IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ヒューム株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-円筒構造物の製造方法 図1
  • 特開-円筒構造物の製造方法 図2
  • 特開-円筒構造物の製造方法 図3
  • 特開-円筒構造物の製造方法 図4
  • 特開-円筒構造物の製造方法 図5
  • 特開-円筒構造物の製造方法 図6
  • 特開-円筒構造物の製造方法 図7
  • 特開-円筒構造物の製造方法 図8
  • 特開-円筒構造物の製造方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146179
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】円筒構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 21/04 20060101AFI20231004BHJP
   B28B 7/16 20060101ALI20231004BHJP
   B28C 7/02 20060101ALI20231004BHJP
   C04B 14/48 20060101ALI20231004BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
B28B21/04
B28B7/16 Z
B28C7/02
C04B14/48 Z
C04B28/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053240
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000229667
【氏名又は名称】日本ヒューム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】秋元 昌哲
(72)【発明者】
【氏名】江口 秀男
(72)【発明者】
【氏名】畑 実
(72)【発明者】
【氏名】石河 蔵之助
【テーマコード(参考)】
4G053
4G056
4G112
【Fターム(参考)】
4G053AA07
4G053AA13
4G053AA14
4G053CA15
4G053CA16
4G053EA08
4G053EB19
4G056AA12
4G056CB35
4G056CD31
4G112PA19
4G112PE02
(57)【要約】
【課題】繊維補強コンクリートによる大型の円筒構造物の製造方法を提供する。
【解決手段】
繊維補強コンクリートを調製し、繊維補強コンクリートの繊維の配向性を制御して、円筒形に打設する。この打設においては、円筒の厚みが300mm未満の場合は、横方向の可動性可動性に基づいた個所からトレミー管11を用いて行い、厚みが300mm以上の場合は、ホッパー10からの自由落下により行う。一方、自由落下により打設を行う場合、自由落下高さが3m以下である。トレミー管11により打設を行う場合、トレミー管11又は円筒構造物自体を回転させながら行う。繊維補強コンクリートに用いるコンクリートは、水結合材比(W/B)が10%~20%の範囲とし、高性能減水剤の使用量は結合材に対して1%~2%の範囲とし、フロー値は240~320mmの範囲とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維補強コンクリートを調製し、
前記繊維補強コンクリートの繊維の配向性を制御して、円筒形に打設する
ことを特徴とする円筒構造物の製造方法。
【請求項2】
前記打設は、円筒の厚みが300mm未満の場合は、横方向の可動性に基づいた個所からトレミー管を用いて行い、前記厚みが300mm以上の場合は、コンクリートホッパーからの自由落下により行う
ことを特徴とする請求項1に記載の円筒構造物の製造方法。
【請求項3】
自由落下により前記打設を行う場合、自由落下高さが1.5m~3mである
ことを特徴とする請求項2に記載の円筒構造物の製造方法。
【請求項4】
前記トレミー管により前記打設を行う場合、前記トレミー管を回転させながら行う
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の円筒構造物の製造方法。
【請求項5】
前記打設は、円筒の外枠に注入孔を設けて横打ちで行われる
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の円筒構造物の製造方法。
【請求項6】
前記繊維補強コンクリートに用いるコンクリートは、
