(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145930
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】防滑シート
(51)【国際特許分類】
A47K 3/00 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
A47K3/00 A
A47K3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052850
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】390014487
【氏名又は名称】住江織物株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519160749
【氏名又は名称】住江テクノ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 元樹
(72)【発明者】
【氏名】奥野 智朗
(72)【発明者】
【氏名】今田 武志
【テーマコード(参考)】
2D005
【Fターム(参考)】
2D005BA01
2D005BC02
2D005DA01
2D005FA00
(57)【要約】
【課題】
本発明では、乾燥時に使用した時の防滑性能はもちろんのこと、水回り環境の床面などで使用した時も優れた防滑性能を有し、またシート製造時の加工性も良好な防滑シートを提供する。
【解決手段】
スチレン系エラストマーと、オレフィン系エラストマーと、を有し、スチレン系エラストマーとオレフィン系エラストマーの質量比率(スチレン系エラストマー質量:オレフィン系エラストマー質量)が10:90~85:15であり、スチレン系エラストマーとオレフィン系エラストマーの合計含有量が樹脂組成物の全体質量に対して30質量%~50質量%であることを特徴とする樹脂組成物を用いることにより、防滑性能及び加工性に優れた防滑シートになる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系エラストマーと、オレフィン系エラストマーと、を有する樹脂組成物からなる防滑シートであって、
前記樹脂組成物に含有される前記スチレン系エラストマーと前記オレフィン系エラストマーの質量比率(前記スチレン系エラストマー質量:前記オレフィン系エラストマー質量)が10:90~85:15であり、前記スチレン系エラストマーと前記オレフィン系エラストマーの合計質量が前記樹脂組成物の全体質量に対して30質量%~50質量%であることを特徴とする防滑シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の床に敷設される防滑シート、もしくは浴槽の底面に沈めて使う浴槽用シートまたは浴室やプールなどの水回り環境の床面で用いる防滑シートであって、乾燥環境はもちろん水回り環境下の使用においても優れた防滑性能を有し、また製造時の加工性も良好な防滑シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建築物や公共交通機関の床面や浴室内やプールなど水に濡れやすい環境下の床面に滑り止め目的で防滑シートが敷設されることがある。これらの防滑シートは、耐傷付性、耐摩耗性、難燃性に優れていることから可塑剤を含有させ塩化ビニル系樹脂がよく使用されてきた。しかし近年、環境問題の観点から焼却時に有害ガスが発生する恐れのある塩化ビニル系樹脂の使用が見直され、塩化ビニル系の樹脂に代わって焼却時有害ガスが発生しにくいオレフィン系樹脂を用いられることが増えている。
【0003】
ところでオレフィン系樹脂を用いた防滑シートは、乾燥している環境では良好な防滑性能を発揮するが、屋外で使用し雨が降っている場合や、浴室やプールサイドの水が多く存在するような環境下で使用した際は、防滑シートが動きやすくなり、それによって滑って転倒してしまうことが問題となっている。
【0004】
特に浴槽の底面に沈めて使う防滑シートの場合は、防滑シートが動き、それにより滑って転倒してしまうと大事故に繋がってしまう危険性が高いため、水が多く存在する環境下で使用した際も高い防滑性能を有する防滑シートが必要とされている。
【0005】
