(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146256
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】アレイアンテナ装置、アレイアンテナ装置の制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/06 20060101AFI20231004BHJP
H04B 7/08 20060101ALI20231004BHJP
H01Q 3/36 20060101ALI20231004BHJP
H01Q 21/08 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
H04B7/06 150
H04B7/08 420
H01Q3/36
H01Q21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053353
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】301072650
【氏名又は名称】NECスペーステクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】笹村 謙
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA04
5J021AA05
5J021AA07
5J021AA11
5J021FA06
5J021FA32
5J021GA02
5J021HA05
(57)【要約】
【課題】アレイアンテナ装置の位相オフセットに起因する信号品質の劣化の影響を低減する。
【解決手段】実施形態に係るアレイアンテナ装置10は、アンテナ素子a1~a4と移相器p1~p4とをそれぞれ含む複数のアレイ部を備え、指向方向が調整可能なアレイアンテナ装置であって、アレイアンテナ装置によって送受信する全体ビーム情報に基づき、各アンテナ素子によって送受信する個別ビームの位相を制御するための位相制御情報を、各アンテナに対応する移相器にそれぞれ出力するビーム制御部11と、位相制御情報に基づき、位相オフセットしている移相器を特定する第1特定部12と、位相オフセットしている移相器から発生する信号の第1シンボルずれを考慮して変調又は復調を行う信号処理部13とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ素子と移相器とをそれぞれ含む複数のアレイ部を備え、指向方向が調整可能なアレイアンテナ装置であって、
前記アレイアンテナ装置によって送受信する全体ビーム情報に基づき、各アンテナ素子によって送受信する個別ビームの位相を制御するための位相制御情報を、各アンテナに対応する移相器にそれぞれ出力するビーム制御部と、
前記位相制御情報に基づき、位相オフセットしている移相器を特定する第1特定部と、
特定された位相オフセットしている移相器から発生する信号の第1シンボルずれを考慮して変調又は復調を行う信号処理部と、
を備える、
アレイアンテナ装置。
【請求項2】
通信相手のアレイアンテナ装置が送受信するビームの指向方向の角度に基づき、該通信相手における位相オフセットしている移相器を特定する第2特定部をさらに備え、
前記信号処理部は、前記通信相手の位相オフセットしている移相器から発生する信号の第2シンボルずれをさらに考慮して変調又は復調を行う、
請求項1に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項3】
前記第2特定部は、通信相手のアレイアンテナ装置から出力されるパイロット信号に基づいて、該通信相手のアレイアンテナ装置のビームの指向方向の角度を特定し、通信相手のアレイアンテナ装置における位相オフセットしている移相器を特定する、
請求項2に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項4】
自身が送受信する全体ビームの指向方向の角度を用いて、通信相手のアレイアンテナ装置のビームの指向方向の角度を計算する演算部をさらに備え、
前記第2特定部は、前記演算部において計算された通信相手の角度情報に基づいて、通信相手のアレイアンテナ装置における位相オフセットしている移相器を特定する、
請求項2に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、通信相手のアレイアンテナ装置が送受信するビームの第2シンボルずれを取得し、取得した前記第2シンボルずれをさらに考慮して変調又は復調を行う、
請求項1に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項6】
