IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニッポン高度紙工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-気体封入式袋状緩衝材 図1
  • 特開-気体封入式袋状緩衝材 図2
  • 特開-気体封入式袋状緩衝材 図3
  • 特開-気体封入式袋状緩衝材 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145976
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】気体封入式袋状緩衝材
(51)【国際特許分類】
   B65D 81/05 20060101AFI20231004BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20231004BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
B65D81/05 400
B65D65/40 D
B32B27/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052917
(22)【出願日】2022-03-29
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
(71)【出願人】
【識別番号】390032230
【氏名又は名称】ニッポン高度紙工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 享平
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 貴士
(72)【発明者】
【氏名】北岡 卓也
【テーマコード(参考)】
3E066
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E066AA51
3E066CA01
3E066CA03
3E066CB03
3E066HA01
3E066JA01
3E066KA20
3E066LA23
3E086AA23
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA14
3E086BA15
3E086BB61
3E086BB62
3E086BB84
3E086BB85
4F100AK01A
4F100AK41B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100DG10A
4F100GB15
4F100HB31C
4F100JA13A
4F100JB16B
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】製品搬送時の振動、衝撃による、品質低下を防止することができる、気体封入式袋状緩衝材を提供する。
【解決手段】紙基材と樹脂フィルムとを積層一体化させた紙シートからなり、内部に気体を封入させる気体封入式袋状緩衝材を、紙基材が袋状緩衝材の外側に配置され、樹脂フィルムが袋状緩衝材の内側に配置された構成とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と樹脂フィルムとを積層一体化させた紙シートからなり、内部に気体を封入させる袋状緩衝材であって、
該紙基材が、該袋状緩衝材の外側に配置され、
該樹脂フィルムが、該袋状緩衝材の内側に配置された
ことを特徴とする気体封入式袋状緩衝材。
【請求項2】
前記紙基材の密度が0.75g/cm~1.20g/cmであることを特徴とする請求項1に記載の気体封入式袋状緩衝材。
【請求項3】
前記紙基材の厚さが15μm~100μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の気体封入式袋状緩衝材。
【請求項4】
前記樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の気体封入式袋状緩衝材。
【請求項5】
複数の前記紙シートが積層され、前記樹脂フィルム同士が封口されていることで袋状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の気体封入式袋状緩衝材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙基材と樹脂フィルムとを積層一体化させた紙シートを用いた気体封入式袋状緩衝材に関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷の軽減を目的とし、紙シートで気体封入式袋状緩衝材を形成したものが実用化されている。
