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特開2023-146361マイクロデバイス及びこれを用いた方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146361
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】マイクロデバイス及びこれを用いた方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20231004BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20231004BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20231004BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20231004BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20231004BHJP
【FI】
C12M1/00 Z
C12M1/00 A
C12M3/00 Z
C12N1/00 B
C12N5/071
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053505
(22)【出願日】2022-03-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年11月2日 https://sensorsymposium.org/dl/dl.php 令和3年11月11日 第12回マイクロ・ナノ工学シンポジウム 令和3年12月27日 https://www.ieeemems2022.org/cgi-bin/download.cgi 令和4年1月12日 The 35th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 葵
(72)【発明者】
【氏名】三村 久敏
(72)【発明者】
【氏名】高森 翔
(72)【発明者】
【氏名】大崎 寿久
(72)【発明者】
【氏名】三木 則尚
(72)【発明者】
【氏名】竹内 昌治
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC01
4B029DA03
4B029DC07
4B029DF05
4B029DF10
4B029DG06
4B029GA08
4B029GB10
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA05
4B065BC20
4B065BC50
4B065CA24
4B065CA46
(57)【要約】      (修正有)
【課題】簡便な溶液交換を実現するマイクロデバイスを提供する。
【解決手段】溶液交換部材100と、溶液交換部材に取り付け可能な細胞保持カセット200とを含むマイクロデバイスであって、細胞保持カセットは、細胞を含む第一溶液を保持するウェル210を有し、溶液交換部材は、ウェルに保持された第一溶液を吸引する吸引毛細管110と、ウェルに流入させる第二溶液を保持するリザーバー120とを有し、細胞を含む第一溶液をウェルに保持した細胞保持カセットを、溶液交換部材の吸引毛細管と第二溶液を保持したリザーバーとの間に取り付けることによって、毛細管力によるウェルから吸引毛細管への第一溶液の吸引と、リザーバーからウェルへの第二溶液の流入とによる溶液交換が開始され、その後、細胞及び溶液とがウェルに保持された状態で、ウェルから吸引毛細管への溶液の吸引が停止されることにより、溶液交換が停止されるよう構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液交換部材と、前記溶液交換部材に取り付け可能な細胞保持カセットとを含むマイクロデバイスであって、
前記細胞保持カセットは、細胞を含む第一溶液を保持するためのウェルを有し、
前記溶液交換部材は、前記ウェルに保持された前記第一溶液を毛細管力により吸引する吸引毛細管と、前記ウェルに流入させる第二溶液を保持するためのリザーバーとを有し、
前記細胞を含む第一溶液を前記ウェルに保持した前記細胞保持カセットを、前記溶液交換部材の前記吸引毛細管と前記第二溶液を保持した前記リザーバーとの間に取り付けることによって、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への前記第一溶液の吸引と、前記リザーバーから前記ウェルへの前記第二溶液の流入とによる溶液交換が開始され、且つ、その後、前記細胞及び溶液が前記ウェルに保持された状態で、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への溶液の吸引が停止されることにより、前記溶液交換が停止されるよう構成されている、
マイクロデバイス。
【請求項2】
前記吸引毛細管は、前記溶液交換部材に取り付けられる前の前記細胞保持カセットの前記ウェルに保持される前記第一溶液の体積と、前記細胞保持カセットが取り付けられる前の前記溶液交換部材の前記リザーバーに保持される前記第二溶液の体積との合計より小さい容積を有するとともに、気相中に開口した下流端部を有し、
前記溶液交換の開始後、毛細管力により前記ウェルから吸引された溶液が前記吸引毛細管の前記下流端部に到達することにより、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への溶液の吸引が停止されるよう構成されている、
請求項1に記載のマイクロデバイス。
【請求項3】
前記細胞保持カセットは、前記溶液交換部材に取り付け可能であり且つ取り付け後に取り外し可能に構成されている、
請求項1又は2に記載のマイクロデバイス。
【請求項4】
前記細胞保持カセットの複数回の溶液交換に用いられる複数の前記溶液交換部材を含む、
請求項3に記載のマイクロデバイス。
【請求項5】
複数の前記細胞保持カセットと、前記複数の細胞保持カセットの溶液交換に用いられる複数の前記溶液交換部材とを含む、
請求項1乃至4のいずれかに記載のマイクロデバイス。
【請求項6】
外部ポンプに接続されることなく用いられる、
請求項1乃至5のいずれかに記載のマイクロデバイス。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のマイクロデバイスを用いた溶液交換方法であって、
細胞を含む第一溶液を前記ウェルに保持し前記溶液交換部材に取り付けられていない前記細胞保持カセットと、第二溶液を前記リザーバーに保持し前記細胞保持カセットが取り付けられていない前記溶液交換部材とを準備する準備工程と、
前記準備工程後、前記細胞保持カセットを前記溶液交換部材の前記吸引毛細管と前記リザーバーとの間に取り付けることによって、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への前記第一溶液の吸引と、前記リザーバーから前記ウェルへの前記第二溶液の流入とによる溶液交換が開始され、且つ、その後、前記細胞及び溶液が前記ウェルに保持された状態で、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への溶液の吸引が停止されることにより、前記溶液交換が停止される溶液交換工程と、
を含む、溶液交換方法。
【請求項8】
前記吸引毛細管は、前記準備工程で前記ウェルに保持される前記第一溶液の体積と前記リザーバーに保持される前記第二溶液の体積との合計より小さい容積を有するとともに、気相中に開口した下流端部を有し、
前記溶液交換工程において、毛細管力により前記ウェルから吸引された溶液が前記吸引毛細管の前記下流端部に到達することにより、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への溶液の吸引が停止される、
請求項7に記載の溶液交換方法。
【請求項9】
前記細胞保持カセットは、前記溶液交換部材に取り付け可能であり且つ取り付け後に取り外し可能に構成され、
前記溶液交換工程における前記溶液交換の停止後に、前記細胞及び溶液が前記ウェルに保持された前記細胞保持カセットを前記溶液交換部材から取り外すことをさらに含む、
請求項7又は8に記載の溶液交換方法。
【請求項10】
前記マイクロデバイスは、第一溶液交換部材、第二溶液交換部材及び第三溶液交換部材を含む複数の前記溶液交換部材と、前記溶液交換部材に取り付け可能であり且つ取り付け後に取り外し可能な前記細胞保持カセットとを含み、
前記準備工程及び前記溶液交換工程として、前記第一溶液交換部材を用いた第一準備工程及び第一溶液交換工程を含み、さらに、
前記第一溶液交換工程における前記溶液交換の停止後に、前記細胞保持カセットを前記第一溶液交換部材から取り外して、前記細胞及び前記溶液交換後の第三溶液を前記ウェルに保持し前記溶液交換部材に取り付けられていない前記細胞保持カセットを準備するともに、第四溶液を前記リザーバーに保持し前記細胞保持カセットが取り付けられていない前記第二溶液交換部材を準備する第二準備工程と、
前記第二準備工程後、前記細胞保持カセットを前記第二溶液交換部材の前記吸引毛細管と前記リザーバーとの間に取り付けることによって、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への前記第三溶液の吸引と、前記リザーバーから前記ウェルへの前記第四溶液の流入とによる溶液交換が開始され、且つ、その後、前記細胞と前記溶液交換後の第五溶液とがウェルに保持された状態で、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への溶液の吸引が停止されることにより、前記溶液交換が停止される第二溶液交換工程と、
前記第二溶液交換部材に代えて前記第三溶液交換部材を用いる以外は前記第二準備工程と同様の第三準備工程と、
前記第二溶液交換部材に代えて前記第三溶液交換部材を用いる以外は前記第二溶液交換工程と同様の第三溶液交換工程と、
を含む、請求項9に記載の溶液交換方法。
【請求項11】
前記マイクロデバイスは、複数の前記溶液交換部材と複数の前記細胞保持カセットとを含み、
前記複数の細胞保持カセットの各々について、前記複数の溶液交換部材を用いた前記準備工程及び前記溶液交換工程を含む、
請求項7乃至10のいずれかに記載の溶液交換方法。
【請求項12】
前記マイクロデバイスを外部ポンプに接続することなく用いる、
請求項7乃至11のいずれかに記載の溶液交換方法。
【請求項13】
請求項1乃至6のいずれかに記載のマイクロデバイスを用いた細胞培養方法であって、
前記細胞保持カセットは、前記溶液交換部材に取り付け可能であり且つ取り付け後に取り外し可能に構成され、
細胞を含む第一溶液を前記ウェルに保持し前記溶液交換部材に取り付けられていない前記細胞保持カセットと、第二溶液を前記リザーバーに保持し前記細胞保持カセットが取り付けられていない前記溶液交換部材とを準備する準備工程と、
前記準備工程後、前記細胞保持カセットを前記溶液交換部材の前記吸引毛細管と前記リザーバーとの間に取り付けることによって、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への前記第一溶液の吸引と、前記リザーバーから前記ウェルへの前記第二溶液の流入とによる溶液交換が開始され、且つ、その後、前記細胞及び溶液が前記ウェルに保持された状態で、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への溶液の吸引が停止されることにより、前記溶液交換が停止される溶液交換工程と、
前記溶液交換工程における前記溶液交換の停止後に、前記細胞及び溶液が前記ウェルに保持された前記細胞保持カセットを前記溶液交換部材から取り外し、取り外された前記細胞保持カセットの前記ウェル内で前記細胞を培養する培養工程と、
を含む、細胞培養方法。
【請求項14】
請求項1乃至6のいずれかに記載のマイクロデバイスを用いた遺伝子導入細胞の製造方法であって、
細胞を含む第一溶液を前記ウェルに保持し前記溶液交換部材に取り付けられていない前記細胞保持カセットと、前記細胞に導入する核酸を含む遺伝子導入用の第二溶液を前記リザーバーに保持し前記細胞保持カセットが取り付けられていない前記溶液交換部材とを準備する準備工程と、
前記準備工程後、前記細胞保持カセットを前記溶液交換部材の前記吸引毛細管と前記リザーバーとの間に取り付けることによって、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への前記第一溶液の吸引と、前記リザーバーから前記ウェルへの前記第二溶液の流入とによる溶液交換が開始され、且つ、その後、前記細胞と前記核酸を含む溶液とが前記ウェルに保持された状態で、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への溶液の吸引が停止されることにより、前記溶液交換が停止される溶液交換工程と、
前記溶液交換工程後、前記細胞保持カセットの前記ウェルにおいて前記核酸を含む溶液中で前記細胞を保持することにより前記細胞への前記核酸の導入を行って、前記核酸が導入された遺伝子導入細胞を得る遺伝子導入工程と、
を含む、遺伝子導入細胞の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロデバイス及びこれを用いた方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、シリンジポンプを用いて培養液を連続的に灌流しながらマイクロチャンバー内で細胞を培養するマイクロ流体デバイスが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Paul J. Hung et al., “A novel high aspect ratio microfluidic design to provide a stable and uniform microenvironment for cell growth in a high throughput mammalian cell culture array”, Lab Chip, 2005, 5, 44-48
