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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146028
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】電動弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/04 20060101AFI20231004BHJP
   F16K 27/10 20060101ALI20231004BHJP
   B29C 65/16 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
F16K31/04 A
F16K27/10
B29C65/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053000
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000133652
【氏名又は名称】株式会社テージーケー
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】弁理士法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】三宮 崇
(72)【発明者】
【氏名】阿部 繁
【テーマコード(参考)】
3H051
3H062
4F211
【Fターム(参考)】
3H051BB10
3H051CC06
3H051CC12
3H051DD07
3H051EE06
3H051FF08
3H062BB33
3H062FF38
3H062GG01
3H062HH04
3H062HH08
3H062HH09
4F211AA34
4F211AH13
4F211TA01
4F211TC14
4F211TN27
(57)【要約】
【課題】 樹脂部品のレーザ溶着によりモータのハウジングが構成される電動弁において、その外観上の違和感を低減する。
【解決手段】 電動弁は、筒形状を有するケースと、ケース内に配設されキャンに同軸状に外挿されるステータと、ケースの内側に配設される回路基板と、ケースとの間で回路基板を内包する空間を形成する蓋体と、を含むステータユニットを備える。ケースがレーザ吸収性樹脂部材からなる一方、蓋体がレーザ透過性樹脂部材からなり、ケースと蓋体とがレーザ溶着されることで空間が形成される。レーザ吸収性樹脂部材は、マンセル表色系において明度Vが0≦V≦5かつ彩度CがC≦1を満たすように着色される。レーザ透過性樹脂部材は、マンセル表色系において明度Vが1≦V≦5かつ彩度CがC≦1を満たすように着色され、波長900nm以上のレーザ光を照射したときの透過率が20%以上となる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディと、
前記ボディに設けられる弁孔に接離して弁部を開閉する弁体と、
前記弁体を前記弁部の開閉方向に駆動するためのロータと、
前記ボディに固定され、前記ロータを内包する筒状部材であって、流体の圧力が作用する内部空間と作用しない外部空間とを画定するキャンと、
筒形状を有するケースと、前記ケース内に配設され前記キャンに同軸状に外挿されるステータと、前記ケースの内側に配設される回路基板と、前記ケースとの間で前記回路基板を内包する空間を形成する蓋体と、を含むステータユニットと、
を備え、
前記ケースがレーザ吸収性樹脂部材からなる一方、前記蓋体がレーザ透過性樹脂部材からなり、前記ケースと前記蓋体とがレーザ溶着されることで前記空間が形成され、
前記レーザ吸収性樹脂部材は、マンセル表色系において明度Vが0≦V≦5かつ彩度CがC≦1を満たすように着色され、
前記レーザ透過性樹脂部材は、マンセル表色系において明度Vが1≦V≦5かつ彩度CがC≦1を満たすように着色され、波長900nm以上のレーザ光を照射したときの透過率が20%以上となることを特徴とする電動弁。
【請求項2】
前記レーザ透過性樹脂部材は、結晶性樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の電動弁。
【請求項3】
前記蓋体におけるレーザの透過位置の厚みが2mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の電動弁。
