(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146025
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】炭化水素合成方法
(51)【国際特許分類】
C10G 2/00 20060101AFI20231004BHJP
B01J 29/46 20060101ALI20231004BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20231004BHJP
B01J 37/00 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C10G2/00
B01J29/46 M
B01J35/10 301H
B01J35/10 301G
B01J37/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052997
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】山本 修身
(72)【発明者】
【氏名】海田 千晴
(72)【発明者】
【氏名】宇土 肇
(72)【発明者】
【氏名】椿 範立
【テーマコード(参考)】
4G169
4H129
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA12
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BA47C
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4H129KD31X
4H129KD31Y
4H129KD44X
4H129KD44Y
4H129NA21
4H129NA37
4H129NA43
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素を還元し炭素数が5以上の炭化水素、及び芳香族炭化水素を高効率で生成可能な炭化水素合成方法を提供すること。
【解決手段】二酸化炭素を二酸化炭素還元触媒により還元し炭化水素を合成する炭化水素合成方法であって、二酸化炭素還元触媒は、触媒金属としてのNa及びFeと、アルカリ処理により細孔が拡大された多孔質固体酸触媒と、を含む、炭化水素合成方法。アルカリ処理は、水酸化ナトリウム水溶液により行われ、水酸化ナトリウム水溶液の濃度は0.1~0.3mol/Lであることが好ましい。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を二酸化炭素還元触媒により還元し炭化水素を合成する炭化水素合成方法であって、
前記二酸化炭素還元触媒は、触媒金属としてのNa及びFeと、アルカリ処理により細孔が拡大された多孔質固体酸触媒と、を含む、炭化水素合成方法。
【請求項2】
前記アルカリ処理は、水酸化ナトリウム水溶液により行われ、
前記水酸化ナトリウム水溶液の濃度は0.1~0.3mol/Lである、請求項1に記載の炭化水素合成方法。
【請求項3】
前記水酸化ナトリウム水溶液の濃度は0.1~0.2mol/Lである、請求項2に記載の炭化水素合成方法。
【請求項4】
前記多孔質固体酸触媒の前記細孔は、0.55~0.60nmの細孔径を有する、請求項1~3のいずれかに記載の炭化水素合成方法。
【請求項5】
前記多孔質固体酸触媒の前記細孔は、前記アルカリ処理により前記細孔が拡大されることで、2~4nmの細孔径を更に有する、請求項1~4のいずれかに記載の炭化水素合成方法。
【請求項6】
前記多孔質固体酸触媒は、ゼオライトである、請求項1~5のいずれかに記載の炭化水素合成方法。
【請求項7】
前記ゼオライトは、ZSM-5ゼオライトである、請求項6に記載の炭化水素合成方法。
【請求項8】
前記二酸化炭素還元触媒は、触媒金属として更にGa及びZrを含む、請求項1に記載の炭化水素合成方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の炭化水素合成方法に用いられる二酸化炭素還元触媒であって、
前記触媒金属としてのNa及びFeと、前記多孔質固体酸触媒と、を含み、
前記多孔質固体酸触媒は、0.55~0.60nmの細孔径を有する細孔、及び2~4nmの細孔径を有する細孔、を有する、二酸化炭素還元触媒。
