(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146196
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】ナノ多孔質成形体およびこれを用いた熱交換装置
(51)【国際特許分類】
B01J 20/28 20060101AFI20231004BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20231004BHJP
F28F 13/02 20060101ALI20231004BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
B01J20/28 A
B01J20/30
B01J20/28 Z
F28F13/02 Z
B01J20/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053265
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】市川 靖
(72)【発明者】
【氏名】金子 貴子
(72)【発明者】
【氏名】内村 允宣
(72)【発明者】
【氏名】西原 洋知
(72)【発明者】
【氏名】京谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅納
(72)【発明者】
【氏名】我部 篤
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩
(72)【発明者】
【氏名】石橋 健太
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AA04B
4G066AC10D
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA31
4G066CA01
4G066CA43
4G066CA56
4G066FA21
4G066FA26
4G066FA28
4G066FA34
4G066FA37
4G066FA38
4G066GA40
(57)【要約】
【課題】吸着質を効率的に吸着および脱離させ、耐久性に優れる吸着剤を提供する。
【解決手段】応力を印加および解放することによって細孔径を変化させ、ゲスト分子として取り込まれる吸着質を可逆的に気液相転移させることができるナノ多孔質体と、バインダであるゴム系材料とを含む、ナノ多孔質成形体である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
応力を印加および解放することによって細孔径を変化させ、ゲスト分子として取り込まれる吸着質を可逆的に気液相転移させることができるナノ多孔質体と、
バインダであるゴム系材料と、
を含む、ナノ多孔質成形体。
【請求項2】
前記ゴム系材料が天然ゴムを含む、請求項1に記載のナノ多孔質成形体。
【請求項3】
前記バインダの含有量が、ナノ多孔質成形体の全量100質量%に対して15~40質量%である、請求項1または2に記載のナノ多孔質成形体。
【請求項4】
前記ナノ多孔質体が炭素材料を含み、前記ナノ多孔質体についてのCu-Kα線を用いたX線回折スペクトルにおける炭素の(10)面に由来するピークの半値幅が1.2~3.2°の範囲内の値である、請求項1~3のいずれか1項に記載のナノ多孔質成形体。
【請求項5】
前記ナノ多孔質体のBET比表面積が800~2600m2/gである、請求項1~4のいずれか1項に記載のナノ多孔質成形体。
【請求項6】
前記ナノ多孔質体の細孔容積が2.0mL/g以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のナノ多孔質成形体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のナノ多孔質成形体と、
前記ナノ多孔質成形体に応力を印加して前記ナノ多孔質体を収縮させる動作と、印加された前記応力を解放して前記ナノ多孔質体を膨張させる動作とを行う応力付与部と、
を有する、熱交換装置。
【請求項8】
応力を印加および解放することによって細孔径を変化させ、ゲスト分子として取り込まれる吸着質を可逆的に気液相転移させることができるナノ多孔質体またはその原料と、バインダであるゴム系材料と、を含む混合物を、140~160℃で熱処理することを含む、ナノ多孔質成形体の製造方法。
【請求項9】
前記ゴム系材料の仕込み比が、前記混合物の総質量に対して、固形分比で13~29質量%である、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ多孔質成形体に関する。特に、本発明は吸着式熱交換装置用吸着剤として用いられうるナノ多孔質成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱を移動させることで対象(空間や物体)の加熱や冷却を行う熱交換装置が広く用いられている。例えば、下記特許文献1には、媒体を気化させる蒸発器と、気化した媒体を脱離および吸着する吸着剤を備える吸着器と、気化した媒体を凝縮する凝縮器と、を有する吸着式熱交換装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されているような従来の吸着式熱交換装置は、蒸発器や凝縮器において、吸着剤に吸着した吸着質の潜熱を冷熱や温熱として利用しているため、蒸発器や凝縮器での減圧や加熱冷却に大きなエネルギーが必要となる。また、吸着質を吸着した吸着剤を再生するための加熱にもエネルギーが必要となる。その結果、成績係数COPが低下してしまい、装置が大型化してしまう傾向にある。このため、特に設置スペースの限られているカーエアコンなどの熱交換装置に適用するために、吸着質をより少ないエネルギーで吸着および脱離させることができる吸着剤が求められている。さらに、吸着質を繰り返し吸着および脱離させた場合であっても劣化が生じにくい吸着剤が求められている。
【0005】
