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  • 特開-炭素含有材料のリサイクル処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146133
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】炭素含有材料のリサイクル処理方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/135 20210101AFI20231004BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C25B1/135
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053158
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】506360310
【氏名又は名称】アイ’エムセップ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100060368
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 迪夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】寺田 誠二
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 欽一
(72)【発明者】
【氏名】中西 亨
(72)【発明者】
【氏名】小山 輝
【テーマコード(参考)】
4K021
5H031
【Fターム(参考)】
4K021AA09
4K021DA11
4K021DA13
5H031BB09
5H031EE02
5H031RR01
(57)【要約】
【課題】大気中への二酸化炭素の放出量を低減することが可能な蓄電デバイス等の炭素含有材料のリサイクル処理方法を提供する。
【解決手段】炭素含有材料のリサイクル処理方法は、(a)溶融塩を含む電解浴中、または、溶融塩を含む電解浴の外部において電解浴の上面近傍に、陰極を配置するステップと、(b)電解浴中に陽極を配置するステップと、(c)被処理材として、電解浴中に、炭素を含む蓄電デバイスの少なくとも一部を配置するステップと、(d)電解浴中の炭素含有材料から炭素が分離され、固体の炭素として析出する電圧を陽極と陰極の間に印加するステップを含む。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)溶融塩を含む電解浴中、または、溶融塩を含む電解浴の外部において前記電解浴の上面近傍に、陰極を配置するステップと、
(b)前記電解浴中に陽極を配置するステップと、
(c)被処理材として、前記電解浴中に、単体の形態で炭素を含む炭素含有材料を配置するステップと、
(d)前記電解浴中の前記炭素含有材料から炭素が分離され、固体の炭素として析出する電圧を前記陽極と前記陰極の間に印加するステップを含む、炭素含有材料のリサイクル処理方法。
【請求項2】
前記(d)のステップは、前記電解浴中の前記陽極に接触している前記炭素が酸化されて炭酸イオンになり、前記電解浴中の前記陰極側で前記炭酸イオンが還元されて固体炭素になる電圧を前記陽極と前記陰極の間に印加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記陰極は前記電解浴中に配置され、前記(d)のステップは、前記電解浴中の前記陰極に接触している前記炭素含有材料中の炭素が還元されてカーバイドイオン(C 2-)になり、前記電解浴中の前記陽極側でカーバイドイオン(C 