IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

特開2023-145925高誘電率かつ低誘電正接なポリイミドフィルム、多層ポリイミドフィルム、フレキシブル金属張積層体ならびに、フレキシブルプリント基板
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145925
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】高誘電率かつ低誘電正接なポリイミドフィルム、多層ポリイミドフィルム、フレキシブル金属張積層体ならびに、フレキシブルプリント基板
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20231004BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20231004BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231004BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20231004BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20231004BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C08G73/10
C08L79/08
C08K3/013
B32B15/088
B32B27/34
H05K1/03 610N
H05K1/03 670
H05K1/03 630H
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052843
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】木戸雅善
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
4F100AA00A
4F100AB00C
4F100AK49A
4F100AK49B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA23A
4F100GB43
4F100JA11A
4F100JB16B
4F100JG05A
4F100JJ03
4F100JK17
4F100YY00A
4J002CM041
4J002DE186
4J002FD016
4J002FD126
4J002GQ00
4J002GQ01
4J043PA04
4J043QB15
4J043QB26
4J043RA35
4J043SA06
4J043SB03
4J043TA22
4J043TB04
4J043UA121
4J043UA122
4J043UA132
4J043UA141
4J043UB122
4J043UB131
4J043UB152
4J043UB401
4J043UB402
4J043VA021
4J043VA022
4J043VA041
4J043VA061
4J043VA062
4J043VA081
4J043XA16
4J043YA08
4J043YA09
4J043ZA43
4J043ZB11
4J043ZB50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本願発明の目的は、耐熱性を有し、高誘電率かつ低誘電正接なポリイミドフィルム、それを用いた多層ポリイミドフィルムを提供することである。
【解決手段】10GHzでの誘電正接が0.006以下かつ誘電率が4以上であるポリイミドフィルムであって、かつ前記ポリイミドフィルムが酸二無水物とジアミン化合物との縮合反応物と、10GHzでの誘電率が5以上の無機フィラーとからなる事を特徴とするポリイミドフィルム、それを用いた多層ポリイミドフィルムにより上記課題を解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
10GHzでの誘電正接が0.006以下かつ誘電率が4以上であることを特徴とするポリイミドフィルム。
【請求項2】
該ポリイミドフィルムが10GHzでの誘電正接が0.004以下である酸二無水物とジアミン化合物との縮合反応物と、10GHzでの誘電率が5以上の無機フィラーとからなる事を特徴とする請求項1記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記ポリイミド酸二無水物として、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、4,4’-オキジシフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、およびエステル基含有テトラカルボン酸二無水物から選ばれる1種以上の酸二無水物を含み、前記ジアミン化合物としてパラフェニレンジアミンと、1,3―ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン残基、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン残基、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニルから選ばれる1種以上のジアミン化合物を含むポリイミドからなることを特徴とする請求項1または2に記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
