(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146203
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】回転電機およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 21/22 20060101AFI20231004BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
H02K21/22 D
H02K15/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053278
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀内 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】川田 大介
(72)【発明者】
【氏名】新島 明
【テーマコード(参考)】
5H615
5H621
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB02
5H615BB07
5H615BB14
5H615BB16
5H615PP07
5H615SS03
5H621BB10
5H621GA04
5H621HH04
5H621HH05
5H621JK01
(57)【要約】
【課題】トリガ信号を得るために用いられる凸部を有する回転部材において、その真円性を十分に高める。
【解決手段】筒状壁部33の第1領域部AR1に、筒状壁部33の径方向外側に突出し、クランクシャフトの回転状態を示すトリガ信号を得るために用いられる合計16個のトリガ突起33aが設けられ、筒状壁部33の第2領域部AR2に、筒状壁部33の径方向内側に設けられ、筒状壁部33の径方向外側に窪んだ合計2個の矯正凹部33cが設けられる。矯正凹部33cを設けることで、筒状壁部33が真円に近付くように矯正され、ひいてはトリガ信号を得るために用いられるトリガ突起33aを有する回転子本体31の真円性を十分に高めることが可能となる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子と、
前記固定子に対して回転し、回転方向にN極およびS極が交互に現れるように並べられた複数の永久磁石を有する回転子と、
を備えた回転電機であって、
前記回転子は、
回転軸が固定される底壁部と、
前記底壁部に設けられ、複数の前記永久磁石が固定される筒状壁部と、
を有する回転部材を備え、
前記筒状壁部は、その周方向に並べられた第1領域部および第2領域部を有し、
前記第1領域部には、前記筒状壁部の径方向外側に突出し、前記回転軸の回転状態を示すトリガ信号を得るために用いられる複数の凸部が設けられ、
前記第2領域部には、前記筒状壁部の径方向内側に設けられ、前記筒状壁部の径方向外側に窪んだ少なくとも1つの第1凹部が設けられている、
回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
前記筒状壁部の径方向内側で、かつ前記凸部に対応する部分に、前記第1凹部の深さ寸法よりも深い深さ寸法の第2凹部が設けられている、
回転電機。
【請求項3】
前記筒状壁部の前記第1凹部に対応する部分の外径寸法が、前記筒状壁部の前記凸部および前記第1凹部が設けられていない部分の外径寸法と同じ寸法となっている、
請求項1または請求項2に記載の回転電機。
【請求項4】
固定子と、
前記固定子に対して回転し、回転方向にN極およびS極が交互に現れるように並べられた複数の永久磁石を有する回転子と、
を備えた回転電機の製造方法であって、
回転軸が固定される底壁部、および前記底壁部に設けられ、複数の前記永久磁石が固定される筒状壁部を有する回転部材を準備し、当該回転部材をプレス装置にセットする第1工程と、
前記筒状壁部に設けられる第1領域部に、前記筒状壁部の径方向外側に突出し、前記回転軸の回転状態を示すトリガ信号を得るために用いられる複数の凸部を成形する第2工程と、
前記筒状壁部に設けられる第2領域部に、前記筒状壁部の径方向内側に設けられ、前記筒状壁部の径方向外側に窪んだ少なくとも1つの第1凹部を成形する第3工程と、
を有する、
回転電機の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程において、前記筒状壁部の径方向内側で、かつ前記凸部に対応する部分に、前記第1凹部の深さ寸法よりも深い深さ寸法の第2凹部を成形する、
請求項4に記載の回転電機の製造方法。
【請求項6】
前記第3工程において、前記筒状壁部の前記第1凹部に対応する部分の外径寸法を、前記筒状壁部の前記凸部および前記第1凹部が設けられていない部分の外径寸法と同じ寸法とする、
