(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146350
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】内面防食鋳鉄管
(51)【国際特許分類】
F16L 58/04 20060101AFI20231004BHJP
C09D 5/10 20060101ALI20231004BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20231004BHJP
C09D 5/03 20060101ALI20231004BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20231004BHJP
F16L 9/02 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
F16L58/04
C09D5/10
C09D5/00 D
C09D5/03
C09D201/00
F16L9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053489
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(72)【発明者】
【氏名】冨田 直岐
(72)【発明者】
【氏名】明渡 健吾
(72)【発明者】
【氏名】柳谷 仁志
(72)【発明者】
【氏名】安東 尚紀
【テーマコード(参考)】
3H024
3H111
4J038
【Fターム(参考)】
3H024EA01
3H024EC04
3H024ED08
3H024EE03
3H111AA01
3H111BA02
3H111DA08
3H111DB03
4J038CA041
4J038CG001
4J038DB001
4J038HA066
4J038KA08
4J038MA07
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA03
4J038NA12
4J038PA02
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】鋳鉄管の受口部の防食加工を簡便かつ高品質に行う。
【解決手段】受口部13の内面全体を覆うジンクリッチプライマ層31を形成させ、ジンクリッチプライマ層31の内面側に接して粉体塗料による塗膜層32を形成させ、この塗膜層を内面側表面とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の一端に挿し口部を有し、前記管の他端に前記挿し口部が挿入可能な受口部を有する鋳鉄管において、
前記受口部の内面全体を覆うジンクリッチプライマ層を有し、前記ジンクリッチプライマ層の内面側に接して粉体塗料による塗膜層を内面側表面として有する内面防食鋳鉄管。
【請求項2】
前記ジンクリッチプライマ層を形成するジンクリッチプライマが、耐熱性ジンクリッチプライマである、請求項1に記載の内面防食鋳鉄管。
【請求項3】
管の一端に挿し口部を有し、前記管の他端に前記挿し口部が挿入可能な受口部を有する鋳鉄管に対して、
前記受口部の内面全体を覆うジンクリッチプライマ層を形成させるステップ、
前記ジンクリッチプライマ層の内面側に接して粉体塗料による塗膜層を形成させるステップ、
を実行する、内面防食鋳鉄管の製造方法。
【請求項4】
前記塗膜層を形成させるステップの際に、管の温度を200℃以上300℃以下とする、請求項3に記載の内面防食鋳鉄管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋳鉄管の防食性に関する。
【背景技術】
【0002】
主として水道管に用いられているダクタイル鉄管では、継手部受口以外の内面には、防食性に優れたエポキシ樹脂粉体塗料が塗布される。一方、継手部受口では内面が複雑な構造をしており、そのような部分でも塗装性を確保するため、液状塗料及び粉体塗料を併用し塗布されている。
【0003】
例えば特許文献1においては、受口内面の受口端部から一定領域をジンクリッチプライマにより塗装し、直管部から受口内面の一部を含む一定領域を粉体塗料により塗装し、ジンクリッチプライマと粉体塗料との境界にまたがって溶剤系塗料を塗装し、さらに塗膜全面に上塗りの水系塗料を塗布することで、受口内面を防食する手法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2においては、受口内面全体に下塗りとしてジンクリッチ粉体塗料を塗布し、その塗膜の上に上塗りとして別の粉体塗料を塗布することで、受口内面を防食する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-158113号公報
