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  • 特開-転がり軸受 図1
  • 特開-転がり軸受 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023145984
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20231004BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20231004BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20231004BHJP
   F16C 23/08 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
F16C33/78 E
F16C19/36
F16C33/58
F16C23/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052932
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100127340
【弁理士】
【氏名又は名称】飛永 充啓
(72)【発明者】
【氏名】佐波 幹隆
【テーマコード(参考)】
3J012
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J012AB13
3J012AB20
3J012CB03
3J012DB02
3J012EB01
3J012FB07
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB01
3J216AB31
3J216BA23
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB11
3J216CB18
3J216CC03
3J216CC13
3J216CC33
3J216DA01
3J216FA09
3J701AA15
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA69
3J701BA73
3J701BA77
3J701BA78
3J701DA16
3J701DA20
3J701EA01
3J701EA49
3J701FA60
3J701XB03
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】環状の保護部材を軌道輪の嵌合部に固定するための止め輪が径方向に対して傾いて軌道輪の止め輪溝に取り付けられた場合でも、保護部材に作用する固定力を確保する。
【解決手段】軌道輪2の止め輪溝9のうち、止め輪6を軸方向外側から受けるテーパ面9aと、テーパ面9aに軸方向に臨む部分である平坦面9bとを繋ぐ溝底部9cの横断面形状を止め輪6から径方向に遠ざかる方へ曲がった曲線状にすることにより、止め輪6が径方向に対して傾いて止め輪溝9に取り付けられた場合でも溝底部9cと止め輪6との間の径方向の隙間13を確保する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道輪と、前記軌道輪に軸方向から嵌合可能な周縁部を有する保護部材と、前記軌道輪に嵌合された前記保護部材を前記軌道輪に固定する止め輪と、を備え、
前記軌道輪が、前記保護部材の周縁部を径方向及び軌道面側から受ける段差状の嵌合部と、前記止め輪を嵌着可能な止め輪溝と、を有し、
前記止め輪溝のうち、前記止め輪を軸方向外側から受ける部分が、溝底に近くなる程に溝幅を狭くするように傾斜したテーパ面になっており、前記テーパ面に軸方向に臨む部分と前記テーパ面とを繋ぐ溝底部が、前記止め輪と径方向に対向する位置にあり、
前記溝底部と前記止め輪との間に径方向の隙間が設定されている転がり軸受において、
前記溝底部の横断面形状が、前記止め輪から径方向に遠ざかる方へ曲がった曲線状になっていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記溝底部の横断面形状が、前記テーパ面に軸方向に臨む部分及び前記テーパ面のそれぞれと接線方向に連続する円弧状になっている請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記軌道輪が、当該軌道輪の幅の一端を規定する端面と、前記止め輪溝と前記端面との間を繋ぐ溝肩部と、を有し、
