(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145937
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】反射防止膜付き光学部材
(51)【国際特許分類】
G02B 1/115 20150101AFI20231004BHJP
【FI】
G02B1/115
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052860
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】潮田 康隆
(72)【発明者】
【氏名】川村 祐介
【テーマコード(参考)】
2K009
【Fターム(参考)】
2K009AA09
2K009BB02
2K009CC03
2K009DD04
2K009EE01
2K009FF02
(57)【要約】
【課題】波長450nm~650nmの光に相当する水色~橙色の色味を有する反射防止膜付き光学部材を提供する。
【解決手段】本発明に係る反射防止膜付き光学部材は、光透過性基材の両面に反射防止膜が形成されたものであり、該光学部材に対して任意の一方の面から光を照射したときの反射スペクトルについて、波長がw1、w2、w3、w4、w5(但し、w1<w2<w3<w4<w5、w1<400nm、450nm≦w3≦650nm、w5>700nm)である場合における反射率をそれぞれr1、r2、r3、r4、r5としたとき、r2,r4<1%;2%<r1=r3=r5<5%;の各条件を満たす。該光学部材の任意の一方の面の反射率は、両面の反射率に比べて約1/2の値となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性基材の両面に反射防止膜が形成された反射防止膜付き光学部材であって、
前記反射防止膜は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に合計で4層以上積層された積層構造を有し、高屈折率層及び低屈折率層の積層数及び積層順序が前記光透過性基材の両面で同一であり、
該光学部材に対して任意の一方の面から光を照射したときの反射スペクトルについて、波長(nm)がw1、w2、w3、w4、w5(但し、w1<w2<w3<w4<w5、w1<400nm、450nm≦w3≦650nm、w5>700nm)である場合における反射率(%)をそれぞれr1、r2、r3、r4、r5としたとき、下記(a)及び(b):
(a)r2,r4<1%
(b)2%<r1=r3=r5<5%
(但し、
w1は、w2よりも低波長で反射率がr3と等しくなる最大波長であり、
w2は、w1~w3における最小反射率となる波長であり、
w3は、w2~w4における最大反射率となる波長であり、
w4は、w3~w5における最小反射率となる波長であり、
w5は、w4よりも高波長で反射率がr3と等しくなる最低波長である。)
の条件を満たし、
該光学部材の任意の一方の面の反射スペクトルについて、波長(nm)がw’1、w’2、w’3、w’4、w’5(但し、w’1<w’2<w’3<w’4<w’5、w’1<400nm、450nm≦w’3≦650nm、w’5>700nm)である場合における反射率(%)をそれぞれr’1、r’2、r’3、r’4、r’5としたとき、下記(c)及び(d):
(c)r’2,r’4<0.5%
(d)1%<r’1=r’3=r’5<2.5%
(但し、
w’1は、w’2よりも低波長で反射率がr’3と等しくなる最大波長であり、
w’2は、w’1~w’3における最小反射率となる波長であり、
w’3は、w’2~w’4における最大反射率となる波長であり、
w’4は、w’3~w’5における最小反射率となる波長であり、
w’5は、w’4よりも高波長で反射率がr’3と等しくなる最低波長である。)
の条件を満たす、反射防止膜付き光学部材。
【請求項2】
