(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146094
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/88 20190101AFI20231004BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231004BHJP
B29C 48/92 20190101ALI20231004BHJP
B29C 48/25 20190101ALI20231004BHJP
B29K 67/00 20060101ALN20231004BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20231004BHJP
【FI】
B29C48/88
C08J5/18 CFD
B29C48/92
B29C48/25
B29K67:00
B29L7:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053101
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】松宮 俊文
【テーマコード(参考)】
4F071
4F207
【Fターム(参考)】
4F071AA44
4F071AA81
4F071AA86
4F071AH04
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
4F207AA24
4F207AB08
4F207AB11
4F207AG01
4F207AJ08
4F207AR02
4F207AR06
4F207AR12
4F207KA01
4F207KA17
4F207KK67
4F207KL84
4F207KM16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】溶融押出法によるフィルム製造において、成形に用いるロール汚染を抑制し、長時間連続的に製造してもフィルムが汚染されず、安定して外観が良好なフィルムを製造する方法を提供すること。
【解決手段】フィルム状に吐出した溶融樹脂12をキャストロールで冷却固化させて成形する結晶性の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、フィルム状に吐出した溶融樹脂をキャストロールに接触させて、キャストロール上で、樹脂温度が樹脂の結晶化温度Tc以下になる位置からフィルムをキャストロール上から剥離するまでの間のいずれかの位置で、フィルム幅方向に対し線圧が2kgf/200mm以上の荷重でキャストロールにフィルム全幅を押付ける、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状に吐出した溶融樹脂をキャストロールで冷却固化させて成形する結晶性の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、
フィルム状に吐出した溶融樹脂をキャストロールに接触させて、キャストロール上で、樹脂温度が樹脂の結晶化温度Tc以下になる位置からフィルムをキャストロール上から剥離するまでの間のいずれかの位置で、
フィルム幅方向に対し線圧が2kgf/200mm以上の荷重でキャストロールにフィルム全幅を押付ける、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記フィルムの厚みが20~600μmである、請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記キャストロールにフィルムを押付ける手段がロール形状である、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記結晶性の熱可塑性樹脂がポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記キャストロールの温度が下記式で表される温度範囲内である、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
10℃≦キャストロールの温度≦Tc-5℃
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、欧州を中心に生ゴミの分別回収やコンポスト処理が進められており、生ゴミと共にコンポスト処理できるプラスチック製品が望まれている。そのようなプラスチック製品の一例として、特許文献1では、ポリ乳酸系重合体からなるシートを熱成形した加工品が開示されている。
【0003】
一方で、廃棄プラスチックが引き起こす環境問題がクローズアップされ、特に海洋投棄や河川などを経由して海に流入したプラスチックが、地球規模で多量に海洋を漂流していることが判ってきた。この様なプラスチックは長期間にわたって形状を保つため、海洋生物を拘束、捕獲する、いわゆるゴーストフィッシングや、海洋生物が摂取した場合は消化器内に留まり摂食障害を引き起こすなど、生態系への影響が指摘されている。
【0004】
更には、プラスチックが紫外線などで崩壊・微粒化したマイクロプラスチックが、海水中の有害な化合物を吸着し、これを海生生物が摂取することで有害物が食物連鎖に取り込まれる問題も指摘されている。
【0005】
この様なプラスチックによる海洋汚染に対し、生分解性プラスチックの使用が期待されるが、国連環境計画が2015年に取り纏めた報告書では、ポリ乳酸などのコンポストで生分解可能なプラスチックは、温度が低い実海洋中では短期間での分解が期待できないために、海洋汚染の対策にはなりえないと指摘されている。
【0006】
この様な中、特に熱可塑性樹脂であるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は海水中でも生分解が進行しうる材料であるため、上記課題を解決する素材として注目されている。
【0007】
特許文献2では、2種類のポリヒドロキシアルカノエートを含有するポリエステル樹脂組成物が記載されており、その成形品の一例としてフィルムやシートが挙げられ、また、幅100mm、厚さ100μmのシートを製造したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-248677号公報
