(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145850
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】シリコン捕集剤、シリコンの捕集方法、及び水素化処理方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/08 20060101AFI20231004BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20231004BHJP
B01J 23/883 20060101ALI20231004BHJP
B01J 27/051 20060101ALI20231004BHJP
B01J 27/19 20060101ALI20231004BHJP
C10G 45/02 20060101ALN20231004BHJP
【FI】
B01J20/08 A
B01J35/10 301A
B01J23/883 M
B01J27/051 M
B01J27/19 M
C10G45/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052720
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100209347
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】薄井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】辻 浩二
(72)【発明者】
【氏名】関根 翼
【テーマコード(参考)】
4G066
4G169
4H129
【Fターム(参考)】
4G066AA20B
4G066BA23
4G066BA24
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4H129NA05
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4H129NA45
(57)【要約】
【課題】重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油のシリコン捕集能に優れるシリコン捕集剤、並びに前記シリコン捕集剤を用いた重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油のシリコンの捕集方法及び前記シリコン捕集剤を用いた重質コーカー分解炭化水素油を含有する原料油の水素化処理方法の提供。
【解決手段】重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油のシリコン捕集剤であって、前記シリコン捕集剤はアルミナを含み、前記シリコン捕集剤の総質量に対するアルミナの含有量は50質量%以上であり、前記シリコン捕集剤は、平均細孔径が7~13nm、且つ細孔容積が0.55~0.75mL/gの細孔を有することを特徴とする重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油のシリコン捕集剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油のシリコン捕集剤であって、
前記シリコン捕集剤はアルミナを含み、
前記シリコン捕集剤の総質量に対するアルミナの含有量は50質量%以上であり、
前記シリコン捕集剤は、平均細孔径が7~13nm、且つ細孔容積が0.55~0.75mL/gの細孔を有することを特徴とする重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油のシリコン捕集剤。
【請求項2】
さらに水素化活性成分を含み、前記水素化活性成分は、前記アルミナに担持されている、請求項1に記載のシリコン捕集剤。
【請求項3】
重質コーカー分解炭化水素油を含むシリコン濃度0.1~15.0質量ppmの原料油を、温度300~410℃、圧力10~20MPa、水素/油比170~1400m3/m3、及び液空間速度0.1~2.0h-1で請求項1又は2に記載のシリコン捕集剤及び水素化処理触媒に順次接触させることを特徴とする、重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油のシリコンの捕集方法。
【請求項4】
重質コーカー分解炭化水素油を含むシリコン濃度0.1~15.0質量ppmの原料油を、温度300~410℃、圧力10~20MPa、水素/油比170~1400m3/m3、及び液空間速度0.1~2.0h-1で請求項1又は2に記載のシリコン捕集剤及び水素化処理触媒に順次接触させることを特徴とする、重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油の水素化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン捕集剤、シリコンの捕集方法、及び水素化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重油の需要減少により、主な重油基材である、原油を常圧蒸留装置により処理して得られる常圧蒸留残渣油や、前記常圧蒸留残渣油を減圧蒸留装置により処理して得られる減圧蒸留残渣油を付加価値の高い軽質油へと効率よく変換する技術が求められている。
【0003】
重油基材を軽質油へと変換する技術として、減圧蒸留残渣油を重質油熱分解装置(以下、「コーカー装置」ともいう。)で熱分解して得られるコーカー分解留分を水素化処理(水素化脱硫)して得られる留分を利用するプロセスが知られている。前記コーカー分解留分のうち、軽質な留分(コーカー分解ナフサ留分)は、水素化処理後、接触改質反応装置にて処理され、高付加価値の基礎化学品を含む留分が製造される。また、重質な留分(重質コーカー分解炭化水素油)は、水素化処理後、流動接触分解装置にて処理され、ガソリン、灯油、軽油等の中間留分が製造される。
【0004】
ところで、コーカー装置では、反応ドラム内での発泡を抑制するためにケイ素系の泡消剤が使用されている。そのため、コーカー装置で熱分解して得られる留分中には泡消剤由来のケイ素化合物が混入する。このケイ素化合物は、水素化処理において使用される水素化処理触媒の被毒物質であることが知られている。また、このケイ素化合物は、接触改質反応装置に充填されている接触改質触媒の被毒物質であることも知られている。
【0005】
特許文献1には、ケイ素化合物を含むコーカー分解ナフサ留分の水素化処理において、コーカー分解ナフサ留分と共に0.01~10体積%の水を水素化処理触媒に供給することにより、水素化処理触媒のシリコン捕集能が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のように、コーカー分解ナフサ留分の水素化処理におけるシリコン捕集については広範な研究がこれまで行われている。一方、重質コーカー分解炭化水素油の水素化処理におけるシリコン捕集については、コーカー分解ナフサ留分の水素化処理におけるシリコン捕集ほど研究が進んでいないのが実情である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油のシリコン捕集能に優れるシリコン捕集剤、並びに前記シリコン捕集剤を用いた重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油のシリコンの捕集方法及び前記シリコン捕集剤を用いた重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油の水素化処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の態様を有する。
[1] 重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油のシリコン捕集剤であって、前記シリコン捕集剤はアルミナを含み、前記シリコン捕集剤の総質量に対するアルミナの含有量は50質量%以上であり、前記シリコン捕集剤は、平均細孔径が7~13nm、且つ細孔容積が0.55~0.75mL/gの細孔を有することを特徴とする重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油のシリコン捕集剤。
[2] さらに水素化活性成分を含み、前記水素化活性成分は、前記アルミナに担持されている、[1]に記載のシリコン捕集剤。
[3] 重質コーカー分解炭化水素油を含むシリコン濃度0.1~15.0質量ppmの原料油を、温度300~410℃、圧力10~20MPa、水素/油比170~1400m3/m3、及び液空間速度0.1~2.0h-1で[1]又は[2]に記載のシリコン捕集剤及び水素化処理触媒に順次接触させることを特徴とする、重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油のシリコンの捕集方法。
