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特開2023-146257アレイアンテナ装置、アレイアンテナ装置の配列方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146257
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】アレイアンテナ装置、アレイアンテナ装置の配列方法
(51)【国際特許分類】
   H01Q 3/38 20060101AFI20231004BHJP
   H01Q 21/08 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
H01Q3/38
H01Q21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053354
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】301072650
【氏名又は名称】NECスペーステクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】笹村 謙
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA07
5J021DB03
5J021FA07
5J021FA32
5J021GA02
(57)【要約】
【課題】アレイアンテナ装置のアンテナ素子の配置位置を考慮して移相器の配置を決定する。
【解決手段】実施形態に係るアレイアンテナ装置10は、一端から他端に向かって配置された複数のアンテナ素子a1~a8を含むアレイ部と、複数のアンテナ素子にそれぞれ接続され、アレイ部の指向性を制御する連続可変移相器16と、中央に配置されたアンテナ素子から出力される無線信号よりも、端部に配置されたアンテナ素子から出力される無線信号の方に大きい位相を付与するように、2π×n(nは、0又は正の整数)の位相を付加するステップ移相器15とを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端から他端に向かって配置された複数のアンテナ素子を含むアレイ部と、
複数の前記アンテナ素子にそれぞれ接続され、前記アレイ部の指向性を制御する可変移相器と、
中央に配置されたアンテナ素子から出力される無線信号よりも、端部に配置されたアンテナ素子から出力される無線信号の方に大きい位相を付与するように、2π×n(nは、0又は正の整数)の位相を付加するステップ移相器と、
を含む、
アレイアンテナ装置。
【請求項2】
前記アンテナ素子から出力される無線信号に付与する位相は、前記アレイアンテナ装置によって送受信する全体の無線信号情報に基づき、各アンテナ素子によって送受信する個別の無線信号の位相を制御するための位相制御情報に基づいて決定される、
請求項1に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項3】
複数の前記アンテナ素子は、中心線を基準として対象に配置されており、
前記中心線の一方の側において、該中心線に隣接するアンテナ素子から順に2つずつペアに分けた時に、各ペアの2つのアンテナ素子に対して無線信号を分配する第1分岐点と、2つの前記第1分岐点に対して無線信号を分配する第2分岐点を含み、
前記位相制御情報に基づいて決定された位相に合わせて、
前記第1分岐点において、前記中心線よりも遠い側に前記ステップ移相器が配置され、
前記第2分岐点において、前記中心線よりも遠い側に前記ステップ移相器が配置される、
請求項2に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項4】
複数の前記アンテナ素子は、中心線を基準として対象に配置されており、
前記中心線の一方の側において、該中心線に隣接するアンテナ素子から順に2つずつペアに分けた時に、各ペアの2つのアンテナ素子に対して無線信号を分配する第1分岐点と、2つの前記第1分岐点に対して無線信号を分配する第2分岐点を含み、
前記位相制御情報に基づいて決定された位相に合わせて、
前記第1分岐点において、前記中心線よりも遠い側に2π×2n1(n1は、0又は正の整数)の位相を付与する第1ステップ移相器が配置され、
前記第2分岐点において、前記中心線よりも遠い側に2π×2n2(整数n2>n1)の位相を付与する第2ステップ移相器が配置される、
請求項2に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項5】
