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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014623
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】ホットプレス装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 24/00 20060101AFI20230124BHJP
【FI】
B21D24/00 M
B21D24/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118677
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】520200584
【氏名又は名称】株式会社キーレックス・ワイテック・インターナショナル
(71)【出願人】
【識別番号】500213915
【氏名又は名称】株式会社ワイテック
(71)【出願人】
【識別番号】590000721
【氏名又は名称】株式会社キーレックス
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】山根 稔正
(72)【発明者】
【氏名】中崎 篤
(72)【発明者】
【氏名】板岡 毅
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 晋作
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA02
4E137BA01
4E137BB01
4E137CA09
4E137DA02
4E137DA03
4E137EA01
4E137EA26
4E137EA36
4E137GA03
4E137GB03
4E137HA08
(57)【要約】
【課題】成形体表面の精度を確保しつつ成形体の冷却速度を向上させ、さらには、冷却用金型の下型の温度上昇を抑えて適切に焼き入れがなされた成形体を得ることができるホットプレス装置を提供する。
【解決手段】ホットプレス装置1は、成形領域にて得られた高温状態の一次成形体Pを冷却用金型40の上側加圧保持面41aと下側加圧保持面42aとにより加圧保持して冷却することにより焼き入れがなされた車体フレームFを得る。冷却用下型42には、上方に開口し且つ液体冷媒を貯留可能な液体貯留部46が設けられ、液体貯留部46の内側には、冷却用下型42の下側加圧保持面42aが位置している。液体貯留部46を構成する外側壁には、水平方向に移動して液体貯留部46の貯留容積を可変させる容積可変壁部50が設けられる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形領域にて得られた高温状態の一次成形体を冷却用金型の上型及び下型の両加圧保持面により加圧保持して冷却することにより焼き入れがなされた最終成形体を得るよう構成されたホットプレス装置であって、
前記下型には、上方に開口し且つ液体冷媒を貯留可能に構成され、前記下型の加圧保持面が内側に位置する液体貯留部が設けられ、
当該液体貯留部を構成する外側壁には、上端が前記下型の加圧保持面よりも高い位置に設定され、水平方向に移動して前記液体貯留部の貯留容積を可変させる容積可変壁部が設けられていることを特徴とするホットプレス装置。
【請求項2】
請求項1に記載のホットプレス装置において、
前記容積可変壁部は、前記下型の加圧保持面に接近又は離間して前記液体貯留部の貯留容積を可変させることを特徴とするホットプレス装置。
【請求項3】
請求項2に記載のホットプレス装置において、
前記容積可変壁部における前記液体貯留部の反対側には、下方にいくにつれて次第に前記液体貯留部から遠ざかる位置となるよう傾斜する下側傾斜面が形成され、
前記上型の前記容積可変壁部に対応する位置には、前記下側傾斜面に対応するよう傾斜しており、前記上型が前記下型に対して下降する際において前記下側傾斜面に摺接することにより前記容積可変壁部を前記下型の加圧保持面側に押圧して当該下型の加圧保持面に接近させるよう構成された上側傾斜面が形成されていることを特徴とするホットプレス装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載のホットプレス装置において、
前記下型の加圧保持面には、上方に開口する凹部が設けられていることを特徴とするホットプレス装置。
【請求項5】
請求項4に記載のホットプレス装置において、
