(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146348
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】起倒可能な背ボトムを有するベッド
(51)【国際特許分類】
A61G 7/018 20060101AFI20231004BHJP
A61G 7/005 20060101ALI20231004BHJP
A61G 7/015 20060101ALI20231004BHJP
A47C 20/08 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
A61G7/018
A61G7/005
A61G7/015
A47C20/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053487
(22)【出願日】2022-03-29
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】599139442
【氏名又は名称】株式会社プラッツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清本 太郎
(72)【発明者】
【氏名】指方 玲美
【テーマコード(参考)】
4C040
【Fターム(参考)】
4C040AA05
4C040DD04
4C040EE05
4C040EE08
(57)【要約】
【課題】 背上げ時の患者の身体の脚方向への位置ずれや腹部圧迫を軽減する。
【解決手段】 背上げ時に、背ボトム2AがM1だけ後退し、かつ距離M2だけ上昇する。M1=5~10cmかつM2=5~15cm、M1=6~10cmかつM2=6~15cm、M1=7~10cmかつM2=7~15cm、M1=8~10cmかつ上M2=8~15cm、又は、M1=8~10cmかつM2=12~15cmである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
起倒可能な背ボトムを有するベッドにおいて、
前記背ボトムが、前記背ボトムの下端部近傍に設けられた背ボトム回動軸を中心に回動可能であり、
前記背ボトムを水平から最高角度まで前記背ボトム回動軸回りに起立させる背上げの過程で、前記背ボトムが前記背ボトム回動軸と一緒に後退及び上昇するように構成され、
前記背上げ過程での前記背ボトムの後退距離M1と上昇距離M2が次の範囲群:
M1=5~10cmかつM2=5~15cm、
M1=6~10cmかつM2=6~15cm、
M1=7~10cmかつM2=7~15cm、
M1=8~10cmかつ上M2=8~15cm、
M1=8~10cmかつM2=12~15cm
の中から選ばれた一つの範囲内にある、ベッド。
【請求項2】
請求項1記載のベッドにおいて、
前記背ボトムが、上位背ボトムと下位背ボトムとを有し、前記上位背ボトムが前記下位背ボトムに対して、両者間に配置された背ボトム屈曲軸にて、前方へ屈曲可能に構成されており、
前記背ボトムが水平である時、前記背ボトム回動軸から前記背ボトム屈曲軸までの距離L1が、20~42cmの範囲内にある、ベッド。
【請求項3】
請求項1記載のベッドにおいて、
前記背ボトムが、上位背ボトムと下位背ボトムとを有し、前記上位背ボトムが前記下位背ボトムに対して、両者間に配置された背ボトム屈曲軸にて、前方へ屈曲可能に構成されており、
前記背ボトムが水平の状態で前記ボトム上に患者が横臥し、前記患者の上前腸骨棘の直下に前記背ボトム回動軸が位置するように、前記患者を前記背ボトムに位置合わせした時、前記背ボトム屈曲軸が前記患者の第10胸椎から第7胸椎までの範囲の直下に位置するように構成された、ベッド。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項記載のベッドにおいて、
