(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014637
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】ロボットコントローラ及び予防保全方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/52 20200101AFI20230124BHJP
H02M 1/00 20070101ALI20230124BHJP
H02H 7/16 20060101ALI20230124BHJP
G01R 31/00 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
G01R31/52
H02M1/00 H
H02H7/16 Z
G01R31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118694
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】日本電産サンキョー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】永田 宏明
【テーマコード(参考)】
2G014
2G036
5G053
5H740
【Fターム(参考)】
2G014AA04
2G014AA16
2G014AB53
2G014AC15
2G014AC19
2G036AA21
2G036BA36
2G036BB02
2G036CA08
5G053BA03
5G053FA04
5H740AA10
5H740MM11
5H740NN02
5H740NN06
(57)【要約】
【課題】ロボットコントローラに設けられるラインフィルタにおけるYキャパシタの劣化を予測して予防保全を行う。
【解決手段】ラインフィルタ20とラインフィルタ20の負荷側に設けられて交流電力を直流電力に変換するコンバータ30との間の電源ラインに零相電流を検出する検出手段を設け、検出手段で検出された零相電流が閾値以上となったことを検出したときにYキャパシタに関連する警報を出力する。検出手段は、例えば、電源ラインにおいて相ごとに配線に設けられた電流検出器13であり、各相の電流検出器13の検出出力の和を求めて零相電流とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マニピュレータの各軸のモータを駆動し制御するロボットコントローラであって、
電源ラインと接地点との間に配置するYキャパシタを少なくとも備えて外部電源からの交流電力の受け入れ部に設けられるラインフィルタと、
前記ラインフィルタの負荷側に設けられて前記交流電力を直流電力に変換するコンバータと、
前記直流電力をスイッチングし、スイッチングによって得られる交流電力を前記モータに供給して前記モータをサーボ制御するサーボアンプと、
前記ラインフィルタと前記コンバータとの間の電源ラインに設けられて零相電流を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出された前記零相電流が閾値以上となったことを検出したときに前記Yキャパシタに関連する警報を出力する制御回路と、
を有するロボットコントローラ。
【請求項2】
前記閾値は、前記Yキャパシタにおける零相電流の許容値に基づいて定められる、請求項1に記載のロボットコントローラ。
【請求項3】
前記検出手段は、前記ラインフィルタと前記コンバータとの間の電源ラインにおいて相ごとに配線に設けられた電流検出器であり、
各相の前記電流検出器の検出出力の和を求めて前記零相電流とする、請求項1または2に記載のロボットコントローラ。
【請求項4】
前記検出手段は、前記ラインフィルタと前記コンバータとの間の電源ラインにおいて各相の電流の和を検出するように配置されたクランプ変流器である、請求項1または2に記載のロボットコントローラ。
【請求項5】
前記検出手段と前記制御回路との間に前記外部電源の電源周波数の成分を遮断するフィルタを備える、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のロボットコントローラ。
【請求項6】
前記制御回路は、前記零相電流における前記外部電源の電源周波数を超える周波数成分が前記閾値以上となったことを検出したときに前記警報を出力する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のロボットコントローラ。
【請求項7】
