(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146120
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】定着装置およびそれを備えた画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20231004BHJP
G03G 21/00 20060101ALI20231004BHJP
B65H 5/00 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
G03G15/20 530
G03G21/00 512
B65H5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053142
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 晃洋
【テーマコード(参考)】
2H033
2H270
3F101
【Fターム(参考)】
2H033AA01
2H033AA16
2H033BA02
2H033BA16
2H033BA19
2H033BA21
2H033BA59
2H033BB03
2H033BB05
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB29
2H033BB30
2H033CA18
2H033CA19
2H033CA26
2H270LA80
2H270LB08
2H270MA29
2H270MA34
2H270MA40
2H270MB05
2H270MB25
2H270MB32
2H270MB39
2H270MB41
2H270MB43
2H270RA13
2H270RA14
2H270RC03
2H270RC05
2H270RC10
2H270RC11
2H270RC14
2H270RC18
2H270ZC04
3F101AA04
3F101AA09
3F101LA01
3F101LB01
(57)【要約】
【課題】分離爪を備える定着装置において、製造コストの増大を抑制しつつ、画像不良を抑制可能な定着装置を提供する。
【解決手段】定着装置は、被加熱回転体と、加圧回転体と、加熱部と、分離爪と、電荷付与部と、を備える。加圧回転体は、定着ニップ部を形成する。分離爪は、被加熱回転体の外周面の外周面に接触する接触部を有する。電荷付与部は、外周面に向かって突出する、被加熱回転体の回転軸方向と平行に並んだ複数の帯電部を有する。分離爪は、帯電部の先端と外周面との間に配置され、帯電部から外周面に放出された電荷を遮蔽する電荷遮蔽部を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱回転体と、
前記被加熱回転体に圧接されて定着ニップ部を形成する加圧回転体と、
前記被加熱回転体を加熱する加熱部と、
前記被加熱回転体の外周面の移動方向に対して前記定着ニップ部よりも下流側で前記外周面に接触する接触部を有し、前記定着ニップ部を通過した前記シートを前記被加熱回転体から分離する分離爪と、
前記外周面に所定の間隔を隔てて対向配置され、前記外周面に前記外周面の帯電極性と逆極性の電荷を付与する電荷付与部と、
を備え、前記定着ニップ部を通過する前記シートを加熱および加圧することにより前記シート上の未定着トナー像を溶融定着する定着装置において、
前記電荷付与部は、前記外周面に向かって突出する、前記被加熱回転体の回転軸方向と平行に並んだ複数の帯電部を有し、
前記分離爪は、前記帯電部の先端と前記外周面との間に配置され、前記帯電部から前記外周面に放出された電荷を遮蔽する電荷遮蔽部を有することを特徴とする定着装置。
【請求項2】
複数の前記帯電部は、前記回転軸方向に対して前記外周面の前記シートと接触する通紙領域の全域と重なるように等間隔で並んでいることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記回転軸方向に対して、前記電荷遮蔽部の幅は前記接触部の幅の9/10倍以上、かつ11/10倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項4】
前記シート上の前記トナー像を前記シート上に定着させる請求項1に記載の定着装置と、前記シートの搬送方向に対して前記定着ニップ部より上流側に配置され、前記シート上に前記トナー像を形成する画像形成部と、
を備える画像形成装置。
【請求項5】
前記定着ニップ部を通過する前記シートの印字率の値を累積した累積印字値をカウントするカウント部と、