[4] 重質コーカー分解炭化水素油を含むシリコン濃度0.1~15.0質量ppmの原料油を、温度300~410℃、圧力10~20MPa、水素/油比170~1400m3/m3、及び液空間速度0.1~2.0h-1で[1]又は[2]に記載のシリコン捕集剤及び水素化処理触媒に順次接触させることを特徴とする、重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油の水素化処理方法。
[5] 重質コーカー分解炭化水素油を含むシリコン濃度0.1~15.0質量ppmの原料油を、温度300~410℃、圧力10~20MPa、水素/油比170~1400m3/m3、及び液空間速度0.1~2.0h-1で[1]又は[2]に記載のシリコン捕集剤及び水素化処理触媒に順次接触させることを特徴とする、水素化生成油の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油のシリコン捕集能に優れるシリコン捕集剤、並びに前記シリコン捕集剤を用いた重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油のシリコンの捕集方法及び前記シリコン捕集剤を用いた重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油の水素化処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1~6、比較例1、2のシリコン捕集剤の平均細孔径と、シリコン捕集剤のシリコン堆積量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の記載は本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されず、その要旨の範囲内で変形して実施することができる。
【0013】
<定義>
本明細書において、「重質コーカー分解炭化水素油」とは、主として減圧蒸留残渣油をコーカー装置で熱分解して得られるコーカー分解留分を常圧蒸留して得られる留出油のうち、最も重質な留分を意味する。減圧蒸留残渣油は、原油を常圧蒸留装置で処理して得られる常圧蒸留残渣油をさらに減圧蒸留装置で処理して得られる残渣油である。重質コーカー分解炭化水素油の性状としては例えば、15℃における密度が0.91~1.00g/mL、硫黄分が1.5~5.5質量%、窒素分が0.01~0.6質量%、シリコン濃度(元素換算)が0.1~15.0質量ppm、ニッケル分(元素換算)が0.1~1.5質量ppm、バナジウム分(元素換算)が0.1~1.5質量ppm、10容量%留出温度が230~440℃、50容量%留出温度が270~520℃、90容量%留出温度が410~600℃である。
15℃における密度は、JIS K 2249-1(2011)「原油及び石油製品-密度の求め方-第1部:振動法」に準拠して測定することができる。
硫黄分は、JIS K 2541-4(2003)「原油及び石油製品-硫黄分試験方法 第4部:放射線式励起法」に準拠して測定することができる。
窒素分は、JIS K 2609(1998)「原油及び石油製品-窒素分試験方法」に準拠して測定することができる。
シリコン濃度は、誘導結合プラズマ-発光分光法(ICP-AES)又は原子吸光法(AAS)により測定することができる。
ニッケル分は、誘導結合プラズマ-発光分光法(ICP-AES)により測定することができる。
バナジウム分は、誘導結合プラズマ- 発光分光法(ICP-AES)により測定することができる。
10容量%留出温度、50容量%留出温度、90容量%留出温度は、JIS K2254(2018)「石油製品-蒸留性状の求め方」に準拠して測定することができる。
【0014】
シリコン捕集剤に含まれる元素の含有量は、誘導結合プラズマ発光分析により測定することができる。
シリコン捕集剤の平均細孔径、細孔容積、細孔分布は、水銀圧入法により測定することができる。
シリコン捕集剤の比表面積は、BET比表面積であり、窒素吸着法により測定することができる。
【0015】
「周期表第6族金属」(以下、「第6族金属」ということがある)、「周期表第9族金属」(以下、「第9族金属」ということがある)、「周期表第10族金属」(以下、「第10族金属」ということがある)とは、それぞれ、長周期型周期表における第6族金属、第9族金属、第10族金属を意味する。
第6族金属、第9族金属、第10族金属を総称して「水素化活性成分」ともいう。
【0016】
≪シリコン捕集剤≫
本実施形態の重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油のシリコン捕集剤は、アルミナを含む。前記シリコン捕集剤の総質量に対するアルミナの含有量は50質量%以上である。前記シリコン捕集剤は、平均細孔径が7~13nm、且つ細孔容積が0.55~0.75mL/gの細孔を有する。
【0017】
<シリコン捕集剤の組成>
(アルミナ)
シリコン捕集剤に含まれるアルミナとしては、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、δ-アルミナ等の種々のアルミナを使用することができるが、多孔質で高比表面積であるアルミナが好ましく、なかでもγ-アルミナがより好ましい。
アルミナの純度は、98質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがより好ましい。アルミナ中の不純物としては、SO4
2-、Cl-、Fe2O3、Na2O等が挙げられるが、これらの不純物はできるだけ少ないことが好ましく、不純物全量で2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。成分毎ではSO4
2-が1.5質量%以下、Cl-、Fe2O3、Na2Oはそれぞれ0.1質量%以下であることが好ましい。
重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油中のケイ素化合物は、アルミナ表面の水酸基と反応することにより、アルミナ表面に化学吸着する。
【0018】
シリコン捕集剤の総質量に対する、アルミナの含有量(上述の不純物の含有量を含む)は、50質量%以上であり、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%であることがさらに好ましく、100質量%でもよい。
アルミナの含有量は、シリコン捕集剤中のアルミニウム元素の含有量を上述の方法で測定し、酸化物換算(Al2O3)として計算して求めることができる。また、シリコン捕集剤が後述のアルミナ以外の物質を含む場合は、100%からアルミナ以外の物質の含有量を減じて求めることもできる。
【0019】
シリコン捕集剤は、アルミナ以外の物質を含んでもよい。アルミナ以外の物質としては、亜鉛を含む物質、リンを含む物質、ケイ素を含む物質、及び水素化活性成分を含む物質が例として挙げられる。
【0020】
(亜鉛を含む物質)
亜鉛を含む物質としては、亜鉛単体、亜鉛化合物が挙げられる。シリコン捕集剤中には、亜鉛単体及び亜鉛化合物の一方のみが含まれていてもよく、両方が含まれていてもよい。
シリコン捕集剤中の亜鉛化合物としては、酸化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛、アルミン酸亜鉛、チタン酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛等が挙げられ、酸化亜鉛、アルミン酸亜鉛が好ましい。シリコン捕集剤中の亜鉛化合物としては、上記化合物の他、亜鉛元素と、シリコン捕集剤に含まれるアルミニウム元素、リン元素、ケイ素元素、第6族金属元素、第9族金属元素、及び第10族金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素との複合酸化物、複合硫化物が挙げられる。亜鉛を含む物質は、アルミナとの混合物として存在していてもよく、アルミナに担持されていてもよい。
シリコン捕集剤が亜鉛を含む物質を含有する場合、シリコン捕集剤の総質量に対する亜鉛を含む物質の含有量は、酸化物換算(ZnO)で、0.8~10質量%であることが好ましく2~5質量%であることがより好ましい。
シリコン捕集剤中の亜鉛化合物は1種類のみでもよく、2種類以上でもよい。
【0021】
(リンを含む物質)
リンを含む物質としては、リン単体、リン化合物が挙げられる。シリコン捕集剤中には、リン単体及びリン化合物の一方のみが含まれていてもよく、両方が含まれていてもよい。
