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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146302
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】車輪装置及び台車
(51)【国際特許分類】
   B62B 3/00 20060101AFI20231004BHJP
   B62B 3/02 20060101ALI20231004BHJP
   B62B 5/00 20060101ALI20231004BHJP
   B60B 19/00 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
B62B3/00 A
B62B3/02 G
B62B5/00 J
B60B19/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053426
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】村上 順也
【テーマコード(参考)】
3D050
【Fターム(参考)】
3D050AA01
3D050BB02
3D050DD03
3D050EE18
(57)【要約】
【課題】台車の前後輪、車いすの前輪等としての用に供される、段差のような障害の乗り越えを可能とする新たな車輪装置及び該車輪装置を備える台車を提供すること。
【解決手段】車輪装置10は、取付部材16と、取付部材に支持された長円形の断面形状を有するすり鉢形の板体18と、板体にその周方向へ移動可能に支持された複数のランナー20及び複数の補助ランナー22と、ランナーに支持された車輪24とを備える。板体は、すり鉢形の周面に沿ってその周方向へ伸びる2つの平板部及び両平板部にそれぞれ連なる2つの湾曲板部からなる。両平板部はそれぞれ車輪装置の走行路面に対して上位及び下位の高さ位置にありかつ走行路面に対して垂直及び平行をなす。車輪24は、これを支持するランナーが上位の平板部18aに位置するとき走行路面に対して平行な状態におかれまた下位の平板部18bに位置するとき走行路面に対して直立する状態におかれる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪装置であって、
取付部材と、
前記取付部材に支持された、長円形の断面形状を有するすり鉢形の周面に沿ってその周方向へ伸びる2つの平板部及び両平板部にそれぞれ連なる2つの湾曲板部からなる板体であって両平板部及び両湾曲板部が互いに相対する大小2つの長円形の開口をそれぞれ規定する頂面及び底面と、前記頂面及び底面にそれぞれ連なる、互いに相対する内周面及び外周面とを有し、両平板部がそれぞれ前記車輪装置の走行路面に対して上位の高さ位置及び下位の高さ位置にありかつ前記走行路面に対して垂直及び平行をなす板体と、
前記板体にその周方向へ移動可能に支持された複数のランナーであって前記板体の周方向に互いに等間隔をおいて配置されかつ隣接する2つのランナーがワイヤを介して互いに連結された複数のランナーと、
前記複数のランナーにそれぞれ支持された複数の車輪とを備え、
各車輪は、これを支持する各ランナーが前記板体の上位の平板部に位置するとき前記走行路面に対して平行な状態におかれまた前記板体の下位の平板部に位置するとき前記走行路面に対して直立する状態におかれる、車輪装置。
【請求項2】
車輪装置であって、
取付部材と、
前記取付部材に支持された、長円形の断面形状を有するすり鉢形の周面に沿ってその周方向へ伸びる2つの平板部及び両平板部にそれぞれ連なる2つの湾曲板部からなる板体であって両平板部及び両湾曲板部が互いに相対する大小2つの長円形の開口をそれぞれ規定する頂面及び底面と、前記頂面及び底面にそれぞれ連なる、互いに相対する内周面及び外周面とを有し、両平板部がそれぞれ前記車輪装置の走行路面に対して上位の高さ位置及び下位の高さ位置にありかつ前記走行路面に対して垂直及び平行をなす板体と、