前記電荷付与部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記累積印字値が増加するにつれて前記印加電流を大きくすることを特徴とする請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記累積印字値が所定の増加印字値分増加する度に前記印加電流を大きくし、前記累積印字値の値が大きくなるにつれて、前記増加印字値が大きくなることを特徴とする請求項5に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は定着装置およびそれを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置においてトナー像をシート(印刷用紙や封筒、OHPシート等の記録媒体)に定着させるために、定着ローラーまたは定着ベルト(被加熱回転体)と加圧ローラー(加圧回転体)とが圧接して定着ニップ部を形成する定着装置が広く用いられている。この定着装置では定着ニップ部にシートを通し、トナー像に熱と圧力を加えてシート上にトナー像を溶融定着させる。
【0003】
上記のような定着装置には、分離爪と、電荷付与部とを備えるものがある。分離爪は、定着ニップ部を通過したシートと定着ローラーとの間に介在する。分離爪は、先端部を定着ローラーに摺接させて、定着ニップ部を通過したシートを定着ローラーから分離させる。
【0004】
ここで、定着ニップ部への通紙によってシート上のトナー成分が定着ローラーに付着し、定着ローラーの外周面(以下、単に「外周面」と称する)の表面抵抗が上昇し、外周面が負極性(トナーと逆極性)に帯電することがある。すると、シートから未定着のトナー像が定着ローラーに転写されてしまい、後続のシートに再転写される画像不良(いわゆる静電オフセット現象)が生じるおそれがある。そこで、電荷付与部によって、外周面に正極性(トナーと同極性)の電荷を付与する。すると、外周面の帯電極性が相殺されて外周面が除電され、静電オフセット現象が生じるのを抑制できる。
【0005】
ところで、外周面の分離爪と接触する箇所では、トナー成分が付着していたとしても、分離爪によって掻き取られる。このため、この掻き取られた箇所は、他の箇所(トナー成分が付着したままの箇所)よりも、上述した負極性の帯電量が小さいものとなっている。この掻き取られた箇所に上述したように電荷付与部から正極性の電荷が付与されると、却ってこの箇所が正極性に大きく帯電してしまう。このため、シート上のトナーが散ってしまう静電飛散が生じたり、負極性に帯電した紙粉が引きつけられて定着ローラーに付着してしまったりして、画像不良に繋がるおそれもある。
【0006】
このような問題に対して、上述した画像不良を抑制するための構成を採用した定着装置がある(特許文献1、特許文献2)。特許文献1の定着装置は、外周面の分離爪に接触した箇所に電荷を付与する第1電荷付与部と、外周面の分離爪と接触しない箇所に電荷を付与する第2電荷付与部とを備えている。第1電荷付与部の印加電流と第2電荷付与部の印加電流とを別々に調整することで、外周面の電位を均一にし、上述した画像不良を抑制している。
【0007】
また、特許文献2の定着装置に係る電荷付与部は、定着ローラーの回転軸方向に対して並ぶ複数の分離針を有している。分離針は、回転軸方向に対して分離爪と重なる位置を避けるようにして配置されている。分離針は外周面に向かって突出している。電荷付与部は、分離針の先端から外周面に電荷を付与する。上述した通り、分離針は、回転軸方向に対して分離爪と重なる位置には配置されていないため、外周面の分離爪と接触した箇所には電荷が付与されないようになっている。これにより、外周面の分離爪と接触した箇所が正極性に過剰に帯電するのを抑制し、画像不良を抑制可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-65235号公報
【特許文献2】特開2004-354778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の定着ローラーでは、第1電荷付与部と第2電荷付与部とを別々に制御する必要があり、構成や電流制御が複雑化して製造コストが増大するおそれがある。また、上述した分離爪は、回転軸方向に対して僅かに移動可能なよう、ゆとりを持って支持されている。このため、特許文献2の定着ローラーでは、分離爪が回転軸方向に対して分離針と重なる位置にずれるおそれがある。すると、分離針が外周面の分離爪と接触しない箇所と対向し、この箇所に意図せず電荷を付与してしまうおそれがある。反対に、回転軸方向に対して分離針の配置されていない箇所と、外周面の分離爪と接触していない箇所とが重なり、分離爪の接触していない箇所に電荷が付与されないおそれもある。これらの場合、定着ローラーの外周面の帯電状態が均一なものとならず、上述した静電オフセットや静電飛散等の画像不良が生じるおそれがある。
