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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014630
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】幹細胞の培養方法及び幹細胞用培養液
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/074 20100101AFI20230124BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20230124BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230124BHJP
   C12N 5/00 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
C12N5/074
C12N5/0735
C12N5/10
C12N5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118687
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】宮本 新吾
(72)【発明者】
【氏名】立花 克郎
(72)【発明者】
【氏名】平川 豊文
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BB40
4B065BC12
4B065BC18
4B065BD24
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】幹細胞の増殖を促進することができる幹細胞の培養方法を提供する。
【解決手段】還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で、幹細胞を培養することを含む幹細胞の培養方法である。還元性ガスは、水素、一酸化炭素、一酸化窒素及び硫化水素からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。また、バブルは、10nm以上1000nm以下の平均粒径を有していてよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で、幹細胞を培養することを含む幹細胞の培養方法。
【請求項2】
幹細胞の増殖を促進する請求項1に記載の培養方法。
【請求項3】
前記還元性ガスは、水素、一酸化炭素、一酸化窒素及び硫化水素からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1又は2に記載の培養方法。
【請求項4】
前記バブルは、10nm以上1000nm以下の平均粒径を有する請求項1から3のいずれか1項に記載の培養方法。
【請求項5】
前記幹細胞が、体性幹細胞、胚性幹細胞及びiPS細胞からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1から4のいずれか1項に記載の培養方法。
【請求項6】
還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で、幹細胞を培養することを含む幹細胞の分化を抑制する方法。
【請求項7】
還元性ガスを含むバブルを含む幹細胞用培養液。
【請求項8】
前記還元性ガスは、水素、一酸化炭素、一酸化窒素及び硫化水素からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項7に記載の幹細胞用培養液。
【請求項9】
前記バブルは、10nm以上1000nm以下の平均粒径を有する請求項7又は8に記載の幹細胞用培養液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞の培養方法及び幹細胞用培養液に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞(MSC)等の体性幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導性多能性幹細胞(iPS細胞)などの幹細胞は、再生医療技術のための細胞ソースとして有力な候補である。例えば、間葉系幹細胞は多分化能のみならず、未分化状態で抗炎症作用、血管新生作用、細胞増殖促進作用などを有し、再生医療ソースとして世界中で様々な疾患の治療に用いられている。しかし、幹細胞は継代を繰り返すことで、より成熟した表現系へと徐々に変化し、その細胞特性が失われていくため、実際に治療に使用できる継代数は限られている。そのため、幹細胞を、未分化状態を維持しながら、効率的に培養するための技術が望まれている。
