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特開2023-146270能動騒音低減装置、及び、移動体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146270
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】能動騒音低減装置、及び、移動体装置
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
G10K11/178 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053368
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】上野 庄太郎
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061FF02
(57)【要約】
【課題】騒音を低減することができる周波数範囲の自由度を向上することができる能動騒音低減装置を提供する。
【解決手段】能動騒音低減装置10は、複数の第1適応フィルタ11と、複数の帰還フィルタ12と、複数の第1適応フィルタ11のそれぞれが出力するキャンセル信号を加算し、加算後のキャンセル信号を出力する加算部13と、複数の第1適応フィルタ11のそれぞれからスピーカ52に至るまでの第1経路、及び、マイクロフォン53から複数の第1適応フィルタ11のそれぞれに至るまでの第2経路の少なくとも一方の経路に設けられたバンドエリミネーションフィルタとを備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカ及びマイクロフォンが設けられた空間における騒音を、前記スピーカからキャンセル音を出力することにより低減する能動騒音低減装置であって、
各々が、前記マイクロフォンから出力される誤差信号に基づいて逐次更新されるフィルタ係数を特定の周波数を有する基準信号に適用することにより前記キャンセル音の出力に用いられるキャンセル信号を出力する複数の第1適応フィルタと、
複数の帰還フィルタであって、各々が、当該帰還フィルタに対応する前記第1適応フィルタが出力する前記キャンセル信号にゲイン係数を乗算して当該第1適応フィルタへ出力する複数の帰還フィルタと、
前記複数の第1適応フィルタのそれぞれが出力する前記キャンセル信号を加算し、加算後のキャンセル信号を出力する加算部と、
前記複数の第1適応フィルタのそれぞれから前記スピーカに至るまでの第1経路、及び、前記マイクロフォンから前記複数の第1適応フィルタのそれぞれに至るまでの第2経路の少なくとも一方の経路に設けられたバンドエリミネーションフィルタとを備える
能動騒音低減装置。
【請求項2】
さらに、前記少なくとも一方の経路に設けられたゲイン調整器を備える
請求項1に記載の能動騒音低減装置。
【請求項3】
前記ゲイン調整器は、前記第1経路、及び、前記第2経路のそれぞれに設けられる
請求項2に記載の能動騒音低減装置。
【請求項4】
前記バンドエリミネーションフィルタは、前記第1経路、及び、前記第2経路のそれぞれに設けられる
請求項1~3のいずれか1項に記載の能動騒音低減装置。
【請求項5】
前記バンドエリミネーションフィルタは、第2適応フィルタによって実現され、
前記第2適応フィルタは、前記バンドエリミネーションフィルタからの出力信号を生成するために、前記バンドエリミネーションフィルタへの入力信号に基づいて逐次更新されるフィルタ係数を、特定の周波数を有する基準信号に適用する処理を行う
請求項1~4のいずれか1項に記載の能動騒音低減装置。
【請求項6】
前記能動騒音低減装置は、複数の前記バンドエリミネーションフィルタを備え、
複数の前記バンドエリミネーションフィルタに対応する複数の前記第2適応フィルタの1つが処理の対象とする前記基準信号の周波数は、複数の前記第2適応フィルタの他の1つが処理の対象とする前記基準信号の周波数と異なる
請求項5に記載の能動騒音低減装置。
【請求項7】
前記複数の第1適応フィルタの1つが処理の対象とする前記基準信号の周波数は、前記複数の第1適応フィルタの他の1つが処理の対象とする前記基準信号の周波数と異なる
請求項1~6のいずれか1項に記載の能動騒音低減装置。
【請求項8】
前記能動騒音低減装置は、前記バンドエリミネーションフィルタとして、前記第1経路に設けられた複数の第1バンドエリミネーションフィルタであって前記複数の第1適応フィルタに1対1で対応する複数の第1バンドエリミネーションフィルタと、前記第2経路に設けられた複数の第2バンドエリミネーションフィルタであって前記複数の第1適応フィルタに1対1で対応する複数の第2バンドエリミネーションフィルタとを備える
請求項4~7のいずれか1項に記載の能動騒音低減装置。
【請求項9】
前記能動騒音低減装置は、前記バンドエリミネーションフィルタとして、前記第1経路に設けられた複数の第1バンドエリミネーションフィルタであって前記複数の第1適応フィルタに1対1で対応する複数の第1バンドエリミネーションフィルタと、前記第2経路に設けられた第2バンドエリミネーションフィルタであって前記複数の第1適応フィルタに共通の第2バンドエリミネーションフィルタとを備える
請求項4~7のいずれか1項に記載の能動騒音低減装置。
【請求項10】
前記能動騒音低減装置は、前記バンドエリミネーションフィルタとして、前記第1経路に設けられた第1バンドエリミネーションフィルタであって前記複数の第1適応フィルタに共通の第1バンドエリミネーションフィルタと、前記第2経路に設けられた複数の第2バンドエリミネーションフィルタであって前記複数の第1適応フィルタに1対1で対応する複数の第2バンドエリミネーションフィルタとを備える
請求項4~7のいずれか1項に記載の能動騒音低減装置。
【請求項11】
前記空間は、移動体装置内の空間であり、
前記能動騒音低減装置は、前記移動体装置の移動状態を示す情報を取得する制御部を備え、
前記制御部は、取得した前記移動体装置の移動状態を示す情報に基づいて、前記複数の第1適応フィルタが処理の対象とする前記基準信号の周波数を前記移動体装置の移動状態に連動させるか否かを切り替える
請求項1~10のいずれか1項に記載の能動騒音低減装置。
【請求項12】
前記能動騒音低減装置は、前記騒音の状態を示す情報を取得する制御部を備え、
前記制御部は、取得した前記騒音の状態を示す情報に基づいて、前記複数の第1適応フィルタが処理の対象とする前記基準信号の周波数を、第1周波数範囲の騒音を低減するための第1設定にするか、前記第1周波数範囲と異なる第2周波数範囲の騒音を低減するための第2設定にするかを切り替える
請求項1~10のいずれか1項に記載の能動騒音低減装置。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の能動騒音低減装置と、
前記スピーカと、
前記マイクロフォンとを備える
移動体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、騒音を能動的に低減する能動騒音低減装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、十分な振動騒音制御効果のある能動型振動騒音制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-361721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、騒音を低減することができる周波数範囲の自由度を向上することができる能動騒音低減装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る能動騒音低減装置は、スピーカ及びマイクロフォンが設けられた空間における騒音を、前記スピーカからキャンセル音を出力することにより低減する能動騒音低減装置であって、各々が、前記マイクロフォンから出力される誤差信号に基づいて逐次更新されるフィルタ係数を特定の周波数を有する基準信号に適用することにより前記キャンセル音の出力に用いられるキャンセル信号を出力する複数の第1適応フィルタと、複数の帰還フィルタであって、各々が、当該帰還フィルタに対応する前記第1適応フィルタが出力する前記キャンセル信号にゲイン係数を乗算して当該第1適応フィルタへ出力する複数の帰還フィルタと、前記複数の第1適応フィルタのそれぞれが出力する前記キャンセル信号を加算し、加算後のキャンセル信号を出力する加算部と、前記複数の第1適応フィルタのそれぞれから前記スピーカに至るまでの第1経路、及び、前記マイクロフォンから前記複数の第1適応フィルタのそれぞれに至るまでの第2経路の少なくとも一方の経路に設けられたバンドエリミネーションフィルタとを備える。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様に係る能動騒音低減装置は、騒音を低減することができる周波数範囲の自由度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、SANアルゴリズムに対応する適応フィルタの機能構成を示すブロック図である。