2つの前記第2分岐点に対して無線信号を分配する第3分岐点において、2π×2n3(整数n3>n2)の位相を付与する第3ステップ移相器がさらに配置される、
請求項4に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項6】
一端から他端に向かって配置された複数のアンテナ素子を含み、無線信号の指向性を制御可能なアレイアンテナ装置の配列方法であって、
中央に配置されたアンテナ素子から出力される無線信号よりも、端部に配置されたアンテナ素子から出力される無線信号の方に大きい位相を付与するように、2π×n(nは、0又は正の整数)の位相を付加するステップ移相器を配列する、
アレイアンテナ装置の配列方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレイアンテナ装置及びその配列方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数帯を有効に利用する技術の1つとして、ビームフォーミングが挙げられる。ビームフォーミングは、指向性を有する電波を放射することで、信号の品質を保ちつつ、他の無線システムなどへの干渉を抑え、所定の通信対象との無線通信を可能にする技術である。
【0003】
ビームフォーミングを実現する代表的な手法として、フェーズドアレイ技術が挙げられる。フェーズドアレイ技術は、送信機において複数のアンテナ素子に給電される無線信号の位相を調整し、各アンテナ素子から放射される電波を空間において合成することによって、所望の方向の信号を強める技術である。
【0004】
フェーズドアレイを備えるアンテナ装置は、一端から他端にわたって等間隔で配置された複数のアンテナ素子を含んでいる。このようなアンテナ装置は、移相器を使用して信号の位相を調整することで、アンテナ素子から放射される電波のビーム方向を変化させる。移相器は比較的高価であるため、複数のアンテナ素子に対してそれぞれ移相器を設けるとアンテナ装置自体にかかるコストが増大する。
【0005】
そこで、特許文献1、2には、移相器の数を減少させる技術が開示されている。特許文献1のアンテナ装置では、アンテナアアレイの一端において、第1の移相器が少なくとも2個の隣接するアンテナ素子で共用され、これらのアンテナ素子からなる第1のグループにおける信号位相を制御する。また、アンテナアレイの他端において、第2の移相器が少なくとも2個の隣接するアンテナ素子で共用され、これらのアンテナ素子からなる第2のグループにおける信号位相を制御する。また、第1と第2のグループ間の少なくとも数個の中央アンテナ素子に対して、個々の移相器がそれぞれ個々の中央アンテナ素子に接続されている。
【0006】
特許文献2には、信号発生器からの信号を2分割する分配器と、分配器の2つの出力信号のうち、一方の出力信号の位相を調整する位相器とからなる電力分配位相調整器と、電力分配位相調整器の2つの出力のそれぞれに対応して設けられた複数のアンテナ素子とを含むアンテナ装置が記載されている。
【0007】
また、特許文献3、4には、全てのアンテナ素子にそれぞれ接続されたデジタル位相器と、全てのアンテナ素子中の限られた一部の素子のみに接続されたアナログ位相器を備え、精密なビーム制御を実現するアンテナ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-100257号公報
【特許文献2】実開平04-038102号公報
【特許文献3】特開平03-165105号公報
【特許文献4】特開平02-090804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
フェーズドアレイ技術では、受信の際、アンテナ素子毎に受信した無線信号に対して、移相器にて位相差を持たせた上で合成する。また、送信の際には、無線信号を分割し、分割された無線信号毎に移相器で位相差を持たせて各アンテナ素子に供給する。統合前又は分割後の各アンテナ素子の無線信号の位相差の値は、ビーム方向によって決定される。このため、ビーム方向によっては、無線信号に与えるべき位相が360°を超える場合もある。
【0010】
しかしながら、移相器によって与えられる位相の範囲は、0~360°である。このため、無線信号に与えるべき位相が360°を超える場合、当該無線信号に与える位相を360°オフセットした値としている。通常、無線信号に与える位相は、アンテナ素子の配置位置に応じて変化する。例えば、一端から他端にわたって直線状にアンテナ素子が配置されている場合、外側、すなわち、両端部のアンテナ素子ほど、多くの360°オフセットが必要となる。上述の特許文献では、アンテナ素子の配置位置を考慮して移相器の配置を決定していない。
