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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146180
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】鉄骨梁
(51)【国際特許分類】
   E04C 3/06 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
E04C3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053241
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】安永 隼平
【テーマコード(参考)】
2E163
【Fターム(参考)】
2E163FA12
2E163FB02
2E163FB21
(57)【要約】
【課題】 鉄骨梁に発生する座屈モードを高次化させることにより、鉄骨梁が全塑性耐力に到達した後の歪硬化による耐力上昇を抑制しつつ、十分な塑性変形性能を確保可能な鉄骨梁を提供する。
【解決手段】 上フランジと、下フランジと、前記上フランジと前記下フランジとを連結するウェブとにより構成されたH形状の断面を有する鉄骨梁であって、前記上フランジおよび前記下フランジには、前記鉄骨梁の断面中心に対して点対称かつ前記鉄骨梁の梁幅方向に非対称となるように、切欠部が形成されている鉄骨梁。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上フランジと、下フランジと、前記上フランジと前記下フランジとを連結するウェブとにより構成されたH形状の断面を有する鉄骨梁であって、
前記上フランジおよび前記下フランジの各々には、前記鉄骨梁の断面中心に対して点対称かつ前記鉄骨梁の梁幅方向に非対称となるように、複数の切欠部が形成されている鉄骨梁。
【請求項2】
前記上フランジおよび前記下フランジの各々には、前記鉄骨梁の材軸方向に梁せいの30%以下の間隔をおいた3つ以上の地点に、前記切欠部が形成され、
前記3つ以上の地点のうち隣接する2つの地点で、前記上フランジおよび前記下フランジの各々に形成された前記切欠部は、前記鉄骨梁の幅方向に異なる位置に配置されている、請求項1に記載の鉄骨梁。
【請求項3】
前記切欠部の前記梁幅方向の最大幅が前記上フランジおよび前記下フランジの幅の25%以上であり、前記切欠部の前記梁軸方向の長さが前記上フランジおよび前記下フランジの各々に形成された前記切欠部の前記梁軸方向の間隔以下である、請求項1または2に記載の鉄骨梁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物等の構造物に用いられる鉄骨梁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物は、地震時に倒壊しないように、柱よりも梁が先行して塑性化するように設計されるのが一般的である。このため、建築物の梁は、地震による入力エネルギーを十分に吸収できる塑性変形性能を有する必要がある。
【0003】
図7に、鉄骨梁の曲げモーメント-変形角関係を模式的に示す。図7に点線で示すように、鉄骨梁では、局部座屈が発生すると耐力が急激に低下して、塑性変形性能を十分に確保できない。そこで、鉄骨梁の設計では、フランジおよびウェブの幅厚比を制限することにより局部座屈を防止して、塑性変形性能が十分に確保されるようにしている。
【0004】
フランジおよびウェブの幅厚比を制限して設計された鉄骨梁では、塑性変形性能が確保される一方で、図7に破線で示すように、鉄骨梁が全塑性耐力Mに到達した後も、材料降伏後の歪硬化により、耐力が上昇し続ける。このため、上述のように柱よりも梁が先行して塑性化するように建築物を設計するには、柱および柱梁接合部の耐力が、鉄骨梁の最大耐力Mmaxを上回るようにする必要がある。このため、鉄骨梁のフランジおよびウェブの幅厚比を制限するのに伴い、柱および柱梁接合部のサイズも大きくする必要が生じ、製作性および経済性が損なわれてしまう。
【0005】
また、鉄骨梁が全塑性耐力Mに到達した後、歪硬化による耐力上昇を抑制するために、降伏比の小さい鋼材を用いることも考えられる。しかし、このようにすると、鉄骨梁の材軸方向端部に形成される塑性化領域が狭まり、地震時に鉄骨梁が吸収する地震エネルギーの総量が低下してしまう。
