(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146181
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】三相三脚巻鉄心およびこれを用いた三相三脚巻鉄心変圧器
(51)【国際特許分類】
H01F 27/245 20060101AFI20231004BHJP
H01F 30/12 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
H01F27/245 155
H01F30/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053242
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】清水 建樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 博貴
(72)【発明者】
【氏名】大村 健
(57)【要約】
【課題】変圧器鉄損の低減効果及び騒音低減効果に優れる三相三脚巻鉄心を提供すること。
【解決手段】外側鉄心と、前記外側鉄心の内側に配設された互いに隣接する2つの内側鉄心からなる三相三脚巻鉄心であって、前記外側鉄心および前記2つの内側鉄心のそれぞれが、800A/mにおける磁束密度が異なる少なくとも2種の方向性電磁鋼板で構成されており、前記外側鉄心の内側部分と前記2つの内側鉄心の外側部分が、前記外側鉄心の外側部分と前記2つの内側鉄心の内側部分を構成する方向性電磁鋼板よりも、800A/mにおける磁束密度が低い方向性電磁鋼板で構成された、三相三脚巻鉄心。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側鉄心と、前記外側鉄心の内側に配設された互いに隣接する2つの内側鉄心からなる三相三脚巻鉄心であって、
前記外側鉄心および前記2つの内側鉄心のそれぞれが、800A/mにおける磁束密度が異なる少なくとも2種の方向性電磁鋼板で構成されており、
前記外側鉄心の内側部分と前記2つの内側鉄心の外側部分が、前記外側鉄心の外側部分と前記2つの内側鉄心の内側部分を構成する方向性電磁鋼板よりも、800A/mにおける磁束密度が低い方向性電磁鋼板で構成された、三相三脚巻鉄心。
【請求項2】
前記外側鉄心の内側部分と前記2つの内側鉄心の外側部分を構成する方向性電磁鋼板を方向性電磁鋼板B、
前記外側鉄心の外側部分と前記2つの内側鉄心の内側部分を構成する方向性電磁鋼板を方向性電磁鋼板Aとしたとき、
前記方向性電磁鋼板Aの800A/mにおける磁束密度が1.88T以上であり、
前記方向性電磁鋼板Bの800A/mにおける磁束密度が1.83T以上で、且つ、前記方向性電磁鋼板Aの磁束密度より低い、請求項1に記載の三相三脚巻鉄心。
【請求項3】
側面視において、
前記外側鉄心の外側部分及び前記2つの内側鉄心の内側部分の厚さをt、
前記外側鉄心の内側部分及び前記2つの内側鉄心の外側部分の厚さをsとしたとき、
