(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146218
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】造形データの作成方法、造形データ生成装置、及び造形システム
(51)【国際特許分類】
B29C 64/386 20170101AFI20231004BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20231004BHJP
B29C 64/112 20170101ALI20231004BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20231004BHJP
【FI】
B29C64/386
B33Y50/00
B29C64/112
B33Y30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053295
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142653
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】荒井 航
(72)【発明者】
【氏名】津村 徳道
(72)【発明者】
【氏名】永沢 和輝
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AR07
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL85
4F213WL96
(57)【要約】
【課題】多様な質感を表現する造形物を適切に造形する。
【解決手段】造形物50を示す造形データを作成する造形データの作成方法であって、造形物50の形状を決定する形状決定段階と、造形物50の形状に応じて造形物50の表面に生じる陰影を示す陰影データを取得する陰影データ取得段階と、造形物50の表面の各位置に対して着色する色を陰影データに基づいて決定する表面色決定段階とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形装置に造形させる造形物を示すデータである造形データを作成する造形データの作成方法であって、
前記造形物の形状を決定する形状決定段階と、
前記造形物の形状に応じて前記造形物の表面に生じる陰影を示すデータである陰影データを取得する陰影データ取得段階と、
前記造形物の表面の各位置に対して着色する色を前記陰影データに基づいて決定する表面色決定段階と
を備えることを特徴とする造形データの作成方法。
【請求項2】
前記陰影データ取得段階において、前記陰影データとして、前記造形物の表面に生じる陰影を示す画像である陰影画像を取得し、
前記表面色決定段階において、前記陰影画像に対する階調反転を行った画像である反転画像に基づき、前記造形物の表面の各位置に対して着色する色を決定することを特徴とする請求項1に記載の造形データの作成方法。
【請求項3】
前記表面色決定段階において、前記反転画像に基づき、前記造形物の形状に応じて前記造形物の表面に生じる陰影の影響が低減されて観察者に知覚されるように、前記造形物の表面の各位置に対して着色する色を決定することを特徴とする請求項2に記載の造形データの作成方法。
【請求項4】
前記造形物に対して照射される光によって前記造形物の表面に生じる陰影の影響で観察者に知覚される質感を知覚質感と定義し、表面の各位置の色を均一にした前記造形物において知覚される前記知覚質感を均一色質感と定義した場合、
前記表面色決定段階において、前記均一色質感と異なる前記知覚質感が観察者に知覚されるように、前記造形物の表面の各位置に対して着色する色を決定することを特徴とする請求項1に記載の造形データの作成方法。
【請求項5】
前記知覚質感は、半透明性に関する質感であり、
前記表面色決定段階において、前記知覚質感が前記均一色質感と異なることで前記造形物における少なくとも一部の半透明性がより高く知覚されるように、前記造形物の表面の各位置に対して着色する色を決定することを特徴とする請求項4に記載の造形データの作成方法。
【請求項6】
前記形状決定段階において、前記造形物の形状を示すデータである形状データに基づき、前記造形物の形状を決定し、
前記表面色決定段階において、前記形状データが示す立体形状の表面に対して貼り付けられるテクスチャを生成することを特徴とする請求項1に記載の造形データの作成方法。
【請求項7】
前記形状データ及び前記テクスチャに基づいて前記造形データを生成する造形データ生成段階を更に備え、
前記造形データ生成段階において、光を散乱する性質の含有物である散乱体を含み、かつ、単位体積あたりに含む前記散乱体の量を位置によって異ならせた領域である散乱領域を備える前記造形物を示す前記造形データを生成することを特徴とする請求項6に記載の造形データの作成方法。
【請求項8】
前記造形データ生成段階において、前記散乱領域の各位置で単位体積あたりに含む前記散乱体の量を前記陰影データに基づいて決定することにより、前記散乱領域を備える前記造形物を示す前記造形データを生成することを特徴とする請求項7に記載の造形データの作成方法。
【請求項9】
前記陰影データ取得段階において、AO法(Ambient Occlusion法)を用いたコンピュータシミュレーションにより、前記陰影データを取得することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の造形データの作成方法。
【請求項10】
前記陰影データ取得段階において、前記形状決定段階で決定した形状と同じ形状の立体物を作成し、前記立体物に対して光を照射することで前記立体物の表面に生じさせた陰影に基づき、前記陰影データを取得することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の造形データの作成方法。
【請求項11】
前記造形データは、既存の立体物を示すデータであり、
前記陰影データ取得段階において、前記既存の立体物の表面に生じる陰影に基づき、前記陰影データを取得することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の造形データの作成方法。
【請求項12】
造形装置に造形させる造形物を示すデータである造形データを生成する造形データ生成装置であって、
前記造形物の形状を決定する形状決定処理と、
前記造形物の形状に応じて前記造形物の表面に生じる陰影を示すデータである陰影データを取得する陰影データ取得処理と、
前記造形物の表面の各位置に対して着色する色を前記陰影データに基づいて決定する表面色決定処理と
を行って、前記造形データを生成することを特徴とする造形データ生成装置。
【請求項13】
造形物を造形する造形装置であって、
請求項12に記載の造形データ生成装置と、
前記造形データ生成装置が生成する前記造形データに基づいて前記造形物を造形する造形装置と
を備えることを特徴とする造形システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形データの作成方法、造形データ生成装置、及び造形システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットヘッドを用いて造形物を造形する造形装置(3Dプリンタ)が知られている(例えば、特許文献1参照。)。このような造形装置においては、例えば、インクジェットヘッドにより形成するインクの層を複数層重ねることにより、積層造形法で造形物を造形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
造形装置で造形物の造形を行う場合、通常、造形装置の構成に合わせて予め用意されている造形の材料を用いて造形を行う。例えば、インクジェットヘッドを用いて造形を行う場合、インクジェットヘッド用のインクが造形の材料として用いられる。そして、この場合、造形物の質感について、造形の材料に応じて決まる質感になることが考えられる。これに対し、近年、造形装置の用途の広がり等により、より高い意匠性の造形物を造形することが望まれる場合がある。また、この場合において、例えば、より多様な質感での造形を行うことが望まれる場合がある。そこで、本発明は、上記の課題を解決できる造形データの作成方法、造形データ生成装置、及び造形システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の発明者は、造形装置で造形する立体的な造形物に関し、様々な質感の造形物を造形する方法について、鋭意研究を行った。そして、人間が質感を知覚する知覚システムに関する様々な実験等を行うことで、質感に対応する物理的な特性を変化させない場合でも、造形物の表面への着色の仕方を変化させることで、観察者に所望の質感を知覚させ得ることを見出した。より具体的に、造形物の観察時には、通常、周囲の環境光により、その形状等に応じて、造形物の表面に陰影が生じることになる。また、この場合、陰影のでき方について、例えば、造形物の表面付近で生じる散乱現象や光輸送の状態等の物理的な特性を反映していると考えることができる。これに対し、本願の発明者は、造形物の表面に生じる陰影に応じた着色を造形物の表面に対して行うことで、本来の陰影とは異なる状態で陰影が生じているかのように観察者に視認させ、いわば錯視的に、観察者が知覚する質感を変化させることを考えた。
【0006】
また、本願の発明者は、更なる鋭意研究により、このような効果を得るために必要な特徴を見出し、本発明に至った。上記の課題を解決するために、本発明は、造形装置に造形させる造形物を示すデータである造形データを作成する造形データの作成方法であって、前記造形物の形状を決定する形状決定段階と、前記造形物の形状に応じて前記造形物の表面に生じる陰影を示すデータである陰影データを取得する陰影データ取得段階と、前記造形物の表面の各位置に対して着色する色を前記陰影データに基づいて決定する表面色決定段階とを備える。
【0007】
このように構成した場合、造形物の表面の各位置に対して着色する色を陰影データに基づいて決定することにより、造形物の状態について、例えば、本来の陰影とは異なる状態で陰影が生じているかのように観察者に視認させることができる。また、これにより、例えば、観察者が知覚する質感を変化させることができる。そのため、このように構成すれば、例えば、多様な質感を表現する造形物を適切に造形することができる。また、これにより、例えば、所望の質感での造形を行うことや、意匠性の高い造形物を造形すること等をより適切に行うことができる。
【0008】
この構成において、造形物の表面の各位置に対して着色する色は、例えば1色の色のみであってもよい。この場合、造形物の表面の各位置に対して着色する色を決定することについて、例えば、色の濃さを決定すること等と考えることができる。色の濃さを決定することについては、例えば、各位置でのその色の階調を決定すること等と考えることができる。また、色の濃さを決定することについては、例えば、その色の明るさを決定すること等と考えることもできる。造形物の表面の各位置に対しては、カラー着色(例えば、フルカラー着色)を行ってもよい。この場合、造形物の表面の各位置に対して着色する色を決定することは、例えば、カラー表現の基本色となる複数の色のそれぞれについて、色の濃さを決定することであってよい。
