(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146286
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】農業資材用熱可塑性樹脂組成物及び農業資材
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20231004BHJP
C08L 3/00 20060101ALI20231004BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20231004BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20231004BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20231004BHJP
A01G 9/02 20180101ALI20231004BHJP
【FI】
C08L101/12
C08L3/00
C08L67/00
C08K5/29
C08L1/00
A01G9/02 603
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053396
(22)【出願日】2022-03-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】草間 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大橋 竜太
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 誠
【テーマコード(参考)】
2B327
4J002
【Fターム(参考)】
2B327NC02
2B327NC21
2B327NC24
2B327NC36
2B327NC39
2B327ND03
4J002AB01Y
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4J002FD020
4J002FD090
4J002FD206
4J002FD20Y
4J002GA00
(57)【要約】
【課題】表面のべたつきが抑制された成形品を製造可能であって、生分解性を有し、成形性が良好な農業資材用熱可塑性樹脂組成物及び当該業資材用熱可塑性樹脂組成物からなる農業資材を提供する。
【解決手段】澱粉(A)と、生分解性樹脂(B)と、粘度調整剤(C)と、を含み、かつ、可塑剤(D)を含まない農業資材用熱可塑性樹脂組成物であって、澱粉(A)の含有量が農業資材用熱可塑性樹脂組成物100質量部中5~60質量部であり、粘度調整剤(C)の含有量が農業資材用熱可塑性樹脂組成物100質量部中0.01~1質量部である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉(A)と、生分解性樹脂(B)と、粘度調整剤(C)と、を含み、かつ、可塑剤(D)を含まない農業資材用熱可塑性樹脂組成物であって、
前記澱粉(A)の含有量が前記農業資材用熱可塑性樹脂組成物100質量部中5~60質量部であり、前記粘度調整剤(C)の含有量が前記農業資材用熱可塑性樹脂組成物100質量部中0.01~1質量部である、農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記澱粉(A)の含有量が前記農業資材用熱可塑性樹脂組成物100質量部中10~30質量部である、請求項1記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記澱粉(A)の平均粒径が5~50μmである、請求項1または2記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記粘度調整剤(C)がセルロースファイバー及びカルボジイミドからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~3いずれか1項に記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記生分解性樹脂(B)が、脂肪族ポリエステル系樹脂と、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂と、を含み、
前記脂肪族ポリエステル系樹脂の含有量は、前記脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂の含有量以上である、請求項1~4いずれか1項に記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
せん断速度243s-1における溶融粘度が、前記生分解性樹脂(B)の融点以上、融点+40℃以下の温度において、1000Pa・s以上5000Pa・s未満である、請求項1~5いずれか1項に記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
ブロー成形または真空成形に用いられる、請求項1~6いずれか1項に記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
育苗ポット用である、請求項1~7いずれか1項に記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8いずれか1項に記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物からなる農業資材。