2-)が酸化されて固体炭素になる電圧を前記陽極と前記陰極の間に印加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記炭素含有材料は、蓄電デバイスの少なくとも一部である、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記蓄電デバイスの前記少なくとも一部は、破砕または分解された使用済み蓄電デバイスである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記蓄電デバイスは、非水系二次電池である、請求項4または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記電解浴は密閉可能な反応容器内に配置されている、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素含有材料のリサイクル処理方法に関し、特定的には、リチウム二次電池、電気二重層キャパシタその他の蓄電デバイスのリサイクル処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池等の蓄電デバイスにはコバルト酸リチウムやニッケル酸リチウムのような、リチウム含有遷移金属酸化物とカーボンの複合材が使用されている。この複合材から、コバルト等の希少な金属を回収して再び電極材料として利用するため、従来、様々なリサイクル処理方法が提案されている。
【0003】
例えば、特開平10-158751号公報(特許文献1)には、使用済みリチウム二次電池から有価金属を簡便に収率よく回収することを目的として、(1)使用済みリチウム二次電池を焙焼して有機材料を分解、燃焼または揮発させて除去して焙焼物を得る焙焼工程、(2)焙焼物を粉砕して粉砕物を得る粉砕工程、(3)粉砕物を篩い分けして一次有価金属濃縮物を得る篩い分け工程、(4)篩下に含まれる有価金属以外のアルミニウムを除去して二次有価金属濃縮物を生成させる溶融工程からなる、使用済みリチウム二次電池からの有価金属の回収方法が記載されている。
【0004】
また、特開2005-11698号公報(特許文献2)には、リチウム二次電池電極材料をより簡略な工程で短時間にリサイクル処理することを目的として、リチウム二次電池の正極材料であるコバルト酸リチウムを金属リチウムと共に塩化リチウム溶融塩中で還元反応させて、酸化リチウムを生成してコバルトまたは酸化コバルトを沈殿分離し、その後に塩化リチウム溶融塩内で酸化リチウムを電解して金属リチウムを陰極に析出させて回収することを特徴とするリサイクル処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-158751号公報
【特許文献2】特開2005-11698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、2020年に日本政府が発表した「2050年カーボンニュートラル宣言」では、2050年までに脱炭素社会を実現し、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標としている。
【0007】
特許文献1に記載の方法では、焙焼工程において350℃~1000℃の温度で使用済みリチウム二次電池が焙焼される際、正極材料に大量に含まれるカーボンが燃焼され、二酸化炭素として放出される。また、一次有価金属濃縮物に残ったカーボンは、溶融工程において一次有価金属濃縮物中の未還元の有価金属を還元するために用いられて酸化され、二酸化炭素として放出される。
【0008】
一方、特許文献2に記載の方法では、前処理として、粉砕した電極材を直接溶融塩中に湿潤して酸素あるいは空気をバブリングすることにより、カーボンを酸化処理して複合材中から取り除く。取り除かれたカーボンは、二酸化炭素に変化してガスとなって放散され、シールガス循環路中に設けられた二酸化炭素吸収剤等で除去される。
【0009】
このように、特許文献1に記載の方法では焙焼工程と溶融工程で大量の二酸化炭素が発生してしまう。特許文献2に記載の方法では、二酸化炭素吸収剤等に吸収された二酸化炭素の処理が問題となる。
【0010】
そこで、本発明の目的は、大気中への二酸化炭素の放出量を低減することが可能な、蓄電デバイス等の炭素含有材料のリサイクル処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意研究の結果、リチウム二次電池などの蓄電デバイスのような、単体の形態で炭素を含む炭素含有材料を、溶融塩を含む電解浴中に配置して、適切な電圧を陰極と陽極の間に印加することによって、炭素含有材料に含まれている炭素を炭素含有材料から分離して、固体の炭素として析出させられることを見出した。この電気化学反応を用いた処理では、炭素の燃焼を伴わないため、二酸化炭素の放出量を低減することができる。さらに、生成される固体の炭素が高純度の炭素となるよう制御することで、炭素をリサイクルすることも可能となる。
【0012】