【特許文献2】国際公開第2015/146194号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、一般に、結晶化しにくい特性を有する。そのため、溶融押出法でフィルムを製造する際には、樹脂に結晶核剤を添加しフィルム状に成形する場合がある。しかしながら、結晶核剤は成形時に昇華し成形に用いるロールを汚染し、時間経過と共に蓄積されフィルムも汚染することが問題となっている。
【0010】
本発明は、溶融押出法によるフィルム製造において、成形に用いるロール汚染を抑制し、長時間連続的に製造してもフィルムが汚染されず、安定して外観が良好なフィルムを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、フィルム状に吐出した溶融樹脂をキャストロールに接触させて冷却固化させて成形する熱可塑性樹脂フィルムを製造する際に、フィルムをキャストロールに押しつけることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち本発明は、フィルム状に吐出した溶融樹脂をキャストロールで冷却固化させて成形する結晶性の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、
フィルム状に吐出した溶融樹脂をキャストロールに接触させて、キャストロール上で、樹脂温度が樹脂の結晶化温度Tc以下になる位置からフィルムをキャストロール上から剥離するまでの間のいずれかの位置で、
フィルム幅方向に対し線圧が2kgf/200mm以上の荷重でキャストロールにフィルム全幅を押付ける、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に関する。
【0013】
好ましくは、前記フィルムの厚みが20~600μmである。
【0014】
好ましくは、前記キャストロールにフィルムを押付ける手段がロール形状である。
【0015】
好ましくは、前記結晶性の熱可塑性樹脂がポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂である。
【0016】
好ましくは、前記キャストロールの温度が下記式で表される温度範囲内である。
10℃≦キャストロールの温度≦Tc-5℃
【発明の効果】
【0017】
溶融押出成形法によるフィルム製造において、成形に用いるロール汚染を抑制し、長時間連続的にフィルムを製造してもフィルムが汚染されず、安定して外観が良好なフィルムを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】フィルムを連続的に製造するための製造ラインの一例を示す概念図である。
【
図2】挟込みロールを用いた場合のフィルムを連続的に製造するための製造ラインの一例を示す概念図である。
【
図3】本発明の実施例2に係る、フィルムを連続的に製造するための製造ラインの一例を示す概念図である。
【
図4】本発明の実施例3に係る、フィルムを連続的に製造するための製造ラインの一例を示す概念図である。
【
図5】本発明の比較例2に係る、フィルムを連続的に製造するための製造ラインの一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明は、フィルム状に吐出した溶融樹脂をキャストロールで冷却固化させて成形する結晶性の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、フィルム状に吐出した溶融樹脂がキャストロールに接触し、キャストロール上で樹脂の結晶化温度Tc以下になる位置からフィルムをキャストロール上から剥離するまでの間のいずれかの位置でまでに、フィルム幅方向に対し線圧が 2kgf/200mm以上の荷重でキャストロールにフィルム全幅を押付ける、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法である。
【0021】
(結晶性の熱可塑性樹脂)
本発明における結晶性の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカノエート等が挙げられ、生分解性の観点から、ポリ乳酸樹脂やポリヒドロキシアルカノエート樹脂を好ましく用いることができる。
【0022】
中でも、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂の一種である、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を特に好ましく用いることができる。
【0023】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、微生物から生産され得る脂肪族ポリエステル樹脂であって、3-ヒドロキシブチレートを繰り返し単位とするポリエステル樹脂である。当該ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレートのみを繰り返し単位とするポリ(3-ヒドロキシブチレート)であってもよいし、3-ヒドロキシブチレートと他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体であってもよい。また、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、単独重合体と1種または2種以上の共重合体の混合物、又は、2種以上の共重合体の混合物であってもよい。
【0024】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の具体例としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)等が挙げられる。中でも、工業的に生産が容易であることから、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましい。
【0025】