そこで本発明は、吸着質を効率的に吸着および脱離させ、耐久性に優れる吸着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その過程で、応力を印加および解放することによって、機械的に変形して、吸着質である媒体を可逆的に脱離および吸着可能なナノ多孔質体を見出した。さらに、ナノ多孔質体に媒体を脱離および吸着させることによって、媒体を相変化させて潜熱を発生させることが可能であることを発見した。そして、当該ナノ多孔質体と、バインダであるゴム系材料とを含むナノ多孔質成形体を熱交換装置の吸着剤として用いることを試みた。その結果、脱離または吸着により発生した潜熱を冷熱または温熱に直接的に利用することが可能となることから熱サイクルに必要なエネルギーを小さくすることができることを見出した。さらに、ゴム系材料をバインダとして用いてナノ多孔質成形体とすることで耐久性が向上しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち本発明は、応力を印加および解放することによって細孔径を変化させ、ゲスト分子として取り込まれる吸着質を可逆的に気液相転移させることができるナノ多孔質体と、バインダであるゴム系材料とを含む、ナノ多孔質成形体である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ナノ多孔質成形体に応力を印加および解放して収縮膨張させることによって、吸着質である媒体を可逆的に脱離および吸着させて相変化による潜熱を発生させることができる。これにより、発生した潜熱を冷熱または温熱に直接的に利用することができる。また、潜熱を得るために蒸発器や凝縮器において減圧や加熱冷却が不要となるため、熱交換装置の吸着剤として用いたときに熱サイクルに必要なエネルギーを小さくすることができる。また、ゴム系材料は比較的低温でバインダとして機能するため、ゴム系材料をバインダとして用いることでナノ多孔質成形体の作製時に劣化が生じにくい。その結果、バインダとしてゴム系材料を用いてナノ多孔質成形体とすることで吸着剤の耐久性が向上しうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る熱交換装置の構成を示す概略断面図である。
【
図2】ナノ多孔質成形体に応力を印加して収縮させて冷媒を脱離させる様子を示す図である。
【
図3】GMSおよびCMSのXRDスペクトルを表す図である。
【
図4】熱交換装置の熱サイクルのT-S線図である。
【
図5】比較例1で作製したナノ多孔質成形体の応力-ひずみ曲線(1回目の測定)および実施例1で作製したナノ多孔質成形体の応力-ひずみ曲線(1回目および10回目)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一形態は、応力を印加および解放することによって細孔径を変化させ、ゲスト分子として取り込まれる吸着質を可逆的に気液相転移させることができるナノ多孔質体と、バインダであるゴム系材料とを含む、ナノ多孔質成形体である。
【0011】
一般的な吸着式熱交換装置は、減圧下で冷媒を加熱して気化させる蒸発器、気化した冷媒を脱離および吸着する吸着剤を備える吸着器、および気化した冷媒を凝縮する凝縮器を有する。一般的な吸着式熱交換装置では、蒸発器での蒸発潜熱を冷却に利用している。吸着剤への冷媒の脱離/吸着の際には、冷媒は相変化せずに気体のままであるため潜熱は生じない。脱離/吸着は、冷媒の輸送に利用されている。一般的な吸着式熱交換装置では、蒸発器での蒸発潜熱を冷却に利用しているため、蒸発器での減圧や加熱に大きなエネルギーが必要となる。また、媒体を吸着した吸着剤を再生するための加熱にもエネルギーが必要となる。
【0012】
これに対して、本形態では、応力を印加および解放することによって細孔径を変化させ、ゲスト分子として取り込まれる吸着質を可逆的に気液相転移させることができるナノ多孔質体を含むナノ多孔質成形体を吸着剤に用いる。これにより、ナノ多孔質成形体に機械的に応力をかけることで冷媒を脱着させることができ、冷媒を相変化させて蒸発潜熱(脱離熱)を冷熱として利用することができる。したがって、吸着剤を再生するための加熱や、蒸発器による減圧や加熱が不要であり、短時間でしかも印加するエネルギーを抑えて、吸着剤における吸熱および発熱が可能になる。
【0013】
吸着剤として使用するにあたり、ナノ多孔質成形体の形状を保持するために、バインダを用いてナノ多孔質体を結着させ、シート状の試料を作製する必要がある。しかしながら、本発明者らの検討によれば、一般的なテフロン(登録商標;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))のようなバインダを用いた場合、十分な耐久性が得られないことが判明した。
【0014】
PTFEは、熱、紫外線、薬品、油などの外部からの刺激に強い反面、分子間凝集力が弱く、摩耗しやすい傾向がある。また、ナノ多孔質体との接着性は比較的弱く、強固な結着力を得るためには、ナノ多孔質体との混合後に、例えば370℃以上の高温で熱処理する必要がある。しかしながら、熱処理するとPTFEが一部熱劣化してしまうため、ナノ多孔質成形体の耐久性が低下してしまう。したがって、PTFEのような一般的なバインダを用いた場合、耐久性に優れるナノ多孔質成形体を得ることは難しい。
【0015】
これに対して、本発明者らは、バインダとしてゴム系材料を用いることで、ナノ多孔質成形体の耐久性が改善されることを見出した。ゴム系材料は、140~160℃程度の比較的低い温度での熱処理によりバインダとして機能する。そのため、ナノ多孔質成形体を作製する際の劣化が起こりにくく、高い耐久性が得られるものと考えられる。
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
<熱交換装置>
図1に、本発明の一実施形態に係る熱交換装置10を示す。熱交換装置10は、ナノ多孔質成形体20(第1ナノ多孔質成形体20Aおよび第2ナノ多孔質成形体20B)に応力を印加および解放することにより、機械的に変形させて、吸着質である冷媒(媒体)60の脱離および吸着を行う。本実施形態に係る熱交換装置10は冷媒(図示せず)の脱離時に発生する蒸発潜熱から得た冷熱を利用して対象を冷却する。熱交換装置10は、例えば、自動車の室内(内気)を冷却するカーエアコン(冷房)に適用することができる。
【0018】
図1に示すように、熱交換装置10は、一対の熱交換部30A、30B(第1熱交換部30Aおよび第2熱交換部30B)、および装置全体の動作を制御する制御部40を有する。制御部40は、一対の熱交換部30A、30Bのうち一方の動作モードが脱離モードである間は他方の動作モードが吸着モードになるようにスイング運転する。これにより、脱離モードの熱交換部30A、30Bにおいて連続的に冷熱を生成することが可能となる。ここで、「脱離モード」とは、冷媒をナノ多孔質成形体20から脱離させる動作モードである。また、「吸着モード」とは、冷媒をナノ多孔質成形体20に吸着させる動作モードである。
