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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146237
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】クライストロン
(51)【国際特許分類】
   H01J 23/00 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
H01J23/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053324
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 貴仁
(57)【要約】
【課題】不具合の原因を特定可能なクライストロンを提供する。
【解決手段】電子を発生する陰極と、入力空胴、中間空胴、及び出力空胴を有している管容器と、前記出力空胴に接続されている出力部と、前記出力部に設けられた出力窓と、前記電子を捕捉するコレクタと、前記出力窓、前記管容器、又は前記コレクタのうち少なくとも1つを冷却し、一端に冷媒を取入れる取入れ口と、他端に冷媒を吐出す吐出し口とを有している冷却管と、前記冷却管における冷媒の温度、前記管容器の内部の光量、又は前記管容器の内部の圧力を示す検出値を検出するセンサと、前記検出値を記憶する記憶部と、を備えている、クライストロン。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を発生する陰極と、
入力空胴、中間空胴、及び出力空胴を有している管容器と、
前記出力空胴に接続されている出力部と、
前記出力部に設けられた出力窓と、
前記電子を捕捉するコレクタと、
前記出力窓、前記管容器、又は前記コレクタのうち少なくとも1つを冷却し、一端に冷媒を取入れる取入れ口と、他端に冷媒を吐出す吐出し口とを有している冷却管と、
前記冷却管における冷媒の温度、前記管容器の内部の光量、又は前記管容器の内部の圧力を示す複数の検出値を検出するセンサと、
前記複数の検出値を記憶する記憶部と、を備えている、
クライストロン。
【請求項2】
前記複数の検出値を取得する制御部と、
前記複数の検出値を外部に送信可能な送信部と、を更に備え、
前記記憶部は、閾値を記憶し、
前記制御部は、前記複数の検出値のうち前記閾値を超えている異常検出値があるか否かを判断し、前記異常検出値があった場合、前記異常検出値、前記異常検出値の直前に取得された検出値から前記異常検出値よりも所定数前に取得された検出値までの所定数の検出値、及び前記異常検出値の直後に取得される検出値から前記異常検出値よりも所定数後に取得される検出値までの所定数の検出値、を前記外部に送信する、
請求項1に記載のクライストロン。
【請求項3】
前記記憶部は、保存期間を記憶し、
前記制御部は、
前記複数の検出値のうち取得されてからの期間が前記保存期間を超えている不要検出値があるか否かを判断し、
前記不要検出値があった場合、前記不要検出値を前記記憶部から消去する消去処理を行い、
前記不要検出値がなかった場合、前記複数の検出値を前記記憶部に記憶した状態を維持する、
請求項2に記載のクライストロン。
【請求項4】
前記制御部は、前記異常検出値及び前記所定数の検出値に対しての前記消去処理を禁止する、
請求項3に記載のクライストロン。
【請求項5】
前記複数の検出値を取得する制御部を更に備え、
前記記憶部は、保存期間を記憶し、
前記制御部は、
前記複数の検出値のうち取得されてからの期間が前記保存期間を超えている不要検出値があるか否かを判断し、
前記不要検出値があった場合、前記不要検出値を前記記憶部から消去する消去処理を行い、
前記不要検出値がなかった場合、前記複数の検出値を前記記憶部に記憶した状態を維持する、
請求項1に記載のクライストロン。
【請求項6】
前記記憶部は、閾値を記憶し、
前記制御部は、前記複数の検出値のうち前記閾値を超えている異常検出値があるか否かを判断し、前記異常検出値があった場合、前記異常検出値、前記異常検出値の直前に取得された検出値から前記異常検出値よりも所定数前に取得された検出値までの所定数の検出値、及び前記異常検出値の直後に取得される検出値から前記異常検出値よりも所定数後に取得される検出値までの所定数の検出値、に対しての前記消去処理を禁止する、