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来、細胞が培養されたウェル内の溶液を交換する場合、当該溶液の交換は、作業者がピペット等の器具を用いて手作業で行うか、又はシリンジポンプ等の外部ポンプを用いて行う必要があったため、操作や装置が煩雑にならざるを得なかった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、簡便な溶液交換を実現するマイクロデバイス及びこれを用いた方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るマイクロデバイスは、溶液交換部材と、前記溶液交換部材に取り付け可能な細胞保持カセットとを含むマイクロデバイスであって、前記細胞保持カセットは、細胞を含む第一溶液を保持するためのウェルを有し、前記溶液交換部材は、前記ウェルに保持された前記第一溶液を毛細管力により吸引する吸引毛細管と、前記ウェルに流入させる第二溶液を保持するためのリザーバーとを有し、前記細胞を含む第一溶液を前記ウェルに保持した前記細胞保持カセットを、前記溶液交換部材の前記吸引毛細管と前記第二溶液を保持した前記リザーバーとの間に取り付けることによって、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への前記第一溶液の吸引と、前記リザーバーから前記ウェルへの前記第二溶液の流入とによる溶液交換が開始され、且つ、その後、前記細胞及び溶液が前記ウェルに保持された状態で、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への溶液の吸引が停止されることにより、前記溶液交換が停止されるよう構成されている。本発明によれば、簡便な溶液交換を実現するマイクロデバイスが提供される。
【0007】
前記マイクロデバイスにおいて、前記吸引毛細管は、前記溶液交換部材に取り付けられる前の前記細胞保持カセットの前記ウェルに保持される前記第一溶液の体積と、前記細胞保持カセットが取り付けられる前の前記溶液交換部材の前記リザーバーに保持される前記第二溶液の体積との合計より小さい容積を有するとともに、気相中に開口した下流端部を有し、前記マイクロデバイスは、前記溶液交換の開始後、毛細管力により前記ウェルから吸引された溶液が前記吸引毛細管の前記下流端部に到達することにより、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への溶液の吸引が停止されるよう構成されていることとしてもよい。
【0008】
前記マイクロデバイスにおいて、前記細胞保持カセットは、前記溶液交換部材に取り付け可能であり且つ取り付け後に取り外し可能に構成されていることとしてもよい。また、この場合、前記マイクロデバイスは、前記細胞保持カセットの複数回の溶液交換に用いられる複数の前記溶液交換部材を含むこととしてもよい。また、前記マイクロデバイスは、複数の前記細胞保持カセットと、前記複数の細胞保持カセットの溶液交換に用いられる複数の前記溶液交換部材とを含むこととしてもよい。また、前記マイクロデバイスは、外部ポンプに接続されることなく用いられることとしてもよい。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る溶液交換方法は、前記いずれかのマイクロデバイスを用いた溶液交換方法であって、細胞を含む第一溶液を前記ウェルに保持し前記溶液交換部材に取り付けられていない前記細胞保持カセットと、第二溶液を前記リザーバーに保持し前記細胞保持カセットが取り付けられていない前記溶液交換部材とを準備する準備工程と、前記準備工程後、前記細胞保持カセットを前記溶液交換部材の前記吸引毛細管と前記リザーバーとの間に取り付けることによって、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への前記第一溶液の吸引と、前記リザーバーから前記ウェルへの前記第二溶液の流入とによる溶液交換が開始され、且つ、その後、前記細胞及び溶液が前記ウェルに保持された状態で、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への溶液の吸引が停止されることにより、前記溶液交換が停止される溶液交換工程と、を含む。本発明によれば、簡便な溶液交換方法が提供される。
【0010】
前記方法において、前記吸引毛細管は、前記準備工程で前記ウェルに保持される前記第一溶液の体積と前記リザーバーに保持される前記第二溶液の体積との合計より小さい容積を有するとともに、気相中に開口した下流端部を有し、前記溶液交換工程において、毛細管力により前記ウェルから吸引された溶液が前記吸引毛細管の前記下流端部に到達することにより、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への溶液の吸引が停止されることとしてもよい。
【0011】
前記方法において、前記細胞保持カセットは、前記溶液交換部材に取り付け可能であり且つ取り付け後に取り外し可能に構成され、前記方法は、前記溶液交換工程における前記溶液交換の停止後に、前記細胞及び溶液が前記ウェルに保持された前記細胞保持カセットを前記溶液交換部材から取り外すことをさらに含むこととしてもよい。また、この場合、前記マイクロデバイスは、第一溶液交換部材、第二溶液交換部材及び第三溶液交換部材を含む複数の前記溶液交換部材と、前記溶液交換部材に取り付け可能であり且つ取り付け後に取り外し可能な前記細胞保持カセットとを含み、前記方法は、前記準備工程及び前記溶液交換工程として、前記第一溶液交換部材を用いた第一準備工程及び第一溶液交換工程を含み、さらに、前記第一溶液交換工程における前記溶液交換の停止後に、前記細胞保持カセットを前記第一溶液交換部材から取り外して、前記細胞及び前記溶液交換後の第三溶液を前記ウェルに保持し前記溶液交換部材に取り付けられていない前記細胞保持カセットを準備するとともに、第四溶液を前記リザーバーに保持し前記細胞保持カセットが取り付けられていない前記第二溶液交換部材を準備する第二準備工程と、前記第二準備工程後、前記細胞保持カセットを前記第二溶液交換部材の前記吸引毛細管と前記リザーバーとの間に取り付けることによって、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への前記第三溶液の吸引と、前記リザーバーから前記ウェルへの前記第四溶液の流入とによる溶液交換が開始され、且つ、その後、前記細胞と前記溶液交換後の第五溶液とがウェルに保持された状態で、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への溶液の吸引が停止されることにより、前記溶液交換が停止される第二溶液交換工程と、前記第二溶液交換部材に代えて前記第三溶液交換部材を用いる以外は前記第二準備工程と同様の第三準備工程と、前記第二溶液交換部材に代えて前記第三溶液交換部材を用いる以外は前記第二溶液交換工程と同様の第三溶液交換工程と、を含むこととしてもよい。
【0012】
前記方法において、前記マイクロデバイスは、複数の前記溶液交換部材と複数の前記細胞保持カセットとを含み、本方法は、前記複数の細胞保持カセットの各々について、前記複数の溶液交換部材を用いた前記準備工程及び前記溶液交換工程を含むこととしてもよい。また、前記方法において、前記マイクロデバイスを外部ポンプに接続することなく用いることとしてもよい。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る細胞培養方法は、前記いずれかのマイクロデバイスを用いた細胞培養方法であって、前記細胞保持カセットは、前記溶液交換部材に取り付け可能であり且つ取り付け後に取り外し可能に構成され、細胞を含む第一溶液を前記ウェルに保持し前記溶液交換部材に取り付けられていない前記細胞保持カセットと、第二溶液を前記リザーバーに保持し前記細胞保持カセットが取り付けられていない前記溶液交換部材とを準備する準備工程と、前記準備工程後、前記細胞保持カセットを前記溶液交換部材の前記吸引毛細管と前記リザーバーとの間に取り付けることによって、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への前記第一溶液の吸引と、前記リザーバーから前記ウェルへの前記第二溶液の流入とによる溶液交換が開始され、且つ、その後、前記細胞及び溶液が前記ウェルに保持された状態で、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への溶液の吸引が停止されることにより、前記溶液交換が停止される溶液交換工程と、前記溶液交換工程における前記溶液交換の停止後に、前記細胞及び溶液が前記ウェルに保持された前記細胞保持カセットを前記溶液交換部材から取り外し、取り外された前記細胞保持カセットの前記ウェル内で前記細胞を培養する培養工程と、を含む。本発明によれば、簡便な溶液交換による細胞培養方法が提供される。
【0014】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る遺伝子導入細胞の製造方法は、前記いずれかのマイクロデバイスを用いた遺伝子導入細胞の製造方法であって、細胞を含む第一溶液を前記ウェルに保持し前記溶液交換部材に取り付けられていない前記細胞保持カセットと、前記細胞に導入する核酸を含む遺伝子導入用の第二溶液を前記リザーバーに保持し前記細胞保持カセットが取り付けられていない前記溶液交換部材とを準備する準備工程と、前記準備工程後、前記細胞保持カセットを前記溶液交換部材の前記吸引毛細管と前記リザーバーとの間に取り付けることによって、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への前記第一溶液の吸引と、前記リザーバーから前記ウェルへの前記第二溶液の流入とによる溶液交換が開始され、且つ、その後、前記細胞と前記核酸を含む溶液とが前記ウェルに保持された状態で、毛細管力による前記ウェルから前記吸引毛細管への溶液の吸引が停止されることにより、前記溶液交換が停止される溶液交換工程と、前記溶液交換工程後、前記細胞保持カセットの前記ウェルにおいて前記核酸を含む溶液中で前記細胞を保持することにより前記細胞への前記核酸の導入を行って、前記核酸が導入された遺伝子導入細胞を得る遺伝子導入工程と、を含む。本発明によれば、簡便な溶液交換による遺伝子導入細胞の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡便な溶液交換を実現するマイクロデバイス及びこれを用いた方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係るマイクロデバイスの一例を平面視で示す説明図である。
図2】本実施形態に係るマイクロデバイスの構成例を斜視で示す説明図である。
図3】本実施形態に係る実施例におけるマイクロデバイスの具体的な製造例を示す説明図である。
図4】本実施形態に係る方法の一例に含まれる主な工程を示す説明図である。
図5】本実施形態に係る方法の他の例に含まれる主な工程を示す説明図である。
図6】本実施形態に係る方法のさらに他の例に含まれる主な工程を示す説明図である。
図7】本実施形態に係る実施例においてセンサ細胞の匂い物質応答性を評価した結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態に係るマイクロデバイス(以下、「本デバイス」という。)及びこれを用いた方法(以下、「本方法」という。)について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0018】
図1には、本デバイスの一例を平面視で示す。図2には、本デバイスの構成例を斜視で示す。図3には、後述の実施例における本デバイスの具体的な製造例を示す。図4には、本方法の一例に含まれる主な工程を示す。図5には、本方法の他の例に含まれる主な工程を示す。図6には、本方法のさらに他の例に含まれる主な工程を示す。
【0019】
なお、本実施形態においては、図中に示す両矢印Zが指す方向を「上下方向」、矢頭Uが指す方向を「上方」、矢頭Dが指す方向を「下方」という。上下方向は鉛直方向であってもよい。また、図中に示す矢印Aが指す方向を「吸引方向A」といい、矢印Bが指す方向を「流入方向B」という。
【0020】
本デバイス1は、溶液交換部材100と、当該溶液交換部材100に取り付け可能な細胞保持カセット200とを含むマイクロデバイスである。細胞保持カセット200は、細胞を含む第一溶液を保持するためのウェル210を有する。溶液交換部材100は、細胞保持カセット200のウェル210に保持された第一溶液を毛細管力により吸引する吸引毛細管110と、当該ウェル210に流入させる第二溶液を保持するためのリザーバー120とを有する。
【0021】
そして、本デバイス1は、細胞を含む第一溶液をウェル210に保持した細胞保持カセット200を、溶液交換部材100の吸引毛細管110と第二溶液を保持したリザーバー120との間に取り付けることによって、毛細管力による当該ウェル210から当該吸引毛細管110への当該第一溶液の吸引と、当該リザーバー120から当該ウェル210への当該第二溶液の流入とによる溶液交換が開始され、且つ、その後、当該細胞及び溶液が当該ウェル210に保持された状態で、毛細管力による当該ウェル210から当該吸引毛細管110への溶液の吸引が停止されることにより、当該溶液交換が停止されるよう構成されている。
【0022】
また、本方法は、その一側面として、本デバイス1を用いた溶液交換方法を包含する。溶液交換方法である本方法は、準備工程と、溶液交換工程とを含む。準備工程においては、細胞を含む第一溶液をウェル210に保持し溶液交換部材100に取り付けられていない細胞保持カセット200と、第二溶液をリザーバー120に保持し細胞保持カセット200が取り付けられていない溶液交換部材100とを準備する。
【0023】
溶液交換工程においては、準備工程後、細胞保持カセット200を溶液交換部材100の吸引毛細管110とリザーバー120との間に取り付けることによって、毛細管力による当該細胞保持カセット200のウェル210から当該溶液交換部材100の吸引毛細管110への第一溶液の吸引と、当該リザーバー120から当該ウェル210への第二溶液の流入とによる溶液交換が開始される。
【0024】
また、溶液交換工程においては、溶液交換の開始後、細胞及び溶液が細胞保持カセット200のウェル210に保持された状態で、毛細管力による当該ウェル210から溶液交換部材100の吸引毛細管110への吸引が停止されることにより、当該溶液交換が停止される。
【0025】
すなわち、本デバイス1は、細胞を含む第一溶液をウェル210に保持した細胞保持カセット200を、第二溶液をリザーバー120に保持し吸引毛細管110を有する溶液交換部材100に取り付けるという簡便な操作のみで、毛細管力による当該ウェル210から当該吸引毛細管110への当該第一溶液の吸引が自発的に開始されるとともに、当該リザーバー120から当該ウェル210への当該第二溶液の流入も開始され、しかも、その後、当該細胞及び溶液が当該ウェル210に保持された状態で、毛細管力による当該ウェル210から当該吸引毛細管110への溶液の吸引が自発的に停止されるよう構成されている。したがって、本デバイス1を用いることにより、細胞保持カセット200のウェル210内の溶液交換を簡便に実現することができる。