【0019】
熱交換装置10は、第1チャンバー32Aと第2チャンバー32Bとの間を冷媒60が移動可能に連通する配管50と、配管50の連通状態と遮断状態とを切り替えるバルブ51と、を有する。バルブ51を開くと配管50は連通状態となり、バルブ51を閉じると配管50は遮断状態となる。
【0020】
[熱交換部30A、30B]
図1に示すように、第1熱交換部30Aは、第1ナノ多孔質成形体20Aと、第1応力付与部31Aと、第1チャンバー32Aと、第1空気調節部33Aと、を有する。同様に、第2熱交換部30Bは、第2ナノ多孔質成形体20Bと、第2応力付与部31Bと、第2チャンバー32Bと、第2空気調節部33Bと、を有する。
【0021】
第1熱交換部30Aおよび第2熱交換部30Bは、同様の構成を有する。本明細書の説明では、第1熱交換部30Aおよび第2熱交換部30Bを総称して「熱交換部30A、30B」とも称する。同様に、第1応力付与部31Aおよび第2応力付与部31Bを総称して「応力付与部31A、31B」とも称する。また、第1チャンバー32Aおよび第2チャンバー32Bを総称して「チャンバー32A、32B」とも称する。また、第1空気調節部33Aおよび第2空気調節部33Bを総称して「空気調節部33A、33B」とも称する。また、第1ナノ多孔質成形体20Aおよび第2ナノ多孔質成形体20Bを総称して「ナノ多孔質成形体20」とも称する。
【0022】
[ナノ多孔質成形体20]
ナノ多孔質成形体20は、ナノ多孔質体およびバインダであるゴム系材料を含む。ナノ多孔質成形体20に用いられるナノ多孔質体は、弾性を有し、収縮して冷媒を脱離可能で、かつ、膨張して冷媒を吸着可能なナノ多孔質の材料である。これにより、ナノ多孔質成形体20は、応力付与部31A、31Bから応力を印加されて収縮して冷媒を脱離し、応力を解放すると自由膨張して冷媒を吸着する。
【0023】
ここで、「弾性」とは、応力付与部31A、31Bによって外部から応力を印加して収縮させても、応力を解放することによって、可逆的に大きく変形してほぼ元の形状に回復する性質を意味する。ナノ多孔質成形体20の弾性限度は、冷媒を脱離するために必要な応力印加よりも大きくなるように設計されることが好ましい。ナノ多孔質成形体20の弾性限度は、熱交換装置10の適用対象の冷却規模等に応じて適宜設計することが好ましい。
【0024】
また、「ナノ多孔質」とは、複数のナノレベルの細孔を有することを意味する。ナノレベルの細孔とは、好ましくは直径0.5~100nmであり、より好ましくは直径0.7~50nmであり、さらに好ましくは直径0.7~6nmのミクロ孔またはメソ孔である。なお、IUPAC(国際純正及び応用化学連合)では、直径2nm以下の細孔をミクロ孔(micropore)、直径2~50nmの細孔をメソ孔(mesopore)、直径50nm以上の細孔をマクロ孔(macropore)と定義している。
【0025】
一般的に、固体表面はファンデルワールス力によるポテンシャルエネルギーが高く、冷媒60の分子を凝縮させる作用がある。特に、本実施形態に係るナノ多孔質成形体20では、ナノ多孔質体に吸着された冷媒は、ナノレベルの小さな細孔壁に囲まれているため、固体表面のファンデルワールス力(物理吸着力)によるポテンシャルエネルギーが著しく高い。このとき、気体の冷媒は、ナノ多孔質体の細孔壁に液体の密度で吸着される。すなわち、ナノ多孔質体への吸着は気体から液体への相変化と同質の現象であり、吸着熱は凝縮潜熱にほぼ等しい。以下の説明において、冷媒は、ナノ多孔質体に吸着すると気体から液体へ相変化し、脱離すると液体から気体へ相変化するものとする。また、吸着熱は、凝縮潜熱に等しいとする。
【0026】
ナノ多孔質成形体20の細孔壁に吸着された細孔内部の液体密度の冷媒は、飽和蒸気圧よりも低い圧力の蒸気と平衡状態となっている。すなわち、ナノ多孔質成形体20の細孔壁に吸着された気体は、飽和蒸気圧よりも低い圧力で液体の状態となる。
【0027】
図2に示すように、ナノ多孔質体およびバインダ(図示せず)を含むナノ多孔質成形体20に応力を印加すると、
図2の(A)応力印加前から(B)応力印加下のようにナノ多孔質成形体20中のナノ多孔質体の細孔が収縮し、細孔壁に吸着していた冷媒60は脱離する。このとき、液体の密度で吸着された冷媒60は、再び気体としてナノ多孔質成形体20の外部に放出される。熱交換装置10は、この脱離の際の蒸発潜熱を冷熱として利用することによって、対象を冷却することができる。
【0028】
一方、ナノ多孔質成形体20において、応力を解放すると、ナノ多孔質成形体20に存在するナノ多孔質体は自由膨張して細孔が元の大きさに戻り、冷媒60を再び吸着させることができる。上述したように、冷媒60は、ナノ多孔質成形体20の細孔壁に液体の密度で吸着される。すなわち、冷媒60は、ナノ多孔質成形体20へ吸着される際に、気体から液体へ相変化して、凝縮潜熱を発生する。
【0029】
ナノ多孔質体を構成する材料としては、弾性を有し、収縮して冷媒60を脱離可能で、かつ、膨張して冷媒60を吸着可能な材料であれば特に限定されない。
【0030】
ナノ多孔質体のBET比表面積は特に制限されないが、例えば、800~4200m2/gの範囲であり、好ましくは800~2600m2/gの範囲である。BET比表面積がこれらの範囲内の値のように大きいナノ多孔質体を使用することによって吸着質の吸着量を増加させることができる。また、ナノ多孔質体の細孔容積も特に制限されないが、例えば、1.0~6.0mL/gであることが好ましく、1.8mL/g以上であることがより好ましく、2.0mL/g以上であることが特に好ましい。ナノ多孔質体の細孔容積が1.0mL/g以上であれば、比較的相対圧の高い蒸気圧領域であっても吸着、脱離する吸着質の量が少なくなりすぎないため好ましい。また、細孔容積が6.0mL/g以下であれば、十分なBET比表面積が確保でき、吸着量が高くなるため好ましい。
【0031】