前記嵌合部が、前記保護部材の前記周縁部を径方向に受ける周面と、前記保護部材の前記周縁部を軸方向に受ける側面と、を有し、
前記軌道輪の前記端面と前記嵌合部の前記側面との間の幅をWとし、前記溝底部の横断面形状の曲率半径をRとしたとき、前記曲率半径Rが前記幅Wの10%以上20%以下の寸法に設定されている請求項1又は請求項2に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シール、シールドのような環状の保護部材を軌道輪に固定可能な転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受の内部に水や異物が侵入することを防止するため、転がり軸受の軌道輪にシール、シールド等の保護部材を固定し、内外輪間の軸受内部空間を保護部材で密封又は概ね覆うことが行われている。
【0003】
この種の転がり軸受として、保護部材の周縁部を径方向及び軌道面側から受ける段差状の嵌合部と、止め輪を嵌着可能な止め輪溝とを有する軌道輪を備えるものがある。その止め輪溝のうち、止め輪を軸方向外側から受ける部分は、溝底に近くなる程に溝幅を狭くするように傾斜したテーパ面になっている。また、そのテーパ面に軸方向に臨む部分と、そのテーパ面とを繋ぐ溝底部は、略円筒面状になっており、止め輪と径方向に対向する位置にある。その溝底部と止め輪との間に径方向の隙間が設定されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1に開示された転がり軸受は、止め輪を止め輪溝のテーパ面に嵌着することにより、径方向に弾性復元しようとする止め輪とテーパ面の接触部において、止め輪を嵌合部に押し付ける軸方向の分力を発生させて、保護部材を嵌合部に固定することができる。
(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-219129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のような保護部材の固定構造では、限られた止め輪溝の幅及び深さの中で前述の軸方向の分力を得るため、止め輪溝のテーパ面と止め輪の接触位置を溝底部の近傍に設定することが好ましい。
【0007】
しかしながら、止め輪溝の溝底部に止め輪が接触すると、保護部材を嵌合部に固定するための軸方向の分力が低下する。特に、径方向に対して止め輪が傾いて取り付けられた場合、止め輪の角部が溝底部に接触し、保護部材に作用する固定力を十分に得られないことが懸念される
【0008】
上述の背景に鑑み、この発明が解決しようとする課題は、環状の保護部材を軌道輪の嵌合部に固定するための止め輪が径方向に対して傾いて軌道輪の止め輪溝に取り付けられた場合でも、保護部材に作用する固定力を確保することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するため、この発明は、軌道輪と、前記軌道輪に軸方向から嵌合可能な周縁部を有する保護部材と、前記軌道輪に嵌合された前記保護部材を前記軌道輪に固定する止め輪と、を備え、前記軌道輪が、前記保護部材の周縁部を径方向及び軌道面側から受ける段差状の嵌合部と、前記止め輪を嵌着可能な止め輪溝と、を有し、前記止め輪溝のうち、前記止め輪を軸方向外側から受ける部分が、溝底に近くなる程に溝幅を狭くするように傾斜したテーパ面になっており、前記テーパ面に軸方向に臨む部分と前記テーパ面とを繋ぐ溝底部が、前記止め輪と径方向に対向する位置にあり、前記溝底部と前記止め輪との間に径方向の隙間が設定されている転がり軸受において、前記溝底部の横断面形状が、前記止め輪から径方向に遠ざかる方へ曲がった曲線状になっている構成を採用した。
【0010】
上記構成のように、止め輪溝における溝底部の横断面形状が止め輪から径方向に遠ざかる方へ曲がった曲線状になっていることにより、溝底部がテーパ面との連続部からさらに深くなり、溝底部と止め輪との間の径方向の隙間が大きくなる。このため、径方向に対して止め輪が傾いて取り付けられた場合でも、止め輪の角部と溝底部との接触を回避することができ、これにより、止め輪から保護部材に作用する固定力を確保することができる。
【0011】
前記溝底部の横断面形状が、前記テーパ面に軸方向に臨む部分及び前記テーパ面のそれぞれと接線方向に連続する円弧状になっているとよい。このようにすると、溝底部の旋削加工が容易になる。
【0012】
