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特開2023-145928シャント抵抗器、シャント抵抗器の製造方法、およびシャント抵抗器の特性調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145928
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】シャント抵抗器、シャント抵抗器の製造方法、およびシャント抵抗器の特性調整方法
(51)【国際特許分類】
   H01C 13/00 20060101AFI20231004BHJP
   H01C 1/144 20060101ALI20231004BHJP
   H01C 17/28 20060101ALI20231004BHJP
   H01C 17/22 20060101ALI20231004BHJP
   G01R 15/00 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
H01C13/00 J
H01C1/144
H01C17/28
H01C17/22
G01R15/00 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052846
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 保
【テーマコード(参考)】
2G025
5E028
5E032
【Fターム(参考)】
2G025AA00
2G025AA09
2G025AB05
2G025AC01
5E028BA21
5E028BB01
5E028CA12
5E028JA12
5E028JB03
5E032BA21
5E032BB01
5E032CA12
5E032CC11
5E032TA03
5E032TB05
(57)【要約】
【課題】所望のTCRを満たすことができるシャント抵抗器が提供される。
【解決手段】シャント抵抗器1は、抵抗体5の両端に接続する電極6,7を備えている。電極6,7は、主流電極部6A,7Aと、分流電極部6B,7Bと、を備えている。分流電極部6B,7Bに電圧検出端子15A,15Bが設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流検出に用いられる、抵抗体と、前記抵抗体の両端に接続する電極と、を備えるシャント抵抗器であって、
前記電極は、
前記抵抗体に接続する主流電極部と、
前記主流電極部よりも抵抗値が高く、前記主流電極部と分岐し、前記抵抗体に接続する分流電極部と、を備えており、
前記分流電極部に電圧検出端子を設けた、シャント抵抗器。
【請求項2】
前記電圧検出端子は、前記抵抗体と前記分流電極部との接続部に沿って設けられている、請求項1に記載のシャント抵抗器。
【請求項3】
前記シャント抵抗器は、前記主流電極部と前記分流電極部との間に形成された空隙部を有している、請求項1または請求項2に記載のシャント抵抗器。
【請求項4】
前記シャント抵抗器は、前記分流電極部に形成された凹部を有している、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のシャント抵抗器。
【請求項5】
抵抗体と、前記抵抗体の両端に接続する電極と、を備えたシャント抵抗器の製造方法であって、
前記電極に空隙部を形成して、前記抵抗体に接続する主流電極部と、前記主流電極部よりも抵抗値が高く、前記主流電極部と分岐し、前記抵抗体に接続する前記分流電極部と、を形成する工程を備え、
前記空隙部の形状および大きさにより、抵抗温度特性を調整する、シャント抵抗器の製造方法。
【請求項6】
抵抗体と、前記抵抗体の両端に接続する電極と、を備えたシャント抵抗器の製造方法であって、
前記抵抗体に接続する主流電極部を形成する工程と、
前記電極と離間し、前記抵抗体と接続する電圧検出端子を形成する工程と、
前記主流電極部と分岐した分流電極部を形成する工程と、を備え、
前記分流電極部を形成する工程は、電極バーを用いて前記電極と前記電圧検出端子とを電気的に接続する工程であり、
前記電極バーの断面積、長さ、および材料により、抵抗温度特性を調整する、シャント抵抗器の製造方法。
【請求項7】
前記分流電極部の位置により抵抗温度特性を調整する、請求項5または請求項6に記載のシャント抵抗器の製造方法。
【請求項8】
前記分流電極部に凹部を形成する凹部形成工程を備え、
前記凹部の深さにより、抵抗温度特性を調整する、請求項5~請求項7のいずれか一項に記載のシャント抵抗器の製造方法。
【請求項9】
抵抗体と、前記抵抗体に接続する主流電極部と、前記主流電極部よりも抵抗値が高く、前記主流電極部と分岐し、前記抵抗体に接続する分流電極部と、を備えた前記抵抗体の両端に接続する電極と、前記分流電極部の、前記抵抗体との接続部側に設けた電圧検出端子と、を備えたシャント抵抗器の特性調整方法であって、
前記主流電極部と前記抵抗体とを流れる電流の経路を主流経路と定義し、前記分流電極部と前記抵抗体とを流れる電流の経路を分流経路と定義した場合、前記主流経路の抵抗成分は、前記主流電極部における抵抗成分R2と、前記主流電極部に隣接する前記抵抗体における、主流抵抗体の抵抗成分R4と、の直列(R2+R4)で構成されており、
前記分流経路の抵抗成分は、前記分流電極部における抵抗成分R1と、前記分流電極部に隣接する前記抵抗体における、分流抵抗体の抵抗成分R3と、の直列(R1+R3)で構成されており、
前記シャント抵抗器の抵抗成分は、前記主流経路の抵抗成分(R2+R4)と、前記分流経路の抵抗成分(R1+R3)と、の並列((R2+R4)×(R1+R3)/(R2+R4)+(R1+R3))で構成されており、
前記抵抗成分R3にかかる電圧を検出電圧V3と定義した場合、前記抵抗成分R1の抵抗値を変化させることにより、前記検出電圧V3の温度特性を調整する、シャント抵抗器の特性調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャント抵抗器、シャント抵抗器の製造方法、およびシャント抵抗器の特性調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シャント抵抗器は、電流検出用途に広く用いられている。このようなシャント抵抗器は、板状の抵抗体と、抵抗体の両端に接合された板状の電極とを備えている。このような抵抗体は、銅・ニッケル系合金、銅・マンガン系合金、鉄・クロム系合金、ニッケル・クロム系合金などの合金で構成されており、このような電極は、銅などの高導電性金属から構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-174802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなシャント抵抗器では、温度変動の影響が小さい電流検出を可能とするために、抵抗温度係数(TCR)ができるだけ0に近いことが要請されている。抵抗温度係数(TCR)とは、温度変化による抵抗値の変化の割合を示す指標であり、抵抗温度係数(TCR)が0に近づくほど抵抗値の変化が小さくなる。シャント抵抗器のTCRを改善するために、例えば、マンガニン(登録商標)などのTCRが小さい合金が抵抗体の材料として使用されている。しかしながら、抵抗体材料の選定によるTCRの調整(改善)には限界がある。