前記下型には、前記凹部の内側空間と前記液体貯留部とを連通させる連通路が形成されていることを特徴とするホットプレス装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形領域にて得られた高温状態の成形体を冷却領域の冷却用金型で加圧保持して冷却することにより焼き入れするよう構成されたホットプレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、板厚を厚くすることなく高強度な成形体を得るための成形方法として、ホットプレス装置を用いたホットプレス成形が知られている。例えば、特許文献1に開示されているホットプレス装置は、内部に液体冷媒が流通する成形用金型を備え、当該成形用金型の型閉じ動作により高温状態の鋼板を絞り成形して成形体を得るとともに、当該成形体を型閉じ状態で加圧保持して冷却することにより焼き入れするよう構成されている。成形用金型における上型の加圧面には、複数の冷却用溝が形成されていて、成形用金型の型閉じ状態において加圧保持状態の成形体の表面と各冷却用溝との間の空間に液体冷媒を満たすことにより、当該液体冷媒で成形体を直接冷却して焼き入れ時における成形体の冷却速度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018―012113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のように、成形用金型の加圧面に冷却用溝を設けると、ホットプレス成形の場合、鋼板が成形時において高温で軟化した状態であるので、成形体の表面に冷却用溝が転写されて成形体の表面が凹凸形状になってしまい、所望する成形体表面の精度を確保できなくなるおそれがある。
【0005】
これを回避するために、成形領域とは別に冷却領域を設け、成形領域にて得られた高温状態の一次成形体を冷却領域に配置した冷却用金型で加圧保持して冷却することにより焼き入れがなされた最終成形体を得るようにして成形体表面の精度を確保することが考えられる。
【0006】
しかし、ホットプレス成形において冷却領域を別に設けると、成形領域から冷却領域に搬入される高温状態の一次成形体を型開きした冷却用金型における下型の加圧面に一旦載置する必要があり、冷却用金型における上型よりも下型の温度が上昇しやすくなってしまう。そうすると、例えば、ホットプレス成形を繰り返し行う際に冷却用金型において下型が高温の状態で維持されてしまい、焼き入れ時において一次成形体の冷却だけでなく下型の冷却をも液体冷媒で行われてしまうことになり、焼き入れ時における一次成形体の冷却速度が著しく低下して最終成形体の強度に悪影響を及ぼしてしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、成形体表面の精度を確保しつつ成形体の冷却速度を向上させ、さらには、冷却用金型の下型の温度上昇を抑えて適切に焼き入れがなされた成形体を得ることができるホットプレス装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、液体冷媒を用いて成形体を直接的に冷却するとともに、冷却用金型の下型に貯留された液体冷媒により当該下型を冷却するようにしたことを特徴とする。
【0009】
具体的には、成形領域にて得られた高温状態の一次成形体を冷却用金型の上型及び下型の両加圧保持面により加圧保持して冷却することにより焼き入れがなされた最終成形体を得るよう構成されたホットプレス装置を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0010】
すなわち、第1の発明では、前記下型には、上方に開口し且つ液体冷媒を貯留可能に構成され、前記下型の加圧保持面が内側に位置する液体貯留部が設けられ、当該液体貯留部を構成する外側壁には、上端が前記下型の加圧保持面よりも高い位置に設定され、水平方向に移動して前記液体貯留部の貯留容積を可変させる容積可変壁部が設けられていることを特徴とする。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、前記容積可変壁部は、前記下型の加圧保持面に接近又は離間して前記液体貯留部の貯留容積を可変させることを特徴とする。
【0012】
第3の発明では、第2の発明において、前記容積可変壁部における前記液体貯留部の反対側には、下方にいくにつれて次第に前記液体貯留部から遠ざかる位置となるよう傾斜する下側傾斜面が形成され、前記上型の前記容積可変壁部に対応する位置には、前記下側傾斜面に対応するよう傾斜しており、前記上型が前記下型に対して下降する際において前記下側傾斜面に摺接することにより前記容積可変壁部を前記下型の加圧保持面側に押圧して当該下型の加圧保持面に接近させるよう構成された上側傾斜面が形成されていることを特徴とする。
