(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146201
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】モータ装置
(51)【国際特許分類】
H02K 5/173 20060101AFI20231004BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
H02K5/173 A
H02K7/116
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053274
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】緒方 直樹
(72)【発明者】
【氏名】城 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 大貴
【テーマコード(参考)】
5H605
5H607
【Fターム(参考)】
5H605AA04
5H605AA05
5H605BB05
5H605BB10
5H605CC04
5H605CC08
5H605DD09
5H605EB17
5H607AA04
5H607BB01
5H607BB07
5H607BB09
5H607BB14
5H607BB26
5H607CC01
5H607CC03
5H607DD03
5H607DD19
5H607EE31
5H607GG08
(57)【要約】
【課題】ハウジングに対する軸受部材の固定強度を向上させ、ひいては減速機構のがたつきを抑制することが可能なモータ装置を提供する。
【解決手段】ハウジング41に装着され、かつボールベアリング36(アウターレース36b)の軸方向他側を軸方向から支持するベアリング支持部材37が、ボールベアリング36(アウターレース36b)の軸方向他側の全周を軸方向から支持する環状支持部37c(環状平坦面37d)を備えているので、回転軸34に横力が作用した場合に、ボールベアリング36のハウジング41に対する傾斜を抑えることができる。よって、ハウジング41に対するボールベアリング36の固定強度を向上させ、ひいては減速機構SDのがたつきを抑制することが可能となる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を有するモータと、
前記回転軸の回転を減速する減速機構と、
を備えたモータ装置であって、
前記回転軸を回転自在に支持する軸受部材と、
前記減速機構を収容し、かつ前記軸受部材の軸方向一側を軸方向から支持するハウジングと、
前記ハウジングに装着され、かつ前記軸受部材の軸方向他側を軸方向から支持する軸受支持部材と、
を有し、
前記軸受支持部材は、前記軸受部材の軸方向他側の全周を軸方向から支持する環状支持部を備えている、
モータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ装置において、
前記モータは、前記回転軸が回転中心に固定される回転子を有し、
前記回転子は、前記軸受部材に並んで設けられ、
前記回転子の外径寸法が、前記環状支持部の内径寸法よりも小さい、
モータ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のモータ装置において、
前記モータは、前記回転軸を回転自在に収容するモータケースを備え、
前記軸受支持部材が、前記回転軸の軸方向において前記軸受部材と前記モータケースとにより挟まれている、
モータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸の回転を減速する減速機構を備えたモータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両に搭載される車載用モータには、小型でありながら大きな出力が得られる減速機構付きのモータ装置が採用されている。これにより、車両に設けられる狭小スペースに、モータ装置を容易に搭載可能としている。このようなモータ装置が、例えば、特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載された電気式の駆動ユニット(モータ装置)は、駆動電流の供給により回転される可動子軸(回転軸)を備えた電動モータ(モータ)と、可動子軸の回転を減速して高トルク化し、高トルク化された回転力を外部に出力するウォーム歯車(ウォームホイール)と、を備えている。
【0004】