シリコン捕集剤中のリン化合物としては、酸化リン、モリブドリン酸、リン酸アンモニウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、リン酸チタン、リン酸ニッケル等が挙げられ、酸化リン、モリブドリン酸、リン酸ニッケルが好ましい。シリコン捕集剤中のリン化合物としては、上記化合物の他、リン元素と、シリコン捕集剤に含まれるアルミニウム元素、亜鉛元素、ケイ素元素、第6族金属元素、第9族金属元素、及び第10族金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素との複合酸化物、複合硫化物が挙げられる。リンを含む物質は、アルミナとの混合物として存在していてもよく、アルミナに担持されていてもよい。
シリコン捕集剤がリンを含む物質を含有する場合、シリコン捕集剤の総質量に対するリンを含む物質の含有量は、酸化物換算(P2O5)で、0.04~2質量%であることが好ましく0.3~1.2質量%であることがより好ましい。
シリコン捕集剤中のリン化合物は1種類のみでもよく、2種類以上でもよい。
【0022】
(ケイ素を含む物質)
ケイ素を含む物質としては、ケイ素化合物が挙げられる。
シリコン捕集剤中のケイ素化合物としては、シリカ等が挙げられる。シリコン捕集剤中のケイ素化合物としては、上記化合物の他、ケイ素元素と、シリコン捕集剤に含まれるアルミニウム元素、亜鉛元素、リン元素、第6族金属元素、第9族金属元素、及び第10族金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素との複合酸化物、複合硫化物が挙げられる。ケイ素を含む物質は、アルミナとの混合物として存在していてもよく、アルミナに担持されていてもよい。
シリコン捕集剤がケイ素を含む物質を含有する場合、シリコン捕集剤の総質量に対するケイ素を含む物質の含有量は、酸化物換算(SiO2)で、0.01~1質量%であることが好ましく0.05~0.5質量%であることがより好ましく、0.1~0.2質量であることがさらに好ましい。シリコン捕集剤が後述の物性値を充足する上では、シリコン捕集剤にケイ素を含む物質が含まれていることが好ましい。
シリコン捕集剤中のケイ素化合物は1種類のみでもよく、2種類以上でもよい。
【0023】
(水素化活性成分を含む物質)
シリコン捕集剤が水素化活性成分を含む物質を含有する場合、シリコン捕集剤と同時に水素化処理触媒としても機能する。以下、水素化活性成分を含む物質を含有するシリコン捕集剤を「シリコン捕集水素化処理触媒」ともいう。シリコン捕集剤として、シリコン捕集水素化処理触媒を使用すると、反応器内の空間をより効率的に活用することができる。なお、シリコン捕集水素化処理触媒は、シリコン捕集能と水素化処理活性の両方を有するが、本明細書においては「シリコン捕集剤」と定義され、後述の「水素化処理触媒」には該当しない。
【0024】
第6族金属としては、モリブデン、タングステン、クロム等が挙げられ、なかでも単位質量当たりの水素化活性が高いモリブデンが好ましい。
第6族金属を含む物質としては、第6族金属単体、第6族金属化合物が挙げられる。シリコン捕集剤中には、第6族金属単体及び第6族金属化合物の一方のみが含まれていてもよく、両方が含まれていてもよい。
シリコン捕集剤中の第6族金属化合物としては、モリブデン化合物が好ましく、三酸化モリブデン、モリブドリン酸、モリブデン酸アンモニウム、硫化モリブデン、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸ニッケル、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸等が挙げられ、モリブドリン酸、三酸化モリブデン、モリブデン酸ニッケル、モリブデン酸亜鉛が好ましい。シリコン捕集剤中の第6族金属化合物としては、上記化合物の他、第6族金属元素とシリコン捕集剤に含まれる亜鉛元素、リン元素、ケイ素、第9族金属元素、及び第10族金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素との複合酸化物、複合硫化物が挙げられる。第6族金属を含む物質は、アルミナに担持されていることが好ましい。
シリコン捕集剤が第6族金属を含む物質を含有する場合、シリコン捕集剤の総質量に対する第6族金属を含む物質の含有量は、酸化物換算(例えば、MoO3)で、10~30質量%であることが好ましく10~25質量%であることがより好ましい。なお、第6族金属を含む物質を酸化物換算とする場合、第6族金属を6価として換算する。
シリコン捕集剤中の第6族金属化合物は1種類のみでもよく、2種類以上でもよい。
【0025】
第9族金属、第10族金属としては、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、ロジウム、イリジウム等が挙げられ、なかでも水素化能が高く、触媒調製コストが低いニッケル、コバルトが好ましく、ニッケルがより好ましい。シリコン捕集剤には、第9族金属を含む物質のみが含まれていてもよく、第10族金属を含む物質のみが含まれていてもよく、第9族金属を含む物質及び第10族金属を含む物質の両方が含まれていてもよい。
第9族金属を含む物質、第10族金属を含む物質としては、第9族金属単体、第10族金属単体、第9族金属化合物、第10族金属化合物が挙げられる。シリコン捕集剤中に第9族金属を含む物質が含まれる場合、第9族金属単体及び第9族金属化合物の一方のみが含まれていてもよく、両方が含まれていてもよい。シリコン捕集剤中に第10族金属を含む物質が含まれる場合、第10族金属単体及び第10族金属化合物の一方のみが含まれていてもよく、両方が含まれていてもよい。
シリコン捕集剤中の第9族金属化合物、第10族金属化合物としては、ニッケル又はコバルトの酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、アルミン酸塩、チタン酸塩、モリブデン酸塩等が挙げられ、リン酸塩、チタン酸塩、モリブデン酸塩が好ましい。シリコン捕集剤中の第9族金属化合物、第10族金属化合物としては、上記化合物の他、第9族金属元素及び/又は第10族金属元素と、シリコン捕集剤に含まれる亜鉛元素、リン元素、ケイ素元素、及び第6族金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素との複合酸化物、複合硫化物が挙げられる。第9族金属を含む物質又は第10族金属を含む物質は、アルミナに担持されていることが好ましい。
シリコン捕集剤が第9族金属元素を含む物質又は第10族金属元素を含む物質を含有する場合、シリコン捕集剤の総質量に対する第9族金属を含む物質及び第10族金属を含む物質の合計含有量は、酸化物換算(例えば、NiO)で、1~15質量%であることが好ましく3~8質量%であることがより好ましい。なお、第9族金属を含む物質又は第10族金属を含む物質を酸化物換算とする場合、第9族金属又は第10族金属を2価として換算する。
シリコン捕集剤中の第9族化合物は1種類のみでもよく、2種類以上でもよい。シリコン捕集剤中の第10族化合物は1種類のみでもよく、2種類以上でもよい。
【0026】
<シリコン捕集剤の物性>
シリコン捕集剤の平均細孔径は、7~13nmであり、8~12.5nmであることが好ましく、9.2~11nmであることがより好ましく、9.5~10.5nmであることが特に好ましい。平均細孔径が前記範囲の下限値以上であると、ケイ素化合物の細孔への拡散性が向上する。その結果、ケイ素化合物が細孔内部まで侵入し、アルミナ表面の水酸基と効率よく反応することにより、シリコン捕集能が向上すると考えられる。平均細孔径が前記範囲の上限値以下であると、後述の比表面積の下限値以上となりやすい。その結果、ケイ素化合物と反応するアルミナ表面の水酸基の数が充分な数となり、シリコン捕集能が向上すると考えられる。
【0027】
シリコン捕集剤の細孔容積は、0.55~0.75mL/gであり、0.58~0.72mL/gであることが好ましく、0.60~0.70mL/gであることがより好ましい。細孔容積が前記範囲の下限値以上であると、ケイ素化合物の細孔への拡散性が向上する。その結果、ケイ素化合物が細孔内部まで侵入し、アルミナ表面の水酸基と効率よく反応することにより、シリコン捕集能が向上すると考えられる。細孔容積が前記範囲の上限値以下であると、後述の比表面積の下限値以上となりやすい。その結果、ケイ素化合物と反応するアルミナ表面の水酸基の数が充分な数となり、シリコン捕集能が向上すると考えられる。
【0028】
シリコン捕集剤の細孔分布としては、全細孔容積に対する、平均細孔径±1.5nmの細孔径を有する細孔の容積の割合が、30%以上であることが好ましく、35%以上であることより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。前記割合が前記下限値以上であると、シリコン捕集に適した細孔径をもつ細孔が充分に存在し、シリコン捕集能が向上する。