この種の気体封入式袋状緩衝材としては、各種形態が提案されているが、基本的な構成としては、樹脂フィルムを熱圧着した第1、第2の紙シート同士を、それぞれの樹脂フィルムが内面側となるようにして重ね、第1、第2の紙シートの外周側の樹脂フィルム同士を熱圧着し、この樹脂フィルム同士の熱圧着部内方側部分に気体封入室を設けた構成となっている(例えば、下記特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭51-53278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献などにも記載されているが、この種の気体封入式袋状緩衝材は、表面側が紙基材によって構成されているので、印刷、着色、筆記などにより、紙シートの表面に、効能書き、宣伝、図柄などを記載することができる。
【0005】
しかしながら、この気体封入式袋状緩衝材における紙シートは、表面に露出し、保護すべき製品などに接することになる。そのため、製品搬送時の振動、衝撃で、紙シートの表面の効能書き、宣伝、図柄などが汚れ、或いは剥がれ、識別不良になり、気体封入式袋状緩衝材の品質が低下してしまうという課題があった。
【0006】
上述した問題の解決のために、本発明においては、製品搬送時の振動、衝撃による、品質低下を防止することができる、気体封入式袋状緩衝材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の気体封入式袋状緩衝材は、紙基材と樹脂フィルムとを積層一体化させた紙シートからなり、内部に気体を封入させる袋状緩衝材であって、紙基材が、袋状緩衝材の外側に配置され、樹脂フィルムが、袋状緩衝材の内側に配置された構成とされている。
すなわち、本発明の気体封入式袋状緩衝材は、紙基材と樹脂フィルムとを積層一体化させた紙シートを、樹脂フィルム面同士が対向するように重ね、紙シート外周の樹脂フィルム同士を封口し、この封口部の内方側部分に気体封入室を設けた構成となっている。
これにより、製品搬送時の振動、衝撃による気体封入式袋状緩衝材に記された効能書き、宣伝、図柄などが汚れ、或いは剥がれ、識別不良を防ぎ、品質の低下を防止することが出来る。
【0008】
本発明の気体封入式袋状緩衝材において、より好ましくは、紙基材の密度を0.75g/cm~1.20g/cmとする。紙基材の密度をこの範囲内とすることにより、紙に透明性を持たせることが可能になる。
本発明者の実験によれば、紙基材の密度を0.75g/cm以上にすると、紙基材を構成する繊維間の空間が少なくなり、その結果として、紙基材の透明感が高まり、この紙基材を介して、樹脂フィルムの色、または文字、或いはデザインを明確に目視、認識、識別することができる、世界初の気体封入式袋状緩衝材を提供することが出来ることとなった。
【0009】
従って、本発明の気体封入式袋状緩衝材において、特に、樹脂フィルムを、着色フィルム、または文字付フィルム、またはデザイン付フィルムとすれば、紙基材を介して、樹脂フィルムの色、または文字、或いはデザインが目視、確認、識別できるようにした、世界初の気体封入式袋状緩衝材となる。
【0010】
このような構成にすると、気体封入式袋状緩衝材の表面側に紙基材が存在するので、樹脂フィルムの色、または文字、或いはデザインが汚れたり、一部が剥がれたりすることが無いので、気体封入式袋状緩衝材としての品質が低下するのを防止することが出来る。
【0011】
紙基材の密度を0.75g/cm以上にすると、紙基材の透明度が高くなる理由について、今少し考察を加える。
【0012】
一般に、紙は不透明であると思われているが、紙はセルロース繊維が3次元に堆積した多孔質体であり、セルロース繊維と空気の屈折率に差があることにより、無数に存在するセルロース繊維と空気の界面で光の反射、屈折が生じているから不透明になっている。
【0013】
これに対して、紙基材の密度を0.75g/cm以上にすることにより、セルロース繊維間の空気層が少なく、その結果、セルロース繊維と空気の界面で生じる光の反射、屈折が抑えられるため、透明度が高い状態が維持される。これにより、紙基材を介して、樹脂フィルムの色、または文字、或いはデザインを明確に目視、認識、判別することができる、世界初の気体封入式袋状緩衝材を提供することが出来る。
【0014】