前記板体にその周方向へ移動可能に支持された複数のランナー及び複数の補助ランナーであって前記周方向へ交互にかつ互いに等間隔をおいて配置され、また互いに隣接する前記ランナー及び前記補助ランナーがワイヤを介して互いに連結された複数のランナー及び複数の補助ランナーと、
前記複数のランナーにそれぞれ支持された複数の車輪とを備え、
各車輪は、これを支持する各ランナーが前記板体の上位の平板部に位置するとき前記走行路面に対して平行な状態におかれまた前記板体の下位の平板部に位置するとき前記走行路面に対して直立する状態におかれる、車輪装置。
【請求項3】
前記板体の上位及び下位の各平板部は、それぞれ、2つのランナーが存することを許容する長さ寸法を有する、請求項1又は2に記載の車輪装置。
【請求項4】
前記ランナーは、前記板体の大小2つの開口の側においてそれぞれ前記内周面上を転動可能である2つの転動輪と、前記板体の頂面上を転動可能である1つの転動輪と、前記大小2つの開口の側においてそれぞれ前記外周面上を転動可能である2対の転動輪とを有する、請求項1に記載の車輪装置。
【請求項5】
前記ランナーは、前記板体の大小2つの開口の側においてそれぞれ前記内周面上を転動可能である2つの転動輪と、前記板体の頂面上を転動可能である1つの転動輪と、前記大小2つの開口の側においてそれぞれ前記外周面上を転動可能である2対の転動輪とを有し、
前記補助ランナーは、前記大小2つの開口の側においてそれぞれ前記内周面上を転動可能である1つの転動輪及び滑動可能である滑動部と、前記板体の頂面上を転動可能である1つの転動輪と、前記大小2つの開口の側においてそれぞれ前記外周面上を転動可能である2つの転動輪とを有する、請求項2に記載の車輪装置。
【請求項6】
前記ワイヤは、前記板体の外周面に設けられその周方向へ伸びる凹部内に配置されている、請求項1又は4に記載の車輪装置。
【請求項7】
前記ワイヤは、前記板体の外周面に設けられその周方向へ伸びる凹部内に配置されている、請求項2又は5に記載の車輪装置。
【請求項8】
前記ランナーの数は4である、請求項1に記載の車輪装置。
【請求項9】
前記ランナーの数及び前記補助ランナーの数はそれぞれ4である、請求項2に記載の車輪装置。
【請求項10】
前部及び後部を有する板状の荷台と、
前記荷台の下面に取り付けられ前記荷台の前部及び後部にそれぞれ位置する2対の請求項1に記載の車輪装置とを備え、
各対の車輪装置はその板体の上位の平板部が、前記荷台の前後方向に直交する幅方向に関して互いに相対するように配置されている、台車。
【請求項11】
前部及び後部を有する板状の荷台と、
前記荷台の下面に取り付けられ前記荷台の前部及び後部にそれぞれ位置する2対の請求項2に記載の車輪装置とを備え、
各対の車輪装置はその板体の上位の平板部が、前記荷台の前後方向に直交する幅方向に関して互いに相対するように配置されている、台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台車の前後輪、車いすの前輪等としての用に供される車輪装置及び該車輪装置を備える台車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、台車の障害乗り越えを可能とする車輪装置が提案されている。この提案に係る車輪装置は、円形、楕円形、長円形等の環状溝が設けられた平板状部材と、平板状部材の環状溝内に該環状溝に沿って移動可能に配置された無端のチェーンと、互いに等間隔に配置されかつチェーンに支持された複数の車輪とを備える。車輪装置は台車の荷台の各側部に取り付けられ、台車は各車輪装置の複数の車輪のうちの2つの車輪を介して路面上に走行可能に支持される。
【0003】
これによれば、台車がその前進走行中にその進行を妨げる段差のような障害に遭遇し、台車を支持する複数の車輪のうちの1つの車輪が障害に突き当たったとき、台車に前進方向力を加えると、平板状部材の前方への平行移動と環状溝に対する車輪の周方向位置の変化とが生じる。その結果、他の1つの車輪が障害の先において路面上に着地し、これにより障害の乗り越えが行われる。