【請求項10】
育苗ポットである、請求項9記載の農業資材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業資材用熱可塑性樹脂組成物及び農業資材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは成形加工が容易なことから電気・電子機器部品、自動車部品、医療用部品、食品容器などの幅広い分野で使用されており、用途に応じて強度等の物理特性又は機能性をプラスチック成形品に付与している。農業資材分野では、耐水性及び強度の確保を必要とする用途で使用されている。
【0003】
農業資材には、例えば、地温の上昇又は保温、害虫防除を目的とする用途で使用するマルチフィルム、及び種苗を育てるための専用の容器の一種である育苗ポットが挙げられる。
【0004】
昨今の廃棄物問題、及び農業資材の回収作業を軽減する解決策として、生分解性材料を使用した農業資材があり、これらは回収する必要がなく、使用後は地中(土壌中)で分解可能である。
【0005】
特許文献1には、脂肪族ポリエステル系樹脂、芳香族脂肪族ポリエステル系樹脂、澱粉及び多価アルコールを特定の質量比で含むことによって引裂き強度が強く、生分解性、成形性、熱収縮性、透明性が良好であり、弾性率が高く皺になりにくいフィルムが記載されている。
【0006】
当該フィルムでは生分解性材料として脂肪族ポリエステル系樹脂及び芳香族脂肪族ポリエステル系樹脂を用い、多価アルコールの含有量を調整することにより、澱粉の可塑化を進行させつつ、引裂き強度及び引張弾性率などの樹脂組成物の物性を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
澱粉は熱可塑性を有さず熱分解温度が低いため、多価アルコール等の可塑剤を添加することにより樹脂組成物の改質が図られるが、可塑剤が樹脂組成物に含まれていると、得られる成形品の表面がべたつき、また成形時における成形機の金型と樹脂組成物との剥離性、及び成形品を個々に分離する滑り性が低下し、樹脂組成物の成形に影響を及ぼす可能性がある。
【0009】
本発明は、上記のような事情に鑑み成されたものであり、表面のべたつきが抑制された成形品を製造可能であって、生分解性を有し、成形性が良好な農業資材用熱可塑性樹脂組成物及び当該農業資材用熱可塑性樹脂組成物からなる農業資材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討を進めた結果、下記に示す構成を有する農業資材用熱可塑性樹脂組成物を見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明の一実施形態は、澱粉(A)と、生分解性樹脂(B)と、粘度調整剤(C)と、を含み、かつ、可塑剤(D)を含まない農業資材用熱可塑性樹脂組成物であって、澱粉(A)の含有量が農業資材用熱可塑性樹脂組成物100質量部中5~60質量部であり、粘度調整剤(C)の含有量が農業資材用熱可塑性樹脂組成物100質量部中0.01~1質量部である、農業資材用熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0012】
他の一実施形態は、澱粉(A)の含有量が農業資材用熱可塑性樹脂組成物100質量部中10~30質量部である、上記農業資材用熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0013】
他の一実施形態は、澱粉(A)の平均粒径が5~50μmである、上記農業資材用熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0014】
他の一実施形態は、粘度調整剤(C)がセルロースファイバー及びカルボジイミドからなる群から選択される少なくとも1つを含む、上記農業資材用熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0015】
他の一実施形態は、生分解性樹脂(B)が、脂肪族ポリエステル系樹脂と、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂と、を含み、脂肪族ポリエステル系樹脂の含有量は、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂の含有量以上である、上記農業資材用熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0016】
他の一実施形態は、せん断速度243s-1における溶融粘度が、生分解性樹脂(B)の融点以上、融点+40℃以下の温度において、1000Pa・s以上5000Pa・s未満である、上記農業資材用熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0017】
他の一実施形態は、ブロー成形または真空成形に用いられる、上記農業資材用熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0018】
他の一実施形態は、育苗ポット用である、上記農業資材用熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0019】
他の一実施形態は、上記農業資材用熱可塑性樹脂組成物からなる農業資材に関する。