請求項4または請求項5に記載の回転電機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子および回転子を備えた回転電機およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動二輪車等のエンジンの始動には、例えばACGスタータが用いられている。ACGとは、「Alternating Current Generator」の略であり、ACGスタータは、エンジンの始動時にはクランクシャフトを回転させるスタータモータとして動作し、エンジンの始動後には車載バッテリを充電する発電機として動作する。また、ACGスタータは、クランクシャフトの回転状態の検出にも用いられる。よって、車載コントローラは、プラグの点火タイミングや燃料の噴射タイミングを把握することができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、回転電機に用いられるフライホイール(回転部材)が記載されている。このフライホイールは、有底筒状のヨーク(強磁性体)を備えており、当該ヨークを形成する筒部の内周面には、複数の永久磁石が固定されている。また、筒部の外周面には、外径側に突出し、かつ軸方向に長い形状の複数のトリガ用の突起が、周方向に並んで設けられている。
【0004】
これらのトリガ用の突起は、フライホイールに固定されたクランクシャフトの回転状態を検出するために用いられるものである。具体的には、フライホイールのトリガ用の突起との対向部に配置されたセンサ(磁気センサ)により、磁化されたトリガ用の突起の磁気を検知する。これにより、センサが電気的に接続された車載コントローラは、クランクシャフトの回転状態を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1に記載された技術では、フライホイール(回転部材)の真円性を高め、かつトリガ用の突起(凸部)の成形精度を高めるために、シェービング金型を用いてシェービング仕上げを行っている。しかしながら、フライホイールの周方向において、複数のトリガ用の突起が形成される領域と、これらのトリガ用の突起が形成されない領域とが存在する。そのため、トリガ用の突起を形成して歪んだフライホイールを、シェービング仕上げのみで十分に矯正する(高い真円性を得る)ことが難しかった。
【0007】
本発明の目的は、トリガ信号を得るために用いられる凸部を有する回転部材において、その真円性を十分に高めることが可能な回転電機およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の回転電機では、固定子と、前記固定子に対して回転し、回転方向にN極およびS極が交互に現れるように並べられた複数の永久磁石を有する回転子と、を備えた回転電機であって、前記回転子は、回転軸が固定される底壁部と、前記底壁部に設けられ、複数の前記永久磁石が固定される筒状壁部と、を有する回転部材を備え、前記筒状壁部は、その周方向に並べられた第1領域部および第2領域部を有し、前記第1領域部には、前記筒状壁部の径方向外側に突出し、前記回転軸の回転状態を示すトリガ信号を得るために用いられる複数の凸部が設けられ、前記第2領域部には、前記筒状壁部の径方向内側に設けられ、前記筒状壁部の径方向外側に窪んだ少なくとも1つの第1凹部が設けられている。
【0009】
本発明の回転電機の製造方法では、固定子と、前記固定子に対して回転し、回転方向にN極およびS極が交互に現れるように並べられた複数の永久磁石を有する回転子と、を備えた回転電機の製造方法であって、回転軸が固定される底壁部、および前記底壁部に設けられ、複数の前記永久磁石が固定される筒状壁部を有する回転部材を準備し、当該回転部材をプレス装置にセットする第1工程と、前記筒状壁部に設けられる第1領域部に、前記筒状壁部の径方向外側に突出し、前記回転軸の回転状態を示すトリガ信号を得るために用いられる複数の凸部を成形する第2工程と、前記筒状壁部に設けられる第2領域部に、前記筒状壁部の径方向内側に設けられ、前記筒状壁部の径方向外側に窪んだ少なくとも1つの第1凹部を成形する第3工程と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、筒状壁部の第1領域部に、筒状壁部の径方向外側に突出し、回転軸の回転状態を示すトリガ信号を得るために用いられる複数の凸部が設けられ、筒状壁部の第2領域部に、筒状壁部の径方向内側に設けられ、筒状壁部の径方向外側に窪んだ少なくとも1つの第1凹部が設けられる。第1凹部を設けることで、筒状壁部が真円に近付くように矯正され、ひいてはトリガ信号を得るために用いられる凸部を有する回転部材の真円性を十分に高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るACGスタータを示す斜視図である。