前記位相制御情報に対応する位相オフセットの値を記憶する記憶部をさらに備え、
前記第1特定部は、前記記憶部を参照して、位相オフセットしている移相器を特定する、
請求項1に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項7】
アンテナ素子と移相器とをそれぞれ含む複数のアレイ部を備え、指向方向が調整可能なアレイアンテナ装置の制御方法であって、
前記アレイアンテナ装置によって送受信する全体ビーム情報に基づき、各アンテナ素子によって送受信する個別ビームの位相を制御するための位相制御情報を、各アンテナに対応する移相器にそれぞれ出力し、
前記位相制御情報に基づき、位相オフセットしている移相器を特定し、
位相オフセットしている移相器から発生する信号のシンボルずれを考慮して変調又は復調を行う、
アレイアンテナ装置の制御方法。
【請求項8】
アンテナ素子と移相器とをそれぞれ含む複数のアレイ部を備え、指向方向が調整可能なアレイアンテナ装置を制御するプログラムであって、
前記アレイアンテナ装置によって送受信する全体ビーム情報に基づき、各アンテナ素子によって送受信する個別ビームの位相を制御するための位相制御情報を、各アンテナに対応する移相器にそれぞれ出力する処理と、
前記位相制御情報に基づき、位相オフセットしている移相器を特定する処理と、
位相オフセットしている移相器から発生する信号のシンボルずれを考慮して変調又は復調を行う処理と、
をコンピュータに実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレイアンテナ装置、アレイアンテナ装置の制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
周波数帯を有効に利用する技術の1つとして、ビームフォーミングが挙げられる。ビームフォーミングは、指向性を有する電波を放射することで、信号の品質を保ちつつ、他の無線システムなどへの干渉を抑え、所定の通信対象との無線通信を可能にする技術である。
【0003】
ビームフォーミングを実現する代表的な手法として、フェーズドアレイ技術が挙げられる。フェーズドアレイ技術は、送信機において複数のアンテナ素子に給電される無線信号の位相を調整し、各アンテナ素子から放射される電波を空間において合成することによって、所望の方向の信号を強める技術である。
【0004】
特許文献1には、複数のアンテナ素子を含むアレイアンテナを用いて指向性を形成し、他の無線通信装置と無線通信する無線通信装置が開示されている。この無線通信装置は、小型カメラ、画像処理回路、到来角推定回路を備えている。小型カメラでアンテナ平面の正面方向の映像情報を取得し、画像処理装置で取得した映像情報を解析し、到来角推定回路で水平及び垂直方向に関する到来角が推定している。推定した到来角に基づいて複素位相の回転量に関する2π周期の不確定性を排除することで、高精度に複素位相の回転量を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フェーズドアレイ技術では、受信の際、アンテナ素子毎に受信した無線信号に対して、移相器にて位相差を持たせた上で合成する。また、送信の際には、無線信号を分割し、分割された無線信号毎に移相器で位相差を持たせて各アンテナ素子に供給する。統合前又は分割後の各アンテナ素子の無線信号の位相差の値は、ビーム方向によって決定される。このため、ビーム方向によっては、無線信号に与えるべき位相が360°を超える場合もある。
【0007】
しかしながら、移相器によって与えられる位相の範囲は、0~360°である。このため、無線信号に与えるべき位相が360°を超える場合、当該無線信号に与える位相を360°オフセットした値としている。このように位相を360°オフセットすると、アンテナ素子間で無線信号の遅延が発生し、信号品質が劣化してしまうという問題がある。
【0008】
本開示の目的は、位相オフセットに起因する信号品質の劣化の影響を低減することが可能なアレイアンテナ装置及びアレイアンテナ装置の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様に係るアレイアンテナ装置は、アンテナ素子と移相器とをそれぞれ含む複数のアレイ部を備え、指向方向が調整可能なアレイアンテナ装置であって、前記アレイアンテナ装置によって送受信する全体ビーム情報に基づき、各アンテナ素子によって送受信する個別ビームの位相を制御するための位相制御情報を、各アンテナに対応する移相器にそれぞれ出力する、ビーム制御部と、前記位相制御情報に基づき、位相オフセットしている移相器を特定する特定部と、位相オフセットしている移相器から発生する信号のシンボルずれを考慮して変調又は復調を行う信号処理部と、を備えるものである。