前記軌道輪が、当該軌道輪の幅の一端を規定する端面と、前記止め輪溝と前記端面との間を繋ぐ溝肩部と、を有し、前記嵌合部が、前記保護部材の前記周縁部を径方向に受ける周面と、前記保護部材の前記周縁部を軸方向に受ける側面と、を有し、前記軌道輪の前記端面と前記嵌合部の前記側面との間の幅をWとし、前記溝底部の横断面形状の曲率半径をRとしたとき、前記曲率半径Rが前記幅Wの10%以上20%以下の寸法に設定されているとよい。このようにすると、止め輪溝の溝底部の横断面円弧状化による溝底での肉厚減少を極力抑えつつ、止め輪と溝底部の接触を回避することができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明は、上記構成の採用により、環状の保護部材を軌道輪の嵌合部に固定するための止め輪が径方向に対して傾いて軌道輪の止め輪溝に取り付けられた場合でも、保護部材に作用する固定力を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明の実施形態に係る転がり軸受の止め輪溝付近を示す断面図
図2】この発明の実施形態に係る転がり軸受を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の一例としての実施形態に係る転がり軸受を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
図1図2に示すこの転がり軸受は、内方の軌道輪1と、外方の軌道輪2と、内外の軌道輪1,2間に介在する転動体3と、転動体3を保持する保持器4と、軸受内部を外部に対して密封する環状の保護部材5と、保護部材5を軌道輪2に固定する止め輪6とを備える。
【0017】
以下、この転がり軸受の軸受中心軸CLに沿った方向のことを単に「軸方向」といい、その軸受中心軸CLに直角な方向のことを単に「径方向」といい、その軸受中心軸CL周りの円周方向のことを単に「周方向」という。また、軸受中心軸CLを含む仮想平面のことを単に「アキシアル平面」といい、軸受中心軸CLに直交する仮想平面のことを単に「ラジアル平面」という。各図は、アキシアル平面上の切断面を示す。軸方向は、各図において左右方向に相当し、径方向は、各図において上下方向に相当する。
【0018】
保護部材5は、軌道輪2に軸方向から嵌合可能な周縁部7を有するシールになっている。周縁部7は、シールリップを形成するゴムを付着させた芯金の周縁部からなる。周縁部7の軸方向両側の側面は、それぞれ径方向に沿った平坦面になっている。保護部材5には、すきまゲージを差し込むための切れ目が形成されていない。保護部材5は、接触式のシールリップを有するものを例示したが、非接触シール又はシールドにすることも可能である。
【0019】
図示例の転がり軸受は、シール付き自動調心ころ軸受としたが、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、玉軸受等、適宜の形式のラジアル軸受にすることが可能である。
【0020】
軌道輪2は、保護部材5の周縁部7を径方向及び軸方向から受ける段差状の嵌合部8と、止め輪6を嵌着可能な止め輪溝9と、軌道面10と、軌道輪2の幅の一端を規定する端面11と、止め輪溝9のテーパ面9aと端面11との間を繋ぐ溝肩部12とを一体に有する環状の軸受部品からなる。
【0021】
嵌合部8は、周縁部7を径方向に受ける嵌合部8の周面8aと、周縁部7を軌道輪2の軌道面10側から軸方向に受ける嵌合部8の側面8bとで形成されている。周面8aは、周方向全周に亘る円筒面になっている。側面8bは、径方向に沿った平坦面になっている。
【0022】
嵌合部8及び止め輪溝9は、軌道面10と端面11との間のみに位置している。これは、軌道面10で重荷重を受けるときの軸受剛性を確保するためである。
【0023】
溝肩部12の直径は、嵌合部8の周面8aの直径と同径の寸法又は周面8aに対して保護部材5の周縁部7から遠くなる方へ径差をもった寸法に設定されている。これは、保護部材5を嵌合部8に対して軸方向に着脱する際、保護部材5の周縁部7が軌道輪2と軸方向に引っ掛からないようにして、保護部材5の着脱が容易となり、その着脱の際に保護部材5を再利用可能な状態に保つためである。
【0024】
止め輪溝9のうち、止め輪6を軸方向外側から受ける部分は、溝底に近くなる程に溝幅を狭くするように傾斜したテーパ面9aになっている。
【0025】