水結合材比(W/B)が10%~20%の範囲とし、高性能減水剤の使用量は結合材に対して1%~2%の範囲とし、高性能収縮低減剤を含んでもよく、フロー値は240~320mmの範囲とする
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の円筒構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に繊維補強コンクリートを用いた円筒構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋼繊維や有機繊維を利用する超高強度補強コンクリート(Ultra High Strength Fiber Reinforced Concrete。以下、「UFC」とも称する。)等の繊維補強コンクリートが存在する。
たとえば、特許文献1によれば、従来の繊維補強コンクリートの一例として、有機繊維が分散され、固化されたセメントマトリックスを含むコンクリートであって、有機繊維以外に、(a)セメント、(b)最大で2mm、好ましくは最大で1mmの最大粒子サイズDを持つ粒状要素、(c)最大で20μm、好ましくは最大で1μmの要素の粒子サイズを持つポゾラン反応を伴う微細要素、(d)少なくとも一つの分散剤を含む組成物を水と混合することにより得られ、(e)添加されたセメント(a)および要素(c)の重量に対する水の重量パーセントが8%および25%の間の範囲であり、(f)繊維が、それぞれ少なくとも2mmの長さIおよび少なくとも20のI/φ比を持ち、ここでφは繊維直径である、(g)平均繊維長さLおよび粒状要素の最大粒子サイズDの間の比Rが少なくとも5であり、(h)繊維量がその体積が、セッティング後のコンクリート体積の最大で8%を表す量であるコンクリートが記載されている。
また、特許文献2には、金属繊維が分散された繊維補強コンクリートが記載されている。
【0003】
このような繊維補強コンクリートは、主に、建築用のタイル等の景観部材、及び土木補修用に貼り付けられる平面パネル等に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002-514567号公報
【特許文献2】特表平09-500352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたような繊維補強コンクリートでは、円筒の直径が数十cm~数百mにもなるような大型の円筒形状の構造物(以下、「円筒構造物」という。)を製造することは想定されていなかった。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の問題を解消し、大型の繊維補強コンクリートによる円筒構造物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の円筒構造物の製造方法は、繊維補強コンクリートを調製し、前記繊維補強コンクリートの繊維の配向性を制御して、円筒形に打設することを特徴とする。
本発明の円筒構造物の製造方法は、前記打設は、円筒の厚みが300mm未満の場合は、横方向の可動性に基づいた個所からトレミー管を用いて行い、前記厚みが300mm以上の場合は、コンクリートホッパーからの自由落下により行うことを特徴とする。
本発明の円筒構造物の製造方法は、自由落下により前記打設を行う場合、自由落下高さが1.5~3mであることを特徴とする。
本発明の円筒構造物の製造方法は、前記トレミー管により前記打設を行う場合、前記トレミー管を回転させながら行うことを特徴とする。
本発明の円筒構造物の製造方法は、前記打設は、円筒の外枠に注入孔を設けて横打ちで行われることを特徴とする。
本発明の円筒構造物の製造方法は、前記繊維補強コンクリートに用いるコンクリートは、水結合材比(W/B)が10%~20%の範囲とし、高性能減水剤の使用量は結合材に対して1%~2%の範囲とし、高性能収縮低減剤を含んでもよく、フロー値は240~320mmの範囲とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、繊維補強コンクリートを調製し、この繊維の配向性を制御して、円筒形に打設することで、従来より大型の繊維補強コンクリートによる円筒構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の円筒構造物の実施形態に係る写真である。
図2】本発明の円筒構造物の実施形態に係る概略図である。
図3】本発明の円筒構造物の製造方法(円筒部材)の実施形態に係る概念図である。
図4】本発明の円筒構造物の製造方法(円筒部材)の実施形態に係る概念図である。
図5】本発明の円筒構造物の製造方法(長円筒)の実施形態に係る概念図である。
図6】本発明の円筒構造物の製造方法(長円筒)の実施形態に係る概念図である。
