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特開2023-145876多加水パン用冷凍生地及び多加水パン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145876
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】多加水パン用冷凍生地及び多加水パン
(51)【国際特許分類】
   A21D 8/02 20060101AFI20231004BHJP
   A21D 2/08 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
A21D8/02
A21D2/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052761
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧 志之和
(72)【発明者】
【氏名】勝見 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】松下 耕基
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK15
4B032DK18
4B032DK22
4B032DK24
4B032DK54
4B032DP08
4B032DP33
4B032DP38
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】長期間冷凍保存しても、解凍時の離水発生が無く、且つ、解凍後に加熱調理して得られるパンのボリュームが大きい多加水パン用冷凍生地、該生地を用いたパン及びそれらの製造方法を提供すること。
【解決手段】多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対して、水分を80~110重量部含む多加水パン用冷凍生地であって、穀粉80~100重量部に加え、前記穀粉以外で1次ミキシング時に添加する材料として、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対し、冷凍耐性を有するパン酵母を0.1~5重量部(乾燥重量)、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(乾燥重量)を1~5重量部、グルテンを0.5~3.5重量部、アスコルビン酸を0.005~0.02重量部、添加水を75~110重量部含む1次ミキシング用材料混合物が、低速で2~8分間、中速及び/又は高速で2~30分間の条件で1次ミキシングされ、1次ミキシング後の材料混合物に、穀粉20~0重量部、前記穀粉以外で2次ミキシング時に添加する材料として食塩1~2.5重量部、及び、添加水0~30重量部を加えられた2次ミキシング用材料混合物が、低速で2~8分間、中速及び/又は高速で1~20分間の条件で2次ミキシングされ、2次ミキシング後の材料混合物が5~35℃で、2~60分間発酵され、-45~-10℃で60~150日間冷凍保存された、多加水パン用冷凍生地。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対して、水分を80~110重量部含む多加水パン用冷凍生地であって、
穀粉80~100重量部に加え、前記穀粉以外で1次ミキシング時に添加する材料として、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対し、冷凍耐性を有するパン酵母を0.1~5重量部(乾燥重量)、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(乾燥重量)を1~5重量部、グルテンを0.5~3.5重量部、アスコルビン酸を0.005~0.02重量部、添加水を75~110重量部含む1次ミキシング用材料混合物が、低速で2~8分間、中速及び/又は高速で2~30分間の条件で1次ミキシングされ、
1次ミキシング後の材料混合物に、穀粉20~0重量部、前記穀粉以外で2次ミキシング時に添加する材料として食塩1~2.5重量部、及び、添加水0~30重量部を加えられた2次ミキシング用材料混合物が、低速で2~8分間、中速及び/又は高速で1~20分間の条件で2次ミキシングされ、
2次ミキシング後の材料混合物が5~35℃で、2~60分間発酵され、-45~-10℃で60~150日間冷凍保存された、多加水パン用冷凍生地。
【請求項2】
冷凍保存期間が60日以上の多加水パン用冷凍生地を解凍後、最終発酵してから加熱調理されたパンであって、
冷凍保存期間が30日以内の多加水パン用冷凍生地を加熱調理して得たパンの比容積に対する、冷凍保存期間が150日の多加水パン用冷凍生地を加熱調理して得たパンの比容積が80~120%であり、水分含量が39~52重量%である、多加水パン。
【請求項3】
多加水パン用冷凍生地が、請求項1に記載の多加水パン用冷凍生地である、請求項2に記載の多加水パン。
【請求項4】
多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対して、水分を80~110重量部含む多加水パン用冷凍生地の製造方法であって、
1次ミキシング時に添加する穀粉量は80~100重量部であり、2次ミキシング時に添加する穀粉量が20~0重量部であり、且つそれらの合計穀粉量が100重量部であり、
前記穀粉以外で1次ミキシング時に添加する材料として、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対し、冷凍耐性を有するパン酵母を0.1~5重量部(乾燥重量)、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を1~5重量部(乾燥重量)、グルテンを0.5~3.5重量部、アスコルビン酸を0.005~0.02重量部、添加水を75~110重量部含む1次ミキシング用材料混合物を、
低速で2~8分間、中速及び/又は高速で2~30分間の条件で1次ミキシングする工程と、
1次ミキシング後の材料混合物に、前記穀粉以外で2次ミキシング時に添加する材料として食塩1~2.5重量部、及び、添加水0~30重量部を加えた2次ミキシング用材料混合物を、低速で2~8分間、中速及び/又は高速で1~20分間の条件で2次ミキシングする工程と、
2次ミキシング後の材料混合物を5~35℃で、2~60分間発酵する工程と、
前記発酵後の生地を分割する工程と、
前記分割後の生地を成形する工程と、