【0005】
そこで、本発明は、TCRを容易に調整することができる、すなわち所望のTCRを満たすことができるシャント抵抗器を提供することを目的とする。
【0006】
本発明は、所望のTCRを満たすことができるシャント抵抗器の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、所望のTCRを満たすことができるシャント抵抗器の特性調整方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、電流検出に用いられる、抵抗体と、前記抵抗体の両端に接続する電極と、を備えるシャント抵抗器が提供される。前記電極は、前記抵抗体に接続する主流電極部と、前記主流電極部よりも抵抗値が高く、前記主流電極部と分岐し、前記抵抗体に接続する分流電極部と、を備えており、前記分流電極部に電圧検出端子を設けた。
【0009】
一態様では、前記電圧検出端子は、前記抵抗体と前記分流電極部との接続部に沿って設けられている。
一態様では、前記シャント抵抗器は、前記主流電極部と前記分流電極部との間に形成された空隙部を有している。
一態様では、前記シャント抵抗器は、前記分流電極部に形成された凹部を有している。
【0010】
一態様では、抵抗体と、前記抵抗体の両端に接続する電極と、を備えたシャント抵抗器の製造方法が提供される。シャント抵抗器の製造方法は、前記電極に空隙部を形成して、前記抵抗体に接続する主流電極部と、前記主流電極部よりも抵抗値が高く、前記主流電極部と分岐し、前記抵抗体に接続する前記分流電極部と、を形成する工程を備え、前記空隙部の形状および大きさにより、抵抗温度特性を調整する。
【0011】
一態様では、抵抗体と、前記抵抗体の両端に接続する電極と、を備えたシャント抵抗器の製造方法が提供される。シャント抵抗器の製造方法は、前記抵抗体に接続する主流電極部を形成する工程と、前記電極と離間し、前記抵抗体と接続する電圧検出端子を形成する工程と、前記主流電極部と分岐した分流電極部を形成する工程と、を備え、前記分流電極部を形成する工程は、電極バーを用いて前記電極と前記電圧検出端子とを電気的に接続する工程であり、前記電極バーの断面積、長さ、および材料により、抵抗温度特性を調整する。
【0012】
一態様では、前記分流電極部の位置により抵抗温度特性を調整する。
一態様では、前記分流電極部に凹部を形成する凹部形成工程を備え、前記凹部の深さにより、抵抗温度特性を調整する。
【0013】
一態様では、抵抗体と、前記抵抗体に接続する主流電極部と、前記主流電極部よりも抵抗値が高く、前記主流電極部と分岐し、前記抵抗体に接続する分流電極部と、を備えた前記抵抗体の両端に接続する電極と、前記分流電極部の、前記抵抗体との接続部側に設けた電圧検出端子と、を備えたシャント抵抗器の特性調整方法が提供される。前記主流電極部と前記抵抗体とを流れる電流の経路を主流経路と定義し、前記分流電極部と前記抵抗体とを流れる電流の経路を分流経路と定義した場合、前記主流経路の抵抗成分は、前記主流電極部における抵抗成分R2と、前記主流電極部に隣接する前記抵抗体における、主流抵抗体の抵抗成分R4と、の直列(R2+R4)で構成されており、前記分流経路の抵抗成分は、前記分流電極部における抵抗成分R1と、前記分流電極部に隣接する前記抵抗体における、分流抵抗体の抵抗成分R3と、の直列(R1+R3)で構成されており、前記シャント抵抗器の抵抗成分は、前記主流経路の抵抗成分(R2+R4)と、前記分流経路の抵抗成分(R1+R3)と、の並列((R2+R4)×(R1+R3)/(R2+R4)+(R1+R3))で構成されており、前記抵抗成分R3にかかる電圧を検出電圧V3と定義した場合、前記抵抗成分R1の抵抗値を変化させることにより、前記検出電圧V3の温度特性を調整する。
【発明の効果】
【0014】
シャント抵抗器は、分流電極部を備えているため、0に近い抵抗温度係数(TCR)を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1(a)はシャント抵抗器の一実施形態を示す図であり、図1(b)は図1(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図である。
図2図2(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図2(b)は図2(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図2(c)は図2(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。
図3図3(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図3(b)は図3(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図3(c)は図3(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。
図4図4(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図4(b)は図4(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図4(c)は図4(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。
図5図5(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図5(b)は図5(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図5(c)は図5(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。
図6図6(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図6(b)は図6(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図6(c)は図6(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフであり、図6(d)は図6(a)に示すシャント抵抗器における電流密度の周波数特性を示す図である。