t/s≧1.0を満たす、請求項1または2に記載の三相三脚巻鉄心。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の三相三脚巻鉄心を用いた三相三脚巻鉄心変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相三脚巻鉄心に関し、特に、方向性電磁鋼板を用いて製造される変圧器の三相三脚巻鉄心に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄の磁化容易軸である<001>方位が鋼板の圧延方向に高度にそろった結晶組織を有する方向性電磁鋼板は、特に電力用変圧器の鉄心材料として用いられている。変圧器は、その鉄心構造から巻鉄心変圧器と積鉄心変圧器に大別される。巻鉄心変圧器とは、鋼板を巻き重ねて鉄心を形成するものである。一方、積鉄心変圧器とは、所定の形状に切断した鋼板を積層することで鉄心を形成するものである。変圧器鉄心として要求される項目は種々あるが、特に重要なことは鉄損が小さいことと、騒音が小さいことである。
【0003】
変圧器鉄損を小さくするためには、一般には、鉄心素材である方向性電磁鋼板の鉄損(素材鉄損)を小さくすればよいと考えられる。しかし、変圧器鉄心、特に電磁鋼板を三脚及び五脚有する三相励磁の巻鉄心変圧器では、素材鉄損と比べて変圧器における鉄損が大きくなることが知られている。変圧器の鉄心として電磁鋼板が使用された場合の鉄損値(変圧器鉄損)を、エプスタイン試験で得られる鉄心素材の鉄損値で除した値を、一般に、ビルディングファクター(BF)と呼ぶ。つまり、三脚または五脚を有する三相励磁の巻鉄心変圧器では、BFが1を超えるのが一般的である。
【0004】
一般的な知見として、巻鉄心変圧器における変圧器鉄損が素材鉄損に比べて増加する要因として、主に磁路長の違いにより生じる内側鉄心への磁束の集中が指摘されている。
図1に、三脚巻鉄心変圧器を三相励磁し、左の脚と中央の脚のみが励磁された瞬間の磁束の流れの模式図を示す。
図1に示されるように、三相三脚巻鉄心変圧器は、外側鉄心2と、前記外側鉄心2の内側に配設された互いに隣接する2つの内側鉄心1からなる三相三脚巻鉄心を用いて構成される。
図1に示されるように、内側鉄心1と外側鉄心2が、ともに励磁されている時、外側鉄心2に比べて内側鉄心1の磁路が短いため、内側鉄心1に磁束が集中する。励磁磁束密度が比較的大きくなると、内側鉄心1だけでは励磁を担えなくなり、外側鉄心2にも多くの磁束が通るようになり、磁束の集中は緩和する。但し、
図2に示すように、外側鉄心2を通る磁束は、励磁されていない右の脚に向けて流れ、励磁されている中央の脚に戻ろうとする際に、内側鉄心1に磁束が渡るようになり、内側鉄心1と外側鉄心2の間に、層間の磁束渡り3が生じるようになる。面直方向に磁化が生じることにより、面内渦電流損の増加が生じることとなり、変圧器鉄損が増加する。
【0005】
変圧器の騒音の由来として、一般的には電磁鋼板を磁化した際の歪みである磁歪、鉄心の固有振動、磁化された鋼板による電磁振動が挙げられる。このうち、磁化された鋼板による電磁振動とは、交流励磁の場合、時間変化とともに磁化が変化し、積層された鋼板間の吸引力も時間とともに変化することで発生する微小振動のことである。内側鉄心1と外側鉄心2の間に生じる層間の磁束渡り3のような面内方向の磁化によっても鋼板間の吸引力が変化し、電磁振動が生じ、変圧器の騒音の原因の一つとなっている。
【0006】
こういった変圧器鉄損、変圧器騒音の増加要因に対する定性的な理解をもとに、変圧器鉄損、変圧器騒音を低減させる方策として例えば以下のような提案がされている。
【0007】
特許文献1では、磁路長が短く磁気抵抗が小さい内周側に、外周側よりも磁気特性の劣る電磁鋼板を、磁路長が長く磁気抵抗が大きい外周側には、内周側よりも磁気特性の優れた電磁鋼板を配置することで、変圧器鉄損が効果的に低減することが開示されている。特許文献2では、方向性けい素鋼板を巻回した巻鉄心を内側部分に配置し、この巻鉄心の外側に該方向性けい素鋼板より低磁歪の磁性材料を巻回して組合せ鉄心とすることで変圧器騒音を効果的に低減できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5286292号公報
