(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146042
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】シリンダヘッドガスケット
(51)【国際特許分類】
F16J 15/08 20060101AFI20231004BHJP
F02F 11/00 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
F16J15/08 Q
F02F11/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053026
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000228383
【氏名又は名称】日本ガスケット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】久保 有佑
(72)【発明者】
【氏名】田畑 良
【テーマコード(参考)】
3J040
【Fターム(参考)】
3J040AA01
3J040AA12
3J040BA01
3J040EA05
3J040EA48
3J040FA02
3J040FA05
3J040HA07
(57)【要約】
【課題】 歩留まりがよく、かつコーティングによる面圧が一定となるようにしたシリンダヘッドガスケットを提供する。
【解決手段】 金属製のガスケット基板4に、シリンダボア3aに一致させて形成した燃焼室孔6と、上記燃焼室孔6を囲繞するように設けられたビード11と、上記ガスケット基板4の表面または裏面の少なくともいずれか一方を覆うコーティング12とを形成したシリンダヘッドガスケット1に関する。
上記シリンダブロック3はアルミニウム製であるとともに、上記ガスケット基板4はステンレス製となっており、
上記コーティング12は、上記ビード11を覆うビード部コーティング12aと、上記ウォータージャケット3bの開口縁に沿って設けたウォータージャケット部コーティング12bとを有し、上記ビード部コーティング12aとウォータージャケット部コーティング12bとの間に隙間12cを形成した。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダボアおよびウォータージャケットが形成されたシリンダブロックと、シリンダヘッドとの間に設けられるシリンダヘッドガスケットであって、
金属製のガスケット基板に、上記シリンダボアの位置に設けた燃焼室孔と、上記燃焼室孔を囲繞するように設けられたビードと、上記ガスケット基板の表面または裏面の少なくともいずれか一方を覆うコーティングとを備えたシリンダヘッドガスケットにおいて、
上記シリンダブロックはアルミニウム製であるとともに、上記ガスケット基板はステンレス製となっており、
上記コーティングは、上記ビードを覆うビード部コーティングと、上記ウォータージャケットの開口縁に沿って設けたウォータージャケット部コーティングとを有し、
上記ビード部コーティングとウォータージャケット部コーティングとの間に隙間を形成したことを特徴とするシリンダヘッドガスケット。
【請求項2】
上記ビード部コーティングの幅を5mmとしたことを特徴とする請求項1に記載のシリンダヘッドガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリンダヘッドガスケットに関し、より詳しくは、ウォータージャケットが形成されたシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に設けられるシリンダヘッドガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に設けられて、これらのシールを行うシリンダヘッドガスケットが知られ、金属製のガスケット基板に、上記シリンダボアの位置に設けた燃焼室孔と、上記燃焼室孔を囲繞するように設けられたビードと、上記ガスケット基板の表面または裏面の少なくともいずれか一方を覆うコーティングとが形成されたものが知られている(特許文献1)。
ここで、上記特許文献1のシリンダヘッドガスケットは、上記シリンダブロックの上面に冷却水を流通させるためのいわゆるウォータージャケットを備えたエンジン構造に用いられているが、近年、上記シリンダブロックとしてアルミニウム製のものが使用されている。
この場合、上記ウォータージャケットの冷却水がシリンダブロックとガスケット基板との間に入り込むと、アルミニウムとステンレスとの電位差によってシリンダブロックが電蝕により損傷する恐れがある。
これに対し、引用文献1ではシリンダボアからウォータージャケットの形成されている部分のガスケット基板はコーティングによって覆われているため、上記電位差による電蝕の恐れは生じなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記引用文献1のようにガスケット基板の全体にコーティングを形成した構成において、上記シリンダブロックにおけるシリンダボアからウォータージャケットにかけての幅が広いと、コーティングを塗布する面積が多くなってしまい、シリンダヘッドガスケットを製造する歩留まりが悪いという問題があった。
さらに、上記シリンダブロックにおけるシリンダボアからウォータージャケットまでの幅が広いと、コーティングの外周部分に厚肉部分(サドル部分)が形成されてしまい、シリンダヘッドガスケットをシリンダブロックとシリンダヘッドとの間で挟持した際に均一な面圧が得られず、シール性が低下してしまうという問題があった。