膝上げが可能な膝ボトムと、足ボトムとを含んだ脚ボトムを有し、
前記膝ボトムの膝上げ時に、前記膝ボトムが前記足ボトムに対して、両者間に設けられた脚ボトム屈曲軸にて、屈曲するように構成され、
前記背ボトムと前記脚ボトムが水平である時、前記背ボトム回動軸から前記脚ボトム屈曲軸までの距離L2が42~49cmの範囲内にある、ベッド。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項記載のベッドにおいて、
膝上げが可能な膝ボトムと、足ボトムとを含んだ脚ボトムを有し、
前記膝ボトムの膝上げ時に、前記膝ボトムが前記足ボトムに対して、両者間に設けられた脚ボトム屈曲軸にて、屈曲するように構成され、
前記背ボトムと前記脚ボトムが水平の状態で前記ボトム上に患者が横臥し、前記患者の上前腸骨棘の直下に前記背ボトム回動軸が位置するように、前記患者を前記背ボトムに位置合わせした時、
前記背ボトムと前記膝ボトムが水平である時、前記脚ボトム屈曲軸が前記患者の膝関節の直下、又は、前記膝関節より腰に近い個所の直下に位置する、ベッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背上げアクチュエータの作用で起倒可能な背ボトムを有するベッドに関し、特に、背上げ動作時に背ボトムを後退及び上昇させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来装置が、例えば特許文献1又は2に記載されている。
【0003】
特許文献1には、アクチュエータにより背ボトムを起立させる背上げ動作を行う時に、患者の身体が脚側へずれることを防止するために、背ボトムをヘッドボード方向へ斜め上方へ移動させるように構成したベッドが開示されている。
【0004】
特許文献2には、背ボトムの背上げ時に背ボトムを頭方向へ移動させつつ、膝ボトムの膝上げを行うことにより、患者の身体が脚側へのずれを防止するようにしたベッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-16263号公報
【特許文献2】特開2020-114487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のとおり、背上げ時に背ボトムを頭方向及び上方の斜め方向に移動させることが、患者の身体の脚方向へのずれを軽減する。また、斜め方向への移動は、(とりわけ、特許文献2のように、背上げと共に膝上げも行う場合)背上げ時の患者の腹部への圧迫も防止する。しかし、背上げ時の背ボトムの移動距離がどのような値範囲内にあれば患者にとり適切であるかに関しては、これらの公知文献は何の情報も提供しない。
【0007】
本発明の一つの目的は、起倒可能な背ボトムをもつベッドにおいて、背上げ時の背ボトムの移動条件を、患者にとり適切な範囲に設定することにある。
【0008】
本発明のその他の目的は、以下の説明の中で明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態に従うベッドは、背上げ時の背ボトムの後退距離が5~10cmかつ上昇距離が5~15cmであり、より好ましくは後退距離が6~10cmかつ上昇距離が6~15cmであり、更により好ましくは後退距離が7~10cmかつ上昇距離が7~15cmであり、更により一層好ましくは後退距離が8~10cmかつ上昇距離が8~15cm、更にまたより一層好ましくは後退距離が8~10cmかつ上昇距離が12~15cmである。これにより、背上げ時患者の身体の位置ずれや腹部圧迫が適切に軽減される。
【0010】
一実施形態に従うベッドは、背ボトムが、上位背ボトムと下位背ボトムとを有し、上位と下位の背ボトムが背ボトム屈曲軸にて相互間で屈曲するようになっており、背ボトムが水平である時、背ボトム屈曲軸が、背ボトム回動軸から頭方向へ20~42cmの範囲内に位置する。