【0010】
一態様に係るアレイアンテナ装置の制御方法は、アンテナ素子と移相器とをそれぞれ含む複数のアレイ部を備え、指向方向が調整可能なアレイアンテナ装置の制御方法であって、前記アレイアンテナ装置によって送受信する全体ビーム情報に基づき、各アンテナ素子によって送受信する個別ビームの位相を制御するための位相制御情報を、各アンテナに対応する移相器にそれぞれ出力し、前記位相制御情報に基づき、位相オフセットしている移相器を特定し、位相オフセットしている移相器から発生する信号のシンボルずれを考慮して変調又は復調を行う。
【0011】
一態様に係るプログラムは、アンテナ素子と移相器とをそれぞれ含む複数のアレイ部を備え、指向方向が調整可能なアレイアンテナ装置を制御するプログラムであって、前記アレイアンテナ装置によって送受信する全体ビーム情報に基づき、各アンテナ素子によって送受信する個別ビームの位相を制御するための位相制御情報を、各アンテナに対応する移相器にそれぞれ出力する処理と、前記位相制御情報に基づき、位相オフセットしている移相器を特定する処理と、位相オフセットしている移相器から発生する信号のシンボルずれを考慮して変調又は復調を行う処理とをコンピュータに実行させるものである。
【発明の効果】
【0012】
上記態様によれば、位相オフセットに起因する信号品質の劣化の影響を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1に係るアレイアンテナ装置の構成を示す図である。
【
図2】実施形態1に係るアレイアンテナ装置の制御方法を示すフロー図である。
【
図3】実施形態2に係るアレイアンテナ装置の構成を示す図である。
【
図4】
図3の信号処理部の構成の一例を示す図である。
【
図5】
図3の信号処理部の構成の他の例を示す図である。
【
図6】実施形態2に係るアレイアンテナ装置の変形例を示す図である。
【
図7】実施形態3に係るアレイアンテナ装置の構成を示す図である。
【
図8】実施形態3に係るアレイアンテナ装置の変形例を示す図である。
【
図9】人工衛星と地上局とが通信を行う例を示す図である。
【
図11】関連技術における、各アンテナ素子から放射される個別ビームと、これらを合成した全体ビームの波形を簡素化して表したイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面において、同一又は対応する要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略される。
【0015】
実施形態は、アンテナ素子と移相器とをそれぞれ含む複数のアレイ部を備え、指向方向が調整可能なアレイアンテナ装置に関する。このようなアレイアンテナ装置では、等間隔で配置された複数のアンテナ素子によって送受信される各信号に所定の位相差をつけることで、各信号が任意の方向で高めあう強度を指定できる。以下、アレイアンテナ装置によって放射するビームを全体ビーム、複数のアンテナ素子のそれぞれによって放射するビームを個別ビームと呼ぶ場合がある。
【0016】
まず、
図10を参照して、関連技術の問題点について説明する。
図10に示す例では、アンテナ素子a1~a4が等しい間隔dで配置されているものとする。アンテナ素子a1~a4には、それぞれ移相器p1~p4が接続されている。移相器p1~p4の位相制御量は、0°~360°の範囲内において任意の値に設定される。移相器p1~p4は、アンテナ素子a1~a4ごとに徐々に信号を遅延して、各アンテナ素子から出る信号の位相をそろえる。これにより、アレイアンテナ装置は、所定の放射方向で信号が高めあう、指向性のあるビームを放射することができる。
【0017】
アレイアンテナ装置の正面方向とビームの放射方向との間の角度をθ(以下、ビーム放射方向θとよぶ)とする。隣接するアンテナ素子から出力される信号の位相差Δφは、2πd/λ×sinθで表される。例えば、アンテナ間隔dがλ/2(λは波長)であるときに、ビーム放射方向θを60°にする場合、位相調整部p1~p4は、アンテナ素子a1からアンテナ素子a4に向かうにつれて、各アンテナから出力される信号の位相を約155.9°ずつ遅延する。
【0018】
ここで、アンテナ素子の数が多くなると、信号に与える位相の遅延量が360°を超えてしまうことがある。
図10のアンテナ素子a4では、約155.9°の3倍の約467.7°の遅延量となる。しかしながら、移相器p1~p4は0~360°の位相しか与えることができないため、アンテナ素子a4から放射する個別ビームへの遅延量は、360°オフセットして約107.7°とされる。
【0019】