【請求項4】
前記ステータユニットが、前記回路基板に接続される端子と、前記端子を内側に一体に有する樹脂製のコネクタ形成部と、を含み、
前記コネクタ形成部は、モールド樹脂により前記ケースと一体成形されたものであり、前記回路基板を内包する空間内の圧力の外部への漏洩を許容するリーク孔が設けられていることを特徴とする請求項2又は3に記載の電動弁。
【請求項5】
前記蓋体が前記ケースとインロー嵌合され、前記蓋体と前記ケースとがインロー嵌合部に沿ってレーザ溶着されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の電動弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外観を構成する樹脂部品同士をレーザにより溶着させた電動弁に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用空調装置は、一般に、圧縮機、凝縮器、膨張装置、蒸発器等を冷凍サイクルに配置して構成される。冷凍サイクルには、膨張装置としての膨張弁など、冷媒の流れを制御するために各種制御弁が設けられている。近年の電気自動車等の普及に伴い、このような制御弁として駆動部にモータを備える電動弁が広く採用されつつある。
【0003】
このような電動弁は、モータを構成する電磁コイルその他の電気部品や回路基板を内蔵するため、湿った外気や塵埃が内部に侵入することを防止する必要がある。そこで、モータのハウジングを構成する樹脂部品同士をレーザ溶着させるなどして高い気密性を担保するなどしている。
【0004】
このように樹脂部品同士をレーザ溶着させる技術として、一方をレーザ吸収性樹脂部材とし、他方をレーザ透過性樹脂部材とし、両部材を当接させた状態でレーザ透過性樹脂部材側からレーザ光を照射する技術が採用される(特許文献1参照)。それにより、レーザ光がレーザ透過性樹脂部材を透過してレーザ吸収性樹脂部材に吸収されて発熱し、レーザ吸収性樹脂部材においてレーザ透過性樹脂部材と当接する端面が溶融する。その後、溶融箇所が固化することで両部材の溶着が実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-24180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、樹脂部品におけるレーザの透過性および吸収性は、その樹脂部品の色素に左右される。色素が黒色に近いほど吸収性が高くなる一方、透過性は低くなる。そのため、一般にハウジングを構成する樹脂部品同士の色調は異なり、見た目の違和感を生じさせることがあった。特にレーザ透過性樹脂部材には白色系のものが多く、高温環境下で経年劣化してさらに変色するため、見栄えが悪化する懸念があった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、樹脂部品のレーザ溶着によりモータのハウジングが構成される電動弁において、その外観上の違和感を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は電動弁である。この電動弁は、ボディと、ボディに設けられる弁孔に接離して弁部を開閉する弁体と、弁体を弁部の開閉方向に駆動するためのロータと、ボディに固定され、ロータを内包する筒状部材であって、流体の圧力が作用する内部空間と作用しない外部空間とを画定するキャンと、筒形状を有するケースと、ケース内に配設されキャンに同軸状に外挿されるステータと、ケースの内側に配設される回路基板と、ケースとの間で回路基板を内包する空間を形成する蓋体と、を含むステータユニットと、を備える。ケースがレーザ吸収性樹脂部材からなる一方、蓋体がレーザ透過性樹脂部材からなり、ケースと蓋体とがレーザ溶着されることで空間が形成される。レーザ吸収性樹脂部材は、マンセル表色系において明度Vが0≦V≦5かつ彩度CがC≦1を満たすように着色される。レーザ透過性樹脂部材は、マンセル表色系において明度Vが1≦V≦5かつ彩度CがC≦1を満たすように着色され、波長900nm以上のレーザ光を照射したときの透過率が20%以上となる。
【0009】