前記成形後の生地を-45~-10℃で冷凍する工程、
を含む多加水パン用冷凍生地の製造方法。
【請求項5】
前記1次ミキシング用材料混合物における二糖アルコールの含有量が、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対して、1~2.5重量部(乾燥重量)である、請求項4に記載の多加水パン用冷凍生地の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の多加水パン用冷凍生地を5~40℃で、30~360分間解凍後、25~40℃で、10~90分間最終発酵してから加熱調理を行う多加水パンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分含量が通常のパン生地よりもかなり多い多加水パン用の冷凍生地、多加水パン及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誰でも簡単に、タイムリーに焼きたてのパンを提供するための技術として、冷凍保存されたパン生地を、販売前に解凍、焼成してパンを提供する冷凍生地製法がある。この方法を用いると、販売店で製パン技術者を必要とせず、店頭で冷凍庫から冷凍パン生地を取り出し、オーブンで焼成するだけで焼きたてのパンを提供することが可能になる。
【0003】
そのため、近年、消費者のグルメ嗜好の高まりもあり、該製法が広がりつつあるが、該冷凍パン生地を焼成して得られるパンは、冷凍保存期間が長くなるほどボリュームが小さくなると言った問題がある。特に、最近は小麦粉100重量部に対して70~110重量部程度の大量の水を添加するパン生地が焼成されて作製される「多加水パン」がベーカリーで流行しているが、多加水パンでは加水量が多い故に、冷凍保存によるボリュームの低下がより大きく、それに加えて解凍時に離水が発生するという問題もある。
【0004】
そこでこれらの問題を解決するために、例えば、特許文献1には、良好な食感とボリューム感を有するパンを得るために、(A)穀物粉に温水を加えて混捏し、生地を調製する工程、(B)穀物粉に水と酵母もしくはパン種、または酵母およびパン種を加えて混捏し、生地を調製する工程、(C)前記(B)の工程で調製した生地を-1℃~7℃で12時間~36時間保存する工程、および、(D)前記(A)の工程で調製した生地と、前記(C)の工程で保存した生地とを混捏する工程を含む、冷凍パン生地の製造方法が開示されている。しかしながら、この製法で得られた冷凍パン生地は、3カ月以上冷凍保存した後に解凍すると生地から離水が発生し、生地表面がべたついて作業性が損なわれる。実施例における添加水の量は、小麦粉100重量部に対して80重量部であり、該冷凍パン生地を加熱調理して得られたパンのボリュームは小さく、形状も扁平状になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-68672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、長期間冷凍保存しても、解凍時の離水発生が無く、且つ、解凍後に加熱調理して得られるパンのボリュームが大きい多加水パン用冷凍生地、該生地を用いたパン及びそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、穀粉、冷凍耐性を有するパン酵母、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、グルテン、アスコルビン酸、及び、添加水をそれぞれ特定量含む材料混合物が特定の条件で1次ミキシングして得られる材料混合物に、穀粉、食塩、及び、添加水をそれぞれ特定量加えて、特定の条件で2次ミキシングして得られる材料混合物が特定の条件で発酵され、冷凍された多加水パン用冷凍生地は、長期間冷凍保存しても、解凍時の離水発生が無く、且つ、解凍後に加熱調理して得られるパンのボリュームが大きいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の第一は、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対して、水分を80~110重量部含む多加水パン用冷凍生地であって、穀粉80~100重量部に加え、前記穀粉以外で1次ミキシング時に添加する材料として、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対し、冷凍耐性を有するパン酵母を0.1~5重量部(乾燥重量)、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(乾燥重量)を1~5重量部、グルテンを0.5~3.5重量部、アスコルビン酸を0.005~0.02重量部、添加水を75~110重量部含む1次ミキシング用材料混合物が、低速で2~8分間、中速及び/又は高速で2~30分間の条件で1次ミキシングされ、1次ミキシング後の材料混合物に、穀粉20~0重量部、前記穀粉以外で2次ミキシング時に添加する材料として食塩1~2.5重量部、及び、添加水0~30重量部を加えられた2次ミキシング用材料混合物が、低速で2~8分間、中速及び/又は高速で1~20分間の条件で2次ミキシングされ、2次ミキシング後の材料混合物が5~35℃で、2~60分間発酵され、-45~-10℃で60~150日間冷凍保存された、多加水パン用冷凍生地に関する。本発明の第二は、冷凍保存期間が60日以上の多加水パン用冷凍生地を解凍後、最終発酵してから加熱調理されたパンであって、冷凍保存期間が30日以内の多加水パン用冷凍生地を加熱調理して得たパンの比容積に対する、冷凍保存期間が150日の多加水パン用冷凍生地を加熱調理して得たパンの比容積が80~120%であり、水分含量が39~52重量%である、多加水パンに関する。好ましい実施態様は、多加水パン用冷凍生地が、前記多加水パン用冷凍生地である、前記多加水パンに関する。本発明の第三は、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対して、水分を80~110重量部含む多加水パン用冷凍生地の製造方法であって、1次ミキシング時に添加する穀粉量は80~100重量部であり、2次ミキシング時に添加する穀粉量が20~0重量部であり、且つそれらの合計穀粉量が100重量部であり、前記穀粉以外で1次ミキシング時に添加する材料として、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対し、冷凍耐性を有するパン酵母を0.1~5重量部(乾燥重量)、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を1~5重量部(乾燥重量)、グルテンを0.5~3.5重量部、アスコルビン酸を0.005~0.02重量部、添加水を75~110重量部含む1次ミキシング用材料混合物を、低速で2~8分間、中速及び/又は高速で2~30分間の条件で1次ミキシングする工程と、1次ミキシング後の材料混合物に、前記穀粉以外で2次ミキシング時に添加する材料として食塩1~2.5重量部、及び、添加水0~30重量部を加えた2次ミキシング用材料混合物を、低速で2~8分間、中速及び/又は高速で1~20分間の条件で2次ミキシングする工程と、2次ミキシング後の材料混合物を5~35℃で、2~60分間発酵する工程と、前記発酵後の生地を分割する工程と、前記分割後の生地を成形する工程と、前記成形後の生地を-45~-10℃で冷凍する工程、
