(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146384
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】レスベラトロール誘導体の新規製造法及び新規用途
(51)【国際特許分類】
C07D 311/18 20060101AFI20231004BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20231004BHJP
A61P 3/08 20060101ALI20231004BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20231004BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20231004BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20231004BHJP
A61Q 19/06 20060101ALI20231004BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20231004BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20231004BHJP
A61K 36/87 20060101ALI20231004BHJP
C12N 9/99 20060101ALI20231004BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20231004BHJP
【FI】
C07D311/18 CSP
A61K31/353
A61P3/08
A61P3/06
A61P39/06
A61K8/37
A61Q19/06
A61Q19/08
A61K8/9789
A61K36/87
C12N9/99
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053538
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】390020189
【氏名又は名称】ユーハ味覚糖株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 茂則
(72)【発明者】
【氏名】門脇 航
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 康浩
(72)【発明者】
【氏名】松川 泰治
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰正
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD48
4B018ME03
4B018ME04
4B018ME06
4B018ME10
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF10
4C083AA111
4C083AA112
4C083AC471
4C083AC472
4C083CC01
4C083EE50
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZC33
4C086ZC35
4C088AB56
4C088AC04
4C088BA32
4C088MA52
4C088MA57
4C088MA66
4C088NA14
4C088ZB21
4C088ZC33
4C088ZC35
(57)【要約】 (修正有)
【課題】安全で実用性が高い、優れた脂肪吸収抑制作用、糖吸収抑制作用及び抗酸化作用を有する新規レスベラトロール誘導体、該新規レスベラトロール誘導体を効率よく製造する方法、前記新規レスベラトロール誘導体を含有することを特徴とする脂肪吸収抑制剤、糖吸収抑制剤、抗酸化活性剤、食品、医薬品、医薬部外品又は動物用飼料を提供すること。
【解決手段】下式(1)で表される新規レスベラトロール誘導体又はその薬学的に許容可能な塩、エステル若しくはエーテル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】
で表される新規レスベラトロール誘導体又はその薬学的に許容可能な塩、エステル若しくはエーテル。
【請求項2】
請求項1記載の新規レスベラトロール誘導体又はその薬学的に許容可能な塩、エステル若しくはエーテルを含有する脂肪吸収抑制剤。
