(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146090
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】固形天然ゴムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 6/14 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
C08F6/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053087
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000114031
【氏名又は名称】ミクロ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】塩山 晋太朗
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】有村 昭二
(72)【発明者】
【氏名】花井 辰矩
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AS03P
4J100CA01
4J100DA28
4J100EA07
4J100GC03
4J100GC25
4J100GC37
(57)【要約】
【課題】 天然ゴムラテックスから、高品質な固形天然ゴムを、高い生産性で製造することができる固形天然ゴムの製造方法を提供する。
【解決手段】 固形天然ゴムの製造方法は、天然ゴムラテックスを供給し、厚さ0.5mm以上4.5mm以下のラテックス層を形成するラテックス供給工程と、マイクロ波を照射して該ラテックス層を乾燥し、固形天然ゴムを得る乾燥工程と、を有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムラテックスを供給し、厚さ0.5mm以上4.5mm以下のラテックス層を形成するラテックス供給工程と、
マイクロ波を照射して該ラテックス層を乾燥し、固形天然ゴムを得る乾燥工程と、
を有することを特徴とする固形天然ゴムの製造方法。
【請求項2】
前記天然ゴムラテックスの固形分濃度は、30質量%以上80質量%以下である請求項1に記載の固形天然ゴムの製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程において照射する前記マイクロ波の出力は、前記ラテックス層の体積当たり1kW/L以上150kW/L以下である請求項1または請求項2に記載の固形天然ゴムの製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程において、前記ラテックス層の温度を100℃以上にして乾燥する請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の固形天然ゴムの製造方法。
【請求項5】
前記ラテックス供給工程において、前記天然ゴムラテックスはコンベヤで搬送される基材上に連続的または断続的に供給され、
前記乾燥工程において、該コンベヤで搬送される該ラテックス層に対して前記マイクロ波を照射することにより、前記固形天然ゴムを連続的に製造する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の固形天然ゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゴム製品の製造原料となる固形天然ゴムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムは、引張り強さが大きく、振動による発熱が少ないなどの優れた性質を有しているため、タイヤ、防振ゴム、ベルトなどの様々なゴム製品に用いられる。ゴム製品の製造原料として流通している固形の天然ゴムのうち、例えば、視覚格付けゴム(VGR)の燻煙シート(RSS)は、フィールドラテックスを酸凝固させた後、水分を絞ってシート状に成形し、それを燻煙、乾燥することにより製造される。また、技術的格付けゴム(TSR)は、カップランプ(フィールドラテックスが収集カップ中で自然凝固したもの)などの原料を粉砕しながら水洗し、粉砕物の水分を絞った後、熱風乾燥することにより製造される。これらの方法は、多くの人手と時間を要するものであり、生産性が低く、異物も混入しやすい。また、天然ゴムには、ゴム成分の他に、タンパク質、脂質などの非ゴム成分が含まれる。非ゴム成分のうち、タンパク質などの水溶性のものは、ロールで伸ばしてシート化する際や水洗の際に、水分と共に流出する。非ゴム成分の流出は、天然ゴムが本来有する機能を低下させることがあり、製造されるゴム製品の特性にも影響を及ぼす。さらに、非ゴム成分を含む排水が発生するため、その処理も課題になる。
