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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146273
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】インクセット
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/40 20140101AFI20231004BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C09D11/40
B41M5/00 120
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053371
(22)【出願日】2022-03-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】高岳 駿介
(72)【発明者】
【氏名】安斎 康弘
(72)【発明者】
【氏名】南 和男
【テーマコード(参考)】
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2H186AB11
2H186BA08
2H186DA12
2H186FA01
2H186FA07
2H186FA18
2H186FB04
2H186FB15
2H186FB32
2H186FB36
2H186FB38
2H186FB44
2H186FB46
2H186FB48
2H186FB54
2H186FB56
4J039AD21
4J039BC20
4J039BC57
4J039BE01
4J039BE22
4J039BE27
4J039EA06
4J039EA15
4J039EA16
4J039EA17
4J039EA18
4J039EA19
4J039EA29
4J039EA42
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】視認性および階調性に優れ、色再現領域が広いインクセットを提供する。
【解決手段】シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクを少なくとも含むインクセットであって、各インクから形成される厚さ10μmの乾燥膜の隠蔽率(%)について、シアンインクの場合の隠蔽率をCh、マゼンタインクの場合の隠蔽率をMh、イエローインクの場合の隠蔽率をYhとした場合に、Ch、MhおよびYhが何れも10%以上であるとともに、以下の関係式(1)~(3)を全て満たすことを特徴とするインクセットである。
式(1) 0 ≦ |Ch-Mh| ≦ 25%
式(2) 0 ≦ |Mh-Yh| ≦ 25%
式(3) 0 ≦ |Yh-Ch| ≦ 25%
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクを少なくとも含むインクセットであって、各インクから形成される厚さ10μmの乾燥膜の隠蔽率(%)について、シアンインクの場合の隠蔽率をCh、マゼンタインクの場合の隠蔽率をMh、イエローインクの場合の隠蔽率をYhとした場合に、Ch、MhおよびYhが何れも10%以上であるとともに、以下の関係式(1)~(3)を全て満たすことを特徴とするインクセット。
式(1) 0 ≦ |Ch-Mh| ≦ 25%
式(2) 0 ≦ |Mh-Yh| ≦ 25%
式(3) 0 ≦ |Yh-Ch| ≦ 25%
【請求項2】
シアンインクから形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°が230°~270°の範囲であるとともに、マゼンタインクから形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°が26°~42°の範囲であり、イエローインクから形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°が75°~110°の範囲であり、前記シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクから形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°は白色下地の上で得られることを特徴とする、請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
シアンインクとマゼンタインクから1:1の体積比の混色で形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°が-20°~25°の範囲であるとともに、マゼンタインクとイエローインクから1:1の体積比の混色で形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°が43°~74°の範囲であり、イエローインクとシアンインクから1:1の体積比の混色で形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°が111°~160°の範囲であり、前記シアンインクとマゼンタインクから1:1の体積比の混色、マゼンタインクとイエローインクから1:1の体積比の混色およびイエローインクとシアンインクから1:1の体積比の混色で形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°は白色下地の上で得られることを特徴とする、請求項1または2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記Ch、Mh、およびYhが何れも55±25%の範囲内であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のインクセット。
【請求項5】
前記シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの1つ以上が白色顔料を含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のインクセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセットに関し、特には、視認性および階調性に優れ、色再現領域が広いインクセットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷の適用範囲は、印刷紙やフィルムだけでなく、立体物への加飾、屋外で長期的に耐えうる耐久性など、様々なメディアや用途への要求が高まっている。印刷物の意匠性を高めるために、色再現領域(ガマット)を広げる様々な手法が提案されている。
【0003】
特開2011-116876号公報(特許文献1)には、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ライトマゼンタインク、ライトシアンインク、オレンジインクおよびグリーンインクを備えるインクセットに関する発明が記載されている。特許文献1では、各インクに用いる顔料と特定の顔料種に限定することによって、色再現領域(ガマット)が拡大されたインクセット、特には、暗部のブルー領域の色再現領域が拡大されるとともに、他のカラー領域での色再現性にも優れたインクセットが提供することができると記載されている。また、特許文献1に記載のインクセットは、粒状性の目立ち易い高明度領域での粒状性にも優れたインクセットであることが記載されている。
【0004】
特開2014-159525号公報(特許文献2)には、少なくともマゼンタインク、シアンインクおよびイエローインクを含む活性エネルギー線硬化型インクジェット記録用インクセットに関する発明が記載されている。特許文献2では、各インクに使用される顔料のメジアン径の比を特定の範囲に設定することで、多次色の発色性、特にはオレンジ、グリーン、バイオレットの多次色の発色性に優れた活性エネルギー線硬化型インクジェット記録用インクセットを提供することができると記載されている。
【0005】
特開2015-218218号公報(特許文献3)には、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクおよびグリーンインクを含む建築材料用インクセットに関する発明が記載されている。特許文献3には、建築材料用インクは主に屋外で使用されるため、風雨や太陽光により、退色、変色を起こし、作製直後の色再現性が保持できない問題があり、耐候性の改良が求められていたこと、そして、マゼンタ無機顔料としてピグメントレッド101を用いることで耐候性を改良するとともに、グリーンインクを用いることで、ピグメントレッド101による色域の狭さを補填し、色再現性を向上させたことが記載されている。
【0006】
特開2021-6615号公報(特許文献4)には、少なくともシアンインキ、マゼンタインキ、イエローインキおよびグレーインキを含むシングルパス印刷用インキセットに関する発明が記載されている。特許文献4では、グレー色を再現する場合、粒状性の観点から、Kのみを用いて再現するよりもCMYの3色もしくはCMYKの4色を用いて再現することが好ましいが、CMYの3色を用いて再現すると、メタメリズムが起こる課題があったこと、そして、グレーインキを用いることで、シアン、マゼンタインキ及びイエローインキでグレー色を再現する場合と比較して、メタメリズムが改善され、また、ブラックのみでグレー色を再現する場合と比較して、粒状性が改善されることが記載されている。
【0007】
国際公開第2002/100959号(特許文献5)には、記録媒体上でのCIELAB色空間において定義される色相角∠H°が特定の範囲にあるイエロー、マゼンタおよびシアンの3色のインクに加えて、記録媒体上でのCIELAB色空間において定義される色相角∠H°が特定の範囲にある1種または2種の特色インクを備えるインクセットに関する発明が記載されている。特許文献5では、粒状性と光沢を向上させるためにインク中の顔料固形分を低減したYMCの3色のインクでは2次色の発色が顕著に低下するという課題があったところ、このような特色インクを用いることにより、粒状性と光沢の低下を招くことなく、彩度の再現範囲を広げることができると記載されている。
【0008】
また、インクジェット印刷の適用範囲のなかで、屋外で長期的に使用される物品への適用例として、窯業サイディング、金属サイディング、およびセラミックタイルなどの建築物資材用途が挙げられる。
【0009】
特開2013-49813号公報(特許文献6)には、特定の黒顔料を含むインクジェット用インクを用いてインク層を形成する工程を含む化粧建築材の製造方法に関する発明が記載されている。特許文献6では、特定の黒顔料を用いることで、日射された場合にも建材の温度上昇を抑制するとともに、耐久性の優れた化粧建築材を提供することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011-116876号公報
【特許文献2】特開2014-159525号公報
【特許文献3】特開2015-218218号公報
【特許文献4】特開2021-6615号公報
【特許文献5】国際公開第2002/100959号
【特許文献6】特開2013-49813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1および3~5に記載されるように、インクセットを構成するインクの色数を増やすことによって色再現領域を拡大することはできるものの、記録装置の初期導入費用の増大、プリントヘッド等の消耗部材の費用増大、更に、ライト色のインクを併用する場合にはCMYの3色のインクの場合と同等濃度の画像を得るために必要とされるインク量の著しい増大など、イニシャルコストとランニングコストの両方において大きなデメリットが存在する。
【0012】
また、特許文献1~3、5および6に記載されるように、顔料の種類や粒径、色相角を個別に選択する手法では、インクを混色する際に階調性の優れた印刷物は必ずしも得られない場合がある。特に、特許文献6では、発色性に優れる有機顔料と、発色性に乏しい無機顔料を用いたインクセットが開示されているが、このようなインクセットから色再現性、階調性に優れた印刷物を得ることは難しい。
【0013】
さらに、従来の有彩色インクは、隠蔽力が低く、光を透過する性質があるため、透明基材や白以外の着色基材へ印刷する際に、画像の視認性が要求される場合には、白インクやその他のベースコート層による隠蔽層を下地として設けて視認性を補う必要性があった。
【0014】
このため、より少ないインクの色数で広い色再現領域が得られ、幅広いメディアに対応できる手法が希求されている。
【0015】
そこで、本発明の目的は、視認性および階調性に優れ、色再現領域が広いインクセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討したところ、シアン、マゼンタおよびイエローの3色インクのそれぞれの隠蔽率を高くしつつ、インク間での隠蔽率の差を特定の範囲に抑えることで、透明基材や白以外の着色基材に対しても視認性に優れる印刷物が提供可能であるとともに、各色単独での発色性と混色時の階調性が向上し、色再現性に優れる印刷物も提供可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
したがって、本発明の1つの態様は、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクを少なくとも含むインクセットであって、各インクから形成される厚さ10μmの乾燥膜の隠蔽率(%)について、シアンインクの場合の隠蔽率をCh、マゼンタインクの場合の隠蔽率をMh、イエローインクの場合の隠蔽率をYhとした場合に、Ch、MhおよびYhが何れも10%以上であるとともに、以下の関係式(1)~(3)を全て満たすことを特徴とするインクセットである。