を含む多加水パン用冷凍生地の製造方法に関する。好ましい実施態様は、前記1次ミキシング用材料混合物における二糖アルコールの含有量が、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対して、1~2.5重量部(乾燥重量)である、前記多加水パン用冷凍生地の製造方法に関する。本発明の第四は、前記多加水パン用冷凍生地を5~40℃で、30~360分間解凍後、25~40℃で、10~90分間最終発酵してから加熱調理を行う多加水パンの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従えば、長期間冷凍保存しても、解凍時の離水発生が無く、且つ、解凍後に加熱調理して得られるパンのボリュームが大きい多加水パン用冷凍生地、該生地を用いたパン及びそれらの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明につき、更に詳細に説明する。本発明の多加水パン用冷凍生地は、多加水パン用冷凍生地中の穀粉100重量部に対して、水分含量が80~110重量部であり、通常のパン生地よりもかなり多く含むことが特徴である。尚、前記水分は、生地材料として添加した水と、各原料に含まれる水との合計である。
【0011】
前記多加水パン用冷凍生地は、穀粉、冷凍耐性を有するパン酵母、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、グルテン、アスコルビン酸、及び、添加水をそれぞれ特定量含む材料混合物が特定の条件で1次ミキシングして得られる材料混合物に、穀粉、食塩、及び、添加水をそれぞれ特定量加えて、特定の条件で2次ミキシングして得られる材料混合物が特定の条件で発酵されたパン生地を冷凍したものである。
【0012】
前記穀粉は、穀物を挽いて粉末状にしたものであり、パン類の製造に通常用いられるものであれば、その由来や精製度合いに特に制限なく用いることができる。穀物の由来としては、小麦、大麦、ライ麦、ソバ、コメ、とうもろこし等が例示できる。加熱調理して得られるパンの風味や食感、機械による大量生産性の観点から、小麦粉、大麦粉、ライ麦粉が好ましく、小麦粉がより好ましい。特に、小麦粉を、パン生地に含まれる穀粉全体中70重量%以上含むことが好ましい。小麦粉としては、強力粉、準強力粉、超強力粉、中力粉、薄力粉等を用いることができる。
【0013】
前記穀粉は、1次ミキシング時のみ、又は、1次ミキシング時と2次ミキシング時に分けてそれぞれ添加でき、1次ミキシング時に添加する穀粉量及び2次ミキシング時に添加する穀粉量の合計穀粉量は100重量部とすればよい。1次ミキシング用材料混合物における前記穀粉の添加量は、前記多加水パン用冷凍生地中の穀粉100重量部の内、80~100重量部であることが好ましく、90~100重量部がより好ましく、95~100重量部が更に好ましい。穀粉の添加量が80重量部より少ないとパン生地の成形が不良になって保水性が低下し、解凍時に離水が生じる場合がある。
【0014】
また、2次ミキシング時において、1次ミキシング後の材料混合物への前記穀粉の添加量は、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉全体中、20~0重量部であることが好ましく、10~0重量部がより好ましく、5~0重量部が更に好ましい。穀粉の含有量が20重量部より多いとパン生地の成形が不良になって保水性が低下し、解凍時に離水が生じる場合がある。
【0015】
前記冷凍耐性を有するパン酵母は、一般に冷凍によって傷害を受けにくいパン酵母であり、具体的には、強力粉:100重量部、上白糖:15重量部、食塩:0.5重量部、パン酵母(水分65%湿菌体):6重量部、水:58重量部からなる原料混合物を、3分間ミキシングして生地を得た後、該生地を20g分割し、30℃で60分間前発酵した後、-20℃で4週間冷凍保存した生地を25℃で30分間解凍処理した後、38℃で2時間生地を発酵した時のガス発生量が100ml以上となるパン酵母をいう。冷凍耐性を有するパン酵母としては、(株)カネカ製「カネカイーストGA」、「カネカイーストTG」等が例示できる。
【0016】
1次ミキシング用材料混合物における前記冷凍耐性を有するパン酵母の含有量は、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対して、0.1~5重量部(乾燥重量)であることが好ましく、0.2~4重量部がより好ましく、0.2~3重量部が更に好ましい。パン酵母の含有量が0.1重量部より少ないと、発酵に時間がかかり生産効率が悪い場合がある。また、5重量部より多いと、パン酵母自体の好ましくない風味がパンに付与される場合がある。
【0017】
前記冷凍耐性を有するパン酵母は、1次ミキシング時のみならず、1次ミキシング時及び2次ミキシング時に分けて添加できるが、均一に分散させる観点から、1次ミキシング時にできるだけ多く添加した方が好ましく、全量添加することがより好ましい。
【0018】
前記ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉は、原料澱粉に、アルカリ条件下でトリメタリン酸ナトリウム又はオキシ塩化リンを加えて反応させた後、酸化プロピレンを反応させることで得られる澱粉をいう。前記原料澱粉としては、公知の原料を適宜採用することができ、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、サゴ澱粉、マメ澱粉等が挙げられ、これらのうち1種以上を使用すればよい。解凍時の離水の発生のしにくさやパンの食感の観点から、馬鈴薯澱粉が好ましい。
【0019】