【0011】
本開示の目的は、アンテナ素子の配置位置を考慮して移相器の配置を決定するアレイアンテナ装置及びアレイアンテナ装置の配置決定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様に係るアレイアンテナ装置は、一端から他端に向かって配置された複数のアンテナ素子を含むアレイ部と、複数の前記アンテナ素子にそれぞれ接続され、前記アレイ部の指向性を制御する可変移相器と、中央に配置されたアンテナ素子から出力される無線信号よりも、端部に配置されたアンテナ素子から出力される無線信号の方に大きい位相を付与するように、2π×n(nは、0又は正の整数)の位相を付加するステップ移相器とを含むものである。
【0013】
一態様に係るアレイアンテナ装置の配列方法は一端から他端に向かって配置された複数のアンテナ素子を含み、無線信号の指向性を制御可能なアレイアンテナ装置の配列方法であって、中央に配置されたアンテナ素子から出力される無線信号よりも、端部に配置されたアンテナ素子から出力される無線信号の方に大きい位相を付与するように、2π×n(nは、0又は正の整数)の位相を付加するステップ移相器を配列する。
【発明の効果】
【0014】
上記態様によれば、アンテナ素子の配置位置を考慮して移相器の配置を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】アレイアンテナ装置において、ビーム放射方向に基づき各位相調整部に設定される位相制御量を決定する流れについて説明する図である。
図2】実施形態1に係るアレイアンテナ装置の構成の一部を示す図である。
図3】位相制御量を変化させたときにステップ移相器に設定すべき位相制御量を示す表である。
図4】実施形態2に係るアレイアンテナ装置の構成の一部を示す図である。
図5】実施形態2に係るアレイアンテナ装置の他の例を示す図である。
図6】実施形態2に係るアレイアンテナ装置の他の例を示す図である。
図7】関連技術について説明する図である。
図8】関連技術における、各アンテナ素子から放射される個別ビームと、これらを合成した全体ビームの波形を簡素化して表したイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面において、同一又は対応する要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略される。
【0017】
実施形態は、アンテナ素子と位相調整部とをそれぞれ含む複数のアレイ部を備え、指向方向が調整可能なアレイアンテナ装置に関する。このようなアレイアンテナ装置では、等間隔で配置された複数のアンテナ素子によって送受信される各信号に所定の位相差をつけることで、各信号が任意の方向で高めあう強度を指定できる。
【0018】
アンテナ素子から出力される無線信号に付与する位相は、アレイアンテナ装置によって送受信する全体の無線信号情報に基づき、各アンテナ素子によって送受信する個別の無線信号の位相を制御するための位相制御情報に基づいて決定される。以下、アレイアンテナ装置によって放射するビームを全体ビーム、複数のアンテナ素子のそれぞれによって放射するビームを個別ビームと呼ぶ場合がある。
【0019】
まず、図7を参照して、関連技術について説明する。図7に示す例では、アンテナ素子a1~a4が等しい間隔dで配置されているものとする。アンテナ素子a1~a4には、それぞれ位相調整部p1~p4が接続されている。位相調整部p1~p4の位相制御量は、0°~360°の範囲内において任意の値に設定される。位相調整部p1~p4は、アンテナ素子a1~a4ごとに徐々に信号を遅延して、各アンテナ素子から出る信号の位相をそろえる。これにより、アレイアンテナ装置は、所定のビーム放射方向で信号が高めあう、指向性のあるビームを放射することができる。
【0020】
アレイアンテナ装置の正面方向とビーム放射方向との間の角度をθ(以下、ビーム放射角度θとよぶ)とする。隣接するアンテナ素子から出力される信号の位相差Δφは、2πd/λ×sinθで表される。例えば、アンテナ間隔dがλ/2(λは波長)であるときに、ビーム放射角度θを60°にする場合、位相調整部p1~p4は、アンテナ素子a1からアンテナ素子a4に向かうにつれて、各アンテナから出力される信号の位相を約155.9°ずつ遅延する。
【0021】