この場合、アンテナ素子a4から放射する個別ビームの遅延量が2π分足りないため、1/fc(fcはキャリア周波数)分だけ早く出力されることとなる。
図11に、各アンテナ素子a1~a4から出力される信号と、これらを合成した信号の波形を示す。
図11は、位相の遅延がどのように信号に影響するかを説明するために、信号の変化を簡素化して表したイメージ図である。
図11に示すように、全体ビームは各アンテナ素子a1~a4の個別ビームの合成波であるため、ずれた個別ビームが重ね合わさった結果、全体ビームの波形が変わってしまう。
【0020】
通常、シンボル長毎の信号の状態でデータの判定が行われる。データ判定のためのサンプリングタイミングは、信号軌跡(アイパターン)が一番開いている時刻とされる。上述のように、位相オフセットに起因して信号の波形が変化するとアイパターンが変形し、ビットエラーレートに影響を及ぼす。キャリア周波数に対してシンボルを変化させる周波数が高いとシンボルレートが高くなり、アイパターンの劣化によるビットエラーの発生がより顕著になる。また、信号伝送容量を増やすためにシンボルを変化させる周波数を高くすると、上記の問題が発生するジレンマになる。そこで、本発明者は、以下の構成を考案した。
【0021】
<実施形態1>
図1は、実施形態1に係るアレイアンテナ装置の構成を示す図である。
図1に示すように、アレイアンテナ装置10は、アンテナ素子と移相器とをそれぞれ含む複数のアレイ部を備え、指向方向が調整可能なアレイアンテナ装置ある。
図1では、アレイアンテナ装置10で実現される論理的な機能ブロックが示されている。
【0022】
アレイアンテナ装置10は、ビーム制御部11、第1特定部12、信号処理部13を含む。ビーム制御部11は、アレイアンテナ装置によって送受信する全体ビーム情報に基づき、各アンテナ素子によって送受信する個別ビームの位相を制御するための位相制御情報を、各アンテナに対応する移相器にそれぞれ出力する。第1特定部12は、位相制御情報に基づき、位相オフセットしている移相器を特定する。信号処理部13は、位相オフセットしている移相器から発生する信号のシンボルずれを考慮して変調又は復調を行う。
【0023】
図2は、実施形態1に係るアレイアンテナ装置10の制御方法を示すフロー図である。
図2に示すように、ビーム制御部11は、アレイアンテナ装置10によって送受信する全体ビーム情報に基づき、各アンテナ素子によって送受信する個別ビームの位相を制御するための位相制御情報を、各アンテナに対応する移相器にそれぞれ出力する(S11)。そして、第1特定部12は、位相制御情報に基づき、位相オフセットしている移相器を特定する(S12)。その後、信号処理部13は、位相オフセットしている移相器から発生する信号のシンボルずれを考慮して変調又は復調を行う(S13)。
【0024】
このように実施形態1によれば、ビームフォーミングを行うアレイアンテナ装置において、ビームの位相制御情報から、位相オフセットに起因して発生する信号のずれを特定して、シンボルずれを考慮して変調又は復調することができる。これにより、信号品質の劣化によるビットエラーの発生を低減することが可能となる。
【0025】
<実施形態2>
実施形態2は、上述した実施形態1の具体例である。
図3は、実施形態2に係るアレイアンテナ装置の構成を示す図である。
図3では、アレイアンテナ装置10を構成する構成要素の他、アレイアンテナ装置10で実現される論理的な機能ブロックが示されている。
図3に示す例では、アンテナ素子a1~a4がそれぞれ移相器p1~p4と接続された4つのアレイ部が設けられている。
【0026】
図3に示すように、実施形態2のアレイアンテナ装置10は、ビーム制御部11、第1特定部12、信号処理部13、RF(Radio Frequency)処理部14を含む。ここでは、各アンテナ素子a1~a4でビームを受信し、受信したビームを合成して復調する受信系の例について説明する。
【0027】
アンテナ素子a1~a4は、空間から電波を受信し、当該電波を電気信号に変換する。なお、アンテナ素子a1~a4はそれぞれ低雑音増幅器等の増幅器を含んでいてもよい。アンテナ素子a1~a4は、それぞれ対応する移相器p1~p4に信号を送信する。
【0028】
移相器p1~p4は、後述するビーム制御部11から送信される位相制御情報に従って、それぞれ受信した信号の位相を位相制御情報が指定する位相値に設定する。すなわち、移相器p1~p4は、対応するアンテナ素子a1~a4からの信号に所定の位相差を持たせる。移相器p1~p4としては、0~360°の位相を制御できる一般的な移相器を用いることができる。指定の位相値に設定された信号は、図示しない合波部により合波され、合波された信号はRF処理部14に送信される。
【0029】