図2図2は、SANアルゴリズムにおける騒音信号とキャンセル信号との関係を示す図である。
図3図3は、SAN Filtered-x LMSアルゴリズムに対応する適応フィルタの機能構成を示すブロック図である。
図4図4は、SAN Filtered-x LMSアルゴリズムにおける騒音とキャンセル音との関係を示す図である。
図5図5は、実施の形態に係る能動騒音低減装置を備える車両の模式図である。
図6図6は、実施の形態に係る能動騒音低減装置の機能構成を示すブロック図である。
図7図7は、第1適応フィルタの具体的構成を示す図である。
図8図8は、第1バンドエリミネーションフィルタの具体的構成を示す図である。
図9図9は、第1バンドエリミネーションフィルタの特性の調整を説明するための図である。
図10図10は、第1バンドエリミネーションフィルタ、及び、第2バンドエリミネーションフィルタが適用された場合の音響伝達関数C(z)の周波数特性(ゲイン特性、及び、位相特性)の変化を示す図である。
図11図11は、第1バンドエリミネーションフィルタ、及び、第2バンドエリミネーションフィルタの一方のみが適用された場合の音響伝達関数C(z)の周波数特性の変化を示す図である。
図12図12は、実施の形態に係る能動騒音低減装置が広帯域の騒音を低減することができる理由を説明するための図である。
図13図13は、騒音を低減する処理の切り替え動作を示すフローチャートである。
図14図14は、変形例1に係る能動騒音低減装置の機能構成を示すブロック図である。
図15図15は、変形例1に係る適応フィルタモジュールの機能構成を示すブロック図である。
図16図16は、変形例2に係る能動騒音低減装置の機能構成を示すブロック図である。
図17図17は、変形例2に係る適応フィルタモジュールの機能構成を示すブロック図である。
図18図18は、変形例3に係る能動騒音低減装置の機能構成を示すブロック図である。
図19図19は、変形例3に係る適応フィルタモジュールの機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0009】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。なお、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化される場合がある。
【0010】
(実施の形態)
[発明の基礎となった知見]
自動車等の車室内の空間において生じる狭帯域の騒音を低減するために、単一周波数の騒音を低減することができる適応フィルタを用いた能動騒音低減装置が実用化されている。しかしながら、このような能動騒音低減装置においては、騒音の周波数が想定している周波数から1Hzずれると十分に騒音を低減することが難しいという課題がある。
【0011】
また、ロードノイズのようなランダムノイズを含む広帯域の騒音に対しては、複数タップの適応ディジタルフィルタを用いた能動騒音低減装置が実用化されている。このような能動騒音低減装置を実現させるためには、騒音と相関の高い信号を取得するためのセンサ、及び、高速度の演算処理を行うデジタルシグナルプロセッサなどが必要となり、コスト面で大きな課題がある。
【0012】
これらの課題に対し、以下の実施の形態では、SAN Filtered-x LMSアルゴリズムをベースとして、広帯域の騒音を低減することができる能動騒音低減装置について説明する。なお、SANは、Single frequency Adaptive Notch filterの略であり、LMSは、Least Mean Squareの略である。
【0013】
[SANアルゴリズムを用いた騒音信号低減方法]
実施の形態に係る能動騒音低減装置の説明の前に、SANアルゴリズムを用いた騒音信号低減方法、及び、SAN Filtered-x LMSアルゴリズムを用いた騒音低減方法について説明する。
【0014】
まず、SANアルゴリズムを用いた騒音信号低減方法について説明する。図1は、SANアルゴリズムに対応する適応フィルタの機能構成を示すブロック図である。図2は、SANアルゴリズムにおける騒音信号(騒音の正弦波信号)とキャンセル信号との関係を示す図である。なお、以下のSANアルゴリズムを用いた騒音信号低減方法においては、騒音信号は、単一周波数の正弦波信号であるとして説明される。
【0015】
図1及び図2中のnは0以上の整数であり、離散時間系におけるサンプリングナンバーを示す。低減すべき騒音信号の周波数をf[Hz]とすると、正規化角周波数ω[rad]は、以下の[式1]のように表現される。
【0016】
ω=2πf=2πf/f [式1]
【0017】
[式1]において、T[sec]はサンプリング周期であり、f[Hz]はサンプリング周波数である。正規化角周波数ωを用いることで離散時間を表すnTをnで表す。
【0018】
騒音の正弦波信号n(n)は、正規化角周波数ω、振幅R、位相θ[rad]を用いて以下の[式2]のように表現される。
【0019】
(n)=Rsin(ωn+θ) [式2]
【0020】
(n)を低減するためにキャンセル信号を生成する。キャンセル信号y(n)は、n(n)と同振幅かつ逆位相になるため、以下の[式3]のように表現される。
【0021】
y(n)=Rsin{ωn+(θ-π)}
=A(n)sin(ωn)+B(n)cos(ωn) [式3]
【0022】
A(n)及びB(n)は適応フィルタのフィルタ係数である。キャンセル信号y(n)の振幅Rは、A(n)+B(n)の平方根で表され、位相(θ-π)はB(n)/A(n)の逆正接(arctangent)で表される。よって、適応フィルタの係数A(n)及びB(n)の大きさを変えれば、キャンセル信号の振幅が変わり、適応フィルタの係数A(n)及びB(n)の比を変えれば、キャンセル信号の位相が変わる。
【0023】
ここで、適応フィルタの係数A(n)及びB(n)は、LMSアルゴリズムにより、e(n)が最小になるように最適化される。e(n)は、騒音信号とキャンセル信号との干渉によって生じる誤差信号である。これにより、騒音信号が低減される。
【0024】
[SAN Filtered-x LMSアルゴリズムを用いた騒音低減方法]
次に、SAN Filtered-x LMSアルゴリズムを用いた騒音低減方法について説明する。図3は、SAN Filtered-x LMSアルゴリズムに対応する適応フィルタの機能構成を示すブロック図である。図4は、SAN Filtered-x LMSアルゴリズムにおける騒音とキャンセル音との関係を示す図である。なお、以下のSAN Filtered-x LMSアルゴリズムを用いた騒音低減方法の説明においては、騒音は、エンジンこもり音であるとして説明が行われる。エンジンこもり音は、瞬間的には単一周波数の正弦波に近い騒音である。
【0025】
キャンセル信号は、スピーカ、車室空間、及び、マイクロフォンを伝搬し適応フィルタに入力される。この伝達経路を音響伝達関数C(z)で表す。zはz変換を意味する。SAN Filtered-x LMSアルゴリズムは、上記SANアルゴリズムをベースとして、さらに音響伝達関数C(z)を考慮したアルゴリズムである。
【0026】
図3および図4において、模擬伝達関数C (z)は、音響伝達関数C(z)を模擬した伝達関数(フィルタ)である。n(n)は、周波数f[Hz]のマイクロフォンの位置におけるエンジンこもり音である。c(n)は、C(z)の離散時間nのインパルス応答である。c(n)*y(n)は、マイクロフォンの位置におけるキャンセル音を表し、*は畳み込み演算子を意味する。なお、実際にエンジンこもり音を低減するときには、畳み込み演算は、連続時間の積分であるが、以下では離散時間の積和演算であるとして説明される。
【0027】
SAN Filtered-x LMSアルゴリズムに基づく騒音低減方法においては、下記(1)~(5)の処理が繰り返し実行されることにより、フィルタ係数A(n)及びB(n)が最適値に収束される。
【0028】
(1)エンジンの回転周波数を示す信号に基づいて、エンジンこもり音n(n)の周波数f[Hz]を検出する。
【0029】
(2)f[Hz]の周波数を有する、正弦波x(n)及び余弦波x(n)を生成し、係数A(n)とB(n)を乗じて加算し、[式4]に示すキャンセル信号y(n)を生成する。
