(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146102
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】分離膜ユニットの運転方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20231004BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20231004BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C02F1/44 F
B01D61/02
B01D61/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053121
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 良太
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006HA01
4D006HA21
4D006HA41
4D006HA61
4D006JA53Z
4D006JA57Z
4D006JA65Z
4D006KA53
4D006KA55
4D006KA56
4D006KA67
4D006KA71
4D006KB18
4D006KE02P
4D006KE02Q
4D006KE02R
4D006KE03P
4D006KE03Q
4D006KE03R
4D006KE04P
4D006KE04Q
4D006KE13P
4D006KE13Q
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA03
4D006MC09
4D006MC16
4D006MC18
4D006MC23
4D006MC28
4D006MC29
4D006MC33
4D006MC39
4D006MC45
4D006MC48
4D006MC51
4D006MC54
4D006MC55
4D006MC58
4D006MC60
4D006MC62
4D006MC63
4D006PA01
4D006PA04
4D006PB08
4D006PB59
4D006PB70
(57)【要約】 (修正有)
【課題】有機溶剤を含む廃水の膜分離システムにおいて、濃縮水の有機溶剤濃度を低下させずに、透過水の水質を維持する運転方法を提供する。
【解決手段】廃水を透過水と濃縮水とに分離する分離膜ユニット-1と、該透過水をさらに分離する分離膜ユニット-2とを有し、分離膜ユニット-2の濃縮水を分離膜ユニット-1に返送する分離膜ユニットの運転方法であって、分離膜ユニット-2の透過水中の有機溶剤濃度が規定値を超えた場合に、有機溶剤濃度を低下させるために(1)分離膜ユニット-1の回収率を増加させつつ、分離膜ユニット-2の回収率を分離膜ユニット-2の透過水中の有機溶剤濃度が規定値を超える前の回収率と同等の回収率に維持する、あるいは(2)分離膜ユニット-1の供給水流量を増加させ、分離膜ユニット-1および2の回収率をそれぞれ、分離膜ユニット-2の透過水中の有機溶剤濃度が規定値を超える前の回収率と同等の回収率に維持する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤を含む廃水を、透過水と濃縮水とに分離する分離膜ユニットー1と、この分離膜ユニットー1の透過水を、透過水と濃縮水にさらに分離する分離膜ユニットー2とを有し、前記分離膜ユニットー2の濃縮水を、前記分離膜ユニットー1に供給する前記有機溶剤廃水に混合する分離膜ユニットの運転方法であって、
前記分離膜ユニットー2の透過水中の有機溶剤濃度が規定値を超えた場合に、以下の(1)(2)のいずれかの方法により、前記分離膜ユニットー2の透過水中の有機溶剤濃度を規定値以下に低下させることを特徴とする分離膜ユニットの運転方法。
(1)前記分離膜ユニット-1の回収率を増加させつつ、前記分離膜ユニットー2の回収率を前記分離膜ユニットー2の透過水中の有機溶剤濃度が規定値を超える前の回収率と同等の回収率に維持する方法
(2)前記分離膜ユニット―1の供給水流量を増加させ、前記分離膜ユニットー1および前記分離膜ユニットー2の回収率をそれぞれ、前記分離膜ユニットー2の透過水中の有機溶剤濃度が規定値を超える前の回収率と同等の回収率に維持する方法。
【請求項2】