式(1) 0 ≦ |Ch-Mh| ≦ 25%
式(2) 0 ≦ |Mh-Yh| ≦ 25%
式(3) 0 ≦ |Yh-Ch| ≦ 25%
【0018】
本発明のインクセットの好適例においては、シアンインクから形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°が230°~270°の範囲であるとともに、マゼンタインクから形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°が26°~42°の範囲であり、イエローインクから形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°が75°~110°の範囲であり、前記シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクから形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°は白色下地の上で得られる。
【0019】
本発明のインクセットの他の好適例においては、シアンインクとマゼンタインクから1:1の体積比の混色で形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°が-20°~25°の範囲であるとともに、マゼンタインクとイエローインクから1:1の体積比の混色で形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°が43°~74°の範囲であり、イエローインクとシアンインクから1:1の体積比の混色で形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°が111°~160°の範囲であり、前記シアンインクとマゼンタインクから1:1の体積比の混色、マゼンタインクとイエローインクから1:1の体積比の混色およびイエローインクとシアンインクから1:1の体積比の混色で形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°は白色下地の上で得られる。
【0020】
本発明のインクセットの他の好適例においては、前記Ch、Mh、およびYhが何れも55±25%の範囲内である。
【0021】
本発明のインクセットの他の好適例においては、前記シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの1つ以上が白色顔料を含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、視認性および階調性に優れ、色再現領域が広いインクセットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明の1つの態様は、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクを少なくとも含むインクセットである。本明細書においては、このインクセットを「本発明のインクセット」とも称する。
【0025】
本発明のインクセットは、シアンインク(Y)、マゼンタインク(M)、イエローインク(Y)のCMYの3色のインクを少なくとも含むインクセットであるが、これに限定されるものではなく、ブラックインク(K)や、オレンジインク、グリーンインク、バイオレットインク、ライトシアンインク、ライトマゼンタインク等の特殊色インク、メタリックやパール等の光輝色インク、更には着色を目的としないクリヤインクといった別のインクを含んでもよい。
【0026】
本発明のインクセットは、各インクから形成される厚さ10μmの乾燥膜の隠蔽率(%)について、シアンインクの場合の隠蔽率をCh、マゼンタインクの場合の隠蔽率をMh、イエローインクの場合の隠蔽率をYhとした場合に、Ch、MhおよびYhが何れも10%以上であるとともに、以下の関係式(1)~(3)を全て満たす。
式(1) 0 ≦ |Ch-Mh| ≦ 25%
式(2) 0 ≦ |Mh-Yh| ≦ 25%
式(3) 0 ≦ |Yh-Ch| ≦ 25%
【0027】
本発明のインクセットによれば、シアン、マゼンタおよびイエローの3色インクという少ない色数でありながら、CMYの3色のインクそれぞれの隠蔽率を高くしつつ、インク間での隠蔽率の差を特定の範囲に抑えることで、透明基材や白以外の着色基材に対しても視認性に優れる印刷物が提供可能であるとともに、各色単独での発色性と混色時の階調性が向上し、色再現性に優れる印刷物も提供可能である。その結果、各種基材に対して、鮮やかな色調で、様々な意匠を施すことができる。
【0028】
本発明のインクセットにおいて、Ch、MhおよびYhは、何れも10%以上であり、20%以上であることが好ましい。隠蔽率を高めることで、発色性を向上させることができる。一方、隠蔽率が10%未満である場合、混色した際の色再現領域が小さくなる。また、隠蔽率が高すぎると、彩度が低下し、くすんだ色合いとなる他、インクジェットプリンターからインクを吐出させて混色表現を行う際、第一のインク液滴の上に第二のインク液滴が重なりあった場合に、第一のインク液滴が第二のインク液滴により第一のインク液滴の発色に影響を及ぼすほど隠蔽されると、混色の色再現性に優れない。このため、Ch、MhおよびYhは、何れも55±25%(30%~80%)の範囲内であることが好ましく、55±20%(35%~75%)の範囲内であることがより好ましく、55±15%(40%~70%)の範囲内であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明のインクセットにおいて、Ch、MhおよびYhは、関係式(1)~(3)を全て満たす。CMYの3色のインクにおいて隠蔽率の差が26%以上となる組み合わせがあると、混色表現が困難になることから、色再現領域が小さくなる。
【0030】
本発明のインクセットにおいて、Ch、MhおよびYhは、関係式(4)~(6)を全て満たすことが好ましい。
式(4) 0 ≦ |Ch-Mh| ≦ 23%
式(5) 0 ≦ |Mh-Yh| ≦ 23%
式(6) 0 ≦ |Yh-Ch| ≦ 23%
【0031】
本明細書において、乾燥膜の隠蔽率は、JIS K-5600-4-1:1999の方法B(隠蔽率試験紙)に従って測定される。具体的な測定例を以下に示す。
インクジェットプリンタを用いて隠蔽率試験紙の白地部分、黒地部分に単色ベタ画像を印刷した後、それぞれのL値を分光光度計によって測定し、両者の値の比をとることによって導き出される。
例:白地印刷部分のインク乾燥膜におけるL値をLw、黒地印刷部分のインク乾燥膜におけるL値をLbとするとき、以下の式(7)により乾燥膜の隠蔽率を求めることができる。
隠蔽率 (%) = 100 x Lb / Lw・・・式(7)
なお、隠蔽率を測定する際のインク乾燥膜厚は10μmとする。
本明細書においては以下に示す方法でインク乾燥膜を作製する。
(例)インクジェットプリンタ(例えば、KM1024-LHBヘッド(液滴42pl、コニカミノルタ社製)を搭載したインクジェットプリンタ)を用いて、CMY各単色ベタ画像(解像度360×360 dpi)を隠蔽率試験紙上の白地部分、黒地部分に印刷する。その後、メタルハライドランプを用いてインクを硬化させ、インク乾燥膜を得る。インク乾燥膜の膜厚をマイクロメーター(例えば、MDC-25MJ、株式会社ミツトヨ製)で測定する。
【0032】
シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの隠蔽率を調整する手段としては、顔料種の選択や顔料粒径の選定等が挙げられる。各インクに含まれる顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、隠蔽率を高める手段としては、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクに白色顔料を用いることも有効である。特にシアンインクやイエローインクは隠蔽率を確保することが困難である場合も多いことから、白色顔料を用いることが好ましい。
【0033】
本発明で使用する顔料は、通常インクジェットインクに使用される顔料であれば特に限定はなく公知のものを使用することができる。
【0034】
シアンインクに使用する顔料としては、C.I.Pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:5、15:6、16、17:1、24、24:1、25、26、27、28、29、36、56、60、61、62、63、75、79、80等が挙げられる。
これらの中でも、高い着色性あるいは耐候性を有し、かつ隠蔽率を高める観点において好ましい顔料としては、C.I.Pigment Blue 15:3、15:4、28等が挙げられる。
【0035】
マゼンタインクに使用する顔料としては、C.I.Pigment Red 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、31、32、38、41、48、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49、52、52:1、52:2、53:1、54、57:1、58、60:1、63、64:1、68、81:1、83、88、89、95、101、104、105、108、112、114、119、122、123、136、144、146、147、149、150、164、166、168、169、170、171、172、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、187、188、190、193、194、200、202、206、207、208、209、210、211、213、214、216、220、220、221、224、226、237、238、239、242、245、247、248、251、253、254、255、256、257、258、260、262、263、264、266、268、269、270、271、272、279、282等が挙げられる。
これらの中でも、高い着色性あるいは耐候性を有し、かつ隠蔽率を高める観点において好ましい顔料としては、C.I.Pigment Red 101等が挙げられる。
【0036】
イエローインクに使用する顔料としては、C.I.Pigment Yellow 1、2、3、4、5、6、7、9、10、12、13、14、15、16、17、24、32、34、35、36、37、41、42、43、49、53、55、60、61、62、63、65、73、74、75、77、81、83、87、93、94、95、97、98、99、100、101、104、105、106、108、109、110、111、113、114、116、117、119、120、123、124、126、127、128、129、130、133、138、139、150、151、152、153、154、155、165、167、168、169、170、172、173、174、175、176、179、180、181、182、183、184、185、191、193、194、199、205、206、209、212、213、214、215、219等が挙げられる。
これらの中でも、高い着色性あるいは耐候性を有し、かつ隠蔽率を高める観点において好ましい顔料としては、C.I.Pigment Yellow 42、120、138、150、151、155、184、213等が挙げられる。
【0037】
本発明のインクセットにおいては、上述した好ましい顔料に限定されず、別の顔料をシアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクに使用することも可能である。
【0038】
シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクには、有機顔料と無機顔料のいずれも使用できるが、耐候性に優れることから、無機顔料を用いることが好ましい。
【0039】
シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクのそれぞれのインク中における顔料の量は、例えば5~25質量%であり、好ましくは6~20質量%である。顔料の量が少ないと優れた隠蔽性を有する顔料であっても、充分な隠蔽性を発揮できず、色再現性に難がある場合がある。また、顔料の量が多いと隠蔽性が高くなりすぎ、混色の色再現性に難を生じる場合がある。
【0040】
本発明のインクセットにおいて、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクの1つ以上が白色顔料を含むことが好ましい。白色顔料は、隠蔽率を高める観点から好ましい。また、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクが無機顔料を含む場合、特にシアンインクおよびイエローインクが無機顔料を含む場合に白色顔料を併用することが好ましい。白色顔料としては、酸化チタン、硫化亜鉛等の無機顔料が挙げられる。シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクのそれぞれのインク中における白色顔料の量は、例えばインク中に含まれる顔料全量の内、1~25質量%であり、好ましくは5~15質量%である。白色顔料が少ないと充分な隠蔽性の向上を得ることができない。また、白色顔料が多いと隠蔽性が高くなりすぎる他、インクの色味に対しても影響を及ぼす。
【0041】