【0004】
ところで、前記従来の提案に係る車輪装置は台車の幅寸法を実質的に増大させ、これが台車の走行上の阻害要因となるおそれがある。また、この阻害要因を解消するためには、車輪装置を台車の荷台下に配置することが考えられる。しかし、車輪装置はその板状部材を直立した状態で配置する必要があるため、車輪装置を荷台下に配置するときは台車の車高が比較的高くなり、荷物を積んだ台車の走行安定性や、荷物の積み下ろしの作業性等の低下を招くおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭48-76240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、台車の前後輪、車いすの前輪等としての用に供される、段差のような障害の乗り越えを可能とする新たな車輪装置及び該車輪装置を備える台車を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車輪装置は、その一の実施の形態として、取付部材と、前記取付部材に支持された、長円形の断面形状を有するすり鉢形の周面に沿ってその周方向へ伸びる2つの平板部及び両平板部にそれぞれ連なる2つの湾曲板部からなる板体であって両平板部及び両湾曲板部が互いに相対する大小2つの長円形の開口をそれぞれ規定する頂面及び底面と、前記頂面及び底面にそれぞれ連なる、互いに相対する内周面及び外周面とを有し、両平板部がそれぞれ前記車輪装置の走行路面に対して上位の高さ位置及び下位の高さ位置にありかつ前記走行路面に対して垂直及び平行をなす板体と、前記板体にその周方向へ移動可能に支持された複数のランナーであって前記板体の周方向に互いに等間隔をおいて配置されかつ隣接する2つのランナーがワイヤを介して互いに連結された複数のランナーと、前記複数のランナーにそれぞれ支持された複数の車輪とを備える。各車輪は、これを支持する各ランナーが前記板体の上位の平板部に位置するとき前記走行路面に対して平行な状態におかれまた前記板体の下位の平板部に位置するとき前記走行路面に対して直立する状態におかれる。ここに、本発明において「長円形」とは、互いに相対する2つの直線と両直線にそれぞれ連なる2つの半円とからなる角丸長方形をいう。
【0008】
また、本発明に係る車輪装置は、他の実施の形態として、前記複数のランナーに加えて、さらに、複数の補助ランナーを備える。複数のランナー及び複数の補助ランナーは前記板体にその周方向へ移動可能に支持され、前記板体の周方向へ交互にかつ互いに等間隔をおいて配置され、また互いに隣接する前記ランナー及び前記補助ランナーがワイヤを介して互いに連結されている。
【0009】
一及び他の各実施の形態に係る車輪装置は、その取付部材を介して例えば台車の荷台に取り付けられる。このとき、前記車輪装置はその板体の両湾曲板部が前記台車の進行方向における前後にそれぞれ位置し、また、両平板部がそれぞれ前記台車の進行方向へ伸長する状態におかれる。前記台車の荷台は、前記板体の下位の平板部に位置するランナーに支持され直立した状態にある車輪を介して路面上に走行可能に支持される。
【0010】
前記台車がその走行中、その進行を妨げる段差のような障害に遭遇し、走行路面上を転動する車輪の1つが前記障害に突き当たったときは、前記台車にその進行方向への外力を加えると、進行方向前方への前記板体の平行移動と、前記板体の周方向における各ランナー及びこれに支持された車輪の位置(周方向位置)の変化、換言すると前記板体に対する該板体の周方向への各ランナー及びこれに支持された車輪の相対移動とが生じる。これにより、前記障害の前方において他の1つの車輪が路面上に接地し、これにより障害の乗り越えが行われる。前記他の実施の形態における車輪装置の補助ランナーは、前記障害の乗り越えの間における前記車輪を支持するランナーに対する前記板体の相対移動をより円滑にする働きをなす。
【0011】