【
図2】
図1のACGスタータの内部構造を説明する断面図である。
【
図3】
図1のACGスタータの回転子本体を示す斜視図である。
【
図4】
図3の回転子本体を図中上方から見た平面図である。
【
図9】[ワークセット工程]を説明する第1プレス装置の断面図である。
【
図10】[トリガ突起成形工程]を説明する第1プレス装置の断面図である。
【
図12】[矯正凹部成形工程]を説明する第2プレス装置の
図11に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明に係るACGスタータを示す斜視図を、
図2は
図1のACGスタータの内部構造を説明する断面図を、
図3は
図1のACGスタータの回転子本体を示す斜視図を、
図4は
図3の回転子本体を図中上方から見た平面図を、
図5は
図4のA矢視図を、
図6は
図5のB-B線に沿う断面図を、
図7は
図6の破線円C部の拡大図を、
図8は
図6の破線円D部の拡大図を、
図9は[ワークセット工程]を説明する第1プレス装置の断面図を、
図10は[トリガ突起成形工程]を説明する第1プレス装置の断面図を、
図11は
図10のE-E線に沿う断面図を、
図12は[矯正凹部成形工程]を説明する第2プレス装置の
図11に対応する断面図をそれぞれ示している。
【0014】
[ACGスタータの概要]
図1および
図2に示されるACGスタータ10は、本発明における回転電機に相当し、自動二輪車等(図示せず)のスタータおよび発電機に用いられる。具体的には、ACGスタータ10は、アウターローター型のブラシレスモータと同じ構造を採用する。そして、エンジン(図示せず)を始動する際には、車載バッテリ(図示せず)からの駆動電流の供給によりスタータモータとして動作し、エンジンの始動後には、エンジンの駆動力により発電機として動作する。
【0015】
ACGスタータ10は、その全体が扁平の略円盤形状に形成され、エンジンの回転部分を形成するクランクシャフト(回転軸)CSの軸方向端部に設けられている。具体的には、ACGスタータ10は、クランクケース(図示せず)の内部に固定される固定子(ステータ)20と、クランクシャフトCSに固定されて固定子20に対して回転する回転子(ロータ)30と、を備えている。
【0016】
また、回転子30の径方向外側には、その周方向に並ぶようにして複数のトリガ突起33aが設けられている。これらのトリガ突起33aは、クランクシャフトCSの回転状態を示すトリガ信号を得るためのもので、その径方向外側には、磁気センサMSが設けられている。磁気センサMSは、例えば、ホール素子であり、クランクケースの内部に固定され、かつ車載コントローラ(図示せず)に電気的に接続されている。
【0017】
ここで、複数のトリガ突起33aは、回転子30の径方向内側に設けられた複数の永久磁石MGにより磁化され、これにより磁気センサMSは、トリガ突起33aと対向する度に、パルス信号(矩形波)を発生する。よって、スタータとして動作するときには、ACGスタータ10に駆動電流が供給され、回転子30の回転に伴いクランクシャフトCSが連れ回され、さらには所定の点火タイミングおよび燃料噴射タイミングでプラグおよび燃料ポンプが動作してエンジンが始動される。一方、発電機として動作するときには、所定の点火タイミングおよび燃料噴射タイミングでプラグおよび燃料ポンプが動作してエンジンが継続的に駆動され、クランクシャフトCSの回転に伴い回転子30が連れ回されて発電される。
【0018】
[固定子]
固定子20は、複数の鋼板(強磁性体)を積層してなるコア21を備えている。コア21は、環状に形成された本体部21aと、本体部21aの径方向外側に放射状に突出された複数のティース21bと、を備えている。なお、
図2では、本体部21aとティース21bとの境界部分に、破線を施している。具体的には、ティース21bは合計18個設けられ(
図1参照)、ティース21bの基端部が本体部21aに一体に連結されている。言い換えれば、コア21には、合計18個のスロットSL(
図1参照)が設けられている。
【0019】
スロットSLには、U相,V相およびW相(三相)に対応するコイルCLが、それぞれコア21の周方向に順番に配置されている。具体的には、U相,V相およびW相に対応するコイルCLは、ティース21bにそれぞれ集中巻で巻装されている。そして、U相,V相およびW相に対応するコイルCLには、それぞれ導電線CDが電気的に接続され、これにより三相のコイルCLに対して、車載コントローラから順次駆動電流が供給される。なお、
図1では、コイルCLの配置を分かり易くするために、当該コイルCLに網掛けを施している。
【0020】
