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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146082
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】湯水混合弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 11/078 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
F16K11/078 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053074
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000144072
【氏名又は名称】SANEI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 健介
(72)【発明者】
【氏名】多田 峻平
【テーマコード(参考)】
3H067
【Fターム(参考)】
3H067AA16
3H067CC22
3H067CC23
3H067CC32
3H067CC44
3H067CC45
3H067CC49
3H067DD03
3H067DD12
3H067DD23
3H067DD43
3H067EB02
3H067ED13
3H067FF02
3H067GG13
(57)【要約】
【課題】簡便に、経時的に安定した操作性を維持することが容易な湯水混合弁を提供する。
【解決手段】湯水混合弁10は、略円筒状のハウジング11と、ハウジング11内に配置された可動弁体12、感温ばね13、バイアスばね14、スライダ15、スピンドル16と、ハウジング11外に配置されたラチェット機構部20と、を有する。ラチェット機構部20は、スピンドル16に取付けられた外径がハウジング11と略同一でハウジング11の左壁11gに対向する面の径方向外側環状部に第1ギア21bを有する第1リング部材21と、左壁11gに対して回転不能かつ筒軸CAの方向にスライド可能で第1リング部材21に向かって付勢された状態で取付けられた外径がハウジング11と略同一で第1リング部材21に対向する面に第1ギア21bに嵌合可能な第2ギア22bが形成された第2リング部材22と、を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湯水を内部で混合する湯水混合弁であって、
湯の供給される湯側ポート及び水の供給される水側ポートを有する略円筒状のハウジングと、
該ハウジング内に筒軸の方向に摺動可能なように設けられ、摺動により前記湯側ポート及び前記水側ポートの開度を相反的に変化させる可動弁体と、
該可動弁体を前記ハウジングに対して前記筒軸の方向の一方から前記湯側ポートを閉じる方向に付勢する感温ばねと、
前記可動弁体を前記ハウジングに対して前記筒軸の方向の他方から前記湯側ポートを開く方向に付勢するバイアスばねと、
前記ハウジング内に前記筒軸の方向に摺動可能なように設けられ、前記バイアスばねの前記可動弁体に当てられる側とは反対側の端部を支持するスライダと、
前記ハウジングの前記筒軸の方向の他方の端部に前記筒軸を中心軸として回転可能に連結され、温度調節ハンドルの操作により前記スライダを前記筒軸の方向に送るスピンドルと、を有し、
該スピンドルには、外径が前記ハウジングと略同一で、前記ハウジングの前記筒軸の方向の他方の端部に向かい合う面の径方向外側環状部に径方向に延びる複数の断面山形の突条が等角度間隔で形成された第1ギアを有する第1リング部材が前記筒軸を中心軸として取付けられており、