以上の知見に基づいて、本発明は次のように構成される。
【0013】
本発明に従った炭素含有材料のリサイクル処理方法は、
(a)溶融塩を含む電解浴中、または、溶融塩を含む電解浴の外部において電解浴の上面近傍に、陰極を配置するステップと、
(b)電解浴中に陽極を配置するステップと、
(c)被処理材として、電解浴中に、単体の形態で炭素を含む炭素含有材料を配置するステップと、
(d)電解浴中の炭素含有材料から炭素が分離され、固体の炭素として析出する電圧を陽極と陰極の間に印加するステップを含む。
【0014】
このようにすることにより、大気中への二酸化炭素の放出量を低減することが可能な炭素含有材料のリサイクル処理方法を提供することができる。
【0015】
上記の方法においては、ステップ(d)において、電解浴中の陽極に接触している炭素含有材料中の炭素が酸化されて炭酸イオンになり、電解浴中の陰極側で炭酸イオンが還元されて固体炭素になる電圧を陽極と陰極の間に印加することが好ましい。
【0016】
上記の方法においては、陰極は電解浴中に配置され、ステップ(d)において、電解浴中の陰極に接触している炭素含有材料中の炭素が還元されてカーバイドイオン(C 2-)になり、電解浴中の陽極側でカーバイドイオン(C 2-)が酸化されて固体炭素になる電圧を陽極と陰極の間に印加することが好ましい。
【0017】
上記の方法においては、炭素含有材料は蓄電デバイスの少なくとも一部であることが好ましい。
【0018】
上記の方法においては、蓄電デバイスの少なくとも一部は、破砕または分解された使用済み蓄電デバイスであることが好ましい。
【0019】
上記の方法においては、蓄電デバイスは、非水系二次電池であることが好ましい。
【0020】
上記の方法においては、電解浴は密閉可能な反応容器内に配置されていることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態のリサイクル処理方法を行うシステムを模式的に示す図である。
図2】本発明の第2実施形態のリサイクル処理方法を行うシステムを模式的に示す図である。
図3】本発明の第3実施形態のリサイクル処理方法を行うシステムを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
<第1実施形態>
図1に示すように、模式的に図示された第1実施形態のリサイクル処理装置1は、電解浴100を収容する反応容器10と、バスケット形状の陽極21と、陰極22と、陽極21と陰極22とが接続される電源部23とを備える。この実施形態では、陽極21と陰極22はいずれも電解浴中に配置されているが、陰極22は、電解浴100の外部において電解浴100の上面近傍に配置されてもよい。また、反応容器10は開放されていても密閉可能に構成されていてもよく、密閉可能であることが好ましい。
【0024】
電解浴100には、予め金属酸化物を溶解させた溶融塩を用いる。金属酸化物を溶解させることで、酸化物イオン(O2-)を電解浴中に安定的に存在させることができる。酸化物イオン(O2-)は他の方法で電解浴100中に供給されてもよい。
【0025】
さらに、電解浴100中には、被処理材として単体の形態で炭素を含む炭素含有材料400がバスケット形状の陽極21内に収容されて配置されている。単体の形態の炭素とは、例えば、グラファイト、ハードカーボン、アモルファスカーボン、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、活性炭等、公知の単体の形態の炭素であってよい。単体の形態で炭素を含む炭素含有材料は、これらの単体の形態の炭素そのものであってもよいし、単体の形態の炭素を構成要素の一部として含む、例えば電極材料や、そのような電極材料を含む、蓄電デバイスであってもよい。より具体的には炭素含有材料400は、例えば、使用済みの非水系二次電池や工場生産段階で不良となった非水系二次電池が破砕または分解されたものであることが好ましい。また、非水系二次電池は、リチウム二次電池であることが好ましい。
【0026】
電源部23によってバスケット形状の陽極21と陰極22の間に電圧を印加して、電解浴100中の陽極21側と陰極22側で次の反応が起きるようにする。
【0027】
バスケット形状の陽極21内に収容され、陽極21に接触した被処理材の炭素含有材料では、次の(1)式~(3)式の反応が起きる。
炭素含有材料での反応:
C(炭素含有材料)+3O2-→CO 2-+4e (1)
C(炭素含有材料)+2O2-→CO+4e (2)
C(炭素含有材料)+O2-→CO+2e (3)
このうち主たる反応は(1)式である。
【0028】
(1)式のCO 2-を陰極で還元すると、(4)式に従って電解浴中に固体の炭素が生成される。
【0029】
陰極反応:CO 2-+4e→C(固体)+3O2- (4)
【0030】
陰極で生成された酸化物イオン(O2-)は、(1)式から(3)式で示された炭素含有材料の酸化反応および、後述の(5)式~(8)式における陽極材料の酸化反応に再使用される。
【0031】
陰極22が電解浴100の外部において電解浴100の上面近傍に配置されている場合は陰極22と電解浴100の上面との間で放電を発生させる。この放電によって(4)式に示す炭酸イオンは還元され炭素の微粒子が形成される。
【0032】
バスケット形状の陽極21の材料をニッケルフェライト等で構成した場合、不溶性の酸素発生陽極として機能させることが可能となる。この場合、陽極21(酸素発生陽極)での反応は次の(5)式となる。
陽極反応(酸素発生陽極):2O2-→O+4e(5)
【0033】
バスケット形状の陽極21の材料として炭素を用いる場合、安価な通電用電極として使えるが、陽極21(炭素)での反応は、被処理材である炭素含有材料と同様の酸化反応となる。
陽極反応(炭素陽極):
C(炭素電極)+3O2-→CO 2-+4e (6)
C(炭素電極)+2O2-→CO+4e (7)
C(炭素電極)+O2-→CO+2e (8)
これらは(1)~(3)の副反応となる。
【0034】
ここで炭素含有材料に着目すると、陽極での主反応たる(1)式と陰極反応の(4)式から、全反応は次式となり、炭素含有材料から炭素が析出する。
【0035】
C(炭素含有材料)→C(固体) (9)
【0036】
<溶融塩>
溶融塩としては、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩を使用することができる。
【0037】
アルカリ金属ハロゲン化物としては、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr、LiI、NaI、KI、RbI、CsI等の化合物を使用することができる。
【0038】
アルカリ土類金属ハロゲン化物としては、MgF、CaF、SrF、BaF、MgCl、CaCl、SrCl、BaCl、MgBr、CaBr、SrBr、BaBr、MgI、CaI、SrI、BaI等の化合物を使用することができる。
【0039】
アルカリ金属炭酸塩としては、LiCO、NaCO、KCO等の炭酸塩を使用することができる。
【0040】
アルカリ土類金属炭酸塩としては、MgCO、CaCO、BaCO等の炭酸塩を使用することができる。
【0041】
<酸化物イオン(O2-)>
酸化物イオン(O2-)は予め電解浴中に供給されている。酸化物イオン(O2-)源としては、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物を使用することができる。アルカリ金属酸化物としてはLiO、NaO、KO等の酸化物を使用することができる。アルカリ土類金属酸化物としては、MgO、CaO、BaO等の酸化物を使用することができる。
【0042】
電解反応の進行に伴い、電解浴中の酸化物イオン(O2-)が減少し枯渇すると(1)式の反応が止まるため、適宜、酸化物イオン(O2-)を補充する必要がある。酸化物イオン(O2-)の枯渇を防ぐ方法としては、前記アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の添加以外に、二酸化炭素を電解浴中に吹き込む方法もある。
【0043】
この場合、二酸化炭素は電解浴中の酸化物イオン(O2-)と反応し、次式に示す炭酸イオンとなって電解浴中に吸収される。
CO+O2- → CO 2- (10)
【0044】
炭酸イオンを生成するため1モルの酸化物イオン(O2-)を消費するが、(4)式に示す陰極還元反応により、1モルの炭酸イオンから3モルの酸化物イオン(O2-)が生成されるため、結果的に二酸化炭素を電解浴中に吹き込むことは酸化物イオン(O2-)の補充となる。
【0045】
<処理温度>