RF処理部14は、位相差を持たせたRF信号のIF(Intermediate Frequency)信号への周波数変換、フィルタリングによる不要波除去等のアナログ処理を行って、処理後の信号を信号処理部13に送信する。
【0030】
ビーム制御部11は、上述の位相制御情報を生成し、各移相器p1~p4にそれぞれ送信する。また、ビーム制御部11は、第1特定部12に位相制御情報を送信する。ここで、位相制御情報とは、受信する全体ビームの方向に合わせて、各アンテナ素子a1~a4によって受信する個別ビームの位相を制御するための情報である。
【0031】
第1特定部12は、位相制御情報に基づいて、位相オフセットしている移相器を特定し、位相オフセット情報を出力する。位相オフセット情報は、位相オフセットがどの程度発生しているかを示すものである。具体的には、第1特定部12は、アンテナのビーム方向の設定から、各移相器p1~p4の位相の設定を計算し、360°オフセットしている移相器の数を特定することができる。
【0032】
なお、ビーム制御部11において、各アンテナ素子に対して設定する位相を決めた段階でオフセットする移相器は明らかになるため、別途位相器を特定する処理を行う必要はない。このため、第1特定部12は、ビーム制御部11の構成の一部であり得る。
【0033】
信号処理部13は、位相オフセット情報に基づいて、位相オフセットしている移相器から発生する信号のシンボルずれを考慮して復調を行う。具体的には、信号処理部13は、アンテナのビーム方向の設定と1つ前のシンボルの状態を用いて、搬送波周波数を考慮し、位相オフセットした信号がいくつどの程度重なるかを計算する。これにより、合成波がどのような波形になるかがわかり、信号が本来の位置からどのようにずれるかを計算することができる。そして、信号処理部13は、計算された合成波に基づき、判定基準を変更するか、信号を変形することで、ビットの状態を判定することができる。
【0034】
なお、ビーム制御部11、第1特定部12、信号処理部13は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のような1つのデジタルICであってもよいし、各種能動素子を含むアナログICであってもよい。
【0035】
ここで、
図4を参照して、信号処理部13の例について説明する。
図4は、受信系の信号処理部13の構成を示す図である。
図4に示す例では、信号処理部13は、信号補正計算部30、ADC31、可変増幅器32、復調部33を含む。ADC31は、RF処理部14から受信信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換して、可変増幅器32に出力する。なお、受信信号とは、後述の復調部33において復調される信号であり、アレイアンテナ装置10に対して復調可能な電波形式で変調され送信された信号である。
【0036】
可変増幅器32は、デジタル信号のレベルを調整して復調部33に出力する。復調部33は、デジタル信号の復調を行い、受信信号のデータ列が生成される。ここで、信号補正計算部30は、1つ前の信号(受信信号データ列)と位相オフセット情報とに基づいて信号補正を行う。なお、信号補正計算部30は、1つ前の信号(受信信号データ列)よりも前の信号を用いて信号補正を行ってもよい。ここでは、可変増幅器32による信号のレベル調整を変更して、信号を変形する。なお、
図4に示す例では、可変増幅器32はデジタル側で上記の信号補正処理を行っているが、アナログ側で信号補正処理を行ってもよい。
【0037】
実施形態2にかかるアレイアンテナ装置10の制御方法では、まず、ビーム制御部11が各移相器p1~p4に位相制御情報を送信し、特定方向からの受信をするための移相器p1~p4の設定が行われる。そして、第1特定部12が、位相制御情報に基づき、位相オフセットしている移相器を特定し、どの程度位相オフセットが発生するかを計算した位相オフセット情報を生成する。第1特定部12は、位相オフセット情報を信号処理部13へ送信する。
【0038】
また、アンテナ素子a1~a4で受信された受信信号は、RF処理部14で所定処理が行われた後に、信号処理部13に入力される。信号処理部13は、位相オフセット情報に基づいて、受信信号のずれに対して処理を行い、シンボルずれを考慮して復調する。これにより、位相オフセットを含む信号の合成による、合成波のずれの影響を抑えることができる。
【0039】
なお、アレイアンテナ装置10は、送信信号を変調し、各アンテナ素子a1~a4へそれぞれ分配してビームを出力する送信系であってもよい。
図5は、送信系の信号処理部13の構成例を説明する図である。
図5に示す例では、信号処理部13は、信号補正計算部30、変調器34、可変増幅器35、DAC36を含む。送信信号は、後述の変調器34において、通信相手が復調可能な電波形式で変調され送信される信号である。