【特許文献2】特開平3-268311号公報
【特許文献3】国際公開第2019/151399号
【特許文献4】特許第5750820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1、2に開示されているように、内側鉄心へ磁束が集中することを利用し、内側鉄心と外側鉄心に異なる材料を適用することで、効率的に変圧器特性を改善することができる。しかし、特許文献3に開示されているように、励磁磁束密度が大きくなると、鉄心の外側部分にも磁束が流れるようになり磁束の集中は緩和するため、変圧器特性の改善効果は小さくなる。また、この時に、外側鉄心を通る磁束は、磁路が短く損失が少ない内側鉄心へ渡るようになり、この層間の磁束渡りによって渡り部の鉄損のみならず、鋼板間の電磁振動により騒音も増加し、変圧器特性が著しく劣化する。
【0010】
本発明は、変圧器鉄損の低減効果及び騒音低減効果に優れる三相三脚巻鉄心を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
三相三脚巻鉄心を用いた三相三脚巻鉄心変圧器では、外側鉄心から内側鉄心への磁束渡りを抑えることで、変圧器鉄損と変圧器騒音を抑えることができる可能性があり、その方法について検討した。
【0012】
本発明者らは、磁束渡りは、三相三脚巻鉄心変圧器の外側鉄心の内側部分から内側鉄心の外側部分の間での磁束の渡りであるので、これらの部分に流れる磁束量を減らすことで、磁束渡りが抑えることができるのではないかと考えた。つまり、渡ることができる磁束を減らすことを試みた。そのために、三相三脚巻鉄心を、800A/mにおける磁束密度が異なる少なくとも2種の方向性電磁鋼板で構成した。具体的には、外側鉄心と、前記外側鉄心の内側に配設された互いに隣接する2つの内側鉄心からなる三相三脚巻鉄心において、外側鉄心の内側(内周側)部分と2つの内側鉄心の外側(外周側)部分を、前記外側鉄心の外側(外周側)部分と前記2つの内側鉄心の内側(内周側)部分を構成する方向性電磁鋼板よりも、800A/mにおける磁束密度が低い方向性電磁鋼板で構成した三相三脚巻鉄心を作製し、磁束渡り及び、変圧器鉄損、変圧器騒音について調査した。
【0013】
鋼帯幅150mmの電磁鋼板を用いて、
図3に示す巻鉄心形状にて三相三脚巻鉄心を作製した。具体的には、
図3に示す三相三脚巻鉄心は、外側鉄心2の外側部分と内側部分が、それぞれ800A/mにおける磁束密度(磁化力800A/mにおける磁束密度B8)が異なる方向性電磁鋼板で構成されており、内側鉄心1の外側部分と内側部分が、それぞれ800A/mにおける磁束密度が異なる方向性電磁鋼板で構成されている。ここでは、外側鉄心2の外側部分と内側鉄心1の内側部分(
図3に示す三相三脚巻鉄心においてハッチングされた領域)を構成する鉄心素材を「鉄心外側材」ともいい、外側鉄心2の内側部分と内側鉄心1の外側部分(
図3に示す三相三脚巻鉄心においてハッチングされていない領域)を構成する鉄心素材を「鉄心内側材」ともいう。
図3に示す三相三脚巻鉄心では、鉄心外側材として、磁化力800A/mにおける磁束密度B8が比較的高い0.23mm厚の方向性電磁鋼板を用い、鉄心内側材として、磁化力800A/mにおける磁束密度B8が前記鉄心外側材よりも低い0.23mm厚の方向性電磁鋼板を用いた。さらに、鉄心外側材で構成される領域4(外側鉄心の外側部分及び内側鉄心の内側部分)の厚さtと、鉄心内側材で構成される領域5(外側鉄心の内側部分及び内側鉄心の外側部分)の厚さsを変更して、三相三脚巻鉄心変圧器を作製し、50Hz、1.7Tの三相励磁を行い鉄損測定、騒音測定を行った。