白色顔料としては、C.I.Pigment White 1、2、4、5、6、7、11、12、18、19、21、22、23、26、27、28、中空粒子等が挙げられる。
これらの中でも、隠蔽率を高める観点から好ましい顔料としては、C.I.Pigment White 6等が挙げられる。
【0042】
シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクに使用される顔料の平均分散粒子径D50は、20~500nmの範囲内であることが好ましく、30~450nmの範囲内であることがより好ましく、40~400nmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0043】
シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクのそれぞれのインク中における白色顔料の平均分散粒子径D50は、50~400nmの範囲内であることが好ましく、80~350nmの範囲内であることがより好ましく、100~300nmであることが更に好ましい。
【0044】
本明細書において、顔料の平均分散粒子径D50は、インク中に分散している顔料の体積基準粒度分布の50%粒子径(D50)を指し、粒度分布測定装置(例えばレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置)を用いて測定される粒度分布から求めることができる。粒子径は、レーザ回折・散乱法による球相当径で表される。
【0045】
本発明のインクセットにおいて、CIE(1976)L色空間で表されるシアンインクのL値は50~85の範囲内であることが好ましく、マゼンタインクのL値は40~75の範囲内であることが好ましく、イエローインクのL値は50~90の範囲内であることが好ましい。Lは色の輝度(明度)を示し、L=0の場合は黒を表し、L=100は白を表す。上記L値は例えば隠蔽率試験紙の白地部分上で得られる。各インクのL値が上記特定した範囲内にあると、各色間における明暗のバランスがとれ、淡色~濃色の混色表現に優れる。なお、aおよびbは色相と彩度を示す色度を示す。aは、色の赤と緑の間における位置を表し、負の値は緑を示し、正の値は赤を示す。bは、色のイエローと青の間における位置を表し、負の値は青を示し、正の値はイエローを示す。
【0046】
値以外の値について一例を挙げると、シアンインクのa値およびb値はそれぞれ-1~-23および-48~-18であり、マゼンタインクのa値およびb値はそれぞれ25~65および-13~58であり、イエローインクのa値およびb値はそれぞれ-20~8および38~88であり、上記a値およびb値は、例えば隠蔽率試験紙の白地部分上で得られる。
【0047】
シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクのLを調整する手段としては、顔料種の選択等が挙げられる。特に、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクのL値を上記特定した範囲に調整する手段としては、顔料種の選択の他に顔料の平均分散粒子径の調整、インク中における顔料濃度の調整、白色顔料の併用等が挙げられる。
【0048】
本明細書において、インクのL*値、a*値、及びb*値は、JIS Z 8781-4:2013に規定されるとおり、CIE(1976)L色空間において、特定の式によって計算される色座標であり、当技術分野で通常使用される方法によって特に制限されることなく測定することができ、例えば、分光光度計(例えば、SpectroEye、X-Rite社製)を用いて測定することができる。
【0049】
本発明のインクセットにおいて、シアンインクから形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°は、230°~270°の範囲内であることが好ましく、235°~270°の範囲内であることがより好ましく、235°~265°の範囲内であることがさらに好ましい。また、マゼンタインクから形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°は、26°~42°の範囲内であることが好ましく、28°~42°の範囲内であることがより好ましく、30°~42°の範囲内であることがさらに好ましい。イエローインクから形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°は、75°~110°の範囲内であることが好ましく、78°~110°の範囲内であることがより好ましく、78°~108°の範囲内であることがさらに好ましく、上記色相角∠H°は、例えば隠蔽率試験紙の白地部分上で得られる。各インクの色相角∠H°を上記特定した範囲内にすることで、単色および混色の色再現性を向上させることが容易になる。
【0050】
シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクから形成される乾燥膜の色相角を調整する手段としては、顔料種の選択、顔料粒径の調整、インク中における顔料濃度の調整等が挙げられる。
【0051】
本明細書において、インクから形成される乾燥膜の色相角∠H°は、CIELAB 1976 ab色相角,hab(CIE 1976 a,b hue-angle)とも称され、JIS Z 8781-4:2013に規定されるとおり、CIE(1976)L色空間において、4.2の式(11)によって計算される色相の相関量であり、例えば、上記のようにして求めたインクのa*値およびb*値から求めることができる。また、混色で形成される乾燥膜の色相角∠H°も上記と同様の方法で求めることができる。
【0052】
本発明のインクセットにおいて、シアンインクとマゼンタインクから1:1の体積比の混色で形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°が-20°~25°の範囲内であることが好ましく、-15°~25°の範囲内であることがより好ましく、-10°~25°の範囲内であることがさらに好ましい。また、マゼンタインクとイエローインクから1:1の体積比の混色で形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°は、43°~74°の範囲内であることが好ましく、43°~70°の範囲内であることがより好ましく、43°~68°の範囲内であることがさらに好ましい。イエローインクとシアンインクから1:1の体積比の混色で形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角∠H°は、111°~160°の範囲内であることが好ましく、111°~159°の範囲内であることがより好ましく、111°~158°の範囲内であることがさらに好ましい。上記色相角∠H°は、例えば隠蔽率試験紙の白地部分上で得られる。混色で形成される乾燥膜の色相角∠H°が上記特定した範囲内にあると、混色の色再現性に優れる印刷物を得ることができる。
ここで、混色とは、単色ベタ画像を重ねて印刷を行う手法を意味する。例えば、シアンインクとマゼンタインクから1:1の体積比の混色で形成される乾燥膜とは、体積比1:1で、シアンインクから印刷される単色ベタ画像と、マゼンタインクから印刷される単色ベタ画像とを重ねて印刷することにより得られる乾燥膜を指す。
【0053】
シアンインクとマゼンタインク、マゼンタインクとイエローインク、およびイエローインクとシアンインクを混色した際に形成される乾燥膜の色相角を調整する手段としては、顔料種の選択、インク中における顔料濃度の調整等が挙げられる。
【0054】
次に、本発明のインクセットに使用できるインクの好ましい実施形態について説明する。ここで説明される内容は、特段の記載がない限り、上述したシアンインク、マゼンタインクおよびイエローインク、さらには使用され得る別のインクのいずれにも当てはまることである。
【0055】
本発明に使用されるインクは、液滴吐出タイプの印刷装置での印刷のためのインクであることが好ましく、インクジェットインクであることが特に好ましいものの、これに限定されず、グラビア印刷方式、オフセット印刷方式、フレキソ印刷方式、スクリーン印刷方式、コーター方式等の各種印刷方法によって行うことも可能である。
【0056】
液滴吐出タイプの印刷装置とは、印刷装置(特にはプリントヘッド)からインクの液滴を吐出し、基材へ着弾させる方式の印刷装置であり、インクジェットプリンタ等が挙げられる。なお、本明細書において、インクジェットインクとは、インクジェットプリンタに用いられるインクを意味する。
【0057】
インクジェットプリンタとしては、例えば、荷電制御方式又はピエゾ方式によりインク組成物を噴出させるインクジェットプリンタが挙げられる。また、大型インクジェットプリンタ、具体例としては工業ラインで生産される物品への印刷を目的としたインクジェットプリンタも好適に使用できる。
【0058】
本発明に使用されるインクは、紫外線、可視光線、電子線等の活性エネルギー線の照射により硬化させることができるインクであることが好ましい。このようなインクは、一般に「活性エネルギー線硬化型インク」と称される。また、活性エネルギー線硬化型インクを備えるインクセットを「活性エネルギー線硬化型インクセット」と称する場合もある。
【0059】
本発明に使用されるインクは、重合性化合物および光重合開始剤を含むことが好ましい。
【0060】
重合性化合物は、ラジカル重合性を示す官能基(例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基またはアリル基を構成する炭素-炭素二重結合等の光重合性不飽和基)を介して重合反応を起こす化合物である。ラジカル重合性を示す炭素-炭素二重結合は「エチレン性不飽和二重結合」とも称される。重合性化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
重合性化合物は、単官能重合性化合物または多官能重合性化合物に分類される。ここで、単官能重合性化合物としては、ラジカル重合性を示す官能基を1つ有する単官能重合性モノマー(例えば1つの重合性不飽和基を有する単官能重合性モノマー)やラジカル重合性を示す官能基を1つ有する単官能重合性オリゴマー(例えば、1つの重合性不飽和基を有する単官能重合性オリゴマー)等が挙げられる。多官能重合性化合物としては、ラジカル重合性を示す官能基を2つ以上有する多官能重合性モノマー(例えば2つ以上の重合性不飽和基を有する多官能重合性モノマー)やラジカル重合性を示す官能基を2つ以上有する多官能重合性オリゴマー(例えば、2つ以上の重合性不飽和基を有する多官能重合性オリゴマー)等が挙げられる。
【0062】
本発明に使用されるインクは、インク中に含まれる単官能重合性化合物の量(質量%)をAとし、インク中に含まれる多官能重合性化合物の量(質量%)をBとする場合、0.03≦B/A≦0.30であり、かつ、50質量%≦A+B≦95質量%であることが好ましい。重合性化合物の全量が50~95質量%であるインクにおいて、単官能重合性化合物に対する多官能重合性化合物の割合を0.30以下とすることで、膜の硬化収縮を抑えることができ、膜自体の付着性を向上させることができる。これにより、さまざまな基材や塗膜への付着性を確保することができる。さらに、インク中に含まれる単官能重合性化合物と多官能重合性化合物の量を上記特定した割合とすることで、硬化性や膜強度を確保することもできる。ここで、B/Aは、0.10~0.30であることが好ましい。また、A+Bは、60~95質量%であることが好ましい。
【0063】
インク中に含まれる重合性化合物は、平均官能基数が1.2以下であることが好ましく、1.05~1.2であることが更に好ましい。系全体における反応点の数を減らして硬化収縮を抑えつつ、適度な架橋構造をもたせて膜強度を確保するため、最適な反応点の数と架橋密度を検討した結果、インク中に含まれる重合性化合物の平均官能基数が1.2以下、特には1.05~1.2であると、膜の硬化収縮を抑える効果が高く、膜自体の付着性を大幅に向上でき、かつ膜強度を保持することができる。これにより、さまざまな基材や塗膜への付着性と膜強度を確保することができる。
【0064】
本明細書において、インク中に含まれる重合性化合物の平均官能基数は、以下のように算出することができる。
平均官能基数=〔重合性化合物に含まれる全エチレン性不飽和二重結合数〕/〔重合性化合物の全分子数〕 ・・・計算式(1)
ここで、計算式(1)における「重合性化合物に含まれる全エチレン性不飽和二重結合数」については、重合性化合物の1分子当たりのエチレン性不飽和二重結合の数に、当該重合性化合物の全分子数を乗じて計算される。インク中に重合性化合物が複数種類配合される場合においては、その種類毎にエチレン性不飽和二重結合数を計算し、それらを合計した全てのエチレン性不飽和二重結合の数のことを言う。
(重合性化合物の平均官能基数の求め方の例)
重合性化合物の全量を100質量部とする。
重合性化合物A:エチレン性不飽和二重結合数=1、分子量X、30質量部
重合性化合物B:エチレン性不飽和二重結合数=2、分子量X、70質量部
平均官能基数={(1×30/X)+(2×70/X)}/{(30/X)+(70/X)}
【0065】
平均官能基数を1.05~1.2とするためエチレン性不飽和二重結合当量の大きな多官能重合性化合物を用いることが有用である。エチレン性不飽和二重結合当量とは分子量を1分子内に含有するエチレン性不飽和二重結合数で割った値のことである。エチレン性不飽和二重結合が(メタ)アクリロイル基に由来する場合は「アクリル当量」とも称される。一般的にこの値が大きいほど架橋点間が広がり、架橋密度が下がるため、結果として硬化収縮の低減に寄与できる。
