(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146210
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】燃料電池用ガスケット
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0276 20160101AFI20231004BHJP
H01M 8/021 20160101ALI20231004BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20231004BHJP
【FI】
H01M8/0276
H01M8/021
H01M8/0206
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053286
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100198856
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】由井 元
(72)【発明者】
【氏名】渡部 茂
(72)【発明者】
【氏名】眞坂 武史
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA13
5H126DD05
5H126EE06
5H126JJ03
(57)【要約】
【課題】比較的簡易な構成でガスケットに対する圧縮荷重に伴うビードの変形や拡がりを抑え、シール性の低下を生じさせることのなく、かつ、レーザー溶接が不要若しくはレーザー溶接の溶接箇所を低減することの可能なガスケットの提供を課題とする。
【解決手段】ガスケット1は、第一ビード7を有する第一セパレータ2と、第一セパレータ2と重ね合わせられ、第一ビード7と相対する位置に形成された第二ビード13を有する第二セパレータ3とを具備し、第一セパレータ2は、第一ビード7に近接して配設され、第一ビード7の凸設方向と同方向に第一セパレータ表面2aから凸設された第一凸部8を更に有し、第二セパレータ3は、第二ビード13に近接して配設され、第二ビード13の凸設方向と反対方向に第二セパレータ裏面3bから凸設され、第一凸部8と嵌合可能な第二凸部14を更に有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一ビードを有する第一セパレータと、
前記第一セパレータと重ね合わせられ、前記第一ビードと相対する位置に形成された第二ビードを有する第二セパレータとを具備し、
前記第一セパレータは、
前記第一ビードに近接して配設され、
前記第一ビードの凸設方向と同方向に第一セパレータ表面から凸設された第一凸部を更に有し、
前記第二セパレータは、
前記第二ビードに近接して配設され、
前記第二ビードの凸設方向と反対方向に第二セパレータ裏面から凸設され、前記第一凸部と嵌合可能な第二凸部を更に有する燃料電池用ガスケット。
【請求項2】
前記第一凸部の前記第一セパレータ表面からの凸部高さは、
前記第一ビードの前記第一セパレータ表面からのビード高さと同一若しくはそれ以下に設定される請求項1に記載の燃料電池用ガスケット。
【請求項3】
前記第一凸部は、
前記第一ビードのビード中心位置から少なくとも10mm以内の位置に配設される請求項1または2に記載の燃料電池用ガスケット。
【請求項4】
前記第一凸部及び前記第二凸部は、
前記第一ビード及び前記第二ビードの長手方向に沿って、予め規定された間隔で複数配設される請求項1に記載の燃料電池用ガスケット。
【請求項5】
前記第一凸部及び前記第二凸部は、
前記第一セパレータ表面または前記第二セパレータ裏面から鉛直方向に対して傾斜して凸設された断面テーパー形状を呈する請求項1に記載の燃料電池用ガスケット。
【請求項6】
互いに嵌合された状態の前記第一凸部及び前記第二凸部は、
前記第一ビード及び前記第二ビードのビード長手方向に沿った前記第一凸部の裏面及び前記第二凸部の表面の間の第一嵌合隙間に対し、
