(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145838
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】水耕栽培用シート及び水耕栽培システム
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20231004BHJP
【FI】
A01G31/00 601B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052700
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】593171592
【氏名又は名称】学校法人玉川学園
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 泰平
(72)【発明者】
【氏名】平井 裕二
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 博之
【テーマコード(参考)】
2B314
【Fターム(参考)】
2B314MA33
2B314NC48
2B314ND04
2B314ND10
2B314ND27
(57)【要約】
【課題】NFT方式において培養液送水ポンプの停止による影響を衛生的かつ効果的に低減する。
【解決手段】培養液が自然流下する培養液流路Rと、培養液流路Rの上方に設けられ植物を保持する栽培トレイ40と、を備える水耕栽培システムに、培養液流路Rを流下する培養液の一部を堰き止める不透液性の水耕栽培用シート50を装着する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不透液性のシートであり、
培養液が自然流下する培養液流路と、前記培養液流路の上方に設けられ植物を保持する栽培トレイと、を備える水耕栽培システムに装着されて、前記培養液流路を流下する培養液の一部を堰き止めることを特徴とする水耕栽培用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の水耕栽培用シートにおいて、
前記水耕栽培システムに着脱自在に固定されていることを特徴とする水耕栽培用シート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水耕栽培用シートにおいて、
前記栽培トレイに設けられた定植孔と、当該定植孔に嵌る培地と、の間に挿入される固定部と、
前記栽培トレイから垂下して前記培養液流路の下流側へ凸状に湾曲した状態で設置され、前記培養液流路を流下する培養液の一部を堰き止める本体部と、を備えることを特徴とする水耕栽培用シート。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の水耕栽培用シートにおいて、
前記培養液流路を形成する樋の内面形状に追従するためのスリットが設けられていることを特徴とする水耕栽培用シート。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の水耕栽培用シートにおいて、
当該水耕栽培用シートによる前記培養液の堰き止め量を調整するための越流口が設けられていることを特徴とする水耕栽培用シート。
【請求項6】
培養液が自然流下する培養液流路と、
前記培養液流路の上方に設けられ植物を保持する栽培トレイと、
前記培養液流路を流下する培養液の一部を堰き止める不透液性の水耕栽培用シートと、を備えることを特徴とする水耕栽培システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水耕栽培用シート及びそれを備えた水耕栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水耕栽培において植物の根に培養液を供給する方式は複数あるが、ホウレンソウやレタスなどの葉菜類の栽培に用いられる方式は、大きくDFT(Deep Flow Technique:湛液水耕)とNFT(Nutrient Film Technique:薄膜水耕)の2種の方式に分けられる。両方式とも培養液タンク及び培養液送水ポンプを持ち、植物体のある水槽にポンプアップによって培養液を供給・循環している。
【0003】
DFT方式は、水深10cm程度の培養液を張った水槽に植物の根を浸す水耕栽培方式である。DFT方式では送水ポンプが停止したとしても、水槽に培養液が十分あるため、栽培品の枯死や乾燥による生育遅延などの不都合が発生することはない。ただし、植物工場のように人工光源を用いて幾層にも重ねた多段式栽培を行う場合は、重量がかさみ、高強度の栽培棚が必要となるため、イニシャルコストが増加する。