1次ミキシング用材料混合物における前記ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉の含有量は、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対して、1~5重量部(乾燥重量)であることが好ましく、1.5~3重量部がより好ましい。ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉の含有量が1重量部より少ないと、解凍時に離水が発生する場合、できたパンのボリュームが小さくなる場合、又は、パン生地作製時の作業性が低下する場合がある。また、5重量部より多いとパンの食感が低下したり、異味が感じられる場合がある。
【0020】
前記ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉は、1次ミキシング時のみならず、1次ミキシング時及び2次ミキシング時に分けて添加できるが、パン生地作製時の作業性の観点から、1次ミキシング時にできるだけ多く添加した方が好ましく、全量添加することがより好ましい。
【0021】
前記グルテンは、穀類から選別されたものであれば特に制限はなく、小麦、大麦、ライ麦等の穀物由来のものを用いることができる。パンの食感の観点から、小麦由来のグルテンが好ましい。
【0022】
1次ミキシング用材料混合物における前記グルテンの含有量は、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対して、0.5~3.5重量部であることが好ましく、1.5~2.5重量部がより好ましい。グルテンの含有量が0.5重量部より少ないと、解凍時に離水が発生する場合、又はできたパンのボリュームが小さくなる場合がある。また、3.5重量部より多いと異味が感じられる場合がある。
【0023】
前記グルテンは、1次ミキシング時のみならず、1次ミキシング時及び2次ミキシング時に分けて添加できるが、十分なグルテン構造を形成させる観点から、1次ミキシング時にできるだけ多く添加した方が好ましく、全量添加することがより好ましい。
【0024】
前記アスコルビン酸は、L-アスコルビン酸、デヒドロアスコルビン酸、又はその塩類を意味し、発酵法や合成法等で得られるアスコルビン酸や、アスコルビン酸の含有量が多いカムカム(CAMUCAMU;学名Myrciariadubia)、アセロラ、オレンジ、レモン等の果実のエキス、粉末、抽出物等を使用すればよい。
【0025】
1次ミキシング用材料混合物における前記アスコルビン酸の含有量は、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対して、0.005~0.02重量部であることが好ましく、0.007~0.01重量部がより好ましい。アスコルビン酸の含有量が0.005重量部より少ないと解凍時に離水が発生したり、できたパンのボリュームが小さくなる場合がある。また、0.02重量部より多いと、パンの食感が重たくなる場合がある。
【0026】
前記アスコルビン酸は、1次ミキシング時のみならず、1次ミキシング時及び2次ミキシング時に分けて添加できるが、パン生地形成の時間短縮や安定化の観点から、1次ミキシング時にできるだけ多くを添加した方が好ましく、全量添加することがより好ましい。
【0027】
前記食塩は、当該分野で使用される食塩であれば特に限定されず、例えば、精製塩、上質塩、内地白塩、原塩、粉砕塩等が挙げられる。
【0028】
2次ミキシング用材料混合物における前記食塩の含有量は、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対して、1~2.5重量部が好ましく、1.5~2重量部がより好ましい。食塩の含有量が1重量部より少ないと、できたパンのボリュームが小さくなる場合、又はパンの味が乏しくなる場合がある。また、2.5重量部より多いと、パンの塩味が濃過ぎて食せない場合がある。
【0029】
前記食塩は、2次ミキシング時のみならず、1次ミキシング時及び2次ミキシング時に分けて添加できるが、解凍時の離水発生の観点から、2次ミキシング時にできるだけ多くを添加した方が好ましく、全量添加することがより好ましい。
【0030】
前記添加水は、飲用可能なものであれば特に制限はなく、例えば、蒸留水、イオン交換樹脂処理水、逆浸透膜(RO)処理水又は限外ろ過膜(UF)処理水等の精製水;水道水;地下水あるいは涌水等の天然水;又はアルカリイオン水等が挙げられる。
【0031】
前記水は、1次ミキシング時のみ、又は、1次ミキシング時と2次ミキシング時に分けてそれぞれ添加できる。1次ミキシング用材料混合物における添加水の量は、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対して、75~110重量部であることが好ましく、75~95重量部がより好ましく、80~90重量部が更に好ましい。添加水の量が75重量部より少ないと多加水パン特有のしっとり、もっちりした食感が得られない場合がある。また、2次ミキシング用材料混合物における添加水の量は、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対して、0~30重量部であることが好ましく、5~25重量部がより好ましく、10~20重量部が更に好ましい。添加水の量が30重量部より多いと解凍時に離水が発生する場合がある。
【0032】
本発明の多加水パン用冷凍生地は、冷解凍後に加熱調理して得られるパンのボリュームの観点から、二糖アルコール、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、及び、キシラナーゼからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することが望ましく、その中でも特に、二糖アルコールがより好ましい。
【0033】
前記二糖アルコールは、二糖が持つカルボニル基が還元された糖をいい、特に限定されないが、例えば、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール等が挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種を使用すればよい。
【0034】
1次ミキシング用材料混合物における前記二糖アルコールの含有量は、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対して、1~2.5重量部(乾燥重量)であることが好ましく、1.5~2.5重量部がより好ましく、1.5~2重量部が更に好ましい。二糖アルコールの含有量が1重量部より少ないと、できたパンのボリュームをより大きくする効果が得られない場合がある。また、2.5重量部より多いと効果が頭打ちになる場合がある。