ここで、それぞれのティース21bには、プラスチック等の絶縁体よりなるインシュレータ22が装着されている。インシュレータ22は薄肉となっており、ティース21bの周囲および本体部21aの外周部分を覆っている。これにより、ティース21bおよびコイルCLは互いに絶縁されている。すなわち、コイルCLは、インシュレータ22を介してティース21bに巻装されている。
【0021】
[回転子]
回転子30は、回転子本体31を備えている。回転子本体31は、本発明における回転部材に相当し、
図2ないし
図6に示されるように、比較的厚みのある鋼板(強磁性材料)をプレス加工等することで略お椀形状に形成されている。具体的には、回転子本体31は、略円盤状に形成された底壁部32と、当該底壁部32に一体に設けられ、底壁部32の外周部分から垂直に立ち上がった筒状壁部33と、を備えている。
【0022】
底壁部32の略中央部には、大径穴32aが設けられている。大径穴32aには、クランクシャフト固定部材34のボス部34bが挿通されている。また、大径穴32aの周囲には、合計6つの挿通穴32bが設けられ、これらの挿通穴32bには、リベットRV(
図2参照)が挿通されている。なお、底壁部32には、軽量化等を目的として、複数の他の穴も設けられている。
【0023】
底壁部32の固定子20側とは反対側には、クランクシャフトCSの軸方向端部が固定されるクランクシャフト固定部材34が固定されている。つまり、底壁部32には、クランクシャフト固定部材34を介してクランクシャフトCSが固定されている。クランクシャフト固定部材34は、略環状に形成された環状本体34aと、略筒状に形成されたボス部34bと、を備えている。
【0024】
そして、環状本体34aは、複数のリベットRVにより底壁部32に固定されている。また、ボス部34bは、大径穴32aに挿通されており、ボス部34bには、クランクシャフトCSの軸方向端部が相対回転不能に固定されている。これにより、回転子本体31の回転に伴いクランクシャフトCSが回転されるとともに、クランクシャフトCSの回転に伴い回転子本体31が回転される。
【0025】
なお、クランクシャフト固定部材34の肉厚は、回転子本体31の肉厚よりも厚くなっており、クランクシャフト固定部材34の重量は、比較的重くなっている。これにより、ACGスタータ10とクランクシャフトCSとの固定強度が十分に確保される。さらには、高速回転時等における回転ムラの発生が抑えられ、クランクシャフトCSおよびACGスタータ10の双方に掛かる負荷を低減可能としている。このように、クランクシャフト固定部材34は、回転子本体31を含めてフライホイールとしての機能を有する。
【0026】
[永久磁石]
図1および
図2に示されるように、筒状壁部33の径方向内側、つまり筒状壁部33のコア21側には、合計8個(詳細図示せず)の永久磁石MGが装着されている。これらの永久磁石MGは、フェライト磁石からなり、回転子本体31の回転方向にN極およびS極が交互に現れるように並べられている。ただし、フェライト磁石に限らず、ネオジウム磁石等の他の種類の磁石を使用することもできる。それぞれの永久磁石MGは、いずれも筒状壁部33の内側の形状に倣って略円弧状(略瓦状)に形成され、筒状壁部33に対して、接着剤等(図示せず)により強固に固定されている。
【0027】
また、合計8個の永久磁石MGは、略筒状に形成された磁石ホルダHDにより、回転子本体31の径方向内側から筒状壁部33に向けて押さえ付けられている。よって、それぞれの永久磁石MGが、筒状壁部33から脱落することが、より確実に防止される。なお、磁石ホルダHDは、可撓性を有する薄いステンレス鋼板やSP材(冷間圧延鋼板)等によって形成されている。
【0028】
[トリガ突起]
図6に示されるように、筒状壁部33には、その周方向に並ぶようにして、第1領域部AR1および第2領域部AR2が設けられている。具体的には、筒状壁部33のうちの9分の8(320°の角度範囲)が第1領域部AR1となっており、筒状壁部33のうちの9分の1(40°の角度範囲)が第2領域部AR2となっている。
【0029】
筒状壁部33の第1領域部AR1には、合計16個のトリガ突起33aが設けられている。これらのトリガ突起33aは、本発明における凸部に相当し、筒状壁部33の径方向外側に突出して設けられている。トリガ突起33aは、クランクシャフトCSの回転状態を示すトリガ信号を得るために用いられるのもので、
図2に示されるように、回転子本体31の径方向において磁気センサMSと対向している。
【0030】
ここで、トリガ突起33aと磁気センサMSとの間には、微小隙間δS(約0.5mm程度)が設けられている。これにより、トリガ突起33aと磁気センサMSとの接触を避けつつ、磁化されたトリガ突起33aの磁気を、磁気センサMSにより確実に捉えられるようなっている。なお、それぞれのトリガ突起33aは、筒状壁部33の径方向内側に装着された永久磁石MGの磁力により磁化される。
【0031】
図3および