【0003】
これに対して、例えば特許文献1、2には、固形天然ゴムの製造方法として、天然ゴムラテックスを凝固させずにそのままコンベヤ式またはドラム式の加熱装置を用いて乾燥させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-514009号公報
【特許文献2】特開2012-121945号公報
【特許文献3】特開2010-111724号公報
【特許文献4】特開2010-189511号公報
【特許文献5】特開2013-88039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のコンベヤ式またはドラム式の加熱装置においては、加熱対象部材の表面に天然ゴムラテックスを付着させ、ヒーターなどにより天然ゴムラテックスを外側から加熱する。この場合、付着した天然ゴムラテックスの熱源側の表面に皮膜が生成する。生成した皮膜により加熱が阻害されるため、天然ゴムラテックスの厚さが大きい場合、内部まで乾燥させるために時間を要する。他方、加熱時間が長すぎると、ゴム成分が熱劣化するおそれがある。このため、天然ゴムラテックスを付着させる際、厚さの上限を1mm程度に薄くせざるを得ず、従来の加熱方法においては生産性が低いという課題がある。また、ドラム式の場合、ドラムの側面、熱源配管などからの放熱があるため、熱エネルギーのロスが大きく、エネルギー効率が悪い。
【0006】
これとは別に、特許文献3には、天然ゴムラテックスをパルス燃焼による衝撃波の雰囲気下に噴射して乾燥する方法が記載されている。この方法においては、粘着性を有するゴム粒子が気流中に拡散し、乾燥室の内壁に付着するため、ゴム粒子のロスが多い。また、天然ゴムラテックスを噴射する方法においては、一度に大量に乾燥することができず、生産性を高めるためには設備を大型化する必要があり、コストが高くなる。また、天然ゴムラテックスをスプレーなどで吹き付ける場合には、ノズル詰まりなどを考慮して、使用できる天然ゴムラテックスの粘度が制限される。このため、スプレーなどを使用する方法は、高濃度、高粘度の天然ゴムラテックスへの適用が難しい。ちなみに、特許文献3には、天然ゴムラテックスにマイクロ波を照射する工程が記載されている。しかしながら、同文献の段落[0013]などに記載されているように、マイクロ波の照射は、天然ゴムラテックス中のゴム粒子からタンパク質を遊離させるための処理であり、天然ゴムラテックスの温度が80℃を超えないように行われる。すなわち、特許文献3に記載されているマイクロ波処理は、天然ゴムラテックスを乾燥させる処理ではない。
【0007】
また、特許文献4には、ゴムと充填剤とを含むウェットマスターバッチに、マイクロ波を照射して乾燥するマスターバッチの製造方法が記載されている。同文献に記載されている方法は、充填剤スラリーとゴムラテックスとを混合した混合液を凝固、脱水し、水分が分離されたウェットマスターバッチを乾燥するという点において、天然ゴムラテックスを直接乾燥する方法とは異なる。特許文献5には、粘着シートを製造する方法として、基材に塗布されたエマルション粘着剤溶液にマイクロ波を照射して乾燥させる方法が記載されている。同文献における乾燥対象は、乾燥後に基材と共にそのまま粘着シートになるエマルション粘着剤溶液であり、天然ゴムラテックスではない。このため、同文献の段落[0019]などに記載されているように、基材の表面に塗布されるエマルション粘着剤溶液の厚さは、10~300μmと極めて薄い。また、同文献の段落[0030]などに記載されているように、マイクロ波の照射は、水分の急激な蒸発により気泡が発生して塗膜の表面に凹凸を生じないように行われる。同文献の乾燥方法においては、乾燥対象の厚さを大きくして生産性を高めるという技術思想はない。
【0008】
本開示は、このような実情に鑑みてなされたものであり、天然ゴムラテックスから、高品質な固形天然ゴムを、高い生産性で製造することができる固形天然ゴムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本開示の固形天然ゴムの製造方法は、天然ゴムラテックスを供給し、厚さ0.5mm以上4.5mm以下のラテックス層を形成するラテックス供給工程と、マイクロ波を照射して該ラテックス層を乾燥し、固形天然ゴムを得る乾燥工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示の固形天然ゴムの製造方法(以下、「本開示の製造方法」と称する場合がある。)