r2及びr4がいずれも0.5%未満である、請求項1に記載の反射防止膜付き光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜付き光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ等の光学部材では、表面に反射防止膜を設けることが一般的に行われている。この反射防止膜は、例えば、それぞれ複数の高屈折率層及び低屈折率層を積層して形成される。そして、各層の屈折率及び膜厚を適宜調整することにより、可視光領域の反射率を低くする一方で透過率を高くすることができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、反射防止膜付き光学部材の多用途化が進んでおり、反射率が低いだけではなく、外観上、所望の色味を有することも求められる。しかし、従来の反射防止膜付き光学部材は、可視光領域の反射率が一律に低くなるように設計されていたため、可視光領域の短波長側又は長波長側で反射率が比較的高くなる領域の波長に応じて色味が決まっていた。例えば、可視光領域の短波長側(概ね450nm未満)に反射率が比較的高くなる領域が存在する場合には青色系又は紫色系の色味となり、可視光領域の長波長側(概ね650nm超)に反射率が比較的高くなる領域が存在する場合には赤色系の色味となっていた。
【0005】
そこで、本発明は、波長450nm~650nmの光に相当する水色~橙色系の色味を有する反射防止膜付き光学部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る反射防止膜付き光学部材は、光透過性基材の両面に反射防止膜が形成された反射防止膜付き光学部材であって、反射防止膜は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に合計で4層以上積層された積層構造を有し、高屈折率層及び低屈折率層の積層数及び積層順序が前記光透過性基材の両面で同一であり、該光学部材に対して任意の一方の面から光を照射したときの反射スペクトルについて、波長(nm)がw1、w2、w3、w4、w5(但し、w1<w2<w3<w4<w5、w1<400nm、450nm≦w3≦650nm、w5>700nm)である場合における反射率(%)をそれぞれr1、r2、r3、r4、r5としたとき、下記(a)及び(b):
(a)r2,r4<1%
(b)2%<r1=r3=r5<5%
(但し、
w1は、w2よりも低波長で反射率がr3と等しくなる最大波長であり、
w2は、w1~w3における最小反射率となる波長であり、
w3は、w2~w4における最大反射率となる波長であり、
w4は、w3~w5における最小反射率となる波長であり、
w5は、w4よりも高波長で反射率がr3と等しくなる最低波長である。)
の条件を満たし、該光学部材の任意の一方の面の反射スペクトルについて、波長(nm)がw’1、w’2、w’3、w’4、w’5(但し、w’1<w’2<w’3<w’4<w’5、w’1<400nm、450nm≦w’3≦650nm、w’5>700nm)である場合における反射率(%)をそれぞれr’1、r’2、r’3、r’4、r’5としたとき、下記(c)及び(d):
(c)r’2,r’4<0.5%
(d)1%<r’1=r’3=r’5<2.5%
(但し、
w’1は、w’2よりも低波長で反射率がr’3と等しくなる最大波長であり、
w’2は、w’1~w’3における最小反射率となる波長であり、
w’3は、w’2~w’4における最大反射率となる波長であり、
w’4は、w’3~w’5における最小反射率となる波長であり、
w’5は、w’4よりも高波長で反射率がr’3と等しくなる最低波長である。)
の条件を満たす。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、波長450nm~650nmの光に相当する水色~橙色系の色味を有する反射防止膜付き光学部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る反射防止膜付き光学部材に対して任意の一方の面から光を照射したときの反射スペクトルの形状の一例を模式的に示す図である。
【
図2】本実施形態に係る反射防止膜付き光学部材の構成の一例を模式的に示す図である。
【
図3A】実施例1の光学部材の反射スペクトルのシミュレーション結果を示す図である。
【
図3B】実施例1の光学部材の片面の反射スペクトルのシミュレーション結果を示す図である。
【
図4A】実施例2の光学部材の反射スペクトルのシミュレーション結果を示す図である。
【
図4B】実施例2の光学部材の片面の反射スペクトルのシミュレーション結果を示す図である。
【
図5A】実施例3の光学部材の反射スペクトルのシミュレーション結果を示す図である。
【
図5B】実施例3の光学部材の片面の反射スペクトルのシミュレーション結果を示す図である。
【
図6A】実施例4の光学部材の反射スペクトルのシミュレーション結果を示す図である。
【
図6B】実施例4の光学部材の片面の反射スペクトルのシミュレーション結果を示す図である。