【0035】
前記二糖アルコールは、1次ミキシング時及び2次ミキシング時に分けて添加できるが、パン生地形成の安定化の観点から、1次ミキシング時にできるだけ多く添加した方が好ましく、全量添加することがより好ましい。
【0036】
前記ジアセチル酒石酸モノグリセリドは、モノグリセリドの水酸基に、酒石酸の水酸基がアセチル化した化合物がエステル結合したものをいう。
【0037】
多加水パン用冷凍生地における前記ジアセチル酒石酸モノグリセリドの含有量は、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100重量部に対して、0.1~0.5重量部が好ましく、0.15~0.3重量部がより好ましい。ジアセチル酒石酸モノグリセリドの含有量が0.1重量部より少ないと、できたパンのボリュームをより大きくする効果が得られない場合がある。また、0.5重量部より多いと異味が感じられる場合がある。
【0038】
前記ジアセチル酒石酸モノグリセリドは、1次ミキシング時及び2次ミキシング時に分けて添加できるが、パン生地形成の安定化の観点から、1次ミキシング時にできるだけ多くを添加した方が好ましく、全量添加することがより好ましい。
【0039】
前記キシラナーゼは、小麦粉中に含まれるアラビノキシランを分解する酵素であればよく、ペントサナーゼ、ヘミセルラーゼと呼ばれるものであってもよい。
【0040】
多加水パン用冷凍生地における前記キシラナーゼの含有量は、多加水パン用冷凍生地に含まれる穀粉100gに対して、5~100単位が好ましく、25~75単位がより好ましい。キシラナーゼの含有量が5単位より少ないと、できたパンをより大きくする効果が得られない場合がある。また、100単位より多いとパン生地がベタついて、作業性が低下する場合がある。
【0041】
前記キシラナーゼは、1次ミキシング時及び2次ミキシング時に分けて添加できるが、パン生地形成の安定化の観点から、1次ミキシング時にできるだけ多くを添加した方が好ましく、全量添加することがより好ましい。
【0042】
尚、本発明でいうキシラナーゼの単位は、3,5-ジニトロサリチル酸(DNS)法により還元糖量を測定し、キシロース当量で表す。すなわち、1分間に1μmolのキシロースに相当する還元糖を生成する酵素量を1単位とする。
【0043】
前記多加水パン用冷凍生地は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記二糖アルコール以外の糖類、油脂、増粘剤、前記ジアセチル酒石酸モノグリセリド以外の乳化剤、及び、前記キシラナーゼ以外の酵素等を添加することができる。
【0044】
前記二糖アルコール以外の糖類としては、砂糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖等が挙げられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0045】
前記油脂は、食用であれば特に限定はないが、例えば、コーン油、サフラワー油、胡麻油、綿実油、ひまわり油、菜種油、大豆油、米糠油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、カカオ脂、シア脂等の植物油や、乳脂、魚油、牛脂、豚脂等の動物油が挙げられ、また、これらの油脂をエステル交換したものや、硬化、分別したもの等、通常食用に供されるすべての油脂類を用いることができ、それらの群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0046】
また、油脂の形態は、融解した前記油脂に、必要に応じて乳化剤や香料等の油溶性成分を添加してから混合して得た油脂組成物を急冷捏和して得られるショートニング;融解した前記油脂に、必要に応じて乳化剤や香料等の油溶性成分を添加してから混合して得た油脂組成物へ必要に応じて水溶性成分が溶解した水溶液を添加した後、急冷捏和して得られるマーガリン、ファットスプレッド等の油中水型乳化油脂組成物;タンパク質等の水溶性成分が溶解した水溶液に、前記油脂や必要に応じて乳化剤や香料等の油溶性成分を添加した後、ホモジナイズして得られる水中油型乳化油脂組成物が挙げられ、これらの何れも使用することもできる。
【0047】
前記増粘剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、アラビアガム、グアガム、タラガム等が挙げられる
【0048】
前記ジアセチル酒石酸モノグリセリド以外の乳化剤としては、具体的にはグリセリン脂肪酸エステル、酢酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリドソルビタン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル及びレシチン等が挙げられる。
【0049】
前記キシラナーゼ以外の酵素としては、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プロテアーゼ等が挙げられる。
【0050】
本発明の多加水パン用冷凍生地は、1次ミキシング工程、2次ミキシング工程、発酵工程、分割工程、成形工程、冷凍工程を経て製造することができる。各工程の詳細を以下に説明するが、多加水パン用冷凍生地を製造する方法は以下の記載に限定されるものではない。
【0051】
(1次ミキシング工程(工程a1))
まず、前述した1次ミキシング時に添加される穀粉、冷凍耐性を有するパン酵母、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱、グルテン、アスコルビン酸、添加水等を含む材料混合物を1次ミキシングして、1次ミキシング後の材料混合物を得る。
【0052】
前記1次ミキシングの条件は、低速で2~8分間、中速及び/又は高速で2~30分間が好ましく、低速で2~5分間、中速及び/又は高速で6~12分間がより好ましい。
【0053】
尚、低速は、1.1~2.5s-1のミキシング速度と定義し、好ましくは1.1~2.0s-1である。中速は、低速以上の速度であって、かつ1.8~4.7s-1のミキシング速度と定義する。好ましくは、2.6~4.7s-1である。また、高速は中速以上の速度であって、かつ3.3~7.3s-1のミキシング速度と定義する。好ましくは4.1~7.3s-1である。