前記(1)において、前記分離膜ユニット-1の回収率を増加させる方法として、前記分離膜ユニットー1の前記透過水と前記濃縮水の流量を制御する方法を用いることを特徴とする請求項1に記載の分離膜ユニットの運転方法。
【請求項3】
前記分離膜ユニットー2の透過水中の有機溶剤濃度が規定値を超える前の運転において、前記分離膜ユニットー1の回収率が30%から70%の範囲であり、前記分離膜ユニットー2の回収率が70%から90%の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の分離膜ユニットの運転方法。
【請求項4】
前記(1)において、前記分離膜ユニット-2の透過水中の有機溶剤濃度が規定値を超えた場合に、前記分離膜ユニットー1の回収率を1.3倍以下の範囲で増加させることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の分離膜ユニットの運転方法。
【請求項5】
前記(2)において、前記分離膜ユニットー1の供給水の流量を増加させる方法として、前記分離膜ユニットー1の前記透過水と前記濃縮水の流量、および前記分離膜ユニットー2の前記透過水と前記濃縮水の流量を制御する方法を用いることを特徴とする請求項1に記載の分離膜ユニットの運転方法。
【請求項6】
前記(2)において、前記分離膜ユニット-2の透過水中の有機溶剤濃度が規定値を超えた場合に、前記分離膜ユニットー1の供給水の流量を1.3倍以下の範囲で増加させることを特徴とする請求項1または5に記載の分離膜ユニットの運転方法。
【請求項7】
前記廃水中の有機溶剤が水溶性のアミン系有機溶剤であり、前記廃水中の有機溶剤濃度が20%以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の分離膜ユニットの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜ユニットの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性有機溶剤の濃縮技術では有機溶剤を溶質として含有する原水を、透過水と溶質濃縮水とに分離・濃縮するために、膜分離手段を備えた水処理システムが利用されている。特にROやNFなどの分離膜で分離除去率の低い有機溶剤を含有する原水から、より高濃度の有機溶剤濃縮水及び、より良い水質の透過水に分離するため、1段目の分離膜ユニットー1で処理した1次透過水を別の分離膜ユニットで処理する多段プロセスを組む場合が多い。その時、分離膜ユニット-1で分離した1次透過水をさらに2次透過水と2次濃縮水に分離する2段目の分離膜ユニットー2の2次濃縮水は分離膜ユニットー1の供給ラインに循環し、分離膜ユニットー1の1次濃縮水は高濃度有機溶剤含有水として後工程の蒸留塔などでさらに高純度に精製され再利用される。前記プロセスでは分離膜ユニット-1が高圧・高濃縮の条件で運転されるため、逆浸透膜が早期に劣化し有機溶剤の溶質除去率が低下し、分離膜ユニット-2への供給濃度が上昇し、同時に分離膜ユニット-2で分離した2次透過水中の有機溶剤濃度が上昇して、2次透過水の水質が規格値を超える可能性がある。それを防止するために特許文献1のように分離膜ユニット-2の濃縮水流量を増加させ、供給水に対する透過水の流量比率である回収率を低下させることで2次透過水水質を回復させる方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願適用の有機溶剤濃縮システムの目的は本システムへの供給原水に含まれる有機溶剤濃度を高濃度化し、後工程の蒸留システムへ供給することであるが、特許文献1のように2次透過水の水質が低下した場合に分離膜ユニット-2の回収率を低下させると分離膜ユニット-1の濃縮水の有機溶剤濃度が低下し、後工程の蒸留システムで精製に必要なエネルギーが増大し、ランニングコストが悪化してしまう。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑み、濃縮する有機溶剤濃度を低下させることなく2次透過水の水質を回復することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明の一態様は、有機溶剤を含む廃水を、透過水と濃縮水とに分離する分離膜ユニットー1と、この分離膜ユニットー1の透過水を、透過水と濃縮水にさらに分離する分離膜ユニットー2とを有し、前記分離膜ユニットー2の濃縮水を、前記分離膜ユニットー1に供給する前記有機溶剤廃水に混合する分離膜ユニットの運転方法であって、