このような問題に鑑み、本発明は歩留まりがよく、かつコーティングによる面圧を一定にすることが可能なシリンダヘッドガスケットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明は、シリンダボアおよびウォータージャケットが形成されたシリンダブロックと、シリンダヘッドとの間に設けられるシリンダヘッドガスケットであって、
金属製のガスケット基板に、上記シリンダボアの位置に設けた燃焼室孔と、上記燃焼室孔を囲繞するように設けられたビードと、上記ガスケット基板の表面または裏面の少なくともいずれか一方を覆うコーティングとを備えたシリンダヘッドガスケットにおいて、
上記シリンダブロックはアルミニウム製であるとともに、上記ガスケット基板はステンレス製となっており、
上記コーティングは、上記ビードを覆うビード部コーティングと、上記ウォータージャケットの開口縁に沿って設けたウォータージャケット部コーティングとを有し、
上記ビード部コーティングとウォータージャケット部コーティングとの間に隙間を形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば、上記シリンダブロックのシリンダボアとウォータージャケットとの間の範囲に、ビード部を覆うビード部コーティングと、ウォータージャケットからの冷却水の流入を阻止するウォータージャケット部コーティングとを設けて、これらの間に隙間を形成したものとなっている。
上記隙間の部分については、コーティングを塗布しなくてよくなるため、シリンダヘッドガスケットを製造するための歩留まりを向上させることができる。
また、上記ビード部コーティングについては、当該ビード部を覆うように形成すればよいことから、当該ビード部コーティングの幅を狭くすることができ、サドル部分が形成されないようにして、面圧を一定にすることができる。
さらに、上記ウォータージャケット部コーティングによってウォータージャケットからの冷却水の流入を阻止できるため、アルミ製のシリンダブロックとステンレス製のガスケット基板との間の電位差による電蝕を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について本発明を説明すると、
図1は本実施例にかかるシリンダヘッドガスケット1の一部分を示す平面図を示しており、
図2は
図1におけるII-II部の断面図を示している。
シリンダヘッドガスケット1は、
図2に示すようにエンジンのシリンダヘッド2とシリンダブロック3との間に挟持されて、それらの間のシールをするものとなっている。なお
図2はシリンダヘッドガスケット1がシリンダヘッド2とシリンダブロック3とによって圧縮されていない状態を示している。
本実施例において、上記シリンダブロック3はアルミニウム製となっており、またシリンダブロック3の上面には、複数のシリンダボア3aと、冷却水を流通させるウォータージャケット3b(
図1の一点鎖線参照)とが開口している。
本実施例のシリンダヘッドガスケット1は2枚のステンレス製のガスケット基板4と、ガスケット基板4とガスケット基板4との間に設けられたステンレス製のシムプレート5とから構成されている。
これらガスケット基板4およびシムプレート5には、それぞれシリンダボア3aの位置に設けられた燃焼室孔6、シリンダヘッド2とシリンダブロック3を締結するための締結ボルトが挿通するボルト孔7、ウォータージャケット3bの冷却水をシリンダヘッド2側に流通させる水孔8、潤滑油を流通させる油孔9等が穿設されている。
上記シムプレート5は上記燃焼室孔6を囲繞するように形成されており、以下に説明するビード11と重合するような位置に設けられている。このシムプレート5により、シリンダボア3a周辺のシール性を向上させるようになっている。
【0009】
上記ガスケット基板4には、各燃焼室孔6を無端状に囲繞するビード11が形成され、シリンダヘッド2側のガスケット基板4のビード11はシリンダヘッド2に向けて上方に膨出し、シリンダブロック3側のガスケット基板4のビード11はシリンダブロック3に向けて下方に膨出するように形成されている。
そして、各ガスケット基板4の表面(上面)および裏面(下面)には、
図1においてハッチングで示す範囲に、それぞれフッ素、ニトリル系等のゴム材料や、エラストマー材料からなるコーティング12が形成されている。
上記コーティング12は、従来公知のスクリーン印刷によってコーティング剤をガスケット基板4に塗布して形成することが可能となっており、ガスケット基板4と相手材との密着性を向上させるものとなっている。
【0010】
上述したように、上記シリンダブロック3に形成されたウォータージャケット3bは複数のシリンダボア3aを囲繞するように設けられており、また上記シリンダボア3aとウォータージャケット3bとの間には平坦面3cが形成されている。
当該平坦面3cの幅は場所によって異なるものの、シリンダボア3aに対して
図1の図示上下方向、すなわちシリンダボア3aの整列方向に対して直交する方向に隣接する部分(
図1のAの部分)では、上記平坦面3cの幅がその他の部分よりも広くなっており、例えばその幅が7~11mm程度に設定されている。
図3は上記シリンダボア3aの整列方向に対して直交する方向に隣接する部分を拡大した図となっており、当該部分において、上記コーティング12は、上記ビード11を覆うビード部コーティング12aと、上記ウォータージャケット3bの開口縁に沿って設けたウォータージャケット部コーティング12bとを有している。
上記ビード部コーティング12aは、上記ビード11の中央(頂部の稜線)を中心として幅5mmで形成されている(本実施例におけるビード11の幅は1.9mm)。また塗布厚さは、ビード11の頂部で20μm、ビード11の両側の平坦部で25μmとなっている。
上記ウォータージャケット部コーティング12bは、上記ウォータージャケット3bの開口縁に沿って、上記シリンダブロック3の平坦面3cに密着する位置に形成されており、本実施例では幅1mmで形成されている。