【0054】
尚、低速と中速は、1.8~2.5s-1の間にある同じ速度であってもよい。この時、低速と中速は区別されず、同じ速度域でミキシングを続けることになる。また、中速と高速は、3.3~4.7s-1の間にある同じ速度であってもよい。この時、中速と高速は区別されず、同じ速度域でミキシングを続けることになる。
【0055】
1次ミキシングのミキシング速度が遅かったり、ミキシング時間が短いと、材料の分散性が悪く、パン生地がベタつきやすくなったり、パンのもっちりした食感が損なわれる場合がある。逆に1次ミキシングのミキシング速度が速かったり、ミキシング時間が長いと、パンのもっちりした食感が損なわれる場合がある。
【0056】
また、よりもっちり、しっとりした食感のパンを得るという観点から、1次ミキシング時の材料のうち、穀粉と水を事前にミキシングして発酵したもの(中麺生地)を使用しても構わない。
【0057】
(2次ミキシング工程(工程a2))
工程a1で得られた1次ミキシング後の材料混合物に、前述した2次ミキシング時に添加される穀粉、食塩、添加水等を添加して、得られる2次ミキシング用材料混合物に2次ミキシングを行い、2次ミキシング後の材料混合物を得る。
【0058】
前記2次ミキシングの条件は、低速で2~8分間、中速及び/又は高速で1~20分間が好ましく、低速で2~5分間、中速及び/又は高速で5~10分間がより好ましい。尚、低速、中速、及び、高速の定義は上記と同じである。
【0059】
2次ミキシングのミキシング速度が遅かったり、ミキシング時間が短いと、材料の分散性が悪く、でき上がったパン生地が不均一な状態となって、できたパンの品質が低下する場合がある。逆に2次ミキシングのミキシング速度が速かったり、ミキシング時間が長いと、パン生地がダレてパン作製時の作業性が悪くなったり、できたパンのボリュームが低下する場合がある。
【0060】
(発酵工程(工程a3))
工程a2で得られた2次ミキシング後の材料混合物を発酵して、発酵後のパン生地を得る。前記発酵の条件は、5~35℃で、2~60分間であることが好ましく、5~20℃で10~30分間がより好ましく、10~20℃で10~20分間が更に好ましい。発酵温度が5℃より低かったり、発酵時間が2分間より短いと、発酵が不十分となる場合がある。また、発酵温度が35℃より高かったり、発酵時間が60分間より長いと、発酵が過剰となり、できたパンのボリュームが小さくなる場合がある。
【0061】
(分割工程(工程a4))
工程a3で得られた発酵後のパン生地を分割して、分割後のパン生地を得る。生地の分割量は20~500gが好ましく、25~400gがより好ましく、30~300gが更に好ましい。分割量が前記範囲を外れると、目的とするパンを作製することが難しくなる場合がある。分割後のパン生地は、必要に応じて、丸めを行い、ベンチタイムを取ることができる。ベンチタイムを取ることで、生地の弾力性を緩めて成形が容易になる。ベンチタイムは、24~34℃で、5~40分間が好ましい。温度が24℃より低いと、ベンチタイムの効果が得られない場合がある。温度が34℃より高かったり、時間が40分間より長いと発酵過剰となる場合がある。
【0062】
(成形工程(工程a5))
工程a4で得られた分割後のパン生地を成形して、成形後の本捏生地を得る。成形時の厚みは2.5mm以上が好ましく、3.5mm以上がより好ましい。成形の方法としては、例えば、ローラーを有する成形機を使用すれば良く、その場合はローラーとコンベアとの間、又は対になった2本のローラーの間を通して帯状、シート状、板状に成形すれば良い。厚みが2.5mmより小さいと、得られたパンのキメが細かくなり過ぎる場合がある。
【0063】
(冷凍工程(工程a6))
前記工程a5で得られた成形後のパン生地を冷凍し、冷凍後のパン生地を得る。前記冷凍の条件は、-45~-10℃であることが好ましく、-45~-15℃がより好ましく、-45~-20℃が更に好ましい。冷凍温度が-45℃より低いとパン生地を凍結効率が頭打ちになる場合がある。また、-10℃より高いとパン生地が十分に凍結しない場合がある。
【0064】
前記工程a1~工程a6を実施することにより、長期間冷凍保存しても、解凍時の離水発生が無く、且つ、解凍後に加熱調理して得られるパンのボリュームが大きい多加水パン用冷凍生地を得ることができる。
【0065】
そして、前記多加水パン用冷凍生地は、解凍後に最終発酵し、加熱調理することで、ボリュームの大きなパンを得ることができる。
【0066】
前記冷凍保存の期間は、具体的には60~150日間が好ましく、その期間が長い程、本発明の効果を享受することができる。
【0067】
また、冷凍保存期間が60日以上の前記多加水パン用冷凍生地を解凍後、最終発酵してから加熱調理されたパンは、冷凍保存期間が30日以内の該多加水パン用冷凍生地を加熱調理して得たパンの比容積に対する、冷凍保存期間が150日の該多加水パン用冷凍生地を加熱調理して得たパンの比容積が80~120%であり、水分含量が39~52重量%の多加水パンである。ここで、パンの比容積とは、パンの単位重量あたりの体積を示す。
【0068】
冷凍保存期間が30日以内の該多加水パン用冷凍生地を加熱調理して得たパンの比容積に対する、冷凍保存期間が150日の該多加水パン用冷凍生地を加熱調理して得たパンの比容積は、80~110%がより好ましく、85~105%が更に好ましい。パンの比容積が80%より小さいと、ボリュームが小さなパンになる場合がある。また、120%より大きいと、パンの食感が低下する場合がある。
【0069】
冷凍保存期間が60日以上の前記多加水パン用冷凍生地を解凍後、最終発酵してから加熱調理されたパンの水分含量は、44~52重量%がより好ましく、48~52重量%が更に好ましい。水分含量が上記範囲を外れると、好ましいもっちり、しっとりとした食感が損なわれる場合がある。
【0070】
前記多加水パン用冷凍生地の解凍条件は、パンを作製するための通常の条件であれば良く、例えば5~40℃で、30~360分間が好ましく、10~35℃で、60~180分間がより好ましく、15~25℃で、120~180分間が更に好ましい。解凍温度が5℃より低かったり、解凍時間が30分間より短いと、パン生地の解凍が不十分になる場合がある。また、解凍温度が40℃より高かったり、解凍時間が360分間より長いと、発酵が進み過ぎてパンのボリュームが小さくなる場合がある。
【0071】