なお、セルロース繊維には、天然セルロース繊維や、再生セルロース繊維があり、特に限定なく使用できる。また、天然セルロース繊維を精製処理したものや、マーセル化したものであってもよい。天然セルロース繊維としては、マニラ麻やサイザル麻、ジュート、ケナフ、コットンリンター、エスパルト、針葉樹、広葉樹などがあるが、これらに限定されるものではない。セルロース繊維は叩解されていてもよい。
【0015】
また、本発明で使用する紙基材は、必ずしもセルロース単一素材で構成される必要はなく、透明性が損なわれない範囲であれば、その他の合成繊維を含むものであってもよい。ただし、環境配慮の点から、生分解性を有する合成繊維がより好ましい。
【0016】
合成繊維としては、ナイロン繊維やポリ乳酸繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、アラミド繊維などがあるが、これらに限定されるものではない。また、フィブリル化した繊維であっても、フィブリル化していない繊維であってもよく、これらの繊維を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
また、紙基材の密度を0.75g/cm以上にすると、紙基材と樹脂フィルムとを積層一体化する際の樹脂フィルムの孔空き発生率(不良率)を低下させることも確認した。
すなわち、紙基材の密度が0.75g/cmよりも小さいと、紙基材を構成する繊維間に大きな隙間が多く存在している状況であるので、樹脂フィルムが積層されるときに樹脂がその隙間に流れ込み、逆に、流れ込み外周部分(繊維に当接した部分)の樹脂フィルム部分は肉厚が薄くなり、この肉薄部が樹脂フィルムの孔空き箇所となるのである。
これに対して本発明では、紙基材の密度を0.75g/cm以上にすることで、紙基材を構成する繊維間の隙間が小さくなり、その結果として、積層一体化する際に樹脂がその隙間に流れ込みにくくなり、これにより、流れ込み外周部分(繊維に当接した部分)における樹脂フィルム部分の肉厚が薄くなりにくく、樹脂フィルムの孔空き箇所が無くなるのである。
さらに、この結果から、樹脂フィルムの肉厚を薄くすることも出来ることにもつながり、樹脂フィルムによる環境負荷を低減することにもつながる。
【0018】
一方、紙基材の密度を1.20g/cm以下とした理由は、密度を高めると、紙基材としての硬さが問題化する虞が有るからである。
すなわち、本発明は、搬送する製品を衝撃、振動から保護する気体封入式袋状緩衝材に関するものであるので、紙基材が硬すぎると、製品に傷などをつける虞もあるので、その点を考慮し、紙基材の密度の上限を1.20g/cmとした。
これにより、製品搬送時に、気体封入式袋状緩衝材によって、製品に傷をつけることも無くなる。
【0019】
また、本発明の気体封入式袋状緩衝材において、紙基材の厚さを、好ましくは15μm~100μm、より好ましくは20μm~80μm、最も好ましくは25μm~60μmとすることで、紙基材としての機械強度と透明性を維持する。
すなわち、紙基材の厚さを15μmより薄くすると、紙基材の機械強度、特に突刺強さの低下が激しく、衝撃や振動により容易に紙基材が破断することで、気体封入式袋状緩衝材としての機能を失う虞がある。また、紙基材の厚さを100μm以上とすると、紙基材の密度が高くても、厚さが厚いことにより、厚さ方向での光の反射、屈折が生じやすくなり、気体封入式袋状緩衝材としたときに、紙基材を介して、樹脂フィルムの色、または文字、或いはデザインが目視、確認、識別しづらくなる虞がある。このため、紙基材の厚さを15μm~100μmとすることが好ましい。
【0020】
なお、本発明で使用する樹脂フィルムは、熱により紙基材との圧着や、外周部の封口を行う場合には、熱可塑性樹脂によって構成された樹脂フィルムを使用する。加えて、環境配慮の点から、生分解性を有する熱可塑性樹脂がより好ましい。また、樹脂フィルムは、無機物が添加されたものであってもよい。
【0021】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、澱粉ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブチレートヒドロキシヘキサノエート(PHBH)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリエチレンテレフタレートサクシネート(PETS)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクセネートアジペート(PBSA)、ポリビニルアルコール(PVA)、などがあるが、これらに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0022】