請求項5に記載のクライストロン。
【請求項7】
前記センサは、前記取入れ口における前記冷媒の第1温度を検出する、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のクライストロン。
【請求項8】
前記センサは、前記第1温度と、前記吐出し口における前記冷媒の第2温度と、の差の絶対値を検出する、
請求項7に記載のクライストロン。
【請求項9】
前記冷媒を前記冷却管の一端から前記冷却管の他端まで送るポンプを更に備えている、
請求項8に記載のクライストロン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、クライストロンに関する。
【背景技術】
【0002】
クライストロンは、高周波電力の増幅に使用される電子管である。クライストロンは、電子を発生する陰極と、入力空胴、中間空胴及び出力空胴を有している管容器と、出力空胴に接続された出力部と、出力部に設けられた出力窓と、電子を捕捉するコレクタと、を備えている。異常を検知するためにセンサを備えることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58-54537号公報
【特許文献2】特開2001-185041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本実施形態は、不具合の原因を特定可能なクライストロンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係るクライストロンは、電子を発生する陰極と、入力空胴、中間空胴、及び出力空胴を有している管容器と、前記出力空胴に接続されている出力部と、前記出力部に設けられた出力窓と、前記電子を捕捉するコレクタと、前記出力窓、前記管容器、又は前記コレクタのうち少なくとも1つを冷却し、一端に冷媒を取入れる取入れ口と、他端に冷媒を吐出す吐出し口とを有している冷却管と、前記冷却管における冷媒の温度、前記管容器の内部の光量、又は前記管容器の内部の圧力を示す検出値を検出するセンサと、前記検出値を記憶する記憶部と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、一実施形態に係るクライストロンの一例を示す断面図である。
図2図2は、図1の管容器を及び冷却管をコレクタ側から見た平面図である。
図3図3は、図2の線B-Bに沿った管容器及び冷却管の断面図である。
図4図4は、図1の線A-Aに沿った出力窓を冷却する冷却管の断面図である。
図5図5は、上記実施形態に係るクライストロンの制御構成を示すブロック図である。
図6図6は、上記実施形態に係るクライストロンが検出値に対して行う処理の一例を示すフローチャートである。
図7図7は、図6に続く、上記実施形態に係るクライストロンが検出値に対して行う処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の趣旨を保っての適宣変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面や説明をより明確にするため、実際の様態に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宣省略することがある。
【0008】
始めに、本発明の実施形態の基本構想について説明する。
クライストロンは高周波電力の増幅に使用される電子管であり、電子を放出する電子銃部と、高周波電力の入力部と、高周波電力の出力部と、高周波相互作用部と、使用済みの電子を捕捉するコレクタとを備えている。高周波相互作用部は、電子の進行方向に配列された複数の共振空胴から構成されている。共振空胴には、高周波電力を入力する入力空胴及び高周波電力を出力する出力空胴が含まれる。電子銃部と高周波相互作用部間、高周波相互作用部間を構成する複数の共振空胴間、及び高周波相互作用部とコレクタ部間は、それぞれドリフト管で連結されている。
【0009】
このような構成のクライストロンにおいては、電子銃部から放出された電子は、信号の入力部をもつ入力空胴を通り、その前方にある複数の共振空胴と相互作用して集群する。集群した電子の運動エネルギーは入力された高周波に付与され、出力空胴において集群した電子が減速されることにより、出力部より目的とする出力に増幅された高周波電力として取り出される。
