(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146111
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】鋼製スリットダム
(51)【国際特許分類】
E02B 7/02 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
E02B7/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053133
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174207
【弁理士】
【氏名又は名称】筬島 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】笠原 啓
(72)【発明者】
【氏名】國領 ひろし
(57)【要約】 (修正有)
【課題】土石や流木等がスリット構造体の頂部を越流する場合、越流した土石や流木等が下流側支柱に衝突しない構造であり、かつ、一部の部材の破損がスリット構造体、ひいては非越流部(堰堤、堤体)全体の破損につながらない構造を実現することにより、経済性、品質性、およびメンテナンス性に優れた鋼製スリットダムを提供する。
【解決手段】上流側柱材と下流側柱材とを繋ぎ材でつないで立体的に構築されるスリット構造体を、河川の横断方向に構築した非越流部間の基礎部に設置してなる鋼製スリットダムにおいて、前記下流側柱材は、前記基礎部から鉛直方向に立ち上がる姿勢で設けられていること、前記スリット構造体は、河川の横断方向の両端部に位置する上流側柱材及び/又は下流側柱材から非越流部へ突き出す突出部材を備えており、前記突出部材が前記非越流部に応力伝達可能に支持されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側柱材と下流側柱材とを繋ぎ材でつないで立体的に構築されるスリット構造体を、河川の横断方向に構築した非越流部間の基礎部に設置してなる鋼製スリットダムにおいて、
前記下流側柱材は、前記基礎部から鉛直方向に立ち上がる姿勢で設けられていること、
前記スリット構造体は、河川の横断方向の両端部に位置する上流側柱材及び/又は下流側柱材から非越流部へ突き出す突出部材を備えており、前記突出部材が前記非越流部に応力伝達可能に支持されていることを特徴とする、鋼製スリットダム。
【請求項2】
前記突出部材は、前記非越流部に横向きに埋設された鞘管内へ挿入されて支持される構成であることを特徴とする、請求項1に記載した鋼製スリットダム。
【請求項3】
前記突出部材は、前記上流側柱材及び/又は下流側柱材の上半部分に設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載した鋼製スリットダム。
【請求項4】
前記スリット構造体は、前記下流側柱材の上部に下流側へ張り出す庇部を備えていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載した鋼製スリットダム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、山間地の渓谷や河川等に構築され、土石流時、大洪水時に発生する巨礫や流木などを捕捉し、或いは土石流を減衰(減勢)させて災害を未然に防止する鋼製スリットダムの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
鋼製スリットダムに関しては、下記に特許文献1~4を例示したとおり、既に多種多様に提案がなされ、実施例も多く存在する。
【0003】
特許文献1は、鋼製スリットダム下流側支柱の上端位置を、上流側支柱の上端位置付近から勢いよく越流した土石流中の巨礫や流木等が衝突しない程度の低い位置まで下げることで、巨礫や流木等が、傾斜した下流側支柱の上端を飛び越えて直接下流側の河床に向かって落下させることから、物理的に下流側支柱への衝突を回避できる構造のスリット構造体を備えた鋼製スリットダムが開示されている。
【0004】
特許文献2は、一端部は上流側支柱の上端近傍に接合され他端部は傾斜した下流側支柱よりも下流側へせり出す構成で前記下流側支柱に受け支持される天端軒部材を設けることで、堆積上面部を流れ下る巨礫や流木等が下流側支柱へ落下衝突する可能性を低減する構成を実現することにより、傾斜した下流側支柱の破損を有効に防止できる構造のスリット構造体を備えた鋼製スリットダムが開示されている。