電源ラインと接地点との間に配置するYキャパシタを少なくとも備えて外部電源からの交流電力の受け入れ部に設けられるラインフィルタと、前記ラインフィルタの負荷側に設けられて前記交流電力を直流電力に変換するコンバータと、前記直流電力をスイッチングし、スイッチングによって得られる交流電力をマニピュレータの各軸のモータに供給して前記モータをサーボ制御するサーボアンプとを備えて前記マニピュレータの各軸の前記モータを駆動し制御するロボットコントローラにおける前記ラインフィルタの予防保全方法であって、
前記ラインフィルタと前記コンバータとの間の電源ラインを流れる零相電流を検出し、
検出された前記零相電流に基づいて前記Yキャパシタにおける劣化の進行を予測する、予防保全方法。
【請求項8】
前記零相電流が閾値以上となったことを検出したときに前記Yキャパシタに関連する警報を出力する、請求項7に記載の予防保全方法。
【請求項9】
前記閾値は、前記Yキャパシタにおける零相電流の許容値に基づいて定められる、請求項8に記載の予防保全方法。
【請求項10】
前記零相電流における前記外部電源の電源周波数を超える周波数成分に基づいて前記Yキャパシタにおける劣化の進行を予測する、請求項7乃至9のいずれか1項に記載の予防保全方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットの駆動と制御に用いられるロボットコントローラと、ロボットコントローラ内部に設けられるラインフィルタの予防保全方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットのマニピュレータに設けられる各軸のモータは、例えば三相同期モータなどであり、モータに接続するエンコーダによって検出されたモータ回転位置をフィードバックすることによるサーボ制御によって駆動される。サーボ制御ではモータを駆動するためにサーボアンプ(あるいはサーボドライバ)が使用される。サーボアンプは、直流電力をスイッチングすることにより、可変周波数かつ可変電流(あるいは可変電圧)で三相交流を発生する。そのため産業用ロボットの駆動と制御に用いられるロボットコントローラは、外部の商用電源からの50Hzまたは60Hzの交流電力を受け入れ、これを整流回路によって直流電力に変換してサーボアンプに供給しており、ロボットコントローラの内部では交流-直流-交流の電力変換が行われている。サーボアンプにおけるスイッチング速度は例えばkHzのオーダであり、それに伴って、数kHzから数十kHzの周波数成分を有するスイッチングノイズが発生する。スイッチングノイズが外部電源側に漏れ出したり、外部電源側のノイズがロボットコントローラに悪影響を与えたりすることを防ぐために、ロボットコントローラにおいて外部電源からの交流電力を受け入れる位置にはラインフィルタが設けられる。
【0003】
ノイズ成分の周波数は電源周波数よりも十分に高いものであると考えられるので、ラインフィルタは、ノイズ成分に対して高いインピーダンスを示してノイズ成分を阻止するインダクタと、ノイズ成分に対して低いインピーダンスを示してノイズ成分を吸収するキャパシタとを組み合わせて構成されるのが一般的である。ラインフィルタに設けられるキャパシタは、各相の電源ラインの相互間に挿入されるライン間キャパシタ(Xキャパシタ)と、一端が接地点(主としてフレームグラウンド)に接続されるライン-アース間キャパシタ(Yキャパシタ)とに分類される。電源ラインの相間の中性点にYキャパシタの他端が接続されているときは、外部電源側で相間の平衡が保たれていてノイズがノーマルモードノイズであれば、Yキャパシタには電流は流れないはずである。しかしながら何らかの理由により零相電流が発生するとその零相電流はYキャパシタを流れるので、経年によりYキャパシタの劣化や故障が発生することがある。特にYキャパシタを流れる零相電流が大きいときは、Yキャパシタの容量減少や温度上昇が発生し、最悪の場合にはYキャパシタの焼損にいたる恐れがある。零相電流のうち、サーボアンプでのスイッチングに起因するノイズ成分、すなわち電源周波数成分よりも相対的に高い周波数の成分の方がYキャパシタに与える影響は大きいものと考えられる。
【0004】
零相電流の検出に関し特許文献1は、漏洩電流の検出のために、三相交流電力の給電ケーブルから零相変流器を介して零相電流を検出することを開示している。また特許文献2は、交流電力の入力部に設けられたフィルタと、交流-直流変換を行うコンバータと、キャパシタを含む直流中間回路と、直流-交流変換を行うインバータと、直流-直流変換を行うチョッパと、を有する電力変換装置において、交流電力の相ごとにフィルタとコンバータの間を流れる電流を検出して零相電流を求め、零相電流の大きさに応じてコンバータあるいはチョッパにおいてバランス制御を行なうことを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-164375号公報