上述の本発明によれば、製品搬送時の振動、衝撃による気体封入式袋状緩衝材に記された効能書き、宣伝、図柄などが汚れ、或いは剥がれ、識別不良となることを防ぎ、品質の低下を防止することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態にかかる気体封入式袋状緩衝材の側面図である。
図2】本発明の一実施形態にかかる気体封入式袋状緩衝材の写真である。
図3図2の気体封入式袋状緩衝材に用いた樹脂フィルムの写真である。
図4図1の気体封入式袋状緩衝材の一部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1図4は、本発明の一実施形態にかかる気体封入式袋状緩衝材を示している。
これらの図1図4において、1は気体封入式袋状緩衝材で、紙基材2に樹脂フィルム3を積層一体化した2枚の紙シート4同士を、それぞれの樹脂フィルム3が内面側となるようにして重ね、2枚の紙シート4の内部に気体を封入できるよう袋状に外周を封口している。
この封口部5の内方部分には、気体封入室6を設け、この気体封入室6には、気体の一例として空気が封入されている。
【0025】
本実施形態の特徴は、紙基材2の密度を0.75g/cm~1.20g/cmとしたことである。
また、樹脂フィルム3を、着色フィルム、または文字付フィルム、またはデザイン付フィルムとしたことも特徴となっている。
【0026】
この例では、樹脂フィルム3を黒色系とし、その内方に、印刷により文字の装飾を施した。
【0027】
本実施形態で特徴的なのは、図2に示すように、気体封入式袋状緩衝材1の完成品状態で、紙基材2を介して、図3に示す樹脂フィルム3に印刷した文字が、明確に識別、判読できるということである。
【0028】
また、樹脂フィルム3を着色フィルムとすれば、気体封入式袋状緩衝材1の完成品状態で、紙基材2を介して、樹脂フィルム3の色を明確に識別、判別できる。
さらに、樹脂フィルム3をデザイン付フィルムとすれば、気体封入式袋状緩衝材1の完成品状態で、紙基材2を介して、樹脂フィルム3のデザインを明確に識別、判別できる。
また、樹脂フィルム3をQRコード付きとすれば、気体封入式袋状緩衝材1の完成品状態で、紙基材2を介して、樹脂フィルム3のQRコードを明確に識別、判別できる。
【0029】
すなわち、本実施形態の気体封入式袋状緩衝材1は、樹脂フィルム3を、着色フィルム、または文字付フィルム、またはデザイン付フィルムとし、紙基材2を介して、樹脂フィルム3の色、または文字、或いはデザインが目視、確認、判別できるようにした世界初の気体封入式袋状緩衝材である。
このような構成にすると、気体封入式袋状緩衝材1の表面側に存在する紙基材2により、樹脂フィルム3の色、または文字、或いはデザインが汚れたり、一部が剥がれたりすることが無いので、気体封入式袋状緩衝材1としての品質の低下を防止することが出来る。
【0030】
本実施形態で重要なことは、紙基材2を介して、樹脂フィルム3の色、または文字、或いはデザインが目視、識別、判別できるようにするために、紙基材2の密度を0.75g/cm~1.20g/cmとしたことである。
【0031】
紙基材は、天然セルロース繊維や、再生セルロース繊維などのセルロース繊維を原料とし形成することができる。また、天然セルロース繊維を精製処理したものや、マーセル化したものであってもよい。天然セルロース繊維としては、マニラ麻やサイザル麻、ジュート、ケナフ、コットンリンター、エスパルト、針葉樹、広葉樹などがあるが、これらに限定されるものではない。セルロース繊維は叩解されていてもよい。
【0032】
また、本発明で使用する紙基材は、必ずしもセルロース単一素材で構成される必要はなく、透明性が損なわれない範囲であれば、その他の合成繊維を含むものであってもよい。ただし、環境配慮の点から、生分解性を有する合成繊維がより好ましい。
【0033】
合成繊維としては、ナイロン繊維やポリ乳酸繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、アラミド繊維などがあるが、これらに限定されるものではない。また、フィブリル化した繊維であっても、フィブリル化していない繊維であってもよく、これらの繊維を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
また、紙基材2の密度を0.75g/cm以上にすると、紙基材2に樹脂フィルム3を積層一体化した場合の樹脂フィルム3の孔空き発生率(不良率)を低下させることも確認した。