【0010】
そこで、本発明は、分離爪を備える定着装置において、製造コストの増大を抑制しつつ、画像不良を抑制可能な定着装置およびそれを備えた画像形成装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明の第1の構成は、被加熱回転体と、加圧回転体と、加熱部と、分離爪と、電荷付与部と、を備える定着装置である。加圧回転体は、被加熱回転体に圧接されて定着ニップ部を形成する。加熱部は、被加熱回転体を加熱する。分離爪は、被加熱回転体の外周面の移動方向に対して定着ニップ部よりも下流側で外周面に接触する接触部を有し、定着ニップ部を通過したシートを被加熱回転体から分離する。電荷付与部は、外周面に所定の間隔を隔てて対向配置され、外周面に外周面の帯電極性と逆極性の電荷を付与する。定着装置は、定着ニップ部を通過するシートを加熱および加圧することによりシート上の未定着トナー像を溶融定着する。電荷付与部は、外周面に向かって突出する、被加熱回転体の回転軸方向と平行に並んだ複数の帯電部を有する。分離爪は、帯電部の先端と外周面との間に配置され、帯電部から外周面に放出された電荷を遮蔽する電荷遮蔽部を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の構成によれば、回転軸方向に対して分離爪と重なる位置にある帯電部から放出される電荷が、電荷遮蔽部によって遮蔽される。このため、被加熱回転体の外周面の分離爪と重なる箇所は帯電しにくく、分離爪と重ならない箇所は逆極性の電荷を付与されることで除電される。また、このように分離爪と電荷付与部による比較的簡易な構成を採用することで、構成や電流制御の複雑化も抑制可能となっている。従って、製造コストの増大を抑制しつつ、画像不良を抑制可能な定着装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る定着装置13が搭載される画像形成装置100の内部構造を示す概略断面図
【
図2】本発明の実施形態に係る定着装置13の周辺を拡大して示した側面図
【
図3】加熱ローラー20の外周面38を径方向に沿って平面視した平面図
【
図4】帯電部42の突出方向に沿って定着装置13を平面視した定着装置13の平面図
【
図5】画像形成装置100の制御経路の一例を示すブロック図
【
図6】累積印字値が増加したときの外周面38の表面電位と帯電部42に流れる電流の関係を表すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る定着装置13が搭載される画像形成装置100の内部構造を示す概略断面図である。本実施形態に係る画像形成装置100は、4連タンデム型のカラー複写機である。先ず、
図1を参照しながら画像形成装置100について説明する。
【0015】
図1に示すように、画像形成装置100の本体内部には、4つの画像形成部Pa、Pb、Pc、Pdが、水平方向の一方側(
図1の左側)から順に設けられている。これらの画像形成部Pa~Pdは、異なる4色(マゼンタ、シアン、イエローおよびブラック)の画像に対応して設けられており、それぞれ帯電、露光、現像および転写の各工程によりマゼンタ、シアン、イエローおよびブラックの画像を順次形成する。
【0016】
画像形成部Pa~Pdには、感光体ドラム1a~1dがそれぞれ設けられている。感光体ドラム1a~1dの周囲および下方には、帯電装置2a~2dと、露光装置5と、現像装置3a~3dと、クリーニング装置7a~7dと、が設けられている。帯電装置2a~2dは、感光体ドラム1a~1dを帯電させる。露光装置5は、画像データに基づき、感光体ドラム1a~1dに対して露光する。現像装置3a~3dは、感光体ドラム1a~1d上に形成される静電潜像をトナーで現像する。クリーニング装置7a~7dは、感光体ドラム1a~1d上でトナー像の転写後に残留した現像剤(トナー)を回収、除去する。
【0017】
パソコン等の上位装置から画像データが入力されると、先ず、帯電装置2a~2dによって感光体ドラム1a~1dの表面を一様に帯電させる。次いで露光装置5によって画像データに応じて光照射し、各感光体ドラム1a~1d上に画像データに応じた静電潜像を形成する。現像装置3a~3dには、それぞれシアン、マゼンタ、イエローおよびブラックの各色のトナーを含む二成分現像剤が所定量充填されている。この現像剤中のトナーは、現像装置3a~3dにより感光体ドラム1a~1d上に供給されて静電的に付着する。これにより、感光体ドラム1a~1d上に、静電潜像に応じたトナー像(可視像)が形成される。