図7】本発明の実施例に係る試験体の製造方法の概念図である。
図8】本発明の実施例に係る試験体のX線CT写真(幅方向)である。
図9】本発明の実施例に係る試験体のX線CT写真(高さ方向)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施の形態>
〔円筒構造物100の外観構成〕
まず、図1及び図2により、本発明の円筒構造物100の外観構成について説明する。
本実施形態に係る円筒構造物100は、UFC等の繊維補強コンクリートで製造された円筒構造物である。本実施形態においては、この円筒構造物100は、円筒形状の部材(以下、「円筒部材」という。)として複数が接着、連結されて、長大な円形構造体として一体化される。または、円筒部材として分割されて製造されるのではなく、最初から一体的な長い円筒状の構造物(以下、「長円筒」という。)の円筒構造体として製造することも可能である。これらの円筒構造体は、PCウェル工法や円筒状のタワー構造等に用いることが可能となる。
図1の写真は、打設されて製造された円筒構造物100の一例を示す。
図2(a)は概略側面図、図2(b)は概略正面図である。なお、図2において、主要な線以外は省略している。
【0011】
以下、本実施形態においては、外径部1の内面の円周の各点から軸芯Cに対して最短距離で到達する鉛直方向の距離、すなわち円周の半径方向の距離を、円筒構造物100の内部の各構成における「高さ」と称する。さらに、円筒の軸芯Cに沿った方向(軸芯方向)の距離を「軸芯方向の長さ」と称する。また、別途断らない限り、コンクリートが投入されて自由落下する重力方向についても「高さ」と称する。
【0012】
外径部1は、本実施形態に係る円筒構造物100の円周方向の構造体(円筒)である。外径部1の直径、厚み、及び軸芯方向の長さは、数十cm~数百mと、用途に応じて任意である。より具体的には、例えば、直径は1~数百m、厚みは直径に対して0.01~0.5の比率、軸芯方向の長さは後述する縦向きの円筒部材として製造する場合は2~20m、一体的な長円筒として製造する場合は数十~数百mであってもよい。
【0013】
外径部1の両端部には、外径が外径部1の内径より小さい連結部2が形成されている。
【0014】
連結部2の形成された内周側には、縦リブ3が、この例では円周が6等分された内周面に、その円周方向に連続して突設させて形成されている。この縦リブ3の軸芯方向の位置及び数は、構造解析等により、耐圧力を高められる最適な位置及び数に設定して設けられていてもよい。より具体的には、縦リブ3の数は、例えば、4~30本とすることが可能である。各縦リブ3の高さは、例えば、本実施形態においては縦リブ3以外の箇所の厚さの50%~85%程度の高さであってもよい。
【0015】
一方、連結部2の縦リブ3以外の箇所には、複数の連結孔4が形成されている。この連結孔4は、円筒構造物100同士を連結するためのPC鋼棒又はボルトで接合するための孔である。
【0016】
ここで、本実施形態に係る連結部2の接合面(打設面)は、数mm以下にまで研磨機等で平滑化されることが好適である。この接合面の研磨では、繊維が研磨用の刃で押され、端面が欠けにくいように、研磨圧や研磨用の刃の速度や粗さ等を調整して行うことが好適である。この研磨により平滑化されることで、円筒構造物100同士を連結する接合面は、エポキシ樹脂系接着剤を塗布し接合することが可能となる。この上で、PC鋼棒によるプレストレスを導入してもよい。
なお、円筒構造物100は、鉄筋を備えなくてもよい。
【0017】
〔円筒構造物100(円筒部材)の製造方法〕
次に、図3図4を参照して、本実施形態に係る円筒構造物100の具体的な製造方法について説明する。
まず、本実施形態に係る円筒構造物100を、重力方向に対して軸芯が鉛直(縦向き)の円筒部材として製造する縦打ちの製造方法について説明する。
本実施形態に係る円筒構造物100の製造方法は、繊維補強コンクリートを調製し、繊維補強コンクリートの繊維の配向性を制御して、円筒形に打設することを特徴とする。
具体的には、繊維補強コンクリートを調製した上で、円筒構造物100の外型枠12a及び内型枠12bで囲まれる空隙に対して、トレミー管11を用いて一箇所又は複数個所から打設することで、配向性(繊維の方向性)が制御され、断面内に均一な品質を持つ円筒構造物の製造が可能となる。この配向性は、例えば、円周の回転方向であってもよい。
【0018】
ここで、本実施形態に係る円筒構造物100の製造方法として、円筒構造物100の外径部1(円筒)の縦リブ3を含まない厚みが300mm未満の場合は、トレミー管11を用いて打設することが可能である。
【0019】
この際、繊維補強コンクリートは横方向の可動性が2m以上あるため、当該可動性に基づいた個所から、トレミー管11により打設を行ってもよい。この打設は、トレミー管11を回転させながら行うことが可能である。