【0030】
y(n)=A(n)x(n)+B(n)x(n) [式4]
【0031】
(3)キャンセル信号y(n)に基づいてスピーカからキャンセル音を出力する。マイクロフォンの位置において、キャンセル音c(n)*y(n)とエンジンこもり音n(n)が干渉して生じる残留音(誤差信号)e(n)をマイクロフォンによって検出する。
【0032】
(4)C (z)で正弦波x(n)及び余弦波x(n)のそれぞれをフィルタリングすることにより、正弦波r(n)及び余弦波r(n)を生成する。
【0033】
(5)[式5]及び[式6]に示すLMS更新式に基づいて、フィルタ係数A(n)及びB(n)を更新する。なお、μは1サンプリング当たりのフィルタ係数A(n)及びB(n)の更新量を決定するステップサイズパラメータである。
【0034】
A(n+1)=A(n)-μr(n)e(n)[式5]
B(n+1)=B(n)-μr(n)e(n)[式6]
【0035】
[能動騒音低減装置の構成]
次に、実施の形態に係る能動騒音低減装置の構成について説明する。図5は、実施の形態に係る能動騒音低減装置を備える車両の模式図である。図6は、実施の形態に係る能動騒音低減装置の機能構成を示すブロック図である。
【0036】
図5に示されるように、能動騒音低減装置10は、車両50に搭載され、車室内の空間51における騒音を低減する。空間51には、スピーカ52及びマイクロフォン53が設置される。なお、図5及び図6では、説明の簡略化のために、スピーカ52及びマイクロフォン53が1組のみ示されているが、実際には、空間51には複数組のスピーカ52及びマイクロフォン53が設定され、騒音の低減には、複数組のスピーカ52及びマイクロフォン53が用いられる。
【0037】
能動騒音低減装置10は、スピーカ52から出力されるキャンセル音によってマイクロフォン53が設置された位置における騒音を低減する能動型の能動騒音低減装置である。能動騒音低減装置10は、例えば、マイクロコントローラやDSP(Digital Signal Processor)などのマイクロプロセッサ、及び、記憶部(メモリ)によって実現される。
【0038】
図6に示されるように、能動騒音低減装置10は、具体的には、複数の第1適応フィルタ11と、複数の帰還フィルタ12と、加算部13と、第1バンドエリミネーションフィルタ14と、第1ゲイン調整部15と、第2バンドエリミネーションフィルタ16と、第2ゲイン調整部17とを備える。図6の例では、能動騒音低減装置10は、2組の第1適応フィルタ11及び帰還フィルタ12を備えているが、3組以上の第1適応フィルタ11及び帰還フィルタ12を備えてもよい。
【0039】
能動騒音低減装置10が備えるこれらの構成要素は、マイクロコントローラが記憶部に記憶されたコンピュータプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現されるが、一部がハードウェア(回路)によって実現されてもよい。以下、各構成要素について説明する。
【0040】
複数の第1適応フィルタ11のそれぞれは、マイクロフォン53から出力される誤差信号に基づいて逐次更新されるフィルタ係数を特定の周波数を有する基準信号に適用することによりキャンセル信号を出力する。キャンセル信号は、キャンセル音の出力に用いられる信号である。図6の上側の第1適応フィルタ11は、キャンセル信号y00(n)を出力し、下側の第1適応フィルタ11は、キャンセル信号y01(n)を出力する。なお、上側の第1適応フィルタ11が処理の対象とする基準信号の周波数は、下側の第1適応フィルタ11が処理の対象とする基準信号の周波数と異なるが、同一であってもよい。第1適応フィルタ11の具体的構成については後述する。
【0041】
複数の帰還フィルタ12は、複数の第1適応フィルタ11と1対1で対応している。複数の帰還フィルタ12のそれぞれは、当該帰還フィルタ12に対応する第1適応フィルタ11が出力するキャンセル信号にゲイン係数を乗算して当該第1適応フィルタ11へ出力(フィードバック)する。
【0042】
図6の上側の帰還フィルタ12は、上側の第1適応フィルタ11が出力するキャンセル信号y00(n)にゲイン係数を乗算したキャンセル信号h00(n)を上側の第1適応フィルタ11へ出力する。図6の下側の帰還フィルタ12は、下側の第1適応フィルタ11が出力するキャンセル信号y01(n)にゲイン係数を乗算したキャンセル信号h01(n)を下側の第1適応フィルタ11へ出力する。
【0043】
なお、上側の帰還フィルタ12が乗算するゲイン係数の値と、下側の帰還フィルタ12が乗算するゲイン係数の値は、同一であってもよいし、異なってもよい。
【0044】
加算部13は、複数の第1適応フィルタ11のそれぞれが出力するキャンセル信号を加算し、加算後のキャンセル信号を出力する。図6の例では、加算部13は、キャンセル信号y00(n)、及び、キャンセル信号y01(n)を加算し、加算後のキャンセル信号y(n)を出力する。
【0045】
第1バンドエリミネーションフィルタ14は、複数の第1適応フィルタ11のそれぞれからスピーカ52に至るまでの第1経路に設けられる。図6の例では、第1バンドエリミネーションフィルタ14は、第1経路のうち加算部13からスピーカ52に至るまでの経路に設けられ、1つの第1バンドエリミネーションフィルタ14が複数の第1適応フィルタ11によって共用されている。図6では、第1バンドエリミネーションフィルタ14は、G(z)とも表現される。
【0046】
第1バンドエリミネーションフィルタ14は、第2適応フィルタによって実現される。第2適応フィルタは、第1バンドエリミネーションフィルタ14からの出力信号(キャンセル信号y´(n))を生成するために、第1バンドエリミネーションフィルタ14への入力信号(キャンセル信号y(n))に基づいて逐次更新されるフィルタ係数を、特定の周波数を有する基準信号に適用する処理を行う適応フィルタである。第1バンドエリミネーションフィルタ14の具体的構成については後述する。
【0047】
第1ゲイン調整部15は、第1バンドエリミネーションフィルタ14から出力されるキャンセル信号y´(n)をゲイン調整し、キャンセル信号y´´(n)として出力する。第1ゲイン調整部15は、複数の第1適応フィルタ11のそれぞれからスピーカ52に至るまでの第1経路に設けられる。図6の例では、第1ゲイン調整部15は、第1経路のうち加算部13からスピーカ52に至るまでの経路に設けられ、1つの第1ゲイン調整部15が複数の第1適応フィルタ11によって共用されている。図6では、第1ゲイン調整部15は、Kとも表現される。
【0048】
第2バンドエリミネーションフィルタ16は、マイクロフォン53から複数の第1適応フィルタ11のそれぞれに至るまでの第2経路に設けられる。図6の例では、第2バンドエリミネーションフィルタ16は、第2経路のうち複数の第1適応フィルタ11に対応して分岐するまでの経路に設けられ、1つの第2バンドエリミネーションフィルタ16が複数の第1適応フィルタ11によって共用されている。図6では、第2バンドエリミネーションフィルタ16は、G(z)とも表現される。
【0049】
第2バンドエリミネーションフィルタ16は、第1バンドエリミネーションフィルタ14と同様に第2適応フィルタによって実現される。この場合の第2適応フィルタは、第2バンドエリミネーションフィルタ16からの出力信号(誤差信号e´(n))を生成するために、第2バンドエリミネーションフィルタ16への入力信号(誤差信号e(n))に基づいて逐次更新されるフィルタ係数を、特定の周波数を有する基準信号に適用する処理を行う適応フィルタである。
【0050】
第2ゲイン調整部17は、第2バンドエリミネーションフィルタ16から出力される誤差信号e´(n)をゲイン調整し、誤差信号e´´(n)として出力する。第2ゲイン調整部17は、マイクロフォン53から複数の第1適応フィルタ11のそれぞれに至るまでの第2経路に設けられる。図6の例では、第2ゲイン調整部17は、第2経路のうち複数の第1適応フィルタ11に対応して分岐するまでの経路に設けられ、1つの第2ゲイン調整部17が複数の第1適応フィルタ11によって共用されている。図6では、第2ゲイン調整部17は、Kとも表現される。
【0051】
[第1適応フィルタの具体的構成]
次に、第1適応フィルタ11の具体的構成について説明する。図7は、第1適応フィルタ11の具体的構成を示す図である。図7に示されるように第1適応フィルタ11は、正弦波生成部11aと、余弦波生成部11bと、第1フィルタ部11cと、第2フィルタ部11dと、加算部11eと、第1補正部11fと、第2補正部11gと、第1更新部11hと、第2更新部11iとを備える。なお、以下の図7を用いた説明においては、図6の上側の第1適応フィルタ11の具体的構成について説明する。図6の下側の第1適応フィルタ11については、上側の第1適応フィルタ11と同様の構成であるため説明が省略される。