また、可動子軸には、軸受部材(ボールベアリング)の内レース(インナーレース)が嵌め込みにより固着されており、軸受部材の外レース(アウターレース)は、伝動装置ケーシング(ハウジング)の受容孔に押し込まれている。そして、受容孔に押し込まれた外レースは、切り込みを有するU字形の保持部により押さえられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたモータ装置では、ボールベアリングのアウターレースが、U字形の保持部により押さえられている。言い換えれば、アウターレースの全周のうちの一部が、保持部により押さえられていない。これにより、モータ装置の駆動時において、ウォームがウォームホイールから離れるよう回転軸に横力が作用した際に、ボールベアリングがハウジングに対して傾斜し、減速機構ががたつく虞があった。
【0007】
本発明の目的は、ハウジングに対する軸受部材の固定強度を向上させ、ひいては減速機構のがたつきを抑制することが可能なモータ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様では、回転軸を有するモータと、前記回転軸の回転を減速する減速機構と、を備えたモータ装置であって、前記回転軸を回転自在に支持する軸受部材と、前記減速機構を収容し、かつ前記軸受部材の軸方向一側を軸方向から支持するハウジングと、前記ハウジングに装着され、かつ前記軸受部材の軸方向他側を軸方向から支持する軸受支持部材と、を有し、前記軸受支持部材は、前記軸受部材の軸方向他側の全周を軸方向から支持する環状支持部を備えている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ハウジングに装着され、かつ軸受部材の軸方向他側を軸方向から支持する軸受支持部材が、軸受部材の軸方向他側の全周を軸方向から支持する環状支持部を備えているので、回転軸に横力が作用した場合に、軸受部材のハウジングに対する傾斜を抑えることができる。よって、ハウジングに対する軸受部材の固定強度を向上させ、ひいては減速機構のがたつきを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】車両のルーフに設置されたサンルーフ装置を示す概略図である。
【
図2】サンルーフモータの出力ギヤ側を示す斜視図である。
【
図3】サンルーフモータのカバー部材側を示す斜視図である。
【
図4】回転軸の軸方向に沿うサンルーフモータの断面図である。
【
図8】サンルーフモータの組立手順(1)を説明する分解断面図である。
【
図9】サンルーフモータの組立手順(2)を説明する分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0012】
図1は車両のルーフに設置されたサンルーフ装置を示す概略図を、
図2はサンルーフモータの出力ギヤ側を示す斜視図を、
図3はサンルーフモータのカバー部材側を示す斜視図を、
図4は回転軸の軸方向に沿うサンルーフモータの断面図を、
図5は
図4の破線円A部の拡大断面図を、
図6は回転子を示す斜視図を、
図7は軸受支持部材を示す斜視図を、
図8はサンルーフモータの組立手順(1)を説明する分解断面図を、
図9はサンルーフモータの組立手順(2)を説明する分解斜視図をそれぞれ示している。
【0013】
[サンルーフ装置の概要]
図1に示されるように、サンルーフ装置10は、ルーフパネル11を備えている。ルーフパネル11は、車両12のルーフ13に形成された開口部14を開閉する。ルーフパネル11の車幅方向両側(
図1の上下側)には、一対のシュー15a,15bがそれぞれ固定されている。また、ルーフ13における開口部14の車幅方向両側には、車両12の前後方向(
図1の左右方向)に延びるガイドレール16がそれぞれ固定されている。そして、一対のシュー15a,15bが、対応する一対のガイドレール16にそれぞれ案内されることで、ルーフパネル11が、車両12の前後方向に移動する。
【0014】
車両12の後方側(
図1の右側)に配置されたシュー15bのそれぞれには、ギヤ付きの駆動ケーブル17a,17bの一端が連結されている。これらの駆動ケーブル17a,17bの他端は、開口部14よりも車両12の前方側(
図1の左側)に取り回されている。
【0015】
開口部14よりも車両12の前方側で、かつフロントガラスFGとの間のルーフ13の内部には、サンルーフモータ(モータ装置)20が設けられている。そして、一対の駆動ケーブル17a,17bの他端は、サンルーフモータ20に設けられた出力ギヤ47aに噛み合わされている。そして、サンルーフモータ20が駆動されると、一対の駆動ケーブル17a,17bは、互いに逆向きにその長手方向に移動する。これにより、ルーフパネル11は、一対のシュー15bを介して、一対の駆動ケーブル17a,17bにより押し引きされ、開口部14を開閉する。
【0016】
[サンルーフモータの概要]
図2ないし
図4に示されるように、サンルーフモータ20は、電動モータ部(モータ)30および減速機構部40を備えている。そして、これらの電動モータ部30および減速機構部40は、一対の第1,第2締結ねじS1,S2により互いに強固に連結され、一体化(ユニット化)されている。