【0040】
図5に示す例では、信号補正計算部30は、1つ後の信号(送信信号データ列)と位相オフセット情報とに基づいて、信号補正を行う。ここでは、可変増幅器35による信号のレベル調整を変更して、信号を変形する。DAC36は、可変増幅器35によりレベルが補正された送信信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換する。これにより、送信信号を送信する際の、位相オフセットの影響を抑制することができる。
【0041】
図6は、実施形態2に係るアレイアンテナ装置10の変形例を示す図である。
図6に示すように、アレイアンテナ装置10は、
図3の構成に加えて、メモリ15をさらに含む。メモリ15には、各移相器p1~p4の位相の設定を表す位相制御情報と、位相オフセットがどの程度発生しているかを示す位相オフセット情報とが対応付けて格納されている。第1特定部12は、ビーム制御部11から位相制御情報を受信すると、メモリ15から受信した位相制御情報に対応するオフセット情報読み出すことができる。
【0042】
なお、上述の例は、デジタル信号のレベルを補正したが、位相の補正を行って信号を変形してもよい。また、アレイアンテナ装置10のビーム方向の設定と前又は後の信号とにより信号のずれ量を計算して、判定基準を変更してビットの状態を判定してもよい。
【0043】
<実施形態3>
実施形態3は、アレイアンテナ装置10の通信相手もまたフェーズドアレイである例である。
図7は、実施形態3に係るアレイアンテナ装置の構成を示す図である。なお、上述の例と同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
図7に示すように、実施形態3のアレイアンテナ装置10は、
図3の構成に加えて、第2特定部16をさらに備えている。
【0044】
アレイアンテナ装置10と通信相手のアレイアンテナ装置は、変復調波を送受する前に、既知の信号を事前に互いにやり取りすることで互いの角度設定を確認し、ビームを放射する指向方向、ビームを受信する指向方向を補正する。実施形態3では、通信相手のアレイアンテナ装置の角度設定を利用して、受信信号に含まれる通信相手の位相オフセットの影響を抑制する。
【0045】
ここでは、各アンテナ素子a1~a4でビームを受信し、受信したビームを合成して復調する受信系の例について説明する。第2特定部16は、通信相手のアレイアンテナ装置が送受信するビームの指向方向の角度に基づき、該通信相手における位相オフセットしている移相器を特定し、通信相手位相オフセット情報を信号処理部13に出力する。
【0046】
第2特定部16には、例えば、通信相手が発したパイロット信号が入力される。パイロット信号は、通信相手が出力するビームの到来方向又は、アレイアンテナ装置10から見た通信相手が存在する存在方向を示す方向信号である。第2特定部16は、通信相手のアレイアンテナ装置から出力されるパイロット信号に基づいて、該通信相手のアレイアンテナ装置のビームの指向方向の角度を特定することができる。これにより、第2特定部16は、通信相手のアレイアンテナ装置における位相オフセットしている移相器を特定することができる。
【0047】
信号処理部13は、上述した第1特定部12で特定された位相オフセットしている移相器から発生する信号の第1シンボルずれに加えて、通信相手の位相オフセットしている移相器から発生する信号の第2シンボルずれをさらに考慮して変調又は復調を行う。なお、信号処理部13による信号処理には、例えば
図4で示した例が適用可能である。このように、実施形態3によれば、通信相手の角度に基づき、通信相手のアレイアンテナ装置内の位相オフセット値を特定して、合成波のずれを考慮して復調を行うことができる。これにより、位相オフセットによる信号のずれの影響をさらに抑制することが可能となる。
【0048】
なお、アレイアンテナ装置10と通信相手のアレイアンテナ装置との間でやり取りする既知の信号には、パイロット信号に限定されるものではない。通信相手のアレイアンテナ装置がアレイアンテナ装置10と同様の構成を備えている場合には、通信相手は自身の位相オフセット情報や、信号のずれ量をアレイアンテナ装置10に送信することも可能である。
【0049】
また、アレイアンテナ装置10は、自身の角度設定から、通信相手のビームの指向方向の角度を特定することも可能である。
図8は、実施形態3に係るアレイアンテナ装置の変形例を示す図である。また、
図9は、地球を周回する人工衛星1と地上の無線基地局(以下、地上局2と称する)とが通信を行う例を示す図である。
図9では、人工衛星1に
図8に示すアレイアンテナ装置10が搭載されているものとする。