【請求項10】
請求項9に記載の二酸化炭素還元触媒の製造方法であって、
多孔質固体酸触媒をアルカリ処理する工程を含む、二酸化炭素還元触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気候変動の緩和又は影響軽減を目的とした取り組みが継続され、この実現に向けて二酸化炭素を水素化反応(還元反応)させて燃料を生成する技術が知られている。例えば、二酸化炭素と水素の混合ガスからメタノールを合成する触媒として、Cu、Zn及びアルミナからなる触媒が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、二酸化炭素を水素化反応させて得られる燃料として、液体燃料として使用可能な、炭素数が例えば5以上の炭化水素を生成できることが求められる。このような技術として、FT(フィッシャー・トロプシュ:Fischer-Tropsch)合成反応におけるFe触媒に対しカリウムを助触媒として用いることで、高度に分岐したC5以上の生成物を調製する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭45-16682号公報
【特許文献2】特表2005-537340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示された技術は、非常に少ない芳香族を有する生成物を製造できることを特徴とする。一方で、二酸化炭素を還元することで得られる生成物をガソリンの代替燃料として使用する場合、ガソリンに含まれる芳香族炭化水素が生成物中に含まれることが好ましい。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、二酸化炭素を還元し炭素数が5以上の炭化水素、及び芳香族炭化水素を高効率で生成可能な炭化水素合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明は、二酸化炭素を二酸化炭素還元触媒により還元し炭化水素を合成する炭化水素合成方法であって、前記二酸化炭素還元触媒は、触媒金属としてのNa及びFeと、アルカリ処理により細孔が拡大された多孔質固体酸触媒と、を含む、炭化水素合成方法に関する。
【0008】
(2) 前記アルカリ処理は、水酸化ナトリウム水溶液により行われ、前記水酸化ナトリウム水溶液の濃度は0.1~0.3mol/Lである、(1)に記載の炭化水素合成方法。
【0009】
(3) 前記水酸化ナトリウム水溶液の濃度は0.1~0.2mol/Lである、(2)に記載の炭化水素合成方法。
【0010】
(4) 前記多孔質固体酸触媒の前記細孔は、0.55~0.60nmの細孔径を有する、(1)~(3)のいずれかに記載の炭化水素合成方法。
【0011】
(5) 前記多孔質固体酸触媒の前記細孔は、前記アルカリ処理により前記細孔が拡大されることで、2~4nmの細孔径を更に有する、(1)~(4)のいずれかに記載の炭化水素合成方法。
【0012】
(6) 前記多孔質固体酸触媒は、ゼオライトである、(1)~(5)のいずれかに記載の炭化水素合成方法。
【0013】
(7) 前記ゼオライトは、ZSM-5ゼオライトである、(6)に記載の炭化水素合成方法。
【0014】
(8) 前記二酸化炭素還元触媒は、触媒金属として更にGa及びZrを含む、(1)に記載の炭化水素合成方法。
【0015】
(9) (1)~(8)のいずれかに記載の炭化水素合成方法に用いられる二酸化炭素還元触媒であって、触媒金属としてのNa及びFeと、多孔質固体酸触媒と、を含み、前記多孔質固体酸触媒は、0.55~0.60nmの細孔径を有する細孔、及び2~4nmの細孔径を有する細孔、を有する、二酸化炭素還元触媒。
【0016】
(10) (9)に記載の二酸化炭素還元触媒の製造方法であって、多孔質固体酸触媒をアルカリ処理する工程を含む、二酸化炭素還元触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、二酸化炭素を還元し炭素数が5以上の炭化水素、及び芳香族炭化水素を高効率で生成可能な炭化水素合成方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る二酸化炭素還元触媒の分光測定結果を示すグラフである。