【0020】
図3により、このトレミー管11を回転させて打設する製造装置200の具体例について説明する。図3(a)は平面図、図3(b)は側断面図である。
この例では、円周の軸芯Cを中心として回転台13を配置して台上にコンクリートホッパーであるホッパー10を載置し、繊維補強コンクリートを投入する。そして、トレミー管11を回転させながら、外型枠12aと内型枠12bとの間に繊維補強コンクリートを打設する。なお、図3の例では、矢印で示すように時計回りに回転させているものの、反時計回りでもよい。
【0021】
ここで、図3では、三箇所からトレミー管11を用いて打設する例を示している。しかしながら、例えば、外径部1の直径が15mの場合、15×π/4mとすると、12ヶ所から繊維補強コンクリートを打設すればよい。コンクリート標準示方書(土木学会)では、コンクリートの打込みに対して型枠内での横移動を禁じているものの、繊維補強コンクリートは可動性に富むため、このような打設が可能となる。
【0022】
また、図4の製造装置210のように、自走式のホッパー10を移動させながら、繊維補強コンクリートを打設することも可能である。図4(a)は平面図、図4(b)は側断面図である。
この例では、図示しない円周状のレール等に配置された自走台14を配置して、上部にホッパー10を固定し、繊維補強コンクリートを投入する。そして、自走台14をレール上で回転移動させて、トレミー管11から外型枠12aと内型枠12bとの間に繊維補強コンクリートを打設することが可能である。なお、図4の例でも、矢印で示すように時計回りに回転させているものの、反時計回りでもよい。
【0023】
一方、本実施形態に係る円筒構造物100の製造方法として、外径部1の厚みが300mm以上の場合は、ホッパー10からの自由落下により行ってもよい。
すなわち、円筒の縦リブ3を含まない外径部1の厚みが300mmを超えるような場合は、ホッパー10からの自由落下による投入も可能となる。このため、トレミー管11を用いなくてもよい。
【0024】
ここで、自由落下により打設を行う場合、自由落下高さ(落下高差)が1.5~3mであってもよい。
具体的には、コンクリート標準示方書(土木学会)では、コンクリートの自由落下高さは1.5m以下を標準としている。これはコンクリートの分離を抑制するためである。しかし、繊維補強コンクリートに用いるコンクリートでは、著しく分離抵抗性が高いため、この落下高さを超えても容易に分離はしない。このため、本実施形態に係る円筒構造物100の製造方法として、落下高さが1.5mより高く、3m以下の範囲とであってもよい。
【0025】
〔円筒構造物100(長円筒)の製造方法〕
次に、本実施形態に係る円筒構造物100を、重力方向に対して軸芯が水平(横向き)の長円筒として一体的に製造する横打ちの製造方法について説明する。
この場合、上述の円筒部材の円筒構造物100のように連結部2を備えて円筒部材同士を接合するのではなく、軸芯方向長さが数十~数百m単位で一体成形することも可能である。
【0026】
この場合、直径が大きい円筒構造物の打設を円筒の上部(天端)から行うと、落下高さが3mを超える可能性がある。たとえば、直径が15mであれば、上部からホッパー10で投入すると落下高さが10mを超える。この場合、粘性に優れた繊維補強コンクリートであっても、5mを超えるような自由落下高さでは、材料分離が懸念される。
このため、直径が大きい円筒構造物100の場合、外型枠12aの側面に打設用の注入孔を設けて繊維補強コンクリートを投入するように構成することが好適である。
【0027】
図5に、このようにして、横打ち用で打設する例を示す。図5(a)は正面断面図、図5(b)は外型枠12aの側面図である。この例では、円筒構造物100用の外型枠12aの側面に、打設用の注入孔と、これを囲む部材を含む投入部15-1が設けられ、複数層に分けて打設する。
具体的には、ホッパー10から、各投入部15-1に対して、調整された繊維補強コンクリートを投入して打設する。この場合、各投入部15-1の落下高さは5m以下、より好ましくは3m以下となるようにすることで、自由落下高さを小さくできるため材料分離が発生しなくなる。なお、図示しないものの、円筒の上部にも注入孔が設けられていてもよい。また、ホッパー10から直接打設するのではなく、下記の図6で示すようなポンプ16を用いて、上部からポンプ圧送してもよい。
【0028】
図6は、別の方式の横打ちとして、側面又は下部からポンプ16で打設する例を示す。図6(a)は正面断面図、図6(b)は外型枠12aの側面図である。この例では、円筒構造物100用の外型枠12aの側面に、打設用の注入孔とこれに挿通された楕円形のパイプ等の投入部15-2を設けて、複数層に分けてポンプ16の圧送により打設する。この場合、打ち上げとなるので、材料分離が発生することはなくなる。