前記一及び他の各実施の形態に係る車輪装置は、前記台車の荷台の下面に取り付けることができる。前記車輪装置において前記板体は、その両平板部が前記車輪装置の走行路面に対して上位の高さ位置及び下位の高さ位置にありかつ前記走行路面に対して垂直及び平行をなしていることから、前記走行路面に対して傾斜した状態におかれる。このため、前記板体が前記走行路面に対して直立した状態におかれる場合と比べて、前記台車の荷台と前記走行路面との間の距離を比較的小さくすること、すなわち台車の車高を比較的低くすることができる。また、前記車輪装置の各車輪は、これを支持する各ランナーが前記走行路面に対して垂直をなす前記板体の上位の平板部に位置するとき、前記走行路面に対して平行な状態におかれ、前記台車の荷台下における移動を許容される。
【0012】
前記一及び他の各実施の形態に係る車輪装置において、前記板体の上位及び下位の両平板部は、それぞれ、好ましくは2つのランナーが存することを許容する長さ寸法を有する。これによれば、前記車輪装置の2つの車輪による二輪走行が可能である。
【0013】
前記一の実施の形態に係る車輪装置において、前記ランナーは、前記板体の大小2つの開口の側においてそれぞれ前記内周面上を転動可能である2つの転動輪と、前記板体の頂面上を転動可能である1つの転動輪と、前記大小2つの開口の側においてそれぞれ前記外周面上を転動可能である2対の転動輪とを有するものとすることができる。また、前記ワイヤは、前記板体の外周面に設けられその周方向へ伸びる凹部内に配置されているものとすることができる。前記ランナーの数は4とすることができる。
【0014】
また、前記他の実施の形態に係る車輪装置において、前記ランナーは、前記板体の大小2つの開口の側においてそれぞれ前記内周面上を転動可能である2つの転動輪と、前記板体の頂面上を転動可能である1つの転動輪と、前記大小2つの開口の側においてそれぞれ前記外周面上を転動可能である2対の転動輪とを有し、前記補助ランナーは、前記大小2つの開口の側においてそれぞれ前記内周面上を転動可能である1つの転動輪及び滑動可能である滑動部と、前記板体の頂面上を転動可能である1つの転動輪と、前記大小2つの開口の側においてそれぞれ前記外周面上を転動可能である2つの転動輪とを有するものとすることができる。また、前記ワイヤは、前記板体の外周面に設けられその周方へ伸びる凹部内に配置されているものとすることができる。前記ランナーの数及び前記補助ランナーの数はそれぞれ4とすることができる。
【0015】
本発明は、また、前記一の実施の形態に係る車輪装置を有する台車(一の台車)及び前記他の実施の形態に係る車輪装置を有する台車(他の台車)を提供する。
【0016】
前記一の台車は、前部及び後部を有する板状の荷台と、前記荷台の下面に取り付けられ前記荷台の前部及び後部にそれぞれ位置する前記一の実施の形態に係る2対の車輪装置とを備える。各対の車輪装置はその板体の上位の平板部が、前記荷台の前後方向に直交する幅方向に関して互いに相対するように配置されている。
【0017】
また、他の台車は、前部及び後部を有する板状の荷台と、前記荷台の下面に取り付けられ前記荷台の前部及び後部にそれぞれ位置する前記他の実施の形態に係る2対の車輪装置とを備える。各対の車輪装置はその板体の上位の平板部が、前記荷台の前後方向に直交する幅方向に関して互いに相対するように配置されている。
【0018】
前記一の台車及び前記他の台車のいずれにおいても、各対の車輪装置について、これらの板体の上位の平板部を、前記荷台の前後方向に直交する幅方向に関して互いに相対するように配置することにより、前記車輪装置を前記荷台の幅寸法内に収めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】台車(取付対象)に取り付けられた4つの車輪装置の斜視図である。
図2】直立する2つの車輪を介して路面上を走行可能の状態にある車輪装置の斜視図である。
図3】車輪装置の正面図である。
図4】車輪装置の背面図である。
図5】車輪装置の平面図である。
図6】車輪装置の底面図である。
図7】車輪装置の左側面図である。
図8】板体の一方向から見た斜視図である。
図9】板体の他方向から見た斜視図である。
図10】板体の側面図である。
図11】ランナーの斜視図である。