更には、繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させ、ヤング率、耐熱性などの物性を変化させることができ、ポリプロピレンとポリエチレンとの間の物性を付与することが可能であること、また、工業的に生産が容易であり、物性的に有用なプラスチックであるという観点から、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)が好ましい。特に、180℃以上の加熱下で熱分解しやすい特性を有するポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の中でも、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)は融点を低くすることができ、低温での成形加工が可能となる観点からも好ましい。
【0026】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)の市販品としては、株式会社カネカ製「カネカ生分解性ポリマーGreen Planet」(登録商標)などが挙げられる。
【0027】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂が、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体を含む場合、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を構成する全モノマー単位に占める3-ヒドロキシブチレート単位および他のヒドロキシアルカノエート単位の平均含有比率は、フィルムの強度と生産性を両立する観点から、3-ヒドロキシブチレート単位/他のヒドロキシアルカノエート=99/1~80/20(モル%/モル%)が好ましく、97/3~85/15(モル%/モル%)がより好ましい。
【0028】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を構成する全モノマー単位に占める各モノマー単位の平均含有比率は、当業者に公知の方法、例えば国際公開2013/147139号の段落[0047]に記載の方法により求めることができる。平均含有比率とは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を構成する全モノマー単位に占める各モノマー単位のモル比を意味し、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂が2種以上のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の混合物である場合、混合物全体に含まれる各モノマー単位のモル比を意味する。
【0029】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、構成モノマーの種類及び/又は構成モノマーの含有割合が互いに異なる少なくとも2種のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の混合物であってもよい。この場合、少なくとも1種の高結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂と、少なくとも1種の低結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を組み合わせて使用することができる。
【0030】
一般に、高結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は生産性に優れるが機械強度が乏しい性質を有し、低結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は生産性に劣るが優れた機械特性を有する。両樹脂を併用すると、高結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂が微細な樹脂結晶粒子を形成し、低結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂が、該樹脂結晶粒子同士を架橋するタイ分子を形成すると推測される。これらの樹脂を組み合わせて使用することで、フィルムの強度及び生産性が改善され得る。
【0031】
前記高結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂に含まれる3-ヒドロキシブチレート単位の含有割合は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の混合物を構成する全モノマー単位に占める3-ヒドロキシブチレート単位の平均含有割合よりも高いことが好ましい。
【0032】
高結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂が3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位を含む場合、該高結晶性の樹脂における他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合は、1~5モル%が好ましく、2~4モル%がより好ましい。
【0033】
前記高結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、又は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましく、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)がより好ましい。
【0034】
また、前記低結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂に含まれる3-ヒドロキシブチレート単位の含有割合は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の混合物を構成する全モノマー単位に占める3-ヒドロキシブチレート単位の平均含有割合よりも低いことが好ましい。
【0035】
低結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂が3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位を含む場合、該低結晶性の樹脂における他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合は、24~99モル%が好ましく、24~50モル%がより好ましく、24~35モル%がさらに好ましく、24~30モル%が特に好ましい。
【0036】