【
図2】実施例及び比較例に係る多孔質固体酸触媒の細孔分布を示すグラフである。
【
図3】実施例及び比較例に係る多孔質固体酸触媒の細孔分布を示すグラフである。
【
図4】実施例及び比較例に係る二酸化炭素還元触媒のCO
2変換率を示すグラフである。
【
図5】実施例及び比較例に係る二酸化炭素還元触媒の炭化水素選択率を示すグラフである。
【
図6】実施例及び比較例に係る二酸化炭素還元触媒の芳香族炭化水素生成率を示すグラフである。
【
図7】Na-FeGa触媒における助触媒の種類とCO
2変換率との関係を示すグラフである。
【
図8】Na-FeGa触媒における助触媒の種類と炭化水素選択率との関係を示すグラフである。
【
図9】Na-FeGa触媒における助触媒の種類とC
5+生成率との関係を示すグラフである。
【
図10】Na-FeGa触媒に助触媒としてZrを添加した場合におけるZr添加量とCO
2変換率との関係を示すグラフである。
【
図11】Na-FeGa触媒に助触媒としてZrを添加した場合におけるZr添加量とC
5+選択率との関係を示すグラフである。
【
図12】Na-FeGa触媒に助触媒としてZrを添加した場合におけるZr添加量とC
5+生成率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<炭化水素合成方法>
本実施形態に係る炭化水素合成方法は、二酸化炭素を水素化反応させて二酸化炭素を還元するとともに炭化水素を合成することが可能な、二酸化炭素還元触媒を用いて行われる。本実施形態に係る炭化水素合成方法は、従来の方法と比較して、炭素数が5以上の炭化水素(例えばヘキサン、ヘプタン、ヘキセンやヘプテン)、及び芳香族炭化水素(例えばトルエンやキシレン)の生成割合や生成率が高い。二酸化炭素の供給源としては特に限定されないが、例えば、内燃機関の排ガス等が挙げられる。
【0020】
《二酸化炭素還元触媒》
本実施形態に係る二酸化炭素還元触媒を用いた二酸化炭素還元反応(炭化水素合成反応)は、H2(水素)とCO2(二酸化炭素)の混合ガスを原料とし、CO2がCO(一酸化炭素)に還元される逆シフト反応と、COが炭化水素へと転換されるFT合成反応と、を一段で行うことにより炭化水素を生成する反応である。本実施形態に係る二酸化炭素還元触媒は、上記逆シフト反応と、FT合成反応との両方に寄与する。
【0021】
(触媒金属)
二酸化炭素還元触媒は、触媒金属として、Na(ナトリウム)と、Fe(鉄)と、を含む。また、Ga(ガリウム)、及びZr(ジルコニウム)を更に含むことが好ましい。
【0022】
二酸化炭素還元触媒に触媒金属として含有されるNaは、助触媒として機能し、CO2をNa2CO3として捕捉することで、H2及びCO2からCOが生成する逆シフト反応を進行させ、CO2変換率を向上させることができる。
【0023】
二酸化炭素還元触媒に触媒金属として含有されるNaは、以下に説明する複合酸化物とは別に、酸化物等の形態で複合酸化物の表面上に存在することが好ましい。なお、二酸化炭素還元触媒には、触媒金属としてNaと共に、Li、K、Rb、Cs等のアルカリ金属が含有されていてもよい。
【0024】
二酸化炭素還元触媒に触媒金属として含有されるFeは、酸化物、炭酸化合物、硝酸化合物、硫酸化合物等の化合物であってもよく、酸化物であることが好ましい。これらの化合物は2種以上含有されてもよい。二酸化炭素還元触媒にGa、及びZrが含有される場合、Ga、及びZrもFeと同様の上記化合物であることが好ましい。更に、二酸化炭素還元触媒にFe、及びGaが共に含有される場合、Fe、及びGaは、FeGa複合酸化物であることが好ましく、二酸化炭素還元触媒にFe、Ga、及びZrが共に含有される場合、Fe、Ga、及びZrは、FeGaZr複合酸化物であることがより好ましい。
【0025】
FeGa複合酸化物は、鉄酸化物等の化合物と比較して微粒子化されるため、Fe触媒の反応サイトが増大することで、FT合成反応の反応時間、即ち生成される炭化水素の炭素鎖が成長する時間を確保できる。従って、炭素数が5以上の炭化水素の収率を向上させることができる。
【0026】