【0066】
インク中に含まれる重合性化合物は、単官能重合性化合物を55~85質量%含むことが好ましい。重合性化合物全体に対する単官能重合性化合物の量が55質量%以上であると、付着性や可撓性を向上させることができる。また、単官能重合性化合物の割合が高すぎると、膜強度や硬化性が低下することから、重合性化合物全体に対する単官能重合性化合物の割合は85質量%以下であることが好ましい。
【0067】
インク中に含まれる重合性化合物は、分子量300~1500の2官能重合性化合物を1~20質量%、特には3~20重量%含むことが好ましい。付着性と硬化性を両立させる観点から、ラジカル重合性を示す官能基を2つ有する重合性化合物(2官能重合性化合物)を用いることが好ましい。また、硬化収縮を抑える観点から、分子量がある程度高い重合性化合物を用いることが好ましく、2官能重合性化合物の分子量は、300~1500が好ましく、300~1300が更に好ましい。重合性化合物全体に対する分子量300~1500の2官能重合性化合物の量は5~20質量%であることが更に好ましい。
【0068】
本明細書において、重合性化合物がオリゴマーである場合、その分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定されるポリスチレン換算した重量平均分子量として測定することができる。
【0069】
2官能重合性化合物としては、2官能重合性モノマーおよび2官能重合性オリゴマーが挙げられる。インク中の2官能重合性化合物の量は、3~25質量%であることが好ましく、5~23質量%であることが更に好ましい。
【0070】
本発明に使用されるインクは、ヘテロ環骨格を有する重合性化合物を含むことが好ましい。ヘテロ環骨格を有する重合性化合物を用いることで、硬化性を向上させることができる。また、ヘテロ環骨格を有する重合性化合物は、窒素含有重合性化合物であることが好ましく、ヘテロ環骨格が窒素原子を含む重合性化合物であることが更に好ましい。特に、ヘテロ環骨格を有する重合性化合物としての窒素含有重合性化合物は、硬化時の酸素による重合阻害を低減する効果が高く、インクの硬化性を向上させることができる。インク中におけるヘテロ環骨格を有する重合性化合物の量は、1~10質量%であることが好ましい。
【0071】
本発明に使用されるインクは、水酸基を有する重合性化合物を含むことが好ましい。水酸基を有する重合性化合物を用いることで、水酸基を介した水素結合や化学結合により基材との付着性、膜強度を向上させることができる。また、ヘテロ環骨格を有する重合性化合物と同様、硬化時に酸素阻害を低減する効果があり、硬化性の向上が期待できる。また、本発明の一実施形態において、インクは、水酸基を有する重合性化合物と後述するシラン化合物の少なくとも一方を含み、水酸基を有する重合性化合物とシラン化合物の両方を含むことが好ましい。インク中における水酸基を有する重合性化合物の量は1~10質量%であることが好ましい。
【0072】
本発明に使用されるインクは、ケイ素原子を有する重合性化合物を含むことが好ましく、下記構造式(1)で表される重合性化合物を含むことが更に好ましい。シラン化合物としてケイ素原子を有する重合性化合物を用いることで、基材との付着性を向上させることができる。特に、構造式(1)で表される重合性化合物は、付着性の向上効果に優れる。インク中において、ケイ素原子を有する重合性化合物の量は1~5質量%であることが好ましい。
【化1】
〔構造式(1)中、nは1~3であり、Yはメトキシ基またはエトキシ基であり、RはC3より選ばれるアルキレン基であり、Zは(メタ)アクリロキシ基である。〕
【0073】
重合性化合物は、P.I.I.値の加重平均が2.00未満であることが好ましい。P.I.I.とは、Primary Irritation Indexの略であり、一次皮膚刺激性インデックス等と訳される。一次皮膚刺激性(P.I.I.)が高いほど皮膚に化学的な刺激をもたらすことを示し、症状としてかぶれ等が生じやすくなる。そのため、作業環境や従事者にとって危険で扱いにくいものとなり得る。また、一次皮膚刺激性の高いモノマーが硬化過程後にも膜中に残留することで問題となる場合もある。よって、できるだけP.I.I.が低い安全なインク設計が望まれる。抗菌製品技術協議会(SIAA)では、刺激反応を認めない、または弱い刺激性程度(P.I.I.(一次刺激性指数):2.00未満)であることが安全性の基準として挙げられている。
【0074】
重合性化合物のP.I.I.値の加重平均の求め方は、以下のとおりである。
重合性化合物A:P.I.I.=P、質量比=T
重合性化合物B:P.I.I.=P、質量比=T
P.I.I.の加重平均=P×T+P×T ・・・計算式(2)
【0075】
単官能重合性モノマーの具体例としては、イソアミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2-(2’-ビニルオキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマル(メタ)アクリレート、γ-ブチロラクトン(メタ)アクリレート、N-ビニルカプロラクタム、N-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、1-(メタ)アクリロイルピロリジン-2-オン、1-(メタ)アクリロイルピペリジン-2-オン、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルイミダゾール、ジメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N-n-ブトキシメチルアクリルアミド、N-イソブトキシメチルアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシブチルフェニルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジエチルメトキシシランβ-(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、β-(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、ポリオキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシブチレンモノ(メタ)アクリレート等や、これらをアルキレングリコールで変性したものが挙げられる。これらの中でも、アルキル鎖やアルキレングリコール鎖を伸長した単官能重合性モノマーは、鎖の伸長前と比較して分子量増大により臭気が低減されるため好ましい。
【0076】
多官能重合性モノマーのうち、ラジカル重合性を示す官能基を2つ有する多官能重合性モノマー(2官能重合性モノマー)の具体例としては、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7-ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-メチル-1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、PO(プロピレンオキシド)変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0077】
ラジカル重合性を示す官能基を3つ以上有する多官能重合性モノマー(3官能以上の多官能重合性モノマー)の具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、EO変性ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、EO変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0078】
本明細書において、(メタ)アクリレートの用語は、メタクリレートまたはアクリレートを意味する。例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートは、2-ヒドロキシエチルアクリレートまたは2-ヒドロキシエチルメタクリレートである。また、ジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレート等のように、複数であることを示す接頭語が(メタ)アクリレートに付されている場合、各(メタ)アクリレートは同一でも異なっていてもよい。
【0079】
重合性オリゴマーは、好ましくはアクリルオリゴマーである。アクリルオリゴマーとは、ラジカル重合性を示す官能基としてアクリロイル基またはメタクリロイル基を有するオリゴマーである。
【0080】
重合性オリゴマーは、好ましくは多官能重合性オリゴマー、より好ましくは多官能アクリルオリゴマーである。重合性オリゴマーの官能基数は2~6であることが好ましく、重合性オリゴマーの分子量は800~20000であることが好ましい。重合性オリゴマーの分子量は、ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0081】
アクリルオリゴマーの具体例としては、ポリウレタンアクリルオリゴマー[ウレタン結合(-NHCOO-)を複数持つアクリルオリゴマー]、ポリエステルアクリルオリゴマー[エステル結合(-COO-)を複数持つアクリルオリゴマー]、ポリアミノアクリルオリゴマー[アミノ基(-NH)を複数持つアクリルオリゴマー]、ポリエポキシアクリルオリゴマー[エポキシ基を複数持つアクリルオリゴマー]、シリコーンアクリルオリゴマー[シロキサン結合(-SiO-)を複数持つアクリルオリゴマー]、ポリブタジエンアクリルオリゴマー[ブタジエン単位を複数持つアクリルオリゴマー]等が挙げられる。
【0082】
また、アクリルオリゴマーとして、以下のものが知られている。
ビームセット502H、ビームセット505A-6、ビームセット550B、ビームセット575、ビームセットAQ-17(荒川化学工業社製)、
AH-600、UA-306H、UA-306T、UA-306I、UA-510H、UF-8001G(共栄社化学社製)、
CN910、CN959、CN963、CN964、CN965NS、CN966NS、CN969NS、CN980NS、CN981NS、CN982、CN983NS、CN985、CN991NS、CN996NS、CN2920、CN2921、CN8881NS、CN8883NS、CN9001NS、CN9004、CN9005、CN9009、CN9011、CN9021NS、CN9023、CN9028、CN9030、CN9178NS、CN9290、CN9893NS、CN929、CN989NS、CN968NS、CN9006NS、CN9010NS、CN9025、CN9026、CN9039、CN9062、CN9110NS、CN9029、CN8885NS、CN9013NS、CN973、CN978NS、CN992、CN9167、CN9782、CN9783、CN970、CN971、CN972、CN975NS、CN9165(サートマー社製)、
U-2PPA、U-6LPA、U-10HA、U-10PA、UA-1100H、U-15HA、UA-53H、UA-33H、U-200PA、UA-200PA、UA-160TM、UA-290TM、UA-4200、UA-4400、UA-122P(新中村化学工業社製)、
ニューフロンティアR-1235、R-1220、RST-201、RST-402、R-1301、R-1304、R-1214、R-1302XT、GX-8801A、R-1603、R-1150D(第一工業製薬社製)、
EBECRYL204、EBECRYL205、EBECRYL210、EBECRYL215、EBECRYL220、EBECRYL230、EBECRYL244、EBECRYL245、EBECRYL264、EBECRYL265、EBECRYL270、EBECRYL280/15IB、EBECRYL284、EBECRYL285、EBECRYL294/25HD、EBECRYL1259、EBECRYL1290、KRM8200、EBECRYL4820、EBECRYL4858、EBECRYL5129、EBECRYL7100、EBECRYL8210、EBECRYL8254、EBECRYL8301R、EBECRYL8307、EBECRYL8402、EBECRYL8405、EBECRYL8411、EBECRYL8465、EBECRYL8800、EBECRYL8804、EBECRYL8807、EBECRYL9260、EBECRYL9270、EBECRYL7735、EBECRYL8296、EBECRYL8452、EBECRYL8904、EBECRYL8311、EBECRYL8701、EBECRYL8667(ダイセル・オルネクス社製)、
UV-1700B、UV-6300B、UV-7550B、UV-7600B、UV-7605B、UV-7610B、UV-7630B、UV-7640B、UV-7650B、UV-6630B、UV-7000B、UV-7510B、UV-7461TE、
UV-2000B、UV-2750B、UV-3000B、UV-3200B、UV-3300B、UV-3310B、UV-3700B、UV6640B(日本合成化学社製)、
アートレジンUN-333、UN-350、UN-1255、UN-2600、UN-2700、UN-5590、UN-6060PTM、UN-6200、UN-6202、UN-6300、UN-6301、UN-7600、UN-7700、UN-9000PEP、UN-9200A、UN-3320HA、UN-3320HC、UN-904、UN-906S(根上工業社製)、
アロニックスM-6100、M-6250、M-6500、M-7100、M-7300K、M-8030、M-8060、M-8100、M-8530、M-8560、M-9050(東亜合成社製)