【0017】
[電動モータ部]
電動モータ部30は、ブラシを備えないモータ、つまりブラシレスモータであり、鋼板等の磁性体を深絞り加工等することで有底筒状に形成されたヨーク(モータケース)31を有している。ヨーク31は、電動モータ部30の外郭を形成しており、断面が略正六角形に形成された側壁部31aを備えている。そして、側壁部31aの軸方向一側(
図2ないし
図4の右側)は、段付きの底壁部31bにより閉塞されている。
【0018】
[固定子]
図4および
図5に示されるように、ヨーク31の内部には固定子32が収容されている。固定子32は、複数の薄い鋼板(磁性体)を積層して形成された固定子コア32aを有している。固定子コア32aは、ヨーク31に固定され、かつ合計6つのティース32b(詳細図示せず)を備えている。そして、これらのティース32bには、インシュレータ(絶縁部材)32cを介して、U相,V相およびW相からなる三相のコイルCLがそれぞれ巻装されている。
【0019】
[回転子]
固定子32の径方向内側には、所定の隙間AG(エアギャップ)を介して、回転子33が回転自在に設けられている。回転子33は、
図4ないし
図6に示されるように、略筒状に形成されたコア本体33aを有している。コア本体33aは、複数の薄い鋼板(磁性体)を積層して形成され、当該コア本体33aの径方向外側には、合計4つの永久磁石MG(
図6の網掛部分を参照)が接着剤等により固定されている。具体的には、それぞれの永久磁石MGは、コア本体33aの周方向に等間隔(90°間隔)となるように配置されている。
【0020】
また、コア本体33aに固定されたそれぞれの永久磁石MGの径方向外側は、薄いステンレス板等により略筒状に形成されたマグネットホルダ33bで覆われている。このマグネットホルダ33bは、永久磁石MGがコア本体33aから脱落するのを防止するものである。これにより、回転子33が高速で回転しても、その際の遠心力により永久磁石MGがコア本体33aから脱落することがない。
【0021】
ここで、マグネットホルダ33bの外径寸法はD1(
図9参照)に設定されており、この外径寸法D1は、回転子33の径方向に対して最も大きい部分の外径寸法となっている。
【0022】
コア本体33aの径方向内側には、回転軸34が圧入により固定されている。つまり、回転子33の回転中心に、回転軸34が固定されている。回転軸34は、十分な強度を確保すべく丸鋼棒製(金属製)となっている。そして、回転軸34の軸方向基端側(
図4の右側)は、ヨーク31の内部に収容され、かつヨーク31の底壁部31bに装着された第1メタル(ラジアル軸受)BR1により回転自在に支持されている。一方、回転軸34の軸方向先端側(
図4の左側)は、減速機構部40を形成するハウジング41の内部に収容され、かつハウジング41のウォーム収容部49に装着された第2メタル(ラジアル軸受)BR2により回転自在に支持されている。
【0023】
また、回転軸34の軸方向先端側には、減速機構SDを形成するウォーム35が一体に設けられている。すなわち、ウォーム35においても丸綱棒製であり、これにより、ウォーム35の剛性が高められてウォーム35は湾曲したりすることがなく、ひいてはウォームホイール46との確実な噛合が確保される。
【0024】
さらに、回転軸34の軸方向中間部には、ボールベアリング(軸受部材)36が設けられている。つまり、回転子33は、ボールベアリング36に並んで設けられている。このボールベアリング36は、回転軸34を回転自在に支持するものである。具体的には、ボールベアリング36は、鋼材により略筒状に形成されたインナーレース(内輪)36aと、当該インナーレース36aと同様に鋼材により略筒状に形成され、かつインナーレース36aよりも大径となったアウターレース(外輪)36bと、を備えている。また、ボールベアリング36の径方向において、インナーレース36aとアウターレース36bとの間には、複数のボール(鋼球)36cが設けられている。
【0025】
ここで、インナーレース36aは、回転軸34に圧入により固定されている。つまり、インナーレース36aは、回転軸34と一緒に回転するようになっている。また、
図4に示されるように、回転軸34の外径寸法の方が、ウォーム35の外径寸法よりも大きくなっている。これにより、ボールベアリング36は、回転軸34の軸方向において、ウォーム35側から回転軸34に圧入可能となっている。
【0026】
さらに、ボールベアリング36(アウターレース36b)の外径寸法はD2(
図9参照)に設定されており、この外径寸法D2は、回転子33の外径寸法D1よりも大きくなっている(D2>D1)。
【0027】