【0052】
正弦波生成部11aは、あらかじめ設定された周波数の正弦波を、第1基準信号として出力する。図7では、第1基準信号は、x(n)と記載されている。nは0以上の整数であり、離散時間系におけるサンプリングナンバーを示す。第1基準信号は、第1フィルタ部11c、第1補正部11f、及び、第1更新部11hに出力される。
【0053】
余弦波生成部11bは、あらかじめ設定された、上記正弦波と同一の周波数の余弦波を、第2基準信号として出力する。図7では、第2基準信号は、x(n)と記載されている。第2基準信号は、第2フィルタ部11d、第2補正部11g、及び、第2更新部11iに出力される。
【0054】
第1フィルタ部11cは、正弦波生成部11aから出力される第1基準信号に第1のフィルタ係数A(n)を乗算する。第1のフィルタ係数A(n)は、第1更新部11hによって逐次更新される。第1のフィルタ係数が乗算された第1基準信号である第1キャンセル信号は、加算部11eに出力される。
【0055】
第2フィルタ部11dは、余弦波生成部11bから出力される第2基準信号に第2のフィルタ係数B(n)を乗算する。第2のフィルタ係数B(n)は、第2更新部11iによって逐次更新される。第2のフィルタ係数が乗算された第2基準信号である第2キャンセル信号は、加算部11eに出力される。
【0056】
加算部11eは、第1フィルタ部11cから出力される第1キャンセル信号と、第2フィルタ部11dから出力される第2キャンセル信号とを加算する。図7では、第1キャンセル信号と第2キャンセル信号との加算によって得られるキャンセル信号は、y00(n)と記載されている。加算部11eは、キャンセル信号y00(n)を、帰還フィルタ12及び加算部13へ出力する。
【0057】
第1補正部11fは、第1基準信号を模擬伝達関数C^(z)を用いて補正(フィルタリング)した第1補正後基準信号を生成する。図7では、第1補正後基準信号は、r(n)と記載されている。生成された第1補正後基準信号は、第1更新部11hに出力される。
【0058】
なお、模擬伝達関数C^(z)は、スピーカ52の位置からマイクロフォン53の位置までの音響伝達関数C(z)を模擬した伝達関数を、第1バンドエリミネーションフィルタ14、第1ゲイン調整部15、第2バンドエリミネーションフィルタ16、及び、第2ゲイン調整部17の周波数特性を考慮して補正した伝達関数である。模擬伝達関数C^(z)は、具体的には、周波数ごとのゲイン及び位相(位相遅れ)である。模擬伝達関数C^(z)は、例えば、あらかじめ空間において周波数ごとに実測され、能動騒音低減装置10が備える記憶部(図示せず)に記憶される。つまり、この記憶部には、周波数と、当該周波数の信号を補正するためのゲイン及び位相が記憶される。
【0059】
第2補正部11gは、第2基準信号を模擬伝達関数C^(z)を用いて補正(フィルタリング)した第2補正後基準信号を生成する。図7では、第2補正後基準信号は、r(n)と記載されている。生成された第2補正後基準信号は、第2更新部11iに出力される。
【0060】
第1更新部11hは、正弦波生成部11aから取得した第1基準信号、第1補正部11fから取得した第1補正後基準信号、マイクロフォン53によって出力される誤差信号(e´´(n))、及び、帰還フィルタ12の出力信号(h00(n))に基づいて、第1のフィルタ係数を算出し、算出した第1のフィルタ係数を第1フィルタ部11cに出力する。また、第1更新部11hは、第1のフィルタ係数を逐次更新する。
【0061】
第2更新部11iは、余弦波生成部11bから取得した第2基準信号、第2補正部11gから取得した第2補正後基準信号、マイクロフォン53から取得した誤差信号、及び、帰還フィルタ12から取得した出力信号に基づいて、第2のフィルタ係数を算出し、算出した第2のフィルタ係数を第2フィルタ部11dに出力する。また、第2更新部11iは、第2のフィルタ係数を逐次更新する。
【0062】
以下、第1のフィルタ係数、及び、第2のフィルタ係数を算出するためのLMS更新式について説明する。帰還フィルタ12は、キャンセル信号y00(n)にゲイン係数αを乗じて出力信号h00(n)を生成する。h00(n)は[式4]を用いて以下の[式7]のように表現される。
【0063】
00(n)=αy00(n)=α{A(n)x(n)+B(n)x(n)} [式7]
【0064】
[式5]、及び、[式6]に示されるLMS更新式は、[式7]を用いて、以下の[式8]及び、[式9]のように表現される。
【0065】
A(n+1)
=A(n)-μr(n)e´´(n)-μx(n)h00(n)
=A(n)-μr(n)e´´(n)
-μx(n)α{A(n)x(n)+B(n)x(n)} [式8]
B(n+1)
=B(n)-μr(n)e´´(n)-μx(n)h00(n)
=B(n)-μr(n)e´´(n)
-μx(n)α{A(n)x(n)+B(n)x(n)} [式9]
【0066】
上記[式8]、及び、[式9]に示されるように、ゲイン係数αは、フィルタ係数A(n)及びB(n)の更新速度を調整するための係数である。ゲイン係数αを乗算することは、マイクロフォン53の位置におけるキャンセル音c(n)*y(n)を数値演算的に発生させることと等価である。このため、ゲイン係数αの値により第1適応フィルタ11の安定性と騒音低減量を調整することができる。ゲイン係数αが0より大きければ、騒音低減特性の広帯域化を図ることができる。このとき、ゲイン係数αの値が大きいほど、第1適応フィルタ11の安定性が向上し、騒音低減特性の広帯域化を図ることができるが、騒音低減量は小さくなる。
【0067】
[第1バンドエリミネーションフィルタの具体的構成]
次に、第1バンドエリミネーションフィルタ14の具体的構成について説明する。図8は、第1バンドエリミネーションフィルタ14の具体的構成を示す図である。
【0068】
第1バンドエリミネーションフィルタ14は、言い換えれば、SANアルゴリズムに基づくイコライザである。第1バンドエリミネーションフィルタ14は、第2適応フィルタ14aと、ゲイン調整部14bと、加算部14cとを備える。
【0069】
第2適応フィルタ14aは、第1バンドエリミネーションフィルタ14からの出力信号vout(n)を生成するために、第1バンドエリミネーションフィルタ14への入力信号vin(n)に基づいて逐次更新されるフィルタ係数を、特定の周波数を有する基準信号に適用する処理を行う。なお、第2適応フィルタ14aの構成は、第1適応フィルタ11から第1補正部11f及び第2補正部11gを除いた構成であり、第2適応フィルタ14aにおける、b(n)、b(n)、W(n)、及び、W(n)は、第1適応フィルタ11における、x(n)、x(n)、A(n)、B(n)に相当する。
【0070】
ここで、第2適応フィルタ14aにおける基準信号の周波数をfG1[Hz]とすると、第2適応フィルタ14aからの出力信号vout_s(n)は、以下の[式10]のように表現される。なお、基準信号の周波数fG1は、言い換えれば、第1バンドエリミネーションフィルタ14の中心周波数である。
【0071】
out_s(n)=W(n)b(n)+W(n)b(n) [式10]
【0072】
第2適応フィルタ14aにおいて、フィルタ係数W(n)及びW(n)のLMS更新式は、以下の[式11]、及び、[式12]のように表現される。
【0073】
(n+1)=W(n)-μG1(n){vin(n)+vout_s(n)} [式11]
(n+1)=W(n)-μG1(n){vin(n)+vout_s(n)} [式12]
【0074】
なお、μG1は1サンプリング当たりのフィルタ係数W(n)及びW(n)の更新量を決定するステップサイズパラメータである。
【0075】
ゲイン調整部14bは、出力信号vout_s(n)にゲイン係数βを乗じる。加算部14cは、ゲイン係数βが乗算された出力信号vout_s(n)と入力信号vin(n)とを加算し、出力信号vout(n)を生成する。出力信号vout(n)は、以下の[式13]のように表現される。
【0076】
out(n)=vin(n)+βvout_s(n) [式13]
【0077】
ゲイン係数βは、第1バンドエリミネーションフィルタ14の周波数特性における中心周波数fG1におけるゲインレベル低減量を調整するためのパラメータである。つまり、fG1、ステップサイズパラメータμG1、及び、ゲイン係数βを変更することにより、第1バンドエリミネーションフィルタ14の特性を任意に調整することができる。図9は、第1バンドエリミネーションフィルタ14の特性の調整を説明するための図である。