【0014】
鉄心素材である方向性電磁鋼板の磁束密度B8については、鉄心に加工する前に切り出し、JIS C 2550-1:2011に基づき、励磁周波数50Hzでのエプスタイン試験にて測定することで求めた。鉄心外側材で構成される領域4の厚さ(鉄心外側材の積層方向厚さ)、すなわち、三相三脚巻鉄心を側面視した場合に、外側鉄心の外側部分及び内側鉄心の内側部分の厚さtは、前記領域を構成する最も外側と最も内側の方向性電磁鋼板の鋼板間の長さをノギスで測定することで得た。同様に、鉄心内側材で構成される領域5の厚さ(鉄心内側材の積層方向厚さ)、すなわち、三相三脚巻鉄心を側面視した場合に、外側鉄心の内側部分及び内側鉄心の外側部分の厚さsは、前記領域を構成する最も外側と最も内側の方向性電磁鋼板の鋼板間の長さをノギスで測定することで得た。
【0015】
また、
図3において符号6で示される領域は層間渡り部を示す。層間渡り部6は、以下のように定義した。側面視において、内側鉄心の幅方向の中心を層間渡り部6の幅方向の中心線とした。そして、層間渡り部6の幅(横方向の長さ)fは、三相三脚巻鉄心全体の横方向の長さcの20%となるように定義した。層間渡り部6の厚さgは、脚部と脚部の間の内側鉄心と外側鉄心の接する線から、上下方向に鉄心外側材の領域4と鉄心内側材の領域5の厚さのうち薄い方の厚さの75%の長さだけ伸ばした厚さと定義した。鉄損測定と同時に、特許文献4に開示されているように、赤外線カメラにより励磁中の鉄心端面のうち、層間渡り部6の平均温度上昇量を測定し、層間渡り部6の局所鉄損を測定した。
【0016】
変圧器騒音については、作製したそれぞれの巻鉄心変圧器に対し、励磁中に、鉄心高さdの1/2の位置で、巻鉄心変圧器の表面から30cmの距離で、巻鉄心変圧器を囲むようにした8点の位置で測定し、その平均値を変圧器騒音とした。
【0017】
変圧器鉄損は、作製したそれぞれの三相三脚巻鉄心の各脚に1次側、2次側共に50ターンの巻き線を施し、励磁最大磁束密度が1.7T、周波数50Hzの条件で三相励磁を行い、1次電流と2次電圧を電力計にて測定し、無負荷損失を測定し、鉄心重量で除することで算出した。表1に、各巻鉄心変圧器における変圧器全体の鉄損(変圧器鉄損)及び、磁束渡りが生じる層間渡り部の鉄損、変圧器騒音の値を示す。
【0018】
【0019】
鉄心外側材と鉄心内側材にそれぞれ高磁束密度B8材(高磁束密度B8方向性電磁鋼板)と低磁束密度B8材(低磁束密度B8方向性電磁鋼板)を用いた三相三脚巻鉄心変圧器の変圧器鉄損は、いずれにおいても同一の鉄心素材のみで構成された三相三脚巻鉄心変圧器(表1の条件11、12)よりも変圧器鉄損が改善された。さらに層間渡り部である内側鉄心1の外側部分と外側鉄心2の内側部分に、B8が低い低磁束密度B8方向性電磁鋼板を、その領域の厚さsが、鉄心外側材の領域の厚さtとの関係でt/s≧1.0となるように用いることで、同一の鉄心素材のみで構成された条件11、12の三相三脚巻鉄心変圧器と比較し、変圧器鉄損が顕著に低下している。
【0020】
