数(Wγ、WM)を算出しておくと、セパレータの電解液量の推定が可能になる。従って、その時の内部抵抗から電池寿命をより正確に推定することができる。
【0052】
以上から、式(1)~(5)を次のように利用することによって寿命推定を行うことができる。
(I)推定式(2)~(5)における電池の保存温度、充電電流値及び保存期間などの保存条件パラメータを種々に変えて事前に予備的に実験し、その時々のセパレータの保液量を測定する。保存期間は、加速試験を用いても良い。
【0053】
(II)それぞれの保存条件でセパレータの保液量が正しく計算できるように推定式(2)~(5)中の係数パラメータを最小二乗法や一般化簡約勾配法(GRG)を用いて定める。
【0054】
(III)係数パラメータの決定した推定式(2)~(5)が得られたあと、温度や電流値などの保存条件を推定式(2)~(5)に入力することにより、セパレータの保液量が式(1)から計算される。
【0055】
(IV)セパレータの保液量から、電池の内部抵抗が分かるので寿命を判定する。このように、電池1の様々な環境温度と充放電条件下とで測定される、セパレータ5の保液量と正極板の膨化量との履歴から、電池の寿命推定が行える。
【0056】
(実施例)
AAサイズ、容量1000mAhの電池を用いて連続充電試験を実施した。連続充電試験条件は、(1)環境温度:-20~60℃、(2)充電レート:0.05It~0.2It、(3)放電頻度:なし、1ヶ月毎に1回、2ヶ月毎に1回、3ヵ月毎に1回の4つの頻度か1つを選択して組み合わせた。当該試験において、一定期間経過後に電池を抜き取り、連続充電経過後の正極電解液取り込み量、負極電解液消費量、セパレータの保液量を測定した。この測定結果を用いて数式化を行った。セパレータ保液量の実測値と、上記推定式(1)~(5)を用いて算出した保液量の予測値の相関結果を
図2に示す。
図2から、セパレータの保液量の実測値との予測のセパレータが保持する液量は、相関関係にあることが確認される。
【0057】
具体的には、AAサイズ、容量1000mAhの電池を用いて連続充電(放電をさせない)を、例えば環境温度0℃の低温環境、電流レート0.05Cで行った場合の実際の電池寿命と寿命推定式を用いて算出した寿命との関係を以下の表に示す。表において、比較例は、従来の負極腐食のみから寿命を算出した実施例と同じタイプ、同じ条件で連続充電とした電池である。
【0058】
【0059】
表1から分かるように、電池を0℃の低温環境、電流レート0.05Cで連続充電としたときの寿命は6.2年であった。一方、負極腐食量から寿命を推定した比較例の電池では、寿命が12.8年と推定され、実施例の電池では、5.8年と推定された。このように、実施例による電池の寿命推定は、比較例よりも実測値に近い年数を算出できることが分かる。従って、本実施の形態による寿命推定では、その精度を向上させられることが明らかである。
【0060】
なお、比較例の推定寿命が、実測値と大きくなる原因として、連続充電を行った環境温度の影響が考えられる。温度が例えば0℃と低い環境での連続充電は、従来の負極腐食量に基づく推定方法では、例えば25℃のような温度環境での連続充電に比較して、負極腐食が進行しないので、実測値よりも長寿命と推定されたと考えられる。負極腐食のみに基づく寿命推定では、電池を低温環境下で連続充電とする場合は、寿命が実測値よりも長く推定される。このため、バックアップ電源に組み込まれた電池が、負極腐食に基づいて当初推定された年数よりも早く劣化して使えなくなるため、商用電源の電圧低下や停電が生じた場合に、バックアップ機能が発揮できないことになる。
【0061】
従って、本実施の形態にあるように、セパレータの保液量から電池寿命を推定すると、係る電池を組み込んだバックアップ電源は、商用電源の電圧低下や停電などの不測の事態に適切に機能させると共に、電池寿命を無駄なく有効に活用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 電池
2 外装缶
3 正極板
4 負極板
5 セパレータ