【0005】
特許文献3は、傾斜した下流側支柱の損傷を防止する手段として、上流側支柱の頭部から下流方向に向かって伸びる庇を設けて、上流側支柱を乗り越えて落下する土石等による下流側支柱の損傷を可及的に防ぐ構成とした構造のスリット構造体を備えた透過型砂防ダム(鋼製スリットダム)が開示されている。
【0006】
特許文献4は、河川の川幅方向両側に形成されているコンクリート製の堤体(非越流部)間において基礎コンクリートに下端を埋設して立設された柱材に接続された梁材の両端部が前記堤体に埋め込まれた鞘管内へ挿入されて支持された、鉛直方向に立ち上がる平面構造(フラット構造)を呈するスリット構造体を備えた鋼製スリットダムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-40081号
【特許文献2】特開2021-143583号
【特許文献3】特開2009-24364号
【特許文献4】特開2009-275434号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1に係る鋼製スリットダムによれば、前記したとおり、物理的に巨礫や流木等の下流側支柱への衝突を回避できるので有益な技術ではあるものの、下流側支柱が傾斜している構成で実施されている。よって、下流側支柱(スリット構造体)の高さが高くなればなるほど、下流側支柱の幅寸(平面的に見た寸法)が増大し、下流側支柱へ衝突する可能性が生じるので改良の余地が残されていると云える。
【0009】
前記特許文献2に係る鋼製スリットダムは、前記天端軒部材が下流側支柱よりも下流側へせり出す構成であることから、せり出した天端軒部材は片持ち状態で支持される構造を呈する。よって、天端軒部材(の特には、せり出し部分)に大きな土石が衝撃的に落下すると、その落下衝撃によって天端軒部材に大きな曲げモーメントが衝撃的に作用し、天端軒部材のみならず下流側支柱の頂部までも曲げられる等、スリット構造体の破損が拡大する懸念がある。この懸念は、下流側支柱(スリット構造体)の高さが高くなればなるほど、傾斜した下流側支柱の幅寸が増大し、これに伴い前記天端軒部材のせり出し寸法が増大するので顕著となり、やはり改良の余地が残されていると云える。
【0010】
前記特許文献3に係る鋼製スリットダムは、前記庇が、上流側支柱の上端近傍の位置へ片持ち状態に設置されているから、下流側支柱(スリット構造体)の高さが高くなればなるほど、傾斜した下流側支柱の幅寸が増大し、これに伴い前記庇の長さが長くなる等、前記特許文献2と同様の課題を孕んでいるので、やはり改良の余地が残されていると云える。
【0011】
前記特許文献4に係る鋼製スリットダムは、スリット構造体を鉛直方向に立ち上がる平面構造で実施しているので、下流側柱材を傾斜姿勢で設けることもなく、そもそも上流側柱材又は下流側柱材の概念すらもない。よって、前記特許文献1~3に係る鋼製スリットダムの共通の課題であった、傾斜した下流側部材の破損に関する課題もない。
しかしながら、特許文献4に係るスリット構造体は、柱と梁とを平面的に組んだシンプルな構造であるが故に、前記特許文献1~3に係る立体的に構築したスリット構造体と比し、部材点数が少なく、一部の部材(柱、梁)の破損がスリット構造体の全体に与える影響が大きいので、スリット構造体、ひいてはこれを支持する堤体(非越流部)全体の破損につながる等、改良の余地が残されていると云える。
【0012】
したがって、本発明は、上述した背景技術の課題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、土石や流木等がスリット構造体の頂部を越流する場合、越流した土石や流木等が下流側支柱に衝突しない構造で、かつ、一部の部材の破損がスリット構造体、ひいては非越流部全体の破損につながらない構造を実現することにより、経済性、品質性、およびメンテナンス性に優れた鋼製スリットダムを提供することにある。
これに伴い、従来の鋼製スリットダムと比し、構造幅(設置幅)を縮小しつつ構造高さを高くでき、ハイダムと称されるダムも実現可能な鋼製スリットダムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る鋼製スリットダムは、上流側柱材と下流側柱材とを繋ぎ材でつないで立体的に構築されるスリット構造体を、河川の横断方向に構築した非越流部間の基礎部に設置してなる鋼製スリットダムにおいて、