前記低結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、又は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましく、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)がより好ましい。
【0037】
高結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂と低結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を併用する場合、両樹脂の合計量に対する各樹脂の使用割合は特に限定されないが、前者が10重量%以上60重量%以下で、後者が40重量%以上90重量%以下であることが好ましく、前者が25重量%以上45重量%以下で、後者が55重量%以上75重量%以下であることがより好ましい。
【0038】
一実施形態によると、前記高結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂と、前記低結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂に加えて、さらに、結晶性が両樹脂の中間にある中結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を組み合わせて使用することができる。
【0039】
中結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂が3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位を含む場合、該中結晶性の樹脂における他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合は、6モル%以上24モル%未満であることが好ましく、6モル%以上22モル%以下がより好ましく、6モル%以上20モル%以下がさらに好ましく、6モル%以上18モル%以下が好ましい。
【0040】
前記中結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、又は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましく、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)がより好ましい。
【0041】
前記中結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂をさらに併用する場合、高結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂、低結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂、及び、中結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の合計に対する中結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の割合は、1重量%以上99重量%以下が好ましく、5重量%以上90重量%以下がより好ましく、8重量%以上85重量%以下がさらに好ましい。
【0042】
2種以上のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂のブレンド物を得る方法は特に限定されず、微生物産生によりブレンド物を得る方法であってよいし、化学合成によりブレンド物を得る方法であってもよい。また、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等を用いて2種以上の樹脂を溶融混練してブレンド物を得てもよいし、2種以上の樹脂を溶媒に溶解して混合・乾燥してブレンド物を得ても良い。
【0043】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂全体の重量平均分子量は、特に限定されないが、フィルムの強度と生産性を両立する観点から、20万~200万が好ましく、25万~150万がより好ましく、30万~100万が更に好ましい。
【0044】
また、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂が2種以上のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の混合物である場合、該混合物を構成する各ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されない。しかし、前述した高結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂と低結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂とを併用する場合、高結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の重量平均分子量は、フィルムの強度と生産性を両立する観点から、20万~100万が好ましく、22万~80万がより好ましく、25万~60万が更に好ましい。一方、低結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の重量平均分子量は、フィルムの強度と生産性を両立する観点から、20万~250万が好ましく、25万~230万がより好ましく、30万~200万が更に好ましい。また、前述した中結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂をさらに使用する場合、中結晶性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の重量平均分子量は、フィルムの強度と生産性を両立する観点から、20万~250万が好ましく、25万~230万がより好ましく、30万~200万が更に好ましい。
【0045】