この態様によれば、ケースを構成するレーザ吸収性樹脂部材と、蓋体を構成するレーザ透過性樹脂部材とが、明度と彩度について黒色系寄りの近い範囲の値を有する。このため、ケースと蓋体とを溶着した場合の見た目の違和感が少ない。両部材が経年劣化したとしても変色による見栄えの悪化を伴い難い。レーザ透過性樹脂部材におけるレーザ光の透過率として20%以上が確保されるため、ケースと蓋体との間の溶着性能も担保される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂部品のレーザ溶着によりモータのハウジングが構成される電動弁において、その外観上の違和感を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る電動弁の構造を表す断面図である。
図2】ステータユニットにおけるケースと蓋体との溶着構造を表す図である。
図3】ケースおよび蓋体の色調を模式的に表す図である。
図4】ケースおよび蓋体について実施形態の色調を採用したときの効果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。また、以下の実施形態およびその変形例について、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0013】
本実施形態の電動弁は、自動車用空調装置の冷凍サイクルに適用される。冷凍サイクルには、循環する冷媒を圧縮する圧縮機、圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器、凝縮された液冷媒を絞り膨張させて霧状にして送出する膨張弁、その霧状の冷媒を蒸発させてその蒸発潜熱により車室内の空気を冷却する蒸発器が設けられる。電動弁は、その膨張弁として機能する。
【0014】
図1は、実施形態に係る電動弁の構造を表す断面図である。
電動弁1は、弁本体2とモータユニット3とを組み付けて構成される。弁本体2は、弁部を収容したボディ5を有する。ボディ5は、第1ボディ6と第2ボディ8とを同軸状に組み付けて構成される。
【0015】
第1ボディ6の下部に第2ボディ8の上部が固定されている。第2ボディ8の底部を軸線方向に貫通するように弁孔22が設けられ、その弁孔22の上端開口部に弁座24が形成されている。第2ボディ8の側部に入口ポート26が設けられ、下部に出口ポート28が設けられている。第1ボディ6および第2ボディ8の内方に弁室30が形成されている。入口ポート26と出口ポート28とは、弁室30を介して連通している。入口ポート26は、上流側(凝縮器側)からの冷媒を弁室30に導入する。出口ポート28は、弁室30の下流側(蒸発器側)へ冷媒を導出する。
【0016】
ボディ5の内方には、モータユニット3のロータ60から延びる作動ロッド32が挿通されている。作動ロッド32は、弁室30を貫通する。作動ロッド32の下部に弁体34が一体に設けられている。弁体34が弁室30側から弁座24に着脱することにより弁部を開閉する。
【0017】
第1ボディ6の上部中央には、ガイド部材36が立設されている。ガイド部材36の軸線方向中央部の外周面に雄ねじ38が形成されている。ガイド部材36の下端部が第1ボディ6の上部中央に固定され、同軸状に固定されている。ガイド部材36は、その内周面により作動ロッド32を軸線方向に摺動可能に支持する一方、その外周面によりロータ60の回転軸62を回転摺動可能に支持する。作動ロッド32とガイド部材36との間に、弁体34を閉弁方向に付勢するスプリング46が介装されている。
【0018】
一方、モータユニット3は、ロータ60とステータ64とを含む三相ステッピングモータとして構成されている。モータユニット3は、有底円筒状のキャン66を有し、そのキャン66の内方にロータ60を配置し、外方にステータ64を配置して構成されている。キャン66は、弁体34およびその駆動機構が配置される空間を覆うとともにロータ60を内包する有底円筒状の部材であり、冷媒の圧力が作用する内方の圧力空間(内部空間)と作用しない外方の非圧力空間(外部空間)とを画定する。キャン66は、非磁性金属からなり、その下部が第1ボディ6の上端部に外挿されるようにして同軸状に組み付けられている。ボディ5とキャン66とに囲まれた空間が、上記圧力空間を形成している。
【0019】
ステータ64は、積層コア70の内周部に複数の突極を等間隔に配置して構成される。積層コア70は、環状のコアが軸線方向に積層されて構成される。各突極には、コイル73(電磁コイル)が装着されたボビン74が組み付けられている。ステータ64は、樹脂製のケース76内に配設され、キャン66に同軸状に外挿される。
【0020】