前記ビード長手方向に直交するビード直交方向に沿った前記第一凸部の裏面及び前記第二凸部の表面の間の第二嵌合隙間が前記第一嵌合隙間と同一若しくはそれ以下に設定される請求項1に記載の燃料電池用ガスケット。
【請求項7】
前記第一セパレータ及び前記第二セパレータは、
ステンレス製、またはチタン製の金属プレートによって構成される請求項1に記載の燃料電池用ガスケット。
【請求項8】
前記第一凸部及び前記第二凸部、若しくは、前記第一ビード及び前記第二ビードと近接した位置に設けられ、
互いに重ね合わされた前記第一セパレータ及び前記第二セパレータをレーザー溶接によって接合したレーザー接合部を更に具備する請求項1に記載の燃料電池用ガスケット。
【請求項9】
前記第一凸部及び前記第二凸部は、
上方視で断面矩形状、断面円形状、及び断面楕円形状の少なくともいずれか一つで形成される請求項1に記載の燃料電池用ガスケット。
【請求項10】
一の前記第一凸部に対し、二またはそれ以上の前記第二凸部が嵌合される請求項1に記載の燃料電池用ガスケット。
【請求項11】
前記第一セパレータは、
前記第一ビードに近接して配設され、
前記第一ビードの凸設方向と反対方向に前記第一セパレータ表面から凹設された第一凹部を更に有し、
前記第二セパレータは、
前記第二ビードに近接して配設され、
前記第二ビードの凸設方向と同方向に前記第二セパレータ裏面から凹設され、前記第一凹部と嵌合可能な第二凹部を更に有する請求項1に記載の燃料電池用ガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用ガスケットに関する。更に詳しくは、セパレータと一体的に構成されるセパレータ一体型の燃料電池用ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池自動車等を主たる用途とする燃料電池(燃料電池スタック)が多く開発されている。かかる燃料電池スタックは、単位セルを複数積層することで構成される積層体と、当該積層体を収納する収納体とを主に具備している。
【0003】
更に、単位セルは、主要な構成部材として電解質膜、電極、ガス拡散層、セパレータ、及びガスケット(シール材)を有し、アノード側から水素等の燃料ガスを供給し、一方、カソード側から空気等の酸化ガスを供給することにより燃料ガスと酸化ガスとの反応により発電が行われている。また、セパレータとガスケットとを一体化したセパレータ一体型の燃料電池用ガスケットも知られている。
【0004】
単位セルの一部を構成するセパレータは、水素等の燃料ガスや空気等の酸化ガスからなる気体(流体)をそれぞれ流通可能とするための流体流路を形成する。また、ガスケットによって流体流路からこれらの流体が外部に漏出することのない密封構造が形成される。
【0005】
セパレータは、平板状の金属製プレートを所定の形状にプレス加工することによってプレート面から凸設された畝状のビードが形成されている。そして、アノード側及びカソード側にそれぞれ配された一対のセパレータ同士を互いに重ね合わせることにより、互いに相対するビードによって囲まれた流体流路が形成される。凸設された反力を利用することで、流体の漏出を防ぐための高いシール性(密封性)を維持することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
更に具体的に説明すると、従来の燃料電池用ガスケット100は、例えば、
図11に示すように、それぞれビード101が形成されたアノード側セパレータ102と、カソード側セパレータ103とを具備し、アノード側セパレータ102及びカソード側セパレータ103を互いに重ね合わせて構成されている。
【0007】
このとき、アノード側セパレータ102のビード101に対し、カソード側セパレータ103のビード101は、アノード側セパレータ102のビード101と相対する位置に配設され、かつ凸設方向を反対方向にして形成されている。すなわち、一対のビード101を組み合わせることで、
図11に示すように、略断面六角形状の流体流路FCが形成されている。また、ビード101のビード連結部104には、弾性ゴム部105が被覆されており、燃料電池用ガスケット100はより高いシール性を維持することができる。