【0029】
上述の図5及び図6の例のいずれも、直径が10mを超えるような円筒構造物100を横打ちで製造する場合、内型枠12bは空気で膨らませるバルーン方式であってもよい。この場合、内型枠12bは、例えば、ゴムや塩化ビニール樹脂製のシートに、ガラス繊維、ナイロン、ビニロン繊維等を補強材として加えたものであってもよい。また、このシートは、離型性を高める加工がされていてもよい。この上で、内型枠12bを、空気圧で形状保持し、繊維補強コンクリートの硬化後に空気を抜いて脱型することが可能である。
【0030】
ここで、内型枠12bを空気圧で保持する場合、例えば、長さ1m辺り30トン程度の打設時のコンクリート圧による浮力を抑える必要がある。このため、外型枠12aと内型枠12bとの間に、別途、打設時のみ用いる保持用の構造物等を形成させておいてもよい。
このように構成することで、内型枠12bの設置と除去が容易となる。加えて、図1で示したような縦リブ3も容易に形成可能となる。
【0031】
なお、円筒構造物100の直径が10m以下の場合、遠心成形を用いることも可能である。すなわち、本実施形態に係る円筒構造物100の製造方法として、円筒構造物自体を回転させながら行うように構成することも可能である。この場合、外型枠12a内に繊維補強コンクリートを打設して、遠心力成形を行うため、外型枠12aが回転可能に構成されてもよい。さらに、この場合、調製された繊維補強コンクリートを、コンクリート打設筒を軸心方向に移動させて外径部1内に充填する。または、別途、外部に注入孔を設けて、充填してもよい。
これにより、内型枠12bが必要ないほどの遠心力をかけ、均一な厚さの円筒構造物を遠心成型することが可能である。このように製造することで、繊維の方向を揃え(配向させ)、耐圧力性能を高めて、高性能な塩等構造物を製造することが可能となる。さらに、この形成された円筒構造物の円周内部に、別途、縦リブ3を形成してもよい。
【0032】
加えて、上述の各例のように、円筒構造物の軸芯方向の長さが長い長円筒の円筒構造物100は、連結部2が形成されていなくてもよい。このため、外径部1の円周面を研磨しなくてもよい。すなわち、外径部1の円周面が、接合面とならなくてもよい。これにより、研磨により繊維が刃で押されて端面が欠けることがなくなる。
【0033】
また、本実施形態の円形構造物は、成形後に蒸気養生されてもよい。この場合、対象とする製品や配合条件などによって、前置時間、上昇温度(昇温)、最高温度、保持時間、除冷方法等の蒸気養生条件を調整することが好適である。
【0034】
(コンクリートの組成)
次に、本実施形態に係る円筒構造物100のコンクリート材料について説明する。
具体的には、円筒構造物100は、繊維補強コンクリートを含むコンクリート材料を使用可能である。本実施形態に係るコンクリート材料は、例えば、結合材、繊維、高性能減水剤を含んで構成される。さらに、このコンクリート材料は、高性能収縮低減剤を含んでいてもよい。
【0035】
このうち、本実施形態に係る結合材としては、例えば、分離抵抗性の大きなUFCのプレミックスを用いることが可能である。
このうち、UFCのプレミックスは、特許文献1や土木学会の「超高強度繊維補強コンクリートの設計・施工指針(案)」に記載された配合比のものを用いることが可能である。このプレミックスは、例えば、太平洋セメント株式会社製の「ダクタル(登録商標)フルプレミックス」等を用いることが可能である。
【0036】
また、本実施形態に係る繊維は、無機繊維及び有機繊維のいずれも用いることが可能である。無機繊維としては、鋼繊維、銅繊維等の金属繊維を用いることが可能である。一方、有機繊維として、例えば、ビニロン短繊維、ポリプロピレン短繊維を用いることが好適である。または、繊維として、アクリル繊維、炭素繊維等も用いることが可能である。
これらの繊維が混入されることで、コンクリートの耐圧力を高めることが可能である。特に、本実施形態においては、この繊維の方向を打設時に揃えられるように、適切な長さのものが混和される。本実施形態における繊維補強コンクリートとして用いる場合、繊維の重量%は、上述のプレミックスに設定された割合で混入されてもよい。
【0037】
本実施形態に係る高性能減水剤は、単位水量を減少させる、又は単位水量に影響することなくスランプを大幅に増加させる化学混和剤である。本実施形態の減水剤は、例えば、繊維補強コンクリートのプレミックスに応じた専用のものを用いることが好適である。
【0038】
さらに、本実施形態に係るコンクリートは、セメントリッチなので自己収縮が大きくなるため、ひび割れ防止のために、高性能収縮低減剤を含ませてもよい。