図12】補助ランナーの斜視図である。
図13】直立する1つの車輪を介して路面上を走行可能の状態にある車輪装置の斜視図である。
図14図14図20は車輪装置が段差からなる障害の乗り越えを行うときの前記車輪装置の挙動を順次に示す正面図である。図14は、前進走行中の車輪装置の4つの車輪のうちの1つの車輪が前記障害に突き当たった状態を示す。
図15】前記障害への突き当たり後、車輪装置の板体の前方への平行移動が生じ、これにより前記板体の周方向に関する各車輪の位置(周方向位置)が変化した状態を示す。
図16】さらなる前記板体の前方への平行移動及び各車輪の周方向位置の変化に伴って、前記1つの車輪に隣接する他の一つの車輪が前記障害の前方の上方位置に現われた状態を示す。
図17】さらなる前記板体の前方への平行移動及び各車輪の周方向位置の変化に伴って、前記他の1つの車輪が車輪装置の走行路面に接近した状態を示す。
図18】さらなる前記板体の前方への平行移動及び各車輪の周方向位置の変化に伴って、前記他の1つの車輪が走行路面に接地した状態を示す。
図19】さらなる前記板体の前方への平行移動及び各車輪の周方向位置の変化に伴って、前記他の1つの車輪が走行路面上を転動している状態を示す。
図20】さらなる前記板体の前方への平行移動及び各車輪の周方向位置の変化に伴って、前記1つの車輪が前記障害から斜め上方に向けて離れ始めた状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1を参照すると、2対(4つ)の車輪装置10を備える台車12が示されている。台車12は、前部及び後部を有する板状の荷台14を備え、2対の車輪装置10はそれぞれ荷台14の前部及び後部に配置され、その下面14aに取り付けられている。図示の台車12は、荷台14の後部に配置された手押しハンドル15を有する。
【0021】
図2及び図3図7に示すように、車輪装置10は、取付部材16と、取付部材16に支持された板体18と、板体18に支持された複数(図示の例において4つ)のランナー20及び複数(同4つ)の補助ランナー22と、複数のランナー20にそれぞれ支持された複数(同4つ)の車輪24とを備える。但し、車輪装置10は、図示の例に代えた変更例として、補助ランナー22を有しないもの(図示せず)とすることができる。また、ランナー20及び補助ランナー22の数は、それぞれ、図示の例に代えて、2、3又は5以上とすることができる。
【0022】
図示の取付部材16は、細長い矩形の板状部16aと、板状部16aの下面に連なる2つの連結部16bとを有する。板状部16aは、車輪装置10の走行路面R(図14参照)に対して平行をなし、車輪装置10の走行方向D(図14参照)へ伸びている。各車輪装置10は、取付部材16の板状部16aにおいて、板部材26(図1)と複数のボルト(図示せず)とを介して、台車12の荷台14にその下面14aにおいて固定されている。また、各連結部16bは、円形の横断面形状を有し、板状部16aから走行路面Rに向けて下方へ伸び、さらに45度の角度で「く」の字形に折れ曲がって伸び、その先端部が板体18の後記大開口32を経て板体18の後記内周面28が規定する空間内に位置する。各連結部16bの前記先端部にはその周囲に互いに間隔をおいて配置された3つのプラグ27が設けられている。
【0023】
板体18は、立体図形である、長円形の断面形状を有するすり鉢形の周面に沿ってその周方向へ伸びる2つの平板部18a、18b及び両平板部にそれぞれ連なる2つの湾曲板部18c、18dからなる。両湾曲板部18c、18dは半円弧状に湾曲して伸びている。両平板部18a、18b及び両湾曲板部18c、18dは、互いに相対する内周面28及び外周面30と、互いに相対する大小2つの長円形の開口32、34をそれぞれ規定する互いに平行な頂面36及び底面38とを有する。ここで、「長円形」とは、互いに相対する2つの直線と両直線にそれぞれ連なる2つの半円とからなる角丸長方形をいう。板体18の各湾曲板部18c、18dにおける内周面28上には3つのソケット40が設けられている。板体18は、これらの各ソケット40に差し込まれた取付部材16の各プラグ27を介して、取付部材16に連結されこれに支持されている。