【0020】
また、他の一実施形態は、育苗ポットである、上記農業資材に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一実施形態によれば、表面のべたつきが抑制された成形品を製造可能であって、生分解性を有し、成形性が良好な農業資材用熱可塑性樹脂組成物及び当該農業資材用熱可塑性樹脂組成物からなる農業資材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<農業資材用熱可塑性樹脂組成物>
本実施形態に係る農業資材用熱可塑性樹脂組成物(以下では単に「樹脂組成物」とも記す。)は、澱粉(A)と、生分解性樹脂(B)と、粘度調整剤(C)と、を含み、かつ、可塑剤(D)を含まないことを特徴とする。澱粉(A)及び粘度調整剤(C)を特定の含有量に調整し、かつ、可塑剤(D)を含まないことで、得られる樹脂組成物は、成形性が良好であり、生分解可能であると共に、成形品の表面のべたつきを抑制することができる。
【0023】
樹脂組成物の分解工程は、大きく2つに分けられる。
第一段階は、加水分解または酸化分解により樹脂組成物の成形品である農業資材(育苗ポットやマルチフィルムなど)を構成する樹脂を低分子量化する。
次いで第二段階は、低分子量化した樹脂からなる農業資材の個片を土壌中の微生物が分解する。
農業資材を保管する間または農業資材を使用している間も樹脂の低分子量化が進行するため、第一段階での加水分解制御が重要となる。加水分解の因子として樹脂の結晶性が挙げられる。結晶領域に比べ非晶領域の方が、加水分解が進行しやすいため、結晶性を高めることで加水分解を抑制することが可能になる。
一般的に熱可塑性樹脂組成物に添加剤などを加えるとその粒子が結晶核となり、結晶の生成が促進されるため(造核効果)、結晶性が向上し、加水分解抑制効果が得られる。
【0024】
本実施形態の農業資材用熱可塑性樹脂組成物は、生分解性を促進する澱粉(A)と溶融張力を上昇させる粘度調整剤(C)をそれぞれ特定量含むため、樹脂組成物からなる農業資材の生分解速度を調整することができる。例えば、少なくとも種苗の育成期間である4か月程度は農業資材の分解が抑制されてその形状を維持することができ、種苗の育成期間を過ぎた1年程度後には農業資材が土壌中の微生物により分解されており、土壌中へのすき込みが可能となっていることが望ましい。
【0025】
以下に本実施形態について詳細に説明する。
【0026】
(澱粉(A))
澱粉(A)は、土壌中又は水中に存在する様々な微生物の働き(生分解性)を促進するものである。澱粉(A)は、特に限定されず、一般的に入手することができる澱粉を使用することができる。例えば、コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉などが挙げられる。なかでも、粒径が20μm程度に揃っているコーンスターチを用いると、樹脂組成物からなる農業資材の厚さを均一化でき(表面の凹凸を低減でき)、厚さの薄い部分の発生を抑制でき、結果として農業資材の破損を抑制できるため好ましい。これらは一種単独で用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
澱粉(A)は、生分解速度を調整できる成分であり、その含有量は、樹脂組成物100質量部中、5~60質量部であることが好ましく、10~50質量部、10~40質量部、又は10~30質量部であってもよい。澱粉(A)の含有量が5質量部以上であると生分解が促進され、60質量部以下であると生分解性樹脂(B)の含有量を確保して、成形性を担保することができる。
【0028】
また、成形性の観点から、澱粉(A)の平均粒径は5~50μmであることが好ましく、10~50μmであってもよい。澱粉(A)の平均粒径が上記範囲にあることで生分解樹脂(B)中での澱粉(A)の分散性と成形品表面の平滑性を両立することができる。
【0029】
特に、樹脂を直接金型内に入れて空気を送るブロー成形では、樹脂組成物中の澱粉(A)の平均粒径が成形性に寄与するため、澱粉(A)の平均粒径が上述の範囲であることが好ましい。
【0030】
澱粉(A)の平均粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡による澱粉(A)の粒子の観察を行い、無作為に100個の粒子を観察し、それぞれの粒子の外形の最も離れた2点間の距離を画面上のミクロンマーカの長さをもとに測定し、平均して求めることができる。
【0031】
(生分解性樹脂(B))
生分解性樹脂(B)は、土壌中又は水中に存在する様々な微生物の働きによって分解されるものである。生分解性樹脂(B)は、特に限定されず、一般的に入手することができる生分解性樹脂を使用することができる。例えば、ポリカプロラクトン、脂肪族ポリエステル系樹脂、または脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂などが挙げられる。これらの生分解性樹脂は一種単独で用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
これらの中でも、生分解性及び成形性の観点から、脂肪族ポリエステル系樹脂、または脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂が好ましい。