処理温度(電解浴の浴温)については、特に制限はない。ただし900℃を超える高温域では炭酸塩自体の熱分解が顕著になることや、使用できる電解槽の材料が限られ取扱いが難しくなることから、250℃以上800℃以下の処理温度であることが好ましい。例えば溶融塩としてLiCl-KClの溶融塩化物とKCOの混合溶融塩を用い、酸化物イオン源としてLiOを用いた場合、処理温度は450℃であることが好ましい。
【0046】
<陰極>
本発明に従った黒鉛粒子の製造方法では、陰極は電解浴中に浸漬されてもよいし、電解浴中に浸漬されず、電解浴の外部において電解浴の上面近傍に配置されてもよい。すなわち、電解浴中に浸漬された陰極表面上において炭酸イオンを還元してもよく、電解浴の上面近傍において放電電子により炭酸イオンを還元してもよい。陰極を電解浴に浸漬させずに電解浴の上面近傍に配置することにより、サブナノメータ以下の極めて微細な炭素粒子を形成することができる。
【0047】
また電極を電解浴に浸漬させないことによって陰極基材由来の不純物が電解浴に混入しにくくなる。さらに、形成された全ての炭素粒子は電解浴中に存在するため、炭素粒子の回収が容易になる。
【0048】
陰極の材質としては鉄、ニッケル、モリブデン、タンタル、タングステン等の各種金属、それらの合金、グラッシーカーボンや導電性ダイヤモンド等の炭素材料、導電性セラミックス、半導体性セラミックス等を用いることができる。また、これらを異種材料の上に薄膜状に形成したものも陰極として使用することができる。
【0049】
<陽極>
陽極の構造としては、被処理材である炭素含有材料を電解浴中に散逸することなく保持し、かつ電気的に陽極と炭素含有材料とを接触させる構造とする。陽極の機能としては、炭素を用いた一般的な通電用電極の他に、不溶性の酸素発生陽極とすることもできる。
【0050】
不溶性の酸素発生陽極としては、Ti等の金属からなる基体表面がRuO、IrO、RhO、Taで被覆された不溶性電極、NiFe3-X(X=0.1~2.0)で表されるニッケルフェライト、若しくは組成式:NiCo1-XO(X=0.1~0.5又は式:NiCo3-X(X=0.3~1.5)で表されるニッケルコバルト酸化物からなる導電性セラミックス電極、あるいは導電性ダイヤモンド電極などを使用することができる。
【0051】
<固体炭素の回収>
固体の炭素を回収する際は、固体の炭素を含んだ電解浴を反応容器の外部に移送し、常温で固化塩にする。固化塩を水または50℃以下の温水に溶かし、超音波を印加しながら、水溶液中に固体の炭素を懸濁させる。得られた懸濁液をメンブレンフィルターでろ過し、フィルター上に堆積した固体の炭素を乾燥する。得られた固体の炭素は、例えば熱処理することによって、電極材料における使用に適した黒鉛にリサイクルすることができる。
【0052】
このようにすることにより、蓄電デバイスのような炭素含有材料に含まれる様々な元素を1つの反応容器内あるいは1つのリサイクル処理ライン上で連続して分離することができる。
【0053】
以上のように、本発明に従った炭素含有材料のリサイクル処理方法では、従来の方法のように、炭素含有材料の一例として蓄電デバイスをリサイクル処理する際に、蓄電デバイスを焙焼して炭素を燃焼させる必要がないため、大気中への二酸化炭素の放出量を低減することができる。また、二酸化炭素吸着剤を用いる必要もないため、吸着剤中に吸着された二酸化炭素の処理が問題となることもない。
【0054】
さらに、炭素含有材料中の炭素を高純度の固体炭素にリサイクルすることができる。例えば炭素含有材料中の炭素がアモルファスカーボンの形態で含まれている場合、アモルファスカーボンよりも機能的で利用価値、商品価値の高いグラファイトの形態で固体炭素を生成させることが可能である。この場合、リサイクル処理前後で、炭素は化合物形成を経ることなく結晶構造のみが異なるものとなる。そのためリサイクルに必要な電解エネルギーは、主に結晶構造の転換に消費されるエネルギーに留まるため小さくできる。さらに炭素含有材料中の炭素がグラファイトであり、析出物も固体のグラファイトである場合は、リサイクルに必要なエネルギーは結晶構造の転換のみを伴う場合よりもさらに小さくなる。このように、本発明のリサイクル方法は省エネルギーの観点からも有利である。
【0055】
第1実施形態の場合、具体的には、次の条件でリサイクル処理が行われることが好ましい。溶融塩はLiCl-KClであることが好ましい。処理温度は、300℃以上800℃以下であることが好ましく、より好ましくは400℃以上500℃以下である。陰極と陽極の間の電圧は、0Vより大きく4V以下であることが好ましく、1.6V以上2.0V以下であることがより好ましい。