【0024】
車輪装置10が取付部材16を介して台車14の荷台14aに取り付けられるとき、板体18はその両湾曲板部18c、18dが台14車の進行方向における前後にそれぞれ位置し、また、両平板部18a、18bがそれぞれ台車14の進行方向へ伸長する状態におかれる。
【0025】
板体18の両平板部18a、18bはそれぞれ車輪装置10の走行路面Rに対して上位の高さ位置及び下位の高さ位置にあり、上位の平板部18aは走行路面Rに対して垂直をなし、また、下位の平板部18bは走行路面Rに対して平行をなしている。このため、板体18は走行路面Rに対して傾斜した状態をなす。板体18が傾斜状態にあることから、これが直立した状態にある場合と比べて、車輪装置10を台車12の荷台14下に配置したとき、台車12の車高、すなわち走行路面Rから荷台14の下面14aまでの距離をより小さいものとすることができる。
【0026】
複数のランナー20及び複数の補助ランナー22は板体18にその周方向へ移動可能に支持され、板体18の周方向へ交互にかつ互いに等間隔をおいて配置されている。また、互いに隣接するランナー20及び補助ランナー22がワイヤ42(図4図6図7参照)を介して互いに連結されている。図示の例において、ワイヤ42は、板体18の外周面30に設けられその周方向へ伸びる凹部30a内に配置されている。図示の例において、凹部30aは、板体18の大開口32と小開口34との中間部に設けられている。ワイヤ42はその伸長方向に伸縮し難い性質を有し、ランナー20及び補助ランナー22の相互間隔を維持する働きをなす。また、ワイヤ42は可撓性を有する。このため、ランナー20及び補助ランナー22が板体18に対してその周方向へ移動し、各湾曲板部18c、18dを通過するとき、凹部30aの側壁に撓んだ状態で接する。なお、補助ランナー22を有しない前記変更例においては、複数(例えば4つ)のランナー20が板体18の周方向へ互いに等間隔をおいて配置され、互いに隣接する2つのランナー20が同様のワイヤ(図示せず)を介して互いに連結される。図示の例におけるように、ランナー20相互間に補助ランナー22を配置することにより、前記変更例と比べて、凹部30aの側壁と前記ワイヤとの間に生じる摩擦抵抗をより小さいものとすることができ、これにより板体18に対する各ランナー20の移動抵抗をより小さいものとすることができる。
【0027】
図11及び図12にそれぞれランナー20及び補助ランナー22の一例を示す。
【0028】
図11に示すランナー20は平板からなる基板44と、互いに間隔をおいて配置され基板44から図上を上方へ垂直に伸びる2つの垂直板46、48と、一方の垂直板46に連なり、両垂直板46、48間外へ基板44と平行に伸びる平板50とを有する。
【0029】
両垂直板46、48には、これらの上部に、両垂直板46、48にそれぞれ直交する2つの回転軸47、49を介して互いに相対する2つの転動輪52、54が回転可能に支持されている。また、両垂直板46、48には、これらの下部に、両垂直板46、48にそれぞれ直交する2対(4つ)の回転軸51、53を介して、互いに相対する2対(4つ)の転動輪56、58が回転可能に支持されている。また、平板50には平板50に直交する1つの回転軸55を介して1つの転動輪60が回転可能に支持されている。転動輪60は、その一部において、垂直板46に設けられた矩形の穴57を貫通し、両垂直板46、48間に突出している。
【0030】
図2及び図7に示すように、ランナー20はその基板44が板体18の外周面30に相対し、また、その両垂直板46、48がそれぞれ板体18の頂面36及び底面38に相対するように配置される。ここにおいて、ランナー20の上方の2つの転動輪52、54は、それぞれ、板体18の大小2つの開口32、34の側において内周面28上を転動可能である。2対(4つ)の転動輪56、58は、板体18の大小2つの開口32、34の側においてそれぞれ外周面30上を転動可能である(図7参照)。また、1つの転動輪60は、板体18の頂面36上を転動可能である。基板44には、2対の転動輪56、58間に配置され基板44の上方に向けて突出する、ワイヤ42の端部を結び付けるための突起62(図7図11)が設けられている。各ランナー20はこれらの7つの転動輪である1つの転動輪52、1つの転動輪54、2つの転動輪56、2つの転動輪58及び1つの転動輪60を介して板体18に保持され、板体18の周方向へ移動可能とされている。