【0013】
第4の発明では、第1から第3のいずれか1つの発明において、前記下型の加圧保持面には、上方に開口する凹部が設けられていることを特徴とする。
【0014】
第5の発明では、第4の発明において、前記下型には、前記凹部の内側空間と前記液体貯留部とを連通させる連通路が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明では、容積可変壁部が移動して液体貯留部の貯留容積が減少すると、当該液体貯留部に溜まる液体冷媒の液面が次第に上昇して冷却用金型の下型の加圧保持面よりも高くなり、液体冷媒が下型の加圧保持面側に流れ込んで当該加圧保持面が液体冷媒で浸されるようになる。したがって、冷却用金型の下型の加圧保持面において載置或いは加圧保持されている高温状態の一次成形体が液体冷媒に浸された状態になるので、当該液体冷媒が一次成形体の熱を直接的に奪うようになり、焼き入れにおける一次成形体の冷却速度を高めることができる。また、液体貯留部に溜まる液体冷媒が冷却用金型の下型から熱を奪って当該下型を冷却するようになるので、当該下型の温度上昇を効果的に抑えることができる。さらに、特許文献1の如き成形用金型に冷却用溝を設ける必要がなくなるので、冷却用溝を設けたことを起因としてホットプレス成形時の成形体表面の精度が確保できないといった事態を回避することができる。
【0016】
第2の発明では、容積可変壁部が下型の加圧保持面に接近すると、液体貯留部の液面付近では容積可変壁部側から下型の加圧保持面側に向かう液体冷媒の波が形成されるようになる。当該液体冷媒の波は、冷却用金型の下型の加圧保持面に載置或いは加圧保持された高温状態の一次成形体に到達すると、当該一次成形体の表面全体に覆いかぶさるよう広がることで、液体冷媒が該一次成形体の表面と直接的に接触するようになる。したがって、液体冷媒が、一次成形体の熱を直接的に奪って当該一次成形体の冷却が効率良く行われるようになり、焼き入れにおける一次成形体の冷却速度を高めることができる。
【0017】
第3の発明では、冷却用金型における上型の下降動作に連動して液体貯留部における液体冷媒の液面を上昇させることができるので、一次成形体を冷却用金型で加圧保持する状態と一次成形体が液体冷媒で浸される状態とを同時或いは比較的少ない時間差で実現することができるようになる。したがって、高温状態の一次成形体が液体冷媒に浸されない状態で冷却用金型の下型の加圧保持面に載置或いは加圧保持されている時間を短縮することができ、高温状態の一次成形体から下型の加圧保持面への伝熱を減らして冷却用金型の下型の温度上昇を抑えることができる。また、上型の下降動作を利用して容積可変壁部を移動させるので、容積可変壁部を移動させるための駆動源を別途備えることによってコストが上昇するのを回避することができる。
【0018】
第4の発明では、冷却用金型の下型の加圧保持面の面積が、凹部の開口領域が設けられている分だけ狭いので、下型の加圧保持面に載置或いは加圧保持されている高温状態の一次成形体から該加圧保持面への伝熱量が減り、冷却用金型の下型の温度上昇を抑えることができる。
【0019】
第5の発明では、容積可変壁部を移動させて液体貯留部の貯留容積を減少させると、冷却用金型の下型の加圧保持面に載置或いは加圧保持されている一次成形体の裏面と凹部との間に形成される空間に連通路を介して液体貯留部から液体冷媒が流れ込むとともに流れ込んだ液体冷媒で前記空間が満たされるようになる。したがって、高温状態の一次成形体の裏面に液体冷媒が直接的に接触して当該液体冷媒により高温状態の一次成形体から奪う熱の量が多くなるので、当該一次成形体の冷却速度をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係るホットプレス装置の概略正面図である。
図2】本発明の実施形態に係るホットプレス装置の冷却用金型を示す概略断面図である。
図3】本発明の実施形態に係るホットプレス装置の冷却用金型を構成する冷却用下型に一次成形体が載置されている状態を示す概略断面図である。
図4】本発明の実施形態に係るホットプレス装置の冷却用金型において一次成形体の冷却を開始した直後の状態を示す概略断面図である。
図5】本発明の実施形態に係るホットプレス装置の冷却用金型において一次成形体を加圧保持して冷却している状態を示す概略断面図である。
図6】変形例に係る図3相当図である。
図7】変形例に係る図5相当図である。