止め輪溝9のうち、テーパ面9aに軸方向に臨む部分は、径方向に沿った平坦面9bになっている。嵌合部8に嵌合された周縁部7の軸方向外側の側面は、その平坦面9bから軸方向外側に食み出るようになっている。これは、止め輪6と周縁部7との接触を平坦面9bによって阻害しないようにするためである。
【0026】
止め輪溝9のうち、テーパ面9aと平坦面9bとを繋ぐ溝底部9cは、止め輪6と径方向に対向する位置にある。
【0027】
止め輪6は、周方向の一か所で断絶した環状の金属ばねからなる。図示例の止め輪6は、止め輪6の横断面形状を矩形状としたC形同心止め輪になっている。各図においては、径方向に対して止め輪6が傾いて止め輪溝9に取り付けられた状態を示している。止め輪6は、止め輪6の自然状態から縮径させられた状態で保護部材5の周縁部7とテーパ面9aとの間に介在するように止め輪溝9に嵌着される。止め輪溝9に嵌着された止め輪6は、軌道輪2の嵌合部8に嵌合された周縁部7を軌道輪2に固定する。なお、止め輪6は、周縁部7の軸方向外側の側面とテーパ面9aとの間で軸方向のスプリング作用を奏するようにするため、テーパ面9aとの接触部回りに保護部材5の周縁部7側へ反った形状に予め形成したものであってもよい。
【0028】
止め輪溝9の溝底部9cと止め輪6との間に、径方向の隙間13が設定されている。隙間13は、止め輪6がテーパ面9a及び保護部材5の周縁部7の軸方向外側の側面と接触しているときに、止め輪6の弾性反発を許容し、テーパ面9aと止め輪6の接触部において止め輪6から保護部材5の周縁部7に与える軸方向の分力を生じさせるための空間である。止め輪6は、止め輪溝9に嵌着された状態のとき、テーパ面9aのみで止め輪溝9と接触する。止め輪溝9の溝底部9cと止め輪6との間に、径方向の隙間13が設定されているので、テーパ面9aで止め輪6の弾性反発力を受け、生じた軸方向の分力を止め輪6から保護部材5の周縁部7に与え、これにより、周縁部7を嵌合部8の側面8bに向かって軸方向に押し付け、保護部材5を軌道輪2に強く固定することが可能となる。
【0029】
ここで、軌道輪2の端面11と、嵌合部8の側面8bとの間の幅をWとすると、幅Wは、側面8bに接するラジアル平面と、端面11に接するラジアル平面間の軸方向距離に相当する。止め輪6の厚さは、幅Wの25%以上50%以下の寸法に設定されている。また、止め輪6の厚さは、周縁部7の厚さよりも大きな寸法に設定されている。これら設定は、限られた幅Wの中で、止め輪6の厚さを大きく取って前述の弾性反発力を大きくすると共に、溝肩部12の幅(端面11からの最小幅)が狭くなることを避けて溝肩部12の強度を確保するためのものである。なお、止め輪6の厚さは、止め輪6の素材の板厚に相当する。保護部材5の周縁部7の厚さは、周縁部7の素材の板厚に相当する。
【0030】
限られた幅Wにおいて、止め輪溝9に止め輪6を嵌め込むことが困難とならない止め輪溝9の溝幅を確保すると共に、止め輪6の弾性反発力をテーパ面9aで受けて軸方向分力を効果的に生じさせるため、テーパ面9aが径方向に対して成す鋭角のテーパ角度は、5°以上、より好ましくは10°以上の角度に設定されている。また、止め輪6がテーパ面9aを滑って軸方向外側へ移動することを防ぐと共に、溝肩部12の幅が狭くなることを避けて溝肩部12の強度を確保するため、テーパ面9aが径方向に対して成す鋭角のテーパ角度は、25°以下、より好ましくは20°以下の角度に設定されている。
【0031】
止め輪溝9の溝底部9cの横断面形状は、止め輪6から径方向に遠ざかる方へ曲がった曲線状になっている。溝底部9cの横断面形状は、溝底部9cの任意の周方向一か所をアキシアル平面で切断したとき、その切断面において溝底部9cの全部が成す線分の形状である。溝底部9cは、周方向全周に亘って図示の横断面形状を有する。
【0032】
止め輪溝の溝底部の横断面形状をテーパ面9aとの連続部から軸方向に沿って延びる直線状とした場合に比して、図示例の止め輪溝9の溝底部9cの横断面形状は、止め輪6から径方向に遠ざかる方へ曲がった曲線状になっている分、止め輪6と溝底部9cとの間の径方向の隙間13が拡大されている。これにより、止め輪6が図示のように傾いて止め輪溝9に取り付けられた場合でも、止め輪6の外周側かつ嵌合部8側の角部と溝底部9cとの間に径方向の隙間13が確保されて、止め輪6の角部と溝底部9cの接触が回避されている。このため、止め輪6が図示のように傾いて止め輪溝9に取り付けられた場合でも、止め輪6から保護部材5の周縁部7に作用する固定力は、嵌合部8に周縁部7を固定するのに十分な大きさに確保されている。
【0033】