また、脂肪族ポリエステル系樹脂及び脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂を生分解性樹脂として併用する場合、脂肪族ポリエステル系樹脂の含有量は、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂の含有量以上であることが好ましい。ベース樹脂である脂肪族ポリエステル系樹脂と展延性を有し成形性に富んだ脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂を混合することにより、樹脂組成物の成形性、及びその成形品である農業資材の強度を確保することができる。脂肪族ポリエステル系樹脂と脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂との含有比(質量部)としては、例えば、1~3:1であることが好ましく、1.5~2:1であることがより好ましい。
【0033】
脂肪族ポリエステル系樹脂としては、例えば、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸との重縮合反応で得られる脂肪族ポリエステル及び乳酸の重縮合で得られるポリ乳酸が挙げられる。脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、これらの混合物を用いてもよい。なかでも1,4-ブタンジオールを用いることが好ましい。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタン酸、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカン二酸が挙げられ、これらの誘導体である酸無水物を用いてもよい。なかでも、コハク酸または無水コハク酸、あるいはこれらとアジピン酸との混合物であることが好ましい。
具体的には、1,4ブタンジオールとコハク酸から得られるポリブチレンサクシネート(PBS)(例えば、PPT MCCバイオケム社製「BioPBS」(商品名))、PBSにアジピン酸を共重合したポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)等が挙げられる。
【0034】
脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位と、芳香族ジカルボン酸単位と、鎖状脂肪族及び/または脂環式ジオール単位とを含む共重合体が挙げられる。ジオール単位を与えるジオール成分は、炭素数が通常2~10のものであり、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。なかでも、炭素数2~4のジオールが好ましく、エチレングリコール、1,4-ブタンジオールがより好ましく、1,4-ブタンジオールが更に好ましい。ジカルボン酸単位を与えるジカルボン酸成分は、炭素数が通常2~10のものであり、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。なかでも、コハク酸またはアジピン酸が好ましい。芳香族ジカルボン酸単位を与える芳香族ジカルボン酸成分として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。なかでも、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
具体的には、1,4-ブタンジオールとアジピン酸とテレフタル酸との共重合体であるポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)(例えば、ビー・エー・エス・エフ社製「エコフレックス」(商品名))等が挙げられる。
【0035】
また、生分解性樹脂(B)は、上記脂肪族ポリエステル系樹脂、及び/または脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂と、その他の生分解性樹脂とを併用する形態であってもよい。その他の生分解性樹脂としては、例えば、ヒドロキシアルカン酸と多価カルボン酸とから得られる脂肪族ポリエステル共重合体のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(なかでも、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)(例えば、株式会社カネカ製「アオニレックス」(商品名))、ポリ乳酸(PLA)(例えば、海正生物材料社製「REVODE」(商品名)、ネイチャーワークス社製「Ingeo」(商品名))が挙げられる。
【0036】
生分解性樹脂(B)の含有量は、樹脂組成物100質量部中、35~95質量部であることが好ましく、39~90質量部であることがより好ましい。生分解性樹脂(B)の含有量が上記範囲であることで樹脂組成物の加工性と成形性を両立することができる。また、脂肪族ポリエステル系樹脂、及び/または脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂の合計の含有量は、生分解性樹脂(B)100質量部中、80質量部以上であることが好ましく、90質量部以上であることがより好ましい。
【0037】
(粘度調整剤(C))