【0026】
本デバイス1に含まれる細胞保持カセット200は、基部220と、当該基部220に有底穴として形成されたウェル210とを有している。基部220を構成する材料は、本発明の効果が得られれば特に限られず、例えば、樹脂、ガラス、セラミックス及び金属からなる群より選択される1以上であってもよく、樹脂で構成されることが好ましい。基部220の形状は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、基板状であることが好ましい。すなわち、基部220は、基板状に構成された樹脂製の部材であることが好ましい。
【0027】
細胞保持カセット200の基部220は、図2に示すように、第一基板221と第二基板222とを含んで構成されてもよい。図2に示す例では、第一基板221に貫通穴が形成され、第二基板222は当該貫通穴の下方を塞ぐように当該第一基板221に接着される。ただし、基部220は、本発明の効果が得られれば、図2に示す例に限られず、例えば、ウェル210を構成する有底穴が形成された1つの基板から構成されてもよい。
【0028】
ウェル210は、底面211と、当該底面211の外周から上方に延びる内側面212と、当該底面211及び内側面212で囲まれた保持空間213とを有している。図2に示す例においては、第一基板221の貫通穴の内面がウェル210の内側面212を構成し、第二基板222の上面のうち当該貫通穴(保持空間213)内に露出する部分がウェル210の底面211を構成する。
【0029】
ウェル210の底面211及び内側面212は、親水性を有することが好ましい。ウェル210の底面211及び内側面212の親水性は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該底面211及び内側面212の水接触角は、85°以下であることが好ましく、60°以下であることがより好ましい。
【0030】
ウェル210の底面211は、当該ウェル210に接着性細胞を保持する場合、当該細胞に対して接着性を有することが好ましい。この点、例えば、基部220を構成する材料の表面(例えば、樹脂表面)である底面211に、細胞接着性成分(例えば、細胞接着性を示すペプチド、タンパク質、糖鎖、多糖類、又は細胞接着性基が人工的に導入された化合物)を塗布することにより、当該底面211に細胞接着性を付与してもよい。
【0031】
一方、ウェル210に非接着性の細胞を保持する場合や、ウェル210内に培養担体を入れて当該培養担体に細胞(接着性細胞及び/又は非接着性細胞)を担持する場合には、当該ウェル210の底面211は、当該細胞に対して接着性を有してもよいし、接着性を有しなくてもよい。
【0032】
ウェル210は、その上方の開口の全部又は一部を塞ぐ天面214を有してもよい。具体的に、例えば、ウェル210内の溶液交換は、当該ウェル210の上方の開口の全部を天面214によって塞いだ状態で実施する。すなわち、溶液交換中のウェル210は、溶液交換部材100の吸引毛細管110及びリザーバー120と連通するための開口を除き、密閉される。
【0033】
一方、例えば、ウェル210内で細胞を培養する場合、当該ウェル210の上方の開口の少なくとも一部を、酸素を含む気相中に開放しておくことが好ましい。すなわち、この場合、例えば、図に示すように、通気孔215が形成された天面214を有するウェル210内で細胞を培養する。ウェル210が開口を介して気相と連通していることにより、当該気相から当該開口を介して当該ウェル210の培養細胞に酸素を効率よく供給することができる。
【0034】
ただし、例えば、ウェル210が高い酸素透過性を有する材料で構成された天面214を有する場合には、当該天面214の一部が開口している必要はない。また、天面214を有しないウェル210内で細胞を培養することによっても当該細胞に当該ウェル210外の気相から当該細胞に酸素を効率よく供給することができる。
【0035】
ウェル210の天面214は、図2に示すように、シール部材230で構成されてもよい。シール部材230は、ウェル210の上方の開口の全部又は一部を塞ぐように、基部220の上面220aに接着される。この結果、シール部材230の下方側の表面のうち保持空間213内に露出する部分が、ウェル210の天面214を構成する。
【0036】
なお、通気孔215が形成された天面214を有するウェル210内で細胞を培養した後に、当該ウェル210内の溶液交換を行う場合には、例えば、当該通気孔215を他の材料で塞ぐことにより、当該ウェル210内を密閉することができる。
【0037】
シール部材230を構成する材料は、本発明の効果が得られれば特に限られず、例えば、樹脂、ガラス、セラミックス及び金属からなる群より選択される1以上であってもよく、樹脂で構成されることが好ましい。シール部材230の形状は特に限られないが、例えば、シート状であることが好ましい。すなわち、シール部材230は、樹脂製のシート状に構成された部材であることが好ましい。
【0038】
天面214を構成するシール部材230は、その少なくとも一部が基部220に対して剥離可能に接着していることが好ましい。この場合、例えば、ウェル210内で細胞を培養した後、又は溶液交換を行った後に、シール部材230の少なくとも一部を基部220から剥離して当該ウェル210の上方を開口させることにより、当該開口を介した当該細胞の回収等の操作を容易に行うことができる。
【0039】
ウェル210の底面211及び天面214は、透光性を有することが好ましく、透明性を有することが特に好ましい。ウェル210の底面211及び天面214が透光性又は透明性を有することにより、当該ウェル210内の細胞の観察を容易に行うことができる。
【0040】
ウェル210の形状は、本発明の効果が得られれば特に限られない。すなわち、例えば、ウェル210の形状は、平面視において円形、楕円形、多角形等の任意の形状であってもよい。また、ウェル210は、溶液交換部材100のリザーバー120側の端部に、流入方向Bに向けて断面積(流入方向Bに対して垂直に切断した断面の面積)が拡大する拡大部216を有し、及び/又は、溶液交換部材100の吸引毛細管110側の端部に、吸引方向Aに向けて断面積(吸引方向Aに対して垂直に切断した断面の面積)が縮小する縮小部217を有することが好ましい。すなわち、図1に示すように、ウェル210は、平面視においてテーパ状の拡大部216及び縮小部217を有してもよい。ウェル210が拡大部216及び/又は縮小部217を有することにより、当該ウェル210から吸引毛細管110への溶液の吸引、及び/又は、リザーバー120からウェル210への溶液の流入を効果的に達成することができる。
【0041】
ウェル210のサイズは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、ウェル210の底面211の面積は、1000mm以下であってもよく、300mm以下であることが好ましく、100mm以下であることがより好ましい。また、ウェル210の底面211の面積は、例えば、1mm以上であってもよく、3mm以上であることが好ましく、12mm以上であることがより好ましい。ウェル210の底面211の面積は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0042】
また、ウェル210の容積は、例えば、5000μL以下であってもよく、500μL以下であることが好ましく、200μL以下であることがより好ましい。また、ウェル210の容積は、例えば、1μL以上であってもよく、10μL以上であることが好ましく、30μL以上であることがより好ましい。ウェル210の容積は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0043】
細胞保持カセット200は、図1に示すように、ウェル210と溶液交換部材100のリザーバー120とを連通させる上流流路240、及び/又は、ウェル210と溶液交換部材100の吸引毛細管110とを連通させる下流流路250を有することが好ましい。上流流路240及び下流流路250は、基部220において溝状のマイクロ流路として形成されている。そして、上流流路240の上流端部241(リザーバー120側の端部)は、基部220の外表面の一部220bに開口し、当該上流流路240の下流端部242(ウェル210側の端部)は、ウェル210内(例えば、内側面212)に開口している。下流流路250の上流端部251(ウェル210側の端部)は、ウェル210内(例えば、内側面212)に開口し、当該下流流路250の下流端部252(吸引毛細管110側の端部)は、基部220の外表面の一部220cに開口している。
【0044】
ただし、細胞保持カセット200のウェル210と、溶液交換部材100のリザーバー120及び吸引毛細管110とを連通させる態様は図1に示す例に限られない。すなわち、例えば、上流流路240の下流端部241、及び/又は、下流流路250の上流端部251は、それぞれ分岐してウェル210に連通していることとしてもよい。具体的に、例えば、上流流路240の下流端部241は、流入方向Bに向けて分岐してウェル210に接続し、連通する2以上の下流分岐流路(不図示)を有することとしてもよい。また、例えば、下流流路250の上流端部251は、吸引方向Aと反対方向に向けて分岐してウェル210に接続し、連通する2以上の上流分岐流路(不図示)を有することとしてもよい。
【0045】
上流流路240及び下流流路250はウェル210と連通しているため、当該ウェル210に溶液が保持されることで、当該上流流路240及び下流流路250にも当該溶液が保持される。
【0046】
この点、上流流路240及び下流流路250の内面は親水性を有している。上流流路240及び下流流路250の内面の親水性は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該内面の水接触角は、85°以下であることが好ましく、60°以下であることがより好ましい。
【0047】
一方、上流流路240の上流端部241が開口する基部220の外表面220b、及び、下流流路250の下流端部252が開口する基部220の外表面220cは、疎水性を有している。基部220の外表面220b,220cの疎水性は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該外表面220b,220cの水接触角は、90°以上であることが好ましく、100°以上であることがより好ましい。
【0048】
上流流路240及び下流流路250のサイズは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、上流流路240の流路断面積(流入方向Bに対して垂直な面で切断した断面の面積)、及び下流流路250の流路断面積(吸引方向Aに対して垂直な面で切断した断面の面積)は、それぞれ独立に、10mm以下であってもよく、4mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。また、上流流路240及び下流流路250の流路断面積は、例えば、それぞれ独立に、0.0001mm以上であってもよく、0.01mm以上であることが好ましい。上流流路240及び下流流路250の流路断面積は、それぞれ独立に、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0049】
本デバイス1に含まれる溶液交換部材100は、基部130と、当該基部130にマイクロ流路として形成された吸引毛細管110と、当該基部130に有底穴として形成されたリザーバー120とを有している。
【0050】
基部130を構成する材料は、本発明の効果が得られれば特に限られず、例えば、樹脂、ガラス、セラミックス及び金属からなる群より選択される1以上であってもよく、樹脂で構成されることが好ましい。基部130の形状は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、基板状であることが好ましい。すなわち、基部130は、基板状に構成された樹脂製の部材であることが好ましい。
【0051】
溶液交換部材100の基部130は、図2に示すように、第一基板131と、第二基板132と、シール部材133とを含んで構成されてもよい。図2に示す例において、第一基板131には、吸引毛細管110を構成する溝とリザーバー120の下部を構成する窪みとが形成され、第二基板132には、当該リザーバー120の上部を構成する貫通穴が形成されている。そして、第一基板131の上面のうち窪みに対応する位置に第二基板132が接着されることでリザーバー120が形成される。また、第一基板131の上面のうち溝の上方を塞ぐ位置にシール部材133が接着されることで吸引毛細管110が形成される。ただし、基部130は、本発明の効果が得られれば図2に示す例に限られず、例えば、吸引毛細管110を構成する溝と、リザーバー120を構成する有底穴とが形成された1つの基板と、当該基板の上面のうち当該溝の上方を塞ぐ位置に接着されたシール部材とを含んで構成されてもよい。
【0052】
吸引毛細管110は、細胞保持カセット200のウェル210内の溶液を毛細管力によって吸引し、保持するマイクロ流路である。図1に示すように、吸引毛細管110の上流端部111(ウェル210側の端部)は、基部130の外表面の一部130cに開口している。そして、吸引毛細管110は、気体(例えば、空気)を保持した上流端部111の開口に溶液が接触することにより、毛細管現象により当該溶液が当該吸引毛細管110に吸引されるよう形成されている。
【0053】
また、吸引毛細管110の下流端部112(上流端部111と反対側の端部)は、基部130の外表面の一部130aに開口している。すなわち、吸引毛細管110の下流端部112は、基部130の外表面130aに形成された開口113を介して外部の気相(例えば、大気)に連通している。より具体的に、図2に示す例において、吸引毛細管110の下流端部112の開口113は、基部130の上面(シール部材133の上面133a)である外表面130aに形成されている。そして、吸引毛細管110は、毛細管力により吸引された溶液が、気相に開口した下流端部112に到達することにより、当該毛細管力による吸引が自発的に停止されるよう形成されている。
【0054】
吸引毛細管110の内面は、親水性を有している。吸引毛細管110の内面の親水性は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該内面の水接触角は、85°以下であることが好ましく、60°以下であることがより好ましい。
【0055】
一方、吸引毛細管110の下流端部112が開口する基部130の外表面130aは、疎水性を有する。基部130の外表面130aの疎水性は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該外表面130aの水接触角は、90°以上であることが好ましく、100°以上であることがより好ましい。