【0031】
図12に示す補助ランナー22は、平板からなる基板64と、互いに間隔をおいて配置され基板64から図上を上方へ垂直に伸びる2つの垂直板66、68と、互いに間隔をおいて配置され基板64からその下方へ垂直に伸びる2つの垂直板70、72と、上方へ伸びる一方の垂直板66に連なり、両垂直板66、68間外へ基板64と平行に伸びる平板74とを有する。
【0032】
上方へ伸びる2つの垂直板66、68のうちの一方の垂直板66には該垂直板に直交する回転軸69を介して転動輪76が回転可能に支持されている。また、他方の垂直板68にはその頂部から垂直板66に向けて伸びる滑動部78が設けられている。図示の滑動部78は、基板64に相対する円筒面の一部からなる滑動面78aを有する。下方へ伸びる2つの垂直板70、72には、それぞれ、2つの垂直板70、72にそれぞれ直交する2つの回転軸71及び回転軸73(図6参照)を介して転動輪80、82が回転可能に支持されている。2つの転動輪80、82は、それぞれ、これらの一部において、基板64に設けられた2つの矩形の穴65、67を貫通し、基板64の上方に突出している。また、平板74には該平板に直交する回転軸75を介して転動輪84が回転可能に支持されている。転動輪84は、その一部において、垂直板66に設けられた矩形の穴77を貫通し、両垂直板66、68間に突出している。
【0033】
図2に示すように、補助ランナー22の上方の1つの転動輪76は板体18の大開口32の側において内周面28上を転動可能であり、滑動部78は、その滑動面78aにおいて、板体18の小開口34の側において内周面28上を滑動可能である。1つの転動輪84は、板体18の頂面36上を転動可能である。また、下方の2つの転動輪80、82は、大開口32及び小開口34の側においてそれぞれ外周面30上を転動可能である(図7参照)。ランナー20相互間の各補助ランナー22はこれらの4つの転動輪76、80、82、84と、滑動部78とを介して板体18に保持され、板体18の周方向へ移動可能とされている。基板64には、転動輪82、84間に配置された、ワイヤ42の端部を結び付けるための突起63(図7図12)が設けられている。
【0034】
各車輪24はこれを回転可能に支持するフォーク85(図2図6図7参照)を介して各ランナー20に取り付けられ、各ランナー20に支持されている。各車輪24は、図2に示すように、これを支持する各ランナー20が板体18の上位の平板部18aに位置するとき走行路面Rに対して平行な状態におかれ、また、板体18の下位の平板部18bに位置するとき走行路面Rに対して直立する状態におかれる。図示の例では、板体18の上位及び下位の両平板部18a、18bが、それぞれ、2つのランナー20が存することを許容する長さ寸法(両湾曲板部18c、18d相互間の距離)を有するものとされている。これによれば、車輪装置10は、直立状態におかれた2つの車輪24の走行路面R上での転動により走行路面R上での走行(二輪走行)を可能とされ(図2参照)、また、直立状態におかれた1つの車輪24の走行路面R上での転動により走行路面R上での走行(一輪走行)を可能とされる(図13参照)。車輪装置10が前記二輪走行をするか前記一輪走行をするかは、走行路面Rの構成材料、粗さの程度等に応じて生じる車輪24と走行路面Rとの間の摩擦力の大きさにより変化する。また、上位の平板部18aにおいて走行路面Rに対して平行な状態におかれた車輪24は、台車12の荷台14下において、その下面14aに対して平行に移動することが可能である。車輪24及びフォーク85は、図示の例に代えて、これらがキャスター(図示せず)の一部からなるものとすることができる。