すなわち、紙基材2の密度が0.75g/cmよりも小さいと、紙基材2を構成する繊維間に大きな隙間が多く存在している状況であるので、樹脂フィルム3が積層されるときに樹脂がその隙間に流れ込み、逆に、流れ込み外周部分(繊維に当接した部分)の樹脂フィルム3は肉厚が薄くなり、この肉薄部が樹脂フィルム3の孔空き箇所となる。
これに対して、本実施形態では、紙基材2の密度を0.75g/cm以上にすることで、紙基材2を構成する繊維間の隙間は小さくなり、その結果として、樹脂フィルム3が積層一体化されるときに樹脂がその隙間に流れ込みにくくなる。これにより、流れ込み外周部分(繊維に当接した部分)における、樹脂フィルム3の肉厚が薄くなりにくく、樹脂フィルム3の孔空き箇所が無くなる。
また、この結果から、樹脂フィルム3の肉厚を薄くすることも出来ることにもつながり、樹脂フィルム3による環境負荷を低減することにもつながる。
【0035】
一方、紙基材2の密度を1.20g/cm以下とした理由は、密度を高めると紙基材としての硬さが問題化する虞が有るからである。
すなわち、本実施形態は製品を衝撃、振動から保護する気体封入式袋状緩衝材1に関するものであるので、紙基材2が硬すぎると、製品に傷などをつける虞もあるので、その点を考慮し、紙基材2の密度の上限を1.20g/cmとした。
これにより、製品搬送時に、気体封入式袋状緩衝材1によって、製品に傷をつけることも無くなる。
【0036】
なお、本実施形態の気体封入式袋状緩衝材1は、紙基材2と樹脂フィルム3とを積層一体化した紙シート4を、樹脂フィルム面同士が対向するように重ね、紙シート4の外周側を封口し、この封口部の内方側部分に気体封入室6を設けたが、これは一例である。
その他の例としては、長方形の長い1枚の紙シート4の長手方向の中心部分で、樹脂フィルム3側を内面側として折り返して重ねることで、気体封入式袋状緩衝材1を構成しても良い。
【0037】
また、本実施形態の気体封入式袋状緩衝材は、紙基材の厚さを、好ましくは15μm~100μm、より好ましくは20μm~80μm、最も好ましくは25μm~60μmとすることで、紙基材としての機械強度と透明性を維持したものである。
すなわち、紙基材の厚さを15μmより薄くすると、紙の機械強度、特に突刺強さの低下が激しく、衝撃や振動により容易に紙基材が破断することで、気体封入式袋状緩衝材としての機能を失う虞がある。
また、紙基材の厚さを100μm以上とすると、紙基材の密度が高くても、厚さが厚いことにより、厚さ方向での光の反射、屈折が生じやすくなり、気体封入式袋状緩衝材としたときに、紙基材を介して、樹脂フィルムの色、または文字、或いはデザインが目視、確認、識別しづらくなる虞がある。
以上の理由から、紙基材の厚さを15μm~100μmとすることが好ましい。
【0038】
本発明で使用する樹脂フィルムは、熱圧着により紙基材との接着や、気体封入室を設ける場合には、熱可塑性樹脂によって構成された樹脂フィルムを使用する。加えて、環境配慮の点から、生分解性を有する熱可塑性樹脂がより好ましい。また、樹脂フィルムは無機物が添加されたものであってもよい。
【0039】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、澱粉ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブチレートヒドロキシヘキサノエート(PHBH)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリエチレンテレフタレートサクシネート(PETS)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクセネートアジペート(PBSA)、ポリビニルアルコール(PVA)、などがあるが、これらに限定されるものではない。
【実施例0040】
以下、本発明に係る気体封入式袋状緩衝材の具体的な実施例、比較例及び従来例について、詳細に説明するが、本願発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0041】
実施例、比較例及び従来例のそれぞれにおいて、紙基材、気体封入式袋状緩衝材の各特性の測定は、以下の条件及び方法で行った。
【0042】
[厚さ及び密度]
「JIS P 8118『紙及び板紙-厚さ、密度及び比容積の試験方法』」を準拠し、紙基材の厚さ(μm)及び密度(g/cm)を測定した。
【0043】
[識別性評価]
作製した気体封入式袋状緩衝材の、樹脂フィルム表面に印刷された文字を、紙基材を介して目視した際の識別性を、下記の基準により判定した。
◎・・・文字、色の識別がはっきりとできる。