【0056】
吸引毛細管110の形状は、本発明の効果が得られれば特に限られない。すなわち、吸引毛細管110は、例えば、図に示すように、平面視において蛇行するよう形成されてもよい。また、吸引毛細管110は、例えば、平面視において渦巻状に形成されてもよく、複数に分岐した形状に形成されてもよい。
【0057】
吸引毛細管110のサイズは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、吸引毛細管110の流路断面積(吸引方向Aに対して垂直な面で切断した断面の面積)は、10mm以下であってもよく、4mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。また、吸引毛細管110の流路断面積は、例えば、0.0001mm以上であってもよく、0.01mm以上であることが好ましい。吸引毛細管110の流路断面積は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0058】
また、吸引毛細管110の容積は、例えば、10000μL以下であってもよく、1000μL以下であることが好ましい。また、吸引毛細管110の容積は、例えば、1μL以上であってもよく、10μL以上であることが好ましい。吸引毛細管110の容積は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0059】
リザーバー120は、底面121と、当該底面121の外周から上方に延びる内側面122と、当該底面121及び内側面122で囲まれた保持空間123とを有している。図2に示す例においては、第一基板131の窪みが底面121を含むリザーバー120の下部を構成し、当該窪みの一部と第二基板132の貫通穴の内面とがリザーバー120の内側面122を構成している。また、リザーバー120の上方は、開口している。
【0060】
リザーバー120の底面121及び内側面122は、親水性を有することが好ましい。リザーバー120の底面121及び内側面122の親水性は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該底面121及び内側面122の水接触角は、85°以下であることが好ましく、60°以下であることがより好ましい。
【0061】
リザーバー120の形状は、本発明の効果が得られれば特に限られず、例えば、平面視において円形、楕円形、多角形等の任意の形状であってもよい。
【0062】
リザーバー120のサイズは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、リザーバー120の容積は、10000μL以下であってもよく、1000μL以下であることが好ましい。また、リザーバー120の容積は、例えば、1μL以上であってもよく、10μL以上であることが好ましい。リザーバー120の容積は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0063】
溶液交換部材100は、リザーバー120と細胞保持カセット200のウェル210とを連通させる流出流路140を有することが好ましい。流出流路140は、基部130において溝状のマイクロ流路として形成されている。そして、図1に示すように、流出流路140の上流端部141(リザーバー120側の端部)は、リザーバー120内(例えば、内側面122)に開口し、当該流出流路140の下流端部142(ウェル210側の端部)は、基部130の外表面の一部130bに開口している。
【0064】
流出流路140はリザーバー120と連通しているため、当該リザーバー120に溶液が保持されることで、当該流出流路140にも当該溶液が保持される。この点、流出流路140の内面は親水性を有している。流出流路140の内面の親水性は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該内面の水接触角は、85°以下であることが好ましく、60°以下であることがより好ましい。
【0065】
一方、流出流路140の下流端部142が開口する基部130の外表面130bは、疎水性を有する。基部130の外表面130bの疎水性は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該外表面130bの水接触角は、90°以上であることが好ましく、100°以上であることがより好ましい。
【0066】
流出流路140のサイズは、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、流出流路140の流路断面積(流入方向Bに対して垂直な面で切断した断面の面積)は、10mm以下であってもよく、4mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。また、流出流路140の流路断面積は、例えば、0.0001mm以上であってもよく、0.01mm以上であることが好ましい。流出流路140の流路断面積は、それぞれ独立に、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0067】
本デバイス1は、細胞保持カセット200を溶液交換部材100の吸引流路110とリザーバー120との間に取り付け可能に構成されている。細胞保持カセット200を溶液交換部材100に取り付け可能とするための構成は、本発明の効果が得られれば特に限らないが、例えば、当該細胞保持カセット200及び当該溶液保持部材100は、一方が他方に係合するよう構成されていることが好ましい。
【0068】
すなわち、例えば、溶液交換部材100は、細胞保持カセット200が嵌め入れられる取付凹部150を有していることとしてもよい。具体的に、図1及び図2に示す例においては、溶液交換部材100の基部130のうち吸引毛細管110とリザーバー120との間の位置に、細胞保持カセット200の基部220が嵌め入れられる取付凹部150が形成されている。
【0069】
また、細胞保持カセット200及び溶液交換部材100は、互いに係合可能な一対の係合部を有してもよい。すなわち、細胞保持カセット200及び溶液交換部材100は、例えば、一方が凸形状を有し、他方が凹形状を有する一対の係合部を有してもよい。
【0070】
具体的に、図1に示す例において、細胞保持カセット200は、基部220から突出して形成された凸形状の第一係合部260を有し、溶液交換部材100は、当該突出部260と係合する凹形状の第二係合部160を有している。より具体的に、細胞保持カセット200は、基部220のリザーバー120側の端部及び吸引毛細管110側の端部のそれぞれに第一係合部260を有し、溶液交換部材100は、当該第一係合部260と係合する一対の第二係合部160とを有している。
【0071】
また、図1に示す例において、細胞保持カセット200の上流流路240及び下流流路250は、それぞれ上流側の第一係合部260の外表面220b及び下流側の第一係合部260の外表面220cに開口している。また、これに対応して、溶液保持部材100の流出流路140及び吸引毛細管110は、それぞれ上流側の第二係合部160の外表面130b及び下流側の第二係合部160の外表面130cに開口している。
【0072】
本デバイス1は、細胞を含む第一溶液をウェル210に保持した細胞保持カセット200を、溶液交換部材100の吸引毛細管110とリザーバー120との間に取り付けることによって、毛細管力による当該ウェル210から当該吸引毛細管110への当該第一溶液の吸引が開始されるよう構成されている。
【0073】
すなわち、本デバイス1は、細胞保持カセット200が溶液交換部材100に取り付けられることによって、当該細胞保持カセット200のウェル210と、当該溶液交換部材100の吸引毛細管110とが連通するよう構成されている。
【0074】
具体的に、細胞保持カセット200が溶液交換部材100に取り付けられた状態において、当該細胞保持カセット200の下流流路250は、当該溶液交換部材100の吸引毛細管110と接続され、その結果、当該細胞保持カセット200のウェル210と当該吸引毛細管110とが当該下流流路250を介して連通する。
【0075】
より具体的に、細胞保持カセット200の下流流路250が開口する基部220の外表面220cと、溶液交換部材100の吸引毛細管110の上流端部111が開口する基部130の外表面130cとは密着するように構成されている。
【0076】
このため、細胞保持カセット200においてウェル210とともに第一溶液を保持している下流流路250が、気体(例えば、空気)を保持している吸引毛細管110の上流端部111と接続され、連通することにより、毛細管力によって当該第一溶液は当該ウェル210及び下流流路250から当該吸引毛細管110に吸引され始める。すなわち、細胞保持カセット200を溶液交換部100に取り付けるだけで、毛細管力によるウェル210から吸引毛細管110への第一溶液の吸引が自発的に開始される。
【0077】
また、本デバイス1は、毛細管力によるウェル210から吸引毛細管110への第一溶液の吸引が開始されることにより、リザーバー120から当該ウェル210への第二溶液の流入が開始されるよう構成されている。
【0078】
すなわち、本デバイス1は、細胞保持カセット200が溶液交換部材100に取り付けられることによって、当該細胞保持カセット200のウェル210と、当該溶液交換部材100のリザーバー120とが連通するよう構成されている。
【0079】
具体的に、細胞保持カセット200が溶液交換部材100に取り付けられた状態において、当該細胞保持カセット200の上流流路240は、当該溶液交換部材100の流出流路140と接続され、その結果、当該細胞保持カセット200のウェル210と当該リザーバー120とが当該上流流路240及び当該流出流路140を介して連通する。
【0080】
より具体的に、細胞保持カセット200の上流流路240が開口する基部220の外表面220bと、溶液交換部材100の流出流路140が開口する基部130の外表面130bとは密着するように構成されている。
【0081】
また、細胞保持カセット200のウェル210は、その上方の開口を塞ぐ天面214を有することで、上流流路240及び下流流路250を介してそれぞれリザーバー120及び吸引毛細管110に連通している以外は密閉されている。
【0082】
このため、ウェル210とリザーバー120とが連通した状態で、上述のとおり毛細管力によるウェル210から吸引引毛細管110への第一溶液の吸引が開始されることにより、リザーバー120から当該ウェル210への第二溶液の流入も開始される。すなわち、細胞保持カセット200を溶液交換部100に取り付けるだけで、毛細管力によるウェル210から吸引毛細管110への第一溶液の吸引に加えて、リザーバー120から当該ウェル210への第二溶液の流入も自発的に開始される。
【0083】
そして、本デバイス1においては、毛細管力によるウェル210から吸引毛細管110への第一溶液の吸引と、リザーバー120から当該ウェル210への第二溶液の流入とが開始されることにより、当該ウェル210内の溶液交換が開始される。
【0084】
さらに、本デバイス1は、上述のように溶液交換が開始された後、細胞及び溶液がウェル210に保持された状態で、毛細管力による当該ウェル210から吸引毛細管110への吸引が停止されるよう構成されている。
【0085】
ここで、細胞及び溶液がウェル210に保持された状態で毛細管力による当該ウェル210から吸引毛細管110への吸引が停止されるための構成は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該吸引毛細管110は、溶液交換部100に取り付けられる前の細胞保持カセット200のウェル210に保持される第一溶液の体積と、細胞保持カセット200が取り付けられる前の溶液交換部材100のリザーバー120に保持される第二溶液の体積との合計(以下、「溶液交換開始時の第一溶液及び第二溶液の合計体積」という。)より小さい容積を有するとともに、気相中に開口した下流端部112を有することとしてもよい。
【0086】
この場合、毛細管力によりウェル210から吸引毛細管110内に吸引された、溶液交換開始時の第一溶液及び第二溶液の合計体積より小さい体積の溶液が、当該吸引毛細管110の下流端部112に到達することにより、当該毛細管力による吸引が停止される。
【0087】
具体的に、まず溶液交換開始時の吸引毛細管110は、その内部に気体を保持し、その下流端部112は気相(すなわち、本デバイス1外の雰囲気(例えば、大気))中に開口しているため、当該吸引毛細管110は、当該下流端部112の開口から当該気体を排出しながら、毛細管力によりウェル210から溶液を吸引する。
【0088】
次に、吸引毛細管110の下流端112は気相中に開口しているため、吸引された溶液が当該下流端112に到達することで、毛細管力によるウェル210から当該吸引毛細管110への溶液の吸引は自発的に停止される。
【0089】
ここで、吸引毛細管110の容積は、溶液交換開始時の第一溶液及び第二溶液の合計体積より小さいため、毛細管力によるウェル210から当該吸引毛細管110への溶液の吸引は、当該ウェル210に溶液が保持された状態で停止される。
【0090】
このように、吸引毛細管110は、毛細管力によるウェル210からの溶液の吸引を自発的に開始するのみならず、ウェル210内に細胞及び溶液が保持された状態で、すなわち、細胞を保持したウェル210内の溶液が吸引され尽くされる前に、当該毛細管力による吸引を自発的に停止する。また、吸引毛細管110は、溶液交換の開始から停止までの間、毛細管力によりウェル210から吸引した溶液を排出することなく保持する。
【0091】
なお、溶液交換においては、ウェル210から吸引毛細管110への第一溶液の吸引と、リザーバー120から当該ウェル210への第二溶液の流入とが並行して行われるため、当該ウェル210内では、残存している第一溶液と、流入した第二溶液との混合が少なからず生じる。このため、溶液交換が停止される時点においてウェル210に保持されている溶液は、その組成が第二溶液の組成と完全には一致しない第三溶液となる。この点、例えば、流体力学的な観点から、ウェル210から吸引毛細管110への第一溶液の吸引、及び、リザーバー120から当該ウェル210への第二溶液の流入の条件(例えば、流量)が適切な範囲となるよう本デバイス1を設計することにより、溶液交換停止時のウェル210に保持される第三溶液の組成が第二溶液の組成に近いものとなるよう調整することができる。
【0092】