前記分離膜ユニットー2の透過水中の有機溶剤濃度が規定値を超えた場合に、以下の(1)(2)のいずれかの方法により、前記分離膜ユニットー2の透過水中の有機溶剤濃度を規定値以下に低下させることを特徴とする分離膜ユニットの運転方法である。
(1)前記分離膜ユニット-1の回収率を増加させつつ、前記分離膜ユニットー2の回収率を前記分離膜ユニットー2の透過水中の有機溶剤濃度が規定値を超える前の回収率と同等の回収率に維持する方法
(2)前記分離膜ユニット―1の供給水流量を増加させ、前記分離膜ユニットー1および前記分離膜ユニットー2の回収率をそれぞれ、前記分離膜ユニットー2の透過水中の有機溶剤濃度が規定値を超える前の回収率と同等の回収率に維持する方法。
【0007】
本発明の一態様は、前記(1)において、前記分離膜ユニット-1の回収率を増加させる方法として、前記分離膜ユニットー1の前記透過水と前記濃縮水の流量を制御する方法を用いることを特徴とする請求項1に記載の分離膜ユニットの運転方法である。
本発明の一態様は、前記分離膜ユニットー2の透過水中の有機溶剤濃度が規定値を超える前の運転において、前記分離膜ユニットー1の回収率が30%から70%の範囲であり、前記分離膜ユニットー2の回収率が70%から90%の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の分離膜ユニットの運転方法である。
本発明の一態様は、前記(1)において、前記分離膜ユニット-2の透過水中の有機溶剤濃度が規定値を超えた場合に、前記分離膜ユニットー1の回収率を1.3倍以下の範囲で増加させることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の分離膜ユニットの運転方法である。
本発明の一態様は、前記(2)において、前記分離膜ユニットー1の供給水の流量を増加させる方法として、前記分離膜ユニットー1の前記透過水と前記濃縮水の流量、および前記分離膜ユニットー2の前記透過水と前記濃縮水の流量を制御する方法を用いることを特徴とする請求項1に記載の分離膜ユニットの運転方法である。
本発明の一態様は、前記(2)において、前記分離膜ユニット-2の透過水中の有機溶剤濃度が規定値を超えた場合に、前記分離膜ユニットー1の供給水の流量を1.3倍以下の範囲で増加させることを特徴とする請求項1または5に記載の分離膜ユニットの運転方法である。
本発明の一態様は、前記廃水中の有機溶剤が水溶性のアミン系有機溶剤であり、前記廃水中の有機溶剤濃度が20%以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の分離膜ユニットの運転方法である。
【発明の効果】
【0008】
以上の本発明によれば、有機溶剤濃縮ROシステムにおいて所望の濃縮率を保ちながら2次透過水水質を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一態様である実施形態1の水処理システムの概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1に示す本発明の一態様である実施形態1の水処理システムは、供給ポンプP1、分離膜ユニットー1、供給ポンプP2、分離膜ユニットー2、1次透過水流量制御部FIC1、1次濃縮水流量制御部FIC2、1次濃縮水流量調節弁CV1、2次透過水流量制御部FIC3、2次濃縮水流量制御部FIC4、2次濃縮水流量調節弁CV2、2次透過水水質測定部A1、2次透過水水質判断制御部CP1を備える。
【0012】
分離膜ユニット-1及び2は、有機溶剤が含まれる原廃水または供給水からRO膜やNF膜などの分離膜により透過水と濃縮水とに分離する。分離膜ユニットー1及び2で使用する分離膜は逆浸透膜が好ましい。逆浸透膜としてはポリアミド系、芳香族ポリアミド系、ポリアクリロニトリル系、ポリプロピレン系、ポリフッ化ビニルデン系、ポリフッ化エチレン系、ポリビニルアルコール系、ポリエーテルスルホン系、ポリイミド系、ポリスルホン系、ポリエステル系、酢酸セルロース系、セルロースエステル系、トリアセチルセルセルロース系、尿酸ポリエーテル系、ポリピペリアザミド系、ポリフラン系、ポリエチレンイミン系があるが、特に架橋した芳香族ポリアミド系の逆浸透膜が好ましい。また、使用する逆浸透膜については、低圧用ないしは中高圧用の様々な逆浸透膜が使用可能であるが、水溶性有機物を分離するには特に30~120kg/cm2の高圧力で運転可能な高圧用逆浸透膜の使用が好ましく、供給ポンプP1は30~120kg/cm2の高圧力に耐用できる仕様であることが好ましい。
【0013】