【特許文献2】特開2012-30156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、ジンクリッチプライマを塗布したあとに粉体塗料を塗布するが、粉体塗料を塗布する前の準備として200~300℃程度にまで管を加熱する際に、先に塗布したジンクリッチプライマが熱によって劣化してしまい、上塗りの水系塗料との密着性が低下する可能性があった。その対策として、粉体塗料を塗布した後水系塗料を塗布する前にジンクリッチプライマの表面を目荒らしして密着性を向上させる手順が必要になっていた。また、ジンクリッチプライマの塗装範囲が、受口内面のうちの一部にとどまるため、粉体塗料を塗布する前にジンクリッチプライマを塗布した範囲外の部分で赤錆が発生してしまうおそれがあり、そのために適切に保管などの処置をする必要があった。
【0007】
また、特許文献2に記載の技術では、用いるジンクリッチ粉体塗料が、液状のジンクリッチペイントと比較して、一般的に犠牲陽極作用が低く、粉体塗膜が損傷した場合には、鋳鉄管の鉄素地に対する防食効果が低下する可能性があった。
【0008】
そこでこの発明は、鋳鉄管の受口を含む防食を行うにあたって、手順を簡略化して効率よく製造でき、なおかつ高い防食効果を発揮できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、鋳鉄管の受口部内面全体を覆うジンクリッチプライマ層を有し、上記ジンクリッチプライマ層の内面側に接して粉体塗料による塗膜層を内面側表面として有する内面防食鋳鉄管により、上記の課題を解決した。
【0010】
またこの発明では、ジンクリッチプライマ層に用いるジンクリッチプライマとして、耐熱性ジンクリッチプライマを選択することができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明にかかる内面防食鋳鉄管は、ジンクリッチプライマを受口内面全体に塗布したことにより、粉体塗装前の受口内面の防食性が向上した。また、ジンクリッチプライマが受口内面全体を一旦覆うので、その上に粉体塗装により形成された粉体塗膜が損傷しても、ある程度の防食性を確保することができるようになった。このような効果を得られるにも関わらず、ジンクリッチプライマ層と塗膜層の二層のみで形成できるので、使用する塗料の種類を従来よりも削減し、効率よく内面防食鋳鉄管を得られるようになった。
【0012】
さらに、耐熱性ジンクリッチプライマを選択すると、粉体塗装前に管を加熱しても熱によるジンクリッチプライマの劣化を防止できるので、ジンクリッチプライマ層の表面の目荒らしを行わなくても、上塗りとなる塗膜層との間の密着性を確保できるようになった。すなわち、目荒らし工程も省略することができ、製造手順をさらに簡略化できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明による加工を行う鋳鉄管の例において挿し口部を受口部に挿入した断面図
【
図2】この発明による加工を行う鋳鉄管の例において、受口部の内面側の領域を示す図
【
図3】(a)受口部の表面の拡大図、(b)ジンクリッチプライマ層を形成した表面の拡大図、(c)塗膜層を形成した表面の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施形態について具体的に説明する。
この発明は、管11の一端に挿し口部12を有し、管11の他端に挿し口部12が挿入可能な受口部13を有する鋳鉄管の内面を防食した内面防食鋳鉄管である。この内面防食鋳鉄管において、挿し口部12を受口部13に挿入した断面図を
図1に示す。接合時には挿入した挿し口部12と挿入された受口部13とが、受口部13にはめ込まれたゴム輪20が挿し口部12の外周に接することにより、水密性を確保して固定される。
【0015】
挿し口部12を挿入していない状態での内面防食鋳鉄管の受口部13付近の断面図を