【0008】
ここで、上記燃料電池用ガスケット100の場合、例えば、燃料電池用ガスケット100(特に、単位セル)を圧縮する方向(
図12において紙面上下方向に相当、荷重方向F1,F2)に力が加えられた場合、ビード101は当該圧縮する方向に直交する方向(拡張方向D1,D2)に沿って拡がろうとする。その結果、ビード101のばね特性が低下し、ビード101による反力が十分でなくため、上記シール性が損なわれる可能性があった。
【0009】
そのため、アノード側セパレータ102及びカソード側セパレータ103の間をレーザー溶接等によって接合したレーザー接合部106を設け、圧縮に対するビード101の変形(
図13の左右一対の矢印参照)を抑制し、安定したシール性を発揮させることが行われている(
図13参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、燃料電池スタックの製造において、上記のようなアノード側セパレータ及びカソード側セパレータをレーザー溶接する接合工程が必要な場合、製造工程数の増加や溶接作業のための作業時間が増加する等のおそれがあった。
【0012】
特に一の単位セルに対して、このような変形を防ぐためのレーザー溶接を複数箇所で行う必要があるため、燃料電池スタックの製造において、作業効率が低下したり、製造コストが増加したりする等の問題を生じることがあった。
【0013】
そこで、本発明は上記実情に鑑み、比較的簡易な構成で燃料電池用ガスケットに対する圧縮荷重に伴うビードの変形や拡がりを抑え、十分なばね特性を発揮させることでシール性の低下を生じさせることのない燃料電池用ガスケットの提供を課題とするものである。特に、レーザー溶接等の製造工数の増加や溶接作業の作業時間の増加を抑え、レーザー溶接自体を不要、若しくはレーザー溶接による溶接箇所の低減化により作業時間等や製造コストを抑えることが可能な燃料電池用ガスケットの提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、上記課題を解決した燃料電池用ガスケットが下記において提供される。
【0015】
[1] 第一ビードを有する第一セパレータと、前記第一セパレータと重ね合わせられ、前記第一ビードと相対する位置に形成された第二ビードを有する第二セパレータとを具備し、前記第一セパレータは、前記第一ビードに近接して配設され、前記第一ビードの凸設方向と同方向に第一セパレータ表面から凸設された第一凸部を更に有し、前記第二セパレータは、前記第二ビードに近接して配設され、前記第二ビードの凸設方向と反対方向に第二セパレータ裏面から凸設され、前記第一凸部と嵌合可能な第二凸部を更に有する燃料電池用ガスケット。
【0016】
[2] 前記第一凸部の前記第一セパレータ表面からの凸部高さは、前記第一ビードの前記第一セパレータ表面からのビード高さと同一若しくはそれ以下に設定される前記[1]に記載の燃料電池用ガスケット。
【0017】
[3] 前記第一凸部は、前記第一ビードのビード中心位置から少なくとも10mm以内の位置に配設される前記[1]または[2]に記載の燃料電池用ガスケット。
【0018】
[4] 前記第一凸部及び前記第二凸部は、前記第一ビード及び前記第二ビードの長手方向に沿って、予め規定された間隔で複数配設される前記[1]に記載の燃料電池用ガスケット。
【0019】
[5] 前記第一凸部及び前記第二凸部は、前記第一セパレータ表面または前記第二セパレータ裏面から鉛直方向に対して傾斜して凸設された断面テーパー形状を呈する前記[1]に記載の燃料電池用ガスケット。
【0020】
[6] 互いに嵌合された状態の前記第一凸部及び前記第二凸部は、前記第一ビード及び前記第二ビードのビード長手方向に沿った前記第一凸部の裏面及び前記第二凸部の表面の間の第一嵌合隙間に対し、前記ビード長手方向に直交するビード直交方向に沿った前記第一凸部の裏面及び前記第二凸部の表面の間の第二嵌合隙間が前記第一嵌合隙間と同一若しくはそれ以下に設定される前記[1]に記載の燃料電池用ガスケット。