【0009】
この構成において、陰影データ取得段階では、陰影データとして、例えば、造形物の表面に生じる陰影を示す画像である陰影画像を取得する。表面色決定段階では、例えば、陰影画像に対する階調反転を行った画像である反転画像を生成してもよい。この場合、例えば、反転画像に基づき、造形物の表面の各位置に対して着色する色を決定する。このように構成すれば、例えば、造形物に生じる陰影によって観察者が受ける印象を適切に変化させることができる。また、これにより、例えば、造形物に対して観察者が知覚する質感を適切に変化させることができる。また、この場合、表面色決定段階では、例えば、反転画像に基づき、造形物の形状に応じて造形物の表面に生じる陰影の影響が低減されて観察者に知覚されるように、造形物の表面の各位置に対して着色する色を決定する。このように構成すれば、例えば、造形物に対して観察者が知覚する質感を適切に変化させることができる。また、陰影画像に対しては、例えば、階調反転以外の処理を行うことも考えられる。この場合、例えば、階調反転に加えて、階調数を制限する処理やガンマ補正の処理等を更に行うことが考えられる。このように構成すれば、例えば、陰影の影響を様々に変化させることができる。
【0010】
また、造形物に対して照射される光によって造形物の表面に生じる陰影の影響で観察者に知覚される質感を知覚質感と定義し、表面の各位置の色を均一にした造形物において知覚される知覚質感を均一色質感と定義した場合、表面色決定段階では、例えば、均一色質感と異なる知覚質感が観察者に知覚されるように、造形物の表面の各位置に対して着色する色を決定する。このように構成すれば、例えば、造形物に対して観察者が知覚する質感を適切に変化させることができる。また、知覚質感としては、例えば、半透明性(半透明感)に関する質感を用いることが考えられる。この場合、表面色決定段階では、例えば、知覚質感が均一色質感と異なることで造形物における少なくとも一部の半透明性がより高く知覚されるように、造形物の表面の各位置に対して着色する色を決定する。このように構成すれば、例えば、造形物の質感として、高い半透明性を適切に表現することができる。
【0011】
また、形状決定段階では、例えば、造形物の形状を示すデータである形状データに基づき、造形物の形状を決定する。そして、表面色決定段階では、例えば、形状データが示す立体形状の表面に対して貼り付けられるテクスチャを生成する。この場合、このテクスチャとして、例えば、造形物の表面の各位置に着色すべき色を示すテクスチャを生成することが考えられる。このように構成すれば、例えば、造形物の表面の各位置に着色する色を適切に指定することができる。また、この場合、造形データの作成方法は、例えば、形状データ及びテクスチャに基づいて造形データを生成する造形データ生成段階を更に備える。このように構成すれば、例えば、造形データを適切に作成することができる。
【0012】
また、造形データ生成段階では、例えば、造形物の質感を変化させるための領域を備える構成の造形物を示す造形データを生成してもよい。また、このような造形データとしては、例えば、光を散乱する性質の含有物である散乱体を含む散乱領域を備える造形物を示す造形データを生成することが考えられる。この場合、散乱領域は、例えば、散乱体を含み、かつ、単位体積あたりに含む散乱体の量を位置によって異ならせた領域である。このように構成すれば、例えば、造形物の実際の質感についても、様々に変化させることができる。また、この場合、陰影データに基づいて造形物の表面の各位置に対して着色する色を決定することと、散乱領域によって造形物の実際の質感を異ならせることとを組み合わせることにより、造形物に対して観察者が知覚する質感をより多様に変化させることができる。また、この場合、散乱領域の形成の仕方についても、陰影データに基づいて決定することが考えられる。より具体的に、この場合、造形データ生成段階において、例えば、散乱領域の各位置で単位体積あたりに含む散乱体の量を陰影データに基づいて決定することにより、散乱領域を備える造形物を示す造形データを生成する。このように構成すれば、例えば、造形物に生じる陰影によって観察者が受ける印象をより適切に変化させることができる。
【0013】
また、陰影データ取得段階では、例えば、AO法(Ambient Occlusion法)を用いたコンピュータシミュレーションにより、陰影データを取得する。このように構成すれば、例えば、陰影データを容易かつ適切に取得することができる。陰影データ取得段階では、AO法以外の方法のコンピュータシミュレーションにより、陰影データを取得してもよい。また、コンピュータシミュレーションによらず、例えば実際に測定を行うことで、陰影データを取得してもよい。この場合、陰影データ取得段階では、例えば、形状決定段階で決定した形状と同じ形状の立体物を作成し、この立体物に対して光を照射することで立体物の表面に生じさせた陰影に基づき、陰影データを取得する。このように構成すれば、例えば、陰影データを高い精度で適切に取得することができる。この場合、測定対象の立体物については、例えば、造形装置を用いて造形することが考えられる。また、この立体物について、造形装置による造形以外の方法で作成してもよい。また、造形データとしては、例えば、造形データの作成を開始する前から存在している既存の立体物を示すデータを作成すること等も考えられる。そして、このような場合、例えば、既存の立体物を用いて、陰影データを取得すること等も考えられる。より具体的に、この場合、陰影データ取得段階では、例えば、既存の立体物の表面に生じる陰影に基づき、陰影データを取得する。このように構成した場合も、例えば、陰影データを高い精度で適切に取得することができる。
【0014】
また、本発明の構成として、上記と同様の特徴を有する造形データ生成装置や造形システム等を用いることも考えられる。これらの場合も、例えば、上記と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、例えば、多様な質感を表現する造形物を適切に造形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る造形システム10の一例を示す図である。
図1(a)は、造形システム10の構成の一例を示す。
図1(b)は、造形装置12の要部の構成の一例を示す。
図1(c)は、ヘッド部102の構成の一例を示す。
【
図2】造形装置12により造形する造形物50の構成について説明をする図である。
図2(a)は、造形物50の構成の一例を示す。
図2(b)は、造形物50の構成の変形例を示す。
【
図3】制御PC14において造形データを生成する動作について説明をする図である。
図3(a)は、造形データを生成する動作の一例を示すフローチャートである。
図3(b)は、質感調整用のテクスチャを生成する動作の一例を示すフローチャートである。
【
図4】AOテクスチャ及び質感調整用のテクスチャについて更に詳しく説明をする図である。
図4(a)は、AOテクスチャの一例を示す。
図4(b)は、質感調整用のテクスチャの例を示す。
【
図5】質感調整用のテクスチャを生成する動作の更なる変形例の動作を示すフローチャートである。
【
図6】造形物50の変形例について更に詳しく説明をする図である。
図6(a)は、散乱領域156を備える造形物50の構成の一例を示す。
図6(b)は、散乱領域156を備える造形物50の構成の他の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る造形システム10の一例を示す。
図1(a)は、造形システム10の構成の一例を示す。本例において、造形システム10は、立体的な造形物を造形する造形システムであり、造形装置12及び制御PC14を備える。造形システム10において造形する造形物については、例えば、立体的な三次元構造物等と考えることができる。
【0018】
造形装置12は、造形物の造形を実行する装置であり、制御PC14の制御に応じて、造形物を造形する。また、本例において、造形装置12は、フルカラーでの着色がされた造形物を造形可能なフルカラー造形装置であり、造形しようとする造形物を示すデータである造形データを制御PC14から受け取り、造形データに基づいて、造形物を造形する。制御PC14は、造形装置12の動作を制御するコンピュータ(ホストPC)であり、造形データを造形装置12へ供給することにより、造形装置12による造形の動作を制御する。また、本例において、制御PC14は、造形データ生成装置の一例であり、外部から色彩を視認できる表面の少なくとも一部に着色がされた造形物を示す造形データを生成して、造形装置12へ供給する。制御PC14において造形データを生成する動作については、後に更に詳しく説明をする。
【0019】
尚、本例において、造形システム10は、複数の装置である造形装置12及び制御PC14により構成されている。造形システム10の変形例において、造形システム10は、一台の装置により構成されてもよい。この場合、例えば、制御PC14の機能を含む一台の造形装置12により造形システム10を構成すること等が考えられる。また、造形システム10は、造形装置12及び制御PC14以外の装置を更に備えてもよい。
【0020】
続いて、造形装置12の構成について、説明をする。
図1(b)は、造形装置12の要部の構成の一例を示す。本例において、造形装置12は、積層造形法により造形物50を造形する3Dプリンタであり、ヘッド部102、造形台104、走査駆動部106、及び制御部110を有する。この場合、積層造形法については、例えば、造形の材料で形成される層を重ねることで造形物50を造形する方法等と考えることができる。また、以下に説明をする点を除き、造形装置12は、公知の造形装置と同一又は同様の構成を有してよい。より具体的に、以下に説明をする点を除き、造形装置12は、インクジェットヘッドを用いて造形物50の材料となる液滴を吐出することで造形を行う公知の造形装置と同一又は同様の特徴を有してよい。また、造形装置12は、図示した構成以外にも、例えば、造形物50の造形等に必要な各種構成を更に備えてよい。
【0021】
ヘッド部102は、造形物50の材料を吐出する構成である。本例において、造形物50の材料としては、インクを用いる。インクについては、例えば、機能性の液体等と考えることができる。また、インクについて、例えば、インクジェットヘッドから吐出する液体等と考えることもできる。また、本例において、ヘッド部102は、造形物50の材料として、複数のインクジェットヘッドから、所定の条件に応じて硬化するインクを吐出する。そして、着弾後のインクを硬化させることにより、造形物50を構成する各層を重ねて形成して、積層造形法で造形物を造形する。また、本例では、このようなインクとして、紫外線の照射により液体状態から硬化する紫外線硬化型インク(UVインク)を用いる。また、ヘッド部102は、造形物50の材料に加え、サポート層52の材料を更に吐出する。これにより、ヘッド部102は、造形物50の周囲等に、必要に応じて、サポート層52を形成する。サポート層52については、例えば、造形中の造形物50の少なくとも一部を支持する積層構造物等と考えることができる。サポート層52は、造形物50の造形時において、必要に応じて形成され、造形の完了後に除去される。