なお、回転軸34の軸方向におけるウォーム35とボールベアリング36との間には、センサマグネットSMが取り付けられている。このセンサマグネットSMは、回転軸34の回転方向や回転数を制御するために用いられる。そして、回転軸34の軸方向におけるセンサマグネットSMとコア本体33aとの間に、ボールベアリング36が配置されている。
【0028】
[ベアリング支持部材]
さらに、電動モータ部30は、
図4,
図5および
図7に示されるように、ベアリング支持部材37を備えている。ベアリング支持部材37は、本発明における軸受支持部材に相当し、プラスチック等の樹脂材料により所定形状に形成されている。ベアリング支持部材37は、略平板状に形成された支持本体37aと、ハウジング41に入り込んで嵌合される複数の装着壁部37bと、を備えている。つまり、ベアリング支持部材37は、ハウジング41に装着されている。
【0029】
ベアリング支持部材37の支持本体37aには、環状支持部37cが設けられている。この環状支持部37cは、回転軸34の軸方向一側(
図4および
図5の右側)に向けられた環状平坦面37dを備え、当該環状平坦面37dは、ボールベアリング36のアウターレース36bに対して、その軸方向他側(
図4および
図5の右側)から接している。すなわち、環状支持部37cは、アウターレース36bの軸方向他側の全周を軸方向から支持している。なお、アウターレース36bの軸方向一側(
図4および
図5の左側)は、ハウジング41に設けられたベアリング装着部50によって軸方向から支持されている。
【0030】
このように、ボールベアリング36のアウターレース36bは、回転軸34の軸方向において、ハウジング41とベアリング支持部材37とにより挟まれている。ここで、ベアリング支持部材37は、第1,第2締結ねじS1,S2でヨーク31をハウジング41に固定することで、ハウジング41の内側でがたつくことなく固定される。つまり、ベアリング支持部材37は、回転軸34の軸方向において、アウターレース36bとヨーク31との間に挟まれている。
【0031】
また、環状支持部37cには、一対の位置決め突起37eが一体に設けられている。これらの位置決め突起37eは、環状支持部37cに互いに対向するように配置され、環状支持部37cからその軸方向一側に突出されている。一対の位置決め突起37eの間には、ボールベアリング36のアウターレース36bが入り込むようになっている。これにより、サンルーフモータ20の組立時において、ボールベアリング36の軸心と環状支持部37cの軸心とを正確に一致させる(センタリングする)ことが可能となっている。
【0032】
このように、一対の位置決め突起37eは、環状支持部37cに対してボールベアリング36を正規の位置に位置決めする機能を有している。なお、支持本体37aは、
図7に示されるように、軸方向視で略長方形形状に形成されている。そして、一対の位置決め突起37eは、支持本体37aの比較的広いスペースに配置されている。したがって、一対の位置決め突起37eを設けることで、支持本体37aが大型化することはない。
【0033】
ここで、環状支持部37cの径方向内側には、当該環状支持部37cの軸方向に貫通する貫通孔37fが設けられている。この貫通孔37fの内径寸法はD3に設定されており(
図9参照)、貫通孔37fの内径寸法D3は、ボールベアリング36の外径寸法D2よりも小さくなっている(D3<D2)。よって、環状支持部37cは、ボールベアリング36のアウターレース36bを、その軸方向から当接可能となっている。その一方で、回転子33の外径寸法D1は、貫通孔37fの内径寸法D3よりも小さくなっている(D1<D3)。
【0034】
ここで、寸法関係を大きい順に並べると、ボールベアリング36の外径寸法D2,貫通孔37fの内径寸法D3,回転子33の外径寸法D1となる(D2>D3>D1)。したがって、貫通孔37fの内側に回転子33を挿通することができ、かつ環状平坦面37dをアウターレース36bの軸方向他側の全周に軸方向から接触させることができる。よって、
図9に示されるように、サンルーフモータ20を容易に組み立てることが可能となる。なお、サンルーフモータ20の組立手順については、後で詳述する。
【0035】
また、支持本体37aには、合計3つの導電部材38(
図7の網掛け部分を参照)が装着されている。これらの導電部材38は、導電性に優れた黄銅等により略棒状に形成され、その長手方向一側(
図7の下側)が、三相のコイルCL(
図4および
図5参照)にそれぞれ電気的に接続されている。一方、導電部材38の長手方向他側(
図7の上側)は、車両12(
図1参照)側に設けられた外部コネクタ(図示せず)が電気的に接続可能となっている。これにより、車載バッテリ等からサンルーフモータ20の三相のコイルCLに駆動電流が供給され、回転軸34が正方向または逆方向に回転される。