前記下流側柱材は、前記基礎部から鉛直方向に立ち上がる姿勢で設けられていること、
前記スリット構造体は、河川の横断方向の両端部に位置する上流側柱材及び/又は下流側柱材から非越流部へ突き出す突出部材を備えており、前記突出部材が前記非越流部に応力伝達可能に支持されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した鋼製スリットダムにおいて、前記突出部材は、前記非越流部に横向きに埋設された鞘管内へ挿入されて支持される構成であることを特徴とする。
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載した鋼製スリットダムにおいて、前記突出部材は、前記上流側柱材及び/又は下流側柱材の上半部分に設けられていることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載した発明は、請求項1~3のいずれか1項に記載した鋼製スリットダムにおいて、前記スリット構造体は、前記下流側柱材の上部に下流側へ張り出す庇部を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る鋼製スリットダムによれば、以下の効果を奏する。
(1)スリット構造体を構成する下流側柱材は、基礎部から鉛直方向に立ち上がる姿勢で設けられているので、土石や流木等がスリット構造体の頂部を越流する場合、越流した土石や流木等が下流側支柱に衝突しない構造を実現することができる。よって、下流側支柱、ひいてスリット構造体の破損を極力防止できるので、経済性、品質性、およびメンテナンス性に優れた鋼製スリットダムを実現できる。
(2)上流側柱材と下流側柱材と繋ぎ材等とでスリット構造体をバランス性能に優れた立体的構造に構築できるので、構成部材の一部が破損してもスリット構造体、ひいては非越流部を含む鋼製スリットダムの崩壊を防止できる鋼製スリットダムを実現できる。
(3)スリット構造体の脚部を担う上流側柱材及び下流側柱材の下端部は、基礎部(コンクリート基礎等)に埋設して立設され、また、スリット構造体の左右の両端部に位置する上流側柱及び/又は下流側柱材に設けた突出部材を左右の非越流部へ応力伝達可能に支持させた構成を呈するので、スリット構造体を含む鋼製スリットダム全体で抵抗する合理的な構造を実現できる。よって、従来の鋼製スリットダムと比し、スリット構造体の転倒防止に寄与することもとより、構造幅(設置幅)を縮小しつつ構造高さを高くできるので、ハイダムと称されるダムも構築可能な鋼製スリットダムを実現できる。
(4)スリット構造体の構造幅(設置幅)を縮小したことに伴い、越流した土石や流木等がスリット構造体の頂部での流動途中で落下する量も抑制できるので、スリット構造体の内部に配設される繋ぎ材等の構成部材の損傷も抑制できる。また、スリット構造体の構造幅(設置幅)を縮小したことに伴い、スリット構造体の内部に配設される繋ぎ材等の構成部材の本数も減るので、必然的に前記構成部材の損傷も抑制できる。さらに、スリット構造体の構造幅(設置幅)を縮小したことに伴い、スリット構造体のスリム化を実現できるので、非越流部(堰堤、堤体)、ひいては鋼製スリットダム自体の設計の自由度を高めることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る鋼製スリットダムを、図示の便宜上、一部を透視図的に示した下流側から見た斜視図である。
【
図2】本発明に係る鋼製スリットダムの要部を示した側面図である。
【
図3】本発明に係る鋼製スリットダムの下流側柱材を下流側から見た正面図である。
【
図4】本発明に係る鋼製スリットダムの上流側柱材を上流側から見た正面図である。
【
図5】本発明に係る鋼製スリットダムのスリット構造体と非越流部との接続部を詳細に示した斜視図である。
【
図6】本発明に係る鋼製スリットダムのスリット構造体と非越流部との接続部をさらに詳細に示した斜視図である。
【
図7】Aは、本発明に用いる鞘管を示した正面図であり、Bは、同右側面図である。
【
図8】
図7に示した鞘管を非越流部に埋め込んだ状態を示す斜視図である。
【