○・・・わずかに不鮮明だが文字、色の識別はできる
×・・・文字、色の識別ができない。
【0044】
[振動試験]
段ボール箱(20×26×15cm)内の中心に、保護される製品として、内容物を含めた重量が1kgのプラスチック製筐体(10×16×5cm)を設置し、この筐体に対し、作製した気体封入式袋状緩衝材を上下方向、左右方向及び前後方向の全面に均一に充填した。そして、動電型振動試験機(IMV社製)を使用して、「JIS Z 0232『包装貨物-振動試験方法』」付属書Aに規定された加速度パワースペクトル密度で、垂直振動試験を行った。
【0045】
[印刷擦れ評価]
振動試験後の気体封入式袋状緩衝材の印刷擦れを、下記の基準により目視判定した。
◎・・・印刷擦れがない。
×・・・印刷擦れがある。
【0046】
[不良率]
振動試験後の気体封入式袋状緩衝材において、気体封入式袋状緩衝材を作製した直後の最大となる厚みから、90%以上小さくなっているものを不良品とし、不良品率を次式により算出した。
不良率(%)=n/N×100
n:不良品数(個)
N:段ボール内に充填した気体封入式袋状緩衝材の総数(個)
【0047】
[製品表面評価]
振動試験後の製品表面を目視にて観察し、キズの程度を下記の基準により判定した。
◎・・・キズがない。
×・・・キズがある。
【0048】
[突刺強さ]
突刺し試験機NDG5(カトーテック社製)使用して、ニードルの先端R=0.5mm、加工速度0.2mm/秒の条件で、紙基材の突刺強さ(N)を測定した。
【0049】
〔実施例1〕
叩解度を「JIS P 8121-2『パルプ-ろ水度試験方法-第2部:カナダ標準ろ水度法』」に規定された方法で測定したCSF値が、一旦0ml(下限値)まで低下した後、更に叩解を進め、上昇に転じて800mlとした針葉樹クラフトパルプを、長網抄紙機にて抄紙し、厚さ25.0μm、密度0.956g/cmの紙基材1を得た。
次に、「JIS K 7130『プラスチック-フィルム及びシート-厚さ測定方法』」に規定された方法で測定した厚さが20.6μmの黒色ポリブチレンサクシネート(PBS)フィルムに、図3に示した文字の印刷を施したものを、ファーストラミネーターMAII-550型(大成ラミネーター社製)を使用して、紙基材1と温度150℃、圧力0.6MPa、速度0.5m/分の条件で熱圧着し、紙シート1を得た。
次に、2枚の紙シート1を樹脂フィルム面同士が対向するように重ね、加熱温度が150℃になるように設定したv-460G(富士インパルス社製)を使用して、重ね合わせた紙シート外周側の内、3方を熱圧着し、残りの1方より気体封入室へ空気を圧入した後、熱圧着して気体封入式袋状緩衝材1を得た。
【0050】
〔実施例2〕
実施例1から原料パルプの叩解条件と抄紙条件を変更して、厚さ25.2μm、密度0.757g/cmの紙基材2を得た。次に、紙基材2を使用して、それ以外は実施例1と同様にして、紙シート2及び気体封入式袋状緩衝材2を得た。
【0051】
〔実施例3〕
実施例1から原料パルプの叩解条件と抄紙条件を変更して得た原紙を、スーパーキャレンダーにより熱圧処理し、厚さ25.1μm、密度1.151g/cmの紙基材3を得た。次に、紙基材3を使用して、それ以外は実施例1と同様にして、紙シート3及び気体封入式袋状緩衝材3を得た。
【0052】
〔実施例4〕
実施例1から原料パルプの叩解条件と抄紙条件を変更して、厚さ15.2μm、密度0.856g/cmの紙基材4を得た。次に、紙基材4を使用して、それ以外は実施例1と同様にして、紙シート4及び気体封入式袋状緩衝材4を得た。
【0053】
〔実施例5〕
実施例1から原料パルプの叩解条件と抄紙条件を変更して、厚さ59.9μm、密度0.755g/cmの紙基材5を得た。次に、紙基材5を使用して、それ以外は実施例1と同様にして、紙シート5及び気体封入式袋状緩衝材5を得た。
【0054】
〔実施例6〕
実施例1から原料パルプの叩解条件と抄紙条件を変更して、厚さ78.7μm、密度0.752g/cmの紙基材6を得た。次に、紙基材6を使用して、それ以外は実施例1と同様にして、紙シート6及び気体封入式袋状緩衝材6を得た。
【0055】
〔実施例7〕
実施例1から原料パルプの叩解条件と抄紙条件を変更して、厚さ98.3μm、密度0.758g/cmの紙基材7を得た。次に、紙基材7を使用して、それ以外は実施例1と同様にして、紙シート7及び気体封入式袋状緩衝材7を得た。
【0056】
〔比較例1〕
実施例1から原料パルプの叩解条件と抄紙条件を変更して、厚さ41.0μm、密度0.726g/cmの紙基材8を得た。次に、紙基材8を使用して、それ以外は実施例1と同様にして、紙シート8及び気体封入式袋状緩衝材8を得た。