においては、厚さ0.5mm以上4.5mm以下に形成された天然ゴムラテックスの層(ラテックス層)に、マイクロ波を照射して乾燥を行う。前述したように、ヒーターなどによる外側からの加熱方法においては、熱源側の表面に皮膜が生成するなどの理由から、ラテックス層の厚さの上限を1mm程度にせざるを得なかった。しかしながら、本開示の製造方法によると、天然ゴムラテックス中の水分を直接加熱するため、沸騰時に発生する気泡により皮膜の生成が抑制される。したがって、ラテックス層の厚さを大きくすることができる。ラテックス層を厚くすると、一度に乾燥できる量が増加するため、固形天然ゴムの生産性は向上する。しかしながら、本発明者が検討したところ、ラテックス層を厚くすると、局所的に高熱になる部分が生じることがあり、高熱化した部分においてゴム成分が熱劣化するおそれがあることがわかった。このため、本開示の製造方法においては、ラテックス層の厚さの上限を4.5mmに規定した。こうすることで、局所的な高熱化を抑制し、ラテックス層を均一に乾燥することができる。結果、高品質な固形天然ゴムを得ることができる。このように、本開示の製造方法によると、生産性の向上と品質の向上とを両立することができる。
【0011】
本開示の製造方法によると、マイクロ波を照射して天然ゴムラテックス中の水分を直接加熱するため、装置などから放熱するおそれはない。この点において、本開示の製造方法は、熱エネルギーのロスが小さく、省エネルギーな方法になる。また、天然ゴムラテックスを供給する際に、必ずしもスプレーなどを使用する必要はない。この場合、ノズル詰まりなどの不具合を回避することができ、製造効率が向上する。さらに、天然ゴムラテックスが高濃度、高粘度であっても適用することができる。
【0012】
製造された固形天然ゴムは、カーボンブラックなどの各種添加剤を配合して混練りするなどの工程を経て、ゴム製品となる。本開示の製造方法によると、ラテックス層が乾燥して固形化されるため、シート状の固形天然ゴムを製造することができ、後工程への移送が容易である。また、天然ゴムラテックスの供給→乾燥→固形天然ゴムの取り出し、という一連の工程を自動化することにより、生産性をさらに向上させることができる。
【0013】
本開示の製造方法によると、天然ゴムラテックスを凝固させたり、凝固物の水分の絞り出しや水洗を行う必要はない。このため、タンパク質などの水溶性の非ゴム成分を流出させずに、乾燥することができる。結果、架橋速度、架橋密度が大きく、引張強度などの特性に優れた固形天然ゴムを得ることができる。また、乾燥時に異物が混入しにくく、乾燥工程が、天候などの製造環境により影響を受けにくい。したがって、得られる固形天然ゴムにおいて、粘度などの品質のばらつきが少ない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の固形天然ゴムの製造方法の実施の形態について説明する。なお、実施の形態は以下の形態に限定されるものではなく、当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することができる。本開示の固形天然ゴムの製造方法は、ラテックス供給工程と、乾燥工程と、を有する。
【0015】
<ラテックス供給工程>
本工程は、天然ゴムラテックスを供給し、厚さ0.5mm以上4.5mm以下のラテックス層を形成する工程である。天然ゴムラテックスとしては、タッピングにより採液されたフィールドラテックス、それにアンモニアを加えて処理されたラテックス(ハイアンモニアラテックス)などを用いればよい。天然ゴムラテックスの固形分(ゴム分)濃度は、特に限定されない。固形分濃度が低すぎると、得られる固形天然ゴムが少なくなり生産性が低下する。反対に、固形分濃度が高すぎると、水分が少なくなるため乾燥しにくくなったり、ゴム粒子同士の凝集が起きやすくなる。例えば、天然ゴムラテックスの固形分濃度は、30質量%以上80質量%以下であることが望ましい。生産性の向上という観点においては、50質量%以上がより好適である。
【0016】
天然ゴムに含まれるタンパク質、脂質、金属分などの非ゴム成分は、ゴム組成物の加工性や、製造されるゴム製品の特性に影響を及ぼすことが知られている。例えば、タンパク質は、天然ゴムを硫黄架橋した場合に、架橋速度および架橋密度を大きくする役割を果たす。本開示の製造方法によると、非ゴム成分を流出させずに乾燥することができるため、タンパク質の残存量を比較的多くすることができる。天然ゴム中のタンパク質の量は、窒素含有量が指標になる。本開示の製造方法によると、固形天然ゴムの窒素含有量を0.6質量%以上にすることができる。他方、ゴム製品によっては、所望の特性を有するように、非ゴム成分の量を調整した方がよい場合がある。このような場合には、予め天然ゴムラテックスを処理して、非ゴム成分の量を調整する。天然ゴムラテックスに施す処理としては、例えば、タンパク質を除去して窒素含有量を低減させる処理や、カリウム、マグネシウムなどの金属分を除去する処理などが挙げられる。本開示の製造方法においては、所定の処理が施された天然ゴムラテックスを使用してもよい。