図9】異なる実施例に係る鋼製スリットダムを、図示の便宜上、一部を透視図的に示した下流側から見た斜視図である。
【
図10】
図9に係る鋼製スリットダムの要部を示した側面図である。
【
図11】
図9に係る鋼製スリットダムの下流側柱材を下流側から見た正面図である。
【
図12】
図9に係る鋼製スリットダムの上流側柱材を上流側から見た正面図である。
【
図13】異なる実施例に係る鋼製スリットダムを、図示の便宜上、一部を透視図的に示した下流側から見た斜視図である。
【
図14】
図13に係る鋼製スリットダムの要部を示した側面図である。
【
図15】
図13に係る鋼製スリットダムの下流側柱材を下流側から見た正面図である。
【
図16】
図13に係る鋼製スリットダムの上流側柱材を上流側から見た正面図である。
【
図17】本発明に係る鋼製スリットダムのスリット構造体のバリエーションを概略的に示した側面図である。
【
図18】本発明に係る鋼製スリットダムのスリット構造体のバリエーションを概略的に示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明に係る鋼製スリットダムの実施例を図面に基づいて説明する。
【0019】
本発明に係る鋼製スリットダム1は、
図1~
図4に示したように、上流側柱材3と下流側柱材4とを繋ぎ材5でつないで立体的に構築されるスリット構造体2を、河川の横断方向(河幅方向)に構築した非越流部6間の基礎部7に設置してなる。
前記下流側柱材4は、前記基礎部7から鉛直方向に立ち上がる姿勢で設けられている。
前記スリット構造体2は、河川の横断方向の両端部に位置する(上流側柱材3及び/又は)下流側柱材4から非越流部6へ突き出す突出部材8を備えており、前記突出部材8が前記非越流部6に応力伝達可能に支持されている。
【0020】
具体的に、前記鋼製スリットダム1は、山間地の河川に構築した非越流部6間の開口部に設けた基礎部7上に、スリット構造体2を河川の河幅方向に設置して構成される。
前記スリット構造体2は、図示例では、5本の上流側柱材3と3本の下流側柱材4とを複数本の繋ぎ材5でつないで立体的に構築しているが、各柱材3、4、及び繋ぎ材5の使用本数、又はサイズは勿論これに限定されず、構造設計に応じて適宜設計変更可能である。ちなみに図中の符号11は支え材を示し、符号12は分枝鋼管を示している。これらの使用本数、又はサイズも構造設計に応じて適宜設計変更可能である。前記構造設計とは具体的に、想定される土石の最大サイズや最大流木長はもとより、前記非越流部6の規模、開口部(基礎部7)の幅寸、洪水時の河川の性状(想定水位、想定流量、流木の流下幅)、および画像解析による土石や流木等の捕捉シミュレーション等を指す。
前記各柱材3、4を基礎部7に設置する手段は種々あるが、本実施例では詳細図を省略するが、ベースプレートを取り付けた下端部を前記基礎部7に埋設して建て込んでいる。その他、基礎部7に予め埋め込んだ鞘管に下端部を建て入れて実施することもできる。
また、図示例の場合、前記基礎部7の上面は水平面で実施しているがこれに限定されず、河川の河床勾配に沿った傾斜勾配で実施してもよい。
なお、図示例に係る上流側柱材3、下流側柱材4、繋ぎ材5、及び支え材11は、それぞれ図示の便宜上、1本の鋼管で実施しているように見える。もちろん1本の鋼管で実施することもできるが、実際は、対向する配置の鋼管の端面に設けた一対のフランジをボルト接合(フランジ接合)して継ぎ足す構成の分割可能(2箇所以上でも可)な分割構造体で実施されることが多い(例えば、本出願人が出願した上記特許文献3を参照)。
【0021】
前記下流側柱材4は、すべて(図示例では3本)、その下端部を前記基礎部7に埋設して建て込み、前記基礎部7から鉛直方向に立ち上がる姿勢で設けられており、その左右の端部に位置する2本の下流側柱材4はそれぞれ、左右の非越流部6へ突き出す突出部材8を備えている。そして、前記突出部材8は、
図3が分かりやすいように、隣接する下流側柱材4同士を連結する上下5段構成の繋ぎ材5のうち、上半部分に相当する上方3段の繋ぎ材5と同等レベルの左右の延長線状に設けられ、前記左右の非越流部6に応力伝達可能に支持されている。
【0022】
前記突出部材8を前記非越流部6に応力伝達可能に支持させる手段として、本実施例に係る突出部材8は、一例として、
図5、