前記最終発酵の条件は、パンを作製するための通常の条件であって良く、例えば25~40℃で、10~90分間が好ましく、30~40℃で、20~70分間がより好ましく、35~40℃で、30~70分間が更に好ましい。発酵温度が25℃より低かったり、発酵時間が10分間より短いと、発酵が不十分となる場合がある。また、発酵温度が40℃より高かったり、発酵時間が90分間より長いと、パン生地が発酵し過ぎて、できたパンのボリュームが低下したり、発酵臭が強く感じられる場合がある。
【0072】
前記加熱調理とは、焼成、蒸し、油ちょうを含む。このうち焼成が好ましい。加熱調理の条件は、パンを作製するための通常の条件であって良い。
【実施例0073】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。尚、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0074】
実施例及び比較例で使用した原料は以下の通りである。
1)日本製粉(株)製「ミリオン」(水分含量:14.5%)
2)(株)カネカ製「カネカイーストTG」(水分含量:65%)
3)日本精糖(株)製「上白糖P」(水分含量:0.7%)
4)松谷化学工業(株)製「パインアクア」(糯種馬鈴薯由来のα化ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、水分含量:8%)
5)松谷化学工業(株)製「マツノリン500」(馬鈴薯由来のα化澱粉とタピオカ由来のα化澱粉の混合物、水分含量:4.5%)
6)長田産業(株)製「フメリットA2」(水分含量:6.5%)
7)扶桑化学工業(株)製「L-アスコルビン酸」(水分含量:0%)
8)財団法人塩事業センター製「精製塩」(水分含量:0%)
9)(株)カネカ製「エバーライトG」(水分含量:0%)
10)三菱商事フードライフサイエンス(株)製「アマルティシロップ」(水分含量:25%)
11)Kerry Ingredients and Flavours社製「アドムルダーテム 1935」(水分含量:0%)
12)DSM Food Specialities B.V.社製「Bakezyme BXP500」(2700単位、水分含量:11.7%)
【0075】
<パンの水分の測定>
実施例及び比較例で得られたパンのクラム部分の重量(X)と、該クラム部分を105℃のオーブンに、5時間保持した後の重量(Y)を測定し、以下の式により計算される値を水分とした。
パンの水分(重量%)=〔(X-Y)/X〕×100
【0076】
<パンの比容積の測定>
レーザー体積計測機「WinVM200」(株式会社アステックス製)を用い、予め重量(g)を測定したパンの体積(cm)を測定し、得られた体積を重量で割ることにより測定される値(cm/g)をパンの比容積とした。
【0077】
<多加水パン用冷凍生地の解凍時の離水発生の評価>
実施例及び比較例で作製した多加水パン用冷凍生地を、濾紙(東洋濾紙株式会社製「定性濾紙No.2、φ90mm」)にのせ、20℃で180分間静置して解凍後、濾紙に吸水された水分量[Y(g)]を測定し、多加水パン用冷凍生地[X(g)]に対する割合を離水率とし、以下の基準で評価した。
離水率(%)=(Y/X)×100
5点:離水がない(離水率=0.5%未満)
4点:殆ど離水がない(離水率=0.5%以上1%未満)
3点:やや離水があるが、商品性は問題ない(離水率=1%以上1.5%未満)
2点:やや離水があり、商品性に問題がある(離水率=1.5%以上2%未満)
1点:非常に離水があり、商品性に欠ける(離水率=2%以上)
【0078】
<パンのボリュームの評価>
実施例及び比較例で作製した多加水パン用冷凍生地を、14日間冷凍保存後に解凍してから加熱調理して得たパンの比容積[V(cm/g)]と、150日間冷凍保存後に解凍してから加熱調理して得たパンの比容積[W(cm/g)]をそれぞれ測定し、これらの比率[(W)/(V)×100]を求めて、以下の基準で評価した。
5点:150日間冷凍保存後のパンのボリュームが十分に大きい(比率=90%以上)
4点:150日間冷凍保存後のパンのボリュームが大きい(比率=85%以上90%未満)
3点:150日間冷凍保存後の150日のパンのボリュームが若干小さめだが、商品性は問題ない(比率=80%以上85%未満)
2点:150日間冷凍保存後のパンのボリュームが小さく、商品性に問題がある(比率=70%以上80%未満)
1点:150日間冷凍保存後のパンのボリュームが非常に小さく、商品性に欠ける(比率=70%未満)
【0079】
<総合評価>
解凍時の離水発生、及び、冷凍保存のパンのボリュームの各評価結果を基に、総合評価を行った。その際の評価基準は以下の通りである。
A:解凍時の離水発生、及び、パンのボリュームが4点又は5点であり、少なくともどちらか一方が5点であるもの
B:解凍時の離水発生、及び、パンのボリュームがどちらも4点であるもの、又は、解凍時の離水発生、及び、パンのボリュームが3点以上5点以下であり、どちらか一方が3点であるもの
C:解凍時の離水発生、及び、パンのボリュームがどちらも3点であるもの
D:解凍時の離水発生、及び、パンのボリュームが2点以上5点以下であり、少なくともどちらか一方が2点であるもの
E:解凍時の離水発生、及び、パンのボリュームの少なくともどちらか一方が1点であるもの
【0080】
(実施例1)多加水パン用冷凍生地、及び、多加水パンの作製
表1に従って、1次ミキシング用の材料を縦型ミキサー「HPI-20M」(関東混合機工業社製)により低速2分間、中速4分間、高速4分間混合(1次ミキシング)した後、1次ミキシング後の材料混合物に2次ミキシングの材料を投入し、低速2分間、中速4分間、高速3分間混合(2次ミキシング)し20℃±1℃に捏ね上げた。2次ミキシング終了後、生地を20℃、湿度60%で15分静置しフロア発酵生地を得た。フロア発酵生地を80gに分割し丸めた後、生地を20℃、湿度60%に10分間静置しベンチ後生地を得た。ベンチ後の生地を、3段モルダー「FM31Z型」(フジサワ・マルゼン株式会社製)の各ローラーの隙間間隔を上段からそれぞれ12mm、6mm、2.2mmに設定し、ベンチ後生地を通過させて生地厚約3mmにガス抜きを実施し、棒状に生地を巻いた後に、高さ25mmの展厚板を通して棒状の成形生地を得た。棒状の成形生地を-35℃の急速冷凍機で40分間冷凍して多加水パン用冷凍生地を作製した後、-20℃で150日保存した。冷凍保存後の多加水パン用冷凍生地を20℃、湿度70%で120分間静置し解凍生地を得、得られた解凍生地を35℃、60%に静置して、ホイロ発酵生地を得た。ホイロ発酵生地を、スリップピールに載せ、デッキオーブン「Prince III」(フジサワ・マルゼン株式会社製)に移し、上火260℃、下火240℃でスチームを10秒間入れ、10分間焼成しパンを得た。多加水パン用冷凍生地の解凍時の離水発生、及び、解凍後に加熱調理して得られたパンのボリュームの評価結果を表1に示した。