【0021】
[7] 前記第一セパレータ及び前記第二セパレータは、ステンレス製、またはチタン製の金属プレートによって構成される前記[1]に記載の燃料電池用ガスケット。
【0022】
[8] 前記第一凸部及び前記第二凸部、若しくは、前記第一ビード及び前記第二ビードと近接した位置に設けられ、互いに重ね合わされた前記第一セパレータ及び前記第二セパレータをレーザー溶接によって接合したレーザー接合部を更に具備する前記[1]に記載の燃料電池用ガスケット。
【0023】
[9] 前記第一凸部及び前記第二凸部は、上方視で断面矩形状、断面円形状、及び断面楕円形状の少なくともいずれか一つで形成される前記[1]に記載の燃料電池用ガスケット。
【0024】
[10] 一の前記第一凸部に対し、二またはそれ以上の前記第二凸部が嵌合される前記[1]に記載の燃料電池用ガスケット。
【0025】
[11] 前記第一セパレータは、前記第一ビードに近接して配設され、前記第一ビードの凸設方向と反対方向に前記第一セパレータ表面から凹設された第一凹部を更に有し、前記第二セパレータは、前記第二ビードに近接して配設され、前記第二ビードの凸設方向と同方向に前記第二セパレータ裏面から凹設され、前記第一凹部と嵌合可能な第二凹部を更に有する前記[1]に記載の燃料電池用ガスケット。
【発明の効果】
【0026】
本発明の燃料電池用ガスケットは、第一ビード及び第二ビードに近接し、互いに嵌合可能な第一セパレータの第一凸部及び第二セパレータの第二凸部を有するより、第一セパレータ及び第二セパレータを重ね合わせた状態で当該第一セパレータ及び第二セパレータの動きを規制し、燃料電池用ガスケットを圧縮する方向に荷重が加えられた場合でも、第一ビード及び第二ビードの拡がりを抑え、安定したシール性を維持することができる。
【0027】
加えて、第一ビード及び第二ビードの拡がりを抑えるための第一セパレータ及び第二セパレータのレーザー溶接による接合作業を省略若しくは、接合箇所の低減化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態の燃料電池用ガスケットの概略構成を示す説明図である。
【
図2】本実施形態の燃料電池用ガスケットの概略構成を示す正面視の断面図である。
【
図3】本実施形態の燃料電池用ガスケットの概略構成を示す上方視の平面図である。
【
図4】第一嵌合隙間を示すための
図3におけるA-A’線断面図である。
【
図5】第二嵌合隙間を示すための
図3におけるB-B’線断面図である。
【
図6】本発明の別例構成(1)の燃料電池用ガスケットの第一凸部及び第二凸部の断面形状を示す上方視説明図である。
【
図7】本発明の別例構成(2)の燃料電池用ガスケットのレーザー接合部の位置を示す上方視説明図である。
【
図8】本発明の別例構成(3)の燃料電池用ガスケットの第一凸部及び第二凸部の嵌合状態を示す上方視説明図である。
【
図9】本発明の別例構成(4)の燃料電池用ガスケットの第一凸部及び第二凸部とレーザー接合部の位置を示す上方視説明図である。
【
図10】本発明の別例構成(5)の燃料電池用ガスケットの第一凹部及び第二凹部の位置を示す説明図である。
【
図11】従来の燃料電池用ガスケットの概略構成を示す説明図である。
【
図12】従来の燃料電池用ガスケットの圧縮荷重によるビードの変形を示す説明図である。
【
図13】従来の燃料電池用ガスケットのレーザー接合部の位置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しつつ、本発明の燃料電池用ガスケットの実施の形態について説明する。なお、本発明の燃料電池用ガスケットは、以下に示すものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、種々の設計の変更、修正、及び改良等を加え得るものである。
【0030】
1.燃料電池用ガスケット
本発明の一実施形態の燃料電池用ガスケット1(以下、単に「ガスケット1」と称す。)は、
図1~