【0050】
まず、
図9を参照して、アレイアンテナ装置10を備える人工衛星1が、地上局2のアレイアンテナ装置と通信するときの角度について説明する。人工衛星1のアレイアンテナ装置10の正面方向と、人工衛星1と地上局2とを結ぶ線との間の角度をθ1とし、人工衛星1の地上からの高度をr0とする。また、地上局2のアレイアンテナ装置の正面方向と人工衛星1と地上局2とを結ぶ線との間の角度をθ2とする。
【0051】
図8に示すように、実施形態4のアレイアンテナ装置10は、
図7の構成に加えて、演算部17をさらに備えている。演算部17は、人工衛星1の地上からの高度r0、アレイアンテナ装置10の送受信するビームの指向方向の角度θ1を用いて、地上局2のアレイアンテナ装置の指向方向の角度θ2を求め、通信相手の角度情報を第2特定部16に出力する。
【0052】
第2特定部16には、あらかじめ地上局2のアレイアンテナ装置のアンテナ数、アンテナ間隔等の通信相手のアンテナ情報が与えられる。第2特定部16は、通信相手のアンテナ情報と角度情報に基づいて、通信相手の位相オフセットしている移相器を特定し、通信相手位相オフセット情報を生成することができる。信号処理部13は、第1特定部12からの位相オフセット情報と、第2特定部16からの通信相手位相オフセット情報とに基づいて、合成波のずれを考慮して復調を行ことができる。
【0053】
なお、上述の機能を実現するプログラムは図示しない記憶装置に格納され得る。記憶装置は、例えばHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、又はフラッシュメモリ等の不揮発性記憶装置である。記憶装置は、アレイアンテナ装置10の各機能を実現するプログラムを記憶している。アレイアンテナ装置10がこのプログラムを実行することで、アレイアンテナ装置10が備える各機能が実現される。
【0054】
記憶装置は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等のメモリを含んでいてもよい。アレイアンテナ装置10は、上記プログラムを実行する際、これらのプログラムをメモリ上に読み出してから実行しても良いし、メモリ上に読み出さずに実行しても良い。また、記憶装置は、アレイアンテナ装置10が備える構成要素が保持する情報を保持してもよい。すなわち、この記憶装置は、
図3の位相制御情報と位相オフセット情報とを対応付けて格納するメモリ15に対応し得る。また、記憶装置は、信号補正計算部30が信号補正処理を行うために必要な情報を記憶してもよい。
【0055】
上述の例において、プログラムは、コンピュータに読み込まれた場合に、実施形態で説明された1又はそれ以上の機能をコンピュータに行わせるための命令群(又はソフトウェアコード)を含む。プログラムは、非一時的なコンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体に格納されてもよい。限定ではなく例として、コンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体は、random-access memory(RAM)、read-only memory(ROM)、フラッシュメモリ、solid-state drive(SSD)又はその他のメモリ技術、CD-ROM、digital versatile disc(DVD)、Blu-ray(登録商標)ディスク又はその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ又はその他の磁気ストレージデバイスを含む。プログラムは、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体上で送信されてもよい。限定ではなく例として、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体は、電気的、光学的、音響的、またはその他の形式の伝搬信号を含む。
【0056】
なお、本開示は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。また、本開示は、それぞれの実施形態を適宜組み合わせて実施されてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 人工衛星
2 地上局
10 アレイアンテナ装置
11 ビーム制御部
12 第1特定部
13 信号処理部
14 RF処理部
15 メモリ
16 第2特定部
17 演算部
30 信号補正計算部
31 ADC
32 可変増幅器
33 復調部
34 変調器
35 可変増幅器
36 DAC
a1~a4 アンテナ素子
p1~p4 移相器