一方、NFT方式は、1%程度の緩やかな傾斜を持つ平面上に培養液を少量流下させ、5mm程度の膜状に培養液をかけ流す水耕栽培方式である。NFT方式では循環する培養液量が少なく、多段式栽培を行ったとしても高強度の栽培棚は不要であり、イニシャルコストを抑制できることから多くの植物工場で採用されている。ただし、送水ポンプの故障やトラブルが発生して送水ポンプが停止すると、水槽内の培養液が枯渇して、数時間で栽培品の枯死や乾燥による生育遅延などの不都合が発生してしまう。NFT方式における送水ポンプの停止は、全ての栽培品に影響が及ぶことと、送水ポンプ停止の発覚から復旧までに数時間しか猶予がないことから、予備ポンプの増設や故障等を検知する自動検知装置の設置などの何重もの対策を実施する場合があり、設備費や維持管理費のコストアップに繋がっている。
【0004】
例えば特許文献1のように、水槽内の培養液流路に保水シートを敷設すれば、送水ポンプが停止しても、培養液が保水シートで保水されるので、培養液が枯渇するまでの時間を長引かせることができる。また、保水シートを用意すれば良いだけなので、予備ポンプを増設したり自動検知装置を設置したりする場合に比べて、コストアップを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、培養液流路に保水シートを敷設する手法は、栽培期間中、保水シートを敷いた状態になるため、保水シート内に雑菌などが繁殖して衛生的でないといった問題がある。また、栽培品が多くの水分を必要とする植物である場合には特に、保水シートの保水力では培養液が枯渇するまでの時間を十分に長引かせることができないおそれがある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、NFT方式において培養液送水ポンプの停止による影響を衛生的かつ効果的に低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、
水耕栽培用シートにおいて、
不透液性のシートであり、
培養液が自然流下する培養液流路と、前記培養液流路の上方に設けられ植物を保持する栽培トレイと、を備える水耕栽培システムに装着されて、前記培養液流路を流下する培養液の一部を堰き止めることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の水耕栽培用シートにおいて、
前記水耕栽培システムに着脱自在に固定されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、
請求項1又は2に記載の水耕栽培用シートにおいて、
前記栽培トレイに設けられた定植孔と、当該定植孔に嵌る培地と、の間に挿入される固定部と、
前記栽培トレイから垂下して前記培養液流路の下流側へ凸状に湾曲した状態で設置され、前記培養液流路を流下する培養液の一部を堰き止める本体部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、
請求項1から3に記載の水耕栽培用シートにおいて、
前記培養液流路を形成する樋の内面形状に追従するためのスリットが設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、
請求項1から4のいずれか一項に記載の水耕栽培用シートにおいて、
当該水耕栽培用シートによる前記培養液の堰き止め量を調整するための越流口が設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明は、
水耕栽培システムであって、
培養液が自然流下する培養液流路と、
前記培養液流路の上方に設けられ植物を保持する栽培トレイと、
前記培養液流路を流下する培養液の一部を堰き止める不透液性の水耕栽培用シートと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、NFT方式において培養液送水ポンプの停止による影響を衛生的かつ効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る水耕栽培システムの構成を概略的に示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る水耕栽培システムの構成を示す平面図である。
【
図3】樋及び栽培トレイと水耕栽培用シートとの関係を示す図である。
【
図4】栽培トレイに固定された状態の水耕栽培用シートの要部を示す図である。
【
図5】栽培トレイに固定された状態の水耕栽培用シートの要部を示す図である。
【
図6】栽培トレイに固定された状態の水耕栽培用シートの要部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
ただし、本発明の技術的範囲は、下記実施形態や図面に例示したものに限定されるものではない。
【0017】
<水耕栽培システム>
図1は、本実施形態に係る水耕栽培システム1の構成を概略的に示す図である。
図2は、本実施形態に係る水耕栽培システム1の構成を示す平面図である。
図2では、便宜上、送水管31や培地42、栽培品等の図示を省略している。