その溝底部9cの横断面形状は、テーパ面9a及び平坦面9bのそれぞれと接線方向に連続する円弧状になっている。すなわち、溝底部9cは、その横断面形状において、単一の曲率半径Rをもった円孤線を成し、テーパ面9aと溝底部9cとの連続部から溝底部9cの曲率中心までの距離は曲率半径Rに一致し、平坦面9bと溝底部9cとの連続部から溝底部9cの曲率中心までの距離も曲率半径Rに一致している。
【0034】
溝底部9cは、旋削加工されている。その旋削加工に際し、NC旋盤の刃具(図示省略)は、テーパ面9aと溝底部9cとの連続部と、平坦面9bと溝底部9cとの連続部間において単一の曲率半径Rの半径値の円孤補間に基づいて制御するだけでよいので、溝底部9cを旋削加工するための制御プログラムの構築が簡単になり、これにより、溝底部9cの旋削加工が容易になる。すなわち、溝底部9cの旋削加工内容を簡単に決定することが可能なため、その加工コストが安価になる。
【0035】
溝底部9cの横断面形状における曲率半径Rは、幅Wの10%以上の寸法に設定されている。その曲率半径Rが幅Wの10%未満の寸法であると、止め輪溝9の溝底での径方向の肉厚が薄くなるので、ここでの強度の低下が懸念される。止め輪溝9の溝底は、溝肩部12の直径に対する溝底部9cの径方向深さの最深部であり、ここでの径方向の肉厚は、図示例において軌道輪2の外周と止め輪溝9の溝底間の径方向距離に相当する。
【0036】
また、溝底部9cの横断面形状における曲率半径Rは、幅Wの20%以下の寸法に設定されている。その曲率半径Rが幅Wの20%を超える寸法であると、溝肩部12の直径に対する止め輪溝9の径方向の深さが浅くなるので、止め輪6と溝底部9cの接触が生じて止め輪6から保護部材5の周縁部7に作用する固定力が失われる懸念がある。
【0037】
この転がり軸受は、上述のように、軌道輪2と、軌道輪2に軸方向から嵌合可能な周縁部7を有する保護部材5と、軌道輪2に嵌合された保護部材5を軌道輪2に固定する止め輪6と、を備え、軌道輪2が保護部材5の周縁部7を径方向及び軌道面10側から受ける段差状の嵌合部8と、止め輪6を嵌着可能な止め輪溝9と、を有し、止め輪溝9のうち、止め輪6を軸方向外側(軌道面10とは軸方向反対側)から受ける部分が、溝底に近くなる程に溝幅を狭くするように傾斜したテーパ面9aになっており、テーパ面9aに軸方向に臨む部分としての平坦面9bとテーパ面9aとを繋ぐ溝底部9cが、止め輪6と径方向に対向する位置にあり、溝底部9cと止め輪6との間に径方向の隙間13が設定されているものである。
【0038】
この転がり軸受は、その溝底部9cの横断面形状が止め輪6から径方向に遠ざかる方へ曲がった曲線状になっていることにより、溝底部9cがテーパ面9aとの連続部からさらに深くなり、溝底部9cと止め輪6との間の径方向の隙間13を大きくして、径方向に対して止め輪6が傾いて止め輪溝9に取り付けられた場合でも、止め輪6の角部と溝底部9cとの接触を回避することができ、これにより、止め輪6から保護部材5に作用する固定力を確保することができる。
【0039】
また、この転がり軸受は、その溝底部9cの横断面形状が、テーパ面9aに軸方向に臨む部分としての平坦面9b及びテーパ面9aのそれぞれと接線方向に連続する円弧状になっていることにより、溝底部9cの旋削加工が容易になり、ひいては、加工コストを抑えた転がり軸受にすることができる。
【0040】
また、この転がり軸受は、その軌道輪2が、軌道輪2の幅の一端を規定する端面11と、止め輪溝9と端面11との間を繋ぐ溝肩部12と、を有し、嵌合部8が、保護部材5の周縁部7を径方向に受ける周面8aと、保護部材5の周縁部7を軸方向に受ける側面8bと、を有し、軌道輪2の端面11と嵌合部8の側面8bとの間の幅をWとし、溝底部9cの横断面形状の曲率半径をRとしたとき、曲率半径Rが幅Wの10%以上20%以下の寸法に設定されていることにより、止め輪溝9の溝底部9cの横断面円弧状化による溝底での肉厚減少を極力抑えつつ、止め輪6と溝底部9cの接触を回避することができる。
【0041】
図示例では、外方の軌道輪2に嵌合部8と止め輪溝9を形成したが、内方の軌道輪に嵌合部と止め輪溝を形成し、その止め輪溝に止め輪を取り付けることも可能である。
【0042】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0043】
2 軌道輪
5 保護部材
6 止め輪
7 周縁部
8 嵌合部
8a 周面
8b 側面
9 止め輪溝
9a テーパ面
9b 平坦面
9c 溝底部
10 軌道面
11 端面
12 溝肩部
13 隙間
図1
図2