粘度調整剤(C)は、樹脂組成物の粘度を調整して成形性を向上させるものであり、成形加工性の指標である樹脂組成物の溶融張力を上昇させる。粘度調整剤(C)、特に限定されず、一般的に入手することができるものを使用することができる。例えば、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物化合物、セルロース繊維、シリカ系フィラー等が挙げられる。好ましい一実施形態においては、グリーンプラスチックのポジティブリストに記載されている化合物を用いることができ、例えば、セルロースマイクロファイバー(CMF)及びカルボジイミド化合物(CDI)を用いることができる。セルロースマイクロファイバーとは、パルプを熱水等で処理し、加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー等の粉砕法により解繊したセルロースにおける解繊工程を少なくすることで得られる比較的大サイズのセルロース繊維を指す。セルロースマイクロファイバー及びカルボジイミド化合物を含むことにより樹脂組成物の粘度を高め、かつ、強度を確保できる。
【0038】
すなわち、樹脂組成物にセルロースマイクロファイバーが含有されるとセルロースマイクロファイバーのフィラー効果によって樹脂組成物の強度が上昇する。粘度調整剤(C)としてセルロースマイクロファイバーが含まれている樹脂組成物の成形には、例えば、ブロー成形等を用いることができる。
【0039】
樹脂組成物にカルボジイミド化合物が含有されると樹脂とカルボジイミド化合物が反応して樹脂の分子量は大きくなるので、その樹脂が加水分解されて分子量が小さくなるまでに時間を要し、生分解速度が遅くなる。このため、樹脂組成物の強度が求められる農業資材の場合には、粘度調整剤(C)としてカルボジイミド化合物が含まれていると好ましい。カルボジイミド化合物を含む樹脂組成物は、例えば真空成形を用いて成形することができる。
【0040】
カルボジイミド化合物としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ-t-ブチルカルボジイミド、ジ-β-ナフチルカルボジイミ等が挙げられる。これらの化合物は、単独で使用しても、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
粘度調整剤の含有量は、樹脂組成物の粘度を適切なものとするために、樹脂組成物100質量部中に0.01~1質量部であることが好ましく、0.1~0.8質量部であってもよい。
【0042】
(可塑剤(D))
本実施形態の農業資材用熱可塑性樹脂組成物には、澱粉(A)の可塑化のために通常使用される可塑剤(D)を含まない。本明細書において、「可塑剤(D)を含まない」とは、可塑剤(D)が実質的に含まれないことを意味し、具体的には、可塑剤(D)の含有量が樹脂組成物100質量部に対して0~5質量部であることを意味する。
【0043】
可塑剤(D)としては、例えば、水酸基を有する有機化合物であるアルコールが挙げられる。具体的には、例えば、グリセリン、グリセリンモノエステル、エチレングリコール、及びジエチレングリコールが挙げられる。
【0044】
可塑剤(D)が樹脂組成物100質量部に対して5質量部以下であれば、得られる成形品の表面のべたつきを抑制しつつ、良好な成形性を有することができる。べたつきの抑制及び成形性の観点から、可塑剤(D)の含有量が樹脂組成物100質量部に対して0~2質量部であることが好ましく、0~1質量部であることがより好ましく、0質量部である(含まれない)ことが更に好ましい。
【0045】
(その他の成分)
樹脂組成物は、必要に応じてその他の添加剤等の成分(可塑剤(D)を除く)を任意に含むことができる。その他の添加剤としては、例えば、分散剤、滑剤(高級脂肪酸金属塩、ワックス類等)、ハイドロタルサイト、界面活性剤、帯電防止剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、顔料などが挙げられる。他の任意成分の選択およびその使用量は、本発明の一実施形態の課題を解決できる範囲内であれば特に限定されない。複数の添加剤を組み合わせて使用してもよい。また、樹脂組成物は、本発明の一実施形態の効果を阻害しない範囲内で生分解性樹脂以外の樹脂を一部含んでもよい。
【0046】
樹脂組成物は、顔料により着色することにより、遮熱効果に優れた成形品又は識別容易な成形品を製造することができる。顔料は、特に限定されず、一般的に入手することができるものを使用することができるが、自然環境の観点から、カドミウム、鉛、クロム、ヒ素、水銀、銅、セレン、ニッケル、モリブデン、フッ素を含む顔料を実質的に含まないことが好ましい。
【0047】
例えば、樹脂組成物が顔料を含む場合、顔料を分散するための分散剤を併用することが好ましく、分散剤としては、脂肪酸金属塩が挙げられる。脂肪酸金属塩の脂肪酸成分としては、炭素数が6~30の鎖状カルボン酸が好ましく、直鎖状、分岐状でもよく、また飽和結合のみでも不飽和結合を有していてもよい。
脂肪酸の例としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、モンタン酸等が挙げられる。
金属としては、第1族、第2族、第12族、及び第13族の元素が好ましく、第1族又は第2族の元素がより好ましい。具体例としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどが挙げられる。
【0048】
脂肪酸金属塩としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸マグネシウム、モンタン酸ナトリウム等が挙げられる。これらは1種でもよく2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸マグネシウムが好ましい。