【0017】
天然ゴムラテックスの供給方法は、特に限定されるものではなく、スリットノズル、ディスペンサー、スプレーなどを用いて、所定の位置に供給すればよい。後述するように、ベルトコンベヤなどを利用して固形天然ゴムを連続的に製造する場合には、コンベヤで搬送されるベルトなどの基材上に、天然ゴムラテックスを連続的または断続的に供給するとよい。
【0018】
供給された天然ゴムラテックスの層(ラテックス層)の厚さは、0.5mm以上4.5mm以下になるようにする。ラテックス層の厚さが0.5mm未満の場合には、生産性が低下することに加えて、短時間で高温になりやすくゴム成分が熱劣化するおそれがある。好適な厚さは、1mm以上、2mm以上である。反対に、4.5mmを超えると、前述したように局所的に高熱になる部分が生じて、ゴム成分が熱劣化するおそれがある。好適な厚さは、4.0mm以下、3.5mm以下である。
【0019】
<乾燥工程>
本工程は、マイクロ波を照射してラテックス層を乾燥し、固形天然ゴムを得る工程である。マイクロ波は、周波数が300MHz~300GHzの電磁波である。使用する周波数は、特に限定されないが、例えば24.125GHz、5.8GHz、2.45GHz、915MHzなどが挙げられる。マイクロ波の照射は、空気、不活性ガスなどの雰囲気中で、大気圧下で行えばよい。マイクロ波の出力は、水分の沸騰により気泡を発生させて皮膜の生成を抑制するという観点から、ラテックス層の体積当たり1kW/L以上にすることが望ましい。好適には、6kW/L以上である。反対に、急激な加熱による突沸を抑制するという観点から、150kW/L以下にすることが望ましい。好適には、48kW/L以下である。
【0020】
ラテックス層の水分を沸騰させて気泡を発生させる、実用的な時間で乾燥を行うという観点から、マイクロ波の照射によりラテックス層の温度を100℃以上にすることが望ましい。反対に、ラテックス層の温度が高くなりすぎるとゴム成分が劣化するおそれがある。よって、マイクロ波の照射時のラテックス層の温度を、160℃以下にすることが望ましい。乾燥後に得られる固形天然ゴムの水分率は、加硫速度および加硫後の特性に影響するため、1.0%以下であることが望ましい。0.6%以下であるとより好適である。マイクロ波の照射時間は、マイクロ波の出力値、天然ゴムラテックスの量や固形分濃度などに応じて適宜調整すればよい。例えば、天然ゴムラテックスの固形分1gに対する照射時間(基準加熱時間)を、0.0002分/g以上0.0360分/g以下にするとよい。基準加熱時間の値が小さいほど、短時間で乾燥を終えることができるが、小さすぎると加熱時に突沸が発生するおそれがある。反対に、基準加熱時間が大きすぎると、ゴム成分の熱劣化が発生するおそれがある。
【0021】
本開示の製造方法は、バッチ式で行ってもよく連続式で行ってもよい。例えば、連続式で行う場合、先のラテックス供給工程において、天然ゴムラテックスをコンベヤで搬送される基材上に連続的または断続的に供給してラテックス層を形成し、本工程において、コンベヤで搬送されるラテックス層に対してマイクロ波を照射すればよい。基材の材質としては、テフロン(登録商標)ベルトなどのマイクロ波を透過して吸収しにくい材料が望ましい。テフロンベルトは、乾燥後の固形天然ゴムを剥離することも容易である。バッチ式で容器を使用する場合も、容器の材料には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリプロピレンといったマイクロ波を透過して吸収しにくい材料を用いることが望ましい。
【0022】
本開示の製造方法により得られた固形天然ゴムは、架橋剤、加硫促進剤、酸化亜鉛、加工助剤、補強材、老化防止剤、軟化剤などと混練りしてゴム組成物を調製し、それを架橋することによりゴム製品にすることができる。
【実施例0023】
次に、実施例を挙げて本開示を具体的に説明する。三種類の乾燥方法により天然ゴムラテックスを乾燥し、得られた固形天然ゴムの水分率および劣化の有無を調べた。
【0024】
<マイクロ波照射法:実施例1~4、比較例1、2のサンプル>