【特許文献2】特開2018-03558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
交流-直流-交流の電力変換を行うロボットコントローラでは、外部からの交流電力の入力部に設けられるラインフィルタのYキャパシタを流れる零相電流によってYキャパシタの経時的な劣化などが起こることがあるが、従来は零相電流についての監視は行っておらず、したがって、Yキャパシタにおける障害の発生を予測することは行われていない。予防保全として、2~3年ごとにラインフィルタごと交換することが行われることもあるが、そのような交換はコスト上昇の原因となる。
【0007】
本発明の目的は、ラインフィルタにおけるYキャパシタの劣化を予測して予防保全を行うことができるロボットコントローラと、ロボットコントローラに設けられるラインフィルタの予防保全方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のロボットコントローラは、マニピュレータの各軸のモータを駆動し制御するロボットコントローラであって、電源ラインと接地点との間に配置するYキャパシタを少なくとも備え外部電源からの交流電力の受け入れ部に設けられるラインフィルタと、ラインフィルタの負荷側に設けられて交流電力を直流電力に変換するコンバータと、直流電力をスイッチングし、スイッチングによって得られる交流電力をモータに供給してモータをサーボ制御するサーボアンプと、ラインフィルタとコンバータとの間の電源ラインに設けられて零相電流を検出する検出手段と、検出手段で検出された零相電流が閾値以上となったことを検出したときにYキャパシタに関連する警報を出力する制御回路と、を有する。
【0009】
交流-直流-交流変換を行うロボットコントローラにおいてラインフィルタとコンバータとの間の電源ラインを流れる零相電流の値は、ラインフィルタのYキャパシタを流れる零相電流の値とほぼ等価である。またYキャパシタの劣化が進行すれば、Yキャパシタを流れる零相電流は増大する傾向にある。本発明のロボットコントローラでは、ラインフィルタとコンバータとの間の電源ラインを流れる零相電流を検出し、検出された零相電流が閾値を超えるときに警報を出力する。その結果、本発明のロボットコントローラでは、Yキャパシタの劣化が進行したときに警報が出力されることとなり、Yキャパシタに障害が発生する前にラインフィルタの交換などを行うことが可能となり、ラインフィルタの予防保全を行うことが可能になる。
【0010】
本発明のロボットコントローラでは、閾値は、Yキャパシタにおける零相電流の許容値に基づいて定められることが好ましい。このように閾値を定めることによって、Yキャパシタにおける劣化の進行をいち早く検出することが可能になる。
【0011】
本発明のロボットコントローラにおいて、検出手段は、例えばラインフィルタとコンバータとの間の電源ラインにおいて相ごとに配線に設けられた電流検出器であり、このときは、各相の電流検出器の検出出力の和を求めて零相電流とする。相ごとに電流検出器を設けた場合には、演算処理によって、例えばノーマルモードノイズとコモンモードノイズとの切り分けるなどのことも可能になる。また検出手段は、ラインフィルタとコンバータとの間の電源ラインにおいて各相の電流の和を検出するように配置されたクランプ変流器であってもよい。このようなクランプ変流器を用いる場合には、加算演算などを行うことなく、直ちに零相電流の値を得ることが可能になる。
【0012】
Yキャパシタを流れる零相電流には、外部電源の電源周波数の成分と、サーボアンプでのスイッチングによって生じる相対的に高い周波数の成分とがある。相対的に高い周波数の成分の零相電流の方がYキャパシタの劣化に大きく寄与するので、本発明のロボットコントローラでは、検出手段と制御回路との間に前記外部電源の電源周波数の成分を遮断するフィルタを備えてもよいし、あるいは、零相電流における前記外部電源の電源周波数を超える周波数成分が閾値以上となったことを検出したときに制御回路が警報を出力するようにしてもよい。
【0013】