図7図7(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図7(b)は図7(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図7(c)は図7(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。
図8】電極バーを電圧検出端子に装着する様子を示す図である。
図9図9(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図9(b)は図9(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図9(c)は図9(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。
図10図10(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図10(b)は図10(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図10(c)は図10(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。
図11図11(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図11(b)は図11(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図11(c)は図11(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。
図12図12(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図12(b)は図12(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図12(c)は図12(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。
図13図13(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図13(b)は図13(a)に示すシャント抵抗器を図13(a)に示す角度とは異なる角度から見たときの図であり、図13(c)は図13(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。
図14】シャント抵抗器の製造方法の一実施形態を示す図である。
図15】シャント抵抗器の製造方法の他の実施形態を示す図である。
図16】シャント抵抗器の特性調整方法を説明するための図である。
図17】比較例を説明するための図である。
図18】シャント抵抗器の特性調整方法に関する数値の定義を示す表である。
図19】シャント抵抗器の特性調整方法に関する数値の一例を示す表である。
図20】シャント抵抗器の他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1(a)はシャント抵抗器の一実施形態を示す図であり、図1(b)は図1(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図である。電流検出に用いられるシャント抵抗器1は、抵抗体5と、抵抗体5の両端に接続された高導電性金属から構成された電極6,7と、備えている。
【0017】
抵抗体5を構成する合金の一例として、マンガニン(登録商標)やニッケル・クロム系合金などの電極6,7よりも高い電気抵抗率を有する金属が挙げられる。電極6,7を構成する高導電性金属の一例として銅が挙げられ、材料特性として非常に大きな正の抵抗温度係数を有している。電極6,7のそれぞれは、検出対象の電流が流れる経路にシャント抵抗器1を接続するためのボルト穴8A,8Bのそれぞれを有している。
【0018】
電極6,7は、抵抗体5に関して対称に配置されている。電極6、抵抗体5、および電極7は、シャント抵抗器1の長手方向(すなわち、電流の流れ方向)において、この順に接続されている。電極6は、抵抗体5の端面10Aに接続されており、電極7は、抵抗体5の端面10Bに接続されている。端面10A,10Bは、長手方向とは垂直な、シャント抵抗器1の幅方向に延びている。
【0019】
電極6,7は、互いに同一の構造を有している。より具体的には、電極6は、電極6から分岐し、抵抗体5に接続する主流電極部6Aと、主流電極部6Aよりも抵抗値が高く、電極6から分岐し、抵抗体5に接続する分流電極部6Bと、を備えている。同様に、電極7は、電極7から分岐し、抵抗体5に接続する主流電極部7Aと、主流電極部7Aよりも抵抗値が高く、電極7から分岐し、抵抗体5に接続する分流電極部7Bと、を備えている。
【0020】
シャント抵抗器1は、主流電極部6Aと分流電極部6Bとの間に形成された空隙部(スリット)11A,11Bを有している。同様に、シャント抵抗器1は、主流電極部7Aと分流電極部7Bとの間に形成された空隙部(スリット)12A,12Bを有している。言い換えれば、分流電極部6Bは、空隙部11A,11Bの間に配置されており、分流電極部7Bは、空隙部12A,12Bの間に配置されている。空隙部11A,11Bを形成することにより、分流電極部6Bは、主流電極部6Aとは区画され、独立して抵抗体5に接続される。同様に、空隙部12A,12Bを形成することにより、分流電極部7Bは、主流電極部7Aとは区画され、独立して抵抗体5に接続される。
【0021】
空隙部11A,11Bおよび空隙部12A,12Bは、抵抗体5に関して対称的に配置されており、互いに同一の構造を有している。空隙部11A,11Bおよび空隙部12A,12Bは、シャント抵抗器1の長手方向に沿って延びている。空隙部11A,11Bは抵抗体5の端面10Aに隣接しており、空隙部12A,12Bは抵抗体5の端面10Bに隣接している。
【0022】
図1(b)に示すように、シャント抵抗器1は、分流電極部6Bに設けられた電圧検出端子15Aと、分流電極部7Bに設けられた電圧検出端子15Bと、を有している。これら電圧検出端子15A,15Bは、抵抗体5に関して対称的に配置されており、抵抗体5に接続されている。
【0023】
電圧検出端子15A,15Bは、抵抗体5と分流電極部6B,7Bとの接続部(すなわち、端面10A,10B)に沿って設けられている。電圧検出端子15A,15Bは、抵抗体5と分流電極部6B,7Bとの接続部の間の電圧を測定するための端子である。例えば、電圧検出端子15A,15Bの端子取出部にアルミワイヤーを接続することにより、抵抗体5と分流電極部6B,7Bとの接続部の間の電圧を検出する。
【0024】