全ジアミン化合物を100モル%とした場合、パラフェニレンジアミンを75モル%以上95モル%以下含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
全酸二無水物を100モル%とした場合、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を10モル%以上80モル%以下含むことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項6】
前記酸二無水物として、4,4’-オキジシフタル酸無水物を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項8】
酸二無水物として、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を含むことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項9】
前記無機フィラーがペロブスカイト型(ABO3)の結晶構造を形成していることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項10】
前記ペロブスカイト型(ABO3)の結晶構造を形成する無機フィラーのAサイト元素がCaからなる事を特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載のポリイミドフィルムの少なくとも片面に熱可塑ポリイミド層を積層したことを特徴とする多層ポリイミドフィルム。
【請求項12】
請求項11に記載の多層ポリイミドフィルムに金属層を設けたフレキシブル金属張積層。
【請求項13】
請求項12に記載のフレキシブル金属張積層体の金属層に回路を形成してなるフレキシブルプリント基板。







【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波回路基板に好適に使用できる高誘電率かつ低誘電正接なポリイミドフィルム、多層ポリイミドフィルム、フレキシブル金属張積層体ならびに、フレキシブルプリント基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、機械強度、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性に優れているため、電子基板材料用途で多く利用されている。例えば、ポリイミドフィルムを基板材料とし、少なくとも片面に銅箔を積層したフレキシブル銅張積層板(以下、FCCLともいう)や、さらに回路を作成したフレキシブルプリント基板(以下、FPCともいう)などが製造され、各種電子機器に使用されている。
【0003】
近年の電子機器の高速信号伝送に伴う回路を伝播する電気信号の高周波化において、電子基板材料の低誘電率、低誘電正接化の要求が高まっている。電気信号の伝送損失を抑制するには、誘電率と誘電正接を低くすることが有効な為である。IoT社会の黎明期である近年、高周波化の傾向は進んでおり、例えば10GHz以上の領域においても伝送損失を抑制できるような基板材料が求められている。
【0004】
一方で、軽薄・小型化の思考から、信号の伝搬波長をより小さくできる高誘電率な材料も要求されている。このような高誘電率かつ低誘電正接な材料としては、セラミックが用いられてきたが、より一層、伝送損失の要求が強くなっており、より低い誘電正接が求められている中で、有機材料も有望視されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】第5011697号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高誘電率かつ低誘電正接を達成するため、種々の手段が提案されている。例えば、特許文献1のようにポリイミド樹脂に高誘電率を有する無機フィラーを添加する検討が多く見受けられる。しかし、耐熱性等のフィルム特性は良いが、誘電正接が低くならない。
【0007】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、耐熱性を有し、高誘電率かつ低誘電正接なポリイミドフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の現状を鑑み、本発明者らは鋭意研究を行った結果、以下の構成により上記課題を達成しうることを見出した。