【0011】
この寸法設定は、背ボトム屈曲軸が、患者の第7胸椎から第10胸椎までの範囲に対応する位置に在ることを狙っている。これにより、患者にとり、背ボトムの形状が背中の後弯形状によりよく沿うようになり、自然に感じられる。
【0012】
一実施形態に従うベッドは、膝上げ時に膝ボトムと足ボトムが、脚ボトム回動軸にて、相互に屈曲するようになっており、前記背ボトムと前記膝ボトムが水平である時、脚ボトム屈曲軸が、前記背ボトム回動軸から足方向へ42~49cmの範囲内にある。
【0013】
この寸法設定は、脚ボトム屈曲軸が、患者の膝関節の直下か、それより幾分腰側に近い個所の直下に位置することを狙っている。これにより、患者にとり、膝上げが自然になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係るベッドの背ボトムが所定の最高角度で立っている時の側面図(A)と、水平に寝ている時の側面図(B)を示す。
【
図2】同ベッドの背上げの過程で、背ボトムとその回動軸とがどう移動していくかを分かり易く見せた側面図を示す。
【
図3】背上げ時に背ボトムの回動軸を移動させる機構の要部を簡単に示した側面図を示す。
【
図4】背上げ時の背ボトムの後退距離と上昇距離の理論的計算に用いたモデルを示す。
【
図5】背上げ時の背ボトムの後退距離と上昇距離の評価実験の結果を示す。
【
図6】背ボトム屈曲軸と脚ボトム屈曲軸の好ましい位置の範囲を示す。
【
図7】患者が座って上半身を自然に直立させた時の標準的な脊椎の中心ラインの形状と胸椎の配列を示す簡単なモデルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、一実施形態に係るベッドの背ボトムが最高角度で立っている時の側面図(A)と、水平に寝ている時の側面図(B)を示す。
【0016】
図1に示すように、ベッド1は、ボトム2を有し、ボトム2は、昇降可能な昇降フレーム3上に搭載される。通常、ボトム2上にマットレスが敷かれ、その上に患者が横臥する。ボトム2は、患者の上半身を支える背ボトム2A、患者の臀部(腰部)を支える腰ボトム2B、患者の大腿部を支える膝ボトム2C、及び患者の下腿部と足を支える足ボトム2Dを有し、それのサブボトム2A~2Dは、1以上の電動アクチュエータに駆動されて、相互に折れ曲がるように動くことができる。なお、膝ボトム2Cと足ボトム2Dを合わせて、以下、「脚ボトム」という。
【0017】
背ボトム2Aは、背ボトム回動軸5を中心に回動することで、起倒することができる。背ボトム2Aの起立動は、昇降フレーム3に支持された電動アクチュエータ7から背上げリンク9を介して背ボトム2Aに加わる押し上げ力によりなされる。背ボトム回動軸5は、昇降フレーム3に取り付けられた背ボトム移動機構11により、背上げに伴って移動するようになっている。
【0018】
背ボトム2Aが
図1(B)に示した水平に寝た姿勢から
図1(A)に示した最高角度(例えば水平に対して70度)まで立った姿勢になるまで起立していく背上げの過程で、背ボトム2Aと背ボトム回動軸5は、背ボトム移動機構11の作用により、患者にとり頭方向(背ボトムが立てば、患者にとり後方向)(図中、左方向)かつ上方向の斜め方向へ移動する。この時の背ボトム2Aの頭(又は後)方向への移動を、以下、「後退」といい、上方向への移動を「上昇」という。背ボトム2Aの後退距離M1と上昇距離M2は、後述するような好ましい範囲内に設定されている。
【0019】
背ボトム2Aは、上半身の内の胸椎列のほぼ上半部から頭までの部分を支える上位背ボトム2Eと、上半身の内の胸椎列のほぼ下半部から腰椎列までの部分を支える下位背ボトム2Fを有する。それら上位と下位の背ボトム2E、2Fは、背ボトム屈曲軸13を介して、相互に折れ曲がり可能に接続される。電動アクチュエータ12の作用により、上位背ボトム2Eが、下位背ボトム2Fに対して、背ボトム屈曲軸13を中心に回動することで、患者にとり前方向へ屈曲できる。