以下、シャント抵抗器1の他の実施形態について、図面を参照して説明する。以下に示す実施形態では、電極6(すなわち、主流電極部6A、分流電極部6B)の詳細な構造について説明する。電極7(すなわち、主流電極部7A、分流電極部7B)は、電極6と同一の構造を有しているため、電極7の説明および図示を省略する。
【0025】
図2(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図2(b)は図2(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図2(c)は図2(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。
【0026】
図2(a)に示すように、シャント抵抗器1は、シャント抵抗器1の長手方向に延びる端面20A,20Bを有している。図2(a)に示す実施形態では、分流電極部6Bは、シャント抵抗器1の端面20Aに沿って配置されており、単一の空隙部11によって主流電極部6Aから区画されている。一実施形態では、分流電極部6Bは、シャント抵抗器1の端面20Bに沿って配置されてもよい。
【0027】
シャント抵抗器1は、分流電極部6Bに形成された凹部16を有している。凹部16は、電圧検出端子15Aに接続されており、主流電極部6Aおよび電圧検出端子15Aの厚さよりも薄い厚さDを有している。本実施形態では、主流電極部6Aおよび電圧検出端子15Aの厚さは、抵抗体5の厚さよりも厚く、凹部16の厚さは、抵抗体5の厚さよりも薄い。主流電極部6Aの厚さおよび電圧検出端子15Aの厚さは同一である。
【0028】
図2(c)において、横軸は温度を示しており、縦軸は抵抗値の変化率を示している。図2(c)に示す曲線T1は、電圧検出端子15Aと電圧検出端子15B(図2(a),図2(b)では省略)において電圧を測定したときの温度変化によるシャント抵抗器1の抵抗値の変化率を示しており、曲線T2は、主流電極部6Aと主流電流部7A(図2(a),図2(b)では省略)において電圧を測定したときの温度変化によるシャント抵抗器1の抵抗値の変化率を示している。
【0029】
曲線T1における抵抗値の変化率の変動幅と、曲線T2における抵抗値の変化率の変動幅と、の比較から明らかなように、分流電極部6Bを設けることにより、温度変化に伴う抵抗値の変化率の変動幅を大幅に減少させることができる。特に、分流電極部6B,7B(図2(a),図2(b)では省略)は、分流した電流が温度上昇に伴って小さくなる特性(電流が負の温度特性)を有する領域となり、抵抗体5が正の抵抗温度係数の有する材料であっても、電圧検出端子15Aと電圧検出端子15B(図2(a),図2(b)では省略)の間の温度上昇に伴う電圧の上昇を抑えることができる。したがって、分流電極部6B,7B(図2(a),(b)では省略)を備えるシャント抵抗器1は、0に近い抵抗温度係数(TCR)を実現することができる。
【0030】
シャント抵抗器1の抵抗温度係数は、凹部16の長さL1、厚さD(すなわち、凹部16の深さ)、電圧検出端子15Aの長さL2、および分流電極部6B(すなわち、凹部16、電圧検出端子15A)の幅Wに依存する。すなわち、シャント抵抗器1の抵抗温度係数は、分流電極部6Bの抵抗値に依存する。したがって、長さL1,L2、厚さD、および幅Wの少なくとも1つを調整することにより、シャント抵抗器1の抵抗温度係数(言い換えれば、抵抗温度特性)を調整することができる。すなわち、分流電極部6Bの抵抗値を調整することにより、シャント抵抗器1の抵抗温度係数(言い換えれば、抵抗温度特性)を調整することができる。
【0031】
図3(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図3(b)は図3(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図3(c)は図3(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。図3(a)に示す実施形態では、分流電極部6Bは、端面20Aに沿って配置されておらず、端面20Bよりも端面20Aに近接して配置されている。一実施形態では、分流電極部6Bは、端面20Aよりも端面20Bに近接して配置されてもよい。図3(c)に示すように、本実施形態においても、シャント抵抗器1は、温度変化に伴う抵抗値の変化率の変動幅を大幅に減少させることができ、抵抗温度係数(TCR)を0に近づけることができる。
【0032】
図4(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図4(b)は図4(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図4(c)は図4(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。図4(a)に示す実施形態では、分流電極部6Bは、シャント抵抗器1の幅方向における電極6の中央に配置されている。図4(c)に示すように、本実施形態においても、シャント抵抗器1は、温度変化に伴う抵抗値の変化率の変動幅を大幅に減少させることができ、抵抗温度係数(TCR)を0に近づけることができる。
【0033】
本実施形態では、分流電極部6Bを電極6の中央に配置することにより、電圧検出端子15Aの端子取出部の位置が明確になる。また、電圧検出端子15Aの面には、平均化された均一な電位が現れるため、端子取出部の位置ずれに起因する抵抗温度特性の悪化を避けることができる。
【0034】
図5(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図5(b)は図5(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図5(c)は図5(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。図5(a)に示す実施形態では、分流電極部6Bは、シャント抵抗器1の幅方向における電極6の中央に配置されている。
【0035】
図5(b)に示すように、凹部16の長さL1、厚さD、電圧検出端子15Aの長さL2、および分流電極部6Bの幅Wは、図4(b)に示す長さL1,L2、厚さD、および幅Wとは異なる。図5(c)に示すように、本実施形態においても、シャント抵抗器1は、温度変化に伴う抵抗値の変化率の変動幅を大幅に減少させることができ、抵抗温度係数(TCR)を0に近づけることができる。
【0036】