吸引毛細管110が上述のとおり、溶液交換開始時の第一溶液及び第二溶液の合計体積より小さい容積を有する場合、当該吸引毛細管110の容積は、例えば、溶液交換開始時の第一溶液及び第二溶液の合計体積の0.99倍以下であってもよく、0.95倍以下であってもよく、0.9倍以下であってもよく、0.8倍以下であってもよく、0.7倍以下であってもよく、0.6倍以下であってもよい。また、吸引毛細管110の容積は、例えば、溶液交換開始時の第一溶液及び第二溶液の合計体積の0.1倍以上であってもよく、0.2倍以上であってもよく、0.3倍以上であってもよく、0.4倍以上であってもよい。溶液交換開始時の第一溶液及び第二溶液の合計体積に対する吸引毛細管110の容積の割合は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0093】
また、吸引毛細管110が、溶液交換開始時の第一溶液及び第二溶液の合計体積より小さい容積を有する場合、当然ながら、当該吸引毛細管110の容積は、ウェル210の容積とリザーバー120の容積との合計より小さくなる。
【0094】
具体的に、吸引毛細管110の容積は、例えば、ウェル210の容積とリザーバー120の容積との合計の0.99倍以下であってもよく、0.95倍以下であってもよく、0.9倍以下であってもよく、0.8倍以下であってもよく、0.7倍以下であってもよく、0.6倍以下であってもよい。また、吸引毛細管110の容積は、例えば、ウェル210の容積とリザーバー120の容積との合計の0.1倍以上であってもよく、0.2倍以上であってもよく、0.3倍以上であってもよく、0.4倍以上であってもよい。ウェル210の容積とリザーバー120の容積との合計に対する吸引毛細管110の容積の割合は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0095】
また、吸引毛細管110の容積は、細胞保持カセット200が取り付けられる前の溶液交換部材100のリザーバー120に保持される第二溶液の体積(以下、「溶液交換開始時の第二溶液の体積」という。)以上であることとしてもよい。この場合、溶液交換開始時にリザーバー120に保持されていた第二溶液の全てを溶液交換に利用することができる。
【0096】
具体的に、吸引毛細管110の容積は、例えば、吸引開始時の第二溶液の体積の1倍以上であってもよく、1.1倍以上であってもよく、1.2倍以上であってもよい。また、吸引毛細管110の容積は、例えば、吸引開始時の第二溶液の体積の10倍以下であってもよく、8倍以下であってもよく、6倍以下であってもよく、4倍以下であってもよく、2倍以下であってもよい。吸引開始時の第二溶液の体積に対する吸引毛細管110の容積の割合は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0097】
また、吸引毛細管110の容積は、溶液交換部材100に取り付けられる前の細胞保持カセット200のウェル210に保持される第一溶液の体積(以下、「溶液交換開始時の第一溶液の体積」という。)以上であってもよいし、当該溶液交換開始時の第一溶液の体積以下であってもよい。すなわち、溶液交換においては、溶液交換開始時の第一溶液の全量を交換することとしてもよいし、当該溶液交換開始時の第一溶液の一部を交換することとしてもよい。
【0098】
具体的に、吸引毛細管110の容積は、例えば、溶液交換開始時の第一溶液の体積の0.1倍以上であってもよく、0.2倍以上であってもよく、0.4倍以上であってもよく、0.6倍以上であってもよく、0.8倍以上であってもよく、1倍以上であってもよく、2倍以上であってもよく、3倍以上であってもよい。また、吸引毛細管110の容積は、例えば、溶液交換開始時の第一溶液の体積の10倍以下であってもよく、8倍以下であってもよく、6倍以下であってもよく、5倍以下であってもよい。溶液交換開始時の第一溶液の体積に対する吸引毛細管110の容積の割合は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0099】
次に、本方法のうち、本デバイス1を用いた溶液交換方法の詳細について説明する。溶液交換方法は、準備工程と溶液交換工程とを含む。準備工程においては、図4(A)に示すように、細胞を含む第一溶液をウェル210に保持し、溶液交換部100材に取り付けられていない細胞保持カセット200を準備する。
【0100】
ここで、第一溶液に限らず、本方法において本デバイス1に保持する溶液は、ウェル210に保持される細胞の生存を維持できる水溶液であることが好ましく、例えば、リン酸緩衝液やハンクス液等の平衡塩類溶液又は培養液、又はこれらの溶液をベースに調製された水溶液が好ましく用いられる。
【0101】
準備工程においてウェル210に保持する第一溶液の体積は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、5000μL以下であってもよく、500μL以下であることが好ましく、200μL以下であることがより好ましい。また、準備工程においてウェル210に保持する第一溶液の体積は、1μL以上であってもよく、10μL以上であることが好ましく、30μL以上であることがより好ましい。準備工程においてウェル210に保持する第一溶液の体積は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0102】
なお、細胞保持カセット200の上流流路240及び下流流路250は、ウェル210に連通しているため、当該ウェル210に第一溶液を保持することにより、当該上流流路240及び下流流路250にも当該第一溶液が保持される。
【0103】
ウェル210に保持する細胞は、本発明による効果が得られるものであれば特に限られないが、例えば、哺乳類、爬虫類、両生類、魚類、又は昆虫の細胞が好ましく用いられ、哺乳類又は昆虫の細胞が特に好ましく用いられる。また、ウェル210に保持する細胞は、接着性細胞であってもよいし、非接着性細胞であってもよいが、接着性細胞が好ましく用いられる。
【0104】
本方法において、溶液交換は、ウェル210内に細胞を保持したまま行う。このため、例えば、ウェル210の底面211に細胞を接着させて保持することが好ましい。また、例えば、ウェル210内に培養担体を保持し、当該培養担体に細胞を保持することとしてもよい。また、例えば、ウェル210の底面211を、下流流路250より下方に窪んだ凹部として形成し、当該窪んだ底面211上に細胞を沈降させて保持することとしてもよい。
【0105】
細胞を含む第一溶液をウェル210に保持させる方法は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該第一溶液に当該細胞を懸濁して調製された細胞懸濁液を当該ウェル210に入れることにより、当該細胞を当該ウェル210に保持することとしてもよい。
【0106】
準備工程においては、予めウェル210内で細胞を培養することとしてもよい。この場合、予め培養された細胞がウェル210に保持された細胞保持カセット200が準備される。なお、ウェル210内での細胞の培養は、当該ウェル210内に当該細胞を保持した細胞保持カセット200をインキュベータ内に静置することにより好ましく実施される。また、細胞の培養中、ウェル210の上方は開口していることが好ましい。
【0107】
また、準備工程においては、図4(A)に示すように、第二溶液をリザーバー120に保持し、細胞保持カセット200が取り付けられていない溶液交換部材100も準備する。
【0108】
準備工程においてリザーバー120に保持される第二溶液は、第一溶液と異なる組成を有する水溶液であることが好ましい。ただし、第一溶液及び第二溶液の組成は、目的に応じて適宜調整されればよい。すなわち、第二溶液は、例えば、平衡塩類溶液又は培養液に、ウェル210内の細胞に作用させたい成分を添加して調製された水溶液であることとしてもよい。
【0109】
準備工程においてリザーバー120に保持する第二溶液の体積は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、10000μL以下であってもよく、1000μL以下であることが好ましい。また、準備工程においてリザーバー120に保持する第二溶液の体積は、1μL以上であってもよく、10μL以上であることが好ましい。準備工程においてリザーバー120に保持する第二溶液の体積は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0110】
なお、溶液交換部材100の流出流路140は、リザーバー120に連通しているため、当該リザーバー120に第二溶液を保持することにより、当該流出流路140にも当該第二溶液が保持される。
【0111】
準備工程においてリザーバー120に保持する第二溶液の体積(すなわち、溶液交換開始時の第二溶液の体積)は、例えば、当該準備工程においてウェル210に保持される第一溶液の体積(すなわち、溶液交換開始時の第一溶液の体積)以上であってもよいし、当該溶液交換開始時の第一溶液の体積以下であってもよい。
【0112】
具体的に、溶液交換開始時の第二溶液の体積は、例えば、溶液交換開始時の第一溶液の体積の0.1倍以上であってもよく、0.2倍以上であってもよく、0.4倍以上であってもよく、0.6倍以上であってもよく、0.8倍以上であってもよく、1倍以上であってもよく、2倍以上であってもよく、3倍以上であってもよい。また、溶液交換開始時の第二溶液の体積は、例えば、溶液交換開始時の第一溶液の体積の10倍以下であってもよく、8倍以下であってもよく、6倍以下であってもよく、5倍以下であってもよく。溶液交換開始時の第一溶液の体積に対する、溶液交換開始時の第二溶液の体積の割合は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0113】
なお、準備工程で準備される第二溶液がリザーバー120に保持された溶液交換部材100においては、当該リザーバー120に連通した流出流路140にも当該第二溶液が保持される。
【0114】
準備工程で準備される溶液交換部材100においては、吸引毛細管110に気体を保持する。すなわち、準備工程においては、第二溶液をリザーバー120に保持し、且つ気体を吸引毛細管110に保持した、細胞保持カセット200が取り付けられていない溶液交換部材100を準備する。具体的に、吸引毛細管110は、気体で満たされていることとしてもよい。また、吸引毛細管110は液体を保持していないこととしてもよい。
【0115】
続く溶液交換工程においては、まず、図4(B)に示すように、細胞保持カセット200を溶液交換部材100の吸引毛細管110とリザーバー120との間に取り付ける。すなわち、例えば、上述のように、細胞保持カセット200及び溶液保持部材100が、一方が他方に係合するよう構成されている場合には、当該細胞保持カセット200と当該溶液保持部材100とを係合することにより、当該細胞保持カセット200を当該溶液保持部材100に取り付ける。
【0116】
具体的に、例えば、図1及び図2に示すように、溶液交換部材100が取付凹部150を有している場合には、細胞保持カセット200を当該取付凹部150に嵌め入れる。また、図1に示すように、細胞保持カセット200及び溶液交換部材100が、それぞれ第一係合部260及び第二係合部160を有している場合には、当該第一係合部260と第二係合部160とを係合させる。
【0117】
そして、溶液交換工程においては、細胞を含む第一溶液をウェル210に保持した細胞保持カセット200を、溶液交換部材100の吸引毛細管110とリザーバー120との間に取り付けることによって、毛細管力による当該ウェル210から当該吸引毛細管110への当該第一溶液の吸引が開始される。
【0118】
すなわち、細胞保持カセット200を溶液交換部材100に取り付けて、当該細胞保持カセット200のウェル210と、当該溶液交換部材100の吸引毛細管110とを連通させることにより、毛細管力による当該ウェル210から当該吸引毛細管110への第一溶液の吸引が開始される。
【0119】
具体的に、細胞保持カセット200の第一溶液が保持された下流流路250と、溶液交換部材100の気体が保持された吸引毛細管110とが接続されることにより、毛細管力によって当該第一溶液が当該吸引毛細管110に吸引され始める。
【0120】
すなわち、細胞保持カセット200を溶液交換部100に取り付けるだけで、毛細管力によるウェル210から吸引毛細管110への第一溶液の吸引が自発的に開始される。
【0121】
また、溶液交換工程においては、毛細管力によるウェル210から吸引毛細管110への第一溶液の吸引が開始されることにより、リザーバー120から当該ウェル210への第二溶液の流入が開始される。
【0122】
すなわち、細胞保持カセット200を溶液交換部材100に取り付けることにより、当該細胞保持カセット200のウェル210と、当該溶液交換部材100のリザーバー120とが連通した状態で、上述のように毛細管力による当該ウェル210から吸引毛細管110への第一溶液の吸引が開始されることにより、当該リザーバー120から当該ウェル210への第二溶液の流入も開始される。
【0123】
具体的に、細胞保持カセット200の第一溶液が保持された上流流路240と、溶液交換部材100の第二溶液が保持された流出流路140とが接続され、且つ、当該細胞保持カセット200のウェル210が当該上流流路240及び下流流路250を介してリザーバー120及び吸引毛細管110とそれぞれ連通している以外は密閉されている状態で、上述のように毛細管力によって当該ウェル210から当該吸引毛細管110に第一溶液が吸引され始めることにより、当該リザーバー120から当該ウェル210に第二溶液が流入し始める。
【0124】
すなわち、細胞保持カセット200を溶液交換部100に取り付けるだけで、毛細管力によるウェル210から吸引毛細管110への第一溶液の吸引に加えて、リザーバー120から当該ウェル210への第二溶液の流入も自発的に開始される。
【0125】
このように溶液交換工程においては、毛細管力によるウェル210から吸引毛細管110への第一溶液の吸引と、リザーバー120から当該ウェル210への第二溶液の流入とが開始されることにより、当該ウェル210内の溶液交換が開始される。
【0126】
そして、溶液交換工程においては、毛細管力によってウェル210から吸引毛細管110に溶液が吸引され続けている限り、リザーバー120から当該ウェル210に第二溶液が流入し続ける。
【0127】
さらに、溶液交換工程においては、上述のように溶液交換が開始された後、図4(C)に示すように、細胞及び溶液がウェル210に保持された状態で、毛細管力による当該ウェル210から吸引毛細管110への吸引が停止される。
【0128】