図8】変形例に係る図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係るホットプレス装置1を示す。該ホットプレス装置1は、断面ハット形状をなす車体フレームF(最終成形体)を生産するようになっていて、装置の上流側から順に、鋼板Sを加熱する加熱領域2と、ホットプレス成形を行って一次成形体Pを得る成形領域3と、一次成形体Pを冷却して車体フレームFを得る焼き入れ領域4とが直線状に設定されている。
【0023】
加熱領域2には、遠赤外線式の加熱炉20が配置され、該加熱炉20は、フロアに設置された下側炉体20aと、該下側炉体20aの上方に対向配置された上側炉体20bとを有している。
【0024】
上側炉体20bには、当該上側炉体20bと下側炉体20aとの間の雰囲気ガスの温度を上昇させるヒータ(図示せず)が取り付けられ、鋼板Sを所定の加熱時間だけ加熱して予め設定された焼き入れ温度である約900℃にまで昇温させるようになっている。
【0025】
加熱領域2と成形領域3との間には、加熱炉20にて昇温されて高温状態となった鋼板Sを成形領域3まで搬送する第1ロボットR1が配設されている。
【0026】
成形領域3は、ホットプレス成形用の成形用金型30と、メカプレス5とを備えている。
【0027】
成形用金型30は、互いに対向する成形用上型31と成形用下型32とを備え、成形用上型31は、メカプレス5により、成形用下型32に対して昇降するようになっている。
【0028】
成形用上型31には、上方に窪む断面略凹状をなす第1加圧面31aが形成される一方、成形用下型32には、上方に膨出する断面略凸状の第2加圧面32aが形成されている。
【0029】
そして、焼き入れ温度にまで昇温させた状態の鋼板Sを成形用下型32の第2加圧面32a上にセットした後、成形用上型31を下降させて成形用金型30を型閉じすることにより、鋼板Sから断面略ハット形状をなす一次成形体Pが得られるようになっている。
【0030】
成形領域3と焼き入れ領域4との間には、成形領域3にて得られた一次成形体Pを焼き入れ領域4まで搬送する第2ロボットR2が配設されている。
【0031】
焼き入れ領域4には、互いに対向する冷却用上型41及び冷却用下型42を備えた焼き入れ用の冷却用金型40と、冷却用下型42に対して冷却用上型41を昇降させるサーボプレス6とが配置されている。当該焼き入れ領域4では、一次成形体Pが液体冷媒で冷却されることにより焼き入れが施されて最終成形体である車体フレームFが得られるようになっている。
【0032】
そして、焼き入れ領域4にて得られた車体フレームFは、図1に示すように、焼き入れ領域4の下流側に配設された第3ロボットR3により次領域に搬送されるようになっている。
【0033】
次に、冷却用金型40について詳述する。
【0034】
冷却用上型41は、図2に示すように、幅広で且つ断面が下方を向く櫛歯状をなしており、その下面の内側領域には、上方が閉塞するとともに下方に開口する複数の第1上側凹部43を有する上側加圧保持面41aと、該上側加圧保持面41aの外側に位置し且つ上方に窪むとともに上側加圧保持面41aを囲むように延びる第2上側凹部45とが形成されている。
【0035】
上側加圧保持面41aにおける第1上側凹部43の開口部分を除く領域には、第1上側凹部43及び第2上側凹部45の列設方向に延び且つ下方に開口する上側溝部47が形成されている。
【0036】
すなわち、上側溝部47は、上側加圧保持面41aに開口するとともに各端部が第1上側凹部43や第2上側凹部45に解放しており、隣り合う2つの第1上側凹部43、或いは、隣り合う第1上側凹部43と第2上側凹部45とが上側溝部47を介して連通している。
【0037】
第2上側凹部45の外側には、下方に突出する上側外壁49が設けられている。当該上側外壁49の内側面には、下方にいくにつれて次第に外側の位置、つまり、下方にいくにつれて次第に第2上側凹部45から遠ざかる位置となるよう傾斜する上側傾斜面49aが形成されている。
【0038】
一方、冷却用下型42は、幅広で且つ断面が上方を向く櫛歯状をなしており、その上面の内側領域における上側加圧保持面41aに対向する位置には、下側加圧保持面42aが形成される一方、冷却用下型42の上面における外周領域には、上方に突出する下側外壁51が設けられている。
【0039】
下側加圧保持面42aにおける冷却用上型41の第1上側凹部43と対向する位置には、上方に開口する複数の下側凹部44が設けられている。該各下側凹部44には、液体冷媒が溜まっていて、当該下側凹部44に溜まる液体冷媒が冷却用下型42から熱を奪って当該冷却用下型42を冷却するようになっている。