【
図7A】比較例1の光学部材の反射スペクトルのシミュレーション結果を示す図である。
【
図7B】比較例1の光学部材の片面の反射スペクトルのシミュレーション結果を示す図である。
【
図8A】比較例2の光学部材の反射スペクトルのシミュレーション結果を示す図である。
【
図8B】比較例2の光学部材の片面の反射スペクトルのシミュレーション結果を示す図である。
【
図9】実施例5の光学部材の反射スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図面における部材の形状及び寸法は、便宜上、見やすいように調整されている。数値範囲を表す記号である「~」は、特に記載のない限り、当該範囲の下限及び上限を含むことを意図して用いられる。
【0010】
本実施形態に係る反射防止膜付き光学部材(以下、単に「光学部材」ともいう。)は、光透過性基材の両面に反射防止膜が形成されたものである。言い換えれば、本実施形態に係る光学部材は、光透過性基材の両面に反射防止膜を有する。該反射防止膜は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に合計で4層以上積層された積層構造を有する。
【0011】
以下では、まず、本実施形態に係る光学部材の分光反射率特性について説明し、次いで、光学部材の構成について説明する。
【0012】
(光学部材の分光反射率特性)
本実施形態に係る光学部材は、任意の一方の面から光を照射したときの反射スペクトルについて、波長(nm)がw1、w2、w3、w4、w5(但し、w1<w2<w3<w4<w5、w1<400nm、450nm≦w3≦650nm、w5>700nm)である場合における反射率(%)をそれぞれr1、r2、r3、r4、r5としたとき、下記(a)及び(b):
(a)r2,r4<1%
(b)2%<r1=r3=r5<5%
(但し、
w1は、w2よりも低波長で反射率がr3と等しくなる最大波長であり、
w2は、w1~w3における最小反射率となる波長であり、
w3は、w2~w4における最大反射率となる波長であり、
w4は、w3~w5における最小反射率となる波長であり、
w5は、w4よりも高波長で反射率がr3と等しくなる最低波長である。)
の条件を満たし、任意の一方の面の反射スペクトルについて、波長(nm)がw’1、w’2、w’3、w’4、w’5(但し、w’1<w’2<w’3<w’4<w’5、w’1<400nm、450nm≦w’3≦650nm、w’5>700nm)である場合における反射率(%)をそれぞれr’1、r’2、r’3、r’4、r’5としたとき、下記(c)及び(d):
(c)r’2,r’4<0.5%
(d)1%<r’1=r’3=r’5<2.5%
(但し、
w’1は、w’2よりも低波長で反射率がr’3と等しくなる最大波長であり、
w’2は、w’1~w’3における最小反射率となる波長であり、
w’3は、w’2~w’4における最大反射率となる波長であり、
w’4は、w’3~w’5における最小反射率となる波長であり、
w’5は、w’4よりも高波長で反射率がr’3と等しくなる最低波長である。)
の条件を満たす。
【0013】
本実施形態に係る光学部材の分光反射率特性について
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る光学部材に対して任意の一方の面から光を照射したときの反射スペクトルの形状の一例を模式的に示したものである。
図1に示すように、本実施形態に係る光学部材の反射スペクトルは、w1からw5までの波長範囲で略W字型の形状となる。
【0014】
w2は、w1~w3における最小反射率となる波長であり、w2における反射率(r2)は1%未満である。また、w4は、w3~w5における最小反射率となる波長であり、w4における反射率(r4)は1%未満である。このように、r2及びr4が1%未満であることにより、良好な反射防止特性を実現することができる。r2及びr4は低い方が好ましく、例えば、0.5%未満であることが好ましい。
【0015】
w3は、波長400nm~700nmの可視光領域において最大反射率となる波長であり、450nm~650nmの範囲内である。また、w3における反射率(r3)は、2%超5%未満である。このように、r3が2%超5%未満であることにより、反射率を抑えながら、w3の波長に応じた水色~橙色系の色味を実現することができる。
【0016】