【0056】
第1実施形態では、例えば、溶融塩としてLiCl-KClを1L用いて450℃の電解浴を準備し、炭素含有材料としてリチウム電池を破砕、分解したものを電解浴中に添加し、陽極と陰極の間に2.0Vの電圧を印加することによって固体の炭素を得ることができる。
【0057】
第1実施形態では、反応容器にArやN等の反応しにくいガスを流通させることも可能であり、大気開放が可能であるため装置構造は簡便なものとなる。
【0058】
<第2実施形態>
図2に示すように、模式的に図示された第2実施形態のリサイクル処理装置2は、第1実施形態のリサイクル処理装置1と同様に、電解浴100を収容する反応容器10と、バスケット形状の陽極21と、陰極22と、陽極21と陰極22とが接続される電源部23とを備える。この実施形態では、陽極21と陰極22はいずれも電解浴中に配置されているが、陰極22は、電解浴100の外部において電解浴100の上面近傍に配置されてもよい。電解浴100中には、被処理材として単体の形態で炭素を含む炭素含有材料400がバスケット形状の陽極21内に収容されて配置されている。
【0059】
第1実施形態と異なり第2実施形態では、リサイクル処理装置2の反応容器10は密閉できるように構成されている。さらに圧力監視部30と圧力調整部31を備え、副反応で発生する二酸化炭素および一酸化炭素により、反応容器10の圧力が所定よりも高くなった場合は、二酸化炭素および一酸化炭素を反応容器外部へ排出する。
【0060】
電源部23によって陽極21と陰極22の間に電圧を印加して、電解浴100中の陽極21側と陰極22側で次の(11)~(14)の反応が起きるようにする。
【0061】
バスケット形状の陽極21内に収容され、被処理材として陽極21に接触している炭素含有材料では、第2実施形態と同じく次の(11)~(13)の反応が起きる。
炭素含有材料での反応:
C(炭素含有材料)+3O2-→CO 2-+4e (11)
C(炭素含有材料)+2O2-→CO+4e (12)
C(炭素含有材料)+O2-→CO+2e (13)
【0062】
これらのうち主たる反応は(11)であるが、第2実施形態では、副反応の式(12)で発生する二酸化炭素も炭酸イオンに変換することを特徴とする。
【0063】
(12)式で発生した二酸化炭素が浴外へ放出されることによって反応容器内の圧力が上昇すると、それに応じて、反応容器内に充満した二酸化炭素と電解浴中の酸化物イオン(O2-)との間で以下の反応が促進され、二酸化炭素は電解浴100に吸収される。その結果、反応容器内の圧力は下降し、最終的に一定の圧力が保たれる。
CO+O2- → CO 2- (14)
【0064】
(11)式および(14)式で生成するCO 2-は(15)式に従って陰極で還元され電解浴中に固体の炭素が生成される。
陰極反応:
CO 2-+4e→C(固体)+3O2- (15)
【0065】
このように副反応で発生した二酸化炭素も陰極での還元反応に加わるため、実施形態1よりも実施形態2の方が、電流効率は高くなる。
【0066】
実施形態2においても、実施形態1と同様、バスケット形状の陽極21として酸素発生陽極を用いる場合、陽極21(酸素発生陽極)での反応は次の(16)式である。酸素発生陽極は、一例として、ニッケルフェライトまたはダイヤモンドによって形成される。
陽極反応(酸素発生陽極):2O2-→O+4e(16)
【0067】
また、第2実施形態では反応容器が密閉されるので、第1実施形態よりも大気中への二酸化炭素の放出量を低減できる。
【0068】
第2実施形態のその他の構成と作用効果は第1実施形態と同様である。
【0069】
第2実施形態の場合、具体的には、次の条件でリサイクル処理が行われることが好ましい。溶融塩はLiCl-KClであることが好ましい。処理温度は、300℃以上800℃以下であることが好ましく、より好ましくは400℃以上500℃以下である。陰極と陽極の間の電圧は、0Vより大きく4V以下であることが好ましく、1.6V以上2.0V以下であることがより好ましい。
【0070】
第2実施形態では、例えば、溶融塩としてLiCl-KClを1L用いて450℃の電解浴を準備し、炭素含有材料としてリチウム電池を破砕、分解したものを電解浴中に添加し、陽極と陰極の間に2.0Vの電圧を印加し、副反応によって生じた二酸化炭素を含む反応容器内の圧力が1atmになるように圧力を制御することによって、固体の炭素を得ることができる。