【0009】
1).10GHzでの誘電正接が0.006以下かつ誘電率が4以上であることを特徴とするポリイミドフィルム。
【0010】
2).該ポリイミドフィルムが10GHzでの誘電正接が0.004以下である酸二無水物とジアミン化合物との縮合反応物と、10GHzでの誘電率が5以上の無機フィラーとからなる事を特徴とする1)に記載のポリイミドフィルム。
【0011】
3).前記ポリイミド酸二無水物として、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、4,4’-オキジシフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、およびエステル基含有テトラカルボン酸二無水物から選ばれる1種以上の酸二無水物を含み、前記ジアミン化合物としてパラフェニレンジアミンと、1,3―ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン残基、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン残基、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニルから選ばれる1種以上のジアミン化合物を含むポリイミドからなることを特徴とする1)または2)に記載のポリイミドフィルム。
【0012】
4).全ジアミン化合物を100モル%とした場合、パラフェニレンジアミンを75モル%以上95モル%以下含むことを特徴とする1)から3)のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【0013】
5).全酸二無水物を100モル%とした場合、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を10モル%以上80モル%以下含むことを特徴とする1)から4)のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【0014】
6).前記酸二無水物として、4,4’-オキジシフタル酸無水物を含むことを特徴とする1)から5)のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【0015】
7).酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物を含むことを特徴とする1)から5)のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【0016】
8).酸二無水物として、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を含むことを特徴とする1)から7)のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【0017】
9).前記無機フィラーがペロブスカイト型の結晶構造を形成していることを特徴とする1)から8)のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【0018】
10).前記ペロブスカイト型(ABO3)の結晶構造を形成する無機フィラーのAサイト元素がCaからなる事を特徴とする1)から9)のいずれか記載のポリイミドフィルム。
【0019】
11).1)から10)のいずれかに記載のポリイミドフィルムの少なくとも片面に熱可塑ポリイミド層を積層したことを特徴とする多層ポリイミドフィルム。
【0020】
12).11)に記載の多層ポリイミドフィルムに金属層を設けたフレキシブル金属張積層。
【0021】
13).12)に記載のフレキシブル金属張積層体の金属層に回路を形成してなるフレキシブルプリント基板。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、耐熱性を有し、高誘電率かつ低誘電正接なポリイミドフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のポリイミドフィルムは、温度23℃、湿度50%における10GHzでの誘電正接が0.006以下かつ誘電率が4以上となることを特徴とする。
【0024】
本願発明の誘電率及び誘電正接は、サンプルを2mm×100mmに切り出し、ネットワークアナライザー(キーサイト社製、E5071C)と空洞共振器摂動法を用いて測定した10GHzにおける値である。なお、この測定はASTMD2520(JIS C2565)に準拠して行った。
【0025】
本願発明のポリイミドフィルムは、10GHzでの誘電正接が0.004以下である酸二無水物とジアミン化合物との縮合反応物(ポリイミド)と、10GHzでの誘電率が5以上の無機フィラーとからなる。