そのような材料としては、単層グラフェン骨格を含み、冷媒60の脱離および吸着に必要な多孔性および弾性特性を有する炭素材料が挙げられる。このような炭素材料として、具体的には、ゼオライトテンプレートカーボン(ZTC;Zeorite Template Carbon)、グラフェンメソスポンジ(GMS;Graphene MesoSponge)、炭素メソスポンジ(CMS;Carbon MesoSponge)等が挙げられる。ゼオライトテンプレートカーボン(ZTC)、グラフェンメソスポンジ(GMS)、および炭素メソスポンジ(CMS)は、いずれも単層グラフェン骨格からなり、冷媒60の脱離および吸着に必要な多孔性および弾性特性を有している。
【0032】
ZTCは、単層のグラフェンシートにより構成される。また、均一な細孔(直径約1.2nm)が三次元的に規則配列し、相互に連結しており、極めて高いBET比表面積と細孔容積を有する(最大でBET比表面積が4100m2/g、細孔容積が1.8mL/g)ことが知られている。なお、ZTCの規則構造は、X線回折装置(株式会社リガク製、MiniFlex600,CuK)を用いて分析した。また、ZTCのBET比表面積は、液体窒素吸着(77K)(Microtrac BEL,BELSORB-max)を用いて分析した。
【0033】
ZTCの製造方法については、Nishihara, H. et al., Chemistry-European Journal 15, 5355 (2009)等に記載されている。具体的には、まず、構造内部に空孔を有し、この空孔が網目状に連結した構造を有する多孔質材料(例えば、ゼオライト等)を鋳型として準備する。そして、この多孔質材料の表面および空孔の内部に加熱条件下で有機化合物(例えば、アセチレン、エチレン等)を導入し、加熱することによって当該有機化合物を炭化し、多孔質材料に炭素を堆積させる。ここで、有機化合物の炭化・炭素の堆積は、例えば化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法により行うことができる。そして、鋳型である多孔質材料を除去する。この方法により、鋳型の三次元構造を反映した炭素材料(すなわち、ZTC)を容易に製造することができる。上記の方法により製造されたZTCは柔軟性および弾性に優れ、細孔の直径が約1.2nmから約0.7nmになるまで可逆的に弾性変形することができる。
【0034】
GMSもまた、細孔壁の大部分が単層グラフェンから構成され、約6nm程度の微小な細孔を有するスポンジ状のメソ多孔体であり、ZTCと同様、活性炭に匹敵する極めて高いBET比表面積(約2000m2/g)を有している。その一方で、活性炭やカーボンブラックとは異なり腐食の原因となるグラフェンの端部をほとんど含んでいないことから、優れた耐食性(酸化耐性)も備えている。また、柔軟かつ強靭であるというグラフェンの性質に起因して、GMSは柔軟性および弾性に優れ、細孔の直径が約5.8nmから約0.7nmになるまで可逆的に弾性変形することができる。
【0035】
GMSの製造方法については、Nishihara, H. et al., Advanced Functional Materials, Vol. 26, 2016, 6418-6427.等に記載されている。具体的には、まず、ナノサイズの球状基材として、アルミナ等(例えば、SBa-200(商品名)等のγ-アルミナ)からなる金属酸化物ナノ粒子を準備する。この材料は後述するCVD法による炭素被覆に対する高い触媒活性と、優れた耐焼結耐性を有している。
【0036】
続いて、有機化合物を炭素源として用いたCVD法により、上記で準備した球状基材(金属酸化物ナノ粒子)の表面を炭素で被覆する。このCVD法を用いた炭素被覆によれば、球状基材(金属酸化物ナノ粒子)の全表面に均一な炭素層を形成することが可能である。なお、この際に用いられる有機化合物としては、メタン、アセチレン、エチレン、プロピレン、ベンゼン等が挙げられるが、なかでも特に大量の炭素結晶による被覆が達成されうるという観点からは、メタンを炭素源として用いることが好ましい。なお、CVDプロセスにおいては、ガス流の流れを良くする目的で、石英砂(珪砂)などのスペーサーを球状基材(金属酸化物ナノ粒子)と混合した状態で有機化合物を導入してもよい。また、有機化合物の導入には窒素等の不活性ガスをキャリアガスとして用いてもよく、キャリアガスと炭素源(有機化合物)との混合ガスにおける炭素源の濃度は10~30体積%程度とすることが好ましい。
【0037】
CVDプロセスが進行すると試料の色は黒色に変化する一方で当該試料を内包する反応容器(例えば、石英管)は透明に維持されることから、炭素の堆積は球状基材(金属酸化物ナノ粒子)の表面上のみに生じていることが確認できる。ここで、CVDプロセスを経ても球状基材(金属酸化物ナノ粒子)は焼結していないため、炭素被覆された球状基材の形状は炭素被覆前からほとんど変化しない。このようにして球状基材(金属酸化物ナノ粒子)の表面に被覆された炭素層の(平均)積層数は、CVDプロセスにおいて投入した炭素源(有機化合物)の量のほか、CVDの際の処理温度および処理時間などに基づいて制御可能であり、最終的に得られるGMSにおけるグラフェン層の(平均)積層数に対応している。この(平均)積層数の値は特に制限されないが、冷媒60に対して優れた脱離/吸着特性を示すという観点から、好ましくは0.90~3.0であり、より好ましくは0.95~2.0であり、さらに好ましくは0.98~1.5であり、特に好ましくは1.0~1.1である。なお、CVDプロセスにおける処理温度および処理時間についても特に制限はないが、処理温度は好ましくは800~1000℃であり、より好ましくは850~950℃である。また、処理時間は好ましくは1~10時間であり、より好ましくは2~6時間である。
【0038】
その後、鋳型として用いられた球状基材(金属酸化物ナノ粒子)を化学エッチングによって除去し、当該球状基材の表面に被覆された炭素層のみを残す。この際、化学エッチングには強酸または強塩基の水溶液を用いればよい。強酸としては、例えば、フッ酸(HF)が挙げられる(この場合には室温でのエッチングが可能である)。また、強塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)が挙げられる(この場合には200~300℃程度に加熱することが好ましい)。化学エッチングによって球状基材(金属酸化物ナノ「粒子)が除去されると、GMSの前駆体として、球状のメソ孔を有する炭素メソスポンジ(CMS;Carbon MesoSponge)が得られる。
【0039】