すなわち、例えば、上述のように、吸引毛細管110が溶液交換開始時の第一溶液及び第二溶液の合計体積より小さい容積を有するとともに、気相中に開口した下流端部112を有する場合には、溶液交換工程において、毛細管力によりウェル210から当該吸引毛細管110に吸引された、当該溶液交換開始時の第一溶液及び第二溶液の合計体積より小さい体積の溶液が当該吸引毛細管110の下流端部112に到達することにより、当該毛細管力による吸引が停止される。また、毛細管力によるウェル210から吸引毛細管110への溶液の吸引が停止されることにより、リザーバー120から当該ウェル210への第二溶液の流入も停止される。
【0129】
こうして溶液交換工程においては、細胞を保持したウェル210内の溶液が吸引され尽くされる前に、溶液交換が自発的に停止される。すなわち、溶液交換工程においては、溶液交換が開始されてから停止されるまでの間、細胞を含むウェル210内には溶液が保持され続け、最終的に、当該細胞と当該溶液交換後の溶液とが保持された当該ウェル210が得られる。
【0130】
上述のとおり吸引毛細管110が溶液交換開始時の第一溶液及び第二溶液の合計体積より小さい容積を有する場合、溶液交換工程においてウェル210から吸引毛細管110に吸引される溶液の体積は、例えば、溶液交換開始時の第一溶液及び第二溶液の合計体積の0.99倍以下であってもよく、0.95倍以下であってもよく、0.9倍以下であってもよく、0.8倍以下であってもよく、0.7倍以下であってもよく、0.6倍以下であってもよい。また、溶液交換工程においてウェル210から吸引毛細管110に吸引される溶液の体積は、例えば、溶液交換開始時の第一溶液及び第二溶液の合計体積の0.1倍以上であってもよく、0.2倍以上であってもよく、0.3倍以上であってもよく、0.4倍以上であってもよい。溶液交換開始時の第一溶液及び第二溶液の合計体積に対する、溶液交換工程においてウェル210から吸引毛細管110に吸引される溶液の体積の割合は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0131】
溶液交換工程においてウェル210から吸引毛細管110に吸引される溶液の体積は、溶液交換開始時の第二溶液の体積以上であることとしてもよい。この場合、溶液交換開始時にリザーバー120に保持されていた第二溶液の全てを溶液交換に利用することができる。
【0132】
具体的に、溶液交換工程においてウェル210から吸引毛細管110に吸引される溶液の体積は、例えば、吸引開始時の第二溶液の体積の1.1倍以上であってもよく、1.2倍以上であってもよい。また、溶液交換工程においてウェル210から吸引毛細管110に吸引される溶液の体積は、例えば、吸引開始時の第二溶液の体積の10倍以下であってもよく、8倍以下であってもよく、6倍以下であってもよく、4倍以下であってもよく、2倍以下であってもよい。吸引開始時の第二溶液の体積に対する、溶液交換工程においてウェル210から吸引毛細管110に吸引される溶液の体積の割合は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0133】
溶液交換工程においてウェル210から吸引毛細管110に吸引される溶液の体積は、溶液交換開始時の第一溶液の体積以上であってもよいし、当該溶液交換開始時の第一溶液の体積以下であってもよい。すなわち、溶液交換においては、溶液交換開始時の第一溶液の全量を交換することとしてもよいし、当該溶液交換開始時の第一溶液の一部を交換することとしてもよい。
【0134】
具体的に、溶液交換工程においてウェル210から吸引毛細管110に吸引される溶液の体積は、例えば、溶液交換開始時の第一溶液の体積の0.1倍以上であってもよく、0.2倍以上であってもよく、0.4倍以上であってもよく、0.6倍以上であってもよく、0.8倍以上であってもよく、1倍以上であってもよく、2倍以上であってもよく、3倍以上であってもよい。また、溶液交換工程においてウェル210から吸引毛細管110に吸引される溶液の体積は、例えば、溶液交換開始時の第一溶液の体積の10倍以下であってもよく、8倍以下であってもよく、6倍以下であってもよく、5倍以下であってもよい。溶液交換開始時の第一溶液の体積に対する、溶液交換工程においてウェル210から吸引毛細管110に吸引される溶液の体積の割合は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0135】
また、溶液交換工程において、溶液交換が停止された時点でウェル210内に保持されている細胞の数(以下、「溶液交換停止時の細胞数」という。)は、当該溶液交換の開始前に当該ウェル210に保持されていた細胞の数(以下、「溶液交換開始時の細胞数」という。)から大きく減少しないことが好ましく、同程度に維持されることが特に好ましい。
【0136】
すなわち、溶液交換工程において、溶液交換開始時の細胞数に対する、溶液交換停止時の細胞数の割合は、例えば、50%以上であってもよく、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、85%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0137】
このように、本デバイス1及び本方法によれば、細胞保持カセット200を溶液交換部材200に取り付けるという簡単な操作のみで、当該細胞保持カセット200の細胞を保持したウェル210内の溶液交換を効果的に達成することができる。
【0138】
本デバイス1の細胞保持カセット200は、溶液交換部材100に取り付け可能であり、且つ取り付け後に取り外し可能に構成されることとしてもよい。細胞保持カセット200を溶液交換部材100に取り付け可能であり、且つ取り付け後に取り外し可能にするための構成は、本発明の効果が得られれば特に限られず、例えば、当該細胞保持カセット200及び溶液保持部材100は、一方が他方に係合可能であり、且つ、係合後に分離可能に構成されることとしてもよい。
【0139】
具体的に、例えば、図1及び図2に示すように、溶液交換部材100が取付凹部150を有している場合には、細胞保持カセット200は、当該取付凹部150に嵌め入れられることにより取り付け可能であり、且つ、その後、当該取付凹部150から抜き去ることにより取り外し可能に構成されてもよい。また、図1に示す細胞保持カセット200の第一係合部260及び溶液交換部材100の第二係合部160は、互いに係合可能であり、且つ、係合後に分離可能に構成されてもよい。
【0140】
このように本デバイス1の細胞保持カセット200が、溶液交換部材100に取り付け可能であり且つ取り付け後に取り外し可能に構成されている場合、本方法は、図4(D)に示すように、溶液交換工程における溶液交換の停止後に、細胞と溶液交換後の第三溶液とがウェル210に保持された当該細胞保持カセット200を、当該溶液交換部材100から取り外すことをさらに含んでもよい。
【0141】
この場合、本方法は、例えば、上述のように溶液交換工程における溶液交換の停止後に溶液交換部材100から取り外された細胞保持カセット200のウェル210内で細胞を培養する培養工程をさらに含んでもよい。すなわち、本方法は、その一側面として、準備工程、溶液交換工程及び培養工程を含む細胞培養方法をも包含する。培養工程における細胞の培養は、例えば、細胞を含む第三溶液をウェル210に保持した細胞保持カセット200をインキュベータ内に保持することにより好ましく実施される。細胞培養方法においては、第一溶液及び第二溶液が培養液であることが好ましく、少なくとも第二溶液が培養液であることが特に好ましい。
【0142】
本デバイス1は、複数の溶液交換部材100と、当該溶液交換部材100に取り付け可能であり且つ取り付け後に取り外し可能な細胞保持カセット200とを含むこととしてもよい。この場合、複数の溶液交換部材100は、同一形状の吸引毛細管110及びリザーバー120を有してもよいし、異なる形状の吸引毛細管110及び/又はリザーバー120を有してもよい。
【0143】
そして、本デバイス1が、第一溶液交換部材100(I)及び第二溶液交換部材100(II)を含む複数の溶液交換部材100と、当該溶液交換部材100に取り付け可能であり且つ取り付け後に取り外し可能な細胞保持カセット200とを含む場合、本方法は、当該第一溶液交換部材100(I)を用いる準備工程及び溶液交換工程を、それぞれ第一準備工程及び第一溶液交換工程として実施し、さらに、当該第二溶液交換部100(II)を用いた第二準備工程及び第二溶液交換工程を含むこととしてもよい。
【0144】
すなわち、この場合、本方法においては、まず図5(A)に示すように、第一準備工程において、細胞を含む第一溶液をウェル210に保持し溶液交換部材100に取り付けられていない細胞保持カセット200を準備するとともに、第二溶液をリザーバー120に保持し細胞保持カセット200が取り付けられていない第一溶液交換部材100(I)を準備する。
【0145】
次いで、第一準備工程後、第一溶液交換工程においては、図5(B)に示すように、細胞保持カセット200を第一溶液交換部材100(I)の吸引毛細管110とリザーバー120との間に取り付けることによって、毛細管力によるウェル210から吸引毛細管110への第一溶液の吸引と、リザーバー120から当該ウェル210への第二溶液の流入とによる溶液交換が開始され、且つ、その後、図5(C)に示すように、細胞と溶液交換後の第三溶液とがウェル210に保持された状態で、毛細管力による当該ウェル210から当該吸引毛細管110への溶液の吸引が停止されることにより、当該溶液交換が停止される。
【0146】
さらに、続く第二準備工程においては、図5(D)に示すように、第一溶液交換工程における溶液交換の停止後に、細胞保持カセット200を第一溶液交換部材100(I)から取り外して、図5(E)に示すように、細胞及び第三溶液をウェル210に保持し、溶液交換部材100に取り付けられていない当該細胞保持カセット200を準備するとともに、第四溶液をリザーバー120に保持し細胞保持カセット200が取り付けられていない第二溶液交換部材100(II)を準備する。
【0147】
ここで、第二準備工程においてリザーバー120に保持される第四溶液は、第三溶液と異なる組成を有する水溶液であることが好ましい。ただし、第四溶液の組成は、目的に応じて適宜調整されればよい。また、リザーバー120に保持する第四溶液の体積は、第一準備工程でリザーバー120に保持した第二溶液の体積と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0148】
そして、第二準備工程後、第二溶液交換工程においては、図5(F)に示すように、細胞保持カセット200を第二溶液交換部材100(II)の吸引毛細管110とリザーバー120との間に取り付けることによって、毛細管力によるウェル210から吸引毛細管110への第三溶液の吸引と、当該リザーバー120から当該ウェル210への当該第四溶液の流入とによる溶液交換が開始され、且つ、その後、図5(G)に示すように、当該細胞と溶液交換後の第五溶液とが当該ウェル210に保持された状態で、毛細管力による当該ウェル210から当該吸引毛細管110への溶液の吸引が停止されることにより、当該溶液交換が停止される。
【0149】
また、本デバイス1の複数の溶液交換部材100が、さらに第三溶液交換部材100(III)(不図示)を含む場合、本方法においては、上記第二溶液交換部100(II)に代えて、当該第三溶液交換部材100(III)を用いた第三準備工程及び第三溶液交換工程をさらに含む。
【0150】
すなわち、第二溶液交換工程に続く第三準備工程においては、第二溶液交換工程における溶液交換の停止後に、細胞保持カセット200を第二溶液交換部材100(II)から取り外して、細胞及び第五溶液をウェル210に保持し、溶液交換部材100に取り付けられていない当該細胞保持カセット200を準備するとともに、第六溶液をリザーバー120に保持し細胞保持カセット200が取り付けられていない第三溶液交換部材100(III)を準備する。
【0151】
ここで、第三準備工程においてリザーバー120に保持される第六溶液は、第五溶液と異なる組成を有する水溶液であることが好ましい。ただし、第六溶液の組成は、目的に応じて適宜調整されればよい。また、リザーバー120に保持する第六溶液の体積は、第一準備工程でリザーバー120に保持した第二溶液、及び/又は、第二準備工程でリザーバー120に保持した第四溶液の体積と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0152】
そして、第三準備工程後、第三溶液交換工程においては、細胞保持カセット200を第三溶液交換部材100(III)の吸引毛細管110とリザーバー120との間に取り付けることによって、毛細管力によるウェル210から吸引毛細管110への第五溶液の吸引と、当該リザーバー120から当該ウェル210への当該第六溶液の流入とによる溶液交換が開始され、且つ、その後、当該細胞と溶液交換後の第七溶液とが当該ウェル210に保持された状態で、毛細管力による当該ウェル210から当該吸引毛細管110への溶液の吸引が停止されることにより、当該溶液交換が停止される。
【0153】
本デバイス1が4つ以上の溶液交換部材100を含む場合、4つ目以降の溶液交換部材100を用いて上述した第二準備工程及び第三準備工程と同様の準備工程、及び第二溶液交換工程及び第三溶液交換工程と同様の溶液交換工程をさらに繰り返してもよい。このような本方法によれば、1つの細胞保持カセット200のウェル210について、当該ウェル210内に細胞を保持したまま、複数回の溶液交換を簡便に実施することができる。
【0154】
本デバイス1は、複数の細胞保持カセット200と、当該複数の細胞保持カセット200の溶液交換に用いられる複数の溶液交換部材100とを含むこととしてもよい。この場合、本方法は、複数の細胞保持カセット200の各々について、複数の溶液交換部材100を用いた準備工程及び溶液交換工程を含むこととしてもよい。すなわち、複数の細胞保持カセット200の各々について、上述した準備工程及び溶液交換工程による溶液交換を1回のみ実施してもよいし、上述した第二準備工程及び第二溶液交換工程と同様の工程による2回以上の溶液交換を実施してもよい。
【0155】
なお、複数の溶液交換部材100は、同一形状の吸引毛細管110及びリザーバー120を有してもよいし、異なる形状の吸引毛細管110及び/又はリザーバー120を有してもよい。また、複数の細胞保持カセット200は、同一形状のウェル210を有してもよいし、異なる形状のウェル210を有してもよい。
【0156】
具体的に、例えば、本デバイス1が、第一溶液交換部材100(I)及び第二溶液交換部材100(II)を含む複数の溶液交換部材100と、第一細胞保持カセット200(I)及び第二細胞保持カセット200(II)を含む複数の細胞保持カセット200とを含む場合、本方法の準備工程においては、図6(A)に示すように、細胞を含む第一溶液をウェル210に保持し溶液交換部材100に取り付けられていない第一細胞保持カセット200(I)及び第二細胞保持カセット200(II)を準備するとともに、第二溶液をリザーバー120に保持し細胞保持カセット200が取り付けられていない第一溶液交換部材100(I)及び第二溶液交換部材100(II)を準備する。