【0003】
ところで、水素、酸素及び窒素のナノバブルを含む組成物が細胞増殖促進効果を有することが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、一酸化窒素、硫化水素、一酸化炭素等のシグナル伝達分子が、幹細胞において、自己再生、分化誘導等の種々の機能を示すことが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-63804号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ACS Biomater.Sci.Eng.2020,6,798-812.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、幹細胞の増殖を促進することができる幹細胞の培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一態様は、還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で、幹細胞を培養することを含む幹細胞の培養方法である。
【0008】
幹細胞の培養方法は、幹細胞の増殖を促進する培養方法であってよい。還元性ガスは、水素、一酸化炭素、一酸化窒素及び硫化水素からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、還元性ガスを含むバブルは、10nm以上1000nm以下の平均粒径を有していてよい。また、培養される幹細胞は、体性幹細胞、胚性幹細胞及びiPS細胞からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。
【0009】
第二態様は、還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で、幹細胞を培養することを含む幹細胞の分化を抑制する方法である。
【0010】
幹細胞の分化を抑制する方法は、幹細胞の増殖を促進する方法であってよい。還元性ガスは、水素、一酸化炭素、一酸化窒素及び硫化水素からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、還元性ガスを含むバブルは、10nm以上1000nm以下の平均粒径を有していてよい。また、培養される幹細胞は、体性幹細胞、胚性幹細胞及びiPS細胞からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。
【0011】
第三態様は、還元性ガスを含むバブルを含む幹細胞用培養液である。
【0012】
還元性ガスは、水素、一酸化炭素、一酸化窒素及び硫化水素からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、還元性ガスを含むバブルは、10nm以上1000nm以下の平均粒径を有していてよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、幹細胞の増殖を促進することができる幹細胞の培養方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】脂肪組織由来間葉系幹細胞(ASCs)の培養における継代毎の累積細胞数を示すグラフである。
図2A】3継代目のASCsについてのフローサイトメトリーの結果である。
図2B】実施例2の9継代目のASCsについてのフローサイトメトリーの結果である。
図2C】比較例1の9継代目のASCsについてのフローサイトメトリーの結果である。
図3】実施例および比較例における間葉系幹細胞数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、当該数値を任意に選択して組み合わせることが可能である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、幹細胞の培養方法及び幹細胞用培養液を例示するものであって、本発明は、以下に示す幹細胞の培養方法及び幹細胞用培養液に限定されない。
【0016】
幹細胞の培養方法
幹細胞の培養方法は、還元性ガスを含むバブルを含む培養液(以下、単に「バブル含有培養液」ともいう)中で、幹細胞を培養する培養工程を含む。還元性ガスを含むバブルを含む細胞培養液中で、幹細胞をin vitro培養することで、幹細胞の増殖を促進することができる。さらに幹細胞の分化を抑制することができ、未分化状態を維持しつつ幹細胞の増殖を促進することができる。すなわち、幹細胞の培養方法は、幹細胞の増殖を促進する方法であってよい。