最後に、このようにして得られたCMSを必要に応じて水洗した後、減圧条件下において、1500~2000℃(好ましくは1700~1900℃)程度の温度で、30分間~2時間程度の熱処理を施す。これにより、炭素層のグラフェンへの結晶化が進行し、GMSが得られる。ここで、CMSの有する球状のメソ孔は上述した熱処理の際の高温に対しても非常に安定であることから、このようにして得られたGMSにおいてもCMSと同様のメソ孔が保持されている。GMSはこのようなメソ孔を有していることから、スポンジのように柔軟に弾性変形が可能である。このため、収縮して冷媒60を脱離可能であると共に、膨張しては冷媒60を吸着可能であり、熱交換装置10におけるナノ多孔質成形体20に用いられるナノ多孔質体として好適に用いられうる。
【0040】
前記ナノ多孔質体が炭素材料を含む場合、当該ナノ多孔質体についてのCu-Kα線を用いたX線回折スペクトルにおいて、2θ=44°付近に炭素の(10)面に由来するピークが観察されることが好ましく、その半値幅が1.2~3.2°であることが好ましい。このような構造を有するナノ多孔質体は、理論上特に優れた冷熱エネルギーを示しうることから好ましい。このようなナノ多孔質体としては、GMSまたはCMSが挙げられる。なお、本発明者らがGMSおよびCMSについてのX線回折スペクトルを測定したところ、
図3に示すように、これらのX線回折スペクトルにおいて、2θ=44°付近に炭素の(10)面に由来するピークが観察され、その半値幅は2.2°であった。なお、X線回折測定は、シリコン無反射板にサンプルを載せ、株式会社島津製作所社製X線回折装置XRD-6100を用いて行った。線源はCu-Kα、電圧40kV、電流30mAで行った。
【0041】
本発明のナノ多孔質成形体は、バインダとしてゴム系材料を含む。ゴム系材料の具体的な形態について特に制限はないが、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ニトリル・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ブチルゴムおよびシリコーンゴムからなる群から選択されるものなどが挙げられる。なかでも、特に耐久性に優れるという観点から、ゴム系材料は天然ゴムまたはスチレン・ブタジエンゴムを含むことが好ましく、天然ゴムを含むことがより好ましい。なお、ゴム系材料は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0042】
本発明のナノ多孔質成形体は、上述したナノ多孔質体およびゴム系材料に加えて、ゴム工業界で通常使用される配合剤を、その他の成分として含んでもよい。その他の成分としては、例えば、シランカップリング剤、架橋剤、加硫促進剤、ポリエチレングリコール、軟化剤、樹脂、老化防止剤、亜鉛華等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して含むことができる。
【0043】
架橋剤としては、例えば、硫黄系架橋剤、有機過酸化物系架橋剤、無機架橋剤、ポリアミン架橋剤、樹脂架橋剤、硫黄化合物系架橋剤、オキシム-ニトロソアミン系架橋剤等が挙げられる。これらの架橋剤の中でも硫黄系架橋剤(加硫剤)がより好ましい。架橋剤の含有量としては、ゴム系材料100質量部に対し、0.1~20質量部であることが好ましい。
【0044】
また、架橋剤として硫黄を用いる場合には、加硫促進剤をさらに含むことが好ましい。加硫促進剤としては、例えば、TBBS(N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)、CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBSI(N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンイミド)等のスルフェンアミド系の加硫促進剤;DPG(ジフェニルグアニジン)等のグアニジン系の加硫促進剤;テトラオクチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド等のチウラム系加硫促進剤;ジアルキルジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。その含有量は、硫黄の含有量よりも少ないことが好ましく、ゴム系材料100質量部に対し、1~10質量部程度であることがより好ましい。
【0045】
なお、バインダとして、ゴム系材料の他に、ナノ多孔質成形体においてナノ多孔質体同士の結着を目的として用いられる公知のバインダを組み合わせて用いてもよい。しかしながら、本発明の効果がより顕著に得られうることから、ナノ多孔質成形体に用いられるバインダのうち、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上、最も好ましくは100質量%がゴム系材料である。
【0046】
(バインダの含有量)
ナノ多孔質成形体におけるバインダの含有量は、特に制限されないが、ナノ多孔質成形体の全量100質量%に対して、好ましくは10~60質量%であり、より好ましくは15~40質量%であり、特に好ましくは15~25質量%である。バインダの含有量が10質量%以上であれば、ナノ多孔質体の保持力が高まるため、より耐久性の高いナノ多孔質成形体が得られうる。一方、バインダの含有量が60質量%以下であれば、バインダがナノ多孔質体内に入り込んで吸着質の吸着量が低下することを抑制することができる。さらにバインダの質量比が15~40質量%であると、より耐久性が向上するとともに吸着量の低下を抑制できるため好ましい。なお、本明細書において、「バインダの含有量」には、架橋剤や加硫剤、加硫促進剤等の配合剤の量も含めるものとする。
【0047】
(ナノ多孔質成形体の調製方法)
ナノ多孔質成形体の調製方法は特に制限されない。例えば、ナノ多孔質体またはその原料と、バインダであるゴム系材料とを混合し、混合物を熱処理する、好ましくはホットプレスすることによって調製することができる。
【0048】