【0157】
ここで、第一細胞保持カセット200(I)と第二細胞保持カセット200(II)とは、ウェル210に保持する細胞の種類又は数、及び/又は、ウェル210に保持する第一溶液の組成又は量が同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、第一溶液交換部材100(I)と第二溶液交換部材100(II)とは、リザーバー120に保持する第二溶液の組成又は量が同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0158】
次に、準備工程後、溶液交換工程においては、図6(B)に示すように、第一細胞保持カセット200(I)及び第二細胞保持カセット200(II)を、それぞれ第一溶液交換部材100(I)及び第二溶液交換部材100(II)に取り付けることによって、それぞれのウェル210の溶液交換が開始され、且つ、その後、図6(C)に示すように、細胞及び溶液が当該ウェル210に保持された状態で、当該溶液交換が停止される。
【0159】
複数の細胞保持カセット200を含む本デバイス1が、当該細胞保持カセット200の数より大きい数の溶液交換部材100を含む場合には、当該複数の細胞保持カセット200の1以上について、上述のように複数回の溶液交換を簡便に実施することもできる。このような本方法によれば、複数の細胞保持カセット200の各々のウェル210について、溶液交換を簡便に実施することができる。
【0160】
なお、図5及び図6に示す例においては、複数の溶液交換部材100が別体として構成され、また、複数の細胞保持カセット100が別体として構成されているが、これに限られず、例えば、複数の溶液交換部材100は、共通の基部130と、当該基部130に互いに離間して形成された吸引毛細管110とリザーバー120との複数の対とを有して構成されてもよいし、及び/又は、複数の細胞保持カセット200は、共通の基部220と、当該基部220に互いに離間して形成された複数のウェル210とを有して構成されてもよい。
【0161】
本デバイス1及び本方法は、様々な用途で使用することができる。具体的に、本デバイス1及び本方法は、例えば、標的物質に対する細胞の応答の評価や、細胞に変化をもたらす物質のスクリーニングに使用することができる。また、本デバイス1及び本方法は、例えば、遺伝子導入細胞の製造に使用することもできる。
【0162】
すなわち、本方法は、その一側面として、本デバイス1を用いた遺伝子導入細胞の製造方法(以下、「本製造方法」という。)を包含する。本製造方法は、上述した準備工程及び溶液交換工程に加えて、遺伝子導入工程を含む。
【0163】
本製造方法の準備工程においては、図4(A)に示すように、細胞を含む第一溶液をウェル210に保持し溶液交換部材100に取り付けられていない細胞保持カセット200と、当該細胞に導入する核酸を含む遺伝子導入用の第二溶液をリザーバー120に保持し細胞保持カセット200が取り付けられていない溶液交換部材100とを準備する。
【0164】
ここで、遺伝子導入(トランスフェクション)の対象とする細胞は、第二溶液を用いて核酸を導入できる細胞であれば特に限られない。第二溶液は、ウェル210内の細胞に導入すべき核酸を含み、当該細胞を当該第二溶液中で保持することにより当該細胞に当該核酸を導入することができる組成を有する遺伝子導入用の水溶液であれば特に限られず、例えば、市販の遺伝子導入キットを用いて調製されるものが好ましく用いられる。具体的に、遺伝子導入用の第二溶液は、例えば、細胞に導入すべき核酸(DNA及び/又はRNA)と、カチオン性脂質とを含むことが好ましい。
【0165】
本製造方法の溶液交換工程においては、準備工程後、図4(B)に示すように、細胞保持カセット200を溶液交換部材100の吸引毛細管110とリザーバー120との間に取り付けることによって、毛細管力によるウェル210から当該吸引毛細管110への第一溶液の吸引と、当該リザーバー120から当該ウェル210への核酸を含む第二溶液の流入とによる溶液交換が開始され、且つ、その後、図4(C)に示すように、細胞と核酸を含む溶液とが当該ウェル210に保持された状態で、毛細管力による当該ウェルから当該吸引毛細管110への溶液の吸引が停止されることにより、当該溶液交換が停止される。
【0166】
なお、溶液交換工程における溶液交換後にウェル210内に保持される溶液は、当該ウェル210からの第一の溶液の吸引及び当該ウェル210への第二溶液の流入の結果、当該ウェル210内に保持される細胞に導入すべき核酸を含み、当該細胞を当該溶液中で保持することにより当該細胞に当該核酸を導入することができる組成を有する。
【0167】
続く遺伝子導入工程においては、溶液交換工程後、細胞保持カセット200のウェル210において核酸を含む溶液中で細胞を保持することにより当該細胞への当該核酸の導入を行って、当該核酸が導入された遺伝子導入細胞を得る。
【0168】
遺伝子導入工程における細胞の保持は、例えば、細胞保持カセット200をインキュベータ内で静置することにより実施される。遺伝子導入工程において核酸を含む溶液中で細胞を保持する時間は、当該細胞に当該核酸を導入するために必要な時間であれば特に限られない。
【0169】
遺伝子導入工程は、溶液交換部材100に取り付けられたままの細胞保持カセット200のウェル210内で細胞を保持することにより実施してもよいが、細胞保持カセット200が、溶液交換部材100に取り付け可能であり且つ取り付け後に取り外し可能に構成されている場合、当該溶液交換部材100から取り外された細胞保持カセット200のウェル210内で細胞を保持することにより実施することが好ましい。
【0170】
すなわち、遺伝子導入工程においては、図4(D)に示すように、溶液交換後、細胞及び遺伝子導入用の核酸を含む溶液がウェル210に保持された細胞保持カセット200を溶液交換部材100から取り外し、当該取り外された、溶液交換部材100に取り付けられていない細胞保持カセット200のウェル210内で、当該核酸を含む溶液中で細胞を保持することにより、遺伝子導入を実施することが好ましい。
【0171】
また、本デバイス1が、第一溶液交換部材100(I)及び第二溶液交換部材100(II)を含む複数の溶液交換部材100と、当該溶液交換部材100に取り付け可能であり且つ取り付け後に取り外し可能な細胞保持カセット200とを含む場合、本製造方法は、上述の準備工程、溶液交換工程及び遺伝子導入工程として、当該第一溶液交換部材100(I)を用いた第一準備工程、第一溶液交換工程及び遺伝子導入工程を含み、さらに、当該第二溶液交換部材100(II)を用いた第二準備工程及び第二溶液交換工程を含むこととしてもよい。
【0172】
すなわち、この場合、第二準備工程においては、第一溶液交換部材100(I)を用いて上述のように遺伝子導入工程を実施した後、遺伝子導入細胞を含む第三溶液をウェル210に保持し、当該第一溶液交換部材100(I)から取り外され、溶液交換部材100に取り付けられていない細胞保持カセット200を準備する。
【0173】
ここで、遺伝子導入工程を、第一溶液交換部材100に取り付けられたままの細胞保持カセット200のウェル210内で細胞を保持することにより実施する場合、当該細胞保持カセット200は、当該遺伝子導入工程後に当該第一溶液交換部材100(I)から取り外される。
【0174】
一方、遺伝子導入工程を、溶液交換部材100から取り外された細胞保持カセット200のウェル210内で細胞を保持することにより実施する場合、当該細胞保持カセット200は、当該遺伝子導入工程前又は当該遺伝子導入工程中に当該第一溶液交換部材100(I)から取り外される。すなわち、この場合、第二準備工程における溶液交換部材100の準備と、遺伝子導入工程とは並行して実施される。
【0175】
また、第二準備工程においては、第四溶液をリザーバー120に保持し細胞保持カセット200が取り付けられていない第二溶液交換部材100(II)も準備する。第二準備工程においてリザーバー120に保持する第四溶液は、第三溶液と異なる組成を有する水溶液であることが好ましい。ただし、第四溶液の組成は、目的に応じて適宜調整されればよい。具体的に、第四溶液は、第三溶液に含まれている核酸(遺伝子導入工程後も細胞に導入されずに溶液中に残存している核酸)を含まないこととしてもよい。また、リザーバー120に保持する第四溶液の体積は、第一準備工程でリザーバー120に保持した第二溶液の体積と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0176】
そして、第二準備工程後、第二溶液交換工程においては、図5(F)に示すように、細胞保持カセット200を第二溶液交換部材100(II)の吸引毛細管110とリザーバー120との間に取り付けることによって、毛細管力によるウェル210から当該吸引毛細管110への第三溶液の吸引と、当該リザーバー120から当該ウェル210への第四溶液の流入とによる溶液交換が開始され、且つ、その後、図5(G)に示すように、遺伝子導入細胞及び溶液がウェル210に保持された状態で、毛細管力による当該ウェル210から当該吸引毛細管110への溶液の吸引が停止されることにより、当該溶液交換が停止される。
【0177】
このように、本製造方法によれば、従来の遺伝子導入細胞の製造において必要とされていた煩雑な操作を実施することなく、簡便に遺伝子導入細胞を製造することができる。なお、本製造方法について具体的には記載していないが、上述の溶液交換方法に関する種々の態様は、本製造方法にも適用され得る。
【0178】
本製造方法は、任意の遺伝子導入細胞の製造に使用することができるが、例えば、センサ細胞の製造に好ましく用いられる。センサ細胞は、受容体を利用する化学量センサの一つとして用いられる、遺伝子導入によって受容体(例えば、昆虫の嗅覚受容体)を発現させた細胞である。
【0179】
本デバイス1は、シンプルな構造を有する。すなわち、本デバイス1は、例えば、上述のとおり、細胞保持カセット200を溶液交換部材100に取り付けることによって、溶液交換が自発的に開始され、且つ、その後、当該溶液交換が自発的に停止されるため、溶液を流通させるための外部ポンプ(例えば、シリンジポンプやぺリスタリックポンプ等の電気で駆動するポンプ)に接続する必要がない。
【0180】
したがって、本デバイス1は、外部ポンプに接続されることなく用いることができる。また、本方法においては、本デバイス1を外部ポンプに接続することなく用いることができる。本デバイス1がポンプレスのマイクロデバイスであることにより、複雑な装置を使用することなく、溶液交換を簡便に実施することができる。
【0181】
また、本デバイス1は、例えば、細胞保持カセット200を溶液交換部材100に取り付けることにより、当該細胞保持カセット210のウェル210と、当該溶液交換部材100の吸引毛細管110及びリザーバー120のそれぞれとが一連の流路として接続され連通するよう構成されているため、各部材を接続し溶液を流通させるためのチューブ(例えば、フッ素樹脂チューブやシリコーンチューブ)を有する必要がない。
【0182】
したがって、本デバイス1は、チューブを有しないマイクロデバイスとすることができる。また、本方法においては、チューブを有しない本デバイス1を用いることができる。本デバイス1がチューブレスのマイクロデバイスであることにより、複雑な構造を必要とすることなく、溶液交換を簡便に実施することができる。
【0183】
また、本方法においては、溶液交換開始前に細胞保持カセット200のウェル210に保持した溶液、及び、溶液交換部材100のリザーバー120に保持した溶液のみを用いて、当該ウェル210の溶液交換を達成することができる。
【0184】
したがって、本方法は、例えば、細胞保持カセット200の溶液交換部材100への取り付けによる溶液交換の開始から、当該溶液交換の停止までの間、外部から本デバイス1に溶液を供給することなく、実施することができる。
【0185】
また、本方法は、例えば、細胞保持カセット200の溶液交換部材100への取り付けによる溶液交換の開始から、当該溶液交換の停止までの間、本デバイス1から外部に溶液を排出することなく、実施することができる。
【0186】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例0187】
[細胞保持カセットの作製]
厚さ3mmのアクリル板(アクリライト、三菱ケミカル)から、NC切削装置(MM-100、モディアシステムズ)を使用して、第一基板221を切り出した。また、厚さ1.0mmのアクリル板から、NC切削装置を使用して、第二基板222を切り出した。その後、ヒートプレス機(TM-1955-10000,トーテム)を使用して、第一基板221と第二基板222とを熱圧着した。
【0188】
次に、プラズマエッチング装置(FA-1、サムコ)を用いて、細胞保持カセット200のウェル底面211(アクリル樹脂表面)に対して、酸素プラズマ処理(出力25W、酸素ガス流量20mL/分、30秒)を施すことにより、当該ウェル底面211を親水化した。
【0189】
さらに、親水化したウェル底面211に細胞接着性を付与した。すなわち、まず、ポリ-D-リジン(Poly-D-Lysine、シグマアルドリッチ)を0.1mg/mL含有する水溶液を、ウェル底面211に均一に滴下した。次いで、5分後にウェル210内のポリ-D-リジン水溶液を吸引除去した。その後、ウェル底面211を超純水でよく洗浄し、2時間乾燥させた。こうして、図3(A)に示すような、ウェル210と、上流流路240及び下流流路250とを有する細胞保持カセット200を得た。
【0190】
[溶液交換部材の作製]
厚さ3mmのアクリル板(アクリライト、三菱ケミカル)から、NC切削装置(MM-100、モディアシステムズ)を使用して、第一基板131を切り出した。また、厚さ4.0mmのアクリル板から、NC切削装置を使用して、第二基板132を切り出した。その後、ヒートプレス機(TM-1955-10000,トーテム)を使用して、第一基板131と第二基板132とを熱圧着した
【0191】
次に、プラズマエッチング装置(FA-1、サムコ)を用いて、第一基板131に形成された、吸引毛細管110を構成する溝の内面(アクリル樹脂表面)に対して、酸素プラズマ処理(出力25W、酸素ガス流量20mL/分、15秒)を施すことにより、当該内面を親水化した。
【0192】
一方、第一基板131に形成された取付凹部150の表面(流出流路140の下流端部が開口する外表面130b、及び、吸引毛細管110の上流端部が開口する外表面130cを含む表面)に撥水コート剤(エスエフコートSFE-B002H:SFE Solvent=1:1、AGCセイミケミカル)を塗布することにより、当該表面の疎水化処理を行った.