本発明の予防保全方法は、電源ラインと接地点との間に配置するYキャパシタを少なくとも備えて外部電源からの交流電力の受け入れ部に設けられるラインフィルタと、ラインフィルタの負荷側に設けられて交流電力を直流電力に変換するコンバータと、直流電力をスイッチングし、スイッチングによって得られる交流電力をマニピュレータの各軸のモータに供給してモータをサーボ制御するサーボアンプとを備えてマニピュレータの各軸のモータを駆動し制御するロボットコントローラにおけるラインフィルタの予防保全方法であって、ラインフィルタと前記コンバータとの間の電源ラインを流れる零相電流を検出し、検出された零相電流に基づいてYキャパシタにおける劣化の進行を予測する。
【0014】
交流-直流-交流変換を行うロボットコントローラにおいてラインフィルタとコンバータとの間の電源ラインを流れる零相電流の値は、ラインフィルタのYキャパシタを流れる零相電流の値とほぼ等価である。またYキャパシタの劣化が進行すれば、Yキャパシタを流れる零相電流は増大する傾向にある。そこで本発明の予防保全方法では、ラインフィルタとコンバータとの間の電源ラインを流れる零相電流を検出し、検出された零相電流に基づいてYキャパシタの劣化を予測する。これにより、Yキャパシタの劣化に伴う故障などの発生を未然に防止することができる。
【0015】
本発明の予防保全方法では、零相電流が閾値以上となったことを検出したときにYキャパシタに関連する警報を出力することが好ましい。警報を出力することにより、Yキャパシタあるいはラインフィルタの交換時期が到来したことなどを確実に知ることができる。閾値は、Yキャパシタにおける零相電流の許容値に基づいて定められることが好ましい。このように閾値を定めることによって、Yキャパシタにおける劣化に応じて的確に予防保全を行うことが可能になる。
【0016】
Yキャパシタを流れる零相電流には、外部電源の電源周波数の成分と、サーボアンプでのスイッチングによって生じる相対的に高い周波数の成分とがある。相対的に高い周波数の成分の零相電流の方がYキャパシタの劣化に大きく寄与するので、零相電流における外部電源の電源周波数を超える周波数成分に基づいてYキャパシタにおける劣化の進行を予測してもよい。零相電流における相対的に高い周波数成分を用いて予測を行うことにより、外部電源に起因する影響を除くことができてより適切なラインフィルタの予防保全を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、零相電流を測定することによってYキャパシタの劣化の進み具合を推定することができるので、ラインフィルタにおけるYキャパシタの劣化を予測してラインフィルタの予防保全を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】ラインフィルタのYキャパシタを流れる零相電流を示す等価回路図である。
【
図2】本発明の実施の一形態のロボットコントローラを示すブロック図である。
【
図3】別の実施の一形態のロボットコントローラを示すブロック図である。
【
図4】さらに別の実施の一形態のロボットコントローラを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。最初に、ロボットコントローラにおいてラインフィルタのYキャパシタに流れる零相電流について説明する。
図1は、Yキャパシタを流れる零相電流を説明する図であって、コモンモード成分に関して外部の交流電源からマニピュレータに至るまでの区間を示す等価回路図である。
図1では、サーボアンプにおけるスイッチング動作によって生じる高周波成分の零相電流の流れる経路が示されている。
【0020】
ロボットコントローラ10は、単相あるいは三相交流電源である外部電源(一次電源)50から交流電力を供給され、マニピュレータ70の各軸のモータを駆動し制御する。マニピュレータ70の各軸のモータは例えば三相モータであり、ロボットコントローラ10では交流-直流-交流の電力変換が行われる。そのためロボットコントローラ10は、外部電源50からの交流電力の受け入れ部に設けられたラインフィルタ20と、ラインフィルタ20の二次側(負荷側)に接続して交流-直流変換を行うコンバータ(例えばダイオード整流回路)30と、コンバータ30から直流電力が供給されてマニピュレータの各軸ごとにその軸のモータを駆動するサーボアンプ40とを備えている。図において抵抗Rsは外部電源50の等価内部抵抗である。
【0021】
ラインフィルタ20は、等価回路としては、インダクタL1とキャパシタC1とからなるローパスフィルタとして表され、ここでキャパシタC1はラインフィルタ20に設けらえるYキャパシタ(ライン-アース間キャパシタ)である。コンバータ30においては例えば平滑などのために、接地点に一端が接続するキャパシタC2が設けられている。キャパシタC2もYキャパシタである。サーボアンプ40は、供給された直流電力に対するスイッチングを行うことによって直流-交流変換を行う回路であり、図では、直流電力をスイッチングして交流電力を発生する交流源41として表されている。スイッチング周波数は例えば数kHzから10kHzであり、スイッチングによって立ち上がり及び立ち下がりの急峻なパルスが発生するので、交流源41は強力なノイズ発生源として作用する。図においてサーボアンプ40においても接地点に一端が接続するキャパシタC3が描かれているが、これもYキャパシタである。