【0022】
造形台104は、造形中の造形物50を支持する台状部材であり、ヘッド部102におけるインクジェットヘッドと対向する位置に配設され、造形中の造形物50及びサポート層52を上面に載置する。また、本例において、造形台104は、積層方向(図中のZ方向)へ移動可能な構成を有しており、走査駆動部106に駆動されることにより、造形物50の造形の進行に合わせて、積層方向への移動を行う。この場合、積層方向については、例えば、積層造形法において造形の材料が積層される方向等と考えることができる。また、本例において、積層方向は、造形装置12において予め設定される主走査方向(図中のY方向)及び副走査方向(図中のX方向)と直交する方向である。
【0023】
走査駆動部106は、造形中の造形物50に対して相対的に移動する走査動作をヘッド部102に行わせる駆動部である。本例において、造形中の造形物50に対して相対的に移動することについては、例えば、造形台104に対して相対的に移動すること等と考えることができる。また、ヘッド部102に走査動作を行わせることについては、例えば、ヘッド部102が有するインクジェットヘッドに走査動作を行わせること等と考えることができる。本例において、走査駆動部106は、走査動作として、主走査動作(Y走査)、副走査動作(X走査)、及び積層方向走査動作(Z走査)をヘッド部102に行わせる。この場合、主走査動作については、例えば、造形中の造形物50に対して相対的に主走査方向へ移動しつつインクを吐出する動作等と考えることができる。副走査動作については、例えば、主走査方向と直交する副走査方向へ造形中の造形物50に対して相対的に移動する動作等と考えることができる。また、副走査動作については、例えば、予め設定された送り量だけ副走査方向へ造形台104に対して相対的に移動する動作等と考えることもできる。本例において、走査駆動部106は、ヘッド部102に主走査動作及び副走査動作を行わせることで、ヘッド部102にインクの層を形成させる。また、積層方向走査動作については、例えば、造形中の造形物50に対して相対的に積層方向へ移動する動作等と考えることができる。走査駆動部106は、造形の動作の進行に合わせてヘッド部102に積層方向走査動作を行わせることにより、積層方向において、造形中の造形物50に対するインクジェットヘッドの相対位置を調整する。
【0024】
制御部110は、例えば造形装置12のCPUを含む構成であり、造形装置12の各部を制御することにより、造形物50の造形の動作を制御する。また、本例において、制御部110は、制御PC14から受け取る造形データに基づき、造形しようとする造形物50の断面を示すデータであるスライスデータを生成する。そして、造形物50を構成するそれぞれのインクの層を形成する動作において、スライスデータに基づいてヘッド部102における各インクジェットヘッドの動作を制御することにより、造形物の造形に用いるインクを各インクジェットヘッドに吐出させる。本例によれば、例えば、造形物50の造形を適切に実行することができる。
【0025】
続いて、造形装置12におけるヘッド部102の構成について、更に詳しく説明をする。
図1(c)は、ヘッド部102の構成の一例を示す。本例において、ヘッド部102は、複数のインクジェットヘッド202、複数の紫外線光源204、及び平坦化ローラ206を有する。また、複数のインクジェットヘッド202として、図中において文字s~tを付して区別して示すように、インクジェットヘッド202s、インクジェットヘッド202w、インクジェットヘッド202y、インクジェットヘッド202m、インクジェットヘッド202c、インクジェットヘッド202k、及びインクジェットヘッド202tを有する。これらの複数のインクジェットヘッド202は、副走査方向における位置を揃えて、主走査方向へ並べて配設される。また、それぞれのインクジェットヘッド202は、造形台104と対向する面に、所定のノズル列方向へ複数のノズルが並ぶノズル列を有する。本例において、ノズル列方向は、副走査方向と平行な方向である。
【0026】
また、これらのインクジェットヘッド202のうち、インクジェットヘッド202sは、サポート層52の材料を吐出するインクジェットヘッドである。サポート層52の材料としては、例えば、サポート層用の公知の材料を好適に用いることができる。インクジェットヘッド202wは、白色(W色)のインクを吐出するインクジェットヘッドである。本例において、白色のインクは、光反射性のインクの一例であり、例えば造形物50において光を反射する性質の領域(光反射領域)を形成する場合に用いられる。この光反射領域は、例えば、造形物50表面に対してフルカラー表現等でのカラー着色を行う場合に、造形物50の外部から入射する光を反射する。フルカラー表現については、例えば、プロセスカラーのインクによる減法混色法の可能な組み合わせで行う色の表現等と考えることができる。
【0027】
インクジェットヘッド202y、インクジェットヘッド202m、インクジェットヘッド202c、インクジェットヘッド202k(以下、インクジェットヘッド202y~kという)は、着色された造形物50の造形時に用いられる着色用のインクジェットヘッドである。より具体的に、インクジェットヘッド202yは、イエロー色(Y色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド202mは、マゼンタ色(M色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド202cは、シアン色(C色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド202kは、ブラック色(K色)のインクを吐出する。また、本例において、YMCKの各色は、プロセスカラーの一例である。インクジェットヘッド202tは、クリアインクを吐出するインクジェットヘッドである。クリアインクについては、例えば、可視光に対して無色で透明(T)なインク等と考えることができる。また、クリアインクについて、例えば、意図的に色材を添加していないインク等と考えることもできる。
【0028】
複数の紫外線光源204は、インクを硬化させるための光源(UV光源)であり、紫外線硬化型インクを硬化させる紫外線を発生する。本例において、複数の紫外線光源204のそれぞれは、間にインクジェットヘッド202の並びを挟むように、ヘッド部102における主走査方向の一端側及び他端側のそれぞれに配設される。紫外線光源204としては、例えば、UVLED(紫外線LED)等を好適に用いることができる。また、紫外線光源204として、メタルハライドランプや水銀ランプ等を用いることも考えられる。平坦化ローラ206は、造形物50の造形中に形成されるインクの層を平坦化するための平坦化手段である。平坦化ローラ206は、例えば主走査動作時において、インクの層の表面と接触して、硬化前のインクの一部を除去することにより、インクの層を平坦化する。以上のような構成のヘッド部102を用いることにより、例えば、造形物50を構成するインクの層を適切に形成できる。また、複数のインクの層を重ねて形成することにより、例えば、造形物50を適切に造形できる。
【0029】
尚、ヘッド部102の具体的な構成については、上記において説明をした構成に限らず、様々に変形することもできる。例えば、ヘッド部102は、着色用のインクジェットヘッドとして、上記以外の色用のインクジェットヘッドを更に有してもよい。また、ヘッド部102における複数のインクジェットヘッドの並べ方についても、様々に変形可能である。例えば、一部のインクジェットヘッドについて、他のインクジェットヘッドと副走査方向における位置をずらしてもよい。
【0030】
続いて、本例の造形装置12により造形する造形物50の構成について、更に詳しく説明をする。
図2は、造形装置12により造形する造形物50の構成について説明をする図である。
図2(a)は、造形物50の構成の一例を示す図であり、積層方向(Z方向)と直交する造形物50の断面であるX-Y断面の構成の一例を示す。この場合、X方向やY方向と垂直な造形物50のY-Z断面やX-Z断面の構成も、同様の構成になる。また、
図2においては、図示の便宜上、単純な形状の造形物50について、造形物50の構成の例を示している。実際の造形時において、造形装置12では、より複雑な形状の造形物50を造形することも可能である。より具体的に、造形装置12では、例えば、人間や動物等の自然物を示す造形物50を造形すること等が考えられる。
【0031】
本例において、造形装置12は、インクジェットヘッド202y~k(
図1参照)等を用いて、表面が着色された造形物50を造形する。造形物50の表面が着色されることについては、例えば、造形物50において外部から色彩を視認できる領域の少なくとも一部が着色されること等と考えることができる。また、この場合、造形装置12は、例えば図中に示すように、光反射領域152及び着色領域154を備える造形物50を造形する。この場合、制御PC14(
図1参照)は、これらの領域を備える造形物50を示す造形データを生成し、造形装置12へ供給することで、造形装置12に造形物50を造形させる。また、造形装置12は、必要に応じて、造形物50の周囲等に、サポート層52(
図1参照)を形成する。
【0032】
光反射領域152は、着色領域154を介して造形物50の外側から入射する光を反射するための光反射性の領域である。本例において、造形装置12は、インクジェットヘッド202w(
図1参照)から吐出する白色のインクを用いて、造形物50の内部に光反射領域152を形成する。また、本例において、造形装置12は、内部領域を兼ねた光反射領域152を形成する。この場合、内部領域については、例えば、造形物50の内部を構成する領域等と考えることができる。造形物50の構成の変形例においては、内部領域について、光反射領域152とは別の領域として形成してもよい。この場合、造形装置12は、例えば、サポート層52の材料以外の任意のインクを用いて、内部領域を形成する。また、内部領域の周囲に、光反射領域152を形成する。
【0033】
着色領域154は、インクジェットヘッド202y~kから吐出する着色用のインクにより着色がされる領域である。本例において、造形装置12は、インクジェットヘッド202y~kから吐出する着色用のインクと、インクジェットヘッド202t(
図1参照)から吐出するクリアインクとを用いて、光反射領域152の周囲(外側)に着色領域154を形成する。また、この場合、造形装置12では、例えば、各位置への各色の着色用のインクの吐出量を調整することにより、様々な色を表現する。このように構成すれば、例えば、造形物50の表面の各位置に対して、様々な色でのカラー着色(例えば、フルカラー着色)を行うことができる。また、この場合、着色する色を位置によって異ならせることで、造形物50の表面に様々な模様や文字等を描くことができる。また、本例においては、色の違いによって生じる着色用のインクの量の変化を補填するために、クリアインクを用いる。このように構成すれば、例えば、着色領域154の各位置を所望の色で適切に着色できる。