【0083】
水酸基を有する重合性化合物の具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシキプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート等が挙げられる。この他にも、水酸基を有する重合性化合物には熱分解によって水酸基を発生する重合性化合物も含まれ、N-メチロールアクリルアミド等が挙げられる。また、水酸基を有する重合性化合物は、合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0084】
ケイ素原子を有する重合性化合物の具体例としては、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、β-(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、β-(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシブチルフェニルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン等が挙げられる。これらの中で、構造式(1)で表される重合性化合物としては、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン等が挙げられる。
【0085】
ヘテロ環骨格を有する重合性化合物の具体例としては、N-アクリロイルモルホリン、N-メタクリロイルモルホリン、γ-ブチロラクトン(メタ)アクリレート、N-ビニルカプロラクタム、N-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、N-メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、1-アクリロイルピロリジン-2-オン、1-メタクリロイルピロリジン-2-オン、1-アクリロイルピペリジン-2-オン、1-メタクリロイルピペリジン-2-オン、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルイミダゾール、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、窒素を含有するものが好ましく、N-アクリロイルモルホリンが特に好ましい。
【0086】
光重合開始剤は、活性エネルギー線が照射されることによって、上述した重合性化合物の重合を開始させる作用を有する。光重合開始剤の量は、インク中1~15質量%であることが好ましく、1~12質量%であることが更に好ましく、1~10質量%であることが一層好ましい。重合開始剤の含有量が1質量%未満では、膜が硬化不良となることがあり、15質量%を超えると、低温時に析出物が発生してインクの吐出が不安定になることがある。更に、重合開始剤の開始反応を促進させるため、光増感剤等の助剤を併用することも可能である。
【0087】
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、アシルホスフィンオキシド系化合物等が挙げられるが、硬化性の観点から、照射する活性エネルギー線の波長と光重合開始剤の吸収波長ができるだけ重複するものが好ましい。特に、光重合開始剤は、硬化時の着色や厚膜時の硬化性の観点から、アシルホスフィンオキシド系開始剤を含むことが好ましい。光重合開始剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
光重合開始剤については、異なる波長域の開始剤を2種類以上用いることが好ましい。これにより、化合物の重合性が向上できる。また、開裂点が2点のものと1点のものを組み合わせることで、開始ラジカル濃度が増大し、さらに重合性、硬化度が向上できる。
【0089】
アシルホスフィンオキシド系開始剤としては、モノアシルホスフィンオキシド系開始剤とビスアシルホスフィンオキシド系開始剤とを併用することが好ましい。ここで、モノアシルホスフィンオキシド系開始剤(C)とビスアシルホスフィンオキシド系開始剤(D)との質量比(C:D)は、1:1~5:1であることが特に好ましい。
【0090】
光重合開始剤の具体例としては、
2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、
1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、
2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、
ベンゾフェノン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン等が挙げられる。
【0091】
これらの中でも、インクの硬化性の観点から、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、及び2,4-ジエチルチオキサントンが好ましく、更には硬化時の着色や厚膜時の硬化性の観点から、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、及び2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイドが好ましく、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイドが特に好ましい。
【0092】
本発明に使用されるインクは、シランカップリング剤を含むことが好ましく、下記構造式(2)で表されるシランカップリング剤を含むことが更に好ましい。シラン化合物としてシランカップリング剤を用いることで、基材との付着性を向上させることができる。また、構造式(2)で表されるシラン化合物は、更に顔料分散性にも優れ、インクの保存安定性を向上できる。インク中において、シランカップリング剤の量は1~10質量%であることが好ましい。シランカップリング剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化2】
〔構造式(2)中、nは1~3であり、Yはメトキシ基またはエトキシ基であり、RはC3より選ばれるアルキレン基であり、Xはグリシドキシ基またはエポキシシクロヘキシル基である。〕
なお、エポキシシクロヘキシル基とは、シクロヘキシル環を構成する2つの炭素原子と酸素原子でエポキシ基を形成しているシクロヘキシル基であり、エポキシ環とシクロヘキシル環の縮合環構造を有する基である。
【0093】
シランカップリング剤の具体例としては、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピル(エチル)ジメトキシシラン、β-3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、β-3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルメチルジメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ビニルベンジル-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-8-アミノオクチルトリメトキシシラン、γ-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン等のアミノ基含有シランカップリング剤等が挙げられる。
【0094】
これらの中で、構造式(2)で表されるシランカップリング剤としては、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン等が挙げられる。
【0095】
本発明に使用されるインクは、シラン化合物を含むことが好ましい。シラン化合物を用いることで、基材との付着性や顔料の分散性を向上させることができる。本発明の一実施形態において、インクは、シラン化合物と前述の水酸基を有する重合性化合物の少なくとも一方を含み、シラン化合物と水酸基を有する重合性化合物の両方を含むことが好ましい。インク中において、シラン化合物の量は0.5~10質量%であることが好ましい。シラン化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
シラン化合物としては、例えば、ケイ素原子を有する重合性化合物、好ましくは構造式(1)で表される重合性化合物、シランカップリング剤、好ましくは構造式(2)で表されるシランカップリング剤等が挙げられる。
【0097】
本発明に使用されるインクは、シラン化合物として、構造式(1)で表される重合性化合物と構造式(2)で表されるシランカップリング剤の少なくとも一方を含むことが好ましく、構造式(1)で表される重合性化合物と構造式(2)で表されるシランカップリング剤の両方を含むことが更に好ましい。構造式(1)で表される重合性化合物と構造式(2)で表されるシランカップリング剤を併用する場合、構造式(1)で表される重合性化合物(E)と構造式(2)で表されるシランカップリング剤(F)との質量比(E:F)は、1:2~2:1であることが特に好ましい。
【0098】
本発明に使用されるインクは、染料や顔料等の色材を含有してもよいが、その場合は、耐候性の観点から、顔料、特には無機顔料を含有することが好ましい。色材の含有量は、例えばインク中1~20質量%である。色材は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。ここで、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクについては、インクの隠蔽率等を調整する観点から、顔料種の選択が行われることが好ましい。
【0099】
本発明に使用されるインクは、顔料を分散させるために、必要に応じて分散剤を更に含有してもよい。分散剤の含有量は、例えばインク中0.1~5質量%である。分散剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0100】
分散剤は、塩基価30~70mgKOH/gおよび/または酸価10~150mgKOH/gの分散剤を含むことが好ましい。このような塩基価および/または酸価を有する分散剤を用いることによって、顔料の分散安定性を向上させることができる。
【0101】
本明細書において、「塩基価」は、「アミン価」とも称され、試料1g中に含まれている塩基性成分を中和するのに要する塩酸又は過塩素酸と当量の水酸化カリウムのミリグラム数(単位:mgKOH/g)のことをいい、JIS K2501:2003で定められた方法によって測定することができる。また、「酸価」は、試料1g中に存在する酸性成分を中和するのに必要な水酸化カリウムのミリグラム数(単位:mgKOH/g)のことをいい、JIS K2501:2003で定められた方法によって測定することができる。
【0102】
顔料分散剤の具体例としては、
ANTI-TERRA-U、ANTI-TERRA-U100、
ANTI-TERRA-204、ANTI-TERRA-205、
DISPERBYK-101、DISPERBYK-102、
DISPERBYK-103、DISPERBYK-106、
DISPERBYK-108、DISPERBYK-109、
DISPERBYK-110、DISPERBYK-111、
DISPERBYK-112、DISPERBYK-116、
DISPERBYK-130、DISPERBYK-140、
DISPERBYK-142、DISPERBYK-145、
DISPERBYK-161、DISPERBYK-162、
DISPERBYK-163、DISPERBYK-164、
DISPERBYK-166、DISPERBYK-167、
DISPERBYK-168、DISPERBYK-170、
DISPERBYK-171、DISPERBYK-174、
DISPERBYK-180、DISPERBYK-182、
DISPERBYK-183、DISPERBYK-184、
DISPERBYK-185、DISPERBYK-2000、
DISPERBYK-2001、DISPERBYK-2008、
DISPERBYK-2009、DISPERBYK-2020、
DISPERBYK-2025、DISPERBYK-2050、
DISPERBYK-2070、DISPERBYK-2096、
DISPERBYK-2013、DISPERBYK-2150、
DISPERBYK-2155、DISPERBYK-2163、
DISPERBYK-2164、
BYK-P104、BYK-P104S、BYK-P105、
BYK-9076、BYK-9077、BYK-220S、BYKJET-9150、BYKJET-9151(以上、ビックケミー・ジャパン社製)、
Solsperse3000、Solsperse5000、
Solsperse9000、Solsperse11200、
Solsperse13240、Solsperse13650、
Solsperse13940、Solsperse16000、
Solsperse17000、Solsperse18000、
Solsperse20000、Solsperse21000、
Solsperse24000SC、Solsperse24000GR、
Solsperse26000、Solsperse27000、
Solsperse28000、Solsperse32000、
Solsperse32500、Solsperse32550、
Solsperse32600、Solsperse33000、
Solsperse34750、Solsperse35100、