【請求項3】
請求項1記載の新規レスベラトロール誘導体又はその薬学的に許容可能な塩、エステル若しくはエーテルを含有する糖吸収抑制剤。
【請求項4】
請求項1記載の新規レスベラトロール誘導体又はその薬学的に許容可能な塩、エステル若しくはエーテルを含有する抗酸化活性剤。
【請求項5】
請求項1に記載の新規レスベラトロール誘導体又はその薬学的に許容可能な塩、エステル若しくはエーテルを含有することを特徴とする食品、医薬品、医薬部外品又は動物用飼料。
【請求項6】
請求項1記載の新規レスベラトロール誘導体又はその薬学的に許容可能な塩、エステル若しくはエーテルを製造する方法であって、
レスベラトロールとクロロゲン酸を高圧処理することにより、目的の化合物を生成することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物である新規レスベラトロール誘導体、その製造方法、並びに前記レスベラトロール-カフェ酸誘導体を含む脂肪吸収抑制剤、糖吸収抑制剤、抗酸化活性剤及び食品、医薬品、医薬部外品又は動物用飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、発酵、合成等の様々な方法を用いて高機能成分が取得され、食料品や医薬品等の幅広い分野に利用されている。しかし、有用性と実用性を両立させるものは数が限られている。さらに未だ報告されていない新規な化合物を含有する組成物では、生産の難しさから有用性と実用性を両立させることがより困難である。
【0003】
ブドウ果皮に含有されるスチルベン誘導体であるレスベラトロールについて、画期的な研究成果が明らかにされつつある。レスベラトロールは本来ブドウが病原菌から自己を守るファイトアレキシンとして存在する抗菌作用を有する化合物であり、赤系、白系を問わずブドウ果皮に含まれることが知られている。最近の研究で、レスベラトロールは哺乳動物に対しても有用な効果を有していることが明らかになりつつある。いわゆる「フレンチパラドックス」と言われる赤ワインの有用な生理効果は、レスベラトロールの抗酸化能を始めとして各種の生理活性機能が一因であるとされている。さらに、レスベラトロールには多くの疾病に効果があることが明らかにされつつある(非特許文献1)
【0004】
このように、レスベラトロールには様々な生理活性があることから、本物質をリード化合物として様々な化学修飾を施し、より高い活性を有するレスベラトロール誘導体を生み出す研究が盛んに行われている。例えば、SIRT1遺伝子(sir2遺伝子のヒトホモログ)の活性化作用がレスベラトロールに比べて約1000倍高いレスベラトロール誘導体(非特許文献1)や、同様にラジカル消去活性がレスベラトロールに比べて約62倍増強されたレスベラトロール誘導体が報告されている(非特許文献2)。このように、新しく合成されたレスベラトロールの誘導体に、思いがけない生理活性が見出される場合も多く、誘導体に注目が集まっている。本発明者らも、これまでにレスベラトロールとカフェ酸とから代謝を活性化する作用を有する新規なレスベラトロール誘導体を開発している(特許文献1)。
【0005】
レスベラトロールとは別に、クロロゲン酸類は、一般的に植物に広く存在するポリフェノールの一種であり、カフェ酸やフェルラ酸等の桂皮酸誘導体とキナ酸とのエステル化合物の総称である。食品中にはコーヒーの生豆や、サツマイモ茎葉中に多く含まれており、各種生理作用が報告されている(非特許文献2)
【0006】
本発明者らは、無機触媒等の有機合成的な方法によらず、主として高圧処理によりレスベラトロール誘導体を製造する方法を見出している。(特許文献2、3、非特許文献3)
【0007】
ここで、メリンジョの種子、実に含まれているレスベラトロール2量体であるグネチンC(グネモノシドC)は、リパーゼ阻害、α-アミラーゼ阻害等の作用を示すことは知られているが、リパーゼ阻害、α-アミラーゼ、α-グルコシダーゼに阻害効果を示す、カフェ酸やクロロゲン酸等のポリフェノール化合物とのカップリング反応によって生成するレスベラトロール誘導体は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6379807号公報
【特許文献2】特開2020-94021号公報
【特許文献3】特開2020-94007号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】NATURE,387,p83-90(1997)
【非特許文献2】日本食品科学工学会誌,56,p336-342(2009)