【0035】
台車12の荷台14への2対の車輪装置10の取り付けの際、各対の車輪装置10を、これらの板体18の上位の平板部18aが荷台14の前後方向に直交する幅方向に関して互いに相対するように配置する。これによれば、車輪装置10が荷台14からその側方に突出することなく荷台14下に収まるようにすることができる。
【0036】
車輪装置10は、段差のような障害S(図14図20参照)の乗り越えが可能である。
【0037】
図14は、車輪装置10が、その板体18の下位の平板部18b下に位置し、走行路面Rに接する前後2つの車輪(説明の便宜のためにこれらに符号24a、24bを付す。また、これらの車輪24a、24bの前後にそれぞれ位置する他の2つの車輪に符号24c、24dを付す。)を介して、走行路面R上をその走行方向Dである前方へ走行中、障害Sに遭遇し、両車輪24a、24bのうちの前方の車輪24aが障害Sに突き当たり、車輪24aの転動が停止した状態を示す。
【0038】
車輪24aが障害Sに突き当たったとき(図14)、車輪装置10にその走行方向Dへの外力を加えると、車輪24aは該車輪に対する障害物Sの反作用により、進行方向Dと逆向きの力を受ける。車輪24aが前記逆向きの力を受けると、板体18が車輪24a及びこれを支持するランナー20に対して相対的に前方へ平行移動する。
【0039】
板体18の前記平行移動の間、各車輪24a~24d及びこれを支持する各ランナー20と各補助ランナー22とが板体18に対するその周方向における相対位置(周方向位置)を変える。換言すると、車輪24aが前記逆向きの力を受けると、ライナー20及び補助ライナー22を繋ぐワイヤ42に緊張が生じ、車輪24aを支持するライナー20が板体18の平板部18bに対して相対的に後方(図上右方)へ移動し(図15)、車輪24aを支持するライナー20の移動は他のライナー20及び補助ライナー22の移動を惹起する。これにより、全ての車輪24が板体18に対して相対的にその周方向へ等間隔を保ちながら図上を反時計回りに移動する。
【0040】
図15図19は、全ての車輪24の前記反時計回り移動の推移を示す。
【0041】
図15図18を参照すると、車輪24aが障害Sに突き当たった状態のまま、板体18が前方に相対移動する。他方、車輪24aは板体18の下位の平板部18bに対して図上を右方へ相対移動する。この間、車輪24aに隣接する後方の車輪24bは平板部18bから後方の湾曲板部18cへと相対移動し(図15)、次いで湾曲板部18cに沿って相対移動し(図16図17)、その後、湾曲板部18cから上位の平板部18aへと相対移動する(図18)。また、車輪24aに隣接する前方の車輪24cは上位の平板部18aから前方の湾曲板部18dへと相対移動し(図15)、次いで湾曲板部18dに沿って相対移動し(16~図17)、その後、下位の平板部18bへと相対移動する(図18)。この相対移動の結果、車輪24cは障害Sの前方において走行路面Rに着地し、走行路面R上に直立する。さらに、残りの1つの車輪24dは、上位の平板部18aに対して図上を左方へ相対移動し(図15図17)、次いで平板部18aから前方の湾曲板部18dへと相対移動する(図18)。
【0042】
車輪装置10への前記外力の付与を継続すると、板体18がさらに前方へ平行移動し(図19図20)、車輪24aが板体18に対してその後方の湾曲板部18cの側へと相対移動し、車輪24aは障害Sの上方位置に存する状態におかれる。同時に、車輪24cが走行路面R上を前方に向けて転動し、車輪装置10は一輪走行をする。これにより、車輪装置10の障害Sの乗り越えが完了する。
【符号の説明】
【0043】
10 車輪装置
12 台車
14 荷台
14a 荷台の下面
16 取付部材
18 環状の板体
20 ランナー
22 補助ランナー
24(24a~24d) 車輪
28 板体の内周面
30 板体の外周面
32 板体の大開口
34 板体の小開口
36 板体の頂面
38 板体の底面
42 ワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20