図5に主として示すように、燃料電池スタックの単位セル(図示しない)の一部として構成されるものであり、第一セパレータ2と、第二セパレータ3と、第一セパレータ2及び第二セパレータ3にそれぞれ取着される弾性ゴム部4とを具備して構成されている。
【0031】
第一セパレータ2は、平板状の金属プレートPをプレス成形し、予め規定された所定形状となるように折曲加工して形成されたものであり、金属プレートPのプレート長手方向(
図2における紙面水平方向に相当)を基準とした場合、第一セパレータ表面2aから斜め上方向に屈曲し、傾斜した一対の第一ビード脚部5a,5bと、一対の第一ビード脚部5a,5bの一端同士の間を連結し、第一セパレータ表面2aに沿って平行な第一ビード連結部6とを有し、断面凸形状(
図2参照)に形成された第一ビード7と、第一ビード7に近接して配設され、第一ビード7の凸設方向と同方向に第一セパレータ表面2aから凸設された第一凸部8とを有している。
【0032】
更に、本実施形態のガスケット1は、第一ビード7の第一ビード連結部6の表面を被覆するように、前述の弾性ゴム部4が周知の手法によって取着されている。ここで、金属プレートPは、例えば、ステンレス製のプレート、或いはチタン製のプレート等の種々の金属製のプレートを採用することができる。
【0033】
第一凸部8について更に具体的に説明すると、上述した第一ビード7と同様に、第一セパレータ表面2aから斜め上方向に屈曲し、傾斜した一対の第一凸部傾斜部9と、第一凸部傾斜部9の一端同士の間を連結し、第一セパレータ表面2aに沿って平行な第一凸部連結部10とを有し、断面凸形状に形成されている。
【0034】
このとき、第一セパレータ表面2aから第一凸部8の第一凸部連結部10までの高さを示す凸部高さH1(
図2参照)は、第一セパレータ表面2aから第一ビード7の第一ビード連結部6までの高さを示すビード高さH2(
図2参照)と同一若しくはそれ以下となるように設定されている。すなわち、“ビード高さH2≧凸部高さH1”の関係を満たすように設定されている。
【0035】
更に、第一凸部8は、第一ビード7のビード中心位置C(
図2参照)から少なくとも10mm以内の近接した位置に第一凸部傾斜部9若しくは第一凸部連結部10が配されるように設定されている。すなわち、ビード中心位置Cから第一凸部8に至るまでの距離L1,L2(
図2参照)が少なくとも10mm以内に設定されている。
【0036】
このように、第一ビード7のビード高さH2を基準として第一凸部8の凸部高さH1が規定され、かつ第一ビード7に近接する距離L1,L2の範囲で第一凸部8が配設されている。
【0037】
一方、第二セパレータ3は、第一セパレータ2と同様に、平板状の金属プレートPをプレス成形し、予め規定された所定形状となるように折曲加工して形成されたものであり、金属プレートPのプレート長手方向(
図2における紙面水平方向に相当)を基準とした場合、第二セパレータ表面3aから斜め下方向に屈曲し、傾斜した一対の第二ビード脚部11a,11bと、一対の第二ビード脚部11a,11bの一端同士の間を連結し、第二セパレータ表面3aに沿って平行な第二ビード連結部12とを有し、断面逆凸形状(
図2参照)に形成された第二ビード13と、第二ビードに近接して配設され、第二ビード13の凸設方向と反対方向に第二セパレータ裏面3bから凸設された第二凸部14とを有している。また、第一セパレータ2と同様に、第二ビード13の第二ビード連結部12の表面を被覆するように弾性ゴム部4が取着されている。
【0038】
ここで、第二セパレータ3における第二ビード13は、当該第二セパレータ3に重ね合わせられる第一セパレータ2の第二ビード13に相対する位置に配設され、第一ビード7と凸設方向を異にしている。すなわち、金属プレートPのプレート長手方向を中心として対称となるように形成されている。
【0039】
第二凸部14について更に具体的に説明すると、第二セパレータ裏面3bから斜め上方向に屈曲し、傾斜した一対の第二凸部傾斜部15と、第二凸部傾斜部15の一端同士を連結し、第二セパレータ裏面3bに沿って平行な第二凸部連結部16とを有し、断面凸形状に形成されている。
【0040】