なお、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の重量平均分子量は、クロロホルム溶液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(島津製作所社製HPLC GPC system)を用い、ポリスチレン換算により測定することができる。該ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるカラムとしては、重量平均分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0046】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の製造方法は特に限定されず、化学合成による製造方法であってもよいし、微生物による製造方法であってもよい。中でも、微生物による製造方法が好ましい。微生物による製造方法については、公知の方法を適用できる。例えば、3-ヒドロキシブチレートと、その他のヒドロキシアルカノエートとのコポリマー生産菌としては、P3HB3HVおよびP3HB3HH生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、P3HB4HB生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)等が知られている。特に、P3HB3HHに関し、P3HB3HHの生産性を上げるために、P3HA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32,FERM BP-6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821-4830(1997))等がより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HB3HHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また前記以外にも、生産したいポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂に合わせて、各種ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂合成関連遺伝子を導入した遺伝子組み換え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。
【0047】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、未変性の樹脂であってもよいし、未変性のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を、過酸化物等の、樹脂と反応する原料(以下、「変性用原料」という)を用いて変性させた樹脂であってもよい。
【0048】
変性させた樹脂をフィルム原料として用いる場合は、予め樹脂と変性用原料を反応させた原料をフィルムに成形してもよいし、樹脂に変性用原料を混合し、フィルム成形時に反応させてもよい。また、樹脂と変性用原料を反応させる際には、樹脂の全部を変性用原料と反応させてもよいし、樹脂の一部を変性用原料と反応させて変性樹脂を得た後、残りの未変性の樹脂を前記変性樹脂に添加してもよい。
【0049】
前記変性用原料としては、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂と反応できる化合物であれば、特に限定されないが、取り扱い性や前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂との反応を制御しやすい点で、有機過酸化物を好ましく用いることができる。
【0050】
前記有機過酸化物としては、例えば、ジイソブチルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ビス(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パ-オキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジコハク酸パーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボニロキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-アミルパーオキシ,3,5,5-トリメチルヘキサノエート、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシ)プロパン、2,2-ジ-t-ブチルパーオキシブタン等が挙げられる。中でも、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが好ましい。更にこれら有機過酸化物を2種類以上組み合わせたものも使用可能である。
【0051】
前記有機過酸化物は、固体状や液体状など様々な形態で用いられ、希釈剤等によって希釈された液体状のものであってもよい。中でも、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂と容易に混合し得る形態の有機過酸化物(特に、室温(25℃)で液体状の有機過酸化物)は、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂に、より均一に分散することができ、樹脂組成物中での局所的な変性反応を抑制しやすいため好ましい。
【0052】
(他の熱可塑性樹脂)
本発明における結晶性の熱可塑性樹脂には、上述前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂以外に、発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂が含まれていてもよい。そのような他の樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂や、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンセバテートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレートなどの脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。他の樹脂としては1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0053】