【0029】
シリコン捕集剤の比表面積は、150~300m2/gであることが好ましく、190~290m2/gであることがより好ましく、230~270m2/gであることがさらに好ましい。比表面積が前記範囲の下限値以上であると、ケイ素化合物と反応するアルミナ表面の水酸基の数が充分な数となり、シリコン捕集能が向上すると考えられる。比表面積が前記範囲の上限値以下であると、平均細孔径が前述の下限値以上となりやすく、ケイ素化合物の細孔への拡散性が向上する。その結果、ケイ素化合物が細孔内部まで侵入し、アルミナ表面の水酸基と効率よく反応することにより、シリコン捕集能が向上すると考えられる。
【0030】
<シリコン捕集剤の製造方法>
シリコン捕集剤の製造方法は、アルミナを50質量%以上含む成形体(以下、「アルミナ成形体」ともいう。)の製造工程を含む。アルミナ成形体をシリコン捕集剤として使用することができる。シリコン捕集剤がシリコン捕集水素化処理触媒である場合は、シリコン捕集剤の製造方法は、さらに前記アルミナ成形体に水素化活性成分を担持する工程(水素化活性成分の担持工程)を含む。
【0031】
(アルミナ成形体の製造工程)
アルミナ成形体の製造工程は、例えば、アルミナゲルを調製するアルミナゲル調製工程、前記アルミナゲルを混練して混練物を得る混練工程、前記混練物を成形して成形品を得る成形工程、及び前記成形品を乾燥、焼成して焼成体(アルミナ成形体)を得る焼成工程を有する。
シリコン捕集剤が、上述の亜鉛を含む物質、リンを含む物質、ケイ素を含む物質を含む場合は、前記アルミナゲル、混練物、成形品、焼成体のいずれかに亜鉛原料、リン原料、ケイ素原料を添加する工程を有していることが好ましい。
【0032】
アルミナゲルを調製するためのアルミナ原料は、アルミニウムを含む物質であれば特に限定されないが、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム等のアルミニウム塩が好ましい。これらのアルミナ原料は、通常水溶液として供され、その濃度は特に制限されないが、水溶液の総質量に対して、2~50質量%であることが好ましく、5~40質量%であることがより好ましい。
【0033】
例えば、攪拌釜で硫酸水溶液、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウムを混合してスラリーを調製する。得られたスラリーに対して回転円筒型連続真空濾過器による水分除去、純水洗浄を行い、アルミナゲルを得る。
【0034】
次いで、得られたアルミナゲルを濾液中にSO4
2-、Na+が検出できなくなるまで洗浄した後、前記アルミナゲルを純水に混濁させて均一なスラリーとする。得られたアルミナゲルスラリーを、水分量が60~90質量%となるまで脱水して、ケーキを得る。
【0035】
前記アルミナゲルスラリーの脱水は、圧搾濾過器によって行うことが好ましい。圧搾濾過器とは、スラリーに圧縮空気又はポンプ圧を作用させて濾過する装置であり、一般に圧濾器とも呼ばれる。圧搾濾過器には板枠型と凹板型とがある。板枠型圧濾器は、濾板と濾枠が交互に端板間に締め付けられており、濾枠の中へスラリーを圧入して濾過する。濾板は濾液流路となる溝を有し、濾枠には濾布が張ってある。一方、凹板型圧濾器は、濾布と凹板型の濾板を交互に並べて端板との間で締め付け濾室を構成している(参考文献:化学工学便覧p715)。
【0036】
圧搾濾過器でアルミナゲルスラリーの脱水を行うことにより、得られるアルミナ成形体の表面状態を向上させることができ、シリコン捕集水素化処理触媒の場合、水素化活性成分の硫化度を向上させることができる。なお、この圧搾濾過器による脱水工程は、前記アルミナゲル調製工程、及び前記混練工程のうち少なくとも一方の工程の後に行うことが好ましく、両方の工程の後に行ってもよい。中でも、前記アルミナゲル調製工程後、前記混練工程前に行うことがより好ましい。
【0037】
前記方法の他にも、アルミナゲルの調製方法としては、アルミナ原料を含む水溶液をアルミン酸ナトリウム、アルミン酸、アンモニア等の中和剤で中和する方法、ヘキサンメチレンテトラミン、炭酸カルシウム等の沈殿剤と混合する方法等が挙げられる。
中和剤の使用量は、特に制限されないが、アルミナ原料を含む水溶液と中和剤の合計量に対して30~70質量%が好ましい。沈殿剤の使用量は、特に制限されないが、アルミナ原料を含む水溶液と沈殿剤の合計量に対して30~70質量%が好ましい。
【0038】
亜鉛原料、リン原料、ケイ素原料が固体の場合、前記アルミナゲルにこれらの原料を添加した後に、前記混練工程を行うことが好ましい。
亜鉛原料、リン原料、ケイ素原料が液体又は溶媒に溶解している場合、前記アルミナゲルにこれらの原料を添加した後に前記混練工程を行う、前記混練物にこれらの原料を添加した後に成形工程を行う、前記成形品にこれらの原料を添加した後に乾燥、焼成を行う、又は前記焼成体にこれらの原料を添加することが好ましく、前記焼成体にこれらの原料を添加することがより好ましい。
【0039】
亜鉛原料としては、亜鉛単体、種々の亜鉛化合物を使用することができ、酸化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、水酸化亜鉛、シュウ酸亜鉛、リン酸亜鉛、アルミン酸亜鉛、チタン酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛等が例として挙げられ、なかでも酸化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、アルミン酸亜鉛が好ましく、硝酸亜鉛、酸化亜鉛、アルミン酸亜鉛が特に好ましい。
【0040】
亜鉛原料が酸化亜鉛等の固体の場合、前記アルミゲルに亜鉛原料を硝酸等の酸とともに添加して前記混練工程を行うことが好ましい。
【0041】
亜鉛原料が液体又は溶媒に溶解している溶液(硝酸亜鉛水溶液等)の場合、前記焼成体に前記液体又は前記溶液を添加することが好ましい。
【0042】
リン原料としては、リン単体、種々の化合物を使用することができ、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、リン酸アルミニウム等が例として挙げられ、なかでもオルトリン酸が好ましい。
【0043】
前記アルミゲルに、リン原料を添加して前記混練工程を行うことが好ましい。
【0044】
ケイ素原料としては、シリカ、ケイ素アルコキシド等が例として挙げられ、中でもケイ素アルコキシドが好ましい。
【0045】
前記アルミゲルに、ケイ素原料を添加して前記混練工程を行うことが好ましい。
【0046】
アルミナゲルに上記原料を添加した後に混練工程を行う場合、アルミナゲル調製工程で得られたアルミナゲルに、上記原料を添加し、混練を行う。具体的には、50~90℃に加熱したアルミナゲルの水分調整物に、15~90℃に加熱した上記原料を添加する。そして、加熱ニーダー等を用いて混練、攪拌し、混練物を得る。なお、上述したように、圧搾濾過器による脱水を、アルミナゲルと上記原料とを混練、攪拌した後に行ってもよい。上述した通り、上記原料は、固体として添加してもよく、液体として添加してよく、上記原料を溶媒に溶解又は懸濁した液体として添加してもよい。
【0047】
そして、得られた混練物を成形、乾燥、焼成して、焼成体を得る。上記混練物の成形は、押出し成形、加圧成形等の種々の成形方法により行うことができる。また、得られた成形品の乾燥温度は15~150℃であることが好ましく、80~120℃であることがより好ましい。乾燥時間は30分間以上であることが好ましい。
【0048】
前記焼成の焼成温度は必要に応じて適宜設定できるが、例えばγ-アルミナとするための焼成温度は、450℃以上であることが好ましい。
【0049】
焼成体に上記原料を添加する場合、含浸法、共沈法、沈着法、イオン交換法等の公知の方法でよい。含浸法としては、焼成体を前記焼成体の全細孔容積に対して過剰の含浸溶液に浸した後に溶媒を全て乾燥させることにより、上記原料を担持する蒸発乾固法、焼成体を前記焼成体の全細孔容積に対して過剰の含浸溶液に浸した後に濾過等の固液分離により上記原料を担持する平衡吸着法、焼成体に前記焼成体の全細孔容積とほぼ等量の含浸溶液を含浸し、溶媒を全て乾燥させることにより、上記原料を担持する細孔充填法が例として挙げられる。なお、焼成体に、上記複数の原料を含浸させる方法としては、これら各原料を同時に含浸させる一括含浸法でもよく、個別に含浸させる逐次含浸法でもよい。
【0050】
上記原料を上記含浸法等で担持した場合、一般に、窒素気流中、空気気流中、又は真空中で、常温~80℃で、水分をある程度(LOI《Loss on ignition》50%以下となるように)除去し、乾燥炉にて、空気気流中、80~150℃で、10分間~10時間乾燥することが好ましい。次いで、焼成炉にて、空気気流中、300~700℃で、より好ましくは500~650℃で10分間~10時間、より好ましくは3時間~6時間焼成を行うことが好ましい。