出力部より取り出された高周波電力は、ユーザ側の施設のドリフト管と連結され粒子の加速に利用される。
【0010】
ところで、クライストロンの稼働においては様々な注意が必要であり、注意を怠るとクライストロンに深刻なダメージを与えることがある。クライストロンを保護する一例として、放電などによるドリフト管の真空度悪化による放電発生や冷却設備の不具合による温度上昇等に対応するためのインターロックや設備側からの大電力流入に備えるレギュレータ等がある。
【0011】
従来のクライストロンは、不具合の発生後の処置として、技術者が現地に訪問するか、クライストロンを輸送して製造元まで戻す必要性があり、コストがかかっていた。また、調査において不具合の原因の断定ができない場合もあり、使用方法の問題であったとしても立証ができずに製造元が保証する場合もあり、コストが増加することが課題であった。
【0012】
そこで、本発明の実施形態においては、係る問題を改善するものであり、不具合の原因を特定可能なクライストロンを得ることができるものである。上記問題を改善するための手段について説明する。
【0013】
図1は、一実施形態に係るクライストロンの一例を示す断面図である。
図1に示すように、クライストロン1には、電子銃部2、高周波相互作用部3、及びコレクタ4が設けられている。
【0014】
電子銃部2は、電子20を発生する陰極21、電子20を加速する陽極22、電子銃容器23、絶縁部24、及び継手25を備えている。
例えば、陰極21には負の高電圧を印加し、陽極22は接地することができる。
【0015】
電子銃容器23は筒状を呈し、陰極21の、陽極22側の端部の近傍、及び陽極22を囲んでいる。電子銃容器23は、例えば、ステンレスなどの金属から形成することができる。
【0016】
絶縁部24は、陰極21と陽極22とを電気的に絶縁するために設けられている。絶縁部24は、筒状を呈し、陰極21の陽極22側とは反対側の端部を囲んでいる。絶縁部24の高周波相互作用部3側の端部は、電子銃容器23の高周波相互作用部3側とは反対側の端部に気密に接続されている。絶縁部24の高周波相互作用部3側とは反対側の端部は、例えば、底板26により気密に閉鎖することができる。絶縁部24は、例えば、セラミックスなどの絶縁体から形成することができる。底板26は、例えば、ステンレスなどの金属から形成することができる。
【0017】
継手25は、一例では、電子銃容器23の管容器30側の端部に設けられている。継手25は、例えば、ステンレスなどの金属から形成することができる。
【0018】
高周波相互作用部3は、電子20の進行方向に対して、電子銃部2の前方に設けられている。高周波相互作用部3は、電子銃部2とコレクタ4との間に気密に接続されている。
高周波相互作用部3は、管容器30、出力部34、継手35、出力窓36、放電センサ37、イオンポンプ38、送信部39、及び冷却管50,51を備えている。
【0019】
管容器30は、電子銃容器23の電子20の放出側に設けられている。管容器30の内部には、複数の共振空胴、及び複数のドリフト管が設けられている。複数の共振空胴、及び複数のドリフト管は、クライストロン1の管軸1aに沿って同軸に設けられている。図1に例示したクライストロン1の場合には、5個の共振空胴31a,31b,31c,31d,31eが管軸1aを中心として並べて設けられている。
【0020】
電子銃部2に最も近い共振空胴31a(入力空胴)には、高周波電力を入力する入力部33が接続されている。入力部33は、例えば、同軸ケーブルなどとすることができる。コレクタ4に最も近い共振空胴31e(出力空洞)には、出力部34が接続されている。出力部34は、例えば、導波管などとすることができる。
【0021】
出力部34には、出力窓36、放電センサ37、イオンポンプ38が設けられている。
出力窓36は、出力部34に気密に取り付けられ、高周波電力を透過する。出力窓36の材料は、例えば、アルミナ(Al)などのセラミックである。出力窓36の周囲には、出力窓36を冷却するための冷却管51が配置されている。冷却管51の詳細については、図4の説明で後述する。
【0022】