【0057】
〔比較例2〕
実施例1から原料パルプの叩解条件と抄紙条件を変更して、厚さ20.3μm、密度1.253g/cmの紙基材9を得た。次に、紙基材9を使用して、それ以外は実施例1と同様にして、紙シート9及び気体封入式袋状緩衝材9を得た。
【0058】
〔比較例3〕
実施例1から原料パルプの叩解条件と抄紙条件を変更して、厚さ12.5μm、密度0.753g/cmの紙基材10を得た。次に、紙基材10を使用して、それ以外は実施例1と同様にして、紙シート10及び気体封入式袋状緩衝材10を得た。
【0059】
〔比較例4〕
実施例1から原料パルプの叩解条件と抄紙条件を変更して、厚さ106.4μm、密度0.750g/cmの紙基材11を得た。次に、紙基材11を使用して、それ以外は実施例1と同様にして、紙シート11及び気体封入式袋状緩衝材11を得た。
【0060】
〔従来例1〕
実施例1の紙基材1の表面に、図3に示した文字と同じ文字をグラビア印刷して、紙基材12を得た。次に、紙基材12と樹脂フィルムとして白色で無地のPBSフィルムを使用して、それ以外は実施例1と同様にして、紙シート12及び気体封入式袋状緩衝材12を得た。
【0061】
実施例1~7、比較例1~4及び従来例1で作製した、気体封入式袋状緩衝材1~12について、識別性及び振動試験の評価を行った。
各例における気体封入式袋状緩衝材の識別性及び振動試験の評価結果を、表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1から分かるように、実施例1~6の気体封入式袋状緩衝材では、紙基材を介して、フィルム表面に印刷された文字とその色を識別することができたが、比較例1の気体封入式袋状緩衝材では、紙基材を介して、フィルム表面に印刷された文字とその色を識別することができなかった。このことから、紙基材の密度は0.75g/cm以上あることが好ましいと分かった。
【0064】
また、実施例1~7では、不良品率は0%であったが、比較例1では24%と高くなっていた。比較例1の紙基材は、密度が0.726g/cmと低く、繊維間に大きな隙間が多く存在している状況にあるため、樹脂フィルムが熱圧着されるときに樹脂がその隙間に流れ込み、逆に、流れ込み外周部分(繊維に当接した部分)の樹脂フィルム部分は肉厚が薄くなり、この肉薄部が樹脂フィルムの孔空きとなったことが原因と考えられる。このことからも、紙基材の密度は0.75g/cm以上であることが好ましいと分かった。
【0065】
また、比較例2のみ、保護すべき製品表面に、引っかいたようなキズが確認された。これは、紙基材の密度が高いため紙が硬く、気体封入式袋状緩衝材としたときに、接着している樹脂フィルムの柔軟性に追従できなくなることで、紙基材に鋭利な角が発生し、この部分が製品と接触することで製品表面にキズが生じたと考えられる。このことから、紙基材の密度は0.75g/cm~1.20g/cmが好ましいと分かった。
【0066】
なお、実施例7の気体封入式袋状緩衝材は、わずかに不鮮明であったが、紙基材を介して、フィルム表面に印刷した文字を識別することができた。実施例7の紙基材は、密度は高いが、厚さが98.3μmと比較的厚いため、厚さ方向での光の反射、屈折が実施例1~6に比べ生じやすくなっていることが原因と考えられる。
さらに、比較例4において、厚みが106.4μmとなると、フィルム表面に印刷した文字が識別できなかった。このことより、紙基材の厚さが100μm以上となると、紙基材を介して、樹脂フィルムの色、または文字、或いはデザインを識別することが難しくなる虞がある。このことから、紙基材の厚さは、100μm以下が好ましいと分かった。
一方、比較例3において、紙基材の突刺強さが実施例1~7より低くなっており、不良品率も78%と実施例1~7より高くなっていた。比較例3では、紙基材の厚さが薄いため突刺強さが低く、これにより構成された気体封入式袋状緩衝材は、振動や衝撃により容易に紙基材が破損するため、不良率の増加を招いたと考えられる。このことから、紙基材の厚さは15μm~100μmが好ましいと分かった。
【0067】
また、振動試験結果より、紙基材表面に文字を印刷した従来例1の気体封入式袋状緩衝材では、印刷擦れが確認されたが、フィルム表面に文字を印刷した実施例1~7の気体封入式袋状緩衝材では、印刷擦れが確認されなかった。このことから、本実施の形態で構成される気体封入式袋状緩衝材であれば、品質の低下を防ぐことができることが実証された。
【符号の説明】
【0068】
1 気体封入式袋状緩衝材、2 紙基材、3 樹脂フィルム、4 紙シート、5 封口部、6 気体封入室
図1
図2
図3
図4