例えば、特許文献1では軟弾性素材で成形された板状のシートに隅部の複数個所に、吸盤を取り付けて保持することによって、十分な滑り止め機能を発揮するシートが記載されている。しかし、吸盤で滑り止め機能を果たすシートは、不要時に取り外し難いという問題があるため、載置するだけで滑り止め機能を果たすシートが好ましい。
【0006】
載置するだけの浴槽用防滑シートとしては、例えば特許文献2では、中間層とその表裏両面に表面層を形成し、シートに圧力をかけると吸盤のように地面に吸い付いて固定される防滑シートが提案されている。しかしこのシートは表面層と中間層を別々に作製しそれぞれを積層する必要があるため手間がかかり、製造面において改善の余地があった。
【0007】
本発明者は、シート製造時の加工性と滑り止め機能の両面を考慮し鋭意検討した結果、スチレン系エラストマーにオレフィン系エラストマーを混合すると、シートの防滑性能とシートの加工性が変化することを見出し、本発明の防滑シートの発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-248698号
【特許文献2】特開2007-244497号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、乾燥時に使用した時の防滑性能はもちろんのこと、水回り環境の床面などで使用した時も優れた防滑性能を有し、またシート製造時の加工性も良好な防滑シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記、目的を達成するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0011】
[1] スチレン系エラストマーと、オレフィン系エラストマーと、を有する樹脂組成物からなる防滑シートであって、
前記樹脂組成物に含有される前記スチレン系エラストマーと前記オレフィン系エラストマーの質量比率(前記スチレン系エラストマー質量:前記オレフィン系エラストマー質量)が10:90~85:15であり、前記スチレン系エラストマーと前記オレフィン系エラストマーの合計質量が前記樹脂組成物の全体質量に対して30質量%~50質量%であることを特徴とする防滑シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防滑シート(明細書中では、「防滑シート」又は「シート」と記載する。どちらの記載も本発明の防滑シートを指している)の特徴は、1)スチレン系エラストマーとオレフィン系エラストマーが混錬された混錬物(以下、この混錬物を「混合エラストマー」と記載する)を有する樹脂組成物からなり、この混合エラストマー中のスチレン系エラストマーとオレフィン系エラストマーの質量比(スチレン系エラストマー質量:オレフィン系エラストマー)が10:90~85:15であること、2)この混合エラストマーの質量が樹脂組成物の全体質量に対して30質量%~50質量%であること、が特徴である。樹脂組成物の全体質量とは、スチレン系エラストマーとオレフィン系エラストマーの合計質量(混合エラストマーの質量)に加え、充填剤、添加剤、加工助剤を加えて混錬し作製した樹脂組成物の質量のことを指す。
【0013】
本発明者はスチレン系エラストマーとオレフィン系エラストマーを前述した1)の特徴の質量比で混合した混合エラストマーを含有する樹脂組成物からなる防滑シートは乾燥環境下もしくは水濡れ環境下のいずれにおいても、優れた防滑性能を有し、また上記の質量比で混合したシートを作製する時は、シート作製時の加工性が良好になることを見出した。
【0014】
混合エラストマー中のオレフィン系エラストマーの配合比が15%未満(スチレン系エラストマーが85%を超える)の場合は、完成したシートの防滑性が乾燥状態では良好であるが、水回り環境下で使用した際に、防滑性が低下し滑りやすくなるため好ましくない。またシート加工時にローラーに混合エラストマーが固着するなど、加工性に難があるため好ましくない。また混合エラストマーにおいて、オレフィン系エラストマーの割合が90%を超えた(スチレン系エラストマーが10%未満)場合は、樹脂組成物が柔らかくコシが無いため、シートの加工が困難になり好ましくない。
【0015】