【0026】
本願発明の酸二無水物とジアミン化合物との縮合反応物(ポリイミド)及び10GHzでの誘電率が5以上の無機フィラーについて、説明する。
【0027】
(酸二無水物とジアミン化合物との縮合反応物)
本願発明の酸二無水物とジアミン化合物との縮合反応物は、酸二無水物として、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下BPDAと記載することがある)と、4,4’-オキジシフタル酸無水物(以下ODPAと記載することがある)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(以下BTDAと記載することがある)、ピロメリット酸二無水物(以下PMDAと記載することがある)、およびエステル基含有テトラカルボン酸二無水物から選ばれる1種以上の酸二無水物を含むことが、誘電正接を下げる効果あるため好ましい。
【0028】
BPDAは、必須成分であり、BPDAの含有量としては、全酸二無水物を100モル%とした場合、10モル%以上80モル%以下であることが好ましく、15モル%以上75モル%以下であることがより好ましく、20モル%以上70モル%以下であることが更に好ましい。
【0029】
エステル基含有テトラカルボン酸二無水物としては、構造内にエステル基を含有するものであれば特に限定することはない。例えば、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(以下、「TMHQ」と記載することがある)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p-ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(以下、「BP-TME」と記載することがある)、4-[4-(1,3-ジオキソイソベンゾフラン-5-イルカルボニロキシ)-2,3,5-トリメチルフェニル]-2,3,6-トリメチルフェニル 1,3-ジオキソイソベンゾフラン-5-カルボキシレート、4-{[4-(1,3-ジオキソイソベンゾフラン-5-イルカルボニロキシ)フェニル]シクロヘキシル}フェニル 1,3-ジオキソイソベンゾフラン-5-カルボキシレート、及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらのエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の中でも、TMHQやBP-TMEが低誘電正接を示す傾向にあり特に好ましい。
【0030】
テトラカルボン酸二無水物成分としてエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を含有すれば、得られるポリアミド酸やポリイミドの誘電正接が低下する傾向があるため好ましい。エステル基含有テトラカルボン酸二無水物を含む場合、含有量としては、全酸二無水物を100モル%とした場合、5モル%以上70モル%以下であることが好ましく、5モル%以上60モル%以下であることがより好ましく、10モル%以上50モル%以下であることが更に好ましい。特に誘電正接を低減できるポリイミドを得るためには、ポリイミド前駆体及びポリイミドを構成する全テトラカルボン酸二無水物成分に対して、BPDAとエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の合計の含有量が、75モル%以下であることが好ましく、70モル%以下であることがより好ましい。
【0031】
また、ジアミン化合物としてパラフェニレンジアミンと、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン残基、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン残基、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニルから選ばれる1種以上のジアミン化合物を含むことが、誘電正接を下げる効果あるため好ましい。
【0032】
また、全ジアミン化合物を100モル%とした場合、パラフェニレンジアミンを75モル%以上95モル%以下、より好ましくは80モル%以上95モル%以下含むことで、耐熱性、特に380℃での形状の保持性があがる傾向あるため好ましい。
【0033】
テトラカルボン酸二無水物成分としてODPAを含有すれば、得られるポリアミド酸やポリイミドの誘電正接が低下する傾向があるため好ましい。ODDAを含む場合、含有量としては、全酸二無水物を100モル%とした場合、20モル%以上60モル%以下であることが好ましく、25モル%以上60モル%以下であることがより好ましく、25モル%以上55モル%以下であることが更に好ましい。
【0034】