FeGaZr複合酸化物は、FeGa複合酸化物と比較して、CH2成長反応を促進できる結果、炭素数が5以上の炭化水素の収率を向上させることができる。この理由については、以下のように考えられる。Zr原子の4d軌道からFe原子の3d軌道に電子供与が起きる。すると、Fe原子の3d軌道の電子が過剰な状態になり、Fe原子に吸着した反応ガスCOの結合性軌道にその電子が流れ、COの分解が促進される。その結果、CH2生成が促進され、炭素鎖の成長が促進されると考えられる。上記の理由から、触媒金属としてのZrは必ずしもGaと共に用いる必要はなく、触媒金属としてFeとZrを共に用いることで、炭素数が5以上の炭化水素の収率を向上させる効果が得られるものと考えられる。
【0027】
上記触媒金属中におけるNaの含有量は、0.5~1.5質量%であることが好ましい。
【0028】
上記触媒金属中におけるFeの含有量は、53.5~84.5質量%であることが好ましく、59~74質量%であることがより好ましい。
【0029】
上記触媒金属中におけるGaの含有量は、10~30質量%であることが好ましく、20~30質量%であることがより好ましい。
【0030】
上記触媒金属中におけるZrの含有量は、5~15質量%であることが好ましく、5~10質量%であることがより好ましい。
【0031】
(多孔質固体酸触媒)
二酸化炭素還元触媒は、上記触媒金属に加えて、アルカリ処理により細孔が拡大された多孔質固体酸触媒を含む。多孔質固体酸触媒としては、天然又は合成ゼオライトを用いることができる。本明細書において、「ゼオライト」とは、四面体構造を有するTO4単位(T:中心原子)の酸素原子が共有結合することで三次元的に連結し、規則的な細孔径が形成されている結晶性物質を意味する。具体的なゼオライトとしては、例えば、ケイ酸塩、アルミノケイ酸塩、リン酸塩、ゲルマニウム塩、ヒ酸塩等が挙げられる。
【0032】
上記アルカリ処理が行われる前のゼオライトは、A型ゼオライト等の小細孔径ゼオライトの細孔径と、モルデナイト、X型、Y型ゼオライト等の大細孔径ゼオライトとの中間の細孔径(0.55~0.60nmのミクロ孔)を有する中間細孔径ゼオライトであることが好ましい。上記触媒金属の表面上では、CH2鎖が連鎖成長反応を起こす一方で、主生成物は直鎖状炭化水素であり、芳香族炭化水素は生成しづらい。上記触媒金属と共に中間細孔径ゼオライトを用いることで、細孔径中で芳香族化反応が進行するため、芳香族炭化水素の生成率を向上させることができる。中間細孔径ゼオライトとしては、ZSM-5ゼオライトを用いることが好ましい。ZSM-5ゼオライトとしては、プロトン型のZSM-5ゼオライトを用いることができる。
【0033】
多孔質固体酸触媒は、アルカリ処理されることで、細孔が拡大されてメソ孔が形成される。上記中間細孔径ゼオライトの細孔径中では芳香族化反応が進行する一方で、高級炭化水素の拡散が進行し難い場合がある。上記中間細孔径ゼオライトの細孔が拡大されてメソ孔が形成されることで、高級炭化水素の拡散が促進される。上記メソ孔は中間細孔径ゼオライト由来の細孔の表面側が拡大されて形成されるものであるため、上記メソ孔の奥側には中間細孔径ゼオライト由来の細孔が残存しており、該細孔径中で芳香族化反応を進行させることができる。これにより、結果として芳香族炭化水素の生成率をより向上させることができる。
【0034】
多孔質固体酸触媒がアルカリ処理されることで形成されるメソ孔の細孔径としては、2~4nmであることが好ましい。メソ孔の細孔径が2nm未満である場合、高級炭化水素の拡散を促進する効果が十分に得られない。メソ孔の細孔径が10nmを超える場合、触媒活性が低下する。
【0035】
本実施形態において、多孔質固体酸触媒の細孔径は、ガス吸着法により測定することができる。ガス吸着法は、大きさや性質が既知であるガス分子を固体表面に吸着させ、吸着したガス分子の量を測定することで細孔分布を求める方法である。吸着ガスとしては、例えば、N2ガスを用いることができる。測定装置としては、例えば、吸着分析装置3Flex(製品名、Micromeritics社製)を用いることができる。
【0036】
二酸化炭素還元触媒中における多孔質固体酸触媒の含有量は、33-80wt%とすることが好ましい。
【0037】
《二酸化炭素還元触媒の製造方法》
本実施形態に係る二酸化炭素還元触媒の製造方法は、触媒金属としてのNa及びFeを含む触媒を合成する工程と、多孔質固体酸触媒を合成する工程及び多孔質固体酸触媒をアルカリ処理する工程と、Na及びFeを含む触媒、及び多孔質固体酸触媒を混合させる工程と、を含む。