図6(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図6(b)は図6(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図6(c)は図6(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフであり、図6(d)は図6(a)に示すシャント抵抗器における電流密度の周波数特性を示す図である。図6(a)に示すように、シャント抵抗器1は、電極6に形成された複数(本実施形態では、2つ)の分流電極部6Bを備えてもよい。なお、以下に示す実施形態において、図示しないが、シャント抵抗器1は、分流電極部6Bに対応する電極7に形成された複数(本実施形態では、2つ)の分流電極部7Bを備えてもよい。
【0037】
図6(a)に示す実施形態では、シャント抵抗器1は、電極6に形成された分流電極部6Baと、分流電極部6Bbと、を備えている。以下に示す実施形態において、図示しないが、シャント抵抗器1は、分流電極部6Baに対応する電極7に形成された分流電極部7Baと、分流電極部6Bbに対応する電極7に形成された分流電極部7Bbと、を備えている。分流電極部6Baと分流電極部7Ba、および、分流電極部6Bbと分流電極部7Bbは、同一の構造を有し、抵抗体5に関して対称に配置されている。
【0038】
シャント抵抗器1は、分流電極部6Baを主流電極部6Aと区画する空隙部11Aa,11Baと、分流電極部6Bbを主流電極部6Aと区画する空隙部11Ab,11Bbと、を有している。
【0039】
空隙部11Aa,11Baを形成することにより、分流電極部6Baは、主流電極部6Aとは独立して抵抗体5に接続される。空隙部11Ab,11Bbを形成することにより、分流電極部6Bbは、主流電極部6Aとは独立して抵抗体5に接続される。分流電極部6Baは、電圧検出端子15Aaと、凹部16Aと、を有している。分流電極部6Bbは、電圧検出端子15Abと、凹部16Bと、を有している。
【0040】
以下に示す実施形態において、図示しないが、分流電極部7Baは、電圧検出端子15Aaに対応する電圧検出端子15Baを有し、分流電極部7Bbは、電圧検出端子15Abに対応する電圧検出端子15Bbを有している。電圧検出端子15Aaと電圧検出端子15Ba、および、電圧検出端子15Abと電圧検出端子15Bbは、抵抗体5に関して対称に配置されている。
【0041】
本実施形態では、分流電極部6Baおよび分流電極部6Bbは、同一の構造を有している。一実施形態では、分流電極部6Baおよび分流電極部6Bbは、異なる構造を有してもよい。上述したように、凹部16の長さL1、厚さD、電圧検出端子15Aの長さL2、および分流電極部6B(すなわち、凹部16、電圧検出端子15a)の幅Wを調整することにより、シャント抵抗器1の抵抗温度係数を調整することができる。したがって、所望の抵抗温度係数を満たすために、分流電極部6Baの長さL1,L2、厚さD、および幅Wと、分流電極部6Bbの長さL1,L2、厚さD、および幅Wと、のそれぞれを調整してもよい。なお、以下に示す実施形態において図示しない分流電極部7Ba,7Bbに関しても、分流電極部6Ba,6Bbと同一の構造を有しているため、上述と同様の調整ができる。
【0042】
図6(c)に示す曲線T1は、電圧検出端子15Aaと電圧検出端子15Ba(図6(a),図6(b)では省略)において電圧を測定したときの温度変化によるシャント抵抗器1の抵抗値の変化率を示しており、曲線T2は、電圧検出端子15Abと電圧検出端子15Bb(図6(a),図6(b)では省略)において電圧を測定したときの温度変化によるシャント抵抗器1の抵抗値の変化率を示している。
【0043】
曲線T3は、電圧検出端子15Aaと電圧検出端子15Baで測定した電圧と、電圧検出端子15Abと電圧検出端子15Bbで測定した電圧と、をバランスさせて合成し、その合成電圧における温度変化によるシャント抵抗器1の抵抗値の変化率である。曲線T3で示すように、本実施形態においても、シャント抵抗器1は、温度変化に伴う抵抗値の変化率の変動幅を大幅に減少させることができ、抵抗温度係数(TCR)を0に近づけることができる。
【0044】
シャント抵抗器1の製造時に生じる抵抗温度係数のばらつきをアンプ回路側のバランス回路で解消する場合には、例えば、電圧検出端子15Aaと電圧検出端子15Baで測定される抵抗温度係数の目標値を+15×10-6/K(25℃~125℃)として製造し、電圧検出端子15Abと電圧検出端子15Bbで測定される抵抗温度係数の目標値を-15×10-6/K(25℃~125℃)として製造してもよい。このような製造により、抵抗温度係数のばらつきを解消することができる。
【0045】
本実施形態では、シャント抵抗器1において、交流電流の周波数が高くなるほど、電極6の表面に電流が集中し、電流密度の分布が変化する表皮効果が生じる。したがって、図6(d)に示すように、分流電極部6Baおよび分流電極部6Bbを電流密度の変動の小さな箇所に配置することにより、電流密度の周波数特性を向上させることができる。なお、以下に示す実施形態において図示しない分流電極部7Ba,7Bbに関しても、上述と同様である。
【0046】
図7(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図7(b)は図7(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図7(c)は図7(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。図7(a)に示す実施形態では、図6(a)に示す実施形態と同様に、シャント抵抗器1は、電極6に形成された複数(本実施形態では、2つ)の分流電極部6Ba,6Bbを備えている。一実施形態では、シャント抵抗器1は、電極6に形成された単一の分流電極部6Bを備えてもよい。図2乃至図4に示す実施形態で説明したように、分流電極部6Bを任意の位置に配置してもよい。
【0047】
なお、以下に示す実施形態において、図示しないが、シャント抵抗器1は、分流電極部6Ba,6Bbに対応する電極7に形成された複数(本実施形態では、2つ)の分流電極部7Ba,7Bbを備えている。分流電極部6Baと分流電極部7Ba、および、分流電極部6Bbと分流電極部7Bbは、同一の構造を有し、抵抗体5に関して対称に配置されている。一実施形態では、シャント抵抗器1は、分流電極部6Bに対応する電極7に形成された単一の分流電極部7Bを備えてもよい。分流電極部6Bと分流電極部7Bは、同一の構造を有し、抵抗体5に関して対称に配置される。図2乃至図4に示す実施形態で説明したように、分流電極部7Bを任意の位置に配置してもよい。
【0048】
図7(a)に示す実施形態では、分流電極部6Ba,6Bbは、主流電極部6Aと離間し、抵抗体5と接続する電圧検出端子25Aa,25Abと、電圧検出端子25Aa,25Abと電極6とを接続する電極バー26Aa,26Abと、を備えてもよい。電極バー26Aa,26Abは、上述した凹部16に相当する、高精度に加工された棒状部材である。一実施形態では、電極バー26Aa,26Abのそれぞれは、電極6と同一の金属(例えば、銅)から構成されてもよく、抵抗体5を構成する合金よりも低い電気抵抗率を有する低抵抗金属から構成されてもよい。