また混合エラストマーに、含有されるスチレン系エラストマーとオレフィン系エラストマー質量比が80:20~20:80の範囲、さらに好ましくは80:20~40:60の範囲であることが好ましい。スチレン系エラストマーとオレフィン系エラストマーの質量比が前記範囲内の混合エラストマーを含有する樹脂組成物からなる防滑シートが、乾燥環境下、水回り環境下使用のいずれにおいても優れた防滑性能を有し、またシートの加工性も良好の防滑シートとなるためさらに好ましい。
【0016】
今回の発明において使用されるスチレン系エラストマーとしては、例えばSBS、SIS、SEBS、SEPSなどのスチレン系ブロック共重合体の熱可塑性エラストマーが挙げられる。
またオレフィン系エラストマーとしては、例えばエチレン・ブテン共重合体(EB)エチレン・オクテン共重合体(EO)等のように、ポリエチレンやポリプロピレン等の汎用ポリオレフィンを主鎖、ブテンやオクテン等をコモノマーとした共重合体が挙げられる。
【0017】
本発明の第2の特徴は防滑シートを構成する樹脂組成物中の、混合エラストマー質量(スチレン系エラストマーとオレフィン系エラストマーの合計質量)が30質量%~50質量%であることである。樹脂組成物中に含有される混合エラストマー量が前記の範囲内であることによって、防滑マットに優れた防滑性能をもたらすことができ、また加工性も良好な防滑シートを作製することができる。
【0018】
混合エラストマー量が30質量%未満では、シートの防滑性能が不十分なものになるため好ましくない。また混合エラストマー量が50質量部を超えると、シートに十分な量の充填剤を付与することができないため比重が軽くなり、床面とシートの摩擦が小さくなり、シートが動きやすくなるため好ましくない。
【0019】
特に浴槽の底面に載置して使用する防滑シートを作製する際は、シートの比重を大きくする必要がある。具体的にはシート比重を1.3以上にするのが好ましい。そのため本発明のシートには充填剤を添加することが好ましい。充填剤としては、例えば、硫酸バリウムや炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0020】
しかし、混合エラストマー量が50質量部を超えてしまうと充填剤を十分量投入することができないためシートの比重が低下し、その結果として底面とシートの間に水が入り込み水膜を形成し、シートが動きやすくなり危険なため好ましくない。
【0021】
また混合エラストマーと充填剤以外にも、分散剤、界面活性剤、離型剤、潤滑剤、等の加工助剤を必要に応じて添加してもよい。例えば、ステアリン酸カルシウムなどが挙げられる。またシートに機能性を持たせる場合は、抗菌剤、難燃剤等の添加剤を適宜添加してもよいし、シートを着色する場合は、染料や顔料といった着色料を適宜添加してもよい。
【0022】
また本発明のシートの裏表両表面には、多数の溝や凹凸、エンボスなどをつけることが好ましい。この溝や凹凸が排水の役割を果たし、その結果、床面とシートの間、またはシートと使用者の体(主に足)の間への水の入りこみ、水膜の形成が抑制されるため、シートがずれて使用者が転倒してしまうリスクを低減することができる。
【0023】
シートの溝や凹凸、エンボスの形状は、排水の作用が働く形状であれば特に限定されず、求められるシートの意匠に応じて自由に設計することができる。例えば、格子柄や水玉柄などの形状や、ストライプ・ボーダーなどの線状の形状が挙げられる。また表裏両面につける溝や凹凸は、シート表面と裏面が同じ形状でも良いし、異なる形状でも良い。
図1では、表裏両面に異なる形状を付与したシートを例示する。溝や凹凸の形状は、熱プレスやエンボスロールなどによって付与することができる。
【0024】
本発明のシートの製造方法に関しては、前述した特徴を満たせば特に限られたものではない。例えば、押出成形や射出成型、カレンダー成型等の既知の技術で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の防滑シートの形状の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1:防滑シート 2:凹凸 3:溝
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明が適用された防滑シートについて実施例を示すが、本発明のこれら実施例のものに特に限定するものではない。
【0028】
[実施例1]