【0036】
このように、ベアリング支持部材37は、ボールベアリング36を支持する機能に加えて、合計3つの導電部材38を保持する機能を有している。
【0037】
[減速機構部]
図2ないし
図4に示されるように、減速機構部40は、減速機構SDを収容するハウジング41を備えている。このハウジング41は、プラスチック等の樹脂材料により、略扁平の直方体形状に形成され、第1壁部42,第2壁部43および第3壁部44を有している。第1,第2および第3壁部42,43,44のうち、第1壁部42の占める割合が最も大きくなっている。
【0038】
図4に示されるように、ハウジング41の内側には、ウォームホイール収容部45が設けられている。このウォームホイール収容部45は、第3壁部44寄りの部分に配置されている。そして、ウォームホイール収容部45の内部には、減速機構SDを形成するウォームホイール46が回転自在に収容されている。ここで、ウォームホイール46は、プラスチック等の樹脂材料からなり、軽量化が図られている。そして、ウォームホイール46には歯部46aが設けられ、当該歯部46aは、ハウジング41の内部において、ウォーム35に噛み合わされている。
【0039】
すなわち、減速機構SDは、比較的大きな減速比が得られるウォーム減速機となっている。具体的には、本実施の形態では、減速機構SDの減速比は[1:67]となっている。すなわち、ウォーム35が67回転すると、漸くウォームホイール46が1回転する減速比となっている。
【0040】
また、ウォームホイール46の回転中心には、丸綱棒(金属製)からなる出力軸47の軸方向基端側が固定されている。これに対し、出力軸47の軸方向先端側には、一対の駆動ケーブル17a,17b(
図1参照)が噛み合わされる出力ギヤ47a(
図2参照)が一体に設けられている。
【0041】
したがって、回転軸34の高速回転が減速機構SDにより減速され、かつ減速されて高トルク化された回転力が、出力軸47および出力ギヤ47aを介して、一対の駆動ケーブル17a,17bに伝達される。なお、ウォーム35およびウォームホイール46により、減速機構SDが形成されている。
【0042】
ここで、ウォームホイール収容部45は、その第1壁部42側とは反対側が開口されている(図示せず)。そして、
図3に示されるように、ウォームホイール収容部45の開口部分は、鋼板(金属製)をプレス加工等して形成されたカバー部材48により閉塞されている。
【0043】
なお、カバー部材48は略円盤状に形成され、その外周部分には、合計4つの差し込み脚48aが一体に設けられている。これらの差し込み脚48aは、第1壁部42側に向けて延びており、
図4に示されるように、ハウジング41の差し込み穴HLに抜け止め状態で差し込まれている。
【0044】
そして、これらの差し込み脚48aのうちの1つにアース用導電部材ECの長手方向一側(
図4の左側)が電気的に接続され、当該アース用導電部材ECの長手方向他側(
図4の右側)はヨーク31に電気的に接続されている。よって、金属製の出力軸47の軸方向基端側から、ハウジング41の外部に電気ノイズが放射されることが抑制される。
【0045】
ここで言う[電気ノイズ]とは、サンルーフモータ20の作動時に発生し、かつハウジング41の内部に設けられた金属製(磁性体)の部品に伝搬される高周波ノイズのことである。この電気ノイズは、空中等の外部に放射されると、カーオーディオ等の車載機器に悪影響を与えることがある。したがって、サンルーフモータ20が発生する電気ノイズは、できる限り車両12(
図1参照)の車体ボディ(図示せず)にアースする(逃がす)ようにする。なお、ヨーク31は、金属製のモータブラケット(図示せず)を介して、車体ボディに電気的に接続されている。
【0046】
また、
図4に示されるように、ハウジング41の内側には、ウォーム収容部49が設けられている。このウォーム収容部49は、第2壁部43寄りの部分に配置されている。そして、ウォーム収容部49は、ウォームホイール収容部45の近くに配置され、これらの収容部49,45の内部は、ウォーム35および歯部46aの噛合部分の近傍で互いに連通している。
【0047】
ウォーム収容部49は、回転軸34の軸方向に延びており、ウォーム収容部49の軸方向一側(
図4の左側)には、回転軸34の軸方向先端側を回転自在に支持する第2メタルBR2が収容されている。
【0048】
さらに、ハウジング41の内側には、ベアリング装着部50が設けられている。このベアリング装着部は、ウォーム収容部49の軸方向他側(
図4の右側)に配置され、ヨーク31に向けて開口している。ベアリング装着部50の内部には、ボールベアリング36が収容され、当該ボールベアリング36のアウターレース36bにおける軸方向一側(
図4の左側)は、ベアリング装着部50によりその全周が軸方向から支持されている。