テトラカルボン酸二無水物成分としてPMDAを含有すれば、得られるポリアミド酸やポリイミドの分子量が向上する傾向があるため好ましい。テトラカルボン酸二無水物成分としてPMDAを使用する場合、耐熱性を高めつつ、誘電正接をより低減できるポリイミドを得るためには、ポリイミド前駆体及びポリイミドを構成する全テトラカルボン酸二無水物成分に対して、PMDAの含有率は、15モル%以下であることが好ましく、12モル%以下がより好ましく、10モル%以下が更に好ましい。
【0035】
また、テトラカルボン酸二無水物成分としてBTDAを含有することが好ましい。ODDAを含む場合、含有量としては、全酸二無水物を100モル%とした場合、5モル%以上40モル%以下であることが好ましく、5モル%以上35モル%以下であることがより好ましく、10モル%以上30モル%以下であることが更に好ましい。
【0036】
誘電正接をより低減できるポリイミドを得るためには、ポリイミド前駆体及びポリイミドを構成する全テトラジカルボン酸二無水物の総物質量を、ポリイミド前駆体及びポリイミドを構成する全ジアミンの総物質量で除した物質量比が、0.95以上1.05以下であることが好ましく、0.97以上1.03以下であることがより好ましく、0.99以上1.01以下であることが更に好ましい。
本発明のポリイミドには、ポリイミド前駆体及びポリイミドを構成する成分以外の成分(添加剤)が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、シリコーン、増感剤等を用いることができる。ポリイミド中の添加剤の含有率は、ポリイミドの全量に対して、例えば30重量%以下であり、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、0重量%であってもよい。
【0037】
(10GHzでの誘電率が5以上の無機フィラー)
本願発明の10GHzでの誘電率が5以上の無機フィラーは、特に限定されるのもではないが、ペロブスカイト型(ABO3)の結晶構造を有していることが好ましい。
【0038】
本願発明のペロブスカイト型の結晶構造を有する無機フィラーとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。
【0039】
Aサイト元素が、Ba、Ca、Mg及びSrからなる群から選択される少なくとも1種であり、Bサイト元素が、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。具体的な好ましい組成を例示すると、BaTiO、CaTiO、SrTiO、BaCa1-xTiO(式中、xは0<x<1)、BaSr1-xZrO(式中、xは0<x<1)、BaTiZr1-x(式中、xは0<x<1)、BaCa1-xTiZr1-y(式中、xは0<x<1、yは0<y<1)、Ba1-x-yCaMgTiZr1-z(式中、xは0<x<1、yは0<y<1、zは0<z<1、0<x+y<1)等が挙げられる。これらのペロブスカイト型複合酸化物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
また、理由は定かではないが、Aサイト元素がCaであることが低誘電正接には最も好ましい。
【0041】
本願発明における無機フィラーの添加量は、10VOL%以上が好ましく、より好ましくは70%VOL以下である。本願発明の無機フィラーの添加量が10VOL%以下の場合、誘電率が4以上とならない可能性があり、また、添加量が70VOL%以上の場合、機械的強度及び絶縁性の低下が懸念される。
【0042】
(ポリイミドフィルムへの無機フィラーの含有方法)
本願発明のポリイミドフィルムへの無機フィラーの含有方法について述べる。ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液に無機フィラーを混合することで無機フィラー含有ポリアミド酸を合成し、その後ポリイミドに転換することで無機フィラー含有ポリイミドフィルムを得ることができる。
【0043】
ポリアミド酸溶液と無機フィラーの混合方法は、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、ポリアミド酸溶液を合成する前にあらかじめ溶媒に分散しておいて、無機フィラーの分散液中でポリアミド酸を合成しても、合成したポリアミド酸溶液とあらかじめ溶媒に分散した無機フィラー分散液を混合してもよい。均一に無機フィラーが分散したポリアミド酸溶液を得るためには、合成したポリアミド酸溶液と無機フィラー分散液を混合することが好ましい。
【0044】
ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸をイミド化するには、熱イミド化法と化学イミド化法に大別される。熱イミド化法は、脱水閉環剤等を使用せず、ポリアミド酸溶液を製膜ドープとして支持体に流延、加熱だけでイミド化を進める方法である。一方の化学イミド化法は、ポリアミド酸溶液に、イミド化促進剤として脱水閉環剤及び触媒の少なくともいずれかを添加したものを製膜ドープとして使用し、イミド化を促進する方法である。どちらの方法を用いても構わないが、化学イミド化法の方が生産性に優れる。