【非特許文献3】FOOD & Nutrition Research,66、p7638-7647(2022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、新規な生理活性又は強力な生理活性を有するレスベラトロール誘導体の探索と、その製造方法を確立すべく鋭意検討した結果、意外にもレスベラトロールとクロロゲン酸を高圧処理するという簡便且つ安全な方法により、レスベラトロールに比べて、膵リパーゼ阻害活性、α-グルコシダーゼ阻害活性、α-アミラーゼ阻害活性及び抗酸化活性がいずれも高い新規なレスベラトロール誘導体を製造することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
したがって、本発明は、安全で実用性が高い、優れた脂肪吸収抑制作用、糖吸収抑制作用及び抗酸化作用を有する新規レスベラトロール誘導体を提供し、さらに該新規レスベラトロール誘導体を効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記新規レスベラトロール誘導体を含有することを特徴とする脂肪吸収抑制剤、糖吸収抑制剤、抗酸化活性剤、食品、医薬品、医薬部外品又は動物用飼料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は、
〔1〕式(1):
【0013】
【0014】
で表される新規レスベラトロール誘導体又はその薬学的に許容可能な塩、エステル若しくはエーテル(以下、新規レスベラトロール誘導体ともいう)、
〔2〕前記〔1〕記載の新規レスベラトロール誘導体を含有する脂肪吸収抑制剤、
〔3〕前記〔1〕記載の新規レスベラトロール誘導体を含有する糖吸収抑制剤、
〔4〕前記〔1〕記載の新規レスベラトロール誘導体を含有する抗酸化活性剤、
〔5〕前記〔1〕記載の新規レスベラトロール誘導体を含有することを特徴とする食品、医薬品、医薬部外品又は動物用飼料、
〔6〕前記〔1〕記載の新規レスベラトロール誘導体を製造する方法であって、
レスベラトロールとクロロゲン酸を高圧処理することにより、目的の化合物を生成することを特徴とする方法
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の新規レスベラトロール誘導体は、優れた脂肪吸収抑制作用、糖吸収抑制作用及び抗酸化作用を有することから、脂肪吸収抑制剤、糖吸収抑制剤、及び抗酸化剤等のダイエットを目的とした用途に好適に使用できる。
また、本発明の新規レスベラトロール誘導体は、前記のような生理活性に優れることに加えて、安全性にも優れることから、食品、医薬品、医薬部外品又は動物用飼料に配合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施例1で製造した新規レスベラトロール誘導体のクロマトグラムを示す。
【
図2】
図2は、実施例1で得られた本発明品のNMRデータである。
【
図3】
図3は、実施例2で得られた膵リパーゼ阻害作用を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例3で得られたα-グルコシダーゼ阻害作用を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例4で得られたα-アミラーゼ阻害作用を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例5で得られたDPPHラジカル消去活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
(1)新規レスベラトロール誘導体
本発明の新規レスベラトロール誘導体は、式(1):
【0019】
【0020】
で表される新規レスベラトロール誘導体又はその薬学的に許容可能な塩、エステル若しくはエーテルである。
【0021】
前記新規レスベラトロール誘導体において、炭素-炭素2重結合は、トランス又はシスであってよく、シス体とトランス体との混合物を含む。
【0022】
前記新規レスベラトロール誘導体の薬学的に許容可能な塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;アルミニウムヒドロキシド塩等の金属ヒドロキシド塩;アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩、アルキレンジアミン塩、シクロアルキルアミン塩、アリールアミン塩、アラルキルアミン塩、複素環式アミン塩等のアミン塩;α-アミノ酸塩、ω-アミノ酸塩等のアミノ酸塩;ペプチド塩又はそれらから誘導される第1級、第2級、第3級若しくは第4級アミン塩等が挙げられる。これらの薬学的に許容可能な塩は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0023】