【0006】
ここで、特許文献1および特許文献2には、それぞれ図8図9に示すように、鉄骨梁9A、9Bの端部のフランジ91に補強板92を接合し、さらに切欠部94、95を形成してなる柱梁接合構造が開示されている。特許文献2および特許文献3の鉄骨梁9A、9Bによれば、補強板92を接合した部位に切欠部94、95を形成することにより、鉄骨梁9A、9Bの耐力を低下させることなく、鉄骨梁9A、9Bの端部のフランジ91と柱2との溶接部の破断を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-207533号公報
【特許文献2】特開2004-353419号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】建築物の構造関係技術基準解説書編集委員会編、「2007年版 建築物の構造関係技術基準解説書」、全国官報販売協同組合、2007年8月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、発明者らは、鉄骨梁の塑性変形能力を確保しつつ、鉄骨梁が全塑性耐力に到達した後の歪硬化による耐力上昇を抑制するために、鉄骨梁に生じる座屈を利用することに着目した。
【0010】
地震力等の水平力が構造物に作用すると、鉄骨梁では、図10および図11にそれぞれ座屈波形Bとして示すように、曲げ座屈またはせん断座屈が生じる。鉄骨梁9では、全塑性耐力に到達した後、座屈が生じるまでは耐力が上昇し続け、座屈が発生すると耐力上昇が停止する。つまり、鉄骨梁が全塑性耐力に到達した後の耐力上昇を、座屈の発生により抑制できる。
【0011】
ただし、幅厚比の制限を緩和する方法により座屈を発生させると、上述のとおり、低次モードの局部座屈が発生し、図7に点線で示すように、鉄骨梁の耐力が急激に低下して、鉄骨梁に十分な塑性変形性能を確保できない。そこで、発明者らは、鉄骨梁に発生する座屈モードを高次化させることにより、全塑性耐力に到達した後の鉄骨梁の耐力上昇を抑制しつつ、塑性変形性能を確保する方法を着想し、鋭意検討を重ねた結果、本発明に係る鉄骨梁を開発するに至ったものである。
【0012】
これに対し、特許文献2および特許文献3の鉄骨梁9B、9Cでは、鉄骨梁の座屈モードを高次化させることにより鉄骨梁の局部座屈を抑制することは考慮されておらず、図10および図11に示したような低次の座屈モードが生じる恐れがある。
【0013】
上記課題に鑑み、本発明は、鉄骨梁に発生する座屈モードを高次化させることにより、鉄骨梁が全塑性耐力に到達した後の歪硬化による耐力上昇を抑制しつつ、十分な塑性変形性能を確保可能な鉄骨梁を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は以下の特徴を有する。
【0015】
[1] 上フランジと、下フランジと、前記上フランジと前記下フランジとを連結するウェブとにより構成されたH形状の断面を有する鉄骨梁であって、前記上フランジおよび前記下フランジには、前記鉄骨梁の断面中心に対して点対称かつ前記鉄骨梁の梁幅方向に非対称となるように、切欠部が形成されている鉄骨梁。
【0016】
[2] 前記上フランジおよび前記下フランジの各々には、前記鉄骨梁の材軸方向に梁せいの30%以下の間隔をおいた3つ以上の地点に、前記切欠部が形成され、前記3つ以上の地点のうち隣接する2つの地点で、前記上フランジおよび前記下フランジの各々に形成された前記切欠部は、前記鉄骨梁の幅方向に異なる位置に配置されている、[1]に記載の鉄骨梁。
【0017】
[3] 前記切欠部の前記梁幅方向の最大幅が前記上フランジおよび前記下フランジの幅の25%以上であり、前記切欠部の前記梁軸方向の長さが前記上フランジおよび前記下フランジの各々に形成された前記切欠部の前記梁軸方向の間隔以下である、[1]または[2]に記載の鉄骨梁。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る鉄骨梁によれば、上フランジおよび下フランジの各々に、鉄骨梁の断面中心に対して点対称かつ鉄骨梁の梁幅方向に非対称となるように、複数の切欠部が形成されていることにより、鉄骨梁に発生する座屈モードを高次化させつつ、座屈の生じる範囲を拡げることができる。