【0034】
また、造形物50の用途等によっては、造形物50の表面の各位置に対して着色する色について、1色の色のみにすること等も考えられる。この場合、例えば、1色の着色用のインク(例えば、K色のインク等)と、クリアインクとを用いて、着色領域154を形成することが考えられる。また、例えば、その1色の着色用のインクで着色する色の濃さを着色領域154における位置によって異ならせることが考えられる。この場合、例えば、単位体積あたりに吐出する着色用のインクの量を変えることで、色の濃さを変化させることが考えられる。また、クリアインクについて、例えば、色の濃さの違いが生じる着色用のインクの量の変化を補填するために用いると考えることができる。
【0035】
また、造形物50の構成の変形例においては、例えば
図2(b)に示すように、光反射領域152と着色領域154との間に他の領域を更に形成してもよい。
図2(b)は、造形物50の構成の変形例を示す図である。本変形例において、造形物50は、光反射領域152、散乱領域156、及び着色領域154を備える。この場合、光反射領域152及び着色領域154は、例えば、
図2(a)における光反射領域152及び着色領域154と同一又は同様の領域である。また、散乱領域156は、光反射領域152と着色領域154との間に形成される。この場合、制御PC14は、これらの領域を備える造形物50を示す造形データを生成し、造形装置12へ供給することで、造形装置12に造形物50を造形させる。
【0036】
また、本変形例において、散乱領域156は、白色のインクとクリアインクとを用いて形成される領域である。この場合、白色のインクが含む色材(例えば、顔料等)について、例えば、光を散乱する性質の含有物である散乱体の一例と考えることができる。また、散乱領域156について、例えば、クリアインクと白色のインクとの使用比率に応じて決まる割合で散乱体を含むことで光を散乱する性質になっている領域等と考えることができる。このように構成した場合、着色領域154の内側に散乱領域156を形成することで、例えば、造形物50の実際の質感についても、様々に変化させることができる。また、これにより、例えば、散乱領域156を形成しない場合と比べて、造形物50に対する観察者が知覚する造形物50の質感について、より多様に変化させることができる。そのため、散乱領域156については、例えば、見かけ上の造形物50の質感をより多様に変化させるための領域等と考えることもできる。造形物50の構成の更なる変形例においては、光反射領域152を省略すること等も考えられる。この場合、散乱領域156について、光反射領域152を兼ねた領域になると考えることができる。また、この場合、造形物50は、例えば、内部領域、散乱領域156、及び着色領域154を備える。散乱領域156を用いる変形例については、後に更に詳しく説明をする。
【0037】
続いて、本例の造形装置12において造形データに基づいて造形する造形物50の特徴や、制御PC14において造形データを生成する動作について、更に詳しく説明をする。上記においても説明をしたように、本例の造形装置12では、造形物50の材料として、インクジェットヘッドから吐出するインクを用いる。そして、この場合、造形される造形物50質感について、インクの特性を反映した質感になると考えることができる。しかし、造形物50の用途等によっては、造形物50において、より多様な様々な質感を表現することが望まれる場合がある。
【0038】
この点に関し、本願の発明者は、人間が質感を知覚する知覚システムに関する様々な実験等を行うことで、質感に対応する物理的な特性を変化させない場合でも、造形物の表面への着色の仕方を変化させることで、観察者に所望の質感を知覚させ得ることを見出した。より具体的に、例えば、造形装置12で造形する造形物50のような立体的な物体を観察する場合、周囲の環境光により、その形状等に応じて、物体の表面に陰影が生じることになる。また、この場合、陰影のでき方について、物体の表面付近で生じる散乱現象や光輸送の状態等の物理的な特性を反映していると考えることができる。そのため、例えば陰影の見え方が変化すると、観察者が知覚する質感にも変化が生じることが考えられる。そこで、本願の発明者は、実際に造形物50の表面に生じる陰影に応じた着色を造形物の表面に対して行うことで、本来の陰影とは異なる状態で陰影が生じているかのように観察者に視認させ、いわば錯視的に、観察者が知覚する質感を変化させることを考えた。この場合、造形物50の表面に生じる陰影に応じた着色については、例えば、実際に生じる陰影の見え方を変化させるような着色等と考えることができる。また、本願の発明者は、このようにして見かけ上の質感を変化させる方法として、造形物50の表面に着色すべき色を示すテクスチャを用いる方法(テクスチャ制御の方法)を用いることを考えた。このような方法については、例えば、質感調整用のテクスチャを用いて所望の質感を擬似的に再現する方法等と考えることもできる。
【0039】
また、この場合、例えば
図3に示す動作によって、造形データを生成することが考えられる。
図3は、制御PC14において造形データを生成する動作について説明をする図である。
図3(a)は、造形データを生成する動作の一例を示すフローチャートである。上記においても説明をしたように、本例において、制御PC14は、外部から色彩を視認できる表面の少なくとも一部に着色がされた造形物を示す造形データを生成して、造形装置12へ供給する。また、この場合において、質感調整用のテクスチャを用いて、見かけ上での造形物50の質感を変化させる。
【0040】
より具体的に、この場合、制御PC14は、例えばユーザ等によって予め作成されたデータを外部から受け取ることで、3Dモデルデータを取得する(S102)。また、これにより、制御PC14は、造形装置12において造形しようとする造形物50の形状を決定する。3Dモデルデータについては、例えば、立体的な形状を少なくとも示すデータ等と考えることができる。また、本例において、ステップS102の動作は、形状決定段階(形状決定処理)の動作の一例である。制御PC14は、例えば、造形物50の形状を示すデータである形状データを少なくとも含む3Dモデルデータを取得する。そして、この形状データに基づき、以降の動作において処理の対象となる造形物50の形状を決定する。
【0041】
また、本例において、制御PC14が取得する3Dモデルデータについては、例えば、造形しようとする造形物50を質感の調整が行われていない状態で示す3Dデータ等と考えることができる。このような3Dモデルデータとしては、例えば、造形装置12の機種や仕様等に依存しない汎用の3Dデータ等を好適に用いることができる。また、このような3Dモデルデータとしては、例えば、公知の造形の方法で入力データとして用いる3Dモデルデータと同一又は同様のデータを好適に用いることができる。また、制御PC14は、例えばネットワークを介して、他のコンピュータから、3Dモデルデータを受け取る。制御PC14は、記録メディア等を介して、3Dモデルデータを受け取ってもよい。また、3Dモデルデータについて、制御PC14の外部から受け取るのではなく、ユーザの操作等に応じて、制御PC14において生成すること等も考えられる。この場合、制御PC14において3Dモデルデータを生成する動作について、3Dモデルデータを取得する動作と考えることができる。
【0042】
また、上記においても説明をしたように、造形装置12においては、例えば、表面がカラー着色された造形物50を造形する。この場合、ステップS102において、制御PC14は、例えば、造形物50の形状及び色を示す3Dモデルデータを取得する。より具体的に、この場合、3Dモデルデータは、例えば、造形物50の形状を示す形状データと、造形物50の表面の各位置の色を示すテクスチャである表面色用のテクスチャとを含む。この場合、表面色用のテクスチャは、上記において説明をした質感調整用のテクスチャとは別のテクスチャであり、質感の調整が行われていない状態での造形物50の表面の各位置の色を示す。このような表面色用のテクスチャとしては、例えば、形状データが示す立体形状に対して貼り付けられる画像を示すテクスチャを用いることが考えられる。
【0043】
また、ステップS102で3Dモデルデータを取得した後、制御PC14は、造形物50の形状に基づき、質感調整用のテクスチャを生成する(S104)。本例において、ステップS104の動作は、陰影データ取得段階(陰影データ取得処理)の動作の一例である。ステップS104において、制御PC14は、3Dモデルデータが含む形状データに基づき、造形物50の表面に生じる陰影を示すデータである陰影データを取得する。そして、陰影データに基づき、質感調整用のテクスチャを生成する。この場合、造形物50の表面に生じる陰影については、例えば、造形物50の形状に応じて造形物50の表面に生じる陰影等と考えることができる。造形物50の形状に応じて造形物50の表面に生じる陰影については、例えば、所定の環境光の下で造形物50の形状に応じて造形物50の表面に生じる陰影等と考えることができる。本例において用いる質感調整用のテクスチャの特徴や、ステップS104で質感調整用のテクスチャを生成する動作については、後に更に詳しく説明する。
【0044】
また、ステップS104で質感調整用のテクスチャを生成した後、制御PC14は、ステップS102で取得した3Dモデルデータと、ステップS104で生成した質感調整用のテクスチャとに基づき、造形データを生成する(S106)。本例において、ステップS106の動作は、表面色決定段階(表面色決定処理)及び造形データ生成段階(造形データ生成処理)の動作の一例である。ステップS106で制御PC14が生成する造形データについては、例えば、質感の調整が行われた状態で造形物50の形状及び色を示すデータ等と考えることができる。また、本例において、制御PC14は、造形データを生成する動作の中で、造形物50の表面の各位置に対して着色する色を決定する。この場合、造形物50の表面の各位置に対して着色する色を決定する動作について、表面色決定段階での動作に対応していると考えることができる。また、上記のように、ステップS104において、制御PC14は、陰影データに基づき、質感調整用のテクスチャを生成している。そのため、ステップS106での制御PC14の動作については、例えば、造形物50の表面の各位置に対して着色する色を陰影データに基づいて決定していると考えることができる。
【0045】
また、この場合、造形物50の表面の各位置に対して着色する色を決定することについては、例えば、色の濃さを決定すること等と考えることができる。色の濃さを決定することについては、例えば、各位置でのその色の階調を決定すること等と考えることができる。色の階調については、例えば、その色の濃さを示すグレースケール階調等と考えることができる。また、色の濃さを決定することについては、例えば、その色の明るさを決定すること等と考えることもできる。また、造形物50の表面に対してカラー着色を行う場合、造形物50の表面の各位置に対して着色する色を決定することは、例えば、カラー表現の基本色となる複数の色のそれぞれについて、色の濃さを決定することであってよい。