層間渡り部での鉄損については、層間渡り部での磁束渡りの量を反映した結果であると推察している。三相三脚巻鉄心においては、エネルギー損失を減らすために、磁路が長い外側鉄心2の内側部分から、磁路が短い内側鉄心1の外側部分に向けて磁束渡りが生じる。変圧器鉄心中を流れることができる磁束の量は、鉄心素材となる方向性電磁鋼板の磁束密度B8で代表される材料の透磁率で決定される。B8が大きい高透磁率材料の鉄心領域では流れられる磁束量が増え、反対にB8が小さい低透磁率材料を用いた鉄心領域では流れられる磁束量が減少する。外側鉄心2から渡ることができる磁束の量も、内側鉄心1に渡ることができる磁束の量もその部分の材料の透磁率によって決定される。
図4(a)は、通常の三相三脚巻鉄心変圧器における外側鉄心の内側部分及び内側鉄心の外側部分の磁束の流れを模式的に示す図であり、
図4(b)は、本発明の三相三脚巻鉄心変圧器における外側鉄心の内側部分及び内側鉄心の外側部分の磁束の流れを模式的に示す図である。つまり、
図4(b)に示すように、外側鉄心の内側部分の磁束密度B8が小さく、外側鉄心を流れられる磁束の量が少なければ、内側鉄心に流れ込んでいく磁束量は減少し、内側鉄心の外側部分の磁束密度B8が小さければ、内側鉄心が受け入れられる渡り磁束量が減少する。従って、変圧器鉄損の低下は、層間渡り部の鉄損が、磁束渡りが抑えられることで低下し、その影響で変圧器鉄損が低下したと推察される。また、低B8である鉄心内側材の領域の厚さsが鉄心外側材の領域の厚さtよりも厚い条件では、変圧器鉄損の改善代が小さくなっている。これは低B8材(低磁束密度B8方向性電磁鋼板)である鉄心内側材の使用割合が多くなることで、低B8化による鉄損増加の影響を受けて、磁束渡りによる鉄損低下をある程度打ち消してしまっているためであると推察される。
【0021】
変圧器騒音は、一種類の鉄心素材のみで構成された条件11、12と比較すると、すべての条件でその低下が認められた。特に鉄心内側材を鉄心外側材に対してt/s≧1.0を満たす厚さで用いることで変圧器騒音が顕著に低下した。鉄心外側材と鉄心内側材を組み合わせることで磁束渡りが抑制され、面内方向の磁化による電磁振動が抑制され、変圧器騒音が小さくなったと推察される。磁束渡りが抑制されたものの、変圧器騒音があまり低下しなかった条件1、2、3、4については、B8が低い内側材の割合が多くなったためだと考えられる。変圧器騒音は一般的に、三相三脚巻鉄心変圧器の素材となる電磁鋼板のB8が低くなると大きくなることが知られており、条件1、2、3、4の変圧器騒音は磁束渡りの抑制による騒音抑制と低B8化による騒音増加の両方が働き、変圧器騒音の改善が小さくなったことが推察される。
【0022】
上記の実験事実及び推定をもとに、三相三脚巻鉄心を用いた三相三脚巻鉄心変圧器における変圧器鉄損及び変圧器騒音を小さくするためには、層間渡り部の磁束渡りを小さくすることが肝要であると知見した。さらに、層間渡り部の磁束渡りを小さくするためには、磁束渡りが生じる、外側鉄心の内側部分と内側鉄心の外側部分にそれ以外の部分よりも800A/mでの磁束密度B8が低い材料を適用することが有効であることも知見した。一方で、B8が低い材料の割合を増やしすぎると、低B8材の影響で変圧器鉄損と変圧器騒音の改善が小さくなるため、その使用量は、巻鉄心を側面視した場合に、内側鉄心、外側鉄心、それぞれの厚さの半分未満にすることが特に好適であることを知見した。
【0023】
以上の知見を基に、本発明の完成に至った。すなわち、本発明は以下の構成を備える。
[1]外側鉄心と、前記外側鉄心の内側に配設された互いに隣接する2つの内側鉄心からなる三相三脚巻鉄心であって、
前記外側鉄心および前記2つの内側鉄心のそれぞれが、800A/mにおける磁束密度が異なる少なくとも2種の方向性電磁鋼板で構成されており、
前記外側鉄心の内側部分と前記2つの内側鉄心の外側部分が、前記外側鉄心の外側部分と前記2つの内側鉄心の内側部分を構成する方向性電磁鋼板よりも、800A/mにおける磁束密度が低い方向性電磁鋼板で構成された、三相三脚巻鉄心。