分離膜ユニット-1及び2に用いられる逆浸透膜は耐圧容器内に組み込まれるものが好ましく、逆浸透膜の形状は、平膜、チューブラ、スパイラル、中空糸など任意の形状のものが使用できる。このような逆浸透膜は分子径、イオン性等により分離を行うものであり、水を透過水側に透過して、有機溶剤の溶質を濃縮水側に分離できるものが使用できる。特にスパイラル型のモジュールを採用することが好ましい。分離膜ユニット-1及び2の態様例としては、例えば、有機溶剤が含まれる原廃水または供給水を透過水と濃縮水に分離する逆浸透膜エレメントを収納した逆浸透膜ベッセルを単数または複数並列もしくは複数直列に備えたものが挙げられる。原廃水に含有するアミン系有機溶剤の種類としては、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等があり水溶性かつ水よりも沸点の高い有機溶剤が好ましい。
【0014】
系外から供給された原廃水は原廃水供給ラインL1に配置された供給ポンプP1により加圧され分離膜ユニットー1に供給される。供給ポンプP1はインバータによる可変速制御で制御可能なものが好ましい。供給ポンプP1の1次側には分離膜ユニットー2で分離される2次濃縮水循環ラインL5が合流される。分離膜ユニットー1で分離した1次透過水は1次透過水ラインL2を流通し分離膜ユニットー2に供給される。分離膜ユニット-1で分離した1次濃縮水は1次濃縮水ラインL3を流通し、系外の蒸留精製設備などに送水される。ここで1次透過水ラインL2には1次透過水流量制御部FIC1が配置され、1次透過水流量が規定値になるように供給ポンプP1の駆動インバータにより可変速制御する。1次濃縮水ラインには1次濃縮水流量制御部FIC2及び1次濃縮水流量調節弁が配置され、1次濃縮水流量が規定値になるように1次濃縮水流量調節弁によるフィードバック制御がなされる。原廃水供給水量に対する1次透過水量の比である1次回収率は30~70%が好ましく、原廃水中に含まれる溶質濃度、分離膜の除去性能から決定すれば良い。
【0015】
1次透過水ラインに流通した1次透過水は供給ポンプP2により加圧され、分離膜ユニットー2に供給される。分離膜ユニットー2で分離された2次透過水は2次透過水ラインL4を流通し系外へ排出される。ここで系外には廃水処理設備、廃水再利用設備、下水処理設備、雨水処理設備などがあるがその態様は限定されない。2次透過水ラインL4には2次透過水流量制御部FIC3が配置され、2次透過水流量が規定値になるように供給ポンプP2の駆動インバータにより可変速制御される。また、2次濃縮水ラインL5には2次濃縮水流量制御部FIC4及び2次濃縮水流量調節弁CV2が配置され2次濃縮水流量が規定値になるように2次濃縮水流量調節弁によるフィードバック制御がなされる。分離膜ユニットー2供給水量に対する2次透過水量の比である2次回収率は70~90%が好ましく、原廃水中に含まれる溶質濃度、分離膜の除去性能から決定すれば良い。
【0016】
2次透過水ラインL4には2次透過水の水質を測定する水質測定部A1が配備され2次透過水の水質が計測される。水質測定部A1としては電気伝導度計、屈折率計、COD計などがあるが2次透過水の排出先で管理する水質項目を測定できるものであればよく、その形態は限定されない。
ここで2次透過水は系外の自然界の河川、海、池等や廃水処理設備、廃水再利用設備、下水処理設備、雨水処理設備などに排出される。例えば河川への放流であれば地域によって放流基準が決められており基準値以上の有機溶剤を排出することはできない。そのため2次透過水の有機溶剤濃度は規定値以下に管理する必要がある。
一方で原廃水中の水溶性有機溶剤の濃度が上昇した場合もしくは分離膜ユニットー1の分離性が劣化した場合には1次透過水中に含まれる有機溶剤濃度が上昇する。すなわち分離膜ユニット-2に供給される給水中の有機溶剤濃度が上昇し、分離膜ユニットー2の処理水である2次透過水中の有機溶剤濃度も上昇する。そこで本発明では、その2次透過水中の有機溶剤濃度の上昇を抑えるため、2次透過水中の有機溶剤濃度を水質測定部A1で計測し、水質基準値以下になるよう制御可能とする。具体的には水質測定部A1の測定値を2次透過水水質判断制御部CP1に入力し規定値以上と検知した場合には分離膜ユニットー1の1次回収率を増加させつつ、分離膜ユニットー2の2次回収率を同等に維持させる。本発明において、回収率が同等とは、±3%の範囲をいう。