【0040】
冷却用下型42における下側加圧保持面42aの外側には、上方に開口する凹状をなすとともに下側凹部44を囲むように延びる液体貯留部46が設けられ、該液体貯留部46は、液体冷媒を貯留可能になっている。そして、当該液体貯留部46に溜まる液体冷媒は、冷却用下型42から熱を奪って当該冷却用下型42を冷却するようになっている。
【0041】
また、冷却用下型42における下側加圧保持面42aよりも下方の部分には、下側凹部44及び液体貯留部46の列設方向に延びる複数の連通路48が形成されている。
【0042】
該連通路48は、各端部が下側凹部44や液体貯留部46に解放しており、隣り合う2つの下側凹部44の内側空間、或いは、隣り合う下側凹部44の内側空間と液体貯留部46とが連通路48により連通している。
【0043】
そして、連通路48は、下側凹部44及び液体貯留部46の液面よりも下方に位置することで、常に液体冷媒で満たされた状態になっている。
【0044】
下側加圧保持面42aと下側外壁51との間には、断面略台形状をなす容積可変壁部50が設けられ、該容積可変壁部50の上端50cは、下側加圧保持面42aよりも高い位置に設定されている。
【0045】
容積可変壁部50は、冷却用上型41の上側傾斜面49aに対応する位置に設けられ、容積可変壁部50の下側加圧保持面42a側には、液体貯留部46を形成する内側壁面50bが形成されている。
【0046】
すなわち、容積可変壁部50は、液体貯留部46を構成する外側壁の一部を構成している。
【0047】
容積可変壁部50における外側の壁面、つまり、内側壁面50bの反対側の壁面には、下方にいくにつれて次第に液体貯留部46から遠ざかる位置となるよう傾斜する下側傾斜面50aが形成され、該下側傾斜面50aは、上側傾斜面49aに対応するように傾斜している。
【0048】
容積可変壁部50は、下側加圧保持面42aに対して水平方向に接近離間可能になっていて、容積可変壁部50の移動動作によって液体貯留部46の貯留容積が可変する、つまり、貯留容積が変わるようになっている。すなわち、容積可変壁部50を下側加圧保持面42aへと接近させると、液体貯留部46の貯留容積が減少する一方、容積可変壁部50を下側加圧保持面42aから離間させると、液体貯留部46の貯留容積が増加するようになっている。
【0049】
そして、容積可変壁部50は、冷却用上型41を下降させると、上側傾斜面49aが下側傾斜面50aに摺接することにより冷却用上型41に押圧されて冷却用下型42の下側加圧保持面42aに接近するようになっている。
【0050】
次に、図3乃至図5を用いて、焼き入れ領域4における冷却用金型40を用いた焼き入れ方法について詳述する。
【0051】
まず、成形用金型30にて一次成形体Pが成形されると、図3に示すように、当該一次成形体Pを第2ロボットR2にて搬送して型開き状態における冷却用下型42の下側加圧保持面42aに載置する。
【0052】
ここで、冷却用下型42の下側加圧保持面42aの面積は、下側凹部44の開口領域が設けられている分だけ狭いので、下側加圧保持面42aに載置されている高温状態の一次成形体Pから当該下側加圧保持面42aへの伝熱量が減り、冷却用下型42の温度が上昇しにくくなっている。
【0053】
次に、図4に示すように、冷却用上型41を冷却用下型42に対して下降させる。すると、冷却用上型41の上側傾斜面49aと冷却用下型42における容積可変壁部50の下側傾斜面50aとが摺接し、この摺接動作によって容積可変壁部50が冷却用下型42の下側加圧保持面42a側に押圧されて冷却用下型42の下側加圧保持面42aに接近する。
【0054】
容積可変壁部50が下側加圧保持面42aに接近すると、液体貯留部46の貯留容積が減少する。すると、液体貯留部46に溜まる液体冷媒の液面が次第に上昇して冷却用下型42の下側加圧保持面42aよりも高くなり、液体貯留部46の液体冷媒が下側加圧保持面42a側に流れ込んで下側加圧保持面42aが液体冷媒で浸される。したがって、下側加圧保持面42aに載置されている一次成形体Pが液体冷媒に浸されるようになるので、当該液体冷媒が一次成形体Pの熱を直接的に奪って当該一次成形体Pの冷却が行われる。
【0055】
さらに、容積可変壁部50が下側加圧保持面42aに接近すると、液体貯留部46の液面付近において容積可変壁部50側から下側加圧保持面42a側に向かう液体冷媒の波が形成される。この液体冷媒の波は、下側加圧保持面42aに載置されている高温状態の一次成形体Pの表面全体に覆いかぶさるように広がり、液体冷媒が一次成形体Pの表面と直接的に接触するようになるので、当該接触する液体冷媒により当該一次成形体Pの表面の冷却が行われる。