【0051】
上述のシリコン捕集剤の物性値を充足させるためには、アルミナ成形体の各工程の条件を調整すればよい。このようなアルミナ成形体の物性の調整は、本分野で公知の方法により行うことができる。なお、シリコン捕集水素化処理触媒の物性も、アルミナ成形体の物性が反映される。
例えば、上記アルミナゲル調製工程時のアルミナ原料を含む水溶液を調製してから、中和剤又は沈殿剤を添加するまでの時間(熟成時間)を長くすると、アルミナ成形体の比表面積は小さくなり、平均細孔径及び細孔容積は大きくなり、細孔分布はシャープになる傾向がある。
また、前記成形工程時の圧力を高くすると、アルミナ成形体の比表面積は大きくなり、平均細孔径及び細孔容積は小さくなる傾向がある。
さらに、前記焼成工程時の焼成温度を高くすると、アルミナ成形体の比表面積は小さくなり、平均細孔径及び細孔容積は大きくなり、細孔分布はブロードになる傾向がある。
【0052】
(水素化活性成分の担持工程)
水素化活性成分の担持工程は、アルミナ成形体に、水素化活性成分を担持させる工程である。
【0053】
アルミナ成形体に担持させる第6族金属原料としては、モリブデン化合物が好ましく、三酸化モリブデン、モリブドリン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸等が挙げられ、モリブドリン酸、三酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウムが好ましい。
【0054】
アルミナ成形体に担持させる第9族金属原料、第10族金属原料としては、酸化ニッケル、炭酸ニッケル、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、炭酸コバルト、酢酸コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト、炭酸コバルト、蓚酸コバルト等が挙げられ、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸コバルト、炭酸コバルトが好ましい。
【0055】
アルミナ成形体に、第6族金属原料、第9族金属原料、第10族金属原料(以下、「水素化活性成分原料」ともいう。)を担持させる方法としては、含浸法、共沈法、混練法、沈着法、イオン交換法等の公知の方法でよい。含浸法としては、アルミナ成形体を前記アルミナ成形体の全細孔容積に対して過剰の含浸溶液に浸した後に溶媒を全て乾燥させることにより、水素化活性成分原料を担持する蒸発乾固法、アルミナ成形体を前記アルミナ成形体の全細孔容積に対して過剰の含浸溶液に浸した後に濾過等の固液分離により水素化活性成分原料を担持する平衡吸着法、アルミナ成形体に前記アルミナ成形体の全細孔容積とほぼ等量の含浸溶液を含浸し、溶媒を全て乾燥させることにより、水素化活性成分原料を担持する細孔充填法が例として挙げられる。なお、アルミナ成形体に、上記複数の水素化活性成分原料を含浸させる方法としては、これら各成分を同時に含浸させる一括含浸法でもよく、個別に含浸させる逐次含浸法でもよい。
【0056】
水素化活性成分原料を、アルミナ成形体に担持させる具体的方法としては、以下の方法が挙げられる。
まず、水素化活性成分原料を含む含浸用溶液を調製する。調製時、これらの水素化活性成分原料の溶解を促進するために、加温(30~100℃)や、硝酸、リン酸等の無機酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸等の有機酸の添加を行ってもよい。すなわち、本実施形態においては、前記アルミナ成形体に含有するリンとは別に、水素化活性成分原料等を、アルミナ成形体に担持させる際に、別途リンを担持してもよい。
【0057】
水素化活性成分原料等を、アルミナ成形体に担持させる際に、別途添加するリン化合物としては、モリブドリン酸等のリンを含む水素化活性成分原料、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸が挙げられ、オルトリン酸が好ましい。水素化活性成分原料を、アルミナ成形体に担持させる際に、別途リンを担持させると、得られるシリコン捕集水素化処理触媒中の水素化活性成分の分散性を向上させることができる。
【0058】
続いて、調製した含浸用溶液を、アルミナ成形体に、均一になるよう徐々に添加して含浸する。含浸時間は1分間~5時間であることが好ましく、5分間~3時間であることがより好ましい。含浸温度は5~100℃であることが好ましく、10~80℃であることがより好ましい。含浸雰囲気は特に限定されないが、大気中、窒素中、真空中がそれぞれ適している。
【0059】
水素化活性成分原料等を担持後、まず含浸体を窒素気流中、空気気流中、又は真空中で、15~80℃で水分をある程度(LOI《Loss on ignition》が50%以下となるように)除去することが好ましい。その後、乾燥炉にて、空気気流中、80~150℃で、10分間~10時間乾燥することが好ましい。次いで、焼成炉にて、空気気流中、焼成を行うことが好ましい。焼成温度は、300~700℃であることが好ましく、500~650℃であることがより好ましい。焼成時間は、10分間~10時間であることが好ましく、3時間以上であることがより好ましい。
【0060】
≪重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油のシリコンの捕集方法≫
本実施形態の重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油のシリコンの捕集方法(以下、「シリコンの捕集方法」ともいう。)は、重質コーカー分解炭化水素油を含むシリコン濃度0.1~15.0質量ppmの原料油を、温度300~410℃、圧力10~20MPa、水素/油比170~1400m3/m3、及び液空間速度0.1~2.0h-1で本発明のシリコン捕集剤及び水素化処理触媒に順次接触させる。
【0061】
≪重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油の水素化処理方法≫
本実施形態の重質コーカー分解炭化水素油を含有する原料油の水素化処理方法(以下、「水素化処理方法」ともいう。)は、重質コーカー分解炭化水素油を含むシリコン濃度0.1~15.0質量ppmの原料油を、温度300~410℃、圧力10~20MPa、水素/油比170~1400m3/m3、及び液空間速度0.1~2.0h-1で本発明のシリコン捕集剤及び水素化処理触媒に順次接触させる。
本実施形態の水素化処理方法によると、水素化生成油を製造することができる。
【0062】
以下、シリコンの捕集方法及び水素化処理方法について具体的に説明を行う。
【0063】
<原料油>
原料油は、重質コーカー分解炭化水素油を含む。原料油の総容積に対する、重質コーカー分解炭化水素油の含有量は、50容量%以上であることが好ましく、70容量%以上であることがより好ましく、90容量%以上であることがさらに好ましく、100容量%でもよい。原料油に含まれる重質コーカー分解炭化水素油以外の留分としては、例えば、流動接触分解装置から得られる重質サイクル油、間接水素化脱硫装置から得られる減圧軽油等が挙げられる。
【0064】
原料油の15℃における密度は、0.91~1.00g/mLであることが好ましく、0.915~0.99g/mLであることがより好ましく、0.92~0.985g/mLであることがさらに好ましい。
【0065】
原料油の総質量に対する硫黄分は、通常1.5~5.5質量%であり、2.0~5.0質量%であってもよく、2.5~4.5質量%であってもよい。
原料油の総質量に対する窒素分は、通常0.01~0.60質量%であり、0.03~0.45質量%であってもよく、0.05~0.25質量%であってもよい。
原料油の総質量に対するシリコン(元素換算)は、通常0.1~15.0質量ppmであり、0.1~13.0質量ppmであってもよく、0.1~10.0質量ppmであってもよい。
原料油の総質量に対するニッケル分(元素換算)は、通常0.1~1.5質量ppmであり、0.1~1.0質量ppmであってもよく、0.1~0.5質量ppmであってもよい。
原料油の総質量に対するバナジウム分(元素換算)は、通常0.1~1.5質量ppmであり、0.1~1.0質量ppmであってもよく、0.1~0.5質量ppmであってもよい。
【0066】