【0019】
具体的に説明すると、切欠部が鉄骨梁の断面中心に対して点対称に配置されていない場合には、地震力により鉄骨梁に正負交番に荷重が作用するとき、正方向荷重作用時の座屈モード(図2(c)の破線)と、負方向荷重作用時の座屈モード(図2(d)の破線)とが、鉄骨梁のウェブ面に対して同じ側に発生する。この結果、正方向荷重作用時の座屈により生じる残留歪みと、負方向荷重作用時の座屈により生じる残留歪みとが互いに干渉することとなり、鉄骨梁が全塑性耐力に到達した後の歪硬化による耐力上昇が生じやすい。
【0020】
これに対し、本発明に係る鉄骨梁では、切欠部が鉄骨梁の断面中心に対して点対称かつ鉄骨梁の梁幅方向に非対称に配置されていることにより、地震力により鉄骨梁に正負交番に荷重が作用するとき、正方向荷重作用時の座屈モード(図2(a)の破線)と、負方向荷重作用時の座屈モード(図2(b)の破線)とが、鉄骨梁のウェブ面に対して反対側に発生する。これにより、正方向荷重時の座屈によって生じる残留歪みと、負方向荷重作用時の座屈によって生じる残留歪みとが互いに干渉せず、鉄骨梁が全塑性耐力に到達した後の歪硬化による耐力上昇を抑制できる。この結果、鉄骨梁が全塑性耐力に到達した後の歪硬化による耐力上昇を抑制しつつ、鉄骨梁に十分な塑性変形性能を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1(a)は、本発明の鉄骨梁の一例を示す上面図であり、図1(b)~図1(d)はそれぞれ、図1(a)のIB-IB断面図、IC-IC断面図、ID-ID断面図であり、図1(e)および図1(f)は、図1(a)の鉄骨梁に生じる座屈波形を模式的に示す図である。
図2図2(a)および図2(b)は、本発明の鉄骨梁に生じる座屈モードを模式的に示す図であり、図2(c)および図2(d)は、比較例の鉄骨梁に生じる座屈モードを模式的に示す図である。
図3図3(a)は、本発明の鉄骨梁の一例を示す上面図であり、図3(b)は、図4(a)の鉄骨梁の全塑性モーメントおよび終局耐力時の曲げモーメントを模式的に示すグラフである。
図4図4は、本発明の鉄骨梁の他の一例を示す上面図である。
図5図5は、本発明の鉄骨梁のさらに他の一例を示す上面図である。
図6図6は、本発明の鉄骨梁のさらに他の一例を示す上面図である。
図7図7は、本発明および従来の鉄骨梁の曲げモーメント-変形角関係を模式的に示すグラフである。
図8図8は、特許文献1の鉄骨梁の上面図である。
図9図9は、特許文献2の鉄骨梁の上面図である。
図10図10は、従来の鉄骨梁に生じる曲げ座屈の例を示す側面図である。
図11図11は、従来の鉄骨梁に生じるせん断座屈の例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の鉄骨梁の実施形態について、詳細に説明する。
【0023】
図1(a)に、本発明の第1実施形態に係る鉄骨梁の上面図を示す。また、図1(b)~図1(d)に、図1(a)のIB-IB断面図、IC-IC断面図、ID-ID断面図をそれぞれ示す。
【0024】
図1(a)~図1(d)に示すように、本実施形態の鉄骨梁1Aは、上フランジ11と、下フランジ12と、上フランジ11と下フランジ12とを連結するウェブ13とにより構成されたH形状の断面を有するH形鋼からなる鉄骨梁である。図1(a)に示すように、鉄骨梁1Aの材軸方向端部の上フランジ11および下フランジ12は、鋼管からなる鉄骨柱2に設けられたダイアフラム21に溶接されている。また、鉄骨梁1Aの材軸方向端部のウェブ13は、鉄骨柱2の側面に溶接されるか、鉄骨柱1の側面に設けられたシアプレート(図示せず)に高力ボルト接合されている。
【0025】
そして、図1(a)~図1(d)に示すように、鉄骨梁1Aの材軸方向端部の塑性化領域には、上フランジ11および下フランジ12の各々に、それぞれ複数の切欠部14A、15Aが形成されている。具体的には、鉄骨梁1Aの材軸方向の3つの位置の各々において、上フランジ11および下フランジ12に、それぞれ切欠部14A、15Aが形成されている。そして、鉄骨梁1Aの材軸方向の3つの位置の各々において、上フランジ11および下フランジ12に形成される切欠部14A、15Aは、鉄骨梁1Aの断面中心Cに対して点対称かつ鉄骨梁1Aの梁幅方向Wに非対称となるように配置されている。