【0022】
サーボアンプ40によって駆動される三相モータは、コモンモード成分としては無視できるが、マニピュレータ70内部において三相モータに至る電力配線と接地点の間には配線浮遊容量であるキャパシタC4が存在する。そのため、図において矢印で示すように、交流源41で発生したノイズは、交流源41の一端からYキャパシタであるキャパシタC1~C3を介して接地点に流れ、交流源41の他端から配線浮遊容量であるキャパシタC4を介して接地点に流れる。結局、交流源41で発生した高周波のノイズ成分がYキャパシタであるC1~C3に流れることになる。特に、ラインフィルタ20内のYキャパシタであるキャパシタC1は交流区間内に設けられているから、交流源41からのノイズ成分がキャパシタC1において零相電流として流れることになる。キャパシタC1を流れる零相電流は、キャパシタC1の劣化の原因となり得る。産業用ロボットが大型化し、マニピュレータ70のサイズが大きくなったときは、その内部配線長が長くなり、それに伴って配線浮遊容量であるキャパシタC4も大きくなるので、YキャパシタであるキャパシタC1に流れる零相電流も大きくなる。
【0023】
そこで本発明に基づくロボットコントローラでは、ラインフィルタに設けられるYキャパシタに流れる零相電流を検出し、検出結果に応じてYキャパシタの劣化の進行を予測し、警報(アラーム)を出力するなどしてYキャパシタの劣化に伴って発生し得る障害を事前に予防する。
図2は本発明の実施の一形態のロボットコントローラの構成を示している。
【0024】
図2に示すロボットコントローラは、外部電源から三相交流電力が供給されるものであって、
図1に示したものと同様に、三相交流電力を受け入れるラインフィルタ20と、ダイオード整流回路からなるコンバータ30と、サーボアンプ40とを備えている。ラインフィルタ20は、2個のコモンモードコイルL11,L12を直列に接続し、外部電源側のコモンモードL11の入力部にXキャパシタ(ライン間キャパシタ)C11を配置し、コモンモードコイルL11,L12の中間にもXキャパシタC12を配置し、XキャパシタC12における中性点と接地点との間にYキャパシタC13を設けたものである。さらに、負荷側のコモンモードコイルL12の出力側にライン間抵抗R11とXキャパシタC14とが設けられ、XキャパシタC14における中性点と接地点との間にYキャパシタC15を設けられている。ラインフィルタ20における接地点はフレームグランド(FG)であるが、この接地点は保護接地(PE)のためにラインフィルタ20の外部に引き出されている。
【0025】
コンバータ30とサーボアンプ40は、ロボットコントローラの内部回路ブロック11に設けられている。コンバータ30とサーボアンプ40の間の直流電力配線には、主電源回路用コンデンサC10が設けられている。ロボットコントローラ全体の制御を行ない、特に、指令に基づいてマニピュレータを動作させるようにサーボアンプ40を制御する制御回路12も内部回路ブロック11に設けられている。制御回路12は、例えば、マイクロプロセッサなどによって構成されている。
【0026】
ラインフィルタ20とコンバータ30の間には、電源ラインとして、三相交流電力を供給するための相ごとの3本の配線が設けられている。本実施形態のロボットコントローラでは、この3本の配線に対してそれぞれ電流検出器13が設けられている。電流検出器13ごとの検出出力は制御回路12に入力する。三相交流電力であるから、相間の平衡が保たれていれば、3個の電流検出器13での電流検出値の瞬時値の和は常に0である。サーボアンプ40でのスイッチングによって生ずるノイズ成分による零相電流があれば、電流検出値の瞬時値の和は0とならず、その零相電流による値となる。マニピュレータでの配線浮遊容量(
図1におけるキャパシタC4)の変化によって零相電流の大きさは変化するが、YキャパシタC13,C15の劣化の度合いに応じても零相電流が増大する。そこで制御回路50は、各電流検出器12からの検出出力の和を計算することによって零相電流を常時監視してYキャパシタC13,C15の劣化の進行を予測する。そして制御回路12は、零相電流の値が閾値を超えたときに警報(アラーム)を出力し、ロボットコントローラの管理者に対してラインフィルタ20の交換を促す。これにより、ラインフィルタ20内のYキャパシタC13,C15における障害の発生を未然に防ぐことができる。閾値は、例えばYキャパシタC13,C15における許容される零相電流値に基づいて定めることができる。