前記ハウジングの前記筒軸の方向の他方の端部には、外径が前記ハウジングと略同一で、前記第1リング部材に対向して前記筒軸の方向にスライド可能で前記第1リング部材に対向する面に前記第1ギアに嵌合可能な第2ギアが形成された第2リング部材が、前記筒軸を中心軸として前記ハウジングに対して回転不能かつ前記第1リング部材に向かって付勢された状態で取付けられている湯水混合弁。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2リング部材の前記第1リング部材に向かっての付勢は、前記第2リング部材と前記ハウジングとの間に前記スピンドルの中心軸と同軸に配置された金属製の圧縮コイルばねによってなされている湯水混合弁。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記第2リング部材の内周面と前記スピンドルの外周面との間にはオーリングが配置されている湯水混合弁。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湯水混合水栓における湯水混合弁に関する。
【背景技術】
【0002】
湯水混合水栓の内部には、湯と水を混合して吐出する湯水混合弁が配置されている。この湯水混合弁は、円筒状のハウジング内に軸線方向に移動可能に設けられた可動弁体をバイアスばねと形状記憶合金からなる感温ばねとにより軸線方向の両側から付勢する構造をしている。この湯水混合弁においては、湯側のポートを可動弁体が開く場合に感温ばねが最大に圧縮されるため、湯側のポートを閉じようとする力が強くなり温度調節用ハンドルが自転を起こす可能性が生ずる。そのため、湯水混合弁にラチェット機構を設けその抵抗力で温度調整用ハンドルの自転を防いでいるものがある。
【0003】
特許文献1に開示された湯水混合弁100においては、図7及び図8に示すように、外面に波状の突起102aが形成されたラチェットギア102が、ハウジング101の一端側に同軸状に取付けられるとともに、ツメ部103aが円周部の内周面の2か所に形成されたラチェットリング103が、温度調整用栓棒104に固定されて設けられている。ラチェットリング103は、温度調整用栓棒104と連動してハウジング101に対して回転するように構成されている。これによって、内側のラチェットギア102と外側のラチェットリング103のかみ合わせによる回転抵抗力で温度調整用栓棒104に取付けられた温度調節用ハンドル(図示せず)の自転発生を抑制できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-11791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、ラチェットリング103は複雑な形状をしているので樹脂の射出成形により形成されていた。ラチェットリング103が樹脂製であると、ツメ部103aをラチェットギア102の突起102aにかみ合わせて温度調整用栓棒104の回転を抑制する力が経時変化によって弱まり温度調節用ハンドルの自転発生を抑制できなくなることがある。これに対応して初期の押付け力を高く設定しておくために、ラチェットリング103を弾性率の高い樹脂にする、肉厚を大きくするなど剛性を高めておく必要があった。これによって、初期の段階において、温度調節用ハンドルを回転操作して吐出水の温度調節をするのに強い力を要し湯水混合水栓の操作性が低下するおそれがあるので、ラチェットリング103の材料や形状の調整に時間を要するという問題があった。
【0006】
このような問題に鑑み本発明の課題は、簡便に、経時的に安定した操作性を維持することが容易な湯水混合弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1発明は、湯水を内部で混合する湯水混合弁であって、湯の供給される湯側ポート及び水の供給される水側ポートを有する略円筒状のハウジングと、該ハウジング内に筒軸の方向に摺動可能なように設けられ、摺動により前記湯側ポート及び前記水側ポートの開度を相反的に変化させる可動弁体と、該可動弁体を前記ハウジングに対して前記筒軸の方向の一方から前記湯側ポートを閉じる方向に付勢する感温ばねと、前記可動弁体を前記ハウジングに対して前記筒軸の方向の他方から前記湯側ポートを開く方向に付勢するバイアスばねと、前記ハウジング内に前記筒軸の方向に摺動可能なように設けられ、前記バイアスばねの前記可動弁体に当てられる側とは反対側の端部を支持するスライダと、前記ハウジングの前記筒軸の方向の他方の端部に前記筒軸