【0018】
現像装置3a~3dの上方にはトナーコンテナ4a~4dが設けられている。各現像装置3a~3d内に充填された二成分現像剤中のトナーの割合が規定値を下回った場合にはトナーコンテナ4a~4dから各現像装置3a~3dにトナーが補給される。
【0019】
画像形成部Pa~Pdに隣接して、従動ローラー10、駆動ローラー11、および中間転写ベルト8が設けられている。従動ローラー10および駆動ローラー11は、回転可能に支持されている。従動ローラー10と駆動ローラー11とは、水平方向と平行をなすように並んでいる。駆動ローラー11は、モーター等の駆動源(不図示)に接続され、この駆動源の駆動力によって回転する。
【0020】
中間転写ベルト8は誘電体樹脂製のシートにより形成されている。中間転写ベルト8は、継ぎ目のないベルト(シームレスベルト)を採用するのが好ましい。中間転写ベルト8は、従動ローラー10及び駆動ローラー11に掛け渡されている。中間転写ベルト8が駆動ローラー11に従動回転するように、中間転写ベルト8の内周面と駆動ローラー11の外周面とが当接している。従動ローラー10が中間転写ベルト8に従動回転するように、従動ローラー10の外周面と中間転写ベルト8の内周面とは当接している。
【0021】
中間転写ベルト8は、感光体ドラム1a~1dに当接している。中間転写ベルト8を間に挟んで、感光体ドラム1a~1dのそれぞれに対向するよう一次転写ローラー6a~6dが配置されている。一次転写ローラー6a~6dは、一次転写駆動モーター(不図示)により感光体ドラム1a~1dおよび中間転写ベルト8と同一線速で回転駆動される。
【0022】
中間転写ベルト8を間に挟んで駆動ローラー11と対向する位置に、二次転写ローラー9が配置されている。二次転写ローラー9は中間転写ベルト8に圧接して二次転写ニップ部N1を形成している。中間転写ベルト8の回転方向(
図1に示す反時計回り)に対して二次転写ニップ部N1の下流側に、クリーニングブレード19が配置されている。クリーニングブレード19は、中間転写ベルト8の外周面に当接しており、中間転写ベルト8表面に残存するトナー等を除去する。
【0023】
駆動ローラー11が回転すると、中間転写ベルト8が感光体ドラム1a~1dの外周面に当接しながら回転する。このとき、一次転写ローラー6a~6dは、一次転写ローラー6a~6dと感光体ドラム1a~1dとの間に所定の転写電圧を付与する。すると、感光体ドラム1a~1d上のトナー像が中間転写ベルト8上に一次転写される。
【0024】
そして、シートSが所定のタイミングで二次転写ニップ部N1に搬送される。二次転写ニップ部N1では、中間転写ベルト8に一次転写されていたトナー像が、シートSの表面に二次転写される。その後、感光体ドラム1a~1dの表面に残留したトナーがクリーニング装置7a~7dにより除去され、引き続き新たな静電潜像の形成が行われる。
【0025】
トナー像が転写されたシートSは定着装置13へと搬送される。定着装置13は、搬送されたシートS上のトナー像をシートS上に定着する。定着装置13の詳細については、後述する。
【0026】
その後、シートSは、排出ローラー対15を介して、画像形成装置100の本体上面に形成された排出トレイ17に排出される。シートSに対して両面印刷をする場合は、定着装置13の下流側に設けられた分岐部14が、定着装置13を通過したシートSを反転搬送路18へ振り分ける。反転搬送路18は、シートSを、表裏を反転させつつ二次転写ニップへ再度搬送する。再搬送されたシートSは、裏面にトナー像が二次転写され、定着装置13によりトナー像が定着される。そして、シートSは、排出ローラー対15により排出トレイ17上に排出される。
【0027】
次に、定着装置13について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る定着装置13の周辺を拡大して示した側面図である。
図2に示すように定着装置13は、ローラー定着方式を採用するものである。定着装置13は、加熱ローラー20(被加熱回転体)と、加熱部23と、加圧ローラー21(加圧回転体)と、加熱側駆動源24(駆動源)と、分離爪22と、電荷付与部31と、を備えている。
【0028】
加熱ローラー20は、芯金26と、離型層27とを備えている。芯金26は、熱伝導性に優れたアルミや鉄等の金属から形成された中空円筒状の棒状体である。離型層27は、フッ素樹脂等の離型性の優れた材料によって形成されている。離型層27は、芯金26を被覆している。