まず、テフロンベルト製の基材上に天然ゴムラテックスを塗布し、種々の厚さのラテックス層を形成した。次に、ラテックス層が形成された基材をマイクロ波加熱装置に入れ、ラテックス層の上方からマイクロ波を照射した。天然ゴムラテックスとしては、タイ産の濃縮ラテックスを固形分濃度が60質量%になるように調整して使用した。ラテックス層の厚さ、マイクロ波の出力、天然ゴムラテックスの固形分1gに対する照射時間(基準加熱時間)については、後出の表1にまとめて示す。いずれのサンプルにおいても、マイクロ波の照射によりラテックス層の表面温度が100℃以上になることを、サーモグラフィーにて確認した。実施例1~4のサンプルの乾燥方法は、本開示の固形天然ゴムの製造方法の概念に含まれる。
【0025】
<オーブン加熱法:比較例3~6のサンプル>
天然ゴムラテックスを、オーブンを用いて乾燥した。まず、マイクロ波照射法と同様にして、ガラス製の基材上に種々の厚さのラテックス層を形成した。次に、ラテックス層が形成された基材をオーブンに入れ、150℃の温度で加熱した。天然ゴムラテックスは、マイクロ波照射法と同じ、固形分濃度が60質量%のラテックスを使用した。ラテックス層の厚さ、天然ゴムラテックスの固形分1gに対する加熱時間(マイクロ波照射法の基準加熱時間に対応)については、後出の表1にまとめて示す。
【0026】
<ドラムドライヤ法:比較例7~14のサンプル>
天然ゴムラテックスを、回転するドラムの外周面に塗布して乾燥した。天然ゴムラテックスとしては、マイクロ波照射法と同じ濃縮ラテックスを、30質量%、60質量%の二種類の固形分濃度に調整して使用した。ドラムの回転速度は、約1rpm(1分間に約1回転)であり、ドラムの外周面は、予め約150℃に加熱されている。まず、天然ゴムラテックスを、ドラムの外周面に滴下してラテックス層を形成した。そして、ドラムが所定時間回転したところで、固形化したシート状の天然ゴムを、ドラムの外周面から剥離した。ラテックス層の厚さ、天然ゴムラテックスの固形分1gに対する加熱時間(マイクロ波照射法の基準加熱時間に対応)については、後出の表2にまとめて示す。
【0027】
<水分率の測定>
乾燥後の固形天然ゴムの水分率を、カールフィッシャー法(電量滴定法)により測定した。具体的には、水分気化装置(京都電子工業(株)製「ADP-611」)を用い、180℃で固形天然ゴム中の水分を気化し、気化した水分をカールフィッシャー水分計(京都電子工業(株)製「MKC-710」)を用いて測定した。なお、水分率が10%を超えた際には測定を中止した。この場合は、後出の表2における水分率の欄に「10%以上」と記載した。
【0028】
<劣化の有無>
乾燥後の固形天然ゴムを目視で観察し、変色している部分があれば劣化あり、変色している部分がなければ劣化なしと評価した。
【0029】
<評価結果>
表1、表2に、各サンプルの乾燥方法と、得られた固形天然ゴムの水分率および劣化の有無の測定結果を示す。乾燥状態の良否については、固形天然ゴムにおいて水分率が1.0%以下、かつ劣化なしの両方を満足する場合を、乾燥状態良好(表1、表2の総合判定欄に○印で示す)、いずれか一方を満足しない場合を乾燥状態不良(同欄に×印で示す)と判定した。
【表1】
【表2】
【0030】
表1に示すように、本開示の製造方法により得られた実施例1~4のサンプルにおいては、基準加熱時間の値が小さく、極めて短時間で乾燥が完了した。実施例1~4のサンプルにおいては、水分率が0.4%以下と低く、かつ変色部分も見られなかった。他方、ラテックス層の厚さが4.5mmより大きい比較例1、2のサンプルにおいては、水分率が低く、短時間で乾燥は完了したが、一部に変色が見られた。
【0031】
これに対して、オーブン加熱法で得られた比較例3~6のサンプルにおいては、実施例1~4のサンプルと比較して基準加熱時間の値が大きくなり、乾燥を終えるまでに時間を要した。ラテックス層の厚さが1.0mmの比較例3のサンプルにおいては、乾燥状態は良好であったが、それよりも厚さが大きい他のサンプルにおいては、乾燥状態は不良であり、所望の固形天然ゴムを得ることはできなかった。また、比較例6のサンプルにおいては、表面に生成した皮膜の影響で水分の大部分が蒸発せず、ラテックス層がクリーム状になったため、表1における基準加熱時間の欄には「乾燥不可」と記載した。
【0032】
表2に示すように、ドラムドライヤ法で得られた比較例7~14のサンプルにおいては、実施例1~4のサンプルと比較して基準加熱時間の値が大きくなり、乾燥を終えるまでに時間を要した。ラテックス層の厚さが1.0mmの比較例7、11のサンプルにおいては、乾燥状態は良好であったが、それよりも厚さが大きい他のサンプルにおいては、乾燥状態不良であり、所望の固形天然ゴムを得ることはできなかった。このうち、比較例9のサンプルにおいては、ラテックス層の厚さが2.0mmでも良好な乾燥状態が得られたが、固形分濃度が30質量%と低いため生産性は低い。