前記他の樹脂の含有量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂100重量部に対して、100重量部以下が好ましく、50重量部以下がより好ましく、30重量部以下がさらに好ましく、10重量部以下がより更に好ましく、5重量部以下が特に好ましい。他の樹脂の含有量の下限は特に限定されず、0重量部以上であって良い。
【0054】
(添加剤)
本発明における熱可塑性樹脂は、発明の効果を阻害しない範囲で、使用可能な添加剤を含んでもよい。そのような添加剤としては顔料、染料などの着色剤、活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤、バニリン、デキストリン等の香料、充填材、可塑剤、酸化防止剤、抗酸化剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤、摺動性改良剤等が挙げられる。添加剤としては1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。これら添加剤の含有量は、その使用目的に応じて当業者が適宜設定可能である。
【0055】
以下、結晶核剤、滑剤、充填材、及び可塑剤について、さらに詳しく説明する。
【0056】
(結晶核剤)
前記フィルム原料又は前記フィルムは、結晶核剤も含んでもよい。結晶核剤としては、例えば、ペンタエリスリトール、ガラクチトール、マンニトール等の多価アルコール;オロチン酸、アスパルテーム、シアヌル酸、グリシン、フェニルホスホン酸亜鉛、窒化ホウ素等が挙げられる。中でも、本発明における熱可塑性樹脂の結晶化を促進する効果が特に優れている点で、ペンタエリスリトールが好ましい。結晶核剤は、1種を使用してよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。
【0057】
結晶核剤の使用量は、特に限定されないが、本発明の熱可塑性樹脂の総量100重量部に対して、0.1~5重量部が好ましく、0.5~3重量部がより好ましく、0.7~1.5重量部がさらに好ましい。
【0058】
(滑剤)
前記フィルム原料又は前記フィルムは、滑剤も含んでもよい。滑剤としては、例えば、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、N-ステアリルベヘン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、p-フェニレンビスステアリン酸アミド、エチレンジアミンとステアリン酸とセバシン酸の重縮合物等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂への滑剤効果が特に優れている点で、ベヘン酸アミド又はエルカ酸アミドが好ましい。滑剤は、1種を使用してもよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。
【0059】
滑剤の使用量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂の総量100重量部に対して、0.01~5重量部が好ましく、0.05~3重量部がより好ましく、0.1~1.5重量部がさらに好ましい。
【0060】
(充填材)
前記フィルム原料又は前記フィルムは、充填材を含有してもよい。充填材を含むことで、より高強度のフィルムとすることができる。前記充填材としては、無機充填材と有機充填材いずれでもあってよく、両者を併用してもよい。無機充填材としては特に限定されないが、例えば、珪酸塩、炭酸塩、硫酸塩、燐酸塩、酸化物、水酸化物、窒化物、カーボンブラック等が挙げられる。無機充填材は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0061】
前記充填材の含有量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100重量部に対して1~100重量部であることが好ましく、3~80重量部であることがより好ましく、5~70重量部であることが更に好ましく、10~60重量部であることがより更に好ましい。しかし、前記フィルム原料又は前記フィルムは、充填材を含有しなくともよい。
【0062】
(可塑剤)
本発明における熱可塑性樹脂は、可塑剤を含んでもよい。可塑剤としては、例えば、グリセリンエステル系化合物、クエン酸エステル系化合物、セバシン酸エステル系化合物、アジピン酸エステル系化合物、ポリエーテルエステル系化合物、安息香酸エステル系化合物、フタル酸エステル系化合物、イソソルバイドエステル系化合物、ポリカプロラクトン系化合物、二塩基酸エステル系化合物等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂への可塑化効果が特に優れている点で、グリセリンエステル系化合物、クエン酸エステル系化合物、セバシン酸エステル系化合物、二塩基酸エステル系化合物が好ましい。グリセリンエステル系化合物としては、例えば、グリセリンジアセトモノラウレート等が挙げられる。クエン酸エステル系化合物としては、例えば、アセチルクエン酸トリブチル等が挙げられる。セバシン酸エステル系化合物としては、例えば、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。二塩基酸エステル系化合物としては、例えば、ベンジルメチルジエチレングリコールアジペート等が挙げられる。可塑剤は、1種を使用してもよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。
【0063】
可塑剤の使用量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂の総量100重量部に対して、1~20重量部が好ましく、2~15重量部がより好ましく、3~10重量部がさらに好ましい。しかし、前記フィルム原料又は前記フィルムは、可塑剤を含有しなくともよい。
(熱可塑性樹脂フィルムの製造方法)
次に、
図1~5に基づいて、熱可塑性樹脂の一例であるポリ(3ヒドロキシブチレート)系樹脂を例に樹脂フィルムを製造する方法の一実施形態について説明する。
【0064】