Solsperse35200、Solsperse36000、
Solsperse36600、Solsperse37500、
Solsperse38500、Solsperse39000、
Solsperse41000、Solsperse54000、
Solsperse55000、Solsperse56000、
Solsperse71000、Solsperse76500、
SolsperseJ180、SolsperseJ200、
SolsperseX300(以上、ルブリゾール社製)、
ディスパロンDA-7301、ディスパロンDA-325、ディスパロンDA-375、ディスパロンDA-234(以上、楠本化成社製)、
フローレンAF-1000、フローレンDOPA-15B、フローレンDOPA-15BHFS、フローレンDOPA-17HF、フローレンDOPA-22、フローレンDOPA-33、フローレンG-600、フローレンG-700、フローレンG-700AMP、フローレンG-700DMEA、フローレンG-820、フローレンG-900、フローレンGW-1500、フローレンKDG-2400、フローレンNC-500、フローレンWK-13E、(以上、共栄社化学社製)、
TEGO Dispers610、TEGO Dispers610S、
TEGO Dispers630、TEGO Dispers650、
TEGO Dispers652、TEGO Dispers655、
TEGO Dispers662C、TEGO Dispers670、
TEGO Dispers685、TEGO Dispers700、
TEGO Dispers710、TEGO Dispers740W、
LIPOTIN A、LIPOTIN BL、
LIPOTIN DB、LIPOTIN SB(以上、エボニック・デグサ社製)、
PB821、PB822、PN411、PA111(以上、味の素ファインテクノ社製)、
テキサホール963、テキサホール964、テキサホール987、テキサホールP60、テキサホールP61、テキサホールP63、テキサホール3250、テキサホールSF71、テキサホールUV20、テキサホールUV21(以上、コグニス社製)、
BorchiGenSN88、BorchiGen0451(以上、ボーシャス社製)等が挙げられる。
【0103】
本発明に使用されるインクは、濡れ性の向上等の観点から、表面調整剤を更に含有してもよい。本明細書において、表面調整剤とは、分子構造中に親水性部位と疎水性部位を有し、添加することによりインク組成物の表面張力を調整し得る物質のことを意味する。
【0104】
表面調整剤としては、具体的に、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類等のアニオン性表面調整剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性表面調整剤、アルキルアミン塩類、第4級アンモニウム塩類等のカチオン性表面調整剤、アクリル系表面調整剤、シリコン系表面調整剤、およびフッ素系表面調整剤などが挙げられる。特に、シリコン系表面調整剤、およびアクリル系表面調整剤が好ましく、ビックケミー社、エボニック社、東レ・ダウコーニング社等の市販品を使用することができる。さらにシリコン系表面調整剤の場合、HLBが7.6~12であるポリエーテル変性シリコーンオイルを用いることが好ましい。
【0105】
表面調整剤の量は、使用目的により適宜選択し得るが、例えばインク中0.01~1質量%であることが好ましい。表面調整剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
表面調整剤の具体例としては、
BYK-300、BYK-302、BYK-306、BYK-307、BYK-310、BYK-313、BYK-315N、BYK-320、BYK-322、BYK-323、BYK-325、BYK-326、BYK-330、BYK-331、BYK-333、BYK-342、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349、BYK-350、BYK-354、BYK-355、BYK-356、BYK-358N、BYK-361N、BYK-370、BYK-375、BYK-377、BYK-378、BYK-381、BYK-392、BYK-394、BYK-399、BYK-3440、BYK-3441、BYK-3455、BYK-3550、BYK-3560、BYK-3565、BYK-3760、BYK-DYNWET 800N、BYK-SILCLEAN 3700、BYK-SILCLEAN 3701、BYK-SILCLEAN 3720、BYK-UV3500、BYK-UV3505、BYK-UV3510、BYK-UV3530、BYK-UV3535、BYK-UV3570、BYK-UV3575、BYK-UV3576(以上、ビックケミー・ジャパン社製)、
TEGO Flow 300、TEGO Flow 370、TEGO Flow 425、TEGO Flow ATF 2、TEGO Flow ZFS 460、TEGO Glide 100、TEGO Glide 110、TEGO Glide 130、TEGO Glide 406、TEGO Glide 410、TEGO Glide 411、TEGO Glide 415、TEGO Glide 432、TEGO Glide 435、TEGO Glide 440、TEGO Glide 450、TEGO Glide 482、TEGO GlideA 115、TEGO GlideB 1484、TEGO GlideZG 400(以上、エボニック ジャパン社製)、
501W ADDITIVE、FZ-2104、FZ-2110、FZ-2123、FZ-2164、FZ-2191、FZ-2203、FZ-2215、FZ-2222、FZ-5609、L-7001、L-7002、L-7604、OFX-0193、OFX-0309 FLUID、OFX-5211 FLUID、SF 8410 FLUID、SH3771、SH 3746 FLUID、SH 8400 FLUID、SH 8700 FLUID、Y-7006(以上、東レ・ダウコーニング社製)、
KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-640、KF-642、KF-643、KF-644、KF-945、KF-6004、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017、KF-6020、KF-6204、X-22-2516、X-22-4515(以上、信越化学工業社製)等が挙げられる。
【0107】
本発明に使用されるインクは、紫外線吸収剤を含んでもよい。紫外線吸収剤は、紫外線を吸収し、紫外線による劣化を防止する作用を有する。紫外線吸収剤としては、シアノアクリレート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物、ベンジリデンカンファー系化合物、無機微粒子等が挙げられる。
【0108】
紫外線吸収剤の具体例としては、
2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、
2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、
2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルフォニックアシッド、
2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、
2-ヒドロキシ-4-ドデシロキシベンゾフェノン-2-ヒドロキシ-4-ベンジロキシベンゾフェノン、
ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、
2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、
2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、
2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、
2―ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノン、
2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α-(ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、
2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、
2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、
2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、
2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、
2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、
2,2’-メチレン-ビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2N-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、
メチル-3-[3-t-ブチル-5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネートとポリエチレングリコールとの縮合物、
2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、
2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、
2,6-ジ-t-ブチルフェニル-3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンゾエート、
ヘキサデシル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。
【0109】
インク中において、紫外線吸収剤の量は、好ましくは0.1~15質量%、より好ましくは0.5~10質量%、さらに好ましくは1~5質量%の範囲内である。紫外線吸収剤の量が多すぎると、膜が十分に硬化しない可能性がある。紫外線吸収剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、紫外線吸収剤は、少なくとも2種の紫外線吸収剤を含有することが好ましい。構造が異なる複数種の紫外線吸収剤を用いることで、紫外線吸収剤の効果をより持続させることができる。
【0110】
本発明に使用されるインクは、ラジカル捕捉剤を含んでもよい。ラジカル捕捉剤は、フリーラジカル等を捕捉し、光安定性を向上させることができる。また、フリーラジカルと反応し、重合反応が起こることを防止する機能を有する物質(いわゆる重合禁止剤)も、ラジカル捕捉剤に含まれる。
【0111】
ラジカル捕捉剤としては、ヒンダードアミン系化合物、ハイドロキノン系化合物、フェノール系化合物、フェノチアジン系化合物、ニトロソ系化合物、N-オキシル系化合物等が挙げられ、特にヒンダードアミン系光安定化剤(HALS)が好ましい。
【0112】
ラジカル捕捉剤の具体例としては、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、1-{2-(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル}-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、8-アセチル-3-ドデシル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3,8-トリアザスピロ{4.5}デカン-2,4-ジオン等のヒンダードアミン系化合物、フェノール、o-、m-又はp-クレゾール、2-t-ブチル-4-メチルフェノール、6-t-ブチル-2,4-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2-t-ブチルフェノール、4-t-ブチルフェノール、2,4-ジ-t-ブチルフェノール、2-メチル-4-t-ブチルフェノール、4-t-ブチル-2,6-ジメチルフェノール等のフェノール系化合物、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、メチルハイドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、2-メチル-p-ハイドロキノン、2,3-ジメチルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン4-メチルベンズカテキン、t-ブチルハイドロキノン、3-メチルベンズカテキン、2-メチル-p-ハイドロキノン、2,3-ジメチルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、ベンゾキノン、t-ブチル-p-ベンゾキノン、2,5-ジフェニル-p-ベンゾキノン等のハイドロキノン系化合物、フェノチアジン等のフェノチアジン系化合物、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアンモニウム、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等のニトロソ系化合物、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン-N-オキシル、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン-N-オキシル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン-N-オキシル等のN-オキシル系化合物等が挙げられる。