図6が分かりやすいように、フランジ10で継ぎ足してなる分割構造体で実施され、その端部側の突出部材8を、前記非越流部6に横向きに埋設された鞘管9内へ挿入し、スリット構造体2の本体側の突出部材8とフランジ接合することにより、継ぎ足した突出部材8が前記左右の非越流部6に応力伝達可能に支持されている。
【0023】
具体的に、前記端部側の突出部材8は、一端部にフランジ10が取り付けられた金属管(鋼管)が用いられ、前記本体側の突出部材8に設けたフランジ10とフランジ接合する手段で実施しているが、溶接手段でも同様に実施できる。要は、分割構造体で実施する突出部材8を所要の強度・剛性を備えるように継ぎ足すことができ、かつ、前記左右の非越流部6に応力伝達可能に支持させることができれば、従来のいかなる接合手段も適用可能である。
【0024】
前記鞘管9は、
図7、
図8に示したように、管本体9aとその端部に設けた位置決め部(非越流部6表面への重ね代)9bとからなり、前記管本体9aの内径が前記端部側の突出部材(鋼管)8の外径よりも少し大きく、フランジ10の外径よりも小さいサイズで実施されている。また、管本体9aの長さは、継ぎ足した突出部材8を十分に収容可能(スライド可能)な長さで実施されている。ちなみに図中の符号9cは、ガイド材(スペーサー)を示している。
【0025】
前記突出部材8を前記非越流部6に単に埋設する手法を採用せず、前記鞘管9を介して挿入する手法を採用した意義は、前記鞘管9と前記突出部材8との間に、スリット構造体2を構成する各柱材3、4、又は繋ぎ材5の伸縮ひずみを吸収可能なスライド可能な構造を呈することで、熱応力を解消し、コンクリート等のひび割れを抑止する効果があるからである。また、前記スリット構造体2の突出部材8を介して鞘管9に伝達された応力(特にはせん断応力)を非越流部6へ伝達することができ、応力集中が生じることなく鞘管9周辺からひび割れが発生することを防止する効果があるからである。
【0026】
参考までに、上流側柱材3、下流側柱材4、繋ぎ材5、及び突出部材8等のスリット構造体2を構成する部材は、主に鋼管(金属管)で製作され、外径が400~600mm程度、肉厚9~22mm程度のサイズが好適に用いられている。上流側柱材3と下流側柱材4との間隔(設置幅)は、2~3m程度でも実施可能である。また、スリット構造体2の全体の大きさは、高さが10m~12m程度はもとより、本発明の構成の特異性により、ハイダムと称される15m以上も可能である。
【0027】
上記構成にかかる鋼製スリットダムによれば、以下の効果を奏する。
(1)前記下流側柱材4は、前記基礎部7から鉛直方向に立ち上がる姿勢で設けられているので、土石や流木等がスリット構造体2の頂部を越流する場合、越流した土石や流木等が下流側支柱4に衝突しない構造を実現することができる。よって、下流側支柱4、ひいてスリット構造体2の破損を極力防止できるので、経済性、品質性、およびメンテナンス性に優れた鋼製スリットダムを実現できる。
(2)上流側柱材3と下流側柱材4と繋ぎ材5等とでスリット構造体2をバランス性能に優れた立体的構造に構築できるので、構成部材の一部が破損してもスリット構造体2、ひいては非越流部6を含む鋼製スリットダム1の崩壊を防止できる鋼製スリットダムを実現できる。
(3)スリット構造体2の脚部を担う上流側柱材3及び下流側柱材4の下端部は、基礎部(コンクリート基礎等)7に埋設して立設され、また、スリット構造体2の左右の両端部に位置する下流側柱材4に設けた突出部材8を左右の非越流部6へ応力伝達可能に支持させた構成を呈するので、スリット構造体2を含む鋼製スリットダム全体で抵抗する合理的な構造を実現できる。よって、従来の鋼製スリットダムと比し、スリット構造体2の転倒防止に寄与することはもとより、構造幅(設置幅)を縮小しつつ構造高さを高くできるので、ハイダムと称されるダムも構築可能な鋼製スリットダムを実現できる。
(4)スリット構造体2の構造幅(設置幅)を縮小したことに伴い、越流した土石や流木等がスリット構造体2の頂部での流動途中で落下する量も抑制できるので、スリット構造体2の内部に配設される繋ぎ材5等の構成部材の損傷も抑制できる。また、スリット構造体2の構造幅(設置幅)を縮小したことに伴い、スリット構造体2の内部に配設される繋ぎ材5等の構成部材の本数も減るので、必然的に前記構成部材の損傷も抑制できる。さらに、スリット構造体2の構造幅(設置幅)を縮小したことに伴い、スリット構造体2のスリム化を実現できるので、非越流部(堰堤、堤体)6、ひいては鋼製スリットダム1自体の設計の自由度を高めることもできる。