を中心軸として回転可能に連結され、温度調節ハンドルの操作により前記スライダを前記筒軸の方向に送るスピンドルと、を有し、該スピンドルには、外径が前記ハウジングと略同一で、前記ハウジングの前記筒軸の方向の他方の端部に向かい合う面の径方向外側環状部に径方向に延びる複数の断面山形の突条が等角度間隔で形成された第1ギアを有する第1リング部材が前記筒軸を中心軸として取付けられており、前記ハウジングの前記筒軸の方向の他方の端部には、外径が前記ハウジングと略同一で、前記第1リング部材に対向して前記筒軸の方向にスライド可能で前記第1リング部材に対向する面に前記第1ギアに嵌合可能な第2ギアが形成された第2リング部材が、前記筒軸を中心軸として前記ハウジングに対して回転不能かつ前記第1リング部材に向かって付勢された状態で取付けられていることを特徴とする。
【0008】
第1発明によれば、第1リング部材の第1ギアに第2リング部材の第2ギアが嵌合することでスピンドルの回転が阻止される。そして、スピンドルに回転力が加えられ第1リング部材に対して第2リング部材が付勢力に抗して筒軸方向に離隔するように移動することで回転が許容される。第1ギアと第2ギアは外径がハウジングと略同一の位置に設けられており周方向の全周にわたって嵌合するので付勢力を小さく設定してもスピンドルの回転を抑制する力を大きくすることができる。これによって、簡便に、経時的に安定した操作性を維持することが容易な湯水混合弁を提供することができる。
【0009】
本発明の第2発明は、上記第1発明において、前記第2リング部材の前記第1リング部材に向かっての付勢は、前記第2リング部材と前記ハウジングとの間に前記スピンドルの中心軸と同軸に配置された金属製の圧縮コイルばねによってなされていることを特徴とする。
【0010】
第2発明によれば、第2リング部材の第1リング部材に向かっての付勢が、スピンドルの中心軸と同軸に配置された金属製の圧縮コイルばねによってなされているので、第1発明の作用効果に加えて湯水混合弁の操作性をより経時的に安定したものにすることができる。
【0011】
本発明の第3発明は、上記第1発明又は上記第2発明において、前記第2リング部材の内周面と前記スピンドルの外周面との間にはオーリングが配置されていることを特徴とする。
【0012】
第3発明によれば、第1リング部材に対する第2リング部材の筒軸方向への摺動に抵抗を与え、第2リング部材が振動して第1リング部材に当接することにより生ずる音の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る湯水混合弁が内部に配置された湯水混合水栓の斜視図である。
図2】上記実施形態に係る湯水混合弁の斜視図である。
図3】上記実施形態に係る湯水混合弁の側面図である。
図4】上記実施形態に係る湯水混合弁の分解斜視図である。
図5図3のV-V矢視線断面図である。
図6】上記実施形態に係る湯水混合弁の第1リング部材と第2リング部材を説明する斜視図である。
図7】従来の湯水混合弁の斜視図である。
図8】従来の湯水混合弁のラチェットギアとラチェットリングを説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る湯水混合水栓1に内蔵された湯水混合弁10について、図1図6を用いて説明する。各図において、湯水混合水栓1を使用する使用者を基準として前後左右上下の各方向を矢印で記載し、方向に関する説明はこの方向に従うものとする。
【0015】
図1に示すように、湯水混合弁10は、供給された湯水を混合して吐出する機能を有し、湯水混合水栓1に内蔵されている。湯水混合水栓1は、クランク状の偏心管である給湯管3Aと給水管3Bを介して壁面Wに取付けられた水栓本体2と、水栓本体2の左側に取付けられた温度調節ハンドル2Aと、水栓本体2の右側に取付けられた切替ハンドル2Bと、を有する。水栓本体2の前側にはシャワーホース4が取付けられ、水栓本体2の下側にはカラン5が取付けられている。温度調節ハンドル2Aは、略円筒状をしており湯水混合弁10のスピンドル16に同軸で取付けられている。温度調節ハンドル2Aを回転させることで湯水混合弁10が操作されて湯水の混合割合が変化する。そして、温度調節ハンドル2Aの回転角度に応じた温度の混合された湯水がシャワーホース4又はカラン5から吐出される。具体的には、温度調節ハンドル2Aを図示された約40度の位置から上向きに回転させることで高温となり下向きに回転させることで低温となる。切替ハンドル2Bは、略円筒状をしており図示された所定の止水位置から上向き又は下向きに回転されることで、その回転量に応じた単位時間当たり水量の混合された湯水がシャワーホース4又はカラン5から選択的に吐出される。