【0027】
零相電流のうち、電源周波数成分の零相電流のYキャパシタの劣化に対する寄与は大きくないが、サーボアンプ40でのスイッチングによって生じるノイズ成分、例えば数百Hz以上の周波数の成分は、零相電流として流れた時にYキャパシタを大きく劣化させるおそれがあるとともに、これらの高周波数成分の零相電流は、Yキャパシタの劣化が進行したときに大きくなる。そこで制御回路12は、零相電流における外部電源の電源周波数を超える周波数成分を抽出し、抽出した周波数成分における零相電流の値が閾値を超えたときに警報を出力してもよい。このような周波数成分の抽出は、例えば、制御回路12において、デジタルフィルタ技術を用いて電源周波数成分などの低周波数成分を除去することによって行うことができる。あるいは各電流検出器13と制御回路50の入力との間に、電源周波数成分を遮断するように構成されたハイパスフィルタを設けてもよい。
【0028】
以上説明した本実施形態のロボットコントローラでは、ラインフィルタ20とコンバータ30との間の電源ラインにおいて各相の配線に電流検出器13を設け。これらの電流検出器13での検出出力の瞬時値の和を求めて零相電流を求めている。このようにして求められた零相電流の値はYキャパシタC13,C15を流れる零相電流の値とほぼ等価であるから、零相電流の値からYキャパシタC13,C15での劣化の進行を予測することができる。YキャパシタC13,C15を流れる零相電流は、XキャパシタC12,C14も流れるから、YキャパシタC13,C15と同様に、XキャパシタC12,C14における劣化の進行を予測することができる。特に、零相電流値が閾値を超えたことを検出することによって、YキャパシタC13,C15の劣化が進行しておりラインフィルタ20を交換すべき時期が到来したことが分かる。すなわち本実施形態では、ラインフィルタ20の定期的な交換を行うことなく、ラインフィルタ20の予防保全を行うことができ、YキャパシタC13,C15での障害の発生を防ぐことができる。また、交流電力の相ごとの電流検出値が制御回路15に入力するので、サーボアンプ40でのスイッチングで発生するノイズ成分についてのコモンノード成分とノーマルモード成分との差をもとめることができ、さらには零相電流の観測に基づいて、外部電源側あるいはマニピュレータの内部の配線における不具合を確認することもできる。
【0029】
図2に示すロボットコントローラでは、ラインフィルタ20とコンバータ30との間の電源ラインにおいて各相の配線に電流検出器13を設けて零相電流を検出しているが、零相電流の検出方法はこれに限られない。例えば、クランプ変流器あるいは零相変流器を用いて零相電流を検出することもできる。
図3に示す本発明の別の実施形態のロボットコントローラではクランプ変流器16を用いて零相電流を検出している。
図3に示した例ではクランプ変流器16は零相変流器として構成されており、クランプ変流器16を構成するドーナツ状の磁心(あるいは鉄心)の中央の孔部に各相の配線導体が一緒に通されている。クランプ変流器16の出力電流は零相電流に比例するものであって、制御回路13に入力する。
図3に示すロボットコントローラにおいても、サーボアンプ40でのスイッチングによって生じるノイズ成分による零相電流のみを検出するために、制御回路50においてデジタルフィルタ技術を用いて電源周波数成分などの低周波数成分を除去した零相電流の値を求めるようにしてもよい。あるいは、
図4に示すように、クランプ変流器16と制御回路50の入力との間にハイパスフィルタ17を設けてもよい。
【0030】
以上、外部電源からロボットコントローラに三相交流電力が供給されるものとして本発明を説明したが、外部電源からロボットコントローラに供給される交流電力は必ずしも三相である必要はない。外部電源から単相交流電力が供給されるロボットコントローラにおいても上述と同様にラインフィルタとコンバータとの間の電源ラインを流れる電流から零相電流を検出することにより、ラインフィルタのYキャパシタの劣化の度合いを知ることができ、ラインフィルタの予防保全を行うことができる。
【符号の説明】
【0031】
10…ロボットコントローラ;11…内部回路ブロック;12…制御回路;13…電流検出器;16…クランプ変流器;17…ハイパスフィルタ;20…ラインフィルタ;30…コンバータ;40…サーボアンプ;41…交流源;50…外部電源;70…マニピュレータ。