この高性能収縮低減剤としては、例えば、難溶性の高級アルコールアルキレンオキシド付加物、又は易溶性の低級アルコールアルキレンオキシド付加物等を用いることが可能である。このうち、高級アルコールアルキレンオキシド付加物を、適量、用いることが好適である。この高級アルコールアルキレンオキシド付加物としては、例えば、太平洋セメント株式会社製の「テトラガードAS21(高級アルコール系)」を用いることが可能である。
このような高性能収縮低減剤を用いることで、特に、薄肉部材において脱型時のひび割れを抑制し、ひび割れ幅を小さくすることが可能となる。
【0039】
本実施形態の繊維補強コンクリートに用いられる水は、特に制限されず、水道水であってもよい。本実施形態に係る水のpH等も任意である。
【0040】
次に、これらの各コンクリート材料を用いたコンクリートの組成について説明する。
本実施形態係る繊維補強コンクリートに用いるコンクリートは、水(W)結合材(B)比(以下、「W/B」という。)が10%~20%の範囲とすることが好適である。ここで、本実施形態に係るW/Bは、強度と流動性の要求性能を満足する範囲で、減少させたり増加させたりすることが可能である。また、W/Bの単位水量は200kg/m3を標準としてもよい。
【0041】
また、本実施形態に係るコンクリートの高性能減水剤の使用量は、結合材に対して1%~2%の範囲とすることが好適である。具体的には、この高性能減水剤の結合剤に対する比率は、JIS A 6204に準拠していてもよい。この高性能減水剤の使用量は、目標フローに応じて、増減させることが好適である。高性能減水剤は、標準で1.3%程度の値とすることが最も好適である。
【0042】
また、本実施形態に係るコンクリートのフロー値は、240~320mmの範囲とすることが好適である。このフロー値は、重要な品質指標として設定されてもよい。加えて、このフロー値も、JIS R 5201に準拠していてもよい。この場合、240mm以下だと流動速度が小さく打込みに時間がかかりすぎるため好ましくない。逆に、320mm以上だと、粘性が低すぎて繊維の沈降が生じるため好ましくない。
【0043】
このような構成の繊維補強コンクリートを、上述のように縦打ち又は横打ちで打設することで、円筒構造物100の繊維補強コンクリート内の繊維が円周方向に配向されるため、円周に沿った鉄筋が必要なくなる。
これは、繊維補強コンクリートの流動性が高いため、投入された繊維補強コンクリートが重力によって直下に溜まった後、水平方向に沿って流れるためである。この流れに際して、繊維が流れ方向に配向する割合が高まる。このため、後述する実施例に示すように、繊維が円筒構造物100の円周方向に配向することになる。これによって円筒構造物100の外径部1の強度を高めることができる。なお、図6の例においても、投入部15-2の位置と間隔を調整することで、打設時に繊維補強コンクリートの流れの向きが円筒状に沿って流れるため、同様の繊維の配向とすることが可能である。
【0044】
なお、本実施形態に係るコンクリートの空気量は、AE(Air Entraining)剤等の空気量調整剤により調整可能である。このAE剤の例として、陰イオン系、陽イオン系、非イオン系、及び両性系の各種界面活性剤が挙げられる。また、この陰イオン系の界面活性剤の例として、樹脂系、アルキルベンゼンスルホン酸系、高級アルコールエステル系等の界面活性剤が挙げられる。なお、AE剤と減水剤との両方の性質をもつ、AE減水剤を用いることも可能である。
【0045】
また、本実施形態に係るコンクリートにおいては、他にも、流動化剤、遅延剤、防水混和剤、防湿混和剤、発泡剤、増粘剤、防凍剤、着色剤、ワーカビリティー増進剤、防しょう剤、消泡剤、凝結調整剤、収縮低減剤、セメント急硬材、高分子エマルション等を適宜配合することが可能である。さらに、ゼオライト、シリカ質微粉末、炭酸カルシウム、ベントナイト等の粘土鉱物、石膏、ケイ酸カルシウム等、コンクリート材料に一般的な物質を、適宜配合してもよい。これらの配合により、上述の繊維補強コンクリートの性能を向上させることが可能となってもよい。
【0046】
以上のように構成することで、繊維補強コンクリートによる大型の円筒構造物の製造方法を提供することができる。
本実施形態に係る円筒構造物の製造方法により製造された円筒構造物100等は、鉄筋がなく、繊維補強コンクリートの水等の浸透性の低さから、耐久性が特に高くなる。また、鉄筋がないため、製造効率に優れ、従来型の特殊コンクリートの円筒構造物よりもコストを低くすることが可能となる。さらに、直径の大きい円筒構造物100を部材同士で接着し、PC鋼棒等で連結することで、従来にない大型の円筒構造体を製造することが可能となる。この円筒構造体は、各種建造物、道管、PCウェル工法、海上風力のタワー等の円筒構造で耐久性、コストパフォーマンスが必要なものに適用可能である。