【0016】
図2図5に示すように、湯水混合弁10は、略円筒状のハウジング11と、ハウジング11の内部に配置された可動弁体12と、感温ばね13と、バイアスばね14と、スライダ15と、スピンドル16と、を有する。さらに、湯水混合弁10は、ハウジング11の左側外部に配設された、ラチェット機構部20を有する。
【0017】
図4及び図5に示すように、ハウジング11は、筒軸CAを共通とする長短3本の円筒状部材が筒軸CAの方向に接続されて一体化された構造をしている。ハウジング11には、その筒壁部に、湯の供給口となる湯側ポート11aと、水の供給口となる水側ポート11bと、が互いに筒軸CAの方向の異なる位置に貫通して形成されている。また、ハウジング11の右端部には、筒軸CAを中心軸とする円柱状の貫通孔11f1を有する右壁11fが形成されている。この貫通孔11f1は、混合された湯水が吐出される吐出ポート11cとして機能する。ハウジング11の左端部には、筒軸CAを中心軸とする円柱状の貫通孔11g1を有する左壁11gが形成されている。左壁11gの左側面の外周部分には左方向に突出する4つの円弧状の突起部11g2が、等角度間隔で形成されており、各突起部11g2の間の部分が、後述する第2リング部材22の各突出部22cが筒軸CAの方向に摺動可能に嵌合する嵌合部11g3として形成されている。
【0018】
図4及び図5に示すように、可動弁体12は、略円筒状をしており、筒軸CAを共通の軸としてハウジング11の内部に配置され、ハウジング11に対して筒軸CAの方向に摺動可能とされている。そして、可動弁体12は、ハウジング11を構成する中央の筒状部材の右端部に形成された湯閉側規制部11dに右側から当接する位置と、ハウジング11を構成する右側の筒状部材の内筒部に形成された段差状の湯開側規制部11eに左側から当接する位置と、の間で筒軸CAの方向に摺動可能とされている。
【0019】
可動弁体12は、左方向への摺動に伴って水側ポート11bを開きつつ湯側ポート11aを閉じるように動作する。そして、左端部が湯閉側規制部11dに当接すると湯側ポート11aが完全に閉じられる。また、可動弁体12は、右方向への摺動に伴って湯側ポート11aを開きつつ水側ポート11bを閉じるように動作する。そして、右端部が湯開側規制部11eに当接すると水側ポート11bが完全に閉じられる。すなわち、可動弁体12の左右方向への動きにより湯と水の混合割合が調節され混合された湯水の温度が決まるようになっている。
【0020】
図5に示すように、感温ばね13は、形状記憶合金製の圧縮コイルばねで、吐出ポート11cから吐出される混合された湯水と接触することにより硬さを変化させる特性を有する。具体的には、感温ばね13は、接触する混合された湯水の温度が高くなるにつれてばね定数が高まり、接触する混合された湯水の温度が低くなるにつれてばね定数が低まる。感温ばね13は、中心軸を筒軸CAと一致させて、右端部がハウジング11の右壁11fに左方から当接し左端部が略円筒状のばね受け部材13aを介して可動弁体12の右端部に当接するようにハウジング11の中に配設されている。
【0021】
図5に示すように、バイアスばね14は、金属製の圧縮コイルばねで、中心軸を筒軸CAと一致させて、左端部がスライダ15の右端部に当接し、右端部が軸棒17の右端部のフランジ部17aを介して可動弁体12の左端部に当接するようにハウジング11の中に配設されている。軸棒17は、略円柱状の部材で、中心軸を筒軸CAと一致させて、スライダ15の右端部から右方に向かって延びて配設されており、バイアスばね14のコイル内径部分に通されている。
【0022】