放電センサ37は、出力部34の出力窓36よりも管容器30側に設けられている。放電センサ37は、管容器30の内部の光量を示す検出値を検出する光センサである。放電センサ37は、高周波電力の影響を受けにくく、かつ、管容器30の内部の光量を検出可能な位置に取り付けられている。一例では、放電センサ37は、出力部34に設けられた孔から管容器30で発生した光の光量を検出可能に設けられている。光量を示す検出値は、電流値として検出される。放電センサ37は、放電による発光が生じているか否かを監視するために設けられており、例えば、数ナノ秒から数マイクロ秒の間隔で光量を示す検出値を検出する。例えば、放電センサ37の検出値が0.1μAから10μAに変化していた場合、放電による発光が生じていると予想できる。
放電センサ37は、出力窓36よりも管容器30側に設けられている。なお、放電センサ37は、出力窓36に対して、管容器30の反対側に設けられていてもよい。
【0023】
イオンポンプ38は、管容器30の内部を真空にするための排気動作を行う。イオンポンプ38は、上記排気動作時における電流値(排気している気体分子で真空度に相当)から、管容器30の内部の圧力を示す検出値を検出する。例えば、電流値が増えていると管容器30の内部の気体分子が増え、圧力が増加していると予想できる。つまり、イオンポンプ38は、圧力センサとしての機能も有している。一例では、イオンポンプ38を使用した例を示しているが、例えば、管容器30の内部を真空にするための真空ポンプと内部の圧力を検出する圧力センサとを別々に設けることも可能である。上記圧力センサとしては、例えば、イオンゲージを用いることができる。
【0024】
ドリフト管は、電子銃部2と高周波相互作用部3との間、複数の共振空胴同士の間、高周波相互作用部3とコレクタ4との間に設けられ、これらを連結している。図1に例示したクライストロン1の場合には、6個のドリフト管32a,32b,32c,32d,3e,32fが管軸1aを中心として並べて設けられている。
【0025】
電子銃部2に最も近いドリフト管32aの電子銃部2側の端部は、陰極21に対峙している。コレクタ4に最も近いドリフト管32fのコレクタ4側の端部は、コレクタ4に接続されている。
管容器30は、銅などの導電性の高い金属から形成することができる。
【0026】
送信部39は、温度センサ60a,60b,61a,61b,62a,61b(温度センサ60a,60b,61a,61bについては図2乃至図4の説明で後述する)、圧力センサ(一例ではイオンポンプ38)、及び放電センサ37で検出された物理量を示す検出値をクライストロン1の外部にインターネットを介して送信する。ここで言う、クライストロン1の外部とは、例えば、クライストロン1の製造元の工場などである。送信部39は、高周波相互作用部3に位置している。なお、送信部39の位置は、高周波相互作用部3に限られず、例えば、電子銃部2に位置してもよい。また、クライストロン1は送信部39無しに構成されてもよい。
【0027】
管容器30の内部には、管容器30を冷却するための冷却管50が配置されている。冷却管50の詳細については、図2及び図3の説明で後述する。
【0028】
継手35は、一例では、管容器30の電子銃容器23側の端部に設けられている。継手35は、例えば、継手25と同じ材料から形成することができる。継手35は、継手25と気密に接続され、クライストロン1の内部を真空に保っている。
【0029】
コレクタ4は、電子20の進行方向に対して、高周波相互作用部3の前方に設けられている。コレクタ4は、高周波相互作用部3を通過した電子20を捕捉する。コレクタ4は、捕捉した電子20を熱に変換して放出することができる。コレクタ4の周囲には、冷却管52が配置されている。
【0030】
冷却管52は、コレクタ4を冷却し、一端に冷媒を取入れる取入れ口52aと、他端に冷媒を吐出す吐出し口52bとを有している。冷却管52には冷媒が流れている。冷媒は、例えば、水である。一例では、取入れ口52a及び吐出し口52bは配管によってポンプP2と接続され、ポンプP2によって冷媒の流量及び冷媒の圧力がコレクタ4の冷却が可能となるように調整され、冷媒は、冷却管52内を流れている。なお、必ずしもポンプP2を用いて冷媒を流さなくともよい。
【0031】