【0029】
加熱部23は、芯金26の内部に設けられている。加熱部23は、ハロゲンランプやキセノンランプ等のヒーターである。加熱部23は、芯金26を介して離型層27を加熱し、離型層27の表面の温度が所定の温度となるように調整する。加熱ローラー20の温度は、サーミスター47(
図5参照)によって検知され、後述する制御部90によって制御される。
【0030】
加圧ローラー21は、加熱ローラー20と対向する位置に設けられている。加圧ローラー21は、基材32と、弾性層33と、離型層34とを備える。基材32は、アルミニウム製の芯金である。基材32は、定着装置13のハウジングに回転可能に支持されている。
【0031】
弾性層33は、基材32上に形成された、シリコンゴムからなる層である。弾性層33は、定着ニップ部N2へ弾性を付与する。離型層34は、フッ素樹脂によって弾性層33の表面を覆うようにチューブ状に形成された層である。離型層27および離型層34は、定着ニップ部N2で未定着トナー像を溶融定着する際に、シートSを加熱ローラー20および加圧ローラー21から分離しやすくしている。
【0032】
加圧ローラー21と加熱ローラー20との接触部分には、定着ニップ部N2が形成される。加圧ローラー21が加圧機構30(
図5参照)によって、加熱ローラー20に向かって付勢され、この加圧機構30の付勢力によって、定着ニップ部N2には所定のニップ圧が作用する。
【0033】
加熱側駆動源24は、回転駆動力を出力するモーターである。加熱側駆動源24は、複数のギア等によって構成された第1駆動伝達機構35を介して加熱ローラー20に接続されている。加熱側駆動源24は、第1駆動伝達機構35を介して加熱ローラー20に回転駆動力を出力する。加熱ローラー20は、加熱側駆動源24の回転駆動力を受けて、芯金26の中心(加熱ローラー20の径方向の中心)に位置する回転軸37の周方向に回転する。以下、回転軸37に沿った方向を「回転軸方向」と称する。また、回転軸37に直交する方向を「径方向」と称する。
【0034】
加圧ローラー21は、加熱ローラー20の回転駆動力を受けて従動回転する。加圧ローラー21は、加熱ローラー20と反対方向に回転する。これにより、定着ニップ部N2では、加熱ローラー20の外周面38と加圧ローラー21の外周面とが同一方向に進行する。加熱ローラー20および加圧ローラー21の回転方向が、シートSの搬送方向となる。
【0035】
上述したように二次転写ニップ部N1でトナー像を二次転写されたシートSは、定着ニップ部N2に搬送される。そして、シートSは、定着ニップ部N2で加熱ローラー20と加圧ローラー21に挟持され、加熱及び加圧されながら定着ニップ部N2の下流側へ搬送される。これにより、シートS上の粉体状態のトナーが溶融し、加圧されてシートS上に定着する。
【0036】
図3は、加熱ローラー20の外周面38を径方向に沿って平面視した平面図である。
図4は、帯電部42の突出方向に沿って定着装置13を平面視した定着装置13の平面図である。加熱ローラー20は、
図3、
図4の矢印Aの方向に回転する。換言すると、
図3、
図4の矢印A方向は、シートSの搬送方向となる。
【0037】
分離爪22は、絶縁性の高い耐熱樹脂(例えば、ポリイミド等)の表面にフッ素樹脂をコーティングして形成されている。
図2から
図4に示すように、分離爪22は、シートSの搬送方向に対して定着ニップ部N2の下流側に配置されている。分離爪22は、回転軸方向に沿って直線状に複数配置されている。
【0038】
分離爪22は、加熱ローラー20の外周面38に接触している。この分離爪22の外周面38と接触する箇所を接触部39とする。定着ニップ部N2を通過したシートSは、仮に溶融したトナーによって外周面38に張り付いていたとしても、接触部39に接触することで、外周面38から引き剥がされて分離する。
【0039】
分離爪22は、電荷遮蔽部40を備えている。回転軸方向に対して電荷遮蔽部40の幅は接触部39の幅と略等しい。より詳細には、電荷遮蔽部40の幅は、接触部39の幅の9/10倍以上、かつ11/10倍以下である。上述した通り、分離爪22は絶縁性の高い材料により形成されており、分離爪22に到達した電荷を電荷遮蔽部40において遮断する。
【0040】
電荷付与部31は、外周面と所定の間隔を隔てて対向するように配置されている。電荷付与部31は、外周面38に対して、外周面38の帯電極性(ここでは負極性)と逆極性(ここでは正極性)の電荷を付与する。以下、電荷付与部31についてより詳細に説明する。
【0041】
図2~