[2]前記外側鉄心の内側部分と前記2つの内側鉄心の外側部分を構成する方向性電磁鋼板を方向性電磁鋼板B、
前記外側鉄心の外側部分と前記2つの内側鉄心の内側部分を構成する方向性電磁鋼板を方向性電磁鋼板Aとしたとき、
前記方向性電磁鋼板Aの800A/mにおける磁束密度が1.88T以上であり、
前記方向性電磁鋼板Bの800A/mにおける磁束密度が1.83T以上で、且つ、前記方向性電磁鋼板Aの磁束密度より低い、[1]に記載の三相三脚巻鉄心。
[3]側面視において、
前記外側鉄心の外側部分及び前記2つの内側鉄心の内側部分の厚さをt、
前記外側鉄心の内側部分及び前記2つの内側鉄心の外側部分の厚さをsとしたとき、
t/s≧1.0を満たす、[1]または[2]に記載の三相三脚巻鉄心。
[4]前記[1]~[3]のいずれかに記載の三相三脚巻鉄心を用いた三相三脚巻鉄心変圧器。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、変圧器鉄損の低減効果及び騒音低減効果に優れる三相三脚巻鉄心を提供することができる。
【0025】
本発明によれば、三相三脚巻鉄心の外側鉄心の内側部分と内側鉄心の外側部分に800A/mでの磁束密度が、これら以外の部分よりも低い方向性電磁鋼板を使用することで、変圧器鉄損と変圧器騒音を低減することができる。本発明によれば、励磁磁束密度が比較的高い状態でも層間の磁束渡りを抑制できることで、変圧器鉄損と変圧器騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、三相三脚巻鉄心の形状および内側鉄心への磁束の集中を模式的に示す図(側面図)である。
【
図2】
図2は、励磁磁束密度が増加したときの、外側鉄心から内側鉄心への磁束渡りを模式的に示す図(側面図)である。
【
図3】
図3は、本発明の三相三脚巻鉄心の構成を示す側面図である。
【
図4】
図4は、三相三脚巻鉄心における外側鉄心の内側部分及び内側鉄心の外側部分の磁束の流れを模式的に示す図(側面図)である。
【
図5】
図5は、鉄心素材の磁束密度B8と変圧器鉄損の関係を示す図である。
【
図6】
図6は、鉄心素材の磁束密度B8と変圧器騒音の関係を示す図である。
【
図7】
図7は、鉄心内側材の磁束密度B8と変圧器鉄損の関係を示す図である。
【
図8】
図8は、鉄心内側材の磁束密度B8と変圧器騒音の関係を示す図である。
【
図9】
図9は、鉄心外側材と鉄心内側材の領域の厚さの比(t/s)と変圧器鉄損の関係を示す図である。
【
図10】
図10は、鉄心外側材と鉄心内側材の領域の厚さの比(t/s)と変圧器騒音の関係を示す図である。
【
図11】
図11は、実施例で作製した三相三脚巻鉄心の構成を示す側面図である。
【
図12】
図12は、実施例で作製した三相三脚巻鉄心の構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0028】
まず、本発明の構成要件の限定理由について述べる。
【0029】
三相三脚巻鉄心を用いた三相三脚巻鉄心変圧器の変圧器鉄損には、励磁されていない脚から励磁されている脚に戻ろうとする磁束の流れが生じ、これが外側鉄心2から内側鉄心1への磁束渡りとなり、また磁束渡りが変圧器鉄損を増加させる一因となっていることが明らかとなった。
【0030】
そこで、磁束渡りは、外側鉄心2と内側鉄心1が接している部分を介して発生する現象であることから、その接点に近い、外側鉄心2の内側部分と内側鉄心1の外側部分に、磁束渡りが可能な磁束量を抑えることを目的に800A/mにおける磁束密度B8が低い方向性電磁鋼板を適用することで変圧器の低鉄損化が期待される。