このとき、第二凸部14の第二セパレータ裏面3bからの凸部高さ(図示しない)及び第一ビード7及び第二ビード13からの距離(図示しない)は、嵌合される第一凸部8の凸部高さH1及び距離L1,L2によって決定される。
【0041】
上記構成とすることにより、第一セパレータ2及び第二セパレータ3を互いに重ね合わせることで、異なる方向にそれぞれ凸設された第一ビード7及び第二ビード13によって囲まれた断面略六角形状の空間である流体流路FCが形成され(
図2参照)、当該流体流路FCに水素等の燃料ガスや空気等の酸化ガス等の種々の流体(気体)を流通させることが可能となる。
【0042】
このとき、第二凸部14は、第一セパレータ2及び第二セパレータ3を互いに重ね合わせると、第一セパレータ2の第一凸部8に嵌合された状態となる。すなわち、第一凸部8の第一セパレータ裏面2b側と第二凸部14の第二セパレータ裏面3bの少なくとも一部が当接した状態となる(
図1及び
図2参照)。
【0043】
これにより、ガスケット1を圧縮する方向(
図1及び
図2において紙面上下方向に層津尾)からの荷重(
図12参照)が加わった場合でも、第一凸部8及び第二凸部14の嵌合によって第一セパレータ2の第一ビード7及び第二セパレータ3の第二ビード13がプレート長手方向に沿って拡がろうとする変形を抑制することができる。その結果、第一ビード7及び第二ビード13の反力を利用したガスケット1の安定したシール性を維持することができる。
【0044】
特に、上記の通り、第一ビード7に近接する10mm以内の範囲に第一凸部8を配設し、かつ、第一ビード7のビード高さH2に対し、少なくとも同一若しくはそれ以下となるように第一凸部8の凸部高さH1を設定することにより、上記のシール性をより確実に安定したものとすることができる。
【0045】
加えて、本実施形態のガスケット1は、第一凸部8及びこれに嵌合可能な第二凸部14が第一ビード7及び第二ビード13のビード長手方向X(
図1参照、
図2における紙面手前方向から奥行方向に相当)に沿って所定の間隔で複数配設されている。
【0046】
このように複数個の第一凸部8等をビード長手方向Xに沿って所定の間隔を空けて不連続的に配設することにより、ガスケット1を圧縮する方向に荷重が加わった場合でも第一ビード7等がより変形し難い構造となっている。なお、十分なビード特性が得られるものであれば、第一ビード7等と同様に、ビード長手方向に沿って第一凸部8等を連続的に形成したものであっても構わない。
【0047】
更に、本実施形態のガスケット1の第一凸部8及び第二凸部14は、前述したように、第一セパレータ表面2aから斜め上方向に屈曲し、折り曲げ加工された第一凸部傾斜部9及び第二セパレータ裏面3bから斜め上方向に屈曲し、折り曲げ加工された第二凸部傾斜部15をそれぞれ有している。
【0048】
すなわち、第一凸部傾斜部9(または第二凸部傾斜部15)のそれぞれの下端の間の幅に対し、第一凸部傾斜部9(または第二凸部傾斜部15)のそれぞれの上端の間の幅(第一凸部連結部10または第二凸部連結部16の長さに相当)が短くなるように形成されている。
【0049】
これにより、第一凸部8及び第二凸部14の正方視または側方視の断面において断面テーパー形状を呈するように形成されている。更に具体的には、第一凸部8の凸設される第一セパレータ表面2aまたは第二凸部14の凸設された第二セパレータ裏面3bから鉛直方向に対して傾斜して凸設されている。このように第一凸部8等を断面テーパー形状の構成とすることで、第一セパレータ2及び第二セパレータ3を重ね合わせ、第一凸部8及び第二凸部14を嵌合する際及び圧縮時における変形を抑えることができる。
【0050】
更に、本実施形態のガスケット1は、互いに嵌合された第一凸部8及び第二凸部14が第一ビード7及び第二ビード13のビード長手方向Xに沿った第一凸部8の裏面(第一セパレータ裏面2b側)及び第二凸部14の表面(第二セパレータ裏面3b側)の間の第一嵌合隙間a(
図5参照)に対し、ビード長手方向Xに直交するビード直交方向Yに沿った第一凸部8の裏面及び第二凸部14の表面の間の第二嵌合隙間b(