【0078】
ここで、第2バンドエリミネーションフィルタ16は、第1バンドエリミネーションフィルタ14と同様の構成であり、第2バンドエリミネーションフィルタ16の具体的構成の説明については省略される。第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第2バンドエリミネーションフィルタ16の2つのバンドエリミネーションフィルタは、いずれも音響伝達関数C(z)の位相特性を緩やかにする目的で挿入される。
【0079】
2つのバンドエリミネーションフィルタは、挿入される場所(第1経路または第2経路)が異なる。しかしながら、例えば、2つのバンドエリミネーションフィルタの両方が第1経路に挿入されても、2つのバンドエリミネーションフィルタの両方が第2経路に挿入されても理論的には同じ効果が得られる。
【0080】
2つのバンドエリミネーションフィルタの挿入場所を分ける理由は、第1経路側(出力側)、及び、第2経路側(入力側)のそれぞれにおける信号のダイナミックレンジを有効に使うためである。ソフトウェアの制約により、第1経路側、及び、第2経路側の一方にのみバンドエリミネーションフィルタを設けて信号を減衰させると、騒音の制御に必要な分解能が得られない場合がある。
【0081】
また、後述する変形例1~変形例3のように、2つのバンドエリミネーションフィルタのそれぞれは、複数の第1適応フィルタ11に1対1対応で個別に設けられる場合と、複数の第1適応フィルタ11によって共用される(共通化される)場合とが考えられる。これらの場合に、第1経路側(出力側)、及び、第2経路側(入力側)のそれぞれにバンドエリミネーションフィルタが設けられていることで、設計の合理化を図ることができる。
【0082】
第1経路または第2経路に設けられるバンドエリミネーションフィルタが複数組み合わされることで、音響伝達関数C(z)の周波数特性を自在に変更することができる。能動騒音低減装置10は、第1経路または第2経路に設けられるバンドエリミネーションフィルタを3つ以上備えてもよい。
【0083】
なお、第1バンドエリミネーションフィルタ14の中心周波数(基準信号の周波数)と、第2バンドエリミネーションフィルタ16の中心周波数とは異なるが、同一であってもよい。例えば、ソフトウェアの制約により、1つのバンドエリミネーションフィルタでは十分に信号を減衰させることができない場合に、中心周波数が同一である2つのバンドエリミネーションフィルタを使用することが考えられる。
【0084】
ここで、音響伝達関数C(z)は、スピーカ52からマイクロフォン53までの伝達特性だけでなく、第1適応フィルタ11を通る経路の特性を含むことから、第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第2バンドエリミネーションフィルタ16により、音響伝達関数C(z)の周波数特性を変化させることができる。図10は、第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第2バンドエリミネーションフィルタ16が適用された場合の音響伝達関数C(z)の周波数特性(ゲイン特性、及び、位相特性)の変化を示す図である。図10の例では、騒音の低減の対象となる帯域は、35Hz以上45Hz以下の帯域であり、第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第2バンドエリミネーションフィルタ16の一方の中心周波数は、31Hz付近であり、他方の中心周波数は、49Hz付近である。
【0085】
図10に示されるように、第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第2バンドエリミネーションフィルタ16により、音響伝達関数C(z)の位相特性を緩やかにすることができる。35Hz以上45Hz以下の帯域の騒音を低減したい場合に、この帯域の位相特性を緩やかにすることで、ウォーターベッド(後述)を抑制することができる。
【0086】
なお、第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第2バンドエリミネーションフィルタ16により、C(z)のゲインは減衰する。このため、能動騒音低減装置10においては、第1ゲイン調整部15及び第2ゲイン調整部17がゲインを調整する。これにより、第1適応フィルタ11におけるフィルタ係数が過大に成長してしまうこと、及び、ソフトウェアの制約により、フィルタ係数が上限値にクリップしてしまうことを抑制することができる。
【0087】
能動騒音低減装置10は、第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第2バンドエリミネーションフィルタ16の少なくとも一方を備えていればよい。例えば、能動騒音低減装置10が第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第2バンドエリミネーションフィルタ16の一方のみを備え、その中心周波数が45Hzである場合には、音響伝達関数C(z)の周波数特性は、図11のように変化する。図11は、第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第2バンドエリミネーションフィルタ16の一方のみが適用された場合の音響伝達関数C(z)の周波数特性の変化を示す図である。
【0088】
図11に示されるように、第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第2バンドエリミネーションフィルタ16の一方のみが適用された場合であっても、音響伝達関数C(z)の位相特性を緩やかにすることができる。
【0089】
なお、能動騒音低減装置10においては、第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第2バンドエリミネーションフィルタ16のそれぞれは、第2適応フィルタ14a(1タップの適応ディジタルフィルタ)によって実現される。しかしながら、第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第2バンドエリミネーションフィルタ16は、一般的なディジタルフィルタによって実現されてもよい。一般的なディジタルフィルタによって実現されるバンドエリミネーションフィルタは、低周波側において遅延が発生するため位相変化が大きい。このため、第2適応フィルタ14aによって実現されるバンドエリミネーションフィルタのほうが、音響伝達関数C(z)の位相特性を緩やかにするという目的には適している。
【0090】
また、第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第2バンドエリミネーションフィルタ16のそれぞれは、回路部品を用いてハードウェアとして実現されてもよい。この場合、第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第2バンドエリミネーションフィルタ16の自由度は低下するが位相変化は小さいことから、音響伝達関数C(z)の位相特性を緩やかにするという目的には適している。
【0091】
[効果等]
能動騒音低減装置10は、ウォーターベッドを抑制しつつ、広帯域の騒音を低減することができる。図12は、能動騒音低減装置10が広帯域の騒音を低減することができる理由を説明するための図である。
【0092】
図12の(a)は、帰還フィルタ12が適用されていない第1適応フィルタ11を1つだけ備える能動騒音低減装置(図3相当)を用いた場合の、空間51における騒音の低減特性の模式図(上段)、及び、装置をオンまたはオフしたときの騒音レベルの周波数特性のシミュレーション結果(下段)を示している。なお、騒音の低減特性の横軸は周波数であり、縦軸は騒音の低減量(低いほど騒音が低減されることを意味する)である。
【0093】
ここで、図12の(a)に対応する能動騒音低減装置において、第1適応フィルタ11に帰還フィルタ12を適用して第1適応フィルタ11単体の騒音の低減特性を広帯域化すると、図12の(a)の状態は、図12の(b)の状態に変化する。
【0094】
さらに、図12の(b)に対応する能動騒音低減装置において、騒音低減特性の中心周波数(基準信号の周波数)が異なる複数の第1適応フィルタ11を組み合わせることで、図12の(b)の状態は、図12の(c)の状態に変化する。つまり、騒音の低減特性がさらに広帯域化される。
【0095】