【0031】
一般に、三相三脚巻鉄心において、鉄心素材となる方向性電磁鋼板の800A/mにおける磁束密度B8が低い場合、鉄心素材の鉄損が劣位となることから、変圧器鉄損も劣位となる。また、変圧器騒音に関しても、800A/mにおける磁束密度B8が低い鉄心素材では、鉄心素材を励磁した際の鋼板の伸びである磁歪が大きくなり、磁歪振動の増加によって変圧器騒音も増大することが知られている。
【0032】
図1に示される形状の三相三脚巻鉄心を表2に示す鉄心素材の磁束密度B8が異なる材料で作製し、その変圧器鉄損、変圧器騒音を測定した結果をそれぞれ
図5、
図6に示す。鉄心素材である方向性電磁鋼板の磁束密度B8が向上するにつれ、変圧器鉄損、変圧器騒音共に改善していく傾向が見られた。その改善量は磁束密度B8が1.88T以上で飽和しているため、鉄心素材の磁束密度B8の好適範囲を1.88T以上とした。
【0033】
【0034】
外側鉄心の内側部分及び内側鉄心の外側部分に適用する鉄心内側材の磁束密度の好適範囲を探るために、外側鉄心の外側部分及び内側鉄心の内側部分に適用する鉄心外側材として磁束密度B8が1.92Tの材料(方向性電磁鋼板)を用い、鉄心内側材の磁束密度を変更し、鉄心外側材の領域の厚さtと鉄心内側材の厚さsの厚さ比をt/s=0.25としたときの変圧器鉄損、変圧器騒音を測定した。鉄心内側材の磁束密度B8を表3に、変圧器鉄損と変圧器騒音の測定結果をそれぞれ
図7、
図8に示す。
【0035】
【0036】
鉄心内側材の磁束密度B8は基準とした鉄心外側材の磁束密度B8よりも低い場合、両特性(変圧器鉄損、変圧器騒音)ともに改善することが見られた。但し、鉄心内側材の磁束密度B8が1.83T未満となると、両特性ともに劣化する傾向となり、改善代が低下することが分かった。この劣化は、磁束の層間渡りの抑制による両特性の改善が、磁束密度B8がより低い鉄心素材を用いることによる両特性の劣化によって抑制されたためだと推察される。
【0037】
さらに変圧器鉄損、変圧器騒音が改善する鉄心外側材と鉄心内側材の厚さ比についても調査した。外側鉄心の外側部分及び内側鉄心の内側部分にB8が1.92Tの材料(方向性電磁鋼板)を、外側鉄心の内側部分及び内側鉄心の外側部分にB8が1.88Tの材料をそれぞれ用い、表4で示すように、鉄心外側材の領域の厚さtと鉄心内側材の領域の厚さsの比(t/s)を変更して三相三脚巻鉄心を作製し、その変圧器鉄損、変圧器騒音を測定した。
図9及び
図10に変圧器鉄損及び変圧器騒音の測定結果をそれぞれ示す。
【0038】
【0039】
変圧器鉄損、変圧器騒音共に鉄心外側材の領域と鉄心内側材の領域の厚さ比(t/s)が1以上で顕著な改善が見られた。これは、前記比率の範囲で低い磁束密度B8を示す鉄心内側材を用いることによる層間渡りを行う磁束量の低減が、低い磁束密度B8材を用いることによる変圧器鉄損、変圧器騒音の劣化を大きく上回ることができたためだと考えられる。
【0040】
上述した実験結果より、三相三脚巻鉄心に用いる鉄心素材の特性として、800A/mにおける磁束密度B8が高い方が好ましく、高B8材としては1.88T以上の方向性電磁鋼板が好ましく、低B8材についても1.83T以上の方向性電磁鋼板が好ましいといえる。すなわち、本発明では、800A/mにおける磁束密度が高い高B8材を方向性電磁鋼板A、前記方向性電磁鋼板Aよりも800A/mにおける磁束密度が低い低B8材を方向性電磁鋼板Bとしたとき、前記方向性電磁鋼板Aの800A/mにおける磁束密度は1.88T以上が好ましく、前記方向性電磁鋼板Bの800A/mにおける磁束密度は1.83T以上が好ましい。