なお、反射スペクトルの図示は省略するが、本実施形態に係る光学部材の任意の一方の面の反射率は、本実施形態に係る光学部材の両面の反射率に比べて約1/2の値となる。したがって、本実施形態に係る光学部材の任意の一方の面の反射スペクトルについて、w’2及びw’4における反射率(r’2及びr’4)は、0.5%未満となり、w’3における反射率(r’3)は、1%超2.5%未満となる。
【0017】
本実施形態に係る光学部材は、反射スペクトルが上記のような略W字型の形状であるため、光学部材の用途に応じて、水色~橙色系の所望の色味を実現することができる。また、本実施形態に係る光学部材は、品質異常を目視で確認することができ、品質管理が容易であるという利点もある。本実施形態に係る光学部材を製造する際には、片面の反射防止膜を製膜した段階で所定の反射スペクトルになっているか否かを確認することもできる。この場合、品質異常時の是正処置をより早く実施することが可能となり、収率向上に寄与する。
【0018】
なお、所望の反射スペクトルを示す光学部材は、高屈折率層及び低屈折率層のそれぞれの膜厚及び屈折率やそれらの積層数をシミュレーションにより決定することにより製造することができる。シミュレーションに使用可能なソフトウェアとしては、例えば、Synopsys社のDiffractMODが挙げられる。
【0019】
また、製造後の光学部材の反射スペクトルは、例えば、分光光度計(株式会社島津製作所製、SolidSpec-3700)を用いて、入射光線の入射角を0度として測定することができる。
【0020】
(光学部材の構成)
上述したとおり、本実施形態に係る光学部材は、光透過性基材の両面に反射防止膜が形成されたものである。当該反射防止膜は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に合計で4層以上積層された積層構造を有する。
【0021】
本実施形態に係る光学部材の構成の一例を
図2の模式図に示す。
図2に示す光学部材1は、光透過性基材2の両面に反射防止膜3a及び3bを有する。反射防止膜3aは、それぞれ3層の高屈折率層(第1高屈折率層11a~第3高屈折率層13a)と低屈折率層(第1低屈折率層21a~第3低屈折率層23a)とが交互に積層されてなり、最外層は第3低屈折率層23aである。同様に、反射防止膜3bは、それぞれ3層の高屈折率層(第1高屈折率層11b~第3高屈折率層13b)と低屈折率層(第1低屈折率層21b~第3低屈折率層23b)とが交互に積層されてなり、最外層は第3低屈折率層23bである。すなわち、高屈折率層及び低屈折率層の積層数及び積層順序は、光透過性基材2の両面で同一である。
【0022】
光透過性基材2としては、厚さを0.4mmとした場合に、波長400nm~700nmにおける透過率が91%以上であるものが好ましい。具体例としては、ガラス基材、プラスチック基材等が挙げられ、ガラス基材が好ましい。ガラス基材の材料としては、無アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等が挙げられる。また、プラスチック基材の材料としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0023】
光透過性基材2の表面形状は特に制限されず、平面状であってもよく、非球面状又は球面状であってもよい。
【0024】
光透過性基材2の波長550nmにおける屈折率は、例えば、1.40~1.80の範囲内であることが好ましく、1.45~1.60の範囲内であることがより好ましい。なお、光透過性基材の屈折率、並びに後述する高屈折率層及び低屈折率層の屈折率は、例えば、エリプソ式膜厚測定装置(株式会社SCREENホールディングス製、RE-8000)を用いて、25℃で測定することができる。
【0025】
反射防止膜3a及び3bを構成する高屈折率層の材料としては、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化チタン、酸化亜鉛等の酸化物;シリコンカーバイド;ダイヤモンドライクカーボン;などが挙げられる。高屈折率層は、好ましくは酸化ニオブ層である。
【0026】
高屈折率層の波長550nmにおける屈折率は、例えば、2.20~2.60の範囲内であることが好ましく、2.25~2.50の範囲内であることがより好ましく、2.30~2.40の範囲内であることがさらに好ましい。
【0027】
高屈折率層の膜厚は、10nm~110nmの範囲内であることが好ましい。なお、高屈折率層の膜厚、及び後述する低屈折率層の膜厚は、例えば、X線回折装置(株式会社リガク製、SmartLab)を用いて測定することができる。