【0026】
図1(e)および図1(f)に、本実施形態の鉄骨梁1Aに逆対称曲げが作用したときに、鉄骨梁1Aに生じる座屈波形B1、B2を模式的に示す。鉄骨梁1Aには、地震力により正負交番に荷重が作用するので、図1(e)および図1(f)には、正方向荷重作用時の座屈波形B1、B2、負方向荷重作用時の座屈波形B1、B2を、それぞれ示している。図1(e)および図1(f)では、紙面に対して手前方向、紙面に対して奥方向に生じる座屈波形を区別し、それぞれB1、B2として表示している。
【0027】
図1(e)および図1(f)に示すように、鉄骨梁1Aの上フランジ11および下フランジ12の各々に、鉄骨梁1Aの断面中心Cに対して点対称かつ鉄骨梁1Aの梁幅方向Wに非対称となるように、複数の切欠部14A、15Bが形成されていることによって、切欠部14A、15Aが形成されていない場合(図10および図11参照)に比べて、鉄骨梁1Aに発生する座屈モードを高次化させつつ、座屈の生じる範囲を拡げることができる。
【0028】
具体的に説明すると、切欠部が鉄骨梁の断面中心Cに対して点対称に配置されていない場合には、地震力により鉄骨梁に正負交番に荷重が作用するとき、正方向荷重作用時の座屈モード(図2(c)の破線)と、負方向荷重作用時の座屈モード(図2(d)の破線)とが、鉄骨梁のウェブ面に対して同じ側に発生する。この結果、正方向荷重作用時の座屈により生じる残留歪みと、負方向荷重作用時の座屈により生じる残留歪みとが互いに干渉することとなり、鉄骨梁が全塑性耐力に到達した後の歪硬化による耐力上昇が生じやすい。
【0029】
これに対し、本実施形態の鉄骨梁1Aでは、切欠部14A、15Aが鉄骨梁1Aの断面中心Cに対して点対称かつ鉄骨梁1Aの梁幅方向Wに非対称に配置されていることにより、地震力により鉄骨梁に正負交番に荷重が作用するとき、正方向荷重作用時の座屈モード(図2(a)の破線)と、負方向荷重作用時の座屈モード(図2(b)の破線)とが、鉄骨梁1Aのウェブ面に対して反対側に発生する。これにより、正方向荷重時の座屈によって生じる残留歪みと、負方向荷重作用時の座屈によって生じる残留歪みとが互いに干渉せず、鉄骨梁1Aが全塑性耐力に到達した後の歪硬化による耐力上昇を抑制できる。この結果、図1(e)に示すように、鉄骨梁1Aにおいて座屈が生じる範囲が拡がり、鉄骨梁1Aが全塑性耐力に到達した後の耐力上昇を抑制しつつ、鉄骨梁1Aに十分な塑性変形性能を確保できる。
【0030】
図1(a)に示すように、本実施形態の鉄骨梁1Aの上フランジ11および下フランジ12の各々には、鉄骨梁1Aの材軸方向に梁せい1hの30%以下の間隔iをおいた3つの地点に、切欠部14A、15Aが形成されている。このようにすると、鉄骨梁1Aに発生する座屈モードをより確実に高次化でき、鉄骨梁1Aが全塑性耐力に到達した後の耐力上昇を抑制しつつ、十分な塑性変形性能を確保できる効果がより確実に得られるので好ましい。そして、鉄骨梁1Aの材軸方向に3つの地点のうち隣接する2つの地点で、上フランジ11および下フランジ12の各々に形成された切欠部14A、15Aは、鉄骨梁1Aの幅方向に異なる位置に配置されている。このようにすると、鉄骨梁1Aの梁幅方向Wの左右での耐力の差が小さくなり、鉄骨梁1Aの断面の偏心によるねじれの発生を抑制できるので好ましい。
【0031】
また、図1(a)に示すように、本実施形態の鉄骨梁1Aでは、切欠部14A、15Aの梁幅方向Wの最大幅14w、15wが、上フランジ11および下フランジ12の幅11w、12wの25%以上となるように、切欠部14A、15Aが形成されている。このようにすると、鉄骨梁1Aに発生する座屈モードをより確実に高次化でき、鉄骨梁1Aが全塑性耐力に到達した後の耐力上昇を抑制しつつ、十分な塑性変形性能を確保できる効果がより確実に得られるので好ましい。
【0032】
切欠部14A、15Aの梁軸方向の長さ14l、15lは、上フランジ11および下フランジ12の各々に形成された切欠部14A、15Aの梁軸方向の間隔iよりも長く形成されていても良い。ただし、切欠部14A、15Aの梁軸方向の長さ14l、15lは、上フランジ11および下フランジ12の各々に形成された切欠部14A、15Aの梁軸方向の間隔i以下とすることが好ましく、切欠部14A、15Aの梁軸方向の間隔iの90%以下とすることがさらに好ましい。このようにすると、梁軸方向に隣接して形成される切欠部14A、15Aが互いに干渉することなく、鉄骨梁1Aに発生する座屈モードをより確実に高次化できる。