【0017】
ここで「幹細胞の増殖を促進する」とは、還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で培養される幹細胞の生存及び増殖が、還元性ガスを含むバブルを含まない培養液で培養される幹細胞の生存及び増殖に比べて促進されることを意味する。具体的には、還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で所定の期間(例えば、9継代)培養した後の幹細胞数が、還元性ガスを含むバブルを含まない培養液で培養される幹細胞数に比べて、例えば5%以上、好ましくは10%以上、20%以上、40%以上、60%以上又はそれ以上に増加することを意味する。
【0018】
幹細胞の培養方法では、バブル含有培養液中で幹細胞を培養することで、幹細胞の分化を抑制することができる。すなわち、幹細胞の培養方法は、幹細胞の分化を抑制する方法であってもよい。幹細胞の分化が抑制されることは、例えば幹細胞の表面マーカーの発現を検出することで判断することができる。幹細胞で陽性となる表面マーカーとしては、例えばマウス間葉系幹細胞におけるCD105、Sca-1、CD29等を挙げることができる。また、陰性となる表面マーカーとしてはCD45等を挙げることができる。
【0019】
ここで「幹細胞の分化が抑制される」とは、幹細胞において陽性を示す細胞の表面マーカーについて、バブル含有培養液中で培養される幹細胞における表面マーカーの発現率が、バブルを含まない培養液で培養される幹細胞における表面マーカーの発現率よりも高いことを意味する。具体的には、バブル含有培養液中で所定の期間(例えば、6継代)培養した後の幹細胞における表面マーカーの発現率が、バブルを含まない培養液で培養される幹細胞における表面マーカーの発現率よりも、例えば5%以上、好ましくは8%以上高いことを意味する。
【0020】
培養方法が適用される幹細胞とは、自己複成能及び分化増殖能を有する未熟な細胞をいい、分化能力に応じて、多能性幹細胞(pluripotent stem cell)、複能性幹細胞(multipotent stem cell)、単能性幹細胞(unipotent stem cell)等が含まれる。「幹細胞」は、一般に、未分化状態を保持したまま増殖できる「自己再生能」と、三胚葉系列すべてに分化できる「分化多能性」とを有する未分化細胞と定義される。
【0021】
多能性幹細胞とは、生体を構成する全ての組織や細胞へ分化し得る能力を有する幹細胞を意味する。複能性幹細胞とは、全ての種類ではないが、複数種の組織や細胞へ分化し得る能力を有する幹細胞を意味する。単能性幹細胞とは、特定の組織や細胞へ分化し得る能力を有する幹細胞を意味する。
【0022】
幹細胞の由来種は、特に限定されず、例えば、ラット、マウス、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の有蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の霊長類などを挙げることができる。幹細胞の由来種は、ヒトであってもよく、非ヒト哺乳動物であってもよい。
【0023】
幹細胞の具体例としては、筋芽細胞、血管内皮細胞、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、心筋細胞、軟骨細胞等へ分化する間葉系幹細胞、ニューロンやグリア細胞へ分化する神経幹細胞、白血球、赤血球、血小板、肥満細胞、樹状細胞等へ分化する造血幹細胞又は骨髄幹細胞、スフェロイド状態から胚様体(EB体)と呼ばれる擬似的な胚の形成を経て様々な組織への分化・誘導のステップに進むことが知られている胚性幹細胞(ES細胞)、誘導性多能性幹細胞(iPS細胞)、始原生殖細胞に由来する胚性生殖(EG)細胞、精巣組織からのGS細胞の樹立培養過程で単離されるmultipotent germline stem(mGS)細胞、骨髄から単離されるmultipotent adult progenitor cell(MAPC)等の多能性幹細胞などが挙げられる。
【0024】
多能性幹細胞としては、特に、ES細胞、iPS細胞を挙げることができる。体細胞の核を核移植することによって作製された初期胚を培養することによって樹立した幹細胞も、多能性幹細胞としてまた好ましい。
【0025】