図1に示すように、まず、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含むフィルム原料を押出機中で溶融する。Tダイ(11)が、下方に向けて、押出機の出口に接続されており、該Tダイ(11)からフィルム状の溶融樹脂(12)が下方に、連続的に押出される。
【0065】
以上の溶融押出工程では、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は巨視的には溶融しているが、その一部が溶融せずに未溶融結晶として残留している。当該未溶融結晶が前記フィルム状の溶融樹脂中に含まれる状態で前記フィルム状の溶融樹脂がTダイ(11)から押し出されるように、溶融押出条件が選択される。具体的には、押出機のシリンダーの設定温度、Tダイの設定温度や、せん断速度等を調節することによって、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の未溶融結晶が残留するように制御すればよい。前記フィルム状の溶融樹脂中にポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の未溶融結晶が含まれる条件で溶融押出を実施することで、透明性が低い樹脂フィルムを製造することが可能になる。一方、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂が完全に溶融する条件で溶融押出を実施すると、得られる樹脂フィルムの透明性が高くなってしまう。
【0066】
図1に示すように、Tダイ(11)の直下にはキャストロール(13)が配置されており、押出されたフィルム状の溶融樹脂(12)は、その片面がキャストロール(13)に接触しながら搬送される。溶融樹脂(12)がキャストロール(13)に接触することでポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の結晶化が進行して、溶融していない樹脂フィルムに変換することができる。
【0067】
キャストロール(13)は、表面の温度が設定できるように構成された円筒状の部材である。キャストロールの代わりに、冷却用のエンドレスベルトを配置してもよい。該エンドレスベルトも表面の温度が設定できるように構成される。
【0068】
一般的に、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、ポリプロピレンなど他の結晶性樹脂と比べて結晶化速度が極めて遅いことからフィルムの連続生産に困難を伴うが、本実施形態では、以下に説明する製造条件を採用することで、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂から、薄膜でありながら膜厚精度が高い樹脂フィルムの連続的な製造を実現することができる。
【0069】
前記フィルム状の溶融樹脂を前記キャストロールに接触させる際には、
図2に示すような、Tダイ(11)直下において前記キャストロール(13)に対向させて挟込みロール(14)を配置してフィルムを両面から加圧する手法は採用しないことが好ましい。Tダイから押し出された直後の前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は結晶化が十分に進行していないため、Tダイ直下でフィルム両面を加圧すると、挟込みロールに固着し膜厚精度及び外観が奇麗な樹脂フィルムを製造することが困難となる。
【0070】
前記キャストロールとの接触によってポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の結晶化を促進すると共に、前記キャストロールへの固着を回避する観点から、前記キャストロールの温度は、10℃~樹脂結晶化温度Tc-5℃以下に設定することが好ましい。キャストロールの設定温度が低くなりすぎると、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の固化が十分に進行せず、キャストロールに粘着してしまい剥離しにくくなる傾向がある。そのため、キャストロールの設定温度の下限は0℃以上であることが好ましく、5℃以上がより好ましく、10℃以上がさらに好ましく、12℃以上がより更に好ましく、15℃以上が特に好ましい。また、キャストロールの設定温度が樹脂結晶化温度Tc-5℃より高くなると、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の結晶化が十分に進行しないため、前記冷却用ロールからフィルムを剥離させようとする際に、前記キャストロールへのフィルムの張り付きが発生し、膜厚精度及び外観が奇麗な樹脂フィルムを製造することが困難となる。そのため、キャストロールの設定温度の上限は前記温度は、樹脂結晶化温度Tc-5℃以下であることが好ましく、樹脂結晶化温度Tc-10℃以下がより好ましく、樹脂結晶化温度Tc-12℃以下がさらに好ましく、樹脂結晶化温度Tc-15℃以下が特に好ましい。
【0071】
前記キャストロールとの接触によってポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の結晶化を促進させ樹脂フィルムを得る際に、
図3または
図4に示す様にキャストロール上で樹脂の結晶化温度Tc以下になる位置からフィルムをキャストロール上から剥離するまでのいずれかの位置で、フィルム幅方向に対し2kgf/200mm以上の荷重でロール(15)でキャストロールにフィルム全幅を押付ける。
【0072】
図5に示すように、押付け位置がキャストロール上で樹脂の結晶化温度Tc以上の位置(
図1に示す16の範囲)で押付けると押付けロールに樹脂が固着し膜厚精度及び外観が奇麗な樹脂フィルムを製造することが困難となり好ましくない。
【0073】
また、押付け荷重が2kgf/200mm以下であると、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の分解物や添加剤の昇華物がキャストロールを汚染し、蓄積するため好ましくなく、5kgf/200mm以上がより好ましく、10kgf/200mm以上が更に好ましく、20kgf/200mm特に好ましい。
【0074】
キャストロール上のフィルム全幅を押し付け方法は均一に荷重を与えることができればよく特に限定されないが、ロール形状であれば容易に押し付けることが可能である。