前記新規レスベラトロール誘導体の薬学的に許容可能なエーテル又はエステルとは、ヒドロキシ基(-OH)の1個又は2個以上がエーテル化又はエステル化ヒドロキシ基であるものをいう。これらのエーテル化又はエステル化ヒドロキシ基は、非置換の又は置換された1~26個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基、又は非置換の又は置換された1~26個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖脂肪族、芳香脂肪族又は芳香族カルボン酸に由来してもよい。エーテル化ヒドロキシ基はさらにグリコシド基であってもよく、エステル化ヒドロキシ基はさらにグルクロニド又は硫酸基であってもよい。これらの薬理的に許容し得るエーテル又はエステルは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0024】
(2)新規レスベラトロール誘導体の製造方法
本発明の新規レスベラトロール誘導体は、レスベラトロール及びクロロゲン酸を高圧下で処理することで、化学合成法のように食品用途に使用できない試薬や製造コストのかかる工程を必要とせずに、効率的で安全に製造することができる。
また、レスベラトロールやクロロゲン酸の原料として、食品原料を用いる場合、これらの原料には多様な成分が含まれているため、高温下での反応では多種多様な副産物が生じる可能性があるのに対して、本発明では、反応時の加熱温度が比較的低いため、副産物を少なくすることができる。
【0025】
以下に、本発明の新規レスベラトロール誘導体の製造方法(以下、本発明の製造方法)について具体的に説明する。
【0026】
本発明の製造方法で、原料としてレスベラトロールを用いる。レスベラトロールにはトランス体とシス体の構造異性体が存在するが、加熱や紫外線によってトランス体とシス体の変換が一部生じる。したがって、本発明で使用するレスベラトロールとしては、トランス体でもシス体でも、あるいはトランス体とシス体の混合物であってもよい。
【0027】
前記レスベラトロールは、ブドウ果皮から抽出・精製した天然由来のものであっても、化学合成された純度の高い化成品であってもよい。天然由来のレスベラトロールを用いる場合は、完全に精製されたものである必要はなく、後述のように所望の生成反応が進み最終的に本発明の運動様作用を有する組成物が得られることから、レスベラトロール以外の成分を含む混合物も使用できる。
ただし、有効性を十分に発揮させる組成物を生成させるためには一定量のレスベラトロールが必要なことから、レスベラトロール換算で1重量%以上含有された混合物が原料として望ましい。
前記レスベラトロールを含有する混合物としては、ブドウ果皮、ワイン、ワイン濃縮パウダー、メリンジョ、リンゴンベリー、ピーナッツ、イタドリ根もしくは根茎、パッションフルーツ種子等の原料からの抽出物、これらの抽出物の凍結乾燥品等が挙げられる。
【0028】
本発明の製造方法で原料として使用するクロロゲン酸には、天然由来のものであっても、化学合成された純度の高い化成品であってもよい。天然由来のクロロゲン酸を用いる場合は、完全に精製されたものである必要はなく、クロロゲン酸以外の成分を含む混合物も使用できる。
ただし、新規レスベラトロール誘導体の回収量の観点からは、クロロゲン酸が1重量%以上含有された混合物が原料として望ましい。このような原料としては、コーヒー豆、その抽出物、サツマイモとその茎葉、その抽出物、ジャガイモ、その抽出物等が挙げられる。
また、前記クロロゲン酸には、薬学的に許容可能な塩も含まれる。薬学的に許容可能な塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;アルミニウムヒドロキシド塩等の金属ヒドロキシド塩;アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩、アルキレンジアミン塩、シクロアルキルアミン塩、アリールアミン塩、アラルキルアミン塩、複素環式アミン塩等のアミン塩;α-アミノ酸塩、ω-アミノ酸塩等のアミノ酸塩;ペプチド塩又はそれらから誘導される第1級、第2級、第3級若しくは第4級アミン塩等が挙げられる。これらの薬学的に許容可能な塩は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