【0038】
触媒金属としてのNa及びFeを含む触媒を合成する工程は、例えば、Feと任意でGa及びZrを含む化合物から触媒前駆体である酸化物(複合酸化物)を調製する工程と、上記触媒前駆体に対してNaを含侵させる工程と、を含む。
【0039】
(共沈工程)
Feと任意でGa及びZrを含む化合物から触媒前駆体である酸化物(複合酸化物)を調製する工程は、例えば、共沈工程を有することが好ましい。共沈工程は、Fe、Ga、及びZrの硝酸塩を所定量蒸留水に溶解させた水溶液から、共沈法により触媒前駆体である沈殿物を抽出する工程である。共沈工程により、FeGaZr複合酸化物が形成される。共沈工程において、Fe、Ga、及びZrを含む上記水溶液に対し、Na2CO3水溶液を滴下することで、沈殿溶液が得られる。その後、沈殿溶液からろ過・洗浄等によって沈殿物を分離し、乾燥させることで、触媒前駆体である沈殿物(FeGaZr複合酸化物)が得られる。
【0040】
(含侵工程)
上記触媒前駆体に対してNaを含侵させる工程は、例えば、共沈工程により得られた沈殿物にNaを含む水溶液を滴下して所定時間乾燥させ、得られた粉末を所定の温度で焼成する含浸工程を有することが好ましい。含侵工程により、触媒前駆体(FeGaZr複合酸化物)の表面付近にNa化合物を偏在させることができる。Naを含む水溶液としては、例えば、NaNO3水溶液が挙げられる。NaNO3水溶液は、超音波加振の下、滴下することができる。これにより、触媒前駆体(FeGaZr複合酸化物)の表面付近にNa化合物を均一に偏在させることができる。焼成温度は、例えば550℃、焼成時間は4時間とすることができる。
【0041】
(多孔質固体酸触媒の合成方法)
多孔質固体酸触媒としてのZSM-5ゼオライトの合成方法は、特に限定されないが、例えば、水熱合成法を用いることができる。なお、イオン交換法、吸着法等の方法により水素イオンの金属イオンへのイオン交換を行わないことで、プロトン型のZSM-5ゼオライトを合成できる。
【0042】
(アルカリ処理工程)
多孔質固体酸触媒をアルカリ処理するアルカリ処理工程は、多孔質固体酸触媒に対して水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えて撹拌する工程を含む。上記工程により得られた生成物を、例えば、ろ過、及び水洗浄して乾燥させ、この工程を複数回繰り返した後に生成物を焼成することで、アルカリ処理された多孔質固体酸触媒を得ることができる。
【0043】
上記アルカリ処理工程における水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、0.1~0.3mol/Lであることが好ましい。これにより、多孔質固体酸触媒の細孔が拡大され、所定の細孔径を有するメソ孔を形成することができる。上記水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、0.1~0.2mol/Lであることがより好ましい。
【0044】
触媒金属としてのNa及びFeを含む触媒と、アルカリ処理された多孔質固体酸触媒とを混合する工程は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。
【0045】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【実施例0046】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
(Na及びFeを含む触媒の合成)
触媒金属としてのFe、Ga、Zrの硝酸塩(Fe(NO3)3・9H2O、Ga(NO3)3・6H2O、ZrO(NO3)2・2H2O)を、金属原子換算でFe:Ga:Zrの質量比が6:3:1となるように秤量し、蒸留水に溶解させた。次いで、上記水溶液を撹拌しながら、1.0M NaNO3水溶液を2ml/min滴下し、pH8.5に固定することで、Fe、Ga、及びZrを沈殿物として含む沈殿溶液を得た。次いで、沈殿溶液を室温下、24時間エージングさせた後、ろ過、洗浄を繰り返すことで沈殿物を分離した。分離した沈殿物を60℃×12時間乾燥させることで、FeGaZr触媒前駆体を得た。
【0048】