ヒトES細胞株は、例えばWA01(H1)およびWA09(H9)は、WiCell Research Instituteから、KhES-1、KhES-2及びKhES-3は、京都大学再生医科学研究所(京都、日本)から入手可能である。
【0026】
iPS細胞としては、例えば、皮膚細胞等の体細胞に複数の遺伝子(初期化因子)を導入して得られる、ES細胞様の多分化能を獲得した細胞が挙げられる。例えばOct3/4遺伝子、Klf4遺伝子、C-Myc遺伝子及びSox2遺伝子を導入することによって得られるiPS細胞、Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子及びSox2遺伝子を導入することによって得られるiPS細胞等が挙げられる。
【0027】
複能性幹細胞としては、特に、間葉系幹細胞、造血系幹細胞、神経系幹細胞、骨髄幹細胞及び生殖幹細胞等の体性幹細胞等が挙げられる。複能性幹細胞として、好ましくは間葉系幹細胞である。なお、間葉系幹細胞とは、骨芽細胞、軟骨芽細胞及び脂肪芽細胞等の間葉系の細胞全て又はいくつかへの分化が可能な幹細胞又はその前駆細胞の集団を広義に意味する。間葉系幹細胞としてより具体例には、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(例えば、hMSC-BM;Takara)、ヒト臍帯マトリックス由来間葉系幹細胞(例えば、hMSC-UC;Takara)、ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(例えば、hMSC-AT;Takara)などを挙げることができる。
【0028】
幹細胞の培養は、還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で行われる。バブルを含有させる培養液は、幹細胞の培養が可能である細胞培養液であれば特に制限されない。幹細胞用の細胞培養液としては、例えば、RPMI-1640培地、EagleのMEM培地、ダルベッコ改変MEM培地、Glasgow’s MEM培地、α-MEM培地、199培地、IMDM培地、DMEM培地、Hybridoma Serum free培地、Chemically Defined Hybridoma Serum Free培地(インビトロジェン社)、MEMα/GlutaMax(Gibco社)、Ham’s Medium F-12、Ham’s Medium F-10、Ham’s Medium F12K、ATCC-CRCM30、DM-160、DM-201、BME、Fischer、McCoy’s 5A、Leibovitz’s L-15、RITC80-7、MCDB105、MCDB107、MCDB131、MCDB153、MCDB201、NCTC109、NCTC135、Waymouth’s MB752/1、CMRL-1066、Williams’ medium E、Brinster’s BMOC-3 Medium、Essential8 Medium(以上、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)、mTeSR1(ステムセルテクノロジーズ社)、TeSR-E8 medium(ステムセルテクノロジーズ社)、StemSure(富士フイルム和光純薬社)、mESF培地(富士フイルム和光純薬社)、StemFit(味の素社)、S-medium(DSファーマ社)、ReproXF(リプロセル社)、PSGro-free Human iPSC/ESC Growth Medium(StemRD社)、hPSC Growth Medium(タカラバイオ社)、ReproFF2(リプロセル社)、EX-CELL 302培地(SAFC社)、EX-CELL-CD-CHO(SAFC社)、STEMdiff APEL Medium(ステムセルテクノロジーズ社)及びこれらの混合物などが挙げられる。培養液には、必要に応じて、血清、血清代替物、血漿、血清アルブミン、タンパク質、成長因子、サイトカイン、ホルモン、アミノ酸、ビタミン、抗生物質等の添加剤がさらに含まれていてもよい。
【0029】