図5に示されるように、合計16個のトリガ突起33aは、いずれも同じ形状に形成され、筒状壁部33の周方向に短くかつ筒状壁部33の軸方向に長い形状(略直方体形状)となっている。また、これらのトリガ突起33aは、
図6に示されるように、筒状壁部33の第1領域部AR1の範囲内において、筒状壁部33の周方向に等間隔(20°間隔)で配置されている。さらに、全てのトリガ突起33aが、
図2に示されるように、筒状壁部33の軸方向における底壁部32寄りの部分に配置されている。
【0032】
また、
図7に示されるように、トリガ突起33aは、筒状壁部33の径方向外側に突出されており、その突出高さHは、筒状壁部33の肉厚Tに対して、略同じ大きさとなっている(H≒T)。なお、合計16個のトリガ突起33aは、
図9ないし
図11に示される第1プレス装置40によって形成される。
【0033】
図7に示されるように、筒状壁部33のトリガ突起33aに対応する部分の径方向内側(図中下側)には、深さ寸法がd1となった凹部33bが設けられている。凹部33bは、本発明における第2凹部に相当し、筒状壁部33の径方向外側(図中上側)に向けて窪んでいる。そして、凹部33bの深さ寸法d1は、第2領域部AR2に設けられる矯正凹部33c(
図8参照)の深さ寸法d2よりも深い深さ寸法となっている(d1>d2)。
【0034】
ここで、凹部33bは、第1プレス装置40(
図9ないし
図11参照)のパンチ44の先端部44aに押圧されて窪んだ部分であり、これにより筒状壁部33の径方向外側に突出するようにしてトリガ突起33aが形成される。なお、トリガ突起33aの突出高さHは、凹部33bの深さ寸法d1を調整(パンチ44の押し込み量を調整)することで調整される。
【0035】
[矯正凹部]
図6に示されるように、筒状壁部33の第2領域部AR2には、合計2個の矯正凹部33cが設けられている。これらの矯正凹部33cは、本発明における第1凹部に相当し、筒状壁部33の径方向内側に設けられ、かつ筒状壁部33の径方向外側に向けて窪んでいる。一対の矯正凹部33cは、第1領域部AR1にトリガ突起33aを形成したときに生じる筒状壁部33の歪みを除去(矯正)するために設けられるもので、第2領域部AR2に矯正凹部33cを設けることで、筒状壁部33の高い真円性が確保される。
【0036】
なお、本実施の形態では、トリガ突起33a(凹部33b)および矯正凹部33cは、いずれも筒状壁部33の周方向に等間隔(20°間隔)で配置されている。これにより、筒状壁部33をより精度良く真円に近付けることを可能としている。ただし、筒状壁部33に必要とされる精度(真円性)によっては、矯正凹部33cを1つ設けても良いし、3つ以上設けても良い。
【0037】
図3および
図8に示されるように、合計2個の矯正凹部33cは、いずれも同じ形状に形成され、筒状壁部33の周方向に短くかつ筒状壁部33の軸方向に長い形状(略直方体形状)となっている。また、これらの矯正凹部33cは、
図6に示されるように、筒状壁部33の第2領域部AR2の範囲内において、筒状壁部33の周方向に互いに20°間隔となるように配置されている。さらに、一対の矯正凹部33cは、
図3に示されるように、トリガ突起33aと同様に、筒状壁部33の軸方向における底壁部32寄りの部分に配置されている。
【0038】
また、
図8に示されるように、矯正凹部33cの深さ寸法d2は、筒状壁部33をその径方向外側に突出させない程度の浅い寸法(d2<d1)となっている。具体的には、矯正凹部33cの深さ寸法d2は、凹部33bの深さ寸法d1の半分以下に設定されている。これにより、筒状壁部33の矯正凹部33cに対応する部分の外径寸法OD1は、筒状壁部33のトリガ突起33aおよび矯正凹部33cが設けられていない部分の外径寸法OD2と、同じ寸法となっている(OD1=OD2)。
【0039】
このように、矯正凹部33cは、筒状壁部33の真円性を高めることのみを目的に形成され、筒状壁部33の矯正凹部33cに対応する部分は、トリガ突起33aのように筒状壁部33の径方向外側に突出していない。したがって、筒状壁部33の矯正凹部33cが設けられる部分(第2領域部AR2の部分)においては、磁気センサMSは磁気を検出することがなく、パルス信号(矩形波)を発生しない。
【0040】
なお、合計2個の矯正凹部33cは、
図12に示される第2プレス装置50によって形成される。具体的には、矯正凹部33cは、第2プレス装置50のパンチ44の先端部44aに押圧されて窪んだ部分であり、矯正凹部33cの深さ寸法d2は、第2プレス装置50のパンチ44の押し込み量を調整することで調整される。
【0041】
[回転子本体の製造方法]
次に、以上のように形成されたACGスタータ10の製造方法、特に、ACGスタータ10を形成する回転子本体31の製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。