本発明の製造方法では、レスベラトロール及びクロロゲン酸を適切な溶媒に溶解若しくは分散させる。この際、溶媒としては、特に限定はなく、水、水と有機溶媒の混合液、有機溶媒のいずれでもよい。水と有機溶媒の混合液の場合には、その配合比や有機溶媒の種類については特に制限はない。中でも、水やメタノール、エタノール等のアルコール類のみの溶媒や、水とアルコールとの混合液を使用することが、安全性やコスト面から好ましい。前記の加熱反応後に得られる組成物に対して最終的な精製を十分に適用せずにその組成物を食品、医薬品、医薬部外品等に使用する場合には、安全性や法規面から溶媒として水やエタノール、含水エタノールを使用することが望ましい。
なお、水とアルコールとの混合液を使用する場合、アルコール濃度は、0.1~90容量%となるようにすればよい。
【0030】
前記のようにして得られるレスベラトロール及びクロロゲン酸を含有する溶液(以下、レスベラトロール-クロロゲン酸含有溶液ともいう。)中のレスベラトロール及びクロロゲン酸の濃度について特に制限はない。レスベラトロール及びクロロゲン酸の濃度が高いほど、溶媒使用量が少なくてすむ等のメリットもあるため、レスベラトロール及びクロロゲン酸は飽和濃度以上として溶液中において完全に溶解していなくともよい。
【0031】
前記レスベラトロール-クロロゲン酸含有溶液には、クロロゲン酸のカテコール基を安定化させて、新レスベラトロール誘導体の生成効率をよくするために、ホウ酸を添加してもよい。
前記ホウ酸の添加量としては、前記レスベラトロール-クロロゲン酸含有溶液中において、0.01~10重量%であればよい。
【0032】
次に、レスベラトロール-クロロゲン酸含有溶液を高圧処理する。この高圧処理により、レスベラトロールとクロロゲン酸を重合反応させることで、新規レスベラトロール誘導体が生成する。
【0033】
本発明において新規レスベラトロール誘導体を形成するための重合反応とは、レスベラトロール及びクロロゲン酸が重合反応することで、前記式(1)で表される化合物を生成する反応をいう。
前記重合反応を効率的に進ませ、かつ、副反応物の生成を抑制するために、レスベラトロール-クロロゲン酸含有溶液の温度は20℃~100℃の範囲に調整することが好ましい。
また、超高圧条件で処理を行うと前記重合反応をより効率よく進めることができるために、超高圧反応器を使用することが好ましい。前記高圧反応器としては、10~100MPaの圧力条件で処理することが可能な高圧反応器が挙げられ、例えば、「まるごとエキス」(東洋高圧社製)等が好適である。
また、前記高圧処理での加熱時間は、加熱温度に応じて、効率的に目的の反応が進行する時間条件とすればよい。また、高圧処理は、一度でもよいし、複数回に分けて繰り返してもよい。
【0034】
前記加熱処理による前記式(1)で表される新規レスベラトロール誘導体等の生成反応の終了は、例えば、後述の実施例に記載のようにHPLCによる成分分析により生成量を確認して判断すればよい。具体的には、前記のように高圧処理しているレスベラトロール-クロロゲン酸含有溶液中に新規レスベラトロール誘導体が生成されていることをクロマトグラム上で確認すればよい。
【0035】
また、前記の高圧処理した処理液を、風味面での改良やさらなる高機能化の観点から、濃縮したり、あるいは精製したりして、前記新規レスベラトロール誘導体の濃度を高めたものを得てもよい。前記濃縮や精製は、公知の方法で実施可能である。
例えば、クロロホルム、酢酸エチル、エタノール、メタノール等の溶媒抽出法や炭酸ガスによる超臨界抽出法等で抽出して濃縮物を得ることができる。
また、カラムクロマトグラフィーを利用して濃縮物や精製物を得ることも可能である。
また、前記濃縮や精製には、再結晶法や限外ろ過膜等の膜処理法も適用可能である。
【0036】
また、前記処理液、濃縮物又は精製物を必要に応じて、減圧乾燥や凍結乾燥して溶媒除去することで、粉末状の固形物を得ることができる。
【0037】
なお、前記処理液、濃縮物又は精製物を安全な原料のみを用いて製造した場合には、そのまま食品、医薬品、医薬部外品又は動物用飼料に使用することが可能である。例えば、天然由来のレスベラトロールとクロロゲン酸を含む食品素材を水に溶解・懸濁し、高圧処理した場合には、得られる前記処理液、濃縮物又は精製物を食品、医薬品、医薬部外品又は動物用飼料の原料の一つとして使用することが可能である。
【0038】