【0049】
なお、ベアリング装着部50には、略筒状に形成されたベアリングサポートリングRGが圧入により固定されている。このベアリングサポートリングRGは、例えば、金属粉末を押し固めた焼結材により形成されている。そして、ベアリングサポートリングRGの径方向内側には、微小隙間(図示せず)を介してボールベアリング36のアウターレース36bが配置されている。
【0050】
ここで、
図4に示されるように、回転軸34の軸方向基端側(
図4の右側)は、ヨーク31の底壁部31bに装着された第1メタルBR1により回転自在に支持されている。また、回転軸34の軸方向先端側(
図4の左側)は、ハウジング41のウォーム収容部49に装着された第2メタルBR2により回転自在に支持されている。さらに、回転軸34の軸方向中間部は、ベアリング装着部50に収容されたボールベアリング36により回転自在に支持されている。
【0051】
すなわち、回転軸34は、3つのベアリング(第1メタルBR1,第2メタルBR2およびボールベアリング36)により3点支持されている。これにより、サンルーフモータ20の作動時において、ウォーム35がウォームホイール46の歯部46aから離れるようなこと(互いの噛合が外れること)が抑えられ、互いに確実に噛合可能となっている。
【0052】
そして、回転軸34にはボールベアリング36のインナーレース36aが固定され、ボールベアリング36のアウターレース36bはベアリング装着部50とベアリング支持部材37とにより挟まれている。したがって、回転軸34はその軸方向に移動することがない。よって、回転軸34の軸方向両側に、スラスト軸受を設ける必要がなく、ひいては部品点数の削減を図ることが可能となっている。
【0053】
その一方で、回転軸34をスムーズに回転するように3点支持させるには、サンルーフモータ20を形成する部品の精度向上が要求される。しかしながら、このような部品の精度向上は、製造工程の煩雑化や製品コストのアップを招くため現実的ではない。そのため、本実施の形態では、ベアリングサポートリングRGの径方向内側に微小隙間を介してボールベアリング36(アウターレース36b)を配置している。
【0054】
これにより微小隙間が、部品の製造誤差を吸収したり部品間の線膨張差を吸収したりして、回転軸34をスムーズに回転させることが可能となる。このように、ベアリングサポートリングRGとアウターレース36bとの間に形成される[微小隙間]は、サンルーフモータ20を形成する部品の製造誤差や部品間の線膨張差を吸収する機能を有している。
【0055】
また、
図5,
図8および
図9に示されるように、ハウジング41の内側には、略箱形状に形成されたモータ収容部51が設けられている。このモータ収容部51は、回転軸34の軸方向においてベアリング装着部50のヨーク31側(
図5の右側)に配置されている。
【0056】
モータ収容部51には、電動モータ部30の一部が収容されている。具体的には、
図5に示されるように、モータ収容部51には、電動モータ部30を形成するベアリング支持部材37の装着壁部37bが、がたつくことなく収容されている。
【0057】
[メタルジャケット]
図2ないし
図5に示されるように、サンルーフモータ20の外側の部分には、メタルジャケット60が装着されている。このメタルジャケット60は、サンルーフモータ20の内部で発生した電気ノイズが、ハウジング41の外部に放射されるのを防止する機能を有する。具体的には、メタルジャケット60は、樹脂材料製のハウジング41の周囲に逃げようとする電気ノイズを受け止めて、ヨーク31を介して車体ボディに逃がす機能を有する。
【0058】
メタルジャケット60は、第1導電プレート61および第2導電プレート62を備えている。これらの第1,第2導電プレート61,62は、導電性に優れた材料からなる薄い鋼板(磁性体)をプレス加工等することで、それぞれ所定形状に形成されている。そして、第1,第2導電プレート61,62は、互いに導通可能に電気的に接続されている。
【0059】
第1導電プレート61は、回転軸34の径方向において、三相のコイルCLのヨーク31からはみ出た部分(ハウジング41に入り込んだ部分)および、合計3つの導電部材38を部分的に覆っている。よって、第1導電プレート61は、三相のコイルCLの部分および合計3つの導電部材38の部分から外部に放射しようとする電気ノイズを受け止める。
【0060】
第2導電プレート62は、回転軸34の径方向において、三相のコイルCLのヨーク31からはみ出た部分(ハウジング41に入り込んだ部分)および、回転軸34(ウォーム35)を部分的に覆っている。よって、第2導電プレート62は、三相のコイルCLの部分および回転軸34(ウォーム35)の部分から外部に放射しようとする電気ノイズを受け止める。
【0061】