【0042】
なお、回転子本体31の製造方法の説明に先立ち、回転子本体31を製造する第1プレス装置40および第2プレス装置50の構造について説明する。ここで、第1,第2プレス装置40,50は、いずれも本発明におけるプレス装置に相当する。
【0043】
[第1プレス装置]
図9ないし
図11に示される第1プレス装置40は、筒状壁部33の第1領域部AR1(
図6参照)に、トリガ突起33a(凹部33b)を形成するための装置である。第1プレス装置40は、工場の床面等(図示せず)に固定されるボトムベース41と、当該ボトムベース41の上方に配置されるアッパーベース42と、を備えている。
【0044】
ボトムベース41には、パンチホルダ43が移動自在に設けられている。パンチホルダ43は、図示しない駆動機構の駆動力により、アッパーベース42に対して、接近するように移動したり離間するように移動したりする。パンチホルダ43には、トリガ突起33a(凹部33b)を成形するパンチ44が固定されている。パンチ44は凹部33bを形成する先端部44aを有しており、パンチホルダ43は、先端部44aがアッパーベース42側を向くようにパンチ44を保持している。
【0045】
パンチホルダ43の前方側(
図9の左側)には、略円盤状に形成されたワークセット部材45が装着されている。ワークセット部材45は、トリガ突起33a(凹部33b)および矯正凹部33cが形成される前の回転子本体31(ワークW)の筒状壁部33を支持する部分である。なお、ワークセット部材45にはパンチ44が摺接可能となっており、ワークセット部材45はパンチ44の移動を案内する機能を備えている。
【0046】
また、ワークセット部材45のさらに前方側には、略円盤状に形成されたロケーションプレート46が回転自在に設けられている。ロケーションプレート46は、図示しない駆動機構の駆動力により、パンチ44に対して回転する部分である。ロケーションプレート46には、ワークセット部材45に支持されたワークWがピン止め(図示せず)により固定可能となっている。そして、ロケーションプレート46は、ワークWを所定角度毎(トリガ突起33aのピッチ毎)に回転させる機能を備えている。
【0047】
パンチホルダ43のアッパーベース42側には、ストリッパー部材47が設けられている。また、ストリッパー部材47とパンチホルダ43との間には、コイルスプリング(図示せず)が設けられている。これにより、ストリッパー部材47は、コイルスプリングのばね力により、アッパーベース42側に付勢されている。なお、ストリッパー部材47は、トリガ突起33a(凹部33b)を形成した後に、コイルスプリングのばね力により上昇して、パンチ44の先端部44aに食い付いたワークW(回転子本体31)を離脱させる(外す)機能を備えている。
【0048】
アッパーベース42のボトムベース41側には、バッキングプレート48が固定されている。また、バッキングプレート48のボトムベース41側には、穴付きダイ49が固定されている。バッキングプレート48は、第1プレス装置40の動作時に加工荷重を受ける部分であり、高強度の部品となっている。また、穴付きダイ49には、パンチ44の移動方向に延びる穴49aが設けられ、当該穴49aは、パンチ44の移動方向において、パンチ44の先端部44aと対向している。これにより、筒状壁部33の径方向外側に突出するようにして、トリガ突起33aを形成可能としている。
【0049】
なお、
図9に示されるように、第1プレス装置40の初期状態(ワークWをセット可能な状態)では、ワークWと穴付きダイ49との間には、第1隙間L1が形成されている。また、パンチホルダ43とストリッパー部材47との間には、第1隙間L1よりも若干狭い第2隙間L2が形成されている(L2<L1)。
【0050】
[第2プレス装置]
図12に示される第2プレス装置50は、筒状壁部33の第2領域部AR2(
図6参照)に、矯正凹部33cを形成するための装置である。すなわち、第2プレス装置50は、第1プレス装置40による加工を経て歪んだ筒状壁部33(回転子本体31)を、真円に近付くように矯正する機能を備えている。
【0051】
なお、第2プレス装置50では、第1プレス装置40に比して、穴を有さないダイ51を備える点が異なっている。その他の構造については、第1プレス装置40と同じ構造を採用する。よって、
図12において、第1プレス装置40と同じ部品については同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0052】
また、第2プレス装置50では、第1プレス装置40に比して、パンチ44の送り量(押し込み量)が少なくなるように制御される。これにより、筒状壁部33の径方向内側に、凹部33b(深さ寸法d1)よりも浅い深さ寸法d2の矯正凹部33cを、形成することが可能となっている(d2<d1)。