熱処理の条件は特に制限されない。例えば、減圧条件下において、140~160℃程度の温度で、200~400MPaの圧力印加を10分間~1時間程度施す。これにより、ゴム系材料がバインダとして機能し、ナノ多孔質体同士、またはナノ多孔質体とゴム系材料とが強く結着し、耐久性に優れるナノ多孔質成形体が得られうる。加熱温度が140℃以上であれば高い結着性が得られ、160℃以下であればナノ多孔質成形体の作製時にナノ多孔質体の劣化が生じにくい。すなわち、本発明の他の形態によれば、応力を印加および解放することによって細孔径を変化させ、ゲスト分子として取り込まれる吸着質を可逆的に気液相転移させることができるナノ多孔質体と、バインダであるゴム系材料と、を含む混合物を、140~160℃で熱処理することを含む、ナノ多孔質成形体の製造方法もまた、提供される。
【0049】
この際、ホットプレスを行う前に、室温で加圧を行ってもよい。この際の圧力は、ホットプレスの際の加圧条件よりも低い圧力であることが好ましく、例えば、100~300MPaである。加圧時間も特に制限されないが、例えば10秒間~1分間である。このように、段階的に加熱、加圧を行うことで、より強い結合力が実現できる。
【0050】
同様の理由で、ホットプレスの工程を、段階的に徐々に加熱、加圧していくように、異なる加熱、加圧条件の2段階以上の工程で行ってもよい。
【0051】
なお、ナノ多孔質成形体におけるゴム系材料の含有量は、あらかじめナノ多孔質成形体の作製条件と同等の加熱条件でゴム系材料を加熱して重量減少を測定し、その重量減少分に応じて仕込み比を調整することで、所望の含有量に制御することができる。好ましい実施形態において、ゴム系材料の仕込み比は、固形分比で、前記混合物の全量100質量%%に対して13~29質量%である。このようにすることで吸着質量が高く、耐久性に優れるナノ多孔質成形体が得られうる。
【0052】
(ナノ多孔質成形体のBET比表面積)
ナノ多孔質成形体のBET比表面積は特に制限されないが、例えば、900~3200m2/gであり、好ましくは900~1899m2/gである。BET比表面積が900m2/g以上であれば吸着質の吸着量を増加させることができる。また、機械的強度を確保する観点から、3200m2/g以下、特には1899m2/g以下であることが好ましい。なお、ナノ多孔質成形体のBET比表面積は、ナノ多孔質成形体を構成するナノ多孔質体のBET比表面積およびバインダの添加量を適宜選択することで調節することができる。ナノ多孔質体およびナノ多孔質成形体のBET比表面積は、液体窒素吸着(77K)(Microtrac BEL,BELSORB-max)を用いて分析することができる。
【0053】
(ナノ多孔質成形体の細孔容積)
ナノ多孔質成形体の細孔容積は特に制限されないが、1.0~6.0mL/gであることが好ましく、1.3~6.0mL/gであることがより好ましい。本発明のナノ多孔質成形体は、比較的相対圧の高い蒸気圧領域におけるナノ多孔質体の圧縮、膨張に伴う吸着質の気液相転移により熱量を稼ぐものである。細孔容積が1.0mL/g以上であれば、比較的相対圧の高い蒸気圧領域であっても吸着、脱離する吸着質の量が少なくなりすぎないため好ましい。また、細孔容積が6.0mL/g以下であれば、十分なBET比表面積が確保できるため吸着量が高くなるため好ましい。ナノ多孔質成形体の細孔容積は、ナノ多孔質成形体を構成するナノ多孔質体の細孔容積およびバインダの添加量を適宜選択することで調節することができる。なお、ナノ多孔質体およびナノ多孔質成形体の細孔容積は、液体窒素吸着(77K)(Microtrac BEL,BELSORB-max)を用いて分析することができる。
【0054】
[応力付与部31A、31B]
応力付与部31A、31Bは、ナノ多孔質成形体20に応力を印加して収縮させ、印加した応力を解放してナノ多孔質成形体20を自由膨張させる。これにより、応力付与部31A、31Bは、ナノ多孔質成形体20の細孔径を外部からの応力で制御することができる。
【0055】
応力付与部31A、31Bは、ナノ多孔質成形体20に対して接近離反する方向に往復運動してナノ多孔質成形体20に応力を印加および解放することができる限りにおいてその構成は特に限定されない。応力付与部31A、31Bとしては、例えば、モーターの回転運動を利用した機械式プレス機や油圧等の流体圧を利用した液圧式プレス機などを使用することができる。
【0056】
[チャンバー32A、32B]
チャンバー32A、32Bは、内部にナノ多孔質成形体20を収容する空間を有する容器である。チャンバー32A、32Bの内部は真空または真空に近い低圧に保たれている。このため、冷媒60は比較的低い温度において液体から気体へ相変化しうる。
【0057】
[空気調節部33A、33B]
空気調節部33A、33Bは、チャンバー32A、32B内を低温の空気と熱伝導させた冷却状態と、高温の空気と熱伝導させた排熱状態とを切り替える。熱交換装置10は、対象を冷却するための装置であるため、低温の空気は、冷却する対象の雰囲気に相当する。空気調節部33A、33Bは、冷却状態にして対象を冷却するために必要な冷熱を熱交換部30A、30Bから取り出す。また、空気調節部33A、33Bは、排熱状態にして熱交換部30A、30Bから発生した熱を排熱する。
【0058】
熱交換装置10を自動車のカーエアコン(冷房)に適用する場合は、例えば、低温の空気を車室内空気(内気)とし、高温の空気を車室外空気(外気)とすることができる。例えば、外気温度は約303K(30℃)、内気温度は約298K(25℃)となる。以下の説明では、低温の空気を車室内の「内気」、高温の空気を車室外の「外気」として説明する。
【0059】
[制御部40]
制御部40は、例えば、図示しないCPU(中央演算装置)、RAM(Random Access Memory)、およびコンピュータ読み取り可能な記録媒体等から構成されている。制御部40は、応力付与部31A、31Bおよび空気調節部33A、33Bの動作を制御する。制御部40は、熱交換部30A、30Bにおける動作モードを、冷媒60をナノ多孔質成形体20から脱離させる脱離モードと、冷媒60をナノ多孔質成形体20に吸着させる吸着モードとに切り替える。
【0060】
[冷媒60]
冷媒60としては、水または、メタノールもしくはエタノールなどのアルコールを用いることが好ましい。一般的な蒸気圧縮式の熱交換装置では、フルオロカーボン系のHFC-134aが冷媒として広く用いられているが、水は、HFC-134aに対して、約16倍の蒸発潜熱を有するため、理論的には得られる冷熱は16倍になる。また、水やアルコールは地球環境に悪影響を及ぼさないことから好ましい。
【0061】
<熱交換装置10の熱サイクル>
次に、