取入れ口52aには、コレクタ4と熱交換される前の冷媒の温度を示す検出値を検出する温度センサ62aが設けられている。吐出し口52bには、コレクタ4と熱交換された後の冷媒の温度を示す検出値を検出する温度センサ62bが設けられている。ここで、熱交換される前の取入れ口50a,51a,52aにおける温度を第1温度、熱交換された後の吐出し口50b,51b,52bにおける温度を第2温度と定義する。温度センサ62a,62bは、取入れ口52aにおける第1温度と吐出し口52bにおける第2温度との差の絶対値を検出してもよい。なお、温度センサ62a,62bは、冷却管52の表面の温度を検出してもよい。温度センサ62a,62bは、例えば、数秒に一回の間隔で温度を示す検出値を検出している。
【0032】
また、クライストロン1の外部には、集束電磁石5を設けることができる。集束電磁石5は、高周波相互作用部3(管容器30)を囲むように設けることができる。例えば、クライストロン1は、集束電磁石5に設けられた孔5aの内部に挿入することができる。集束電磁石5に通電することで磁場が発生する。発生した磁場により、電子20が管容器30(ドリフト管32a,32b,32c,32d,32e,32f)の内壁に衝突しないように集束される。
【0033】
ここで、このような構成を有するクライストロン1の作用について説明する。
電子銃部2(陰極21)から放出された電子20は、入力部33が設けられた共振空胴31aを通り、その前方にある複数の共振空胴31b,31c,31d,31eを通過するたびに相互作用により集群する。集群した電子20が、共振空胴31eにおいて減速されることで、出力部34を介して目的とする出力に増幅された高周波電力を取り出すことができる。
【0034】
図2は、図1の管容器を及び冷却管をコレクタ側から見た平面図である。図3は、図2の線B-Bに沿った管容器及び冷却管の断面図である。なお、図2において、ドリフト管32fとコレクタ4との接続部は省略して記載している。図3において、冷媒を流すためのポンプP0も記載している。
【0035】
図2及び図3に示すように、冷却管50は、一端に冷媒を取入れる取入れ口50aと、他端に冷媒を吐出す吐出し口50bとを有している。一例では、取入れ口50aと吐出し口50bとは、管容器30の内部を経由して接続されている。ただし、冷却管50の経路は、管容器30の内部を経由することに限定されず、例えば、管容器30の管軸1aに沿って延在する外面30aと接触するように設置されてもよい。冷却管50には冷媒が流れている。冷媒は、例えば、水である。一例では、取入れ口50a及び吐出し口50bは配管によってポンプP0と接続され、ポンプP0によって冷媒の流量及び冷媒の圧力が管容器30の冷却が可能となるように調整され、冷媒は、冷却管50内を流れている。なお、必ずしもポンプP0を用いて冷媒を流さなくともよい。
【0036】
取出し口50aには、管容器30と熱交換される前の冷媒の第1温度を検出する温度センサ60aが設けられている。吐出し口50bには、管容器30と熱交換された後の冷媒の第2温度を検出する温度センサ60bが設けられている。温度センサ60a,60bは、取入れ口50aにおける第1温度と吐出し口50bにおける第2温度との差の絶対値を検出してもよい。なお、温度センサ60a,60bは、冷却管50の表面の温度を検出してもよい。温度センサ60a,60bは、例えば、数秒に一回の間隔で温度を示す検出値を検出している。
【0037】
図4は、線A-Aに沿った出力窓36を冷却する冷却管51の断面図である。なお、図4には、冷媒を流すためのポンプP1も記載している。図4に示すように、冷却管51は、一端に冷媒を取入れる取入れ口51aと、他端に冷媒を吐出す吐出し口51bとを有している。冷却管51は、出力窓36を囲み、出力部34の外側に位置している。冷却管51には冷媒が流れている。冷媒は、例えば、水や空気である。一例では、取入れ口51a及び吐出し口51bは配管によってポンプP1と接続され、ポンプP1によって冷媒の流量及び冷媒の圧力が出力窓36の冷却が可能となるように調整され、冷媒は、冷却管51内を流れている。なお、必ずしもポンプP1を用いて冷媒を流さなくともよい。
【0038】
取出し口51aには、出力窓36と熱交換される前の冷媒の第1温度を検出する温度センサ61aが設けられている。吐出し口51bには、出力窓36と熱交換された後の冷媒の第2温度を検出する温度センサ61bが設けられている。温度センサ61a,61bは、取入れ口51aにおける第1温度と吐出し口51bにおける第2温度との差の絶対値を検出してもよい。なお、温度センサ61a,61bは、冷却管51の表面の温度を検出してもよい。温度センサ61a,61bは、例えば、数秒に一回の間隔で温度を示す検出値を検出している。