【0053】
[ワークセット工程]
[ワークセット工程]は、本発明における第1工程に相当する。[ワークセット工程]では、まず、予め別の製造工程で製造されたワークWを準備する。なお、ワークWとは、トリガ突起33a(凹部33b)および矯正凹部33c(
図6参照)が形成される前の回転子本体31のことである。
【0054】
次に、準備したワークWを、第1プレス装置40におけるロケーションプレート46の前方側に臨ませて、
図9の矢印M1に示されるように、ワークセット部材45に載せるようにしてセットする。そして、ワークWの底壁部32を、ロケーションプレート46にピン止めにより固定する。
【0055】
これにより、後に回転子本体31となるワークWが、ワークセット部材45およびロケーションプレート46に保持されて、ワークWの第1プレス装置40へのセットが完了する。よって、[ワークセット工程]が終了する。
【0056】
[トリガ突起成形工程]
[トリガ突起成形工程]は、本発明における第2工程に相当する。[トリガ突起成形工程]では、まず、
図9の矢印M2に示されるように、第1プレス装置40を作動させて、パンチホルダ43を第1隙間L1の分だけ上昇させる。すると、ワークWの筒状壁部33の外周部分が、穴付きダイ49の下面(ボトムベース41側の面)に突き当てられる。
【0057】
次に、
図10の矢印M3に示されるように、パンチホルダ43を上昇させる。具体的には、パンチホルダ43を、
図9に示される第2隙間L2の分だけさらに上昇させる。すると、
図10および
図11に示されるように、パンチ44の先端部44aが、筒状壁部33の径方向内側の所定箇所に食い込み、筒状壁部33が塑性変形されて凹部33bが成形される。筒状壁部33の先端部44aで押し出された部分は、穴付きダイ49の穴49aの内部に逃げる。これにより、筒状壁部33の径方向外側に突出するようにして、トリガ突起33aが成形される。
【0058】
なお、上述したトリガ突起33a(凹部33b)の成形動作は、必要とされるトリガ突起33aの数の分だけ繰り返して行われる。具体的には、
図11に示されるように、ロケーションプレート46が矢印RTの方向に20°ずつ回転して、筒状壁部33に設けられる第1領域部AR1(
図6参照)に、合計16個のトリガ突起33aが20°間隔で形成される。
【0059】
このとき、パンチ44の先端部44aは、強い力で筒状壁部33に向けて押圧され、かつ深さ寸法d1の凹部33bを形成するため、筒状壁部33に食い込む。しかしながら、パンチホルダ43の下降動作時において、ストリッパー部材47がコイルスプリングのばね力により筒状壁部33を上方に押圧する。したがって、パンチ44の先端部44aは、筒状壁部33の凹部33bから容易に外れる。
【0060】
このようにして、筒状壁部33の第1領域部AR1へのトリガ突起33a(凹部33b)の成形が完了し、[トリガ突起成形工程]が終了する。
【0061】
[矯正凹部成形工程]
[矯正凹部成形工程]は、本発明における第3工程に相当する。[矯正凹部成形工程]に移行する前に、まず、[トリガ突起成形工程]を終えたワークWが、作業者の手動により、あるいはアームロボットによる自動で、第2プレス装置50にセットされる(
図12参照)。このとき、ワークWは、筒状壁部33に設けられる第2領域部AR2がダイ51と対向するように、第2プレス装置50のワークセット部材45およびロケーションプレート46(図示せず)に保持される。
【0062】
そして、
図12の矢印M4に示されるように、第2プレス装置50を作動させて、パンチホルダ43を上昇させることで、パンチ44の先端部44aによって、筒状壁部33の第2領域部AR2における径方向内側に、筒状壁部33の径方向外側に窪んだ矯正凹部33cが成形される。その後、上述と同様に、ロケーションプレート46が矢印RTの方向に20°だけ回転して、他のもう1つの矯正凹部33cが続けて形成される。
【0063】
これにより、筒状壁部33の第1領域部AR1にトリガ突起33a(凹部33b)を形成したことで生じた筒状壁部33の歪み(特に、第2領域部AR2に集約される歪み)が、筒状壁部33の第2領域部AR2に矯正凹部33cを形成することで矯正されて、筒状壁部33(ワークW)の真円性が高められる。
【0064】
よって、筒状壁部33の矯正凹部33cに対応する部分の外径寸法OD1と、筒状壁部33のトリガ突起33aおよび矯正凹部33cが設けられていない部分の外径寸法OD2とが、それぞれ同じ寸法とされ(OD1=OD2)、[矯正凹部成形工程]が終了し、ひいては真円性が高められた回転子本体31が最終的に完成する。
【0065】