【0056】
また、容積可変壁部50が下側加圧保持面42aに接近して液体貯留部46の貯留容積が減少すると、下側加圧保持面42aに載置されている一次成形体Pの裏面と下側凹部44との間で形成される空間に連通路48を介して液体貯留部46から液体冷媒が流れ込むこととなる。当該流れ込んだ液体冷媒は、前記空間を満たすので、下側加圧保持面42aに載置されている一次成形体Pの裏面と液体冷媒とが直接的に接触するようになり、この液体冷媒が一次成形体Pの裏面を冷却するようになる。
【0057】
その後、図5に示すように、さらに冷却用上型41を下降させて冷却用金型40を型閉じする。すると、冷却用上型41の上側加圧保持面41a及び冷却用下型42の下側加圧保持面42aにより一次成形体Pが加圧保持される。
【0058】
冷却用金型40の型閉じ状態では、冷却用上型41の第1上側凹部43と上側溝部47とが液体冷媒で満たされるとともに、冷却用下型42の下側凹部44と連通路48とが液体冷媒で満たされる。
【0059】
そして、第2上側凹部45、液体貯留部46及び容積可変壁部50の内側壁面50bで形成される空間の液体冷媒は、その液面が第1上側凹部43の天井面よりも高く且つ容積可変壁部50の上端50cよりも低い位置になるので、上側加圧保持面41a及び下側加圧保持面42aにより加圧保持されている一次成形体Pの全体が液体冷媒に浸される。このように、冷却用金型40における冷却用上型41の下降動作、つまり型閉じ動作に連動して液体冷媒の液面を上昇させることができるので、一次成形体Pを冷却用金型40で加圧保持する状態と一次成形体Pが液体冷媒で浸される状態とが同時或いは比較的少ない時間差で実現される。したがって、高温状態の一次成形体Pが液体冷媒に浸されない状態で冷却用下型42の下側加圧保持面42aに載置されている時間を短縮することができ、高温状態の一次成形体Pから冷却用下型42の下側加圧保持面42aへの伝熱を減らすことができる。
【0060】
その後、冷却用金型40を型開きして焼き入れが施された車体フレームFが第3ロボットR3に取り出されて次領域に搬送される。なお、容積可変壁部50は、冷却用金型40の冷却用上型41の型開き動作に合わせて、例えば、図示しないばねの弾性変形を利用した復元力によって容積可変壁部50を下側加圧保持面42aから離間させることにより、図3に示す元位置に復帰させる。
【0061】
以上より、本発明の実施形態によると、容積可変壁部50が移動して液体貯留部46の貯留容積が減少すると、当該液体貯留部46に溜まる液体冷媒の液面が次第に上昇して冷却用金型40の冷却用下型42の下側加圧保持面42aよりも高くなり、液体冷媒が冷却用下型42の下側加圧保持面42a側に流れ込んで当該下側加圧保持面42aが液体冷媒で浸されるようになる。したがって、冷却用金型40の冷却用下型42の下側加圧保持面42aにおいて載置或いは加圧保持されている高温状態の一次成形体Pが液体冷媒に浸された状態になるので、当該液体冷媒が一次成形体Pの熱を直接的に奪うようになり、焼き入れにおける一次成形体Pの冷却速度を高めることができる。また、液体貯留部46に溜まる液体冷媒が冷却用金型40の冷却用下型42から熱を奪って当該冷却用下型42を冷却するようになるので、当該冷却用下型42の温度上昇を効果的に抑えることができる。さらに、特許文献1の如き成形用金型に冷却用溝を設ける必要がなくなるので、冷却用溝を設けたことを起因としてホットプレス成形時の成形体表面の精度が確保できないといった事態を回避することができる。
【0062】
また、容積可変壁部50が冷却用下型42の下側加圧保持面42aに接近すると、液体貯留部46の液面付近では容積可変壁部50側から冷却用下型42の下側加圧保持面42a側に向かう液体冷媒の波が形成されるようになる。当該液体冷媒の波は、冷却用金型40の冷却用下型42の下側加圧保持面42aに載置或いは加圧保持された高温状態の一次成形体Pに到達すると、当該一次成形体Pの表面全体に覆いかぶさるよう広がることで、液体冷媒が該一次成形体Pの表面と直接的に接触するようになる。したがって、液体冷媒が、一次成形体Pの熱を直接的に奪って当該一次成形体Pの冷却が効率良く行われるようになり、焼き入れにおける一次成形体Pの冷却速度を高めることができる。
【0063】