図4及び図5に示すように、スライダ15は、右端部に底壁部15aを有する略円筒状の部材である。スライダ15は、中心軸を筒軸CAと一致させて、ハウジング11の内部に配置され筒軸CAの方向にのみ摺動可能とされている。スライダ15は、左側の円筒部に形成された雌ねじ部15bが、ハウジング11の左端部に筒軸CAを中心軸として回転可能に連結されたスピンドル16の雄ねじ部16bに螺合されている。それによって、スライダ15は、スピンドル16が温度調節ハンドル2A(図1参照)の操作により回転させられるとハウジング11の中を右方向又は左方向に摺動する。底壁部15aには、軸棒17の左端部側が固着されている。
【0023】
図4及び図5に示すように、スピンドル16は、略丸棒状の部材で、左側の軸部16aと、右側の雄ねじの切られた雄ねじ部16bと、軸部16aと雄ねじ部16bの間の大径部16cと、を有する。軸部16aは、左方の先端側からセレーション加工が施されたセレーション部16a1と、Eリングを嵌めるEリング溝16a2と、第1リング部材21の回転を止める凸部16a3と、第1オーリング24を挿入する第1オーリング溝16a4と、第2オーリング25を挿入する第2オーリング溝16a5と、を有する。凸部16a3は、径方向外側に向かって延びるように一対設けられている。各凸部16a3は、後述する第1リング部材21の各凹部21a1に嵌合可能とされている。雄ねじ部16bは、スライダ15の雌ねじ部15bと螺合可能なものである。大径部16cは、軸部16aと雄ねじ部16bより外径が大きく形成されている。第1オーリング溝16a4に第1オーリング24を挿入し、第2オーリング溝16a5に第2オーリング25を挿入した状態で、スピンドル16は、ハウジング11の左壁11gの貫通孔11g1にセレーション部16a1から通される。そして、セレーション部16a1が左方外部に突出した状態で、大径部16cが左壁11gに右方から当接し左方への移動を阻止される。この状態で、スピンドル16は、ハウジング11に対し筒軸CAを中心に回転可能に取付けられる。このとき、第2オーリング25は、ハウジング11の貫通孔11g1の内周面に径方向に圧縮された状態で当接し水密状態を保つ。
【0024】
図4図6に示すように、スピンドル16の軸部16aとハウジング11との間には、ラチェット機構部20が配設されている。ラチェット機構部20は、第1リング部材21と、第2リング部材22と、コイルばね23と、第1オーリング24と、Eリング26と、を有する。ここで、コイルばね23と第1オーリング24が、それぞれ特許請求の範囲の「圧縮コイルばね」と「オーリング」に相当する。
【0025】
図4図6に示すように、第1リング部材21は、外径がハウジング11の左端部側の外径とほぼ等しい円板状の部材で、中央に中心軸方向に貫通する取付孔21aを有する。取付孔21aには、径方向に対向する一対の凹部21a1が形成されている。各凹部21a1が、スピンドル16の各凸部16a3に嵌合することにより第1リング部材21は、スピンドル16に対し筒軸CA周りに回転不能に取付けられる。第1リング部材21の右側面には、外周環状部分に、径方向に延びて断面が山形の突条21b1が中心軸を中心に等角度間隔で複数並んだ環状の第1ギア21bが形成されている。第1リング部材21の外径部分には、4つの切欠21cが等角度間隔で形成されている。4つの切欠21cは、第1リング部材21をスピンドル16に対して組み付ける際使用されるものである。
【0026】
第2リング部材22は、外径が第1リング部材21と等しい円板状の部材で、中央に中心軸方向に貫通する取付孔22aを有する。第2リング部材22の左側面には、外周部分に、径方向に延びて断面が山形の突条22b1が中心軸を中心に等角度間隔で複数並んだ環状の第2ギア22bが形成されている。第2ギア22bは、第2リング部材22が中心軸を一致させて第1リング部材21に近づけられたとき、第1ギア21bに噛み合って周方向に相対回転不能となるように形成されている。第2リング部材22の右側面には、外周部分に、右方向に突出する4つの円弧状の突出部22cが、等角度間隔で形成されている。各突出部22cが、ハウジング11の各嵌合部11g3に嵌合することによって、第2リング部材22はハウジング11に対し筒軸CAの方向に摺動可能かつ周方向に回転不能に組み付けられる。