【0113】
インク中において、ラジカル捕捉剤の量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下の範囲内である。ラジカル捕捉剤の量が多すぎると、硬化不良の原因となる可能性がある。インク中のラジカル捕捉剤の含有量の下限値は、例えば0.01質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上である。ラジカル捕捉剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0114】
本発明に使用されるインクは、樹脂を含んでもよい。樹脂は、顔料等の固形成分を捕捉しつつ基材上に被膜を形成する役割を有し、インクの基材付着性向上に寄与する。
【0115】
樹脂の具体例としては、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、塩化ゴム、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、塩素化エチレン-ビニルアセテート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、 ポリアミド樹脂、 ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ケトン樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体(アニオン変性ポリビニルアルコール等)、セルロース、セルロース誘導体(ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸セルロース等)、ロジン系樹脂、アルキッド樹脂、アルギン酸、アルギン酸誘導体(アルギン酸プロピレングリコールエステル等)等が挙げられる。また、これら樹脂の変性物も含まれる。例えば、水酸基を有する樹脂であれば、ヒドロキシアルキルエーテル化変性、カルボン酸変性などの変性が挙げられる。
【0116】
インク中の樹脂の量は、好ましくは25質量%以下、特には10質量%以下、より好ましくは8質量%以下の範囲内である。樹脂の量が多すぎると、硬化不良の原因となる可能性がある。インク中の樹脂の含有量の下限値は、例えば1質量%以上であり、好ましくは3質量%以上である。樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0117】
本発明に使用されるインクは、その他の成分として、酸化防止剤、可塑剤、防錆剤、溶剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、粘性調整剤、充填剤、消泡剤、荷電制御剤、応力緩和剤、浸透剤、導光材、光輝材、磁性材、蛍光体等の添加剤を必要に応じて含んでもよい。
【0118】
本発明に使用されるインクは、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することで調製できる。また、不純物等によるヘッドのノズル詰まりを防止する目的で、フィルターを用いたろ過をインクに対して行うことが好ましい。
【0119】
本発明に使用されるインクは、35℃~55℃での粘度が、5~25mPa・sであることが好ましく、5~20mPa・sであることが更に好ましい。インクを吐出する際の温度は35℃~55℃であることが好ましいことから、インク粘度が上記特定した範囲内にあれば、良好な吐出安定性が得られる。インク粘度は、コーンプレート型粘度計を用いて測定できる。
【0120】
本発明に使用されるインクは、その25℃における表面張力が20~35mN/mであることが好ましく、23~33mN/mであることが更に好ましい。25℃におけるインク表面張力が上記特定した範囲内にあれば、良好な吐出安定性が得られる。インク表面張力は、プレート法により測定できる。
【0121】
本発明のインクセットを用いた印刷は、特にインクジェット印刷方式にて行われることが好ましい。インクジェット印刷では、種々のインクジェットプリンタを使用することができる。インクジェットプリンタとしては、例えば、荷電制御方式又はピエゾ方式によりインクを噴出させるインクジェットプリンタが挙げられる。また、大型インクジェットプリンタ、具体例としては工業ラインで生産される物品への印刷を目的としたインクジェットプリンタも好適に使用できる。
【0122】
本発明のインクセットが活性エネルギー線硬化型インクセットである場合、印刷により形成される層は、紫外線等の活性エネルギー線の照射により硬化されることになる。活性エネルギー線の光源としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ等を使用できる。また、この層を硬化させるために照射する活性エネルギー線の波長は、光重合開始剤の吸収波長と重複していることが好ましく、活性エネルギー線の主波長が350~400nmであることが好ましい。活性エネルギー線の積算光量は100~2000mJ/cmの範囲にあることが好ましい。
【0123】
本発明のインクセットを用いた印刷では、吐出条件やその後の硬化条件を適宜選択することで、グロス調、マット調等の表面仕上げ加工を行うことができる。例えば、インクが拡がった後、時間を置いて硬化すればグロス調になり、インク滴がレンズ状のまま硬化すればマット調になる。
【0124】
本発明のインクセットを用いた印刷が行われる基材は、特に限定されるものではなく、その具体例として、紙、コート紙、プラスチック材、建築板等が挙げられる。基材の形状としては、例えば、フィルム状、シート状、板状等がある。基材の材質としては、例えば、エポキシ樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリル樹脂、特にはポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン(PP)等のプラスチック、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、チタンやそれらの合金等の金属、木材、セメント、コンクリート、石膏、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、大理石、人工大理石、ガラス、セラミック等が挙げられ、これら材料の2種以上を組み合わせたものでもよい。基材は、その表面に、脱脂処理、化成処理、研磨等の前処理や、シーラー、プライマー塗装等が施されていてもよい。基材表面は、平滑であってもよいし、凹凸を有するものや立体物であってもよい。基材の具体例としては、塩ビシート、ターポリン、プラダン(プラスチック製ダンボール)、アクリル板等のプラスチック材;コート紙(具体的には樹脂コート紙)、アート紙、キャスト紙、微塗工紙、上質紙、合成紙、インクジェット用紙等の紙類;単板、合板、パーティクルボード、中密度繊維板(MDF)等の木材を原料とする木質建材;窯業系サイディングボード、フレキシブルボード、珪酸カルシウム板、石膏スラグバーライト板、木片セメント板、パルプセメント板、プレキャストコンクリート板、軽量気泡コンクリート(ALC)板、石膏ボード等の無機質建材;アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属建材、タイル、ガラス板等が挙げられる。
【0125】
基材は、その表面の一部又は全体に層(例えば塗膜や印刷膜)が形成されていてもよい。例えば、塗料により形成される塗膜、インクにより形成される印刷膜、粉体トナーにより形成される印刷膜等が基材上に形成されていてもよい。基材上に形成される層は、樹脂、染料や顔料等の色材、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤、酸化防止剤、可塑剤、防錆剤、充填剤、荷電制御剤、導光材、光輝材、磁性材、蛍光体、ワックス等を含むことができる。
【0126】
基材上に層を形成する際に使用される塗料及びインクとしては、主溶媒として有機溶剤を用いる有機溶剤系塗料及びインク、主溶媒として水を用いる水系塗料及びインク、重合性化合物を用いる光硬化型塗料及びインク、粉体塗料等の各種塗料及びインク等が挙げられる。ここで、インクの場合に使用できる成分としては、上述した本発明に使用されるインクに使用できる成分等が挙げられる。
【0127】
基材上に層を形成するための手段は、特に制限されるものではない。例えば、塗料の場合は、エアスプレー、エアレススプレー、ロールコーター、フローコーター、静電塗装等の各種塗装手段が使用できる。また、インクの場合は、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、コーター印刷、インクジェット印刷等の各種印刷手段が使用できる。粉体トナーの場合は、通常、電子写真現像方式の印刷手段(具体的には、複写機、レーザープリンター等の画像形成装置)が使用できる。
【0128】
本発明のインクセットを用いた印刷により形成される層の上には、別の層(例えば塗膜や印刷膜)が形成されていてもよい。例えば、塗料により形成される塗膜、インクにより形成される印刷膜等が形成されていてもよい。本発明のインクセットを用いた印刷により形成される層上に配置され得る別の層は、樹脂、染料や顔料等の色材、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤、酸化防止剤、可塑剤、防錆剤、防藻剤、防カビ剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、充填剤、荷電制御剤、導光材、光輝材、磁性材、蛍光体、ワックス等を含むことができる。
【0129】
本発明のインクセットを用いた印刷後に別の層を形成する場合、その別の層の形成のための塗料及びインクとしては、主溶媒として有機溶剤を用いる有機溶剤系塗料及びインク、主溶媒として水を用いる水系塗料及びインク、重合性化合物を用いる光硬化型塗料及びインク、粉体塗料等の各種塗料及びインク等が挙げられる。ここで、インクの場合に使用できる成分としては、上述した本発明に使用されるインクに使用できる成分等が挙げられる。
【0130】
本発明のインクセットを用いた印刷後に別の層を形成するための手段は、特に制限されるものではない。例えば、塗料の場合は、エアスプレー、エアレススプレー、ロールコーター、フローコーター、静電塗装等の各種塗装手段が使用できる。また、インクの場合は、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、コーター印刷、インクジェット印刷等の各種印刷手段が使用できる。
【実施例0131】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0132】
実施例、比較例に用いるインクを作製するにあたって使用した顔料は、下記に示す通りである。
・DAIPYROXIDE TM ブルー #3490 (C.I.ピグメントブルー 28、大日精化工業(株)製)
・LIONOGENBLUE 7921 (C.I.ピグメントブルー 15:4、トーヨーカラー(株)製)
・DAIPYROXIDE ブルー #9410 (C.I.ピグメントブルー 28、大日精化工業(株)製)
・DAIPYROXIDE TM RED 8270 (C.I.ピグメントレッド 101、大日精化工業(株)製)
・FASTGEN SUPER MAGENTA RGT (C.I.ピグメントレッド 122、DIC(株)製)
・BAYFERROX 130M (C.I.ピグメントレッド 101、ランクセス社製)
・SICOTRANS YELLOW L1916 (C.I.ピグメントイエロー 42、DIC(株)製)
・イエローピグメント LEVA SCREEN YELLOW G01(C.I.ピグメントイエロー 150、ランクセス社製)
・TAROX 合成酸化鉄 HY-100 (C.I.ピグメントイエロー 42、チタン工業(株)製)
・Lysopac Yellow 6616B(C.I.ピグメントイエロー 184、フェロー社製)
・TITONE R-11P (C.I.ピグメントホワイト 6、堺化学工業(株)製)
【0133】
表1~3に示す配合処方に従う混合物を得、これをビーズミルで練合して均質にし、フィルターを用いてろ過することで、インクジェットインクを調製した。
次いで、表4~7に示す組み合わせでインクセットを用意した。
【0134】
【表1】
【0135】
【表2】
【0136】
【表3】
【0137】
表1~3中の注釈は、以下のとおりである。
a)顔料分散剤 TEGO-Dispers 685(Evonic社製)
【0138】
また、表中の組成について、各成分の数値は質量部で表される。「エチレン性不飽和二重結合数(A)=1、(B)≧2 (B)/(A)」の項目には、インク中に含まれる単官能重合性化合物の量(質量%)をAとし、インク中に含まれる多官能重合性化合物の量(質量%)をBとする場合のB/A値が示される。「重合性化合物の平均官能基数」の項目には、インク中に含まれる重合性化合物の平均官能基数が示される。「インク組成物P.I.I.値」の項目には、インク中に含まれる重合性化合物のP.I.I.値の加重平均が示される。
【0139】