ここで、アンテナ素子の数が多くなると、信号に与える位相の遅延量が360°を超えてしまうことがある。図7のアンテナ素子a4では、約155.9°の3倍の約467.7°の遅延量となる。しかしながら、位相調整部p1~p4は0~360°の位相しか与えることができないため、アンテナ素子a4から放射する個別ビームへの遅延量は、360°オフセットして約107.7°とされる。
【0022】
この場合、アンテナ素子a4から放射する個別ビームの遅延量が2π分足りないため、1/fc(fcはキャリア周波数)分だけ早く出力されることとなる。図8に、各アンテナ素子a1~a4から出力される信号と、これらを合成した信号の波形を示す。図8は、位相の遅延がどのように信号に影響するかを説明するために、信号の変化を簡素化して表したイメージ図である。図8に示すように、全体ビームは各アンテナ素子a1~a4の個別ビームの合成波であるため、ずれた個別ビームが重ね合わさった結果、全体ビームの波形が変わってしまう。
【0023】
通常、シンボル長毎の信号の状態でデータの判定が行われる。データ判定のためのサンプリングタイミングは、信号軌跡(アイパターン)が一番開いている時刻とされる。上述のように、位相オフセットに起因して信号の波形が変化するとアイパターンが変形し、ビットエラーレートに影響を及ぼす。キャリア周波数に対してシンボルを変化させる周波数が高いとシンボルレートが高くなり、アイパターンの劣化によるビットエラーの発生がより顕著になる。また、信号伝送容量を増やすためにシンボルを変化させる周波数を高くすると、上記の問題が発生するジレンマになる。
【0024】
複数のアンテナ素子が一端から他端に向かって直線状に並んだアレイアンテナ装置では、中央部に配置されたアンテナ素子よりも両端部に配置されたアンテナ素子のほうが、多くの360°オフセットが必要となるため、複数の連続可変増幅器が必要であった。しかし、多くの連続可変増幅器を設けると、アレイアンテナ装置10が大きくなり、コスト増大するという問題が発生する。そこで、以下説明するように、実施形態では、アンテナ素子の配置位置を考慮して移相器の配置を決定する。
【0025】
まず、図1を参照して、アレイアンテナ装置10において、ビーム放射方向に基づき各位相調整部の位相制御量(位相の遅延量)を決定する流れについて説明する。図1に示すように、アレイアンテナ装置10は、アンテナ素子a1~a4、位相調整部p1~p4、ビーム制御部11、分岐回路14、RF(Radio Frequency)処理部13、信号処理部12を含む。ここでは、送信信号を変調し、各アンテナ素子a1~a4へそれぞれ分配してビームを出力する送信系について説明する。
【0026】
信号処理部12は、変調器、DAC等を備えている。信号処理部12は、送信信号を通信相手が復調可能な電波形式に変調して、RF処理部13に送信する。RF処理部13は、IF(Intermediate Frequency)信号のRF信号への周波数変換、フィルタリングによる不要波除去等のアナログ処理を行って、処理後の信号を分岐回路14に入力する。
【0027】
分岐回路14は、各分岐点に分配器を備えている。分岐回路14は、各分岐点において、入力された信号を2分岐して、各位相調整部p1~p4に分配する。ビーム制御部11は、上述の位相制御情報を生成し、各位相調整部p1~p4にそれぞれ送信する。ここで、位相制御情報とは、受信する全体ビームの方向に合わせて、各アンテナ素子a1~a4によって受信する個別ビームの位相を制御するための情報である。ビーム制御部11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、等の1つのデジタルICであってもよいし、各種能動素子を含むアナログICであってもよい。
【0028】
位相調整部p1~p4は、ビーム制御部11から送信される位相制御情報に従って、それぞれ受信した信号の位相を位相制御情報が指定する位相値に設定する。すなわち、位相調整部p1~p4は、対応するアンテナ素子a1~a4からの信号に所定の位相差を持たせる。後述するが、位相調整部p1~p4は、それぞれステップ移相器15と連続可変移相器16を含む。
【0029】
アンテナ素子a1~a4は、位相調整部p1~p4から入力される信号を、所定のビーム放射角度で空間へと放射する。なお、アンテナ素子a1~a4はそれぞれ低雑音増幅器等の増幅器を含んでいてもよい。
【0030】
図1に示すアレイアンテナ装置10では、まず、ビーム放射方向が決定され、ビーム方向指示が生成される。例えば、アレイアンテナ装置10が人工衛星や地上局に適用されている場合には、自身の追跡機能等を用いて通信相手の角度情報等に基づき、全体ビームのビーム放射方向が決定され得る。ビーム方向指示は、ビーム制御部11に入力される。
【0031】