図4に示すように、電荷付与部31は、基部41と、複数の帯電部42とを備えている。基部41は、回転軸方向に平行に延びる部材である。基部41は、画像形成装置100のハウジングの一部やフレーム等に固定されている。帯電部42は、導電性材料(金属材料や電気抵抗値の低い樹脂材料等)から形成された針状の部材である。帯電部42は、基部41から外周面38に向かって突出する。
【0042】
帯電部42は、回転軸方向に対して外周面38のうちの少なくとも通紙領域A1の全域と重なるように、回転軸方向に沿って等間隔に複数配置されている。通紙領域A1は、外周面38のうちの、定着ニップ部N2を通過するシートSが接触する領域である。帯電部42は、回転軸方向に対して通紙領域A1の両外側にも配置されている。
【0043】
電荷付与部31は、電源ユニット52(
図5参照)に接続されている。電源ユニット52は、電力供給部51に接続され、電力供給部51から供給される電力を画像形成装置100の各所の装置に電力を分配する。
【0044】
電源ユニット52から電荷付与部31に電力が供給されると帯電部42に電流が流れ、帯電部42の先端から所定量の電荷が放出される。電荷は、帯電部42の先端と外周面38とを最短距離で結ぶ直線L1に沿って、帯電部42から外周面へと移動する。外周面38の表面電位は、この電荷の移動によって変化する。以下、この電荷の移動方向を「放電方向」と称する。電源ユニット52には制御部90が接続され、制御部90によって電流制御を行い、外周面38に付与する電荷量を調整する。制御部90についての詳細は後述する。
【0045】
ここで、以下、複数の帯電部42のうち、回転軸方向に対して電荷遮蔽部40と重なる位置にあるものを第1帯電部42a、それ以外のものを第2帯電部42bとする。第1帯電部42aと第2帯電部42bを特に区別しないときには、単に帯電部42とする。電荷遮蔽部40は、第1帯電部42aと、放電方向に沿って対向している。電荷遮蔽部40は、放電方向に対して第1帯電部42aの下流側に位置している。
【0046】
電荷遮蔽部40は、第1帯電部42aから放出された電荷を遮蔽する。上述した通り、電荷遮蔽部40は回転軸方向に対して接触部39と重なる位置にある。このため、外周面38のうち、接触部39と接触している部分には、電荷が付与されにくくなっている。
【0047】
次に、画像形成装置100及び定着装置13の制御経路について
図5を用いて説明する。なお、画像形成装置100を使用する上で装置各部の様々な制御がなされるため、ここでは制御経路のうち、本発明の実施に必要となる部分を重点的に説明する。また、既に説明した部分については説明を省略する。制御部90は、画像形成装置100内の任意の箇所に設けられていてもよいし、定着装置13内に設けられていてもよい。
【0048】
図5は、画像形成装置100の制御経路の一例を示すブロック図である。
図5に示すように、画像形成装置100の制御経路は、画像入力部70、操作部80、制御部90、画像形成部Pa~Pd、電力供給部51、電源ユニット52、定着装置13を含んで構成されている。
【0049】
画像入力部70は、画像形成装置100にパソコン等から送信される画像データを受信する受信部である。画像入力部70より入力された画像信号はデジタル信号に変換された後、一時記憶部94に送出される。
【0050】
操作部80には、液晶表示部81、各種の状態を示すLED82が設けられており、画像形成装置100の状態を示したり、画像形成状況や印字部数を表示したりするようになっている。また、操作部80からシートSが給紙されるシートカセット16や手差し給紙トレイ(図示せず)を指定することで、シートSの種類やサイズを入力することができる。画像形成装置100の各種設定はパソコンのプリンタードライバーから行われる。
【0051】
制御部90は、CPU(Central Processing Unit)91、ROM(Read Only Memory)92、RAM(Random Access Memory)93、一時記憶部94、カウント部95、複数(ここでは2つ)のI/F(インターフェイス)96を少なくとも備えている。CPU91は、中央演算処理装置として機能する。ROM92は、読み出し専用の記憶部である。RAM93は、読み書き可能な記憶部である。一時記憶部94は、一時的に画像データ等を記憶する。I/F96は、画像形成装置100内の各装置に制御信号を送信したり操作部80からの入力信号を受信したりする。
【0052】
ROM92には、画像形成装置100の制御用プログラムや、制御上の必要な数値等、画像形成装置100の使用中に変更されることがないようなデータ等が収められている。RAM93には、画像形成装置100の制御途中で発生した必要なデータや、画像形成装置100の制御に一時的に必要となるデータ等が記憶される。