【0020】
腰ボトム2Bは、昇降フレーム3上の定位置に固定されて移動または傾動しない。膝ボトム2Cは、図示しない電動アクチュエータの作用により、膝ボトム回動軸14を中心に回動して、
図1に示した水平に寝た位置から、最高角度(例えば、水平に対して30度)までの範囲で起倒して、患者の膝を上げ下げできる。足ボトム2Dは、膝ボトム2Cに対して、脚ボトム屈曲軸15を介して接続されている。膝ボトム2Cが起立する時、足ボトム2Dは、膝ボトム2Cに対して、脚ボトム屈曲軸15を中心に回動して屈曲する。
【0021】
ボトム2を支持する昇降フレーム3は、昇降フレーム3を昇降させるための昇降機構16の上に搭載される。昇降機構16は、建物床上に置かれたベースフレーム17上に搭載される。
【0022】
図2は、ベッド1の背上げの過程で背ボトム回動軸5がどう移動していくかを分かり易く見せた側面図を示す。
【0023】
図2において、参照番号2A-0~2A-7は、背上げ過程において、最初の水平に寝た開始時から、最後の例えば70度の最高角度に立った終了時までの、起立角10度おきの背ボトム2Aの姿勢を示す。参照番号5-0~5-7は、背ボトム2Aの角度の異なる姿勢2A-0~2A-7にそれぞれ対応する、背ボトム回動軸5の位置を示す。ここに示すように、背上げ過程で、開始から終了まで継続的に、背ボトム回動軸5が後退及び上昇していく。
【0024】
図3は、背ボトム移動機構11の要部を簡単に示した側面図を示す。
【0025】
背ボトム移動機構11は、昇降フレーム3のベッド長手方向へ延びる左右の主桁3Aにそれぞれ設けられた左右一対のリンク機構を有する。背ボトム移動機構11の各側のリンク機構は、
図3に示すように、逆V字形に組み合わされた第1リンク18と第2リンク19を有する。第1リンク18と第2リンク19は、背ボトム回動軸5にて、相互間で回動可能に結合されている。
【0026】
第1リンク18は、その上端部にて、背ボトム2A(下位背ボトム2F)の下端部に固定されている。第1リンク18は、その下端部にローラ機構20を有する。ローラ機構20は、昇降フレーム3の主桁3Aに固定されたガイドレール21に沿って、ベッド長手方向でかつ水平より若干角度傾いた方向29に、移動可能である。背ボトム回動軸5が、第1リンク18における背ボトム2Aの下端部の近傍の固定位置に設けられる。
【0027】
第2リンク19は、その上端部にて、前述したように背ボトム回動軸5を介して、第1リンク18に回動可能に軸結合されている。第2リンク19は、その下端部にて、昇降フレーム3の主桁3Aの固定位置に設けられた回動軸23を中心に回動可能に、主桁3Aに対して軸結合されている。
【0028】
背上げ時には、背ボトム2Aは、
図1に示した背上げアクチュエータ7と背上げリンク9の作用により、
図3に示した矢印25の方向に押される。すると、第1リンク18のローラ機構20が、ガイドレール21に沿って、矢印29の方向に移動しつつ、同時に、第1リンク18が矢印27の方向へ起立していく。それに伴い、第2リンク19が、回動軸23を中心に、矢印31の方向へ起立していく。
【0029】
その結果、背ボトム回動軸5は、矢印33の方向へ、後退かつ上昇していき、同時に、背ボトム2Aが、後退かつ上昇する背ボトム回動軸5を中心に回動して起立していく。すわなち、背ボトム2Aは、後退かつ上昇しながら起立していく。
【0030】
図4は、背上げ時の背ボトム2Aの後退距離M1と上昇距離M2の理論的計算に用いたモデルを示す。
【0031】
図4に示すモデルは、ベッド1の背ボトム2Aを水平に倒し(破線)、脚ボトム2C、2Dも水平に平らに倒した状態で、その上に、マットレス41を敷き、その上に患者43が横臥した状態(上半身は破線で示す姿勢)から、背ボトム2Aを起立させて最高角度、例えば70度、に達した時、患者の上半身と下半身とボトム2との位置関係(つまり、大転子47の位置)を維持する姿勢(つまり、ボトム2が患者43の身体を不自然にずらすことがない)が理想的な状態であることを示している。