表中の「L値」の「白地部分」の項目には、隠蔽率試験紙の白地部分に印刷されたインク乾燥膜のL値が示され、「黒地部分」の項目には、隠蔽率試験紙の黒地部分に印刷されたインク乾燥膜のL値が示される。「隠蔽率 %」の項目には、隠蔽率試験紙の白地部分及び黒地部分に印刷されたインク乾燥膜のL値から求められる厚さ10μmの乾燥膜の隠蔽率(%)が示される。「色相角 ∠H°」の項目には、インクから形成される厚さ10μmの乾燥膜の色相角(°)が示される。
【0140】
【表4】
【0141】
【表5】
【0142】
【表6】
【0143】
【表7】
【0144】
表4~7中の「隠蔽率の差(最大値)」には、インクセットの各インクが示す隠蔽率の中で、最大値と最小値を差し引きすることで求められる隠蔽率の差が示される。この隠蔽率の差(最外値)が25%以下であれば、関係式(1)~(3)の全てを満たす。
【0145】
以下に、評価用印刷物の作製方法、隠蔽率及び色相角の測定方法、混色の色再現性、混色階調性、インク吐出性及び視認性と発色性の評価方法と評価基準について説明する。
【0146】
<評価用印刷物の作製方法>
コニカミノルタ株式会社製のインクジェットヘッド(KM1024-LHB一式)を搭載したインクジェットプリンタを使用し、これにインクをそれぞれ充填したのち、隠蔽率試験紙(JIS規格品)上の白地部分及び黒地部分のそれぞれに、各インクの単色ベタ画像を印刷した。また、混色においては各評価に応じたCMY印刷濃度比率で単色ベタ画像を調整し、隠蔽率試験紙上の白地部分及び黒地部分に前記調整した画像を重ねて印刷を行った。
印刷後、メタルハライドランプを用いて硬化させ、乾燥膜厚10μmのインク乾燥膜を得た。
上記インク乾燥膜の乾燥膜厚はマイクロメーター(MDC-25MJ、株式会社ミツトヨ製)で測定した。
【0147】
<隠蔽率の測定方法>
上記<評価用印刷物の作製方法>で作製した印刷物(インク乾燥膜厚10μm)について、分光光度計(SpectroEye、X-Rite社製)を用い、隠蔽率試験紙の白地部分及び黒地部分上におけるインク乾燥膜のL値を測定した。得られた値を下記式(7)に当てはめ、各インクの隠蔽率(%)を算出した。
隠蔽率 (%) = 100 x Lb / Lw・・・式(7)
結果を表1~3に示す。
【0148】
<色相角 ∠H°の測定方法>
上記<評価用印刷物の作製方法>の通り、隠蔽率試験紙白地部分上に単色ベタ画像の印刷を行い、作製した単色と混色それぞれの膜厚10μmであるインク乾燥膜について、分光光度計(SpectroEye、X-Rite社製)を用いて、インク乾燥膜の色相角∠H°を測定した。単色での色相角∠H°の結果を表1~3に示し、混色での色相角∠H°の結果を表4~7に示す。
【0149】
<混色の色再現性の評価方法>
表4~7中の『1』に示す印刷濃度比率(体積比)で混色印刷物を作製し、各混色印刷物の色相角実測値と、CMY各単色の測色値から算出される色相角の理論値との差(xとする)から混色の色再現性を評価した。色相角の理論値は、式(8)および式(9)から求められたa (CMY)値およびb (CMY)値を用いて、式(10)または式(11)より算出できる。
【0150】
(CMY)値=a×Cの濃度比率+a×Mの濃度比率+a×Yの濃度比率・・・式(8)
(CMY)値=b×Cの濃度比率+b×Mの濃度比率+b×Yの濃度比率・・・式(9)
式(8)において、a (CMY)値は、CMY各単色の測色値から算出される混色印刷物のaの理論値であり、aは、上記<評価用印刷物の作製方法>で隠蔽率試験紙白地部分上に作製した単色ベタ画像について分光光度計(SpectroEye、X-Rite社製)を用いて測定されたシアンインク乾燥膜のa値であり、aは、上記<評価用印刷物の作製方法>で隠蔽率試験紙白地部分上に作製した単色ベタ画像について分光光度計(SpectroEye、X-Rite社製)を用いて測定されたマゼンタインク乾燥膜のa値であり、aは、上記<評価用印刷物の作製方法>で隠蔽率試験紙白地部分上に作製した単色ベタ画像について分光光度計(SpectroEye、X-Rite社製)を用いて測定されたイエローインク乾燥膜のa値であり、C、M及びYの濃度比率はそれぞれシアンインク、マゼンタインク及びイエローインクの濃度比率(体積%)である。
式(9)において、b (CMY)値は、CMY各単色の測色値から算出される混色印刷物のbの理論値であり、bは、上記<評価用印刷物の作製方法>で隠蔽率試験紙白地部分上に作製した単色ベタ画像について分光光度計(SpectroEye、X-Rite社製)を用いて測定されたシアンインク乾燥膜のb値であり、bは、上記<評価用印刷物の作製方法>で隠蔽率試験紙白地部分上に作製した単色ベタ画像について分光光度計(SpectroEye、X-Rite社製)を用いて測定されたマゼンタインク乾燥膜のb値であり、bは、上記<評価用印刷物の作製方法>で隠蔽率試験紙白地部分上に作製した単色ベタ画像について分光光度計(SpectroEye、X-Rite社製)を用いて測定されたイエローインク乾燥膜のb値であり、C、M及びYの濃度比率はそれぞれシアンインク、マゼンタインク及びイエローインクの濃度比率(体積%)である。
【0151】
h=tan-1(b (CMY)値/a (CMY)値)+180°(a (CMY)値<0)・・・式(10)
h=tan-1(b (CMY)値/a (CMY)値)+360°(a (CMY)値>0)・・・式(11)
h=90°(a (CMY)値=0、b (CMY)値>0)、h=270°(a (CMY)値=0、b (CMY)値<0)
(CMY)値<0の場合は、式(10)を用いて色相角の理論値(°)を求め、a (CMY)値>0の場合は、式(11)を用いて色相角の理論値(°)を求める。a (CMY)値=0の場合は、色相角の理論値(°)は90°(b (CMY)値>0)もしくは、色相角の理論値(°)は270°(b (CMY)値<0)である。
式(10)および(11)において、hは、CMY各単色の測色値から算出される混色印刷物の色相角の理論値(°)であり、a (CMY)値は、式(8)から求められるa (CMY)値であり、b (CMY)値は、式(9)から求められるb (CMY)値である。
【0152】
<混色の色再現性の評価>
表4~7中の『1』に示す3パターンの印刷濃度比率(体積比)で表4~7に示すインクセット毎に各混色印刷物を作製し、上記<混色の色再現性の評価方法>に従って各混色印刷物毎に算出したxを表4~7に示す。また、上記算出したxを下記評価基準に当てはめてインクセット毎に混色の色再現性を評価した。混色の色再現性の評価結果を表4~7に示す。
◎であれば理想に近い混色再現ができ、色再現領域が広い。○であれば、◎ほどの再現性ではないものの、実用上充分な混色再現が可能である。△であれば、混色表現は可能なものの、特定色の影響が大きく、混色再現領域も狭くなる。×であれば、特定色の影響が大きく、混色表現ができない。
(評価基準)
◎=各混色印刷物毎に算出したxが全て0≦x≦10を満たす。
○=各混色印刷物毎に算出したxが全てx≦20であるが、xの範囲の少なくとも一部が10<x≦20を満たす。
△=各混色印刷物毎に算出したxが全てx≦30であるが、xの範囲の少なくとも一部が20<x≦30を満たす。
×=各混色印刷物毎に算出したxが一部、あるいは全てx>30を満たす。
【0153】
<混色階調性の評価方法>
表4~7中の『2』および『3』に示す色の組み合わせと印刷濃度比率(体積比)で混色印刷物を作製し、それぞれ色相角とL値の測定を行った。各色の組み合わせ毎に色相角の最大変化量(後述のy)とL値の差(後述のz)を求めた。
【0154】
yは、上記<評価用印刷物の作製方法>で隠蔽率試験紙白地部分上に作製した混色印刷物について分光光度計(SpectroEye、X-Rite社製)を用いて測定されたインク乾燥膜の色相角の内、最小値(∠H°MIN)と最大値(∠H°MAX)を用いて、式(12)より算出できる。
y = ∠H°MAX - ∠H°MIN・・・式(12)
【0155】
zは、隠蔽率試験紙白地部分のL値(L)と隠蔽率試験紙白地部分上に作製した印刷濃度比率パターン25:25のL値(L25:25)、印刷濃度比率パターン50:50のL値(L50:50)を求めた後、式(13)より算出できる。上記L値は、上記<評価用印刷物の作製方法>で隠蔽率試験紙白地部分上に作製した各印刷濃度比率パターンの混色印刷物と、隠蔽率試験紙白地部分それぞれのL値を分光光度計(SpectroEye、X-Rite社製)によって測定し、算出される。
z = |(L25:25 - L) - (L50:50 - L25:25)|
・・・式(13)
【0156】
<混色階調性1の評価>
表4~7に示す各インクセットで表4~7中の『2』に示す各色の組み合わせ毎に混色印刷物を作製し、上記<混色階調性の評価方法>に従って算出したyを表4~7に示す。また、上記算出したyを下記評価基準に当てはめて階調性の評価を行った。結果を表4~7に示す。
○であれば、ほぼ一定の色相角を示しつつ濃色~淡色まで表現可能なインクの組み合わせである。△であれば、色相角がとびとびの値を示しており、滑らかな混色階調性を有さない。×であれば、印刷濃度比率が小さくなるにつれ粒状感が目立ち、階調性のみならず混色の色再現自体が難しい。
(評価基準)
○=各混色印刷物毎に算出したyが全て0≦y≦15を満たす。
△=各混色印刷物毎に算出したyが全てy≦25であるが、yの少なくとも一部が15<y≦25を満たす。
×=各混色印刷物毎に算出したyが一部あるいは全てy>25を満たす。
【0157】
<混色階調性2の評価>
表4~7に示す各インクセットで表4~7中の『3』に示す各色の組み合わせ毎に混色印刷物を作製し、上記<混色階調性の評価方法>に従って算出したzを表4~7に示す。また、上記算出したzを下記評価基準に当てはめて階調性の評価を行った。結果を表4~7に示す。
○であれば、印刷濃度比率に沿って下地が隠蔽されるため、濃色~淡色まで表現可能なインクの組み合わせである。△であれば、隠蔽の急激な変化があることを示しており、滑らかな混色階調性を有さない。×であれば、印刷濃度比率が小さくなるにつれ粒状感が目立ち、階調性のみならず混色の色再現自体が難しい。
(評価基準)
○=各混色印刷物毎に算出したzが全て0≦z≦15を満たす。
△=各混色印刷物毎に算出したzが全てz≦25であるが、zの少なくとも一部が15<z≦25を満たす。
×=各混色印刷物毎に算出したzが一部あるいは全てz>25を満たす。
【0158】
<インク吐出性の評価>
コニカミノルタ株式会社製のインクジェットヘッドKM1024-LHBを搭載した液滴飛翔観察装置を用いて表4~7記載のインクセット毎に各CMYインクの吐出適性を評価した。結果を表4~7に示す。評価基準は下記の通りとし、◎であれば、問題なく安定的に印刷が実施できる。○であれば、停機後の印刷再開時に予備吐出などのメンテナンスを要するものの、実運用上、可能なレベルである。△であれば、印刷外観不良の発生、もしくはメンテナンス頻度が高くなり、実運用上では生産性が劣り望ましくない。×であれば、実運用に用いることは難しい。
(評価基準)
◎=インクセットの内、全てのインクでインク滴の飛翔状態が良好かつ、停機10分後の印刷再開時に不吐出ノズルが発生しない。
○=インクセットの内、全てのインクでインク滴の飛翔状態は良好であるが、一部のインクで停機10分後の印刷再開時に不吐出ノズルが発生する。ただし、100発の予備吐出をおこなうことで不吐出ノズルが解消する。
△=インクセットの内、一部のインクでインク滴の飛翔状態に不安定であるか、もしくは停機10分後の印刷再開時に不吐出ノズルが発生し、100発の予備吐出をおこなっても不吐出ノズルが解消しない。
×=インクセットの内、全てのインクでインク滴の飛翔状態が不安定であり、停機10分後の印刷再開時に不吐出ノズルが発生し、100発の予備吐出をおこなっても不吐出ノズルが解消しない。
【0159】
<視認性と発色性の評価>
コニカミノルタ株式会社製のインクジェットヘッド(KM1024-LHB一式)を搭載したインクジェットプリンタを使用し、これにインクをそれぞれ充填したのち、JIS X 9201:2001において5.データの表現方法及び定義に記載される画像の識別番号N3果物かご(籠)を隠蔽率試験紙(JIS規格品)上の白地部分及び黒地部分のそれぞれに印刷し、メタルハライドランプを用いて硬化させた後、目視で上記印刷物の視認性と発色性を評価した。結果を表4~7に示す。
◎であれば隠蔽率試験紙の白地部分上、黒地部分上のどちらにおいても果物かご(籠)の細部まで質感が表現されており、かつ色鮮やかである。○であれば、◎ほどではないものの、隠蔽率試験紙の白地部分上、黒地部分上のどちらにおいても果物かご(籠)として認識できる視認性と色鮮やかさがある。△であれば、隠蔽率試験紙の白地部分上と黒地部分上で印刷された画像の見え方が異なっており、特に黒字部分上では画像中の境界線があいまいなうえ、色もくすんで見える。×であれば、隠蔽率試験紙の白地部分上と黒地部分上で印刷された画像の色味が全く異なり、黒地部分上では果物かご(籠)として認識できない。
(評価基準)
◎=白地部分上と黒字部分上で発色性と視認性に差がない。
○=白地部分上と比べ、黒地部分上では発色性が劣るが、充分に画像を認識できる。
△=白地部分上と比べ、黒地部分上では画像の境界線が分かりにくく、くすんだ色合いとなる。
×=黒地部分上では画像の再現ができない。
【0160】
<実施例の総評価>
実施例1~3、5および6は混色の色再現性、混色階調性、インク吐出性、および視認性と発色性をバランス良く満たすインクセットである。実施例4は混色の色再現性に特に優れるが、インク吐出性にはやや難ありである。
実施例7~12は隠蔽率の差が55±25%の範囲内であるインクセットであり、混色の色再現性および視認性と発色性に特に優れる他、階調性およびインク吐出性も良好である。