【0028】
反射防止膜3a及び3bを構成する低屈折率層の材料としては、酸化ケイ素、フッ化マグネシウム等が挙げられる。低屈折率層は、好ましくは酸化ケイ素層である。
【0029】
低屈折率層の波長550nmにおける屈折率は、例えば、1.30~1.50の範囲内であることが好ましく、1.35~1.47の範囲内であることがより好ましく、1.40~1.45の範囲内であることがさらに好ましい。
【0030】
低屈折率層のうち最外層(第3低屈折率層23a及び23b)の膜厚は、70nm~120nmの範囲内であることが好ましく、75nm~110nmの範囲内であることがより好ましく、80nm~100nmの範囲内であることがさらに好ましい。低屈折率層のうち最外層以外の層の膜厚は、10nm~110nmの範囲内であることが好ましい。
【0031】
高屈折率層及び低屈折率層の材料、屈折率、及び膜厚は、反射防止膜3aと反射防止膜3bとの間で同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。すなわち、反射防止膜3aと反射防止膜3bとは同一の構成であることが好ましい。このように、反射防止膜3aと反射防止膜3bとを同一の構成とすることにより、同じ製膜条件で反射防止膜3aと反射防止膜3bとの両者を製膜することが可能となり、生産プロセスが簡潔になる。
【0032】
なお、
図2では、高屈折率層と低屈折率層との合計の積層数が6層であり、且つ、最外層が低屈折率層である例を示したが、高屈折率層及び低屈折率層の積層数及び積層順序が光透過性基材の両面で同一である限り、この例に限定されるものではない。例えば、高屈折率層と低屈折率層との合計の積層数は、4層~10層であってもよく、4層~8層であってもよい。また、最外層は、低屈折率層であってもよく、高屈折率層であってもよい。好ましくは、高屈折率層と低屈折率層との合計の積層数が6層であり、且つ、最外層が低屈折率層である。
【0033】
本実施形態に係る光学部材の製造方法は特に制限されず、公知の製造方法を採用することができる。例えば、真空室内に、高屈折率層のターゲット(例えば、Nb)、低屈折率層のターゲット(例えば、Si)、及び光透過性基材を配置し、プロセスガスを導入しながらターゲットを交互にスパッタすることにより、光透過性基材の一方の表面上に高屈折率層及び低屈折率層を交互に積層させる。光透過性基材の他方の表面上にも同様にして高屈折率層及び低屈折率層を交互に積層させることにより、本実施形態に係る光学部材を得ることができる。
【実施例0034】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
<実施例1>
実施例1では、光透過性基材の両面に表1に示す構成の反射防止膜を形成した光学部材を設計し、設計した光学部材の反射スペクトルをシミュレーションによって検証した。シミュレーションには、Synopsys社のDiffractMODを用いた。
【0036】
実施例1の光学部材の反射スペクトルを
図3Aに示し、その反射スペクトルにおける波長w2~w4及び反射率r2~r4を表1に示す。
図3A及び表1に示すとおり、実施例1の光学部材は、波長400nm~700nmの可視光領域において最大反射率となる波長w3が550nm、その反射率r3が3.95%であり、緑色系の色味を示すものであった。
【0037】
実施例1の光学部材の片面の反射スペクトルを
図3Bに示し、その反射スペクトルにおける波長w’2~w’4及び反射率r’2~r’4を表1に示す。
図3B及び表1に示すとおり、片面の反射率は、両面の反射率に比べて約1/2の値であった。
【0038】
<実施例2>
実施例2では、光透過性基材の両面に表1に示す構成の反射防止膜を形成した光学部材を設計し、実施例1と同様にして、設計した光学部材の反射スペクトルをシミュレーションによって検証した。
【0039】
実施例2の光学部材の反射スペクトルを
図4Aに示し、その反射スペクトルにおける波長w2~w4及び反射率r2~r4を表1に示す。
図4A及び表1に示すとおり、実施例2の光学部材は、波長400nm~700nmの可視光領域において最大反射率となる波長w3が550nm、その反射率r3が2.46%であり、緑色系の色味を示すものであった。
【0040】
実施例2の光学部材の片面の反射スペクトルを
図4Bに示し、その反射スペクトルにおける波長w’2~w’4及び反射率r’2~r’4を表1に示す。