【0047】
なお、上述の実施形態においては、円筒構造物100の円周面には何も存在しないように記載した。しかしながら、円周面に、外径部1の運搬及び推進施工時のグラウトを注入する際に用いられる注入孔を設けてもよい。
また、円筒構造物100は、鉄筋を用いず円周方向のリブもないように記載したものの、これらを含んでいてもよい。この場合、鉄筋の代わりに、異形棒鋼、縞鋼板、エキスパンドメタル、及びメッシュ筋等を用いてもよい。さらに、縦リブ3についてもなくてもよい。
これらの組み合わせは、コスト、耐圧力性能、及び耐腐食性能等の観点から適宜選択可能である。
【0048】
以下で、本実施形態に係る円筒構造物の繊維の方向性に関する実験について、実施例としてさらに具体的に説明する。しかしながら、この実施例は一例にすぎず、これに限定されるものではない。
【実施例0049】
本実施例では、上述した実施形態で示す繊維の方向性(配向性)について確認する打設実験を行い、繊維の配列を撮影したX線CT画像を撮像した結果について説明する。
【0050】
(試験体)
図7により、本実施例の試験体の製造について説明する。本実施例では、図1等に示された形状ではなく、横方向流動性確認用の薄い矩形体形状の型枠であるケース12c(幅方向1800mm、厚さ方向70mm、高さ方向900mm)を製造して用いた。このケース12cは、外型枠12a及び内型枠12bのように円筒の円周にあたる曲率はないものの、薄さにおいてこれらを近似する。また、ケース12c内には、内径26mmのスパイラルシース17が、高さ方向の鉛直方向に沿って10本、それぞれ並行に配置された。
【0051】
試験体の打設については、この矩形体形状のケース12cの空洞中に、ホッパー10及びトレミー管11(45mmΦ)をケース12c型枠の左端に差し込み、そこから右方向に流動させるようにして、上述の組成の繊維補強コンクリートを投入した。繊維としては、鋼繊維の金属繊維を用いた。本実施例では、高さ方向の900mmを4段階に分けて繊維補強コンクリートを投入し、硬化させて試験体とした。
【0052】
この繊維の配向性の定義、評価方法については、例えば、佐々木一成、野村敏雄、「短繊維補強コンクリートの構造性能推定に関する研究」、大林組技術研究所報、No.81、p1、(2017年)に記載されている方法で行った。
【0053】
(結果)
このようにして製造され、硬化した後の試験体について、250mmの高さ(上述の4段階における1段目)までの幅方向の中央付近において、コア18(試験片)を採取し、X線CT画像で鋼繊維の配列(配向)を確認した。
【0054】
図8は、図7のケース12cの下部にあたる方向から、コア18の金属繊維をX線CT画像として観察した結果である。すなわち、繊維補強コンクリートが打設時に幅方向に流動して固化した状態を下から見たものである。繊維が幅方向(水平方向)に配列し、且つ密な状態となっていることが顕著に示されている。
【0055】
図9は、図7のケース12cの側面(左)にあたる方向から、コア18の金属繊維をX線CT画像として観察した結果である。すなわち、繊維補強コンクリートが流動している方向である幅方向について、図7のコア18を左から見た状態である。図9の繊維の配列においては、図8に比べて隙間が確認でき、流動方向に積層して鋼繊維が配列されている状態であることが確認できた。図9では、厚さ方向の両端側で金属繊維の密度が低くなっていることも、幅方向に金属繊維が配向していることを示す。これらの結果から、金属繊維が幅方向(水平方向)に配向しやすくなることが確認できた。
【0056】
この図8図9はコア18の取得時の解析の一例であり、他の箇所からコア(試験片)を取得しても、同様の配向性が確認できた。このため、このような繊維の配向性は、幅方向、高さ方向の全体にわたり生じていると考えられる。また、図9に示すように、この配向性は厚さ方向の両端側(ケース12cの壁面に近い側)で、特に顕著となった。
このため、外径部1が薄い場合において、配向性が特に顕著となる。このように繊維の配向が生じることで、円筒構造物100の強度が補強され得る。
【0057】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0058】
1 外径部
2 連結部
3 縦リブ
4 連結孔
10 ホッパー
11 トレミー管
12a 外型枠
12b 内型枠
12c ケース
13 回転台
14 自走台
15-1、15-2 投入部
16 ポンプ
17 スパイラルシース
18 コア
100 円筒構造物
200、210 製造装置
C 軸芯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9