そして、図12の(c)に対応する能動騒音低減装置において、第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第2バンドエリミネーションフィルタ16により、図12の(b)及び(c)で説明した広帯域化によって生じるウォーターベッドを抑制することで、図12の(c)の状態は、図12の(d)の状態に変化する。なお、ウォーターベッドを抑制するとは、より詳細には、ウォーターベッドが生じている帯域における騒音の増大を抑制するという意味である。
【0096】
能動騒音低減装置10は、図12の(d)に対応する能動騒音低減装置である。つまり、能動騒音低減装置10は、広帯域の騒音を低減することができる。
【0097】
[低減される騒音の種類など]
能動騒音低減装置10は、複数の第1適応フィルタ11に設定される周波数、及び、帰還フィルタ12、第1バンドエリミネーションフィルタ14、第1ゲイン調整部15、第2バンドエリミネーションフィルタ16、及び、第2ゲイン調整部17のそれぞれのパラメータ(α、β、K、及び、Kなどの各種パラメータ)を変更することにより、騒音を低減することができる周波数範囲を広げたり、当該周波数範囲をシフトしたりすることができる。したがって、能動騒音低減装置10は、車両内の空間51における様々な騒音を低減することができる。
【0098】
例えば、能動騒音低減装置10は、広帯域の騒音であるロードノイズを低減することができる。この場合、複数の第1適応フィルタのそれぞれに設定される周波数(基準信号の周波数)は、ロードノイズの周波数帯域を考慮した固定の周波数となる。複数の第1適応フィルタ11にどのように周波数を設定するかについては、例えば、経験的または実験的に定められる。また、各種パラメータも、ロードノイズの低減に適した設定とされる。この設定は、例えば、経験的または実験的に定められる。
【0099】
また、能動騒音低減装置10は、狭帯域の騒音であるエンジンこもり音を低減することもできる。この場合、複数の第1適応フィルタ11のそれぞれには、車両50からエンジンの回転周波数を示す信号が入力され、複数の第1適応フィルタ11のそれぞれに設定される周波数は、エンジンの回転周波数に応じて動的に変更される。
【0100】
このとき、複数の第1適応フィルタ11のそれぞれには、エンジンの回転次数に同期した周波数そのものが設定されてもよいが、エンジンの回転次数に同期した周波数を中心として広帯域の騒音低減特性が得られるように、設定される周波数がシフトされてもよい。例えば、能動騒音低減装置10が3つの第1適応フィルタ11を備え、エンジンの回転次数に同期した周波数がfである場合に、3つの第1適応フィルタ11に設定される周波数を、f-Δf、f、f+Δfとする構成が考えられる。なお、Δfは、周波数のシフト量である。
【0101】
また、エンジンこもり音を低減するときには、各種パラメータもエンジンこもり音の低減に適した設定とされる。この設定は、例えば、経験的または実験的に定められる。
【0102】
また、能動騒音低減装置10は、ロードノイズなどの広帯域の騒音を低減する処理、及び、エンジンこもり音などの狭帯域の騒音を低減する処理の両方が可能な装置として実現されてもよい。図13は、騒音を低減する処理の切り替え動作を示すフローチャートである。以下の図13の説明では、能動騒音低減装置10が切り替え動作を行う機能的な構成要素として制御部を備えるものとして説明が行われる。
【0103】
制御部は、車両50からエンジンの回転周波数を示す信号を取得し(S11)、取得した信号に基づいて、エンジンが回転しているか否かを判定する(S12)。制御部は、エンジンが回転していると判定した場合には(S12でYes)、狭帯域の騒音(エンジンこもり音)を低減する処理を行う(S13)。制御部は、具体的には、複数の第1適応フィルタ11にエンジンの回転次数に同期した周波数(またはこれをシフトした周波数)を設定した上で、エンジンこもり音を低減するための各種パラメータを設定する。つまり、制御部は、複数の第1適応フィルタ11が処理の対象とする基準信号の周波数を車両50の走行状態に連動させる。
【0104】
一方、制御部は、エンジンが回転していないと判定した場合には(S12でNo)、広帯域の騒音(ロードノイズなど)を低減する処理を行う(S14)。制御部は、具体的には、複数の第1適応フィルタ11に固定の周波数を設定した上で、広帯域の騒音を低減するための各種パラメータを設定する。つまり、制御部は、複数の第1適応フィルタ11が処理の対象とする基準信号の周波数を車両50の走行状態に連動させない。
【0105】
なお、エンジンが回転していないときにロードノイズを低減する構成は、PHV(Plug-in Hybrid Vehicle)またはPHEV(Plug-in Hybrid EV)などと呼ばれるエンジンとモータとを併用して走行する車両50において有用である。
【0106】
このように、能動騒音低減装置10は、騒音を低減する処理(第1適応フィルタ11に設定される周波数を車両の走行状態に連動させるか否か)を切り替えることができる。
【0107】
なお、騒音を低減する処理が、エンジンの回転数を示す信号に基づいて切り替えられることは必須ではなく、騒音を低減する処理は、アクセル開度、または、車速を示す信号などに基づいて切り替えられてもよい。つまり、騒音を低減する処理は、車両の走行状態を示す情報(移動体装置の移動状態を示す情報)に基づいて切り替えられればよい。
【0108】
また、制御部は、広帯域の騒音を低減するときの周波数範囲を、空間51に設置された騒音モニタ用のマイクロフォンから出力される信号に基づいて切り替えてもよい。騒音モニタ用のマイクロフォンから出力される信号は、空間51における騒音の状態を示す情報の一例である。
【0109】
制御部は、具体的には、上記マイクロフォンから出力される信号を解析し、低減すべき騒音の周波数範囲を特定し、特定した周波数範囲の騒音が低減されるように、複数の第1適応フィルタ11に設定される周波数、及び、各種パラメータを変更する。例えば、制御部は、複数の第1適応フィルタ11が処理の対象とする基準信号の周波数を、第1周波数範囲の騒音を低減するための第1設定にするか、第1周波数範囲と異なる第2周波数範囲の騒音を低減するための第2設定にするかを切り替える。
【0110】
このように、能動騒音低減装置10は、空間51における騒音の状態に基づいて、広帯域の騒音を低減するときの周波数範囲を変更する(切り替える)ことができる。
【0111】
[変形例1]
次に、変形例1に係る能動騒音低減装置について説明する。図14は、変形例1に係る能動騒音低減装置の機能構成を示すブロック図である。
【0112】
変形例1に係る能動騒音低減装置10aは、例えば、マイクロコントローラやDSPなどのマイクロプロセッサ、及び、記憶部によって実現される。図14に示されるように、能動騒音低減装置10aは、具体的には、複数の適応フィルタモジュール18aと、複数の適応フィルタモジュール18aのそれぞれが出力するキャンセル信号(y00´´(n)、及び、y01´´(n))を加算し、加算後のキャンセル信号(y´´(n))を出力する加算部13とを備える。これらの構成要素は、マイクロコントローラが記憶部に記憶されたコンピュータプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現されるが、一部がハードウェア(回路)によって実現されてもよい。図14の例では、能動騒音低減装置10aは、2つの適応フィルタモジュール18aを備えているが、3つ以上の適応フィルタモジュール18aを備えてもよい。
【0113】
図15は、適応フィルタモジュール18aの機能構成を示すブロック図である。図15に示されるように、適応フィルタモジュール18aは、第1適応フィルタ11と、帰還フィルタ12と、第1バンドエリミネーションフィルタ14と、第1ゲイン調整部15と、第2バンドエリミネーションフィルタ16と、第2ゲイン調整部17とを備える。つまり、第1適応フィルタ11と、第1バンドエリミネーションフィルタ14、第1ゲイン調整部15、第2バンドエリミネーションフィルタ16、及び、第2ゲイン調整部17のそれぞれとが1対1で対応している。
【0114】
上述のように、能動騒音低減装置10aは、複数の適応フィルタモジュール18aを備えている。したがって、能動騒音低減装置10aは、第1経路に設けられた複数の第1バンドエリミネーションフィルタ14であって複数の第1適応フィルタ11に1対1で対応する複数の第1バンドエリミネーションフィルタ14を備えているといえる。第1ゲイン調整部15についても同様である。
【0115】
また、能動騒音低減装置10aは、第2経路に設けられた複数の第2バンドエリミネーションフィルタ16であって複数の第1適応フィルタ11に1対1で対応する複数の第2バンドエリミネーションフィルタ16を備えているといえる。第2ゲイン調整部17についても同様である。