図4B及び表1に示すとおり、片面の反射率は、両面の反射率に比べて約1/2の値であった。
【0041】
<実施例3>
実施例3では、光透過性基材の両面に表1に示す構成の反射防止膜を形成した光学部材を設計し、実施例1と同様にして、設計した光学部材の反射スペクトルをシミュレーションによって検証した。
【0042】
実施例3の光学部材の反射スペクトルを
図5Aに示し、その反射スペクトルにおける波長w2~w4及び反射率r2~r4を表1に示す。
図5A及び表1に示すとおり、実施例3の光学部材は、波長400nm~700nmの可視光領域において最大反射率となる波長w3が500nm、その反射率r3が4.62%であり、水色系の色味を示すものであった。
【0043】
実施例3の光学部材の片面の反射スペクトルを
図5Bに示し、その反射スペクトルにおける波長w’2~w’4及び反射率r’2~r’4を表1に示す。
図5B及び表1に示すとおり、片面の反射率は、両面の反射率に比べて約1/2の値であった。
【0044】
<実施例4>
実施例4では、光透過性基材の両面に表1に示す構成の反射防止膜を形成した光学部材を設計し、実施例1と同様にして、設計した光学部材の反射スペクトルをシミュレーションによって検証した。
【0045】
実施例4の光学部材の反射スペクトルを
図6Aに示し、その反射スペクトルにおける波長w2~w4及び反射率r2~r4を表1に示す。
図6A及び表1に示すとおり、実施例4の光学部材は、波長400nm~700nmの可視光領域において最大反射率となる波長w3が590nm、その反射率r3が4.25%であり、橙色系の色味を示すものであった。
【0046】
実施例4の光学部材の片面の反射スペクトルを
図6Bに示し、その反射スペクトルにおける波長w’2~w’4及び反射率r’2~r’4を表1に示す。
図6B及び表1に示すとおり、片面の反射率は、両面の反射率に比べて約1/2の値であった。
【0047】
<比較例1>
比較例1では、光透過性基材の両面に表2に示す構成の反射防止膜を形成した光学部材を設計し、実施例1と同様にして、設計した光学部材の反射スペクトルをシミュレーションによって検証した。
【0048】
比較例1の光学部材の反射スペクトルを
図7Aに示す。
図7Aに示すとおり、比較例1の光学部材は、可視光領域の短波長側の反射率が高く、青色系の色味を示すものであった。
【0049】
比較例1の光学部材の片面の反射スペクトルを
図7Bに示す。
図7Bに示すとおり、片面の反射率は、両面の反射率に比べて約1/2の値であった。
【0050】
<比較例2>
比較例2では、光透過性基材の両面に表2に示す構成の反射防止膜を形成した光学部材を設計し、実施例1と同様にして、設計した光学部材の反射スペクトルをシミュレーションによって検証した。
【0051】
比較例2の光学部材の反射スペクトルを
図8Aに示す。
図8Aに示すとおり、比較例2の光学部材は、可視光領域の長波長側の反射率が高く、赤色系の色味を示すものであった。
【0052】
比較例2の光学部材の片面の反射スペクトルを
図8Bに示す。
図8Bに示すとおり、片面の反射率は、両面の反射率に比べて約1/2の値であった。
【0053】
【0054】
【0055】
<実施例5>
実施例5では、実施例2と同様の光学部材を実際に製造した。光透過性基材としてはホウケイ酸ガラス基板(サイズ:300mm×400mm×0.4mm厚、波長550nmにおける屈折率:1.52)を使用した。第1~第3高屈折率層としては酸化ニオブ層を採用し、ニオブをターゲットとしてマグネトロンスパッタリングで製膜した。第1~第3低屈折率層としては酸化ケイ素層を採用し、ケイ素をターゲットとしてマグネトロンスパッタリングで製膜した。各層の屈折率及び膜厚を表3に示す。なお、各層の屈折率は、エリプソ式膜厚測定装置(株式会社SCREENホールディングス製、RE-8000)を用いて、25℃で測定した。また、各層の膜厚は、X線回折装置(株式会社リガク製、SmartLab)を用いて測定した。
【0056】
実施例5の光学部材の反射スペクトルを
図9に示し、その反射スペクトルにおける波長w2~w4及び反射率r2~r4を表3に示す。なお、反射スペクトルは、分光光度計(株式会社島津製作所製、SolidSpec-3700)を用いて、入射光線の入射角を0度として測定した。
図9及び表3に示すとおり、実施例5の光学部材は、波長400nm~700nmの可視光領域において最大反射率となる波長w3が548nm、その反射率r3が2.66%であり、緑色系の色味を示すものであった。
【0057】