【0041】
また、高B8材(方向性電磁鋼板A)と低B8材(方向性電磁鋼板B)を組み合わせて使用する際、低B8材の割合が大きくなると、変圧器全体のB8が低下することで、変圧器鉄損、変圧器騒音の改善量は小さくなる。この改善量が大きく、特に好適な範囲として、巻鉄心を側面視した場合に、鉄心内側材(方向性電磁鋼板B)で構成される領域の厚さsが鉄心外側材(方向性電磁鋼板A)で構成される領域の厚さtに対し、同等未満、すなわちt/s≧1.0にできる。
【0042】
なお、上述以外の方向性電磁鋼板の特性や、成分、製造方法等は特に限定されるものではない。また、三相三脚巻鉄心の高さ、幅、奥行きの長さ、角部の曲率等の形状、製造方法も特に限定されるものではない。
【0043】
ただし、三相三脚巻鉄心に用いられる鉄心素材(方向性電磁鋼板)として、表面に溝を形成する磁区細分化処理を施すことで、鉄心素材の鉄損を低減した磁区細分化材を用いる場合には、溝形成時に地鉄量の減少により800A/mにおける磁束密度B8が低下しているが、透磁率は減少していないため、通常は母材(溝形成後の方向性電磁鋼板)の磁束密度B8に0.04Tを加えた値を透磁率相当の実質の磁束密度B8としている。従って、このような磁区細分化材を本発明に適用する際には、母材(溝形成後の方向性電磁鋼板)の磁束密度B8に0.04Tを足した値をもって、本発明の構成要件に適用できる。
【0044】
また、本明細書中では三相三脚型の巻鉄心変圧器における特性について記述しているが、その他の三相巻鉄心変圧器、例えば三相五脚の巻鉄心変圧器に適用する場合についても好適である。
【実施例0045】
[実施例1]
図11に示す鉄心形状(巻鉄心A、巻鉄心B)と、表5に示す鉄心素材にて、三相三脚巻鉄心を作製し、800℃で2時間の歪み取り焼鈍を行い、50ターンの巻き線コイルを取り付けて三相三脚巻鉄心変圧器を作製した。励磁磁束密度1.7T、周波数50Hzの条件で励磁し、変圧器鉄損、層間渡り部の鉄損及び変圧器騒音を上述した方法で測定した。
【0046】
結果を表5中に示す。本発明の適合例では、比較例(鉄心内側材として800A/mにおける磁束密度が高い高B8材、鉄心外側材として800A/mにおける磁束密度が低い低B8材を用いた三相三脚巻鉄心)と比べて変圧器鉄損、変圧器騒音共に良好であり、非常に優れた変圧器特性を示すことが判明した。
【0047】
【0048】
[実施例2]
図12に示す鉄心形状(巻鉄心A)と、表6に示す鉄心素材にて、三相三脚巻鉄心を作製し、800℃で2時間の歪み取り焼鈍を行い、50ターンの巻き線コイルを取り付けて三相三脚巻鉄心変圧器を作製した。励磁磁束密度1.7T、周波数50Hzの条件で励磁し、変圧器鉄損、層間渡り部の鉄損及び変圧器騒音を上述した方法で測定した。なお、鉄心外側材として、鋼板表面にレーザーエッチングによって溝形成を行った磁区細分化材を用いた。
【0049】
結果を表6中に示す。鉄心外側材のB8として、母材(溝形成後の方向性電磁鋼板)のB8に0.04Tを加算した値を用いた。鉄心外側材のB8が1.84T以上で、変圧器鉄損、変圧器騒音に改善が見られ、さらに鉄心外側材のB8が1.88T以上で変圧器鉄損、変圧器騒音に大幅な改善が見られた。このように溝形成による磁区細分化材については、母材(溝形成後の方向性電磁鋼板)の磁束密度B8の値に0.04Tを加えた値を用いることで本発明に適用でき、優れた変圧器特性を示すことが判明した。
【0050】