ビーム制御部11は、ビーム方向指示を受けると、各位相調整部p1~p4の位相制御量を計算して、位相制御情報を生成し位相調整部p1~p4にそれぞれ出力する。位相調整部は、ステップ移相器、連続可変移相器、可変減衰器等を含む。位相調整部の各構成要素は、位相制御情報に基づいて送信信号に所定の位相値を与える。これにより、アンテナ素子から個別ビームが指定されたビーム放射角度で出射される。このように、各位相調整部での位相制御量は、ビーム放射方向に応じて決定される。
【0032】
<実施形態1>
図2は、実施形態1に係るアレイアンテナ装置の構成の一部を示す図である。実施形態1では、16個のアンテナ素子が一端から他端に向かって直線状に配置されているものとする。以下の説明では、中央から半分の8個のアンテナ素子a1~a8について代表して説明する。図2には、アンテナ素子a1~a8が示されている。アンテナ素子a1が中央側に配置される素子であり、アンテナ素子a8が外側に配置される素子である。なお、図2のアンテナ素子a1の左側には、同様に中央側にアンテナ素子a1、外側にアンテナ素子a8となるように順に8個のアンテナ素子が配置される。また、他の構成要素についても同様に、複数のアンテナ素子ANTが並ぶ列の中央を通る中心線に対して線対称に配置される。
【0033】
アレイアンテナ装置10は、アンテナ素子、位相調整部、分岐回路14を含む。位相調整部は、ステップ移相器15、連続可変移相器16を含む。実施形態1では、複数のアンテナ素子にそれぞれには、連続可変移相器16が1つずつ接続されている。また、複数の連続可変移相器16には、それぞれステップ移相器15が接続されている。分岐回路14の各分岐点には分配器が配置され、信号は各分配器でそれぞれ2分岐されて各ステップ移相器15に入力される。
【0034】
上述したように、外側のアンテナ素子a8に接続されたステップ移相器15ほど必要な移相制御量が多くなる。そこで、ステップ移相器15は、中央に配置されたアンテナ素子a1から出力される無線信号よりも、端部に配置されたアンテナ素子a8から出力される無線信号の方に大きい位相を付与するように、送信信号に2π×n(nは、0又は正の整数)の位相の遅延量を付加する。ステップ移相器15は、0°、360°、720°、・・・の360°×n(nは、0又は正の整数)位相制御量を設定できる。すなわち、ステップ移相器15は、1、2π、2π×2、2π×3、・・・、2π×nのn+1の状態を選択することができる。
【0035】
このステップ移相器15は、連続可変移相器16と比較すると、構造が単純であり、制御が容易である。例えば、0°、360°のいずれかを設定する場合には、1ビットの信号でステップ移相器15の位相制御量を設定することができる。
【0036】
例えば、アンテナ素子a1~a8から出力されるビームが155°ずつ遅延するように位相制御量を変化させたときに、2πステップのステップ移相器15に設定すべき移相制御量を数えると、図3のようになる。なお、ステップ移相器15に設定される位相制御量は、上述の通り2π×n(nは、0又は正の整数)で表される。図3においては、nの値を示している。図3に示すように、ビームを右に振る場合と左に振る場合とを考慮すると、アンテナ素子の中央に近いところほど必要な最大位相制御量が少なく、外側に行くほど最大位相制御量が多くなる。
【0037】
このため、図3に示す例では、信号に与える位相の遅延量は、中央側から外側(アンテナ素子a1からa8)に向かって順に、3θ、3θ、4θ、4θ、5θ、5θ、6θ、6θ(θ=2π)となる。したがって、各ステップ移相器15には、中央側から外側に向かって順に、3θ、3θ、4θ、4θ、5θ、5θ、6θ、6θ(θ=2π)の位相制御量が設定される。
【0038】
連続可変移相器16は、0~360°の位相を連続的に制御できる。連続可変移相器16は、連続可変移相器16は、アレイ部の指向性を制御することで、アンテナ素子から出力されるビームの指向性を制御する。このように、アンテナ素子のそれぞれに必要な最大位相制御量を考慮して、ステップ移相器15を配置することで、連続可変移相器を少なくすることができ、コストの増大を抑制することができる。
【0039】
<実施形態2>
図4は、実施形態2に係るアレイアンテナ装置の構成を示す図である。図4において、上述の実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。実施形態2では、分岐回路14の分岐点ごとに、片側の分岐路にステップ移相器15を配置した例である。なお、図4においても、図2と同様に、一端から他端に向かって直線状に配置されている16個のアンテナ素子ANTのうち、中央から半分(中心線の一方の側)の8個のアンテナ素子a1~a8について代表して説明する。