図4参照)が当該第一嵌合隙間aと同一若しくはそれ以下に設定されている。すなわち、“第一嵌合隙間a≧第二嵌合隙間b”の関係を満たすように設定されている。
【0051】
第一ビード7等の水平方向に沿って拡がる変形を抑制するために、第二嵌合隙間bは可能な限り小さく設定することにより、第一ビード7等の変形を更に確実に抑制することができる。一方、ビード長手方向Xに対する変形はそれほど大きくないため、第一嵌合隙間aは比較的大きなものであっても構わない。
【0052】
以上、示したように本実施形態のガスケット1は、第一セパレータ2の第一ビード7に近接する位置に第一凸部8を設け、かつ第一凸部8に嵌合するように第二セパレータ3に第二凸部14を設けることにより、第一セパレータ2及び第二セパレータ3を重ね合わせた際の第一ビード7等の変形を確実に抑制することができる。
【0053】
2.別例構成のガスケット(燃料電池用ガスケット)
本発明のガスケットは上記構成に限定されるものではなく、例えば、下記に示す種々の態様をするものであっても構わない。なお、下記の別例構成のガスケットにおいて、上述の本実施形態のガスケット1と同一構成のものについては、同一番号を付し、特に詳細な説明は以下において省略するものとする。
【0054】
2.1 別例構成(1)のガスケット
別例構成(1)のガスケット20は、
図6に示すように、上方視断面矩形状(略長方形状)の第一凸部21に対し、上方視断面円形状の第二凸部22a及び上方視断面楕円形状の第二凸部22bを具備して構成されている。
【0055】
すなわち、第一凸部21に嵌合可能な形状であれば、第二凸部の形状は特に限定されるものではなく、本実施形態のガスケット1において示したような第一凸部8と第二凸部14とが相似形状のものでなくても構わない。なお、断面矩形状の第一凸部21に対し、断面円形状若しくは断面楕円形状の第二凸部22a,22bを示したが、第一凸部21を断面円形状等に変更するものであっても構わない。
【0056】
別例構成(1)のガスケット20のように、第一凸部21及び第二凸部22a,22bを互いに異なる形状にした場合であっても、第一ビード7の変形を十分に抑制する効果を奏することができ、レーザー溶接等の作業工程を省略することができる。
【0057】
2.2 別例構成(2)のガスケット30
別例構成(2)のガスケット30は、
図7に示すように、第一凸部31及び第一凸部31と嵌合した断面円形状の第二凸部32に近接する位置、更に具体的には第一ビード7と相対する反対側の位置にレーザー接合部33を具備して構成されるものである。
【0058】
すなわち、従来から周知のセパレータを接合する技術を利用し、第一セパレータ2及び第二セパレータ(図示しない)を強固に接合し、第一ビード7の変形を更に確実に抑制する効果を奏することができる。なお、レーザー溶接等の作業工程を省略することができないものの、第一凸部31及び第二凸部32の嵌合による作用効果によってレーザー接合部33を設ける接合箇所を従来と比して大幅に低減することが可能となる。そのため、作業時間の短縮及び製造コストを抑える効果を有する。
【0059】
2.3 別例構成(3)のガスケット
別例構成(3)のガスケット40は、
図8に示すように、一つの断面矩形状の第一凸部41に対して二つの断面円形状の第二凸部42a,42bが嵌合されたものである。更に、第一凸部41に近接する位置には、別例構成(2)において示したレーザー接合部43を具備している。
【0060】
すなわち、一の第一凸部41に対し、二またはそれ以上の第二凸部42a,42bが嵌合されるものであっても構わない。これにより、第一凸部41との第二凸部42a,42bとの嵌合状態がより確実なものとなり、第一ビード7の変形を更に効果的に抑制することができる。
【0061】
2.4 別例構成(4)のガスケット
別例構成(4)のガスケット50は、
図9に示すように、第一ビード7に近接する位置、更に具体的には第一凸部51及び第二凸部52と相対する位置にレーザー接合部53を具備して構成されるものである。すなわち、第一ビード7の片側(