ステータ64は、本実施形態ではケース76と一体に設けられている。ケース76は、耐食性を有する樹脂材の射出成形により得られ、筒形状を有する。ステータ64は、その射出成形(「インサート成形」又は「モールド成形」ともいう)によるモールド樹脂によって被覆されている。以下、ステータ64とケース76とのモールド成形品を含むユニットを「ステータユニット78」とも称する。ステータユニット78は、中空構造を有し、キャン66を同軸状に挿通しつつボディ5に組み付けられる。
【0021】
第1ボディ6の上部外周面にシールリング82(Oリング)が嵌着されている。第1ボディ6の上部外周面とケース76の下部内周面とに間にシールリング82が介装されることにより、キャン66とステータ64との間隙への外部雰囲気(水など)の侵入が防止されている。
【0022】
ロータ60は、回転軸62に組み付けられた円筒状のロータコア102と、ロータコア102の外周面に設けられたロータマグネット104と、ロータコア102の上端面に設けられたセンサマグネット106を備える。ロータコア102は、回転軸62に組み付けられている。ロータマグネット104は、その周方向に複数極に磁化(着磁)されている。センサマグネット106も複数極に磁化(着磁)されている。
【0023】
回転軸62は、有底円筒状の円筒軸であり、ガイド部材36に外挿されている。回転軸62の下部内周面に雌ねじ108が形成され、ガイド部材36の雄ねじ38と噛合している。これらのねじ部によるねじ送り機構109によって、ロータ60の回転運動が作動ロッド32の軸線運動に変換される。それにより弁体34が軸線方向、つまり弁部の開閉方向に移動(昇降)する。
【0024】
作動ロッド32の上部が縮径され、回転軸62の底部112を貫通している。作動ロッド32の上端部には環状のストッパ114が固定されている。一方、作動ロッド32と底部112との間には、作動ロッド32を下方(つまり閉弁方向)に付勢するスプリング116が介装されている。このような構成により、開弁時には、ストッパ114が底部112に係止される態様で作動ロッド32がロータ60と一体変位する。一方、閉弁時には、弁体34が弁座24から受ける反力によりスプリング116が押し縮められる。このときのスプリング116の弾性反力により弁体34を弁座24に押し付けることができ、弁体34の着座性能(弁閉性能)を高められる。
【0025】
モータユニット3は、キャン66の外側に回路基板118を有する。回路基板118は、ケース76の内方に固定されている。回路基板118には、モータを駆動するための駆動回路、駆動回路に制御信号を出力する制御回路、制御回路が外部装置と通信するための通信回路、各回路およびモータに電力を供給するための電源回路等が実装されている。ケース76の上端開口部は、蓋体77がインロー嵌合されることで閉止されている。ケース76と蓋体77とはそのインロー嵌合部130に沿って溶着され、モータのハウジングを構成する。ケース76と蓋体77とに囲まれた空間Sに回路基板118が内包されている。
【0026】
ケース76にはコネクタ形成部120が設けられている。すなわち、コネクタ形成部120は、モールド樹脂によりケース76と一体成形される。コネクタ形成部120は、回路基板118に接続される端子122を内側に一体に有し、保護する。端子122は、給電端子や通信端子(これらを「外部接続端子」ともいう)を含む。ステータユニット78は、ステータ64、ケース76、回路基板118、端子122、コネクタ形成部120および蓋体77を含む。ケース76には、コネクタ形成部120の内方と空間Sとを連通するリーク孔124が設けられている。リーク孔124の機能について後述する。
【0027】
回路基板118におけるセンサマグネット106との対向面には、磁気センサ119が設けられている。磁気センサ119は、キャン66の底部端壁を介してセンサマグネット106と軸線方向に対向する。ロータ60の回転に伴ってセンサマグネット106による磁束が変化する。磁気センサ119は、この磁束の変化を捉えることでロータ60の変位量(ロータ60の回転角度)を検出する。そのロータ60の変位量に基づいて弁体34の軸線方向位置ひいては弁開度を算出できる。
【0028】
コネクタ形成部120には、リーク孔124が設けられている。ボディ5へのステータユニット78の組み付けに先立ち、ケース76と蓋体77とが溶着される。このため、ステータユニット78の内方へキャン66が挿入されるに伴って空間Sにおける気体の圧力が高くなる。この圧力が高すぎると、空間Sに格納されている回路基板118等が破損する虞がある。本実施形態においては、リーク孔124によって空間Sの内部圧力をコネクタ形成部120の内方へと漏洩させる。それにより、キャン66をステータユニット78へ内挿させステータユニット78をボディ5に組み付けたとしても、回路基板118等の破損を防止できる。