【0049】
以下に示す実施形態において、図示しないが、分流電極部7Baは、電圧検出端子25Aaに対応する電圧検出端子25Baを有し、分流電極部7Bbは、電圧検出端子25Abに対応する電圧検出端子25Bbを有している。電圧検出端子25Aaと電圧検出端子25Ba、および、電圧検出端子25Abと電圧検出端子25Bbは、抵抗体5に関して対称に配置されている。
【0050】
図8は、電極バーを電圧検出端子に装着する様子を示す図である。図8に示すように、電圧検出端子25Aa(25Ab)は電極バー26Aa(26Ab)が挿入される挿入溝28を有しており、電極6は電極バー26Aa(26Ab)が挿入される挿入溝29を有している。図8に示すように、電極バー26Aa(26Ab)を挿入溝28,29に挿入し、この状態で、ろう30で電極バー26Aa(26Ab)にろう付けする。図8に示す実施形態では、電極バー26Aa(26Ab)は、円柱形状を有しているが、多角柱形状を有してもよい。一実施形態では、電極バー26Aa(26Ab)は、単線であってもよい。なお、以下に示す実施形態において図示しない分流電極部7Ba,7Bbに関しても、分流電極部6Ba,6Bbと同一の構造であり、同じ電極バーおよびろうを有している。
【0051】
図7(c)に示す曲線T1は、電圧検出端子25Aaと電圧検出端子25Ba(図7(a),図7(b)では省略)において電圧を測定したときの温度変化によるシャント抵抗器1の抵抗値の変化率を示しており、曲線T2は、電圧検出端子25Abと電圧検出端子25Bb(図7(a),図7(b)では省略)において電圧を測定したときの温度変化によるシャント抵抗器1の抵抗値の変化率を示している。
【0052】
曲線T3は、電圧検出端子25Aaと電圧検出端子25Baで測定した電圧と、電圧検出端子25Abと電圧検出端子25Bbで測定した電圧と、をバランスさせて合成し、その合成電圧における温度変化によるシャント抵抗器1の抵抗値の変化率である。曲線T3で示すように、本実施形態においても、シャント抵抗器1は、温度変化に伴う抵抗値の変化率の変動幅を大幅に減少させることができ、抵抗温度係数(TCR)を0に近づけることができる。
【0053】
図9(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図9(b)は図9(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図9(c)は図9(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。図9(a)に示す実施形態では、凹部16の厚さは、抵抗体5の厚さと同一である。図9(c)に示すように、本実施形態においても、シャント抵抗器1は、温度変化に伴う抵抗値の変化率の変動幅を大幅に減少させることができ、抵抗温度係数(TCR)を0に近づけることができる。
【0054】
図10(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図10(b)は図10(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図10(c)は図10(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。図10(a)に示す実施形態では、シャント抵抗器1は、その端面20Aに沿って配置される分流電極部6Bと、空隙部11に接続された、抵抗体5に形成された空隙部31と、を備えている。
【0055】
図10(a)に示す実施形態では、シャント抵抗器1は、単一の空隙部11を備えているが、分流電極部6Bの両側に配置された空隙部11A,11Bを備えてもよい。この場合であっても、抵抗体5は、空隙部11A,11Bに接続された空隙部31を備えている。抵抗体5に形成された空隙部31の数は、電極6,7に形成された空隙部の数に対応している。図10(c)に示すように、本実施形態においても、シャント抵抗器1は、温度変化に伴う抵抗値の変化率の変動幅を大幅に減少させることができ、抵抗温度係数(TCR)を0に近づけることができる。
【0056】
図11(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図11(b)は図11(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図11(c)は図11(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。図11(a)に示す実施形態では、シャント抵抗器1は、ドリルで形成された円形状を有する空隙部32と、ドリルで形成された凹部36と、凹部36と抵抗体5との間に形成された電圧検出端子35と、を備えている。
【0057】
図11(a)に示すように、電極6をドリルで削ることにより、空隙部32および凹部36を形成してもよい。図11(c)に示すように、このような構成によっても、シャント抵抗器1は、温度変化に伴う抵抗値の変化率の変動幅を大幅に減少させることができ、抵抗温度係数(TCR)を0に近づけることができる。
【0058】
図12(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図12(b)は図12(a)における点線で囲まれた領域を示す拡大図であり、図12(c)は図12(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。
【0059】
図12(a)に示すように、シャント抵抗器1は、空隙部11Aa,11Baおよび空隙部11Ab,11Bbに加えて、新たな空隙部40を備えてもよい。図12(a)に示す実施形態では、空隙部40は、ドリルで形成されているが、必ずしも、追加的に形成される必要はない。空隙部40を形成することにより、抵抗温度係数をより精度よく調整することができる。
【0060】
図12(c)に示す曲線T1は、電圧検出端子15Aaとこれに対応する分流電極部7Baに形成された電圧検出端子15Ba(図12(a),(b)では省略)において電圧を測定したときの温度変化によるシャント抵抗器1の抵抗値の変化率を示しており、曲線T2は、電圧検出端子15Abとこれに対応する分流電極部7Bbに形成された電圧検出端子15Bb(図12(a),(b)では省略)において電圧を測定したときの温度変化によるシャント抵抗器1の抵抗値の変化率を示している。なお、電圧検出端子15Aaと電圧検出端子15Ba、および、電圧検出端子15Abと電圧検出端子15Bbは、抵抗体5に関して対称に配置されている。
【0061】