すなわち、1次透過水流量制御部FIC1の目標流量設定値を増加させ、供給ポンプP1用インバータ運転周波数は増速される。さらには1次濃縮水流量制御部FIC2の目標流量設定値を低下させ、1次濃縮水流量調節弁CV1は閉方向へ動作される。それにより原廃水供給水量に対する1次透過水量の比である1次回収率は増加するが、その増加倍率は1.0~1.3倍が好ましく、2次透過水の水質に合わせて制御すれば良い。
また、1次回収率増加に伴い、1次透過水流量は増加され分離膜ユニットー2への供給水流量も増加される。この時、2次透過水濃度が規定値を超える前の回収率と同等の回収率になるよう2次透過水流量制御部FIC3及び、2次濃縮水流量制御部FIC4の目標流量設定値を増加させる。それにより供給ポンプP2用インバータ運転周波数は増速され、2次濃縮水流量調節弁は開方向へ動作される。この結果、1次透過水流量の増加に伴い、分離膜ユニットー2の透過水流量は増加し、溶媒である水の透過速度が溶質である有機溶剤の透過速度よりも高くなる分離膜の特性により、有機溶剤濃度は低下する。
一方で1次回収率を増加させることにより、1次濃縮水量は低下し、それに伴い1次濃縮水中に含まれる有機溶剤濃度を増加することが可能である。すなわち1次濃縮水中の有機溶剤濃度を増加させることにより後工程の蒸留設備のエネルギーコストを保ちつつ、2次透過水濃度を規定値以下に低下することが可能である。
また、別の態様(実施形態2)として、水質測定部A1の測定値を2次透過水水質判断制御部CP1に入力し規定値以上と検知した場合には、分離膜ユニットー1の供給水流量を増加させつつ、分離膜ユニットー1および分離膜ユニットー2の回収率を同等に維持することで、2次透過水中の有機溶剤濃度の上昇を抑える。すなわち、2次透過水濃度が規定値を超える前の回収率と同等の回収率を維持するよう1次透過水流量制御部FIC1の目標流量設定値を増加させ、供給ポンプP1用インバータ運転周波数を増速し、さらには1次濃縮水流量制御部FIC2の目標流量設定値を増加させ、1次濃縮水流量調節弁CV1を開方向へ動作させる。また、1次透過水流量の増加により分離膜ユニットー2への供給水流量も増加するため、2次透過水濃度が規定値を超える前の回収率と同等の回収率を維持するよう2次透過水流量制御部FIC3の目標流量設定値を増加させ、供給ポンプP2用インバータ運転周波数を増速し、さらには2次濃縮水流量制御部FIC4の目標流量設定値も増加させ、2次濃縮水流量調節弁CV2を開方向へ動作させる。
この時、分離膜ユニットー1の1次透過水流量と2次透過水流量の制御により原廃水供給流量は増加するが、その増加倍率は1.0~1.3倍が好ましく、2次透過水の水質に合わせて制御すれば良い。
【実施例0017】
以下に本発明の実施例について説明する。
【0018】
表1は、
図1の態様(実施形態1)において、逆浸透膜ベッセルを2つ直列に備えた分離膜ユニットー1と、逆浸透膜ベッセルを3つ直列に備えた分離膜ユニットー2とを備えた構成における膜性能劣化前のマテリアルバランス試算になる。尚、供給する原廃水には2.0重量%(表において、wt%と表記)のN,N-ジメチルアセトアミド(以下、DMAc)を含有するものとし、分離膜ユニットー1,2に用いた分離膜は海水処理用の東レ株式会社製の8インチエレメント逆浸透膜で、30℃の運転条件の下、供給ポンプP1、P2で昇圧して膜分離を行うことを前提とする。また2次透過水は下水放流とし、放流基準上限値をDMAc0.05重量%とする。DMAc2.0重量%含有する原廃水とDMAc0.59重量%含有する2次濃縮水を混合したものを運転圧3.1MPaのもとで分離膜ユニットー1に供すると、3.4m
3/hrの1次透過水と2.4m
3/hrの1次濃縮水に分離される。この時、1次回収率は60%、1次透過水のDMAc濃度は0.16重量%、1次濃縮水のDMAc濃度は4.2重量%となる。さらに1次透過水は分離膜ユニットー2に供され2.7m
3/hrの2次透過水と0.69m
3/hrの2次濃縮水に分離される。この時、2次回収率は80%、2次透過水のDMAc濃度は0.045重量%、2次濃縮水のDMAc濃度は0.59重量%となる。
【0019】
【0020】
表2は表1の運転条件の元、分離膜ユニットー1の逆浸透膜の有機溶剤除去率が低下し、DMAcの透過率が20%増加した場合(膜性能劣化後)のマテリアルバランスである。その場合、1次透過水のDMAc濃度は0.19重量%と増加する。次いで2次透過水のDMAc濃度は0.053重量%と増加し下水への放流基準上限値を超過する。
【0021】
【0022】