【0032】
図4に示すように、背ボトム2Aが水平に倒れている状態(破線)で、患者43の身体がボトム2に対して次のように位置合わせされる。すなわち、患者43の骨盤の上前腸骨棘(骨盤の最も前方に出っ張っている個所)(以下、「ASIS」と略称する)45が、背ボトム2Aと腰ボトム2Bとの間の屈曲点つまり背ボトム回動軸5の直上に位置するように、位置合わせがなされる。
【0033】
このASIS45を利用した位置合わせ法は、次の二点で合理的である。第一に、患者43が上半身を起こすときの身体の主たる回動中心は、概略、大転子47に相当する位置である。この位置合わせ法によれば、大転子47が腰ボトム2B上に乗る、つまり、患者の臀部が腰ボトム2B上に乗るので、ボトム2の背上げや膝上げ時の患者43の姿勢が不自然になりにくい。第二に、ASIS45の位置は、患者43の身体に手で触れば簡単に特定できるので、ASIS45をボトム2の背ボトム回動軸5に位置合わせすることは、介護者にとり容易である。そのように位置合わせすれば、常に、患者43と背ボトム2との位置関係が、ボトム2の寸法設計に則った関係になる。
【0034】
さて、患者43の上半身が水平に寝ている状態(破線)から、背上げを行っていくと、患者の骨盤が、ほぼ大転子47を中心に起立し、骨盤上に乗った上半身が上昇していく。この過程で、患者43の上半身と下半身とボトム2との位置関係を維持する(患者43の身体がボトム2に対して位置ずれしない)ようにするには、背ボトム2Aが、患者43の上半身の上昇に伴って上昇するとともに、後退していく必要がある。
【0035】
背ボトム3Aが後退する必要がある理由は、患者43の上半身の起立に伴って、今まで患者43の脊椎から骨盤に至る骨格ラインの下方に位置していた患者43の身体の厚みとマットレス41の厚みが、患者43の骨格ラインの後方へ回り込んでくるから、これらの厚みを背ボトム2Aが後退して受け入れる必要があるからである。
【0036】
背ボトム2Aが、最高角度、例えば70度、まで起立した状態(実線)で、背ボトム2Aと背ボトム回動軸5は、当初の位置から理想的な距離M1だけ後退し、理想的な距離M2だけ上昇すると、背ボトム2と患者43の身体の相対位置(例えば、腰ボトム2Bと大転子47と位置関係、背ボトム屈曲軸13と患者43の特定の胸椎(例えば第7胸椎)49との位置関係など)は変わらない。上述の理想的な後退距離M1と上昇距離M2は、患者43の体格及びマットレス41の厚みにより異なるであろう。
【0037】
そこで、公知文献「日本人の人体寸法データブック2004-2006、一般社団法人人間生活工学研究センター発行」に記載された、日本人の成人女性の5パーセントタイルの人の体格に基づいて、
図4に示された理想的な後退距離M1と上昇距離M2を設定した。女性の5パーセントタイルの人の体格を使った理由は、次のとおりである。一般に、足側へのズレを抑えるには、実際の人のひざの屈曲位置よりもひざボトムの屈曲位置が短い方が、ズレを抑制がしやすいので、成人女性の5パーセントタイルの人がボトム2と身体の間の位置ずれの影響を受け易いと判断される。それゆえ、このような人々を考慮してベッドを設計することで、より多くの人々の快適性向上に繋がる(悪影響を受ける人が少ない)と考えられたからである。なお、マットレス41の厚さは、各種のマットレスを調べて、人が乗った時のマットレス41の厚みの沈み量を考慮に入れた結果として、6cmを採用した。
【0038】
この結果、理想的な、背上げ時の背ボトム2Aの移動条件は、後退距離M1が約8cm、かつ、上昇距離M2が約12cmとなった。より大きい体格の人々も考慮にいれると、理想的な移動条件は、後退距離M1が約8~10cm、かつ、上昇距離M2は約12~15cmと判断された。