曲線T3は、電圧検出端子15Aaと電圧検出端子15Baで測定した電圧と、電圧検出端子15Abと電圧検出端子15Bbで測定した電圧と、をバランスさせて合成し、その合成電圧における温度変化によるシャント抵抗器1の抵抗値の変化率である。曲線T3で示すように、本実施形態においても、シャント抵抗器1は、温度変化に伴う抵抗値の変化率の変動幅を大幅に減少させることができ、抵抗温度係数(TCR)を0に近づけることができる。
【0062】
図13(a)はシャント抵抗器の他の実施形態を示す図であり、図13(b)は図13(a)に示すシャント抵抗器を図13(a)に示す角度とは異なる角度から見たときの図であり、図13(c)は図13(a)に示すシャント抵抗器の抵抗値の変化率を示すグラフである。
【0063】
図13(a)および図13(b)に示すように、シャント抵抗器1は、電極60の一方平面65Aに、互いに平行に配置された抵抗体50と、互いに隣接する抵抗体50の間に配置された電圧検出端子55Aa,55Abと、を備えている。電圧検出端子55Aa,55Abは、電極60の一方平面65Aに配置されている。
【0064】
図示しないが、本実施形態では、シャント抵抗器1は、電極60と同一の構造を有する電極70を備えており、電極60と電極70は、抵抗体50に関して対称に配置されている。シャント抵抗器1は、電極70において、電圧検出端子55Aa,55Abに対応する電圧検出端子55Ba,55Bbを備えており、電圧検出端子55Aaと電圧検出端子55Ba、および、電圧検出端子55Abと電圧検出端子55Bbは、抵抗体50に関して対称に配置されている。
【0065】
電圧検出端子55Aa,55Abの間には、空隙部51Bが形成されている。電極60の一方平面65Aと他方平面65Bとの間には、空隙部51Aが形成されている。空隙部51A,51Bは、互いに接続されている。電圧検出端子55Aaは分流電極部60Bに配置されており、電圧検出端子55Abは主流電極部60Aに配置されている。分流電極部60Bは空隙部51Bによって主流電極部60Aと区画されている。
【0066】
図13(a)および図13(b)に示すように、シャント抵抗器1は、空隙部51Aによって形成された凹部62を備えている。凹部62の厚さ(深さ)は、空隙部51Aの大きさによって調整される。
【0067】
図13(c)に示す曲線T1は、電圧検出端子55Aaと電圧検出端子55Ba(図13(a),図13(b)では省略)において電圧を測定したときの温度変化によるシャント抵抗器1の抵抗値の変化率を示しており、曲線T2は、電圧検出端子55Abと電圧検出端子55Bb(図13(a),図13(b)では省略)において電圧を測定したときの温度変化によるシャント抵抗器1の抵抗値の変化率を示している。
【0068】
曲線T3は、電圧検出端子55Aaと電圧検出端子55Baで測定した電圧と、電圧検出端子55Abと電圧検出端子55Bbで測定した電圧と、をバランスさせて合成し、その合成電圧における温度変化によるシャント抵抗器1の抵抗値の変化率である。曲線T3で示すように、本実施形態においても、シャント抵抗器1は、温度変化に伴う抵抗値の変化率の変動幅を大幅に減少させることができ、抵抗温度係数(TCR)を0に近づけることができる。
【0069】
図14は、シャント抵抗器の製造方法の一実施形態を示す図である。以下に説明する実施形態では、シャント抵抗器1の製造工程をわかりやすく説明するために、シャント抵抗器の構成要素の符号を省略して説明する。図14に示す製造方法は、図1に示す実施形態に係るシャント抵抗器を製造する方法である。
【0070】
抵抗体と1対の電極を有する板状のシャント抵抗器(製造方法は省略)を準備し、図14のステップS101に示すように、まず、電極に空隙部を形成する。その後、電極から分岐し、抵抗体に接続する主流電極部と、主流電極部よりも抵抗値が高く、電極から分岐し、抵抗体に接続する分流電極部と、を形成する(ステップS102参照)。分流電極部の形成工程において、電圧検出端子を分流電極部に形成する。
【0071】
シャント抵抗器1の抵抗温度係数(抵抗温度特性)は、空隙部の形状および大きさに依存する。より具体的には、空隙部の形状および大きさを変更させることにより、分流電極部の大きさ(長さ、幅)を変更することができる。したがって、所望の抵抗温度特性を取得するために、空隙部の形状および大きさを調整して、抵抗温度特性を調整する。
【0072】
図2乃至図4に示すように、分流電極部の位置により抵抗温度特性を調整してもよい。図2乃至図12に示すように、シャント抵抗器の製造工程は、分流電極部に凹部を形成する凹部形成工程をさらに備えてもよい。シャント抵抗器1の抵抗温度係数は、凹部の厚さにも依存する。したがって、凹部の厚さ(言い換えれば、深さ)により、抵抗温度特性を調整してもよい。
【0073】
図15は、シャント抵抗器の製造方法の他の実施形態を示す図である。図15に示す製造方法は、図7および図8に示す実施形態に係るシャント抵抗器を製造する方法である。抵抗体と1対の電極を有する板状のシャント抵抗器(製造方法は省略)を準備し、図15のステップS201に示すように、電極から分岐し、抵抗体に接続する主流電極部を形成し、電極と離間し、抵抗体と接続する電圧検出端子を形成する(ステップS202参照)。その後、電極バーにより電極と電圧検出端子とを電気的に接続し、分流電極部を形成する(ステップS203参照)。
【0074】
シャント抵抗器1の抵抗温度係数(抵抗温度特性)は、電極バーの断面積、長さ、および材料に依存する。したがって、所望の抵抗温度特性を取得するために、電極バーの断面積、長さ、および材料を変更することにより、抵抗温度特性を調整する。
【0075】
図16は、シャント抵抗器の特性調整方法を説明するための図である。図17は、比較例を説明するための図である。図2図13と同様に、電極7は、電極6と同一の構造を有しているため、電極7の説明および図示を省略する。以下に示す実施形態では、シャント抵抗器1の特性調整方法をわかりやすく説明するために、シャント抵抗器の構成要素の符号を省略して説明する。
【0076】
図16に示すように、主流電極部と抵抗体とを流れる電流の経路を主流経路と定義し、分流電極部と抵抗体とを流れる電流の経路を分流経路と定義した場合、主流経路の抵抗成分は、主流電極部における抵抗成分R2と、主流電極部に隣接する抵抗体(主流抵抗体)における抵抗成分R4と、の直列(R2+R4)で構成されている。分流経路の抵抗成分は、分流電極部における抵抗成分R1と、分流電極部に隣接する抵抗体(分流抵抗体)における抵抗成分R3と、の直列(R1+R3)で構成されている。分流電極部の抵抗成分R1には、電極6の分流電極部の抵抗成分と電極7の分流電極部の抵抗成分が含まれ、主流電極部の抵抗成分R2には、電極6の主流電極部の抵抗成分と電極7の主流電極部の抵抗成分が含まれる。
【0077】
シャント抵抗器の抵抗成分は、主流経路の抵抗成分(R2+R4)と、分流経路の抵抗成分(R1+R3)と、の並列((R2+R4)×(R1+R3)/(R2+R4)+(R1+R3))で構成されている。抵抗成分R3にかかる電圧を検出電圧V3と定義した場合、抵抗成分R1の抵抗値を変化させることにより、検出電圧V3の温度特性を調整することができる。