水耕栽培システム1は、NFT(Nutrient Film Technique:薄膜水耕)方式の水耕栽培システムであり、複数の樋(ガータ)10と、培養液タンク20と、培養液送水ポンプ30と、複数の栽培トレイ(栽培用プレート)40と、複数の水耕栽培用シート50と、を備えて構成されている。
水耕栽培システム1の生産対象となる植物(栽培品)は、例えば、ホウレンソウ、チンゲンサイ、レタス、ルッコラ、コマツナ、バーブ等の根の伸長が大きい葉菜類である。
【0018】
複数の樋10は、樋10の幅方向(左右方向)に並べて配置されている。樋10は、培養液が流れる培養液流路Rを形成する水槽であり、1%(1/100)程度の勾配で、川上側(後側)から川下側(前側)に下り傾斜した状態に設置されている。樋10の底部のうち川下側には、排水口11が形成されており、当該排水口11にはドレン管11aが取り付けられている。
【0019】
培養液タンク20には、培養液が貯留されている。
培養液送水ポンプ30は、培養液を培養液タンク20から汲み上げて、送水管31を介して樋10へと供給する。樋10に供給された培養液は、培養液流路R(樋10内)を川上側から川下側へと自然流下し、培養液流路Rの川下側に設けられた排水口11からドレン管11aを介して培養液タンク20へと戻るようになっている。
すなわち、培養液タンク20及び培養液送水ポンプ30は、樋10に培養液を循環供給する培養液循環供給手段をなす。
【0020】
複数の栽培トレイ40は、樋10の上面開口を覆うように、当該栽培トレイ40の長手方向が樋10の短手方向(左右方向)と揃った状態で、樋10の長手方向(前後方向)に並べて配置されている。
栽培トレイ40は、複数の定植孔41を有している。各定植孔41には、植物を保持する培地42と、培養液流路Rを流れる培養液を堰き止める水耕栽培用シート50と、がそれぞれ挿入されている。
【0021】
<水耕栽培用シート>
図3は、水耕栽培システム1が備える樋10及び栽培トレイ40と水耕栽培用シート50との関係を示す図である。
図4~
図6は、栽培トレイ40に固定された状態の水耕栽培用シート50の要部を示す図である。
水耕栽培用シート50は、不透液性のシートであり、当該水耕栽培用シート50を栽培トレイ40に固定するための固定部51と、矩形状の本体部52と、からなる。なお、本実施形態では、水耕栽培用シート50として、軽量で透明なポリプロピレン製のシートを用いるが、これに限定されず、水耕栽培用シート50は不透液性のシートであれば適宜変更可能である。
【0022】
水耕栽培用シート50は、例えば
図4に示すように、固定部51が、栽培トレイ40の定植孔41と、当該定植孔41に嵌る培地42と、の間に栽培トレイ40の上面側から挿入されることで、栽培トレイ40に着脱自在に固定される。
また、水耕栽培用シート50は、例えば
図5に示すように、本体部52の先端が川上側(後側)を向くように本体部52を曲げた状態で設置されている。川上側から流れてきた培養液は、その一部が水耕栽培用シート50によって堰き止められて、残りが当該水耕栽培用シート50と樋10との間の隙間から川下側へと流下するようになっている。
【0023】
例えば
図3に示すように、固定部51と本体部52との境界には第一折目50aが設けられている。また、本体部52には、第一折目50aに平行な二本の折目50b,50cが設けられている。
以下、本体部52のうち、第一折目50aから第二折目50bまでの部分を「第一部分52a」と称し、第二折目50bから第三折目50cまでの部分を「第二部分52b」と称し、第三折目50cから本体部52の先端までの部分を「第三部分52c」と称する。
【0024】
第一部分52aは、例えば
図5に示すように、栽培トレイ40の上面に沿って設けられる。すなわち、第一部分52aの長さL1は、定植孔41から栽培トレイ40の端部(川下側の端部)までの長さと一致するように設定されている。
第二部分52bは、例えば
図4や
図5に示すように、栽培トレイ40の上面から栽培トレイ40の下方(樋10内)へと垂下している。第二部分52bの長さL2は、例えば
図3に示すように、栽培トレイ40の上面から樋10の底部上面までの長さと一致するように設定されている。
第三部分52cは、例えば
図5に示すように、培養液流路R(樋10内)を流れる培養液を堰き止めて保水(貯水)する部分である。第三部分52cの長さL3は、培養液流路Rを流れる培養液を堰き止めて保水(貯水)できる長さに設定されており、具体的には例えば5cm以上に設定されている。
【0025】
例えば
図3に示すように、第三部分52cの両側端部(左端部、右端部)には、それぞれ2本のスリット(切り込み)S1,S2が設けられている。これにより、本体部52の両側端部には、それぞれ2本の短冊部T1,T2が形成されている。
2本のスリットS1,S2のうちの内側スリットS1は、第三部分52cの先端から第三折目50cまで設けられている。また、2本のスリットS1,S2のうちの外側スリットS2は、第三部分52cの先端から第三折目50cを越えた位置まで設けられている。すなわち、外側スリットS2は第二部分52bにまで達している。