【0029】
ステータユニット78がボディ5に組み付けられた後、電動弁1の作動時において空間S内の温度が変化する。仮にリーク孔124が存在せず、ケース76が密閉される場合には、この温度変化に伴い空間Sの内部圧力が変化する。この内部圧力が高くなると、回路基板118の破損、ステータユニット78における溶着部の破断、ケース76や蓋体77の変形、コイル73の損傷等の不具合が生じる。リーク孔124を設け、空間Sの内部圧力をコネクタ形成部120の内方へと漏洩することで、電動弁1の作動時においても回路基板118の破損を防止できる。
【0030】
以上のような構成において、電動弁1が駆動されると、ロータ60は、ガイド部材36との間のねじ送り機構109により上下方向に動作する。つまり、弁体34が弁部の開閉方向に並進し、弁部の開度が設定開度に調整される。このねじ送り機構109は、ロータ60の軸線周りの回転運動を作動ロッド32の軸線運動(直進運動)に変換し、弁体34を弁部の開閉方向に駆動する。電動弁1が膨張弁として機能するとき、弁部は小開度に制御される。
【0031】
図2は、ステータユニット78におけるケース76と蓋体77との溶着構造を表す図である。図2(A)は図1のA部拡大図であり、図2(B)はステータユニット78の平面図である。
ケース76と蓋体77とが環状にインロー嵌合され、ケース76の開口端部上面と蓋体77の周縁部下面との間に環状の当接面128が形成される。当接面128に沿ってレーザが照射されることにより、ケース76と蓋体77とが溶着されることで空間Sが形成される。ここでは、蓋体77のレーザ透過性を考慮し、波長が900nm以上(例えば940nm)のレーザ光を使用する。ケース76と蓋体77とのインロー嵌合部130に沿ってレーザ溶着部132が形成される。
【0032】
蓋体77はレーザ透過性樹脂材からなり、ケース76はレーザ吸収性樹脂材からなる。ケース76および蓋体77は、いずれもポリフェニレンサルファイド(PPS)やポリアミド9T(PA9T)などの結晶性樹脂からなり、強度確保のためガラス含有率が30~40%とされている。蓋体77におけるレーザ透過を確保するために、レーザ溶着部132(レーザの透過位置)における蓋体77の厚みtは2mm以下(本実施形態では1.2mm)とされている。ケース76と蓋体77の色調をそれぞれ調整することで、レーザ光に対する特性を異ならせている。
【0033】
蓋体77とケース76との当接面128に対して蓋体77側からレーザを照射することで、レーザは蓋体77を透過し、ケース76の端面134に吸収される。吸収されたレーザから発生する熱によりケース76の端面134の一部が溶融する。溶融した樹脂材はインロー嵌合部130の隙間に溜まり、蓋体77の突部136の外周面とケース76の開口端部138とを架橋する架橋部135となって固着する。
【0034】
図3は、ケース76および蓋体77の色調を模式的に表す図である。図3(A)はケース76の色調を示し、図3(B)は蓋体77の色調を示す。各図はマンセル表色系における明度Vと彩度Cが示されている。横軸が彩度Cを示し、縦軸が明度Vを示す。
【0035】
ケース76の素材であるレーザ吸収性樹脂部材は、マンセル表色系において明度Vが0≦V≦5かつ彩度CがN≦C≦1を満たすように着色されている(図3(A):一点鎖線で囲まれるハッチング領域参照)。上述した結晶性樹脂に所定の着色剤を含有させた状態で成形することにより、ケース76が上記色調を呈することとなる。このレーザ吸収性樹脂部材として、波長900nm以上のレーザ光に対してレーザ吸収率が90%以上確保できることが好ましい。
【0036】
一方、蓋体77の素材であるレーザ透過性樹脂部材は、マンセル表色系において明度Vが1≦V≦5かつ彩度CがN≦C≦1を満たし、波長900nm以上のレーザ光を照射したときの透過率が20%以上となるように着色されている(図3(B):一点鎖線で囲まれるハッチング領域参照)。上述した結晶性樹脂に所定の着色剤を含有させた状態で成形することにより、蓋体77が上記色調を呈することとなる。なお、本実施形態では、両者の色相Hをマンセル表色系での5Rとしているが、これに限らず適宜選択できる。
【0037】