【0039】
図1乃至図4の説明で記載した温度センサ60a,60b,61a,61b,62a,61b、放電センサ37、及び圧力センサ(イオンポンプ38以外のセンサで圧力を検出する場合)は、集束電磁石5、図示しないバッテリ、又は図示しない電源に接続され、必要な電力が供給されている。
【0040】
次に、上記のように構成されたクライストロン1の制御構成について説明する。図5は、上記実施形態に係るクライストロン1の制御構成を示すブロック図である。図5に示すように、クライストロン1は、制御部70及び記憶部71を更に備えている。制御部70は、温度センサ60a,60b,61a,61b,62a,62b、放電センサ37、イオンポンプ38、送信部39、及び記憶部71にそれぞれ接続されている。制御部70と各センサとの接続、制御部70と送信部39との接続、及び制御部70と記憶部71との接続は、配線であってもよいし、近距離無線通信(例えばBluetooth(登録商標)など)を含む無線通信であってもよい。
【0041】
制御部70は、記憶部71及び送信部39を制御する。例えば、制御部70は、各センサで取得された検出値を記憶部71に記憶し、記憶部71に記憶された検出値を消去することができる。制御部70は、各センサで取得された検出値をクライストロン1の外部に送信するか否かを判断し、検出値をクライストロン1の外部に送信することができる。
【0042】
記憶部71は、各センサで検出された検出値を記憶する。また、記憶部71は、閾値と検出値を記憶しておく期間である保存期間とを記憶する。閾値は、クライストロン1の性能や特性に応じて自由に設定可能な数値である。閾値は、各センサに対応した数値を設定可能であり、各センサに対して異なる数値を設定可能である。なお、記憶部71は、閾値及び保存期間を記憶しなくともよい。
【0043】
制御部70は、閾値に基づいて検出値をクライストロン1の外部に送信するか否かを判断し、保存期間に基づいて記憶部71に記憶された検出値を消去する消去処理を行うか否かを判断する。制御部70は、保存期間に基づいて消去処理を行わないと判断した場合、検出値が記憶部71に記憶された状態を維持する。なお、制御部70は、閾値及び保存期間に基づいて上記消去処理を行うか否かを判断してもよい。
クライストロン1は上記のように構成されている。
【0044】
次に、クライストロン1が外部に検出値を送信し、かつ、記憶部71から検出値を消去し、かつ、記憶部71から検出値を消去する消去処理を禁止する処理について説明する。図6は、上記実施形態に係るクライストロン1が検出値に対して行う処理の一例を示すフローチャートである。図7は、図6に続く、上記実施形態に係るクライストロン1が検出値に対して行う処理の一例を示すフローチャートである。以下で記載する「センサ」とは「温度センサ60a,60b,61a,61b,62a,62b、放電センサ37、又は圧力センサ(一例では、イオンポンプ38)」のことであり、例えば、「温度センサ60aが検出値を取得する」、「放電センサ37が検出値を取得する」ことなどを、単に「センサが検出値を取得する」と称する。
【0045】
図6及び図7に示すように、クライストロン1が外部に検出値を送信し、かつ、記憶部71から検出値を消去し、かつ、記憶部71から検出値を消去する消去処理を禁止する処理が開始すると、まず、ステップS5において、記憶部71に閾値及び保存期間を記憶する。次に、ステップS10において、制御部70は、センサから検出値を取得し、記憶部71に検出値を記憶する。
【0046】
次いで、ステップS15において、制御部70は、記憶部71に閾値を超えている検出値(以下、「異常検出値」と称する)があるか否かを判断し、異常検出値があった場合、ステップS20に移行する。ステップS20において、制御部70は、異常検出値、異常検出値の直前に取得された検出値から異常検出値よりも所定数前に取得された検出値までの所定数の検出値、及び異常検出値の直後に取得される検出値から異常検出値よりも所定数後に取得される検出値までの所定数の検出値、のうちクライストロン1の外部に送信済みでない検出値があるか否かを判断する。上記所定数の検出値は、クライストロン1の不具合の原因を特定するための原因特定検出値である。そのため、上記所定数は複数であることが好ましい。更に、ステップS20の内容を言い換えると、クライストロン1の外部に送信済みでない異常検出値、及びクライストロン1の外部に送信済みでない原因特定検出値があるか否かを判断する。クライストロン1の外部に送信済みでない異常検出値、及びクライストロン1の外部に送信済みでない原因特定検出値が無かった場合、ステップS30に移行する。