培養液が含むバブルを構成する気体としては、例えば、幹細胞の増殖促進の観点から、還元性ガスであってよい。還元性ガスとしては、例えば水素、一酸化炭素、一酸化窒素、硫化水素、二酸化硫黄等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、水素、一酸化炭素、一酸化窒素及び硫化水素からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。バブルを構成する気体は、窒素、酸素、二酸化炭素等を含んでいてもよく、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、シクロプロパン、シクロブタン、シクロブタン、エチレン、プロピレン、プロパジエン、ブテン、アセチレン、プロピン等の炭素数が5以下の低分子炭化水素を含んでいてもよい。バブルを構成する気体は1種のみであってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。バブルを構成する気体中の還元性ガスの含有率は、例えば、60体積%以上であってよく、好ましくは80体積%以上、90体積%以上、又は95体積%以上であってよく、実質的に還元性ガスのみであってもよい。ここで「実質的に」とは、不可避的に混入する還元性ガス以外のその他のガスを排除しないことを意味し、具体的にはその他のガスの含有率が5体積%未満、又は1体積%未満であることを意味する。
【0030】
培養液が含むバブルは、ウルトラファインバブル又はナノバブルであってよく、その平均粒径は、例えば10nm以上1000nm以下であってよく、好ましくは50nm以上500nm以下、又は100nm以上300nm以下であってもよい。また、バブルの平均粒径は、例えば10nm以上100nm以下、好ましくは10nm以上50nm以下であってもよい。培養液が含むバブルの含有量(個数)は、例えば1×10個(particles)/ml以上であってよく、好ましくは1×10個/ml以上、5×10以上、又は1×10個/ml以上であってよい。培養液が含むバブルの個数の上限は、例えば、1×1011個/ml以下であってよく、好ましくは1×1010個/ml以下であってよい。
【0031】
バブルの平均粒径は、例えば、例えば、レーザー回折・散乱法、ナノ粒子トラッキング解析法、電気抵抗法、AFM(Atomic Force Microscope)、レーザー顕微鏡による観測等により測定することができる。レーザー回折・散乱法による測定装置としては、例えばベックマン・コールター社製のフローサイトメーター(商品名:CytoFlex)等を挙げることができる。ナノ粒子トラッキング解析法による測定装置としては、Malvern社製のナノ粒子解析システム(商品名:Nonosight)等を挙げることができる。また、AFMを測定する装置としては、例えば、Malvern社製の共振式粒子計測システム(商品名:アルキメデス)を用いることができる。
【0032】
培養液中にバブル発生させる技術としては、例えば、旋回液流式、スタティックミキサー式、ベンチュリー式、加圧溶解式、細孔式等を挙げることができる。また、製造容器内に培養液を注入し、所望の気体を封入した状態で、製造容器を振動させることで培養液中にバブルを発生させてもよい。
【0033】
具体的には以下のようにして、培養液内にバブルを発生させることができる。培養液内にバブルを発生させる方法は、製造容器を準備することと、培養液を製造容器の所定の高さまで注入することと、製造容器内に所望のガスを充填させた状態で製造容器を密閉することと、所定の回転数で製造容器を振動させることと、を含んでいてよい。
【0034】
製造容器として、開口部を有し、培養液を収容する容器本体と、容器本体を密閉可能な蓋とを備える製造容器を準備する。容器本体は、例えば、外形が有底円筒状をなしていてよい。具体的には、例えば、容量が0.5mlから20ml程度のバイアル瓶を用いることができる。バイアル瓶の寸法は、例えば長手方向の長さXが、35mmから60mm程度であり、外径が、10mmから40mm程度であってよい。蓋は、容器本体の開口部に密着する円盤状のゴム栓(セプタム)と、ゴム栓を容器本体に固定する締付部とを備えていてよい。ゴム栓は、例えば、シリコン製のゴム栓であってよい。締付部は、ゴム栓の縁部を覆うように構成され、その平面視で略中央に開口部を有していてよい。
【0035】
容器本体には、所定の高さまで培養液が注入される。培養液が注入された容器本体を水平に静置した状態において、容器本体の高さ(長手方向の長さ)をX[mm]とし、容器本体における培養液の液面の高さをY[mm]とすると、0.2≦Y/X≦0.7の関係を満足してよい。この状態であれば、容器本体に収容された培養液の上に、十分な大きさの空隙部が存在することになる。この状態で製造容器を振動させることで、培養液を製造容器の上下面および側面に、より勢いよく衝突させることができる。この衝突により、培養液中に衝撃波が生じ、培養液中にバブルを容易に形成することができる。
【0036】