以下、第三部分52cのうちの、一方の内側スリットS1と他方の内側スリットS1との間の部分を「第三部分52c本体」と称する。
【0026】
本実施形態の樋10には、例えば
図3に示すように、幅方向一方側の内側面(左内側面)と幅方向他方側の内側面(右内側面)との双方に、それぞれ2つの段部12,13が設けられている。具体的には、樋10の底部よりも一段高い第一段部12と、第一段部12よりも一段高い第二段部13と、が設けられている。
スリットS1,S2は、水耕栽培用シート50を、このような樋10内の形状に追従して変形させるために設けられている。すなわち、例えば
図3に示すように、一方の内側スリットS1と他方の内側スリットS1との間の距離(第三部分52c本体の幅)は、樋10の底部上面の幅と略同じに設定されている。また、内側スリットS1と外側スリットS2との間の距離(内側短冊部T1の幅)は、第一段部12の上面の幅と略同じに設定されている。また、外側スリットS2と水耕栽培用シート50の側端(左端、右端)との間の距離(外側短冊部T2の幅)は、第二段部13の上面の幅よりも若干短く設定されている。
【0027】
したがって、水耕栽培用シート50は、例えば
図5や
図6に示すように、第三部分52c本体が樋10の底部上面に載った状態となるとともに当該第三部分52c本体の側端(左端、右端)が第一段部12の立ち上がり部分に当接した状態となり、2本の短冊部T1,T2のうちの内側短冊部T1が第一段部12に載った状態となるとともに当該内側短冊部T1の外側端が第二段部13の立ち上がり部分に当接した状態となり、2本の短冊部T1,T2のうちの外側短冊部T2が第二段部13に載った状態となっている。
図5では、便宜上、樋10の左内側面に設けられた段部12,13と、水耕栽培用シート50の左端部に形成された短冊部T1,T2と、の図示を省略している。
【0028】
<変形例1>
なお、例えば
図7に示すように、水耕栽培用シート50は培養液が通過可能な越流口53を有していても良い。具体的には、例えば、本体部52の第二部分52bに越流口53を設けても良い。越流口53の位置が第三部分52cから遠ざかるほど、水耕栽培用シート50による培養液の堰き止め量(貯水量)が増加し、越流口53の位置が第三部分52cに近づくほど、水耕栽培用シート50による培養液の堰き止め量が減少することとなる。
【0029】
<変形例2>
また、上記実施形態では、水耕栽培システム1が有する全ての定植孔41に水耕栽培用シート50を設けたが、これに限定されるものではない。
具体的には、例えば、上記実施形態では、水耕栽培システム1が備える複数の栽培トレイ40の全てに水耕栽培用シート50を取り付けたが、例えば
図8(a)に示すように、水耕栽培用シート50を取り付ける栽培トレイ40は、複数の栽培トレイ40のうちの一部だけでも良い。
また、上記実施形態では、栽培トレイ40は、定植孔41の列を1列有するトレイであったが、例えば
図8(b)に示すように、栽培トレイ40は、定植孔41の列を複数列有するトレイであっても良い。この場合、例えば
図8(b)に示すように、栽培トレイ40が有する複数列のうち最も川下側の列に水耕栽培用シート50が設けられることとなる。
【0030】
<効果>
上記実施形態(変形例も含む)における水耕栽培用シート50によれば、培養液が自然流下する培養液流路Rと、培養液流路Rの上方に設けられ植物(栽培品)を保持する栽培トレイ40と、を備える水耕栽培システム1に装着されて、培養液流路Rを流下する培養液の一部を堰き止めることができる。したがって、水耕栽培用シート50によって、保水シートが保持可能な培養液量よりも多量の培養液を保持する(堰き止める)ことが可能であるので、培養液送水ポンプ30の停止による影響を効果的に低減することができる。
また、水耕栽培用シート50は、不透液性のシートであり、保水シートに比べて雑菌などが繁殖しにくいので、培養液送水ポンプ30の停止による影響を衛生的に低減することができる。
【0031】
また、水耕栽培用シート50を設けることで、植物(栽培品)の根の絡みを抑制することが可能となる。
また、本発明者らは、水耕栽培用シート50によって培養液を堰き止めることで、植物(栽培品)の根量が、一般的なNFT方式における根量よりも増加することを確認している。これは、水耕栽培用シート50によって培養液を堰き止めることで、例えば
図1に示すように、培養液流路Rにおける水位が一般的なNFT方式での水位(例えば5mm)よりも高くなり、DFT方式のように培養液に植物の根が浸った状態となること等が理由として考えられる。根量の増加による毛細管効果によって根の保水力が増大するので、水耕栽培用シート50と根量の増加との相乗効果によって、水耕栽培用シート50単独の場合に比べて、保水効果(貯水効果)は更に大きくなる。また、根量の増加によって、植物(栽培品)の生育促進が期待できる。
【0032】