【0045】
脱水閉環剤としては、無水酢酸に代表される酸無水物が好適に用いられ得る。触媒としては、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン等の三級アミンが好適に用いられ得る。三級アミンの中でも、β-ピコリン、γ―ピコリン、3,5-ジメチルピリジン等のβ位及び/またはγ位にアルキル基が導入されたピリジン化合物、ピリジン、イソキノリンなどが特に好ましい。
製膜ドープを流延する支持体としては、ガラス板、アルミ箔、エンドレスステンレスベルト、ステンレスドラム等が好適に用いられ得る。最終的に得られるフィルムの厚み、生産速度に応じて加熱条件を設定し、部分的にイミド化または乾燥の少なくとも一方を行った後、支持体から剥離してポリアミド酸フィルム(以下、ゲルフィルムという)を得る。
【0046】
上記ゲルフィルムの端部を固定して硬化時の収縮を回避して乾燥し、ゲルフィルムから、水、残留溶媒、イミド化促進剤を除去し、そして残ったアミド酸を完全にイミド化して、ポリイミドを含有するフィルムが得られる。加熱条件については、最終的に得られるフィルムの厚み、生産速度に応じて適宜設定すればよい。
【0047】
本願発明のポリイミドフィルムは、接着剤を介して銅箔と積層して、フレキシ
ブル銅張積層板とすることもできる。さらには、多層ポリイミドフィルムの一層として、多層ポリイミドフィルムと銅箔とを積層して、フレキシブル銅張積層板とすることもできる。多層ポリイミドフィルムについて説明する。
【0048】
(多層ポリイミドフィルム)
多層ポリイミドフィルムは、非熱可塑ポリイミドフィルムと、少なくとも1層以上の熱可塑性ポリイミド層を有する多層ポリイミドフィルムであり、具体例としては、非熱可塑ポリイミドフィルムの片面もしくは両面に熱可塑性ポリイミド層を有する多層ポリイミドフィルムである。
【0049】
本願発明ポリイミドフィルムは、その特性に応じて、非熱可塑性ポリイミド層および熱可塑性ポリイミド層のどちらにも用いることができる。
【0050】
フレキシブルプリント配線板は、例えば前記の多層ポリイミドフィルムのような絶縁性フィルム層に、金属箔層を貼り合わされたフレキシブル金属張積層板に製造し、さらに回路パターンを形成することで得られる。接着層には従来、エポキシ樹脂やアクリル樹脂が使用されていたが、これらは耐熱性に乏しく、使用用途が限定されてしまう。しかし、接着層として熱可塑性ポリイミドを用いた2層フレキシブルプリント配線板は、耐熱性、屈曲性に優れることから需要が更に伸びることが期待される。
【0051】
本発明において多層ポリイミドフィルムを製造する方法としては、以下の工程
i)有機溶剤中でジアミンと酸二無水物を反応させてポリアミド酸溶液を得る工程
ii)上記ポリアミド酸溶液を含む製膜ドープを支持体上に流延する工程
iii)支持体上で加熱した後、支持体からゲルフィルムを引き剥がす工程
iv)更に加熱して、残ったポリアミド酸をイミド化し、かつ乾燥させる工程により非熱可塑性ポリイミドフィルムを製造した後、当該非熱可塑性ポリイミドフィルムを非熱可塑性ポリイミド層として用い、その少なくとも片面に、塗工などにより接着層を設ける方法がある。
【0052】
また、上記ii)工程において複数の流路を有する共押出しダイを使用して、非熱可塑性ポリイミド層を形成するポリイミド樹脂の前駆体を含む溶液と、接着層を形成するためのポリイミド樹脂の前駆体を含む溶液とを支持体上に流延・塗布することにより、複層の樹脂層を同時に形成する方法(共押出流延・塗布法)もある。
【0053】
また、後述のフレキシブル金属張積層板の項目で詳述するが、金属箔上に複数のポリアミド酸溶液を順次キャストし、次いでイミド化することにより金属箔上に多層ポリイミドフィルムに相当する層を直接形成する方法(金属箔キャスト法)もある。
【0054】
ii)以降の工程においては、熱イミド化法と化学イミド化法に大別される。熱イミド化法は、脱水閉環剤等を使用せず、ポリアミド酸溶液を製膜ドープとして支持体に流延、加熱だけでイミド化を進める方法である。一方の化学イミド化法は、ポリアミド酸溶液に、イミド化促進剤として脱水閉環剤及び触媒の少なくともいずれか一方を添加したものを製膜ドープとして使用し、イミド化を促進する方法である。熱イミド化法と化学イミド化法のどちらの方法を用いても構わないが、化学イミド化法の方が生産性に優れる。
【0055】
脱水閉環剤としては、無水酢酸に代表される酸無水物が好適に用いられ得る。触媒としては、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン等の三級アミンが好適に用いられ得る。三級アミンの中でも、β-ピコリン、γ―ピコリン、3,5-ジメチルピリジン等のβ位及び/またはγ位にアルキル基が導入されたピリジン化合物、ピリジン、イソキノリンなどが特に好ましい。
【0056】