【0049】
(加工性)
上述の農業資材用熱可塑性樹脂組成物において、押出時の加工性は、1時間連続して生産した際にストランド切れの発生が5回以下であり、1~5回であってもよく、ストランド切れが発生しないことが好ましい。
【0050】
(溶融粘度)
上述の農業資材用熱可塑性樹脂組成物において、JIS K7199:1999におけるせん断速度243s-1における溶融粘度は、生分解性樹脂(B)の融点以上、融点+40℃以下の温度において、得られる成形品の強度及び樹脂組成物の流動性と成形性の観点から、1000Pa・s以上5000Pa・s未満であることが好ましく、1500Pa・s以上4500Pa・s未満であることがより好ましい。
【0051】
(用途)
本実施形態に係る農業資材用熱可塑性樹脂組成物は、様々な農業資材に利用することができる。特に、この樹脂組成物は育苗ポット用として好適に使用できる。育苗ポットとは、畑に種を直接まいて育てるのではなく、容器中である程度成長するまで種苗を育てるために使用されるポットである。本実施形態の樹脂組成物を用いた成形品は、土壌中で適切に生分解するので、種苗が成長したのちに育苗ポットから種苗を取り出して移植する必要はなく、育苗ポットのまま土壌中に移植可能である。
【0052】
≪製造方法≫
本実施形態の樹脂組成物は、生分解性樹脂(B)が溶融する温度で澱粉(A)及び粘度調整剤(C)を混練することで製造できる。具体的には、例えば、生分解性樹脂(B)と、澱粉(A)と、粘度調整剤(C)と、更に必要に応じて各種添加剤を加え、ニーダー、ロールミル、スーパーミキサー、ハイスピードミキサー、ボールミル、サンドミル、アトライター、又はバンバリーミキサーのような回分式混練機、単軸押出機、二軸押出機、ローター型二軸混練機等で混合及び溶融混練し、ペレット状、粉体状、顆粒状あるいはビーズ状の樹脂組成物とすることができる。混練力が強く、その後の成形加工が容易なことから、単軸押出機又は二軸押出機にてペレット状とすることが好ましい。
【0053】
樹脂組成物は、マスターバッチまたはコンパウンドのいずれの形態で使用してもよい。
マスターバッチの場合、マスターバッチを製造した後に、農業資材の主剤樹脂として、例えばマスターバッチの製造に使用したのと同じ生分解性樹脂(B)を希釈樹脂として用い、マスターバッチを配合して農業資材を製造することができる。マスターバッチの含有量としては主剤樹脂である生分解性樹脂(B)100質量部に対して、マスターバッチを1~50質量部含有することが好ましく、1~20質量部含有することがより好ましい。
このとき希釈樹脂として用いる生分解性樹脂(B)は、マスターバッチの製造に使用したものと同じであってもよいし、異なるものであってもよいが、同じ生分解性樹脂であるほうが、熱可塑性樹脂組成物と樹脂の相溶性が優れるために好ましい。
コンパウンドの場合、コンパウンドを製造した後に、コンパウンドをそのまま使用して、上述の方法で農業資材を製造することができる。
【0054】
<農業資材>
本実施形態の農業資材は、上述の農業資材用熱可塑性樹脂組成物を成形することにより得ることができる。農業資材としては、例えば、育苗ポット、マルチフィルム、容器、農業用ネットが挙げられる。
【0055】
(育苗ポット)
育苗ポットは、上述した目的で用いられる容器である。育苗ポットの成形加工方法は、特に限定されないが、例えば、加熱及び可塑化させた樹脂組成物を押し出し、それを冷却固化させずに直接金型内に入れて空気を送るブロー成形、及び、加熱及び可塑化させた樹脂組成物のシート又はフィルムを金型上に配置し金型の内側から真空吸引して成形する真空成形等が適している。
【0056】
上述の樹脂組成物からなる育苗ポットは、土壌中に埋められたのちは生分解するため、自然環境を損ねることがなく、育苗ポットから種苗を取り出して種苗を播植する手間を軽減することができる。当該育苗ポットは、種苗の育成期間である約4か月の間は分解せずに良好に育成が行われる。また、この育苗ポットは育苗用途に適した強度を有するので、取り扱いが容易であり、育苗期間中に適切な形状を保つことができる。
【0057】
(マルチフィルム)
マルチフィルム(マルチングフィルム)は、作物の株元を覆うフィルムである。上述の樹脂組成物からフィルムを成形加工する方法は、特に限定されないが、押出機を用いてTダイにて押出したフィルムをキャストロールで冷却固化する押出成形、又はインフレーション成形機により成形する方法等が適している。
【0058】
≪ブロー成形、真空成形≫
上述の樹脂組成物は、粘度調整剤(C)により溶融張力を上昇させているため、ドローダウン(予備成形された樹脂が自重に耐えられず重力方向に垂れ下がる現象)を抑制することができる。
【0059】
ブロー成形の場合、成形品が薄くなり軽くなることを抑制することができる。本実施形態の樹脂組成物は、ブロー成形することができ、例えば、ダイレクトブロー成形機にて2個1組の育苗ポットを3組連続して作製した際の、1組目の育苗ポット1個あたりの重量と3組目の育苗ポット1個あたりの重量の差を1組目の育苗ポット1個あたりの重量に対して30%未満にすることができる。また、育苗ポット1個あたりの重量が0.7~0.8g未満であればよく、0.8~0.9g未満であると好ましく、0.9g以上であることより好ましい。上述の樹脂組成物を用いることにより、ブロー成形性を得ることができる。
【0060】