上記FeGaZr触媒前駆体に対し、NaNO3水溶液を92kHz超音波加振の下、Na含有量が1.0質量%となるように滴下した。次いで、5000Paの真空下で1時間乾燥させ、更に常圧下で60℃×12時間乾燥させ、粉末を得た。得られた粉末を550℃×4時間焼成することで、実施例1に係るNa及びFeを含む触媒(Na-FeGaZr触媒)を得た。
【0049】
(多孔質固体酸触媒の合成)
多孔質固体酸触媒としてのZSM-5ゼオライトを、水熱合成法により得た。なお金属イオン交換は行わず、プロトン型のZSM-5ゼオライトを得た。具体的には、Al硝酸塩(Al(NO3)3・9H2O)及び水酸化ナトリウム(NaOH)をイオン交換水に溶解させ、1時間撹拌し、Al源を含む溶液を調製した。次に、Si源であるテトラエトキシシラン(TEOS)とテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)を混合し、Al源を含む溶液に撹拌しながら滴下した。滴下終了後、3時間撹拌し、その後4時間放置することで、ゲル状のゼオライト前駆体を得た。得られた前駆体をオートクレーブに入れ、170℃、24時間水熱合成させた。得られた生成物に対し、遠心分離及び水洗浄を数回繰り返し、精製した。精製した生成物を80℃12時間乾燥し、その後550℃で6時間焼成することで、プロトン型のZSM-5ゼオライトを得た。
【0050】
上記により得られたZSM-5ゼオライトをアルカリ処理し、細孔が拡大された多孔質固体酸触媒としてのZSM-5ゼオライトを得た。具体的には、0.2mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液にZSM-5ゼオライトを加え、70℃30分撹拌した。次に、濾過および水洗浄を行い、120℃12時間乾燥させ、生成物を得た。生成物をNH4NO3水溶液(1M)100mlに加え、80℃で撹拌後、濾過・水洗浄を行い、80℃12時間乾燥させた。この操作(撹拌、ろ過、水洗浄)を1回繰り返し、その後550℃で5時間焼成することで、細孔が拡大されたZSM-5ゼオライトを得た。
【0051】
上記により得られたNa-FeGaZr触媒と、細孔が拡大されたZSM-5ゼオライトとを重量比で1:1となるように混合することで、実施例1の二酸化炭素還元触媒を得た。
【0052】
<実施例2~4>
ZSM-5ゼオライトのアルカリ処理に用いた水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液の濃度を、それぞれ実施例2では0.1mol/L、実施例3では0.3mol/L、実施例4では0.4mol/L、としたこと以外は、実施例1と同様として、実施例2~4の二酸化炭素還元触媒を得た。
【0053】
<比較例1>
実施例1と同様のNa-FeGaZr触媒のみを用い、ZSM-5ゼオライトと混合しなかったこと以外は、実施例1と同様として、比較例1の二酸化炭素還元触媒を得た。
【0054】
<比較例2>
アルカリ処理を行っていないZSM-5ゼオライトと、実施例1と同様のNa-FeGaZr触媒を混合して用いたこと以外は、実施例1と同様として、比較例2の二酸化炭素還元触媒を得た。
【0055】
<比較例3>
実施例1と同様の方法で、Zrの硝酸塩を使用せずに得られるNa-FeGa触媒のみを用い、ZSM-5ゼオライトと混合しなかったこと以外は、実施例1と同様として、比較例3の二酸化炭素還元触媒を得た。
【0056】
[細孔分布測定]
実施例1~4、及び比較例2に係るZSM-5ゼオライトについて、吸着分析装置3Flex(製品名、Micromeritics社製)を用いたガス吸着法によって、細孔分布を測定した。各実施例及び比較例に係るZSM-5ゼオライトは、粉末0.1~0.2g程度を真空下250℃10hで前処理して用いた。吸着室はN
2とした。細孔分布測定結果を
図2及び
図3に示した。
図2及び
図3は細孔径分布曲線を示し、細孔容積(V)を細孔直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔径(nm)に対してプロットした曲線である。
図2がミクロ孔の細孔径分布曲線を、
図3がメソ孔の細孔径分布曲線をそれぞれ示す。
【0057】
図2に示すように、各実施例及び比較例に係るZSM-5ゼオライトの細孔径分布曲線は、いずれも0.5nm付近にピークP1を有しており、アルカリ処理の有無、及びアルカリ処理に用いた水酸化ナトリウム水溶液の濃度に関わらず、ゼオライト骨格由来の細孔の存在が確認された。