【0081】
【表1】
【0082】
(実施例2~3、比較例1)多加水パン用冷凍生地、及び、多加水パンの作製
表1に従って、1次ミキシング時に添加するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉:2.0重量部を、1.0重量部(実施例2)、5.0重量部(実施例3)、又は、0.5重量部(比較例1)に変更した以外は、実施例1と同様にして多加水パン用冷凍生地を作製し、冷凍保存後に解凍して、最終発酵を行った後に焼成してパンを得た。多加水パン用冷凍生地の解凍時の離水発生、及び、解凍後に加熱調理して得られたパンのボリュームの評価結果を表1に示した。
【0083】
(比較例2)多加水パン用冷凍生地、及び、多加水パンの作製
表1に従って、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉をα化澱粉に変更した以外は、実施例1と同様にして多加水パン用冷凍生地を作製し、冷凍保存後に解凍して、最終発酵を行った後に焼成してパンを得た。多加水パン用冷凍生地の解凍時の離水発生、及び、解凍後に加熱調理して得られたパンのボリュームの評価結果を表1に示した。
【0084】
表1から明らかなように、穀粉100重量部に対するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉の含有量が1~5重量部の範囲にある多加水パン用冷凍生地(実施例1~3)は、解凍時の離水発生、及び、解凍後に加熱調理して得られたパンのボリュームの評価は良好な結果であった。一方、穀粉100重量部に対するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉の含有量が0.5重量部と少ない多加水パン用冷凍生地(比較例1)は、解凍時の離水発生、及び、解凍後に加熱調理して得られたパンのボリュームの評価が悪く、総合評価がEであった。また、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を使用せず、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉に変えて、α化澱粉を使用して作製した多加水パン用冷凍生地(比較例2)は、解凍時の離水発生、及び、解凍後に加熱調理して得られたパンのボリュームの評価が悪く、総合評価がEであった。
【0085】
(実施例4~5、比較例3)多加水パン用冷凍生地、及び、多加水パンの作製
表2に従って、1次ミキシング時に添加するグルテン:2.0重量部を、0.5重量部(実施例4)、3.5重量部(実施例5)、又は、添加せず(比較例3)に変更した以外は、実施例1と同様にして多加水パン用冷凍生地を作製し、冷凍保存後に解凍して、最終発酵を行った後に焼成してパンを得た。多加水パン用冷凍生地の解凍時の離水発生、及び、解凍後に加熱調理して得られたパンのボリュームの評価結果を表2に示した。
【0086】
【表2】
【0087】
表2から明らかなように、穀粉100重量部に対するグルテンの含有量が0.5~3.5重量部の範囲にある多加水パン用冷凍生地(実施例1、4~5)は、解凍時の離水発生、及び、解凍後に加熱調理して得られたパンのボリュームの評価は良好な結果であった。一方、グルテンを添加しなかった多加水パン用冷凍生地(比較例3)は、解凍時の離水発生、及び、解凍後に加熱調理して得られたパンのボリュームの評価が悪く、総合評価がEであった。
【0088】
(実施例6~7、比較例4)多加水パン用冷凍生地、及び、多加水パンの作製
表3に従って、1次ミキシング時に添加するアスコルビン酸:0.0075重量部を、0.005重量部(実施例6)、0.02重量部(実施例7)、又は、0.003重量部(比較例4)に変更した以外は、実施例1と同様にして多加水パン用冷凍生地を作製し、冷凍保存後に解凍して、最終発酵を行った後に焼成してパンを得た。多加水パン用冷凍生地の解凍時の離水発生、及び、解凍後に加熱調理して得られたパンのボリュームの評価結果を表3に示した。
【0089】
【表3】
【0090】
表3から明らかなように、穀粉100重量部に対するアスコルビン酸の含有量が0.005~0.02重量部の範囲にある多加水パン用冷凍生地(実施例1、6~7)は、解凍時の離水発生、及び、解凍後に加熱調理して得られたパンのボリュームの評価は良好な結果であった。一方、穀粉100重量部に対するアスコルビン酸の含有量が0.003重量部と少ない多加水パン用冷凍生地(比較例4)は、解凍時の離水発生、及び、解凍後に加熱調理して得られたパンのボリュームの評価が悪く、総合評価がEであった。
【0091】
(実施例8~10)多加水パン用冷凍生地、及び、多加水パンの作製
表4に従って、実施例1の配合において、1次ミキシング時に二糖アルコール:3.0重量部(乾燥重量で2.25重量部)(実施例8)、ジアセチル酒石酸モノグリセリド:0.15重量部(実施例9)、又は、キシラナーゼ:0.005重量部(穀粉である強力粉100gに対して13.5単位)(実施例10)を添加した以外は、実施例1と同様にして多加水パン用冷凍生地を作製し、冷凍保存後に解凍して、最終発酵を行った後に焼成してパンを得た。多加水パン用冷凍生地の解凍時の離水発生、及び、解凍後に加熱調理して得られたパンのボリュームの評価結果を表4に示した。
【0092】
【表4】
【0093】
(比較例5)多加水パン用冷凍生地、及び、多加水パンの作製
表4に従って、2次ミキシング時に添加する食塩:2.0重量部を添加せず、1次ミキシング時に2.0重量部を添加した以外は、実施例1と同様にして多加水パン用冷凍生地を作製し、冷凍保存後に解凍して、最終発酵を行った後に焼成してパンを得た。多加水パン用冷凍生地の解凍時の離水発生、及び、解凍後に加熱調理して得られたパンのボリュームの評価結果を表4に示した。
【0094】
表4から明らかなように、食塩を2次ミキシング時に添加して作製した多加水パン用冷凍生地(実施例1、8~10)は、解凍時の離水発生、及び、解凍後に加熱調理して得られたパンのボリュームの評価は良好な結果であった。特に、1次ミキシングにおいて、穀粉100重量部に対して、二糖アルコールの含有量が1~2.5重量部(乾燥重量)の範囲にある多加水パン用冷凍生地(実施例8)は、解凍後に加熱調理して得られたパンのボリュームが非常に大きく、最も良好な評価結果であった。一方、食塩を2次ミキシング時に添加せず作製した多加水パン用冷凍生地(比較例5)は、解凍後に加熱調理して得られたパンのボリュームの評価が悪く、総合評価がDであった。