また、前記処理液、濃縮物又は精製物は、公知の方法を用いて溶解性を向上させてもよい。例えば、前記処理液、濃縮物又は精製物にシクロデキストリンを添加する方法等が挙げられるが、特に限定はない。
【0039】
また、前記処理液、濃縮物又は精製物中では、本発明の新規レスベラトロール誘導体は、前記式(1)で示される構造を有するか、その薬学的に許容可能な塩の状態で存在しているが、さらに、公知の手法を用いて、エステル化又はエーテル化してもよい。
前記エステル化の方法としては、例えば、フィッシャー法等が挙げられる。
前記エーテル化の方法としては、例えば、ウィリアムソン法等が挙げられる。
【0040】
(C)脂肪吸収抑制剤、糖吸収抑制剤、抗酸化活性剤
本発明の新規レスベラトロール誘導体は、優れた膵リパーゼ阻害作用、α-アミラーゼ阻害作用、α-グルコシダーゼ阻害作用を有する。したがって、本発明の本発明の新規レスベラトロール誘導体は、ダイエット効果を示す素材、例えば、脂肪吸収抑制剤、糖吸収抑制剤、抗酸化活性剤等として好適に使用することができる。
【0041】
前記脂肪吸収抑制剤、糖吸収抑制剤又は抗酸化活性剤には、本発明の新規レスベラトロール誘導体を有効成分として含有していればよい。
本発明の新規レスベラトロール誘導体としては、単離精製された化合物であってもよいし、前記処理液、濃縮物又は精製物でもよい。
また、本発明の新規レスベラトロール誘導体をエタノール又はエタノール含有水溶液等の溶媒に溶解した液剤としたり、公知の方法で乳剤、懸濁剤としたりしてもよい。
前記乳剤又は懸濁剤中の本発明の新規レスベラトロール誘導体の含有量は、固形分として0.001重量%以上であればよい。
【0042】
(D)食品、医薬品、医薬部外品、動物用飼料
【0043】
前記食品としては、例えば、飲料、アルコール飲料、ゼリー、菓子等、どのような形態でもよく、菓子類の中でも、その容量等から保存や携帯に優れた、ハードキャンディ、ソフトキャンディ、グミキャンディ、タブレット等が挙げられるが、特に限定はない。また、新規レスベラトロール誘導体をワインに添加することで、ワインの健康機能効果をさらに増強した新規なワインとすることもできる。この新規なワインのように、嗜好性と健康機能効果の双方を持ち合わせた飲食品は、社会ニーズの非常に高い分野であり、これに応えることが可能である。また、食品には、機能性食品、健康食品、健康志向食品等も含まれる。
【0044】
前記医薬品としては、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、ゲル剤等が挙げられる。錠剤、丸剤、顆粒剤、顆粒を含有するカプセル剤の顆粒は、必要により、ショ糖等の糖類、マルチトール等の糖アルコールで糖衣を施したり、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等でコーティングを施したりすることもできる。または胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被覆してもよい。また、製剤の溶解性を向上させるために、公知の可溶化処理を施すこともできる。常法に基づいて、注射剤、点滴剤に配合して使用してもよい。
【0045】
医薬部外品としては、口腔に用いられる医薬部外品、例えば、歯磨き、マウスウオッシュ、マウスリンスが挙げられる。
【0046】
本発明の新規レスベラトロール誘導体を用いて食品、医薬品又は医薬部外品を調製する場合、本発明の効果が損なわれない範囲内で食品、医薬品又は医薬部外品に通常用いられる成分を適宜任意に配合することができる。
例えば、食品の場合には、水、アルコール、澱粉室、蛋白質、繊維質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラル、着香料、着色料、甘味料、調味料、安定剤、防腐剤のような食品に通常配合される原料又は素材と組み合わせることができる。
医薬部外品の場合には、主剤、基材、界面活性剤、起泡剤、湿潤剤、増粘剤、透明剤、着香料、着色料、安定剤、防腐剤、殺菌剤等組み合わせ、常法に基づいて、液状、軟膏状あるいはスプレー噴射可能な最終形態等にすることができる。
特に、本発明の新規レスベラトロール誘導体の生理活性分野を考慮すると、ダイエット療等の健康維持増進、さらには生活習慣病分野において用いることが好ましい。
【0047】
本発明の新規レスベラトロール誘導体を食品に添加する場合には、該食品中に対して、通常は0.001~20重量%添加することが好ましい。
【0048】