【0193】
その後、ポリプロピレンシーリングテープ(マイクロプレートシーリングテープ9795、3M)から構成されるシール部材133を、第一基板131に形成された溝の上方の開口を塞ぐように貼り、密着させることにより、吸引毛細管110を形成した。なお、シーリングテープのうち、吸引毛細管110の下流端部112の上方に位置する部分には直径2mmの穴を形成することで、当該下流端部を気相中に開口させた。こうして、図3(B)に示すような、リザーバー120と吸引毛細管110とを有する溶液交換部材100を得た。
【0194】
[遺伝子導入細胞の製造]
上述のようにして製造した本デバイス1を用いて遺伝子導入細胞を製造した。すなわち、遺伝子を導入する細胞としては、HEK293(ヒト胎児腎細胞293;Human Embryonic Kidney 293)細胞を用い、当該HEK293細胞に対する遺伝子導入により、昆虫の嗅覚受容体OR8(Olfactory receptor 8)及び嗅覚受容体共受容体Orco(Olfactory receptor co-receptor)と、カルシウム感受性蛍光タンパク質GCaMPとを共発現するセンサ細胞を製造した。本デバイス1としては、1つの細胞保持カセット200と、2つの溶液交換部材100(第一溶液交換部材100(I)及び第二溶液交換部材100(II))とを用いた。
【0195】
まず細胞保持カセット200のウェル210内に、HEK293細胞を0.5×10cells/mLの密度で含む細胞懸濁液72μLを加えることにより、当該HEK293細胞を当該ウェル210に播種した。播種されたHEK293細胞は、ウェル210の底面211に沈降し、接着した。また、細胞保持カセット200の上流流路240及び下流流路250にも培養液が保持された。
【0196】
HEK293細胞の播種後、細胞保持カセット200のウェル210の上方の開口を覆うように、直径2mmの通気孔215が形成されたポリプロピレンシーリングテープ(マイクロプレートシーリングテープ9795、3M)から構成されるシール部材230を、基部220の上面220aに貼り付けた。
【0197】
その後、ウェル210の乾燥を抑制するため、超純水を含ませたクリーンルーム用ワイパーと共に、細胞保持カセット200を市販の細胞培養用プラスチックディッシュ内に置いた。そして、このプラスチックディッシュに蓋をして、温度37℃、CO濃度5%雰囲気のインキュベータ内に載置し、24時間静置培養を行った。
【0198】
次に遺伝子導入(トランスフェクション)を行った。遺伝子導入には、市販のトランスフェクション試薬であるLipofectamine LTX Reagent with PLUS Reagent(Thermo Fisher Scientific)を用いた。
【0199】
すなわち、10μLのLipofectamine LTX Reagent、800μLのOpti-MEM I Reduced Serum medium、8μLのPLUS Reagentに、ネッタイシマカ由来OR8のDNA及びOrcoのDNAをそれぞれ0.5μg及び1μgと、GCaMPのDNA2.5μgとを加えることにより調製した。次いで、得られた混合液60μLを培養液(DMEM high glucose)220μLで希釈することにより、トランスフェクション溶液を調製した。
【0200】
そして、280μLのトランスフェクション溶液を第一溶液交換部材100(I)のリザーバー120に入れた。この結果、第一溶液交換部材100(I)のリザーバー120及び流出流路140にトランスフェクション溶液が保持された。また、第一溶液交換部材100(I)の吸引毛細管110には空気が満たされた。
【0201】
一方、細胞保持カセット200においてウェル210の上方を覆うシール部材230に形成された通気孔215を別のプロピレンシーリングテープで塞ぎ、当該ウェル210を密閉した。この結果、ウェル210においては、底面211に接着したHEK293細胞が溶液中で保持されるとともに、当該溶液の液面と天面214との間には空気からなる気相が密閉された。
【0202】
そして、この細胞保持カセット200を第一溶液交換部材100(I)の吸引毛細管110とリザーバー120との間の位置に取り付けた。細胞保持カセット200を第一溶液交換部材100(I)に取り付けることによって、毛細管力によるウェル210から吸引毛細管110への培養液の吸引が自発的に開始されるとともに、リザーバー120から当該ウェル210へのトランスフェクション溶液の流入も開始された。
【0203】
その後、吸引された溶液が吸引毛細管110の下流端部112に到達し、当該吸引毛細管110が当該溶液で満たされることで、細胞及び溶液がウェル210に保持された状態で、毛細管力によるウェル210から当該吸引毛細管110への溶液の吸引が自発的に停止され、リザーバー120から当該ウェル210へのトランスフェクション溶液の流入も停止された。
【0204】
こうして、細胞保持カセット200を第一溶液交換部材100(I)に取り付けるという簡便な操作のみで、細胞を含むウェル210内の溶液交換を達成することができた。なお、溶液交換を停止した時点で、リザーバー210にはトランスフェクション溶液はほとんど残っていなかった。一方、ウェル210内には、溶液交換開始時と同程度の体積の溶液が保持されていた。
【0205】
上述した溶液交換においては、流体力学的な観点から、毛細管力によるウェル210から吸引毛細管110への培養液の吸引、及び、リザーバー120から当該ウェル210へのトランスフェクション溶液の流入が流量約5μL/秒で行われ、当該ウェル210内の細胞の生存を維持したまま、当該溶液交換の開始前にウェル210に保持された培養液の約93%が、当該溶液交換の開始から約205秒でトランスフェクション溶液に交換されるよう、本デバイス1の形状や保持される溶液の体積等の条件が設定された。
【0206】
その後、細胞保持カセット200を第一溶液交換部材100(I)から取り外し、ウェル210を覆うシール部材133の通気孔215を開口した。そして、この細胞保持カセット200を再びインキュベータ内で24時間静置することにより、ウェル210内のHEK293細胞に対する遺伝子導入を行った。
【0207】
その後、280μLの観察用バッファ溶液を第二溶液交換部材100(II)のリザーバー120に入れた。この結果、第二溶液交換部材100(II)のリザーバー120及び流出流路140に観察用バッファ溶液が保持された。また、第二溶液交換部材100(II)の吸引毛細管110には空気が満たされた。
【0208】
一方、細胞保持カセット200においてウェル210の上方を覆うシール部材133に形成された通気孔215を別のプロピレンシーリングテープで塞ぎ、当該ウェル210を密閉した。この結果、ウェル210においては、底面211に接着した遺伝子導入細胞が溶液中で保持されるとともに、当該溶液の液面と天面214との間には空気からなる気相が密閉された。
【0209】
そして、この細胞保持カセット200を第二溶液交換部材100(II)の吸引毛細管110とリザーバー120の間の位置に取り付けた。細胞保持カセット200を第二溶液交換部材100(II)に取り付けることによって、毛細管力によるウェル210から吸引毛細管110への溶液の吸引が自発的に開始されるとともに、リザーバー120から当該ウェル210への観察用バッファ溶液の流入も開始された。
【0210】
その後、吸引された溶液が吸引毛細管110の下流端部112に到達し、当該吸引毛細管110が当該溶液で満たされることで、細胞及び溶液がウェル210に保持された状態で、毛細管力によるウェル210から当該吸引毛細管110への溶液の吸引が自発的に停止され、リザーバー120から当該ウェル210への観察用バッファ溶液の流入も停止された。
【0211】
こうして、細胞保持カセット200を第二溶液交換部材100(II)に取り付けるという簡便な操作のみで、ウェル210内の溶液交換を達成することができた。なお、溶液交換を停止した時点で、リザーバー120には観察用バッファ溶液はほとんど残っていなかった。一方、ウェル210内には、溶液交換開始時と同程度の体積の溶液が保持されていた。
【0212】
以上より、1つの細胞保持カセット200と、2つの溶液交換部材100とからなる本デバイス1を用いた簡便な操作により、HEK293細胞に遺伝子を導入して、センサ細胞を製造することができた。
【0213】
[センサ細胞の匂い物質応答性の評価]
上述のようにして製造したセンサ細胞の匂い物質応答性を評価した。匂い物質としては、1-octen-3-olを用いた。すなわち、1-octen-3-olをDMSOで溶解して500mMのストック溶液を調製し、-20℃で保存するとともに、観察の際には、当該ストック溶液をHanks´BSS(Balanced Salt Solution)で希釈し、500μMの1-octen-3-olを含む添加用溶液を調製して用いた。
【0214】
まず上述の第二溶液交換部材100(II)を用いた溶液交換によりウェル210内に観察用バッファ溶液を保持した細胞保持カセット200をインキュベータ内で30分間インキュベートした。
【0215】
その後、インキュベータから取り出した細胞保持カセット200を倒立顕微鏡(IX71N,オリンパス)のステージに置き、そのウェル210内の観察用バッファ溶液に、匂い物質(1-octen-3-ol)の終濃度が100μMとなる量の添加用溶液を添加した。
【0216】
そして、顕微鏡でタイムラプス撮影を行い、匂い物質の添加から0.4秒間隔で2分間、ウェル内の蛍光強度の経時変化を記録した。なお、蛍光波長はBlue励起(励起波長:470~490nm)とし、Green検出(515~550nm)のNIBAフィルターを使用した。
【0217】
また、比較例1として、匂い物質(1-octen-3-ol)に代えて、DMSO(0.2%溶液)のみを添加した以外は同様にして、ウェル内の蛍光強度の経時変化を記録した。また、比較例2として、本デバイス1に代えて市販のガラスボトムディッシュを用い、本デバイス1を用いた溶液交換に代えて従来のピペット操作による溶液交換を行う方法で製造したセンサ細胞を用いた以外は同様にして、標的物質(1-octen-3-ol)添加後のウェル内の蛍光強度の経時変化を記録した。
【0218】
図7には、蛍光強度の経時変化を測定した結果を示す。図7に示すように、本デバイス1を用いた溶液交換により製造したセンサ細胞(実施例)は、ピペットを用いた従来の溶液交換により製造したセンサ細胞(比較例2)と同様、ウェルへの1-octen-3-olの添加後、蛍光強度の上昇が観察された。
【0219】
この結果は,センサ細胞が発現する嗅覚受容体AaOR8に、添加された1-octen-3-olが結合することで当該センサ細胞の細胞質内に培養液中のカルシウムイオンが流入し、当該細胞質内における当該カルシウムイオンとカルシウム感受性蛍光タンパク質GCaMPとの結合によって蛍光強度が上昇したことを示していると考えられた。一方、1-octen-3-olを添加せずDMSOを添加した比較例1では、ウェルへの1-octen-3-olの添加後も蛍光強度の上昇は見られず、経時的な褪色のみ観察された。以上より、本デバイス1を用いた簡便な操作による遺伝子導入により、匂い物質に応答するセンサ細胞を製造できたことが確認された。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7