【0046】
また、本例において、制御PC14は、例えば、造形装置12の機種や仕様等に依存しない形式で造形物50の形状及び色を示す造形データを生成する。より具体的に、上記においても説明をしたように、本例においては、造形装置12の制御部110(
図1参照)により、造形データに基づき、スライスデータを生成する。この場合、スライスデータを生成する動作について、例えば、造形装置12の機種や仕様等に合わせた形式のデータを生成する動作等と考えることができる。また、この場合、造形装置12の機種や仕様等に合わせた形式のデータへの変換をスライスデータの生成時に行うため、制御PC14で生成する造形データとしては、造形装置12の機種や仕様等に依存しない形式のデータを用いることができる。
【0047】
尚、造形データを生成する動作の変形例において、制御PC14は、造形装置12の機種や仕様等に依存する形式の造形データを生成してもよい。また、造形システム10(
図1参照)の構成等によっては、制御PC14において、スライスデータを生成すること等も考えられる。この場合、スライスデータを生成する処理の入力データとして用いるデータについて、ステップS106で生成する造形データ等と考えることもできる。また、スライスデータについても、造形物50の形状及び色を示すデータと考えることもできる。そのため、スライスデータを生成する動作について、造形データを生成する動作と考えること等も可能である。
【0048】
また、ステップS106において、制御PC14は、例えば、ステップS102で取得した3Dモデルデータが含む形状データが示す造形物50の形状に合わせたテクスチャを生成することで、造形物50の表面の各位置に対して着色する色を決定する。この場合、造形データについて、この形状データとテクスチャとを含むことで、造形物50の形状及び色を示すと考えることができる。このテクスチャについては、例えば、造形物50の表面の各位置に着色すべき色を示すテクスチャ等と考えることができる。また、このテクスチャは、例えば、上記において説明をした表面色用のテクスチャ及び質感調整用のテクスチャとは別に生成されるテクスチャ(以下、造形用のテクスチャという)である。
【0049】
より具体的に、本例において、制御PC14は、ステップS104で生成した質感調整用のテクスチャに基づき、造形用のテクスチャを生成する。この場合、造形用のテクスチャについて、例えば、質感調整用のテクスチャを用いて質感の調整が行われた後の状態で造形物50の表面の各位置に着色すべき色を示すと考えることができる。また、ステップS102で取得する3Dモデルデータが表面色用のテクスチャを含んでいる場合、制御PC14は、質感調整用のテクスチャ及び表面色用のテクスチャに基づき、造形用のテクスチャを生成する。また、これにより、制御PC14は、例えば、3Dモデルデータで指定されている色を反映し、かつ、調整後の質感を示す造形用のテクスチャを生成する。質感調整用のテクスチャ及び表面色用のテクスチャに基づいて造形用のテクスチャを生成する動作については、例えば、質感調整用のテクスチャに基づいて表面色用のテクスチャに対する調整を行うことで造形用のテクスチャを生成する動作等と考えることもできる。また、本例において、造形用のテクスチャは、形状データが示す立体形状の表面に対して貼り付けられる画像を示すテクスチャである。また、この場合、制御PC14は、形状データに対応付ける造形用のテクスチャを生成することで、形状データ及び造形用のテクスチャに基づき、造形データを生成する。本例によれば、例えば、造形物50の観察者が知覚する質感の調整を行いつつ、造形物50の表面の各位置に着色する色を適切に指定することができる。また、これにより、例えば、造形データを適切に作成することができる。
【0050】
続いて、本例において用いる質感調整用のテクスチャの特徴や、ステップS104で質感調整用のテクスチャを生成する動作について、更に詳しく説明する。上記においても説明をしたように、本例において、制御PC14は、3Dモデルデータが含む形状データに基づき、造形物50の表面に生じる陰影を示すデータである陰影データを取得する。そして、陰影データに基づき、質感調整用のテクスチャを生成する。また、本例において、制御PC14は、質感の一例である半透明性(半透明感)を調整するための質感調整用のテクスチャを生成する。
【0051】
ここで、半透明性は、自然界に多数存在する質感であり、例えば人間の肌等に関連する重要な質感でもあるため、造形物50の造形時に高い品質で再現することが望まれる。また、この点に関し、人間が半透明性を感じる場合、例えば、非鏡面コントラスト、エッジや薄い領域での輝度勾配、法線方向と陰影の共分散等の影響を受けると考えることができる。また、非鏡面コントラストについては、例えば、人間が観察する対象物(以下、観察対象物という)の表面における非鏡面領域での高周波コントラストが重要になる。この場合、非鏡面領域での高周波コントラストについては、例えば、詳細な部位への光の侵入の仕方の影響を受けると考えることができる。そのため、非鏡面領域での高周波コントラストの状態が変化すると、知覚される半透明性(知覚的半透明性)に変化が生じると考えられる。また、観察対象物において、光の透過率が高くなった場合、背景の影響等により、コントラストが逆転又はランダムになることが考えられる。また、エッジや薄い領域での輝度勾配についても、同様に、光の侵入の仕方の影響を受けると考えることができる。そのため、エッジや薄い領域での輝度勾配が変化した場合、知覚される半透明性に変化が生じると考えられる。また、法線方向と陰影の共分散に関し、法線方向については、例えば、造形物50等の観察対象物の表面と直交する方向等と考えることができる。そして、法線方向と陰影の共分散について、例えば観察対象物が不透明である場合、一般に、法線方向と陰影は共分散すると考えることができる。また、この共分散が失われた場合、人間は、半透明性を知覚すると考えられる。そのため、例えばこの共分散を意図的に失わせることで、観察者に半透明性を感じさせることができると考えられる。
【0052】
また、上記のように、本例においては、質感調整用のテクスチャを用いて、所望の質感を擬似的に再現する。そして、この場合、例えば上記の観点において半透明性が高まるような質感調整用のテクスチャを用いることで、観察者が知覚する半透明性を高めることができる。より具体的に、この場合、例えば、非鏡面領域での高周波コントラストに関し、少なくとも一部で逆転又はよりランダムになるような質感調整用のテクスチャを用いることが考えられる。また、法線方向と陰影の共分散については、例えば、共分散を失わせるような質感調整用のテクスチャを用いることが考えられる。この場合、法線方向と陰影の共分散を失わせることについては、例えば、形状と陰影分布との整合性を失わせること等と考えることができる。また、このような質感調整用のテクスチャとしては、例えば、遮蔽部分を極端に明るくし、逆に、非遮蔽部分を極端に暗くするテクスチャを用いることが考えられる。また、これらのような質感調整用のテクスチャを用いる場合、例えば、エッジや薄い領域等での輝度勾配についても、光の侵入の仕方の影響を受けた状態に近づくことが考えられる。そして、本例においては、これらの観点を考慮して、例えば、造形しようとする造形物50の形状による光の届きにくさを加味した明るさ分布を決定した質感調整用のテクスチャを用いる。また、これにより、例えば、造形物50の表面に生じる相対的なコントラストをコントロールして、見かけ上の半透明性を変化させる。また、この場合、制御PC14は、例えば
図3(b)に示す動作により、質感調整用のテクスチャを生成する。
【0053】
図3(b)は、質感調整用のテクスチャを生成する動作の一例を示すフローチャートである。上記においても説明をしたように、本例において、制御PC14は、ステップS102において取得する3Dモデルデータが含む形状データに基づき、造形物50の表面に生じる陰影を示すデータである陰影データを取得する。そして、陰影データに基づき、質感調整用のテクスチャを生成する。また、より具体的に、本例において、制御PC14は、陰影データの一例として、AO法(Ambient Occlusion法)を用いたコンピュータシミュレーションにより、AOテクスチャを生成する(S202)。
【0054】
この場合、AOテクスチャについては、例えば、造形物50の形状情報を考慮したテクスチャ等と考えることができる。また、AOテクスチャについて、例えば、造形物50の形状や遮蔽度に関する情報を含むデータ等と考えることもできる。AOテクスチャについては、例えば、形状データが示す立体形状に対して貼り付け可能な形式で環境光を反映した成分(環境光成分)を示すデータ等と考えることもできる。また、本例において、AOテクスチャは、形状データが示す立体形状の表面に対して貼り付けられる画像を示す。この場合、AOテクスチャが示す画像について、例えば、環境光によって造形物の表面に生じる陰影を示す画像等と考えることができる。また、AO法については、例えば、CG技術(コンピュータグラフィックス技術)において遮蔽度から環境光の影響を計算する手法等と考えることができる。AOテクスチャの生成については、例えば、ステップS102において取得する3Dモデルデータが含む形状データに基づき、CG技術で用いられている公知の方法と同一又は同様にして行うことができる。このように構成すれば、例えば、陰影データとして用いるデータについて、例えば自動的に、容易かつ適切に取得することができる。また、本例において、AOテクスチャは、陰影画像の一例でもある。陰影画像については、例えば、造形物50の表面に生じる陰影を示す画像等と考えることができる。また、このようなAOテクスチャを用いることで、例えば、形状データが示す立体形状に対して貼り付け可能な形式で、形状に即した見かけ上の輝度操作等を行うことが可能になる。また、本例において、制御PC14は、AOテクスチャとして、所定の階調数(例えば、255階調程度)のグレースケール画像を生成する。
【0055】
また、本例においては、AOテクスチャをそのまま用いるのではなく、図中に示すように、AOテクスチャに対し、階調反転(S204)、階調数制限(S206)、及びガンマ補正(S208)の処理を行って、質感調整用のテクスチャを生成する。この場合、ステップS204で行う階調反転の処理については、例えば、AOテクスチャに対して階調を反転した画像である反転画像を生成する動作等と考えることができる。AOテクスチャに対して階調反転を行うことで、例えば、AOテクスチャにおいて遮蔽部分になっている部分を明るくして、光の侵入を擬似的に演出することができる。また、この場合、反転画像に基づいて質感調整用のテクスチャを生成することで、例えば、造形物50の表面に生じる陰影の見かけ上のコントラストを低減すること等が可能になる。また、この場合、例えば、造形物50の表面の各位置に対して着色する色を反転画像に基づいて決定していると考えることができる。
【0056】