図4は、ケースおよび蓋体について実施形態の色調を採用したときの効果を表す図である。図4(A)は本実施形態の効果を示すステータユニットの写真であり、図4(B)は比較例の効果を示すステータユニットの写真である。比較例では、ケース76についてはレーザ吸収性を確保するために本実施形態と同様の色調とする一方、蓋体177については明度Vが8≦V≦9かつ彩度CがN≦C≦1とした。蓋体177の色調は、レーザ透過性を確保するために現在の市場で一般に採用されているものである。
【0038】
本実験では、ステータユニットについて環境変化に伴う色調の変化を実験的に検証した。具体的には、電動弁を車両のエンジンルームに設置した状態を再現するために、本実施形態および比較例のそれぞれについて、ステータユニットを炉内で120℃に加熱して100時間程度放置し、色調の変化を確認した。本実験は、電動弁1を車両に搭載した状態を模擬し、環境劣化によるケースおよび蓋体の色調の変化を検証したものである。
【0039】
本実験結果によれば、本実施形態については、ケース76および蓋体77ともに色調の変化は目視では確認できないレベルであった。一方、比較例については、蓋体177において顕著な色調の変化があった。その結果、ケース76と蓋体177との色調の差異が大きく、見栄えの劣化が大きいことが確認できた。
【0040】
以上に説明したように、本実施形態では、ケース76を構成するレーザ吸収性樹脂部材と、蓋体77を構成するレーザ透過性樹脂部材とが、明度Vと彩度Cについて黒色系寄りの近い範囲の値を有する。このため、ケース76と蓋体77とを溶着した場合の見た目の違和感が少ない。両部材が経年劣化したとしても変色による見栄えの悪化を伴い難い。レーザ透過性樹脂部材におけるレーザ光の透過率として20%以上が確保されるため、ケース76と蓋体77との間の溶着性能も担保される。
【0041】
結晶性樹脂は光を反射し易いため、一般にレーザ透過率は低い。ガラス含有率が高くなるほどそれは顕著となる。したがって、レーザ透過性樹脂部材に結晶性樹脂を採用するのは溶着に不利となる傾向にある。この点、本実施形態では、蓋体77とケース76との当接面128の平面度を高くするとともに、インロー嵌合部130の隙間に樹脂溜まりによる架橋部135を形成することで溶着性能を確保している。また、コネクタ形成部120にリーク孔124を設け、空間Sの昇圧を抑制することで、溶着力が大きくなくともレーザ溶着部132が破損し難くなる工夫がなされている。
【0042】
言い換えれば、リーク孔124を設けたことでレーザ溶着に必要な強度を低くすることができ、その結果、結晶性樹脂を採用し易くなっている。結晶性樹脂を採用することにより、電動弁をエンジンルームに配置したときの湿度への耐久性(膨潤や収縮などへの耐久性)なども高まる。
【0043】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はその特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0044】
上記実施形態では、蓋体77の素材であるレーザ吸収性樹脂部材として、マンセル表色系において明度Vが0≦V≦5かつ彩度CがN≦C≦1を満たすように着色されたものを採用した。変形例においては、マンセル表色系において明度Vが1≦V≦5かつ彩度CがN≦C≦1を満たすように着色されたものとしてもよい。あるいは、レーザ吸収性を考慮して明度Vを0≦V≦4としてもよい。
【0045】
本実施形態では、ケース76および蓋体77の色相Hをマンセル表色系での5Rとしているが、5Y、5G、10Rその他の色相を適宜選択できる。明度Vと彩度Cについて黒色系寄りの近い範囲の値を採用するため、色相による差異が生じ難いのもその理由の一つである。
【0046】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 電動弁、2 弁本体、3 モータユニット、5 ボディ、22 弁孔、24 弁座、26 入口ポート、28 出口ポート、30 弁室、32 作動ロッド、34 弁体、60 ロータ、64 ステータ、66 キャン、73 コイル、76 ケース、77 蓋体、78 ステータユニット、109 ねじ送り機構、118 回路基板、119 磁気センサ、120 コネクタ形成部、122 端子、124 リーク孔、128 当接面、130 インロー嵌合部、132 レーザ溶着部、134 端面、136 突部、138 開口端部、S 空間。
図1
図2
図3
図4