【0078】
検出電圧V3は、分流経路を流れる電流I1と抵抗成分R3とを掛けることにより、算出される(式1:V3=I1×R3)。電流I1は、シャント抵抗器の全体の検出電圧V0を、抵抗成分R1と抵抗成分R3との合計で除算することにより、算出される(式2:I1=V0/(R1+R3))。検出電圧V0は、以下の計算式により算出される。式3:V0=I0×(((R1+R3)×(R2+R4))/(R1+R2+R3+R4))
【0079】
式2および式3により、電流I1は、以下の計算式に変換可能である。式4:I1=I0×((R2+R4)/(R1+R2+R3+R4))
式1および式4により、検出電圧V3は、以下の計算式に変換可能である。式5:V3=I0×(R2+R4)×R3/(R1+R2+R3+R4)
ここで、(R2+R4)×R3を抵抗成分R5と定義し、R2+R3+R4を抵抗成分R6と定義すると、式5における検出電圧V3は、以下の計算式に変換可能である。式6:V3=I0×R5/(R1+R6)
【0080】
図18は、シャント抵抗器の特性調整方法に関する数値の定義を示す表である。基準温度をx℃と定義し、試験温度をy℃と定義する。基準温度x℃から試験温度y℃へ変化したときの電極の抵抗値の変化率をaと定義し、抵抗体の抵抗値の変化率をbと定義する。抵抗値の変化率a,bは、材料特性で決まっている。基準温度x℃のときの抵抗成分をR1x~R6xと定義し、検出電圧をV3xと定義する。試験温度y℃のときの抵抗成分をR1y~R6yと定義し、検出電圧をV3yと定義する。
【0081】
検出電圧V3xは、以下の計算式で求められる。式7:V3x=I0×R5x/(R1x+R6x)
検出電圧V3yは、以下の計算式で求められる。式8:V3y=I0×R5y/(R1y+R6y)
抵抗成分R1yは、a×R1xであるため、式8は以下の計算式に変換可能である。式9:V3y=I0×R5y/(a×R1x+R6y)
【0082】
シャント抵抗器1の抵抗温度係数が正の値の場合、検出電圧V3yは検出電圧V3xよりも大きい。式10:V3x<V3y
シャント抵抗器1の抵抗温度係数が負の値の場合、検出電圧V3yは検出電圧V3xよりも小さい。式11:V3x>V3y
シャント抵抗器1の抵抗温度係数がゼロの場合、検出電圧V3yおよび検出電圧V3xは等しい。式12:V3x=V3y
【0083】
したがって、式7、式9、式12から、式13:I0×R5x/(R1x+R6x)=I0×R5y/(a×R1x+R6y)が成り立つとき、シャント抵抗器1の抵抗温度係数をゼロにすることができる。式13をR1xの解を求める式に変換すると、式13は以下の計算式に変換される。式14:R1x=((R5y×R6x)-(R5x×R6y))/((a×R5x)-R5y))
すなわち、式14が成り立つようにR1xを調整することで、シャント抵抗器1の抵抗温度係数をゼロにすることができる。
【0084】
図19は、シャント抵抗器の特性調整方法に関する数値の一例を示す表である。例えば、基準温度25℃、試験温度150℃において、a=1.505、b=1.0125、R2x=0.3[mΩ]、R3x=40[mΩ]、R4x=20[mΩ]とした場合、式14からR1xを算出すると、R1xは2.24[mΩ]となる。すなわち、R1xを2.24mΩに調整することで、シャント抵抗器1の抵抗温度係数をゼロにすることができる。
【0085】
R1x<2.24[mΩ]のとき、シャント抵抗器1の抵抗温度係数は正の値となる。R1x>2.24[mΩ]のとき、シャント抵抗器1の抵抗温度係数は負の値となる。すなわち、R1の値を調整することでシャント抵抗器1の抵抗温度係数を調整することが可能である。
【0086】
図17に示す比較例では、シャント抵抗器は、空隙部を有していないため、温度が変化しても、電極の電流密度分布の変化は小さく、抵抗体の抵抗温度特性により、抵抗成分R3にかかる電圧(検出電圧V3)の温度特性が決まる。
【0087】
その一方で、本実施形態(図16参照)では、シャント抵抗器は空隙部を有しているため、分流経路の断面積は主流経路の断面積よりも小さく、分流電極部における抵抗成分R1の抵抗値は主流電極部の抵抗成分R2よりも高い。シャント抵抗器1の温度が変化した場合、分流電極部、主流電極部および抵抗体の温度は同様に変化するが、分流経路の抵抗値成分(R1+R3)は主流経路の抵抗成分(R2+R4)よりも高いため、分流経路と主流経路の電流の比(I1:I2)が変化する。
【0088】
例えば、電極材料の抵抗温度係数と抵抗体材料の抵抗温度係数が正の値で、電極の抵抗温度係数が抵抗体の抵抗温度係数よりも非常に大きい場合、図17に示す実施形態では、電圧検出端子における検出電圧は正の温度特性となり、シャント抵抗器1は正の抵抗温度特性となる。本実施形態(図16参照)では、温度が変化した場合に分流経路と主流経路の電流の比が変化し、分流電極部に流れる電流が負の温度特性となる。分流抵抗体の抵抗成分R3が正の温度特性であっても、分流電極部に流れる電流の負の温度特性が、電圧検出端子における検出電圧V3の温度特性に関して負の方向に影響し、そのバランスによって検出電圧V3の温度特性を正の値、負の値または0に調整することができる。すなわち、本実施形態(図16参照)では、シャント抵抗値1の抵抗温度係数を正の値、負の値または0に調整することができる。
【0089】
図20は、シャント抵抗器の他の実施形態を示す図である。図20に示す実施形態では、電極は、幅方向に延びる空隙部を有しており、空隙部と抵抗体の間の電極上に電圧検出端子が設けられている。図20に示す実施形態においても上記関係式の考え方が成り立ち、シャント抵抗値1の抵抗温度係数を正の値、負の値または0に調整することができる。
【0090】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0091】
1 シャント抵抗器
5 抵抗体
6,7 電極
6A 主流電極部
6B 分流電極部
6Ba 分流電極部
6Bb 分流電極部
7A 主流電極部
7B 分流電極部
8A,8B,8 ボルト穴
10A,10B 端面
11,11A,11B 空隙部
11Aa,11Ba 空隙部
11Ab,11Bb 空隙部
12A,12B 空隙部
15A,15Aa,15Ab,15B 電圧検出端子
16,16A,16B 凹部
20A,20B 端面
25Aa,25Ab 電圧検出端子
26Aa,26Ab 電極バー
28,29 挿入溝
30 ろう
31 空隙部
32 空隙部
35 電圧検出端子
36 凹部
40 空隙部
50 抵抗体
51A,51B 空隙部
55Aa,55Ab 電圧検出端子
60 電極
60A 主流電極部
60B 分流電極部
62 凹部
65A 一方平面
65B 他方平面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20