図2に示す。この発明において受口部13とは、直管部14(Aで示す領域)以外の部分をいう。この受口部13の中には、ゴム輪20がはめ込まれる箇所(ゴム受け部21:Cで示す領域)と、その前後の他の管の挿し口部12が導入される箇所(拡径部22:Bで示す領域)が含まれる。また、ゴム受け部21よりも他端側の縁周部23(Dで示す領域)も受口部13に含まれる。すなわち、図中のB,C,Dで示す領域を合わせたEで示す領域が受口部13の内面側である。一方、ここでいう直管部14は、挿し口部12を含む。この発明にかかる内面防食鋳鉄管は特にこの受口部13の内面の防食に特徴を有する。直管部14の防食については特段限定されない。
【0016】
対象とする鋳鉄管としては遠心鋳造による鋳鉄管を好適に用いることができる。鋳鉄管の種類としては特に限定されない。特に、受口部13の内面側に複数の凹凸を有し、従来は防食処理に手間がかかっていた鋳鉄管において、好適に用いることができる。
【0017】
この受口部13の内面側に防食加工をする手順を
図3(a)~(c)とともに説明する。鋳造後の防食前の受口部13の拡大図を
図3(a)に示す。ここでは上が内面側である。この内面側に、受口部13の内面全体(Eで示す領域)にジンクリッチプライマを塗工して、ジンクリッチプライマ層31を形成させる(
図3(b))。
【0018】
用いるジンクリッチプライマとしては、耐熱性であることが好ましい。具体的には、続く粉体塗料の塗装のために200℃~300℃程度に加熱しても、ジンクリッチプライマ層の表面の変性が無視できる程度の耐熱性を有することが好ましい。ジンクリッチプライマは亜鉛粉末と樹脂成分からなる液状組成物である。具体的な成分比は防食性と密着性が確保できる限り特に限定されない。例えば耐熱性ジンクリッチプライマとしては、亜鉛粉末を65質量%以上75質量%以下、樹脂成分を7質量%以上10質量%以下含有する組成物が挙げられる。この場合の樹脂成分の例としては、エポキシエステル樹脂を10質量部以上20質量部以下、ブタジエン/スチレンポリマー樹脂を80質量部以上90質量部以下含む樹脂混合物が挙げられる。また、亜鉛粉末は純亜鉛には限定されず、亜鉛アルミニウム合金粉末、亜鉛粉末とアルミニウム粉末との混合粉末等、亜鉛を含有し鉄に対して犠牲陽極作用を有するものであればよい。
【0019】
ジンクリッチプライマ層31の膜厚は10μm以上であると好ましい。10μm未満では、複雑な内面において塗工が不十分となる箇所が生じるおそれが高くなる。一方で、膜厚は50μm以下であると好ましい。厚すぎるとゴム輪20のはめ込みや挿し口部12の挿入がされたときに、設計で期待した通りの水密性を確保しにくくなるおそれがある。
【0020】
さらに、ジンクリッチプライマ層31の内面側に接して、粉体塗料を塗工して塗膜層32を形成させる(
図3(c))。なお、ジンクリッチプライマとして耐熱性ではないものを選択した場合は、粉体塗料の密着性を確保するためにこの粉体塗料の塗工の前に目荒らし加工を行う必要がある。耐熱性ジンクリッチプライマを用いた場合は、この目荒らし加工も省略して粉体塗料を塗工できる。塗膜層32を形成するために粉体塗料を塗工する範囲は、ジンクリッチプライマ層31が形成された領域全体であるとよい。
【0021】
用いる粉体塗料としては、管の温度が200℃~300℃程度のときに粉体塗料が溶融した後硬化して塗膜を形成するものであれば特に種類は限定されない。例えばエポキシ樹脂粉体を用いることができる。また、粉体塗料として塗料以外の例えば珪砂等その他の成分を含んでいてもよい。
【0022】
塗膜層32の膜厚は100μm以上であると好ましい。100μm未満では防食効果が十分に発揮できなくなるおそれがある。一方で、膜厚は300μm以下であると好ましい。300μmを超えると、設計で期待した通りの水密性を確保しにくくなるおそれがある。
【0023】
受口部13の内面側が、ジンクリッチプライマ層31と塗膜層32との二層のみで覆われ、内面側表面に塗膜層が配されるようになったこの発明にかかる内面防食鋳鉄管は、用いる塗料が2種類のみで済む。また、非耐熱性ジンクリッチプライマを用いた場合は3工程で、耐熱性ジンクリッチプライマを用いた場合は2工程で防食加工が完了し、防食加工に必要な手間を従来よりも省き、製造しやすいものとなる。
【実施例0024】
以下、実施例によりこの発明をさらに具体的に示す。まず、用いる塗料について説明する。
【0025】
<第一層(ジンクリッチプライマ層)用塗料>
鋳鉄管受口内面(領域E全体)に塗工した。塗装前の管温度は60℃とし、目標膜厚は20μmとして塗工した。
(1)耐熱性ジンクリッチプライマ
名称:「クリモトコート WZ-TH」大日本塗料株式会社製、成分:樹脂成分(全塗料に対して7.2質量%)うち{ブタジエン/スチレンポリマー樹脂85質量部、エポキシエステル樹脂15質量部}、亜鉛粉末(全塗料に対して70質量%)