【0027】
図4及び図5に示すように、コイルばね23は、金属製の圧縮コイルばねで中心軸を筒軸CAに一致させて、第2リング部材22とハウジング11の左壁11gとの間に配置される。これによって、第2リング部材22は、ハウジング11に対し左方向に付勢された状態となる。第1オーリング24は、スピンドル16の軸部16aが取付孔22aに通されたとき、取付孔22aの内周面に径方向に圧縮された状態で当接し、第2リング部材22の筒軸CAの方向への摺動に抵抗力を与える。
【0028】
ラチェット機構部20は、ハウジング11に対して次のように組み付けられる。ハウジング11の内部に、第1オーリング24と第2オーリング25を取付けた状態のスピンドル16と、スライダ15と、バイアスばね14と、可動弁体12と、感温ばね13と、を組み込んだ状態で、ハウジング11との間にコイルばね23を挟んだ状態で第2リング部材22をハウジング11に対して取付ける。具体的には、ハウジング11から左方に突出しているスピンドル16の軸部16aをコイルばね23の内径部分に通した状態で、第2リング部材22を、軸部16aを取付孔22aに通して各突出部22cがハウジング11の各嵌合部11g3に嵌合するように右方に移動させる。このとき、第1オーリング24が、取付孔22aの内周面に径方向に圧縮された状態で当接するようにする。次に、ハウジング11から左方に突出しているスピンドル16の軸部16aを取付孔21aに第1ギア21bの側から通して第1リング部材21を右方に移動させ一対の凹部21a1をスピンドル16の一対の凸部16a3に嵌合させる。この状態で、スピンドル16のEリング溝16a2にEリング26を嵌め込んで第1リング部材21が左方向に移動してスピンドル16から外れるのを止める。このとき、第1リング部材21はスピンドル16に対して筒軸CAを中心に回動不能で、第1ギア21bに第2リング部材22の第2ギア22bが噛み合って、第1リング部材21に対して第2リング部材22がコイルばね23の付勢力で左方に向かって押付けられた状態となっている。
【0029】
湯水混合弁10は、温度調節ハンドル2Aの操作に応じて、次のように作動する。温度調節ハンドル2Aが図1に示される約40度の位置に合わされているときには、可動弁体12は、感温ばね13とバイアスばね14から付勢力を受けて、これらの付勢力が均衡する位置にて保持される。この状態では、湯側ポート11aと水側ポート11bが所定量ずつ開いた状態とされ、混合された湯水は感温ばね13の配置領域を通って吐出ポート11cから吐出される。その際、混合された湯水の温度が設定温度より高い場合には、感温ばね13がばね定数を高めて可動弁体12を湯側ポート11aを狭める左方向に押す。混合された湯水の温度が設定温度より低い場合には、感温ばね13がばね定数を低めて可動弁体12がバイアスばね14によって湯側ポート11aを広げる右方向に押す。これによって、混合された湯水の温度が自動調整される。このとき、温度調節ハンドル2Aの操作に伴って回転するスピンドル16に回転不能に固定された第1リング部材21の第1ギア21bに第2リング部材22の第2ギア22bが嵌合した状態で押しつけられている。
【0030】
温度調節ハンドル2Aが、図1に示される約40度の位置から上向きに回されると、スピンドル16を介してスライダ15が右方に動かされ、バイアスばね14が右方へと押し込まれる。それによって、バイアスばね14による付勢力が高まって可動弁体12が右方に押し込まれる。その結果、湯側ポート11aが広げられながら水側ポート11bが狭められ混合された湯水の温度が上げられた設定温度に近づけられるように調整される。このとき、温度調節ハンドル2Aの操作に伴ってスピンドル16が回転させられると、第1リング部材21の第1ギア21bの各突条21b1が第2リング部材22の第2ギア22bの各突条22b1を乗越えて噛み合い位置が変化していく。第2リング部材22は第1リング部材21に対して左方に向かってコイルばね23によって押しつけられているので、スピンドル16の回転に抵抗力が発生し、噛み合い位置が変化するたびにクリック感を生ずる。また、このような混合された湯水の温度が上げられた状態においては、感温ばね13の付勢力が高まるので温度調節用ハンドルを自転させようとする力が発生するが、上記のラチェット機構部20による回転抵抗力によってそれが抑制される。