したがって、ハウジング41の外部に放射しようとする電気ノイズは、メタルジャケット60(第1,第2導電プレート61,62)により受け止められて、その後、ヨーク31を介して車体ボディに逃がされる(アースされる)。
【0062】
次に、以上のように形成されたサンルーフモータ20の組立手順(1)および組立手順(2)、特に、ハウジング41に対する電動モータ部30の装着手順について、図面を用いて詳細に説明する。
【0063】
[組立手順(1)]
図8に示されるように、まず、ハウジング41,第2メタルBR2,ベアリングサポートリングRGおよび回転子組立体RAを準備する。ここで、回転子組立体RAとは、ウォーム35が形成された回転軸34に対して、センサマグネットSM,ボールベアリング36,コア本体33a,合計4つの永久磁石MGおよびマグネットホルダ33bが組み付けられたものを指す。
【0064】
そして、一点鎖線に沿わせるようにして、まず、第2メタルBR1をウォーム収容部49に装着する。次いで、ベアリングサポートリングRGをベアリング装着部50に装着する。その後、回転子組立体RAの軸方向におけるウォーム35側を、モータ収容部51に臨ませる。そして、回転子組立体RAのウォーム35をウォーム収容部49に収容し、ボールベアリング36をベアリング装着部50に装着する。
【0065】
このとき、回転軸34の軸方向先端側を第2メタルBR2に回転自在に支持させ、かつボールベアリング36のアウターレース36bをベアリングサポートリングRGに差し込む。なお、アウターレース36bとベアリングサポートリングRGとの間には微小隙間(図示せず)が設けられているので、回転子組立体RAのハウジング41への装着作業を容易に行えるようになっている。
【0066】
これにより、回転子組立体RAのハウジング41への装着作業が終了する。ここで、組立手順(1)を経て回転子組立体RAが装着された(組み付けられた)ハウジング41を、ハウジングサブアッシーSAとする。なお、合計4つの永久磁石MGの着磁は、回転子33をハウジング41に組み付ける前に、予め図示しない着磁装置により行われる。
【0067】
[組立手順(2)]
次に、
図9に示されるように、ハウジングサブアッシーSA,ベアリング支持部材37,モータサブアッシーMAおよび第1,第2締結ねじS1,S2を準備する。ここで、ベアリング支持部材37には、
図7に示されるように、合計3つの導電部材38を装着しておく。また、モータサブアッシーMAとは、ヨーク31の底壁部31bに第1メタルBR1が装着され、かつヨーク31の側壁部31aに固定子32が固定されたものを指す。
【0068】
そして、一点鎖線に沿わせるようにして、まず、ベアリング支持部材37の導電部材38が突出された側を、モータ収容部51に臨ませる。次いで、ベアリング支持部材37に設けられた複数の装着壁部37bを、モータ収容部51に嵌合させる。このとき、回転子33の外径寸法D1は、環状支持部37cの貫通孔37fの内径寸法D3よりも小さいので(D1<D3)、貫通孔37fの径方向内側に、回転子33を容易に挿通させることが可能となっている。
【0069】
その後、ベアリング支持部材37に設けられた一対の位置決め突起37eの間に、ボールベアリング36のアウターレース36bが入り込む。そして、貫通孔37fの内径寸法D3は、アウターレース36bの外径寸法D2よりも小さいので(D3<D2)、環状支持部37cにおける環状平坦面37dの全周が、アウターレース36bの軸方向他側に軸方向から当接する。
【0070】
このように、アウターレース36bの軸方向一側(
図9の左側)の全周が、ベアリング装着部50により軸方向から支持され、アウターレース36bの軸方向他側(
図9の右側)の全周が、環状支持部37cの環状平坦面37dにより軸方向から支持される。したがって、ボールベアリング36(回転軸34)が傾いてしまうようなことが抑制される。
【0071】
次いで、モータサブアッシーMAをモータ収容部51に臨ませる。このとき、ヨーク31の三相のコイルCLがはみ出た側を、モータ収容部51に臨ませるようにする。そして、固定子32の径方向内側に回転子33を挿入しつつ、ヨーク31の開口側を、ハウジング41に突き当てる。その際に、回転軸34の軸方向基端側を第1メタルBR1に回転自在に支持させるようにする。
【0072】
その後、プラスドライバー等の締結工具(図示せず)を用い、第1締結ねじS1および第2締結ねじS2を、ハウジング41にねじ結合する。これにより、ヨーク31およびハウジング41が互いに強固に固定される。
【0073】
このように、回転子33がハウジング41に組み付けられた後に、ベアリング支持部材37および固定子32がハウジング41に組み付けられて、ベアリング支持部材37およびモータサブアッシーMAのハウジングサブアッシーSAへの装着作業が終了する。なお、組立手順(2)を経た後は、ハウジング41のウォームホイール収容部45にウォームホイール46(