例えば、成形品が育苗ポットである場合、育苗ポットが自立する程度の強度を有していればよく、育苗ポットにたわみが発生しないことが好ましい。上述の樹脂組成物を用いることにより、強度を確保した育苗ポットを得ることができる。
【0061】
真空成形の場合、シートのたわみによるシワ等の垂れに由来する外観不良部の発生を抑制することができる。例えば、成形品に垂れに由来する外観不良部があっても樹脂組成物を用いて真空成形ができればよく、外観不良部が僅かであれば好ましく、外観不良部がないことがより好ましい。上述の樹脂組成物を用いることにより、真空成形品を得ることができる。
【0062】
例えば、成形品が育苗ポットである場合、育苗ポットの脆さは、育苗ポットに1kgの土を入れ、5mの高さから落としたとき、育苗ポットの破壊が10個中3個以下であればよく、10個中1~3個以下であってもよく、1個も破壊しないことが好ましい。上述の樹脂組成物を用いることにより、強度を確保した育苗ポットを得ることができる。
【0063】
(成形品べたつき)
上述の樹脂組成物を用いて成形した成形品の表面の、JIS K7125における動摩擦係数μDは、0.5未満であればよく、0.3~0.5未満でもよく、0.3未満であることが好ましい。上述の樹脂組成物を用いることにより、べたつきを抑制した成形品を得ることができる。
【0064】
(生分解速度)
上述の樹脂組成物を用いて成形した成形品を地中に6か月間埋めたとき、成形品は分解が進み所々穴が開いていればよく、成形品が分解しバラバラになっていることが好ましい。上述の樹脂組成物を用いることにより、生分解速度を適切に調整した成形品を得ることができる。
【0065】
本実施形態によれば、農業資材用熱可塑性樹脂組成物は、生分解性を促進する澱粉(A)と溶融張力を上昇させる粘度調整剤(C)を特定量含み、かつ、可塑剤(D)を含まないため、生分解性と成形性に優れ、表面のべたつきが抑制された農業資材を得ることができる
【0066】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。
【実施例0067】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例において、「部」及び「%」は、特に断りがない場合は、それぞれ、「質量部」及び「質量%」を表す。
また、表中の配合量は、質量部で示している。尚、表中の空欄は配合していないことを表す。
なお、澱粉の平均粒径の測定方法は以下の通りである。
【0068】
<平均粒径測定>
日立製作所社製の走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて視野倍率100倍にて澱粉の粒子の観察を行い、無作為に100個の粒子を観察し、それぞれの粒子の外形の最も離れた2点間の距離を画面上のミクロンマーカの長さをもとに測定し、平均して求めた。
【0069】
次に、農業資材用熱可塑性樹脂組成物に使用した材料を以下に列挙する。
(澱粉(A))
A-1:ケミスター420(グリコ栄養食品社製、とうもろこし由来澱粉、平均粒径:15μm)
A-2:ケミスター310(グリコ栄養食品社製、キャッサバ由来澱粉、平均粒径:50μm)
A-3:FP(グリコ栄養食品社製、馬鈴薯由来澱粉、平均粒径:100μm)
【0070】
(生分解性樹脂(B))
B-1:BioPBS FZ91(PTT MCCバイオケム社製 脂肪族ポリエステル樹脂:PBS樹脂)
B-2:エコフレックスC1200(ビー・エー・エス・エフ社製 脂肪族芳香族ポリエステル樹脂:PBAT樹脂)
B-3:Ingeо Biopolymer 6252D(ネイチャーワークス社製 脂肪族ポリエステル樹脂:PLA樹脂)
【0071】
(粘度調整剤(C))
C-1:KCフロックW-50(セルロースマイクロファイバー、平均繊維長:50μm)
C-2:カルボジライトHMV-15CA(日清紡ケミカル社製、カルボジイミド化合物)
【0072】
(可塑剤(D))
D:DG(日油社製、多価アルコール、グリセリン)
【0073】
<農業資材用熱可塑性樹脂組成物の製造>
[実施例1]
(農業資材用熱可塑性樹脂組成物(コンパウンド)の製造)
澱粉(A)として(A-1)5質量部、生分解性樹脂(B)として(B-1)94.5質量部、粘度調整剤(C)として(C-1)0.5質量部を混合し、二軸押出機(日本製鋼所社製)にて190℃で押出し、造粒し農業資材用熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0074】
(育苗ポットの製造)
得られた農業資材用熱可塑性樹脂組成物を、ブロー成形又は真空成形をし、育苗ポットを得た。
【0075】
[実施例2~19、比較例1~4]
表1に示す材料と配合量(質量部)にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様の方法で農業資材用熱可塑性樹脂組成物及び育苗ポットをそれぞれ得た。
【0076】
【0077】
実施例および比較例で得られた農業資材用熱可塑性樹脂組成物及び育苗ポットを以下の基準で評価した。評価結果を表1に示す。
【0078】
<加工性評価>
農業資材用熱可塑性樹脂組成物の押出時の加工性を評価した。評価基準は下記の通りとし、〇及び△を実用可能とした。
[評価基準]
〇:1時間連続して生産した際にストランド切れが発生しない。
△:1時間連続して生産した際にストランド切れが1~5回発生する。
×:1時間連続して生産した際にストランド切れが6回以上発生する。
【0079】
<溶融粘度評価>