【0028】
なお、上記した
図1~
図4に係る鋼製スリットダム1のスリット構造体2は、その左右の両端部に位置する下流側柱材4に突出部材8を設けた構造で実施しているがこれに限定されない。
例えば、
図9~
図12に示したように、前記突出部材8を、隣接する下流側柱材4同士を連結する上下5段構成の繋ぎ材5のうち、すべての繋ぎ材5と同等レベルの左右の延長線状に上下5段構成で設けて実施することもできる。また、
図13~
図16に示したように、前記突出部材8を、隣接する上流側柱材3同士を連結する上下5段構成の繋ぎ材5のうち、すべての繋ぎ材5と同等レベルの左右の延長線状に上下5段構成で設けて実施することもできる。さらに、図示は省略するが、これらをミックスした構造、すなわち上流側柱材3及び下流側柱材4に突出部材8(段数は1段以上で可)を設け、これら突出部材8を前記左右の非越流部6に応力伝達可能に支持させた構造でも同様に実施することができる。
これらのバリエーションは、
図1~
図4に基づいて説明した実施例と同様に、本発明に係るスリット構造体2の構成の特徴点である、前記下流側柱材4は前記基礎部7から鉛直方向に立ち上がる姿勢で設けられている構成と、前記スリット構造体2は河川の横断方向の両端部に位置する上流側柱材3及び/又は下流側柱材4から左右の非越流部6へ突き出す突出部材8を備えており、前記突出部材8が前記左右の非越流部6に応力伝達可能に支持されている構成とを双方備えているので、やはり前記段落[0027]で説明した効果を同様に備えている。
【0029】
以上に本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
【0030】
例えば、前記突出部材8の段数は、構造設計に応じて1段でも実施できるし、図示例のように2段以上でも実施できる。また、前記突出部材8の設置部位は、繋ぎ材5と同等レベルに限定されず、上流側柱材3及び/又は下流側柱材4の任意の部位に設けて実施できる。もっとも、スリット構造体2の転倒防止の観点からは、上流側柱材3及び/又は下流側柱材4の上半部分(上方部分)に設けると効果的であるが、仮に、下方部分のみに設けても非越流部6に応力伝達する効果はあるので、要は、上記したような、想定される土石の最大サイズや最大流木長等を勘案した構造設計に応じて適宜設計変更可能である。
また、図示例では、前記上流側柱材3を傾斜させた構成で実施しているがこれに限定されず、
図17に例示したように、前記下流側柱材4と同様、鉛直方向に立ち上がる姿勢でも実施できる等、非越流部6の上流側の形態を含む構造設計に応じて適宜設計変更可能である。
また、図示例では、前記下流側柱材4の上部に下流側へ張り出す庇部を備えたスリット構造体2で実施している。具体的には、上流側柱材3の天端と下流側柱材4の天端とをつなぐ天端の繋ぎ材5の一端部が、下流側柱材4よりも下流側へ少し張り出すことで庇部(軒部)を形成したスリット構造体2で実施している。このような構造は、越流した土石や流木等を、より下流側へ誘導することにより下流側支柱4に衝突しない効果をより向上させるので、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜行われる。
さらに、図示例では、上流側柱材3と下流側柱材4との天端(高さ)を揃えて実施しているが、下流側柱材4の高さを上流側柱材3よりも低く設定することにより、越流した土石や流木等が下流側支柱に衝突しない効果をより向上させるので、やはり本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜行われる。
その他、本発明に係る鋼製スリットダム1に用いるスリット構造体2は、上流側柱材3と下流側柱材4とを繋ぎ材5でつないで立体的に構築されていればよいので、
図18に例示したように、上流側柱材3の天端と下流側柱材4の天端とをつなぐ天端の繋ぎ材5が無い構造でも勿論実施可能である。ちなみに、この
図18に係るスリット構造体2も前記庇部を備えた構造で実施している。
【符号の説明】
【0031】
1 鋼製スリットダム
2 スリット構造体
3 上流側柱材
4 下流側柱材
5 繋ぎ材
6 非越流部(堰堤、堤体)
7 基礎部
8 突出部材
9 鞘管
9a 管本体
9b 位置決め部(重ね代)
9c ガイド材
10 フランジ
11 支え材
12 分枝鋼管