図4を参照して、熱交換装置10による熱サイクルについて説明する。
図4は、熱交換装置10の熱サイクルのT-S線図を示す。この際、冷媒60を次の4種類に分けて考える。第1の種類は恒久的にナノ多孔質成形体20に吸着した状態で留まる分である。第2の種類は、ナノ多孔質成形体20への応力印加や自由膨張により脱離および吸着するもののうち、内気の冷却に関与しない分である。第3の種類は、ナノ多孔質成形体20への応力印加や自由膨張により脱離および吸着するもののうち、内気の冷却に関与する分である。第4の種類は、ナノ多孔質成形体20に吸着せずに恒久的に気相として存在する分である。なお、
図4で考慮しているのは、第3の種類の冷媒のみである。
【0062】
熱交換装置10の熱サイクルは、逆カルノーサイクルである。逆カルノーサイクルは、状態1→状態2→状態3→状態4の順に上記第3の種類の冷媒の状態を変化させる。
図4中の状態1から状態2のプロセスは加熱、状態2から状態3のプロセスは等圧等温の吸着、状態3から状態4のプロセスは冷却、状態4から状態1のプロセスは等圧等温の脱離の各行程を示す。ここで、第3の種類の冷媒は、状態1では低温T
1の飽和蒸気であり、状態2では高温T
2の過熱蒸気であり、状態3では高温T
3の液体であり、状態4では低温T
4の液体である。ここで、温度T
1とT
4は等しくT
Lであり、温度T
2とT
3は等しくT
Hである。
【0063】
状態1から状態2では、第3の種類の冷媒は、低温TLの飽和蒸気から加熱されて高温THの過熱蒸気になる。このとき、第3の種類の冷媒は、気体のまま相変化せずに温度が上昇する。同時に、第1の種類の冷媒およびナノ多孔質成形体20の温度をTLからTHに上昇させるために顕熱Qsh1-2[J]が吸熱される。なお、第3の種類の冷媒は気体であり、その顕熱は液体である第1の種類の冷媒の顕熱に比べて小さいため無視できる。熱交換装置10の熱サイクルでは、「顕熱」は、第1の種類の冷媒の温度変化に必要な熱量のみでなく、ナノ多孔質成形体20の温度変化に必要な熱量も含むものとする。
【0064】
状態2から状態3では、収縮していたナノ多孔質成形体20が自由膨張することによって、第3の種類の冷媒はナノ多孔質成形体20の細孔内に吸着する。吸着により、上記第3の種類の冷媒は、気体(水蒸気)から液体(水)へと相変化する。相変化に伴って凝縮潜熱QH[J]が排熱される。
【0065】
状態3から状態4では、第3の種類の冷媒は、高温THの液体から冷却されて低温TLの液体になる。このとき、第1の種類の冷媒および第3の種類の冷媒は、液体のまま相変化せずに温度が低下する。第1の種類の冷媒および上記第3の種類の冷媒およびナノ多孔質成形体20の温度をTHからTLに低下させるために、顕熱Qsh[J]が排熱される。なお、状態3および状態4では、第3の種類の冷媒は、細孔内に吸着した状態である。また、状態3から状態4に至る間、気体である第2の種類の冷媒が温度低下に伴いナノ多孔質成形体20に吸着されるため、系の気相圧力は一旦低下するが、ナノ多孔質成形体20を収縮させ第2の種類の冷媒を脱離させることで系の気相圧力を元に戻し状態4に至らしめるものとする。
【0066】
状態4から状態1では、ナノ多孔質成形体20を収縮させて第3の種類の冷媒を脱離する。状態3から状態4に至る間にナノ多孔質成形体20を収縮させるために必要な外部からの仕事と、状態4から状態1に至る間にナノ多孔質成形体20を収縮させるために必要な外部からの仕事との和をWns[J]とする。また、脱離により上記第3の種類の冷媒は、液体(水)から気体(水蒸気)へと相変化する。相変化に伴って蒸発潜熱QL[J]が吸熱される。熱交換装置10は、蒸発潜熱QL[J]を冷熱として利用することにより対象を冷却することができる。
【0067】
なお、熱交換装置10の制御方法については、特開2019-138620号公報に記載される熱交換装置の制御方法と同様の方法を採用することができる。
【0068】
なお、上記では、本実施形態の熱交換装置を、脱離時の蒸発潜熱から得た冷熱を利用して対象を冷却する冷却装置に適用した場合を例に挙げて説明したが、吸着時の凝縮潜熱から得た温熱を利用して対象を加熱する加熱装置(ヒートポンプ)に適用してもよい。また、一対(2つ)の熱交換部を有するバッチ式の熱交換装置として説明したが、これに限定されず、1つの熱交換部によって構成してもよいし、3つ以上の熱交換部によって構成してもよい。
【実施例0069】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0070】
[実施例1]
天然ゴム(NR)(TSR20)を1.6309g、ステアリン酸(新日本理化株式会社製、ステアリン酸50S)、亜鉛華(ハクスイテック株式会社製、酸化亜鉛2種)、TBBS(三新化学工業株式会社製、サンセラーNS-G)および硫黄(鶴見化学工業株式会社製、サルファックス5)からなる架橋剤混合物(混合比はステアリン酸:亜鉛華:TBBS:硫黄=1:3:1:1.8(質量比))を0.111g秤量し、183mLのテトラヒドロフラン(THF)に入れ、一晩攪拌した。THFが若干蒸発するため50mLを追加し、さらに炭素被覆されたアルミナ粒子(SBa-200)を22.0265g添加して、50℃にて1時間攪拌した。最後に、攪拌しながら60℃にて3時間加熱することでTHFを蒸発させて、24.2649gの固体を得た。これを超鋼製のジグ(内部の直径10mm、内部は鏡面仕上げ)に50~100mg入れ、145℃にて300MPaの圧力を印加することにより加熱成形してペレットを得た。得られたペレットを30質量%フッ化水素酸に5時間浸漬することでアルミナ(SBa-200)を溶解除去して、本実施例のナノ多孔質成形体を得た。このようにして得られたナノ多孔質成形体は、ナノ多孔質体であるCMSがバインダである天然ゴムによって強固に結着された構造を有している。また、バインダ(天然ゴム)の含有量は、ナノ多孔質成形体の全量100質量%に対して20質量%であった。
【0071】
[実施例2]
バインダ(天然ゴム)の含有量がナノ多孔質成形体の全量100質量%に対して10質量%となるように、天然ゴム(NR)、架橋剤混合物およびアルミナ粒子の配合量を変更したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例のナノ多孔質成形体を得た。なお、天然ゴム(NR)と架橋剤混合物との配合比は実施例1と同じにした。