また、ステップS206において、制御PC14は、反転画像の階調数を制限することで、処理後の画像である階調数制限画像を生成する。この場合、階調数制限の処理については、例えば、公知の階調数変換の処理と同一又は同様に行うことができる。また、本例において、制御PC14は、反転画像に対し、反転画像の階調数以下の予め設定した階調数へ変更する処理を行うことで、階調数制限画像を生成する。この場合、階調数制限画像の階調数について、例えば、反転画像の階調数の0.4~1.0倍程度(好ましくは、0.5~0.9倍程度)にすることが考えられる。より具体的に、反転画像の階調数については、例えば、AOテクスチャの階調数と同じにすることが考えられる。そして、例えば、反転画像の階調数が255である場合、階調数制限画像の階調数について、127~255階調程度にすることが考えられる。このような階調数制限画像を生成し、階調数制限画像に基づいて質感調整用のテクスチャを生成することで、例えば、非遮蔽部分への影響の大きさを調整することができる。また、ステップS208において、制御PC14は、階調数制限画像に対してガンマ補正を行うことで、質感調整用のテクスチャを生成する。この場合、質感調整用のテクスチャについて、例えば、階調数制限画像に対してガンマ補正を行った画像になっていると考えることができる。また、この場合、ガンマ補正を行うことで、質感調整用のテクスチャについて、例えば、人間の知覚に対して重要な詳細領域に対するテクスチャの効果を増大させることができる。
【0057】
本例によれば、例えば、造形物50の形状に応じて生じる陰影に基づき、質感調整用のテクスチャを適切に生成することができる。また、質感調整用のテクスチャに基づいて造形データを生成することで、例えば、造形データに基づいて造形される造形物50に生じる陰影によって観察者が受ける印象を適切に変化させることができる。また、これにより、例えば、造形物50に対して観察者が知覚する質感を適切に変化させることができる。また、より具体的に、この場合において、反転画像に基づいて質感調整用のテクスチャを生成することで、例えば、造形物50の形状に応じて造形物50の表面に生じる陰影の影響が低減されて観察者に知覚されるように、造形物50の表面の各位置に対して着色する色を決定することができる。また、これにより、例えば、造形物50に対して観察者が知覚する質感を適切に変化させることができる。更には、階調数制限やガンマ補正の処理を行って質感調整用のテクスチャを生成することで、例えば、陰影の影響を様々に変化させることができる。
【0058】
尚、上記のように、本例においては、AOテクスチャに基づいて質感調整用のテクスチャを生成した後、更に、質感調整用のテクスチャに基づいて造形用のテクスチャを生成する。また、AOテクスチャ及び造形用のテクスチャについては、例えば、形状データが示す立体形状の表面に対して貼り付けられる画像を示すテクスチャ等と考えることができる。そして、この場合、質感調整用のテクスチャについても、例えば、形状データが示す立体形状の表面に対して貼り付けられる画像を示すテクスチャであると考えることができる。また、上記においては、説明の便宜上、階調数制限とガンマ補正とを別の処理として行う場合の動作の例について、説明をした。しかし、質感調整用のテクスチャを生成する動作においては、例えば、階調数制限とガンマ補正とを一つの処理で同時に行ってもよい。この場合、例えば、階調数制限で制限する階調数を示すパラメータと、ガンマ補正の補正量を示すパラメータとを用いる関数によって反転画像の各画素における画素値を変化させることで、質感調整用のテクスチャを生成する。また、この場合、例えば、
図3(b)に示すフローチャートにおいて、ステップS206の動作とステップS208の動作とを同時に実行していると考えることができる。
【0059】
また、本例において、AOテクスチャ及び質感調整用のテクスチャとしては、例えば
図4に示すようなテクスチャを生成することが考えられる。
図4は、AOテクスチャ及び質感調整用のテクスチャについて更に詳しく説明をする図である。
図4(a)は、本例において生成するAOテクスチャの一例を示す図であり、ドラゴンを示す形状の造形物を造形する場合に生成するAOテクスチャの一例を示す。
図4(a)において、左上側の図は、CGにより、所定の背景と共に、AOテクスチャを貼り付けない状態の造形物を示す。左下側の図は、左上側の図中の造形物に対してAOテクスチャを貼り付けた状態を示す。右側の図は、平面状に展開されたAOテクスチャを示す。
【0060】
また、上記において説明をしたように、本例においては、このようなAOテクスチャに対し、階調反転、階調数制限、及びガンマ補正の各処理を行うことで、質感調整用のテクスチャを生成する。また、この場合、階調数制限の処理で制限する階調数や、ガンマ補正での補正量に応じて、例えば
図4(b)に示すように、質感調整用のテクスチャの状態が変化する。
図4(b)は、本例において生成する質感調整用のテクスチャの例を示す図であり、階調数制限の処理で制限する階調数と、ガンマ補正での補正量とを様々に異ならせた場合について、質感調整用のテクスチャを貼り付けた状態の造形物と、展開された質感調整用のテクスチャとを示す。より具体的に、
図4(b)における左上側の図は、階調数制限で階調数(R)を127に制限し、ガンマ補正での補正量であるガンマ値(γ)を1.5とした場合の例を示す。左下側の図は、階調数(R)を127に制限し、ガンマ値(γ)を3とした場合の例を示す。右上側の図は、階調数(R)を255に制限し、ガンマ値(γ)を1.5とした場合の例を示す。右下側の図は、階調数(R)を255に制限し、ガンマ値(γ)を3とした場合の例を示す。これらの図から理解できるように、階調数及びガンマ値を異ならせることで、半透明性等の造形物の質感を様々に変化させることができる。
【0061】
ここで、上記においても説明をしたように、本例において、制御PC14は、造形用のテクスチャによって表面の色の指定がされる造形データを生成する。そのため、実際に造形装置12(
図1参照)で造形する造形物の表面の色について、直接的には、質感調整用のテクスチャではなく、造形用のテクスチャによって指定をしていると考えることができる。しかし、この場合も、質感調整用のテクスチャに基づいて生成される造形用のテクスチャを用いることで、例えば
図4(b)に示すような質感を反映するように、造形データを生成することができる。より具体的に、例えば、造形物に対してカラー着色を行う場合、
図3(a)におけるステップS102では、表面色用のテクスチャと形状データとを含む3Dモデルデータを取得する。そして、この場合、制御PC14は、質感調整用のテクスチャ及び表面色用のテクスチャに基づき、造形用のテクスチャを生成する。また、これにより、制御PC14は、3Dモデルデータで指定されている色を反映し、かつ、調整後の質感を示す造形用のテクスチャを生成する。また、カラー着色を行わず、造形物の表面の各位置に対して着色する色を1色の色のみにする場合、ステップS102では、例えば、表面色用のテクスチャを含まず、かつ、形状データを含む3Dモデルデータを取得することが考えられる。そして、この場合、例えば、質感調整用のテクスチャについて、例えば、そのまま造形用のテクスチャとして用いることが考えられる。このように構成すれば、例えば、調整後の質感を示す造形用のテクスチャを適切に生成することができる。
【0062】
また、実際の質感調整用のテクスチャの生成時において、階調数制限で制限する階調数や、ガンマ補正での補正量については、例えば、所望の質感に応じて選択した値を用いることが考えられる。より具体的に、例えば、より高い半透明性が知覚される質感を表現しようとする場合、階調数制限での階調数やガンマ補正での補正量について、最も半透明性が高まる値を選択することが考えられる。しかし、このような階調数や補正量については、造形物の形状等によって、最適値が変化することが考えられる。そのため、質感調整用のテクスチャの生成時には、例えば、階調数制限で制限する階調数とガンマ補正での補正量とをパラメータとして用い、これらのパラメータで指定される条件を互いに異ならせて複数種類のテクスチャを作成(生成)してもよい。この場合、例えば、形状データが示す立体形状に対してそれぞれのテクスチャを適用した状態を示すレンダリング画像を生成する。そして、これらのレンダリング画像に対し、画像ベースでの予め選択した指標を計算し、その結果に基づき、質感調整用のテクスチャとして用いるテクスチャを選択する。このように構成すれば、例えば、所望の質感に応じて選択した指標に基づき、テクスチャの選択を行うことが考えられる。
【0063】
また、より具体的に、例えば、質感として半透明性を考慮する場合、上記においても説明をしたように、非鏡面領域でのコントラストや、法線方向と陰影の共分散により、観察者が知覚する質感が変化する。そのため、この場合、例えば、非鏡面領域でのコントラストに関する指標(以下、指標1という)、及び、法線方向と陰影の共分散に関する指標(以下、指標2)を用いて、テクスチャの選択を行うことが考えられる。また、この場合、指標1に関し、半透明性が高い物体では、例えば、表面下での輸送によって陰影が弱まり、コントラストが低下することが考えられる。そのため、見かけ上の質感において半透明性を高めようとする場合には、例えば、コントラストの低い質感調整用のテクスチャを用いることが考えられる。そして、この場合、選択対象の複数のテクスチャのそれぞれに対応するレンダリング画像において造形物に対応する領域(物体領域)に対してコントラストを計算し、最もコントラストが低くなるテクスチャを選択することが考えられる。このようにすれば、例えば、観察者が知覚する半透明性を適切に高めることができる。また、この場合、コントラストについては、例えば、マイケルソンコントラスト等の公知の方法で算出することが考えられる。この場合、例えば、コントラストの算出対象となる原画像としてそれぞれのテクスチャを用い、原画像の輝度値(画素値)及び様々な空間周波数サブバンド(例えば、9種程度のサブバンド)について算出した結果を平均する。そして、例えば、その平均値が最小になるテクスチャを選択する。
【0064】
また、指標2に関し、半透明性が高い物体では、例えば、形状と陰影分布との整合性が失われることが考えられる。そのため、見かけ上の質感において半透明性を高めようとする場合には、形状と陰影分布との整合性が低くなる質感調整用のテクスチャを用いることが考えられる。そして、この場合、例えば、選択対象の複数のテクスチャのそれぞれに対応するレンダリング画像における物体領域に対し、不透明の場合と比較して表面の輝度パターンがどれだけ変化しているかを計算して、最も変化が大きくなるテクスチャを選択することが考えられる。このようにすれば、例えば、観察者が知覚する半透明性を適切に高めることができる。また、より具体的に、この場合、例えば、選択対象の複数のテクスチャのそれぞれに対応するレンダリング画像に加えて、不透明の場合に対応するレンダリング画像を用いることが考えられる。不透明の場合に対応するレンダリング画像としては、例えば、形状データが示す立体形状に対してテクスチャを適用しない状態を示すレンダリング画像を生成することが考えられる。また、この場合、それぞれのレンダリング画像における物体領域に対し、例えば、画像中の画素値の中央値を基準として、明部と暗部とに分けることで、表面輝度のパターンを符号化する。そして、選択対象の複数のテクスチャのそれぞれに対応するレンダリング画像に対し、不透明の場合に対応するレンダリング画像と比べて符号の異なる画素の数をカウントし、符号の異なる画素数が最も多いテクスチャを選択する。このようにすれば、例えば、予め選択した複数の指標に基づき、質感調整用のテクスチャとして用いるテクスチャを適切に選択することができる。また、造形物の形状等によっては、例えば、最適なテクスチャが指標によって異なること等も考えられる。この場合、例えば、予め設定した基準に基づき、いずれかの指標の結果を優先してテクスチャを選択すること等が考えられる。