【0058】
図3に示すように、実施例1~4に係るZSM-5ゼオライトの細孔径分布曲線は、3nm付近にピークP2を有しており、アルカリ処理によって細孔が拡大され、3nm前後の細孔径を有する細孔が形成されていることが確認された。一方で、比較例2に係る細孔径分布曲線には3nm付近のピークはみられなかった。また、実施例4に係る細孔径分布曲線は50nm付近にピークP3を有しており、アルカリ処理に用いる水酸化ナトリウム(NaOH)の濃度によって、拡大された細孔の細孔径が大きく変化する結果が確認された。ピークP3の存在はゼオライトの骨格破壊を示しており、長時間、二酸化炭素還元反応をさせると骨格破壊がより進み、C
AROMA選択率及び生成率の低下が懸念される。
【0059】
[炭化水素合成]
上記実施例、及び比較例の二酸化炭素還元触媒を用いて、以下の方法で炭化水素合成(二酸化炭素還元反応)を行った。装置は、固定床流通式の反応装置を使用し、反応ガスはCO2 2.8NL/h、H2 8.4NL/h(CO2/H2=1/3)とした。各実施例及び比較例に係る二酸化炭素触媒は0.4~0.8mm角のペレット状としたものを0.50g用いた。上記ペレットを、反応管(内径6mm)に10cmの長さで充填して用いた。W/F(触媒重量/ガス流量)は1.0g・h/mol、空間速度SV(Space Velocity)=25,000h-1とした。反応条件は温度380℃、圧力3MPa、反応時間4時間とした。触媒反応後のガス成分を、オンラインでのガスクロマトグラフィー(Shimadzu,GC-2014AT、検出器:熱伝導度検出器(TCD))及び水素炎イオン化検出器(FID)(Shimadzu,GC-2014AF)により定性・定量分析した。また触媒反応後の液体成分もオフラインでのガスクロマトグラフィー(Shimadzu,GC-2014AF、検出器:水素炎イオン化検出器(FID))により定性・定量分析した。
【0060】
(CO
2変換率)
上記二酸化炭素還元反応によるCO
2の変換率を、以下の式(1)により求めた。実施例1~4、及び比較例1~2に係るCO
2変換率を比較するグラフを
図4に示す。
CO
2変換率(%)=((反応前のCO
2濃度)-(反応後のCO
2濃度))/(反応前のCO
2濃度)×100 …(1)
【0061】
(炭化水素選択率)
上記二酸化炭素還元反応により生成された炭化水素(CO、CH
4、C
2-4、C
5+、C
AROMA)の選択率を、以下の式(2)により求めた。なおC
2-4は、炭素数2~4の炭化水素を示し、C
5+は、炭素数5以上の炭化水素を示し、C
AROMAは、芳香族炭化水素を示す。実施例1~4、及び比較例1~2に係る炭化水素選択率を比較するグラフを
図5に示す。
炭化水素選択率(%)=(炭化水素濃度)/(((反応前のCO
2濃度)-(反応後のCO
2濃度))×100 …(2)
【0062】
(C
AROMA生成率)
上記二酸化炭素還元反応により生成されたC
AROMA(芳香族炭化水素)の生成率を、以下の式(3)により求めた。実施例1~4、及び比較例1~2に係るC
AROMA(芳香族炭化水素)を比較するグラフを
図6に示す。
C
AROMA生成率(%)=CO
2変換率×C
AROMA選択率/100 …(3)
【0063】
図4~
図6の結果から、各実施例に係る二酸化炭素還元触媒を用いた炭化水素合成方法により得られた生成物は、各比較例に係る二酸化炭素還元触媒を用いた炭化水素合成方法により得られた生成物と比較して、C
AROMA選択率及び生成率が高く、かつCO
2変換率も高い結果が明らかであった。また、C
AROMA選択率及び生成率の向上に有効なメソ孔を生成させるためのNaOH溶液濃度は、
図3の結果と併せて考察すると、0.1mol/Lから0.3mol/Lであることが好ましく、0.2mol/Lであることが最も好ましい結果が明らかであった。
【0064】
(メスバウア分光測定)
上記炭化水素合成を行った後の実施例1及び比較例3の二酸化炭素還元触媒中におけるFeの化学状態を、メスバウア分光測定法により測定した。測定は、反応後の二酸化炭素還元触媒を薄片加工し、測定条件は、等加速度モード、室温、常圧下、線源:57Co/Rhマトリクス、1.85[GBq]とした。測定されたメスバウアスペクトルのカウント値を関数で近似(フィッティング)することにより、二酸化炭素還元触媒中のFe