【0040】
図4に示すように、分岐回路14は、中心線に隣接するアンテナ素子から順に2つずつペアに分けた時に、各ペアの2つのアンテナ素子に対して無線信号を分配する第1分岐点b1と、2つの第1分岐点に対して無線信号を分配する第2分岐点b2、2つの第2分岐点に対して無線信号を分配する第3分岐点b3とを含む。
【0041】
各分岐点b1~b3では、位相制御情報に基づいて決定された位相制御量に合わせて、中心線よりも遠い側にステップ移相器15が配置される。第1分岐点b1には、中心線よりも遠い側に2π×2n1(n1は、0又は正の整数)の位相を付与する第1ステップ移相器が配置される。図4の例では、第1分岐点b1の中心線よりも遠い側には、θ(2π)の位相制御量に設定されたステップ移相器15aが配置されている。
【0042】
また、第2分岐点b2は、中心線よりも遠い側に2π×2n2(整数n2>n1)の位相を付与する第2ステップ移相器が配置される。図4の例では、第2分岐点b2の中心線よりも遠い側には、2θ(4π)の位相制御量に設定されたステップ移相器15bが配置されている。そして、2つの第2分岐点b2に対して無線信号を分配する第3分岐点b3には、2π×2n3(整数n3>n2)の位相を付与する第3ステップ移相器が配置される。図4の例では、第3分岐点b3の中心線よりも遠い側には、4θ(8π)の位相制御量に設定されたステップ移相器15cが配置されている。
【0043】
このように、分岐ごとに位相制御量をθ、2θ、・・・2θ、・・・と設定すれば、アンテナ素子aごとに信号の遅延量をθずつ増加させることができる。なお、分岐ごとに片側のみに配置されるステップ移相器15の位相制御量を調整することで、アンテナ素子aごとの信号の遅延量を変更することも可能である。
【0044】
例えば、図5に示すように、第1分岐点b1の中心線よりも遠い側にθ(2π)の位相制御量のステップ移相器15aが配置され、第2分岐点b2の中心線よりも遠い側にθ(2π)の位相制御量のステップ移相器15bが配置され、第3分岐点b3の中心線よりも遠い側に2θ(4π)の位相制御量のステップ移相器15cが配置されている。このように配置することで、アンテナ素子aごとの信号の遅延量を0、θ、θ、2θ、2θ、3θ、3θ、3θとすることができる。
【0045】
また、図6に示すように、第1分岐点b1の中心線よりも遠い側に0の位相制御量のステップ移相器15aが配置され、第2分岐点b2の中心線よりも遠い側にθ(2π)の位相制御量のステップ移相器15bが配置され、第3分岐点b3の中心線よりも遠い側に2θ(4π)の位相制御量のステップ移相器15cが配置されている。このように配置することで、アンテナ素子aごとの信号の遅延量を0、0、θ、θ、2θ、2θ、3θ、3θとすることができる。
【0046】
このように、分岐ごとに、片側のみにステップ移相器15を配置すれば、ステップ移相器15が八位された側の分岐に行くほど、信号の遅延量を増加させることができる。
【0047】
以上説明したように、連続可変移相器16に加えて、中央に配置されたアンテナ素子から出力される無線信号よりも、端部に配置されたアンテナ素子から出力される無線信号の方に大きい位相を付与するように0/360°の2ステップのステップ移相器15を配置することで、必要な移相器の量を抑えることができ、アレイアンテナ装置10のコストを低下させることができる。
【0048】
なお、実施形態では、複数のアンテナ素子が1つの直線状に並ぶように配置された例について説明したが、これに限定されない。例えば、複数のアンテナ素子がマトリクス状に配置された場合にも、上記技術を適用することが可能である。また、上記技術は、各アンテナ素子でビームを受信し、受信したビームを合成して復調する受信系の例についても適用することができる。
【0049】
なお、本開示は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。また、本開示は、それぞれの実施形態を適宜組み合わせて実施されてもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 アレイアンテナ装置
11 ビーム制御部
12 信号処理部
13 RF処理部
14 分岐回路
15 ステップ移相器
16 連続可変移相器
a アンテナ素子
p 位相調整部
b1 第1分岐点
b2 第2分岐点
b3 第3分岐点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8