【0039】
実際には、上記の理想的な移動条件より移動距離が幾分短い場合でも、マットレス41や衣類の柔軟さや人間の肉体や感覚の耐性や鈍感さなどの諸要因により、実質的に問題にならない程度に許容されると考えられる。そこで、後退距離M1と上昇距離M2がどの程度あれば、背上げ時に実際の人間が違和感を感じないかを、実験的に評価した。
【0040】
この評価実験では、身長161cm~184cmまでの男女30人の被験者にした。背上げ完了(背ボトムの最高角度70度)時の後退距離M1と上昇距離M2を異ならせた模擬ベッドによる背上げを、各被験者に体験させ、背上げ時の違和感又は不快感の有無を調査した。
【0041】
【0042】
図5では、異なる後退距離M1と上昇距離M2を組合せた幾つかの移動条件(黒丸印)について、全被験者中の違和感を感じた人の割合が示されている。これによれば、M1=5cmかつM2=5cmの条件は、違和感を感じた人の割合は10%にすぎず、90%の人が違和感を感じないので、実用的な許容範囲に入ると考えられる。M1とM2が増すと、違和感を感じる人の割合がさらに減り、M1=8cmかつM2=8cmでその割合がゼロになった。更に、M1=8cmかつM2=12cmとして上記理想的条件に近づけた場合も、違和感を感じる人の割合はゼロであったが、M1=8cmかつM2=8cmと比較して、理想的条件に近い方がより自然感が強い感がある、という感想が何人かの被験者から得られた。
【0043】
以上の実験結果と、上述した理想的な移動条件とを考慮に入れると、好ましい移動条件の一つはM1=5~10cmかつM2=5~15cmと言える。より好ましい移動条件はM1=6~10cmかつM2=6~15cm、更により好ましくはM1=7~10cmかつM2=7~15cm、更に一層より好ましくはM1=8~10cmかつM2=8~15cmと判断される。そして、さらに一層好ましい移動条件は、上述した計算から得られた理想的な条件M1=8~10cmかつM2=12~15cmと判断される。
【0044】
以上のように、背上げ時の背ボトム2Aの移動条件の好ましい範囲が明らかになった。これに加え、発明者らは、ボトム2の他の部分についても、好ましい位置的又は寸法的な条件を検討した。
【0045】
まず、背ボトム屈曲軸13、つまり、上位背ボトム2Eと下位背ボトム2Fとの間の屈曲点の好ましい位置については、次の条件が好ましい。すなわち、背ボトム2Aが水平である時、背ボトム屈曲軸13の位置は、
図6(A)に示す患者43の第10胸椎51の直下の位置から、
図6(B)に示す第7胸椎49の直下の位置までの範囲に在ることが、好ましい。その理由は次のとおりである。
【0046】
図7(A)には、患者43が座って上半身を自然に直立させた時の標準的な脊椎の中心ライン55の側面視の形状と第1~12胸椎の配列が、簡単なモデルで示されている。ここに示されるように、患者43の背面は自然状態で軽く後方に湾曲しており、(個人差はあるが、標準的には)第7胸椎49の位置が最も後方へ出っ張っている。したがって、この自然な背面の後弯姿勢に背ボトム2Aの形状を適合させるには、
図6(B)に示したように、背ボトム2Aが水平である時、背ボトム屈曲軸13が第7胸椎49の直下に位置することが好ましい。
【0047】
図7(B)には、患者43が座って、読書や食事などのために上半身を軽く前かがみにした時の標準的な脊椎の中心ライン55の側面視の形状と第1~12胸椎の配列が、簡単なモデルで示されている。ここに示されるように、患者43の背面は、
図7(A)の時よりさらに大きく湾曲しており、(個人差はあるが、標準的には)その湾曲は脊椎ライン55の自然な後弯形状に、第10胸椎51(ここが最も湾曲しやすい)を中心とする下部胸椎列の湾曲が加わったものである。患者43が、