iii)以降の工程で、製膜ドープを流延する支持体としては、ガラス板、アルミ箔、エンドレスステンレスベルト、ステンレスドラム等が好適に用いられ得る。最終的に得られるフィルムの厚み、生産速度に応じて加熱条件を設定し、部分的にイミド化及び乾燥の少なくともいずれかを行った後、支持体から剥離してポリアミド酸フィルム(以下、ゲルフィルムとも称する)を得る。
【0057】
iv)以降の工程で、前記ゲルフィルムの端部を固定して硬化時の収縮を回避して乾燥し、水、残留溶媒、フィルム中に残存するイミド化促進剤を除去し、そして残ったポリアミド酸を完全にイミド化して、ポリイミドフィルムが得られる。ゲルフィルムの端部は固定するだけでなく、搬送方向もしくは搬送方向に対して垂直方向に延伸してもよい。
【0058】
イミド化には非常に高い温度が必要となるため、ポリイミド以外の樹脂層を設ける場合は、熱分解を抑えるために後者の手段を採った方が好ましい。なお、塗工により熱可塑性ポリイミドフィルムを設ける場合は、熱可塑性ポリイミドの前駆体を塗布し、その後イミド化を行ってもよいし、熱可塑性ポリイミド溶液を塗布・乾燥してもよい。また、熱可塑性ポリイミドフィルムは、上述の工程において、ポリアミック酸溶液を支持体に流延する代わりに、ポリイミド溶液を流延し、冷却することにより得てもよい。
【0059】
(フレキシブル金属積層体)
本願発明のポリイミドフィルムには、少なくとも一方の表面に乾式成膜法で製造された層を形成し、後の工程で無電解めっき層が形成するなどして直接金属層を形成するしてフレキシブル金属積層体を製造してもよい。乾式めっき法による金属層の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法などが適用できる。
【0060】
また、他の手段としては以下の方法が挙げられる。
a)上述のようにして多層ポリイミドフィルムを得た後、加熱加圧により金属箔を貼り合せてフレキシブル金属箔積層体を得る手段。
b)金属箔上に、ポリアミック酸を含有する有機溶剤溶液をキャストし、加熱により溶剤除去、イミド化を行ってフレキシブル金属箔積層体を得る手段。
【0061】
a)の手段では、得られた多層ポリイミドフィルムに、金属箔を加熱加圧(ラミネート)により貼り合せることにより、本発明のフレキシブル金属箔積層体が得られる。金属箔を貼り合せる手段、条件については、従来公知のものを適宜選択すればよい。
【0062】
b)の手段では、金属箔上にポリアミック酸を含有する有機溶剤溶液をキャストする手段については特に限定されず、ダイコーターやコンマコーター(登録商標)、リバースコーター、ナイフコーターなどの従来公知の手段を使用できる。溶剤除去、イミド化を行うための加熱手段についても従来公知の手段を利用可能であり、例えば熱風炉、遠赤外線炉が挙げられる。
【0063】
本願発明のポリイミドフィルムに、他のポリイミド層を複層設ける場合、もしくはポリイミド以外の樹脂層も設ける場合は、上記キャスト、加熱工程を複数回繰り返すか、共押出しや連続キャストによりキャスト層を複層形成して一度に加熱する手段が好適に用いられ得る。
【0064】
b)の手段では、イミド化が完了すると同時に、本発明のフレキシブル金属箔積層体が得られる。樹脂層の両面に金属箔層を設ける場合、加熱加圧により反対側の樹脂層面に金属箔を貼り合わせれば良い。
【0065】
本発明において用いることができる金属箔としては特に限定されるものではないが、電子機器・電気機器用途に本発明のフレキシブル金属張積層板を用いる場合には、例えば、銅または銅合金、ステンレス鋼またはその合金、ニッケルまたはニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる箔を挙げることができる。一般的なフレキシブル積層板では、圧延銅箔、電解銅箔といった銅箔が多用されるが、本発明においても好ましく用いることができる。なお、これらの金属箔の表面には、防錆層や耐熱層あるいは接着層が塗布されていてもよい。また、上記金属箔の厚みについては特に限定されるものではなく、その用途に応じて、十分な機能が発揮できる厚みであればよい。
【0066】
(フレキシブルプリント基板)
本願発明に係るフレキシブル金属張積層体の金属層をエッチングして得られるフレキシブルプリント基板は、小型化可能かつ伝送損失の小さい高周波用途に好適な回路基板となる。
【実施例0067】
以下、実施例により本願発明を具体的に説明するが、本願発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、誘電率及び誘電正接の評価方法は次の通りである。
【0068】
<誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)の測定>
誘電率及び誘電正接は、HEWLETTPACKARD社製のネットワークアナライザ8719Cと株式会社関東電子応用開発製の空洞共振器振動法誘電率測定装置CP511とを用いて測定した。サンプルを2mm×100mmに切り出し、23℃/50%R.H.環境下(常態)で24時間調湿後に測定を行った。測定は10GHzで行った。