【0047】
クライストロン1の外部に送信済みでない異常検出値、及びクライストロン1の外部に送信済みでない原因特定検出値があった場合(ステップS20)、ステップS25に移行し、送信済みでない異常検出値及び送信済みでない原因特定検出値をクライストロン1の外部に送信する。なお、異常検出値が複数回連続して取得されていた場合、最初に取得された異常検出値の直前に取得された検出値から異常検出値よりも所定数前に取得された検出値までの所定数の検出値と、最後に取得された異常検出値の直後に取得される異常検出値から異常検出値よりも所定数後に取得された検出値までの所定数の検出値と、を原因特定検出値とする。その後、ステップS30に移行する。
【0048】
一方、閾値よりも大きい異常検出値が無かった場合(ステップS15)、ステップS30に移行する。
【0049】
ステップS30において、制御部70は、消去処理が禁止されていない異常検出値及び消去処理が禁止されていない原因特定検出値があるか否かを判断し、消去処理が禁止されていない異常検出値及び消去処理が禁止されていない原因特定検出値があった場合、ステップS35に移行し、制御部70は、消去処理が禁止されていない異常検出値及び消去処理が禁止されてい合い原因特定検出値に対しての消去処理を禁止する。なお、異常検出値が複数回連続して取得されていた場合、最初に取得された異常検出値の直前に取得された検出値から異常検出値よりも所定数前に取得された検出値までの所定数の検出値と、最後に取得された異常検出値の直後に取得される異常検出値から異常検出値よりも所定数後に取得された検出値までの所定数の検出値と、を原因特定検出値とする。その後、ステップS40に移行する。
【0050】
消去処理が禁止されていない異常検出値及び消去処理が禁止されていない原因特定検出値がなかった場合(ステップS30)、ステップS40に移行する。
【0051】
ステップS40において、制御部70は、記憶部71に取得されてからの期間が保存期間を超えている検出値(以下、「不要検出値」と称する)があるか否かを判断し、不要検出値があった場合、ステップS45に移行し、不要検出値が異常検出値又は原因特定検出値に該当するか否かを判断する。不要検出値が異常検出値又は原因特定検出値に該当する場合、ステップS55に移行する。
【0052】
不要検出値が異常検出値又は原因特定検出値に該当しない場合、ステップS50に移行し、制御部70は、不要検出値に対して消去処理を行う。その後、ステップS55に移行する。
【0053】
一方、不要検出値が無かった場合(ステップS40)、ステップS55に移行し、制御部70は、クライストロン1が稼働中であるか否かを判断し、クライストロンが稼働中である場合、ステップS10に移行する。クライストロン1が稼働中でなかった場合、外部に検出値を送信し、かつ、記憶部71から検出値を消去し、かつ、記憶部71から検出値を消去する消去処理を禁止する処理を終了する。なお、クライストロン1が稼働していない場合においても、クライストロン1の外部から負荷(例えば、大電流)によって管容器30内部の真空度が悪化するなどの不具合が発生する場合がある。そのため、ステップS55は、クライストロン1が稼働中であるかに関わらず、ステップS10に移行する処理としてもよい。
【0054】
なお、クライストロン1は、送信部39無しに構成されてもよく、クライストロン1の外部に検出値を送信しなくてもよい。図6及び図7で例えると、ステップS5において、閾値を記憶しなくともよい。ステップS15において、閾値よりも大きい異常検出値があるか否かを判断しなくともよい。ステップS20において、送信済みでない異常検出値及び送信済みでない原因特定検出値があるか否かを判断しなくともよい。ステップS25において、異常検出値及び原因特定検出値をクライストロン1の外部に送信しなくともよい。
【0055】