【0116】
このような能動騒音低減装置10aにおいては、複数の第1適応フィルタ11のそれぞれに対して、第1バンドエリミネーションフィルタ14、第1ゲイン調整部15、第2バンドエリミネーションフィルタ16、及び、第2ゲイン調整部17の設定を個別に行うことができる。なお、能動騒音低減装置10aは、能動騒音低減装置10と同様の動作が可能である。
【0117】
[変形例2]
次に、変形例2に係る能動騒音低減装置について説明する。図16は、変形例2に係る能動騒音低減装置の機能構成を示すブロック図である。
【0118】
変形例2に係る能動騒音低減装置10bは、例えば、マイクロコントローラやDSPなどのマイクロプロセッサ、及び、記憶部によって実現される。図16に示されるように、能動騒音低減装置10bは、複数の適応フィルタモジュール18bと、複数の適応フィルタモジュール18bのそれぞれが出力するキャンセル信号(y00´´(n)、及び、y01´´(n))を加算し、加算後のキャンセル信号(y´´(n))を出力する加算部13と、第2バンドエリミネーションフィルタ16と、第2ゲイン調整部17とを備える。これらの構成要素は、マイクロコントローラが記憶部に記憶されたコンピュータプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現されるが、一部がハードウェア(回路)によって実現されてもよい。図16の例では、能動騒音低減装置10bは、2つの適応フィルタモジュール18bを備えているが、3つ以上の適応フィルタモジュール18bを備えてもよい。
【0119】
図17は、適応フィルタモジュール18bの機能構成を示すブロック図である。図17に示されるように、適応フィルタモジュール18bは、第1適応フィルタ11と、帰還フィルタ12と、第1バンドエリミネーションフィルタ14と、第1ゲイン調整部15とを備える。つまり、第1適応フィルタ11と、第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第1ゲイン調整部15のそれぞれとが1対1で対応している。
【0120】
上述のように、能動騒音低減装置10bは、複数の適応フィルタモジュール18bを備えている。したがって、能動騒音低減装置10bは、第1経路に設けられた複数の第1バンドエリミネーションフィルタ14であって複数の第1適応フィルタ11に1対1で対応する複数の第1バンドエリミネーションフィルタ14を備えているといえる。第1ゲイン調整部15についても同様である。
【0121】
また、能動騒音低減装置10bは、第2経路に設けられた単一の第2バンドエリミネーションフィルタ16であって複数の第1適応フィルタ11に共通の第2バンドエリミネーションフィルタ16を備えているといえる。第2ゲイン調整部17についても同様である。
【0122】
このような能動騒音低減装置10bにおいては、複数の第1適応フィルタ11のそれぞれに対して、第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第1ゲイン調整部15、の設定を個別に行うことができる。また、能動騒音低減装置10bにおいては、第2バンドエリミネーションフィルタ16、及び、第2ゲイン調整部17の設定については、複数の第1適応フィルタ11に対して共通化することができる。なお、能動騒音低減装置10bは、能動騒音低減装置10と同様の動作が可能である。
【0123】
[変形例3]
次に、変形例3に係る能動騒音低減装置について説明する。図18は、変形例3に係る能動騒音低減装置の機能構成を示すブロック図である。
【0124】
変形例3に係る能動騒音低減装置10cは、例えば、マイクロコントローラやDSPなどのマイクロプロセッサ、及び、記憶部によって実現される。図18に示されるように、能動騒音低減装置10cは、具体的には、複数の適応フィルタモジュール18cと、複数の適応フィルタモジュール18cのそれぞれが出力するキャンセル信号(y00(n)、及び、y01(n))を加算し、加算後のキャンセル信号(y(n))を出力する加算部13と、第1バンドエリミネーションフィルタ14と、第1ゲイン調整部15とを備える。これらの構成要素は、マイクロコントローラが記憶部に記憶されたコンピュータプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現されるが、一部がハードウェア(回路)によって実現されてもよい。図18の例では、能動騒音低減装置10cは、2つの適応フィルタモジュール18cを備えているが、3つ以上の適応フィルタモジュール18cを備えてもよい。
【0125】
図19は、適応フィルタモジュール18cの機能構成を示すブロック図である。図19に示されるように、適応フィルタモジュール18cは、第1適応フィルタ11と、帰還フィルタ12と、第2バンドエリミネーションフィルタ16と、第2ゲイン調整部17とを備える。つまり、第1適応フィルタ11と、第2バンドエリミネーションフィルタ16、及び、第2ゲイン調整部17のそれぞれとが1対1で対応している。
【0126】
上述のように、能動騒音低減装置10cは、複数の適応フィルタモジュール18cを備えている。したがって、能動騒音低減装置10cは、第2経路に設けられた複数の第2バンドエリミネーションフィルタ16であって複数の第1適応フィルタ11に1対1で対応する複数の第2バンドエリミネーションフィルタ16を備えているといえる。第2ゲイン調整部17についても同様である。
【0127】
また、能動騒音低減装置10cは、第1経路に設けられた単一の第1バンドエリミネーションフィルタ14であって複数の第1適応フィルタ11に共通の第1バンドエリミネーションフィルタ14を備えているといえる。第1ゲイン調整部15についても同様である。
【0128】
このような能動騒音低減装置10cにおいては、複数の第1適応フィルタ11のそれぞれに対して、第2バンドエリミネーションフィルタ16、及び、第2ゲイン調整部17の設定を個別に行うことができる。また、能動騒音低減装置10cにおいては、第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第1ゲイン調整部15の設定については、複数の第1適応フィルタ11に対して共通化することができる。なお、能動騒音低減装置10cは、能動騒音低減装置10と同様の動作が可能である。
【0129】
[効果等]
以上説明したように、能動騒音低減装置10は、スピーカ52及びマイクロフォン53が設けられた空間51における騒音を、スピーカ52からキャンセル音を出力することにより低減する能動騒音低減装置である。能動騒音低減装置10は、各々が、マイクロフォン53から出力される誤差信号に基づいて逐次更新されるフィルタ係数を特定の周波数を有する基準信号に適用することによりキャンセル音の出力に用いられるキャンセル信号を出力する複数の第1適応フィルタ11と、複数の帰還フィルタであって、各々が、当該帰還フィルタに対応する第1適応フィルタ11が出力するキャンセル信号にゲイン係数を乗算して当該第1適応フィルタへ出力する複数の帰還フィルタ12と、複数の第1適応フィルタ11のそれぞれが出力するキャンセル信号を加算し、加算後のキャンセル信号を出力する加算部13と、複数の第1適応フィルタ11のそれぞれからスピーカ52に至るまでの第1経路、及び、マイクロフォン53から複数の第1適応フィルタ11のそれぞれに至るまでの第2経路の少なくとも一方の経路に設けられたバンドエリミネーションフィルタとを備える。
【0130】
このような能動騒音低減装置10は、騒音を低減することができる周波数範囲の自由度を向上することができる。
【0131】
また、例えば、能動騒音低減装置10は、さらに、少なくとも一方の経路に設けられたゲイン調整器を備える。
【0132】
このような能動騒音低減装置10は、第1適応フィルタ11におけるフィルタ係数が過大に成長してしまうこと、及び、ソフトウェアの制約により、フィルタ係数が上限値にクリップしてしまうことを抑制することができる。
【0133】
また、例えば、ゲイン調整器は、第1経路、及び、第2経路のそれぞれに設けられる。
【0134】
このような能動騒音低減装置10は、第1経路側(出力側)、及び、第2経路側(入力側)のそれぞれにおける信号のダイナミックレンジを考慮しつつ、第1適応フィルタ11におけるフィルタ係数が過大に成長してしまうことなどを抑制することができる。
【0135】
また、例えば、バンドエリミネーションフィルタは、第1経路、及び、第2経路のそれぞれに設けられる。
【0136】
このような能動騒音低減装置10は、第1経路側(出力側)、及び、第2経路側(入力側)のそれぞれにおける信号のダイナミックレンジを考慮しつつ、音響伝達関数C(z)の位相特性を緩やかにすることができる。