(2)非耐熱性ジンクリッチプライマ
名称:「クリモトコート WZ」大日本塗料株式会社製、成分:樹脂成分(全塗料に対して7.2質量%)うち{ブタジエン/スチレンポリマー樹脂100質量部}、亜鉛粉末(全塗料に対して70質量%)
【0026】
<第二層(塗膜層)用塗料>
領域Eを覆う第一層の全域を覆うように塗工した。
(3)エポキシ樹脂粉体塗料
名称:「V-PET#1600 グレーF」大日本塗料株式会社製(エポキシ樹脂粉体塗料、JWWA G 112規格品)、塗装前管温度は210~220℃に調整した。塗料の加熱条件は加熱炉温度を270~280℃に調整し、加熱時間は30分とした。目標膜厚は200μmとした。
(4)水系塗料
名称:「クリモトコート WR ガイメン」大日本塗料株式会社製(水系アクリル塗料、JWWA K139 規格品)、塗装前管温度は60℃に調整した。目標膜厚は80μmとした。
(5)溶剤系塗料
名称:「クリモトコート NT#100 新グレー」大日本塗料株式会社製(溶剤系二液性エポキシ樹脂塗料、 JWWA K139 規格品)
【0027】
鋳鉄管は株式会社栗本鐵工所製:呼び径100GX形ダクタイル鉄管を用いた。この鋳鉄管に上記の(1)~(5)を表1のように組み合わせて、第一層及び第二層を形成させた。なお、表中●が利用した塗料を示す。
【0028】
【0029】
それぞれの内面防食鋳鉄管について、次のように評価を行った。その結果を表1に示す。
【0030】
<密着性試験>
JIS K 5600-5-6「クロスカット法」に準拠して行った。具体的な条件は次の通りである。まず、実施例及び比較例に示す各々の塗装した管を試験用に加工し、2層が形成された塗装面にカッターにより2mm幅で碁盤目の切り込みを入れて25個のマスをつくり、セロハンテープを用いて剥離試験を行い、残存した碁盤目の状態を下記のような基準で目視で分類した。このうち、分類0~2を〇、分類3を△、分類4を×と評価した。
・分類0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない。
・分類1:カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を上回ることはない。
・分類2:カットがクロスの縁に沿って、および/または交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を超えるが15%を上回ることはない。
・分類3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的または全面的に大はがれを生じており、および/または目のいろいろな部分が、部分的または全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に15%を超えるが35%を上回ることはない。
・分類4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的または全面的に大はがれを生じており、および/または数箇所の目が、部分的または全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に35%を上回ることはない。
【0031】
<耐水性試験>
JIS K 5600-6-1の7「耐水性」に準拠して行った。具体的には、実施例及び比較例に示す各々の塗装した管を試験用に加工し、脱イオン水に30日間浸漬したのち目視で次の様に評価した。〇評価:さびなし、△評価:点さびあり、×評価:赤さびあり
【0032】
<ピンホール性評価試験>
試験条件:塗装管の塗装部全体を、塗装探触子が真鍮製でワイヤブラシ状のホリデーディテクタを用いて、電圧は1000V(JWWA G 112水道用ダクタイル鋳鉄管内面エポキシ樹脂粉体塗装)にて電圧を掛け、ピンホールが生じるか否かを目視で確認した。ピンホール無しを〇、ピンホールありを×とした。
【0033】
<総評>
実施例1ではいずれの試験も好適な結果を示し、二層のみで十分な防食性能を発揮することが確かめられた。比較例1では評価が好ましくなく、非耐熱性ジンクリッチプライマを用いてジンクリッチプライマ層を形成した後に目荒らし加工が必要であることが強く示唆された。水系塗料や溶剤系塗料を用いて第二層を形成した比較例2~4はいずれも耐水性が不十分であることが示され、二層のみの防食加工とする場合には粉体塗料による塗膜層が必要であることが示された。