表3は表2に示す放流基準上限値を超過した2次透過水のDMAc0.053重量%を低下させるための実施形態1のマテリアルバランスであって、分離膜ユニットー1の1次回収率を増加させ、分離膜ユニットー2の2次回収率を一定に維持することで、2次透過水水質を改善したものである。分離膜ユニットー1の1次回収率を2次透過水濃度が規定値を超える前の60%から70%に増加させる。すなわち4.2m3/hrの1次透過水と1.8m3/hrの1次濃縮水に分離する。この時、4.2m3/hrの1次透過水は分離膜ユニットー2へ供給され、2次回収率は2次透過水濃度が規定値を超える前の80%を維持し、3.3m3/hrの2次透過水と0.85m3/hrの2次濃縮水に分離される。1次透過水すなわち分離膜ユニットー2への供給量を増加させることで2次透過水のDMAc濃度は0.047重量%となり、放流上限値の超過を防止することが可能である。また同時に1次濃縮水のDMAc濃度は5.6重量%となり後段の蒸留精製設備での精製エネルギーを増加させることなく2次透過水水質を上限値以下に抑えることが可能である。
【0023】
【0024】
表4は表2に示す放流基準上限値を超過した2次透過水のDMAc0.053重量%を低下させるための実施形態2のマテリアルバランスであり、分離膜ユニット1への供給水流量を増加させ、分離膜ユニットー1および分離膜ユニットー2の回収率を一定に維持することで、2次透過水水質を改善したものである。
原廃水流量を2次透過水濃度が規定値を超える前の5.1m3/hrから10%増加した5.6m3/hrに増加し、2次濃縮水と混合後、分離膜ユニットー1への供給水流量が6.4m3/hrに増加される。1次回収率は60%で維持し3.7m3/hrの1次透過水と2.6m3/hrの1次濃縮水に分離する。3.7m3/hrの1次透過水は分離膜ユニットー2へ供給され、2次回収率は80%で維持し、3.0m3/hrの2次透過水と0.76m3/hrの2次濃縮水に分離される。すなわち、分離膜ユニットー1への供給水量を増加させつつ1次回収率及び2次回収率を同等に維持することで、分離膜ユニットー2への供給量を増加させ、2次透過水のDMAc濃度は0.045重量%となり、放流上限値の超過を防止することが可能である。
【0025】
【0026】
以下に本発明の比較例について説明する。
【0027】
表5は、表3の実施形態1に対する比較例として、分離膜ユニットー1の1次回収率を増加させ、分離膜ユニットー2の2次回収率も増加させたマテリアルバランスを示したものである。分離膜ユニットー1では、表3と同様に、1次回収率を2次透過水濃度が規定値を超える前の60%から70%に増加させる。すなわち3.9m3/hrの1次透過水と1.7m3/hrの1次濃縮水に分離する。この時、3.9m3/hrの1次透過水は分離膜ユニットー2へ供給される。ここで、表3では、分離膜ユニットー2の2次回収率は、2次透過水濃度が規定値を超える前の80%を維持していたが、比較例として、2次回収率を88%まで上昇させたとする。すなわち、3.4m3/hrの2次透過水と0.48m3/hrの2次濃縮水に分離される。この結果、2次透過水のDMAc濃度は0.061重量%となり、放流上限値0.05重量%を超える結果を得た。すなわち、分離膜ユニットー1の回収率を増加させても、分離膜ユニットー2の回収率を変えることで、本願の目的を達成できないことが示唆された。
【0028】
【0029】
表6は、表4の実施形態2に対する比較例として、分離膜ユニットー1への供給水流量を増加させ、分離膜ユニットー1の1次回収率は一定に維持し、分離膜ユニットー2の2次回収率を増加させたマテリアルバランスを示したものである。分離膜ユニットー1では、表4と同様に、原廃水流量を2次透過水濃度が規定値を超える前の5.1m3/hrから10%増加した5.6m3/hrに増加した。2次濃縮水と混合後の分離膜ユニットー1への供給水流量は6.1m3/hrとなる。1次回収率は表4と同様に60%で維持し、3.6m3/hrの1次透過水と2.5m3/hrの1次濃縮水に分離する。この時、3.6m3/hrの1次透過水は分離膜ユニットー2へ供給される。ここで、表4では、分離膜ユニットー2の2次回収率は、2次透過水濃度が規定値を超える前の80%を維持していたが、比較例として、2次回収率を88%まで上昇させたとする。すなわち、3.1m3/hrの2次透過水と0.44m3/hrの2次濃縮水に分離される。この結果、2次透過水のDMAc濃度は0.058重量%となり、放流上限値0.05重量%を超える結果を得た。すなわち、分離膜ユニットー1への供給水流量を増加させても、分離膜ユニットー2の回収率を変えることで、本願の目的を達成できないことが示唆された。
【0030】