また、水耕栽培用シート50は、水耕栽培システム1に着脱自在に固定されているので、水耕栽培システム1を洗浄等する際の作業性が向上する。すなわち、水耕栽培システム1から水耕栽培用シート50を取り外すことができるので、水耕栽培用シート50を単体で(栽培トレイ40等とは別に)洗浄等することが可能である。したがって、手間がかかることなく、清潔な状態を容易に保つことができ、衛生的である。
【0033】
また、水耕栽培用シート50は、水耕栽培システムに着脱自在に固定されるものであるので、既存の水耕栽培システムに後付けすることができる。すなわち、既存の水耕栽培システムに水耕栽培用シート50を取り付けるだけで、当該既存の水耕栽培システムに衛生的かつ効果的な保水機能(貯水機能)を追加することができる。
例えば、上記実施形態(変形例も含む)における水耕栽培システム1のうち、水耕栽培用シート50を除く構成(複数の樋10、培養液タンク20、培養液送水ポンプ30、複数の栽培トレイ40)は、既存の水耕栽培システムのものをそのまま用いることができる。
【0034】
また、水耕栽培用シート50は、栽培トレイ40に設けられた定植孔41と当該定植孔41に嵌る培地42との間に挿入される固定部51と、栽培トレイ40から垂下して培養液流路Rの下流側(川下側)へ凸状に湾曲した状態で設置され、培養液流路Rを流下する培養液の一部を堰き止める本体部52と、を備えている。
したがって、固定部51を、定植孔41と培地42との間に挿入するだけで、水耕栽培用シート50を水耕栽培システムに固定することができるので、使い勝手が良い。
また、本体部52は、培養液流路Rの下流側(川下側)へ凸状に湾曲した状態、すなわち川上側から流れてくる培養液を受け止めやすい状態で設置されているので、効率よく培養液を堰き止めることができる。
【0035】
また、水耕栽培用シート50は、培養液流路Rを形成する樋10の内面形状に追従するためのスリットS1,S2が設けられているので、培養液流路Rを流れる培養液を効率よく堰き止めることができる。
なお、スリットの本数、スリットの向き等は、適宜変更可能である。スリットの本数が多すぎると、スリット間の隙間から培養液が流下して、培養液を効率よく堰き止めることができなくなる(堰き止め量が少なくなる)可能性があるので、スリットの本数は、樋10の内面形状に沿う最低限の本数が好ましい。
【0036】
また、水耕栽培用シート50に、スリットS1,S2を設けなくても良い。具体的には、例えば、水耕栽培用シート50の幅を、樋10の底部上面の幅と略同じに設定することも可能である。本発明者らは、スリットS1,S2を設けた場合の方が、スリットS1,S2を設けない場合に比べて、水耕栽培用シート50による培養液の堰き止め量が増加することを確認している。これは、例えば
図5に示すように、スリットS1,S2を設けることで、培養液が樋10の底部上だけでなく第一段部12上にも溜まるようになること、スリットS1,S2を設けることで、スリットS1,S2を設けない場合に比べて水耕栽培用シート50と樋10との間の隙間が低減すること、等が理由として考えられる。
【0037】
また、水耕栽培用シート50に、当該水耕栽培用シート50による培養液の堰き止め量を調整するための越流口53を設けることが可能である(
図7参照)。越流口53を設けることで、水耕栽培用シート50による培養液の堰き止め量を、所望の堰き止め量に設定することが可能となる。すなわち、越流口53を設けることで、培養液流路Rにおける培養液の水位を所望の高さに設定することが可能となる。
例えば、水耕栽培用シート50による培養液の堰き止め量が多すぎると、川下側まで培養液が行き届かない、川上側の水耕栽培用シート50によって堰き止められている培養液の水位が上昇しすぎてオーバーフローしてしまう、等の不具合が発生してしまうおそれがある。これに対し、越流口53を設けて、水耕栽培用シート50による培養液の堰き止め量を制限することで、このような不具合の発生を回避することが可能となる。
【0038】
また、上記実施形態(変形例も含む)における水耕栽培システム1によれば、培養液が自然流下する培養液流路Rと、培養液流路Rの上方に設けられ植物を保持する栽培トレイ40と、培養液流路Rを流下する培養液の一部を堰き止める不透液性の水耕栽培用シート50と、を備えている。したがって、水耕栽培用シート50によって、保水シートが保持可能な培養液量よりも多量の培養液を保持する(堰き止める)ことが可能であるので、培養液送水ポンプ30の停止による影響を効果的に低減することができる。
また、水耕栽培用シート50は、不透液性のシートであり、保水シートに比べて雑菌などが繁殖しにくいので、培養液送水ポンプ30の停止による影響を衛生的に低減することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 水耕栽培システム
10 樋
40 栽培トレイ
41 定植孔
42 培地
50 水耕栽培用シート
51 固定部
52 本体部
53 越流口
R 培養液流路
S1,S2 スリット