【0071】
<第3実施形態>
図3に示すように、模式的に図示された第3実施形態のリサイクル処理装置3は、第1実施形態のリサイクル処理装置1と同様に、電解浴100を収容する反応容器10と、陽極21と、陰極22と、陽極21と陰極22とが接続される電源部23とを備える。この実施形態では、陽極21と陰極22はいずれも電解浴中に配置されている。電解浴100中には、被処理材として単体の形態で炭素を含む炭素含有材料400が配置されている。
【0072】
第3実施形態のリサイクル処理装置3では第1実施形態、第2実施形態と異なる点は、陰極22がバスケット形状に形成されており、炭素含有材料400がバスケット形状の陰極22内に配置されて陰極22に接触している。また、電解浴100は溶融塩に予めカルシウムカーバイド(CaC)等を溶解させた、カーバイドイオン(C 2-)を含めたものとする
【0073】
電源部23によって陽極21と陰極22の間に電圧を印加して、電解浴100中の陽極21側と陰極22側で次の(17)~(18)の反応が起きるようにする。
【0074】
陰極反応:2C(炭素含有材料)+2e→C 2- (17)
陽極反応:C 2-→2C(固体)+2e (18)
【0075】
第3実施形態のその他の構成と作用効果は第1実施形態と同様である。
【0076】
第3実施形態の場合、具体的には、次の条件でリサイクル処理が行われることが好ましい。溶融塩はLiCl-KClであることが好ましい。処理温度は、300℃以上800℃以下であることが好ましく、より好ましくは400℃以上500℃以下である。溶融塩電解浴に原料となる炭素が全て溶解すると仮定したときの炭素濃度は2mol%~20mol%が好ましく、より好ましくは5mol%~15mol%が好ましい。陰極と陽極の間の電圧は、0Vより大きく4V以下であることが好ましく、1.6V以上2.0V以下であることがより好ましい。
【0077】
第3実施形態では、例えば、溶融塩としてLiCl-KClを1L用いて450℃の電解浴を準備し、炭素含有材料としてリチウム電池を破砕、分解したものを電解浴中に添加し、陽極と陰極の間に2.0Vの電圧を印加することによって固体の炭素を得ることができる。
【0078】
本願発明を要約すると次の通りである。
【0079】
[1]本発明に従った炭素含有材料のリサイクル処理方法は、
(a)溶融塩を含む電解浴中、または、溶融塩を含む電解浴の外部において電解浴の上面近傍に、陰極を配置するステップと、
(b)電解浴中に陽極を配置するステップと、
(c)被処理材として、電解浴中に、単体の形態で炭素を含む炭素含有材料を配置するステップと、
(d)電解浴中の炭素含有材料から炭素が分離され、固体の炭素として析出する電圧を陽極と陰極の間に印加するステップを含む。
【0080】
[2]上記[1]の方法においては、ステップ(d)において、電解浴中の陽極に接触している炭素含有材料中の炭素が酸化されて炭酸イオンになり、電解浴中の陰極側で炭酸イオンが還元されて固体炭素になる電圧を陽極と陰極の間に印加することが好ましい。
【0081】
[3]上記[1]の方法においては、陰極は電解浴中に配置され、ステップ(d)において、電解浴中の陰極に接触している炭素含有材料中の炭素が還元されてカーバイドイオン(C 2-)になり、電解浴中の陽極側でカーバイドイオン(C 2-)が酸化されて固体炭素になる電圧を陽極と陰極の間に印加することが好ましい。
【0082】
[4]上記[1]から[3]のいずれか1つに記載の方法においては、炭素含有材料は蓄電デバイスの少なくとも一部であることが好ましい。
【0083】
[5]上記[4]の方法においては、蓄電デバイスの少なくとも一部は、破砕または分解された使用済み蓄電デバイスであることが好ましい。
【0084】
[6]上記[4]または[5]の方法においては、蓄電デバイスは、非水系二次電池であることが好ましい。
【0085】
[7]上記[1]から[6]までのいずれか1つに記載の方法においては、電解浴は密閉可能な反応容器内に配置されていることが好ましい。
【0086】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変形を含むものである。
【符号の説明】
【0087】
10:反応容器、21:陽極、22:陰極、100:電解浴、400:炭素含有材料。
図1
図2
図3