図7(B)より更に大きく前かがみになると、第10胸椎51の湾曲が一層顕著になる。したがって、前かがみ姿勢に背ボトム2Aの形状を適合させるには、
図6(A)に示したように、背ボトム2Aが水平である時、背ボトム屈曲軸13が、第10胸椎51の直下か、第10胸椎51から第7胸椎49までの範囲の直下に位置することが好ましい。
【0048】
したがって、
図6に示したように、背ボトム2Aが水平の時、背ボトム屈曲軸13は、患者43の第10胸椎51から第7胸椎49までの範囲の直下に位置することが好ましい。この位置範囲が、どの程度の寸法範囲であるかは、患者43の体格によって異なる。発明者らは、前述した日本人女性の5パーセントタイルから男性95パーセントタイルの人の体格を考慮して、寸法設定を行った。その結果、背ボトム2Aが水平に寝た状態で、背ボトム回動軸5の位置(つまり、患者のASIS45の直下位置)から、背ボトム屈曲軸13までの距離L1が、約20~42cmであることが、第10胸椎51から第7胸椎49までの範囲の直下に入る条件であることが、分かった。
【0049】
なお、上記の距離L1の約20~42cmという範囲は、上記計算の対象となった体格より大きい体格をもつ人々にも有効である。その理由は、第10胸椎51の位置は、ASISから比較的に近いため、より大きい体格の人であっても、対象体格の人とそう大きな違いはないので、上述したL1=20cmの位置は、実質的に、体格の大きい人でも第10胸椎に対応することになるからである。また、第7胸椎の位置は、より大きい体格の人は、対象体格の人よりASISから遠方へずれるが、上述したL1=42cmの位置は、より大きい体格の人の第7胸椎から第10胸椎の間の位置に対応することになるからである。
【0050】
図6(B)には、さらに、脚ボトム屈曲軸15の好ましい位置も示されている。すなわち、背ボトム2を水平に寝かせた状態で、脚ボトム屈曲軸15は、背ボトム回動軸5の位置(つまり、患者のASIS45に対応する位置)から、脚ボトム屈曲軸15までの距離L2は、42~49cmであることが好ましい。この距離L2は、前述した日本人女性の5パーセントタイルの体格を対象にして、その体格のASIS45から膝関節53までの距離に基づき、それと同じか若干短いことが好ましいという判断に従って、計算された。脚ボトム屈曲軸15までの距離L2が、膝関節53までの距離より若干短いことを、好ましい条件に入れた理由は、実際に膝ボトム2Cの膝上げを行ってみた結果、脚ボトム屈曲軸15が膝関節53の直下に位置する場合より、膝関節53から幾分腰側へ寄った個所の直下に位置した場合の方が、患者43にとり膝上げが自然に感じられたからである。なお、計算の対象となった体格より大きい体格の人々にとっても、上記の好ましい距離L2=42~49cmは、膝関節53より腰側に寄った位置になるので、好ましい。
【0051】
以上説明した実施形態は、説明のための単なる例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、上記の実施形態とは違うさまざまな形態で、実施することができる。
【符号の説明】
【0052】
1:ベッド、2:ボトム、2A:背ボトム、2B:腰ボトム、2C:膝ボトム、2D:足ボトム、2E:上位背ボトム、2F:下位背ボトム、3:昇降フレーム、3A:昇降フレームの主梁、5:背ボトム回動軸、11:背ボトム移動機構、13:背ボトム屈曲軸、15:脚ボトム屈曲軸、18:背ボトム移動機構の第1リンク、19:背ボトム移動機構の第2リンク、21:背ボトム移動機構のガイドレール、43:患者、45:患者の上前腸骨棘(ASIS)、47:患者の大転子、19:患者の第7胸椎、21:患者の第10胸椎、53:患者の膝関節、M1:背上げ時の背ボトムの後退距離、M2:背上げ時の背ボトムの上昇距離、L1:背ボトムが水平時の背ボトム回動軸から背ボトム屈曲軸までの距離、L2:背ボトムが水平時の背ボトム回動軸から脚ボトム屈曲軸までの距離。