【0137】
また、例えば、バンドエリミネーションフィルタは、第2適応フィルタ14aによって実現される。第2適応フィルタ14aは、バンドエリミネーションフィルタからの出力信号を生成するために、バンドエリミネーションフィルタへの入力信号に基づいて逐次更新されるフィルタ係数を、特定の周波数を有する基準信号に適用する処理を行う。
【0138】
このような能動騒音低減装置10は、音響伝達関数C(z)の位相特性を緩やかにすることができる。
【0139】
また、例えば、能動騒音低減装置10は、複数のバンドエリミネーションフィルタを備え、複数のバンドエリミネーションフィルタに対応する複数の第2適応フィルタ14aの1つが処理の対象とする基準信号の周波数は、複数の第2適応フィルタ14aの他の1つが処理の対象とする基準信号の周波数と異なる。
【0140】
このような能動騒音低減装置10は、中心周波数が異なる複数のバンドエリミネーションフィルタの組み合わせにより、音響伝達関数C(z)の位相特性を緩やかにすることができる。
【0141】
また、例えば、複数の第1適応フィルタ11の1つが処理の対象とする基準信号の周波数は、複数の第1適応フィルタ11の他の1つが処理の対象とする基準信号の周波数と異なる。
【0142】
このような能動騒音低減装置10は、複数の第1適応フィルタ11の組み合わせにより、騒音低減特性の広帯域化を図ることができる。
【0143】
また、例えば、能動騒音低減装置10aは、バンドエリミネーションフィルタとして、第1経路に設けられた複数の第1バンドエリミネーションフィルタ14であって複数の第1適応フィルタ11に1対1で対応する複数の第1バンドエリミネーションフィルタ14と、第2経路に設けられた複数の第2バンドエリミネーションフィルタ16であって複数の第1適応フィルタ11に1対1で対応する複数の第2バンドエリミネーションフィルタ16とを備える。
【0144】
このような能動騒音低減装置10aにおいては、複数の第1適応フィルタ11のそれぞれに対して、第1バンドエリミネーションフィルタ14、及び、第2バンドエリミネーションフィルタ16の設定を個別に行うことができる。
【0145】
また、例えば、能動騒音低減装置10bは、バンドエリミネーションフィルタとして、第1経路に設けられた複数の第1バンドエリミネーションフィルタ14であって複数の第1適応フィルタ11に1対1で対応する複数の第1バンドエリミネーションフィルタ14と、第2経路に設けられた第2バンドエリミネーションフィルタ16であって複数の第1適応フィルタ11に共通の第2バンドエリミネーションフィルタ16とを備える。
【0146】
このような能動騒音低減装置10bにおいては、複数の第1適応フィルタ11のそれぞれに対して、第1バンドエリミネーションフィルタ14の設定を個別に行うことができる。また、能動騒音低減装置10bにおいては、第2バンドエリミネーションフィルタ16の設定については、複数の第1適応フィルタ11に対して共通化することができる。
【0147】
また、例えば、能動騒音低減装置10cは、バンドエリミネーションフィルタとして、第1経路に設けられた第1バンドエリミネーションフィルタ14であって複数の第1適応フィルタ11に共通の第1バンドエリミネーションフィルタ14と、第2経路に設けられた複数の第2バンドエリミネーションフィルタ16であって複数の第1適応フィルタ11に1対1で対応する複数の第2バンドエリミネーションフィルタ16とを備える。
【0148】
このような能動騒音低減装置10cにおいては、複数の第1適応フィルタ11のそれぞれに対して、第2バンドエリミネーションフィルタ16の設定を個別に行うことができる。また、能動騒音低減装置10cにおいては、第1バンドエリミネーションフィルタ14の設定については、複数の第1適応フィルタ11に対して共通化することができる。
【0149】
また、例えば、空間51は、移動体装置内の空間であり、能動騒音低減装置10は、移動体装置の移動状態を示す情報を取得する制御部を備える。制御部は、取得した移動体装置の移動状態を示す情報に基づいて、複数の第1適応フィルタ11が処理の対象とする基準信号の周波数を移動体装置の移動状態に連動させるか否かを切り替える。
【0150】
このような能動騒音低減装置10は、狭帯域の騒音を低減する処理と、広帯域の騒音を低減する処理とを切り替えることができる。
【0151】
また、例えば、能動騒音低減装置10は、騒音の状態を示す情報を取得する制御部を備える。制御部は、取得した騒音の状態を示す情報に基づいて、複数の第1適応フィルタが処理の対象とする基準信号の周波数を、第1周波数範囲の騒音を低減するための第1設定にするか、第1周波数範囲と異なる第2周波数範囲の騒音を低減するための第2設定にするかを切り替える。
【0152】
このような能動騒音低減装置10は、騒音が低減される周波数範囲を切り替えることができる。
【0153】
また、移動体装置は、能動騒音低減装置10(または能動騒音低減装置10a、10b、または10c)と、スピーカ52と、マイクロフォン53とを備える。
【0154】
このような移動体装置内の空間においては、騒音を低減できる周波数範囲の自由度が向上されている。
【0155】
(その他の実施の形態)
以上、実施の形態について説明したが、本開示は、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0156】
例えば、上記実施の形態に係る能動騒音低減装置は、車両以外の移動体装置に搭載されてもよい。移動体装置は、例えば、航空機または船舶であってもよい。また、本開示は、このような車両以外の移動体装置として実現されてもよい。
【0157】
また、上記実施の形態に係る能動騒音低減装置の構成は、一例である。例えば、能動騒音低減装置は、D/A変換器、ローパスフィルタ(LPF)、ハイパスフィルタ(HPF)、電力増幅器、または、A/D変換器などの構成要素を含んでもよい。
【0158】
また、上記実施の形態に係る能動騒音低減装置が行う処理は、一例である。例えば、上記実施の形態で説明された一部の処理が、デジタル信号処理ではなくアナログ信号処理によって実現されてもよい。
【0159】
また、例えば、上記実施の形態において、特定の処理部が実行する処理を別の処理部が実行してもよい。また、複数の処理の順序が変更されてもよいし、複数の処理が並行して実行されてもよい。
【0160】
また、本開示の全般的または具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの非一時的な記録媒体で実現されてもよい。また、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム及びコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0161】
例えば、本開示は、能動騒音低減装置(DSP)などのコンピュータが実行する騒音低減方法として実現されてもよいし、能動騒音低減方法をコンピュータ(DSP)に実行させるためのプログラムとして実現されてもよい。また、本開示は、上記実施の形態に係る能動騒音低減装置と、スピーカ(出音装置)と、マイクロフォン(集音装置)とを備える騒音低減システムとして実現されてもよい。
【0162】
また、上記実施の形態において説明された能動騒音低減装置の動作における複数の処理の順序は一例である。複数の処理の順序は、変更されてもよいし、複数の処理は、並行して実行されてもよい。
【0163】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態、または、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本開示の能動騒音低減装置は、例えば、車室内の騒音を低減する装置として有用である。
【符号の説明】
【0165】
10、10a、10b、10c 能動騒音低減装置
11 第1適応フィルタ
11a 正弦波生成部
11b 余弦波生成部
11c 第1フィルタ部
11d 第2フィルタ部
11e 加算部
11f 第1補正部
11g 第2補正部
11h 第1更新部
11i 第2更新部
12 帰還フィルタ
13 加算部
14 第1バンドエリミネーションフィルタ
14a 第2適応フィルタ
14b ゲイン調整部
14c 加算部
15 第1ゲイン調整部
16 第2バンドエリミネーションフィルタ
17 第2ゲイン調整部
18a、18b、18c 適応フィルタモジュール
50 車両
51 空間
52 スピーカ
53 マイクロフォン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19