そして、上記シリンダボア3aとウォータージャケット3bとの間には7~11mmの平坦面3cが形成されていることから、上記ビード部コーティング12aとウォータージャケット部コーティング12bとの間にはコーティングの形成されない隙間12cが形成されている。
本実施例では、上記隙間12cは
図3に示すように平面視三日月状に形成されるが、シリンダブロック3やシリンダヘッドガスケット1の形状に応じて、隙間12cの平面視形状については様々なバリエーションが考えられる。
【0011】
次に、上記構成を有するシリンダヘッドガスケット1の製造方法について説明する。
まず、平板状のガスケット基板4となるステンレス製の薄板に対し、燃焼室孔6やボルト孔7などの孔を穿設し、またプレス装置によってビード11を形成する。
続いて、上記ガスケット基板4の表面および裏面に対し、それぞれ従来公知のスクリーン印刷を用いて上記コーティング剤を塗布する。このとき、スクリーン印刷によってビード部コーティング12aとウォータージャケット部コーティング12bとの間に上記隙間12cが形成されるように塗布を行う。
コーティング剤が乾燥して、ガスケット基板4の表面および裏面にコーティング12が形成されたら、2枚のガスケット基板4を積層させるとともに、これらの間にシムプレート5を挿入し、従来公知の方法で連結することで、本実施例にかかるシリンダヘッドガスケット1を得ることができる。
【0012】
そして上記実施例にかかるシリンダヘッドガスケット1によれば、以下の効果を得ることができる。
まず、本実施例のシリンダブロック3はアルミニウム製となっており、これに対しガスケット基板4はステンレス製であることから、これらの間にウォータージャケット3bを流通する冷却水が入り込むと、アルミニウムとステンレスとの電位差によって、アルミニウム製のシリンダブロック3に電蝕が発生する恐れがあった。
そこで本実施例では、上記シリンダヘッドガスケット1にウォータージャケット部コーティング12bを設けて、ガスケット基板4とシリンダブロック3との間に流入しようとする冷却水をシールするようになっている。
また冷却水は、上記水孔8を介して2枚のガスケット基板4の間、ならびにガスケット基板4とシリンダヘッド2との間に入り込もうとするが、これも上記ウォータージャケット部コーティング12bによってシールするようになっている。
【0013】
次に、本実施例では、特にシリンダボア3aの整列方向に対して直交する方向に隣接する部分であって、シリンダボア3aとウォータージャケット3bとの間となる部分に、ビード部コーティング12aとウォータージャケット部コーティング12bとを形成し、これらの間に隙間12cを形成したことを特徴としている。
つまり上記ガスケット基板4にコーティング12を塗布する際に、上記隙間12cとなる位置にコーティング剤を塗布しなければ、使用するコーティング剤の量を低減させることができるため、シリンダヘッドガスケット1の製造コストを低減させることが可能となる。
また、上記ビード部コーティング12aについては、その幅を所定の幅とすることで、ビード部コーティング12aの平坦部での塗膜の厚さが一定となり、シリンダヘッドガスケット1をシリンダブロック3とシリンダヘッド2との間で挟持したときに、均一な面圧で密着させることができるため、塗膜の厚さのばらつきによるシール不良を防止することができる。
【0014】
以下、上記ビード部コーティング12aの幅について、最適な幅を求めるために、ビード部コーティング12aの両側部分に厚肉部分が形成されてしまう、いわゆるサドル現象が生じてしまう条件について実験を行った。
上記サドル現象は、液状のコーティング剤をガスケット基板4に塗布する際に、表面張力によってコーティングの両側部分がその他の部分に対して膨出してしまう現象をいう。
実験では、ビード11を模した所定長さの凸状部を形成したステンレス製の板に、当該凸状部を覆うようにスクリーン印刷の手法を用いてコーティング剤を塗布し、コーティング12が乾燥した後、塗布したコーティング12における幅方向の塗膜の厚さを測定した。
比較対象として、凸状部の中央(稜線)を中心として、塗布の幅を3mm、5mm、8mm、9mm、11mm、13mm、15mm、17mm、19mm、21mmで設定するとともに、スクリーン印刷による塗膜の厚さを20μmに設定した。
実験の結果、幅を3mmとした場合、凸状部に隣接した部分には平坦面が形成されず、シリンダヘッドガスケット1として使用したときに均一な面圧が得られず、十分なシール性が得られないと評価した。一方、両側部分と中央部分とで塗膜の厚さに差は認められず、サドル現象は生じていなかった。
幅を5mmとした場合、凸状部に隣接した部分には平坦部が形成され、また当該平坦部の両側部分と中央部分とで塗膜厚さに差が認められず、サドル現象は認められなかった。
幅を8mm~21mmとした場合、凸状部に隣接した平坦部の表面には平滑面が形成されているものの、両側部分に厚肉部分が認められ、サドル現象が認められた。
以上のことから、ビード11の中央を中心として幅5mmでビード部コーティング12aを形成すれば、当該ビード部コーティング12aの全体で均一な面圧が得られ、良好なシール性能が得られることが判明した。
【0015】
なお、上記実施例においては、上下のガスケット基板4の間にインナーシムを設けているが、このインナーシムを省略することも可能であり、またガスケット基板4を1枚とすることも可能である。
【符号の説明】
【0016】
1 シリンダヘッドガスケット 2 シリンダヘッド
3 シリンダブロック 4 ガスケット基板
6 燃焼室孔 11 ビード
12 コーティング 12a ビード部コーティング
12b ウォータージャケット部コーティング