【0053】
また、ROM92には、電荷付与部31に印加する電圧、すなわち帯電部42に発生させる電流について、初回起動時からの経過期間に応じて異なる値が記憶されている。具体的には、後述する累積印字値が大きくなるにつれて帯電部42に発生させる電流は大きくなる。
【0054】
一時記憶部94は、画像入力部70より入力され、デジタル信号に変換された画像信号を一時的に記憶する。カウント部95は、定着ニップ部N2へ挿通されるシートSの枚数(累積通紙枚数)を累積してカウントする。また、カウント部95は、定着ニップ部N2に通紙されるシートSの印字値の累積値である累積印字値をカウントする。
【0055】
累積印字値のカウントは、初回起動時から開始し、シートSが定着ニップ部N2を通過する度に、通過したシートSの印字率を累積して加算する。例えば、印字率5%の画像を形成されたシートSが定着ニップ部N2を通過し、続いて印字率10%の画像を形成されたシートSが通過した後、印字率15%の画像を形成されたシートSが通過した場合、それぞれの印字率(ここでは0.05と、0.1と、0.15)を加算し、累積印字値は0.3となる。シートSの両面に画像が形成されている場合、外周面38に圧接する面の印字率のみ加算する。
【0056】
電源ユニット52は、電力供給部51を介して商用電源(不図示)に接続されている。電源ユニット52は、制御部90からの出力信号により電力供給部51から供給された電力を、画像形成装置100中の各装置(電荷付与部31を含む)に配分する。
【0057】
図6は、累積印字値が増加したときの外周面38の表面電位と帯電部42に流れる電流の関係を表すグラフである。
図6では、横軸を累積印字値(無次元数)、第1縦軸(左側の縦軸)を電圧[kV]、第2縦軸(右側の縦軸)を電流[μA]としている。
【0058】
図6では、帯電部42に流れる電流をC1としている。また、外周面38の接触部39と接触していない箇所(
図4に示す領域A3)の表面電位をC2としている。また、仮に、電荷付与部31によって電荷を付与しなかった場合の、外周面38の接触部39と接触していない箇所(
図4に示す領域A2)の表面電位をC3としている。また、従来の定着装置13と同様に、外周面38の接触部39と接触する箇所の加熱ローラー20の回転方向の下流部分(
図4に示す領域A3)に電荷を直接付与した場合の表面電位をC4としている。
【0059】
図6に示すように帯電部42に流れる電流C1は、累積印字値が所定の増加印字値X1~X6増加するごとに、段階的に増加している。具体的には、累積印字値が画像形成装置100の初回起動時(累積印字値が0)の状態から所定の増加印字値X1の分だけ増加するまでは電流C1は0μAで一定であり、この間、外周面38の領域A3の表面電位C2は低下する。累積印字値が増加印字値X1に到達すると、電流C1は0.13μAまで増加し、電荷付与部31から外周面38に電荷の付与が開始される。このため、外周面38の領域A3の表面電位C2は、約0Vまで上昇する。
【0060】
さらに累積印字値が増加したとしても、累積印字値が増加印字値X1と増加印字値X2分の合計値分に達するまでは、帯電部42の電流C1は一定(0.13μA)となり、外周面38の領域A3の表面電位C2は再び低下する。累積印字値が増加印字値X1と増加印字値X2の合計値に達すると、電流C1が0.26μAに増加し、外周面38の領域A3の表面電位C2は再び約0Vまで上昇する。以降、さらに累積印字値が増加しても、同様に外周面38の領域A3の表面電位C2は約0Vとなるように、外周面38に電荷付与部31によって電荷が付与される。
【0061】
この間、外周面38の接触部39と接触する箇所の、接触部39よりも加熱ローラー20の回転方向の下流部分(
図4に示す領域A3)は、電荷遮蔽部40によって電荷遮断されるため、この部分の表面電位は約0Vの状態から変化しにくくなっている。
【0062】
累積印字値が大きくなるごとに、増加印字値X1~X6も大きくなるように設定されている。すなわち、増加印字値X1、X2、X3、X4、X5、X6の順に大きい値となっている。
【0063】
従来、外周面38の分離爪22と接触する箇所(
図4に示す領域A3)では、トナー成分が付着していたとしても、分離爪22によって掻き取られる。このため、この掻き取られた箇所は、他の箇所(トナー成分が付着したままの箇所、
図4に示す領域A2)よりも、表面の電位が小さいものとなる。この掻き取られた箇所に電荷付与部31から正極性の電荷が直接付与されると、