JIS K7199:1999に従って150℃でせん断速度243s-1における農業資材用熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度を測定した。評価基準は下記の通りとし、〇及び△を実用可能とした。
[評価基準]
○:溶融粘度が1500Pa・s以上
△:溶融粘度が1000~1500Pa・s未満
×:溶融粘度が1000Pa・s未満
【0080】
<ブロー成形性評価>
ダイレクトブロー成形機(日本プラコン株式会社製)にて150℃で2個1組の育苗ポットを3組連続して作製し、1組目の育苗ポット1個あたりの重量と3組目の育苗ポット1個あたりの重量の差(重量差)及びを育苗ポット1個あたりの重量を作製時の成形性として評価した。なお、本評価において、「ブロー成形ができる」とは、重量差が1組目の育苗ポット1個あたりの重量に対して30%未満であることをいう。評価基準は下記の通りとし、◎、〇及び△を実用可能とした。
[評価基準]
◎:ブロー成形ができ、育苗ポット1個あたりの重量が0.9g以上
○:ブロー成形ができ、育苗ポット1個あたりの重量が0.8~0.9g未満
△:ブロー成形ができ、育苗ポット1個あたりの重量が0.7~0.8g未満
×:ブロー成形できない
【0081】
<真空成形性評価>
T-ダイ成形機にて180℃で縦30cm×横30cm×厚み0.45mmのシートを成形した。成形したシートを110℃まで加熱し真空成形機にて育苗ポットを成形し、作製時の成形性を評価した。評価基準は下記の通りとし、◎、〇及び△を実用可能とした。
[評価基準]
◎:真空成形ができ、育苗ポットに垂れに由来する外観不良部がない。
○:真空成形ができ、育苗ポットに僅かに垂れに由来する外観不良部がある。
△:真空成形ができ、育苗ポットに垂れに由来する外観不良部が確認できる。
×:真空成形できない。
【0082】
<成形品強度評価>
ブロー成形性評価時に作製した育苗ポットの強度評価を行った。評価基準は下記の通りとし、〇及び△を実用可能とした。
[評価基準]
○:育苗ポットにたわみが発生せず自立している。
△:育苗ポットにたわみが発生するが自立している。
×:育苗ポットが自重に耐えられず自立できない。
【0083】
<成形品脆さ評価>
真空成形性評価時に作製した10個の育苗ポットそれぞれに1kgの土を入れ、5mの高さから落とすことで育苗ポットの脆さを評価した。評価基準は下記の通りとし、〇及び△を実用可能とした。
[評価基準]
○:10個中1個も育苗ポットが破壊しない。
△:10個中1~3個破壊が起こる。
×:10個中4個以上破壊が起こる。
【0084】
<成形品べたつき評価>
ブロー成形性評価時に作製した育苗ポット側面の動摩擦係数をJIS K7125に従って測定することで育苗ポットのべたつきの評価を行った。評価基準は下記の通りとし、〇及び△を実用可能とした。
[評価基準]
○:動摩擦係数μDが0.3未満
△:動摩擦係数μDが0.3以上0.5未満
×:動摩擦係数μDが0.5以上
【0085】
<生分解速度評価>
ブロー成形性評価時に作製した育苗ポットを地中に埋め、6か月後に掘り起こすことで生分解性を評価した。評価基準は下記の通りとし、〇及び△を実用可能とした。
[評価基準]
○:育苗ポットが分解しバラバラになっている
△:育苗ポットの分解が進み所々穴が開いている
×:育苗ポットが原型を留めている
【0086】
上記の結果より、実施例における樹脂組成物及び育苗ポットは、環境対応型であり、生分解が可能なだけでなく、表面のべたつきが抑制され、成形性にも優れることが確認できた。
澱粉(A)と、生分解性樹脂(B)と、粘度調整剤(C)と、を含む農業資材用熱可塑性樹脂組成物であって、可塑剤(D)の含有量が前記農業資材用熱可塑性樹脂組成物100質量部中0~5質量部であり、
前記生分解性樹脂(B)が脂肪族ポリエステル系樹脂と、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂とを含み、前記脂肪族ポリエステル系樹脂及び前記脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂の合計の含有量が前記生分解性樹脂(B)100質量部中80質量部以上であり、
前記澱粉(A)の含有量が前記農業資材用熱可塑性樹脂組成物100質量部中5~60質量部であり、
前記生分解性樹脂(B)の含有量が前記農業資材用熱可塑性樹脂組成物100質量部中35~94.5質量部であり、
前記粘度調整剤(C)は、前記農業資材用熱可塑性樹脂組成物の溶融張力を上昇させる粘度調整剤であり、
前記粘度調整剤(C)は、カルボジイミド化合物、セルロース繊維、及びシリカ系フィラーからなる群から選択される少なくとも1つを含み、
前記粘度調整剤(C)の含有量が前記農業資材用熱可塑性樹脂組成物100質量部中0.01~1質量部であり、
前記脂肪族ポリエステル系樹脂の含有量は、前記脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂の含有量以上である、農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
前記粘度調整剤(C)がセルロースマイクロファイバー及びカルボジイミド化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~3いずれか1項に記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。