以上詳述したように、本実施の形態によれば、筒状壁部33の第1領域部AR1に、筒状壁部33の径方向外側に突出し、クランクシャフトCSの回転状態を示すトリガ信号を得るために用いられる合計16個のトリガ突起33aが設けられ、筒状壁部33の第2領域部AR2に、筒状壁部33の径方向内側に設けられ、筒状壁部33の径方向外側に窪んだ合計2個の矯正凹部33cが設けられる。矯正凹部33cを設けることで、筒状壁部33が真円に近付くように矯正され、ひいてはトリガ信号を得るために用いられるトリガ突起33aを有する回転子本体31の真円性を十分に高めることが可能となる。
【0066】
また、本実施の形態によれば、筒状壁部33の径方向内側で、かつトリガ突起33aに対応する部分に、矯正凹部33cの深さ寸法d2よりも深い深さ寸法d1の凹部33bが設けられている。これにより、筒状壁部33の径方向内側から径方向外側にパンチ44を押し付けることで、トリガ突起33aおよび矯正凹部33cの双方を形成することができ、ひいては作業効率をアップさせることが可能となる。
【0067】
さらに、本実施の形態によれば、筒状壁部33の矯正凹部33cに対応する部分の外径寸法OD1が、筒状壁部33のトリガ突起33aおよび矯正凹部33cが設けられていない部分の外径寸法OD2と同じ寸法となっている。これにより、回転子本体31の真円性が高められて、回転子本体31の回転ムラの発生が抑えられて、クランクシャフトCSの回転抵抗の増大等が抑えられて、自動二輪車等の燃費向上を図ることが可能となる。
【0068】
また、本実施の形態によれば、上述のように作業効率をアップさせつつ、回転子本体31の真円性を十分に高めることができ、さらには自動二輪車等の燃費向上を図ることができるので、国連で定められた持続可能な開発目標(SDGs)における特に目標7(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)および目標13(気候変動に具体的な対策を)を達成することが可能となる。
【0069】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施の形態では、合計8個の永久磁石MGを有し、かつ合計18個のティース21b(スロットSL)を有するACGスタータ10を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、永久磁石MGやティース21b(スロットSL)の個数、さらにはトリガ突起33aや矯正凹部33cの個数は、ACGスタータに必要とされる仕様に応じて任意に設定することができる。
【0070】
また、上記実施の形態では、二台のプレス装置(第1プレス装置40および第2プレス装置50)を用いて、トリガ突起33aおよび矯正凹部33cを形成した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、一台の第1プレス装置40を用い、かつパンチ44の送り量を精度良く制御することで、トリガ突起33aおよび矯正凹部33cの双方を成形することもできる。この場合、矯正凹部33cを成形する際に、できる限り筒状壁部33の径方向外側に突起部が形成されないようにする。仮に、突起部が形成されたとしても、その突出高さを低く抑えるようにし、磁気センサMS(
図2参照)により当該部分の磁気を検出させないようにする。
【0071】
さらに、上記実施の形態では、ACGスタータ10を、自動二輪車等のスタータおよび発電機に用いられるものを例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、耕運機などの農機具や小型船舶の船外機等に用いられるACGスタータにも適用することができる。
【0072】
その他、上記実施の形態における各構成要素の材質,形状,寸法,数,設置箇所等は、本発明を達成できるものであれば任意であり、上記実施の形態に限定されない。
【符号の説明】
【0073】
10:ACGスタータ(回転電機),20:固定子,21:コア,21a:本体部,21b:ティース,22:インシュレータ,30:回転子,31:回転子本体(回転部材),32:底壁部,32a:大径穴,32b:挿通穴,33:筒状壁部,33a:トリガ突起(凸部),33b:凹部(第2凹部),33c:矯正凹部(第1凹部),34:クランクシャフト固定部材,34a:環状本体,34b:ボス部,40:第1プレス装置(プレス装置),41:ボトムベース,42:アッパーベース,43:パンチホルダ,44:パンチ,44a:先端部,45:ワークセット部材,46:ロケーションプレート,47:ストリッパー部材,48:バッキングプレート,49:穴付きダイ,49a:穴,50:第2プレス装置(プレス装置),51:ダイ,AR1:第1領域部,AR2:第2領域部,CD:導電線,CL:コイル,CS:クランクシャフト(回転軸),HD:磁石ホルダ,L1:第1隙間,L2:第2隙間,MG:永久磁石,MS:磁気センサ,OD1,OD2:外径寸法,RV:リベット,SL:スロット,W:ワーク,δS:微小隙間