【0075】
また、前記押付けロールの材質も特に限定されるものではないが、ゴムロールであれば均一に荷重を与えることができるので好ましい。
【0076】
キャストロールへの押付けは、エアーシリンダーや油圧シリンダーなどフィルム幅方向に均一に荷重を与えることができればよく、特に限定されるものではない。
【0077】
上記キャストロール上のフィルム温度の測定方法は特に限定されないが、放射式温度計によって行われることが好ましい。
【0078】
フィルムを連続的に搬送する場合、その搬送速度は特に限定されないが、フィルムの生産性の観点から、1m/分以上であることが好ましい。また、生産の安定性の観点からは、50m/分以下であることが好ましい。
【0079】
フィルムの厚みは、特に限定されず、当業者が適宜設定することができるが、該フィルムの均一な肉厚、外観、強度、軽量性等の観点から、20~600μmであることが好ましく、30~500μmがより好ましく、40~400μmがさらに好ましい。
【0080】
前記フィルムには、他の層を積層してもよい。当該他の層としては、樹脂層、無機物層、金属層、金属酸化物層、印刷層が挙げられる。これら他の層は、ラミネート層であってもよいし、コーティング層であってもよいし、蒸着層であってもよい。
【0081】
前記フィルムは、包装用フィルム、ヒートシール性フィルム、ツイストフィルム等として好適に用いることができる。
【実施例0082】
以下に実施例と比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0083】
実施例及び比較例においては、以下の原料を使用した。
【0084】
(ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂)
A-1:P3HB3HH(平均含有比率3HB/3HH=94/6(モル%/モル%)、重量平均分子量は60万g/mol、ガラス転移温度は6℃)国際公開第2019/142845号の実施例1に記載の方法に準じて製造した。
【0085】
(フィルムの厚みの評価)
フィルムのTD方向に沿って10cmおきに10箇所で、ノギスを用いて厚みを測定し、10箇所の厚みの算術平均値を算出してフィルムの厚みとした。
【0086】
(結晶化温度Tc)
島津製作所製の示差走査熱量計「DSC-60」を用いて、昇温速度を10℃/分として室温から200℃まで昇温し、200℃で1分間保持した後、降温速度を10℃/分として室温まで冷却する過程で生じる発熱ピーク温度を結晶化温度とした。
【0087】
[ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂ペレットP-1の製造]
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂A-1 100重量部に対して、滑剤としてベヘン酸アミド(日本精化社製:BNT-22H)0.5重量部、結晶核剤としてペンタエリスリトール0.5重量部をドライブレンドした。得られた樹脂材料を、シリンダー温度及びダイ温度を150℃に設定したφ26mmの同方向二軸押出機に投入して押出し、45℃の湯を満たした水槽に通してストランドを固化し、ペレタイザーで裁断することにより、樹脂ペレットP-1を得た。該樹脂ペレットP-1の結晶化温度Tcは60℃であった。
【0088】
<実施例1>
幅350mmのTダイを接続したφ40mmの単軸押出機のシリンダー温度及びダイ温度をそれぞれ165℃に設定した。
【0089】
当該単軸押出機に前記樹脂ペレットP-1を投入し、溶融させて、温度165℃の溶融樹脂をTダイにてフィルム状に押出した。フィルムの厚みを150μmになるように吐出量と引取り速度を設定し、フィルム状の溶融樹脂を20℃に設定したキャストロール上に押出して成形し、キャストロール上のフィルム温度が50℃ところでフィルム幅方向に対し50kgf/200mmの荷重でゴムロールを押付け、該フィルムをキャストロールから剥離し、連続的にフィルムを取得した。成形30分経過後のロールの表面状態を観察し、汚染がないことを確認した。
【0090】
<実施例2>
キャストロール上のフィルム押付け位置を
図3の剥離点に変更し、フィルムの厚みを600μmになるように吐出量と引取り速度を変更した以外は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。この実施例において、キャストロール上のフィルム押付け位置でのフィルム温度は20℃であり、成形30分経過後のロールの表面は汚染がないことを確認した。
【0091】
<実施例3>
キャストロール上のフィルム押付け位置を
図4の剥離点に変更し、フィルムの厚みを20μmになるように吐出量と引取り速度を変更し、ゴムロールの押付け荷重を2kgf/200mmにした以外は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。この実施例において、キャストロール上のフィルム押付け位置でのフィルム温度は20℃であり、成形30分経過後のロールの表面は汚染がないことを確認した。
【0092】
<実施例4>
フィルムの厚みを600μmになるように吐出量と引取り速度を変更し、ゴムロールの押付け荷重を150kgf/200mmにした以外は、実施例3と同様にしてフィルムを得た。この実施例において、キャストロール上のフィルム押付け位置でのフィルム温度は20℃であり、成形30分経過後のロールの表面は汚染がないことを確認した。
【0093】
<比較例1>
ゴムロールによる押付けをしない以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。成形30分経過後のロールの表面は汚染していることを確認した。
【0094】
<比較例2>
キャストロール上のフィルム押付け位置を
図5のTc温度以上の点に変更した以外は、実施例1と同様にしてフィルムの成形を行った。キャストロール上のフィルム押付け位置でのフィルム温度は100℃であり、押付けロールに樹脂が貼り付きフィルムを取得することができなかった。
【0095】
<比較例3>
ゴムロールの押付け荷重を1kgf/200mmにした以外は、実施例3と同様にしてフィルムを得た。この比較例において、キャストロール上のフィルム押付け位置でのフィルム温度は20℃であり、成形30分経過後のロールの表面は汚染していることを確認した。
【表1】