培養液を注入した容器本体は、所望の気体が充填された状態で密閉される。具体的には、培養液が注入された容器本体の空隙部を、所望の気体でパージした後、蓋を容器本体の開口部に締付ける。これにより、製造容器内に培養液と所望の気体とが密閉される。容器本体の空隙部を所望の気体でパージする方法としては、例えば、培養液が注入された容器本体をチャンバー内に移動させ、チャンバー内の空気を所望の気体で置換した後、蓋を容器本体の開口部に締付ける方法を挙げることができる。密封された製造容器は、所望の気体で加圧された状態であってもよい。密封された製造容器内に、注射器等を用いて所望の気体を追加することで、密封された製造容器内を加圧状態にすることができる。
【0037】
培養液と所望の気体が密封された製造容器を振動させることで、培養液中にバブルが発生する。製造容器の振動は、例えば、製造容器の略長手方向における往復運動であってよい。これにより、培養液が製造容器内を上下に移動して製造容器の上下面および側面に繰り返し衝突することになる。培養液が製造容器の内面に衝突すると培養液内に衝撃波が発生し、その圧力により気体が培養液中に微分散して、バブルが形成される。振動数は、例えば5000rpm以上であればよく、好ましくは6000rpm以上20000rpm以下、又は6000rpm以上7000rpm以下であってよい。
【0038】
製造容器の長手方向の振動幅は、例えば0.7X[mm]以上1.5X[mm]以下程度であってよく、好ましくは0.8X[mm]以上1X[mm]以下程度である。製造容器を振動させる時間は、例えば10秒以上120秒以下程度であってよく、好ましくは30秒以上90秒以下程度である。振動時間を上記範囲内とすることにより、培養液が製造容器と衝突する回数が十分に多くなるため、培養液中に、多量のバブルを生成させることができる。なお、振動時間を上記範囲内で長く設定することにより、培養液中に生成されるバブルの量をより多くすることができる。製造容器の振動は、振動時間を分割して実施してもよい。例えば、5秒以上30秒以下の振動を3回から10回程度繰り返して、製造容器を振動させてもよい。
【0039】
製造容器を振動させることができる装置としては、例えば、ビーズ方式の高速細胞破砕システム(ホモジナイザー)を用いることができる。具体例としては、バーティンテクノロジーズ(bertin Technologies)社製のプレセリーズ(R)(Precellys)等を用いることができる。なお、培養液中にバブルを生成する方法の詳細については、例えば、国際公開第2016/163439号の明細書等を参照することができる。
【0040】
幹細胞の培養方法は、バブル含有培養液中で幹細胞を培養する培養工程を含む。培養工程では、バブル含有培養液を用いて、バッチ培養、流加培養、連続培養、灌流培養等により、幹細胞を培養する。バッチ培養は、培養中の培養槽にバブル含有培養液を補給せずに培養する方法である。流加培養は、培養中の培養槽にバブル含有培養液を補給しながら培養する方法である。連続培養は、培養中の培養槽からバブル含有培養液の一部を引き抜き、引き抜き量相当分のバブル含有培養液を補給しながら培養する方法である。灌流培養は、培養中の培養槽から液分のみを引き抜き、引き抜き量相当分のバブル含有培養液を補給しながら培養する方法である。
【0041】
培養工程に用いられる培養器は、特に限定されない。培養器としては、フラスコ、ディッシュ、シャーレ、マイクロウエルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、チューブ、トレイ、培養バック又はタンクなどの培養槽などが挙げられる。これらの培養器の基材としては、例えば、ガラス、ポリプロピレン及びポリスチレンなどの各種プラスチック、ステンレスなどの金属又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0042】
培養工程は、接着培養であってもよいし、浮遊培養であってもよい。接着培養では、コラーゲン、ゼラチン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ラミニン、ラミニンの一部構造体、フィブロネクチン及びこれら混合物(例えばマトリゲル)などの足場材料を培養器の基材表面にコーティングすることで、基材表面に足場を形成した培養器を用いる。これにより、基材表面への足場依存性細胞の接着を誘導することができる。幹細胞の接着培養では、フィーダー細胞の存在下で培養してもよい。フィーダー細胞には、胎児線維芽細胞等のストローマ細胞を用いることができる。
【0043】