【0033】
図3(a)および図3(b)に、本実施形態の鉄骨梁1Aの材軸方向各位置における全塑性モーメント、および鉄骨梁1Aの終局耐力時の曲げモーメント分布を模式的に示す。図3(b)に示すように、鉄骨梁1Aのうち切欠部14A、15Aが設けられている位置では、鉄骨梁1Aの全塑性モーメントが小さくなる。このため、切欠部14A、15Aの位置が鉄骨梁1Aの材軸方向端部に近すぎたり、切欠部14A、15Aの最大幅14w、15wが大きすぎたりすると、切欠部14A、15Aが設けられている位置で鉄骨梁1Aの全塑性モーメントが小さくなる影響を受けて、鉄骨梁1Aの終局耐力が低下してしまう恐れがある。そこで、切欠部14A、15Aが設けられている位置で鉄骨梁1Aの全塑性モーメントが小さくなっても、鉄骨梁1Aの終局耐力が低下しないように、切欠部14A、15Aの鉄骨梁1Aの材軸方向端部からの距離や、切欠部14A、15Aの最大幅14w、15wを調整することが好ましい。
【0034】
また、鉄骨梁1Aの上フランジ11、下フランジ12およびウェブ13の幅厚比は、非特許文献1に開示される幅厚比ランクFA相当とすることが好ましい。このようにすると、鉄骨梁に局部座屈が発生して耐力が急激に低下することを防止でき、鉄骨梁1Aの塑性変形性能を確実に確保できる。
【0035】
図4図6に、本発明の第2実施形態~第4実施形態に係る鉄骨梁1B~1Dの上面図を、それぞれ示す。
【0036】
図4図6に示すように、第2実施形態~第4実施形態の鉄骨梁1B~1Dでは、第1実施形態の鉄骨梁1Aに対して、切欠部の形状および配置が変更されている。
【0037】
具体的には、図4に示すように、第2実施形態の鉄骨梁1Bでは、上フランジ11および下フランジ12にそれぞれ、三角形状の切欠部14B、15Bが形成されている。ここで、切欠部14B、15Bの側面の入隅には、アール(図示せず)が設けられていると、切欠部14B、15B周辺の上フランジ11および下フランジ12での応力集中を緩和できるので好ましい。応力集中をさらに抑制する観点からは、第1実施形態の鉄骨梁1Aのように、切欠部14B、15Bの側面全体を曲線で形成するのが好ましい。
【0038】
また、図5に示すように、第3実施形態の鉄骨梁1Cでは、切欠部14C、15Cの材軸方向の長さが、第1実施形態の鉄骨梁1Aの切欠部14A、15Aよりも短く形成されている。鉄骨梁1Aに発生する座屈モードを高次化するのに必要な切欠部14C、15Cのサイズが確保されている範囲内で、本実施形態の鉄骨梁1Cのように、切欠部14C、15Cの材軸方向の長さを短く形成してもよい。
【0039】
また、図6に示すように、第4実施形態の鉄骨梁1Dでは、上フランジ11および下フランジ12にそれぞれ、矩形状の切欠部14D、15Dが形成されている。ここで、切欠部14D、15Dの側面の入隅には、アール(図示せず)が設けられていると、切欠部14D、15D周辺の上フランジ11および下フランジ12での応力集中を緩和できるので好ましい。応力集中をさらに抑制する観点からは、切欠部の側面を緩やかに連続する曲面または平面によって形成することが好ましい。
【0040】
なお、上記各実施形態では、鉄骨梁がH形鋼から形成されている例について説明したが、ビルトH等の溶接組立材であっても、上フランジと、下フランジと、前記上フランジと前記下フランジとを連結するウェブとにより構成されたH形状の断面を有する鉄骨梁でる限り、本発明を同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1A~1D、9A、9B 鉄骨梁
1h 梁せい
2 鉄骨柱
11 上フランジ
12 下フランジ
11w 上フランジの幅
12w 下フランジの幅
13 ウェブ
14A~14D、15A~15D 切欠部
14w、15w 切欠部の最大幅
14l、15l、切欠部の梁軸方向の長さ
i 切欠部の間隔
21 ダイアフラム
91 フランジ
92 補強板
94、95 切欠部
B1 座屈波形(紙面に対して手前方向)
B2 座屈波形(紙面に対して奥方向)
C 鉄骨梁の断面中心
W 梁幅方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11