図6に示すように却ってこの箇所の表面電位C4が正極性(シートと同極)に大きなものとなって、静電飛散が生じるおそれがある。
【0064】
また仮に、電荷付与部31によって電荷を付与しない場合、累積印字値が大きくなるにつれて、外周面38の分離爪22と接触しない箇所(
図4に示す領域A2)の表面電位C3が大きく低下する。表面電位C3が所定値(
図6に示すP1の値)より小さくなると、静電オフセット現象が生じる可能性が高くなる。
【0065】
これに対して、本実施形態の定着装置13は、上述した通り、電荷付与部31によって外周面38に電荷を付与する。また、第1帯電部42aから放出される電荷は電荷遮蔽部40によって遮蔽される。このため、外周面38の分離爪22と重なる箇所(
図4に示す領域A3)の表面電位C1は上昇しにくく、分離爪22と重ならない箇所(
図4に示す領域A2)は表面電位が上昇する。これにより、外周面38にトナー成分が付着して外周面が負極性に帯電したとしても、外周面38の表面電位が均一な状態に近づくように除電することが可能になり、静電オフセットや静電飛散といった画像不良を抑制することができる。
【0066】
また、従来の定着装置13のように電荷付与部31を複数設ける必要が無く、電荷付与部31の電流制御を行うのみで除電が可能となっている。また、電荷遮蔽部40によって電荷が遮蔽される。このため、簡易な構造および制御系統によって画像不良を抑制可能になっている。従って、製造コストの増大を抑制しつつ、画像不良を抑制可能な定着装置13を提供することができる。
【0067】
また、電荷遮蔽部40は分離爪22の一部として形成されている。このため、仮に、分離爪22が僅かにずれた場合、接触部39および電荷遮蔽部40も共に移動する。すなわち、回転軸方向に接触部39と電荷付与部31とがずれることが無くなる。これにより、電荷遮蔽部40による電荷の遮蔽箇所と接触部39とがずれるのを抑制することができる。
【0068】
上記実施形態の定着装置13は、上述した通り、累積印字値が大きくなるにつれて帯電部42に流れる電流を大きくし、外周面38に付与する電荷量を大きくする。これにより、トナー成分の付着等によって外周面38に滞留する負極性の電荷量が大きくなったとしても、好適に外周面38を除電することが可能になっている。
【0069】
また、通常、累積通紙枚数が増加するにつれ、外周面38の表面電位は摩擦等の影響により大きくなる。さらに、印字率の高いシートSへの定着動作を行うことで、より外周面38の表面電位は大きくなる。この傾向は、累積印字値が比較的低いときに顕著であり、累積印字値が比較的高くなるとこの傾向は弱まる。これに対して、上記実施形態の定着装置13では、累積印字値が大きくなるにつれて増加印字値X1~X6の値を大きく設定している。これにより、外周面38に付与する電荷量を上昇させるタイミングを上述した傾向に対応させることができる。このため、外周面38の表面電位を適切に維持することが可能になり、画像不良を好適に抑制することができる。
【0070】
その他、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、被加熱回転体として加熱ローラー20を備えたローラー定着方式の定着装置13を例示したが、例えば無端状の定着ベルトを備えたベルト定着方式の定着装置等の定着装置にも同様に適用できる。
【0071】
また、加熱方式も、芯金26の内部に加熱部23を備えるとした上記実施形態の構成に限らず、励磁コイルとコアとを備える誘導加熱方式等の別の加熱方式を採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、被加熱回転体と加圧回転体で形成される定着ニップ部にシートを挿通して、トナー像に熱と圧力を加えてシート上にトナー像を溶融定着させる定着装置に利用可能である。本発明の利用により、分離爪を備える定着装置において、製造コストの増大を抑制しつつ、画像不良を抑制可能な定着装置それを備えた画像形成装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0073】
13 定着装置
20 加熱ローラー(被加熱回転体)
21 加圧ローラー(加圧回転体)
22 分離爪
23 加熱部
24 加熱側駆動源(駆動源)
31 電荷付与部
37 回転軸
38 外周面
39 接触部
40 電荷遮蔽部
42 帯電部
42a 第1帯電部
42b 第2帯電部
90 制御部
95 カウント部
100 画像形成装置
A1 通紙領域
L1 直線
N2 定着ニップ部
Pa~Pd 画像形成部
S シート
X1~X6 増加印字値