【0065】
このように、本例においては、例えば、環境光によって造形物の表面に生じる陰影を示すAOテクスチャに基づき、質感調整用のテクスチャを適切に生成することができる。また、質感調整用のテクスチャに基づいて造形物の表面の各位置に対して着色する色を決定することにより、造形物の状態について、例えば、本来の陰影とは異なる状態で陰影が生じているかのように観察者に視認させることができる。また、これにより、例えば、半透明性等の質感について、観察者が知覚する質感を変化させることができる。そのため、本例によれば、例えば、多様な質感を表現する造形物を適切に造形することができる。また、これにより、例えば、所望の質感での造形を行うことや、意匠性の高い造形物を造形すること等をより適切に行うことができる。
【0066】
ここで、本例において、質感調整用のテクスチャに基づいて造形物の表面の各位置に対して着色する色を決定する動作については、例えば、表面の各位置の色を均一にした造形物において知覚される質感と異なる質感を生じさせる動作等と考えることができる。より具体的に、例えば、造形物に対して照射される光(例えば、環境光)によって造形物の表面に生じる陰影の影響で観察者に知覚される質感を知覚質感と定義し、表面の各位置の色を均一にした造形物において知覚される知覚質感を均一色質感と定義した場合、質感調整用のテクスチャに基づいて造形物の表面の各位置に対して着色する色を決定する動作について、例えば、均一色質感と異なる知覚質感が観察者に知覚されるように、造形物の表面の各位置に対して着色する色を決定する動作等と考えることができる。このように構成すれば、例えば、造形物に対して観察者が知覚する質感を適切に変化させることができる。また、上記の説明等から理解できるように、知覚質感としては、例えば、半透明性に関する質感を用いることが考えられる。この場合、質感調整用のテクスチャに基づいて造形物の表面の各位置に対して着色する色を決定する動作では、例えば、知覚質感が均一色質感と異なることで造形物における少なくとも一部の半透明性がより高く知覚されるように、造形物の表面の各位置に対して着色する色を決定する。このように構成すれば、例えば、造形物の質感として、高い半透明性を適切に表現することができる。
【0067】
また、制御PC14において造形データを生成する動作については、上記において説明をした動作に限らず、様々に変更すること等も可能である。例えば、上記においては、質感調整用のテクスチャを生成する動作について、主に、陰影データとしてAOテクスチャを用いる方法について、説明をした。この場合、例えば、遮蔽度情報が自動的に入手できることで、質感調整用のテクスチャの作成を容易かつ適切に自動化することができる。これに対し、質感調整用のテクスチャを生成する動作の変形例では、例えば、AO法以外の方法のコンピュータシミュレーションにより、陰影データを取得してもよい。この場合、例えば、3Dモデルデータが含む形状データが示す形状に対して所望の光源条件で光を照射した状態を示すレンダリング画像を生成して、そのレンダリング画像に基づいて陰影データを取得することが考えられる。また、造形に求められる品質等によっては、例えば、CGのデータにおける各部位に対して必要な輝度を手作業で決めて設計する方法で、陰影データを生成すること等も考えられる。これらの場合も、陰影データとして、例えば、形状データが示す立体形状の表面に対して貼り付けられるテクスチャを生成することが考えられる。また、この場合、AOテクスチャに代わりにこのテクスチャを用いて、AOテクスチャを用いる場合と同一又は同様の処理を適宜行うことで、質感調整用のテクスチャを生成することが考えられる。また、質感調整用のテクスチャを生成する動作の更なる変形例においては、コンピュータシミュレーションによらず、例えば実際に測定を行うことで、陰影データを取得してもよい。この場合、例えば
図5に示す動作により、質感調整用のテクスチャを生成することが考えられる。
【0068】
図5は、質感調整用のテクスチャを生成する動作の更なる変形例の動作を示すフローチャートであり、
図3(a)に示したフローチャートにおけるステップS104で行う動作の変形例を示す。本変形例では、質感調整用のテクスチャの生成時において、測定用の立体物を作成して、陰影データを取得する。より具体的に、この場合、例えば、ステップS102において取得する3Dモデルデータが含む形状データに基づき、陰影データを取得するために行う測定用の立体物である測定用立体物を作成する(S212)。測定用立体物の作成については、例えば、造形装置12(
図1参照)を用いて行うことが考えられる。この場合、測定用立体物について、例えば、最終的な成果物として造形する造形物とは別の中間成果物となる造形物等と考えることができる。
【0069】
また、測定用立体物について、例えば、最終的な成果物として造形する造形物と同じ形状の立体物等と考えることができる。そして、測定用立体物については、例えば、最終的に造形しようとする造形物と同じサイズで作成することが考えられる。このように構成すれば、例えば、造形物の形状に応じて生じる陰影と同じ陰影をより適切に生じさせることができる。また、測定に求められる精度等によっては、測定用立体物について、最終的に造形しようとする造形物と異なるサイズで作成してもよい。この場合、例えば、最終的に造形しようとする造形物よりも小さな測定用立体物を作成することが考えられる。このように構成すれば、例えば、測定用立体物の作成に要する時間やコスト等を適切に低減することができる。また、測定用立体物については、造形装置12によって造形する以外の方法で作成してもよい。この場合、例えば、測定用立体物について、例えば、最終的に造形しようとする造形物と同じ形状であり、かつ、異なる素材で作成された立体物等と考えることができる。
【0070】
また、本変形例において、測定用立体物を作成した後には、測定用立体物に対して光を照射することで、測定用立体物の表面に陰影を生じさせ、その結果を測定する(S214)。また、この測定結果に基づき、陰影データを取得する。このように構成すれば、例えば、実際の測定により、陰影データを高い精度で適切に取得することができる。また、より具体的に、この場合、例えば、光を照射した状態の測定用立体物を撮影することで、陰影を示す画像を取得する。そして、この画像に基づき、陰影データを取得する。また、陰影データを取得した後には、例えば制御PC14(
図1参照)等のコンピュータにおいて、陰影データに基づき、質感調整用のテクスチャを生成する(S216)。この場合、陰影データに基づいて質感調整用のテクスチャを生成する処理については、例えば、AOテクスチャを用いる場合と同一又は同様に行うことが考えられる。より具体的に、この場合、ステップS214において、陰影データとして、形状データが示す立体形状の表面に対して貼り付けられるテクスチャを生成することが考えられる。このように構成すれば、本変形例における陰影データについて、例えば、AOテクスチャと同一又は同様に扱うことができる。また、これにより、ステップS216で質感調整用のテクスチャを生成する動作について、AOテクスチャを用いる場合と同一又は同様に行うことができる。
【0071】
本変形例においても、例えば、質感調整用のテクスチャを適切に生成することができる。また、これにより、例えば、見かけ上での造形物の質感を適切に変化させることができる。また、この場合、ステップS214において測定用立体物に光を照射する光源条件を変化させることで、様々な光源条件に合わせて、陰影データを高い精度で適切に取得することができる。また、質感調整用のテクスチャを生成する動作の更なる変形例においては、陰影データについて、テクスチャ以外の形式で取得してもよい。この場合、ステップS216では、テクスチャ以外の形式の陰影データに基づき、質感調整用のテクスチャを生成する。
【0072】
また、質感調整用のテクスチャを生成する動作の更なる変形例においては、例えば、測定用立体物を作成することなく、既存の立体物を用いて行う測定の結果に基づき、陰影データを取得すること等も考えられる。より具体的に、造形データとしては、造形データの作成を開始する前から存在している建物(建築物)やオブジェクト等のような、既存の立体物を示すデータを作成することも考えられる。そして、このような場合、測定用立体物を別途作成しなくても、既存の立体物を用いることで、陰影データを取得することができる。この場合、陰影データを取得する動作では、例えば、既存の立体物の表面に生じる陰影に基づき、陰影データを取得する。また、この場合、例えば、
図5に示すフローチャートにおけるステップS212の動作を省略して、測定用立体物に代えて既存の立体物を用い、ステップS214以降の動作と同一又は同様の動作を行うことで、陰影データを取得する。また、このようにして取得した陰影データに基づき、質感調整用のテクスチャを生成する。このように構成した場合も、例えば、陰影データを高い精度で適切に取得することができる。また、これにより、例えば、質感調整用のテクスチャを適切に生成することができる。
【0073】
また、造形データとしては、例えばミニチュア等のような、既存の立体物よりもサイズが小さな造形物を示すデータを作成することも考えられる。この場合、既存の立体物を用いて陰影データを取得する動作について、例えば、造形しようとする造形物よりもサイズの大きな立体物を用いて陰影データを取得する動作等と考えることもできる。また、既存の立体物としては、上記のように、例えば建物のような、特にサイズが大きい立体物を用いることも考えられる。そして、この場合、例えば照明装置等を用いて立体物に光を照射しようとすると、大きなコストがかかる場合がある。そのため、このような場合には、例えば、太陽光等の自然光によって立体物の表面に生じる陰影に基づき、陰影データを取得してもよい。このように構成すれば、例えば、自然光に対応する光源条件において立体物の表面に生じる陰影を示す陰影データを適切に取得することができる。
【0074】
また、上記においては、主に、質感調整用のテクスチャを用いて見かけ上の造形物の質感を変化させる点について、説明をした。しかし、造形物の構成によっては、造形物の一部の領域を用いて、造形物の実際の質感を変化させることも可能である。この場合、造形物の実際の質感を変化させつつ、質感調整用のテクスチャを用いて見かけ上の造形物の質感を変化させることで、観察者が知覚する質感をより適切に変化させることができる。また、この場合、例えば
図2(b)を用いて上記において説明をした変形例のように、散乱領域156(
図2参照)を備える造形物を造形すること等が考えられる。より具体的に、この場合、例えば、
図6に示す構成の散乱領域156を用いることが考えられる。
【0075】