原料油に含まれるケイ素化合物は、コーカー装置で使用されるケイ素系の泡消剤が分解して生成したケイ素化合物であることが知られている。このようなケイ素化合物として、環状のシクロポリシロキサンのケイ素原子に結合する水素原子が全てメチル基で置換された化合物(以下、「環状ケイ素化合物」ともいう。)が知られている。本願の発明者らは、上述の特許文献1に記載のコーカー分解ナフサ留分、及び本実施形態の重質コーカー分解炭化水素油に含まれる、ケイ素原子数が3~9個の環状ケイ素化合物の合計質量に対する、各ケイ素原子数(3~9個)の環状ケイ素化合物の含有量をガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により調べた。その結果、コーカー分解ナフサ留分ではケイ素原子数が3個及び4個の環状ケイ素化合物の合計含有量が100質量%であり、ケイ素原子数が5個~9個の環状ケイ素化合物は検出されなかった。一方、重質コーカー分解炭化水素油ではケイ素原子数が3個及び4個の環状ケイ素化合物の合計含有量は17質量%程度であり、ケイ素原子数が5個~9個の環状ケイ素化合物の合計含有量が83質量%程度であった。また、ケイ素原子数が10個以上の環状ケイ素化合物が含まれている可能性も考えられた。原料油に含まれるケイ素原子数が3~9個の環状ケイ素化合物の合計質量に対する、ケイ素原子数が7個~9個の環状ケイ素化合物の合計含有量は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。本発明のシリコン捕集剤は、このような組成の環状ケイ素化合物を含む原料油に特に好適に採用される。
【0067】
原料油の10容量%留出温度は、230~440℃であることが好ましく、250~420℃であることがより好ましく、270~400℃であることがさらに好ましい。
原料油の50容量%留出温度は、270~520℃であることが好ましく、290~500℃であることがより好ましく、310~480℃であることがさらに好ましい。
直留軽油の90容量%留出温度は、410~600℃であることが好ましく、415~580℃であることがより好ましく、420~560℃であることがさらに好ましい。
【0068】
<水素化処理触媒>
シリコン捕集剤層の後段に充填される水素化処理触媒としては、本分野で公知の重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油の水素化処理触媒を用いることができる。
例えば、アルミナを含有する多孔質無機酸化物担体に上述の水素化活性成分を担持した触媒を用いることができる。水素化活性成分の種類、含有量の好ましい範囲などは上述のシリコン捕集水素化処理触媒の場合と同様である。また、上述したようにシリコン捕集水素化処理触媒も水素化処理活性を有する。また、特開2019-178251号公報、特開2004-074075号公報に記載の水素化処理触媒を用いてもよい。
【0069】
<シリコン捕集条件、水素化処理条件>
反応器中のシリコン捕集剤層及び水素化処理触媒層の平均温度は、300~410℃であり、310~410℃であることが好ましく、320~410℃であることがより好ましい。温度が前記範囲の下限値以上であると、原料油の水素化処理が進行しやすくなる。また、シリコン捕集剤のシリコン捕集能が向上する。温度が前記範囲の上限値以下であると、水素化処理触媒中の水素化活性成分のシンタリングが抑制される。
【0070】
圧力(水素分圧)は、10~20MPaであり、13~18MPaであることが好ましく、14~17Mpaであることがより好ましい。圧力が前記範囲の下限値以上であると、重質コーカー分解炭化水素油による水素化処理触媒の性能低下を抑制できる。圧力の上限値は実質的に限定されないが、装置設計上の問題から通常、20MPa以下となる。
【0071】
水素/油比は、170~1400m3/m3であり、300~1375m3/m3であることが好ましく、350~1350m3/m3であることがより好ましい。
【0072】
シリコン捕集剤層及び水素化処理触媒層の合計の体積に対する原料油の液空間速度は、0.1~2.0hr-1であり、0.3~1.5hr-1であることが好ましく、0.5~1.2hr-1であることがより好ましい。液空間速度が前記範囲の下限値以上であると、単位時間あたりの原料油の処理量が向上する。液空間速度が前記範囲の上限値以下であると、水素化処理が進行しやすくなる。
【0073】
<シリコン捕集剤の充填位置、充填量>
本実施形態においては、反応器中、シリコン捕集剤、水素化処理触媒の順番で充填されている。シリコン捕集剤は、反応器中に後述の脱スケール触媒が充填されていない場合は、反応器の最も入り口側に充填されていることが好ましい。具体的には、シリコン捕集剤の充填位置は、反応器に充填された触媒層全体積(本発明のシリコン捕集剤及び後述の脱スケール触媒も含む。体積は充填体積である。)に対して触媒層の入り口から0~35体積%の位置であることが好ましく、0~30体積%の位置であることがより好ましく、0~25体積%の位置であることが特に好ましい。この場合、シリコン捕集剤が原料油中のケイ素化合物を捕集することにより、後段に充填されている水素化処理触媒のケイ素化合物による被毒を抑制することができる。なお、シリコン捕集剤のさらに前段には、原料油中のスケールを除去するための脱スケール触媒が充填されていても良い。この場合の脱スケール触媒の充填量は触媒層全体積(本発明のシリコン捕集剤及び後述の脱スケール触媒も含む。体積は充填体積である。)に対して5体積%以下であることが好ましい。
シリコン捕集剤の充填量は、触媒層全体積(本発明のシリコン捕集剤及び後述の脱スケール触媒も含む。体積は充填体積である。)に対して5~35体積%であることが好ましく、5~30体積%であることが好ましく、5~25体積%であることが好ましい。
水素化処理触媒の充填量は、触媒層全体積(本発明のシリコン捕集剤及び後述の脱スケール触媒も含む。体積は充填体積である。)に対して65~95体積%であることが好ましく、70~95体積%であることが好ましく、75~95体積%であることが好ましい。
反応器に充填されている、シリコン捕集剤、水素化処理触媒は、それぞれ1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0074】
<水素化生成油>
本実施形態の水素化処理方法により製造される水素化生成油の総質量に対する硫黄分は通常0.1質量%以下である。
水素化生成油の総質量に対するシリコン濃度(元素換算)は、通常0.3質量ppm未満である。
水素化生成油の総質量に対するニッケル分(元素換算)は、通常0.1質量ppm未満である。
水素化生成油の総質量に対するバナジウム分(元素換算)は、通常0.1質量ppm未満である。
【0075】
水素化処理触媒は、使用前に(すなわち、本実施形態の水素化処理方法を行うのに先立って)、反応装置中で硫化処理して活性化してもよい。この硫化処理は、一般に、200~400℃、好ましくは250~350℃、常圧あるいはそれ以上の水素分圧の水素雰囲気下で、硫黄化合物を含む石油蒸留物、それにジメチルジスルファイドや二硫化炭素等の硫化剤を加えたもの、あるいは硫化水素を水素化処理触媒に流通させて行うことができる。
【0076】
本実施形態のシリコンの捕集方法によると、シリコン捕集剤層の後段に充填されている水素化処理触媒のケイ素化合物による被毒を抑制することができる。その結果、水素化処理が充分に進行し、かつ長期間にわたり重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油中の硫黄化合物を低減させることが可能となる。
【0077】
シリコンの捕集方法及び水素化処理方法を商業規模で行うには、本実施形態のシリコン捕集剤、水素化処理触媒の固定床の触媒層を反応装置内に形成し、この反応装置内に原料油を導入し、上記の条件下でシリコンの捕集及び水素化処理を行えばよい。
【0078】
水素化処理方法は、シリコン捕集剤、水素化処理触媒を、単独の反応装置に充填して行う一段のシリコン捕集方法及び水素化処理方法であってもよいし、複数の反応装置に充填して行う多段連続シリコン捕集方法及び多段連続水素化処理方法であってもよい。
【0079】
<作用機序>
上述した通り、コーカー分解ナフサ留分の水素化処理におけるシリコン捕集については広範な研究が行われている。これらの研究によると、ケイ素化合物は、水素化処理触媒中のアルミナ表面の水酸基と反応することにより、アルミナ表面に化学吸着すると考えられている。したがって、アルミナ表面の水酸基量を増加させることがシリコン捕集能を向上させる上で重要であると考えられている。例えば、上述の特許文献1では、コーカー分解ナフサ留分と共に0.01~10体積%の水を水素化処理触媒に供給することにより、水素化処理触媒表面の水酸基の数を増加させている。また、水素化処理触媒の比表面積を大きくすることも水素化処理触媒表面の水酸基の数を増加させるのに有効であると考えられている。
一方、後述の実施例、比較例で示す通り、重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油の水素化処理におけるシリコン捕集では、比表面積が大きいシリコン捕集剤は、むしろシリコン捕集能が低いという傾向が確認されている(比表面積が最も大きい比較例1、2のシリコン捕集剤が最もシリコン捕集能が低いという結果が確認されている)。これは、上述のコーカー分解ナフサ留分の水素化処理におけるシリコン捕集とは全く逆の結果と考えられる。この結果の理由は、以下のように考えられる。