【0072】
[実施例3]
バインダ(天然ゴム)の含有量がナノ多孔質成形体の全量100質量%に対して15質量%となるように、天然ゴム(NR)、架橋剤混合物およびアルミナ粒子の配合量を変更したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例のナノ多孔質成形体を得た。なお、天然ゴム(NR)と架橋剤混合物との配合比は実施例1と同じにした。
【0073】
[実施例4]
バインダ(天然ゴム)の含有量がナノ多孔質成形体の全量100質量%に対して40質量%となるように、天然ゴム(NR)、架橋剤混合物およびアルミナ粒子の配合量を変更したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例のナノ多孔質成形体を得た。なお、天然ゴム(NR)と架橋剤混合物との配合比は実施例1と同じにした。
【0074】
[実施例5]
バインダ(天然ゴム)の含有量がナノ多孔質成形体の全量100質量%に対して60質量%となるように、天然ゴム(NR)、架橋剤混合物およびアルミナ粒子の配合量を変更したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例のナノ多孔質成形体を得た。なお、天然ゴム(NR)と架橋剤混合物との配合比は実施例1と同じにした。
【0075】
[比較例1]
(ナノ多孔質体(CMS)の調製)
Advanced Functional Materials, Vol. 26, 2016, 6418-6427.を参照して、CMSを調製した。具体的には、アルミナナノ粒子(Taimei Chemicals,TM300)を電気炉に設置し、窒素気流中1173K(900℃)まで昇温させた。900℃に到達したら、窒素ガスを20体積%メタン、80体積%窒素に切り替え、2時間のCVDによりアルミナナノ粒子の表面に炭素を析出させた。その後、窒素のみのフローに切り替え、室温まで冷却した。得られたカーボン被覆アルミナナノ粒子をフッ化水素酸(47質量%、富士フイルム和光純薬株式会社製)に浸漬し、アルミナナノ粒子を取り除いて、CMSを得た。
【0076】
(ナノ多孔質成形体の調製)
上記で作製したCMSと、PTFEバインダとを、PTFEバインダの含有量が、最終的なナノ多孔質成形体の全量100質量%に対して10質量%となるように混合し、めのう乳鉢を用いて室温で混錬して複合化した。
【0077】
次いで、複合化した材料をホットプレスによりペレット化して、本比較例のナノ多孔質成形体を得た。ホットプレスは、株式会社和泉テック製の専用装置において実施し、加圧および加圧制御は株式会社島津製作所製のオートグラフを用いて行った。加圧は、160℃、28分間の加圧と、その後の300℃、60分間の加圧との2段階で行った。
【0078】
(ナノ多孔質成形体への応力印加時の変位の測定)
各実施例および比較例で作製したナノ多孔質成形体に応力を印加し、その際の変位を測定した。この際、比較例1の試料に対しては76MPaの応力を印加した。一方、各実施例の試料に対しては50MPaの応力を印加した。
【0079】
具体的には、まず、各実施例および比較例で作製したナノ多孔質成形体の試料のそれぞれについて、150℃にて真空乾燥し、プレスチャンバー装置のin situ測定用のチャンバー内にセットした。この際、測定に十分な量の試料を確保するため、ペレット状の試料をステンレスの金属板で挟み積層する形でチャンバー内にセットした。また、in situ測定に先立って、積層した試料を数回プレスし、試料の弾性変形を安定化させた。
【0080】
直線導入機のトルクと積層した試料に印加される応力との関係は、以下の実験により予め確認を行った。トルクセンサーが付属するラチェット(京都機械工具株式会社製、GEK085-W36)を直線導入機に装着し、直線導入機を回すトルクを測定できるようにした。直線導入機の先端部分が試験機(株式会社島津製作所製、AG-50kNXplus)のロードセルに接触するように固定した状態で、ラチェットを回し、ハンドルを回すトルクとロードセルに印加される応力との関係を調べた。上記関係を利用することで、積層した試料に印加される応力は、直線導入機のトルクで制御した。
【0081】
そして、上記のin-situ測定の際に、室温で、株式会社島津製作所社の試験機を用いて応力-ひずみ曲線を測定した。なお、比較例1で作製したナノ多孔質成形体では1回のみ応力-ひずみ曲線の測定が可能であり、2回目以降は試料の破損により応力-ひずみ曲線を測定することができなかった。また、実施例2で作製したナノ多孔質成形体では5回目まで応力-ひずみ曲線の測定が可能であったが、6回目以降は試料の破損により応力-ひずみ曲線を測定することができなかった。その他の実施例で作製したナノ多孔質成形体では10回目まで応力-ひずみ曲線の測定が可能であった。
図5に、比較例1で作製したナノ多孔質成形体の応力-ひずみ曲線(1回目の測定)および実施例1で作製したナノ多孔質成形体の応力-ひずみ曲線(1回目および10回目)を示す。
【0082】
続いて、上記で得られた応力-ひずみ曲線の多項式近似曲線を変位量で積分することにより、応力印加エネルギーを算出した。ここで、メタノールを冷媒として用いた場合の吸着等温線から、メタノール冷媒を用いてナノ多孔質成形体に応力を印加することにより取り出し可能な吸着熱の理論値は、76MPaの印加(比較例1)で1725J/g-CMS(メタノール吸脱着量として1100mg(STP)/g-CMS)、50MPaの印加(各実施例)で1121J/g-CMS(メタノール吸脱着量として724mL(STP)/g-CMS)とそれぞれ算出された。これらの値を上記で算出した応力印加エネルギーの値で除することにより効率を算出した。結果を下記の表1に示す。なお、表1においては、ナノ多孔質成形体を「CMS複合体」と記載している。
【0083】
【0084】
表1に示す結果から、バインダとしてゴム系材料を用いてナノ多孔質体を結着させた実施例1~5のナノ多孔質成形体は、応力の印加、解放によりメタノールを効率的に吸着、脱離させることができ、耐久性に優れることがわかる。特に、ナノ多孔質成形体100質量%におけるバインダの含有量が15~40質量%である実施例1および実施例3~4は、特に優れた耐久性を示すこともわかる。一方、バインダとしてPTFEを用いた比較例1のナノ多孔質成形体では、初回効率には優れるものの、耐久性は著しく低いことがわかる。