混合エラストマーを構成するスチレン系エラストマーとしては、水添スチレン系熱可塑性エラストマー(水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体(以下、SEBSと記載))を使用した。またオレフィン系エラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー(以下、TPOとする)を使用した。実施例1では、混合エラストマー中のSEBSとTPOの質量比が50:50になるように混錬した。また樹脂組成物全体量に対して、混合エラストマー質量が35質量%になるように調整している。混合エラストマーと充填剤と、添加剤、加工助剤からなる樹脂組成物をニーダーで混錬し、ロールにてシート状に成型した。そのあとシート状に成型した樹脂組成物に熱プレスでエンボス付与を行い、防滑シートを作製した。
【0029】
[実施例2]
実施例2では、混合エラストマー中のSEBSとTPOの比が75:25になるように混合して、残りの樹脂組成物の構成及び、作製方法は、実施例1と同様にして防滑シートを作製した。
【0030】
[比較例1]
TPOを投入せずに、SEBSのみで混合エラストマーを構成した(すなわち、樹脂組成物全体量に対し、SEBSが35質量%となっている)。残りの樹脂組成物の構成及び作製方法は、実施例1と同様にして防滑シートを作製した。
【0031】
[比較例2]
SEBSを投入せずに、TPOのみで混合エラストマーを構成した(すなわち、樹脂組成物全体量に対し、TPOが35質量%となっている)。残りの樹脂組成物の構成及び作製方法は、実施例1と同様にして防滑シートを作製した。
【0032】
[官能試験による防滑性能評価]
作製した防滑シートを用いて、被験者(20代~60代)15人に対し官能試験を実施し、防滑性能を評価した。防滑性能は、シートが乾燥した状態(乾燥状態)及び、シートを水に濡らした状態(水濡れ状態)の2通りの条件で行った。
【0033】
官能評価は、乾燥状態及び水濡れ状態の防滑シートを机の上に固定し、被験者が一方向に手でこすり評価した。その後被験者にアンケートを取り、シートの滑りにくさを、「とても滑りにくい」を1、「滑りにくい」を2、「やや滑りにくい」を3、「やや滑りやすい」を4、「滑りやすい」を5、「とても滑りやすい」を6、と6段階で評価し、15人の被験者の官能評価の結果を平均し数値化した。防滑性能の判定基準は、1)官能評価が乾燥状態、水濡れ状態のどちらにおいても上記官能評価の平均化した数値が3.5以下であること、2)水濡れ状態と乾燥状態のシートの上記官能評価の平均化した数値の差(Δ)が1以下であること、とし、1)と2)を両方を満たすシートを合格とした。その結果を表1にまとめる。
【0034】
【0035】
実施例1及び実施例2は、スチレン系エラストマーであるSEBSと、オレフィン系エラストマーであるTPOを混合した混合エラストマーを有する樹脂組成物から作製した防滑シートである。この防滑シートは、乾燥時、水濡れ時のいずれの状態においても、官能評価の数値が3.5以下であり、「滑りにくい」評価となった。また乾燥時と水濡れ時の官能評価の数値の差Δが小さく、通常環境、水濡れ環境のどちらにおいても優れた防滑性能を有する防滑シートとなっている。
【0036】
また実施例1及び、実施例2の防滑シートの加工段階においてもローラーにくっつくなどの問題が特になく、シートの加工においても問題なく作製することができる。
【0037】
一方で、比較例1のようにTPOを抜いてSEBSのみで混合エラストマーを構成した場合は、乾燥時と水濡れ時の官能評価の数値差Δが大きく、シートが水濡れした際に途端に滑りやすくなってしまった。またシートの加工時においても、シートがローラーにくっついてしまうことがあり、加工性にも難があった。
【0038】
またSEBSを抜いて、TPOのみで混合エラストマーを構成した場合は、乾燥時、水濡れ時においてもシートの防滑性能には問題はないが、樹脂組成物が柔らかくコシがないため、シート状に加工するのに難があった。
【0039】
以上より、本発明の防滑シートは容易に加工することができ、また乾燥環境及び水濡れ環境下においても優れた防滑性能を有する。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の防滑シートは乾燥環境下、及び水濡れ環境下のいずれの環境においても優れた防滑性能を発揮するため、建築物や公共交通機関等の床面はもちろん、屋外で雨に濡れるような所や、浴槽の中、浴室、プールサイドなどの水回り環境下でも好ましく使用することができる。