図9における紙面右方側)に第一凸部51及び第二凸部52からなる嵌合箇所が設けられ、他方の側にレーザー接合部53を設け、第一凸部51及び第二凸部52と、レーザー接合部53とで第一ビード7を挟み込んだ形成されるものである。
【0062】
すなわち、第一凸部51及び第二凸部52の嵌合とレーザー接合部53とを組み合わせることで、第一ビード7の変形を抑制することができる。
【0063】
2.5 別例構成(5)のガスケット
別例構成(5)のガスケット60は、
図10に示すように、第一セパレータ61と、第二セパレータ62と、第一セパレータ61及び第二セパレータ62にそれぞれ取着される弾性ゴム部63とを主に具備して構成され、第一セパレータ61には既に示した第一凸部64及び第二セパレータ62には既に示した第二凸部65がそれぞれ設けられている。
【0064】
更に、第一セパレータ61は、第一凸部64からビード長手方向Xに沿って所定の間隔をあけて、かつ、第一ビード66に近接して配設され、第一ビード66の凸設方向と異なる方向に第一セパレータ表面61aから凹設された第一凹部67を有している。
【0065】
一方、第二セパレータ62は、第二ビード68に近接して配設され、第二ビード68の凸設方向と同方向に第二セパレータ裏面62aから凹設され、第一凹部67と嵌合可能な第二凹部69を有している。
【0066】
すなわち、別例構成(5)のガスケット60は、既に説明した構成である第一凸部64及び第二凸部65の凸設方向と反対方向に凸設(凹設)された第一凹部67及び当該第一凹部67と嵌合可能な第二凹部69を有している。なお、第一凹部67及び第二凹部69の構成及び作用効果は、凸設方向(凹設方向)が異なるのみで略同一であるため、ここでは説明を省略する。
【0067】
第一凸部64及び第二凸部65の嵌合による効果に加え、第一凹部67及び第二凹部69の嵌合による効果を備えるため、別例構成(5)のガスケット60は、第一ビード66の変形を更に抑制することができる。
【0068】
以上のように、本発明の別例構成(1)~(5)のガスケット20,30,40,50,60は、既に示した本実施形態のガスケット1と若干の構成上の相違は認められるものの、基本的な構成は類似しており、かつ、ガスケット20等に対する圧縮荷重に対し、第一ビード7等の拡がりや変形を抑制し、安定したシール性を維持することができる。
【0069】
そのため、第一セパレータ2及び第二セパレータ3を重ね合わせた際の第一ビード7等に加わる圧縮荷重の大きさ等に応じて適切な態様のガスケット1等を選択することで、第一ビード7等の変形を効率的、かつ確実に抑制することができる。すなわち、本実施形態のガスケット1、及び別例構成として示されたガスケット20,30,40,50,60を燃料電池用ガスケットとして好適に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の燃料電池用ガスケットは、燃料電池自動車等に使用される燃料電池の製造に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1,20,30,40,50,60,100:ガスケット(燃料電池用ガスケット)
2,61:第一セパレータ
2a,61a:第一セパレータ表面
2b:第一セパレータ裏面
3,62:第二セパレータ
3a:第二セパレータ表面
3b,62a:第二セパレータ裏面
4,63,105:弾性ゴム部
5a,5b:第一ビード脚部
6:第一ビード連結部
7,66:第一ビード
8,21,31,41,51,64:第一凸部
9:第一凸部傾斜部
10:第一凸部連結部
11a,11b:第二ビード脚部
12:第二ビード連結部
13,68:第二ビード
14,22a,22b,32,42a,42b,52,65:第二凸部
15:第二凸部傾斜部
16:第二凸部連結部
33,43,53,106:レーザー接合部
67:第一凹部
69:第二凹部
101:ビード
102:アノード側セパレータ
103:カソード側セパレータ
104:ビード連結部
C:ビード中心位置
D1,D2:拡張方向
F1,F2:荷重方向
FC:流体流路
H1:凸部高さ
H2:ビード高さ
L1,L2:距離
P:金属プレート