本発明の新規レスベラトロール誘導体を医薬用途で使用する場合、例えば、その摂取量は、所望の改善、治療又は予防効果が得られるような量であれば特に制限されず、通常その態様、患者の年齢、性別、体質その他の条件、疾患の種類並びにその程度等に応じて適宜選択される。1日当たり約0.1mg~1,000mg程度とするのがよく、これを1日に1~4回に分けて摂取することができる。
【0049】
本発明の新規レスベラトロール誘導体を医薬部外品に添加する場合には、該医薬部外品中に、通常0.001~30重量%添加するのが好ましい。
【0050】
また、本発明の新規レスベラトロール誘導体は、安全性に優れたものであるので、ヒトに対してだけでなく、例えば、非ヒト動物、例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー等の哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類等の治療剤又は飼料に配合してもよい。飼料としては、例えばヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ニワトリ等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、ウナギ、タイ、ハマチ、エビ等に用いる魚介類用飼料、イヌ、ネコ、小鳥、リス等に用いるペットフードが挙げられる。
【実施例0051】
次に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例にのみ限定されるものではない。
【0052】
(実施例1:新規レスベラトロール誘導体の調製)
レスベラトロール-クロロゲン酸高圧処理組成物の調製を以下の手順で行った。
トランス-レスベラトロール((株)TECNO SCIENCE社製)5gとクロロゲン酸(富士フィルム和光純薬工業製)4gに、エタノール 5ml及び水45mlを加えて攪拌し、レスベラトロール―クロロゲン酸懸濁液を得た。
このレスベラトロール―クロロゲン酸含有溶液をポリエチレン製袋に入れて空気が入らないようにシールした後、高圧処理機(「まるごとエキス」、東洋高圧社製)にて100MPa、90℃で、18時間処理し、レスベラトロール-クロロゲン酸高圧処理組成物を調製した。
【0053】
次いで、レスベラトロール-クロロゲン酸高圧処理組成物に100mlの酢酸エチルを添加して攪拌し、酢酸エチル層を、固形分層及び水層から分離して、ロータリーエバポレーターで乾固した。
【0054】
得られた固体を20mg/mLの濃度でメタノールに溶解させ、そのうち10μLをHPLCにより分析した。
【0055】
HPLC分析は下記の条件にて行った。
カラム:
移動相A:水(0.1%TFA)
移動相B: アセトニトリル(0.1%TFA)
勾配(容量%):(A)0%(0分)→(B)100%(40分)すべて直線)
【0056】
得られたクロマトグラムを
図1に示す。レスベラトロール-クロロゲン酸高圧処理組成物中にはレスベラトロールのピーク(溶出時間:約15.5分)及びクロロゲン酸のピーク(溶出時間:約12分)とは異なる複数のピークが検出できた。
【0057】
次に、得られた反応物のうち、溶出時間が約22.5分付近のピークに含まれる化合物を分取HPLCにより単離し、常法により乾燥して白色粉末状の物質を得た。
【0058】
次いで、得られた化合物の分子量を、高分解能Negative-ESI-MS(エレクトロスプレーイオン化質量分析)にて測定し、分子構造を解析するために核磁気共鳴(NMR)測定を行った結果、前記化合物は、前記式(1)で表される新規レスベラトロール誘導体(以下、本発明品という。)であることがわかった。
なお、前記NMRの結果を
図2に示す。
【0059】
以下の実施例においては上記のようにして製造した本発明品を用いて検討を行った。
【0060】
(実施例2:膵リパーゼ阻害作用検討)
実施例1で得られた本発明品を用いて、膵リパーゼ素材作用を検討した。
100mM 4-メチルウンベリフェロンオレート(4-methylumbelliferone olate)(4-MUO)のDMSO溶液を13mM トリス-塩酸緩衝液(pH8.3)と混合し、基質溶液とした。これに、適宜希釈したレスベラトロール誘導体を添加し、37℃で30分間反応させ、蛍光強度(Ex.360nm、Em.460nm)を測定した。反応後0minの時の蛍光強度をブランクとし以下の計算式(1)により膵リパーゼ阻害率(%)を算出した。
【0061】
【0062】
式(1)中、[F]sampleは、本発明品を添加した反応液の吸光度を示す。
[F]sample(blank)は、本発明品を添加した反応液における反応開始時の蛍光強度