図6は、造形物50の変形例について更に詳しく説明をする図であり、散乱領域156を備える造形物50を造形する場合について、散乱領域156の構成の例を示す。
図6(a)は、散乱領域156を備える造形物50の構成の一例を示す図であり、
図2(b)に示した造形物50における散乱領域156の詳細な構成の一例を光反射領域152及び着色領域154と共に示す。また、
図6(a)では、図示の便宜上、造形物50の一部について、造形物50の表面と直交する法線方向における領域の重なり方を簡略化して示している。本変形例において、造形物50は、光反射領域152、散乱領域156、及び着色領域154を備える。散乱領域156は、白色のインクとクリアインクとを用いて形成される領域であり、光反射領域152と着色領域154との間に形成される。この場合、上記においても説明をしたように、白色のインクが含む色材について、散乱体の一例と考えることができる。また、本変形例において、散乱領域156は、白色のインクの使用割合を異ならせることで単位体積あたりに含む散乱体の量を位置によって異ならせた領域になっている。この場合、白色のインクの使用割合については、例えば、散乱領域156の形成時に単位体積あたりに使用する白色のインクの比率等と考えることができる。また、この比率については、例えば、白色のインクの使用量とクリアインクの使用量との合計に対する白色のインクの使用量の比率等と考えることができる。
【0076】
また、より具体的に、本変形例において、散乱領域156は、白色のインクの使用割合を互いに異ならせた複数の領域162a~eを有する。複数の領域162a~eのそれぞれは、造形物50の表面と平行な面内における位置が互いに異なる領域であり、白色のインク及びクリアインクを用いて形成される。この場合、複数の領域162a~eの一部について、白色のインクのみ、又はクリアインクのみで形成してもよい。このように構成した場合、白色のインクとクリアインクとを用いて散乱領域156を形成することで、例えば、着色領域154の下にある散乱領域156において、半透明性を示すように光を散乱させることができる。また、これにより、例えば、造形物50の実際の質感を適切に変化させることができる。そのため、本変形例によれば、例えば、質感調整用のテクスチャを用いて見かけ上の造形物の質感を変化させることと、散乱領域156によって造形物50の実際の質感を異ならせることとを、適切に組み合わせることができる。また、この場合、複数の領域162a~eのそれぞれにおいて、白色のインクの使用割合を互いに異なることで、着色領域154を介して外部から入射した光に対する散乱の仕方に差が生じることになる。また、その結果、着色領域154において複数の領域162a~eのそれぞれと重なる位置において、質感に差が生じることになる。そのため、本変形例によれば、例えば、造形物50に対して観察者が知覚する質感をより多様に変化させることができる。
【0077】
また、本変形例において、観察者が知覚する質感については、例えば、質感調整用のテクスチャを用いることの効果と、領域162a~eを有する散乱領域156を用いることの効果とを組み合わせることで生じると考えることもできる。そして、この場合、質感をより適切に変化させるためには、例えば、複数の領域162a~eのそれぞれを形成する位置について、質感調整用のテクスチャが示す画像に合わせて形成することが考えられる。また、そのための方法としては、散乱領域156の形成の仕方について、例えば、AOテクスチャ等の陰影データに基づいて決定することが考えられる。より具体的に、この場合、制御PC14等において造形データを生成する動作において、例えば、陰影データに基づき、散乱領域156の各位置に対する白色のインクの使用割合を決定する。このように構成すれば、例えば、上記のような散乱領域156を備える造形物50を示す造形データを適切に生成することができる。また、この場合、散乱領域156の各位置に対する白色のインクの使用割合を決定することについては、例えば、散乱領域156の各位置で単位体積あたりに含む散乱体の量を決定すること等と考えることができる。
【0078】
尚、本変形例の造形物50の場合、白色のインクを用いて形成される光反射領域152についても、光を散乱する領域と考えることができる。この点に関し、本変形例において、光反射領域152については、例えば、散乱領域156と異なり、各位置での白色のインクの使用割合が一定になっていると考えることができる。また、その結果として、光反射領域152について、例えば、散乱領域156と異なり、均一に光を散乱する領域になっていると考えることができる。より具体的に、光反射領域152については、例えば、白色のインクのみで形成することが考えられる。また、光反射領域152について、例えば、領域が不透明になる量の白色のインクを用いて形成される領域等と考えることもできる。造形物50の構成の更なる変形例では、白色のインクとクリアインクとを用いて、光反射領域152を形成してもよい。この場合も、光反射領域152では、例えば、各位置での白色のインクの使用割合を一定にすることが考えられる。また、造形物50の構成の更なる変形例では、散乱領域156についても、各位置での白色のインクの使用割合を一定にすることが考えられる。この場合、散乱領域156について、例えば、光反射領域152よりも少ない使用割合で白色のインクを用いた領域等と考えることができる。
【0079】
また、造形物50の構成の更なる変形例においては、例えば
図6(b)に示すように、複数の層172を有する散乱領域156を形成すること等も考えられる。
図6(b)は、散乱領域156を備える造形物50の構成の他の例を示す図であり、造形物50の一部について、造形物50の表面と直交する法線方向における領域の重なり方を簡略化して示す。本変形例において、散乱領域156は、造形物50の法線方向において重なる複数の層172を有する。この場合、それぞれの層172については、例えば、造形物50の表面形状に沿って広がる層状の領域等と考えることができる。また、本変形例では、それぞれの層172について、白色のインクと、クリアインクとを用いて形成する。この場合、それぞれの層172について、例えば、単位体積あたりの白色のインクの使用量を光反射領域152よりも少なくして形成される半透明の領域等と考えることもできる。
【0080】
また、散乱領域156における複数の層172のそれぞれについては、例えば、白色のインクの使用割合を互いに異ならせて形成することが考えられる。この場合、散乱領域156について、例えば、光の散乱の仕方が互いに異なる複数の層172が造形物50の法線方向に重なる構成になっていると考えることができる。このような構成の散乱領域156を形成することで、例えば、散乱領域156での光の散乱の仕方を様々に変化させることができる。また、これにより、例えば、造形物50の質感をより多様に変化させることができる。また、この場合、複数の層172について、法線方向に重なる順番に従って白色のインクの使用比率を徐々に変化させて形成すること等も考えられる。この場合、散乱領域156について、例えば、層172を単位にして特性がグラデーション状に変化する領域になると考えることができる。このように構成すれば、例えば、造形物50において、より多様な質感を表現することができる。より具体的に、この場合、例えば、光反射領域152に最も近い側の層172における白色のインクの使用比率を最も多くして、光反射領域152から離れるに従って白色のインクの使用比率を徐々に少なくすることが考えられる。また、反対に、例えば、光反射領域152に最も近い側の層172における白色のインクの使用比率を最も少なくして、光反射領域152から離れるに従って白色のインクの使用比率を徐々に多くすること等も考えられる。また、散乱領域156が有する複数の層172のうち、少なくとも一部の層172について、例えば
図6(a)に示す構成の散乱領域156のように、複数の領域162を有する構成で形成してもよい。このように構成すれば、例えば、造形物50において、より多様な質感を表現することができる。
【0081】
続いて、上記において説明をした各構成に関する補足説明等を行う。以下においては、説明の便宜上、上記において説明をした変形例等も含めて、本例という。3D造形(3Dプリント)の分野において、例えば上記において説明をした散乱領域156を用いる構成のように、散乱現象等の物理的特性を実際に変化させる構成を用いれば、半透明性等の質感を表現することができる。しかし、この場合、造形の材料の特性等によって、表現可能な質感の範囲が狭くなる場合がある。これに対し、本願の発明者は、半透明性等の質感を人間が知覚する要因について、必ずしも物理的な現象(散乱現象等)に依存しないことに着目した。また、この観点に基づき、質感を知覚する手がかりに即して画素値(輝度値)を制御した質感調整用のテクスチャを用いて、造形物の見かけ上の質感を変化させることを考えた。この場合、質感調整用のテクスチャについて、例えば、半透明性等の質感を人間が知覚する手がかりを再現するというコンセプトで作成されている等と考えることができる。
【0082】
また、この場合、本例で用いる方法について、例えば、質感に関連する特徴をテクスチャで再現することで、いわば錯視的に、観察者が知覚する質感を変化させると考えることができる。また、より具体的に、この場合、例えば、半透明性を示す散乱を実際には生じない構成で造形した造形物に対し、半透明性の知覚に関連する特徴を質感調整用のテクスチャで再現することで、見かけ上の半透明性を表現する。このように構成すれば、例えば
図2(a)に示す構成の造形物のように、物理的な散乱の状態を変化させるための領域(散乱領域156)を形成しない場合でも、半透明性を適切に表現することができる。また、この場合、例えば
図2(b)に示す構成の造形物のように、散乱領域156を更に用いれば、半透明性をより高めることできる。また、この場合、例えば、位置によって散乱の仕方を異ならせた散乱領域156を用いることで、特殊な外観の表現等を行うこと等も可能になる。
【0083】
また、本願の発明者は、上記において説明をした方法によって観察者が知覚する質感が変化することについて、評価実験によって、確認をした。より具体的に、本願の発明者は、互いに異なる複数種類の形状と、互いに異なる複数種類の質感調整用のテクスチャとの組み合わせにより、様々な複数の条件で、造形物を造形した。そして、複数の被験者が参加する主観評価の手法でそれぞれの造形物の状態を評価することで、半透明性等の質感について、質感調整用のテクスチャの影響で有意な変化が生じること等を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、例えば造形データの作成方法等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0085】
10・・・造形システム、102・・・ヘッド部、104・・・造形台、106・・・走査駆動部、110・・・制御部、12・・・造形装置、14・・・制御PC、152・・・光反射領域、154・・・着色領域、156・・・散乱領域、162・・・領域、172・・・層、202・・・インクジェットヘッド、204・・・紫外線光源、206・・・平坦化ローラ、50・・・造形物、52・・・サポート層