図2参照)を収容し、かつウォームホイール収容部45の開口部分をカバー部材48(
図3参照)で閉塞する。これにより、サンルーフモータ20の組立作業が終了する。
【0074】
以上詳述したように、本実施の形態によれば、ハウジング41に装着され、かつボールベアリング36(アウターレース36b)の軸方向他側を支持するベアリング支持部材37が、ボールベアリング36(アウターレース36b)の軸方向他側の全周を軸方向から支持する環状支持部37c(環状平坦面37d)を備えているので、回転軸34に横力が作用した場合に、ボールベアリング36のハウジング41に対する傾斜を抑えることができる。よって、ハウジング41に対するボールベアリング36の固定強度を向上させ、ひいては減速機構SDのがたつきを抑制することが可能となる。
【0075】
また、本実施の形態によれば、電動モータ部30は、回転軸34が回転中心に固定される回転子33を有し、回転子33は、ボールベアリング36に並んで設けられ、回転子33の外径寸法D1が、環状支持部37c(貫通孔37f)の内径寸法D3よりも小さくなっている(D1<D3)。したがって、サンルーフモータ20を組み立てる際に、環状支持部37c(貫通孔37f)の径方向内側に、回転子33を容易に挿通させることができる。よって、サンルーフモータ20の組立性を向上させることができる。
【0076】
さらに、本実施の形態によれば、電動モータ部30は、回転軸34を回転自在に収容するヨーク31を備え、ベアリング支持部材37が、回転軸34の軸方向において、ボールベアリング36とヨーク31とにより挟まれている。したがって、ヨーク31をハウジング41に固定するだけで、ボールベアリング36を、ベアリング支持部材37を介してがたつかないように固定する(支持する)ことができる。
【0077】
また、本実施の形態によれば、上述のように減速機構SDのがたつきが抑えられるため、サンルーフモータ20の長寿命化を図ることができ、かつ組立性を向上させることができる。よって、製造エネルギーの省力化を図ることが可能となり、これにより国連で定められた持続可能な開発目標(SDGs)における特に目標7(すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的なエネルギーへのアクセスを確保する)および目標13(気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる)を実現することができる。
【0078】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。上記実施の形態では、本発明を、車両12のサンルーフ装置10に用いられるサンルーフモータ20に適用したものを示したが、本発明はこれに限らず、例えば、車両に搭載されるスライドドア装置,パワーウインド装置,ワイパ装置等に用いられる車載用モータ(モータ装置)にも適用することができる。
【0079】
その他、上記実施の形態における各構成要素の材質,形状,寸法,数,設置箇所等は、本発明を達成できるものであれば任意であり、上記実施の形態に限定されない。
【符号の説明】
【0080】
10:サンルーフ装置,11:ルーフパネル,12:車両,13:ルーフ,14:開口部,15a,15b:シュー,16:ガイドレール,17a,17b:駆動ケーブル,20:サンルーフモータ(モータ装置),30:電動モータ部(モータ),31:ヨーク(モータケース),31a:側壁部,31b:底壁部,32:固定子,32a:固定子コア,32b:ティース,33:回転子,33a:コア本体,33b:マグネットホルダ,34:回転軸,35:ウォーム,36:ボールベアリング(軸受部材),36a:インナーレース,36b:アウターレース,37:ベアリング支持部材(軸受支持部材),37a:支持本体,37b:装着壁部,37c:環状支持部,37d:環状平坦面,37e:位置決め突起,37f:貫通孔,38:導電部材,40:減速機構部,41:ハウジング,42:第1壁部,43:第2壁部,44:第3壁部,45:ウォームホイール収容部,46:ウォームホイール,46a:歯部,47:出力軸,47a:出力ギヤ,48:カバー部材,48a:差し込み脚,49:ウォーム収容部,50:ベアリング装着部,51:モータ収容部,60:メタルジャケット,61:第1導電プレート,62:第2導電プレート,AG:隙間,BR1:第1メタル,BR2:第2メタル,CL:コイル,EC:アース用導電部材,FG:フロントガラス,HL:差し込み穴,MA:モータサブアッシー,MG:永久磁石,RA:回転子組立体,RG:ベアリングサポートリング,S1:第1締結ねじ,S2:第2締結ねじ,SA:ハウジングサブアッシー,SD:減速機構,SM:センサマグネット