また、冷却用金型40における冷却用上型41の下降動作に連動して液体貯留部46における液体冷媒の液面を上昇させることができるので、一次成形体Pを冷却用金型40で加圧保持する状態と一次成形体Pが液体冷媒で浸される状態とを同時或いは比較的少ない時間差で実現することができるようになる。したがって、高温状態の一次成形体Pが液体冷媒に浸されない状態で冷却用金型40の冷却用下型42の下側加圧保持面42aに載置或いは加圧保持されている時間を短縮することができ、高温状態の一次成形体Pから冷却用下型42の下側加圧保持面42aへの伝熱を減らして冷却用金型40の冷却用下型42の温度上昇を抑えることができる。また、冷却用上型41の下降動作を利用して容積可変壁部50を移動させるので、容積可変壁部50を移動させるための駆動源を別途備えることによってコストが上昇するのを回避することができる。
【0064】
また、冷却用金型40の冷却用下型42の下側加圧保持面42aの面積が、下側凹部44の開口領域が設けられている分だけ狭いので、冷却用下型42の下側加圧保持面42aに載置或いは加圧保持されている高温状態の一次成形体Pから当該下側加圧保持面42aへの伝熱量が減り、冷却用金型40の冷却用下型42の温度上昇を抑えることができる。
【0065】
また、容積可変壁部50を移動させて液体貯留部46の貯留容積を減少させると、冷却用金型40の冷却用下型42の下側加圧保持面42aに載置或いは加圧保持されている一次成形体Pの裏面と下側凹部44との間に形成される空間に連通路48を介して液体貯留部46から液体冷媒が流れ込むとともに流れ込んだ液体冷媒で前記空間が満たされるようになる。したがって、高温状態の一次成形体Pの裏面に液体冷媒が直接的に接触して当該液体冷媒により高温状態の一次成形体Pから奪う熱の量が多くなるので、当該一次成形体Pの冷却速度をさらに向上させることができる。
【0066】
尚、本発明の実施形態では、互いに対応する上側傾斜面49a及び下側傾斜面50aを設けるとともに冷却用上型41の下降動作に連動して容積可変壁部50を移動させるようにしているが、これに限らず、例えば、図6に示すように、容積可変壁部50を冷却用下型42の下側加圧保持面42aに対して接近離間させるための専用の駆動源55を別途設けてもよい。そして、図7に示すように、冷却用上型41の下降動作に合わせて、駆動源55を駆動させて容積可変壁部50を下側加圧保持面42aに接近させることにより液体貯留部46の液体冷媒の液面を上昇させるようにしてもよい。このようにすることで、一次成形体Pは、液体貯留部46から下側加圧保持面42a側に流れ込む液体冷媒に浸されて冷却される。
【0067】
また、本発明の実施形態では、冷却用下型42には、下側凹部44及び連通路48が設けられていたが、これらに代えて、図8に示すように、下側加圧保持面42aに開口するとともに、各端部が液体貯留部46に解放する下側溝部57を設けてもよい。このようにすることで、容積可変壁部50を下側加圧保持面42aに接近させることにより液体貯留部46の貯留容積が減少すると、液体貯留部46の液面が上昇して、下側溝部57の各端部の開口から当該下側溝部57と下側加圧保持面42aに載置或いは加圧保持されている一次成形体Pの裏面との間の空間に液体貯留部46の液体冷媒が流れ込んで当該空間を満たすようになる。したがって、当該空間内の液体冷媒が一次成形体Pの裏面に直接的に接触するので、当該一次成形体Pの裏面を冷却することができる。さらに、冷却用金型40の冷却用下型42の下側加圧保持面42aの面積が、下側溝部57の開口領域が設けられている分だけ狭いので、冷却用下型42の下側加圧保持面42aに載置或いは加圧保持されている高温状態の一次成形体Pから当該下側加圧保持面42aへの伝熱量が減り、冷却用金型40の冷却用下型42の温度上昇を抑えることができる。
【0068】
尚、本発明の本実施形態では、一次成形体Pは、上側加圧保持面41a及び下側加圧保持面42aにより加圧保持される前の下側加圧保持面42aに載置されている状態において、液体冷媒に浸されるようになっているが、上側加圧保持面41a及び下側加圧保持面42aにより加圧保持された後に液体冷媒に浸されるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、成形領域にて得られた高温状態の成形体を冷却領域の冷却用金型で加圧保持して冷却することにより焼き入れするよう構成されたホットプレス装置に適している。
【符号の説明】
【0070】
1 ホットプレス装置
40 冷却用金型
41 冷却用上型
42 冷却用下型
41a 上側加圧保持面
42a 下側加圧保持面
44 下側凹部
46 液体貯留部
48 連通路
49a 上側傾斜面
50 容積可変壁部
50a 下側傾斜面
P 一次成形体
F 車体フレーム(最終成形体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8