幹細胞の浮遊培養とは、培養液中において、足場が形成された培養器、フィーダー細胞等を用いずに、非接着性の条件下で幹細胞を培養することをいう。浮遊培養には、メチルセルロースなどの高分子ポリマー、MFG-E8(Milk fat globule-EGF factor 8)又は該タンパク質の断片を用いることができる。幹細胞の浮遊培養としては、幹細胞の分散培養、幹細胞の凝集浮遊培養等が挙げられる。幹細胞の分散培養とは、懸濁された幹細胞を培養することをいい、例えば、2以上20以下の幹細胞からなる小さな細胞塊を用いる分散培養が挙げられる。分散培養を継続した場合、培養された分散細胞がより大きな幹細胞塊を形成し、その後凝集浮遊培養が実行され得る。凝集浮遊培養としては、胚様体培養法、メッシュフィルターを用いて機械的処理により細胞株を継代させるスフェア培養法等が挙げられる。
【0044】
培養される幹細胞は、分散細胞であってもよいし、非分散細胞であってもよい。分散細胞とは、細胞分散を促進するために処理された細胞をいう。分散細胞としては、例えば、2以上50以下、2以上20以下、又は2以上10以下の細胞からなる小さな細胞塊を形成している細胞が挙げられる。分散細胞は、浮遊(懸濁)細胞又は接着細胞であってよい。
【0045】
幹細胞の培養密度は、細胞の生存及び増殖を促進する効果を達成し得るような密度であればよい。培養密度は、例えば1.0×10cells/ml以上1.0×10cells/ml以下、好ましくは1.0×10cells/ml以上1.0×10cells/ml、1.0×10cells/ml以上1.0×10cells/ml以下、又は3.0×10cells/ml以上1.0×10cells/ml以下であってよい。
【0046】
温度、溶存CO濃度、溶存酸素濃度、pHなどの培養条件は、動物組織に由来する細胞の培養に従来用いられている技術に基づいて適宜設定できる。例えば、培養温度は、例えば33℃以上39℃以下、又は36℃以上37℃以下であってよい。溶存CO濃度は、例えば1%以上10%以下、又は2%以上5%以下であってよい。酸素分圧は、例えば10%以上22%以下であってよい。
【0047】
幹細胞を含む細胞組成物の製造方法
幹細胞の培養方法は、幹細胞を含む細胞組成物の製造方法に応用できる。幹細胞を含む細胞組成物の製造方法は、還元性ガスを含むバブルを含む培養液中で幹細胞を培養する培養工程を含み、必要に応じて幹細胞を継代する継代工程を含んでいてよい。
【0048】
細胞組成物は、さらなる幹細胞の培養のため、あるいは再生医療用の細胞ソースのために利用され得る。また、細胞組成物は、小さな細胞塊のような分散した幹細胞を含む組成物であってよい。細胞組成物は、例えば、凍結保存による幹細胞の保存、輸送、及び継代に用いられてよい。凍結保存等の保存に用いられる場合、細胞組成物は血清あるいはその代替物、又はDMSO等の有機溶剤をさらに含んでいてもよい。さらに細胞組成物は、フィーダー細胞等を含むものであってもよい。
【0049】
幹細胞用培養液
幹細胞用培養液は、還元性ガスを含むバブルを含む細胞培養液である。幹細胞用培養液が含むバブルはウルトラファインバブル又はナノバブルであってよい。幹細胞用培養液中で幹細胞を培養することにより、培養される幹細胞の増殖を促進することができる。また、幹細胞の分化を抑制し、未分化状態を維持しながら、幹細胞の増殖を促進することができる。
【0050】
幹細胞用培養液は、通常用いられる細胞培養液中に還元性ガスを含むバブルを生成することで調製することができる。バブルを構成する気体の詳細、バブルの生成方法については既述の通りである。また、バブルを生成させる細胞培養液は、幹細胞の培養に好適に用いられる細胞培養液であってよく、細胞培養液の具体例は既述の通りである。
【0051】
幹細胞用培養液が含むバブルを構成する気体としては、例えば、幹細胞の増殖促進の観点から、還元性ガスであってよい。還元性ガスは例えば、水素、一酸化炭素、一酸化窒素及び硫化水素からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。バブルを構成する気体は、窒素、酸素、二酸化炭素等を更に含んでいてもよい。
【0052】
幹細胞用培養液が含むバブルの平均粒径は、例えば10nm以上1000nm以下であってよく、好ましくは50nm以上500nm以下、又は100nm以上300nm以下であってもよい。また、バブルの平均粒径は、例えば10nm以上100nm以下、好ましくは10nm以上50nm以下であってもよい。細胞培養液が含むバブルの含有量(個数)は、例えば1×10個(particles)/ml以上であってよく、好ましくは1×10個/ml以上、5×10個/ml以上、又は1×10個/ml以上であってよい。培養液が含むバブルの個数の上限は、例えば、1×1011個/ml以下であってよく、好ましくは1×1010個/ml以下であってよい。