【0069】
(合成例1)
容量500mlのガラス製フラスコ中で、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)164.2g、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)3.0g、及びp-フェニレンジアミン(p-PDA)6.4gを溶解させた。得られた溶液にs-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)12.2g、及び4,4’-オキシフタル酸二無水物(ODPA)7.9gを添加した後、フラスコ内の液を30分撹拌して溶解させた。さらにこの溶液に別途調製してあったピロメリット酸二無水物(PMDA)のDMF溶液(PMDA0.5g/DMF5.8g)を注意深く添加し、粘度が1500ポイズ程度に達したところで添加を止めた。次いで、フラスコ内の液を1時間撹拌して固形分濃度約15重量%、23℃での回転粘度が1500~2000ポイズのポリアミド酸溶液を得た。
【0070】
(合成例2)
反応容器にDMFを投入し、窒素雰囲気下で撹拌した。そこに、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)100重量部、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TMHQ)30重量部、および2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)70重量部を順次添加し、窒素雰囲気下にて5時間撹拌して、固形分濃度18%のポリアミド酸溶液を得た。ポリアミド酸溶液に、イミド化触媒としてピリジンを添加し、完全に分散させた後、無水酢酸を添加し、120℃で2時間攪拌後、室温まで冷却した。溶液を攪拌しながら、イソプロピルアルコール(IPA)を投入し、ポリイミドを析出させた。その後、吸引ろ過を行い、IPAによる洗浄作業を4回繰り返した後、120℃に設定した真空オーブンで12時間乾燥させてポリイミド樹脂を得た。
【0071】
(参考例1)
合成例1で得たポリアミド酸溶液55gに、無水酢酸5.15g/イソキノリン6.01g/DMF16.34gからなる硬化剤を27.5g添加して0℃以下の温度で攪拌・脱泡し、コンマコーターを用いてアルミ箔上に流延塗布した。この樹脂膜を110℃×133秒間乾燥させた後、ゲルフィルムをアルミ箔から引き剥がして、ゲルフィルムが収縮しないように注意しながら金属製の固定枠に固定した。金属製の固定枠に固定したゲルフィルムを、あらかじめ予熱された熱風循環オーブンで250℃15秒、350℃79秒加熱し、固定枠から切り離して厚み17μmのポリイミドフィルムを得た。
【0072】
(参考例2)
合成例2で得たポリイミド樹脂を塩化メチレンに固形分濃度12%になるように溶解させたポリイミド溶液を作製した。次いで、このポリイミド溶液を下記条件でガラス板に塗布し、ホットプレート上にて一次乾燥・金枠固定にて二次乾燥:200℃/30分する事でポリイミドフィルムを得た。
・塗布条件:クリアランス300μm、スピード10mm/sec
【0073】
(実施例1)
無機フィラー:チタン酸カルシウム(CT-03) 18.79gをDMF10.0gに分散させたDMF分散系を調整した。合成例1で合成したポリアミド酸溶液55gに得られた無機フィラー分散液28.79gを添加し、混合した。得られた無機フィラー含有ポリアミド酸溶液に無水酢酸5.15g/イソキノリン6.01g/DMF6.34gからなる硬化剤を17.5g添加して、0℃以下の温度で攪拌・脱泡し、コンマコーターを用いてアルミ箔上に流延塗布した。その後は参考例1と同様にし、ポリイミドフィルムを得た。無機フィラーの種類、添加量、誘電率および誘電正接を表1に記載した。なお、表1中の合成例1:CT-03=60:40は、体積vol%を意味する。
【0074】
(実施例2~4および比較例1~3)
実施例1の無機フィラーの種類及びフィラー含有量を変更する以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。また、無機フィラーの種類、添加量、誘電率および誘電正接を表1に記載した。
【0075】
(比較例4,5)
参考例2同様、合成例2で得たポリイミド樹脂と所定量の無機フィラー:チタン酸カルシウム(CT―03)を塩化メチレンに固形分濃度12%になるように溶解させたポリイミド溶液を作製した。以下、参考例2同様に、ポリイミドフィルムを得た。また、無機フィラーの種類、添加量、誘電率および誘電正接を表1に記載した。
【0076】
<使用した無機フィラー>
・CT―03 堺化学工業株式会社製チタン酸カルシウム
・CZ―03 堺化学工業株式会社製ジルコン酸カルシウム
・BT-03 堺化学工業株式会社製チタン酸バリウム
・TA-300K 富士チタン工業株式会社製酸化チタン
【表1】