【0031】
温度調節ハンドル2Aが、図1に示される約40度の位置から下向きに回されると、スピンドル16を介してスライダ15が左方に動かされ、バイアスばね14が左方へと引き込まれる。それによって、バイアスばね14による付勢力が低まって感温ばね13の付勢力により可動弁体12が左方に押し込まれる。その結果、水側ポート11bが広げられながら湯側ポート11aが狭められ混合された湯水の温度が下げられた設定温度に近づけられるように調整される。このときも、温度調節ハンドル2Aの操作に伴ってスピンドル16が回転させられると、第1リング部材21の第1ギア21bの各突条21b1が第2リング部材22の第2ギア22bの各突条22b1を乗越えて噛み合い位置が変化していく。第2リング部材22は第1リング部材21に対して左方に向かってコイルばね23によって押しつけられているので、スピンドル16の回転に抵抗力が発生し、噛み合い位置が変化するたびにクリック感を生ずる。
【0032】
以上のように構成される本実施形態は、以下のような作用効果を奏する。第1リング部材21の第1ギア21bに第2リング部材22の第2ギア22bが嵌合することでスピンドル16の回転が阻止される。そして、スピンドル16に回転力が加えられ、第1ギア21bの各突条21b1が第2ギア22bの各突条22b1を乗越えようとすると、第1リング部材21に対して第2リング部材22がコイルばね23の付勢力に抗して筒軸CAの方向に離隔するように移動して回転が許容される。このとき、第1ギア21bと第2ギア22bは外径がハウジング11と略同一の位置に設けられており周方向の全周にわたって嵌合しているのでコイルばね23による付勢力を小さく設定してもスピンドル16の回転を抑制する力を大きくすることができる。これによって、簡便に、経時的に安定した操作性を維持することが容易な湯水混合弁10を提供することができる。加えて、ラチェット機構部20がハウジング11の外部に配置されていることにより、第1ギア21bと第2ギア22bの外径をハウジング11の外径と略同一の大きさに設定できるため、突条21b1及び突条22b1の角度間隔を小さくでき、温度調節ハンドル2Aの操作による温度調整をより細かくすることができる。
【0033】
また、第2リング部材22の第1リング部材21に向かっての付勢が、スピンドル16の中心軸である筒軸CAと同軸に配置された金属製の圧縮コイルばねであるコイルばね23によってなされているので、第1ギア21bの各突条21b1が第2ギア22bの各突条22b1を乗越えるときの回転力が経時的に変化しにくく安定した操作性を達成できる。
【0034】
さらに、前記第2リング部材22の取付孔22aの内周面とスピンドル16の軸部16aの外周面との間には第1オーリング24が径方向に圧縮された状態で配置されている。これによって、第1リング部材21に対する第2リング部材22の筒軸CAの方向への摺動に抵抗を与え、第2リング部材22が振動して第1リング部材21に当接することにより生ずる音の発生を抑制できる。
【0035】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0036】
1 湯水混合水栓、2A 温度調節ハンドル、10 湯水混合弁、11 ハウジング、11a 湯側ポート、11b 水側ポート、11c 吐出ポート、11g 左壁、12 可動弁体、13 感温ばね、14 バイアスばね、15 スライダ、16 スピンドル、16a 軸部、20 ラチェット機構部、21 第1リング部材、21b 第1ギア、21b1 突条、22 第2リング部材、22a 取付孔、22b 第2ギア、22b1 突条、23 コイルばね(圧縮コイルばね)、24 第1オーリング(オーリング)、CA 筒軸
図1
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図3
図4
図5
図6
図7
図8