【実施例0053】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
参考例 脂肪組織由来間葉系幹細胞の調製
マウス(ICR、雌、5週齢)の両肢の皮下から、マウス脂肪組織を採取した。採取した脂肪組織1gから2gに対して10mlの0.2%コラゲナーゼ溶液(GIBCO 17100-017)を加えて脂肪組織を浸漬した状態で、はさみで細切りにした。細切りにした脂肪組織に0.2%コラゲナーゼ溶液20mlを加え、37℃で120rpm、1時間振とうした。その後、セルストレーナー(FALCON社製、REF 352360)で濾過し、濾液を400Gで5分間遠心処理した。上清を除去し、得られたペレットをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)10mlに懸濁して400Gで5分間遠心処理することを3回繰り返して細胞ペレットを得た。得られた細胞ペレットをマウスADRCsとした。マウスADRCsを、培地としてMEMα/GlutaMax(Gibco社製)を用い、37℃、5%COで5日間、培養を行い、3継代後に脂肪組織由来間葉系幹細胞(ASCs)を得た。なお、培地交換は3日ごとに行った。
【0055】
実施例1
幹細胞用の培養液としてMEMα/GlutaMAXを準備した。1mlのMEMα/GlutaMAXを容量2mlのバイアル瓶に入れ、一酸化炭素でパージしてから蓋を挿着して密封した。次いで注射器を使ってバイアル瓶内に1mlの一酸化炭素を加えた。密封したバイアル瓶をbertin Technologies社製のPrecellys(R)(高速細胞破砕システム)を用いて、6500rpmで10秒間振動させることを6フェーズ繰り返して、一酸化炭素バブルを含む培養液を得た。なお、温度上昇を避けるため、各フェーズ間に20秒の休止時間を設けた。
【0056】
ナノ粒子解析システム(NanoSight;Malvern社製)を用いて、バブル含有培養液に含まれるバブルのバブル径分布測定を行った。バブルの平均粒径は164.2nmであった。また、バブルの含有量は5.12×10個/mlであった。
【0057】
実施例2
実施例1で得られた一酸化炭素バブルを含む培養液を用い、100mmディッシュに5×10個のASCsを播種し、2日毎に培地交換、継代を行った。継代毎に細胞数をカウントし、累積細胞数を算出した。培養は3継代のASCsから開始し、9継代まで6回の継代を行った。
【0058】
継代毎の累積細胞数をNBとして図1に示す。また、9継代目のASCsの累積細胞数は2.19×10個であった。なお、有意差検定はマン・ホイットニーのU検定により行った。
【0059】
比較例1
培養液として、一酸化炭素バブルを含まないMEM/GlutaMAX培養液(20%FBS含有)を用いたこと以外は、実施例2と同様にしてASCsを培養した。
【0060】
継代毎の累積細胞数をControlとして図1に示す。また、9継代目のASCsの累積細胞数は1.17×10個であった。
【0061】
評価
上記の実施例2および比較例1で使用した3継代目および9継代目のそれぞれのASCsを、マウス間葉系幹細胞(MSC)の表面マーカー(陽性:CD105,Sca-1,CD29;陰性:CD45)をそれぞれ蛍光色素で染色後にフローサイトメトリーを行い、それぞれのASCsに含まれているMSCの割合を算出した。
【0062】
結果を図2Aから図2Cに示す。図2Aは、培養を開始する3継代目のASCsのフローサイトメトリーの結果である。図2Bは、実施例2の9継代目のASCsのフローサイトメトリーの結果である。図2Cは、比較例1の9継代目のASCsのフローサイトメトリーの結果である。培養開始した3継代目のASCsのMSC含有率は50.7%であった。比較例1の9継代目の対照群のMSC含有率は31.7%まで低下したのに対して、実施例2において、一酸化炭素を保持したナノバブルを含有したMEM/GlutaMAX培地を使用した場合のMSC含有率は40.2%に留まった。
【0063】
次に、ASCs細胞数とMSCの含有率を掛け合わせ、MSCの絶対数を比較した。結果を図3に示す。3継代目(P3)のASCs中のMSC数は2.5×10であった。9継代目のASCs中のMSC数は、比較例1の対照群(Control-P3)が3.6×10個で、実施例2のナノバブル群(NB-P3)が8.8×10個であった。
【0064】
以上の結果から、ASCsの培養において、還元性ガスを含むバブルを含有した培養液を使用することで、幹細胞の増殖能を促進することができ、かつMSCからの分化を抑制することができることが分かる。
図1
図2A
図2B
図2C
図3