3O
4、Fe
5C
2、Feの存在率をそれぞれ特定した。実施例1及び比較例3の二酸化炭素還元触媒中の上記各成分の存在率を
図1に示した。
【0065】
図1に示すように、実施例1の二酸化炭素還元触媒ではFT合成反応における中間体とされるFe
5C
2成分が、比較例3の二酸化炭素還元触媒より多く検出される結果が確認された。従って、実施例1に係る二酸化炭素還元触媒において、Zrが添加されることでCH
2成長反応が促進されることが推定される。
【0066】
(Na-FeGaX触媒における助触媒Xの検討)
Na及びFeを含む触媒において、複合酸化物を構成する触媒金属としてのFe、Ga以外の助触媒となり得る触媒金属について検討した。具体的には、実施例1に係るNa-FeGaZr触媒のZrに代えて、In(インジウム)、Sn(スズ)、Si(ケイ素)をそれぞれ含む触媒を調製した。また、Zrを含まないNa-FeGa触媒を調製した。触媒の調製方法は、各金属の硝酸塩をそれぞれ用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。
【0067】
[炭化水素合成]
上記調製したNa-FeGaZr触媒、Na-FeGaIn触媒、Na-FeGaSn触媒、及びNa-FeGa触媒を用いて、炭化水素合成(二酸化炭素還元反応)を行った。装置は、固定床流通式の反応装置を使用し、反応ガスはCO2 2.8NL/h、H2 8.4NL/h(CO2/H2=1/3)とした。各触媒は0.4~0.8mm角のペレット状としたものを0.25g用いた。上記ペレットを、反応管(内径6mm)に5cmの長さで充填して用いた。W/F(触媒重量/ガス流量)は0.5g・h/mol、空間速度SV(Space Velocity)=50,000h-1とした。反応条件は温度380℃、圧力3MPa、反応時間4時間とした。触媒反応後のガス成分を、オンラインでのガスクロマトグラフィー(Shimadzu,GC-2014AT、検出器:熱伝導度検出器(TCD))及び水素炎イオン化検出器(FID)(Shimadzu,GC-2014AF)により定性・定量分析した。また触媒反応後の液体成分もオフラインでのガスクロマトグラフィー(Shimadzu,GC-2014AF、検出器:水素炎イオン化検出器(FID))により定性・定量分析した。
【0068】
(CO
2変換率、炭化水素選択率、C
5+生成率)
上記実施例及び比較例と同様の手法にて、各触媒のCO
2変換率、炭化水素選択率、C
5+生成率を評価した。C
5+生成率は以下の式(4)により求めた。結果を
図7~
図9に示した。
図7~
図9において、Na-FeGaX触媒における助触媒Xの種類をそれぞれ「なし」、「In」、「Sn」、「Si」、「Zn」と示した。
C
5+生成率(%)=CO
2変換率×C
5+選択率/100 …(4)
【0069】
図7~
図9の結果から、Na-FeGaX触媒における助触媒XをZrとすることで、助触媒Xを用いない場合や、助触媒XとしてIn、Sn、及びSiを用いた場合と比較して、炭素数5以上の炭化水素の選択率及び生成率が高く、かつCO
2変換率も高い結果が明らかであった。
【0070】
(Zr含有量とCO
2変換率、C
5+選択率、C
5+生成率との関係)
Na-FeGaZr触媒中のGa含有量を30質量%、Na含有量を1質量%、とした触媒において、Zr含有量をそれぞれ0質量%、5質量%、10質量%、15質量%とし、残りの触媒金属中の成分をFeとした触媒をそれぞれ調製し、
図7~
図9と同様の条件で、CO
2変換率、C
5+選択率、C
5+生成率をそれぞれ測定及び算出して、Zr含有量との関係を調べた。結果をそれぞれ
図10~
図12に示す。
【0071】
図10~
図12の結果から、Zr添加量を増やすほど、C
5+生成活性は向上し、10質量%が最高活性を示す結果が明らかであった。しかし、Zr添加量が10質量%を超えるとC
5+選択率は低下傾向を示し、Zr添加量が15質量%以上ではZrを添加しない触媒よりC
5+選択率が低下する。これはZr添加量を増やしすぎると、ZrがFe触媒の反応サイトを被覆するため、触媒活性が著しく低下するためと考えられる。このため、Zr添加量は5~15質量%であることが好ましい結果が確認された。