また、クライストロン1は、消去処理を禁止する処理を行わなくともよい。図6及び図7で例えると、ステップS5において、閾値を記憶しなくともよい。ステップS30において、消去処理を禁止されていない異常検出値及び消去処理を禁止されていない原因特定検出値があるか否かを判断しなくともよい。ステップS35において、異常検出値及び原因特定検出値に対しての消去処理を禁止しなくともよい。ステップS45において、不要検出値が異常検出値又は原因特定検出値に該当するか否かを判断しなくともよい。
【0056】
更に、クライストロン1は、検出値に対しての消去処理を行わなくともよい。図6及び図7で例えると、ステップS5において保存期間を記憶しなくともよい。ステップS40において、取得されてからの期間が保存期間を超えている不要検出値があるか否かを判断しなくともよい。ステップS50において、不要検出値に対して消去処理を行わなくともよい。
【0057】
上記実施形態に係るクライストロン1の効果について説明する。
上記のように構成されたクライストロン1によれば、クライストロンは、陰極21と、管容器30と、出力部34と、出力窓36と、コレクタ4と、冷却管50,51,52と、各種センサ(温度センサ60a,60b,61a,61b,62a,62b、放電センサ37、圧力センサ(イオンポンプ38))と、記憶部71とを備えている。
記憶部71は、各種センサで検出された複数の検出値を記憶する。これにより、クライストロン1の不具合の原因を特定可能なクライストロンを得ることができる。更に、記憶部71に記憶された検出値が記憶されることで、ユーザ側から製造元に共有してもらうことも可能となる。
【0058】
クライストロン1は、制御部70と送信部39とを更に備え、記憶部71は閾値を記憶している。制御部70は、複数の検出値のうち閾値を超えている異常検出値がある場合に、異常検出値及び原因特定検出値をクライストロン1の外部に送信する。これにより、クライストロン1が設置されている現場に行くこと、又はクライストロン1を輸送により取り寄せる手間を省略することができる。つまり、早期に不具合の原因を特定し、人件費や輸送費などのコストを削減することができる。更に、閾値の設定次第では、製造元からユーザ側へ動作状況や交換時期の注意を提案も可能であり、ユーザ側の施設の停止などのリスクを下げる効果を得ることもできる。
【0059】
記憶部71は、保存期間を記憶している。制御部70は、取得してからの期間が保存期間を超えている不要検出値に対して記憶部71から消去する消去処理を行う。ただし、不要検出値が異常検出値又は原因特定検出値に該当する場合、消去処理を禁止してもよい。これにより、記憶部71の容量を節約することができる。
【0060】
クライストロン1は、ポンプP0,P1,P2を更に備えている。温度センサ60a,61a,62aは、冷媒が熱交換される前の第1温度を検出する。温度センサ60a,60b,61a,61b,62a,62bは、第1温度と第2温度との差の絶対値を検出する。これにより、クライストロン1の異常発熱(例えば、電子20が管容器30の内面に衝突することによる発熱)か、冷媒を流す設備側の異常による発熱かを判断することができる。
例えば、第1温度が25℃から徐々に上昇して50℃となった場合、施設側に異常が発生し、正常な温度の冷媒を冷却管50,51,52に送り出せていないと予想できる。更に、管容器30の冷却管50の第1温度と第2温度との差の絶対値が1℃から10℃に変化した場合、管容器30で異常発熱が発生していると予想することができる。
【0061】
本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
1…クライストロン、2…電子銃部、3…高周波相互作用部、4…コレクタ、5…集束電磁石、20…電子、21…陰極、22…陽極、30…管容器、30a…外面、31a,31b,31c,31d,31e…共振空胴、32a,32b,32c,32d,32e,32f…ドリフト管、33…入力部、34…出力部、36…出力窓、37…放電センサ、38…イオンポンプ、39…送信部、50,51,52…冷却管、50a,51a,52a…取出し口、50b,51b,52b…吐出し口、60a,60b,61a,61b,62a,62b…温度センサ、70…制御部、71…記憶部、P0,P1,P2…ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7