[F]Controlは、本発明品を添加しない反応液における反応終了時の蛍光強度
[F]Control(blank)は、本発明品を添加しない反応液における反応開始時の蛍光強度
を示す。
【0063】
結果を
図3に示す。
図3から、本発明品は、レスベラトロールに比べて、低濃度でも膵リパーゼの活性を顕著に阻害できることがわかる。
【0064】
(実施例3:α-グルコシダーゼ阻害作用)
実施例1で得られた本発明品を用いて、α-グルコシダーゼ阻害作用を検討した。
0.05Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に0.1M p-ニトロ-フェニル-α-D-グルコピラノシド(p-nitro-phenyl-α-D-glucopyronoside)/DMSO溶液を加え1mMとした。これに酵母由来α-グルコシダーゼを溶解し、100U/mlの溶液とした。0.05Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)にて適宜希釈したレスベラトロール誘導体に100U/mLのαグルコシダーゼ溶液を加えて攪拌した後、1mM p-ニトロ-フェニル-α-D-グルコピラノシド/DMSO溶液を加え37℃で15分反応させた。405nmにおける吸光度[A]を測定した。以下の計算式(2)よりα-グルコシダーゼ阻害率(%)を算出した。
【0065】
【0066】
式(2)中、[A]sampleは、本発明品を添加した反応液の吸光度を示す。
[A]sample(blank)は、本発明品を添加した反応液における反応開始時の吸光度[A]
[A]Controlは、本発明品を添加しない反応液における反応終了時の吸光度[A]
[A]Control(blank)は、本発明品を添加しない反応液における反応開始時の吸光度[A]
を示す。
【0067】
結果を
図4に示す。
図4から、本発明品は、レスベラトロールに比べて、低濃度でもα-グルコシダーゼ活性を顕著に阻害できることがわかる。
【0068】
(実施例4:α-アミラーゼ阻害作用)
実施例1で得られた本発明品を用いて、α-アミラーゼ阻害作用を検討した。
基質(2-クロロ-4-ニトロフェニル-α-マルトトリオシド(2-chloro-4-nitrophenyl-α-D-maltotrioside))を100mMとなるようにDMSOに溶解し、基質原液とした。α-アミラーゼ(豚膵臓由来)を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、3mg/ml溶液とした。レスベラトロール誘導体を適宜50mMリン酸緩衝液(pH7.0)にて希釈し、基質及びα-アミラーゼを1:1で混合した溶液に添加し、37℃で25分間反応させた後、サンプルとして405nmにおける吸光度[A]を測定した。以下の計算式(3)によりα-アミラーゼ阻害率(%)を算出した。
【0069】
【0070】
式(3)中、[A]sampleは、本発明品を添加した反応液の吸光度を示す。
[A]sample(blank)は、本発明品を添加した反応液における反応開始時の吸光度[A]
[A]Controlは、本発明品を添加しない反応液における反応終了時の吸光度[A]
[A]Control(blank)は、本発明品を添加しない反応液における反応開始時の吸光度[A]
を示す。
【0071】
結果を
図5に示す。
図5から、本発明品は、レスベラトロールに比べて、低濃度でもα-アミラーゼ活性を顕著に阻害できることがわかる。
【0072】
(実施例5:DPPH阻害作用)
実施例1で得られた本発明品を用いて、抗酸化活性(DPPHラジカル捕捉率)を検討した。
DPPH (2,2-diphenyl-1-picrylhydrazyl)をエタノールに溶解して0.2mMに調製した。調製したDPPH溶液と適宜希釈したレスベラトロール溶液を混合し、30分間室温、暗所で反応させた。517nmでの吸光度[A]を測定し、以下の計算式(4)によりDPPHラジカル捕捉活性(%)を算出した。
【0073】
【0074】
式(4)中、[A]sampleは、本発明品を添加した反応液の吸光度を示す。
[A]sample(blank)は、本発明品を添加した反応液における反応開始時の吸光度[A]
[A]Controlは、本発明品を添加しない反応液における反応終了時の吸光度[A]
[A]Control(blank)は、本発明品を添加しない反応液における反応開始時の吸光度[A]
を示す。
【0075】
結果を
図6に示す。
図6から、本発明品は、レスベラトロールに比べて、低濃度でも抗酸化活性(DPPHラジカル捕捉率)が有意に高いことがわかる。