上述したように、コーカー分解ナフサ留分に含まれるケイ素化合物は分子量(分子サイズ)の小さいケイ素化合物であるのに対し、重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油に含まれるケイ素化合物は分子量(分子サイズ)の大きいケイ素化合物である。分子サイズの小さいケイ素化合物の場合、一般的な水素化処理触媒の細孔に充分拡散可能であるため、シリコン捕集能は、ケイ素化合物の吸着点である水酸基の数(比表面積)に依存することとなる。一方、分子サイズの大きいケイ素化合物の場合、細孔への拡散性が低下し、細孔内部までケイ素化合物が侵入することが困難になりやすい。その結果、ケイ素化合物の吸着点である水酸基が効率的に活用されず、シリコン捕集能は、ケイ素化合物の拡散性に依存することになると考えられる。本発明においては、シリコン捕集剤の平均細孔径を一定以上とすることによって、分子サイズの大きいケイ素化合物の細孔への拡散性が向上し、吸着点である水酸基が効率的に使用されたことにより、シリコン捕集能が向上したと考えられる。すなわち、分子サイズの大きいケイ素化合物の場合、単に比表面積を大きくするだけではシリコン捕集能は向上せず、ケイ素化合物の分子サイズに応じた平均細孔径を有していることがシリコン捕集能の向上にとって重要であると考えられる。
【実施例0080】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
<シリコン捕集剤の物性及び組成の分析方法>
〔1〕物性の分析(比表面積、細孔容積、平均細孔径、及び細孔分布)
(a)測定方法及び使用機器:
比表面積は、窒素吸着によるBET法により測定した。窒素吸着装置は、マイクロトラック・ベル(株)製の表面積測定装置(BELSORP-mini II)を使用した。
細孔容積、平均細孔径、及び細孔分布は、水銀圧入法により測定した。水銀圧入装置は、ポロシメーター(AutoPore IV:Micromeritics社製)を使用した。
【0082】
(b)水銀圧入法の測定原理:
水銀圧入法は、毛細管現象の法則に基づく。水銀と円筒細孔の場合には、この法則は次式で表される。すなわち、掛けた圧力Pの関数としての細孔への進入水銀体積を測定する。なお、触媒の細孔水銀の表面張力は484dyne/cmとし、接触角は130°とした。
D=-(1/P)4γcosθ
式中、Dは細孔径、Pは掛けた圧力、γは表面張力、θは接触角である。
細孔容積は、シリコン捕集剤1g当たりの細孔へ進入した全水銀体積量である。平均細孔径は、Pの関数として算出されたDの平均値である。
細孔分布は、Pを関数として算出されたDの分布である。
【0083】
(c)測定手順:
(1)真空加熱脱気装置の電源を入れ、温度400℃、真空度5×10-2Torr以下になることを確認する。
(2)サンプルビュレットを空のまま真空加熱脱気装置に掛ける。
(3)真空度が5×10-2Torr以下となったことを確認し、サンプルビュレットを、そのコックを閉じて真空加熱脱気装置から取り外し、冷却後、重量を測定する。
(4)サンプルビュレットに試料(シリコン捕集剤)を入れる。
(5)試料入りサンプルビュレットを真空加熱脱気装置に掛け、真空度が5×10-2Torr以下になってから1時間以上保持する。
(6)試料入りサンプルビュレットを真空加熱脱気装置から取り外し、冷却後、重量を測定し、試料重量を求める。
(7)AutoPore IV用セルに試料を入れる。
(8)AutoPore IVにより測定する。
【0084】
〔2〕組成の分析
シリコン捕集剤中の各元素の含有量が、原料の仕込み量に基づいた割合となっていることを、以下の方法により確認した。また、後述の水素化処理後に抜き出したシリコン捕集剤中のシリコン含有量も以下の方法により確認した。
(a)分析方法及び使用機器:
シリコン捕集剤の元素分析は、誘導結合プラズマ発光分析装置(iCAP 6000:Thermo Scientific社製)を用いて行った。
元素の定量は、絶対検量線法にて行った。
【0085】
(b)測定手順:
(1)ユニシールに、シリコン捕集剤0.05g、塩酸(50質量%)1mL、フッ酸一滴、及び純水1mLを投入し、加熱して溶解させた。
(2)溶解後、ポリプロピレン製メスフラスコ(50mL)に移し換え、純水を加えて、50mLに秤量した。
(3)この溶液を上記誘導結合プラズマ発光分析装置により測定した。
【0086】
<原料油のシリコン捕集方法(原料油の水素化処理方法)>
以下の要領にて、重質コーカー分解炭化水素油を93容量%含む表1に記載の性状の原料油の水素化処理を行った。なお、表1中、「平均」とは全反応期間における平均の原料油の性状を示し、「最大値」とは全反応期間における原料油の最大の性状を示し、「最小値」とは、全反応期間における原料油の最小の性状を示す。また、T10は10容量%留出温度を表し、T50は50容量%留出温度を表し、T90は90容量%留出温度を表す。
【0087】
高圧流通式反応器に反応器入り口側から、シリコン捕集剤(シリコン捕集水素化処理触媒を含む)、水素化処理触媒の順で充填した。水素化処理触媒としては、アルミナにモリブデン、ニッケル、コバルトが担持された水素化処理触媒を用いた。シリコン捕集剤:水素化処理触媒の体積比は、25:75とした。そして、以下の条件で前処理を行った。次に、重質コーカー分解炭化水素油を含む原料油と水素含有ガスの混合流体を、反応器の上部(反応器の入り口)より導入して、表2に示す反応条件で水素化処理を行い、生成油とガスの混合流体を、反応器の下部(反応器の出口)より流出させ、気液分離器で生成油を分離した。なお、表2中、「液空間速度」とは、シリコン捕集剤層と水素化処理触媒層の合計の体積に対する原料油の液空間速度を意味する。また、「平均」とは全反応期間における平均の反応条件を示し、「最大値」とは全反応期間における最大の反応条件を示し、「最小値」とは、全反応期間における最小の反応条件を示す。温度とは、シリコン捕集剤層と水素化処理触媒層の全層における平均温度である。温度は、水素化生成油の総質量に対する硫黄分が0.1質量%になるように調整した。
【0088】
触媒の前処理条件:120℃で3時間常圧乾燥した。
触媒の予備硫化は減圧軽油により、水素分圧10.3MPa、370℃において12時間行った。その後、活性評価用の原料油に切り替えた。
【0089】
【0090】
【0091】
[実施例1]
(アルミナ成形体の製造)
5質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液10kgを60℃に加熱した後、25質量%の硫酸アルミニウム水溶液2.8kgをゆっくり加え、最終的に溶液のpHを7とした。この時、溶液の温度は60℃を保持した。以上の操作により生成したアルミナスラリーを濾過し、濾別されたアルミナゲルを0.3質量%のアンモニア水溶液で繰り返し洗浄した。洗浄後のアルミナゲルに水5kgを加え、さらに10質量%のアンモニア水溶液を加えてそのゲルの水分散液をpH11に調整した。次に、ゲルの水分散液を90℃に加熱し、撹拌、還流しながら40時間熟成した。その後、5Nの硝酸水溶液を加えてpH2に調整し、15分間撹拌した。さらに、10質量%のアンモニア水溶液を加えてpH11に調整した。得られたゲルの水分散液を濾過した後、室温で加水して成形し易い粘度になるように水分調整を行った。水分調整後のアルミナゲルの水含有量は、70質量%であった。続いて、シリカ粒子を添加し、ニーダーで均一になるように混練した。混練して得られたケーキを押出し成形器に投入し、長径1.3mm、短径1.1mmの四つ葉型形状の押し出し成形品とした。この成形品を、110℃で10時間乾燥し、表3に記載のシリコン捕集剤Aの物性となるよう焼成温度及び焼成時間を調整して焼成し、シリカを含むアルミナ成形体Aを得た。なお、シリカ粒子の添加量は、表3の組成となるようにした。
【0092】
(水素化活性成分の担持)
イオン交換水100gにパラモリブデン酸アンモニウム、硝酸ニッケルを溶解させたモリブデン・ニッケル水溶液を調製した。なお、パラモリブデン酸アンモニウム、硝酸ニッケルの量は、表3に記載の組成に応じて設定した。ナス型フラスコ内で、モリブデン・ニッケル水溶液をアルミナ成形体Aに含浸し、含浸体を得た。含浸体を乾燥させ、その後空気雰囲気下、550℃で3時間焼成することによりシリコン捕集剤Aを得た。シリコン捕集剤A中の各元素の酸化物換算の含有量、並びにシリコン捕集剤Aの比表面積、細孔容積、平均細孔径、及び全細孔容積に対する平均細孔径±1.5nmの細孔径を有する細孔の容積の割合を表3に示す(以下、シリコン捕集剤B~Hも同様に示す)。なお、表3中の「細孔分布」は、「全細孔容積に対する平均細孔径±1.5nmの細孔径を有する細孔の容積の割合」を意味する。
【0093】
シリコン捕集剤Aを用いて、原料油の水素化処理を1000日間行った。その後、反応器からシリコン捕集剤Aを抜き出し、上述の方法でケイ素含有量を測定し、シリコン捕集剤Aに元々含まれていたシリカに由来するケイ素含有量を減じることにより、抜き出したシリコン捕集剤A中のシリコン堆積量(元素換算)を算出した。結果を表3に示す(以下、実施例2~6、比較例1、2も同様)。
【0094】
[実施例2]
(アルミナ成形体の製造)
5質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液10kgを60℃に加熱した後、25質量%の硫酸アルミニウム水溶液2.8kgをゆっくり加え、最終的に溶液のpHを7とした。この時、溶液の温度は60℃を保持した。以上の操作により生成したアルミナスラリーを濾過し、濾別されたアルミナゲルを0.3質量%のアンモニア水溶液で繰り返し洗浄した。洗浄後のアルミナゲルに水5kgを加え、さらに10質量%のアンモニア水溶液を加えてそのゲルの水分散液をpH11に調整した。次に、ゲルの水分散液を90℃に加熱し、撹拌、還流しながら40時間熟成した。その後、5Nの硝酸水溶液を加えてpH2に調整し、15分間撹拌した。さらに、10質量%のアンモニア水溶液を加えてpH11に調整した。得られたゲルの水分散液を濾過した後、室温で加水して成形し易い粘度になるように水分調整を行った。水分調整後のアルミナゲルの水含有量は、70質量%であった。続いて、シリカ粒子、酸化亜鉛粒子、リン酸を添加し、ニーダーで均一になるように混練した。混練して得られたケーキを押出し成形器に投入し、長径1.3mm、短径1.1mmの四つ葉型形状の押し出し成形品とした。この成形品を、110℃で10時間乾燥し、表3に記載のシリコン捕集剤Bの物性となるよう焼成温度及び焼成時間を調整して焼成し、シリカ、酸化亜鉛、及びリン酸を含むアルミナ成形体Bを得た。なお、シリカ粒子、酸化亜鉛粒子、リン酸の添加量は、表3の組成となるようにした。
【0095】
(水素化活性成分の担持)
アルミナ成形体Aに代えてアルミナ成形体Bを使用し、表3に記載の組成になるようにパラモリブデン酸アンモニウム、硝酸ニッケルの量を調整した以外は、実施例1と同様に水素化活性成分を担持し、シリコン捕集剤Bを得た。
【0096】
シリコン捕集剤Bを用いて、原料油の水素化処理を1000日間行った。その後、反応器からシリコン捕集剤Bを抜き出し、上述の方法でケイ素含有量を測定し、シリコン捕集剤Bに元々含まれていたシリカに由来するケイ素含有量を減じることにより、抜き出したシリコン捕集剤B中のシリコン堆積量(元素換算)を算出した。
【0097】
[実施例3]
(アルミナ成形体の製造)
表3に記載の組成になるようにシリカ粒子、酸化亜鉛粒子、リン酸の添加量を調整し、アルミナ成形品の焼成温度および焼成時間を変更した以外は実施例2と同様にしてアルミナ成形体Cを得た。
【0098】
(水素化活性成分の担持)
アルミナ成形体Aに代えてアルミナ成形体Cを使用し、表3に記載の組成になるようにパラモリブデン酸アンモニウム、硝酸ニッケルの量を調整した以外は、実施例1と同様に水素化活性成分を担持し、シリコン捕集剤Cを得た。
【0099】
シリコン捕集剤Cを用いて、原料油の水素化処理を1000日間行った。その後、反応器からシリコン捕集剤Cを抜き出し、上述の方法でケイ素含有量を測定し、シリコン捕集剤Cに元々含まれていたシリカに由来するケイ素含有量を減じることにより、抜き出したシリコン捕集剤C中のシリコン堆積量(元素換算)を算出した。
【0100】
[実施例4]
(アルミナ成形体の製造)
表3に記載の組成になるようにシリカ粒子、酸化亜鉛粒子、リン酸の添加量を調整し、アルミナ成形品の焼成温度および焼成時間を変更した以外は実施例2と同様にしてアルミナ成形体Dを得た。
【0101】
(水素化活性成分の担持)
アルミナ成形体Aに代えてアルミナ成形体Dを使用し、表3に記載の組成になるようにパラモリブデン酸アンモニウム、硝酸ニッケルの量を調整した以外は、実施例1と同様に水素化活性成分を担持し、シリコン捕集剤Dを得た。
【0102】
シリコン捕集剤Dを用いて、原料油の水素化処理を1000日間行った。その後、反応器からシリコン捕集剤Dを抜き出し、上述の方法でケイ素含有量を測定し、シリコン捕集剤Dに元々含まれていたシリカに由来するケイ素含有量を減じることにより、抜き出したシリコン捕集剤D中のシリコン堆積量(元素換算)を算出した。
【0103】
[実施例5]
(アルミナ成形体の製造)
表3に記載の組成になるようにシリカ粒子の添加量を調整し、アルミナ成形品の焼成温度および焼成時間を変更した以外は実施例1と同様にしてアルミナ成形体Eを得た。
【0104】
(水素化活性成分の担持)
アルミナ成形体Aに代えてアルミナ成形体Eを使用し、表3に記載の組成になるようにパラモリブデン酸アンモニウム、硝酸ニッケルの量を調整した以外は、実施例1と同様に水素化活性成分を担持し、シリコン捕集剤Eを得た。
【0105】
シリコン捕集剤Eを用いて、原料油の水素化処理を1000日間行った。その後、反応器からシリコン捕集剤Eを抜き出し、上述の方法でケイ素含有量を測定し、シリコン捕集剤Eに元々含まれていたシリカに由来するケイ素含有量を減じることにより、抜き出したシリコン捕集剤E中のシリコン堆積量(元素換算)を算出した。
【0106】
[実施例6]
(アルミナ成形体の製造)
表3に記載の組成になるようにシリカ粒子の添加量を調整し、アルミナ成形品の焼成温度および焼成時間を変更した以外は実施例1と同様にしてアルミナ成形体Fを得た。
【0107】
(水素化活性成分の担持)
アルミナ成形体Aに代えてアルミナ成形体Fを使用し、表3に記載の組成になるようにパラモリブデン酸アンモニウム、硝酸ニッケルの量を調整した以外は、実施例1と同様に水素化活性成分を担持し、シリコン捕集剤Fを得た。
【0108】
シリコン捕集剤Fを用いて、原料油の水素化処理を1000日間行った。その後、反応器からシリコン捕集剤Fを抜き出し、上述の方法でケイ素含有量を測定し、シリコン捕集剤Fに元々含まれていたシリカに由来するケイ素含有量を減じることにより、抜き出したシリコン捕集剤F中のシリコン堆積量(元素換算)を算出した。
【0109】
[比較例1]
(アルミナ成形体の製造)
表3に記載の組成になるようにシリカ粒子の添加量を調整し、アルミナ成形品の焼成温度および焼成時間を変更した以外は実施例1と同様にしてアルミナ成形体Gを得た。
【0110】
(水素化活性成分の担持)
アルミナ成形体Aに代えてアルミナ成形体Gを使用し、表3に記載の組成になるようにパラモリブデン酸アンモニウム、硝酸ニッケルの量を調整した以外は、実施例1と同様に水素化活性成分を担持し、シリコン捕集剤Gを得た。
【0111】
シリコン捕集剤Gを用いて、原料油の水素化処理を1000日間行った。その後、反応器からシリコン捕集剤Gを抜き出し、上述の方法でケイ素含有量を測定し、シリコン捕集剤Gに元々含まれていたシリカに由来するケイ素含有量を減じることにより、抜き出したシリコン捕集剤G中のシリコン堆積量(元素換算)を算出した。
【0112】
[比較例2]
(アルミナ成形体の製造)
表3に記載の組成になるようにシリカ粒子の添加量を調整し、アルミナ成形品の焼成温度および焼成時間を変更した以外は実施例1と同様にしてアルミナ成形体Hを得た。アルミナ成形体Hをシリコン捕集剤Hとした。
【0113】
シリコン捕集剤Hを用いて、原料油の水素化処理を1000日間行った。その後、反応器からシリコン捕集剤Hを抜き出し、上述の方法でケイ素含有量を測定し、シリコン捕集剤Hに元々含まれていたシリカに由来するケイ素含有量を減じることにより、抜き出したシリコン捕集剤H中のシリコン堆積量(元素換算)を算出した。
【0114】
【0115】
本発明の実施例1~6のシリコン捕集剤は、平均細孔径が7nm未満で細孔容積が0.55mL/g未満の比較例1のシリコン捕集剤及び平均細孔径が7nm未満の比較例2のシリコン捕集剤と比較して、シリコン捕集剤のシリコン堆積量が多く、シリコン捕集能に優れることがわかった。
【0116】
図1に実施例1~6、比較例1、2のシリコン捕集剤の平均細孔径と、シリコン捕集剤のシリコン堆積量との関係を示す。
図1に示されるように平均細孔径と、シリコン堆積量の間には相関関係があることがわかった。平均細孔径が10nm前後の実施例1、2のシリコン捕集剤が特にシリコン捕集能に優れることがわかった。また、実施例1~6、比較例1のシリコン捕集剤は水素化活性成分を含み、比較例2のシリコン捕集剤は水素化活性成分を含まないが、
図1に示されるように実施例1~6、比較例1、2の全てのシリコン捕集剤には、平均細孔径と、シリコン堆積量の相関がある。すなわち、水素化活性成分の有無によりシリコン捕集能は影響を受けず(もしくはほとんど影響を受けず)、シリコン捕集剤の細孔構造が重要であると考えられた。